説明

磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体

【課題】強磁性粉末として強磁性六方晶フェライト粉末を含む磁気記録媒体であって、高密度記録領域において優れた電磁変換特性を発揮し得る磁気記録媒体を製造するための手段を提供すること。
【解決手段】強磁性六方晶フェライト粉末および結合剤を含む磁性層形成用塗布液を、非磁性支持体上に直接または間接に塗布することにより塗布膜を形成し、該塗布膜が湿潤状態にあるうちに配向処理を施し、次いで乾燥することにより磁性層を形成することを含む磁気記録媒体の製造方法。前記磁性層形成用塗布液を、平均板径10〜50nmの強磁性六方晶フェライトを乾式解砕工程に付し、得られた強磁性六方晶フェライトを前記結合剤とともに第一分散工程に付し、次いで得られた分散液を第二分散工程および濾過工程に順次付すことにより調製する。前記第一分散工程により得られた分散液の濾過後乾固物量は15%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高容量磁気記録媒体の製造方法に関し、詳しくは、高密度記録領域において優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体の製造方法に関する。更に本発明は、前記方法により得られる磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報を高速に伝達するための手段が著しく発達し、莫大な情報をもつ画像およびデータ転送が可能となった。このデータ転送技術の向上とともに、情報を記録、再生および保存するための記録媒体には更なる高記録容量化が求められている。
【0003】
高記録容量化の手段として、磁気記録媒体製造面からのアプローチとしては、磁性粉末の微粒子化とそれらの塗膜中への高密度充填、塗膜の平滑化、磁性層の薄層化などの高記録密度化技術が提案されている(例えば特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2006−41493号公報
【特許文献2】特開2006−155832号公報
【特許文献3】特開2001−256633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1〜3に記載されているように、高記録容量化を達成するためには磁性層中の分散性を高めることが重要である。磁性層に使用される強磁性粉末としては、強磁性金属粉末および強磁性六方晶フェライト粉末が広く使用されている。強磁性粉末の凝集のしやすさは、強磁性粉末の特性上、特に飽和磁化σsおよび形状に依存する。σsが低いほど静磁気相互作用が低く凝集しにくい、または凝集を破壊しやすい。そのため強磁性金属粉末に対して低σsを容易に達成し得る強磁性六方晶フェライト粉末を使用することが、強磁性粉末が凝集することにより磁性層の分散性が低下することを回避する上では好ましいと考えられる。しかし本発明者らの検討の結果、強磁性六方晶フェライト粉末(以下、単に「六方晶フェライト」ともいう)については、より高度な分散性を達成するためには、以下の六方晶フェライト特有の課題があることが明らかとなった。
【0005】
磁気記録媒体の製造工程では、磁性層の角型比を制御するために、非磁性支持体上に塗布された磁性層塗布液が湿潤状態にあるうちに磁場を印加すること(配向処理)が広く行われている。しかし高密度化のために微粒子化された六方晶フェライトを使用すると、配向処理により六方晶フェライトの凝集(配向凝集)が生じる。六方晶フェライトがその形状に起因しスタッキングしやすいことが、配向凝集の原因と考えられる。比較的記録密度が低い領域では、上記配向凝集のS/Nへの影響は少なかったが、更なる高密度化を達成するために磁性層の薄層化および六方晶フェライトの微粒子化を進めるほど、配向凝集によるノイズが増大しS/Nへの影響が顕在化し良好な電磁変換特性を得ることは困難となる。
【0006】
そこで本発明の目的は、強磁性粉末として強磁性六方晶フェライト粉末を含む磁気記録媒体であって、高密度記録領域において優れた電磁変換特性を発揮し得る磁気記録媒体を製造するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
磁性層形成用塗布液は、強磁性粉末を結合剤等の成分とともに溶剤中で混合分散することにより調製される。この分散工程は、一般に、混練機による粗分散工程およびビーズ状の分散媒を使用する微分散工程の2段階の分散工程からなる。本発明者らが配向凝集の発生原因について検討を重ねた結果、粗分散工程後に得られる分散液中の沈降物が微分散工程で十分破壊されずに磁性層塗布液中に残留することが原因であることが明らかとなった。即ち、非磁性支持体上に塗布された湿潤状態にある塗布膜中では磁場により六方晶フェライトがその向きを変え所望の配向状態が達成されるが、凝集の核となる塊が存在すると、磁場により動き易くなった六方晶フェライトが次々と引き寄せられ大きな一塊の凝集物が形成される。
そこで本発明者ら更に検討を重ね、粗分散工程前の六方晶フェライトに乾式解砕処理を施すことにより、粗分散工程での沈降物生成を抑制できることを見出した。これは、第一には乾式解砕処理により乾燥状態での六方晶フェライトの凝集が破壊され微粒子化が達成されること、第二には解砕処理により六方晶フェライトの表面に活性な面が現れ、粗分散工程での結合剤の吸着量が増大すること、によるものと考えられる。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0008】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]強磁性六方晶フェライト粉末および結合剤を含む磁性層形成用塗布液を、非磁性支持体上に直接または間接に塗布することにより塗布膜を形成し、該塗布膜が湿潤状態にあるうちに配向処理を施し、次いで乾燥することにより磁性層を形成することを含む磁気記録媒体の製造方法であって、
前記磁性層形成用塗布液を、平均板径10〜50nmの強磁性六方晶フェライトを乾式解砕工程に付し、得られた強磁性六方晶フェライトを前記結合剤とともに第一分散工程に付し、次いで得られた分散液を第二分散工程および濾過工程に順次付すことにより調製し、かつ、
前記第一分散工程により得られた分散液の濾過後乾固物量は15%以下であることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
[2]前記磁性層形成用塗布液を、中心面平均粗さRaが3.6nmの表面に塗布することにより形成される塗布膜表面の中心面平均粗さRaは2.5nm以下である[1]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[3]前記磁性層形成用塗布液の累積体積の50%となる粒子径D50は40nm以下である[1]または[2]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[4]前記乾式解砕工程は、旋回流型ジェットミルを用いて行われる[1]〜[3]のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
[5]前記乾式解砕工程により得られた強磁性六方晶フェライト粉末の150μmメッシュの通過量は90%以上であり、かつステアリン酸吸着量は7.0μmol/m2以上である[1]〜[4]のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
[6]前記乾式解砕工程により得られた強磁性六方晶フェライト粉末のBET法による比表面積SBETは80m2/g以上である[1]〜[5]のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
[7]前記第一分散工程により得られた分散液中の強磁性六方晶フェライトの結合剤吸着量は、強磁性六方晶フェライト粉末100質量部あたり9.8〜12.0質量部の範囲である[1]〜[6]のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
[8]形成される磁性層の長手方向における角型比は0.5〜0.9の範囲である[1]〜[7]のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
[9]形成される磁性層の厚さは10〜100nmの範囲である[1]〜[8]のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
[10]磁気力顕微鏡(MFM)で測定したDC消磁状態の磁気クラスターの平均面積SdcとAC消磁状態の磁気クラスターの平均面積Sacとの比(Sdc/Sac)は0.8〜2.0の範囲である[1]〜[9]のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
[11]前記第一分散工程は、オープンニーダー、超音波分散機またはディスパーを用いて行われる[1]〜[10]のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
[12]前記第二分散工程は、前記第一分散工程により得られた分散液をビーズ状分散媒とともに攪拌することにより行われる[1]〜[11]のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
[13]前記非磁性支持体上に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層形成用塗布液を塗布および乾燥することにより非磁性層を形成し、該非磁性層上に前記磁性層形成用塗布液を塗布する[1]〜[12]のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
[14][1]〜[13]のいずれかに記載の製造方法により得られる磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、所望の配向状態を有するとともに分散性に優れ、高密度領域において優れた電磁変換特性を発揮し得る磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[磁気記録媒体の製造方法]
本発明は、強磁性六方晶フェライト粉末および結合剤を含む磁性層形成用塗布液を、非磁性支持体上に直接または間接に塗布することにより塗布膜を形成し、該塗布膜が湿潤状態にあるうちに配向処理を施し、次いで乾燥することにより磁性層を形成することを含む磁気記録媒体の製造方法に関する。本発明の磁気記録媒体の製造方法では、磁性層形成用塗布液を、平均板径10〜50nmの強磁性六方晶フェライトを乾式解砕工程に付し、得られた強磁性六方晶フェライトを前記結合剤とともに第一分散工程に付し、次いで得られた分散液を第二分散工程および濾過工程に順次付すことにより調製し、かつ、前記第一分散工程により得られた分散液の濾過後乾固物量は15%以下である。このように第一分散工程前に強磁性六方晶フェライト粉末に対して乾式解砕処理を施し、第一分散工程により得られる分散液中の沈降物を低減することにより、配向凝集を抑制し凝集物の少ない磁性層を得ることができる。
以下、上記「乾式解砕工程」、「第一分散工程」、「第二分散工程」、および「濾過工程」の詳細を説明する。
【0011】
乾式解砕工程
粒状物質がそれ以上分割することのできない最小粒子を一次粒子といい、一次粒子が凝集して生じる粒子を二次粒子という。そして解砕とは、二次粒子を一次粒子に近づけるために粒子間の凝集を破壊することをいう。乾式解砕工程とは、乾燥状態の粒状物質に対して行われる解砕処理である。本発明では、結合剤等の磁性層塗布液成分と混合する前の六方晶フェライトを、乾式解砕工程に付す。この乾式解砕処理により、第一には六方晶フェライトの凝集が破壊され微粒子化が達成され、第二には凝集体(二次粒子)内部に位置していた一次粒子表面を、凝集の破壊により表面に露出させることができる。露出した一次粒子表面は活性が高く、結合剤との吸着性に優れると考えられる。これにより第一分散工程後の分散液中の沈降物を低減できるものと推察される。
【0012】
前記六方晶フェライトの平均板径は10〜50nmの範囲である。平均板径が10nm未満では、熱揺らぎによる再生出力の劣化が生じ、長期の記録保存に適さない。一方、平均板径が50nmを超えると、ビット体積当たりの粒子数が減少し、十分なSNRを確保することが困難となる。六方晶フェライトの平均板径は、好ましくは15〜40nm、より好ましくは18〜30 nmである。
上記六方晶フェライトの平均板径は、例えば以下の方法により求められる値をいう。
六方晶フェライト粒子を水で希釈し、カーボン膜を貼り付けたCu200メッシュに載せて乾燥させ、透過型電子顕微鏡(TEM)、例えば日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粒子写真を得る。粒子写真からデジタイザ−で粒子の輪郭をトレースしカ−ルツァイス製画像解析ソフトKS−400で粒子のサイズを測定する。500個の粒子のサイズを測定し、測定値を平均して平均板径とする。
【0013】
