説明

磁気記録媒体

【課題】MRヘッドへのステイン堆積を防止し、優れた走行安定性・耐久性を実現でき、安定したエラーレートを維持可能な高密度記録型の磁気記録媒体を得る。
【解決手段】非磁性支持体1の一面に、非磁性層3と磁性層2とが積層形成された構成の磁気記録媒体10において、非磁性層3中の結合剤のガラス転移温度の最大値と、潤滑剤の融点の最大値と、磁性層2中の結合剤のガラス転移温度の最大値と、潤滑剤の融点の最大値との総和、及び/又は、非磁性層3中の結合剤のガラス転移温度の最小値と、潤滑剤の融点の最小値と、磁性層2中の結合剤のガラス転移温度の最小値と、潤滑剤の融点の最小値との総和を数値的に特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非磁性層と磁性層とが重層塗布形成された構成の、高密度記録型の磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタル記録等により、各種記録媒体における情報量が増大化しており、今後更なる高記録密度化、短波長記録化の方向に進むと考えられている。
これに伴い、磁気記録システムにおいては、その再生感度を向上させるために、MRヘッド(Magneto-Resistive-Head)を搭載したものが適用され、高記録密度化の実現が図られている。
【0003】
一般に、MRヘッドは、MR素子とシールドとから構成されており、MR素子には、センス電流が流されている。そのため、周辺環境と比較して素子付近は局所的に25℃〜35℃程度温度が高くなる傾向がある。
このような局所的な温度上昇は、記録媒体からMRヘッドへのステイン堆積の発生を招来し、これが原因となってMR素子とシールドが導通してしまい、記録再生感度が劣化し、エラーレートが上昇し、更にはMR素子の破壊を発生するという問題があった。
【0004】
このような問題に鑑み、近年の高記録密度化に伴い、MRヘッドを搭載したシステムの利用が増加傾向にある中、ステインの発生を防止し、安定したエラーレート品質を維持可能な磁気記録媒体の設計を行うことが要求されてきた。
これに関し、従来においては、磁性層中の結合剤成分について検討を行い、優れた走行耐久性を有し、長期に亘って安定したエラーレートを維持するものとした種々の技術が提案されてきた(例えば、特許文献1乃至3参照。)。
【特許文献1】特開平11−144223号公報
【特許文献2】特開2003−123224号公報
【特許文献3】特開平11−3516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来提案されている各種磁気記録媒体においても、未だ、MR素子付近の局所的な温度上昇に起因するステイン堆積について充分な解決が実現されているとは言えず、今後より一層高記録密度化される磁気記録媒体に対応するべく、さらなる構造上の検討が必要であると言える。
【0006】
そこで、本発明においては、磁性層、及び非磁性層を構成する結合剤樹脂、及び潤滑剤についての詳細な検討を行い、上述したような素子付近の局所的温度上昇に起因するステイン堆積、及びこれによる走行性の悪化、記録再生特性の劣化の問題の解決を図ることとした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体の一面に、非磁性層と磁性層とが積層形成され、他の主面にバックコート層が形成された構成を有し、非磁性層は、ガラス転移温度の異なる複数種類の結合剤と融点の異なる複数種類の潤滑剤を含有しており、磁性層は、ガラス転移温度の異なる複数種類の結合剤と融点の異なる複数種類の潤滑剤を含有しており、非磁性層中の結合剤のガラス転移温度の最大値と、潤滑剤の融点の最大値と、磁性層中の結合剤のガラス転移温度の最大値と、潤滑剤の融点の最大値との総和が、300℃以上であるものとする。
【0008】
また、本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体の一面に、非磁性層と磁性層とが積層形成され、他の主面にバックコート層が形成された構成を有し、非磁性層は、ガラス転移温度の異なる複数種類の結合剤と融点の異なる複数種類の潤滑剤とを含有しており、磁性層は、ガラス転移温度の異なる複数種類の結合剤と融点の異なる複数種類の潤滑剤とを含有しており、非磁性層中の結合剤のガラス転移温度の最小値と、潤滑剤の融点の最小値と、磁性層中の結合剤のガラス転移温度の最小値と、潤滑剤の融点の最小値との総和が、100℃以上200℃未満であるものとする。
【0009】
