説明

磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体、並びに磁気記録再生装置

【課題】レジストパターンの形成精度を高め、製造歩留まりの高い磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体、並びに磁気記録再生装置を提供する
【解決手段】少なくとも、非磁性基板1上に連続した磁性層2を形成する工程、磁性層2の上にレジスト層4を形成する工程、レジスト層4をパターニングする工程、及び、パターニングしたレジスト層4を用いて磁性層2を磁気的に分離する工程の各工程をこの順で有しており、レジスト層4をパターニングする工程において、レジスト層4の内、当該磁気記録媒体における磁気記録再生に使用されない領域に検査用パターンを形成し、該検査用パターンに記録された制御情報を用いることにより、レジスト層4をパターニングする工程における、当該磁気記録媒体ワークの次に加工する磁気記録媒体ワークの加工条件、及び/又は、磁性層2を磁気的に分離する工程における、当該磁気記録媒体ワークの加工条件を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体、並びに磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスク装置、フレキシブルディスク装置、磁気テープ装置等の磁気記録再生装置の適用範囲は大きく拡大され、その重要性が増すとともに、これらの装置に用いられる磁気記録媒体について、その記録密度の顕著な向上が図られつつある。特に、MR(Magneto Resistive)ヘッド、及びPRML(partial response maximum likelihood)技術の導入以来、面記録密度の向上はさらに顕著さを増し、近年では、さらにGMR(Giant Magneto Resistive)ヘッド、TMR(tunneling magneto resistive)ヘッド等も導入され、その面記録密度は、1年に約50%ものペースで増加を続けている。このような磁気記録媒体は、今後、より一層の高記録密度を達成することが求められており、このため、磁性層の高保磁力化と高信号対雑音比(SNR:Signal to Noise ratio)、高分解能を達成することが要求されている。また、近年では、線記録密度の向上と同時に、トラック密度の増加によって面記録密度を上昇させようとする努力も続けられている。
【0003】
近年の磁気記録装置においては、トラック密度が110kTPIにも達している。しかしながら、トラック密度を上げてゆくと、隣接するトラック間の磁気記録情報が互いに干渉し合い、その境界領域の磁化遷移領域がノイズ源となり、SNRを損なうという問題が生じやすくなる。このような問題は、そのまま、ビットエラーレート(Bit Error rate)の低下につながるため、記録密度の向上に対して障害となっている。
【0004】
面記録密度を上昇させるためには、磁気記録媒体上の各記録ビットのサイズをより微細なものとし、各記録ビットにおいて、可能な限り大きな飽和磁化と磁性膜厚を確保する必要がある。しかしながら、記録ビットを微細化していくと、1ビット当たりの磁化最小体積が小さくなり、熱揺らぎによる磁化反転で記録データが消失するという問題が生じる。
【0005】
また、面記録密度の上昇に伴ってトラック間の距離が近づくため、磁気記録装置は、極めて高精度のトラックサーボ技術を要求されると同時に、記録を幅広く実行したうえで、再生については、隣接トラックからの影響をできるだけ排除するため、記録時よりも狭く実行する方法が一般的に用いられている。しかしながら、このような方法では、トラック間の影響を最小限に抑えることができる反面、再生出力を充分に得ることが困難であり、このため、充分なSNRを確保することがむずかしいという問題がある。
【0006】
上述のような熱揺らぎの問題やSNRの確保、あるいは充分な出力の確保を達成する方法の一つとして、磁気記録媒体の表面にトラックに沿った凹凸を形成し、記録トラックの各々を物理的に分離することによってトラック密度を向上させる試みがなされている(図7に示す磁気記録媒体100も参照)。このような技術について、以下、ディスクリートトラック法と称し、また、それによって製造された磁気記録媒体をディスクリートトラック媒体と称する。
また、同一トラック内のデータトラック領域をさらに分割し、所謂パターンドメディアを製造しようとする試みもなされている。
【0007】
上述のようなディスクリートトラック媒体の一例として、表面に凹凸パターンが形成された非磁性基板を用いて磁気記録媒体を形成し、物理的に分離した磁気記録トラック及びサーボ信号パターンが形成されてなる磁気記録媒体が知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1に記載の磁気記録媒体は、表面に複数の凹凸のある基板の表面に軟磁性層を介して強磁性層が形成され、その表面に保護層を形成したものであり、凸部領域において、周囲と物理的に分断された磁気記録領域が形成されている。
特許文献1に記載の磁気記録媒体によれば、軟磁性層での磁壁発生を抑制できるため、熱揺らぎの影響が出にくく、隣接する信号間の干渉もないので、ノイズの少ない高密度磁気記録媒体が得られるとされている。
【0008】
また、上述のようなディスクリートトラック法には、何層かの薄膜からなる磁気記録媒体を形成した後にトラックを形成する方法と、予め基板表面に直接、あるいはトラック形成のための薄膜層に凹凸パターンを形成した後に、磁気記録媒体の薄膜形成を行う方法がある(例えば、特許文献2、3を参照)。
【0009】
また、ディスクリートトラック媒体の磁気トラック間領域を、あらかじめ形成した磁性層に、窒素や酸素等のイオンを注入するか、又はレーザを照射することにより、その部分の磁気的な特性を変化させることによって形成する方法が開示されている(例えば、特許文献4〜6を参照)。
【特許文献1】特開2004−164692号公報
【特許文献2】特開2004−178793号公報
【特許文献3】特開2004−178794号公報
【特許文献4】特開平5−205257号公報
【特許文献5】特開2006−209952号公報
【特許文献6】特開2006−309841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のような、磁気的に分離した磁気記録パターンを有する、いわゆる、ディスクリートトラックメディアやパターンドメディアの製造工程は、非磁性基板上に連続した磁性層を形成する工程、磁性層の上にレジスト層を形成する工程、レジスト層をパターニングする工程、パターニングしたレジスト層を用いて磁性層を磁気的に分離する工程の各工程によって製造するのが一般的である。これらの内、レジスト層をパターニングする方法としては、フォトリソグラフィ法や、液状のレジストにスタンプを用いてパターン転写するナノインプリント法が用いられる。
【0011】
ここで、形成されるパターンの形状、すなわちパターンの厚さ、パターンのエッジダレ等のバラツキは、磁気記録媒体の製造歩留まりに重大な影響を及ぼす。すなわち、レジストの粘度、レジストの硬化温度、硬化時間、湿度、光硬化樹脂への露光時間、露光強度等の様々な条件の微妙なバラツキが、形成されるパターン形状のバラツキの原因となり、これが磁気記録媒体の製造歩留まりを低下させる原因となる。
【0012】
上記問題に加え、磁性層の上に形成するパターン形状がばらつく原因として、形成するパターンが、磁気記録媒体の表面に様々なパターンが混在した複雑なパターンであることが挙げられる。すなわち、磁気記録媒体の多くの領域は規則的なデータトラック領域によって占めされているが、磁気記録媒体には、これらの領域以外に、バーストパターン領域、アドレスパターン領域、サーボマークパターン領域、プリアンブルパターン領域等が設けられる。これら各領域には、磁気記録媒体上のデータトラック領域の番地を決定し、また磁気ヘッドによる情報の読み書きの同期を取るための情報が書き込まれているが、パターンが複雑で、またパターンの形状、密度も各領域でまちまちである。このような、各領域によって異なる複雑なパターンが、磁気記録媒体を製造する際、レジストパターン形状がばらつく原因となる。
【0013】
また、一般に、磁性層の上に形成したレジストパターンの断面形状等を確認する方法としては、断面SEM観察、接針によるAFM観察などが挙げられる。しかしながら、これら何れの方法においても測定に時間がかかり、また、前者は破壊検査であることから、これらの計測結果を製造プロセスと密接にリンクさせ、製造条件等にフィードバックするのは困難である。
