説明

磁気記録媒体及びその製造方法

【課題】 記録領域の磁記特性の劣化がなく、サイドクロストークの低減やトラッキング精度の向上が実現する。
【解決手段】 磁性体材料からなる柱状構造の磁性体領域11の複数が非磁性体材料からなる非磁性体領域12で分離された構造体を用意し、この構造体の記録領域となる部分に、マスクパターン13を形成し、構造体のマスクパターン13が形成されていない領域における、複数の磁性体領域11の磁性体材料を除去あるいは磁性体材料の磁気特性を変質することで、隣接する記録領域の間を磁気的に分離する分離領域を設ける。磁性体材料はCoCrPt、非磁性体材料はSiOを用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度磁気記録技術に関し、特に、サイドクロストークの低減、およびトラッキング精度の向上を図るディスクリートトラック媒体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報量の飛躍的な増大に伴って、磁気記録装置など情報記録技術も大幅な大容量化が求められている。そのような状況の中で、ハードディスク(HDD)等の磁気記録媒体では、面記録密度の向上を図る為に、線記録密度だけでなくトラック記録密度を向上させる必要がある。
【0003】
トラック記録密度を高めるためにトラック幅を狭くすると、磁気ヘッド先端部から空間的に発散する磁界によるトラック端のにじみと隣接する記録トラック間の磁気干渉(クロストーク)により、トラック幅がばらつき、その結果、媒体ノイズの増加による再生信号の劣化が問題となってしまう。
【0004】
このような問題に対して、記録領域となる記録トラックが磁気的に分離された、ディスクリートトラック媒体が提案されている(IEEE Transactions on Magnetics Vol.25, No.5, pp3381-3383, 1989)。ディスクリートトラック媒体は、記録トラック間を充分小さくしても互いのトラック間のクロストークを効果的に抑えられることから高密度記録化が期待される。またこの種ディスクリートメディアにおいては、目的とする磁気トラックへ磁気ヘッドを正確にアクセスし得るという利点がある。
【0005】
様々なタイプのディスクリートトラック媒体の製造方法が提案されているが、媒体表面の微細加工を伴わない方法として、トラック間領域となるべき磁性層を化学的に変質させて非磁性化する方法が提案されている。例えば、磁性層に窒素イオンを注入し非磁性化させる方法(特許文献1)や、磁性層をハロゲン化して非磁性化させる方法(特許文献2)がある。
【特許文献1】特開平5-205257号公報(段落番号(0018)、(0021))
【特許文献2】特開2002-359138号公報(段落番号(0047))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来手法では、トラック間領域の磁性層を反応性ガスや注入イオンにより非磁性化するにあたり、隣接する記録トラック領域の磁性体を劣化することが懸念されており、更なる改良が求められていた。
【0007】
そこで、本発明はこのような問題点を鑑み、記録トラック領域の磁性劣化を抑え、サイドクロストークの低減やトラッキング精度の向上を実現することにより、面記録密度の向上を図るディスクリートトラック媒体、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は、本発明の以下の手段により達成される。
【0009】
本発明に係わる磁気記録媒体の製造方法は、磁性体材料からなる柱状構造の第1領域の複数が非磁性体材料からなる第2領域で分離された構造体を用意する第1工程と、前記構造体の記録領域となる部分に、マスクを形成する第2工程と、前記構造体の前記マスクが形成されていない領域における、複数の前記第1領域の前記磁性体材料を除去あるいは前記磁性体材料の磁気特性を変質する第3工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係わる磁気記録媒体は、複数の記録領域と、隣接する前記記録領域の間を磁気的に分離する分離領域とを備えた磁気記録媒体において、前記記録領域は、磁性体材料からなる柱状構造の第1領域の複数と、複数の前記第1領域を分離する、非磁性体材料からなる第2領域とで構成され、前記分離領域は、複数の柱状の空孔を有する、前記非磁性体材料からなる第3の領域で構成されていることを特徴とする。
