説明

磁気記録媒体の製造方法

【課題】長尺状の磁気記録媒体の最終製品において、長手方向の品質特性が一定であり、品質にばらつきが生じない磁気記録媒体の製造方法を提供すること。
【解決手段】非磁性支持体の少なくとも一方の面に強磁性粉末と結合剤とを含む磁性層用塗料を塗布し、塗布原反を得る工程と、前記塗布原反を巻き取りロールに巻き取る工程と、前記巻き取りロールに巻き取られた塗布原反を巻き出し、カレンダー処理する工程とを有する磁気記録媒体の製造方法であって、前記結合剤が、熱硬化性樹脂を含み、前記カレンダー処理する工程が、前記塗布原反の表面の平滑性に応じて、カレンダー処理条件を変化させながら行われることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の製造方法に関するものであり、詳しくは、長尺状の磁気記録
媒体の最終製品において、長手方向の品質特性が一定であり、品質にばらつきが生じない
磁気記録媒体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、テラバイト級の情報を高速に伝達するための手段が著しく発達し、莫大な情報を
もつ画像およびデータ転送が可能となる一方、それらを記録、再生および保存するための
高度な技術が要求されるようになってきた。記録、再生媒体には、フレキシブルディスク
、磁気ドラム、ハードディスクおよび磁気テープが挙げられるが、特に、磁気テープは1
巻あたりの記録容量が大きく、データバックアップ用をはじめとしてその役割を担うとこ
ろが大きい。
従来の磁気テープは、非磁性支持体上に強磁性粉末と結合剤とを含む磁性層用塗料を塗
布し、塗布原反を得て、これを巻き取りロールに巻き取り、しかる後、該巻き取りロール
から巻き出された塗布原反を、カレンダー処理する工程を経て製造されている。
【0003】
一般的に塗布原反を得るための塗布速度は、塗布原反をカレンダー処理する速度の2〜
3倍である。したがって前記のように、得られた塗布原反は一旦すべて巻き取りロールに
巻き取った後、これを続くカレンダー処理に施す必要がある。
なお例えば磁気記録媒体の表面の平滑性を制御するためのカレンダー処理については、
下記特許文献1〜3等に記載されている。
しかしながら、巻き取りロールに巻き取られた塗布原反は、ロールの芯側で圧力が高く
、外側で低くなり、結合剤に熱硬化性樹脂が含まれている場合、一つの巻き取りロール内
で表面の平滑性が異なってしまい、得られる最終製品において、長手方向で品質特性が変
化してしまうという問題点がある。すなわち、塗布後の熱硬化性樹脂は水分の存在下、時
間をかけて徐々に硬化が進行するが、巻き取りロールの芯側で塗布原反が巻き締められて
圧力が施されると、未硬化状態の熱硬化性樹脂は表面が軟らかいために圧力によって表面
が平滑化される傾向にある。逆に巻き取りロールの外側では塗布原反の巻き締めによる圧
力はそれほどかからないために、このような現象はあまり生じない。したがって、巻き取
りロールの芯側ほど塗布原反の平滑性が高まり、これをカレンダー処理し最終製品を得た
場合、最終製品の長手方向で品質特性が変化してしまうという問題点があった。この問題
点は、1ロールの塗布長が例えば10000mにもわたる長大ロールの場合、顕著となる

【0004】
【特許文献1】特開2004−319015号公報
【特許文献2】特開2004−319016号公報
【特許文献3】特開2004−319017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、長尺状の磁気記録媒体の最終製品において、長手方向の品
質特性が一定であり、品質にばらつきが生じない磁気記録媒体の製造方法を提供すること
である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のとおりである。
1)非磁性支持体の少なくとも一方の面に強磁性粉末と結合剤とを含む磁性層用塗料を
塗布し、塗布原反を得る工程と、前記塗布原反を巻き取りロールに巻き取る工程と、前記
巻き取りロールに巻き取られた塗布原反を巻き出し、カレンダー処理する工程とを有する
磁気記録媒体の製造方法であって、
前記結合剤が、熱硬化性樹脂を含み、
前記カレンダー処理する工程が、前記塗布原反の表面の平滑性に応じて、カレンダー処
理条件を変化させながら行われることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
2)前記カレンダー処理条件の変化が、カレンダーロール温度、カレンダーロール圧力
、カレンダーロール速度および/またはカレンダーロールテンションの制御によって行わ
れることを特徴とする上記1)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
3)前記カレンダー処理条件の変化が、カレンダーロール温度またはカレンダーロール
圧力の制御によって行われることを特徴とする上記2)に記載の磁気記録媒体の製造方法

4)前記カレンダー処理する工程の後、さらに35〜100℃でサーモ処理する工程を
有することを特徴とする上記1)〜3)のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
5)前記塗布原反を得る工程が、非磁性支持体の少なくとも一方の面に非磁性粉末と結
合剤とを含む非磁性層用塗料を塗布した後、その上に、強磁性粉末と結合剤とを含む磁性
層用塗料を塗布する工程であることを特徴とする上記1)〜4)のいずれかに記載の磁気
記録媒体の製造方法。
6)前記塗布原反を得る工程が、非磁性粉末と結合剤とを含む非磁性層用塗料と、強磁
性粉末と結合剤とを含む磁性層用塗料とをこの順で非磁性支持体の少なくとも一方の面に
同時に塗布する工程であることを特徴とする上記1)〜4)のいずれかに記載の磁気記録
媒体の製造方法。
7)上記1)〜6)のいずれかに記載の製造方法により製造された磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、塗布原反の表面の平滑性に応じて、カレンダー処理条件を変化させる
工程を有しているので、長尺状の磁気記録媒体の最終製品において、長手方向の品質特性
が一定であり、品質にばらつきが生じない磁気記録媒体の製造方法を提供することができ
る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
[非磁性支持体]
本発明における非磁性支持体は、ポリエステル支持体、芳香族ポリアミド支持体、芳香
族ポリイミド支持体等が挙げられる。
中でもポリエステル支持体(以下、単にポリエステルという)が好ましい。このような
ポリエステルはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどジカルボン
酸およびジオールからなるポリエステルである。
主要な構成成分のジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸
、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスル
ホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、
シクロヘキサンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルチオエーテルジカル
ボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸などを挙げるこ
とができる。
また、ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメ
チレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニ
ル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−
ヒドロキシフェニル)スルホン、ビスフェノールフルオレンジヒドロキシエチルエーテル
、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、シクロヘキサンジ
オールなどを挙げることができる。
これらを主要な構成成分とするポリエステルの中でも透明性、機械的強度、寸法安定性
などの点から、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸及び/または2,6−ナフタレン
ジカルボン酸、ジオール成分として、エチレングリコール及び/または1,4−シクロヘ
キサンジメタノールを主要な構成成分とするポリエステルが好ましい。
中でも、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレートを主
要な構成成分とするポリエステルや、テレフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸と
エチレングリコールからなる共重合ポリエステル、およびこれらのポリエステルの二種以
上の混合物を主要な構成成分とするポリエステルが好ましい。特に好ましくはポリエチレ
ン−2,6−ナフタレートを主要な構成成分とするポリエステルである。
なお、本発明に用いられるポリエステルは、二軸延伸されていてもよいし、2層以上の
積層体であってもよい。
また、ポリエステルは、さらに他の共重合成分が共重合されていても良いし、他のポリ
エステルが混合されていても良い。これらの例としては、先に挙げたジカルボン酸成分や
ジオール成分、またはそれらから成るポリエステルを挙げることができる。
本発明に用いられるポリエステルには、フィルム時におけるデラミネーションを起こし
難くするため、スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘
導体、ポリオキシアルキレン基を有するジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、
ポリオキシアルキレン基を有するジオールなどを共重合してもよい。
中でもポリエステルの重合反応性やフィルムの透明性の点で、5−ナトリウムスルホイ
ソフタル酸、2−ナトリウムスルホテレフタル酸、4−ナトリウムスルホフタル酸、4−
ナトリウムスルホ−2,6−ナフタレンジカルボン酸およびこれらのナトリウムを他の金
属(例えばカリウム、リチウムなど)やアンモニウム塩、ホスホニウム塩などで置換した
化合物またはそのエステル形成性誘導体、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレン
グリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体およびこれら
の両端のヒドロキシ基を酸化するなどしてカルボキシル基とした化合物などが好ましい。
この目的で共重合される割合としては、ポリエステルを構成するジカルボン酸を基準とし
て、0.1〜10モル%が好ましい。
また、耐熱性を向上する目的では、ビスフェノール系化合物、ナフタレン環またはシク
ロヘキサン環を有する化合物を共重合することができる。これらの共重合割合としては、
