説明

磁気記録媒体のシーク評価方法およびシーク評価装置

【課題】実機のハードディスクドライブを用いたシーク評価を、加速度的に行うことができるようにする。
【解決手段】実機のハードディスクドライブの機構を用いて磁気記録媒体のシーク評価を行うシーク評価装置10において、実機のハードディスクドライブ11に設けられている磁気ヘッド3と、実機のハードディスクドライブ11に設けられ磁気ヘッド3を駆動するボイスコイルモータ2と、ボイスコイルモータ2に擬似的なシーク信号を出力して磁気ヘッド3に磁気記録媒体4上でシーク動作を行わせるファンクションジェネレータ1とを備え、磁気記録媒体4上での磁気ヘッド3のシーク動作を、磁気記録媒体4に書き込まれたサーボ情報を用いずに、磁気ヘッド3を駆動するボイスコイルモータ2に印加した擬似的なシーク信号によって行う、ことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実機のハードディスクドライブの機構を用いて磁気記録媒体のシーク評価を行う磁気記録媒体のシーク評価方法およびシーク評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブに代表される磁気記録装置はコンピュータなどの情報処理装置の外部記憶装置として広く用いられ、近年は動画像の録画装置等としても使用されつつある。
【0003】
ハードディスクドライブは、中央に開口部のある円盤状(ドーナッツ形状)の磁気記録媒体と、これを1枚或いは複数枚積層して同心円で回転させる(複数枚の場合は、同期回転させる)シャフトと、該シャフトにベアリングを介して接合された磁気記録媒体を回転させるモータと、磁気記録媒体の両面において記録及び/又は再生を行う磁気ヘッドと、該ヘッドが取り付けられた支持アームと、この支持アームを複数本以上重ねて(これを、ヘッドスタックアセンブリと呼ぶ。)同期して可動させ磁気ヘッドを磁気記録媒体上の任意の位置に移動させることのできるヘッドスタック機構と、このヘッドスタック機構を駆動するボイスコイルモータ(VCM)と、磁気ヘッドからの信号、および磁気ヘッドやVCMへの信号を処理する信号処理系から構成される。
【0004】
ハードディスクドライブでは、その内部に組み込んだ磁気記録媒体をモータにより数千rpmで高速回転させ、磁気記録媒体上を流れる空気流により磁気ヘッドが設置されたヘッドスライダーを微小浮上させる。磁気記録媒体には、サーボ信号が磁気的に書き込まれており、この信号を磁気ヘッドで検出し、この信号を用いてハードディスクドライブは磁気記録媒体上でのヘッドの位置を判別し、そして磁気ヘッドは磁気記録媒体のその特定位置における磁気情報の読み書きを行う。
【0005】
ハードディスクドライブに搭載される磁気記録媒体は、一般的にはアルミニウム合金やガラス基板等からなる基板の表面に、下地層、磁性層、保護層、潤滑層などを順次形成して作製されている。そして、製造された磁気記録媒体の評価工程として、グライド評価工程とサーティファイ評価工程が行われる。
【0006】
グライド評価工程とは、磁気記録媒体の表面に突起物が無いか検査する工程である。すなわち、磁気記録媒体を、磁気ヘッドを用いて記録再生する際に、媒体面に媒体と磁気ヘッドの間隔以上の高さの突起があると、磁気ヘッドが突起にぶつかり、これにより磁気ヘッドが損傷し、また、媒体に欠陥が発生する原因となる。そこで、本工程では磁気記録媒体表面にそのような高い突起が無いかを検査し、そのような突起が存在する磁気記録媒体は不良品として製造工程から排除する(例えば特許文献1参照)。なお本工程は、磁気記録媒体表面の突起物を衝撃センサーにより検出するが、この工程では磁気記録媒体への磁気的信号の記録再生は行わない。
【特許文献1】特開平10−105908号公報
【0007】
グライド評価工程を合格した磁気記録媒体については、サーティファイ検査を実施する。サーティファイ評価工程とは、磁気記録媒体に対し、通常のハードディスクドライブでの記録再生のように、磁気ヘッドを用いて所定の信号を記録した後、その信号を再生し、得られた再生信号から、磁気記録媒体の電磁変換特性の欠陥や品質を確かめるものである(例えば特許文献2参照)。
【特許文献2】特開2003−257016号公報
