説明

磁気記録媒体

【課題】電磁変換特性、特に高密度記録特性が格段に改良されかつ優れた耐久性を併せ持ち、特に高密度記録領域でのエラーレートが格段に改良された磁気記録媒体を提供すること。
【解決手段】支持体上に強磁性金属粉末を結合剤中に分散してなる磁性層を設けた磁気記録媒体において、前記磁性層中の強磁性金属粉末の平均長軸長が10〜45nmであり、かつFeに対するY量が2〜9at%であることを特徴とする磁気記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗布型の大容量、高記録密度の磁気記録媒体に関する。特に磁性層と実質的に非磁性の下層を有し、最上層に強磁性金属粉末を含む大容量、高密度記録用の磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスクの分野において、Co変性酸化鉄を用いた2MBのMF−2HDフレキシブルディスクがパーソナルコンピュータに標準搭載されようになった。しかし扱うデータ容量が急激に増加している今日において、その容量は十分とは言えなくなり、フレキシブルディスクの大容量化が望まれていた。
【0003】
また磁気テープの分野においても近年、ミニコンピューター、パーソナルコンピューター、ワークステーションなどのオフィスコンピューターの普及に伴って、外部記憶媒体としてコンピューターデータを記録するための磁気テープ(いわゆるバックアップテープ)の研究が盛んに行われている。このような用途の磁気テープの実用化に際しては、とくにコンピューターの小型化、情報処理能力の増大と相まって、記録の大容量化、小型化を達成するために、記録容量の向上が強く要求される。
【0004】
従来、磁気記録媒体には酸化鉄、Co変性酸化鉄、CrO2 、強磁性金属粉末、六方晶系フェライト粉末を結合剤中に分散した磁性層を非磁性支持体に塗設したものが広く用いられる。この中でも強磁性金属粉末と六方晶系フェライト粉末は高密度記録特性に優れていることが知られている。ディスクの場合、高密度記録特性に優れる強磁性金属粉末を用いた大容量ディスクとしては10MBのMF−2TD、21MBのMF−2SDまたは六方晶フェライトを用いた大容量ディスクとしては4MBのMF−2ED、21MBフロプティカルなどがあるが、容量、性能的に十分とは言えなかった。このような状況に対し、高密度記録特性を向上させる試みが多くなされている。以下にその例を示す。
【0005】
特許文献1には、支持体上に強磁性金属粉末と結合剤を主体とする磁性層を設けてなり、強磁性金属粉末の平均長軸長が30〜65nmであり、結晶子サイズが80〜130Åであり、飽和磁化量(σs)が75〜130A・m2/kgであり、かつ平均酸化膜厚が1.5〜2.5nmである磁気記録媒体が開示されている。この磁気記録媒体は、保存安定性を確保することができ、表面平滑性に優れ、SFDrが優れ、出力・C/N共に良好であり、耐久性も安定しており、磁気抵抗型(MR)ヘッドを再生ヘッドとして搭載しているシステムに適しているとされている。
特許文献2には、支持体上に強磁性金属粉末と結合剤とを含む磁性層を有し、強磁性金属粉末は鉄もしくは鉄とコバルトを主成分とし、長軸長が25〜80nmであり、結晶子サイズが80Å〜130Åであり、磁性層を有する面と反対側の面上に針状非磁性粉末と結合剤とを含むバック層を有する磁気記録媒体が開示されている。この磁気記録媒体は、バック層表面に特定高さの突起の密度を所定に形成することができ、バック面の磁性層への裏写りが防止され、かつ潤滑剤の機能を有効に発揮させることができるため、高密度記録領域での電磁変換特性が良好で耐久性に優れるとされている。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1および2に開示された磁気記録媒体は、確かに優れた電磁変換特性および耐久性等を有するが、急速なディスク状やテープ状の磁気記録媒体の大容量化、高密度化にともない、このような技術をもってしても満足な特性を得ることが難しくなってきていた。また耐久性と両立させることも困難な状況になってきている。したがって、一層の高容量、大密度の磁気記録媒体を目的とする場合には、耐久性と電磁変換特性において更に改良の余地があった。
【特許文献1】特開2003−119503号公報
【特許文献2】特開2004−5792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は電磁変換特性、特に高密度記録特性が格段に改良されかつ優れた耐久性を併せ持ち、特に高密度記録領域でのエラーレートが格段に改良された磁気記録媒体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは電磁変換特性と耐久性が良好で特に高密度記録領域でのエラーレートが格段に改良された大容量の磁気記録媒体を得るために鋭意検討した結果、以下のような媒体とすることで、本発明の目的である大容量で優れた高密度記録特性と優れた耐久性を有する磁気記録媒体が得られることを見いだし、本発明に至ったものである。
【0009】
本発明は、以下のとおりである。
1)支持体上に強磁性金属粉末を結合剤中に分散してなる磁性層を設けた磁気記録媒体において、前記磁性層中の強磁性金属粉末の平均長軸長が10〜45nmであり、かつFeに対するY量が2〜9at%であることを特徴とする磁気記録媒体。
2)前記支持体と磁性層の間に実質的に非磁性である下層を設けたことを特徴とする上記1)記載の磁気記録媒体。
3)前記磁性層が、フェニルホスホン酸を含むことを特徴とする上記1)または2)に記載の磁気記録媒体。
4)前記磁性層が、前記非磁性である下層を前記支持体上に塗布し、乾燥した後に設けられてなることを特徴とする上記2)または3)に記載の磁気記録媒体。
5)前記磁性層が、前記非磁性である下層を前記支持体上に塗布し、カレンダー処理した後に設けられてなることを特徴とする上記2)〜4)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、磁性層中の強磁性金属粉末の平均長軸長およびFeに対するY量を適切に選択しているため、特に高密度記録特性が格段に改良されかつ優れた耐久性を併せ持ち、特に高密度記録領域でのエラーレートが格段に改良された磁気記録媒体を提供することができる。本発明の磁気記録媒体は、磁気記録分野の磁気テープ、磁気ディスクなど、とくにGMR、TMR再生磁気記録テープとして有用であり、記録密度としては、500kbpi以上でとくに有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
[磁性層]
本発明の磁気記録媒体は超薄層磁性層を支持体の片面だけでも、両面に設けても良い。下層を設ける場合、上下層は下層を塗布後、下層が湿潤状態の内(W/W)でも、下層が乾燥した後(W/D)にでも下層上に上層磁性層を設けることが出来る。生産得率の点から同時、又は逐次湿潤塗布が好ましいが、ディスクの場合は乾燥後塗布も十分使用できる。本発明の重層構成で同時、又は逐次湿潤塗布(W/W)では上層/下層が同時に形成できるため、カレンダー工程などの表面処理工程を有効に活用でき、超薄層でも上層磁性層の表面粗さを良化できる。
本発明では、上層磁性層の厚み変動による出力の揺らぎを最小にし平滑で厚みが均一な磁性層を有する磁気記録媒体を提供するという理由から、下層を支持体上に塗布し、乾燥した後、上層を設けることが好ましい。
また本発明では、上層磁性層の厚みを均一にするため下層非磁性層の厚みを均一にし表面粗さを小さくし突起によるエラーレートを低く抑えるという理由から、下層を支持体上に塗布し、カレンダー処理を行った後、上層を設けることが好ましい。
【0012】
[強磁性金属粉末]
本発明の磁性層に使用する強磁性金属粉末としては、α−Feを主成分とする強磁性合金粉末が好ましい。
強磁性金属粉末は、好ましくは、少なくともFeとCoより構成されるのがよい。CoはFeに対して3〜50at%が好ましく、5〜45at%が更に好ましく、10〜45at%が特に好ましく、最も好ましくは20〜35at%の範囲である。
【0013】
また強磁性金属粉末は、Feに対するY量が2〜9at%であることが必要である。Y量がこの範囲外であると、所望の高密度記録特性および耐久性を得ることができない。またエラーレートの改良も期待できない。とくに、Y量が9at%を超えると耐久性が劣る結果となり、逆に2at%よりも少ないと磁性体が凝集・焼結し、塗布液分散が困難となる。Feに対するY量は、2〜8at%が好ましく、3〜7at%がさらに好ましく、4〜6at%がとくに好ましい。
【0014】
また、強磁性金属粉末において、Al/Feで示される原子比Aが、2.0〜20.0%、好ましくは3.5〜15.0%であり、更に好ましくは4.0〜10.0%である。希土類元素の総和/Feで示される原子比Bが、3.0〜30.0%であり,好ましくは4.0〜20.0%であり,更に好ましくは4.5〜15.0%である。
【0015】
強磁性金属粉末はMgを含んでもよく、Mg/(Fe+Co)で示される原子比Cが、好ましくは0.05〜3.0%であり、更に好ましくは0.1〜2.5%であり、特に好ましくは0.1〜2.0%である。本発明において、原子比A、原子比B及び原子比Cの%表示は、at%を意味する。
【0016】
本発明の磁性層に使用する強磁性金属粉末は、FeおよびYを上記範囲内で含み、好ましくはCo,Al,Mg,Siおよび希土類元素を上記範囲内で含むことにより、優れた高密度記録特性、耐久性、耐候性を得ることができ、またエラーレートが格段に改良される。また、強磁性金属粉末が、上記必須成分を上記範囲内に含むことにより、微粒子でありながら、粒子サイズの分布がシャープで均一性に優れ、特に分散性に優れるため、優れた高密度記録特性と結合剤・研磨剤・カーボンブラック及び表面修飾剤との組み合わせにより優れた走行耐久性及び耐候性を得ることができるものである。
【0017】
本発明の強磁性金属粉末に用いられる希土類元素とは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuの各々の元素を言う。本発明においては、中でもYとNdが好ましい。
【0018】
本発明に使用される強磁性金属粉末の製法は、特に制限されるべきものではないが、例えば特開平8−279137号公報や特開2003−119503号公報等に記載の方法が挙げられる。具体的には、Fe塩またはFe塩とCo塩の水溶液からゲータイト等の磁性前駆体を形成し、この懸濁液にCo含有化合物、Al含有化合物、希土類元素の化合物、更にはMg含有化合物あるいは後述する元素の化合物の水溶液を添加、混合し、これらの含有されたゲータイト懸濁液を調製し、該懸濁液を造粒、乾燥し、還元し、次いで徐酸化し本発明の強磁性金属粉末を得る方法、単分散ヘマタイト粒子あるいは必要によりこれをゲータイト化したものをCo含有化合物、Al含有化合物、希土類元素の化合物、更にはMg含有化合物等で処理し、次いで還元する方法等が挙げられる。なお、ゲータイトを形成する過程で一部のAl化合物を添加してよい。
【0019】