ポリエステルを構成するジカルボン酸を基準として、1〜20モル%が好ましい。
【0009】
本発明において、ポリエステルの合成方法は、特に限定があるわけではなく、従来公知
のポリエステルの製造方法に従って製造できる。例えば、ジカルボン酸成分をジオール成
分と直接エステル化反応させる直接エステル化法、初めにジカルボン酸成分としてジアル
キルエステルを用いて、これとジオール成分とでエステル交換反応させ、これを減圧下で
加熱して余剰のジオール成分を除去することにより重合させるエステル交換法を用いるこ
とができる。この際、必要に応じてエステル交換触媒あるいは重合反応触媒を用い、ある
いは耐熱安定剤を添加することができる。
また、合成時の各過程で着色防止剤、酸化防止剤、結晶核剤、すべり剤、安定剤、ブロ
ッキング防止剤、紫外線吸収剤、粘度調節剤、消泡透明化剤、帯電防止剤、pH調整剤、
染料、顔料、反応停止剤などの各種添加剤の1種又は2種以上を添加させてもよい。
【0010】
また、ポリエステルにはフィラーが添加されてもよい。フィラーの種類としては、球形
シリカ、コロイダルシリカ、酸化チタン、アルミナ等の無機粉体、架橋ポリスチレン、シ
リコーン樹脂等の有機フィラー等が挙げられる。
また、支持体を高剛性化するために、これらの材料を高延伸したり、表面に金属や半金
属または、これらの酸化物の層を設けることもできる。
【0011】
本発明において、非磁性支持体であるポリエステルの厚みは、好ましくは3〜80μm
、より好ましくは3〜50μm、とくに好ましくは3〜10μmである。また支持体磁性
層側表面の中心線平均粗さ(Ra)は、8nm以下、より好ましくは6nm以下である。こ
のRaは、WYKO社製TOPO−3Dで測定した。
また、非磁性支持体の長手方向のヤング率は、6.0GPa以上が好ましく、7.0G
Pa以上がさらに好ましい。
【0012】
本発明の磁気記録媒体は、前記の非磁性支持体の少なくとも一方の面に強磁性粉末と結
合剤とを含む磁性層を設けたものであり、非磁性支持体と磁性層との間に実質的に非磁性
である非磁性層(下層)を設けたものが好ましい。
【0013】
[磁性層]
磁性層に含まれる強磁性粉末として、その体積が(0.1〜8)×10-18mlであ
ることが好ましく、(0.5〜5)×10-18mlであることが更に好ましい。この範
囲とすることにより、熱揺らぎにより磁気特性の低下を有効に抑えることができると共に
低ノイズを維持したまま良好なC/N(S/N)を得ることができる。強磁性粉末として
は、特に制限はないが、強磁性金属粉末または六方晶系フェライト粉末が好ましい。
針状粉末の体積は、形状を円柱と想定して長軸長、短軸長から求める。
板状粉末の場合は、形状を角柱(六方晶系フェライト粉末の場合は6角柱)と想定して
板径、軸長(板厚)から体積を求める。
磁性体のサイズは、磁性層を適当量剥ぎ取る。剥ぎ取った磁性層30〜70mgにn−
ブチルアミンを加え、ガラス管中に封かんし熱分解装置にセットして140℃で約1日加
熱する。冷却後にガラス管から内容物を取り出し、遠心分離し、液と固形分を分離する。
分離した固形分をアセトンで洗浄し、TEM用の粉末試料を得る。この試料を日立製透過
型電子顕微鏡H−9000型を用いて粒子を撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率5
00000倍になるように印画紙にプリントして粒子写真を得る。粒子写真から目的の磁
性体を選びkontron製画像解析装置KS−400デジタイザー上に載せ、粉体の輪
郭をトレースしてそれぞれの粒子のサイズを測定する。500個の粒子のサイズを測定し
、測定値を平均して平均サイズとする。
【0014】
<強磁性金属粉末>
本発明の磁気記録媒体における磁性層に用いられる強磁性金属粉末としては、Feを主
成分とするもの(合金も含む)であれば、特に限定されないが、α−Feを主成分とする
強磁性合金粉末が好ましい。これらの強磁性粉末には所定の原子以外にAl、Si、S、
Sc、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、
Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、
Mn、Zn、Ni、Sr、Bなどの原子を含んでもかまわない。Al、Si、Ca、Y、
Ba、La、Nd、Co、Ni、Bの少なくとも1つがα−Fe以外に含まれるものが好
ましく、特に、Co,Al,Yが含まれるのが好ましい。さらに具体的には、CoがFe
に対して10〜40原子%、Alが2〜20原子%、Yが0.1〜15原子%含まれるの
が好ましい。
【0015】
上記強磁性金属粉末には後述する分散剤、潤滑剤、界面活性剤、帯電防止剤などで分散
前にあらかじめ処理を行ってもかまわない。また、強磁性金属粉末は、少量の水、水酸化
物又は酸化物を含むものであってもよい。強磁性金属粉末の含水率は0.01〜2%とす
るのが好ましい。結合剤の種類によって強磁性金属粉末の含水率は最適化するのが好まし
い。強磁性金属粉末のpHは、用いる結合剤との組合せにより最適化することが好ましい
。その範囲は通常、6〜12であるが、好ましくは7〜11である。また強磁性金属粉末
には可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Sr、NH4、SO4、Cl、NO2、NO3
どの無機イオンを含む場合がある。これらは、本質的に無い方が好ましい。各イオンの総
和が300ppm以下程度であれば、特性には影響しない。また、本発明に用いられる強
磁性金属粉末は空孔が少ないほうが好ましくその値は20容量%以下、さらに好ましくは
5容量%以下である。
【0016】
強磁性金属粉末の平均長軸長は、5〜500nmが好ましく、10〜200nmが更に
好ましく、10〜80nmがとくに好ましい。また強磁性金属粉末の結晶子サイズは5〜
20nmであることが好ましく、10〜18nmであることが更に好ましく、12〜16
nmであることが特に好ましい。この結晶子サイズは、X線回折装置(理学電機製RIN
T2000シリーズ)を使用し、線源CuKα1、管電圧50kV、管電流300mAの
条件で回折ピークの半値幅からScherrer法により求めた平均値である。
【0017】
強磁性金属粉末のBET法による比表面積(SBET)は、50m2/g以上が好まし
く、55〜100m2/gであることがさらに好ましく、60〜80m2/gであること
が最も好ましい。この範囲であれば良好な表面性と低いノイズの両立が可能となる。強磁
性金属粉末のpHは、用いる結合剤との組合せにより最適化することが好ましい。その範
囲は4〜12であるが、好ましくは7〜10である。強磁性金属粉末は必要に応じ、Al
、Si、P又はこれらの酸化物などで表面処理を施してもかまわない。その量は強磁性金
属粉末に対し0.1〜10%であり表面処理を施すと脂肪酸などの潤滑剤の吸着が100
mg/m2以下になり好ましい。強磁性金属粉末には可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、
Srなどの無機イオンを含む場合があるが200ppm以下であれば特に特性に影響を与
える事は少ない。また、本発明に用いられる強磁性金属粉末は、空孔が少ないほうが好ま
しく、その値は20容量%以下、さらに好ましくは5容量%以下である。
【0018】
また強磁性金属粉末の形状については、先に示した粒子体積を満足すれば針状、粒状、
米粒状又は板状いずれでもかまわないが、特に針状の強磁性粉末を使用することが好まし
い。針状強磁性金属粉末の場合、針状比は4〜12が好ましく、さらに好ましくは5〜1
2である。強磁性金属粉末の抗磁力(Hc)は、好ましくは159.2〜238.8kA
/m(2000〜3000Oe)であり、さらに好ましくは167.2〜230.8kA
/m(2100〜2900Oe)である。また、飽和磁束密度は、好ましくは150〜3
00mT(1500〜3000G)であり、さらに好ましくは160〜290mTである
。また飽和磁化(σs)は、好ましくは140〜170A・m2/kg(140〜170
emu/g)であり、さらに好ましくは145〜160A・m2/kgである。磁性体自
体のSFD(switching field distribution)は小さい方
が好ましく、0.8以下であることが好ましい。SFDが0.8以下であると、電磁変換
特性が良好で、出力が高く、また磁化反転がシャープでピークシフトが小さくなり、高密
度デジタル磁気記録に好適である。Hc分布を小さくするためには、強磁性金属粉末にお
いてはゲータイトの粒度分布を良くする、単分散αFe23を使用する、粒子間の焼結
を防止するなどの方法がある。
【0019】
強磁性金属粉末は、公知の製造方法により得られたものを用いることができ、下記の方
法を挙げることができる。焼結防止処理を行った含水酸化鉄、酸化鉄を水素などの還元性
気体で還元してFe又はFe−Co粒子などを得る方法、複合有機酸塩(主としてシュウ
酸塩)と水素などの還元性気体で還元する方法、金属カルボニル化合物を熱分解する方法
、強磁性金属の水溶液に水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸塩あるいはヒドラジンなど
の還元剤を添加して還元する方法、金属を低圧の不活性気体中で蒸発させて粉末を得る方
法などである。このようにして得られた強磁性金属粉末は公知の徐酸化処理が施される。
含水酸化鉄、酸化鉄を水素などの還元性気体で還元し、酸素含有ガスと不活性ガスの分圧
、温度、時間を制御して表面に酸化皮膜を形成する方法が、減磁量が少なく好ましい。
【0020】
<六方晶フェライト粉末>
六方晶フェライト粉末には、例えば、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト
、鉛フェライト、カルシウムフェライト、それらのCo等の置換体等がある。より具体的
には、マグネトプランバイト型のバリウムフェライト及びストロンチウムフェライト、ス
ピネルで粒子表面を被覆したマグネトプランバイト型フェライト、さらに一部にスピネル
相を含有したマグネトプランバイト型のバリウムフェライト及びストロンチウムフェライ
ト等が挙げられる。その他、所定の原子以外にAl、Si、S,Sc、Ti、V、Cr、
Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、
Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、B、
Ge、Nbなどの原子を含んでもかまわない。一般には、Co−Zn、Co−Ti、Co
−Ti−Zr、Co−Ti−Zn、Ni−Ti−Zn、Nb−Zn−Co、Sb−Zn−
Co、Nb−Zn等の元素を添加した物を使用できる。また原料・製法によっては特有の
不純物を含有するものもある。好ましいその他の原子およびその含有率は、前記の強磁性
金属粉末の場合と同様である。
【0021】
六方晶フェライト粉末の粒子サイズは、上述の体積を満足するサイズであることが好ま
しいが、平均板径は、3〜30nmであり、4〜20nmが好ましく、5〜15nmがさ
らに好ましい。