ここで、微細なパターン形状を非接触で高速に測定できる方法として、反射光のスペクトルからパターンの形状を算出する方法が挙げられる。しかしながら、この方法における測定光のビーム直径は、最低でも30μm程度の径であることから、2μm程度の幅しかないバーストパターン領域、アドレスパターン領域、サーボマークパターン領域、又はプリアンブルパターン領域を計測するのは困難である。このため、このような方法で計測できるのは、幅の広いデータトラック領域に限られるという問題があった。
【0014】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、所謂ディスクリートトラックメディア等の製造工程におけるレジストパターンの形成精度を高め、製造歩留まりの高い磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記本発明の製造方法によって得られ、充分な記録再生特性を確保でき、高記録密度に対応可能な磁気記録媒体を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記本発明の磁気記録媒体を備え、高記録密度特性に優れた磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、上記問題点を解決すべく鋭意検討した結果、磁気記録媒体の表面において、磁気記録再生に使用しない領域に検査用のレジストパターンを形成し、この検査用パターンを用いて、レジスト層をパターニングする加工条件、及び/又は、磁性層を磁気的に分離する加工条件を制御する方法とすれば、検査用パターンは、光学式測定方法の測定光のビーム径よりも大きく、任意に形成できるため、レジストパターンの形状を、間接的にではあるものの適切に調整することが可能となることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は以下に示す構成を採用する。
【0016】
[1] 非磁性基板上に、磁気的に分離した磁気記録パターンを有する磁気記録媒体の製造方法であって、前記磁気記録パターンの形成工程として、少なくとも、前記非磁性基板上に連続した磁性層を形成する工程、前記磁性層の上にレジスト層を形成する工程、前記レジスト層をパターニングする工程、及び、パターニングした前記レジスト層を用いて前記磁性層を磁気的に分離する工程の各工程をこの順で有しており、前記レジスト層をパターニングする工程において、前記レジスト層の内、当該磁気記録媒体における磁気記録再生に使用されない領域に検査用パターンを形成し、前記検査用パターンに記録された制御情報を用いることにより、前記レジスト層をパターニングする工程における、当該磁気記録媒体ワークの次に加工する磁気記録媒体ワークの加工条件、及び/又は、前記磁性層を磁気的に分離する工程における、当該磁気記録媒体ワークの加工条件を制御することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
[2] 前記検査用パターンを、前記レジスト層の内、円盤状に形成された当該磁気記録媒体における最外周部又は最内周部の磁気記録再生に使用されない領域に形成することを特徴とする上記[1]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0017】
[3] 前記検査用パターンを、前記磁気記録パターンの検査が可能な大きさの領域として、前記レジスト層に形成することを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[4] 前記検査用パターンとして、前記磁気記録パターンに含まれるバーストパターン、アドレスパターン、サーボマークパターン、プリアンブルパターン、及びデータトラックパターンの内の少なくとも1つ以上と同様のパターンを、前記レジスト層に形成することを特徴とする上記[3]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[5] 前記検査用パターンとして、さらに、前記磁気記録パターンの検査感度を向上させるための検査専用パターンを、前記レジスト層に形成することを特徴とする上記[4]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[6] 前記検査用パターンに照射した光の反射光に基づいて前記検査用パターンに記録された制御情報を読み取り、この制御情報を用いて加工条件を制御することを特徴とする上記[1]〜[5]の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[7] 前記検査用パターンに照射した光のブロードバンド反射分光に基づいて前記検査用パターンに記録された制御情報を読み取り、この制御情報を用いて加工条件を制御することを特徴とする上記[6]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0018】
[8] 上記[1]〜[7]の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法によって製造された磁気記録媒体。
[9] 上記[8]に記載の磁気記録媒体と、該磁気記録媒体を記録方向に駆動する駆動部と、記録部と再生部からなる磁気ヘッドと、該磁気ヘッドを前記磁気記録媒体に対して相対運動させる手段と、前記磁気ヘッドへの信号入力及び前記磁気ヘッドからの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段とを組み合わせて具備してなることを特徴とする磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明の磁気記録媒体の製造方法によれば、レジスト層をパターニングする工程において、レジスト層の内、当該磁気記録媒体における磁気記録再生に使用されない領域に検査用パターンを形成し、この検査用パターンに記録された制御情報を用いることにより、レジスト層をパターニングする工程における、当該磁気記録媒体ワークの次に加工する磁気記録媒体ワークの加工条件、及び/又は、磁性層を磁気的に分離する工程における、当該磁気記録媒体ワークの加工条件を制御する方法なので、磁性層をパターニングするのに用いるレジスト形状を適正に制御することが可能となり、また、磁性層の磁気的分離加工を適性に行うことが可能となる。またさらに、加工条件の制御値を即座に製造工程にフィードバックでき、磁気記録媒体の製造歩留まりを飛躍的に高めることが可能になる。さらに、検査用パターンが、磁気記録再生に使用されない領域に形成されていることから、当該磁気記録媒体を検査した後に工程に戻して最終製品とすることができるので、生産効率を向上させることが可能となる。
【0020】
また、本発明の磁気記録媒体によれば、上記本発明の製造方法によって得られる磁気記録媒体なので、充分な記録再生特性を確保でき、高記録密度に対応可能な磁気記録媒体が実現できる。
また、本発明の磁気記録再生装置は、上記本発明の磁気記録媒体を備えたものなので、高記録密度特性に優れた磁気記録再生装置が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体、並びに磁気記録再生装置の一実施形態について、図面を適宜参照して説明する。
図1は本実施形態の製造方法において得られる磁気記録媒体の中間製造物であるウェーハの一例を模式的に説明する概略図であり、図2〜4は本実施形態の磁気記録媒体の製造方法に備えられる各工程を模式的に説明する工程図、図6は本実施形態の磁気記録媒体が備えられてなる磁気記録再生装置の一例を模式的に説明する概略図である。なお、以下の説明において参照する図面は、磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体、並びに磁気記録再生装置を説明するための図面であって、図示される各部の大きさや厚さや寸法等は、実際の磁気記録媒体等の寸法関係とは異なっている。
【0022】
本発明に係る磁気記録媒体の製造方法は、非磁性基板1上に、磁気的に分離した磁気記録パターン60を有する磁気記録媒体10を製造する方法であり、磁気記録パターン60の形成工程として、少なくとも、非磁性基板1上に連続した磁性層2を形成する工程、磁性層2の上にレジスト層4を形成する工程、レジスト層4をパターニングする工程、及び、パターニングしたレジスト層4を用いて磁性層2を磁気的に分離する工程の各工程をこの順で有しており、レジスト層4をパターニングする工程において、レジスト層4の内、当該磁気記録媒体10における磁気記録再生に使用されない領域(図1(a)の最外周部11、最内周部12を参照)に検査用パターン41を形成し、該検査用パターン41に記録された制御情報を用いることにより、レジスト層4をパターニングする工程における、当該磁気記録媒体ワーク10Aの次に加工する磁気記録媒体ワーク10Aの加工条件、及び/又は、磁性層2を磁気的に分離する工程における、当該磁気記録媒体ワーク10Aの加工条件を制御する方法である。