また、本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体の一面に、非磁性層と磁性層とが積層形成され、他の主面にバックコート層が形成された構成を有し、非磁性層は、ガラス転移点の異なる複数種類の結合剤と融点の異なる複数種類の潤滑剤を含有しており、非磁性層中の結合剤のガラス転移温度の最大値と、潤滑剤の融点の最大値と、磁性層中の結合剤のガラス転移温度の最大値と、潤滑剤の融点の最大値との総和が、300℃以上であり、非磁性層中の結合剤のガラス転移温度の最小値と、潤滑剤の融点の最小値と、磁性層中の結合剤のガラス転移温度の最小値と、潤滑剤の融点の最小値との総和が、100℃以上200℃未満であるものとする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、非磁性層と磁性層が積層形成された塗布型の磁気記録媒体において、非磁性層中の結合剤、及び潤滑剤、磁性層中の結合剤及び潤滑剤について、それぞれのガラス転移温度と融点の具体的な特定を行ったことにより、特にMRヘッドのような高感度型の磁気ヘッドを搭載した磁気記録システムに適用した場合においても、ステイン堆積を防止でき、安定した走行性が得られ、優れたエラーレートを長期に亘って維持可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の磁気記録媒体について、図を参照して具体的に説明するが、本発明は、以下に示す例に限定されるものではない。
図1に本発明の磁気記録媒体の一例の概略断面図を示す。
磁気記録媒体10は、非磁性支持体1上に、非磁性層3と磁性層2とが重層塗布形成された構成を有している。
【0012】
非磁性支持体1の材料としては、従来公知の磁気記録媒体の基体として使用されるものをいずれも適用でき、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン類、セルローストリアセレート、セルロースダイアセレート、セルロースアセテートブチレート等のセルロース誘導体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等のプラスチック、紙、アルミニウム、銅等の金属、アルミニウム合金、チタン合金等の軽合金、セラミックス、単結晶シリコン等が挙げられる。非磁性支持体の形態は、フィルム、テープ、シート、ディスク、カード、ドラム等のいずれでも良い。
【0013】
次に、磁性層2について説明する。
磁性層2は、磁性粉末、結合剤、潤滑剤を主成分とするものであり、その他、帯電防止剤、研磨剤、防錆剤等の添加剤を混合し、有機溶剤を用いて混練、分散させ調製した磁性塗料を塗布することにより形成される。
【0014】
磁性粉末としては、従来塗布型の磁気記録媒体の記録層を構成する材料を適用でき、例えば、強磁性酸化鉄粒子、強磁性二酸化クロム、強磁性合金粉末、窒化鉄等が挙げられる。
【0015】
磁性層を構成する結合剤としては、例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコ−ル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸−塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル−スチレン共重合体、熱可塑性ポリウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ弗化ビニル、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体、ポリビニルブチラ−ル、セルロ−ス誘導体、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリエステル樹脂、フェノ−ル樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリウレタン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、尿素−ホルムアルデヒト樹脂、またはこれらの混合物等が挙げられる。
【0016】
磁性塗料調製用の溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、酢酸グリコ−ルモノエチルエステル等のエステル系溶剤、グリコ−ルモノエチルエ−テル、ジオキサン等のグリコールエーテル系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロロヒドリン、ジクロロベンゼン等の有機塩素化合物系溶剤が挙げられる。
【0017】