【0011】
また本発明に係わる磁気記録媒体は、複数の記録領域と、隣接する前記記録領域の間を磁気的に分離する分離領域とを備えた磁気記録媒体において、前記記録領域は、磁性体材料からなる柱状構造の第1領域の複数と、複数の前記第1領域を分離する、非磁性体材料からなる第2領域とで構成され、前記分離領域は、前記磁性体材料の磁気特性を変質した材料からなる柱状構造の第3領域の複数と、複数の前記第3領域を分離する、非磁性体材料からなる第4領域とで構成されていることを特徴とする。
【0012】
上記本発明の製造方法において、前記第3工程は、前記構造体を反応性ガスまたは反応性溶液に暴露することで行なうことができる。
【0013】
上記本発明の製造方法及び磁気記録媒体において、前記磁性体材料としてCoCrPt、前記非磁性体材料としてSiOを用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、記録領域の磁性劣化を抑えて、サイドクロストークの低減やトラッキング精度の向上を実現し、面記録密度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0016】
<本発明に係る磁気記録媒体の製造方法>
本発明の磁気記録媒体の製造方法について以下、図面を参照して本発明を詳しく説明する。
【0017】
図1にその製造方法の概略図を示す。
(1)柱状構造の磁性体領域が非磁性体領域で分離された構造体を用意する工程
図1(a)に、柱状構造体の磁性体領域11が非磁性体領域12により分離されている構造体を示す。この構造体の作製には、1)ドライプロセスによる製造方法と、2)ナノホール構造体を用いた製造方法が挙げられる。
【0018】
1)ドライプロセスによる製造方法
ドライプロセスとはPVD (Physical vapor deposition) やCVD (chemical vapor deposition) などの手法による作成法であり、ここでは、特にマグネトロンスパッタリング法を用いることが好ましい。マグネトロンスパッタリング法を用いて、磁性材料と非磁性材料のターゲットを同時スパッタリングすることにより、柱状構造体の磁性体領域が非磁性体領域により分離されている構造体を作製する。一般的に磁性体が非磁性体中に分散した媒体をグラニュラー媒体と称するが、グラニュラー媒体では、磁性粒子間が非磁性物質の介在によりほぼ完全に磁気的に絶縁されており、磁性粒子間の交換結合が低減されて磁気クラスターサイズが微細化される。このため、隣接記録ビット間の磁気的な干渉が軽減され、媒体ノイズが減少し線記録密度の向上に寄与する(非特許文献S.Oikawa, A.Takeo, T.Hikosaka, and Y.Tanaka, IEEE Trans.Magn., vol. 36, pp. 2393-2395,2000.及びT. Oikawa, M.Nakamura, H.Uwazumi, T.Shimatsu, H.Muraoka, and Y.Nakamura,”IEEE Trans.Magn., vol.38,pp1976-1978,2002.)。
【0019】
特に、磁性体と非磁性体の分離が進んだ典型的な例であるCoCrPt-SiO2のようなグラニュラー媒体では磁性体部分が柱状構造となることが確認されている。本発明では、このような、磁性体が柱状構造を形成した媒体を用意し、以下に示す工程を経ることによりディスクリートトラック媒体を作製する。
【0020】
本発明における磁性材料とは、飽和磁化Ms及び磁気異方性係数Kuが大きいものが望ましく、垂直磁気異方性を有するものである。具体的には、CoやFeを主成分とする硬磁性体材料で、例えば、hcp構造を有するCoにFe、Cr、Pt、Ta、Nb、Pd、B、Si、Ti、V、Ru、Rhのいずれかの元素あるいは2種類以上の元素を入れたCo系合金、また、次世代磁気記録材料として注目されている磁気異方性の大きなFePt、FePd、CoPt、CoPdを主成分とするL10及びL12規則合金等が望ましい。
【0021】
また、磁性材料を分離する非磁性体材料としては、SiO、Al、TiO、MgO、TaO、ZnO、B等の酸化物やSiNx、AlN、TiNなどの窒化物、TiCのような炭化物、BNのような硼化物、その他の無機物でも構わない。
