説明

磨耗特性を向上させるコーティング

【課題】 ギアおよびベアリングの磨耗性能を向上させる潤滑面を提供する。
【解決手段】この潤滑面には、表面に皮膜層の密度が1平方センチにつき約0.1ミリグラムから約0.5ミリグラムであるリン酸マンガン皮膜が含まれている。表面の潤滑には、リン系耐磨耗剤を含有した潤滑油が使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は潤滑面、特に潤滑部分の磨耗および摩擦特性を改善するための、表面の潤滑を向上する方法に関連する。
【発明の背景および要約】
【0002】
粗さ、硬さ、可塑性などの表面特性は、ベアリングやギアの磨耗および疲労を防止するために重要な要素である。例えば、ギアのピッチングおよびマイクロピッチングを減少するためには、表面の粗さを最小化しなくてはならない。耐磨耗および耐疲労特性を向上させるために表面に「超仕上げ」を行う代わりに、当該の表面にコーティングを施すことができる。コーティングを施していない表面の研究により、潤滑剤の摩擦を低減し薄膜を形成する能力が、潤滑剤、特にボールまたはローラーベアリング、およびギアなどの回転体用の潤滑剤の耐疲労および耐磨耗性能にとって重要であることが示されている。
【0003】
回転体およびギアに適用される潤滑原理の一つに、弾性流体力学(EHD)潤滑として知られているものがある。回転式のベアリングおよびギアについてのEHD潤滑理論は、それらの接触面を潤滑剤の薄膜によって分離し、その薄膜がベアリングおよびギアの寿命に作用するというものである。しかしながら、表面の粗さが、EHD潤滑における重要な検討材料となる。粗さは表面のでこぼこの高さの算術平均値として定義され、時に中心線平均粗さ(CLA)と呼ばれる。
【0004】
ギアの疲労ピッチング寿命の延長は、今日の自動車および産業用ギアオイルに必要とされる主要な性能である。ギアの表面の粗さと、オイルの化学的・物理的特性の両方が、オイルが表面ピットの形成を妨げる能力に重大な影響をもっていることが、過去の研究により示されている。オイルの膜の厚みが増加し、境界の摩擦が低減すると、オイルがピッチングを妨げる能力が向上する。表面の粗さが金属の疲労に及ぼす影響は広く研究されており、当技術分野に精通した技術者にはよく理解されている。例えば、非特許文献1で、表面のピッチングの研究について説明されている。表面の粗さがギアピッチングに及ぼす影響については、非特許文献2に記載されている。疲労寿命を予測するためのモデル開発については、非特許文献3に記載されている。表面の粗さを低減することにより、表面ピットの形成の原因となる表面マイクロピットの形成が最小化されることが立証されている。従って、特にギアおよびローラーベアリング用の潤滑部分の寿命を延長するために、潤滑面の表面特性を更に改良する必要性が引き続き存在する。
【0005】
【非特許文献1】S.Li、M.T.Devlin、J.L.Milner、R.N.Iyer、M.R.Hoeprich、およびT.M.Cameronなどにより、2003年、SAE Paper No.2003−01−3233の「Investigation of Pitting Mechanism in the FZG Pitting Test(FZGピッチングテストにおけるピッチングメカニズムの研究)」と題する論文
【非特許文献2】T−C.Jao、M.T.Devlin、J.Milner、R.Iyer、およびM.R.Hoeprichにより、2006年5・6月号、GearTechnology、p30−38の「Influence of Surface Roughness on Gear Pitting Behavior(表面の粗さがギアピッチングに及ぼす影響)」と題する論文
【非特許文献3】T−C.Jao、M.T.Devlin、R.E.Baren、J.Milner、C.Koglin、H.T.Ryan、およびM.R.Hoeprichにより、2005年、SAE Paper No.2005−01−2179の「Development of a Model to Predict FatigueLife in the FZG Micropitting Test(FZGマイクロピッチングテストにおける疲労寿命を予測するためのモデル開発)」と題する論文
【0006】