前述のように本発明では、Feに対するY量を2〜9at%にする必要があるが、そのためには、磁性前駆体を微粒子の状態で造粒、乾燥し、還元の段階で、従来より処理温度を下げ長時間処理することにより対応できる。磁性前駆体の微粒子としては、平均長軸長として例えば25〜300nm、好ましくは20〜200nmである。
例えば還元条件としては、静置式の還元炉で水素雰囲気下、250〜350℃、好ましくは280〜340℃、10〜25時間、好ましくは15〜20時間還元処理することが挙げられる。還元の終了は、排水系ガス中の水分を露点計で測定して決定する。
【0020】
本発明の強磁性金属粉末はその他、公知の製造方法を用いることができ、下記の方法を挙げることができる。複合有機酸塩(主としてシュウ酸塩)と水素などの還元性気体で還元する方法、金属カルボニル化合物を熱分解する方法、強磁性金属の水溶液に水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸塩あるいはヒドラジンなどの還元剤を添加して還元する方法、金属を低圧の不活性気体中で蒸発させて微粉末を得る方法などである。
【0021】
また、少なくとも本発明の強磁性金属粉末の組成を満足するようにあるいは更に所望の特性を得るべく、上記塩または化合物の種類、量、脱水条件、還元条件、徐酸化条件等を適宜設定すればよい。又、特性改良のため強磁性金属粉末を再還元することも有効である。徐酸化処理としては、有機溶剤に浸漬したのち乾燥させる方法、有機溶剤に浸漬したのち酸素含有ガスを送り込んで表面に酸化膜を形成したのち乾燥させる方法、有機溶剤を用いず酸素ガスと不活性ガスの分圧を調整して表面に酸化皮膜を形成する方法等が挙げられる。
【0022】
本発明においては、有機溶剤を用いず酸素ガスと不活性ガスの分圧を調整して表面に酸化被膜を形成する方法が適している。これらの強磁性金属粉末には所定の原子以外にS、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、P、Mn、Zn、Ni、Sr、Bなどの原子を含んでもかまわない。これら元素は通常、Feに対して5×10-4〜1×10-1at%で用いられる。強磁性金属粉末としてFeに対してCo、Al及び希土類元素を加えた具体例としては、特開平6−215360号、特開平7−210856号、特開平8−185624号、特開平8−279142号等が挙げられる。これらの強磁性金属粉末にはあとで述べる分散剤、潤滑剤、界面活性剤、帯電防止剤などで分散前にあらかじめ処理を行ってもかまわない。具体的には、特公昭44−14090号、特公昭45−18372号、特公昭47−22062号、特公昭47−22513号、特公昭46−28466号、特公昭46−38755号、特公昭47−4286号、特公昭47−12422号、特公昭47−17284号、特公昭47−18509号、特公昭47−18573号、特公昭39−10307号、特公昭46−39639号、米国特許第3026215号、同3031341号、同3100194号、同3242005号、同3389014号などに記載されている。Mgを加えた具体例として、特公平1−51042号、特公平8−31366号、特開昭63−222404号、特開平5−54371号等が挙げられる。
【0023】
本発明の磁性層の強磁性金属粉末の平均長軸長は、10〜45nmであることが必要であり、好ましくは20〜40nmであり、さらに好ましくは25〜38nmであり、とくに好ましくは25〜35nmである。
平均長軸長がこの範囲外であると、所望の高密度記録特性および耐久性を得ることができない。またエラーレートの改良も期待できない。とくに、平均長軸長が20nm未満では、磁性体そのものの作製と塗布液に対する分散が困難となる。
平均長軸長の変動係数は、好ましくは5〜26%の範囲であり、単結晶率は、好ましくは20〜100%の範囲である。
本発明の磁性層の強磁性金属粉末をBET法による比表面積で表せば、45〜70m2/gが好ましい。45m2/g以上でノイズが防止され、75m2/g以下で良好な表面性が得られる。さらに好ましい比表面積は、50〜70m2/gであり、とくに比表面積は、55〜70m2/gである。本発明の磁性層の強磁性金属粉末の結晶子サイズは好ましくは50〜200Åであり、更に好ましくは60〜180Å、特に好ましくは70〜150Åである。
強磁性金属粉末の平均針状比は2.0〜9.0が好ましく、更に好ましくは3〜8、特に好ましくは4〜8である。
強磁性金属粉末の飽和磁化σsは120〜170A・m2/kgが好ましい。更に好ましくは130〜165A・m2/kg、特に好ましくは140〜160A・m2/kgである。
強磁性金属粉末の抗磁力Hcは2000〜3000Oe(160〜240kA/m)が好ましく、更に好ましくは2200〜2800Oeである。強磁性金属粉末の表面は緻密な酸化膜で覆われていることが好ましい。この表面酸化膜厚は、好ましくは15〜30Åの範囲である。また、Al及び希土類元素は強磁性金属粉末の各粒子の表層部に多く存在することが好ましい。
【0024】
強磁性金属粉末の含水率は0.01〜2%とするのが好ましい。結合剤の種類によって強磁性金属粉末の含水率は最適化するのが好ましい。強磁性金属粉末のpHは、用いる結合剤との組合せにより最適化することが好ましい。その範囲はpH4〜12であるが、好ましくはpH6〜10である。強磁性金属粉末は必要に応じ、Al、Si、Pまたはこれらの酸化物などで表面処理が施されてもかまわない。その量は強磁性金属粉末に対し0.1〜20質量%好ましくは0.1〜10質量%であり表面処理を施すと脂肪酸などの潤滑剤の吸着が100mg/m2以下になり好ましい。強磁性金属粉末には水溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Sr、Al、Mgなどの無機イオンを含む場合がある。これらは、本質的に無い方が好ましいが、強磁性金属粉末中に質量で200ppm以下であれば特に特性に影響を与えることは少ないが、50ppm以下が好ましい。また、ベンゾヒドロキサム酸と鉄イオンの反応で定義される溶出鉄(測定方法は、特開平9−23154号公報に記載の方法)は、50ppm以下が好ましい。また、本発明に用いられる強磁性金属粉末は空孔が少ないほうが好ましくその値は20容量%以下、さらに好ましくは5容量%以下である。また形状については針状、米粒状、紡錘状のいずれでもかまわない。強磁性金属粉末自体のSFDは小さい方が好ましく、0.8以下が好ましい。強磁性金属粉末のHcの分布を小さくする必要がある。尚、SFDが0.8以下であると、電磁変換特性が良好で、出力が高く、また、磁化反転がシャープでピークシフトも少なくなり、高密度デジタル磁気記録に好適である。Hcの分布を小さくするためには、強磁性金属粉末においてはゲ−タイトの粒度分布を良くする、焼結を防止するなどの方法がある。本発明において強磁性金属粉末は、結合剤等と調液される前に、pKaが4.0以下の有機りん化合物等の表面修飾剤で処理しておくことが好ましい。表面修飾剤の具体例は、特開平4−105214、特開平11−134642等に示されている。
【0025】
本発明において、上記強磁性金属粉末の他、カーボンブラック、研磨剤等種々の粉体のサイズ(以下、「粉体サイズ」と言う)は、高分解能透過型電子顕微鏡写真より求められる。即ち、粉体サイズは、(1)粉体の形状が針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粉体を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、(2)粉体の形状が板状乃至柱状(ただし、厚さ乃至高さが板面乃至底面の最大長径より小さい)場合は、その板面乃至底面の最大長径で表され、(3)カーボンブラックのように粉体の形状が球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粉体を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
【0026】
また、該粉体の平均粉体サイズは、上記粉体サイズの算術平均であり、約200個の粉体について上記の如く測定を実施して求めたものである。また、該粉体の平均針状比は、上記測定において粉体の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粉体の(長軸長/短軸長)の値の算術平均を指す。ここで、短軸長とは、上記粉体サイズの定義で(1)の場合は、粉体を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚さ乃至高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は便宜上、1とみなす。
【0027】
そして、粉体の形状が特定の場合、例えば、上記粉体サイズの定義(1)の場合は、平均粉体サイズを平均長軸長と言い、同定義(2)の場合は平均粉体サイズを平均板径と言い、(最大長径/厚さ乃至高さ)の算術平均を平均板状比という。同定義(3)の場合は平均粉体サイズを平均粒子径という。また、各サイズの変動係数は、該サイズの標準偏差をその平均のサイズで除した%値を指す。単結晶率とは、強磁性金属粉末を構成する結晶子が単結晶である割合を%で示す。
【0028】
[非磁性層]
次に下層に関する詳細な内容について説明する。本発明の下層に用いられる無機粉末は、非磁性粉末であり、例えば、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物、等の無機化合物から選択することができる。無機化合物としては例えばα化率90%以上のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、ヘマタイト、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二硫化モリブデンなどが単独または組合せで使用される。特に好ましいのは、粒度分布の小ささ、機能付与の手段が多いこと等から、二酸化チタン、酸化亜鉛、α−酸化鉄、硫酸バリウム、ゲータイトであり、更に好ましいのは二酸化チタン、α−酸化鉄、ゲータイトである。これら無機粉末の平均粒子径は0.005〜2μmが好ましいが、必要に応じて平均粒子径の異なる無機粉末を組み合わせたり、単独の無機粉末でも粒径分布を広くして同様の効果をもたせることもできる。とりわけ好ましいのは無機粉末の平均粒子径は0.01μm〜0.2μmである。特に、無機粉末が粒状金属酸化物である場合は、平均粒子径0.08μm以下が好ましく、針状金属酸化物である場合は、平均長軸長が0.3μm以下が好ましく、0.2μm以下がさらに好ましく、0.10μm以下が特に好ましい。平均針状比は3〜12が好ましく、4〜9が更に好ましい。タップ密度は通常、0.05〜2g/ml、好ましくは0.2〜2.0g/mlである。無機粉末の含水率は通常、0.1〜5質量%、好ましくは0.2〜3質量%、更に好ましくは0.3〜1.5質量%である。無機粉末のpHは通常、2〜11であるが、pHは5.5〜10の間が特に好ましい。無機粉末の比表面積は通常、1〜100m2 /g、好ましくは5〜80m2 /g、更に好ましくは10〜70m2 /gである。無機粉末の結晶子サイズは0.004μm〜1μmが好ましく、0.04μm〜0.1μmが更に好ましい。DBP(ジブチルフタレート)を用いた吸油量は通常、5〜100ml/100g、好ましくは10〜80ml/100g、更に好ましくは20〜60ml/100gである。比重は通常、1〜12、好ましくは3〜6である。形状は針状、球状、多面体状、板状のいずれでも良い。モース硬度は4以上、10以下のものが好ましい。無機粉末のSA(ステアリン酸)吸着量は通常、1〜20μmol/ m2 、好ましくは2〜15μmol/m2 、さらに好ましくは3〜8μmol/ m2である。pHは3〜6の間にあることが好ましい。これらの無機粉末の表面には表面処理が施されてAl23 、SiO2 、TiO2 、ZrO2 、SnO2 、Sb23 、ZnO、Y23 が存在することが好ましい。特に分散性に好ましいのはAl23 、SiO2 、TiO2 、ZrO2 であるが、更に好ましいのはAl23 、SiO2 、ZrO2である。これらは組み合わせて使用しても良いし、単独で用いることもできる。また、目的に応じて共沈させた表面処理層を用いても良いし、先ずアルミナを存在させた後にその表層にシリカを存在させる方法、またはその逆の方法を採ることもできる。また、表面処理層は目的に応じて多孔質層にしても構わないが、均質で密である方が一般には好ましい。表面処理層は、処理済みの粉体質量に対して0.1〜15%の範囲が好ましい。