【0008】
グライド評価工程やサーティファイ評価工程は、生産される磁気記録媒体の全数において実施するが、このような磁気記録媒体の評価の他に、抜き取り評価として、シーク(Seek)評価がある。シーク評価とは、ハードディスクドライブが実際に用いられる環境より厳しい環境下で、磁気ヘッドを磁気記録媒体表面上でシーク動作(磁気記録媒体に記録されたサーボ情報を用いて追従すべきトラックを探す動作)を行わせる加速評価であり、磁気記録媒体の生産時におけるロット品質の確認のために行い、また、磁気記録媒体の耐久性の設計時における潤滑剤、保護膜等の評価の一環として行う場合もある。
【0009】
シーク評価は、磁気記録媒体上での磁気ヘッドのシーク動作や、コンタクト・スタート・ストップ動作(CSS動作、磁気ディスクが停止してヘッドが磁気ディスク上に接触している状態から、磁気ディスクが起動してヘッドが浮上したのち、再び磁気ディスクが停止してヘッドが磁気ディスク上に接触するまでの動作)の所定回数の繰り返しに基づく保護膜の劣化具合や、ヘッド・ディスク間の動摩擦係数などにより判断される。シーク評価の方法としては、スピンスタンドを用いて、実機のハードディスクドライブと同等の構成機器の配置を実現した評価装置を用いる方法が提案されている(例えば特許文献3参照)。
【特許文献3】特開2003−59001号公報
【0010】
前述のように、磁気記録媒体のシーク評価には、実機のハードディスクドライブと同等の構成機器の配置を実現したスピンスタンドを用いるのが一般的である。ここで、スピンスタンドとは、べースに取り付けられた磁気記録媒体を任意の回転数で回転させるスピンドルモータと、この磁気記録媒体に信号を再生・記録する磁気ヘッドを保持するヘッドアームとを備えた装置であり、この装置は、ヘッドアームをベースに対して移動させる移動手段を有している。
【0011】
スピンスタンドを用いた磁気記録媒体のシーク評価は、実機のハードディスクドライブになるべく近づけて行われている。しかしながら、シーク評価用のスピンスタンドと実機とは、磁気記録媒体のスタック数、ヘッドスタックアセンブリの構造、スピンドルモータの回転特性、磁気ヘッドの駆動特性、装置全体の剛性、装置全体の共振周波数等において完全に一致させることが難しく、磁気記録媒体の特性評価において、シーク評価の結果が実機での評価結果と相違する場合が多かった。
【0012】
以上の問題点を解決するために、磁気記録媒体のシーク評価を、実機のハードディスクドライブを用いて行うことが考えられる。
【0013】
図4は従来の実機のハードディスクドライブを用いたシーク評価装置のブロック図である。図に示すように、従来の実機のハードディスクドライブを用いたシーク評価装置100は、信号処理系101と、ボイスコイルモータ102と、磁気ヘッド103とを備え、磁気ヘッド103のシーク動作は、先ず磁気ヘッド103が磁気記録媒体104に書き込まれたサーボ情報を読み込み、次に信号処理系101がそのサーボ信号を処理し、その処理結果をボイスコイルモータ102に出力し、その処理結果に基づいてボイスコイルモータ102が磁気ヘッド103を動かすことにより行われていた。
【0014】
このように、上記従来の実機のハードディスクドライブを用いたシーク評価装置100では、サーボ信号を信号処理系101にフィードバックするため、その信号処理系101での処理と、その処理結果のボイスコイルモータ102への出とに時間を要し、磁気ヘッド103のシーク動作がサーボ信号の処理速度に依存するようになっていた。したがって、磁気ヘッド103のシーク動作速度に限界があり、加速度的なシーク評価を行うことが困難であった。
【0015】
また、実機のハードディスクドライブを用いた評価では、ハードディスクドライブを制御するファームウエアが少し変わっただけでも磁気ヘッドのシーク動作が微妙に変わり、評価結果が変化する問題点があった。
【0016】