乾式解砕工程は、一般にジェットミル(またはジェット粉砕機)と呼ばれる粉砕機によって行うことができる。ジェットミルとは、高圧の空気または蒸気により粒子同士を衝突させることにより粒子を解砕する粉砕機であり、本発明では乾式で処理を行うため、高圧空気により粒子同士を衝突させるタイプのジェットミルを利用する。ジェットミルは原料同士の衝突による粉砕のため、粉砕機、粉砕ミルの磨耗によるコンタミネーションが少ないという点で優れている。また、原料を1次粒子近くまで粉砕することが可能である。そのようなジェットミルとしては、旋回流型ジェットミル、衝突タイプ、流動層型ジェットミルが挙げられるが、中でも旋回流型ジェットミルが好ましい。旋回流型ジェットミルとは、気体の旋回流を利用するものであって、解砕すべき粒子を気流にのせてミル内に送給し、分級機と閉回路を形成して処理するジェットミルである。旋回流型ジェットミルを使用することにより、解砕と粒度分布の均一化を同時に達成することができる。
【0014】
旋回流型ジェットミルとしては、例えば、アイシンナノテクノロジーズ社製ナノジェットマイザーNJ−100型、セイシン企業製のSTJシリーズ、アイシンナノテクノロジーズ社製のNJシリーズ等を用いることができる。旋回流型ジェットミル内での処理条件として、原料(六方晶フェライト)の投入速度および投入圧力、空気流による粉砕圧力、ジェットミルへの導入回数(同一試料を何回ジェットミル内で処理するか)等があり、これらを調整することにより、所望の解砕状態を達成することができる。処理条件は、使用するジェットミルに応じて設定すればよいが、例えば、投入速度は、5〜15 kg/時間、投入圧力は0.5〜2.0MPa、粉砕圧力は0.5〜2.0MPa、投入回数は1〜8回程度とすることが好ましい。
【0015】
前記解砕工程により、六方晶フェライトの微粒子化、表面活性化および表面積増大を達成できる。第一工程により得られる分散液中の沈降物低減のためには、解砕工程後の六方晶フェライトは、150μmメッシュの通過量が90%以上であることが好ましく、95〜100%であることが更に好ましい。また、解砕工程後の六方晶フェライトの表面活性化の指標としては、ステアリン酸吸着量を用いることができ、解砕工程後の六方晶フェライトのステアリン酸吸着量は、7.0μmol/m2以上であることが好ましく、8〜10μmol/m2であることが更に好ましい。表面積については、BET法により測定される比表面積SBETとして、80m2/g以上であることが好ましく、90〜120m2/gであることが更に好ましい。なお、上記「150μmメッシュの通過量」、「ステアリン酸吸着量」とは、それぞれ後述する実施例記載の方法により測定される値であって、好ましくは、解砕工程後、第一分散工程に付される六方晶フェライトに関する値である。なお、解砕工程終了から、例えば10日以内であれば測定値に大きな変動は見られない。
【0016】
分散性向上のためには、解砕工程後の六方晶フェライトを、表面の活性状態および微粒子化された状態を維持したまま分散工程に付すことが好ましい。したがって、解砕工程後の六方晶フェライトは、遅くとも乾式解砕工程から1ヶ月以内に第一分散工程に付すことが好ましく、乾式解砕工程に引き続き第一分散工程を行うことが更に好ましい。
【0017】
第一分散工程
第一分散工程は、前記解砕工程後の六方晶フェライトを結合剤とともに混合分散する工程である。第一分散工程において、六方晶フェライトおよび結合剤とともに他の磁性層塗布液成分を混合してもよく、第二分散工程においてそれら成分を混合してもよく、また個々の原料を第一分散工程、第二分散工程で分割して添加してもかまわない。
【0018】
第一分散工程は、混練機、攪拌機、分散機等の六方晶フェライトと結合剤等の成分を混合分散可能な装置を用いて行うことができる。混練機としては、オープンニーダー、連続ニーダー、加圧ニーダー、エクストルーダーなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練機の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。混練処理では、240分以上混練することが好ましい。
【0019】
また、本発明では第一分散工程前に解砕工程を行うため、混練機を使用することなく高度な分散を達成することができる。例えば、超音波分散機、ディスパーによって第一分散工程を行うことも可能である。超音波分散機を使用する場合、分散条件としては、例えば、周波数20KHzで30分以上超音波処理を行うことが好ましい。また、ディスパーを使用する場合の攪拌条件としては、例えば回転数150rpm以上で、30分以上の攪拌を実施することが好ましい。
【0020】
上記第一分散工程により得られる分散液中に沈降物が少ないほど、配向凝集を抑制することが可能である。分散液中の沈降物量は、分散液の濾過後乾固物量によって評価することができる。本発明において、「濾過後乾固物量」とは、以下の方法によって測定される値をいうものとする。
分散液を2倍量の溶媒(例えばメチルエチルケトン)で希釈し、1.0μmの平均孔径を有するフィルターに通し、フィルター上に残った固形物を回収乾燥後計量する。(回収後の乾固物量/分散液の固形分量)×100 として算出される値を濾過後乾固物量とする。
本発明では、第一分散工程により得られる分散液の濾過後乾固物量は、15%以下である。濾過後乾固物量が15%を超えると、配向工程において凝集が発生しやすく、優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体を得ることが困難になる。濾過後乾固物量は、好ましくは10%以下、更に好ましくは5%以下である。その下限値は、最も好ましくは0%である。本発明では、前述のように第一分散工程前に六方晶フェライトに乾式解砕処理を施すことにより、第一分散工程において沈降物が低減された分散液を得ることができる。六方晶フェライトを、乾式解砕工程によって微粒子化され、かつ表面に活性面が露出した状態のまま第一分散工程に付すためには、乾式解砕工程に引き続き第一分散工程を行うことが好ましい。乾式解砕工程を行った六方晶フェライトを長期間保存した後に第一分散工程に付すと、上記濾過後乾固物量を15%以下とすることが困難となる。なお、上記濾過後乾固物量は、第一分散工程終了から5日以内に測定された値をいうものとする。
【0021】
また、前述のように解砕処理を施した六方晶フェライトは表面の活性が高まり結合剤吸着量が増大している。この点も分散性向上に寄与し得る。第一分散工程により得られる分散液中の六方晶フェライトの結合剤吸着量は、六方晶フェライト100質量部あたり9.8〜12.0質量部であることが好ましく、10.0〜11.5質量部であることが更に好ましい。上記結合剤吸着量は、第一分散工程により得られる分散液中での値であり、好ましくは第二分散工程に付される分散液における値である。なお、第一分散工程終了から、例えば5日以内であれば測定値に大きな変動は見られない。
【0022】
第一分散工程により得られた分散液は、次いで第二分散工程および濾過工程に順次付される。第一分散工程により達成した分散状態を維持する観点から、第一分散工程に引き続き第二分散工程を行うことが更に好ましい。
【0023】
第二分散工程、濾過工程
第二分散工程は、第一分散工程により得られた分散液を更に分散する工程である。一般に、第二分散工程は、第一分散工程より微細に分散する工程となる。第二分散工程は、第一工程で得られた分散液にビーズ状の分散媒を加え、それらを攪拌することにより行うことが好ましい。ビーズ状分散媒としては、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。分散条件としては、回転数1500〜3000rpm、塗布液100質量部当たり250〜500質量部の0.01〜0.5mmφのビーズを用いて720〜2160分間分散することが好ましい。
【0024】
第二分散工程により得られた分散液は濾過工程に付される。濾過工程は、平均孔径0.1〜4μm程度のフィルターに分散液を通過させることにより行うことができる。
【0025】
本発明によれば、乾式解砕工程、第一、第二分散工程および濾過工程を経てきわめて分散性に優れた磁性層塗布液を得ることができる。磁性層塗布液の分散性の指標としては、該塗布液を塗布して得られる塗布膜の表面性を用いることができる。具体的には、中心面平均粗さRaが3.6nmのベース表面に磁性層塗布液を塗布および乾燥させて形成される塗布膜表面の中心面平均粗さRaが、2.5nm以下であることが好ましく、1.5〜2.3nmであることが更に好ましい。
【0026】
また、凝集抑制のためには、上記濾過工程後に得られる磁性層塗布液は粒度分布が均一化されていることが好ましい。特に、乾式解砕工程において旋回流型ジェットミルを使用することにより粒度分布の均一化を達成することができる。磁性層塗布液中の六方晶フェライトの粒度分布は、磁性層塗布液中の六方晶フェライトが、累積体積の50%となる粒子径(以下、D50と呼ぶ)により評価することができる。上記磁性層塗布液のD50は、40nm以下であることが好ましく、20〜35nmであることが更に好ましい。
なお、上記の磁性層塗布液の分散性は、濾過工程後の磁性層塗布液に関するものであり、好ましくは、非磁性支持体上に塗布される塗布液に関するものである。上記Ra、D50は、濾過工程終了後、例えば10時間以内であれば測定値に大きな変動は見られない。
次に、本発明の磁気記録媒体の製造方法について更に詳細に説明する。
【0027】
非磁性支持体
前記方法により調製された磁性層塗布液は、非磁性支持体上に直接または間接に塗布される。非磁性支持体上に直接塗布することもでき、後述する非磁性層上に塗布することもできる。
非磁性支持体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、ポリアラミド、芳香族ポリアミド、ポリベンゾオキサゾールなどの公知のフィルムが使用できる。ポリエチレンナフタレート、ポリアミドなどの高強度支持体を用いることが好ましい。また必要に応じ、磁性面とベース面の表面粗さを変えるため特開平3−224127号公報に示されるような積層タイプの支持体を用いることもできる。これらの支持体にはあらかじめコロナ放電処理、プラズマ処理、易接着処理、熱処理、除塵処理、などをおこなっても良い。また本発明の支持体としてアルミまたはガラス基板を適用することも可能である。
【0028】
中でもポリエステル支持体(以下、単にポリエステルという)が好ましい。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどジカルボン酸およびジオールからなるポリエステルであることが好ましい。
主要な構成成分のジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルチオエーテルジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸などを挙げることができる。
また、ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビスフェノールフルオレンジヒドロキシエチルエーテル、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、シクロヘキサンジオールなどを挙げることができる。
【0029】
これらを主要な構成成分とするポリエステルの中でも透明性、機械的強度、寸法安定性などの点から、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸および/または2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジオール成分として、エチレングリコールおよび/または1,4−シクロヘキサンジメタノールを主要な構成成分とするポリエステルが好ましい。
中でも、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレートを主要な構成成分とするポリエステルや、テレフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸とエチレングリコールからなる共重合ポリエステル、およびこれらのポリエステルの二種以上の混合物を主要な構成成分とするポリエステルが好ましい。特に好ましくはポリエチレン−2,6−ナフタレートを主要な構成成分とするポリエステルである。
【0030】
なお、ポリエステルとしては、二軸延伸されているものでもよく、2層以上の積層体であってもよい。
また、ポリエステルは、さらに他の共重合成分が共重合されていてもよく、他のポリエステルが混合されていてもよい。これらの例としては、先に挙げたジカルボン酸成分やジオール成分、またはそれらから成るポリエステルを挙げることができる。
【0031】
ポリエステルには、フィルム時におけるデラミネーションを起こし難くするため、スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、ポリオキシアルキレン基を有するジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、ポリオキシアルキレン基を有するジオールなどを共重合してもよい。
