説明

磁気記録媒体

【課題】GMRヘッド等の高感度ヘッドが用いられるシステムにおいて再生時のSNRが良好な磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】磁性層中に、Fe16相を含み、且つ20nm以下の平均粒子サイズを有する粒状乃至楕円体状の窒化鉄系磁性粉末と、10〜30nmの平均板径を有する板状の六方晶系フェライト磁性粉末と、結合剤とを含有し、前記磁性層中の窒化鉄系磁性粉末の含有量が、窒化鉄系磁性粉末と六方晶系フェライト磁性粉末の合計量に対して、50〜90質量%である磁気記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非磁性支持体上に磁性粉末と結合剤とを含有する磁性層が形成された塗布型の磁気記録媒体に関する。特に、GMRヘッドなどの高感度ヘッドを再生ヘッドとして用いるシステムに好適な高密度磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
非磁性支持体上に磁性粉末と結合剤とを含有する磁性層が形成された塗布型の磁気記録媒体は、アナログ方式からデジタル方式への記録再生方式の移行に伴い、一層の記録密度の向上が要求されている。特に、高密度デジタルビデオテープやコンピュータバックアップテープなどにおいては、この要求が年々高まってきている。
【0003】
記録密度の向上に不可欠な短波長記録に対応するためには、短波長領域における再生出力を向上させる必要がある。このため、磁性粉末を微粒子化することにより充填性を向上させ、磁束密度を向上させることや、磁性粉末の高保磁力化により短波長記録時の減磁を低減することがこれまで検討されてきている。例えば、高密度磁気記録テープに使用されている針状の磁性粉末においては、45nm程度の長軸長を有し、238.9kA/m程度の高保磁力を有する金属鉄系磁性粉末が実現されている(特許文献1〜3)。しかしながら、上記のような針状の磁性粉末を用いる磁気記録媒体においては、上記長軸長からのさらに大幅な微粒子化は困難になってきている。すなわち、針状の金属鉄系磁性粉末は、その形状を針状とすることによる形状磁気異方性に基づき高保磁力を発現している。従って、微粒子化に伴い必然的に針状比(長軸長/短軸長)が小さくなり、保磁力が低下する。この保磁力の低下は、高密度記録において致命的な問題となる。
【0004】
そこで、本出願人は、Fe16相を含み、5〜50nmの平均粒子サイズを有する窒化鉄系磁性粉末を用いた磁気記録媒体を先に提案した(特許文献4)。この窒化鉄系磁性粉末は結晶磁気異方性を有するため、微粒子でありながら、高保磁力と適度な飽和磁化とを有し、また従来の針状の磁性粉末と異なり、粒状乃至楕円体状の形状を有するため、磁性層を形成したときに磁性粉末が高充填されやすいという特徴を有している。このため、高い磁束密度が得られやすく、高出力が得られるという利点を有している。
【特許文献1】特開平3−49026号公報
【特許文献2】特開平10−83906号公報
【特許文献3】特開平10−340805号公報
【特許文献4】特開2004−273094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、コンピュータ用データ記録システムにおいては、記録情報の再生を行う際に用いる再生ヘッドとして、従来の誘導型ヘッドに代わり、磁気抵抗効果型磁気ヘッド(MRヘッド)が採用されてきているが、最近はさらに高感度の巨大磁気抵抗効果型磁気ヘッド(GMRヘッド)やトンネル磁気抵抗効果型磁気ヘッド(TMRヘッド)等の高感度ヘッド(以下、総称してGMRヘッド等という)の適用が検討されてきている。このようなGMRヘッド等の高感度ヘッドを使用したシステムにおいては、システムに起因するノイズの大幅な低減が可能なことから、磁気記録媒体に由来する媒体ノイズがシステムのSNR(Signal Noise Ratio)を支配することが知られている。
【0006】
塗布型の磁気記録媒体において、媒体ノイズは磁性粉末の充填量で比較すると、記録ビット内に存在する粒子の個数が多くなるほど低くなる。従って、媒体ノイズを低減するためには、微粒子の磁性粉末を使用し、磁性層中の磁性粉末の充填性を向上することが有効である。このため、特許文献4の窒化鉄系磁性粉末の中でも、平均粒子サイズの小さい微粒子の窒化鉄系磁性粉末を使用すれば、再生出力を向上できるとともに、ノイズも低減できると考えられる。
【0007】
しかしながら、磁性粉末を微粒子化していくと、個々の磁性粉末間に強い磁気的な相互作用が働くため、磁性粉末が凝集しやすくなり、磁気クラスタが形成されやすくなる。この磁気クラスタは信号を記録再生するときにあたかも1つの磁性粉末のような挙動を示すため、磁気クラスタの形成により粒子サイズの大きな磁性粉末が存在することと同等の現象を引き起こす。その結果、磁気クラスタサイズが大きくなるほど、記録ビット中の見かけの磁性粉末の個数が少なくなり、ノイズが高くなりやすい。
【0008】
従って、微粒子の窒化鉄系磁性粉末を使用することにより、高充填の磁性層を形成でき、出力を向上させることができるが、同時に磁気クラスタサイズが増大しやすく、そのためGMRヘッド等の高感度ヘッドを用いるシステムにおいてはノイズが高くなり、結果として高いSNRを達成することができないという問題がある。
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、微粒子の窒化鉄系磁性粉末を用いた場合の窒化鉄系磁性粉末の凝集に起因する磁気クラスタサイズを低減し、もってGMRヘッド等の高感度ヘッドが用いられるシステムで高いSNRを有する高密度記録に適した磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に磁性層とを有する磁気記録媒体であって、