【0029】
本発明の下層に用いられる無機粉末の具体的な例としては、アルミナとして住友化学製HIT−100(平均粒子径0.11μm),ZA−G1、酸化鉄として昭和電工製ナノタイト(平均粒子径0.06μm)、酸化鉄として戸田工業社製αヘマタイトDPN−250,DPN−250BX(平均長軸長0.16μm、平均短軸長0.02μm、平均針状比7.45),DPN−245,DPN−270BX,DPN−550BX,DPN−550RX(平均長軸長0.15μm、平均短軸長0.02μm、平均針状比7.5),DPN−650RX、チタン工業製αヘマタイトα−40、石原産業製αヘマタイトE270,E271,E300,E303、酸化チタンとして石原産業製酸化チタンTTO−51B(平均粒子径0.01〜0.03μm),TTO−55A(平均粒子径0.03〜0.05μm),TTO−55B(平均粒子径0.03〜0.05μm),TTO−55C(平均粒子径0.03〜0.05μm),TTO−55S(平均粒子径0.03〜0.05μm),TTO−55D(平均粒子径0.03〜0.05μm),SN−100、チタン工業製酸化チタンSTT−4D(平均粒子径0.013μm),STT−30D(平均粒子径0.09μm),STT−30(平均粒子径0.12μm),STT−65C(平均粒子径0.12μm)、テイカ製酸化チタンMT−100S(平均粒子径0.015μm),MT−100T(平均粒子径0.015μm),MT−150W(平均粒子径0.015μm),MT−500B(平均粒子径0.035μm),MT−600B(平均粒子径0.050μm),MT−100F,MT−500HD、堺化学製酸化亜鉛としてFINEX−25(平均粒子径0.5μm),堺化学製硫酸バリウムとしてBF−1(平均粒子径0.05μm),BF−10(平均粒子径0.06μm),BF−20(平均粒子径0.03μm),ST−M、同和鉱業製DEFIC−Y,DEFIC−R、日本アエロジル製AS2BM,TiO2P25、宇部興産製100A,500A、及びそれを焼成したものが挙げられる。特に好ましい無機粉末は二酸化チタンとα−酸化鉄である。
【0030】
下層にカーボンブラックを混合させて公知の効果である表面電気抵抗Rsを下げること、光透過率を小さくすることができるとともに、所望のマイクロビッカース硬度を得る事ができる。また、下層にカーボンブラックを含ませることで潤滑剤貯蔵の効果をもたらすことも可能である。カーボンブラックの種類はゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック、等を用いることができる。下層のカーボンブラックは所望する効果によって、以下のような特性を最適化すべきであり、併用することでより効果が得られることがある。
【0031】
下層のカーボンブラックの比表面積は通常、100〜500m2/g、好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は通常、20〜400ml/100g、好ましくは30〜400ml/100gである。カーボンブラックの平均粒子径は通常、5nm〜80nm、好ましくは10〜50nm、さらに好ましくは10〜40nmである。平均粒子径が80nmより大きいカーボンブラックを少量含んでもかまわない。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10質量%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい。本発明に用いられるカーボンブラックの具体的な例としてはキャボット社製 BLACKPEARLS 2000(平均粒子径15nm),1400(平均粒子径13nm)、1300(平均粒子径13nm),1100(平均粒子径14nm),1000,900(平均粒子径15nm),800,880,700、L(平均粒子径24nm),VULCAN XC−72(平均粒子径30nm)、P(平均粒子径19nm)、三菱化学社製 #3050B,#3150B(平均粒子径30nm),#3750B,#3950B(平均粒子径16nm),#950(平均粒子径16nm),#650B,#970B,#850B(平均粒子径18nm),MA−600(平均粒子径18nm),MA−230,#4000,#4010、コロンビアンカーボン社製 CONDUCTEX SC(平均粒子径17nm)、SC−U(平均粒子径20nm)、975(平均粒子径20nm)、RAVEN 8800(平均粒子径13nm),8000(平均粒子径13nm),7000(平均粒子径14nm),5750(平均粒子径17nm),5250(平均粒子径19nm),5000(平均粒子径12nm)、3500(平均粒子径16nm),2100(平均粒子径17nm),2000(平均粒子径18nm),1800(平均粒子径18nm),1500(平均粒子径18nm),1255(平均粒子径23nm),1250(平均粒子径21nm),1035(平均粒子径27nm)、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックEC(平均粒子径30nm)、旭カーボンブラック社製 #80(平均粒子径20nm)、#70(平均粒子径27nm)、#60(平均粒子径49nm)、#55(平均粒子径68nm)、アサヒサーマル(平均粒子径72nm)などがあげられる。下層に用いられる平均粒子径が80nmより大きいカーボンブラックとしては旭カーボンブラック社製 #50(平均粒子径94nm)、#35(平均粒子径82nm)などが挙げられる。カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用してもかまわない。また、カーボンブラックを塗料に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは上記無機粉末に対して50質量%を越えない範囲、非磁性層総質量の40%を越えない範囲で使用できる。これらのカーボンブラックは単独、または組合せで使用することができる。本発明で使用できるカーボンブラックは例えば「カーボンブラック便覧」(カーボンブラック協会編)を参考にすることができる。
【0032】
また下層には有機質粉末を目的に応じて、添加することもできる。例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。その製法は特開昭62−18564号、特開昭60−255827号に記されているようなものが使用できる。
【0033】
下層、あるいはバック層の結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は以下に記載する磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。
【0034】
[結合剤]
本発明に使用される結合剤としては従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物が使用される。熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度が−100〜150℃、数平均分子量が1,000〜200,000、好ましくは10,000〜100,000、重合度が約50〜1000程度のものである。
【0035】
このような例としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルエ−テル、等を構成単位として含む重合体または共重合体、ポリウレタン樹脂、各種ゴム系樹脂がある。また、熱硬化性樹脂または反応型樹脂としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ−ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とイソシアネートプレポリマーの混合物、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートの混合物、ポリウレタンとポリイソシアネートの混合物等があげられる。これらの樹脂については朝倉書店発行の「プラスチックハンドブック」に詳細に記載されている。また、公知の電子線硬化型樹脂を各層に使用することも可能である。これらの例とその製造方法については特開昭62−256219に詳細に記載されている。以上の樹脂は単独または組合せて使用できるが、好ましいものとして塩化ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル酢酸ビニルビニルアルコール共重合体、塩化ビニル酢酸ビニル無水マレイン酸共重合体、から選ばれる少なくとも1種とポリウレタン樹脂の組合せ、またはこれらにポリイソシアネートを組み合わせたものがあげられる。
【0036】
ポリウレタン樹脂の構造はポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタン、ポリカプロラクトンポリウレタンなど公知のものが使用できる。ここに示したすべての結合剤について、より優れた分散性と耐久性を得るためには必要に応じ、−COOM、−SO3M、−OSO3M、−P=O(OM)2、−O−P=O(OM)2、(以上につきMは水素原子、またはアルカリ金属塩基)、OH、NR2、N+3(Rは炭化水素基)、エポキシ基、−SH、−CN、などから選ばれる少なくともひとつ以上の極性基を共重合または付加反応で導入したものを用いることが好ましい。このような極性基の量は10-1〜10-8モル/gであり、好ましくは10-2〜10-6モル/gである。これら極性基以外にポリウレタン分子末端に少なくとも1個ずつ、合計2個以上のOH基を有することが好ましい。OH基は硬化剤であるポリイソシアネートと架橋して3次元の網状構造を形成するので、分子中に多数含むほど好ましい。特にOH基は分子末端にある方が硬化剤との反応性が高いので好ましい。分子末端にOH基を3個以上有することが好ましく、4個以上有することが特に好ましい。本発明において、ポリウレタンを用いる場合はガラス転移温度が−50〜150℃、好ましくは0℃〜100℃、破断伸びが100〜2000%、破断応力は0.49〜98MPa、降伏点は0.49〜98MPaが好ましい。このような物性を有することにより、好ましくはデイスク回転数が1800rpm以上、更に好ましくはデイスク回転数が3000rpm以上の高速回転数でも良好な機械的特性を有する塗膜が得られる。
