説明

磁気記録装置、その診断方法、及びコンピュータが実行可能なプログラム

【課題】スライダの飛行高度が低下して、スライダと記録媒体とが衝突することを防止することが可能な磁気記録装置、その診断方法、及びコンピュータが実行可能なプログラムを提供する。
【解決手段】磁気記録装置は、ヒータ17を加熱して記録再生素子14をスライダ19から突出させて、記録媒体11との接触を検出して、スライダの飛行高度を測定する飛行高度測定手段と、飛行高度測定手段で測定したスライダの飛行高度が所定範囲内であるか否かを判定する判定手段と、判定手段でスライダの飛行高度が所定範囲内でないと判定された場合に、スライダを退避させる退避手段と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録装置、その診断方法、及びコンピュータが実行可能なプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置(HDD)において、スライダとディスクの間隔は、飛行高度(fly height)と称され、重要な性能パラメータである。読み出し及び書き込み動作の間に、記録再生素子とディスクの間隔を小さくすると、ビットエラーレート(bit error rate)を低下させることができ、ディスク上に高い線密度で書き込まれたデータの正確な記憶及び取り出しが可能となる。
【0003】
スライダに搭載される記録再生素子の周囲にヒータコイルを埋め込み、ヒータを駆動することでスライダを熱膨張させて記録再生素子とディスクの間隔を補正するDFH(dynamic fly height)制御が、最近のハードディスク装置では一般的に用いられている。
【0004】
記録再生素子を搭載したスライダは、ディスク上を約10nm程度の高さで浮上している。しかしながら、ハードディスク装置の環境温度の変化によって、機構部品の寸法変化や空気分子密度等が変化するため、スライダの飛行高度は変化する。一般に、高温環境ではスライダの飛行高度は低くなり、ディスクとの間隔が小さくなることで記録データの信号ノイズ特性がよくなる一方、低温環境ではスライダの飛行高度は高くなり、ディスクとの間隔が広くなることで記録データの信号ノイズ特性が劣化する。
【0005】
図9は、ハードディスク装置の環境温度とスライダの飛行高度Hの関係を説明するための図である。同図において、横軸は、ハードディスク装置の環境温度(℃)、縦軸はスライダの飛行高度H(nm)を示しており、100は、設計値の特性ラインを、「●」は実測値の一例を示している。ハードディスク装置の環境温度とスライダの飛行高度Hの関係は、ハードディスク装置毎に個体差があるので、図9に示すように、設計値100よりも飛行高度が低くなってしまう場合がある。上述したように、飛行高度が低いほどディスクからの読み出しエラー率が良くなるため、読み出しエラーとして認識されることは無いが、そのまま使用を続けると、スライダとディスクとが衝突して故障が発生する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−20635号公報
【特許文献2】特許第4255869号公報
【特許文献3】特開2007−310978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、スライダの飛行高度が低下して、スライダと記録媒体とが衝突することを防止することが可能な磁気記録装置、その診断方法、及びコンピュータが実行可能なプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、サスペンションの先端側に搭載されたスライダと、前記スライダに搭載され、記録再生素子と当該記録再生素子の周辺に設けられたヒータとが搭載されたヘッドと、を備え、前記ヒータを加熱することにより記録再生素子を、スライダから突出させて、記録媒体と前記記録再生素子との間隔を制御する磁気記録装置において、前記ヒータを加熱して前記記録再生素子を前記スライダから突出させて、前記記録媒体との接触を検出して、前記スライダの飛行高度を測定する飛行高度測定手段と、前記飛行高度測定手段で測定した前記スライダの飛行高度が所定範囲内であるか否かを判定する判定手段と、前記判定手段で前記スライダの飛行高度が所定範囲内でないと判定された場合に、前記ヘッドを前記記録媒体より退避させる退避手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記飛行高度測定手段は、前記ヒータに印加するヒータ電力と前記記録再生素子の移動量を関連づけたテーブルを備え、前記テーブルを参照して、前記接触を検出した際のヒータ電力に対応する前記記録再生素子の移動量を算出し、算出した前記記録再生素子の移動量に基づいて、前記スライダの飛行高度を測定することが望ましい。
