説明

磁気軸受装置

【課題】回転体の磁気軸受装置において、その各電磁石の容量を自由に設計でき、負荷容量を過不足なく設定できる磁気軸受装置を提供する。
【解決手段】回転体の磁気軸受において、回転体の並進運動を制御する並進運動制御回路23と、該回転体の傾斜運動を制御する傾斜運動制御回路24を具備する磁気軸受制御装置において、ラジアル電位センサ部の信号を入力として、ラジアル電磁石のx、y方向の力に作用する不平衡消去回路36を並列接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はターボ分子ポンプやねじ溝真空ポンプ等の高速回転機械の分野その他に利用される磁気軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の磁気軸受装置は図5の如く回転体aをその上端部で軸方向に支持制御する軸方向磁気軸受bと、前記回転体aをその上半部及び下半部において半径方向に支持制御する第1半径方向磁気軸受cと、第2半径方向磁気軸受dとを具備する5自由度制御形磁気軸受に形成されている。
【0003】
そしてこの5自由度制御形磁気軸受は回転体の回転軸に平行な並進運動と回転体の重心のまわりの回転運動とを分離したフィードバック制御する制御系に構成されている。
【0004】
尚、図5においてeは前記回転体aを回転させるモータを示す(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開昭58−81217号公報
【0006】
そして磁気軸受装置における従来の回転体の回転軸のラジアル方向制御器の信号系のブロック線図を図6に示す。
【0007】
図6において、
:上側ラジアル変位センサ部のx方向変位
:上側ラジアル変位センサ部のy方向変位
:下側ラジアル変位センサ部のx方向変位
:下側ラジアル変位センサ部のy方向変位
x:回転体重心のx方向変位
y:回転体重心のy方向変位
θ:y軸まわりの回転体の傾斜角
θ:x軸まわりの回転体の傾斜角
:回転体に作用するx方向の力
:回転体に作用するy方向の力
τ:回転体に作用するy軸まわりのトルク
τ:回転体に作用するx軸まわりのトルク
x1:上側ラジアル電磁石のx方向の力
y1:上側ラジアル電磁石のy方向の力
x2:下側ラジアル電磁石のx方向の力
y2:下側ラジアル電磁石のy方向の力
を表わす。
尚、x方向、y方向及びz方向は図5に示す方向である。
【0008】
即ち、従来のラジアル方向制御装置は次のように構成されている。
【0009】
第1信号変換器1と第2信号変換器2と、第1並進運動制御器3と第2並進運動制御器4と第1傾斜運動制御器5と第2傾斜運動制御器6と、第1交差信号変換器7と第2交差信号変換器8とからなり、前記第1信号変換器1は前記x、y、x、yの信号を入力し、Τの信号変換して前記x、y、θ、θの信号を出力するようにしている。
【0010】
ここで

ただし

である。
【0011】
前記第2信号変換器2は前記f、f、τ、τの信号を入力しL−1の信号変換して前記fx1、fy1、fx2、fy2の信号を出力するようにしている。
【0012】
ここで

ただし

である。
【0013】
そして前記第1信号変換器1の出力信号xの第1信号線9と前記第2信号変換器2の入力信号fの第2信号線10との間に第1並進制御器3が介在されていると共に、前記第1信号変換器1の出力信号yの第3信号線11と前記第2信号変換器2の入力信号fの第4信号線12との間に第2並進制御器4が介在され、これら第1、第2制御器3、4のいずれもPID制御をするようにしている。そしてこれら第1、第2制御器3、4により並進運動制御回路23を構成する。
【0014】
又、前記第1信号変換器1の出力信号θの第5信号線13と前記第2信号変換器2の入力信号τの第6信号線14との間に第1傾斜運動制御器5が介在すると共に、前記第1信号変換器1の出力信号θの第7信号線15と前記第2信号変換器2の入力信号τの第8信号線16との間に第2傾斜運動制御器6が介在する。
【0015】
そして前記第5信号線13に第1信号引き出し点17を、又第7信号線15に第2信号引き出し点18をそれぞれ介在すると共に、前記第6信号線14に第1信号加え合わせ点19を又第8信号線16に第2信号加え合わせ点20をそれぞれ介在し、前記第1信号引き出し点17から前記第2信号加え合わせ点20との間を接続する第1信号分岐線21に第1交差信号変換器7を介在すると共に、前記第2信号引き出し点18から前記第2信号加え合わせ点19との間を接続する第2信号分岐線22に第2交差信号変換器8を介在した。
【0016】
そして前記第1信号加え合わせ点19において、前記第2信号分岐線22の前記第2交差信号変換器8からの出力信号が前記第1傾斜運動制御器5からの出力信号にプラスで付加されると共に前記第2信号加え合わせ点20において、前記第1信号分岐線21の第1交差信号変換器7からの出力信号が前記第2傾斜運動制御器6からの出力信号にマイナスで付加されている。
【0017】
そして前記第1傾斜運動制御器5と第2傾斜運動制御器6と前記第1交差信号変換器7と前記第2交差信号変換器8とにより傾斜運動制御器回路24を構成する。
【0018】
ここで前記第1、第2傾斜運動制御器5、6はPIDの制御すると共に、第1、第2交差信号変換器7、8は交差フィードバックの係数Kcにより変換される。
【0019】
尚、前記PIDは図7に示す如く下記の(3)式の伝達関数であり、