平均板状比{(板径/板厚)の平均}は1〜15であり、さらに1〜7であることが好
ましい。平均板状比が1〜15であれば、磁性層で高充填性を保持しながら充分な配向性
が得られ、かつ、粒子間のスタッキングによりノイズ増大を抑えることができる。また、
上記粒子サイズの範囲内におけるBET法による比表面積(SBET)は、40m2/g
以上が好ましく、40〜200m2/gであることがさらに好ましく、60〜100m2
/gであることが最も好ましい。
【0022】
六方晶フェライト粉末の粒子板径・板厚の分布は、通常狭いほど好ましい。粒子板径・
板厚を数値化することは、粒子TEM写真より500粒子を無作為に測定することで比較
できる。粒子板径・板厚の分布は正規分布ではない場合が多いが、計算して平均サイズに
対する標準偏差で表すと、σ/平均サイズ=0.1〜2.0である。粒子サイズ分布をシ
ャープにするには、粒子生成反応系をできるだけ均一にすると共に、生成した粒子に分布
改良処理を施すことも行われている。例えば、酸溶液中で超微細粒子を選別的に溶解する
方法等も知られている。
【0023】
六方晶フェライト粉末の抗磁力(Hc)は、159.2〜238.8kA/m(200
0〜3000Oe)の範囲とすることができるが、好ましくは175.1〜222.9k
A/m(2200〜2800Oe)であり、さらに好ましくは183.1〜214.9k
A/m(2300〜2700Oe)である。但し、ヘッドの飽和磁化(σs)が1.4T
を越える場合には159.2kA/m以下にすることが好ましい。抗磁力(Hc)は、粒
子サイズ(板径・板厚)、含有元素の種類と量、元素の置換サイト、粒子生成反応条件等
により制御できる。
【0024】
六方晶フェライト粉末の飽和磁化(σs)は40〜80A・m2/kg(emu/g)
である。飽和磁化(σs)は高い方が好ましいが、微粒子になるほど小さくなる傾向があ
る。飽和磁化(σs)の改良のため、マグネトプランバイトフェライトにスピネルフェラ
イトを複合することや、含有元素の種類と添加量の選択等がよく知られている。またW型
六方晶フェライトを用いることも可能である。磁性体を分散する際に磁性体粒子表面を分
散媒、ポリマーに合った物質で処理することも行われている。表面処理剤としては、無機
化合物及び有機化合物が使用される。主な化合物としてはSi、Al、P等の酸化物又は
水酸化物、各種シランカップリング剤、各種チタンカップリング剤が代表例である。添加
量は磁性体の質量に対して0.1〜10質量%である。磁性体のpHも分散に重要である
。通常4〜12程度で分散媒、ポリマーにより最適値があるが、媒体の化学的安定性、保
存性から6〜11程度が選択される。磁性体に含まれる水分も分散に影響する。分散媒、
ポリマーにより最適値があるが通常0.01〜2.0%が選ばれる。
【0025】
六方晶フェライト粉末の製法としては、(1)酸化バリウム・酸化鉄・鉄を置換する金
属酸化物とガラス形成物質として酸化ホウ素等を所望のフェライト組成になるように混合
した後溶融し、急冷して非晶質体とし、次いで再加熱処理した後、洗浄・粉砕してバリウ
ムフェライト結晶粉体を得ガラス結晶化法、(2)バリウムフェライト組成金属塩溶液を
アルカリで中和し、副生成物を除去した後100℃以上で液相加熱した後洗浄・乾燥・粉
砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る水熱反応法、(3)バリウムフェライト組成金
属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後乾燥し1100℃以下で処理し、粉
砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る共沈法等があるが、本発明は製法を選ばない。
六方晶フェライト粉末は、必要に応じ、Al、Si、P又はこれらの酸化物などで表面処
理を施してもかまわない。その量は強磁性粉末に対し0.1〜10%であり表面処理を施
すと脂肪酸などの潤滑剤の吸着が100mg/m2以下になり好ましい。強磁性粉末には
可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Srなどの無機イオンを含む場合がある。これらは、
本質的に無い方が好ましいが、200ppm以下であれば特に特性に影響を与えることは
少ない。
【0026】
<結合剤>
本発明の磁性層に用いられる結合剤(バインダー)は、熱硬化性樹脂を含む。熱硬化性
樹脂としては、従来公知のものを利用することができる。熱硬化性樹脂としては、例えば
、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、
アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ
−ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とイソシアネートプレポリマーの混合物、ポリエス
テルポリオールとポリイソシアネートの混合物、ポリウレタンとポリイソシアネートの混
合物等を挙げることができる。
なお、本発明では結合剤として熱可塑性樹脂を併用することもできる。熱可塑性樹脂と
しては、例えば、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸
、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル
酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、
ビニルエーテル等を構成単位として含む重合体又は共重合体、ポリウレタン樹脂、各種ゴ
ム系樹脂を挙げることができる。
【0027】
熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂については、いずれも朝倉書店発行の「プラスチックハ
ンドブック」に詳細に記載されている。
【0028】
以上の樹脂は単独又はこれらを組み合わせた態様で使用することができる。中でもポリ
ウレタン樹脂を使用することが好ましく、さらには水素化ビスフェノールA、水素化ビス
フェノールAのポリプロピレンオキサイド付加物などの環状構造体と、アルキレンオキサ
イド鎖を有する分子量500〜5000のポリオールと、鎖延長剤として環状構造を有す
る分子量200〜500のポリオールと、有機ジイソシアネートとを反応させ、かつ極性
基を導入したポリウレタン樹脂、又はコハク酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族二
塩基酸と、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1
,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール等のアルキル分
岐側鎖を有する環状構造を持たない脂肪族ジオールからなるポリエステルポリオールと、
鎖延長剤として2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル
−1,3−プロパンジオール等の炭素数が3以上の分岐アルキル側鎖をもつ脂肪族ジオー
ルと、有機ジイソシアネート化合物とを反応させ、かつ極性基を導入したポリウレタン樹
脂、又はダイマージオール等の環状構造体と、長鎖アルキル鎖を有するポリオール化合物
と、有機ジイソシアネートとを反応させ、かつ極性基を導入したポリウレタン樹脂を使用
することが好ましい。
【0029】
本発明で使用される極性基含有ポリウレタン系樹脂の平均分子量は、5,000〜10
0,000であることが好ましく、さらには10,000〜50,000であることが好
ましい。平均分子量が5,000以上であれば、得られる磁性塗膜が脆い等といった物理
的強度の低下もなく、磁気記録媒体の耐久性に影響を与えることはないため好ましい。ま
た、分子量が100,000以下であれば、溶剤への溶解性が低下することもないため、
分散性も良好である。また、所定濃度における塗料粘度も高くなることはないので、作業
性が良好で取り扱いも容易となる。
【0030】
上記ポリウレタン系樹脂に含まれる極性基としては、例えば、−COOM、−SO3
、−OSO3M、−P=O(OM)2、−O−P=O(OM)2(以上につき、Mは水素
原子又はアルカリ金属塩基)、−OH、−NR2、−N+3(Rは炭化水素基)、エポ
キシ基、−SH、−CNなどが挙げられ、これらの極性基の少なくとも1つ以上を共重合
又は付加反応で導入したものを用いることができる。また、この極性基含有ポリウレタン
系樹脂がOH基を有する場合、分岐OH基を有することが硬化性、耐久性の面から好まし
く、1分子当たり2〜40個の分岐OH基を有することが好ましく、1分子当たり3〜2
0個有することがさらに好ましい。また、このような極性基の量は10-1〜10-8
ル/gであり、好ましくは10-2〜10-6モル/gである。
【0031】
結合剤の具体例としては、例えば、ユニオンカーバイト社製VAGH、VYHH、VM
CH、VAGF、VAGD、VROH、VYES、VYNC、VMCC、XYHL、XY
SG、PKHH、PKHJ、PKHC、PKFE、日信化学工業社製MPR−TA、MP
R−TA5、MPR−TAL、MPR−TSN、MPR−TMF、MPR−TS、MPR
−TM、MPR−TAO、電気化学社製1000W、DX80、DX81、DX82、D
X83、100FD、日本ゼオン社製MR−104、MR−105、MR110、MR1
00、MR555、400X−110A、日本ポリウレタン社製ニッポランN2301、
N2302、N2304、大日本インキ社製パンデックスT−5105、T−R3080
、T−5201、バーノックD−400、D−210−80、クリスボン6109、72
09、東洋紡社製バイロンUR8200、UR8300、UR−8700、RV530、
RV280、大日精化社製ダイフェラミン4020、5020、5100、5300、9
020、9022、7020、三菱化学社製MX5004、三洋化成社製サンプレンSP
−150、旭化成社製サランF310、F210などを挙げることができる。
【0032】
本発明の磁性層に用いられる結合剤の添加量は、強磁性粉末の質量に対して5〜50質
量%の範囲、好ましくは10〜30質量%の範囲である。ポリウレタンを用いる場合は2
〜20質量%、ポリイソシアネートは2〜20質量%の範囲でこれらを組み合わせて用い
ることが好ましいが、例えば、微量の脱塩素によりヘッド腐食が起こる場合には、ポリウ
レタンのみ又はポリウレタンとイソシアネートのみを使用することも可能である。熱可塑
性樹脂を併用する場合は、0.1〜15質量%の範囲であることが好ましい。本発明にお
いて、ポリウレタンを用いる場合はガラス転移温度が−50〜150℃、好ましくは0〜
100℃、破断伸びが100〜2000%、破断応力は0.49〜98MPa(0.05
〜10kg/mm2)、降伏点は0.49〜98MPa(0.05〜10kg/mm2
が好ましい。
【0033】
本発明で用いる磁気記録媒体は、例えばフレキシブルディスクである場合、非磁性支持
体の両面に2層以上から構成できる。したがって、結合剤量、結合剤中に占める塩化ビニ