【0023】
[磁気記録媒体]
本実施形態の製造方法で得られる磁気記録媒体10について、図1に示す模式平面図、及び図2〜図4に示す工程図を用いて詳細に説明する。ここで、図1(a)は、後述の製造方法において用いられる検査用パターン41がレジスト層4に形成された、本実施形態の磁気記録媒体の中間製造物である磁気記録媒体ワーク10Aの平面図であり、図1(b)は、図1(a)に示す磁気記録媒体ワーク10Aの一部を示した拡大平面図である。また、図2〜4の各々は、非磁性基板1上に各層を形成することによって磁気記録媒体1を製造する各工程を示す概略図であり、これらの内、図4(c)は、各工程における処理によって製造された磁気記録媒体10の層構造を示す断面図である。
【0024】
本実施形態の磁気記録媒体10は、非磁性基板1上に、磁気的に分離した磁気記録パターン(図1(a)に示す符号60を参照)を有するものであり、図1(a)に示す磁気記録媒体ワーク10Aのように、平面視略ドーナツ型の板状とされている。
なお、本発明において説明する磁気記録パターンとは、磁気記録パターンが1ビットごとに一定の規則性をもって配置された、いわゆるパターンドメディアや、磁気記録パターンが、トラック状に配置されたメディアの他、サーボ信号パターン等を含んだものである。これらの中でも、本発明に係る磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体は、磁気的に分離した磁気記録パターンが磁気記録トラック及びサーボ信号パターンである、所謂ディスクリート型磁気記録媒体に用いる、その製造工程における簡便性の観点から好適である。
【0025】
本実施形態の磁気記録媒体10は、例えば、非磁性基板1の表面に、軟磁性層、中間層、磁気パターンからなる磁性層2、保護層9を積層した構造を有し、さらに最表面には潤滑膜が形成され、概略構成される。なお、本発明に係る磁気記録媒体においては、非磁性基板1、磁性層2以外の各層については、適宜設けることが可能であり、よって、図4(c)では、磁気記録媒体10を構成する非磁性基板1、磁性層2、保護層9以外の層については、図示を適宜省略している。
【0026】
また、磁気記録媒体10は、非磁性基板1の垂直方向に磁化が付与される磁性層2を備えたディスクリートトラック媒体であり、読み出しヘッド及び書き込みヘッドを備えた磁気ヘッド57(図6の磁気記録再生装置50を参照)により、磁気記録パターン60への情報信号の書き込みおよび読み出しが行われるものである。
【0027】
非磁性基板1としては、Alを主成分とした、例えばAl−Mg合金等のAl合金基板や、通常のソーダガラス、アルミノシリケート系ガラス、結晶化ガラス類、シリコン、チタン、セラミックス、各種樹脂からなる基板等、非磁性基板であれば任意のものを用いることができる。これらの中でも、Al合金基板や結晶化ガラス等のガラス製基板、又はシリコン基板を用いることが好ましい。
また、これらの材質からなる非磁性基板1の平均表面粗さ(Ra)は、1nm以下であることが好ましく、0.5nm以下であることがより好ましく、0.1nm以下であることが最も好ましい。
【0028】
本実施形態の磁気記録媒体10においては、上述のような非磁性基板1と後述の磁性層2との間に、図示略の軟磁性層や中間層を適宜設けた構成とすることができる。このような軟磁性層及び中間層としては、従来から磁気記録媒体の分野において用いられている材料及び構造を用いることができ、適宜採用することが可能である。
軟磁性層としては、例えば、FeCo系合金(FeCoB、FeCoSiB、FeCoZr、FeCoZrB、FeCoZrBCu等)、FeTa系合金(FeTaN、FeTaC等)、Co系合金(CoTaZr、CoZrNB、CoB等)等の軟磁性材料を採用することができる。また、中間層としては、例えば、Ru膜等を採用することが可能である。
【0029】
磁性層2は、非磁性基板1上、あるいは上述したような適宜設けられる軟磁性層や中間層の表面に形成される層であり、例えば、単層であってもよいし2層以上積層されたものであってもよい。このような磁性層2は、面内磁性層であっても、あるいは垂直磁性層として構成しても構わないが、より高い記録密度を実現するためには垂直磁性層が好ましい。
なお、上記構成とされる磁性層2は、主としてCoを主成分とする合金から形成するのが好ましい。また、磁性層2が面内磁性層である場合には、磁性層2の非磁性基板1側に、必要に応じて図示略の下地層が設けられる。具体的には、面内磁性層として、例えば、非磁性のCrMo系合金を主材料とする下地層と、強磁性のCoCrPtTa系合金を主材料とする磁性層とからなる積層構造のもの等を用いることができる。
【0030】
垂直磁気記録媒体用の磁性層としては、例えば、軟磁性のFeCo合金(FeCoB、FeCoSiB、FeCoZr、FeCoZrB、FeCoZrBCu等)、FeTa合金(FeTaN、FeTaC等)、Co合金(CoTaZr、CoZrNB、CoB等)等からなる裏打ち層と、Pt、Pd、NiCr、NiFeCr等の配向制御膜と、必要に応じてRu等の中間膜、及び60Co−15Cr−15Pt合金や70Co−5Cr−15Pt−10SiO2合金からなる磁性層を積層したものを利用することがきる。また、上記化学式中に含まれる酸化物としては、上記式中のSiOの他、Cr、Ti0等、複数の酸化物を混合して用いても良い。またさらに、異なる組成の磁性層を複数積層した構成としても良い。
【0031】
磁性層2の膜厚は、再生の際に一定以上の出力を得るために、ある程度以上の厚さであることが必要である。一方で、記録再生特性の指標となる諸パラメータは、出力の上昇とともに劣化するのが通例である。このような点から、磁性層2は、十分なヘッド出入力特性が得られるように、使用する磁性合金の種類と積層構造を考慮して最適な膜厚で形成する必要がある。具体的には、磁性層2の厚さは、3nm以上20nm以下であることが好ましく、5nm以上15nm以下とすることがより好ましい。
【0032】
保護層9は、磁性層2の上に形成され、例えば、ダイヤモンド状炭素(Diamond Like Carbon)等の炭素(C)、水素化炭素(HxC)、窒素化炭素(CN)、アルモファスカーボン、炭化珪素(SiC)等の炭素質層やSiO、Zr、TiN等、通常、保護層として用いられる材料を用いることができる。また、保護層9は、単層であってもよいし、2層以上の層から構成されていてもよい。
【0033】
保護層9の膜厚は、10nm未満とすることが好ましい。保護層の膜厚が10nmを越えると、磁気ヘッド(図6の符号27を参照)と磁性層2との間の距離が大きくなり、充分な強さの出入力信号が得られなくなる虞がある。
【0034】
本実施形態の磁気記録媒体10では、保護層9の上に、図示略の潤滑層を形成することが好ましい。潤滑層に用いる潤滑剤としては、フッ素系潤滑剤、炭化水素系潤滑剤及びこれらの混合物等が挙げられる。また、潤滑層は、通常1〜4nmの厚さで形成される。
【0035】
磁気記録媒体10は、上記各構成により、磁気記録パターン60に、磁気ヘッド(図6に示す磁気記録再生装置50の磁気ヘッド57を参照)によって磁気記録あるいは再生を行なうことが可能な構成とされる。本実施形態の磁気記録媒体10は、下記の本発明に係る製造方法によって得られるものなので、充分な記録再生特性が確保され、高記録密度に対応可能なものとなる。
【0036】
なお、本実施形態の磁気記録媒体10は、最内周部12に、図示略のテストパターンが形成される。このテストパターンは、後述の製造方法において用いられるレジスト層4に形成された検査用パターン41によってマスク3をエッチングした後、このマスクパターンによって磁性層2が磁気的に分離加工されたものである(図1(a)を参照)。
【0037】
[磁気記録媒体の製造方法]
以下、図1〜図4を適宜参照しながら、本実施形態の磁気記録媒体の製造方法について、以下に詳しく説明する。
上述したように、本実施形態の磁気記録媒体10の製造方法は、磁気記録パターン60の形成工程として、少なくとも、非磁性基板1上に連続した磁性層2を形成する工程、該磁性層2の上にレジスト層4を形成する工程、レジスト層4をパターニングする工程、及び、パターニングしたレジスト層4を用いて磁性層2を磁気的に分離する工程の各工程をこの順で有している。