また、異なる機種のハードディスクドライブにおいて、シーク評価結果の相関がとれないという問題点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、実機のハードディスクドライブを用いたシーク評価を、加速度的に行うことができ、またハードディスクドライブを制御するファームウエアの影響を受けることなく精度良く行うことができ、さらにハードディスクドライブの機種が異なっていても、評価結果の相関がとれて正確な評価を行うことができる磁気記録媒体のシーク評価方法およびシーク評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、(1)第1の発明は、実機のハードディスクドライブの機構を用いて磁気記録媒体のシーク評価を行う磁気記録媒体のシーク評価方法において、上記磁気記録媒体上での磁気ヘッドのシーク動作を、磁気記録媒体に書き込まれたサーボ情報を用いずに、磁気ヘッドを駆動するボイスコイルモータに印加した擬似的なシーク信号によって行う、ことを特徴としている。
【0019】
(2)第2の発明は、上記した(1)項に記載の発明において、上記擬似的なシーク信号を、磁気ヘッドのシーク動作を、実機のハードディスクドライブで動作可能な範囲を超えて行わせる信号とするものである。
【0020】
(3)第3の発明は、上記した(1)または(2)項に記載の発明において、上記擬似的なシーク信号を、磁気記録媒体に書き込まれたサーボ情報に基づかない信号とするものである。
【0021】
(4)第4の発明は、上記した(1)乃至(3)の何れか1項に記載の発明において、上記擬似的なシーク信号に、さらに擬似的なノイズ信号を加えるものである。
【0022】
(5)第5の発明は、上記した(1)乃至(4)の何れか1項に記載の発明において、上記シーク評価を、ハードディスクドライブの標準的な設置環境に対して高温高湿の環境下で行うようにしたものである。
【0023】
(6)第6の発明は、上記した(1)から(5)の何れか1項に記載の磁気記録媒体のシーク評価方法に用いられるシーク評価装置である。
【0024】
(7)第7の発明は、実機のハードディスクドライブの機構を用いて磁気記録媒体のシーク評価を行うシーク評価装置において、上記実機のハードディスクドライブ機構に設けられている磁気ヘッドと、上記実機のハードディスクドライブ機構に設けられ磁気ヘッドを駆動するボイスコイルモータと、上記ボイスコイルモータに擬似的なシーク信号を出力して磁気ヘッドに磁気記録媒体上でシーク動作を行わせるファンクションジェネレータと、を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、実機のハードディスクドライブを用いた磁気記録媒体上での磁気ヘッドのシーク動作を、磁気記録媒体に書き込まれたサーボ情報を用いずに、磁気ヘッドを駆動するボイスコイルモータに印加した擬似的なシーク信号によって行うので、実機のハードディスクドライブと同一条件下でのシーク評価を加速して実施することが可能となり、磁気記録媒体の生産時におけるロットの品質管理や、磁気記録媒体の耐久性の設計時における潤滑剤、保護膜等の評価を高速で正確に実施可能となる効果を有する。
【0026】
また、外部からボイスコイルモータに印加した擬似的なシーク信号によって磁気ヘッドのシーク動作を行うので、ハードディスクドライブを制御するファームウエアの影響を受けることなく精度良く行うことができる。
【0027】
さらに、外部からボイスコイルモータに印加した擬似的なシーク信号によって磁気ヘッドのシーク動作を行うので、ハードディスクドライブの機種が異なっていても、評価結果の相関がとれて正確な評価を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0029】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0030】
図1は本発明のシーク評価装置のブロック図である。図1において、本発明のシーク評価装置10は、実機のハードディスクドライブ11を用いて磁気記録媒体4のシーク評価を行うシーク評価装置であり、実機のハードディスクドライブ11に設けられている磁気ヘッド3と、実機のハードディスクドライブ11に設けられ磁気ヘッド3を駆動するボイスコイルモータ2と、その実機のハードディスクドライブ11の外部に設けられ、ボイスコイルモータ2に擬似的なシーク信号を出力して磁気ヘッド3に磁気記録媒体4上でシーク動作を行わせるファンクションジェネレータ1とを備えている。
【0031】