【0010】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記飛行高度測定手段は、前記磁気記録装置の電源投入時に前記スライダの飛行高度を測定することが望ましい。
【0011】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記飛行高度測定手段は、前記磁気記録装置内の温度が所定量上がった場合、又は、前記磁気記録装置内の気圧が所定量下がった場合に、前記スライダの飛行高度を測定することが望ましい。
【0012】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記飛行高度測定手段は、前記判定手段で前記スライダの飛行高度が所定範囲内でないと判定された場合に、前記磁気記録装置内の温度が所定量下がった場合、又は、前記磁気記録装置内の気圧が所定量上がった場合に、前記スライダの飛行高度を測定することが望ましい。
【0013】
また、本発明の好ましい態様によれば、さらに、前記判定手段で前記スライダの飛行高度が所定範囲内でないと判定された場合に、ホスト装置からコマンドを受信した場合には、前記ホスト装置へエラーを返信することが望ましい。
【0014】
また、本発明の好ましい態様によれば、さらに、前記判定手段で前記スライダの飛行高度が所定範囲内でないと判定された場合には、前記磁気記録装置内の温度又は気圧と測定された飛行高度とを含むエラー情報を記録する記録手段を備えることが望ましい。
【0015】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、サスペンションの先端側に搭載されたスライダと、前記スライダに搭載され、記録再生素子と当該記録再生素子の周辺に設けられたヒータとが搭載されたヘッドと、を備え、前記ヒータを加熱することにより記録再生素子を、前記スライダから突出させて、記録媒体と前記記録再生素子との間隔を制御する磁気記録装置の診断方法において、前記ヒータを加熱して前記記録再生素子を前記スライダから突出させて、前記記録媒体との接触を検出して、前記スライダの飛行高度を測定する飛行高度測定工程と、前記飛行高度測定工程で測定した前記スライダの飛行高度が所定範囲内であるか否かを判定する判定工程と、前記判定工程で前記スライダの飛行高度が所定範囲内でないと判定された場合に、前記スライダを退避させる退避工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、サスペンションの先端側に搭載されたスライダと、前記スライダに搭載され、記録再生素子と当該記録再生素子の周辺に設けられたヒータとが搭載されたヘッドと、を備え、前記ヒータを加熱することにより記録再生素子を、前記スライダから突出させて、記録媒体と前記記録再生素子との間隔を制御する磁気記録装置に搭載されるコンピュータにおいて、前記ヒータを加熱して前記記録再生素子を前記スライダから突出させて、前記記録媒体との接触を検出して、前記スライダの飛行高度を測定する飛行高度測定工程と、前記飛行高度測定工程で測定した前記スライダの飛行高度が所定範囲内であるか否かを判定する判定工程と、前記判定工程で前記スライダの飛行高度が所定範囲内でないと判定された場合に、前記スライダを退避させる退避工程と、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、スライダの飛行高度が低下して、スライダと記録媒体とが衝突することを防止することが可能な磁気記録装置を提供することが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本実施の形態に係る磁気記録装置を適用したハードディスク装置の筐体内の概略構造を示す平面図である。
【図2】図2は、図1のハードディスク装置の概略のハードウェア構成例を示す図である。
【図3】図3は、スライダの要部を示す概略の側面図である。
【図4】図4は、スライダの先端部を示す概略の正面図である。
【図5】図5は、ヒータのヒータ電力(mW)と記録再生素子のX方向の移動量との関係の一例を示す図である。
【図6】図6は、制御部により実行されるスライダ飛行高度診断処理を説明するためのフローチャートである。
【図7】図7は、実施の形態2に係るハードディスク装置の概略のハードウェア構成例を示す図である。
【図8】図8は、実施の形態2に係るスライダ飛行高度診断処理を説明するためのフローチャートである。