【0022】
2)ナノホール構造体を用いた製造方法
図2は細孔を有する構造体を示す模式図であり、図2(a)は平面図、図2(b)はA−A’断面図である。図2に示すような記録層の母体となる細孔を有する構造体としては、アルミニウムの陽極酸化による方法や円柱状アルミニウムの周りを取り囲むように配置されるシリコン(またはゲルマニウム、シリコンゲルマニウム)からなるAlSi(またはAlGe、AlSiGe)構造体を用いた細孔の形成法がある。以下これらの詳細を説明する。また、ブロックコポリマー等の構造体を用いても良い。
【0023】
まず、アルミニウムの陽極酸化で得られる細孔を有する構造体(アルミナナノホール)についての特徴を記載する。
【0024】
基板上に配置されたアルミニウム膜において、細孔20を形成したい部分をリン酸、蓚酸、硫酸等の水溶液中に浸漬し、それを陽極として電圧を印加することで自己組織的に細孔が形成される。このとき形成される細孔間の間隔23は、印加した電圧で決まり、2.5×電圧[V](nm)の関係が知られている。
【0025】
本発明が示すようなディスクリートトラック構造を作製する場合は、細孔間の間隔が小さいことが好ましく20nm以下好ましくは10nm程度のナノホールを用いることが好ましい。
【0026】
また、アルミナナノホールの作製において、アルミニウム膜の表面に規則的な窪みをつけることで、そこを基点に規則的な細孔がハニカム状や正方状に形成されることも特徴であり、特にパターンドメディアに対して大きな可能性を有していることが特徴である。
【0027】
上記のアルミニウムの陽極酸化で得られる微細な細孔を有する構造体の具体例は、特開平11−200090号公報に記載されている。
【0028】
次に、基板垂直方向に立ったアルミニウムを成分とする柱状アルミニウム部分と柱状アルミニウム部分の側面を囲むように配置されるSi、GeまたはSiGeを成分とする構造体について説明する。ここではSiを例に用いるが、GeまたはSiGeでも同様である。これら構造体の特徴は、図2における細孔の直径22と細孔間の間隔23で特徴付けられる。
【0029】
まず、柱状Al部分が基板垂直方向に真直ぐ立っており、その円柱の側面を囲むようにSi部分が構造体の母材21として配置された構造を有することが特徴である。なお、Al部分にはSiが、Si部分にはAlが僅かに混入している。また、この構造体を形成するには、AlとSiの非平衡状態における同時成膜を行なうことが好ましい。また、柱状Al部分は基板垂直方向に真直ぐ立っており、柱状Al部分が溶解するような酸やアルカリに浸漬することで柱状Al部分のみ溶解、除去できることが特徴である。それには、リン酸、硫酸、アンモニア水など複数の酸またはアルカリが該当する。
【0030】
また、このAlSi構造体を硫酸等の水溶液中で陽極酸化することでも柱状Al部分を除去することが可能である。このとき、Si部分は陽極酸化中に酸化され、(AlxSi1-xz1-z となる。ここで、AlとSiの分離度を高めることが可能であり、xの範囲は0<x≦0.2で好ましくは、0<x≦0.1である。また、Al除去のエッチング時間や酸・塩基の種類により酸化状態は変化するが、Zの範囲は0.334≦z≦1の範囲であり、酸化していない状態も含まれる。本発明の場合は、より酸化した状態をとることが好ましい。また、強制的に酸化させる方法として、陽極酸化法を用いることが可能である。陽極酸化の終了は、下地層へ細孔が到達した時点から30秒〜60秒の間に終了することが好ましい。または、陽極酸化の電流値が極小値に達する時点まで陽極酸化を行っても良い。さらに、酸化は酸素雰囲気中でのアニールでも良い。
【0031】
このAlを除去したAlSi構造体は、組成にも依存するが細孔の直径22の範囲が1nm〜15nmで、細孔間の間隔23の範囲が3nm〜20nmである。以上からAl部分の除去の手段によっては、細孔20を取り囲む壁はSiまたはその酸化物で構成される。
【0032】
上記のSi,GeまたはSiGeを成分とする構造体の具体例は、特開2004−237431号公報に記載されている。