このように、本発明は、磁気記録媒体上での磁気ヘッドのシーク動作を磁気記録媒体に書き込まれたサーボ情報を用いずに、磁気ヘッドを駆動するボイスコイルモータに印加した擬似的なシーク信号によって行うことを特徴とする。
【0032】
実機のハードディスクドライブとは、実際に市場に出回る最終製品レベルでのハードディスクドライブを指す。磁気記録媒体の評価に用いられているスピンスタンドは、大変に高価な装置であるが、本発明の磁気記録媒体のシーク評価方法は、その評価に実機のハードディスクドライブの機構をそのまま用いるため、廉価で評価装置を組み立てることが可能となる。
【0033】
図2は本発明のシーク評価装置の例を示す図である。実機のハードディスクドライブ11は、図2に示すように、1枚または複数枚の磁気記録媒体4と、これを同心円で回転させる(複数枚の場合は、同期回転させる)シャフト5と、該シャフト5にベアリングを介して接合された磁気記録媒体を回転させるモータと、磁気記録媒体4の両面において記録及び/又は再生に用いる磁気ヘッド3と、該磁気ヘッド3が取り付けられた支持アーム6と、この支持アーム6を複数本以上重ねて同期して可動させ磁気ヘッド3を磁気記録媒体4上の任意の位置に移動させることのできるヘッドスタック機構7と、このヘッドスタック機構7をピポット8を中心に回転駆動するボイスコイルモータ(VCM)2と、磁気ヘッドやVCM等の信号処理系から構成される。本発明では、これらの機構の全てを用いるが、磁気記録媒体4上での磁気ヘッド3のシーク動作を、磁気記録媒体4に書き込まれたサーボ情報を用いずに、磁気ヘッド3を駆動するボイスコイルモータ2に印加した擬似的なシーク信号によって行うため、磁気記録媒体4に書き込まれたサーボ情報の信号処理系、この信号処理系からの指令によりボイスコイルモータ2を駆動させる信号処理系は用いない。すなわち、本発明では、ボイスコイルモータ2に擬似的なシーク信号を外部から加え、磁気ヘッド3を磁気記録媒体4の表面上で擬似的にシークさせる。そのため本発明では、実機のハードディスクドライブ11のボイスコイルモータ2に、その外部から制御信号を加える機構を付加する必要がある。ボイスコイルモータ2の制御信号は、通常は、電圧が数Vで、幅が数十m秒の電圧パルスである。よって、本発明では、実機のハードディスクドライブ11のボイスコイルモータ2に制御信号を加える機構として、このような電気信号を自動で発生できるファンクションジェネレータ1を用いる。
【0034】
本発明に用いられる擬似的なシーク信号とは、磁気記録媒体の加速度的なシーク評価を行うため、磁気ヘッドを擬似的にシーク動作させる信号である。磁気ヘッドの擬似的なシーク動作には次のようなものがある。
[1]磁気記録媒体の最内周から最外周までを連続して高速で往復させるシーク動作。
[2]磁気記録媒体が停止して磁気ヘッドが磁気記録媒体上に接触している状態から、磁気記録媒体が起動して磁気ヘッドが浮上したのち、再び磁気記録媒体が停止して磁気ヘッドが磁気記録媒体に接触するまでの動作を繰り返し行う動作。
[3]磁気記録媒体上に磁気ヘッドが任意の位置に浮上したまま、磁気記録媒体のみ回転動作を繰り返し行う動作。
[4]磁気記録媒体の最内周から最外周まで往復させ、徐々にその振幅を減少させるシーク動作。
[5]任意の位置から異なる位置までのシークをランダムに連続して発生させるシーク動作。
【0035】
本発明では、上記の磁気ヘッドのシーク動作を、実機のハードディスクドライブで動作可能な範囲を超えて行うことが可能となり、ハードディスクドライブのシーク評価を加速度的に行うことが可能となる。すなわち、前述のように、従来の実機のハードディスクドライブでのシーク動作は、磁気ヘッドが磁気記録媒体に書き込まれたサーボ情報を読み込み、そのサーボ信号を信号処理系で処理し、その処理結果に基づいてボイスコイルモータが磁気ヘッドを動かす。そのため、磁気ヘッドのシーク動作がサーボ信号の処理速度に依存し、磁気ヘッドのシーク動作速度に限界が生ずる。これに対し、本発明では、ボイスコイルモータの制御を外部からの信号によって行うため、磁気ヘッドのシーク動作を、ボイスコイルモータの駆動能力の限界まで高速化することが可能となり、磁気記録媒体の生産時におけるロットの品質管理や、磁気記録媒体の耐久性の設計時における潤滑剤、保護膜等の評価を高速で正確に実施可能となる。