【0037】
本発明に用いられるこれらの結合剤の具体的な例としては塩化ビニル系共重合体としてダウケミカル社製VAGH、VYHH、VMCH、VAGF、VAGD,VROH,VYES,VYNC,VMCC,XYHL,XYSG,PKHH,PKHJ,PKHC,PKFE,日信化学工業社製、MPR−TA、MPR−TA5,MPR−TAL,MPR−TSN,MPR−TMF,MPR−TS、MPR−TM、MPR−TAO、電気化学社製1000W、DX80,DX81,DX82,DX83、100FD、日本ゼオン社製MR−104、MR−105、MR110、MR100、MR555、400X−110A、ポリウレタン樹脂として日本ポリウレタン社製ニッポランN2301、N2302、N2304、大日本インキ社製パンデックスT−5105、T−R3080、T−5201、バ−ノックD−400、D−210−80、クリスボン6109,7209,東洋紡社製バイロンUR8200,UR8300、UR−8700、RV530,RV280、大日精化社製ポリカ−ボネートポリウレタン、ダイフェラミン4020,5020,5100,5300,9020,9022、7020,三菱化学社製ポリウレタン、MX5004,三洋化成社製ポリウレタン、サンプレンSP−150、旭化成社製ポリウレタン、サランF310,F210などが挙げられる。
【0038】
本発明の非磁性層、磁性層に用いられる結合剤は非磁性粉末または強磁性金属粉末に対し、5〜50質量%の範囲、好ましくは10〜30質量%の範囲で用いられる。ここで、非磁性粉末は、カーボンブラックを除く無機粉末を指す。塩化ビニル系樹脂を用いる場合は5〜30質量%、ポリウレタン樹脂を用いる場合は2〜20質量%、ポリイソシアネートは2〜20質量%の範囲でこれらを組み合わせて用いることが好ましいが、例えば、微量の脱塩素によりヘッド腐食が起こる場合は、ポリウレタンのみまたはポリウレタンとイソシアネートのみを使用することも可能である。
【0039】
本発明の磁気記録媒体は二層以上から構成することができる。従って、結合剤量、結合剤中に占める塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート、あるいはそれ以外の樹脂の量、磁性層を形成する各樹脂の分子量、極性基量、あるいは先に述べた樹脂の物理特性などを必要に応じ非磁性層、磁性層とで変えることはもちろん可能であり、むしろ各層で最適化すべきであり、多層磁性層に関する公知技術を適用できる。例えば、各層で結合剤量を変更する場合、磁性層表面の擦傷を減らすためには磁性層の結合剤量を増量することが有効であり、ヘッドに対するヘッドタッチを良好にするためには、非磁性層の結合剤量を多くして柔軟性を持たせることができる。
【0040】
本発明に用いるポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、oートルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のイソシアネート類、また、これらのイソシアネート類とポリアルコールとの生成物、また、イソシアネート類の縮合によって生成したポリイソシアネート等を使用することができる。これらのイソシアネート類の市販されている商品名としては、日本ポリウレタン社製、コロネートL、コロネートHL,コロネート2030、コロネート2031、ミリオネートMR,ミリオネートMTL、武田薬品社製、タケネートD−102,タケネートD−110N、タケネートD−200、タケネートD−202、住化バイエル社製、デスモジュールL,デスモジュールIL、デスモジュールN,デスモジュールHL,等がありこれらを単独または硬化反応性の差を利用して二つもしくはそれ以上の組合せで各層とも用いることができる。
【0041】
[カーボンブラック、研磨剤]
本発明の磁性層に使用されるカーボンブラックはゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック、等を用いることができる。比表面積は5〜500m2/g、DBP吸油量は10〜400ml/100g、平均粒子径は5nm〜100nm、pHは2〜10、含水率は0.1〜10質量%、タップ密度は0.1〜1g/cc、が各々好ましい。本発明に用いられるカーボンブラックの具体的な例としてはキャボット社製、BLACKPEARLS 2000(平均粒子径15nm)、1300(平均粒子径13nm)、1000(平均粒子径16nm)、900(平均粒子径15nm)、905、800(平均粒子径17nm),700(平均粒子径18nm)、VULCAN XC−72(平均粒子径30nm)、旭カーボン社製、#80(平均粒子径20nm)、#60(平均粒子径49nm),#55(平均粒子径68nm)、#50(平均粒子径94nm)、#35(平均粒子径94nm)、三菱化学社製、#2400B(平均粒子径15nm)、#2300(平均粒子径15nm)、#900(平均粒子径16nm),#1000(平均粒子径18nm)、#30(平均粒子径30nm),#40(平均粒子径20nm)、#10B(平均粒子径84nm)、コロンビアンカーボン社製、CONDUCTEX SC(平均粒子径17nm)、RAVEN 150(平均粒子径18nm)、50(平均粒子径21nm),40(平均粒子径24nm),15(平均粒子径27nm)、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製、ケッチェンブラックEC40(平均粒子径30nm)、などがあげられる。カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用してもかまわない。また、カーボンブラックを磁性塗料に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは単独、または組合せで使用することができる。カーボンブラックを使用する場合は強磁性金属粉末に対する量の0.1〜30質量%で用いることが好ましい。カーボンブラックは磁性層の帯電防止、摩擦係数低減、遮光性付与、膜強度向上などの働きがあり、これらは用いるカーボンブラックにより異なる。従って本発明に使用されるこれらのカーボンブラックは上層磁性層、下層非磁性層でその種類、量、組合せを変え、粒子径、吸油量、電導度、pHなどの先に示した諸特性をもとに目的に応じて使い分けることはもちろん可能であり、むしろ各層で最適化すべきものである。本発明の磁性層で使用できるカーボンブラックは、例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編を参考にすることができる。
【0042】
本発明の磁性層に用いられる研磨剤としてはα化率90%以上のα−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイアモンド、窒化珪素、炭化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素、など主としてモース硬度6以上の公知の材料が単独または組合せで使用される。また、これらの研磨剤同士の複合体(研磨剤を他の研磨剤で表面処理したもの)を使用してもよい。これらの研磨剤には主成分以外の化合物または元素が含まれる場合もあるが主成分が90%以上であれば効果にかわりはない。これら研磨剤の平均粒子径は通常、0.01〜2μmで、0.01〜1μmが好ましく、0.01〜0.5μmが更に好ましく、0.01〜0.3μmが特に好ましく、特に電磁変換特性を高めるためには、その粒度分布が狭い方が好ましい。また耐久性を向上させるには必要に応じて平均粒子径の異なる研磨剤を組み合わせたり、単独の研磨剤でも粒径分布を広くして同様の効果をもたせることも可能である。タップ密度は0.3〜2g/cc、含水率は0.1〜5質量%、pHは2〜11、比表面積は1〜30m2/gが各々好ましい。本発明に用いられる研磨剤の形状は針状、球状、サイコロ状、のいずれでも良いが、形状の一部に角を有するものはが研磨性が高く好ましい。具体的にはα−アルミナの例として住友化学社製AKP−12(平均粒子径0.50μm)、AKP−15(平均粒子径0.45μm)、AKP−20(平均粒子径0.39μm)、AKP−30(平均粒子径0.23μm)、AKP−50(平均粒子径0.16μm)、HIT−20、HIT−30、HIT−55(平均粒子径0.20μm)、HIT−60、HIT−70(平均粒子径0.15μm)、HIT−80、HIT−100(平均粒子径0.11μm)、レイノルズ社製、ERC−DBM(平均粒子径0.22μm)、HP−DBM(平均粒子径0.22μm)、HPS−DBM(平均粒子径0.19μm)、不二見研磨剤社製、WA10000(平均粒子径0.29μm)、上村工業社製、UB20(平均粒子径0.13μm)、酸化クロムの例として日本化学工業社製、G−5(平均粒子径0.32μm)、クロメックスU2(平均粒子径0.18μm)、クロメックスU1(平均粒子径0.17μm)、α−酸化鉄の例として戸田工業社製、TF100(平均粒子径0.14μm)、TF140(平均粒子径0.17μm)、炭化ケイ素の例としてイビデン社製、ベータランダムウルトラファイン(平均粒子径0.16μm)、二酸化珪素の例として昭和鉱業社製、B−3(平均粒子径0.17μm)などが挙げられる。これらの研磨剤は必要に応じ非磁性層に添加することもできる。非磁性層に添加することで表面形状を制御したり、研磨剤の突出状態を制御したりすることができる。これら磁性層、非磁性層の添加する研磨剤の粒径、量はむろん最適値に設定すべきものである。
【0043】
また回転数が1800rpm以上、特に3000rpm以上の大容量FDの場合は、研磨剤として微粒子ダイアモンドを使用することが好ましい。本発明に使用することができるダイアモンド微粒子は、平均粒子径が2.0μm以下が好ましく、0.01〜1.0μmが更に好ましく、0.05〜0.8μmが特に好ましく、0.05〜0.3μmが最も好ましい。
【0044】
[添加剤]