中でもポリエステルの重合反応性やフィルムの透明性の点で、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2−ナトリウムスルホテレフタル酸、4−ナトリウムスルホフタル酸、4−ナトリウムスルホ−2,6−ナフタレンジカルボン酸およびこれらのナトリウムを他の金属(例えばカリウム、リチウムなど)やアンモニウム塩、ホスホニウム塩などで置換した化合物またはそのエステル形成性誘導体、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体およびこれらの両端のヒドロキシ基を酸化するなどしてカルボキシル基とした化合物などが好ましい。この目的で共重合される割合としては、ポリエステルを構成するジカルボン酸を基準として、0.1〜10モル%が好ましい。
また、耐熱性を向上する目的では、ビスフェノール系化合物、ナフタレン環またはシクロヘキサン環を有する化合物を共重合することができる。これらの共重合割合としては、ポリエステルを構成するジカルボン酸を基準として、1〜20モル%が好ましい。
【0032】
上記ポリエステルは、従来公知のポリエステルの製造方法に従って製造できる。例えば、ジカルボン酸成分をジオール成分と直接エステル化反応させる直接エステル化法、初めにジカルボン酸成分としてジアルキルエステルを用いて、これとジオール成分とでエステル交換反応させ、これを減圧下で加熱して余剰のジオール成分を除去することにより重合させるエステル交換法を用いることができる。この際、必要に応じてエステル交換触媒あるいは重合反応触媒を用い、または耐熱安定剤を添加することができる。
また、合成時の各過程で着色防止剤、酸化防止剤、結晶核剤、すべり剤、安定剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、粘度調節剤、消泡透明化剤、帯電防止剤、pH調整剤、染料、顔料、反応停止剤などの各種添加剤の1種または2種以上を添加させてもよい。
【0033】
また、支持体にはフィラーが添加されてもよい。フィラーの種類としては、球形シリカ、コロイダルシリカ、酸化チタン、アルミナ等の無機粉体、架橋ポリスチレン、シリコーン樹脂等の有機フィラー等が挙げられる。
また、支持体を高剛性化するために、これらの材料を高延伸したり、表面に金属や半金属または、これらの酸化物の層を設けることもできる。
【0034】
非磁性支持体の厚みは、好ましくは3〜80μm、より好ましくは3〜50μm、特に好ましくは3〜10μmである。また支持体表面の中心面平均粗さ(Ra)は、好ましくは6nm以下、より好ましくは4nm以下である。このRaは、WYKO社製HD2000で測定される値である。
また、非磁性支持体の長手方向および幅方向のヤング率は、6.0GPa以上が好ましく、7.0GPa以上がさらに好ましい。
【0035】
強磁性六方晶フェライト粉末
磁性層における強磁性六方晶フェライト粉末の体積は、1000〜20000nm3であることが好ましく、2000〜8000nm3であることが更に好ましい。この範囲とすることにより、熱揺らぎにより磁気特性の低下を有効に抑えることができると共に低ノイズを維持したまま良好なC/N(S/N)を得ることができる。
上記体積は、六方晶フェライト粉末形状を6角柱と想定して板径、軸長(板厚)から求められる値である。
【0036】
なお、磁性層中の六方晶フェライトのサイズは、以下の方法によって求めることができる。
磁性層を適当量剥ぎ取る。剥ぎ取った磁性層30〜70mgにn−ブチルアミンを加え、ガラス管中に封かんし熱分解装置にセットして140℃で約1日加熱する。冷却後にガラス管から内容物を取り出し、遠心分離し、液と固形分を分離する。分離した固形分をアセトンで洗浄し、透過型電子顕微鏡(TEM)用の粉末試料を得る。この試料を日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて粒子を撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粒子写真を得る。粒子写真から目的の磁性体を選びデジタイザ−で粉体の輪郭をトレースしカ−ルツァイス製画像解析ソフトKS−400で粒子のサイズを測定する。500個の粒子のサイズを測定し、測定値を平均して平均サイズとする。
【0037】
六方晶フェライト粉末には、例えば、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライト、それらのCo等の置換体等がある。より具体的には、マグネトプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト、スピネルで粒子表面を被覆したマグネトプランバイト型フェライト、さらに一部にスピネル相を含有したマグネトプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト等が挙げられる。その他、所定の原子以外にAl、Si、S、Sc、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、B、Ge、Nbなどの原子を含んでもかまわない。一般には、Co−Zn、Co−Ti、Co−Ti−Zr、Co−Ti−Zn、Ni−Ti−Zn、Nb−Zn−Co、Sb−Zn−Co、Nb−Zn等の元素を添加した物を使用できる。また原料・製法によっては特有の不純物を含有するものもある。
【0038】
六方晶フェライト粉末の粒子サイズは、平均板径が10〜50nmであり、上述の体積を満足するサイズであることが更に好ましい。平均板径が10nm以上であれば、粒子サイズ分布を考慮しても熱揺らぎにより記録に関与する磁性体量を容易に確保できる。平均板径が50nm以下であれば、高い線記録密度での高出力、低ノイズを確保できる。六方晶フェライト粉末の平均板径は、好ましくは15〜40nm、更に好ましくは18〜30nmである。
【0039】
六方晶フェライトの平均板比{(板径/板厚)の平均}は1.5〜4.5の範囲であることが好ましく、2.0〜3.5の範囲であることが更に好ましい。平均板比が1.5〜4.5であれば、磁性層で高充填性を保持しながら充分な配向性が得られ、粒子間のスタッキングによるノイズ増大を抑えることができ、かつ、優れた耐久性を有する磁気記録媒体を得ることができる。また、上記粒子サイズの範囲内におけるBET法による比表面積(SBET)は、40m2/g以上が好ましく、40〜200m2/gであることがさらに好ましく、60〜100m2/gであることが最も好ましい。
【0040】
六方晶フェライト粉末の粒子板径・板厚の分布は、通常狭いほど好ましい。粒子板径・板厚を数値化することは、粒子TEM写真より500粒子を無作為に測定することで比較できる。粒子板径・板厚の分布は正規分布ではない場合が多いが、計算して平均サイズに対する標準偏差で表すと、σ/平均サイズ=0.1〜1.0である。粒子サイズ分布をシャープにするには、粒子生成反応系をできるだけ均一にすると共に、生成した粒子に分布改良処理を施すことも行われている。例えば、酸溶液中で超微細粒子を選別的に溶解する方法等も知られている。
【0041】
一般に、抗磁力(Hc)143.3〜318.5kA/m(1800〜4000Oe)の六方晶フェライト粉末は作製可能である。六方晶フェライト粉末の抗磁力(Hc)は、好ましくは159.2〜238.9kA/m(2000〜3000Oe)、更に好ましくは191.0〜214.9kA/m(2200〜2800Oe)である。抗磁力(Hc)は、粒子サイズ(板径・板厚)、含有元素の種類と量、元素の置換サイト、粒子生成反応条件等により制御できる。
【0042】
六方晶フェライト粉末の飽和磁化(σs)は30〜80A・m2/kg(emu/g)であることが好ましい。飽和磁化(σs)は高い方が好ましいが、微粒子になるほど小さくなる傾向がある。飽和磁化(σs)の改良のため、マグネトプランバイトフェライトにスピネルフェライトを複合することや、含有元素の種類と添加量の選択等がよく知られている。またW型六方晶フェライトを用いることも可能である。磁性体を分散する際に磁性体粒子表面を分散媒、ポリマーに合った物質で処理することも行われている。表面処理剤としては、無機化合物および有機化合物が使用される。主な化合物としてはSi、Al、P等の酸化物または水酸化物、各種シランカップリング剤、各種チタンカップリング剤が代表例である。添加量は磁性体の質量に対して、一般に0.1〜10質量%である。磁性体のpHも分散に重要である。通常4〜12程度で分散媒、ポリマーにより最適値があるが、媒体の化学的安定性、保存性から6〜11程度とすることが好ましい。磁性体に含まれる水分も分散に影響する。分散媒、ポリマーにより最適値があるが通常0.01〜2.0%が選ばれる。
【0043】
六方晶フェライト粉末の製法としては、(1)酸化バリウム・酸化鉄・鉄を置換する金属酸化物とガラス形成物質として酸化ホウ素等を所望のフェライト組成になるように混合した後溶融し、急冷して非晶質体とし、次いで再加熱処理した後、洗浄・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得るガラス結晶化法、(2)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後100℃以上で液相加熱した後洗浄・乾燥・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る水熱反応法、(3)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後乾燥し1100℃以下で処理し、粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る共沈法等があるが、本発明は製法を選ばない。六方晶フェライト粉末は、必要に応じ、Al、Si、Pまたはこれらの酸化物などで表面処理を施してもかまわない。その量は六方晶フェライト粉末に対し0.1〜10質量%であり表面処理を施すと脂肪酸などの潤滑剤の吸着が100mg/m2以下になり好ましい。六方晶フェライト粉末には可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Srなどの無機イオンを含む場合がある。これらは、本質的に無い方が好ましいが、200ppm以下であれば特に特性に影響を与えることは少ない。
【0044】
結合剤
磁気記録媒体の磁性層および非磁性層の結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は磁性層、非磁性層の公知技術が適用できる。特に、結合剤量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。
【0045】
磁性粒子を高度に分散し、かつ安定化させるためには、分散性の良好なバインダーを微粒子磁性体に吸着させることが好ましい。上記バインダーとしては、溶媒との親和性が高いバインダーを用いることが好ましく、例えば、シクロヘキサノン中の慣性半径が5〜25nmであるポリウレタンを含有するバインダーを用いることが好ましい。その詳細は、特開平9−27115号公報に記載されている。前記バインダーは少量で分散安定化できるので、分散性向上と同時に体積充填率を向上させることが可能である。
【0046】
結合剤としては従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化系樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物を使用することもできる。熱可塑系樹脂としては、ガラス転移温度が−100〜150℃、数平均分子量が1,000〜200,000、好ましくは10,000〜100,000、重合度が約50〜1000程度のものが挙げられる。
【0047】
このような例としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクルリ酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルエーテル、等を構成単位として含む重合体または共重合体、ポリウレタン樹脂、各種ゴム系樹脂がある。また、熱硬化性樹脂または反応型樹脂としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ−ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とイソシアネートプレポリマーの混合物、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートの混合物、ポリウレタンとポリイソシアネートの混合物等が挙げられる。これらの樹脂については朝倉書店発行の「プラスチックハンドブック」に詳細に記載されている。また、公知の電子線硬化型樹脂を各層に使用することも可能である。これらの例とその製造方法については特開昭62−256219号公報に詳細に記載されている。以上の樹脂は単独または組合せて使用できるが、好ましいものとして塩化ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル酢酸ビニルビニルアルコール共重合体、塩化ビニル酢酸ビニル無水マレイン酸共重合体、から選ばれる少なくとも1種とポリウレタン樹脂の組合せ、またはこれらにポリイソシアネートを組み合わせたものが挙げられる。