【図9】図9は、ハードディスク装置の環境温度とスライダの飛行高度Hの関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る磁気記録装置、その診断方法、及びコンピュータが実行可能なプログラムの好適な実施の形態を詳細に説明する。以下の実施の形態では、本発明に係る磁気記録装置をハードディスク装置に適用した場合について説明する。なお、下記実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの又は実質的に同一のものが含まれる。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態に係る磁気記録装置を適用したハードディスク装置の筐体内の概略構造を示す模式的な平面図である。同図に示すハードディスク装置1は、ヘッド13のロード・アンロード方式を使用している。ハードディスク装置1は、SPM(Spindle Motor)12と、回転可能なディスク(磁気ディスク)11と、このディスク11面に対して浮上可能なスライダ19と、その先端部にスライダ19を搭載して回動可能なサスペンション10と、スライダ19の最先端部に搭載されたヘッド13と、ヘッド13に搭載された記録再生素子14と、サスペンション10を不図示のアームを介して駆動するVCM(Voice Coil Motor)15と、ランプ(退避エリア)16とを備えて構成されている。
【0021】
ディスク11の各面(記録面)には同心円状の多数のトラック(図示せず)が形成され、各トラックには、ヘッドのシーク・位置決め等に用いられるサーボデータが記録されたサーボエリアが等間隔で配置されている。このサーボエリア間はユーザエリアとなっており、当該ユーザエリアには記録単位としてのセクタが複数配置されている。なお、本実施の形態では、一枚のディスク11が配置されているが、複数枚のディスクが積層配置された構成としてもよい。
【0022】
スライダ19は、サスペンション10の先端部のディスク11の記録面側に、サスペンション10の板ばね状のロードビーム(不図示)に取り付けられている(図2参照)。スライダ19の最先端部には、ヘッド13が搭載されている(図2参照)。このヘッド13には、ディスク11からのデータ読み出し(データ再生)及び当該ディスク11へのデータ書き込み(データ記録)に用いられる記録再生素子14が設けられている。記録再生素子14は、ヘッド13の角度回転に従ってディスク11の半径方向に移動する。これにより、記録再生素子14は、目標トラック上にシーク・位置決めされるようになっている。
【0023】
ディスク11の外周側には、当該ディスク11の回転停止状態においてヘッド13を退避させておくためにランプ16が配置されている。また、後述するスライダ飛行高度診断処理では、スライダ19の飛行高度Hが所定範囲内でない場合には、ヘッド13をディスク11上からランプ16にアンロード(退避)する。
【0024】
SPM12は、ディスク11を高速回転させるモータである。VCM15は、記録再生素子14の支持機構であるヘッド13をディスク11の半径方向に移動させるためのモータである。
【0025】
図2は、図1のハードディスク装置の概略のハードウェア構成例を示す図である。なお、図2において、スライダ19とヘッド13を拡大して示している。ハードディスク装置1は、図2に示すように、ディスク11と、SPM12と、サスペンション10と、スライダ19と、ヘッド13と、記録再生素子14と、ヒータ17と、制御部20と、ドライブ制御部30と、リード/ライト信号処理部31と、データ・メモリ32と、ヒータ駆動部33と、温度検出部34と、ハードディスク・コントローラ35とを備えている。
【0026】
ディスク11は、磁気記録媒体としてのディスクであり、外部から入力される各種のデータが記録される。また、ディスク11のSMART領域には、制御部20によりSMART(Self-Monitoring, Analysis and Reporting Technology)情報(温度、データ読み込み・書き込みエラー率、不良セクタ数、シークエラー率、電源のON/OFF回数など)が書き込まれる。
【0027】
ヘッド13には、ディスク11に対してデータのリード/ライトを行うための記録再生素子(例えば、GMR素子)14と、熱膨張部材(不図示:図3及び図4参照)と、記録再生素子14の上方に設けられ、熱膨張部材を加熱して熱膨張させ、記録再生素子14を移動させるヒータ17とを備えている。ヒータ17は、ヒータ駆動部33により発熱量が制御される。
【0028】
ドライブ制御部30は、制御部20の制御に従って、SPM12及びVCM15をそれぞれ駆動するドライブ回路を備えており、SPM12及びVCM15の駆動制御を行う。
【0029】
温度検出部34は、例えばサーミスタ等で構成することができ、ハードディスク装置1の筐体内の温度を検出して、制御部20に出力する。ヒータ駆動部33は、ヘッド13に設けられたヒータ17を駆動するドライブ回路を備えており、制御部20の制御に従って、ヒータ17の駆動制御を行う。
【0030】
リード/ライト信号処理部31は、制御部20の制御に従って、ディスク11のサーボ領域に記録された位置情報やセクタのデータを出力する。また、リード/ライト信号処理部31は、制御部20の制御に従って、ディスク11へ書き込むデータの符号化及びディスク11から読み出したデータの復号を行い、その際に誤り訂正符号による符号化と誤り検出及び誤り訂正に係る処理も併せて行う。