本発明の磁性層と非磁性層に使用される、添加剤としては潤滑効果、帯電防止効果、分散効果、可塑効果、などをもつものが使用され、組み合わせることにより総合的な性能向上が図れる。潤滑効果を示すものとしては物質の表面同士の摩擦の際、生じる凝着を著しく低減させる作用を示す潤滑剤が使用される。潤滑剤には2つの型のものがある。磁気記録媒体に使用される潤滑剤は完全に流体潤滑か境界潤滑であるか判定することはできないが、一般的概念で分類すれば流体潤滑を示す高級脂肪酸エステル、流動パラフィン、シリコン誘導体などや境界潤滑を示す長鎖脂肪酸、フッ素系界面活性剤、含フッ素系高分子などに分類される。塗布型媒体では潤滑剤は結合剤に溶解した状態また一部は強磁性金属粉末表面に吸着した状態で存在するものであり、磁性層表面に潤滑剤が移行してくるが、その移行速度は結合剤と潤滑剤との相溶性の良否によって決まる。結合剤と潤滑剤との相溶性が高いときは移行速度が小さく、相溶性の低いときには早くなる。相溶性の良否に対する一つの考え方として両者の溶解パラメーターの比較がある。流体潤滑には非極性潤滑剤が有効であり、境界潤滑には極性潤滑剤が有効である。これらに組み合わせて固体潤滑剤を使用することもできる。固体潤滑剤としては例えば二硫化モリブデン、二硫化タングステングラファイト、窒化ホウ素、フッ化黒鉛などが使用される。境界潤滑を示す長鎖脂肪酸としては、炭素数10〜24の一塩基性脂肪酸(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)、および、これらの金属塩(Li、Na、K、Cuなど)が挙げられる。フッ素系界面活性剤、含フッ素系高分子としてはフッ素含有シリコーン、フッ素含有アルコール、フッ素含有エステル、フッ素含有アルキル硫酸エステルおよびそのアルカリ金属塩などが挙げられる。流体潤滑を示す高級脂肪酸エステルとしては、炭素数10〜24の一塩基性脂肪酸(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)と炭素数2〜12の一価、二価、三価、四価、五価、六価アルコールのいずれか一つ(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)とからなるモノ脂肪酸エステルまたはジ脂肪酸エステルまたはトリ脂肪酸エステル、アルキレンオキシド重合物のモノアルキルエーテルの脂肪酸エステルなどが挙げられる。また流動パラフィン、そしてシリコン誘導体としてジアルキルポリシロキサン(アルキルは炭素数1〜5個)、ジアルコキシポリシロキサン(アルコキシは炭素数1〜4個)、モノアルキルモノアルコキシポリシロキサン(アルキルは炭素数1〜5個、アルコキシは炭素数1〜4個)、フェニルポリシロキサン、フロロアルキルポリシロキサン(アルキルは炭素数1〜5個)などのシリコーンオイル、極性基をもつシリコーン、脂肪酸変性シリコーン、フッ素含有シリコーンなどが挙げられる。その他の潤滑剤として炭素数12〜22の一価、二価、三価、四価、五価、六価アルコール(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)、炭素数12〜22のアルコキシアルコール(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)、フッ素含有アルコールなどのアルコール、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、エチレングリコール、ポリエチレンオキシドワックスなどのポリグリコール、アルキル燐酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、アルキル硫酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、ポリフェニルエーテル、炭素数8〜22の脂肪酸アミド、炭素数8〜22の脂肪族アミンなどが挙げられる。
【0045】
帯電防止効果、分散効果、可塑効果などを示すものとしてフェニルホスホン酸、具体的には日産化学(株)社の「PPA」など、αナフチル燐酸、フェニル燐酸、ジフェニル燐酸、p−エチルベンゼンホスホン酸、フェニルホスフィン酸、アミノキノン類、各種シランカップリング剤、チタンカップリング剤、フッ素含有アルキル硫酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、などが使用できる。
中でも、フェニルホスホン酸は、帯電防止効果、分散効果、可塑効果などを示すとともに、金属磁性粉末に対する適切な吸着機能がありバインダーを固着する効果を有することから、磁性層に添加することが好ましい。添加量は、磁性層に含まれる金属磁性粉末に対し、1〜20質量%が好ましく、2〜15質量%がさらに好ましく、3〜10質量%がとくに好ましい。
【0046】
本発明において使用される潤滑剤は特に脂肪酸と脂肪酸エステルが好ましく、更にこれらに加えて別異の潤滑剤、添加剤も組み合わせて使用することができる。これらの具体例を以下に挙げる。まず脂肪酸では、飽和脂肪酸としてカプリル酸(C715COOH、融点16℃)、ペラルゴン酸(C817COOH、融点15℃)、カプリン酸(C919COOH、融点31.5℃)、ウンデシル酸(C1021COOH、融点28.6℃)、ラウリン酸(C1123COOH、融点44℃)具体的には日本油脂(株)社の「NAA−122」など、トリデシル酸(C1225COOH、融点45.5℃)、ミリスチン酸(C1327COOH、融点58℃)具体的には日本油脂(株)社の「NAA−142」など、ペンタデシル酸(C1429COOH、融点53〜54℃)、パルミチン酸(C1531COOH、融点63〜64℃)具体的には日本油脂(株)社の「NAA−160」など、ヘプタデシル酸(C1633COOH、融点60〜61℃)、ステアリン酸(C1735COOH、融点71.5〜72℃)具体的には日本油脂(株)社の「NAA−173K」など、ノナデカン酸(C1837COOH、融点68.7℃)、アラキン酸(C1939COOH、融点77℃)、ベヘン酸(C2143COOH、融点81〜82℃)などが挙げられる。不飽和脂肪酸としてオレイン酸(C1733COOH(cis)、融点16℃)具体的には関東化学(株)社の「オレイン酸」など、エライジン酸(C1733COOH(トランス)、融点44〜45℃)具体的には和光純薬(株)社の「エライジン酸」など、セトレイン酸(C2141COOH、融点33.7℃)、エルカ酸(C2141COOH、融点33.4〜34℃)具体的には日本油脂(株)社の「エルカ酸」など、ブラシジン酸(C2141COOH(トランス)、融点61.5℃)、リノール酸(C1731COOH、沸点228℃(14mmHg))、リノレン酸(C1729COOH、沸点157℃(0.01mmHg))などが挙げられる。分岐飽和脂肪酸としてはイソステアリン酸(CH3CH(CH3)(CH214COOH、融点67.6〜68.1℃)などが挙げられる。
【0047】
エステル類ではラウリン酸エステルとしてイソセチルラウレート(C1123COOCH2CH(C613)C817)、オレイルラウレート(C1123COOC1835)、ステアリルラウレート(C1123COOC1837)、ミリスチン酸エステルとしてイソプロピルミリステート(C1327COOCH(CH32)、具体的には新日本理化(株)社の「エヌジェルブIPM」など、ブチルミリステート(C1327COOC49)など、イソブチルミリステート(C1327COOiso−C49)具体的には新日本理化(株)社の「エヌジェルブIBM」など、ヘプチルミリステート(C1327COOC715)、オクチルミリステート(C1327COOC817)、イソオクチルミリステート(C1327COOCH2CH(C25)C49)、イソセチルミリステート(C1327COOCH2CH(C613)C817)などが挙げられる。
【0048】
パルミチン酸エステルとしてオクチルパルミテート(C1531COOC817)、デシルパルミテート(C1531COOC1021)、イソオクチルパルミテート(C1531COOCH2CH(C25)C49)、イソセチルパルミテート(C1531COOCH2CH(C613)C817)、2−オクチルドデシルパルミテート(C1531COOCH2CH(C817)C1225)、2−ヘキシルドデシルパルミテート(C1531COOCH2CH(C613)C1225)、オレイルパルミテート(C1531COOC1835)などが挙げられる。
【0049】
ステアリン酸エステルとしてプロピルステアレート(C1735COOC37)、イソプロピルステアレート(C1735COOCH(CH32)、ブチルステアレート(C1735COOC49)具体的には日本油脂(株)社の「ブチルステアレート」など、sec−ブチルステアレート(C1735COOCH(CH3)C25)、tert−ブチルステアレート(C1735COOC(CH33)、アミルステアレート(C1735COOC511)、イソアミルステアレート(C1735COOCH2CH2CH(CH32)など、ヘキシルステアレート(C1735COOC613)、ヘプチルステアレート(C1735COOC715)、具体的には松本油脂(株)社の「MYB−185」など、オクチルステアレート(C1735COOC817)具体的には日本油脂(株)社の「N−オクチルステアレート」など、イソオクチルステアレート(C1735COOisoC817)具体的には竹本油脂(株)社の「FAL−123」など、デシルステアレート(C1735COOC1021)、イソデシルステアレート(C1735COOiso−C1021)、ドデシルステアレート(C1735COOC1225)、イソトリデシルステアレート(C1735COOiso−C1327)、2−エチルヘキシルステアレート(C1735COOCH2CH(C25)C49)、イソヘキサデシルステアレート(C1735COOCH2CH(C25)C49)、イソセチルステアレート(C1735COOCH2CH(C613)C817)具体的には新日本理化(株)社の「エヌジェルブHDS」など、イソステアリルステアレート(C1735COOisoC1837)、オレイルステアレート(C1735COOC1837)などが挙げられる。
【0050】
ベヘン酸エステルとしてイソテトラコシルベヘネート(C2143COOCH2CH(C613)C1225)具体的には新日本理化(株)社の「エヌジェルブDTB」など)が挙げられる。グリコールタイプのエステルとしてブトキシエチルステアレート(C1735COOCH2CH2OC49)、ブトキシエチルオレエート(C1733COOCH2CH2OC49)、ジエチレングリコールモノブチルエ−テルステアレートまたはブトキシエトキシエチルステアレート(C1735COO(CH2CH2O)249)、テトラエチレングリコールモノブチルエ−テルステアレート(C1735COO(CH2CH2O)449)、ジエチレングリコールモノフェニルエ−テルステアレート(C1735COO(CH2CH2O)266)、ジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエ−テルステアレート(C1735COO(CH2CH2O)2CH2CH(C25)C49)、など特開昭59−227030号、特開昭59−65931号に記載のエステルが使用できる。
【0051】
イソステアリン酸エステルとしてイソセチルイソステアレート(isoC1735COOCH2CH(C613)C817)具体的には高級アルコール社の「I.C.I.S」など、オレイルイソステアレート(isoC1735COOC1837)、ステアリルイソステアレート(isoC1735COOC1837)、イソステアリルイソステアレート(isoC1735COOiso−C1837)、エイコセニルイソステアレート(isoC1735COOC2243)などが挙げられる。