前記磁性層は、Fe16相を含み、20nm以下の平均粒子サイズを有する粒状乃至楕円体状の窒化鉄系磁性粉末と、10〜30nmの平均板径を有する板状の六方晶系フェライト磁性粉末と、結合剤とを含有し、
前記磁性層中の窒化鉄系磁性粉末の含有量が、窒化鉄系磁性粉末と六方晶系フェライト磁性粉末の合計量に対して、50〜90質量%であることを特徴とする。
【0011】
上記磁気記録媒体によれば、磁性層が主磁性粉末として微粒子で粒状乃至楕円体状の窒化鉄系磁性粉末を含有するため、高充填の磁性層を形成することができる。また、このような窒化鉄系磁性粉末を用いて高充填の磁性層を形成した場合、窒化鉄系磁性粉末の凝集により磁気クラスタサイズが増大しやすいが、上記磁性層は微粒子で粒状乃至楕円体状の窒化鉄系磁性粉末とともに、副磁性粉末として微粒子で板状の六方晶系フェライト磁性粉末を一定量含有するため、窒化鉄系磁性粉末の凝集が抑えられ、磁気クラスタサイズの増大を抑えることができる。また、上記六方晶系フェライト磁性粉末はそれ自体が一定の磁気特性を有するため、該六方晶系フェライト磁性粉末を一定量含有させても、磁性層全体の磁気特性の低下も抑えることができる。
【0012】
上記磁気記録媒体において、六方晶系フェライト磁性粉末の平均板径と、窒化鉄系磁性粉末の平均粒子サイズとの比(平均板径/平均粒子サイズ)は、1.1〜1.6が好ましい。上記平均板径と平均粒子サイズとの関係を有すれば、さらに磁気クラスタサイズの小さい磁性層を形成することができる。
【0013】
上記六方晶系フェライト磁性粉末は、バリウムフェライト磁性粉末、及びストロンチウムフェライト磁性粉末からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。これらの六方晶系フェライト磁性粉末は大きな磁気異方性を有するため、さらに出力の低下を抑えることができる。
【0014】
上記磁気記録媒体は、前記非支持性支持体と磁性層との間に、さらに下塗り層を少なくとも1層有し、前記磁性層は、300nm以下の厚さを有することが好ましい。薄層の磁性層と非磁性支持体との間に下塗り層を設けることにより、上層の磁性層の表面性を向上することができるため、微粒子で、磁気特性に優れる窒化鉄系磁性粉末の特性を十分に発揮させることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、微粒子で粒状乃至楕円体状の窒化鉄系磁性粉末と、微粒子で板状の六方晶系フェライト磁性粉末とを一定量使用することにより、窒化鉄系磁性粉末の凝集が抑えられ、磁気クラスタサイズの小さい磁性層を形成することができる。このため、GMRヘッド等の高感度ヘッドが用いられるシステムにこの磁気記録媒体を適用した場合、高いSNRを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本実施の形態における磁性層は、主磁性粉末として、Fe16相を含み、20nm以下、好ましくは16nm以下の平均粒子サイズを有する粒状乃至楕円体状の窒化鉄系磁性粉末を含有する。このような窒化鉄系磁性粉末は、内部に結晶性の高いFe16相を含有するため、高保磁力で、適度な飽和磁化を有している。また、このような微粒子で、粒状乃至楕円体状の窒化鉄系磁性粉末を使用することにより、磁性層中に窒化鉄系磁性粉末が高度に充填されるため、薄層であっても高い磁束密度を有する磁性層を形成することができ、それによって再生出力を向上することができる。平均粒子サイズが20nmより大きいと、磁気クラスタを形成する磁性粉末の個数が少なくても、個々の粒子サイズが大きいいため、磁気クラスタサイズも大きくなってしまい、その結果GMRヘッド等の高感度ヘッドを用いるシステムではノイズが増加しやすい。一方、平均粒子サイズの小さい窒化鉄系磁性粉末ほど充填性を向上することができるため好ましいが、余りに平均粒子サイズが小さいと粒度分布の制御が困難となり、また磁化の減少などの別の問題が生じてくるため、平均粒子サイズは5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましい。上記平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡(TEM)により倍率20万倍で撮影した窒化鉄系磁性粉末300個の粒子サイズの平均値である。なお、粒状乃至楕円体状とは、軸比[長軸径/短軸径]の平均値が1〜2の略球状乃至略楕円体状の形状を意味し、粒子サイズとは、球状の粉末の場合には直径を、楕円体状などの異方性を有する粉末の場合には長軸径を意味する。また、窒化鉄系磁性粉末は、形状が粒状乃至楕円体状であれば、粉末の表面に凹凸があってもよく、若干の変形を有していてもよい。このようなFe16相を含有する粒状乃至楕円体状の窒化鉄系磁性粉末は、例えば特開2000−277311号公報に記載されている。
【0017】
窒化鉄系磁性粉末は、鉄に対して窒素を1〜20原子%含有することが好ましい。また、窒化鉄系磁性粉末は、鉄の一部が他の遷移金属元素で置換されていてもよい。このような他の遷移金属元素としては、具体的には、例えば、Mn、Zn、Ni、Cu、Coなどが挙げられる。これらは単独または複数含有していてもよい。これらの中でも、Co、Niが好ましく、特にCoは飽和磁化を最も向上できるので、好ましい。ただし、Coの含有量は鉄に対して10原子%以下が好ましい。Coの含有量が多くなりすぎると、窒化に長時間を要する傾向がある。また、窒化鉄系磁性粉末は希土類元素を含有してもよい。特に、Fe16相を主相とする窒化鉄を主として含有する内層部分と希土類元素を主として含有する外層部分とを有する2層構成の窒化鉄系磁性粉末は、高保磁力でありながら、高い分散性や優れた形状維持性を示すため好ましい。