上記に示すようなナノ細孔を有する構造体を用意し、細孔底部の下地層を電極とすることにより、電着法を用いることで磁性体の充填を行なうことが可能である。特に、Fe,Co,Ni等の磁性を有する金属とPt,Pdのような貴金属を同時析出させることにより、FePtやCoPtに代表されるL10、L12規則構図を有する磁性体を充填することが可能である。また、hcp構造を有するCo系合金やNi、Feを主成分とするfcc構造の磁性体の充填も可能である。
【0033】
めっき方法は連続的に一定の電位をかける通常の電解めっき以外にも、電位制御、及び必要に応じて電位をかける時間を制御するパスルめっきを用いることも可能である。特に、パスルめっきでは、めっき時における核発生密度を促進することが可能であり細孔内へのめっきにおいて有効に働く。
(2)マスクを形成する工程
レジストによるマスクパターン形成工程(図1(b))を示す。マスクパターンで覆った部分は磁気記録媒体の記録領域、覆われない部分は記録領域間を磁気的に分離する分離領域となる。一般的な半導体プロセスを用いてフォトレジストを用いてマスクパターン13を形成する。具体的には、図1(a)の構造体表面上に例えば感光性材料であるフォトレジストをスピンコーティングで形成する。次いで、この感光性膜に対して紫外線、電子線、X線などにより露光を行った後、現像、リンス工程を経てレジストパターンを形成する。また、レジストパターンの形成には、レジスト塗布後、表面に成形金型を加熱しつつ加圧してインプリントすることによりインプリント形状(レジストパターン)を形成することも可能である。更に、レジストパターンは、電子ビームリソグラフィ等で形成してもよい。
【0034】
ここで用いる感光性材料は以下の磁性体エッチング工程に対して充分な耐性を有するものを用いる。すなわち、反応性溶液であるエッチング液に対して溶解または剥離しないこと、更に、磁性対材料に対する反応性ガスに対して化学的に安定であることが求められる。具体的には、ポジ型レジストとして化学増幅型ポジレジストなどが挙げられ、UVキュア等による硬化処理を施されることが好ましい。ネガレジストとしては、化学増幅型ネガレジスト、イソプレン系またはフェノール系レジスト等が挙げられる。ネガレジストの場合も現像後のポストアニールやUVキュアにより硬化処理を施すことが好ましい。ポジ型、ネガ型レジストは上記材料に限定されることはない。
【0035】
ディスクリートトラック媒体を作製するには、同心円状のマスクパターンを形成することが求められる。また、位置情報用サーボパターン用のマスクパターンを作成することも可能である。
(3)マスクが形成されていない領域の磁性体材料の除去あるいは磁気特性を変質する工程
マスクが形成されていない領域の柱状構造磁性体材料を選択的に除去する工程(図1(c))を示す。この工程では、柱状磁性体のみを選択的にエッチング(図1(c)中14)する。すなわち、磁性体を取り囲む非磁性体部分に対して柱状磁性体部分が選択的に化学反応して溶解することにより除去する。RIE(reactive ion etching)などの物理的衝撃を伴うエッチングを用いた場合、非磁性体部分も破壊する可能性が高く、選択的に磁性体部分のみエッチングすることが困難である。そのため、各種薬液を用いたウェットエッチングが適する。薬液は、磁性体材料により選択することが必要であるが、Co、Fe、Ni等の磁性体に含まれる金属を溶解する場合は、NaOH等の強塩基またはHClやHSO等の強酸に必要ならば酸化力を有する過酸化水素水(H)等を添加した薬液を用いることが可能である。Pt、Pd等の貴金属は比較的耐薬品性の強い材料に関しては、ハロゲン、ハロゲン化塩、及び有機溶媒を含む溶液に浸漬することにより溶解することが可能である。例えば、ヨウ素とヨウ化セチルピリジニウムにベンゼンを加えた薬液を用いることにより、Ptを溶解することが可能である。このような試薬を適宜組み合わせて使用することにより、磁性体部分のみ選択的に除去した図1(c)のような構造体を形成することが可能である。
図1(c)のマスクを除去すると、マスクで覆った領域の磁性体領域においては磁性特性の劣化しない又は劣化が抑制された領域となる。すなわち、図1(c)のような構造体において、磁性体部分のみ選択的に除去可能なエッチングを行なうと、マスクされない複数の磁性体領域11では、磁性体領域11の周囲が非磁性体領域12で囲まれているために、エッチングがほとんど各磁性体領域内だけで行われる。従って、マスクの境界においても、マスクで覆われない磁性体領域のエッチングの影響は、磁性体領域の周囲を覆う非磁性体領域があるために隣接するマスクで覆われた磁性体領域には及ばない。