【0031】
データ・メモリ32は、ディスク11から読出したデータ及びディスク11へ書き込むデータをバッファリングする。ハードディスク・コントローラ35は、インターフェースを介して、パーソナルコンピュータ(Personal Computer)又はAV機器などのホスト装置50との間で送受信するデータ、制御コマンド等の入出力回路を構成する。ここで、インターフェースは、IDE(Integrated Drive Electronics)、SCSI(Small Computer System Interface)、FC(Fiber Channel)、USB(Universal Serial Bus)、SATA(Serial ATA)などである。
【0032】
制御部20は、ハードディスク装置1の全体動作を制御するものであり、ROM22に格納されたファームウェアに従ってハードディスク装置1の動作を制御するCPU21、CPU21が実行するファームウェアを格納するROM22、CPU21がワークエリアとして使用するRAM23、ヒータ電力−記録再生素子移動量テーブル24a(図5参照)等を格納する不揮発性メモリ24等で構成されている。制御部20は、ヒータ17を駆動することでヘッド13の熱膨張部材を熱膨張させて記録再生素子14とディスク11の間隔を補正するDHF(dynamic fly height)制御を行う。また、制御部20は、後述するスライダ飛行高度診断処理を実行する。
【0033】
上記図1及び図2の如く構成されるハードディスク装置1のサーボ動作の概略を説明する。ハードディスク装置1では、記録再生素子14により、ディスク11のサーボ領域から位置情報が読み出され、リード/ライト信号処理部31を介して、制御部20に出力される。制御部20は、この位置情報に基づいて、ドライブ制御部30を介して、VCM15及びSPM12を駆動して記録再生素子14を所定の位置に移動させるようになっている。そして、当該ディスク11のデータ領域に対しデータの書き込みあるいは読出し動作を行う。
【0034】
次に、ハードディスク装置1のデータのリード/ライト動作の概略を説明する。ハードディスク・コントローラ35は、インターフェースを介してホスト装置50から発行されたコマンド(書き込み/読み出しコマンド等)を受信すると、そのコマンドの内容を解釈して制御部20に通知する。制御部20は、通知内容に基づいて、ドライブ制御部30、リード/ライト信号処理部31に対して必要なコマンド及びパラメータを設定して、それらの動作を実行させる。
【0035】
ドライブ制御部30は、SPM12及びVCM15の駆動制御を行って、ディスク11の所定のトラック、セクタに対してヘッド13(記録再生素子14)を移動させる。リード/ライト信号処理部31は、ディスク11への書き込み時、送られてきたデータをデジタルビット系列に符号化(変調)する。また、リード/ライト信号処理部31は、読み出し時には記録再生素子14から読み出された信号から高域ノイズを除去してからアナログ信号からデジタル信号への変換を行い、さらにECC(Error Correction Code)エラー訂正を行う。ここで、ECCエラー訂正は、読み出し信号のエラーの程度に応じて異なるレベルの訂正が行われる。
【0036】
SPM12の回転を停止させる場合には、ヘッド13を図1の矢印Sで示すようにディスク11の半径方向に移動させて、記録再生素子14をディスク11上からランプ16にアンロードする。これにより、スライダ19とディスク11とが接触するのが防止される。
【0037】
図3は、スライダ19及びヘッド13の要部を示す側面図、図4は、スライダ19及びヘッド13の先端部を示す正面図である。ヘッド13は、スライダ19に加わる空気のくさび膜効果によって浮上し、ディスク11とスライダ19とが直接接触しないようになっている。本実施の形態では、ディスク11の高記録密度化と、それによる装置の大容量化あるいは小型化を実現するために、スライダ19とディスク11の距離、すなわちスライダ飛行高度Hを縮め、線記録密度を上げるように配慮されている。
【0038】
図3及び図4において、スライダ19は、先端部が断面視略U字形状となっており、スライダ19のディスク11に対向する第1面19a及び第2面19b間に、ヘッド13の記録再生素子14が配置されている。第1面19a及び第2面19bは、ヒータ17が加熱されていない状態では、ディスク11に対向する記録再生素子14の面14aよりも突出している。ヒータ17と記録再生素子14間には、例えば、薄膜抵抗体で構成された熱膨張部材18が配置されている。ヒータ17は、ヒータ駆動部33によって印加されるヒータ電力によって発熱量が制御され、その発熱量に応じて熱膨張部材18が矢印X方向に熱膨張する。なお、ヒータ電流、ヒータ電圧、又はヒータ電流及びヒータ電圧の両者を制御してもよいので、ここでは、ヒータ電力を制御するとしている。