このような希土類元素としては、具体的には、例えば、イットリウム、イッテルビウム、セシウム、プラセオジウム、ランタン、ユーロピウム、ネオジウムなどが挙げられる。これらは単独または複数含有していてもよい。これらの中でも、イットリウム、サマリウム、及びネオジウムは還元時の粒子形状の維持効果が大きいため、好ましい。希土類元素の含有量は、鉄に対し、総量で0.05〜20原子%が好ましく、0.1〜15原子%がより好ましく、0.5〜10原子%が最も好ましい。希土類元素が少なすぎると、分散性の向上効果が少なくなり、また還元時の粒子形状維持効果が小さくなる。希土類元素が多すぎると、未反応の希土類元素部分が多くなり、分散、塗布工程での障害となったり、保磁力や飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。また、窒化鉄系磁性粉末は、ホウ素、シリコン、アルミニウム、リンを含有してもよい。このような元素を含有することにより、高分散性の窒化鉄系磁性粉末が得られる。これらの元素は、希土類元素に比べて安価であるため、コスト的にも有利である。これらの元素の含有量は、鉄に対し、ホウ素、シリコン、アルミニウム及びリンの総量で0.1〜20原子%が好ましい。これらの元素が少なすぎると、形状維持効果が少ない。またこれらの元素が多すぎると、飽和磁化が低下しやすい。なお、窒化鉄系磁性粉末は、必要により、炭素、カルシウム、マグネシウム、ジルコニウム、バリウム、ストロンチウムなどを含有してもよい。これら元素と希土類元素とを併用することにより、より高い形状維持性と分散性能とを得ることができる。
【0018】
窒化鉄系磁性粉末の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば特開2004−273094号公報等に記載の方法により製造することができる。具体的には、出発原料としては、鉄系酸化物または鉄系水酸化物が用いられる。鉄系酸化物、鉄系水酸化物としては、例えば、ヘマタイト、マグネタイト、ゲータイトなどが挙げられる。出発原料の粒径は、特に限定されないが、5〜50nmが好ましく、5〜30nmがより好ましい。粒径が小さすぎると、還元処理時に粒子間焼結が生じやすい。粒径が大きすぎると、還元処理が不均質となりやすく、得られる窒化鉄系磁性粉末の粒子サイズや磁気特性の制御が困難となる。
【0019】
上記の出発原料には希土類元素を被着させてもよい。被着処理の方法としては、例えば、アルカリまたは酸の水溶液中に出発原料を分散させ、これに希土類元素の塩を溶解させた後、中和反応などにより出発原料に希土類元素を含む水酸化物や水和物を沈殿析出させるようにすればよい。また、上記の出発原料にはホウ素、シリコン、アルミニウム、リンなどの元素を被着させてもよい。これらの元素の被着処理の方法としては、例えば、上記元素を含有する化合物を溶解させた溶液を調製し、この溶液に出発原料を浸漬して、出発原料にホウ素、シリコン、アルミニウム、リンなどを被着させる方法が挙げられる。これらの被着処理を効率良く行うために、溶液には還元剤、pH緩衝剤、粒径制御剤などの添加剤をさらに添加してもよい。さらに、被着処理において、希土類元素と、ホウ素、シリコン、アルミニウム、リンなどの元素とを同時にあるいは交互に出発原料に被着させるようにしてもよい。
【0020】
次に、上記のような出発原料を水素気流中で加熱還元する。還元ガスは特に限定されず、水素ガス以外に、一酸化炭素ガスなどの還元性ガスを使用してもよい。還元温度としては、300〜600℃とするのが望ましい。還元温度が300℃より低いと、還元反応が十分進まなくなる。還元温度が600℃より高いと、焼結が起こりやすくなる。
【0021】
上記のような加熱還元後、窒化処理を施すことにより、鉄と窒素とを構成元素として有する窒化鉄系磁性粉末が得られる。窒化処理としては、アンモニアを含むガスを用いて行うのが望ましい。また、アンモニアガス単体のほかに、水素ガス、ヘリウムガス、窒素ガス、アルゴンガスなどをキャリアーガスとした混合ガスを使用してもよい。窒素ガスは安価なため、特に好ましい。窒化処理温度は100〜300℃が好ましい。窒化処理温度が低すぎると窒化が十分進まず、保磁力向上の効果が少ない。窒化処理温度が高すぎると窒化が過剰に促進され、FeN相やFeN相などの割合が増加し、保磁力が寧ろ低下し、また飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。窒化処理に際しては、鉄に対する窒素の含有量が1〜20原子%となるように、窒化処理の条件を選択することが望ましい。窒素の量が少なすぎると、Fe16相の生成量が少なくなり、保磁力向上の効果が少なくなる。また窒素の量が多すぎると、FeN相やFeN相などが形成されやすくなり、保磁力が寧ろ低下し、また飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。上記のようにして作製される窒化鉄系磁性粉末の保磁力は、160〜320kA/mが好ましく、200〜300kA/mがより好ましい。また、飽和磁化量は、40〜100Am/kgが好ましく、50〜90Am/kgがより好ましい。
【0022】
上記のような窒化鉄系磁性粉末は、従来の針状の磁性粉末に比べて微粒子であり、またその形状から高充填の磁性層が形成されやすく、それによって高い磁束密度を達成することができる反面、高充填によって窒化鉄系磁性粉末間の磁気的相互作用が大きくなり、窒化鉄系磁性粉末の凝集が生じて磁気クラスタサイズが増大し、ノイズが高くなりやすい。本発明者等は窒化鉄系磁性粉末の微粒子で、磁気特性に優れる特性を維持しながら、このような高充填の磁性層における窒化鉄系磁性粉末の凝集を抑制する方法について検討した結果、窒化鉄系磁性粉末とともに、副磁性粉末として微粒子で板状の六方晶系フェライト磁性粉末を一定量使用すれば、磁気クラスタサイズを低減でき、ノイズの大幅な低減が可能であること、また、六方晶系フェライト磁性粉末の添加により窒化鉄系磁性粉末単独の場合よりも磁束密度は低下するが、GMRヘッド等の高感度ヘッドを用いるシステムにおいては、出力の低下も小さいことを見出した。