【0048】
ポリウレタン樹脂としては、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタン、ポリカプロラクトンポリウレタンなど公知の構造を有するものが使用できる。
【0049】
ここに示したすべての結合剤について、より優れた分散性と耐久性を得るためには必要に応じ、−COOM,−SO3 M、−OSO3 M、−P=O(OM)2 、−O−P=O(OM)2 (以上につきMは水素原子、またはアルカリ金属塩基)、−OH、−NR2 、−N+3 (Rは炭化水素基)、エポキシ基、−SH、−CN、などから選ばれる少なくともひとつ以上の極性基を共重合または付加反応で導入することが好ましい。このような極性基の量は、好ましくは10-1〜10-8モル/gであり、より好ましくは10-2〜10-6モル/gである。
【0050】
これらの結合剤の具体的な例としては、ユニオンカーバイト社製VAGH、VYHH、VMCH、VAGF、VAGD、VROH、VYES、VYNC、VMCC、XYHL、XYSG、PKHH、PKHJ、PKHC、PKFE、日信化学工業社製MPR−TA、MPR−TA5、MPR−TAL、MPR−TSN、MPR−TMF、MPR−TS、MPR−TM、MPR−TAO、電気化学社製1000W、DX80、DX81、DX82、DX83、100FD、日本ゼオン社製MR−104、MR−105、MR110、MR100、MR555、400X−110A、日本ポリウレタン社製ニッポランN2301、N2302、N2304、大日本インキ社製パンデックスT−5105、T−R3080、T−5201、バーノックD−400、D−210−80、クリスボン6109、7209、東洋紡社製バイロンUR8200、UR8300、UR−8700、RV530、RV280、大日精化社製ダイフェラミン4020、5020、5100、5300、9020、9022、7020、三菱化成社製MX5004、三洋化成社製サンプレンSP−150、旭化成社製サランF310、F210などが挙げられる。
【0051】
非磁性層、磁性層に用いられる結合剤は非磁性粉末または磁性粉末に対し、例えば5〜50質量%の範囲、好ましくは10〜30質量%の範囲で用いられる。塩化ビニル系樹脂を用いる場合は5〜30質量%、ポリウレタン樹脂を用いる場合は2〜20質量%、ポリイソシアネ−トは2〜20質量%の範囲でこれらを組み合わせて用いることが好ましいが、例えば、微量の脱塩素によりヘッド腐食が起こる場合は、ポリウレタンのみまたはポリウレタンとイソシアネートのみを使用することも可能である。ポリウレタンを用いる場合はガラス転移温度が−50〜150℃、好ましくは0℃〜100℃、破断伸びが100〜2000%、破断応力は0.05〜10kg/mm2(0.49〜98MPa)、降伏点は0.05〜10kg/mm2(0.49〜98MPa)のものが好ましい。
【0052】
本発明に用いるポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、o−トルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のイソシアネート類、また、これらのイソシアネート類とポリアルコールとの生成物、また、イソシアネート類の縮合によって生成したポリイソシアネート等を挙げることができるこれらのイソシアネート類の市販されている商品名としては、日本ポリウレタン社製コロネートL、コロネートHL、コロネート2030、コロネート2031、ミリオネートMR、ミリオネートMTL、武田薬品社製タケネートD−102、タケネートD−110N、タケネートD−200、タケネートD−202、住友バイエル社製デスモジュールL、デスモジュールIL、デスモジュールN、デスモジュールHL等がありこれらを単独または硬化反応性の差を利用して二つもしくはそれ以上の組合せで各層とも用いることができる。
【0053】
磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤、カーボンブラックなどを挙げることができる。これら添加剤としては、例えば、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、シリコーンオイル、極性基を持つシリコーン、脂肪酸変性シリコーン、フッ素含有シリコーン、フッ素含有アルコール、フッ素含有エステル、ポリオレフィン、ポリグリコール、ポリフェニルエーテル、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、フェネチルホスホン酸、α−メチルベンジルホスホン酸、1−メチル−1−フェネチルホスホン酸、ジフェニルメチルホスホン酸、ビフェニルホスホン酸、ベンジルフェニルホスホン酸、α−クミルホスホン酸、トルイルホスホン酸、キシリルホスホン酸、エチルフェニルホスホン酸、クメニルホスホン酸、プロピルフェニルホスホン酸、ブチルフェニルホスホン酸、ヘプチルフェニルホスホン酸、オクチルフェニルホスホン酸、ノニルフェニルホスホン酸等の芳香族環含有有機ホスホン酸およびそのアルカリ金属塩、オクチルホスホン酸、2−エチルヘキシルホスホン酸、イソオクチルホスホン酸、イソノニルホスホン酸、イソデシルホスホン酸、イソウンデシルホスホン酸、イソドデシルホスホン酸、イソヘキサデシルホスホン酸、イソオクタデシルホスホン酸、イソエイコシルホスホン酸等のアルキルホスホン酸およびそのアルカリ金属塩、リン酸フェニル、リン酸ベンジル、リン酸フェネチル、リン酸α−メチルベンジル、リン酸1−メチル−1−フェネチル、リン酸ジフェニルメチル、リン酸ビフェニル、リン酸ベンジルフェニル、リン酸α−クミル、リン酸トルイル、リン酸キシリル、リン酸エチルフェニル、リン酸クメニル、リン酸プロピルフェニル、リン酸ブチルフェニル、リン酸ヘプチルフェニル、リン酸オクチルフェニル、リン酸ノニルフェニル等の芳香族リン酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、リン酸オクチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸イソオクチル、リン酸イソノニル、リン酸イソデシル、リン酸イソウンデシル、リン酸イソドデシル、リン酸イソヘキサデシル、リン酸イソオクタデシル、リン酸イソエイコシル等のリン酸アルキルエステルおよびそのアルカリ金属塩、アルキルスルホン酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、フッ素含有アルキル硫酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ステアリン酸ブチル、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、エルカ酸等の炭素数10〜24の不飽和結合を含んでも分岐していても良い一塩基性脂肪酸およびこれらの金属塩、またはステアリン酸ブチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸アミル、ステアリン酸イソオクチル、ミリスチン酸オクチル、ラウリル酸ブチル、ステアリン酸ブトキシエチル、アンヒドロソルビタンモノステアレート、アンヒドロソルビタントリステアレート等の炭素数10〜24の不飽和結合を含んでも分岐していても良い一塩基性脂肪酸と、炭素数2〜22の不飽和結合を含んでも分岐していても良い1〜6価アルコール、炭素数12〜22の不飽和結合を含んでも分岐していても良いアルコキシアルコールまたはアルキレンオキサイド重合物のモノアルキルエーテルのいずれか一つとからなるモノ脂肪酸エステル、ジ脂肪酸エステルまたは多価脂肪酸エステル、炭素数2〜22の脂肪酸アミド、炭素数8〜22の脂肪族アミンなどが使用できる。また、上記炭化水素基以外にもニトロ基およびF、Cl、Br、CF3、CCl3、CBr3等の含ハロゲン炭化水素等炭化水素基以外の基が置換したアルキル基、アリール基、アラルキル基を持つものでもよい。
【0054】
また、アルキレンオキサイド系、グリセリン系、グリシドール系、アルキルフエノールエチレンオキサイド付加体等のノニオン界面活性剤、環状アミン、エステルアミド、第四級アンモニウム塩類、ヒダントイン誘導体、複素環類、ホスホニウムまたはスルホニウム類等のカチオン系界面活性剤、カルボン酸、スルホン酸、硫酸エステル基等の酸性基を含むアニオン界面活性剤、アミノ酸類、アミノスルホン酸類、アミノアルコールの硫酸またはリン酸エステル類、アルキルベタイン型等の両性界面活性剤等も使用できる。これらの界面活性剤については、「界面活性剤便覧」(産業図書株式会社発行)に詳細に記載されている。
【0055】
上記潤滑剤、帯電防止剤等は必ずしも純粋ではなく主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物等の不純分が含まれても構わない。これらの不純分は30質量%以下が好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0056】
これらの添加物の具体例としては、例えば、日本油脂社製:NAA−102、ヒマシ油硬化脂肪酸、NAA−42、カチオンSA、ナイミーンL−201、ノニオンE−208、アノンBF、アノンLG、竹本油脂社製:FAL−205、FAL−123、新日本理化社製:エヌジエルブOL、信越化学社製:TA−3、ライオン社製:アーマイドP、ライオン社製:デュオミンTDO、日清オイリオ社製:BA−41G、三洋化成社製:プロフアン2012E、ニューポールPE61、イオネットMS−400等が挙げられる。
【0057】
また、磁性層には、必要に応じてカーボンブラックを添加することができる。磁性層で使用可能なカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。比表面積は5〜500m2/g、DBP吸油量は10〜400ml/100g、粒子径は5〜300nm、pHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい。
【0058】
カーボンブラックの具体的な例としては、キャボット社製BLACKPEARLS 2000、1300、1000、900、905、800、700、VULCAN XC−72、旭カーボン社製#80、#60、#55、#50、#35、三菱化学社製#2400B、#2300、#900、#1000、#30、#40、#10B、コロンビアンカーボン社製CONDUCTEX SC、RAVEN150、50、40、15、RAVEN−MT−P、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックECなどが挙げられる。カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用したりしてもかまわない。また、カーボンブラックを磁性塗料に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは単独または組み合せで使用することができる。カーボンブラックを使用する場合、強磁性粉末の質量に対して0.1〜30質量%で用いることが好ましい。カーボンブラックは磁性層の帯電防止、摩擦係数低減、遮光性付与、膜強度向上などの働きがあり、これらは用いるカーボンブラックにより異なる。したがって本発明で使用されるこれらのカーボンブラックは、磁性層および非磁性層でその種類、量、組み合せを変え、粒子サイズ、吸油量、電導度、pHなどの先に示した諸特性を基に目的に応じて使い分けることはもちろん可能であり、むしろ各層で最適化すべきものである。本発明において使用可能なカーボンブラックについては、例えば「カーボンブラック便覧」(カーボンブラック協会編)を参考にすることができる。
【0059】
研磨剤
研磨剤としては、α化率90%以上のα−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイアモンド、窒化珪素、炭化珪素チタンカ−バイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素、など主としてモ−ス硬度6以上の公知の材料を単独または組合せて使用することができる。また、これらの研磨剤同士の複合体(研磨剤を他の研磨剤で表面処理したもの)を使用してもよい。これらの研磨剤には主成分以外の化合物または元素が含まれる場合もあるが主成分が90%以上であれば効果にかわりはない。これら研磨剤の粒子サイズは0.01〜2μmが好ましく、特に電磁変換特性を高めるためには、その粒度分布が狭い方が好ましい。また耐久性を向上させるには必要に応じて粒子サイズの異なる研磨剤を組み合わせたり、単独の研磨剤でも粒径分布を広くして同様の効果をもたせることも可能である。タップ密度は0.3〜2g/cc、含水率は0.1〜5%、pHは2〜11、比表面積は1〜30m2/gが好ましい。本発明に用いられる研磨剤の形状は針状、球状、サイコロ状、板状のいずれでも良いが、形状の一部に角を有するものが研磨性が高く好ましい。具体的には住友化学社製AKP−12、AKP−15、AKP−20、AKP−30、AKP−50、HIT−20、HIT−30、HIT−55、HIT−60、HIT−70、HIT−80、HIT−100、レイノルズ社製ERC−DBM、HP−DBM、HPS−DBM、不二見研磨剤社製WA10000、上村工業社製UB20、日本化学工業社製G−5、クロメックスU2、クロメックスU1、戸田工業社製TF100、TF140、イビデン社製ベータランダムウルトラファイン、昭和鉱業社製B−3などが挙げられる。これらの研磨剤は必要に応じ非磁性層に添加することもできる。非磁性層に添加することで表面形状を制御したり、研磨剤の突出状態を制御したりすることができる。これら磁性層、非磁性層の添加する研磨剤の粒径、量はむろん最適値に設定すべきものである。