【0020】
又、前記Kcは図7に示す如く下記の(4)式の伝達関数である。

ただし
:重心を通る直径まわりの慣性モーメント
:回転軸まわりの慣性モーメント
Ω :回転軸の回転角速度
12:リカッチ微分方程式の解
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
この従来の磁気軸受装置によれば、回転体の並進運動と傾斜運動の干渉を避けるために電磁石の配置と、相対する磁石の吸引作用によって回転体の回転軸を浮上させるように作動する吸引形磁気軸受において電磁石と回転軸が近接する程吸引力が増す負の剛性である不平衡剛性との間に非干渉条件即ち回転体の並進運動と傾斜運動が連成しないために必要な支持位置と支持剛性に対する条件を満たす必要があり、この非干渉条件を満たすためには、磁気軸受の機械的構造から電磁石の配置が概ね決定されるので、不平衡剛性の大きさで調整する必要がある。
【0022】
ところが不平衡剛性は電磁石の負荷容量と比例関数にあるため非干渉条件を満たそうとすると、一方の電磁石の容量が過大になるか或いは他方の電磁石の容量が過小になる不都合があった。
【0023】
本発明は前記非干渉条件を考慮する必要がなく前記各電磁石の容量を自由に設計でき、負荷容量を過不足なく設定できる磁気軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
この目的を達成すべく本発明は回転体の磁気軸受において、回転体の並進運動を制御する並進運動制御回路と、該回転体の傾斜運動を制御する傾斜運動制御回路を具備する磁気軸受制御装置において、不平衡消去回路を並列接続した。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば非干渉条件を考慮する必要がなく磁気軸受の各電磁石の容量を自由に設計できると共に、負荷容量を過不足なく設定でき、磁気軸受装置の設計が極めて容易にできる効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明を実施するための最良の形態の実施例を次に示す。
【実施例1】
【0027】
図1は本発明の分子ポンプの磁気軸受装置の主要部を示す概略図である。
【0028】
30は分子ポンプの回転体の回転軸を示し、該回転軸30はその上方部において上側ラジアル磁気軸受31により、又下方部においては下側ラジアル磁気軸受32によりそれぞれ支持されていると共に下端部においてアキシャル磁気軸受33により支持されている。
【0029】
そして前記ラジアル方向制御器23は前記上側ラジアル磁気軸受31の位置センサ31aの検出信号と前記下側ラジアル磁気軸受32の位置センサ32aの検出信号をそれぞれ入力して前記上側ラジアル磁気軸受31の電磁石31bと前記下側ラジアル磁気軸受32の電磁石32bを制御するようにしている。
【0030】
又、アキシャル磁気軸受33においてもアキシャル方向制御器34が位置センサ33aの検出信号を入力して電磁石33bを制御するようにしている。
【0031】
尚、35は前記回転軸30を回転駆動するモータを示す。
【0032】
図2は磁気軸受装置における本発明の回転体の回転軸のラジアル方向の制御器の信号系のブロック線図を示し、本発明は図6で示す前述の従来のラジアル制御器に不平衡消去回路36を並列接続したことを特徴とする。
【0033】
即ち、前記第1信号変換器1への前記xの第1入力線37に第3引き出し点38を、又前記yの第2入力線39に第4引き出し点40を、又前記xの第3入力線41に第5引き出し点42を、又前記yの第4入力線43に第6引き出し点44をそれぞれ介在すると共に、前記第2信号変換器2からの前記fx1の第1出力線45に第3加え合わせ点46を、又前記fy1の第2出力線47に第4加え合わせ点48を、又前記fx2の第4出力線51に第6加え合わせ点52をそれぞれ介在した。
【0034】
そして前記不平衡消去回路36は、前記第3引き出し点38より分岐した第1分岐入力線53より前記xの入力信号を、又前記第4引き出し点40より分岐した第2分岐入力線54より前記yの入力信号を、又前記第5引き出し点42より分岐した第3分岐入力線55より前記xの入力信号を、又前記第6引き出し点44より分岐した第4分岐入力線44より分岐した第4分岐入力線56より前記yの入力信号を入力するように接続されている。
【0035】
又、前記不平衡消去回路36からの第1分岐出力線57が前記第3加え合わせ点46において前記第1出力線45に、又前記不平衡消去回路36からの第2分岐出力線58が前記第4加え合わせ点48において前記第2出力線47に、又前記不平衡消去回路36からの第3分岐出力線59が前記第5加え合わせ点50において前記第3出力線49に、又前記不平衡消去回路36からの第4分岐出力線60が前記第6加え合わせ点52において前記第4出力線51にそれぞれ接続し、各加え合わせ点46、48、50又は52において、前記第2信号変換回路2からの各出力線45、47、49又は51のマイナスの出力信号と、前記不平衡消去回路36からの分岐出力線57、58、59又は60のマイナスの出力信号とがそれぞれ付加されている。
【0036】
そして前記不平衡消去回路36の伝達関数は
ΤΤである。
ここで