【0023】
上記の六方晶系フェライト磁性粉末を副磁性粉末として磁性層中に含有させることにより、磁気クラスタサイズを低減できる理由は必ずしも明らかではないが、微粒子で粒状乃至楕円体状の窒化鉄系磁性粉末と、微粒子で板状の六方晶系フェライト磁性粉末とを併用すれば、板状磁性粉末である六方晶系フェライト磁性粉末のエッジ効果により磁性塗料中で粒状乃至楕円体状の窒化鉄系磁性粉末の凝集が解されるためではないかと考えられる。また、六方晶系フェライト磁性粉末はそれ自体、一定の磁気特性を有する磁性粉末であるため、該磁性粉末を一定量の範囲で使用すれば、磁性層の磁束密度を大きく低下させることもない。このため、GMRヘッド等の高感度ヘッドが用いられるシステムでは出力の低下も抑えられると考えられる。なお、窒化鉄系磁性粉末の凝集を抑制するために、非磁性粉末によって個々の窒化鉄系磁性粉末を分断させることも考えられるが、このような非磁性粉末により窒化鉄系磁性粉末の凝集を抑えるためには多量の非磁性粉末を使用する必要があり、磁束密度の低下が顕著となる。このため、ノイズは低下するが、出力の低下が大きくなり、その結果SNRが低下する。
【0024】
六方晶系フェライト磁性粉末の平均板径は、10〜30nmであり、好ましくは17〜25nmである。平均板径が10nm未満では、窒化鉄系磁性粉末の凝集抑制効果が小さく、また六方晶系フェライト磁性粉末の磁性が低下するとともに、六方晶系フェライト磁性粉末自体が凝集しやすくなる。一方、平均板径が30nmより大きいと、六方晶系フェライト磁性粉末の板径と窒化鉄系磁性粉末の粒子サイズとの相違が大きくなり、窒化鉄系磁性粉末の凝集を抑制する効果が小さい。また、六方晶系フェライト磁性粉末自体の粒径から、ノイズが高くなりやすい。六方晶系フェライト磁性粉末の平均板比(平均板径/平均板厚)は、1.5〜4.5が好ましい。平均板比が上記範囲であれば、窒化鉄系磁性粉末の凝集抑制効果が高く、また六方晶系フェライト磁性粉末の充填性を向上することができる。なお、上記平均板径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により倍率20万倍で撮影した六方晶系フェライト磁性粉末300個の板径の平均値である。上記六方晶系フェライト磁性粉末の保磁力は120〜320kA/mが好ましく、飽和磁化は40〜60Am/kgが好ましい。
【0025】
本実施の形態において、六方晶系フェライト磁性粉末の平均板径と、窒化鉄系磁性粉末の平均粒子サイズとの比(平均板径/平均粒子サイズ)は、1.1〜1.6が好ましい。上記平均板径と平均粒子サイズとの関係を有すれば、さらに磁気クラスタサイズの小さい磁性層を形成することができる。
【0026】
上記の六方晶系フェライト磁性粉末としては、バリウムフェライト磁性粉末、及びストロンチウムフェライト磁性粉末からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、特にバリウムフェライト磁性粉末が好ましい。これらの六方晶系フェライト磁性粉末は、大きな磁気異方性を有するため、さらに出力の低下を抑えることができる。上記六方晶系フェライト系磁性粉末は、所定の元素以外にAl、Si、S、Sc、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、B、Ge、Nbなどの元素を含んでいてもよい。
【0027】
六方晶系フェライト磁性粉末の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を使用することができる。このような製造方法としては、例えば、バリウムまたはストロンチウムの塩を含有する金属塩と、鉄塩とを含む水溶液をアルカリで中和して共沈物を生成させ、該共沈物を水熱処理して前駆体を形成し、該前駆体を融剤とともに加熱処理する方法が挙げられる。上記金属塩、鉄塩としては、これらの金属の塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩などが挙げられる。また、上記水溶液には、金属塩や鉄塩とともに、コバルトイオン、チタンイオン、ニッケルイオン、亜鉛イオン、マンガンイオンなどの金属イオンを添加してもよい。このような金属イオンを添加することにより、保磁力及び板径を制御することができる。特に、微粒子の六方晶系フェライト磁性粉末を製造する場合、上記のような金属イオンを添加することが好ましい。上記のアルカリとしては、水酸化ナトリウムを使用することができる。アルカリの添加量は、金属塩及び鉄塩の合計モル当量以上であれば特に限定されないが、微粒子の六方晶系フェライト磁性粉末を製造する場合、0.1モル/L以上が好ましく、2モル/L以上がより好ましい。水熱処理にあたっては、従来公知のオートクレーブを用いることができる。水熱処理の条件は、200〜350℃で1〜6時間が好ましい。融剤としては、500〜1,000℃で溶融し、且つ前駆体と固溶しないものであれば制限なく使用することができる。融剤の溶融温度が500℃以上であれば、加熱処理を効率的に行うことができ、それによって結晶性が向上し、高い飽和磁化を有する六方晶系フェライト磁性粉末を作製することができる。一方、融剤の溶融温度が1,000℃以下であれば、結晶の過度の成長が抑制され、微粒子の六方晶系フェライト磁性粉末を形成することができる。このような融剤としては、具体的には、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属の硫酸塩、塩化物、臭化物、沃化物などが挙げられる。これらの中でも、塩化ナトリウム、及び塩化カリウムは水に対する溶解性が高く、加熱処理後の水洗でこれらの融剤を容易に除去可能であり、これらが不純物として六方晶系フェライト磁性粉末中に残存しないため好ましい。加熱処理の条件は、750〜900℃で1〜4時間が好ましい。