例示的実施例によると、本開示には、皮膜密度が1平方センチにつき約0.1ミリグラムから約0.5ミリグラムであるリン酸マンガン皮膜を含む潤滑面と、当該表面を潤滑する潤滑油が提示されており、このとき当該潤滑油にはリン系の耐磨耗剤が含まれている。
【0007】
別の例示的実施例では、本開示は、表面を潤滑している際に、磨耗の低減と疲労寿命の向上を同時に行う効果のあるコーティング面を提供する。このコーティング面には、皮膜密度が1平方センチにつき約0.1ミリグラムから約0.5ミリグラム、また粒径が約6ミクロンから約10ミクロンであるリン酸塩組成物が含まれる。
【0008】
また別の例示的実施例では、潤滑面の磨耗の防止と疲労寿命の向上を同時に行う方法が提供される。この方法には、潤滑面をリン酸化合物でコーティングして、皮膜密度が1平方センチにつき約0.1ミリグラムから約0.5ミリグラムであるような層を作ることが含まれる。リン酸塩でコーティングされた表面は次に、リン系の耐磨耗剤を含有する潤滑剤によって潤滑される。
【0009】
本開示の別の例示的実施例は、表面を潤滑する間に潤滑面の磨耗特性を向上させる方法を提供する。この方法には、潤滑面にリン酸塩皮膜を適用することが含まれる。リン酸皮膜には、粒径が約6ミクロンから約10ミクロンのリン酸粒子が含まれる。当該表面は次に、リン系の耐磨耗剤を含んだ潤滑油で潤滑される。
【0010】
本開示の実施例の利点は、リン酸塩化合物でコーティングされた潤滑面の、コーティングされていない表面と比較して著しく向上された磨耗および摩擦特性である。
【0011】
図面の簡単な説明
例示的実施例のさらなる利点は、例示的実施例の詳細な説明を、実施例の一つ以上の非限定的な態様を表す以下の図と合わせて参照することにより明らかになる。このとき、すべての図面を通して、類似したあるいは同様の要素には同様の参照符号がつけられている。
図1は、開示に従ってリン酸塩コーティング剤でコーティングされた表面の走査型電子顕微鏡画像;
図2は、開示に基づいた潤滑面上の、典型的な磨耗傷の跡の横断面の説明図;
図3は、開示に基づいた潤滑面の磨耗および表面特性の相関曲線;
図4は、開示に基づいた潤滑面の境界摩擦係数および表面特性の相関曲線;
図5は、開示に基づいた潤滑面上の二つのオイルのEHD膜厚の説明図;また
図6は、開示に基づいた潤滑面の疲労性能および表面特性の相関曲線である。
【例示的実施例の詳細な説明】
【0012】
本明細書で使用される「ヒドロカルビル置換基」または「ヒドロカルビル基」という用語は、当技術分野に精通した技術者に周知の通常の意味で使用されている。具体的には、炭素原子が分子の残りの部分に直接結合しており、また主に炭化水素の特性を有する基を指す。ヒドロカルビル基の例には以下のものが含まれる:
(1)炭化水素置換基、すなわち、脂肪族(例えばアルキルまたはアルケニル)置換基、脂環式(例えばシクロアルキル、シクロアルケニル)置換基、また芳香族、脂肪族、および脂環基によって置換された芳香族置換基、また環が分子の別の部分によって完成されている(例えば二つの置換基が一緒になって脂環式ラジカルを形成している)ような環状置換基;
(2)置換された炭化水素置換基、すなわち、本発明の状況下で、主に炭化水素である置換基(例えばハロ(特にクロロおよびフルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト
、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、およびスルホキシ)などを変化させないような、非炭化水素基を含んだ置換基;
(3)ヘテロ置換基、すなわち、主に本発明の状況下で、主に炭化水素の特性を有しながら、そうでなければ炭素原子から成る環または鎖の中に炭素以外の原子を含んでいるような置換基。ヘテロ原子には硫黄、酸素、および窒素があり、またピリジル、フリル、チエニルおよびイミダゾリルのような置換基が含まれる。通常、ヒドロカルビル基中、炭素原子10個につき二つ以下、例えば一つ以下の非炭化水素置換基が存在する。一般的にヒドロカルビル基中に非炭化水素置換基は存在しない。
【0013】
本明細書で使用される「重量パーセント」という用語は、別段の定めが明記されていない限り、組成物全体の重量に対して記載の成分が占めるパーセンテージを意味する。