そして、本実施形態の製造方法では、レジスト層10をパターニングする工程において、レジスト層4の内、磁気記録媒体10における磁気記録再生に使用されない領域である最外周部11に検査用パターン41を形成し、該検査用パターン41に記録された制御情報を用いることにより、レジスト層4をパターニングする工程における、当該磁気記録媒体ワーク10Aの次に加工する磁気記録媒体ワーク10Aの加工条件、及び/又は、磁性層2を磁気的に分離する工程における、当該磁気記録媒体ワーク10Aの加工条件を制御する方法である。図1(a)に示す例では、検査用パターン41として、バースト検査用パターン41a、アドレス検査用パターン41b、サーボマーク検査用パターン41c、プリアンブル検査用パターン41d、データトラック検査用パターン41e、及び検査専用パターン41fの各々が、磁気記録媒体10の最内周部12に設けられている。本実施形態では、この検査パターン41の各々に記録された制御情報を用いて、レジスト層4をパターニングする際の加工条件、及び/又は、磁性層2を磁気的に分離する際の加工条件を最適化し、この条件を磁気記録媒体の製造条件にフィードバックして制御する方法としている。
【0038】
一般に、磁気記録再生装置等に用いられる磁気記録媒体は、サーボパターン70として、データトラック領域21、バーストパターン領域71、アドレスパターン領域72、サーボマークパターン領域73、プリアンブルパターン領域73の各々からなる全てのパターンが形成されている(図1(a)、(b)に示す磁気記録媒体ワーク10Aを参照)。このため、製造工程において、これらの領域のレジストパターンを用いることにより、レジスト層をパターニングする際の加工条件や、磁性層を磁気的に分離する際の加工条件を最適化すれば良いとも考えられる。しかしながら、上述したように、データトラック領域21以外の領域は、各領域とも2μm程度の幅しかなく(図1(a)のサーボパターン70を参照)、このような狭い領域を用いて、短時間で適切な条件出しを行うのは非常に困難である(図7に示す従来の磁気記録媒体100も参照)。
【0039】
このため、本実施形態においては、バーストパターン領域71、アドレスパターン領域72、サーボマークパターン領域73、プリアンブルパターン領域74と同様のパターンを、これらの検査に用いるのに充分な大きさの領域を有する検査用パターン41として磁気記録媒体10の未使用領域におけるレジスト層4に設ける。即ち、本実施形態においては、サーボパターン70を構成する各パターンを検査することが可能な、バースト検査用パターン41a、アドレス検査用パターン42b、サーボマーク検査用パターン41c、プリアンブル検査用パターン41dの各々を、磁気記録再生が行なわれない領域である最内周部12に設ける。そして、この検査用パターン41を用いて、レジスト層4をパターニングする際の加工条件や、磁性層2を磁気的に分離する際の加工条件を、短時間で精度良く最適化する方法としている。なお、本実施形態では、検査用パターン41として、さらに、データトラック検査用パターン41e及び検査専用パターン41fを設けた例を説明しているが、検査用パターンの構成は特に限定されず、工程上の制御を考慮しながら、適宜採用することができる。
【0040】
『製造工程』
以下に、本実施形態の磁気記録媒体10の製造方法に備えられる各工程について、図2〜図4を参照しながら順に詳述する(図1(a)、(b)も参照)。
本実施形態では、図2〜図4に示すように、非磁性基板1に、少なくとも磁性層2を形成する工程A(図2(a))、磁性層2の上にマスク層3を形成する工程B(図2(b))、マスク層3の上にレジスト層4を形成する工程C(図2(c))、レジスト層4に磁気記録パターン60のネガパターンを、スタンプ5を用いて転写する工程D(図3(a);図中における矢印はスタンプ5の動きを示す)、マスク層3を用いて磁気記録パターン60のネガパターンに対応する部分を除去する工程E(図3(b))、レジスト層4側の表面から磁性層2の表層部を部分的にイオンミリングする工程F(図3(C);符号7は磁性層2で部分的にイオンミリングした箇所を示し、符号dは磁性層2でイオンミリングした深さを示す)、磁性層2のイオンミリングした箇所を反応性プラズマ又は反応性イオンに曝して磁性層2の磁気特性を改質する工程G(図4(a);符号8は磁性層2で磁気特性が改質した箇所を示す)、レジスト層4及びマスク層3を除去する工程H(図4(b))、磁性層2の表面を保護層9で覆う工程I(図4(C))の各工程をこの順で有する方法により、磁気記録媒体10を製造することができる。
【0041】
「工程A」
本実施形態では、まず、非磁性基板1上に、必要に応じて、図示略の軟磁性層、中間層を、従来公知の材料及び方法を用いて形成する。
次いで、図2(a)の工程Aに示すように、非磁性基板1の上、あるいは、軟磁性層又は中間層の上に、上述したような材質からなる磁性層2を形成する。磁性層2は、通常、スパッタ法を用いて薄膜として形成する。
【0042】
「工程B」
次に、図2(b)に示す工程Bにおいて、磁性層2の上にマスク層3を形成する。マスク層3としては、Ta、W、Ta窒化物、W窒化物、Si、SiO、Ta、Re、Mo、Ti、V、Nb、Sn、Ga、Ge、As、Niからなる群から選ばれる何れか一種以上を含む材料で形成するのが好ましい。このような材料を用いることにより、マスク層3のミリングイオン6に対する遮蔽性を向上させ、また、マスク層3による磁気記録パターン形成特性を向上させることができる。さらに、これらの物質は、反応性ガスを用いたドライエッチング処理が容易であるため、図4(b)の工程Hにおいて残留物を減らし、磁気記録媒体10の表面の汚れを低減することができる。
【0043】
また、本実施形態では、これらの物質の中でも、マスク層3として、As、Ge、Sn、Gaを用いるのが好ましく、Ni、Ti、V、Nbを用いるのがより好ましく、Mo、Ta、Wを用いるのが最も好ましい。
【0044】
「工程C〜工程D〜工程E」
次に、図2(c)に示す工程Cにおいて、上記材料からなるレジスト層4を形成する。
次いで、図3(a)に示す工程Dにおいて、レジスト層4に対してスタンプ5を押圧することにより、磁気記録パターン60のネガパターンを転写するとともに、図3(a)中における図示を省略するが、検査用パターン41のネガパターンを最内周部12の領域に転写する(図1(a)、(b)を参照)。
次いで、図3(b)に示す工程Eにおいて、マスク層3の内の磁気記録パターン60のネガパターンに対応する部分、並びに、検査用パターン41のネガパターンに対応する部分を除去する。
【0045】
本実施形態の製造方法では、図3(a)の工程Dで示すような、レジスト層4に磁気記録パターン60のネガパターンを転写した後の、レジスト層4の凹部の厚さを、0〜10nmの範囲内とするのが好ましい。レジスト層4の凹部の厚さをこの範囲とすることにより、図3(b)の工程Eで示すマスク層3のエッチング工程において、マスク層3のエッジの部分のダレを防止することが可能となる。また、マスク層3のミリングイオン6に対する遮蔽性を向上させ、また、マスク層3による磁気記録パターン形成特性を向上させることができる。
【0046】
本実施形態の製造方法では、図2(c)の工程C、及び、図3(a)の工程Dにおいてレジスト層4に用いる材料を、放射線照射により硬化性を有する材料とし、レジスト層4にスタンプ5を用いてパターンを転写する際か、あるいはパターン転写工程の後に、レジスト層4に放射線を照射するのが好ましい。このような方法とすることにより、レジスト層4に、スタンプ5の形状を精度良く転写することができる。これにより、図3(b)の工程Eで示したマスク層3のエッチング工程において、マスク層3のエッジの部分のダレを防止し、マスク層3の注入イオンに対する遮蔽性を向上させ、また、マスク層3による磁気記録パターン60の形成特性を向上させることが可能となる。なお、本実施形態で説明する放射線とは、例えば、熱線、可視光線、紫外線、X線、ガンマ線等の広い概念の電磁波である。また、放射線照射により硬化性を有する材料とは、例えば、熱線に対しては熱硬化樹脂、紫外線に対しては紫外線硬化樹脂である。
【0047】
本実施形態の製造方法では、特に、レジスト層4にスタンプ5を用いてパターンを転写する工程に際して、レジスト層4の流動性が高い状態で、該レジスト層4にスタンプ5を押圧し、押圧した状態でレジスト層4に放射線を照射することが好ましい。これにより、レジスト層4を硬化させ、その後、スタンプ5をレジスト層4から離すことにより、スタンプ5の形状を精度良くレジスト層4に転写することが可能となる。レジスト層4にスタンプ5を押圧した状態で、レジスト層4に放射線を照射する方法としては、スタンプ5の反対側、すなわち非磁性基板1側から放射線を照射する方法、スタンプ5の材料として放射線を透過できる物質を選択し、スタンプ5側から放射線を照射する方法、スタンプ5の側面から放射線を照射する方法、熱線のように固体に対して伝導性の高い放射線を用いて、スタンプ5の材料又は非磁性基板1からの熱伝導によって放射線を照射する方法等を用いることができる。本実施形態の製造方法では、上記各方法の中でも、特に、レジスト材としてノボラック系樹脂、アクリル酸エステル類、脂環式エポキシ類等の紫外線硬化樹脂を用い、スタンプ5の材料として、紫外線に対して透過性の高いガラスもしくは樹脂を用いることが好ましい。