【0028】
また、他の六方晶系フェライト磁性粉末の製造方法としては、例えば、上述した六方晶系フェライト磁性粉末の構成元素と、融剤とを混合した混合物を溶融し、結晶成長を抑制するために該溶融物を急冷して前駆体を形成し、該前駆体を加熱処理し、さらに融剤を溶解除去する方法が挙げられる。
【0029】
磁性層中の窒化鉄系磁性粉末の含有量は、磁性粉末の充填性と磁性粉末の凝集とのバランスから、窒化鉄系磁性粉末と六方晶系フェライト磁性粉末の合計量に対して、50〜90質量%であり、好ましくは55〜85質量%であり、さらに好ましくは60〜70質量%である。窒化鉄系磁性粉末の含有量が50質量%未満では、窒化鉄系磁性粉末の充填性が低下するだけでなく、板状の六方晶系フェライト磁性粉末自体が積層して凝集しやすくなり、却って磁気クラスタサイズが増大し、ノイズが増加する。また、窒化鉄系磁性粉末の含有量が少なくなりすぎ、磁気特性が低下し、出力が低下しやすい。一方、窒化鉄系磁性粉末の含有量が90質量%より多いと、六方晶系フェライト磁性粉末が少なすぎ、板状の六方晶系フェライト磁性粉末による凝集抑制効果が十分得られず、窒化鉄系磁性粉末の凝集により磁気クラスタサイズが増大し、ノイズが増加する。
【0030】
本実施の形態において、結合剤としては、例えば、塩化ビニル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、エポキシ系樹脂及びポリウレタン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。塩化ビニル系樹脂としては、具体的には、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合樹脂、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合樹脂などが挙げられる。これらの中でも、塩化ビニル系樹脂とポリウレタン系樹脂との併用が好ましく、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合樹脂とポリウレタン系樹脂との併用がより好ましい。また、これらの結合剤は、磁性粉末の分散性を向上し、充填性を上げるために、官能基を有するものが好ましい。このような官能基としては、具体的には、例えば、COOM、SOM、OSOM、P=O(OM)、O−P=O(OM)(Mは水素原子、アルカリ金属塩またはアミン塩)、OH、NR、NR(R,R,R,R及びRは、水素または炭化水素基であり、通常その炭素数が1〜10である)、エポキシ基などが挙げられる。2種以上の樹脂を併用する場合、官能基の極性が一致した樹脂を用いるのが好ましく、中でも、−SOM基を有する樹脂の組み合わせが好ましい。これらの結合剤は、磁性粉末100質量部に対して、7〜50質量部、好ましくは10〜35質量部の範囲で用いられる。特に、塩化ビニル系樹脂5〜30質量部と、ポリウレタン系樹脂2〜20質量部との併用が好ましい。
【0031】
また、上記の結合剤とともに、結合剤中に含まれる官能基などと結合し架橋構造を形成する熱硬化性の架橋剤を併用することが好ましい。このような架橋剤としては、具体的には、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどのイソシアネート化合物;イソシアネート化合物とトリメチロールプロパンなどの水酸基を複数個有する化合物との反応生成物;イソシアネート化合物の縮合生成物などの各種のポリイソシアネートが挙げられる。架橋剤は、結合剤100質量部に対して、通常10〜50質量部の範囲で用いられる。
【0032】
磁性層は、導電性、表面潤滑性、耐久性などの特性の向上を目的に、カーボンブラック、潤滑剤、非磁性粉末などの添加剤を含有してもよい。カーボンブラックとしては、具体的には、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックの含有量は、磁性粉末100質量部に対して、0.2〜5質量部が好ましい。潤滑剤としては、具体的には、例えば、10〜30の炭素数を有する脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミドなどを使用することができる。潤滑剤の含有量は、磁性粉末100質量部に対して、0.2〜3質量部が好ましい。非磁性粉末としては、具体的には、例えば、アルミナ、シリカなどの非磁性粉末を使用することができる。非磁性粉末の含有量は、磁性粉末100質量部に対して、1〜20質量部が好ましい。
【0033】
磁性層の厚さは、長手記録の本質的な課題である減磁による出力低下を避けるために300nm以下の薄層が好ましく、10〜300nmがより好ましく、10〜250nmがさらに好ましく、10〜200nmが最も好ましい。磁性層の厚さが300nmを超えると、厚さ損失により再生出力が小さくなったり、GMRヘッド等の高感度な再生ヘッドを使用した場合に磁束の飽和による再生出力の歪が起こり易い。磁性層の厚さが10nm未満では、均一な磁性層が得られ難い。
【0034】
本実施の形態において、磁性層は、GMRヘッド等の高感度ヘッドを用いるシステムで高い再生出力を得るため、高い充填性を有することが好ましい。具体的には、磁性層は、磁性層の残留磁化(Mr)と磁性層厚さ(t)との積が0.1〜2.0memu/cmの範囲、好ましくは0.8〜1.3memu/cmの範囲になるような充填性を有することが好ましい。前記積が、0.1memu/cm以上であれば、狭トラックが使用されるシステムにおいても高い再生出力を得ることができる。一方、前記積が2.0memu/cm以下であれば、GMRヘッド等の飽和による再生出力の歪を抑えることができる。