【0039】
熱膨張部材18の熱膨張に応じて記録再生素子14が矢印X方向に移動し、スライダ19から突出する(第1面19a及び第2面19bよりも突出する。)。ヒータ17を加熱して記録再生素子14を突出させる構造は公知であるので、その詳細な説明は省略する。なお、記録再生素子14を突出させる構造は図3及び図4に示す例に限定されるものではなく、各種構造を採用することができる。
【0040】
また、図3及び図4において、Hは、ディスク11に対するスライダ19の飛行高度、Rは、ヒータ17が加熱されていない状態(熱膨張部材18の膨張量が「0」の状態)において、第1の面19aと記録再生素子14の面14aとの距離(一定値)、Eは、記録再生素子14のX方向の移動量、Lは、記録再生素子14とディスク11との間隔を示している。なお、記録再生素子14は、熱膨張部材18のX方向の膨張に伴って、X方向に移動するため、記録再生素子14のX方向の移動量Eは、熱膨張部材18のX方向の膨張量と同じである。
【0041】
図5は、ヒータ17のヒータ電力(mW)と記録再生素子14のX方向の移動量Eとの関係の一例を示す図である。同図において、横軸はヒータ17のヒータ電力(mW)、縦軸は、記録再生素子14のX方向の移動量Eを示している。ヒータ17のヒータ電力(mW)と記録再生素子14のX方向の移動量Eは、図5に示すような関係にあり、ヒータ電力を制御することで、記録再生素子14のX方向の移動量Eを制御することができる。上記図2のヒータ電力−記録再生素子移動量テーブル24aには、図5に示す関係がデータ化されて登録されている。
【0042】
上述したように、スライダ19の飛行高度Hは、設計・製造段階で設定される値であるが、装置の個体差、環境温度、気圧、経時変動等により変化するため、想定した範囲よりも低くなる場合がある。スライダ19の飛行高度Hが想定した範囲よりも低くなると、スライダ19とディスク11が衝突する可能性がある。そこで、本実施の形態では、制御部20は、スライダ飛行高度診断処理を実行して、スライダ19の飛行高度Hが所定範囲内でない場合には、ヘッド13をディスク11上からランプ16に退避させて、スライダ19とディスク11との衝突を防止する。スライダ飛行高度診断処理は、定期的に、例えば、電源投入時等に実行され、さらに、電源投入後、飛行高度Hが低くなるような環境(高温、低圧)となった場合に、実行される。
【0043】
次に、スライダ19の飛行高度Hの測定方法を説明する。制御部20は、ディスク11が回転している状態でヘッド13を飛行高度測定対象トラックへシークし、ヒータ17に加えるヒータ電力を徐々に大きくして、記録再生素子14をディスク11に対してタッチダウン(接触)させる。
【0044】
なお、飛行高度測定対象トラックを、ディスク11の内周(ID)、中周(MD)、外周(OD)の全領域としてもよいが、製造時にディスク11の内周、中周、外周の全領域について飛行高度Hの測定を行って、飛行高度が最も低くなる領域についてのみ行うことにしてもよい。また、製品出荷後に最初に行われる飛行高度の測定の際に、ディスク11の内周、中周、外周の全領域について測定を行い、次回以降は、飛行高度が最も低くなる領域についてのみ行うことにしてもよい。
【0045】
制御部20は、タッチダウンを検出し、ヒータ電力−記録再生素子移動量テーブル24aを参照して、タッチダウンした時のヒータ電力から記録再生素子14のX方向の移動量Eを算出する。そして、制御部20は、記録再生素子14のX方向の移動量Eと距離Rに基づいて、飛行高度Hを算出する(飛行高度H=記録再生素子14のX方向の移動量E−距離R)。なお、タッチダウンの検出は、公知の各種方法を使用することができ、例えば、サーマルアスペリティを検出する方法(例えば、特許文献3参照)を使用することができる。
【0046】
図6は、制御部20により実行されるスライダ飛行高度診断処理を説明するためのフローチャートである。図6において、制御部20は、電源がONされると(ステップS1)、温度検出部34の検出結果を取り込んで温度を測定する(ステップS2)。次に、制御部20は、ヘッド13を飛行高度測定対象トラックへシークし(ステップS3)、飛行高度Hを測定する(ステップS4)。制御部20は、測定した飛行高度Hが所定範囲内か否かを判断する(ステップS5)。具体的には、制御部20は、測定した飛行高度H≧閾値N1の場合に、所定範囲内とすることができる。
【0047】
測定した飛行高度Hが所定範囲内の場合は(ステップS5の「Yes」)、制御部20は、定期的に温度を測定し(ステップS6)、前回の温度測定値よりΔT上昇したか否かを判断する(ステップS7)。前回の温度測定値よりΔT上昇していない場合には(ステップS7の「No」)、ステップS6に戻る。前回の温度測定値よりΔT上昇した場合には(ステップS7の「Yes」)、制御部20は、アイドル状態であるか否かを判断する(ステップS8)。アイドル状態でない場合は(ステップS8の「No」)、アイドル状態となるまで待機する。アイドル状態である場合には(ステップS8の「Yes」)、