磁性層中に含有させる潤滑剤としては、例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル、リン酸エステル、脂肪酸アマイド等が適用でき、具体的には、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、ブチルステアレート、ヘプチルステアレート、ブチルパルミテート、ヘプチルパルミテート、イソオクチルミリステート、オレイルオレエート、ベヘニン酸アマイド、エルカ酸アマイド、オレイン酸アマイド、ステアリン酸アマイド等が挙げられる。
【0018】
次に、非磁性層3について説明する。
非磁性層3は、非磁性粉末と結合剤と潤滑剤を主成分とし、その他、各種添加剤を混合し、有機溶剤を用いて混練、分散させ、調製した非磁性層用塗料を塗布することにより形成される。
【0019】
非磁性粉末としては、重層型の磁気記録媒体の、非磁性下層用に適用されている従来公知の材料をいずれも使用可能である。例えば、シリカ、酸化チタン、アルミナ、カーボンブラック、α-酸化鉄、炭酸カルシウム等が挙げられる。形状は、針状、球状、板状等のいずれでもよい。
【0020】
非磁性層3を構成する結合剤、潤滑剤としては、上述した磁性層2において適用可能なものをいずれも使用することができる。
また、非磁性層用の塗料を調製するための有機溶剤についても、上述した磁性層の場合と同様のものが適用できる。
【0021】
磁性層2及び非磁性層3に含有させる結合剤のガラス転移温度(Tg)と潤滑剤の融点(Tm)については、その選定の仕方によって、下記のような利点と欠点がある。
〔ガラス転移温度の高い結合剤〕
利点:高温環境下における塑性流動が生じにくい。
欠点:層中における分散性、架橋性が悪化し、層が固く脆くなる。
〔ガラス転移温度の低い結合剤〕
利点:分散性及び架橋性が良好である。
欠点:高温環境下で塑性流動が生じる。
〔融点の高い潤滑剤〕
利点:高温環境下で有効に機能する。
欠点:低温環境下で析出してしまい、機能しなくなる。
〔融点の低い潤滑剤〕
利点:常温、低温環境下で有効に機能する。
欠点:高温環境下で必要以上に油膜を生じてしまう。
【0022】
上述したように、結合剤樹脂のガラス転移温度と潤滑剤の融点によって膜特性が異なるものとなるため、選定の仕方によって、膜の特性を制御することができる。
本発明においては、特にMRヘッドのような高感度型の磁気ヘッドを搭載した磁気記録システムに適用する高記録密度型の磁気記録媒体について、MRヘッドへのステイン堆積を防止し、優れた走行安定性、耐久性を維持し、安定したエラーレート長期に亘って維持可能な磁気記録媒体を得るべく、結合剤樹脂のガラス転移温度、及び潤滑剤の融点に関する特定を行った。
【0023】
本発明の磁気記録媒体は、下記の三形態のいずれかになるように、上記結合剤、及び潤滑剤から好適な材料を選定する。
(第一の形態)
磁性層2、及び非磁性層3は、いずれもガラス転移温度の異なる複数種類の結合剤と融点の異なる複数種類の潤滑剤を含有している。
非磁性層3中の結合剤のガラス転移温度の最大値(Tg1)と、潤滑剤の融点の最大値(Tm1)と、磁性層2中の結合剤のガラス転移温度の最大値(Tg2)と、潤滑剤の融点の最大値(Tm2)との総和(Tg1+Tm1+Tg2+Tm2)が、300℃以上である。
【0024】
(第二の形態)
磁性層2、及び非磁性層3は、いずれもガラス転移温度の異なる複数種類の結合剤と融点の異なる複数種類の潤滑剤を含有している。
非磁性層3中の結合剤のガラス転移温度の最小値(Tg3)と、潤滑剤の融点の最小値(Tm3)と、磁性層2中の結合剤のガラス転移温度の最小値(Tg4)と、潤滑剤の融点の最小値(Tm4)との総和(Tg3+Tm3+Tg4+Tm4)が、100℃以上200℃未満である。
【0025】
(第三の形態)
磁性層2、及び非磁性層3は、いずれもガラス転移温度の異なる複数種類の結合剤と融点の異なる複数種類の潤滑剤を含有している。
非磁性層3中の結合剤のガラス転移温度の最大値(Tg1)と、潤滑剤の融点の最大値(Tm1)と、磁性層2中の結合剤のガラス転移温度の最大値(Tg2)と、潤滑剤の融点の最大値(Tm2)との総和(Tg1+Tm1+Tg2+Tm2)が300℃以上であり、非磁性層3中の結合剤のガラス転移温度の最小値(Tg3)と、潤滑剤の融点の最小値(Tm3)と、磁性層2中の結合剤のガラス転移温度の最小値(Tg4)と、潤滑剤の融点の最小値(Tm4)との総和(Tg3+Tm3+Tg4+Tm4)が100℃以上200℃未満である。
【0026】
本発明の磁気記録媒体は、調製した磁性塗料、及び非磁性層用塗料を、非磁性支持体1上に重層塗布し、乾燥処理を行うことにより作製できる。
なお、塗料の塗布方法としては、下層塗料を塗布して乾燥させ、この乾燥された下層塗膜上に上層塗料を塗布して乾燥させる、いわゆるウェット・オン・ドライ塗布方式と、湿潤状態にある下層塗膜の上に上層塗膜を重ねて塗布する、いわゆるウェット・オン・ウェット塗布方式(湿潤重層塗布方式)とがある。本発明の磁気記録媒体は、いずれの方法を適用してもよい。