【0035】
また、本実施の形態において、長手配向媒体を製造する場合、磁性層の長手方向の保磁力は、119.2〜358.2kA/mが好ましく、長手方向の角形(Br面内長手/Bm面内長手)は、0.65〜0.92が好ましい。また、垂直配向媒体を作製する場合、垂直方向の保磁力は、79.6〜318.5kA/mが好ましく、垂直方向の角形(Br垂直/Bm垂直)は、0.55〜0.90が好ましい。
【0036】
磁性層の表面粗さ(Ra)は1.0〜3.2nmが好ましい。表面粗さ(Ra)が上記範囲であれば、磁性層とヘッドとのコンタクトが良好となり、高い再生出力を得ることができる。
【0037】
本実施の形態の磁気記録媒体は、上記の窒化鉄系磁性粉末、六方晶系フェライト磁性粉末、及び結合剤と、必要により他の添加剤とを溶剤と混合することにより磁性塗料を調製し、これを非磁性支持体上に塗布し、塗布された磁性塗料膜を配向、乾燥することにより製造することができる。溶剤としては、従来から磁性塗料の調製に使用されている有機溶剤を使用することができる。具体的には、例えば、シクロヘキサノン、トルエン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。磁性塗料の調製にあたっては、従来から公知の磁気記録媒体の製造で使用されている塗料製造方法を使用できる。特に、ニーダなどによる混練工程と一次分散工程の併用が好ましい。一次分散工程では、サンドミルを使用すると、分散性が改善されるとともに、表面性状を制御できるので、望ましい。非磁性支持体としては、従来から使用されている磁気記録媒体用の非磁性支持体を使用できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、アラミド、芳香族ポリアミドなどからなる厚さが通常2〜20μmのプラスチックフィルムが挙げられる。非磁性支持体上に、磁性塗料を塗布するにあたっては、グラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージヨン塗布などの従来から磁気記録媒体の製造で使用されている塗布方法を使用できる。
【0038】
本実施の形態の磁気記録媒体は、非磁性支持体と磁性層との間に下塗り層を少なくとも1層有してもよい。下塗り層の厚さは、0.1〜3.0μmが好ましく、0.15〜2.5μmがより好ましい。下塗り層の厚さが0.1μm未満では、耐久性が劣化する傾向がある。下塗り層の厚さが3.0μmを超えると、磁気記録媒体の全厚が厚くなるため、1巻当りのテープ長さが短くなり、記憶容量が小さくなる傾向がある。下塗り層は、塗料粘度や剛性の制御を目的に、酸化チタン、酸化鉄、酸化アルミニウムなどの非磁性粉末;γ−酸化鉄、Co−γ−酸化鉄、マグネタイト、酸化クロム、Fe−Ni合金、Fe−Co合金、Fe−Ni−Co合金、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、Mn−Zn系フェライト、Ni−Zn系フェライト、Ni−Cu系フェライト、Cu−Zn系フェライト、Mg−Zn系フェライトなどの磁性粉末を含んでもよい。これらは単独または複数混合して用いてもよい。下塗り層に磁性粉末を含有させれば、上層の磁性層を垂直配向させた際に、上層の磁性層からの磁束が下塗り層で閉じられ、上層の磁性層の表面からのみ強い磁束を発生させることができる。下塗り層に磁性粉末を含有させる場合、下塗り層からの磁束の影響を抑えるため、できるだけ低保磁力の磁性粉末が好ましい。下塗り層に用いられる非磁性粉末及び磁性粉末の粒子サイズは、特に限定されるものではないが、針状の粉末の場合、50〜200nm(平均長軸長)が好ましく、粒状または無定形状の粉末の場合、5〜200nm(平均粒径)が好ましい。また、下塗り層は、磁性層に導電性及び表面潤滑性を付与するために、カーボンブラック及び潤滑剤を含有することが好ましい。このようなカーボンブラック及び潤滑剤としては、磁性層と同様のものを使用することができる。下塗り層に使用される結合剤としては、上記の磁性層で使用される結合剤と同様の樹脂を使用することができる。下塗り層塗料の調製方法としては、磁性塗料と同様の調製方法を用いることができる。また、下塗り層を形成する場合、磁性塗料及び下塗り層塗料の塗布は、逐次重層塗布方法、同時重層塗布方法(ウェットオンウェット法)のいずれを使用してもよい。
【0039】
本実施の形態の磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層が設けられている面と反対面にバックコート層を有してもよい。バックコート層の厚さは、0.2〜0.8μmが好ましく、0.3〜0.8μmがより好ましい。バックコート層は、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラックを含有することが好ましい。バックコート層の結合剤としては、磁性層に用いられる樹脂と同様の樹脂を用いることができる。これら中でも、摩擦係数を低減し走行性を向上するため、セルロース系樹脂とポリウレタン系樹脂との併用が好ましい。
【0040】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでない。なお、以下において、「部」とあるのは「質量部」を意味する。
【実施例】
【0041】
[実施例1]
(磁性塗料の調製)
下記の表1に示す組成を有する磁性塗料成分をニーダで混練した後、混練物をサンドミルを用いて分散処理を行い(滞留時間:60分)、得られた分散液にポリイソシアネート6部を加え、撹拌し、ろ過して磁性塗料を調製した。
【0042】
【表1】

【0043】
(下塗り層塗料の調製)
下記表2の下塗り層塗料成分をニーダで混練した後、混練物をサンドミル(滞留時間:60分)で分散し、得られた分散液にポリイソシアネート6部を加え、撹拌し、ろ過して、下塗り層塗料を調製した。