【0036】
また、外部からボイスコイルモータに印加した擬似的なシーク信号によって磁気ヘッドのシーク動作を行うので、ハードディスクドライブを制御するファームウエアの影響を受けることなく精度良く行うことができる。
【0037】
さらに、外部からボイスコイルモータに印加した擬似的なシーク信号によって磁気ヘッドのシーク動作を行うので、ハードディスクドライブの機種が異なっていても、評価結果の相関がとれて正確な評価を行うことができる。
【0038】
本発明では、磁気ヘッドをシークさせる擬似的なシーク信号に、擬似的なノイズ信号を加えるのが好ましい。実機のハードディスクドライブを用いたシーク評価では、ボイスコイルモータに加えるシーク信号にノイズ信号を加えることは難しいが、本発明では、ボイスコイルモータへのシーク信号を擬似的に外部から加えるため、そのシーク信号に擬似的にノイズ信号を加えることができる。これにより、ハードディスクドライブの耐ノイズ特性評価を簡便に実施することが可能となり、また、ハードディスクドライブに外部から物理的な衝撃が加わって磁気ヘッドの動作が阻害される状態を擬似的に発生させることが可能となる。すなわち、本発明を用いることにより、より高度なシーク評価を実施することが可能となる。シーク信号に加える擬似的なノイズ信号とは、例えば、電圧が数マイクロV〜数百mVで、周波数が数Hz〜数百メガHzの信号である。
【0039】
従来の実機のハードディスクドライブを用いたシーク評価では、実機のハードディスクドライブが標準的な設置環境下で動作するように制限されているため、高温の環境下では評価が十分に行えなかったが、本発明では、外部からハードディスクドライブを動作させる。このため、ハードディスクドライブを高温高湿下に配置しても動作させることができ、したがって、磁気記録媒体のシーク評価を、より高温高湿の環境下で行うことができ、それにより、ハードディスクドライブの耐環境性評価を加速度的に行うことができる。
【0040】
ここで、ハードディスクドライブの標準的な設置環境とは、気温0℃〜30℃、湿度30%〜60%を指すが、標準的な設置環境に対して高温高湿の環境下とは、ハードディスクドライブの加速度的な耐環境性評価としては、温度60℃以上、湿度80%以上を採用するのが好ましい。
【0041】
図3は本発明で評価する磁気記録媒体の構造を例示するものである。ここに示す磁気記録媒体4は、非磁性基板41の上に、非磁性下地層42、磁性層43、保護層44、液体潤滑層45を順次積層させたものである。本例における磁気記録媒体4に係る非磁性基板41としては、Al、Al合金などの金属材料からなる基体上にNiPまたはNiP合金からなる膜が形成されたものを用いることができる。また、非磁性基板41としては、ガラス、セラミックス、シリコン、シリコンカーバイド、カーボン、樹脂などの非金属材料からなるものを用いてもよいし、この非金属材料からなる基体上にNiPまたはNiP合金の膜を形成したものを用いてもよい。
【0042】
非磁性基板41上には、非磁性下地層42が形成される。非磁性下地層42としてはCr合金等が用いられる。磁性層43は、Co−Cr−Ta系、Co−Cr−Pt系、Co−Cr−Pt−Ta系、Co−Cr−Pt−B−Ta系合金等が用いられる。
【0043】
保護層44は、従来の公知の材料、例えば、カーボン、SiCの単体またはそれらを主成分とした材料を使用することができる。保護層44の膜厚は1nm〜10nmの範囲内であるのが高記録密度状態で使用した場合の、磁気的スペーシングの低減または耐久性の点から好ましい。ここで、磁気的スペーシングは、磁気ヘッド3のリードライト素子と磁性層43との距離を表す。磁気的スペーシングが狭くなるほど電磁変換特性は向上する。
【0044】
本例における磁気記録媒体4では、保護層44上に液体潤滑層45を設けるのが好ましい。液体潤滑層45の層厚は1.5nm〜2.5nmの範囲内が好ましい。液体潤滑剤としては、例えば、パーフルオロポリエーテル化合物が用いられる。
【0045】