【0014】
ギアおよびローラーベアリングの磨耗特性を向上させるため、潤滑油組成物が特定のリン酸塩コーティング剤と合わせて使用される。特に、コーティング層の特定の皮膜密度および粒径を有するリン酸塩コーティング剤を含んだ潤滑面により、優れた磨耗および摩擦特性がもたらされる。リン酸塩コーティング層の皮膜密度は、粒径が約6ミクロンから約10 ミクロンのリン酸塩粒子について、望ましくは1平方センチにつき約0.1ミリグラムから約0.5ミリグラムである。コーティング層の密度が1平方センチにつき約0.5ミリグラム以上に増加すると、境界摩擦係数が増加することが認められた。また粒径が約6ミクロンから約10ミクロンに増加すると、表面の耐摩耗性が増加することも認められた。従って、密度が前述の範囲内にあり、示された粒径を有するリン酸塩コーティングが、ギアおよびローラーベアリングの磨耗および摩擦特性の改良に特に適している。
【0015】
リン酸塩コーティングのなかでも、摩擦および/または磨耗の観点から、リン酸マンガンコーティングが最も望ましい。リン酸マンガンコーティングは、通常GB 812,095およびGB 1,417,369に記載されているような周知のコーティング技術を使って金属表面に施される。
【0016】
リン酸塩コーティングの性能特性の向上に貢献する別の要因として、表面を潤滑するために使用される潤滑剤組成物中に特定の界面活性剤が含まれていることがある。具体的に言うと、当該潤滑剤組成物には、その他の従来から使用されている潤滑剤添加物および基油に加えて、アルキルホスフェートの耐磨耗剤が含有されている。潤滑剤組成物用に特に好適なアルキルホスフェート耐磨耗剤はアミル酸ホスフェートである。潤滑剤の磨耗および境界摩擦係数を低減させるため、潤滑剤には潤滑剤の総重量を基にして約0.1重量%から約1.0重量%のアルキルホスフェートが含まれる。
【0017】
本開示の例示的実施例に従った潤滑剤組成物の組成に使用するのに適した基油は、合成油、天然油、あるいはそれらの混合物のいずれかから選択される。天然油にはパラフィン系、ナフテン系、またはパラフィン−ナフテン混合の、溶媒や酸で処理されたミネラル潤滑油に加え、動物油および植物油(例えばヒマシ油、ラードなど)が含まれる。石炭や頁岩から得られたオイルもまた好適である。基油の粘度は通常、100℃で約2cStから約15cSt、望ましくは約2cStから約10cStである。従って、使用される基油は米国石油協会(API)の基油互換性規定で指定されたグループI−Vの基油のいずれかから選択される。これらの基油グループを以下の表に示す:
【0018】
【表1】

【0019】
ギアおよびローラーベアリング用のリン酸塩コーティングの効果を評価するため、表面コーティングが潤滑剤の性能に及ぼす効果を分析した。具体的には、コーティングしていないギアとリン酸塩コーティングしたギアの両方に、高周波往復運動リグ(HFRR)磨耗および摩擦試験を行い、リン酸コーティングの疲労寿命および磨耗に対する効果を調べた。特に、リン酸マンガン(MnP)の密度が表面に与える効果と、MnPの粒径が疲労および磨耗に与える影響を、以下の非限定的な例に基づいて測定した。
【例1】
【0020】
六種類の異なったリン酸塩コーティング面の分析を行った。リン酸塩コーティング面の表面には様々な密度のMnPが堆積しており、またMnP粒子の粒径も様々であった。図1は分析されたいくつかの表面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。図1において、画像10Aおよび10Bは粒径約2.5ミクロンのMnPでコーティングされた表面、画像12Aおよび12Bは粒径約4.5ミクロンのMnPでコーティングされた表面、また画像14Aおよび14Bは粒径約12ミクロンのMnPでコーティングされた表面である。また、コーティングを施した鉄材の分析も行った。表1は、分析したすべての表面と、各表面の粗さ(Ra)を示す。
【0021】
【表2】

【0022】