【0044】
【表2】

【0045】
(バックコート層塗料の調製)
下記表3のバックコート層塗料成分を、サンドミルで分散処理(滞留時間:45分)を行い、得られた分散液にポリイソシアネート8.5部を加え、撹拌し、ろ過して、バックコート層塗料を調製した。
【0046】
【表3】

【0047】
(磁気テープの作製)
まず、上記の下塗り層塗料を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの非磁性支持体上に、乾燥及びカレンダ処理後の厚さが2μmとなるように塗布して下塗り塗料膜を形成し、この下塗り塗料膜上に、さらに、乾燥及びカレンダ処理後の厚さが100nmとなるように上記の磁性塗料を塗布して磁性塗料膜を形成し、磁性塗料膜を長手方向に配向処理を行いながら、乾燥した。
【0048】
次に、上記のバックコート層塗料を、非磁性支持体の磁性層が形成された面の反対面に、乾燥及びカレンダ処理後の厚さが700nmとなるように塗布し、乾燥した。
【0049】
上記のように非磁性支持体の片面に下塗り層、及び磁性層を、他面にバックコート層を形成した磁気シートを、5段カレンダ(温度:70℃、線圧:150Kg/cm)で鏡面化処理し、これをシートコアに巻いた状態で、60℃,40%RH下、48時間エージングした。その後、磁気シートを1/2インチ幅に裁断し、磁気テープを作製した。
【0050】
[実施例2]
窒化鉄系磁性粉末を59.5部、バリウムフェライト磁性粉末を10.5部使用した以外は、実施例1の磁性塗料の調製と同様にして、磁性塗料を調製した。
上記の磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0051】
[実施例3]
窒化鉄系磁性粉末を42部、バリウムフェライト磁性粉末を28部使用した以外は、実施例1の磁性塗料の調製と同様にして、磁性塗料を調製した。
上記の磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0052】
[実施例4]
バリウムフェライト磁性粉末(Co添加,平均板径:17nm,保磁力:139.3kA/m,飽和磁化:28.3Am/kg)を21部使用した以外は、実施例1の磁性塗料の調製と同様にして、磁性塗料を調製した。
上記の磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0053】
[実施例5]
バリウムフェライト磁性粉末(Co添加,平均板径:22nm,保磁力:144.1kA/m,飽和磁化:38.8Am/kg)を21部使用した以外は、実施例1の磁性塗料の調製と同様にして、磁性塗料を調製した。
上記の磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0054】
[実施例6]
窒化鉄系磁性粉末を63部、バリウムフェライト磁性粉末を7部使用した以外は、実施例1の磁性塗料の調製と同様にして、磁性塗料を調製した。
上記の磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0055】
[実施例7]
窒化鉄系磁性粉末を38.5部、バリウムフェライト磁性粉末を31.5部使用した以外は、実施例1の磁性塗料の調製と同様にして、磁性塗料を調製した。
上記の磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0056】
[実施例8]
窒化鉄系磁性粉末を52.5部、バリウムフェライト磁性粉末を22.5部、塩化ビニル−ヒドロキシプロピルメタクリレート共重合樹脂を12.5部、ポリエステルポリウレタン樹脂を7.5部、ポリイソシアネートを5部使用した以外は、実施例1の磁性塗料の調製と同様にして、磁性塗料を調製した。
上記の磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0057】
[比較例1]
窒化鉄系磁性粉末を70部使用し、バリウムフェライト磁性粉末を使用しなかった以外は、実施例1の磁性塗料の調製と同様にして、磁性塗料を調製した。
上記の磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0058】
[比較例2]
窒化鉄系磁性粉末を31.5部、バリウムフェライト磁性粉末を38.5部使用した以外は、実施例1の磁性塗料の調製と同様にして、磁性塗料を調製した。
上記の磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
[比較例3]
窒化鉄系磁性粉末を66.5部、バリウムフェライト磁性粉末を3.5部使用した以外は、実施例1の磁性塗料の調製と同様にして、磁性塗料を調製した。
上記の磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0059】
[比較例4]
バリウムフェライト磁性粉末(Co添加,平均板径:45nm,保磁力:163.2kA/m,飽和磁化:53.8Am/kg)を21部使用した以外は、実施例1の磁性塗料の調製と同様にして、磁性塗料を調製した。
上記の磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0060】
[比較例5]
窒化鉄系磁性粉末(Fe16相含有,Y及びAl添加,平均粒子サイズ:25nm,保磁力:191.8kA/m,飽和磁化:93.1Am/kg,Y/Fe:1.8at%,Al/Fe:10.3at%,N/Fe:12.5at%)を49部使用した以外は、実施例1の磁性塗料の調製と同様にして、磁性塗料を調製した。
上記の磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0061】