ステップS3に戻り、制御部20は、飛行高度測定対象トラックの飛行高度Hを測定し、測定した飛行高度Hが所定範囲内か否かを判断する(ステップS3〜S5)。
【0048】
他方、測定した飛行高度Hが所定範囲内でない場合は(ステップS5の「No」)、制御部20は、ディスク11のSMART領域に、測定した温度及び飛行高度Hをエラー情報として記録すると共に(ステップS9)、ヘッド13をランプ40にアンロードする(ステップS10)。
【0049】
この後、制御部20は、定期的に温度を測定し(ステップS11)、前回の温度測定値よりΔT下降したか否かを判断する(ステップS12)。前回の温度測定値よりΔT下降した場合には(ステップS12の「Yes」)、ステップS3に戻り、制御部20は、飛行高度測定対象トラックの飛行高度Hを測定し、測定した飛行高度Hが所定範囲内か否かを判断する(ステップS3〜S5)。
【0050】
他方、前回の温度測定値よりΔT下降していない場合には(ステップS12の「No」)、制御部20は、ホスト装置50からアクセス・コマンドを受信したか否かを判断する(ステップS13)、ホスト装置50からアクセス・コマンドを受信していなかった場合には(ステップS13の「No」)、ステップS11に戻り、ホスト装置50からアクセス・コマンドを受信した場合には(ステップS13の「Yes」)、制御部20は、ホスト装置50にエラーを返信した後(ステップS14)、ステップS11に戻る。
【0051】
以上説明したように、実施の形態1によれば、制御部20は、ヒータ17を加熱して記録再生素子14をスライダ19から突出させることにより、ディスク11にタッチダウンさせ、当該タッチダウンを検出してスライダ19の飛行高度Hを測定し、測定したスライダ19の飛行高度Hが所定範囲内であるか否かを判定し、測定したスライダ19の飛行高度Hが所定範囲内でないと判定された場合に、ヘッド13をアンロードすることとしたので、温度上昇や経時劣化等でスライダの飛行高度が低下しても、スライダと記録媒体とが衝突することを未然に防止することが可能となる。
【0052】
また、制御部20は、ヒータ17に印加するヒータ電力と記録再生素子14の移動量Eを関連づけたヒータ電力−記録再生素子移動量テーブル24aを備えており、ヒータ電力−記録再生素子移動量テーブル24aを参照して、接触を検出した際のヒータ電力に対応する記録再生素子14の移動量Eを算出し、算出した記録再生素子の移動量Eに基づいて、飛行高度を測定することとしたので、簡単な方法で飛行高度Hを測定することが可能となる。
【0053】
また、制御部20は、ハードディスク装置20の電源投入時にスライダ19の飛行高度Hを測定することとしたので、定期的に飛行高度を測定することが可能となる。
【0054】
また、制御部20は、ハードディスク装置1内の温度が所定量上がった場合に、スライダ19の飛行高度Hを測定することとしたので、飛行高度Hが低くなる条件で測定することが可能となる。
【0055】
また、制御部20は、スライダ19の飛行高度が所定範囲内でないと判定した場合には、さらに、ハードディスク装置1内の温度が所定量下がった場合に、スライダ19の飛行高度Hを測定することとしたので、飛行高度Hが高くなる条件で測定した場合には、スライダ19の飛行高度が所定範囲内となる場合もあるので、ハードディスク装置を可及的に使用することが可能となる。
【0056】
また、制御部20は、スライダ19の飛行高度Hが所定範囲内でないと判定した場合に、ホスト装置50からコマンドを受信した場合には、エラーを返信することとしたので、ホスト装置50にハードディスク装置1が使用できない旨を通知することが可能となる。
【0057】
また、制御部20は、スライダ19の飛行高度Hが所定範囲内でないと判定した場合には、ハードディスク装置1内の温度と測定された飛行高度とをSMART情報として記録することにしたので、SMART情報を解析することで、故障原因を解明することが可能となる。
【0058】
(実施の形態2)
図7及び図8を参照して、実施の形態2に係るハードディスク装置を説明する。図7は、実施の形態2に係るハードディスク装置の概略のハードウェア構成例を示す図である。図7において、図2と同等機能を有する部位には同一符号を付し、共通する部分の説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。実施の形態2は、図7に示すように、図2の温度検出部34の替わりに気圧検出部38を設けた構成である。気圧検出部38は、ハードディスク装置1の筐体内の気圧を検出して、制御部20に出力する。
【0059】