【0036】
また、薬液によるエッチングの際に、溶液温度の制御や、光照射を行なうことでエッチング性を向上させることが可能である。また、基板をプラス電位となるように電解をかけることによりエッチング性を向上させることも可能である。このような熱、光照射、電解効果を用いる場合は、レジストで覆った領域、すなわち記録トラック部分の磁性体に影響を与えないように注意することが不可欠である。
【0037】
一方、磁性体のエッチングを行なうことなく、磁気特性を変質する(図1(e)ことのみにより、磁気特性の違いを利用したとディスクリート媒体を作成することも可能である。高周波電圧をかけたプラズマ下に、反応性ガスとして、ハロゲンを含むCF、CHF、CH、C、C、SF、Cl、CCl、CFI、C等のガスを使用すると、電界加速された電子が反応ガスに衝突して、化学的に活性なラジカルが生成する。このような活性なラジカルが存在するチャンバー内に磁性体材料を導入することにより、磁性体とラジカルが化学反応を起こし磁気特性を変えることが可能である。ガス暴露前後のサンプルに対して、AGM(Alternating Gradient Magnetometer)にてMHループ測定を行なうと、明らかにガス暴露後のサンプルの残留磁化は減少しており、磁気特性が劣化していることが確認される。上述したハロゲン化だけでなく、窒素イオンや酸素イオンを注入することにより、柱状磁性体部分を非磁性体化することも可能である。レジストで覆われた記録トラック部分の磁性体は酸化物等の非磁性体領域に囲まれている。このため、マスクの境界においても磁性体側面から活性化したイオンやラジカルハロゲンが到達することによる、マスク内の柱状磁性体部分の磁気特性の変質が抑制される。故に、マスクで覆われていない柱状磁性体部分のみを的確に変質させて非磁性化することが可能であり(図1(e)中15)、所望のディスクリート構造及びサーボパターンを形成することができる。
【0038】
最後にマスク部分のレジストを除去(図1(d)、図1(f))することにより、プロセスは完遂する。マスクパターンで覆っていた部分は磁気記録媒体の記録領域、覆われていなかった部分は記録領域間を磁気的に分離する分離領域となる。
【実施例1】
【0039】
本発明の第1の実施例に関して以下に述べる。
(1)柱状構造の磁性体材料が非磁性体材料で分離された構造体を用意する工程
基板上に裏打ち軟磁性層及び中間層等を形成し、記録層として磁性体CoCrPtが非磁性体SiOで分離されたCoCrPt−SiO層20nmを形成した。ここでは中間層をRuとした。CoCrPt−SiOは、マグネトロンスパッタを用い、CoCrPt磁性ターゲットとSiO非磁性ターゲットを同時スパッタすることにより形成する。組成分析を行なったところ、磁性部分のCoCrPtは(Co90Cr10)75Pt25であり、CoCrPtに対するSiOの割合を11%であることを確認した。上記CoCrPt−SiO上記記録層の表面及び断面TEMからは磁性材料であるCoCrPt部分が非磁性SiOを主成分とする非磁性体領域に完全に分離されており、磁性体は柱状構造を有することが分かる。
(2)マスクを形成する工程
CoCrPt−SiO層上にスピンコートにより、厚み約1.0μmの化学増幅型ネガレジストを塗布し、一括露光、現像の工程を経て図1(b)に示すようなレジストパターン(マスクパターン13)を形成した。レジスト形成後、200℃にて10分間ポストアニール処理を行い、更に、紫外線を150℃にて5分間照射しUVキュア処理を行いレジスト硬化処理を行なった。
(3)マスクが形成されていない領域の磁性体材料の除去あるいは磁気特性を変質する工程
pH13のNaOH水溶液に過酸化水素水を添加したエッチング溶液(A)とヨウ素、ヨウ化セチルピリジニウム、ベンゼンを含む60℃のエッチング溶液(B)を用意した。この(A)、(B)二つのエッチング溶液に、上記(1)、(2)の工程を経たサンプルを交互に浸漬することにより、マスクで覆われていない部分の磁性体を除去した。エッチング時間を制御することにより、磁性体の一部または全部を除去することが可能である。
【0040】
レジストを剥離した後、電子顕微鏡にて表面構造を観察すると、マスク下の磁性体は、上記工程(3)に影響されることはないが、マスクに覆われていない部分の磁性体は除去されていることが明らかになった。