ル系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート、あるいはそれ以外の樹脂量、磁性層
を形成する各樹脂の分子量、極性基量、あるいは先に述べた樹脂の物理特性などを必要に
応じ非磁性層、各磁性層とで変えることはもちろん可能であり、むしろ各層で最適化すべ
きであり、多層磁性層に関する公知技術を適用できる。例えば、各層で結合剤量を変更す
る場合、磁性層表面の擦傷を減らすためには磁性層の結合剤量を増量することが有効であ
り、ヘッドに対するヘッドタッチを良好にするためには、非磁性層の結合剤量を多くして
柔軟性を持たせることができる。
【0034】
本発明で使用可能なポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート
、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キ
シリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、o−トルイジンジ
イソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート
等のイソシアネート類、また、これらのイソシアネート類とポリアルコールとの生成物、
また、イソシアネート類の縮合によって生成したポリイソシアネート等を挙げることがで
きる。これらのイソシアネート類の市販されている商品名としては、日本ポリウレタン社
製コロネートL、コロネートHL、コロネート2030、コロネート2031、ミリオネ
ートMRミリオネートMTL、武田薬品社製タケネートD−102、タケネートD−11
0N、タケネートD−200、タケネートD−202、住化バイエル社製デスモジュール
L,デスモジュールIL、デスモジュールN、デスモジュールHL等があり、これらを単
独又は硬化反応性の差を利用して二つもしくはそれ以上の組み合せで各層とも用いること
ができる。
【0035】
本発明における磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤として
は、研磨剤、潤滑剤、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤、カー
ボンブラックなどを挙げることができる。これら添加剤としては、例えば、二硫化モリブ
デン、二硫化タングステン、グラファイト、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、シリコーンオイル
、極性基を持つシリコーン、脂肪酸変性シリコーン、フッ素含有シリコーン、フッ素含有
アルコール、フッ素含有エステル、ポリオレフィン、ポリグリコール、ポリフェニルエー
テル、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、フェネチルホスホン酸、α−メチルベ
ンジルホスホン酸、1−メチル−1−フェネチルホスホン酸、ジフェニルメチルホスホン
酸、ビフェニルホスホン酸、ベンジルフェニルホスホン酸、α−クミルホスホン酸、トル
イルホスホン酸、キシリルホスホン酸、エチルフェニルホスホン酸、クメニルホスホン酸
、プロピルフェニルホスホン酸、ブチルフェニルホスホン酸、ヘプチルフェニルホスホン
酸、オクチルフェニルホスホン酸、ノニルフェニルホスホン酸等の芳香族環含有有機ホス
ホン酸及びそのアルカリ金属塩、オクチルホスホン酸、2−エチルヘキシルホスホン酸、
イソオクチルホスホン酸、イソノニルホスホン酸、イソデシルホスホン酸、イソウンデシ
ルホスホン酸、イソドデシルホスホン酸、イソヘキサデシルホスホン酸、イソオクタデシ
ルホスホン酸、イソエイコシルホスホン酸等のアルキルホスホン酸及びそのアルカリ金属
塩、リン酸フェニル、リン酸ベンジル、リン酸フェネチル、リン酸α−メチルベンジル、
リン酸1−メチル−1−フェネチル、リン酸ジフェニルメチル、リン酸ビフェニル、リン
酸ベンジルフェニル、リン酸α−クミル、リン酸トルイル、リン酸キシリル、リン酸エチ
ルフェニル、リン酸クメニル、リン酸プロピルフェニル、リン酸ブチルフェニル、リン酸
ヘプチルフェニル、リン酸オクチルフェニル、リン酸ノニルフェニル等の芳香族リン酸エ
ステル及びそのアルカリ金属塩、リン酸オクチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸イ
ソオクチル、リン酸イソノニル、リン酸イソデシル、リン酸イソウンデシル、リン酸イソ
ドデシル、リン酸イソヘキサデシル、リン酸イソオクタデシル、リン酸イソエイコシル等
のリン酸アルキルエステル及びそのアルカリ金属塩、アルキルスルホン酸エステル及びそ
のアルカリ金属塩、フッ素含有アルキル硫酸エステル及びそのアルカリ金属塩、ラウリン
酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ステアリン酸ブチル、オレ
イン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、エルカ酸等の炭素数10〜24の不飽
和結合を含んでも分岐していても良い一塩基性脂肪酸及びこれらの金属塩、又はステアリ
ン酸ブチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸アミル、ステアリン酸イソオクチル、
ミリスチン酸オクチル、ラウリル酸ブチル、ステアリン酸ブトキシエチル、アンヒドロソ
ルビタンモノステアレート、アンヒドロソルビタントリステアレート等の炭素数10〜2
4の不飽和結合を含んでも分岐していても良い一塩基性脂肪酸と、炭素数2〜22の不飽
和結合を含んでも分岐していても良い1〜6価アルコール、炭素数12〜22の不飽和結
合を含んでも分岐していても良いアルコキシアルコールまたはアルキレンオキサイド重合
物のモノアルキルエーテルのいずれか一つとからなるモノ脂肪酸エステル、ジ脂肪酸エス
テル又は多価脂肪酸エステル、炭素数2〜22の脂肪酸アミド、炭素数8〜22の脂肪族
アミンなどが使用できる。また、上記炭化水素基以外にもニトロ基およびF、Cl、Br
、CF3、CCl3、CBr3等の含ハロゲン炭化水素等炭化水素基以外の基が置換した
アルキル基、アリール基、アラルキル基を持つものでもよい。
【0036】
また、アルキレンオキサイド系、グリセリン系、グリシドール系、アルキルフエノール
エチレンオキサイド付加体等のノニオン界面活性剤、環状アミン、エステルアミド、第四
級アンモニウム塩類、ヒダントイン誘導体、複素環類、ホスホニウム又はスルホニウム類
等のカチオン系界面活性剤、カルボン酸、スルホン酸、硫酸エステル基等の酸性基を含む
アニオン界面活性剤、アミノ酸類、アミノスルホン酸類、アミノアルコールの硫酸又はリ
ン酸エステル類、アルキルベタイン型等の両性界面活性剤等も使用できる。これらの界面
活性剤については、「界面活性剤便覧」(産業図書株式会社発行)に詳細に記載されてい
る。
【0037】
上記潤滑剤、帯電防止剤等は必ずしも純粋ではなく主成分以外に異性体、未反応物、副
反応物、分解物、酸化物等の不純分が含まれても構わない。これらの不純分は30質量%
以下が好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0038】
これらの添加物の具体例としては、例えば、日本油脂社製:NAA−102、ヒマシ油
硬化脂肪酸、NAA−42、カチオンSA、ナイミーンL−201、ノニオンE−208
、アノンBF、アノンLG、竹本油脂社製:FAL−205、FAL−123、新日本理
化社製:エヌジエルブOL、信越化学社製:TA−3、ライオン社製:アーマイドP、ラ
イオン社製:デュオミンTDO、日清オイリオ社製:BA−41G、三洋化成社製:プロ
フアン2012E、ニューポールPE61、イオネットMS−400等が挙げられる。
【0039】
また、本発明における磁性層には、必要に応じてカーボンブラックを添加することがで
きる。磁性層で使用可能なカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマ
ル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。比表面積は5〜5
00m2/g、DBP吸油量は10〜400ml/100g、粒子径は5〜300nm、
pHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい

【0040】
本発明に用いられるカーボンブラックの具体的な例としては、キャボット社製BLAC
KPEARLS 2000、1300、1000、900、905、800、700、V
ULCAN XC−72、旭カーボン社製#80、#60、#55、#50、#35、三
菱化学社製#2400B、#2300、#900、#1000、#30、#40、#10
B、コロンビアンカーボン社製CONDUCTEX SC、RAVEN150、50、4
0、15、RAVEN−MT−P、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッ
チェンブラックECなどが挙げられる。カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり
、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用したり
してもかまわない。また、カーボンブラックを磁性塗料に添加する前にあらかじめ結合剤
で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは単独又は組み合せで使用すること
ができる。カーボンブラックを使用する場合、磁性体の質量に対して0.1〜30質量%
で用いることが好ましい。カーボンブラックは磁性層の帯電防止、摩擦係数低減、遮光性
付与、膜強度向上などの働きがあり、これらは用いるカーボンブラックにより異なる。し
たがって本発明で使用されるこれらのカーボンブラックは、磁性層及び非磁性層でその種
類、量、組み合せを変え、粒子サイズ、吸油量、電導度、pHなどの先に示した諸特性を
基に目的に応じて使い分けることはもちろん可能であり、むしろ各層で最適化すべきもの
である。本発明の磁性層で使用できるカーボンブラックは、例えば「カーボンブラック便
覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。
【0041】
本発明で用いられる有機溶剤は公知のものが使用できる。本発明で用いられる有機溶媒
は、任意の比率でアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチ
ルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン、等のケトン類、メタノ
ール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルア
ルコール、メチルシクロヘキサノールなどのアルコール類、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢
酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコール等のエステル類、グリコ
ールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサンなどのグリコールエ
ーテル系、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼンなどの芳香族炭
化水素類、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチ
レンクロルヒドリン、ジクロルベンゼン等の塩素化炭化水素類、N,N−ジメチルホルム
アミド、ヘキサン等を使用することができる。
【0042】
これら有機溶媒は必ずしも100%純粋ではなく、主成分以外に異性体、未反応物、副
反応物、分解物、酸化物、水分等の不純分が含まれてもかまわない。これらの不純分は3
0%以下が好ましく、さらに好ましくは10%以下である。本発明で用いる有機溶媒は磁
性層と非磁性層でその種類は同じであることが好ましい。その添加量は変えてもかまわな
い。非磁性層に表面張力の高い溶媒(シクロヘキサノン、ジオキサンなど)を用い塗布の
安定性を上げる、具体的には上層溶剤組成の算術平均値が非磁性層溶剤組成の算術平均値
を下回らないことが肝要である。分散性を向上させるためにはある程度極性が強い方が好
ましく、溶剤組成の内、誘電率が15以上の溶剤が50%以上含まれることが好ましい。
また、溶解パラメータは8〜11であることが好ましい。
【0043】
本発明で使用されるこれらの分散剤、潤滑剤、界面活性剤は、磁性層、さらに後述する
非磁性層でその種類、量を必要に応じて使い分けることができる。例えば、無論ここに示
した例のみに限られるものではないが、分散剤は極性基で吸着又は結合する性質を有して
おり、磁性層では主に強磁性金属粉末の表面に、また非磁性層では主に非磁性粉末の表面
に前記の極性基で吸着又は結合し、例えば、一度吸着した有機リン化合物は、金属又は金
属化合物等の表面から脱着し難いと推察される。したがって、本発明の強磁性金属粉末表
面又は非磁性粉末表面は、アルキル基、芳香族基等で被覆されたような状態になるので、
該強磁性金属粉末又は非磁性粉末の結合剤樹脂成分に対する親和性が向上し、さらに強磁
性金属粉末あるいは非磁性粉末の分散安定性も改善される。また、潤滑剤としては遊離の
状態で存在するため非磁性層、磁性層で融点の異なる脂肪酸を用い、表面へのにじみ出し
を制御する、沸点や極性の異なるエステル類を用い表面へのにじみ出しを制御する、界面
活性剤量を調節することで塗布の安定性を向上させる、潤滑剤の添加量を非磁性層で多く
して潤滑効果を向上させるなどが考えられる。また本発明で用いられる添加剤のすべて又
はその一部は、磁性層又は非磁性層用の塗布液の製造時のいずれの工程で添加してもよい
。例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混
練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添
加する場合などがある。
【0044】
[非磁性層]
次に非磁性層に関する詳細な内容について説明する。本発明の磁気記録媒体は、非磁性
支持体上に非磁性粉末と結合剤を含む非磁性層を有することができる。非磁性層に使用で
きる非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用で
きる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化
物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。
【0045】
具体的には二酸化チタン等のチタン酸化物、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステ
ン、ZnO、ZrO2、SiO2、Cr23、α化率90〜100%のα−アルミナ、
β−アルミナ、γ−アルミナ、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタン
カーバイト、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、2硫化モリブデン、酸化銅、MgCO3
CaCO3、BaCO3、SrCO3、BaSO4、炭化珪素、炭化チタンなどが単独又
は2種類以上を組み合わせて使用される。好ましいのは、α−酸化鉄、酸化チタンである

【0046】
非磁性粉末の形状は、針状、球状、多面体状、板状、ウイスカーのいずれでもあっても
よい。非磁性粉末の結晶子サイズは、4nm〜1μmが好ましく、40〜100nmがさ
らに好ましい。結晶子サイズが4nm〜1μmの範囲であれば、分散が困難になることも
なく、また好適な表面粗さを有するため好ましい。これら非磁性粉末の平均粒径は、5n
m〜2μmが好ましいが、必要に応じて平均粒径の異なる非磁性粉末を組み合わせたり、
単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くしたりして同様の効果をもたせることもできる。と
りわけ好ましい非磁性粉末の平均粒径は、10〜200nmである。5nm〜2μmの範
囲であれば、分散も良好で、かつ好適な表面粗さを有するため好ましい。
【0047】
非磁性粉末の比表面積は、1〜100m2/gであり、好ましくは5〜70m2/gで
あり、さらに好ましくは10〜65m2/gである。比表面積が1〜100m2/gの範
囲内にあれば、好適な表面粗さを有し、かつ、所望の結合剤量で分散できるため好ましい
。ジブチルフタレート(DBP)を用いた吸油量は、5〜100ml/100g、好まし
くは10〜80ml/100g、さらに好ましくは20〜60ml/100gである。比
重は1〜12、好ましくは3〜6である。タップ密度は0.05〜2g/ml、好ましく
は0.2〜1.5g/mlである。タップ密度が0.05〜2g/mlの範囲であれば、
飛散する粒子が少なく操作が容易であり、また装置にも固着しにくくなる傾向がある。非
磁性粉末のpHは2〜11であることが好ましいが、pHは6〜9の間が特に好ましい。
pHが2〜11の範囲にあれば、高温、高湿下又は脂肪酸の遊離により摩擦係数が大きく
なることはない。非磁性粉末の含水率は、0.1〜5質量%、好ましくは0.2〜3質量
%、さらに好ましくは0.3〜1.5質量%である。含水量が0.1〜5質量%の範囲で
あれば、分散も良好で、分散後の塗料粘度も安定するため好ましい。強熱減量は、20質
量%以下であることが好ましく、強熱減量が小さいものが好ましい。
【0048】
また、非磁性粉末が無機粉体である場合には、モース硬度は4〜10のものが好ましい
。モース硬度が4〜10の範囲であれば耐久性を確保することができる。非磁性粉末のス
テアリン酸吸着量は、1〜20μmol/m2であり、さらに好ましくは2〜15μmo
l/m2である。非磁性粉末の25℃での水への湿潤熱は、200〜600erg/cm
2(200〜600mJ/m2)の範囲にあることが好ましい。また、この湿潤熱の範囲
にある溶媒を使用することができる。100〜400℃での表面の水分子の量は1〜10
個/100Åが適当である。水中での等電点のpHは、3〜9の間にあることが好ましい
。これらの非磁性粉末の表面には表面処理が施されることによりAl23、SiO2、TiO2、ZrO2、SnO2、Sb23、ZnOが存在することが好ましい。特に分散性に好ましいのはAl23、SiO2、TiO2、ZrO2であるが、さらに好ましいのはAl23、SiO2、ZrO2である。これらは組み合わせて使用してもよいし、単独で用いることもできる。また、目的に応じて共沈させた表面処理層を用いてもよいし、先ずアルミナで処理した後にその表層をシリカで処理する方法、またはその逆の方法を採ることもできる。また、表面処理層は目的に応じて多孔質層にしても構わないが、均質で密である方が一般には好ましい。
【0049】
本発明の非磁性層に用いられる非磁性粉末の具体的な例としては、例えば、昭和電工製
ナノタイト、住友化学製HIT−100、ZA−G1、戸田工業社製DPN−250、D
PN−250BX、DPN−245、DPN−270BX、DPB−550BX、DPN
−550RX、石原産業製酸化チタンTTO−51B、TTO−55A、TTO−55B
、TTO−55C、TTO−55S、TTO−55D、SN−100、MJ−7、α−酸
化鉄E270、E271、E300、チタン工業製STT−4D、STT−30D、ST
T−30、STT−65C、テイカ製MT−100S、MT−100T、MT−150W
、MT−500B、T−600B、T−100F、T−500HDなどが挙げられる。堺
化学製FINEX−25、BF−1、BF−10、BF−20、ST−M、同和鉱業製D
EFIC−Y、DEFIC−R、日本アエロジル製AS2BM、TiO2P25、宇部興
産製100A、500A、チタン工業製Y−LOP及びそれを焼成したものが挙げられる
。特に好ましい非磁性粉末は二酸化チタンとα−酸化鉄である。
【0050】
非磁性層には非磁性粉末と共に、カーボンブラックを混合し表面電気抵抗を下げ、光透
過率を小さくすると共に、所望のマイクロビッカース硬度を得ることができる。非磁性層
のマイクロビッカース硬度は、通常25〜60kg/mm2(245〜588MPa)、
好ましくはヘッド当りを調整するために、30〜50kg/mm2(294〜490MP
a)であり、薄膜硬度計(日本電気製HMA−400)を用いて、稜角80度、先端半径
0.1μmのダイヤモンド製三角錐針を圧子先端に用いて測定することができる。光透過
率は一般に波長900nm程度の赤外線の吸収が3%以下、たとえばVHS用磁気テープ
では0.8%以下であることが規格化されている。このためにはゴム用ファーネス、ゴム
用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。
【0051】
本発明の非磁性層に用いられるカーボンブラックの比表面積は100〜500m2/g
、好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は20〜400ml/100g、好
ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は5〜80nm
、好ましく10〜50nm、さらに好ましくは10〜40nmである。カーボンブラック
のpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好まし
い。
【0052】
本発明の非磁性層に用いることができるカーボンブラックの具体的な例としては、キャ
ボット社製BLACKPEARLS 2000、1300、1000、900、800、
880、700、VULCAN XC−72、三菱化学社製#3050B、#3150B
、#3250B、#3750B、#3950B、#950、#650B、#970B、#
850B、MA−600、コロンビアカーボン社製CONDUCTEX SC、RAVE
N8800、8000、7000、5750、5250、3500、2100、2000