【0060】
有機溶剤としては公知のものが使用できる。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン等のケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサノール等のアルコール類、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコール等のエステル類、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサン等のグリコールエーテル系、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼン等の芳香族炭化水素類、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロルヒドリン、ジクロルベンゼン等の塩素化炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサン等を任意の比率で使用することができる。
【0061】
これら有機溶媒は必ずしも100%純粋ではなくてもよく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物、水分等の不純分が含まれてもかまわない。これらの不純分は30質量%以下が好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。本発明で用いる有機溶媒は磁性層と非磁性層でその種類は同じであることが好ましい。その添加量は磁性層と非磁性層で変えてもかまわない。非磁性層に表面張力の高い溶媒(シクロヘキサノン、ジオキサンなど)を用い塗布の安定性を上げる、具体的には上層溶剤組成の算術平均値が非磁性層溶剤組成の算術平均値を下回らないことが好ましい。分散性を向上させるためにはある程度極性が強い方が好ましく、溶剤組成の内、誘電率が15以上の溶剤が50質量%以上含まれることが好ましい。また、溶解パラメータは8〜11であることが好ましい。
【0062】
本発明で使用されるこれらの分散剤、潤滑剤、界面活性剤は、磁性層、さらに後述する非磁性層でその種類、量を必要に応じて使い分けることができる。例えば、無論ここに示した例のみに限られるものではないが、通常、分散剤は極性基で吸着または結合する性質を有しており、磁性層では主に強磁性金属粉末の表面に、また非磁性層では主に非磁性粉末の表面に前記の極性基で吸着または結合し、例えば、一度吸着した有機リン化合物は、金属または金属化合物等の表面から脱着し難いと推察される。したがって、強磁性金属粉末表面または非磁性粉末表面は、分散剤のアルキル基、芳香族基等で被覆されたような状態になる。これにより、強磁性金属粉末または非磁性粉末の結合剤樹脂成分に対する親和性が向上し、さらに強磁性金属粉末または非磁性粉末の分散安定性を改善することができる。また、潤滑剤は、通常、遊離した状態で存在するため、非磁性層、磁性層で融点の異なる脂肪酸を用い、表面へのにじみ出しを制御する、沸点や極性の異なるエステル類を用い表面へのにじみ出しを制御する、界面活性剤量を調節することで塗布の安定性を向上させる、潤滑剤の添加量を非磁性層で多くして潤滑効果を向上させるなどが考えられる。また本発明で用いられる添加剤のすべてまたはその一部は、磁性層または非磁性層用の塗布液の製造時のいずれの工程で添加してもよい。例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。
【0063】
非磁性層
次に非磁性層に関する詳細な内容について説明する。本発明では、磁性層塗布液を非磁性支持体上に直接塗布してもよく、非磁性層上に塗布してもよい。塗布方法の詳細は後述する。非磁性層塗布液は、少なくとも非磁性粉末および結合剤を含む。非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。
【0064】
具体的には二酸化チタン等のチタン酸化物、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステン、ZnO、ZrO2、SiO2、Cr23、α化率90〜100%のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、2硫化モリブデン、酸化銅、MgCO3、CaCO3、BaCO3、SrCO3、BaSO4、炭化珪素、炭化チタンなどを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。好ましい非磁性粉末は、α−酸化鉄、酸化チタンである。
【0065】
非磁性粉末の形状は、針状、球状、多面体状、板状のいずれでもあってもよい。非磁性粉末の結晶子サイズは、4nm〜500nmが好ましく、40〜100nmがさらに好ましい。結晶子サイズが4nm〜500nmの範囲であれば、分散が困難になることもなく、また好適な表面粗さを有するため好ましい。これら非磁性粉末の平均粒径は、5nm〜500nmが好ましいが、必要に応じて平均粒径の異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くしたりして同様の効果をもたせることもできる。とりわけ好ましい非磁性粉末の平均粒径は、10〜200nmである。5nm〜500nmの範囲であれば、分散も良好で、かつ好適な表面粗さの非磁性層が得られるため好ましい。
【0066】
非磁性粉末の比表面積は、好ましくは1〜150m2/gであり、より好ましくは20〜120m2/gであり、さらに好ましくは50〜100m2/gである。比表面積が1〜150m2/gの範囲内にあれば、好適な表面粗さの非磁性層が得られ、かつ、所望の結合剤量で非磁性粉末を分散できるため好ましい。非磁性粉末のジブチルフタレート(DBP)を用いた吸油量は、例えば5〜100ml/100g、好ましくは10〜80ml/100g、さらに好ましくは20〜60ml/100gである。比重は、例えば1〜12、好ましくは3〜6である。タップ密度は、例えば0.05〜2g/ml、好ましくは0.2〜1.5g/mlである。タップ密度が0.05〜2g/mlの範囲であれば、飛散する粒子が少なく操作が容易であり、また装置にも固着しにくくなる傾向がある。非磁性粉末のpHは2〜11であることが好ましく、6〜9の間が特に好ましい。pHが2〜11の範囲にあれば、高温、高湿下または脂肪酸の遊離により摩擦係数が大きくなることはない。非磁性粉末の含水率は、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.2〜3質量%、さらに好ましくは0.3〜1.5質量%である。含水量が0.1〜5質量%の範囲であれば、分散も良好で、分散後の塗料粘度も安定するため好ましい。強熱減量は、20質量%以下であることが好ましく、強熱減量が小さいものが好ましい。
【0067】
また、非磁性粉末が無機粉体である場合には、モース硬度は4〜10のものが好ましい。モース硬度が4〜10の範囲であれば耐久性を確保することができる。非磁性粉末のステアリン酸吸着量は、好ましくは1〜20μmol/m2であり、さらに好ましくは2〜15μmol/m2である。非磁性粉末の25℃での水への湿潤熱は、200〜600erg/cm2(200〜600mJ/m2)の範囲にあることが好ましい。また、この湿潤熱の範囲にある溶媒を使用することができる。100〜400℃での表面の水分子の量は1〜10個/100Åが適当である。水中での等電点のpHは、3〜9の間にあることが好ましい。これらの非磁性粉末の表面には表面処理が施されることによりAl23、SiO2、TiO2、ZrO2、SnO2、Sb23、ZnOが存在することが好ましい。特に分散性に好ましいものはAl23、SiO2、TiO2、ZrO2であり、さらに好ましいものはAl23、SiO2、ZrO2である。これらは組み合わせて使用してもよいし、単独で用いることもできる。また、目的に応じて共沈させた表面処理層を用いてもよいし、先ずアルミナで処理した後にその表層をシリカで処理する方法、またはその逆の方法を採ることもできる。また、表面処理層は目的に応じて多孔質層にしても構わないが、均質で密である方が一般には好ましい。
【0068】
非磁性層に用いられる非磁性粉末の具体的な例としては、例えば、昭和電工製ナノタイト、住友化学製HIT−100、ZA−G1、戸田工業社製DPN−250、DPN−250BX、DPN−245、DPN−270BX、DPB−550BX、DPN−550RX、石原産業製酸化チタンTTO−51B、TTO−55A、TTO−55B、TTO−55C、TTO−55S、TTO−55D、SN−100、MJ−7、α−酸化鉄E270、E271、E300、チタン工業製STT−4D、STT−30D、STT−30、STT−65C、テイカ製MT−100S、MT−100T、MT−150W、MT−500B、T−600B、T−100F、T−500HD、堺化学製FINEX−25、BF−1、BF−10、BF−20、ST−M、同和鉱業製DEFIC−Y、DEFIC−R、日本アエロジル製AS2BM、TiO2P25、宇部興産製100A、500A、チタン工業製Y−LOPおよびそれを焼成したものが挙げられる。特に好ましい非磁性粉末は二酸化チタンとα−酸化鉄である。
【0069】
非磁性層には非磁性粉末と共に、カーボンブラックを混合することにより表面電気抵抗を下げ、光透過率を小さくすると共に、所望のマイクロビッカース硬度を得ることができる。非磁性層のマイクロビッカース硬度は、通常25〜60kg/mm2(245〜588MPa)、好ましくはヘッド当りを調整するために、30〜50kg/mm2(294〜490MPa)であり、薄膜硬度計(日本電気製HMA−400)を用いて、稜角80度、先端半径0.1μmのダイヤモンド製三角錐針を圧子先端に用いて測定することができる。詳細は「薄膜の力学的特性評価技術」リアライズ社を参考にできる。光透過率は一般に波長900nm程度の赤外線の吸収が3%以下、たとえばVHS用磁気テープでは0.8%以下であることが規格化されている。このためにはゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。
【0070】
非磁性層に用いられるカーボンブラックの比表面積は、例えば100〜500m2/g、好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は、例えば20〜400ml/100g、好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は、例えば5〜80nm、好ましく10〜50nm、さらに好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい。
【0071】
非磁性層に用いることができるカーボンブラックの具体的な例としては、キャボット社製BLACKPEARLS 2000、1300、1000、900、800、880、700、VULCAN XC−72、三菱化学社製#3050B、#3150B、#3250B、#3750B、#3950B、#950、#650B、#970B、#850B、MA−600、コロンビアカーボン社製CONDUCTEX SC、RAVEN8800、8000、7000、5750、5250、3500、2100、2000、1800、1500、1255、1250、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックECなどが挙げられる。
【0072】
また、カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用してもかまわない。また、カーボンブラックを塗布液に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは上記無機粉末に対して50質量%を越えない範囲、非磁性層総質量の40%を越えない範囲で使用できる。これらのカーボンブラックは単独、または組み合せで使用することができる。非磁性層で使用できるカーボンブラックについては、例えば「カーボンブラック便覧」(カーボンブラック協会編)を参考にすることができる。
【0073】
また非磁性層には目的に応じて有機質粉末を添加することもできる。このような有機質粉末としては、例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられ、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。その製法は、例えば特開昭62−18564号公報、特開昭60−255827号公報に記されている。