であり、 8極ヘテロポーラ型の場合、

であり、
μ:真空の透磁率
:磁極の断面積
:コイルの巻き数
:バイアス電流
δ:空隙長
を表わす。
【0037】
又、前記LΤは前記(2)式のLの転置マトリックスであり、Τは前記(1)式のΤ−1の逆マトリックスに相当する。
【0038】
そして、実施例1において、前記第1、第2傾斜運動制御器5、6はPID´制御をするが該PID´は図3に示す如く下記の(7)式の伝達関数であり、

ただし
:比例制御係数
:微分制御係数
【0039】
又、前記第1、第2交差信号変換器7、8の交差フィードバックのK´は図3に示す如く下記の(8)式の伝達関数である。

ここで
PID´とK´は(3)式のPIDや(4)式のKと異なり、p12のリカッチ微分方程式の解を含んでいない。
【0040】
尚、前記リカッチ微分方程式の解p12はI、I、Ωや不平衡剛性最適化の重みの複雑な関数であるため、回転軸の回転速度に合わせて制御係数を複雑な式でスケジュールする必要があった。
【0041】
ところが、本発明においては、(7)式及び(8)式より明らかなようにPID´及びK´は前記解p12を含んでいない。
【0042】
そこで、係数K、Kは任意に設定できるので、これらを回転速度によらず一定とすることにより複雑なスケジュールが不要となる。又、このときK´はΩに単純に比例するのでスケジュールは容易である。
【0043】
又、減衰率ζは

であると十分な安定性が得られる。
【0044】
即ち、ζが余り小さいと充分な安定性が得られず、0.4以上が好適である。
【0045】
又、ζが大きいと(9)式よりKつまり微分制御が大きいことになり、微分制御は高周波のゲインを高める効果があるため回転軸の曲げ振動等の高周波の振動を助長し、場合によっては不安定化する問題点があるので、1/√2以下であることが好適である。
【0046】
又、図4に示す如く前記交差フィールドバックを形成する第1信号引き出し点17から第1交差信号変換器7への第1信号分岐線21と第2信号引き出し点18から第2交差信号変換器8への第2分岐線22とに低域通過フィルターLPFをそれぞれ直列に付加してそのカットオフ角速度をωとすると

の条件を満足すると安定化する。

ここで

である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明はターボ分子ポンプやねじ溝真空ポンプ等の高速回転機械その他で使用されている磁気軸受システムに利用される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の磁気軸受装置の実施例1の主要部の概略図である。
【図2】該実施例1のラジアル制御器の信号系統のブロック線図である。
【図3】該ラジアル制御器の傾斜運動制御器の信号系統のブロック線図である。
【図4】該傾斜運動制御器の信号系統の変形例のブロック線図である。
【図5】従来の磁気軸受装置の1例の主要部の概略図である。
【図6】従来のラジアル制御器の信号系統のブロック線図である。
【図7】該ラジアル制御器の傾斜運動制御器の信号系統のブロック線図である。
【符号の説明】
【0049】
7 第1交差信号変換器
8 第2交差信号変換器
21 第1信号分岐線
22 第2信号分岐線
23 並進運動制御回路
24 傾斜運動制御回路
36 不平衡消去回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体の磁気軸受装置において、回転体のラジアル方向の並進運動を制御する並進運動制御回路と、該回転体のラジアル方向の傾斜運動を制御する傾斜運動制御回路とを具備するラジアル方向制御回路に不平衡消去回路を並列接続すると共に、
前記傾斜運動制御回路が具備する傾斜運動制御器の伝達関数PID´の比例制御定数Kを、任意の定数に設定したことを特徴とする回転体の磁気軸受装置。
【請求項2】
前記傾斜運動制御回路が具備する傾斜運動制御器の伝達関数PID´の微分制御定数Kを、任意の定数に設定したことを特徴とする請求項1に記載の回転体の磁気軸受装置。
【請求項3】
前記Kを、リカッチ微分方程式の解p12を含まない定数に設定したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の回転体の磁気軸受装置。
【請求項4】
前記Kを、リカッチ微分方程式の解p12を含まない定数に設定したことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の回転体の磁気軸受装置。
【請求項5】
前記Kを、回転体の回転数によらず一定の定数に設定したことを特徴とする請求項1又は請求項2又は請求項3又は請求項4に記載の回転体の磁気軸受装置。
【請求項6】
前記Kを、回転体の回転数によらず一定の定数に設定したことを特徴とする請求項2又は請求項3又は請求項4又は請求項5に記載の回転体の磁気軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−68327(P2013−68327A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−259465(P2012−259465)
【出願日】平成24年11月28日(2012.11.28)
【分割の表示】特願2007−228601(P2007−228601)の分割
【原出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(000149170)株式会社大阪真空機器製作所 (38)
【Fターム(参考)】