【0048】
上述のような方法を用いてレジスト層4にパターンを転写することにより、磁気トラック間領域の保磁力、残留磁化を極限まで低減させることができ、磁気記録の際の書きにじみをなくし、高い面記録密度を有する磁気記録媒体を提供することが可能となる。
【0049】
なお、上記プロセスで用いられるスタンパー(スタンプ5)としては、例えば、金属プレートに電子線描画などの方法を用いて微細なトラックパターンを形成したもの等が使用でき、その材料としては、上記プロセスに耐えうる硬度、耐久性等が要求される。このような材料としては、例えばNi等が使用できるが、上述の目的に合致するものであれば、材料の種類は何ら制限されない。また、このようなスタンパーは、通常のデータを記録するトラックの他に、バーストパターン、グレイコードパターン、プリアンブルパターンといったサーボ信号のパターンも形成することができる。
【0050】
<検査用パターンを用いたパターニング加工条件の制御>
本実施形態の製造方法では、上述したように、図3(a)に示す工程Dにおいて、レジスト層4に、磁気記録パターン60のネガパターンを転写するとともに、検査用パターン41(図1(a)、(b)参照)を転写して形成する。即ち、バーストパターン71、アドレスパターン72、サーボマークパターン73、プリアンブルパターン74、さらに、データトラックパターン(データトラック領域21)と同様のパターンと、さらに、検査専用パターン(図1中の符号41f参照)を、磁気記録パターン60の検査に用いるのに充分な大きさの領域を有する検査用パターン41として、磁気記録媒体10の未使用領域である最内周部12のレジスト層4に設ける方法としている。そして、この検査用パターン41に記録された制御情報を用いて、上記工程Eにおいて、当該磁気記録媒体ワーク10Aの次の磁気記録媒体ワーク10Aのレジスト層4をパターニングする際や、後述の工程Gにおいて、当該磁気記録媒体ワーク10Aの磁性層2を磁気的に分離する際の加工条件を、短時間で精度良く最適化する方法としている。
【0051】
本実施形態においては、磁気記録媒体10に設けられる磁気記録パターン60を検査することが可能な大きさの領域として、レジスト層4に検査用パターン41を形成することが好ましい。またさらに、本実施形態では、検査用パターン41として、実際の磁気記録媒体10では検査が困難な小幅の領域であるバーストパターン71、アドレスパターン72、サーボマークパターン73、プリアンブルパターン74の内の少なくとも1つ以上と同様のパターンを、磁気記録パターン60を検査可能な大きさの領域として、レジスト層4に形成することが好ましい。本実施形態では、図1(a)に示す磁気記録媒体ワーク10Aのように、検査用パターン41として、バースト検査用パターン41a、アドレス検査用パターン42b、サーボマーク検査用パターン41c、プリアンブル検査用パターン41dの各々を、磁気記録再生が行なわれない領域である最内周部12に設ける。これにより、磁気記録パターン60を検査することが可能な大きさの領域が確保された検査用パターン41を形成することが可能となる。
【0052】
本実施形態では、上述したように、検査用パターン41を、磁気記録パターン60を検査することが可能な大きさの領域として形成する。このように、磁気記録パターン60の検査を可能とするためには、検査用パターン41を、例えば、幅が30〜80μmの範囲のトラック状パターンとして形成することが好ましい。検査用パターン41が、このような大きさの領域であれば、磁気記録パターン60の検査を確実に行なうことが可能となる。
上述したように、検査用の測定光ビーム径は30μm程度のため、トラック状パターン幅が80μm超だと、反射光スペクトルからのパターン形状の算出処理に時間がかかり過ぎることから、パターン幅は必要最小限とすることが好ましい。
【0053】
また、本実施形態においては、上述したように、検査用パターン41として、さらに、磁気記録パターン60の検査感度を向上させるための検査専用パターン41fを、レジスト層4に形成することが好ましい。この検査専用パターン41fは、検査の感度をより高めるため、通常、磁気記録媒体に形成されるパターンよりも微細なパターンとして設けられ、検査感度の微調整に用いられる。
検査専用パターン41fとしては、ランド幅/グルーブ幅の寸法比が2倍以上のパターンとすることが、検査感度を効果的に向上させることができる点から好ましい。通常、磁気記録媒体に形成されるパターンにおいて、ランド幅/グルーブ幅の寸法比は概ね1倍程度、即ち、ほぼ同寸とされている。これに対し、本実施形態で説明する検査専用パターン41fは、上述のような微細パターンとして形成されるため、検査感度を適性範囲に微調整することができ、ひいては、検査感度を一層向上させることが可能となる。
【0054】
本実施形態の製造方法では、上述のような検査用パターン41を用いた加工条件の制御を、検査用パターン41に照射した光の反射光に基づいて検査用パターン41に記録された制御情報を読み取り、この制御情報を用いて行うことが好ましい。
検査用パターン41を用いて加工条件の最適化等を行う場合、検査用パターン41に記録された制御情報の読取方法としては、例えば、SEM、TEM、AFM、微分緩衝顕微鏡等、様々な表面計測方法を例示することができる。しかしながら、非破壊で、且つ、即時に計測が可能であり、さらに、処理装置内等のin−situ(その場測定)が可能な方法は限られてしまう。
本実施形態では、検査用パターンを用いた加工条件の制御を、例えば、検査用パターン41に照射した光の反射光に基づいて制御情報を読み取り、この制御情報を用いて行うことにより、非破壊で即時にその場での測定が可能となる。そして、加工条件等の最適化を即時に行い、且つ、その最適値を、上記工程Eにおける当該磁気記録媒体ワーク10Aの次の磁気記録媒体ワーク10Aの加工条件、並びに、後述の工程F、Gにおける当該磁気記録媒体ワーク10Aの加工条件に、即時にフィードバックすることが可能となる。
【0055】
さらに、本実施形態では、上述のように、検査用パターン41に照射した光の反射光に基づいて制御情報を読み取り、この制御情報を用いて加工条件の制御を行う方法を採用する場合、ブロードバンド反射分光に基づいて制御情報を読み取ることが好ましい。ここで、ブロードバンド反射分光とは、被測定物に対して広い範囲の波長(ブロードバンド:例えば、波長120nmから800nm程度)の光を照射して、その反射スペクトルから、被測定物表面に形成されたレジストパターン等の膜厚、ランド幅、グルーブ幅、グルーブ形状等を測定する方法である。この方法は、被測定物表面に形成されたレジストの光学定数(n:屈折率、k:消衰係数)が既知である場合に用いることができる方法であり、非破壊で即時にその場での測定が可能である。一方、この測定方法は、測定領域として数十ミクロンφ程度が必要であり、磁気記録媒体10において、2μm程度の幅であるバーストパターン71、アドレスパターン72、サーボマークパターン73、プリアンブルパターン74に適用することはできなかった。本実施形態の製造方法においては、検査用パターン41として、バーストパターン71、アドレスパターン72、サーボマークパターン73、プリアンブルパターン74の内の少なくとも1つ以上と同様のパターンを、磁気記録パターン60の検査が可能な大きさの領域に拡大したパターンを用いる。これにより、検査用パターン41に記録された制御情報を読み取る際にブロードバンド反射分光を適用することができ、非破壊で即時にその場での測定が可能となる。なお、本実施形態で用いることが可能なブロードバンド反射分光装置としては、例えば、METROSOL社(米国)製、SHORTY−ES Series、n&k社(米国)製、1700−CD等が例示できる。
【0056】
本実施形態において、検査用パターン41を用いて加工条件の制御を行う際の具体的な方法について、図5に示すようなレジスト層4の成膜及びパターニングの条件を例に、以下に説明する。
本実施形態では、上述したような方法で、当該磁気記録媒体ワーク10Aの検査用パターン41の反射光に基づいて制御情報を読み取り、パターン形状を算出して次の磁気記録媒体ワーク10Aのレジスト層4の加工条件の適正値を導き出す。そして、図5に示すような、インプリント後のレジスト層4のパターンについて、ランド部45とグルーブ部46の割合、即ち、ランド幅W1/グルーブ幅W2の寸法比について、補正値を用いて適宜制御する。また、グルーブ部46の底部46aからマスク3までの膜厚、即ち、レジスト材の残部である部分の膜厚d等についても、補正値を用いて制御する。本実施形態では、このような方法とすることにより、磁気記録媒体10を製造する際の加工条件を最適に制御しながら、各工程処理を行なうことが可能となる。
【0057】