【0074】
非磁性層の結合剤樹脂、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤樹脂量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。
【0075】
また、非磁性支持体と非磁性層または磁性層との間に下塗り層を設けてもよい。下塗り層を設けることによって支持体と磁性層または非磁性層との接着力を向上させることができる。下塗り層としては、例えば溶剤への可溶性のポリエステル樹脂を使用することができる。
【0076】
層構成
本発明の製造方法により得られる磁気記録媒体の厚み構成は、非磁性支持体の厚みが、好ましくは3〜80μm、より好ましくは3〜50μm、特に好ましくは3〜10μmである。また、非磁性支持体と非磁性層または磁性層の間に下塗り層を設ける場合、下塗り層の厚みは、例えば0.01〜0.8μm、好ましくは0.02〜0.6μmである。
【0077】
磁性層の厚みについては後述する。また、磁性層の厚み変動率は±50%以内が好ましく、さらに好ましくは±30%以内である。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0078】
非磁性層の厚みは、例えば0.1〜3.0μmであり、0.3〜2.0μmであることが好ましく、0.5〜1.5μmであることが更に好ましい。なお、非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT以下または抗磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味する。
【0079】
バックコート層
非磁性支持体の他方の面にバックコート層を設けることもできる。バックコート層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。結合剤、各種添加剤は、磁性層や非磁性層の処方を適用されることができる。バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。
【0080】
磁気記録媒体の物性
以下、本発明の製造方法により得られる磁気記録媒体の各種物性について説明する。
本発明により、磁性層の残留磁化Mrと磁性層厚δの積であるMrδが1mA以上8mA以下の磁気記録媒体を得ることができる。上記Mrδは、磁性層の単位面積あたりの残留磁化を示す値であり、例えば東英工業製振動試料型磁束計を用いて測定することができる。磁性層のMrδが1mA以上であれば、高感度MRヘッドによる再生において十分な磁化を得ることができ、これにより良好な再生出力を得ることができる。Mrδが8mA以下であれば、高密度記録領域において低ノイズ化を図ることができる。またヘッドの磁気抵抗素子の飽和を回避することもできる。Mrδは、好ましくは1〜7mA、より好ましくは2〜6mAの範囲である。
【0081】
Mrδは、磁性層厚みと角型比によって制御することができる。磁性層の厚みは、後述するように10〜100nmの範囲であることが好ましく、角形比は、長手方向において0.5〜0.9の範囲であることが好ましい。この範囲内で磁性層厚および角型比を制御することにより、所望のMrδを達成できる。所望の角形比を達成するためには配向磁場の強度と乾燥条件を制御し、かつ塗布液の分散レベルを制御する等の手法が挙げられる。前述のように、本発明によれば配向凝集を抑制できるため、所望の配向状態であり凝集の少ない磁性層を形成することができる。
【0082】
本発明の製造方法により形成される磁性層の厚さは、10〜100nmであることが好ましい。磁性層の厚さが10nm以上であれば、所望のMrδを容易に達成することができる。また、均一な磁性層を形成するためにも磁性層の厚さは10nm以上であることが好ましい。また、一般に記録深さは、磁気記録信号の深さを半円と仮定すると、記録波長の1/4程度となる。しかし実際にはスペーシングロスの影響もあるため、記録可能な深さは浅くなり、記録波長の1/6〜1/8程度となる。このため、磁性層の厚さが100nmを超えると、高密度記録時、例えば100kfci(λ=500nm)を超える高い線記録密度では、記録深さの深さ方向に記録されない部分が多くなりノイズが高くなる。そのため、磁性層の厚さは100nm以下であることが好ましい。また、10nm以下では磁性層の形成が困難となったり、非磁性層との界面の変動の影響が顕著になりノイズが上昇し好ましくない。磁性層の厚さは、より好ましくは30〜80nmの範囲である。
【0083】
本発明の製造方法により得られる磁気記録媒体は、磁気力顕微鏡(MFM)で測定したDC消磁状態の磁気クラスターの平均面積SdcとAC消磁状態の磁気クラスターの平均面積Sacとの比(Sdc/Sac)が0.8〜2.0の範囲であることが好ましい。
以下に、先ず、「磁気クラスター面積比」について以下に説明する。
微粒子の磁性粒子を高充填すると低ノイズ化することは理論的にも周知である。しかし、特に微粒子の磁性粒子を用いると、磁性体粒子が凝集し、あたかも1つの大きな磁性体として振舞う部分が生じ、S/N比の低減を引き起こすという問題がある。磁気力顕微鏡(MFM)を用いて測定した磁気的な塊(以下「磁気クラスター」という)は、媒体ノイズと相関し、磁性粒子の凝集・静磁気結合によって変化する。以下に、この点について更に説明する。
【0084】
磁気力顕微鏡(MFM)によれば、微小空間での漏洩磁場を数十nmの分解能で観察することができる。即ち、磁気力顕微鏡(MFM)は、磁気記録媒体の磁化状態をサブミクロンオーダーで測定できる特長を有している。一般に、試料に交流の磁場を印加しながら、段々その磁場を弱めて試料の磁化を消す方法を交流(AC)消磁と呼ぶ。交流(AC)消磁状態では、一般に個々の磁性体は、ランダムな方向を向き、磁化の総和がゼロ付近になり、各磁性粒子はほぼ一次粒子の状態で存在する。従って、交流(AC)消磁状態の磁気クラスターは、磁性粒子媒体の場合、磁性体の種類(磁性体の一次粒子の大きさ、磁性体の飽和磁化σs)に依存し、分散状態によらずほぼ一定のサイズを示す。
一方、直流の磁場を印加後、磁場をゼロにする方法を直流(DC)消磁と呼ぶ。直流(DC)消磁状態では、試料に残留する磁場が、印加されていた磁場と同じ向きの磁化の集合になる。従って、直流(DC)消磁状態の磁気クラスターは、磁性粒子の媒体内での配置状態、つまり分散状態によりサイズが異なる。凝集体があった場合、その凝集体が見掛け上1つの大きな磁性粒子として振舞うと考えられ、直流(DC)消磁状態での磁気クラスターのサイズは、この見かけ上1つの大きな磁性粒子として振舞う凝集体のサイズに相当する。
【0085】
理想的分散状態の場合、DC消磁状態でも凝集体は存在しなくなるためAC消磁状態、DC消磁状態のいずれにおいても磁気クラスターは同サイズとなる。一方、AC消磁状態の磁気クラスターサイズに対してDC消磁状態の磁気クラスターサイズが大きいほど磁性層中で磁性粒子が凝集していることを表す。つまり、Sdc/Sacの値は、磁性層中の磁性粒子の凝集状態を表す指標となる。
【0086】
なお、DC磁化状態の磁気クラスターサイズのみからも磁性層の凝集状態(分散性)の情報を得ることはできる。ただし、例えば、AC消磁状態の磁気クラスターの平均面積がAであり、DC消磁状態の磁気クラスター平均面積がBである媒体(試料α)、AC消磁状態の磁気クラスターの平均面積が2A(=試料αの2倍)であるが試料αより分散性を高めたことにより凝集が抑制されDC消磁状態の磁気クラスター平均面積が試料αと同様にBとなった媒体(試料β)、について、DC消磁状態の磁気クラスター平均面積Sdcのみを比較すれば両者は同じ値となる。しかし、実際は試料βの方が分散状態は良好である。つまり、DC消磁状態の磁気クラスター面積は、磁性体サイズなどの磁性体の種類に因って変化し得る。
これに対し、試料αにおけるSdc/Sacは「B/A」、試料βにおけるSdc/Sacは「B/2A」となり、試料βのSdc/Sacは試料αの1/2となる。
このように、分散状態は異なるがSdcは同じ値となる試料同士であっても、Sdc/Sacの比をとれば分散性の違いに起因する差異が生じる。つまり、Sdc/Sacの比をとることにより、磁性体の種類に因らないように規格化された凝集状態(分散性)の指標を得ることができる。
【0087】
良好なS/Nを得るためには、DC消磁状態の磁気クラスターの平均面積SdcとAC消磁状態の磁気クラスターの平均面積Sacとの比(Sdc/Sac)は、0.8〜2.0の範囲であることが好ましい。(Sdc/Sac)が2.0以下であれば、低ノイズであり良好なS/N比を得ることができる。一方、理想的分散状態の場合、SacとSdcは一致しSdc/Sacは1となる。このためSdc/Sacが1に近いほど凝集がない状態を表す。ただし磁気クラスターサイズは磁気力顕微鏡(MFM)によって測定され多少の測定誤差があるため、測定誤差を考慮すると実質的に0.8が下限となる。上記比は、好ましくは0.8〜1.7、より好ましくは0.8〜1.5である。
【0088】
前述のように、AC消磁状態の磁気クラスターの平均面積Sacは磁性粒子の一次粒子径によって定まるものであり、DC消磁状態の磁気クラスターの平均面積Sacは、基本的に磁性粒子の分散と分散安定性に依存する。SdcおよよびSacは、いずれも3000〜50000nm2の範囲であることが好ましく、より好ましくは3000〜35000nm2、更に好ましくは3000〜20000nm2の範囲である。Sdc、Sacがそれぞれ3000nm2以上であれば、熱揺らぎにより磁化が不安定になることがなく、50000nm2以下であれば、磁化反転単位が小さく、高密度記録時に高分解能を得ることができる。
【0089】
Sdcは磁性層の分散性によって変わり得るため、所望のSdc/Sacを得るためには磁性層の分散性によりSdcの値を制御すればよい。本発明では前述の工程を経ることにより、所望のSdc/Sacを有する磁気記録媒体を得ることができる。また先に説明した工程を行うことにより、配向凝集をも抑制できるため、磁性層が湿潤状態にあるうちに配向処理を施し所望の配向状態を達成するとともに、凝集の低減された磁気記録媒体を得ることができる。
【0090】
また、本発明を重層構成の磁気記録媒体に適用する場合、凝集を抑制しSdcを下げるためには、非磁性層を乾燥してから磁性層を塗布する方法(wet on dry)を用いることが好ましい。また、磁性層、非磁性層の両層が湿潤状態にあるうちに重層塗布する場合(wet on wet)は、磁性粒子の凝集による磁気記録媒体の電磁変換特性等の低下を防止するため、特開昭62−95174号公報や特開平1−236968号公報に開示されているような方法により塗布ヘッド内部の塗布液にせん断を付与することが望ましい。
【0091】
磁性層の飽和磁束密度は100〜400mTが好ましい。また磁性層の抗磁力(Hc)は、143.2〜318.3kA/m(1800〜4000Oe)が好ましく、159.2〜278.5kA/m(2000〜3500Oe)が更に好ましい。抗磁力の分布は狭い方が好ましく、SFDおよびSFDrは好ましくは0.6以下、さらに好ましくは0.3以下である。
【0092】
磁気記録媒体のヘッドに対する摩擦係数は、温度−10〜40℃、湿度0〜95%の範囲において、好ましくは0.50以下であり、より好ましくは0.3以下である。また、表面固有抵抗は、磁性面104〜108Ω/sqが好ましく、帯電位は−500V〜+500V以内が好ましい。磁性層の0.5%伸びでの弾性率は、面内各方向で好ましくは0.98〜19.6GPa(100〜2000kg/mm2)、破断強度は、好ましくは98〜686MPa(10〜70kg/mm2)、磁気記録媒体の弾性率は、面内各方向で好ましくは0.98〜14.7GPa(100〜1500kg/mm2)、残留のびは、好ましくは0.5%以下、100℃以下のあらゆる温度での熱収縮率は、好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、最も好ましくは0.1%以下である。
【0093】
磁性層のガラス転移温度(110Hzで測定した動的粘弾性測定の損失正接の極大点)は50〜180℃が好ましく、非磁性層のそれは0〜180℃が好ましい。損失弾性率は1×107〜8×108Pa(1×108〜8×109dyne/cm2)の範囲にあることが好ましく、損失正接は0.2以下であることが好ましい。損失正接が大きすぎると粘着故障が発生しやすい。これらの熱特性や機械特性は媒体の面内各方向において10%以内でほぼ等しいことが好ましい。
【0094】
磁性層中に含まれる残留溶媒は好ましくは100mg/m2以下、さらに好ましくは10mg/m2以下である。塗布層が有する空隙率は非磁性層、磁性層とも好ましくは30容量%以下、さらに好ましくは20容量%以下である。空隙率は高出力を果たすためには小さい方が好ましいが、目的によってはある値を確保した方が良い場合がある。例えば、繰り返し用途が重視されるディスク媒体では空隙率が大きい方が走行耐久性は好ましいことが多い。
【0095】
非磁性層と磁性層を有する磁気記録媒体を製造する場合、目的に応じ非磁性層と磁性層でこれらの物理特性を変えることができる。例えば、磁性層の弾性率を高くし走行耐久性を向上させると同時に非磁性層の弾性率を磁性層より低くして磁気記録媒体のヘッドへの当りを良くすることができる。