図8は、実施の形態2に係るスライダ飛行高度診断処理を説明するためのフローチャートである。図8において、図6と同じ処理を行うステップには同一のステップ番号を付している。制御部20は、電源がONされると(ステップS1)、気圧検出部38の検出結果を取り込んで気圧を測定する(ステップS21)。次に、制御部20は、ヘッド13を飛行高度測定対象トラックへシークし(ステップS3)、飛行高度Hを測定する(ステップS4)。制御部20は、測定した飛行高度Hが所定範囲内か否かを判断する(ステップS5)。
【0060】
測定した飛行高度Hが所定範囲内の場合は(ステップS5の「Yes」)、制御部20は、定期的に気圧を測定し(ステップS22)、前回の気圧測定値よりΔP下降したか否かを判断する(ステップS23)。前回の気圧測定値よりΔP下降していない場合には(ステップS23の「No」)、ステップ22に戻る。前回の気圧測定値よりΔP下降した場合には(ステップS23の「Yes」)、制御部20は、アイドル状態であるか否かを判断する(ステップS8)。アイドル状態でない場合は(ステップS8の「No」)、アイドル状態となるまで待機する。アイドル状態である場合には(ステップS8の「Yes」)、ステップS3に戻り、制御部20は、飛行高度測定対象トラックの飛行高度Hを測定し、測定した飛行高度Hが仕様範囲内か否かを判断する(ステップS3〜S5)。
【0061】
他方、測定した飛行高度Hが所定範囲内でない場合は(ステップS5の「No」)、制御部20は、ディスク11のSMART領域に、測定した気圧及び飛行高度Hをエラー情報として記録すると共に(ステップS9)、ヘッド13をランプ16にアンロードする(ステップS10)。
【0062】
この後、制御部20は、定期的に気圧を測定し(ステップS24)、前回の気圧測定値よりΔP上昇したか否かを判断する(ステップS25)。前回の気圧測定値よりΔP上昇した場合には(ステップS25の「Yes」)、ステップS3に戻り、制御部20は、飛行高度測定対象トラックの飛行高度Hを測定し、測定した飛行高度Hが所定範囲内か否かを判断する(ステップS3〜S5)。
【0063】
他方、前回の気圧測定値よりΔP上昇していない場合には(ステップS25の「No」)、制御部20は、ホスト装置50からアクセス・コマンドを受信したか否かを判断する(ステップS13)、ホスト装置50からアクセス・コマンドを受信していなかった場合には(ステップS13の「No」)、ステップS11に戻り、ホスト装置50からアクセス・コマンドを受信した場合には(ステップS13の「Yes」)、制御部20は、ホスト装置50にエラーを返信した後(ステップS14)、ステップS11に戻る。
【0064】
実施の形態2によれば、気圧低下や経時劣化等でスライダの飛行高度が低下しても、スライダと記録媒体とが衝突することを未然に防止することが可能となる。
【0065】
なお、上記実施の形態1及び実施の形2は、単独でも組み合わせて実施してもよい。本発明の装置、方法、及びプログラムの実施の形態1及び実施の形態2は、特許請求の範囲に示す本発明の範囲を限定するものではなく、単に本発明の選択した実施の形態の一例を示すものであって、特許請求の範囲に示す本発明と矛盾無く装置及び方法についての選択した実施の形態を単に示すものである。当業者は、特定の細目の1つ以上が無くても、又は他の方法、部品、モジュール、材料でも本発明を実現することができる。また、当業者は、フローチャートで示した処理の各ステップを、順番の変更、ステップの削除、新たなステップの追加が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る磁気記録装置、その診断方法、及びコンピュータが実行可能なプログラムは、磁気記録装置に広く適用可能であり、特に、高密記録を行う磁気記録装置に適している。
【符号の説明】
【0067】
1 ハードディスク装置
10 サスペンション
11 ディスク
12 SPM(Spindle Moter)
13 ヘッド
14 記録再生素子
15 VCM(Voice Coil Motor)
16 ランプ
17 ヒータ
18 熱膨張部材
19 スライダ
20 制御部
21 CPU
22 ROM
23 RAM
24 不揮発性メモリ
24a ヒータ電力−記録再生素子移動量テーブル
30 ドライブ制御部
31 リード/ライト信号処理部
32 データ・メモリ
33 ヒータ駆動部
34 温度検出部
35 ハードディスク・コントローラ
38 気圧検出部
50 ホスト装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サスペンションの先端側に搭載されたスライダと、前記スライダに搭載され、記録再生素子と当該記録再生素子の周辺に設けられたヒータとが搭載されたヘッドと、を備え、前記ヒータを加熱することにより記録再生素子を、前記スライダから突出させて、記録媒体と前記記録再生素子との間隔を制御する磁気記録装置において、
前記ヒータを加熱して前記記録再生素子を前記スライダから突出させて、前記記録媒体との接触を検出して、前記スライダの飛行高度を測定する飛行高度測定手段と、