API GL−5ギアオイル仕様を満たす二種類の新しいオイルを上記のコーティング面で試験した。オイル1には、0.75重量%のアルキルホスフェート耐磨耗剤と5.5重量%の従来型の添加剤が含有されていた。オイル2には、0.45重量%のアルキルホスフェート耐磨耗剤と8.0重量%の従来型の添加剤が含有されていた。オイル中で使用された従来型の添加剤は、硫化オレフィン、ポリスルフィド、コハク酸イミド分散剤、アミン系摩擦低減剤、ジチオジアゾール腐食防止剤、および消泡剤などである。オイルが薄膜を形成し摩擦を低減する能力は、ギアの疲労寿命に関連している。従って、試験用のオ
イルは、様々な薄膜形成および摩擦低減の特性に基づいて選択された。
【0023】
当該のオイルによる磨耗試験を、HFRRを使用して行った。HFRR試験において、ボールを表Iに示した1cmx1cmの表面上で振動させた。ボールと試験面の間に負荷700gをかけ、このボールを1ミリの径路上で速度20Hzで振動させた。この試験を温度120℃で60分間行った。試験中、オイルと表面の各組み合わせについて境界摩擦係数を測定した。試験の後、プレシジョンデバイス社(Precision Devices Incorporated(PDI))のマイクロアナライザー2000を使用して試験面の表面磨耗傷の跡を測定した。図2は、前述の磨耗試験でできた例示的なPDI磨耗跡16を表す。オイルと表面の各組み合わせについて、磨耗跡の断面積を測定した。二種類のオイルのEHD膜厚は、光学干渉計を使用して測定した。膜圧の測定は100℃、速度1m/秒で行った。
【0024】
オイルの境界摩擦および膜厚と材料表面の粗さとの組み合わせを使用して、FZGピッチング試験における予測疲労寿命を計算した。磨耗、境界摩擦、また表面コーティングが予測疲労寿命に及ぼす効果を以下の式を用いて表す:
性能=A+BMnPの密度+C粒径+Dオイルの効果 (1)
【0025】
式(1)において、「オイルの効果」とはオイル1とオイル2の試験面に対する性能の違いをいう。定数A、B、C、およびDの値は標準的な統計の手法を用いて決定される。加えて、一旦BおよびCの値が分かると、MnPの密度および粒径の、磨耗、境界摩擦、あるいは予測ピッチングへの総体的な影響を以下に示すように計算することができる。
【0026】
表IIは、表Iに記載の表面とオイル−1あるいはオイル−2との組み合わせに対して行ったHFRR試験の磨耗傷の断面積を表す。オイル−1はオイル−2よりも厚いEHD膜を形成するように作られているが、オイル−2と同様摩擦を低減しなかった。HFRR磨耗試験は、EHD膜の形成が最小限となり、オイル性能の違いが二つの流体のEHD膜を形成する能力ではなく、界面活性剤の違いによって生じたものとなるようにデザインされている。
【0027】
【表3】

【0028】
表IIに示されるように、オイル−2はオイル中の界面活性剤が異なるため、すべての表面上でオイル−1よりも優れた磨耗防止を表した。耐摩耗性は表面の形態によって異なった。オイル−1を使用して行われた磨耗試験により、磨耗を予防するために最もよい表面は、コーティングされていない表面2およびおそらく表面5であることが示された。オイル−2を使用して行われた磨耗試験では、磨耗を予防するために最もよい表面は、コーティングされていない表面2および表面5であることが示された。
【0029】
表面特性の磨耗に対する影響を、表IIの磨耗データと表Iの表面特性を式1を用いて関連付けることにより決定した。図3は、表面特性および磨耗データの間の相関関係のRの二乗が0.79であることを示している。オイル−1を使用して得られた磨耗データは図3でオープンダイアモンドとして示され、またオイル−2を使用して得られた磨耗データは図3でクローズドダイアモンドとして示されている。磨耗と表面特性の相関関係は次の式で表される:
磨耗傷=4800+4.7MnPの密度−405粒径+4390オイル1 vs
オイル2 (2)
【0030】
式(2)は、表IIで明らかなように、平均的に、オイル−1がオイル−2よりも大きな磨耗傷を作ることを示している。式(2)はまた、表面上のMnPの密度が増えると磨耗も増加するが、粒径が増加すると磨耗が低減することを示している。MnPの密度および粒径が磨耗に及ぼす相対効果は、式(2)を用いて決定される。表Iにおいて、表面上のMnPの薄膜層の密度は0から1206mg/ftおよび平均粒径は0から12μmである。従ってMnPの密度が磨耗に及ぼす最大の効果は12064.7または+5670μmとなる。また粒径が磨耗に及ぼす最大の効果は−40512または−4860μmであった。MnPの密度が磨耗に及ぼす絶対的効果は、粒径が磨耗に及ぼす効果よりもわずかに大きい。