【0096】
塗布工程、配向処理、カレンダー工程
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、前述の各工程後、例えば、非磁性支持体の少なくとも一方の面に強磁性粉末と結合剤とを含む磁性層塗布液を塗布し、塗布原反を得る工程と、前記塗布原反を巻き取りロールに巻き取る工程と、前記巻き取りロールに巻き取られた塗布原反を巻き出し、カレンダー処理する工程とを含むことができる。塗布工程では、例えば、走行下にある非磁性支持体の表面に磁性層塗布液を所定の膜厚となるようにして磁性層を塗布して形成する。ここで複数の磁性層塗布液を逐次または同時に重層塗布してもよく、非磁性層塗布液と磁性層塗布液とを逐次または同時に重層塗布してもよい。前述のように所望のSdc/Sacを実現するためには、非磁性層塗布液と磁性層塗布液を逐次重層塗布(Wet on dry)することが好ましい。
【0097】
磁性層塗布液または非磁性層塗布液を塗布する塗布機としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。これらについては例えば(株)総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。
【0098】
本発明では、磁性層塗布液を塗布して形成される塗布膜が湿潤状態にあるうちに配向処理を施す。本発明により製造される磁気記録媒体は、ビデオテープ、コンピュータテープ等の磁気テープであることもでき、フレキシブルディスク、ハードディスク等の磁気ディスクであることもできる。磁気テープの場合、磁性層塗布液を塗布して形成される塗布膜中に含まれる六方晶フェライトにコバルト磁石やソレノイドを用いて磁場配向処理を施すことができる。また配向前に予め適度の乾燥工程を設けても構わない。配向中に乾燥工程を設けて、配向戻りを抑制することが好ましい。コバルト磁石やソレノイド磁石は0.1T以上が好ましい。また、塗布速度や磁性塗料の濃度を変更することで狙いの配向を得ることができる。ディスクの場合、コバルト磁石を斜めに交互に配置すること、ソレノイドで交流磁場を印加するなど公知のランダム配向装置を用いることが好ましい。
【0099】
本発明により得られる磁気記録媒体が磁気テープである場合、長手方向の角型比(残留磁化/飽和磁化)は0.5〜0.9であることが好ましい。上記範囲であれば、低ノイズながら、出力を確保でき、良好な出力ノイズ比SNRを得ることができる。長手方向の角型比は、より好ましくは0.6〜0.9である。また、磁気ディスクの場合、好ましい長手方向の角型比は0.3〜0.7であり、面内で等方的あることが好ましい。
【0100】
本発明では、乾燥風の温度、風量、塗布速度を制御することで塗膜の乾燥位置を制御することが好ましい。塗布速度は20m/分〜1000m/分、乾燥風の温度は60℃以上が好ましい、また磁石ゾーンに入る前に適度の予備乾燥を行うこともできる。
【0101】
このようにして得られた塗布原反は、通常、一旦巻き取りロールにより巻き取られ、しかる後、この巻き取りロールから巻き出され、カレンダー処理に施される。
カレンダー処理には、例えばスーパーカレンダーロールなどが利用される。カレンダー処理によって、表面平滑性が向上するとともに、乾燥時の溶剤の除去によって生じた空孔が消滅し磁性層中の強磁性粉末の充填率が向上するので、電磁変換特性の高い磁気記録媒体を得ることができる。カレンダー処理する工程は、塗布原反の表面の平滑性に応じて、カレンダー処理条件を変化させながら行うことが好ましい。
【0102】
塗布原反は、概ね、巻き取りロールの芯側から外側に向かって光沢値が低下し、長手方向において品質にばらつきがあることがある。なお光沢値は、表面粗さRaと相関(比例関係)があることが知られている。したがって、カレンダー処理工程で、カレンダー処理条件、例えばカレンダーロール圧力を変化させず一定に保持すると、塗布原反の巻き取りによって生じた長手方向における平滑性の相違について何ら対策が講じられていないことになり、最終製品も長手方向に品質のばらつきが生じる傾向がある。
したがって、カレンダー処理工程で、カレンダー処理条件、例えばカレンダーロール圧力を変化させ、塗布原反の巻き取りによって生じた長手方向における平滑性の相違を相殺することが好ましい。具体的には、巻き取りロールから巻き出された塗布原反の芯側から外側に向かってカレンダーロールの圧力を低下させていくことが好ましい。本発明者らの検討によれば、カレンダーロールの圧力を下げると光沢値は低下する(平滑性が低下する)ことが見出されている。これにより、塗布原反の巻き取りによって生じた長手方向における平滑性の相違が相殺され、長手方向において品質にばらつきのない最終製品を得ることができる。
【0103】
なお、前記では表面平滑性制御のためにカレンダーロールの圧力を変化させる例について説明したが、これ以外にも、カレンダーロール温度、カレンダーロール速度、カレンダーロールテンションによって表面平滑性を制御することができる。塗布型媒体の特性を考慮すると、カレンダーロール圧力、カレンダーロール温度によって表面平滑性を制御することが好ましい。一般に、カレンダーロール圧力を低くする、あるいはカレンダーロール温度を低くすることにより、最終製品の表面平滑性は低下する。逆に、カレンダーロール圧力を高くする、あるいはカレンダーロール温度を高くすることにより、最終製品の表面平滑性は高まる。
【0104】
これとは別に、カレンダー処理工程後に得られた磁気記録媒体を、サーモ処理して熱硬化を進行させることもできる。このようなサーモ処理は、磁性層塗布液の配合処方により適宜決定すればよい。サーモ処理温度は、例えば35〜100℃であり、好ましくは50〜80℃である。またサーモ処理時間は、12〜72時間、好ましくは24〜48時間である。
【0105】
カレンダーロールとしてはエポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等の耐熱性プラスチックロールを使用することが好ましい。また金属ロールで処理することもできる。
【0106】
本発明により得られる磁気記録媒体は、磁性層表面の中心面平均粗さが、(カットオフ値0.25mmにおいて)0.1〜4nm、好ましくは1〜3nmの範囲という極めて優れた平滑性を有することが好ましい。そのために採用されるカレンダー処理条件としては、カレンダーロールの温度は、好ましくは60〜100℃の範囲、より好ましくは70〜100℃の範囲、特に好ましくは80〜100℃の範囲であり、圧力は、好ましくは100〜500kg/cm(98〜490kN/m)の範囲であり、より好ましくは200〜450kg/cm(196〜441kN/m)の範囲であり、特に好ましくは300〜400kg/cm(294〜392kN/m)の範囲である。
【0107】
得られた磁気記録媒体は、裁断機などを使用して所望の大きさに裁断して使用することができる。裁断機としては、特に制限はないが、回転する上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の組が複数設けられたものが好ましく、適宜、スリット速度、噛み合い深さ、上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の周速比(上刃周速/下刃周速)、スリット刃の連続使用時間等が選定される。
【0108】
[磁気記録媒体]
更に本発明は、本発明の磁気記録媒体の製造方法によって得られる磁気記録媒体に関する。本発明の磁気記録媒体の詳細は、先に説明した通りである。
【0109】
本発明の磁気記録媒体は、再生ヘッドとして、従来のMRヘッドより感度の高いMRヘッド、具体的には高感度AMRヘッドまたは巨大磁気抵抗効果型(GMR)ヘッドを使用する磁気記録再生システムに好適であり、再生ヘッドとしてGMRヘッドを使用する磁気記録再生システムに特に好適である。GMRヘッドは、薄膜磁気ヘッドへの磁束の大きさに応答する磁気抵抗効果を利用するものであり、誘導型ヘッドでは得られない高い再生出力が得られるという利点を有する。これは主として、GMRヘッドの再生出力が、磁気抵抗の変化に基づくものであるため、ディスクとヘッドとの相対速度に依存せず、また誘導型磁気ヘッドと比較して、高出力が得られるためである。従来のAMRヘッドと比較して読み出し感度がほぼ3倍高い。このようなGMRヘッドを再生ヘッドとして用いることで、高周波領域で優れた再生特性を得ることができる。
【0110】
本発明の磁気記録媒体がテープ状磁気記録媒体の場合、再生ヘッドとしてGMRヘッドを用いることで、従来に比べ高周波領域で記録した信号であっても高いSNRでの再生が可能である。従って、本発明の磁気記録媒体は、より高密度記録用のコンピュータデータ記録用の磁気テープやディスク状の磁気記録媒体として最適である。
【0111】
本発明の製造方法によれば、媒体に起因する出力低下およびノイズ増大が抑制された磁気記録媒体を得ることができる。上記製造方法により得られる本発明の磁気記録媒体によれば、高密度記録時に高いSNRを得ることができる。
通常、線記録密度を表す単位としては、一般にfciとbpiの2種類が使用されている。fciは1inchあたりのビット反転数で媒体上に物理的に記録した密度を表す。一方、bpiは、信号処理も含めた1inchあたりのbit数でシステムに依存する。このため媒体の純粋な性能評価としては、通常fciを使用する。本発明の磁気記録媒体に信号を記録する際の好ましい線記録密度の範囲は、100〜400kfciである。さらには175kfci〜400kfciである。実際に使用されるシステムにおいては信号処理に依存するため一義的に決定されないが、目安としてbpiの0.5〜1倍のfciでの性能が反映される。このため200kbpi〜800kbpi、さらに350kbpi〜800kbpiの範囲が特に好ましい。
【0112】
前記再生ヘッドは、GMRヘッドであることが好ましい。GMRヘッドによれば高密度記録された信号を再生するために、例えば再生トラック幅を3μm以下(好ましくは0.1〜3μm)とした場合にも高感度再生することが可能である。そして、本発明の磁気記録媒体によれば、GMRヘッドによる再生時に良好なSNRを達成することができる。即ち、本発明の磁気信号再生システムおよび磁気記録再生方法では、本発明の磁気記録媒体およびGMRヘッドを使用することにより、高密度記録された信号を良好なSNRで再生することができる。
【0113】
また、前記再生ヘッドとして、高感度AMRヘッドを用いることもできる。ヘッドの感度の指標としては、一般に磁気抵抗係数が用いられる。通常使用される磁気抵抗素子は、厚み200〜300nmで磁気抵抗係数が2%程度であるのに対し、高感度AMRヘッドは、2〜5%程度である。高感度AMRヘッドを使用する場合にも、本発明の磁気記録媒体に記録された信号を高感度再生することができ、高いSNRを得ることができる。
【実施例】
【0114】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。なお実施例中の「部」の表示は「質量部」を示す。
【0115】
磁性層塗布液成分
六方晶バリウムフェライト 100部
表面処理剤:Al23
Hc:191kA/m(≒2400Oe)
板径25nm、板状比 3.0
σs:50A・m2/kg(≒50emu/g)
ポリウレタン樹脂 15部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系
−SO3Na = 400eq/ton
α−Al23 (粒子サイズ0.15μm) 4部
板状アルミナ粉末(平均粒径:50nm) 0.5部
ダイヤモンド粉末(平均粒径:60nm) 0.5部
カーボンブラック(粒子サイズ:20nm) 1部
シクロヘキサノン 110部
メチルエチルケトン 100部
トルエン 100部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
【0116】
非磁性層塗布液成分
非磁性無機粉体 α−酸化鉄 85部
表面処理剤:Al23、SiO2
長軸径:0.15μm
タップ密度:0.8
針状比:7
BET比表面積:52m2/g
pH:8
DPB吸油量:33g/100g
カーボンブラック 15部
DPB吸油量:120ml/100g
pH:8
BET比表面積:250m2/g
揮発分:1.5%
ポリウレタン樹脂 22部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系
−SO3Na = 200eq/ton
フェニルホスホン酸 3部
シクロヘキサノン 140部
メチルエチルケトン 170部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
【0117】
バックコート層塗布液成分
カーボンブラック(平均粒径:25nm) 40.5部
カーボンブラック(平均粒径:370nm) 0.5部
硫酸バリウム 4.05部
ニトロセルロース 28部
ポリウレタン樹脂(SO3Na基含有) 20部
シクロヘキサノン 100部
トルエン 100部
メチルエチルケトン 100部
【0118】