【0052】
オレイン酸エステルとしてブチルオレエート(C1733COOC49)、新日本理化(株)社の「エヌジェルブBO」など、オレイルオレエート(C1733COOC1835)、エチレングリコールジオレイル(C1733COOCH2CH2OCOC1733)などが挙げられる。エルカ酸エステルとしてエルカ酸オレイル(C2141COOC1835)が挙げられる。ジエステルとしてジオレイルマレエート(C1835OCOCH=CHCOOC1835)、ネオペンチルグリコールジデカノエート(C919COOCH2C(CH32CH2OCOC919)、エチレングリコールジラウレート(C1123COOCH2CH2OCOC1123)、エチレングリコールジオレイル(C1733COOCH2CH2OCOC1733)、1,4−ブタンジオールジステアレート(C1735COO(CH24OCOC1735)、1,4−ブタンジオールジベヘネート(C2143COO(CH24OCOC2143)、1,10−デカンジオールジオレイル(C1733COO(CH210OCOC1733)、2−ブテン−1,4−ジオールセトレイル(C2141COOCH2CH=CHCH2OCOC2141)などが挙げられる。
【0053】
トリエステルとしてカプリル酸トリグリセライド(C715COOCH2CH(OCOC715)CH2OCOC715)が挙げられる。これら脂肪酸エステルや脂肪酸の他にアルコール類ではオレイルアルコール(C1835OH)、ステアリルアルコール(C1837OH)、ラウリルアルコール(C1225OH)などがあげられる。
【0054】
脂肪酸アミドとしてラウリン酸アミド(C1123CONH2)具体的には東京化成(株)社の「ラウリン酸アミド」など、ミリスチン酸アミド(C1327CONH2)、パルミチン酸アミド(C1531CONH2)、オレイン酸アミド(cis-C817CH=CH(CH27CONH2)具体的にはライオンアクゾ(株)社の「ア−モスリップCP−P」など、エルカ酸アミド(cis-C817CH=CH(CH211CONH2)具体的にはライオンアクゾ(株)社の「ア−モスリップE」など、ステアリン酸アミド(C1735CONH2)具体的にはライオンアクゾ(株)社の「ア−マイドHT」などが挙げられる。
【0055】
シリコン化合物として信越化学(株)社の「TAV−3630」、「TA−3」、「KF−69」、「KF−96」が挙げられる。また、アルキレンオキサイド系、グリセリン系、グリシドール系、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加体、等のノニオン界面活性剤、環状アミン、エステルアミド、第四級アンモニウム塩類、ヒダントイン誘導体、複素環類、ホスホニウムまたはスルホニウム類等のカチオン系界面活性剤、カルボン酸、スルフォン酸、燐酸、硫酸エステル基、燐酸エステル基、などの酸性基を含むアニオン界面活性剤、アミノ酸類、アミノスルホン酸類、アミノアルコールの硫酸または燐酸エステル類、アルキルベダイン型、等の両性界面活性剤等も使用できる。これらの界面活性剤については、「界面活性剤便覧」(産業図書株式会社発行)に詳細に記載されている。これらの潤滑剤、帯電防止剤等は必ずしも100%純粋ではなく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物等の不純分が含まれてもかまわない。これらの不純分は30%以下が好ましく、さらに好ましくは10%以下である。
【0056】
本発明で使用されるこれらの潤滑剤、界面活性剤は個々に異なる物理的作用を有するものであり、その種類、量、および相乗的効果を生み出す潤滑剤の併用比率は目的に応じ最適に定められるべきものである。非磁性層、磁性層で融点の異なる脂肪酸を用い表面への滲み出しを制御する、沸点、融点や極性の異なるエステル類を用い表面への滲み出しを制御する、界面活性剤量を調節することで塗布の安定性を向上させる、潤滑剤の添加量を下層で多くして潤滑効果を向上させるなど考えられ、無論ここに示した例のみに限られるものではない。一般には潤滑剤の総量として強磁性金属粉末または非磁性粉末に対し、0.1質量%〜50質量%、好ましくは2質量%〜25質量%の範囲で選択される。
【0057】
また本発明で用いられる添加剤のすべてまたはその一部は、磁性および非磁性塗料製造のどの工程で添加してもかまわない、例えば、混練工程前に強磁性金属粉末と混合する場合、強磁性金属粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。また、目的に応じて磁性層を塗布した後、同時または逐次塗布で、添加剤の一部または全部を塗布することにより目的が達成される場合がある。また、目的によってはカレンダ−した後、またはスリット終了後、磁性層表面に潤滑剤を塗布することもできる。
【0058】
[層構成]
本発明の磁気記録媒体の厚み構成は支持体が通常、2〜100μm、好ましくは2〜80μmである。コンピューターテープの支持体は、通常、3.0〜6.5μm(好ましくは、3.0〜6.0μm、更に好ましくは、4.0〜5.5μm)の範囲の厚さのものが使用される。
【0059】
支持体と非磁性層または磁性層の間に密着性向上のための下塗り層を設けてもかまわない。本下塗層厚みは通常、0.01〜0.5μm、好ましくは0.02〜0.5μmである。本発明は通常、支持体両面に非磁性層と磁性層を設けてなる両面磁性層ディスク状媒体であっても、片面のみに設けてもかまわない。この場合、帯電防止やカール補正などの効果を出すために非磁性層、磁性層側と反対側にバックコート層を設けてもかまわない。この厚みは0.1〜4μm、好ましくは0.3〜2.0μmである。これらの下塗層、バックコート層は公知のものが使用できる。
【0060】
本発明の磁気記録媒体の磁性層の厚みは用いるヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、一般には0.03μm以上0.30μm以下であり、好ましくは0.04μm以上0.25μm以下であり、更に好ましくは0.05μm以上0.20μm以下である。磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。この場合、磁性層の厚みとは、その総和を指す。
【0061】
本発明において、非磁性層の厚みは通常、0.2μm以上5.0μm以下、好ましくは0.3μm以上3.0μm以下、さらに好ましくは0.5μm以上2.5μm以下である。なお、本発明に用い得る下層は実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、たとえば不純物としてあるいは意図的に少量の磁性体を含んでもよく、実質的に非磁性とは下層の残留磁束密度が0.01T以下または抗磁力が7.96×103A/m以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力をもたないことを示す。また下層に磁性粉末を含む場合には、下層の全無機粉末中の1/2未満含んでもかまわない。
【0062】
[バックコート層]
一般に、コンピュータデータ記録用の磁気テープは、ビデオテープ、オーディオテープに比較して、繰り返し走行性が強く要求される。このような高い走行耐久性を維持させるために、バックコート層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。
【0063】
カーボンブラックは、平均粒子径の異なる二種類のものを組み合わせて使用することが好ましい。この場合、平均粒子径が10〜20nmの微粒子状カーボンブラックと平均粒子径が230〜300nmの粗粒子状カーボンブラックを組み合わせて使用することが好ましい。一般に、上記のような微粒子状のカーボンブラックの添加により、バックコート層の表面電気抵抗を低く設定でき、また光透過率も低く設定できる。磁気記録装置によっては、テープの光透過率を利用し、動作の信号に使用しているものが多くあるため、このような場合には特に微粒子状のカーボンブラックの添加は有効になる。また微粒子状カーボンブラックは一般に液体潤滑剤の保持力に優れ、潤滑剤併用時、摩擦係数の低減化に寄与する。一方、平均粒子径が230〜300nmの粗粒子状カーボンブラックは、固体潤滑剤としての機能を有しており、またバック層の表面に微小突起を形成し、接触面積を低減化して、摩擦係数の低減化に寄与する。しかし粗粒子状カーボンブラックは、過酷な走行系では、テープ摺動により、バックコート層からの脱落が生じ易くなり、エラー比率の増大につながる欠点を有している。
【0064】
微粒子状カーボンブラックの具体的な商品としては、以下のものを挙げることができる。RAVEN2000B(平均粒子径18nm)、RAVEN1500B(平均粒子径17nm)(以上、コロンビアンカーボン社製)、BP800(平均粒子径17nm)(キャボット社製)、PRINNTEX90(平均粒子径14nm)、PRINTEX95(平均粒子径15nm)、PRINTEX85(平均粒子径16nm)、PRINTEX75(平均粒子径17nm)(以上、デグサ社製)、#3950(平均粒子径16nm)(三菱化学(株)製)。
【0065】
また粗粒子カーボンブラックの具体的な商品の例としては、サーマルブラック(平均粒子径270nm)(カーンカルブ社製)、RAVEN MTP(平均粒子径275nm)(コロンビアンカーボン社製)を挙げることができる。
【0066】
バックコート層において、平均粒子径の異なる二種類のものを使用する場合、10〜20nmの微粒子状カーボンブラックと230〜300nmの粗粒子状カーボンブラックの含有比率(質量比)は、前者:後者=98:2〜75:25の範囲にあることが好ましく、更に好ましくは、95:5〜85:15の範囲である。
【0067】
バックコート層中のカーボンブラック(二種類のものを使用する場合には、その全量)の含有量は、結合剤100質量部に対して、通常30〜80質量部の範囲であり、好ましくは、45〜65質量部の範囲である。
【0068】
無機粉末は、硬さの異なる二種類のものを併用することが好ましい。具体的には、モース硬度3〜4.5の軟質無機粉末とモース硬度5〜9の硬質無機粉末とを使用することが好ましい。モース硬度が3〜4.5の軟質無機粉末を添加することで、繰り返し走行による摩擦係数の安定化を図ることができる。しかもこの範囲の硬さでは、摺動ガイドポールが削られることもない。またこの無機粉末の平均粒子径は、30〜50nmの範囲にあることが好ましい。
【0069】
モース硬度が3〜4.5の軟質無機粉末としては、例えば、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、及び酸化亜鉛を挙げることができる。これらは、単独で、あるいは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0070】
バックコート層内の軟質無機粉末の含有量は、カーボンブラック100質量部に対して10〜140質量部の範囲にあることが好ましく、更に好ましくは、35〜100質量部である。