以上のようにして作製した実施例及び比較例の各磁気テープの磁気特性、磁気クラスタサイズ、及び電磁変換特性を以下の方法により評価した。表4に実施例及び比較例で使用した磁性粉末の種類及び含有量と、評価結果とを併せて示す。なお、表中、磁性粉末の合計量に対する窒化鉄系磁性粉末とバリウムフェライト磁性粉末の各割合(質量%)を記した。
【0062】
〔磁気特性〕
試料振動型磁力計(VSM)を用いて測定した。最大印加磁場は1,270kA/m、磁場掃引速度は80kA/m/分とした。
【0063】
〔磁気クラスタサイズ〕
磁気力顕微鏡として、デジタルインスツルメント社製,Nano Scope IIIを用い、周波数検出法により磁性層の漏れ磁界像を測定した。測定プローブには、コバルトアロイコートを有するプローブ(先端曲率半径:25〜40nm,保磁力:約400Oe,磁気モーメント:約1×10−13emu)を用い、走査範囲は5μm四方、走査速度は5μm/secとした。得られた漏れ磁界像の磁化強度の中心値Cと標準偏差δとの和(C+δ)より大きな磁化強度を有する部分を2値化処理することにより表示し、該部分を磁気クラスタとして、その円相当径の平均値を測定した。
【0064】
〔電磁変換特性〕
電磁変換特性の評価には、記録ヘッドとしてMIG(Metal−In−Gap)ヘッド(トラック幅:12μm,ギャップ長:0.15μm,Bs:1.2T)と、再生ヘッドとしてスピンバルブタイプのGMRヘッド(トラック幅:2.5μm,SH−SH幅:0.15μm)とが装着されたドラムテスターを用いた。このドラムテスターの回転ドラムに磁気テープを巻きつけ、3.4m/sの相対速度で磁気テープを走行させながら、スペクトルアナライザを使用して169kfciの記録密度における再生出力(S)、ブロードバンドノイズ(N)、及びSNRを測定した。なお、再生出力、ノイズ、及びSNRは比較例1のそれらを基準(0dB)とした相対値で評価した。
【0065】
【表4】

【0066】
上記表に示すように、平均粒子サイズが20nm以下の窒化鉄系磁性粉末と平均板径が10〜30nmのバリウムフェライト磁性粉末とを含有し、窒化鉄系磁性粉末の含有量が磁性粉末の合計量に対して55〜90質量%である磁性層を有する実施例の磁気テープは、高いMr・t値を有し、高充填の磁性層が形成されていることが分かる。このため、これらの磁気テープをGMRヘッドを用いたシステムで再生した場合、出力の低下も少なく、微粒子で粒状乃至楕円体状の形状を有し、磁気特性に優れる窒化鉄系磁性粉末の特徴が損なわれていないことが分かる。また、これら実施例の磁気テープは高充填の磁性層であるにも拘らず、磁気クラスタサイズが小さく、磁性粉末の凝集が抑えられていることが分かる。このため、これらの磁気テープはノイズが顕著に改善されている。従って、GMRヘッドを用いるシステムに本実施例の磁気テープを適用すれば、高SNRが得られる。
【0067】
これに対して、窒化鉄系磁性粉末とバリウムフェライト磁性粉末とを併用しても、バリウムフェライト磁性粉末の含有量が55質量%と多すぎる場合、Mr・t値が低下し、出力が顕著に低下した。また、この比較例の磁気テープは、多量のバリウムフェライト磁性粉末を含有するにも拘らず、磁気クラスタサイズは実施例と同程度であることが分かる。これはバリウムフェライト磁性粉末自体の凝集が生じたためと考えられる。一方、バリウムフェライト磁性粉末の含有量が5質量%と少なすぎると、出力の低下は少ないが、窒化鉄系磁性粉末の凝集抑制効果が小さく、ノイズが十分に低減されない。また、バリウムフェライト磁性粉末の粒径が大きすぎる場合も、ノイズが十分に低減されない。これは、板径の大きなバリウムフェライト磁性粉末を用いた場合、バリウムフェライト磁性粉末自体の板径の大きさに起因してノイズが増加するためと考えられる。そして、窒化鉄系磁性粉末の粒子サイズが大きすぎる場合も、その大きさに起因して磁気クラスタサイズが大きくなり、ノイズが十分に低減されないことが分かる。なお、この比較例では高いMr・t値が得られているが、これは粒径の大きな窒化鉄系磁性粉末を用いたため、充填性よりも磁性層厚さが厚くなったことに起因するものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に磁性層とを有する磁気記録媒体であって、
前記磁性層は、Fe16相を含み、20nm以下の平均粒子サイズを有する粒状乃至楕円体状の窒化鉄系磁性粉末と、10〜30nmの平均板径を有する板状の六方晶系フェライト磁性粉末と、結合剤とを含有し、
前記磁性層中の窒化鉄系磁性粉末の含有量が、窒化鉄系磁性粉末と六方晶系フェライト磁性粉末の合計量に対して、50〜90質量%である磁気記録媒体。
【請求項2】
前記六方晶系フェライト磁性粉末の平均板径と前記窒化鉄系磁性粉末の平均粒子サイズとの比(平均板径/平均粒子サイズ)が1.1〜1.6である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記磁性層は、前記六方晶系フェライト磁性粉末として、バリウムフェライト磁性粉末、及びストロンチウムフェライト磁性粉末からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記非支持性支持体と磁性層との間に、さらに下塗り層を少なくとも1層有し、前記磁性層は、300nm以下の厚さを有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。


【公開番号】特開2009−277323(P2009−277323A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129815(P2008−129815)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】