上記の非磁性層塗布液、バックコート層塗布液のそれぞれについて、各成分をオープンニーダーで混練したのち、0.5mmのZrビーズミルで分散した(非磁性層塗布液は720分、バックコート層塗布液は720分)。得られた分散液に3官能性低分子量ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製コロネート3041)をそれぞれ4部加え、更に20分間攪拌した後、0.5μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過した。
【0119】
下記表1に示す4通りの方法で磁性層塗布液を作製した。乾式解砕では、アイシンナノテクノロジーズ社製ナノジェットマイザーNJ−100型を用いた。解砕条件は、バリウムフェライトの投入速度を8kg/時間、バリウムフェライトの投入圧力を1.45MPa、粉砕圧力を1.45MPaとした。
方法(1)、(2)では、バリウムフェライト磁性体((2)は乾式解砕処理を実施したもの)を他の磁性層塗布液成分とオープンニーダーで混練した後、0.5mmのZrビーズミルで1440分間分散処理(ビーズ分散)し、次いで0.5μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過した。
方法(3)では乾式解砕処理した磁性体を他の磁性層塗布液成分とともに超音波ホモジナイザーで処理した(処理条件:周波数:20KHz、出力:600W、処理時間30分)後、方法(1)、(2)と同様の方法でビーズ分散および濾過処理を行った。
方法(4)では、乾式解砕処理をした磁性体を他の磁性層塗布液成分とともにディスパーによる攪拌処理を行った後、方法(1)、(2)と同様の方法でビーズ分散および濾過処理を行った。
【0120】
【表1】

【0121】
A.解砕工程後の六方晶フェライトの評価
上記方法(2)〜(4)において、乾式解砕処理済みのバリウムフェライトの一部を評価用試料として採取し、以下の方法でBET法による比表面積SBET、ステアリン酸吸着量、150μmメッシュの通過量を測定した。評価用試料を採取した残りのバリウムフェライトから所定量の六方晶フェライトを採取し第一工程に付した。方法(1)については、原料バリウムフェライトから一部を採取し、同様の測定を行い、残りのバリウムフェライトから所定量の六方晶フェライトを採取し第一工程に付した。
1.SBET測定方法
測定用試料0.1gを、日本ベル社製Sorptometers 1040を用いてBet1点法により測定した。
2.ステアリン酸吸着量測定方法
ステアリン酸の濃度が0.1、0.05、0.02mol/lのメチルエチルケトン(MEK)溶液50mlに試料3gを加え25℃、20時間マグネチックスターラーで撹拌しつつ吸着させ、固液分離の後、上澄み液中の未吸着ステアリン酸を0.03molのKOHエタノール溶液で滴定し、吸着量からラングミュアー式を用いて飽和吸着量を求めた
3.150μmメッシュ通過量測定方法
測定用試料100gを150μmメッシュで篩がけした。メッシュを通過した六方晶フェライトを計量し、メッシュ通過量を求めた。
以上の結果を表2に示す。解砕工程後の六方晶フェライトは、前述の測定値に大きな変動が見られない期間内に上記測定および第一分散工程にそれぞれ付されたため、表2に示す値は、第一工程に付される六方晶フェライトが示す値とみなすことができる。
【0122】
B.第一工程後分散液の評価
方法(1)〜(4)において、第一工程により得られた分散液から一部を評価用試料として採取し、以下の方法によりバリウムフェライトの結合剤吸着量および濾過後乾固物量を測定した。
1.結合剤吸着量
測定用試料10gを遠心分離して、上澄み液に残っていた結合剤量を固形分濃度から求め、加えた結合剤との差分を吸着量とした。
2.濾過後乾固物量
測定用試料100gにメチルエチルケトン200gを加えた。1.0μmの平均孔径を有するフィルターに通し、フィルター上に残った固形物を回収乾燥後計量、(回収後の乾固物量/塗料の固形分量)×100 とした。
以上の結果を表3に示す。第一分散工程後の分散液は、前述の測定値に大きな変動が見られない期間内に上記測定および第二分散工程にそれぞれ付されたため、表3に示す値は、第二工程に付される分散液が示す値とみなすことができる。
【0123】
C.濾過工程後の塗布液の評価
方法(1)〜(4)において濾過後に得られた塗布液から一部を評価用試料として採取し、以下の評価を行った。
1.D50
測定用試料0.5gを、メチルエチルケトン:シクロヘキサノン=3:2の溶媒で100倍に希釈して、HORIBA社製動的光散乱粒子サイズ分析機LB500を用いて累積体積の50%となる値D50を求めた。
2.塗布膜表面性(中心面平均粗さRa=3.6nmの表面上の塗布膜Ra)
測定用試料を、Ra3.6nmベースに1μmの乾膜となるよう塗布し、Raを下記方法で求めた。
ZYGO社製汎用三次元表面構造解析装置NewView5022による走査型白色光干渉法にてScan Lengthを5μmで測定した。測定視野は260μm×350μmであった。測定した表面をHPF:1.65μm、LPF:50μmのフィルター処理して、SRaを10箇所測定し、その平均値を用いた。
以上の結果を表4に示す。濾過工程後に得られた塗布液は、前述の測定値に大きな変動が見られない期間内に上記測定および塗布工程にそれぞれ付されたため、表4に示す値は、塗布工程に付される塗布液が示す値とみなすことができる。
【0124】
【表2】

【0125】
【表3】

【0126】
【表4】

【0127】
磁気テープの作製
得られた非磁性層塗布液を、厚さ5μmで平均表面粗さRa=1.5nm(WYKO社製HD2000で測定)のポリエチレンナフタレート支持体上に塗布し100℃で乾燥させた後方法(1)〜(4)のいずれかの方法で作製した磁性層塗布液(表5参照)を乾燥後の厚さが表3に示す値となるように、非磁性層上にwet on dry塗布し、100℃で乾燥させた。その後、金属ロールのみから構成される7段カレンダーで100m/min、90℃、線圧300kg/cmにて処理を行い、1/2インチ幅にスリットして磁気テープを作製した。配向処理品については、磁性層塗布液塗布後、塗布膜が湿潤状態にあるうちに0.3Tの磁力をもつコバルト磁石で配向し、次いで0.15Tの磁力をもつソレノイドにより配向させた(ソレノイド滞在時間を変更することによりSQを調整した)。
【0128】
媒体評価方法
1.磁気クラスター
交流磁場中で消磁したサンプルと、振動試料型磁束計(東英工業製)を用いて外部磁場796kA/m(10kOe)で直流消磁したサンプルをデジタルインスツルメンツ社製ナノスコープIIIのMFMモードを使って、5×5μmの範囲をリフトハイト40nmで測定し、磁気力像を得た。磁気力分布の標準偏差(rms)値の70%を閾値に設定し、画像を2値化して70%以上の磁気力を有する部分のみを表示させた。この画像を画像解析装置(カールツァイス製KS−400)に導入し、ノイズ除去、穴埋め処理を行った後、平均面積を算出した。10箇所測定をしてその平均値を求めた。
2.長手方向SQ
振動試料型磁束計VSM(東英工業製)を用い、外部印加磁界強度Hmは796kA/m(10kOe)で測定した。Hmの印加磁界の方向は、テープ長手方向とした。残留磁化量/飽和磁化量を長手方向SQとした。
3.電磁変換特性(再生出力、ノイズ、SNR)
電磁変換特性は、ドラムテスター(相対速度2m/sec)を用いて、以下の方法により測定した。Bs=1.7T、Gap長0.2μmのライトヘッドを用い、線記録密度200KFCI(記録波長254nm)の出力と0〜400KFCIの積分ノイズの比を測定することで求めた。
4.Mrδ
振動試料型磁束計VSM(東英工業製)を用い、外部印加磁界強度Hmは796kA/m(10kOe)で測定した。Hmの印加磁界の方向は、テープ長手方向とした。
以上の結果を表5に示す。
【0129】
【表5】

【0130】
評価結果
表5に示すように、方法(2)〜(4)により作製した磁性層塗布液を用いて作製された実施例の磁気テープは、配向処理によるSQの調整を行っても凝集が少なく、0.8〜2.0の範囲のSdc/Sacを達成できた。これら実施例の磁気テープは低ノイズであり電磁変換特性が良好であった。また、実施例2−1〜2−3と比較例4との対比から、配向処理により所望のSQが得られることがわかる。
一方、乾式解砕処理を行わずに作製した磁性層塗布液を用いて作製された磁気テープは無配向であればSdc/Sacは0.8〜2.0の範囲であったが(比較例1)、配向処理を行うとSdc/Sacが2.0を超えた(比較例2、3)。これにより配向処理中に凝集(配向凝集)が生じたことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の磁気記録媒体は、高感度MRヘッドで信号を再生する磁気記録再生システムにおいて好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性六方晶フェライト粉末および結合剤を含む磁性層形成用塗布液を、非磁性支持体上に直接または間接に塗布することにより塗布膜を形成し、該塗布膜が湿潤状態にあるうちに配向処理を施し、次いで乾燥することにより磁性層を形成することを含む磁気記録媒体の製造方法であって、
前記磁性層形成用塗布液を、平均板径10〜50nmの強磁性六方晶フェライトを乾式解砕工程に付し、得られた強磁性六方晶フェライトを前記結合剤とともに第一分散工程に付し、次いで得られた分散液を第二分散工程および濾過工程に順次付すことにより調製し、かつ、
前記第一分散工程により得られた分散液の濾過後乾固物量は15%以下であることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記磁性層形成用塗布液を、中心面平均粗さRaが3.6nmの表面に塗布することにより形成される塗布膜表面の中心面平均粗さRaは2.5nm以下である請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記磁性層形成用塗布液の累積体積の50%となる粒子径D50は40nm以下である請求項1または2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記乾式解砕工程は、旋回流型ジェットミルを用いて行われる請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記乾式解砕工程により得られた強磁性六方晶フェライト粉末の150μmメッシュの通過量は90%以上であり、かつステアリン酸吸着量は7.0μmol/m2以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記乾式解砕工程により得られた強磁性六方晶フェライト粉末のBET法による比表面積SBETは80m2/g以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】
前記第一分散工程により得られた分散液中の強磁性六方晶フェライトの結合剤吸着量は、強磁性六方晶フェライト粉末100質量部あたり9.8〜12.0質量部の範囲である請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
形成される磁性層の長手方向における角型比は0.5〜0.9の範囲である請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
形成される磁性層の厚さは10〜100nmの範囲である請求項1〜8のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項10】
磁気力顕微鏡(MFM)で測定したDC消磁状態の磁気クラスターの平均面積SdcとAC消磁状態の磁気クラスターの平均面積Sacとの比(Sdc/Sac)は0.8〜2.0の範囲である請求項1〜9のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項11】
前記第一分散工程は、オープンニーダー、超音波分散機またはディスパーを用いて行われる請求項1〜10のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項12】
前記第二分散工程は、前記第一分散工程により得られた分散液をビーズ状分散媒とともに攪拌することにより行われる請求項1〜11のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項13】
前記非磁性支持体上に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層形成用塗布液を塗布および乾燥することにより非磁性層を形成し、該非磁性層上に前記磁性層形成用塗布液を塗布する請求項1〜12のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の製造方法により得られる磁気記録媒体。

【公開番号】特開2009−93689(P2009−93689A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−260409(P2007−260409)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】