なお、本実施形態で説明する例においては、図1(a)に示すように、検査用パターン41を、レジスト層4の内、円盤状に形成された磁気記録媒体10における最内周部12の領域に形成しているが、これには限定されない。例えば、検査用パターンを、レジスト層4の内、磁気記録媒体10における最外周部11の領域に形成しても良く、適宜採用することができる。
【0058】
「工程F」
次に、図3(c)に示す工程Fにおいて、イオンミリング等によって磁性層2の表層の一部を除去する。
本実施形態では、磁性層2の表層の一部を除去し、その後、表面を反応性プラズマや反応性イオンにさらして磁性層2の磁気特性を改質させる方法とすることが、磁性層2の一部を除去しない場合に比べ、磁気記録パターン60のコントラストがより鮮明になり、また、磁気記録媒体10のS/Nが向上する。この理由としては、磁性層2の表層部を除去することにより、その表面の清浄化並びに活性化が図られ、反応性プラズマや反応性イオンとの反応性が高まることが考えられる。また、磁性層2の表層部に空孔等の欠陥が導入され、その欠陥を通じて磁性層2に反応性イオンが侵入しやすくなること等も、上記理由として考えられる。
【0059】
本実施形態の製造方法では、イオンミリング等によって磁性層2の表層の一部を除去する際の深さdは、好ましくは0.1nm〜15nmの範囲内、より好ましくは1〜10nmの範囲内とする。イオンミリングによる除去深さが0.1nmより小さな場合は、上述の磁性層の除去効果が現れず、また、除去深さが15nmより大きくなると、磁気記録媒体の表面平滑性が悪化し、磁気記録再生装置を構成した際の磁気ヘッドの浮上特性が低下する虞がある。
本実施形態では、例えば、磁気記録トラック60及びサーボパターン70を磁気的に分離する領域を、既に成膜された磁性層2を反応性プラズマや反応性イオンにさらし、磁性層2の磁気特性を改質する方法によって形成することができる。
【0060】
また、図3(c)に示す本実施形態の工程Fにおいては、上述の工程Dにおいてレジスト層4に形成された検査用パターン41の制御情報を用いることにより、当該磁気記録媒体ワーク10Aの、磁性層2の表層の一部を除去する加工条件を制御することができる。これにより、加工条件等の最適化を即時に行い、且つ、その最適値を工程Fにフィードバックしながら、最適な条件で加工することが可能となる。
【0061】
「工程G」
次に、本実施形態の製造方法では、図4(a)に示す工程Gにおいて、磁性層2のイオンミリングした箇所を、反応性プラズマ又は反応性イオンに曝して磁性層2の磁気特性を改質することにより、磁性層2を磁気的に分離する。
【0062】
ここで、本実施形態において説明する、磁気的に分離した磁気記録パターンとは、図4(a)の工程Gに示すように、磁気記録媒体10を表面側から見た場合に、磁性層2が非磁性化した領域8により分離された状態を指す。即ち、磁性層2が表面側から見て分離されていれば、磁性層2の底部において分離されていなくとも、本発明の目的を達成することが可能であり、こらは、本発明で説明する、所謂、磁気的に分離した磁気記録パターンの概念に含まれる。
【0063】
また、本実施形態で説明する、磁気記録パターン60を形成するための磁性層2の改質とは、磁性層2をパターン化するために、磁性層2の保磁力、残留磁化等を部分的に変化させることを指し、その変化とは、保磁力を下げ、残留磁化を下げることを指す。
本実施形態においては、特に、磁気特性の改質として、反応性プラズマや反応性イオンにさらした箇所の磁性層2の磁化量を、当初(未処理)の75%以下、より好ましくは50%以下とする方法を採用することが好ましい。また、同様に、保磁力を当初の50%以下、より好ましくは20%以下とする方法を採用することが好ましい。このような方法を用いてディスクリートトラック型の磁気記録媒体を製造することにより、磁気記録媒体に磁気記録を行う際の書きにじみをなくし、高い面記録密度の磁気記録媒体を提供することが可能となる。
【0064】
さらに、本実施形態では、磁気記録トラック60及びサーボパターン70を磁気的に分離する箇所を、すでに成膜された磁性層2を反応性プラズマや反応性イオンにさらして磁性層2を非晶質化することにより、実現することも可能である。なお、このような方法は、磁性層2の磁気特性の改質を、磁性層2の結晶構造の改変によって実現することも含む。
【0065】
また、本実施形態において説明する、磁性層2を非晶質化する処理とは、磁性層2の原子配列を、長距離秩序を持たない不規則な原子配列の形態とすることを指し、より具体的には、2nm未満の微結晶粒がランダムに配列した状態とすることを指す。そして、この原子配列状態を分析手法によって確認する場合には、X線回折又は電子線回折により、結晶面を表すピークが認められず、また、ハローが認められるのみの状態とする。
【0066】
本実施形態で用いる反応性プラズマとしては、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)や反応性イオンプラズマ(RIE;Reactive Ion Plasma)等が例示できる。
また、ここで説明する反応性イオンとしては、上述の誘導結合プラズマや、反応性イオンプラズマ内に存在する反応性のイオンが例示できる。
【0067】
また、本実施形態で説明する誘導結合プラズマとは、気体が高電圧の印加によってプラズマ化し、さらに、高周波数の変動磁場によってそのプラズマ内部に渦電流によるジュール熱を発生させることによって得られる高温のプラズマである。このような誘導結合プラズマは、電子密度が高く、従来のイオンビームを用いてディスクリートトラックメディアを製造する場合に比べ、面積の広い磁性膜において、高効率で磁気特性の改質を行なうことができる。また、反応性イオンプラズマとは、プラズマ中にO、SF、CHF、CF、CCl等の反応性ガスを加えた反応性の高いプラズマである。このようなプラズマを本実施形態で用いる反応性プラズマとして採用することにより、磁性膜2の磁気特性の改質を、より高い効率で実現することが可能となる。
【0068】
本実施形態の製造方法では、成膜された磁性層2を反応性プラズマに曝すことにより、磁性層2を改質する方法を例示しているが、このような改質処理は、磁性層2を構成する磁性金属と反応性プラズマ中の原子又はイオンとの反応によって実現するのが好ましい。なお、ここで説明する反応とは、磁性金属に反応性プラズマ中の原子等が侵入し、磁性金属の結晶構造が変化することや、磁性金属の組成が変化すること、磁性金属が酸化すること、磁性金属が窒化すること、磁性金属が珪化すること等が例示できる。
【0069】
本実施形態においては、特に、反応性プラズマとして酸素原子又は窒素原子を含有させ、磁性層2を構成する磁性金属と反応性プラズマ中の酸素原子又は窒素原子とを反応させることにより、磁性層2を酸化させることが好ましい。例えば、磁性層2を部分的に酸化させることにより、この酸化部分の残留磁化及び保磁力等を効率よく低減させることが可能となるので、短時間の反応性プラズマ処理により、磁気的に分離した磁気記録パターン60を有する磁気記録媒体10を製造することが可能となる。
【0070】
本実施形態においては、上述の反応性プラズマに、ハロゲン原子を含有させることが好ましい。また、ハロゲン原子としては、F原子を用いることが特に好ましい。また、ハロゲン原子は、酸素原子と一緒に反応性プラズマ中に添加して用いても良いし、また、酸素原子を用いずに反応性プラズマ中に添加しても良い。上述のように、反応性プラズマに酸素原子等を加えることにより、磁性層2を構成する磁性金属と酸素原子等が反応し、磁性層2の磁気特性を改質させることが可能となる。この際、反応性プラズマにハロゲン原子を含有させることにより、この反応性をさらに高めることが可能となる。また、反応性プラズマ中に酸素原子を添加していない場合においても、ハロゲン原子が磁性合金と反応して、磁性層2の磁気特性を改質させることが可能となる。この際のメカニズムの詳細は明らかではないが、反応性プラズマ中のハロゲン原子が、磁性層2の表面に形成されている異物をエッチングし、これによって磁性層2の表面が清浄化され、磁性層2の反応性が高まるということが考えられる。また、清浄化された磁性層2の表面とハロゲン原子とが高い効率で反応すること等も考えられる。このような効果を有するハロゲン原子として、F原子を用いることが特に好ましい。
【0071】
また、図4(a)に示す本実施形態の工程Gでは、上述したような検査用パターン41(図1(a)、(b))の制御情報を用いて、当該磁気記録媒体ワーク10Aの磁性層2を磁気的に分離する工程の加工条件を制御することができる。
具体的には、磁性層2のイオンミリングした箇所の磁気特性を改質して磁性層2を磁気的に分離する際の、反応性プラズマ又は反応性イオンに曝す加工条件について、検査用パターン41に記録された制御情報を用いて制御する。これにより、加工条件等の最適化を即時に行い、且つ、その最適値を工程Gにフィードバックしながら、最適な条件で磁性層2を磁気的に分離することが可能となる。