本発明に係るシーク評価では、その評価工程の前に、グライド評価工程を設けるのが好ましい。グライド評価工程とは、前述のように、磁気記録媒体の表面に突起物が無いか検査する工程であり、磁気記録媒体を回転させて検査ヘッドを浮上させ、検査ヘッドで磁気記録媒体表面を走査することにより、磁気記録媒体表面の突起物の有無を検査ヘッドからの信号で検査する工程である。この評価工程を、シーク評価の前、および後述する、サーティファイ評価の前に設けることにより、シーク評価およびサーティファイ評価での検査ヘッドの破損を防ぐことができる。
【0046】
グライド評価に使用できる検査ヘッドとして、感熱素子を有するヘッドが例示できる。すなわち、高速で回転している磁気記録媒体上に存在する突起物に検査ヘッドが接触すると、瞬間的に検査ヘッドで熱が発生し、その熱を感熱素子が検知して信号を出力することによりグライド検査を実施することが可能となる。このグライド評価工程における評価は、磁気記録媒体が、ハードディスクドライブにおいて通常用いられる磁気記録再生ヘッドの浮上量よりも、低い浮上量で行うのが好ましい。
【0047】
本発明に係るシーク評価では、その評価工程の前に、サーティファイ評価工程を設けるのが好ましい。本評価に用いるサーティファイ評価装置は、上述の磁気記録媒体における記録再生信号を検査する装置であり、検査対象の磁気記録媒体を設置する機構、磁気記録媒体を回転させる媒体駆動部、磁気記録媒体に磁気情報を記録再生する磁気ヘッド、この磁気ヘッドを磁気記録媒体に対して相対運動させるヘッド駆動部、磁気ヘッドの記録再生信号を処理する記録再生信号処理機構を備えている。
【実施例】
【0048】
以下、より具体例を挙げて本発明を説明する。
【0049】
(評価を行う磁気記録媒体の製造)
非磁性基板には、HOYA社製アモルファスガラス基板を使用した。ガラス基板のサイズは外径65mm、内径25mm、板厚1.27mmである。この基板にテクスチャーを施し、十分に洗浄し乾燥した後、DCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社(日本)製C3010)内にセットした。真空到達度を2×10-7Torr(2.7×10-5Pa)まで排気した後、非磁性下地層として、Cr−Mn合金(Cr:70at%、Mn:30at%)からなるターゲットを用いて6nm積層した。磁性層としてCo−Cr−Pt−B合金(Co:60at%、Cr:20at%、Pt:13at%、B:7at%)からなるターゲットを用いて磁性層であるCo−Cr−Pt−B合金層を17nmの膜厚で形成し、保護膜(カ−ボン)3nmを積層した。成膜時のAr圧は3mTorr(0.4Pa)とした。その後、パーフルオロポリエーテルからなる潤滑剤2nmをディップ法で塗布し液体潤滑層を形成した。
【0050】
(磁気記録媒体のグライド評価)
上記方法によって製造された磁気記録媒体についてグライド評価を実施した。グライド評価では、検査ヘッドと磁気記録媒体表面の間の機械的なスペーシングを、0.25マイクロインチに設定し、検査ヘッドから、磁気記録媒体表面の突起物との衝突に起因するシグナルが出力された場合は、その磁気記録媒体は不良品と判断した。
【0051】
(磁気記録媒体のサーティファイ評価)
グライド評価工程を通過した磁気記録媒体についてサーティファイ評価を実施した。サーティファイ評価は次の条件で実施した。磁気記録媒体の回転数は5400rpm、磁気記録媒体への書き込み周波数は80MHz、磁気記録媒体の検査位置を半径24.2mmの位置、検査ピッチを2μm、検出する欠陥に対応する信号の時間を15μ秒とし、これ以上の信号が出力された磁気記録媒体は不良品と判断した。
【0052】
(磁気記録媒体のシーク評価)
実機のハードディスクドライブとして、株式会社東芝製MK2035GSSを用いた。本機における磁気記録媒体の回転数は、4200rpmである。このドライブのVCMにファンクションジェネレータを用いて駆動信号を直接印加した。実機のハードディスクドライブを用いたシーク評価は次の項目について実施した。
【0053】
1.60℃×80%環境下でハードディスクドライブのヘッドの、ロード/アンロード動作を10回/秒の頻度で72時間繰り返した。この動作後、磁気ヘッド、磁気記録媒体の表面を光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡で観察し、表面の損傷の発生状況を確認した。