【0031】
表IIIは、表Iに記載の表面とオイル−1あるいはオイル−2との組み合わせに対して行ったHFRR試験で測定された境界摩擦係数を表す。
【0032】
【表4】

【0033】
表IIIにおいて、オイル−1はオイル−2よりも厚いEHD膜を形成するようにデザインされているが、オイル−2ほど摩擦を低減しなかった。また摩擦は表面形態によって異なった。オイル−1を使用して行った試験で測定された境界摩擦係数は、コーティングされていない表面および表面2で低かった。オイル−2を使用して行った試験で測定された境界摩擦係数は、コーティングされていない表面および表面1、また表面6で最も低かった。
【0034】
表面特性が摩擦に及ぼす影響を、表IIIの磨耗データと表Iの表面特性を式(1)を用いて関連付けることにより決定した。図4は、当該相関関係のRの二乗が0.82であることを示している。オイル−1を使用して得られた摩擦係数は図4でオープンダイアモ
ンドとして示され、またオイル−2を使用して得られた摩擦係数は図4でクローズドダイアモンドとして示されている。摩擦係数と表面特性の相関関係は次の式で表される:
境界Fr.Cf.=0.090+0.00002MnPの密度−0.0012粒径+0.017オイル1 vs オイル2 (3)
【0035】
式(3)は、平均的に、表IIIから明らかなように、オイル−1がオイル−2よりも高い摩擦係数を示すことを表している。この式はまた、表面上のMnPの密度が増加すると摩擦も増加するが、粒径が増加すると摩擦は減少することを表している。MnPの密度および粒径が摩擦に及ぼす相対効果は、これらの表面パラメータが磨耗に及ぼす効果を決定したのと同様の要領で、式(3)を用いて決定される。従ってMnPの密度が摩擦に及ぼす最大の効果は12060.00002または+0.024、粒径が摩擦に及ぼす最大の効果は−0.001212または0.014であった。MnPの密度が摩擦に及ぼす絶対効果は、粒径が摩擦に及ぼす絶対効果よりも大きい。
【0036】
オイルの薄膜形成および境界摩擦低減の特性には、FZGピッチング試験によって測定された疲労寿命と相関関係があった。潤滑剤によって形成された薄膜が厚いほど、また境界摩擦が小さいほど、FZG試験におけるピッチングの時間が長くなる。図5は、オイル−1がオイル−2と比べ、100℃でより厚いEHD膜を形成することを示している。しかしながら、表IIIは、各種のコーティング面上で、オイル−2の方がオイル−1よりも境界摩擦をより低減したことを示している。また、ギア表面の粗さは、より寿命の長いスムーズな表面を使用したFZG試験におけるピッチングの時間に影響を与えた。
【0037】
表面コーティングが疲労寿命に及ぼす効果を分析するため、図5に示された膜厚データ、表IIIに示された境界摩擦データ、および表Iに示された表面の粗さのデータを使用して、各表面上の各オイルについてFZG試験におけるピッチングの予測時間を計算した。これらの計算の結果を表IVに表す。
【0038】
【表5】

【0039】
すべての表面上でのオイル−1の予測疲労寿命は、すべての表面上でのオイル−2よりも長い。またオイル−1の予測疲労寿命は、表面が変わっても著しい変化はしない。つまり、オイル−1のピッチングの予測時間は、表面3上での292時間からコーティングしていない表面および表面2上での306時間の間である。一方、各種表面上でオイル−2について決定されたピッチングの予測時間は、表面3上での216時間から、コーティングしていない表面の263時間の間である。従って疲労寿命は、オイル−1を任意の表面上で試験した場合は良好であるが、同表面上でオイル−2を試験すると著しく変動する。
【0040】
特定の表面特性が予測疲労寿命に及ぼす影響を、表IVのデータと表Iに示される表面
特性とを、式(1)を使用して関連付けることにより決定した。図6はその相関関係のRの二乗が0.92であることを示している。オイル−1を使用して得られた疲労寿命は図6でオープンダイアモンドとして示され、またオイル−2を使用して得られた疲労寿命は図4でクローズドダイアモンドとして示されている。疲労寿命と表面特性の相関関係は次の式で表される:
ピッチングの予測時間=245-0.030MnPの密度+2.38粒径+63オイル1vsオイル2 (4)