【0072】
「工程H」
次に、本実施形態においては、図4(b)の工程Hに示すように、レジスト層4及びマスク層3を除去する。
ここで、反応性プラズマ処理を行った後のレジスト層4及びマスク層3の具体的な除去方法としては、例えば、ドライエッチング、反応性イオンエッチング、イオンミリング、湿式エッチング等の手法を適宜採用することができる。
【0073】
「工程I」
次に、図4(c)の工程Iに示すように、本実施形態の製造方法においては、保護層9を形成し、さらに、その上に潤滑材を塗布することにより、磁気記録媒体10を製造する工程を採用するのが好ましい。
【0074】
保護層9の形成方法としては、一般的には、Diamond Like Carbonの薄膜を、P−CVD法等を用いて成膜する方法が用いられるが、特に限定されるものではない。また、保護層9の材料としては、上述したような、C、HC、CN、アルモファスカーボン、SiC、SiO、Zr、TiN等を用いることができる。また、保護層9を、単層として形成しても、あるいは2層構造として形成しても良い。
また、上述したように、保護層9の上には、例えば、フッ素系潤滑剤、炭化水素系潤滑剤及びこれらの混合物等からなる図示略の潤滑層を形成することがより好ましい。
【0075】
以上説明したような、本実施形態の磁気記録媒体の製造方法によれば、レジスト層4をパターニングする工程において、レジスト層4の内、当該磁気記録媒体10における磁気記録再生に使用されない領域である最内周部12に検査用パターン41を形成し、該検査用パターン41に記録された制御情報を用いることにより、レジスト層4をパターニングする工程における、当該磁気記録媒体ワーク10Aの次に加工する磁気記録媒体ワーク10Aの加工条件、及び/又は、磁性層2を磁気的に分離する工程における、当該磁気記録媒体ワーク10Aの加工条件を制御する方法なので、磁性層2をパターニングするのに用いるレジスト形状を適正に制御することが可能となり、また、磁性層2の磁気的分離加工を適性に行うことが可能となる。またさらに、加工条件の制御値を即座に製造工程にフィードバックでき、磁気記録媒体の製造歩留まりを飛躍的に高めることが可能になる。さらに、検査用パターン41が、磁気記録再生に使用されない領域に形成されていることから、当該磁気記録媒体(磁気記録媒体ワーク10A)を検査した後に工程に戻し、最終製品である磁気記録媒体10とすることができるので、生産効率を向上させることが可能となる。
【0076】
また、上記本発明の製造方法によって得られる磁気記録媒体10は、充分な記録再生特性を確保でき、高記録密度に対応可能なものとなる。
【0077】
[磁気記録再生装置]
次に、本発明に係る磁気記録再生装置(ハードディスクドライブ)の構成を図6に示す。本発明に係る磁気記録再生装置50は、図6に示すように、上述の本発明に係る磁気記録媒体1と、これを記録方向に駆動する媒体駆動部51と、記録部と再生部からなる磁気ヘッド57と、磁気ヘッド57を磁気記録媒体10に対して相対運動させるヘッド駆動部58と、磁気ヘッド57への信号入力と磁気ヘッド57からの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段を組み合わせた記録再生信号系59とを具備したものである。これらを組み合わせることにより、記録密度の高い磁気記録再生装置50を構成することが可能となる。本発明においては、磁気記録媒体1の記録トラックを磁気的に不連続に加工することにより、従来、トラックエッジ部の磁化遷移領域の影響を排除するために再生ヘッド幅を記録ヘッド幅よりも狭くして対応していたものを、両者をほぼ同じ幅にして動作させることができる。これにより、充分な再生出力と高いSNRを備えた磁気記録再生装置50が実現できる。
【0078】
さらに、本実施形態では、上述の磁気ヘッド57の再生部を、GMRヘッドあるいはTMRヘッドで構成することにより、高記録密度においても充分な信号強度を得ることができ、高記録密度を持った磁気記録再生装置を実現することが可能となる。また、磁気ヘッド57の浮上量を0.005μm〜0.020μmの範囲と、従来よりも低い高さで浮上させると、出力が向上して高い装置SNRが得られ、大容量で高信頼性の磁気記録再生装置を提供することができる。またさらに、最尤復号法による信号処理回路を組み合わせた場合には、さらに記録密度を向上させることができる。このような構成とすれば、例えば、トラック密度100kトラック/インチ以上、線記録密度1000kビット/インチ以上、1平方インチ当たり100Gビット以上の記録密度で記録・再生する場合であっても、充分なSNRが得られる。
【実施例】
【0079】
次に、本発明の磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体、並びに磁気記録再生装置を、実施例および比較例を示してより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0080】
[実施例]
まず、HD用ガラス基板をセットした真空チャンバを、予め1.0×10-5Pa以下に真空排気した。この際、ガラス基板としては、LiSi2、Al−KO、Al−KO、MgO−P、Sb−ZnOを構成成分とする結晶化ガラスからなる材質とされ、外径65mm、内径20mm、平均表面粗さ(Ra)が2オングストロームとされたものを用いた。
【0081】
そして、上記ガラス基板上に、DCスパッタリング法を用いて、軟磁性層としてFeCoB、中間層としてRu、磁性層として70Co−5Cr−15Pt−10SiO合金の順で、各薄膜を積層した。この際の各層の膜厚としては、FeCoB軟磁性層は600Å、Ru中間層は100Å、磁性層は150Åとした。
【0082】
次いで、その上に、スパッタ法を用いてマスク層を形成した、このマスク層の材料としてはTaを用い、また、膜厚は15nmとした。
次いで、その上に、レジスト層をスピンコート法により塗布した。この際、レジスト層としては、紫外線硬化樹脂であるノボラック系樹脂を用い、また、膜厚は80nmとした。
【0083】
次いで、磁気記録パターンのネガパターンを有するガラス製のスタンプを用い、1MPa(約8.8kgf/cm)の圧力を基準値とし、これに、後述するような、前のサンプルにおける補正値を加味して、レジスト層にスタンプを押圧した。そして、この状態において、波長250nmの紫外線を、紫外線の透過率が95%以上とされたガラス製のスタンプの上部から10秒間照射し、レジスト層を硬化させた。その後、スタンプをレジスト層から分離し、レジスト層に磁気記録パターンを転写した。ここで、レジスト層に転写した磁気記録パターンは、データトラック領域が、レジストの凸部が幅120nmの円周状、レジストの凹部が幅60nmの円周状とされ、一周当たり255のデータトラックを有している。そして、各トラック間には、ヘッドの走行方向で、プリアンブルパターン領域、サーボマークパターン領域、アドレスパターン領域、バーストパターン領域をこの順で有している。また、各パターンの幅は約2μmで、プリアンブルパターン及びサーボマークパターンは、半径方向に凸部の幅120nm、凹部が幅60nmの直線状、アドレスパターンは半径方向に凸部の幅120nm、凹部が幅60nmの不規則な直線状、バーストパターンは直径100nm、間隔100nmのドット状である。また、本実施例においては、これら各パターンに加え、磁気記録媒体の最内周の未使用領域に、図1(a)に示すような、プリアンブル、サーボマーク、アドレス、バースト、データトラック、及び検査専用の各パターンからなる検査用パターンを設けた。この際、各検査用パターンの大きさは、幅80μm、長さ3mmとした。また、レジスト層の層厚は80nm、レジスト層の凹部の厚さは約5nmであった。
【0084】
上記手順によるレジスト層への各パターンの転写後、n&k社(米国)製「1700−CD」を用いて、上記4箇所の検査用パターンを、ブロードバンド反射分光によって計測した。そして、この際の計測スペクトルと、理想的なパターンからのスペクトルとを対比し、レジスト層の厚さを制御するためのレジスト塗布量の補正値、レジスト層をパターニングする加工条件の補正値、及び、磁性層を磁気的に分離する加工条件の補正値を算出した。この際、検査用パターンの測定から補正値の算出までに要した時間は約10秒であった。また、レジスト層をパターニングする加工圧条件の補正値は、次のワークサンプルへの磁気記録パターンの転写工程にフィードバックし、磁性層を磁気的に分離する加工条件の補正値は、当該ワークサンプルのエッチング加工条件の補正値として用いた。
【0085】