【0054】
2.磁気ヘッドのシーク動作を、VCMの限界の駆動速度まで高め、シーク動作が長時間に亘って安定に行われるか試験を行った。
【0055】
3.磁気ヘッドを任意の位置に浮動させ、その状態で、磁気ヘッドによる読み書きが正常に行われる限界時間を試験した。
【0056】
このように、磁気ヘッドのシーク動作を、ボイスコイルモータの駆動能力の限界まで高速化することが可能となり、磁気記録媒体の生産時におけるロットの品質管理や、磁気記録媒体の耐久性の設計時における潤滑剤、保護膜等の評価を高速で正確に実施可能となった。
【0057】
また、VCMにファンクションジェネレータを用いて駆動信号を直接印加したので、磁気ヘッドのシーク動作として、実機のハードディスクドライブで動作可能な範囲を超えて行わせることができた。
【0058】
また、VCMにファンクションジェネレータを用いて駆動信号を直接印加して磁気ヘッドのシーク動作を行うので、ハードディスクドライブを制御するファームウエアの影響を受けることなく精度良く行うことができた。
【0059】
さらに、VCMにファンクションジェネレータを用いて駆動信号を直接印加して磁気ヘッドのシーク動作を行うので、ハードディスクドライブの機種が異なっていても、評価結果の相関がとれて正確な評価を行うことができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明のシーク評価装置のブロック図である。
【図2】本発明のシーク評価装置の例を示す図である。
【図3】本発明で評価する磁気記録媒体の構造を例示するものである。
【図4】従来の実機のハードディスクドライブを用いたシーク評価装置のブロック図である。
【符号の説明】
【0061】
1 ファンクションジェネレータ
2 ボイスコイルモータ
3 磁気ヘッド
4 磁気記録媒体
41 非磁性基板
42 非磁性下地層
43 磁性層
44 保護層
45 液体潤滑層
5 シャフト
6 支持アーム
7 ヘッドスタック機構
8 ピポット
10 シーク評価装置
11 ハードディスクドライブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実機のハードディスクドライブの機構を用いて磁気記録媒体のシーク評価を行う磁気記録媒体のシーク評価方法において、
上記磁気記録媒体上での磁気ヘッドのシーク動作を、磁気記録媒体に書き込まれたサーボ情報を用いずに、磁気ヘッドを駆動するボイスコイルモータに印加した擬似的なシーク信号によって行う、
ことを特徴とする磁気記録媒体のシーク評価方法。
【請求項2】
上記擬似的なシーク信号は、磁気ヘッドのシーク動作を、実機のハードディスクドライブで動作可能な範囲を超えて行わせる信号である、請求項1に記載の磁気記録媒体のシーク評価方法。
【請求項3】
上記擬似的なシーク信号は、磁気記録媒体に書き込まれたサーボ情報に基づかない信号である、請求項1または2に記載の磁気記録媒体のシーク評価方法。
【請求項4】
上記擬似的なシーク信号に、さらに擬似的なノイズ信号を加える、請求項1から3の何れか1項に記載の磁気記録媒体のシーク評価方法。
【請求項5】
上記シーク評価を、ハードディスクドライブの標準的な設置環境に対して高温高湿の環境下で行う、請求項1から4の何れか1項に記載の磁気記録媒体のシーク評価方法。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載の磁気記録媒体のシーク評価方法に用いられるシーク評価装置。
【請求項7】
実機のハードディスクドライブの機構を用いて磁気記録媒体のシーク評価を行うシーク評価装置において、
上記実機のハードディスクドライブ機構に設けられている磁気ヘッドと、
上記実機のハードディスクドライブ機構に設けられ磁気ヘッドを駆動するボイスコイルモータと、
上記ボイスコイルモータに擬似的なシーク信号を出力して磁気ヘッドに磁気記録媒体上でシーク動作を行わせるファンクションジェネレータと、
を備えることを特徴とするシーク評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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