【0041】
式(4)は、表IVで明らかなように、オイル−1がオイル−2よりもよくピッチングから表面を守ることを示している。この式はまた、表面のMnPの密度が増加するとピッチング時間が減少するが、粒径が大きくなるとピッチング時間も増加することを示している。MnPの密度および粒径が磨耗に及ぼす相対的な効果は、式(4)を使用して決定される。表Iにおいて表面のMnPの密度は0から1206、また平均粒径は0から12の間である。MnPの密度がピッチングの予測時間に及ぼす最大効果は1206−0.030または−36時間である。粒径が磨耗に及ぼす最大効果は+2.3812または+29時間である。MnPの密度が疲労寿命に及ぼす絶対効果は、粒径が疲労寿命に及ぼす効果よりもわずかに大きい。
【0042】
前述の表面およびそれらにより得られた結果の比較を、見やすいように以下の表に表す。
【0043】
【表6】

【0044】
表面1および2が含有するリン酸塩層の密度は同程度であるが、リン酸塩の粒径は異なっている。表面上の粒径が大きい表面2は、磨耗傷の横断面が小さいことからも分かるように、磨耗に対する抵抗が大きかった。表面3は表面1よりもリン酸塩コーティングの密度は高いが、粒径は表面1と同程度である。表面1と比較すると、摩擦は表面3の方が大きいが、磨耗は表面1の磨耗と同程度であった。上述のように、表面のリン酸マンガン層の密度が増加すると摩擦も増加した。表面4は、MnP粒径を9.5ミクロンに増加すると磨耗は低減されることを示しているが、表面のリン酸マンガンコーティングの密度がより高かったため、表面4の摩擦係数は比較的高かった。
【0045】
ギアの疲労ピッチング寿命の延長および磨耗の防止は、今日の自動車および産業用ギアオイルに求められる重要な性能である。粗さ、高度、および可塑性などの表面特性は、ギア表面を保護するために重要な要素である。例えばギアのピッチングおよびマイクロピッチングを低減するためには、表面の粗さを最小化しなくてはならない。しかしながら、表面に「超仕上げ」を行って耐疲労および耐磨耗特性を向上する代わりに、表面にコーティングを施すこともできる。具体的には、機械部分の初期作動(ブレークイン)の際の腐食および磨耗を防ぐため、上述のようにリン酸塩コーティング表面に施すことができる。リン酸塩コーティングの特性はコーティングを施す際の処理条件により様々である。
【0046】
上記の例に示されるように、リン酸塩コーティング面上の磨耗は、式(2)に表された表面上のリン酸の密度を下げる、あるいはリン酸塩の粒径を増加させることによって低減される。同様に、磨耗を低減するため、リン酸塩コーティングに合わせて、適切な界面活性剤を選択し使用することができる(表IIのオイル1およびオイル2を比較)。上記の例に示されるように、潤滑剤の耐磨耗性能は、リン酸塩コーティングの特性の違いによってさまざまである(表II参照)。
【0047】
過去の研究により、オイルのピッチング予防能力は、オイルの膜厚が増加し、また境界摩擦が低減した際に向上することが分かっている。しかしながら、表IIIおよび式(3)は、リン酸塩コーティング面の表面形態の変化に伴い境界摩擦係数が変化することを示している。具体的には、表面のリン酸塩密度が増加すると摩擦係数が増加し、リン酸塩の粒径が増加すると摩擦係数が減少する。コーティングされた表面の粗さの変化に伴い表面形態が摩擦に及ぼす効果は(表I参照)、オイル/表面の組み合わせの疲労寿命に影響を与える(表IVおよび式4参照)。特にEHDの薄膜を形成するオイル−2では、予測される疲労寿命は、表面のリン酸塩密度が増加すると減少し、リン酸塩の粒径が増加すると増加する。より厚いEHDの薄膜を形成するオイル−1では、表面形態は予測疲労寿命に対しほとんど効果を持たない。従ってリン酸塩コーティング面の疲労寿命を最適化するためには、厚いEHD膜を形成するために組成されたオイルは、摩擦をコントロールするために組成されたオイルよりも性能が優れていなくてはならない。
【0048】