その後、マスク層を用いて、レジスト層の凹部の箇所、及び、その下のTa層をドライエッチングによって除去した。この際のドライエッチング条件としては、レジスト層のエッチングに関しては、Oガスを40sccm、圧力0.3Pa、高周波プラズマ電力300W、DCバイアス30W、エッチング時間10秒を基準値とし、これに上述のエッチング時間の補正値を加味した。また、Ta層のエッチングに関しては、CFガスを50sccm、圧力0.6Pa、高周波プラズマ電力500W、DCバイアス60W、エッチング時間30秒の各条件とした。
【0086】
その後、磁性層においてマスク層に覆われていない箇所について、その表面を、イオンミリングによって除去した。イオンミリングには、Arイオンを用いた。また、この際のイオンの量は、5×1016原子/cm、加速電圧は20keVとし、磁性層のミリング深さを0.1nmとした。
そして、この表面を反応性プラズマに曝し、イオンミリングを施した箇所の磁性層に対して磁気特性の改質を施した。この際、磁性層の反応性プラズマ処理には、アルバック社の誘導結合プラズマ装置NE550を用いた。また、プラズマの発生に用いるガス及び条件としては、Oを90cc/分を用いるとともに、プラズマ発生のための投入電力を200W、装置内の圧力は0.5Paとし、磁性層を300秒間処理した。
【0087】
その後、レジスト層及びマスク層をドライエッチングにより除去し、その表面に、CVD法を用いてカーボン保護層を5nm成膜し、さらに、その上に潤滑材を塗布して磁気記録媒体を製造した。このような方法で1000枚の磁気記録媒体を製造したところ、磁気記録パターンの形成不良は約4%程度であった。
【0088】
[比較例]
本比較例においては、検査用パターンを用いた、レジスト層をパターニングする際の加工圧条件の補正、並びに、磁性層を磁気的に分離する際の加工条件の補正を行わなかった点を除き、上記実施例と同様の手順で磁気記録媒体を製造した。
このような方法で1000枚の磁気記録媒体を製造したところ、磁気記録パターンの形成不良は約9%となり、本発明に係る製造方法で磁気記録媒体を製造した上記実施例に比べ、不良率が2倍以上であることが明らかとなった。
【0089】
以上の結果により、本発明に係る磁気記録媒体の製造方法が、製造工程におけるレジストパターンの形成精度を高め、優れた製造歩留まりを実現できることが明らかである。また、この製造方法によって得られる磁気記録媒体が、充分な記録再生特性を確保でき、高記録密度に対応可能であることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、磁気記録再生装置、所謂ハードディスクドライブに用いられる磁気記録媒体の製造工程に適用することで、高い製造歩留まりで、各種パターンが転写されてなる磁気記録媒体を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法を模式的に説明する図であり、(a)は本発明の製造方法によって得られる磁気記録媒体の平面図、(b)はその一部の拡大図である。
【図2】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法を模式的に説明する図であり、非磁性基板上に各層を成膜する際の各手順を示す工程図である。
【図3】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法を模式的に説明する図であり、非磁性基板上に各層を成膜する際の各手順を示す工程図である。
【図4】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法を模式的に説明する図であり、非磁性基板上に各層を成膜する際の各手順を示す工程図である。
【図5】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法を模式的に説明する図であり、検査用パターンを用いたレジスト層の加工条件の制御方法を示す断面図である。
【図6】本発明に係る磁気記録媒体が用いられてなる磁気記録再生装置を模式的に示す概略図である。
【図7】従来の磁気記録媒体を模式的に示す概略図である。
【符号の説明】
【0092】
1…非磁性基板、2…磁性層、21…データトラック領域、4…レジスト層、10…磁気記録媒体、10A…磁気記録媒体ワーク、71…バーストパターン、72…アドレスパターン、73…サーボマークパターン、74…プリアンブルパターン、41…検査用パターン、41a…バースト検査用パターン、41b…アドレス検査用パターン、41c…サーボマーク検査用パターン、41d…プリアンブル検査用パターン、41e…データトラックパターン、41f…検査専用パターン、50…磁気記録再生装置、51…媒体駆動部(磁気記録媒体を記録方向に駆動する駆動部)、57…磁気ヘッド、58…ヘッド駆動部(磁気ヘッドを磁気記録媒体に対して相対運動させる手段)、59…記録再生信号系(記録再生信号処理手段)、60…磁気記録パターン、11…最外周部(磁気記録再生に使用されない領域)、12…最内周部(磁気記録再生に使用されない領域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板上に、磁気的に分離した磁気記録パターンを有する磁気記録媒体の製造方法であって、
前記磁気記録パターンの形成工程として、少なくとも、前記非磁性基板上に連続した磁性層を形成する工程、前記磁性層の上にレジスト層を形成する工程、前記レジスト層をパターニングする工程、及び、パターニングした前記レジスト層を用いて前記磁性層を磁気的に分離する工程の各工程をこの順で有しており、
前記レジスト層をパターニングする工程において、前記レジスト層の内、当該磁気記録媒体における磁気記録再生に使用されない領域に検査用パターンを形成し、
前記検査用パターンに記録された制御情報を用いることにより、前記レジスト層をパターニングする工程における、当該磁気記録媒体ワークの次に加工する磁気記録媒体ワークの加工条件、及び/又は、前記磁性層を磁気的に分離する工程における、当該磁気記録媒体ワークの加工条件を制御することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記検査用パターンを、前記レジスト層の内、円盤状に形成された当該磁気記録媒体における最外周部又は最内周部の磁気記録再生に使用されない領域に形成することを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記検査用パターンを、前記磁気記録パターンの検査が可能な大きさの領域として、前記レジスト層に形成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記検査用パターンとして、前記磁気記録パターンに含まれるバーストパターン、アドレスパターン、サーボマークパターン、プリアンブルパターン、及びデータトラックパターンの内の少なくとも1つ以上と同様のパターンを、前記レジスト層に形成することを特徴とする請求項3に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記検査用パターンとして、さらに、前記磁気記録パターンの検査感度を向上させるための検査専用パターンを、前記レジスト層に形成することを特徴とする請求項4に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記検査用パターンに照射した光の反射光に基づいて前記検査用パターンに記録された制御情報を読み取り、この制御情報を用いて加工条件を制御することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】
前記検査用パターンに照射した光のブロードバンド反射分光に基づいて前記検査用パターンに記録された制御情報を読み取り、この制御情報を用いて加工条件を制御することを特徴とする請求項6に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法によって製造された磁気記録媒体。
【請求項9】
請求項8に記載の磁気記録媒体と、該磁気記録媒体を記録方向に駆動する駆動部と、記録部と再生部からなる磁気ヘッドと、該磁気ヘッドを前記磁気記録媒体に対して相対運動させる手段と、前記磁気ヘッドへの信号入力及び前記磁気ヘッドからの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段とを組み合わせて具備してなることを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−113748(P2010−113748A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283606(P2008−283606)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】