【0071】
モース硬度が5〜9の硬質無機粉末を添加することにより、バックコート層の強度が強化され、走行耐久性が向上する。これらの無機粉末をカーボンブラックや前記軟質無機粉末と共に使用すると、繰り返し摺動に対しても劣化が少なく、強いバックコート層となる。またこの無機粉末の添加により、適度の研磨力が付与され、テープガイドポール等への削り屑の付着が低減する。特に軟質無機粉末と併用すると、表面の粗いガイドポールに対しての摺動特性が向上し、バックコート層の摩擦係数の安定化も図ることができる。
【0072】
硬質無機粉末は、その平均粒子径が80〜250nm(更に好ましくは、100〜210nm)の範囲にあることが好ましい。
【0073】
モース硬度が5〜9の硬質無機質粉末としては、例えば、α−酸化鉄、α−アルミナ、及び酸化クロム(Cr23 )を挙げることができる。これらの粉末は、それぞれ単独で用いても良いし、あるいは併用しても良い。これらの内では、α−酸化鉄又はα−アルミナが好ましい。硬質無機粉末の含有量は、カーボンブラック100質量部に対して通常3〜30質量部であり、好ましくは、3〜20質量部である。
【0074】
バックコート層に前記軟質無機粉末と硬質無機粉末とを併用する場合、軟質無機粉末と硬質無機粉末との硬さの差が、2以上(更に好ましくは、2.5以上、特に、3以上)であるように軟質無機粉末と硬質無機粉末とを選択して使用することが好ましい。
【0075】
バックコート層には、前記それぞれ特定の平均粒子径を有するモース硬度の異なる二種類の無機粉末と、前記平均粒子径の異なる二種類のカーボンブラックとが含有されていることが好ましい。
【0076】
バックコート層には、潤滑剤を含有させることができる。潤滑剤は、前述した非磁性層、あるいは磁性層に使用できる潤滑剤として挙げた潤滑剤の中から適宜選択して使用できる。バックコート層において、潤滑剤は、結合剤100質量部に対して通常1〜5質量部の範囲で添加される。
【0077】
[支持体]
本発明に用いられる支持体は支持体の面内各方向に対し、100℃30分での熱収縮率が0.5%以下であり、80℃30分での熱収縮率が0.5%以下、更に好ましくは0.2%以下であることが好ましい。更に前記支持体の100℃30分での熱収縮率及び80℃30分での熱収縮率が前記支持体の面内各方向に対し、10%以内の差で等しいことが好ましい。支持体は非磁性であることが好ましい。これら支持体はポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、等のポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカ−ボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、ポリアラミド、芳香族ポリアミド、ポリベンゾオキサゾールなどの公知のフィルムが使用できる。ポリエチレンナフタレート、ポリアミドなどの高強度支持体を用いることが好ましい。また必要に応じ、磁性面とベース面の表面粗さを変えるため特開平3−224127号公報に示されるような積層タイプの支持体を用いることもできる。これらの支持体にはあらかじめコロナ放電処理、プラズマ処理、易接着処理、熱処理、除塵処理、などをおこなっても良い。また本発明の支持体としてアルミまたはガラス基板を適用することも可能である。
【0078】
本発明の支持体は、WYKO社製の表面粗さ計「HD−2000」で測定した中心面平均表面粗さSRaは好ましくは4.0nm以下、更に好ましくは2.0nm以下のものを使用することが好ましい。これらの支持体は単に中心面平均表面粗さが小さいだけではなく、0.5μm以上の粗大突起がないことが好ましい。また表面の粗さ形状は必要に応じて支持体に添加されるフィラーの大きさと量により自由にコントロールされるものである。これらのフィラーとしては一例としてはCa,Si、Tiなどの酸化物や炭酸塩の他、アクリル系などの有機粉末があげられる。支持体の最大高さSRmaxは1μm以下、十点平均粗さSRzは0.5μm以下、中心面山高さはSRpは0.5μm以下、中心面谷深さSRvは0.5μm以下、中心面面積率SSr は10%以上、90%以下、平均波長Sλaは5μm以上、300μm以下が好ましい。所望の電磁変換特性と耐久性を得るため、これら支持体の表面突起分布をフィラーにより任意にコントロールできるものであり、0.01μmから1μmの大きさのもの各々を0.1mm2 あたり0個から2000個の範囲でコントロールすることができる。
【0079】
本発明に用いられる支持体のF−5値は好ましくは49〜490MPaであり、破断強度は49〜980MPa、弾性率は980〜19600MPaが好ましい。温度膨張係数は10-4〜10-8/℃であり、好ましくは10-5〜10-6/℃である。湿度膨張係数は10-4/RH%以下であり、好ましくは10-5/RH%以下である。これらの熱特性、寸法特性、機械強度特性は支持体の面内各方向に対し10%以内の差でほぼ等しいことが好ましい。
【0080】
[製法]
本発明の磁気記録媒体の磁性塗料や下層用塗料を製造する工程は、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上にわかれていてもかまわない。本発明に使用する強磁性金属粉末、非磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。本発明の磁気記録媒体を製造するために、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。ニーダを用いる場合は強磁性金属粉末または非磁性粉末と結合剤のすべてまたはその一部(ただし全結合剤の30質量%以上が好ましい)および強磁性金属粉末100部に対し15〜500部の範囲で混練処理される。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338、特開平1−79274号の各公報に記載されている。また、磁性層液および非磁性層液を分散させるにはガラスビーズを用いることができるが、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。
【0081】
本発明で重層構成の磁気記録媒体を塗布する場合、以下のような方式を用いることが好ましい。第一に磁性塗料の塗布で一般的に用いられるグラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージョン塗布装置等により、まず下層を塗布し、下層がウェット状態のうちに特公平1−46186、特開昭60−238179、特開平2−265672号の各公報に開示されている支持体加圧型エクストルージョン塗布装置により上層を塗布する方法、第二に特開昭63−88080、特開平2−17971、特開平2−265672号の各公報に開示されているような塗布液通液スリットを二つ内蔵する一つの塗布ヘッドにより上下層をほぼ同時に塗布する方法、第三に特開平2−174965号公報に開示されているバックアップロール付きエクストルージョン塗布装置により上下層をほぼ同時に塗布する方法である。なお、磁性粒子の凝集による磁気記録媒体の電磁変換特性等の低下を防止するため、特開昭62−95174や特開平1−236968号の各公報に開示されているような方法により塗布ヘッド内部の塗布液にせん断を付与することが望ましい。さらに、塗布液の粘度については、特開平3−8471号公報に開示されている数値範囲を満足することが好ましい。本発明の構成を実現するには下層を塗布し乾燥させたのち、その上に磁性層を設ける逐次重層塗布を用いてもよい。本発明では、前述の理由から、逐次重層塗布が好ましい。
【0082】
デイスクの場合、配向装置を用いず無配向でも十分に等方的な配向性が得られることもあるが、コバルト磁石を斜めに交互に配置すること、ソレノイドで交流磁場を印加するなど公知のランダム配向装置を用いることが好ましい。等方的な配向とは強磁性金属粉末の場合、一般的には面内2次元ランダムが好ましいが、垂直成分をもたせて3次元ランダムとすることもできる。また異極対向磁石など公知の方法を用い、垂直配向とすることで円周方向に等方的な磁気特性を付与することもできる。特に高密度記録を行う場合は垂直配向が好ましい。また、スピンコートを用い円周配向してもよい。
【0083】
磁気テープの場合はコバルト磁石やソレノイドを用いて長手方向に配向する。乾燥風の温度、風量、塗布速度を制御することで塗膜の乾燥位置を制御できる様にすることが好ましく、塗布速度は20m/分〜1000m/分、乾燥風の温度は60℃以上が好ましい、また磁石ゾーンに入る前に適度の予備乾燥を行なうこともできる。
【0084】
カレンダ処理ロールとしてエポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド等の耐熱性のあるプラスチックロールまたは金属ロールで処理するが、特に両面磁性層とする場合は金属ロール同士で処理することが好ましい。処理温度は、好ましくは50℃以上、さらに好ましくは100℃以上である。線圧力は好ましくは1960N/cm以上、さらに好ましくは2940N/cm以上である。
【0085】
[物理特性]
本発明になる磁気記録媒体がディスクの場合、その磁性層の角形比は2次元ランダムの場合は通常、0.55以上0.67以下で、好ましくは0.58以上、0.64以下、3次元ランダムの場合は通常、0.45以上、0.55以下が好ましく、垂直配向の場合は垂直方向に通常、0.6以上好ましくは0.7以上、反磁界補正を行った場合は通常、0.7以上好ましくは0.8以上である。2次元ランダム、3次元ランダムとも配向度比は0.8以上が好ましい。2次元ランダムの場合、垂直方向の角形比、Br、HcおよびHrは面内方向の0.1〜0.5倍以内とすることが好ましい。
【0086】
磁気テープの場合、長手方向の角型比は通常、0.7以上、好ましくは0.85以上である。本発明の磁気記録媒体のヘッドに対する摩擦係数は温度−10℃から40℃、湿度0%から95%の範囲において通常、0.5以下、好ましくは0.3以下、表面固有抵抗は好ましくは磁性面104〜1012オ−ム/sq、帯電位は−500Vから+500V以内が好ましい。磁性層の0.5%伸びでの弾性率は面内各方向で好ましくは980〜19600MPa、破断強度は好ましくは98〜690MPa、磁気記録媒体の弾性率は面内各方向で好ましくは980〜14700MPa、残留のびは好ましくは0.5%以下、100℃以下のあらゆる温度での熱収縮率は好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、もっとも好ましくは0.1%以下である。磁性層のガラス転移温度(動的粘弾性測定装置、レオバイブロン等により、110Hzで測定した動的粘弾性測定の損失弾性率の極大点)は50℃以上120℃以下が好ましく、下層非磁性層のそれは0℃〜100℃が好ましい。損失弾性率は1×105 〜8×108Paの範囲にあることが好ましく、損失正接は0.2以下であることが好ましい。損失正接が大きすぎると粘着故障が発生しやすい。これらの熱特性や機械特性は媒体の面内各方向で10%以内でほぼ等しいことが好ましい。磁性層中に含まれる残留溶媒は好ましくは100mg/ m2 以下、さらに好ましくは10mg/ m2以下である。塗布層が有する空隙率は非磁性層、磁性層とも好ましくは50容量%以下、さらに好ましくは40容量%以下である。空隙率は高出力を果たすためには小さい方が好ましいが、目的によってはある値を確保した方が良い場合がある。例えば、繰り返し用途が重視されるディスク媒体では空隙率が大きい方が走行耐久性は好ましいことが多い。