【0027】
磁性層2及び非磁性層3を塗布形成した後、カレンダー処理を施し、表面を平滑化させる。その後、磁性層形成面とは反対側の主面に、バックコート層4を形成する。バックコート層4は、帯電防止や、媒体のバック面と各種摺動部材との摺動性を改善させ、走行耐久性を改善するために付加的に設けられるものである。その後、目的とする磁気テープの幅に裁断して、カートリッジ内に収容する。
【実施例】
【0028】
本発明の磁気記録媒体について、具体的なサンプル磁気テープを作製して特性の評価を行った。なお、本発明は、以下に示す例に限定されるものではない。
【0029】
〔実施例1〜6〕、〔比較例1〜7〕
まず、以下の組成に従い、磁性層形成用の分散液、及び非磁性層形成用の分散液を調製した。
(磁性層形成用分散液組成)
強磁性粉末:鉄−コバルト合金系メタル磁性粉:100重量部
(平均長軸長0.10μm)
結合剤(下記表1、3参照):24重量部
分散剤:多価カルボン酸:3重量部
無機粉末(研磨剤):α-アルミナ(粒径200nm):5重量部
カーボンブラック(粒径60nm):3重量部
潤滑剤(下記表2、3参照):2重量部
硬化剤:ポリイソシアネート:4重量部
溶剤:メチルエチルケトン:15重量部
:トルエン:10重量部
:シクロヘキサノン:5重量部
【0030】
(非磁性層形成用分散液組成)
非磁性粉末:α−酸化鉄非磁性粉(平均長軸長0.15μm):100重量部
結合剤(下記表1、3参照):25重量部
分散剤:多価カルボン酸:3重量部
無機粉末(研磨剤):α−アルミナ(粒径180nm):5重量部
カーボンブラック:(粒径20nm):22重量部
潤滑剤:(下記表2、3参照):4重量部
硬化剤:ポリイソシアネート:2重量部
溶剤:メチルエチルケトン:12重量部
溶剤:シクロヘキサノン:16重量部
【0031】
上記材料をニーダーで混練処理を施し、さらにメチルエチルケトン、トルエン、シクロヘキサノンで希釈した後、サンドミル分散処理し、それぞれ磁性層形成用分散液、及び非磁性層形成用分散液とした。
これを非磁性支持体上に、非磁性層、磁性層が所定の厚さになるように、同時もしくは逐次に塗布し、その後、磁場配向処理を施し、乾燥させた。
【0032】
次に、反対面の主面に下記組成による分散液を塗布することによりバックコート層4を設けた。
(バックコート層形成用分散液組成)
無機粉末:カーボンブラック:100重量部
(粒径40nm、DBP吸油量112.2ml/100g)
結号剤:ポリエステル系ポリウレタン樹脂:40重量部
結合剤:ニトロセルロース樹脂:40重量部
溶剤:メチルエチルケトン:500重量部
溶剤:トルエン:500重量部
溶剤:シクロヘキサノン:140重量部
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
上述したようにして作製した磁気テープ原反を、1/2インチ幅にスリットし、カートリッジに組み込み、サンプルテープとした。
実施例1〜6及び比較例1〜7の磁気テープについて、MRヘッドを搭載した記録再生システムを用いて記録信号の再生試験を行い、MRヘッドへのステインの評価を行った。
評価方法は、光触針式の3次元表面粗度計(小坂研究所製:ETB−30HK)を用い、カットオフ80μmの条件で観察し、堆積厚みが10nm未満であるものを○、10nm以上20nm未満であるものを△、20nm以上であるものを×とした。
評価結果を下記表4に示す。
【0037】
【表4】

【0038】
表4中、実施例1〜6に示すように、磁性層2及び非磁性層3ともに結合剤としてガラス転移温度の高いものを適用し、かつ潤滑剤として融点の高いものを適用し、これらガラス転移温度の最大値と潤滑剤の融点の最大値の総和が300℃以上になるようにすると、高温環境下においても、層中における樹脂の塑性流動が起こらず、良好なMRヘッドへのステインの評価が得られた。
【0039】
一方、比較例1〜5、7に示すように、上記磁性層2及び非磁性層3の結合剤のガラス転移温度の最大値と、潤滑剤の融点の最大値との総和が300℃未満であると、高温環境下において、樹脂の塑性流動が起こり、また潤滑剤の表層に油膜が過剰に形成されてしまい、実用上良好なMRヘッドへのステイン評価が得られなかった。
【0040】
また、磁性層2及び非磁性層3中に、ガラス転移温度の高い結合剤と融点の高い潤滑剤のみが含有されていると、分散性、架橋性に劣るようになり、層が固く脆くなり、走行安定性が劣化するため、比較的低い温度領域のものも含有させることが必要である。