【実施例2】
【0041】
本発明の第2の実施例に関して以下に述べる。
【0042】
本実施例では工程(1)、(2)は実施例1と同様である。
(3)マスクが形成されていない領域の磁性体材料の除去あるいは磁気特性を変質する工程
pH1.5のHSO水溶液に過酸化水素水を添加したエッチング溶液(C)を用意し、エッチング溶液(B)及び(c)に上記(1)、(2)の工程を経たサンプルを交互に浸漬し、マスクで覆われていない部分の磁性体を除去した。エッチング時間を制御することにより、磁性体の一部または全部を除去することが可能である。
【0043】
レジストを剥離した後、電子顕微鏡にて表面構造を観察すると、マスク下の磁性体は、上記工程(3)に影響されることはないが、マスクに覆われていない部分の磁性体は除去されていることが明らかになった。
【実施例3】
【0044】
本発明の第3実施例に関して以下に述べる。
【0045】
本実施例では工程(1)、(2)は実施例1と同様である。
(3)マスクが形成されていない領域の磁性体材料の除去あるいは磁気特性を変質する工程
pH1.5のHSO水溶液(D)を用意した。(1)、(2)の工程を経たサンプルを水溶液(D)を電解質としてサンプル側がプラスとなるように電解をかけた。この電解エッチング工程と、エッチング溶液(B)への浸漬を繰り返すことにより、マスクで覆われていない部分の磁性体を除去した。エッチング時間を制御することにより、磁性体の一部または全部を除去することが可能である。
【0046】
レジストを剥離した後、電子顕微鏡にて表面構造を観察すると、マスク下の磁性体は、上記工程(3)に影響されることはないが、マスクに覆われていない部分の磁性体は除去されていることが明らかになった。
【実施例4】
【0047】
本発明の第4実施例に関して以下に述べる。
【0048】
本実施例では工程(1)、(2)は実施例1と同様である。
(3)マスクが形成されていない領域の磁性体材料の除去あるいは磁気特性を変質する工程
プラズマ発生が可能な誘導結合プラズマ(ICP:Inductive Coupled Plasma)装置を有するチャンバー内に20sccmのCFガスを導入した。プラズマ発生のためのcoil RFを300W、基板側のplaten RFをOWとした。導入したCFがプラズマ中に導入されることにより反応性の高いラジカルFが形成される。このような環境下に(1)、(2)の工程を経たサンプルを投入し、30秒間反応性ガスに暴露した。ここで、基板側を0Wとすることにより基板への物理的な衝撃を最小限に抑えることが可能とり、磁性体が変質して、磁性体を取り囲むSiOが物理的衝撃によりエッチングされないようにすることが可能であった。
【0049】
レジストを剥離した後、反応性ガス暴露部分と非暴露部分のサンプルをMFM(磁気力顕微鏡)にて観察したところ、ガス暴露部分には、磁化が消失した際に見られるMFM象が得られた。
(比較例1)
比較例として以下に示すような工程を行なった。
(1)磁気記録層を用意する工程
マグネトロンスパッタリングによりCoCrPt磁性体ターゲットのみを用いて20nmの膜厚を有するCoCrPt連続媒体を作製した。
【0050】
本比較例では、実施例1と同様の工程(2)によりレジストマスクを形成した。更に、実施例1〜4と同様の工程(3)を行なった。
【0051】
レジストを剥離した後、
断面TEM像を観察したところ、エッチング工程を経たサンプルでは、明らかにマスクを覆った部分のCoCrPtが侵食されている様子が観察された。また、反応性ガス暴露部分と非暴露部分のサンプル境界をMFM(磁気力顕微鏡)にて観察したところ、ガス暴露部分と非暴露部分境界のMFM像は明瞭でなく、明らかにマスク部分の磁性体が劣化していることが分かった。
【実施例5】
【0052】
本発明の第5実施例に関して以下に述べる。
(1)柱状構造の磁性体材料が非磁性体材料で分離された構造体を用意する工程
下地電極層としてRu30nmと、Al56Si44組成のスパッタリングターゲットから成膜されたAlSi構造体50nmを順次成膜する。ここで用いたAlSi構造体は、円柱状のアルミニウム部分とそれを取り囲むSi部分から形成されることが特徴である。このAlSi構造体のアルミニウム部分を除去して微細な細孔を形成するために室温で2.8mol%のアンモニア水に10分浸漬する。ここでは、細孔の平均直径は8nmであり、細孔間の間隔は平均10nmとなる。この細孔にFePt磁性体を電気めっきにより充填する。蛍光X線によりFePt組成を確認したところ、Fe50at%を有するFePtであった。表面を研磨して細孔外に溢れたFePtを除去したサンプルの断面及び表面TEM像を観察したところ、柱状構造をしたFePt磁性体がSiO非磁性体により完全に分離された構造体であることが確認された。