、1800、1500、1255、1250、ケッチェン・ブラック・インターナショナ
ル社製ケッチェンブラックECなどが挙げられる。
【0053】
また、カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用し
ても、表面の一部をグラファイト化したものを使用してもかまわない。また、カーボンブ
ラックを塗料に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボ
ンブラックは上記無機粉末に対して50質量%を越えない範囲、非磁性層総質量の40%
を越えない範囲で使用できる。これらのカーボンブラックは単独、または組み合せで使用
することができる。本発明の非磁性層で使用できるカーボンブラックは例えば「カーボン
ブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。
【0054】
また非磁性層には目的に応じて有機質粉末を添加することもできる。このような有機質
粉末としては、例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラ
ミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポ
リエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチ
レン樹脂も使用することができる。その製法は、特開昭62−18564号公報、特開昭
60−255827号公報に記されているようなものが使用できる。
【0055】
非磁性層の結合剤樹脂、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層の
それが適用できる。特に、結合剤樹脂量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関して
は磁性層に関する公知技術が適用できる。
【0056】
また、本発明の磁気記録媒体は、下塗り層を設けてもよい。下塗り層を設けることによ
って支持体と磁性層又は非磁性層との接着力を向上させることができる。下塗り層として
は、溶剤への可溶性のポリエステル樹脂が使用される。
【0057】
[層構成]
本発明で用いられる磁気記録媒体の厚み構成は、非磁性支持体の厚みが前述のように3
〜80μm、より好ましくは3〜50μm、とくに好ましくは3〜10μmである。また
、非磁性支持体と非磁性層又は磁性層の間に下塗り層を設けた場合、下塗り層の厚みは、
0.01〜0.8μm、好ましくは0.02〜0.6μmである。
【0058】
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域
により最適化されるものであるが、一般には10〜150nmであり、好ましくは20〜
120nmであり、さらに好ましくは30〜100nmであり、とくに好ましくは30〜
80nmである。また、磁性層の厚み変動率は±50%以内が好ましく、さらに好ましく
は±40%以内である。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を
有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0059】
本発明の非磁性層の厚みは、0.5〜2.0μmであり、0.8〜1.5μmであるこ
とが好ましく、0.8〜1.2μmであることが更に好ましい。なお、本発明の磁気記録
媒体の非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純
物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであ
り、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に
同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT以下又は抗磁力が7.96kA/m(10
0Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味
する。
【0060】
[バック層]
本発明の磁気記録媒体には、非磁性支持体の他方の面にバック層を設けるのが好ましい
。バック層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。結合剤
、各種添加剤は、磁性層や非磁性層の処方が適用される。バック層の厚みは、0.9μm
以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。
【0061】
[製造方法]
本発明の製造方法は、非磁性支持体の少なくとも一方の面に強磁性粉末と結合剤とを含
む磁性層用塗料を塗布し、塗布原反を得る工程と、前記塗布原反を巻き取りロールに巻き
取る工程と、前記巻き取りロールに巻き取られた塗布原反を巻き出し、カレンダー処理す
る工程とを有する。
【0062】
本発明で用いられる磁性層用塗料または非磁性層用塗料を製造する工程は、少なくとも
混練工程、分散工程、及びこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。
個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で用いられる強磁
性粉末、非磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨材、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤な
どすべての原料はどの工程の最初又は途中で添加してもかまわない。また個々の原料を別
々に分散し任意の工程で添加してもよい。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して
添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整
のための混合工程で分割して投入してもよい。本発明の目的を達成するためには、従来の
公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、
連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好
ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−
79274号公報に記載されている。また、磁性層用塗料及び非磁性層用塗料を分散させ
るには、ガラスビーズを用いることができる。このようなガラスビーズは、高比重の分散
メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これ
ら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は機械式、メカノケミカ
ル式、超音波式など公知のものを使用することができる。
【0063】
本発明の磁気記録媒体の製造方法では、例えば、走行下にある非磁性支持体の表面に磁
性層用塗料を所定の膜厚となるようにして磁性層を塗布して形成する。ここで複数の磁性
層用塗料を逐次又は同時に重層塗布してもよく、非磁性層用塗料と磁性層用塗料とを逐次
又は同時に重層塗布してもよい。上記磁性層用塗料又は非磁性層用塗料を塗布する塗布機
としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エア
ナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロ
ールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコ
ート等が利用できる。これらについては例えば(株)総合技術センター発行の「最新コー
ティング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。
【0064】
磁性層用塗料の塗布層は、磁気テープの場合、磁性層用塗料の塗布層中に含まれる強磁
性金属粉末にコバルト磁石やソレノイドを用いて長手方向に磁場配向処理を施す。ディス
クの場合、配向装置を用いず無配向でも十分に等方的な配向性が得られることもあるが、
コバルト磁石を斜めに交互に配置すること、ソレノイドで交流磁場を印加するなど公知の
ランダム配向装置を用いることが好ましい。等方的な配向とは強磁性金属粉末の場合、一
般的には面内2次元ランダムが好ましいが、垂直成分をもたせて3次元ランダムとするこ
ともできる。また異極対向磁石など公知の方法を用い、垂直配向とすることで円周方向に
等方的な磁気特性を付与することもできる。特に高密度記録を行う場合は垂直配向が好ま
しい。また、スピンコートを用いて円周配向することもできる。
【0065】
乾燥風の温度、風量、塗布速度を制御することで塗膜の乾燥位置を制御できる様にする
ことが好ましく、塗布速度は20m/分〜1000m/分、乾燥風の温度は60℃以上が
好ましい、また磁石ゾーンに入る前に適度の予備乾燥を行うこともできる。
【0066】
このようにして得られた塗布原反は、一旦巻き取りロールにより巻き取られ、しかる後
、この巻き取りロールから巻き出され、カレンダー処理に施される。
カレンダー処理には、例えばスーパーカレンダーロールなどが利用される。カレンダー
処理によって、表面平滑性が向上するとともに、乾燥時の溶剤の除去によって生じた空孔
が消滅し磁性層中の強磁性粉末の充填率が向上するので、電磁変換特性の高い磁気記録媒
体を得ることができる。本発明では、カレンダー処理する工程が、塗布原反の表面の平滑
性に応じて、カレンダー処理条件を変化させながら行われることを特徴としている。本発
明のカレンダー処理工程は、逐次塗布、タンデム塗布の任意の中間工程、磁性層、中間層
、下地層、バック層の各々の層を設けた前後の工程で施してもよい。
【0067】
図3(b)は、従来の巻き取りロールに巻き取られた塗布原反の長手方向における光沢値を示す図である。図3(c)は、その結果得られた製品の光沢度分布を巻き取りロールの位置に対応させて示したものであり、巻き取りロールの芯側、外側に分布のばらつきが生じる。本発明者らの検討によれば、図3(b)に示すように、塗布原反は、概ね、巻き取りロールの芯側から外側に向かって光沢値が低下し、長手方向において品質にばらつきがあることが認められた。なお光沢値は、表面粗さRaと相関(比例関係)があることが知られている。したがって、図3(a)に示したように、カレンダー処理工程で、カレンダー処理条件、例えばカレンダーロール圧力を変化させず一定に保持すると、塗布原反の巻き取りによって生じた長手方向における平滑性の相違について何ら対策が講じられていないことになり、最終製品も長手方向に品質のばらつきが生じる。