前記飛行高度測定手段で測定した前記スライダの飛行高度が所定範囲内であるか否かを
判定する判定手段と、
前記判定手段で前記スライダの飛行高度が所定範囲内でないと判定された場合に、前記ヘッドを前記記録媒体より退避させる退避手段と、
を備えたことを特徴とする磁気記録装置。
【請求項2】
前記飛行高度測定手段は、前記ヒータに印加するヒータ電力と前記記録再生素子の移動量とを関連づけたテーブルを備え、前記テーブルを参照して、前記接触を検出した際のヒータ電力に対応する前記記録再生素子の移動量を算出し、算出した前記記録再生素子の移動量に基づいて、前記スライダの前記記録媒体からの飛行高度を測定することを特徴とする請求項1に記載の磁気記録装置。
【請求項3】
前記飛行高度測定手段は、前記磁気記録装置の電源投入時に前記スライダの飛行高度を測定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気記録装置。
【請求項4】
前記飛行高度測定手段は、前記磁気記録装置内の温度が所定量上がった場合、又は、前記磁気記録装置内の気圧が所定量下がった場合に、前記スライダの飛行高度を測定することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の磁気記録装置。
【請求項5】
前記飛行高度測定手段は、前記判定手段で前記スライダの飛行高度が所定範囲内でないと判定された場合に、前記磁気記録装置内の温度が所定量下がった場合、又は、前記磁気記録装置内の気圧が所定量上がった場合に、前記スライダの飛行高度を測定することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載の磁気記録装置。
【請求項6】
さらに、前記判定手段で前記スライダの飛行高度が所定範囲内でないと判定された場合に、ホスト装置からコマンドを受信した場合には、前記ホスト装置へエラーを返信することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の磁気記録装置。
【請求項7】
さらに、前記判定手段で前記スライダの飛行高度が所定範囲内でないと判定された場合には、前記磁気記録装置内の温度又は気圧と測定された飛行高度とを含むエラー情報を記録する記録手段を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1つに記載の磁気記録装置。
【請求項8】
サスペンションの先端側に搭載されたスライダと、前記スライダに搭載され、記録再生素子と当該記録再生素子の周辺に設けられたヒータとが搭載されたヘッドと、を備え、前記ヒータを加熱することにより記録再生素子を、前記スライダから突出させて、記録媒体と前記記録再生素子との間隔を制御する磁気記録装置の診断方法において、
前記ヒータを加熱して前記記録再生素子を前記スライダから突出させて、前記記録媒体との接触を検出して、前記スライダの飛行高度を測定する飛行高度測定工程と、
前記飛行高度測定工程で測定した前記スライダの飛行高度が所定範囲内であるか否かを
判定する判定工程と、
前記判定工程で前記スライダの飛行高度が所定範囲内でないと判定された場合に、前記ヘッドを前記記録媒体より退避させる退避工程と、
を含むことを特徴とする磁気記録装置の診断方法。
【請求項9】
サスペンションの先端側に搭載されたスライダと、前記スライダに搭載され、記録再生素子と当該記録再生素子の周辺に設けられたヒータとが搭載されたヘッドと、を備え、前記ヒータを加熱することにより記録再生素子を、スライダから突出させて、記録媒体と前記記録再生素子との間隔を制御する磁気記録装置に搭載されるプログラムであって、
前記ヒータを加熱して前記記録再生素子を前記スライダから突出させて、前記記録媒体との接触を検出して、前記スライダの飛行高度を測定する飛行高度測定工程と、
前記飛行高度測定工程で測定した前記スライダの飛行高度が所定範囲内であるか否かを
判定する判定工程と、
前記判定工程で前記スライダの飛行高度が所定範囲内でないと判定された場合に、前記ヘッドを前記記録媒体より退避させる退避工程と、
をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータが実行可能なプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−248241(P2012−248241A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117313(P2011−117313)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(505205731)レノボ・シンガポール・プライベート・リミテッド (292)
【復代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
【Fターム(参考)】