全体的に、表IIおよび表IVは、コーティングされていない面が使用された際に、潤滑剤が最も効果的に磨耗を予防し疲労寿命を向上させることを示している。しかしながら、ブレークインの条件下では、腐食および磨耗の予防のためにリン酸塩コーティング面が必要とされる。従って、新規の費用効率の高いコーティングか、または表面の仕上げ技術が開発されるまで、リン酸塩コーティング面上の磨耗を予防し、疲労寿命を向上させるような潤滑剤を開発する必要がある。潤滑剤が表面を保護する能力を最適化するためには、リン酸塩コーティングの特性をよくコントロールしなくてはならない。式2、3および4は、最適化されたリン酸塩コーティングには、コーティングされた表面上に比較的大きなリン酸塩粒子と最小のリン酸塩密度が含まれていることを示している。
【0049】
本明細書の全体を通した多くの箇所で、多数の米国特許が参照されている。このような引用文献はすべて、完全に説明されたものとして本開示に明白に組み込まれている。
【0050】
本明細書および添付の請求項の英文において使用されている「a」および/または「an」などの単語は、一つのものあるいは一つ以上のものを指す。本明細書および請求項で使用されている、成分の量や、分子量、パーセンテージ、比率、反応条件などの特性を表す数値はすべて、特記されていない限り、「約」という言葉で修飾されていると理解されるべきである。従って、それに反する指定がない限り、本明細書および請求項で示されている数値パラメータは、開示された実施例によって得ようとされている希望の特性に応じて変化し得る近似値である。少なくとも、また本請求項の範囲に対応する原理の適応を制限する試みとしてではなく、各数値パラメータは少なくとも使用された有効数字の数と通常の四捨五入の使用を考慮に入れて解釈されるべきものである。開示された実施例の広い範囲を説明する数値の範囲およびパラメータは近似値ではあるが、特定な例において示される数値はできる限り正確に記録されている。しかしながら、いかなる数値も、それぞれの試験測定に見られる標準偏差の結果必然的に生じる若干のエラーを本質的に含んでいる。
【0051】
本開示の他の実施例は、本明細書を検討することおよび本明細書に開示された発明を実施することにより、当技術分野に精通した技術者には明白なものである。実施例は上記に説明された特定の例示に限定されるものではない。むしろ前述の実施例は法律的に使用可
能な対応範囲も含めた以下の請求項の精神および範囲内にある。
【0052】
本特許権所有者は、開示されたいかなる実施例をも公共に献ずる意図はなく、また開示された修正または変更はある程度文字通りには請求項の範囲内に含まれないかもしれないが、それらも均等論により開示された実施例の一部であると見なされる。
【0053】
本発明の主な特徴及び態様を挙げれば以下のとおりである。
1.潤滑面であり、
−潤滑面上に皮膜密度が1平方センチにつき約0.1ミリグラムから約0.5ミリグラムのリン酸マンガン皮膜、および
−表面を潤滑する潤滑油
を含んだ潤滑面であり、この潤滑油にリン系耐磨耗剤が含まれているような潤滑面。
2.リン酸マンガン皮膜に粒径約6ミクロンから約10ミクロンのリン酸マンガン粒子が含まれる、上記1に記載の潤滑面。
3.潤滑面にギアの表面が含まれる、上記1に記載の潤滑面。
4.リン系耐磨耗剤にアルキルホスフェート化合物が含まれる、上記1に記載の潤滑面。5.リン系耐磨耗剤にアミル酸ホスフェートが含まれる、上記4に記載の潤滑面。
6.表面を潤滑する際に、同時に磨耗を低減させ疲労寿命を向上させる効果のあるコーティング面であり、皮膜密度が1平方センチにつき約0.1ミリグラムから約0.5ミリグラムで、粒径が約6ミクロンから約10ミクロンのリン酸塩組成物を含むコーティング面。
7.リン酸にリン酸マンガンが含まれる、上記6に記載のコーティング面。
8.当該表面にギアの表面が含まれる、上記6に記載のコーティング面。
9.潤滑を行う潤滑剤にリン系耐磨耗剤が含まれている、上記6に記載のコーティング面。
10.リン系耐磨耗剤にアルキルホスフェート化合物が含まれている、上記6に記載のコーティング面。
11.リン系耐磨耗剤にアミル酸ホスフェートが含まれている、上記10に記載のコーティング面
12.潤滑面の磨耗の低減と疲労寿命の向上を同時に行う方法であり:
−皮膜密度が1平方センチにつき約0.1ミリグラムから約0.5ミリグラムのリン酸塩化合物で潤滑面をコーティングすること、および
−リン系耐磨耗剤を含む潤滑油でリン酸塩コーティング面を潤滑すること
を含む方法。
13.リン酸塩化合物にリン酸マンガンが含まれている、上記12に記載の方法。