【0087】
磁性層の表面をWYCO社製の表面粗さ計「HD−2000」で測定した中心面平均表面粗さRaは好ましくは4.0nm以下、更に好ましくは3.5nm以下、特に好ましくは3.3nm以下である。磁性層の最大高さSRmaxは0.5μm以下、十点平均粗さSRzは0.3μm以下、中心面山高さSRpは0.3μm以下、中心面谷深さSRvは0.3μm以下、中心面面積率SSrは20%以上、80%以下、平均波長Sλaは5μm以上、300μm以下が好ましい。磁性層の表面突起は0.01μmから1μmの大きさのものを0個から2000個の範囲で任意に設定することが可能であり、これにより電磁変換特性、摩擦係数を最適化することが好ましい。これらは支持体のフィラ−による表面性のコントロールや磁性層に添加する粉体の粒径と量、カレンダ処理のロール表面形状などで容易にコントロールすることができる。カールは±3mm以内とすることが好ましい。
【0088】
本発明の磁気記録媒体で非磁性層と磁性層を有する場合、目的に応じ非磁性層と磁性層でこれらの物理特性を変えることができるのは容易に推定されることである。例えば、磁性層の弾性率を高くし走行耐久性を向上させると同時に非磁性層の弾性率を磁性層より低くして磁気記録媒体のヘッドへの当りを良くするなどである。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。なお例中の%および部は特に言及がない場合は、質量基準である。
【0090】
強磁性金属粉末を使用した重層構成の磁気テープを作成するため、以下の磁性層の組成物、下層非磁性層の組成物及びバック層の組成物を作成した。
【0091】
(磁性層の組成物)
強磁性金属粉末 100部
組成:Fe 100%、Co 14%(原子比)、Y(表1参照)
Hc:176〜230kA/m
比表面積:65m/g
σs:75〜140A・m2/kg
結晶子サイズ:30〜110Å
平均長軸長:表1参照
平均針状比:8
表面酸化膜厚:0.7〜2.5nm
結合剤樹脂 塩化ビニル共重合体 13部
(−SO3Na基を1×10-4eq/g含有、重合度 300)
ポリエステルポリウレタン樹脂 5部
(ネオペンチルグリコール/カプロラクトンポリオール/MDI=0.9/2.6/1、−SO3Na基 1×10-4eq/g含有)
α−アルミナ(平均粒子径0.10μm) 4部
カーボンブラック(平均粒子サイズ25nm) 1部
フェニルホスホン酸 3部
2−エチルヘキシルステアレート 3部
ステアリン酸 3部
メチルエチルケトンとシクロヘキサノン1:1混合溶剤 360部
【0092】
(下層非磁性層の組成物)
針状ヘマタイト 80部
(BET法による比表面積60m2/g、 平均長軸長0.05μm、平均針状比8、pH9.0、アルミニウム処理(Al2O3として1質量%))
カーボンブラック 20部
(平均一次粒子径:19nm、DBP吸油量:120ml/100g、BET法による表面積:230m2/g、pH7.4)
塩化ビニル共重合体 12部
(−SO3Na基を1×10-4eq/g含有、重合度 300)
ポリエステルポリウレタン樹脂 5部
(ネオペンチルグリコール/カプロラクトンポリオール/MDI=0.9/2.6/1、−SO3Na基 1×10-4eq/g含有)
フェニルホスホン酸 3部
2−エチルヘキシルステアレート 3部
ステアリン酸 3部
メチルエチルケトンとシクロヘキサノン1:1混合溶剤 280部
【0093】
(バック層の組成物)
微粒子状カーボンブラック粉末 100部
[(キャボット社製、BP−800、平均粒子径:17nm)]
粗粒子状カーボンブラック粉末 1部
[(カーンカルブ社製、サーマルブラック、平均粒子径:240nm)]
α−アルミナ(硬質無機粉末) 0.5部
(ただし、HIT55/MR110/MEK=5部/1部/4部の分散品を用い、その分散品のα−アルミナ(HIT55)が0.5部)
ニトロセルロース樹脂 108部
ポリウレタン樹脂 15部
ポリイソシアネート 40部
ポリエステル樹脂 5部
分散剤:オレイン酸銅 4部
銅フタロシアニン 4部
硫酸バリウム 5部
メチルエチルケトン 2200部
酢酸ブチル 300部
トルエン 600部
【0094】
上記の組成物からなる磁性塗料(上層用)及び非磁性塗料(下層用)のそれぞれについて、顔料、塩化ビニル重合体、フェニルホスホン酸と処方量の50%の各溶剤をニ−ダで混練したのち、ポリウレタン樹脂と残りの成分を加えてサンドミルで分散して磁性層用または非磁性層用の分散液を作成した。得られた各々の分散液にポリイソシアネ−トを5部、さらにそれぞれにシクロヘキサノン30部を加え、仕上げ分散をした後、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、非磁性層形成用および磁性層形成用塗布液をそれぞれ調製した。また、バック層を形成する各成分を連続ニ−ダで混練したのち、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液を1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、バック層形成用塗布液を調製した。
得られた非磁性層形成用塗布液(下層用)を、乾燥後の下層の厚さが1.0μmになるよう塗布し、乾燥した後、全金属ロール使用の7段カレンダーにより100℃、線圧3kN/cm、速度50m/min.でカレンダー処理を行い、その後にその上に磁性層の厚さが、0.08μmの厚みとなるように、厚さ3.7μmで中心面平均表面粗さが2nmのアラミド支持体(商品名:ミクトロン)上に磁性層形成用塗布液を塗布し、磁性層がまだ湿潤状態にあるうちに477.5kA/mの磁力を持つコバルト磁石と477.5kA/mの磁力を持つソレノイドにより配向し、乾燥により塗膜をセットした。乾燥後、金属ロ−ルとプラスチックロールとから構成される7段のカレンダ−で温度100℃にて速度200m/min.、線圧2940N/cmで処理を行い、その後、バック層形成用塗布液を用いて厚み0.5μmのバック層を塗布した。所望の幅(8mm、1/4吋、1/2吋または3.8mm)にスリットし、スリット品の送り出し、巻き取り装置を持った装置に不織布と研磨テ−プが磁性面に押し当たるように取り付け、テ−プクリ−ニング装置で磁性層の表面のクリ−ニングを行い、テープ試料を得た。
【0095】
得られたテープ試料について、下記の試験を行った。
(1)耐久性
市販のLTOG3ドライブを用いて所定の信号を記録した後、再生信号をモニターしつつ25℃、10%RHで50m長で10000パス走行させた。初期再生出力の5dB低下時点でストップした。10000パス走行したサンプルはヘッド周辺の汚れを観察し、汚れのみられないものを○、汚れのみられたもの(中程度)を△、かなり汚れているものを×として評価した。また10を超えるエラーレート上昇(Δエラーレート)は走行が停止した場合、その走行回数を記して評価した。
(2)電磁変換特性
市販のLTOG3データー記録用デッキを用い、入出力特性から最適記録電流を決めこの電流で信号を記録し、MRヘッドで再生した。
C/Nは再生キャリアのピークから消磁ノイズまでとし、スペクトルアナライザーの分解能バンド幅は100kHzとした。キャリア近傍のノイズレベルはキャリアから前後0.3MHzはなれた値の平均値を用いた。実施例1で使用したテープに対する特性で表した。結果を表1に示す。
【0096】
(表1)
平均長軸長 Y量at% 走行耐久性 C/N(dB)Δエラーレート 汚れ
実施例1 30nm 3 10000pass< 0 100
実施例2 30nm 6 10000pass< 0 100
実施例3 30nm 8 10000pass< 0 100
実施例4 40nm 3 10000pass< −0.1 100
実施例5 40nm 6 10000pass< −0.1 100
実施例6 40nm 8 10000pass< 0 100
実施例7 20nm 3 10000pass< 0 100
実施例8 20nm 6 10000pass< 0 100
実施例9 20nm 8 10000pass< 0 100
比較例1 30nm 0 10000pass< −3 10
比較例2 30nm 12 265pass −5> 103
比較例3 40nm 0 10000pass< −4 10 ×
比較例4 40nm 12 300pass −4 103< △
比較例5 50nm 0 10000pass< −3> 10
比較例6 50nm 12 520pass −5> 103
比較例7 20nm 0 10000pass< −5> 10 ×
比較例8 20nm 12 300pass −5> 103 ×
【0097】
上記表1中、平均長軸長とあるのは、磁性層中の強磁性金属粉末の平均長軸長であり、Y量は、強磁性金属粉末のFeに対するY量である。
【0098】
表1の結果から、磁性層中の強磁性金属粉末の平均長軸長が10〜45nmであり、かつFeに対するY量が2〜9at%であるときに限り、電磁変換特性および耐久性が両立していることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に強磁性金属粉末を結合剤中に分散してなる磁性層を設けた磁気記録媒体において、前記磁性層中の強磁性金属粉末の平均長軸長が10〜45nmであり、かつFeに対するY量が2〜9at%であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記支持体と磁性層の間に実質的に非磁性である下層を設けたことを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記磁性層が、フェニルホスホン酸を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記磁性層が、前記非磁性である下層を前記支持体上に塗布し、乾燥した後に設けられてなることを特徴とする請求項2または3に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記磁性層が、前記非磁性である下層を前記支持体上に塗布し、カレンダー処理した後に設けられてなることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の磁気記録媒体。

【公開番号】特開2007−257713(P2007−257713A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−79297(P2006−79297)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】