実施例1〜6に示すように、磁性層2及び非磁性層3の結合剤のガラス転移温度の最小値と、これらの層中の潤滑剤の融点の最小値との総和が100℃以上200℃未満であると、良好なMRヘッドへのステイン評価が得られるとともに、優れた走行安定性、耐久性が実現できた。
【0041】
一方、比較例6、7に示すように、磁性層2及び非磁性層3の結合剤のガラス転移温度の最小値と、これらの潤滑剤の融点の最小値との総和が100℃未満であると、高温環境下において、樹脂の塑性流動が起こり、また潤滑剤の表層に油膜が過剰に形成されてしまい、MRヘッドへのステイン評価が悪化した。
【0042】
また、磁性層2及び非磁性層3の結合剤のガラス転移温度の最小値と、これらの潤滑剤の融点の最小値との総和が200℃を超えるものについては、架橋性が悪化し、層の粉落ち特性が劣化し、さらには常温・低温環境下において潤滑剤の機能が発揮できなくなるという不具合を生じることが確かめられた。
【0043】
上述した結果から明らかなように、非磁性層3と磁性層2が積層形成された塗布型の磁気記録媒体においては、非磁性層中の結合剤、及び潤滑剤、磁性層中の結合剤及び潤滑剤について、そのガラス転移温度と融点とに関し、具体的に数値範囲の特定を行ったことにより特にMRヘッドのような高感度型の磁気ヘッドを搭載した磁気記録システムに適用した場合においても、ヘッドへのステインが実用上良好なものとなり、優れた走行安定性、耐久性が維持でき、安定したエラーレートを実現することができた。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の磁気記録媒体の概略断面図を示す。
【符号の説明】
【0045】
1……非磁性支持体、2……磁性層、3……非磁性層、10……磁気記録媒体



【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体の一主面に、非磁性層と磁性層とが積層形成され、他の主面にバックコート層が形成されてなり、
磁気抵抗効果型ヘッドを搭載した磁気記録再生システムにおいて、信号の記録、及び/又は再生がなされる磁気記録媒体であって、
前記非磁性層は、ガラス転移温度の異なる複数種類の結合剤と、融点の異なる複数種類の潤滑剤を含有してなり、
前記磁性層は、ガラス転移温度の異なる複数種類の結合剤と、融点の異なる複数種類の潤滑剤を含有してなり、
前記非磁性層中の結合剤のガラス転移温度の最大値(Tg1)と、潤滑剤の融点の最大値(Tm1)と、
前記磁性層中の結合剤のガラス転移温度の最大値(Tg2)と、潤滑剤の融点の最大値(Tm2)との総和(Tg1+Tm1+Tg2+Tm2)が、300℃以上であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
非磁性支持体の一主面に、非磁性層と磁性層とが積層形成され、他の主面にバックコート層が形成されてなり、
磁気抵抗効果型ヘッドを搭載した磁気記録再生システムにおいて、信号の記録、及び/又は再生がなされる磁気記録媒体であって、
前記非磁性層は、ガラス転移温度の異なる複数種類の結合剤と、融点の異なる複数種類の潤滑剤を含有してなり、
前記磁性層は、ガラス転移温度の異なる複数種類の結合剤と、融点の異なる複数種類の潤滑剤を含有してなり、
前記非磁性層中の結合剤のガラス転移温度の最小値(Tg3)と、潤滑剤の融点の最小値(Tm3)と、
前記磁性層中の結合剤のガラス転移温度の最小値(Tg4)と、潤滑剤の融点の最小値(Tm4)との総和(Tg3+Tm3+Tg4+Tm4)が、100℃以上200℃未満であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項3】
非磁性支持体の一主面に、非磁性層と磁性層とが積層形成され、他の主面にバックコート層が形成されてなり、
磁気抵抗効果型ヘッドを搭載した磁気記録再生システムにおいて、信号の記録、及び/又は再生がなされる磁気記録媒体であって、
前記非磁性層は、ガラス転移点の異なる複数種類の結合剤と、融点の異なる複数種類の潤滑剤を含有してなり、
前記非磁性層中の結合剤のガラス転移温度の最大値(Tg1)と、潤滑剤の融点の最大値(Tm1)と、
前記磁性層中の結合剤のガラス転移温度の最大値(Tg2)と、潤滑剤の融点の最大値(Tm2)との総和(Tg1+Tm1+Tg2+Tm2)が、300℃以上であり、
前記非磁性層中の結合剤のガラス転移温度の最小値(Tg3)と、潤滑剤の融点の最小値(Tm3)と、
前記磁性層中の結合剤のガラス転移温度の最小値(Tg4)と、潤滑剤の融点の最小値(Tm4)との総和(Tg3+Tm3+Tg4+Tm4)が、100℃以上200℃未満であることを特徴とする磁気記録媒体。



【図1】
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