これに対し本発明では、図1(a)に示すように、カレンダー処理工程で、カレンダー処理条件、例えばカレンダーロール圧力を変化させ、塗布原反の巻き取りによって生じた長手方向における平滑性の相違を相殺している。具体的には、塗布原反の長手方向の表面の光沢値は図3(b)に示すような曲線を有することが分かっているので、図1(a)に示すように、巻き取りロールから巻き出された塗布原反の外側から芯側に向かってカレンダーロールの圧力を低下させている。本発明者らの検討によれば、カレンダーロールの圧力を下げると光沢値は低下する(平滑性が低下する)ことが見出されている(なお、図1(a)において、カレンダー処理の時間の流れは、外側から芯側である)。これにより、塗布原反の巻き取りによって生じた長手方向における平滑性の相違が相殺され、長手方向において品質にばらつきのない最終製品が得られる。すなわち、図1(c)に示したように、その結果得られた製品の光沢度分布は、巻き取りロールの芯側、外側で一定である。
巻き取りロールの光沢度(平滑度)分布が、一定圧力のカレンダー処理後に熱処理(例えば、60℃、48時間)を入れると、図1(b)と光沢度分布が逆になる場合は、それを見越して図2(a)に示すようなカレンダー圧力分布に従ってカレンダー処理を施した後、巻き取りロールに巻き取り、熱処理を施すことにより、図2(b)に示すような芯側及び外側で均一な光沢度、表面性(Ra)を有する最終製品を得ることができる。
【0068】
なお、前記ではカレンダーロールの圧力を変化させる例について説明したが、これ以外
にも、カレンダーロール温度、カレンダーロール速度、カレンダーロールテンションを制
御することによって行うことができる。中でも、物性値を確実にコントロールしやすいと
いう理由から、カレンダーロール圧力、カレンダーロール温度を制御するのが好ましい。
カレンダーロール圧力を低くする、あるいはカレンダーロール温度を低くすることにより
、最終製品の表面平滑性は低下する。逆に、カレンダーロール圧力を高くする、あるいは
カレンダーロール温度を高くすることにより、最終製品の表面平滑性は高まる。
ここに例示した以外に、実際の工程は、複雑で複数回のまきかえ(ロール芯外の逆転)、各工程での滞留時間差により光沢値は複雑に変化し、変動する。これらの動きを予測し、カレンダー条件を任意に変更し、最終製品の光沢値、表面性(Ra)を一定にする事が本発明の狙いである。
【0069】
カレンダー処理条件の選定は、例えば次のようにして行うことができる。
(1)カレンダー処理条件を変化させることにより、表面平滑性(例えば光沢値)がど
のくらい変化するのか、その相関関係を調べ、検量線を作成する。なおこの検量線は、非
磁性支持体、磁性層用塗料、非磁性層用塗料の配合処方ごとに作成する。また、磁性層用
塗料の塗布後の経過時間によっても、カレンダー処理条件と表面平滑性の相関関係は変化
するので、前記配合処方の検量線は、当該経過時間ごとに準備する。これらの検量線をマ
スターデータとする。
(2)巻き取りロールから巻き出された塗布原反の長手方向における表面平滑性(例え
ば光沢値)を調べる。
(3)最終製品として望まれる表面平滑性(例えば光沢値)を得るために、塗布原反の
長手方向に応じてカレンダー処理条件をどのくらい変化させればよいのか、前記(1)お
よび(2)でそれぞれ得られた検量線および塗布原反の長手方向における表面平滑性を基
にして決定する。
【0070】
また、実際の製造工程では、塗布原反の巻き取りロール等に生産情報が入力されたIC
タグや磁気タグを取り付け、この情報からどのマスターデータを利用するか自動的に判別
されるようにし、カレンダー処理条件を決定するのが好ましい。さらに、巻き取りロール
から巻き出された塗布原反の表面を光沢測定し、結果をカレンダー処理装置にオンライン
でフィードバックし、最終製品の表面平滑性が所望の値となるように、リアルタイムでカ
レンダー処理条件を変化させることもできる。
なお、このようなカレンダー処理条件の変化によって表面の平滑性を制御する技術は、
非磁性層またはバック層の形成に応用し、それぞれの層の表面平滑性を制御することもで
きる。
【0071】
なお、カレンダー処理工程後に得られた磁気記録媒体は、通常、再度別の巻き取りロー
ルに巻き取られる。このとき、塗布原反と同様に巻き締めによる圧力の相違が生じる。し
たがって、カレンダー処理後に得られた磁気記録媒体の表面平滑性は、長手方向ですべて
一致させるのではなく、事前に前記巻き締め圧力による影響を調べることにより、該表面
平滑性の値を長手方向で傾斜させておいてもよい。
これとは別に、カレンダー処理工程後に得られた磁気記録媒体を巻き取る前に、サーモ
処理して熱硬化を進行させ、前記巻き締め圧力による影響を緩和させるのが好ましい。こ
のようなサーモ処理は、磁性層用塗料の配合処方により適宜決定すればよいが、例えば3
5〜100℃であり、好ましくは40〜70℃である。またサーモ処理時間は、5〜72
時間、好ましくは24〜54時間である。
【0072】
カレンダーロールとしてはエポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等の
耐熱性プラスチックロールを使用する。また金属ロールで処理することもできる。
【0073】
本発明の磁気記録媒体は、表面の中心面平均粗さが、カットオフ値0.25mmにおい
て0.1〜4nm、好ましくは1〜3nmの範囲という極めて優れた平滑性を有する表面
であることが好ましい。そのために採用されるカレンダー処理条件としては、カレンダー
ロールの温度を60〜120℃の範囲、好ましくは70〜100℃の範囲、特に好ましく
は80〜100℃の範囲であり、圧力は100〜500kg/cm(98〜490kN/
m)の範囲であり、好ましくは200〜450kg/cm(196〜441kN/m)の
範囲であり、特に好ましくは300〜400kg/cm(294〜392kN/m)の範
囲の条件が好ましい。
【0074】
得られた磁気記録媒体は、裁断機などを使用して所望の大きさに裁断して使用すること
ができる。裁断機としては、特に制限はないが、回転する上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の
組が複数設けられたものが好ましく、適宜、スリット速度、噛み合い深さ、上刃(雄刃)
と下刃(雌刃)の周速比(上刃周速/下刃周速)、スリット刃の連続使用時間等が選定さ
れる。
【0075】
[物理特性]
本発明に用いられる磁気記録媒体の磁性層の飽和磁束密度は100〜300mTが好ま
しい。また磁性層の抗磁力(Hr)は、143.3〜318.4kA/m(1800〜4
000Oe)が好ましく、159.2〜278.6kA/m(2000〜3500Oe)
が更に好ましい。抗磁力の分布は狭い方が好ましく、SFD及びSFDrは0.6以下、
さらに好ましくは0.2以下である。
【0076】
本発明で用いられる磁気記録媒体のヘッドに対する摩擦係数は、温度−10〜40℃、
湿度0〜95%の範囲において0.50以下であり、好ましくは0.3以下である。また
、表面固有抵抗は、好ましくは磁性面104〜1012Ω/sq、帯電位は−500V〜
+500V以内が好ましい。磁性層の0.5%伸びでの弾性率は、面内各方向で好ましく
は0.98〜19.6GPa(100〜2000kg/mm2)、破断強度は、好ましく
は98〜686MPa(10〜70kg/mm2)、磁気記録媒体の弾性率は、面内各方
向で好ましくは0.98〜14.7GPa(100〜1500kg/mm2)、残留のび
は、好ましくは0.5%以下、100℃以下のあらゆる温度での熱収縮率は、好ましくは
1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、最も好ましくは0.1%以下である。
【0077】
磁性層のガラス転移温度(110Hzで測定した動的粘弾性測定の損失弾性率の極大点
)は50〜180℃が好ましく、非磁性層のそれは0〜180℃が好ましい。損失弾性率
は1×107〜8×108Pa(1×108〜8×109dyne/cm2)の範囲にあ
ることが好ましく、損失正接は0.2以下であることが好ましい。損失正接が大きすぎる
と粘着故障が発生しやすい。これらの熱特性や機械特性は媒体の面内各方向において10
%以内でほぼ等しいことが好ましい。
【0078】
磁性層中に含まれる残留溶媒は好ましくは100mg/m2以下、さらに好ましくは1
0mg/m2以下である。塗布層が有する空隙率は非磁性層、磁性層とも好ましくは30
容量%以下、さらに好ましくは20容量%以下である。空隙率は高出力を果たすためには
小さい方が好ましいが、目的によってはある値を確保した方が良い場合がある。例えば、
繰り返し用途が重視されるディスク媒体では空隙率が大きい方が走行耐久性は好ましいこ
とが多い。
【0079】
磁性層の最大高さSRmaxは、0.5μm以下、十点平均粗さSRzは0.3μm以下、中心面山高さSRpは0.3μm以下、中心面谷深さSRvは0.3μm以下、中心
面面積率SSrは20〜80%、平均波長Sλaは5〜300μmが好ましい。これらは
支持体のフィラーによる表面性のコントロールやカレンダー処理のロール表面形状などで
容易にコントロールすることができる。カールは±3mm以内とすることが好ましい。
【0080】
本発明の磁気記録媒体として非磁性層と磁性層で構成した場合、目的に応じ非磁性層と
磁性層でこれらの物理特性を変えることができる。例えば、磁性層の弾性率を高くし走行
耐久性を向上させると同時に非磁性層の弾性率を磁性層より低くして磁気記録媒体のヘッ
ドへの当りを良くすることができる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明は下記例に限定されるものではない

なお実施例中の「部」の表示は「質量部」を示す。
【0082】
(実施例1)
《非磁性層用塗料成分》
(1)
酸化鉄粉末(平均粒径:0.06×0.01μm) 72部
α−アルミナ(平均粒径:0.05μm) 8部
カーボンブラック 20部
(平均粒径:20nm、DBP吸油量:200ml/100g)
ステアリン酸/パルミチン酸(1/1) 5部
塩化ビニル共重合体 12部
(含有−SO3Na基:1.2×10-4当量/g)
ポリエステルポリウレタン樹脂 5部
(Tg:40℃、含有−SO3Na基:1×10-4当量/g)
シクロヘキサノン 30部
メチルエチルケトン 60部
トルエン 5部
(2)
ステアリン酸イソオクチル 3部
オレイン酸オレート 2部
シクロヘキサノン 40部
メチルエチルケトン 80部
トルエン 20部
(3)
ポリイソシアネート 5部
シクロヘキサノン 8部
メチルエチルケトン 18部
トルエン 5部
【0083】
《磁性層用塗料成分》
(1)
強磁性鉄系金属粉 100部
(Co/Fe:21at%,Y/(Fe+Co):8at%,Al/(Fe+Co):5
wt%、Ca/Fe:0wt%、σs:155A・m2/kg、Hc:149.6kA/
m、pH:9.4、平均長軸長:0.10μm)
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 13部
(含有−SO3Na基:0.7×10-4当量/g)
ポリエステルポリウレタン樹脂 5部
(含有−SO3Na基:1.0×10-4当量/g)
α−アルミナ(平均粒径:0.12μm) 8部
α−アルミナ(平均粒径:0.07μm) 2部
カーボンブラック 1部
(平均粒径:75nm、DBP吸油量:72ml/100g)