【0053】
本実施例では工程(2)は実施例1と同様である。更に、実施例1〜4と同様の工程(3)を行なった。
【0054】
上記工程を経て作製された構造体も実施例1〜4と同様の結果が得られた。
【0055】
即ち、本発明を用いることにより、記録部分の磁気特性の劣化をもたらすことなく、所望のパターンを作製することが可能であり、ディスクリートトラック構造及び任意のサーボパターンを形成することが可能であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、高密度磁気記録が求められるディスクリートトラック媒体に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係わる製造方法及び磁気記録媒体の一例を示す概略図である。
【図2】微細な細孔を有する構造体の模式図である。
【符号の説明】
【0058】
11 磁性体領域
12 非磁性体領域
13 マスクパターン
14 磁性体エッチング領域
15 磁性体変質領域
20 細孔
21 構造体の母材
22 細孔の直径
23 細孔間の間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体材料からなる柱状構造の第1領域の複数が非磁性体材料からなる第2領域で分離された構造体を用意する第1工程と、
前記構造体の記録領域となる部分に、マスクを形成する第2工程と、
前記構造体の前記マスクが形成されていない領域における、複数の前記第1領域の前記磁性体材料を除去あるいは前記磁性体材料の磁気特性を変質する第3工程と、
を有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記第3工程において、前記構造体を反応性ガスまたは反応性溶液に暴露して、前記磁性体材料を除去あるいは前記磁性体材料の磁気特性を変質することを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記磁性体材料がCoCrPtであり、前記非磁性体材料がSiOであることを特徴とする請求項1又は2記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
複数の記録領域と、隣接する前記記録領域の間を磁気的に分離する分離領域とを備えた磁気記録媒体において、
前記記録領域は、磁性体材料からなる柱状構造の第1領域の複数と、複数の前記第1領域を分離する、非磁性体材料からなる第2領域とで構成され、
前記分離領域は、複数の柱状の空孔を有する、前記非磁性体材料からなる第3の領域で構成されていることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項5】
複数の記録領域と、隣接する前記記録領域の間を磁気的に分離する分離領域とを備えた磁気記録媒体において、
前記記録領域は、磁性体材料からなる柱状構造の第1領域の複数と、複数の前記第1領域を分離する、非磁性体材料からなる第2領域とで構成され、
前記分離領域は、前記磁性体材料の磁気特性を変質した材料からなる柱状構造の第3領域の複数と、複数の前記第3領域を分離する、非磁性体材料からなる第4領域とで構成されていることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項6】
前記磁性体材料がCoCrPtであり、前記非磁性体材料がSiOであることを特徴とする請求項4又は5記載の磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−286159(P2006−286159A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−108667(P2005−108667)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】