14.リン酸マンガンに粒径が約6ミクロンから約10ミクロンのリン酸粒子が含まれている、上記13に記載の方法。
15.リン系耐磨耗剤にアルキルホスフェート化合物が含まれている、上記12に記載の方法。
16.リン系耐磨耗剤にアミル酸ホスフェートが含まれている、上記15に記載の方法。17.潤滑面にギア表面が含まれている、上記12に記載の方法。
18.表面を潤滑している際に潤滑面の磨耗特性を向上させる方法であり:
−粒径が約6ミクロンから約10ミクロンのリン酸塩粒子を含んだリン酸塩皮膜を潤滑面に適用すること、および
−リン系耐磨耗剤を含んだ潤滑油で表面を潤滑すること
を含んだ方法。
19.リン酸塩皮膜の皮膜密度が1平方センチにつき約0.1ミリグラムから約0.5ミリグラムである、上記18に記載の方法。
20.リン酸塩皮膜にリン酸マンガン化合物が含まれている、上記18に記載の方法。
21.リン系耐磨耗剤にアルキルホスフェート化合物が含まれている、上記18に記載の
方法。
22.リン系耐磨耗剤にアミル酸ホスフェートが含まれている、上記21に記載の方法。23.潤滑面にギア表面が含まれている、上記18に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】開示に従ってリン酸塩コーティング剤でコーティングされた表面の走査型電子顕微鏡画像である。
【図2】開示に基づいた潤滑面上の、典型的な磨耗傷の跡の横断面の説明図である。
【図3】開示に基づいた潤滑面の磨耗および表面特性の相関曲線である。
【図4】開示に基づいた潤滑面の境界摩擦係数および表面特性の相関曲線である。
【図5】開示に基づいた潤滑面上の二つのオイルのEHD膜厚の説明図である。
【図6】開示に基づいた潤滑面の疲労性能および表面特性の相関曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑面であり、
−潤滑面上に皮膜密度が1平方センチにつき約0.1ミリグラムから約0.5ミリグラムのリン酸マンガン皮膜、および
−表面を潤滑する潤滑油
を含んだ潤滑面であり、この潤滑油にリン系耐磨耗剤が含まれているような潤滑面。
【請求項2】
リン酸マンガン皮膜に粒径約6ミクロンから約10ミクロンのリン酸マンガン粒子が含まれる、請求項1に記載の潤滑面。
【請求項3】
リン系耐磨耗剤にアミル酸ホスフェートが含まれる、請求項1に記載の潤滑面。
【請求項4】
表面を潤滑する際に、同時に磨耗を低減させ疲労寿命を向上させる効果のあるコーティング面であり、皮膜密度が1平方センチにつき約0.1ミリグラムから約0.5ミリグラムで、粒径が約6ミクロンから約10ミクロンのリン酸塩組成物を含むコーティング面。
【請求項5】
リン酸塩にリン酸マンガンが含まれる、請求項4に記載のコーティング面。
【請求項6】
潤滑面の磨耗の低減と疲労寿命の向上を同時に行う方法であり:
−皮膜密度が1平方センチにつき約0.1ミリグラムから約0.5ミリグラムのリン酸塩化合物で潤滑面をコーティングすること、および
−リン系耐磨耗剤を含む潤滑油でリン酸塩コーティング面を潤滑すること
を含む方法。
【請求項7】
表面を潤滑している際に潤滑面の磨耗特性を向上させる方法であり:
−粒径が約6ミクロンから約10ミクロンのリン酸塩粒子を含んだリン酸塩皮膜を潤滑面に適用すること、および
−リン系耐磨耗剤を含んだ潤滑油で表面を潤滑すること
を含んだ方法。
【請求項8】
リン酸塩皮膜にリン酸マンガン化合物が含まれている、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
潤滑面にギア表面が含まれている、請求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−255355(P2008−255355A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77615(P2008−77615)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(391007091)アフトン・ケミカル・コーポレーション (123)
【氏名又は名称原語表記】Afton Chemical Corporation
【Fターム(参考)】