メチルアシッドホスフェート 2部
パルミチン酸アミド 1.5部
ステアリン酸イソオクチル 5部
ステアリン酸 0.5部
ジエチレングリコール 1部
テトラヒドロフラン 65部
メチルエチルケトン 245部
トルエン 85部
(2)
ポリイソシアネート 2部
シクロヘキサノン 167部
【0084】
なお、上記メチルアシッドホスフェートは以下のものを用いた。
【0085】
【化1】

【0086】
上記式中、nは1または2、m.w:119、SG:1.43、酸価:KOHmg/g
650<、リン:26.1%である。
【0087】
《バック層用塗料成分》
カーボンブラック(平均粒径:19nm) 90部
カーボンブラック(平均粒径:350nm) 5部
酸化鉄(平均長軸長:0.1μm、軸比:約10) 5部
ニトロセルロース 40部
ポリウレタン樹脂(SO3Na基含有) 30部
シクロヘキサノン 250部
トルエン 220部
メチルエチルケトン 600部
【0088】
上記の非磁性層用塗料成分において(1)をニーダで混練したのち、(2)を加えて攪
拌の後サンドミルで滞留時間を90分として分散処理を行い、これに(3)を加え攪拌・濾
過した後、非磁性塗料とした。これとは別に、上記の磁性層用塗料成分(1)をニーダで
混練したのち、サンドミルで滞留時間を60分として分散し、これに磁性層用塗料成分(2
)を加え攪拌・濾過後、磁性塗料とした。上記の非磁性塗料を、ポリエチレンテレタレー
トフイルム(厚さ6.0μm、MD方向のヤング率=7.0GPa、MD方向のヤング率
/TD方向のヤング率=1.5)に乾燥後の厚さが0.8μmになるように塗布し、この
非磁性層上に、上記の磁性塗料を乾燥後の厚さが0.2μmになるように塗布し、磁場配
向処理し、乾燥し、磁気シートを得た。なお、前記磁場配向処理は、ドライヤ前にN−N
対抗磁石500mT(5kG)を設置し、ドライヤ内で塗膜の指蝕乾燥位置の手前側75
cmからN−N対抗磁石500mT(5kG)を2基50cm間隔で設置して行った。磁
性塗料の塗布速度は300m/分とした。
続いて、上記バック層用塗料成分をサンドミルで滞留時間60分として分散した後、ポリ
イソシアネート15部を加えてバック層用塗料を調製し濾過した後、上記で作製した磁気
シートの磁性層の反対面に、乾燥・カレンダー後の厚みが0.3μmとなるように塗布し、
乾燥した。
このようにして得られた塗布原反は、長手方向に12000mの長さで作製され、巻き取り
ロールに巻き取られた。
塗布原反が巻き取りロールに巻き取られてから10時間後、塗布原反を巻き出し、長手
方向の光沢値を測定したところ、図2(a)に示すような光沢値の曲線が得られた。事前
に調べておいたカレンダー処理条件と光沢値の相関関係から、カレンダー処理工程後の磁
気記録媒体の表面光沢値が一定となるようなカレンダーロールの圧力変化をカレンダー装
置に適用した。本実施例1では、カレンダーロールの圧力を300kg/cm(294k
N/m)から280kg/cm(274kN/m)に一定割合で減少させた。カレンダー
ロールの温度は90℃とした。カレンダーロールの周速度は100m/分とした。カレン
ダー装置は、金属ロールからなる7段カレンダーである。カレンダー処理後の原反を70
℃で72時間サーモ処理したのち、12.7mm幅に裁断し、磁気テープを得た。
【0089】
得られた磁気テープに対し、下記のLDWT(ラッピング/ダイヤモンドホイール/テ
ィッシュ)処理を順次行った。
(1)ラッピング処理:研磨テープ(富士フイルム製ラッピングテープKX20000S)を、回
転ロールによってテープ送り(7m/sec)と反対方向に0.2cm/secの速さで移動させ、上
部からガイドブロックによって押さえることによってテープ磁性層表面と接触させる。こ
の時の磁気テープ巻き出しテンションを100g及びラッピングテープのテンションを200g
として磁気テープに対する研磨処理を行った。
(2)ロータリーダイヤモンドホイール処理:幅1インチ(25.4mm)、直径60mmで
2mm幅の空気抜き用溝付きのホイール(溝の角度45度)と磁性層とを接触角度90度で
テープと反対方向に回転速度1200rpmで接触させて磁気テープに対する処理を行った。
(3)ティッシュ処理:東レ株式会社製の超極細繊維トレシーを回転棒で各々バック層及
び磁気層面をテープ送りと反対方向に0.2mm/secの速度で送り、磁気テープ表裏面に対す
るクリーニング処理を行った。
【0090】
サーボライターを用いて、磁気テープの磁性層に4m/sec(4000mm/sec)の速度で磁
気サーボ信号を書き込み、この磁気テープをリールに巻装してケース本体内に組み込むこ
とにより、コンピュータ用の磁気テープカートリッジを作製した。
【0091】
このような磁気テープに対し、以下に示す特性の評価を行った。
(1)平滑性
巻き取りロールに巻き取られた塗布原反の芯側位置(巻き取りロールの芯側先端から5
0mの位置)と、外側位置(巻き取りロールの外側先端から50mの位置)に相当する、
磁気テープの中心線表面粗さRaおよび光沢値を調べた。
Raは、Wykoの光学式非接触三次元表面形状システムHD2000を用い、光沢値はスガ試験
機製光沢度計を用いて測定した。
(2)電磁変換特性
電磁変換特性の測定はリールtoリールテスタを用い、市販のヘット゛を搭載し、相対速
度2m/sec、記録トラック幅 18μm、再生トラック幅 10μm、シールド間距離0.27μ
mの条件で測定した。記録用信号発生器は、HP社製 8118A、再生信号処理 スペクトラム
アナライザをおのおの用いた。
結果を表1に示す。
【0092】
(比較例1)
実施例1において、カレンダーロールの圧力を300kg/cm(294kN/m)に
固定したこと以外は、実施例1を繰り返した。
【0093】
(実施例2)
実施例1において、カレンダーロールの温度を95℃とし、カレンダーロールの圧力を
295kg/cm(289kN/m)から280kg/cm(274kN/m)に低下さ
せたこと以外は、実施例1を繰り返した。
【0094】
(比較例2)
実施例2において、カレンダーロールの圧力を280kg/cm(274kN/m)に
固定したこと以外は、実施例2を繰り返した。
【0095】
(実施例3)
実施例1において、カレンダーロールの圧力を330kg/cm(323kN/m)に
固定し、カレンダーロールの温度を100℃から90℃に一定割合で低下させたこと以外
は、実施例1を繰り返した。
【0096】
(比較例3)
実施例3において、カレンダーロールの温度を100℃に固定したこと以外は、実施例
3を繰り返した。
【0097】
(実施例4)
実施例1において、カレンダーロールの圧力を330kg/cm(323kN/m)に
固定し、カレンダーロールの速度を100m/分から80m/分に一定割合で低下させた
こと以外は、実施例1を繰り返した。
【0098】
(比較例4)
実施例4において、カレンダーロールの速度を100m/分に固定したこと以外は、実
施例4を繰り返した。
結果を併せて表1に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
表1の結果から、カレンダー処理工程において、塗布原反の表面の平滑性に応じてカレ
ンダー処理条件を変化させながら行った本発明の各実施例では、比較例に比べて、磁気テ
ープの長手方向の品質特性が一定であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明のカレンダー処理する工程を説明するための図であり、図1(a)は本発明のカレンダー圧力分布を示したものであり、図1(b)は巻き取りロールに巻き取られた塗布原反の芯側から外側の光沢度分布を示したものであり、図1(c)は図1(a)に従って本発明によるカレンダー処理を施した後の製品の光沢度分布を示したものである。
【図2】本発明のカレンダー処理する工程を説明するための図であり、図2(a)は図1(a)とは別の本発明のカレンダー圧力を示したものであり、図2(b)は図1(a)に従って本発明によるカレンダー処理を施した後の製品の光沢度分布を示したものである。
【図3】従来のカレンダー処理する工程を説明するための図であり、図3(a)は従来のカレンダー圧力分布を示したものであり、図3(b)は巻き取りロールに巻き取られた塗布原反の芯側から外側の光沢度分布を示したものであり、図3(c)は図3(a)に従ってカレンダー処理を施した後の製品の光沢度分布を示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体の少なくとも一方の面に強磁性粉末と結合剤とを含む磁性層用塗料を塗布
し、塗布原反を得る工程と、前記塗布原反を巻き取りロールに巻き取る工程と、前記巻き
取りロールに巻き取られた塗布原反を巻き出し、カレンダー処理する工程とを有する磁気
記録媒体の製造方法であって、
前記結合剤が、熱硬化性樹脂を含み、
前記カレンダー処理する工程が、前記塗布原反の表面の平滑性に応じて、カレンダー処
理条件を変化させながら行われることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記カレンダー処理条件の変化が、カレンダーロール温度、カレンダーロール圧力、カ
レンダーロール速度および/またはカレンダーロールテンションの制御によって行われる
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記カレンダー処理条件の変化が、カレンダーロール温度またはカレンダーロール圧力
の制御によって行われることを特徴とする請求項2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記カレンダー処理する工程の後、さらに35〜100℃でサーモ処理する工程を有す
ることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記塗布原反を得る工程が、非磁性支持体の少なくとも一方の面に非磁性粉末と結合剤
とを含む非磁性層用塗料を塗布した後、その上に、強磁性粉末と結合剤とを含む磁性層用
塗料を塗布する工程であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の磁気記録媒
体の製造方法。
【請求項6】
前記塗布原反を得る工程が、非磁性粉末と結合剤とを含む非磁性層用塗料と、強磁性粉
末と結合剤とを含む磁性層用塗料とをこの順で非磁性支持体の少なくとも一方の面に同時
に塗布する工程であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の磁気記録媒体の
製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により製造された磁気記録媒体。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−12249(P2007−12249A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155370(P2006−155370)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】