神経再生ペプチド及びそれらの使用方法
本発明の実施態様は、ニューロン及び他の細胞タイプの生存を促進することができる新規なペプチドを含む。本発明の他の実施態様は、ニューロンの遊走、神経突起伸長、ニューロンの増殖、神経の分化、ニューロンの生存、及び/又はトロホブラストの増殖、トロホブラストの遊走、及びトロホブラストの生存を促進するためにペプチドを使用する方法を含む。NRP化合物は、多様な手段(経口的、腹腔内、血管内投与を含む)によって直接的に、又は複製可能なビヒクルを介して間接的に対象者又は対象者の細胞に投与することができる。NRP化合物は、治療に使用するために医薬的に許容可能な投薬形に処方することができる。予め定めた用量のNRPを含むキットを用いて、簡便に保存し、調製し、さらにその必要がある対象に投与することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経細胞及びトロホブラスト細胞の遊走、増殖、生存、分化、及び/又は成長を促進するオリゴヌクレオチド及びペプチドの組成物及び前記の使用方法を目的とする。より具体的には、本発明は、そのようなペプチドの脳損傷、神経変性疾患及び/又は産科合併症における使用を目的とする。
【背景技術】
【0002】
関連技術
軽度から重度の外傷性脳損傷(TBI)、限局性又は広汎性虚血、並びに神経学的傷害及び異常は、傷害後短時間の顕著な神経細胞喪失及び脳機能低下をもたらし得る。現在のところ、疾患によって引き起こされる頭部の損傷又は傷害の結果として脳内で生じる細胞死を防ぐために利用可能な処置はほとんど存在しない。今日まで、神経機能を回復させるために利用可能な処置もまたほとんど存在しない。慢性神経変性疾患、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、及び多発性硬化症のために現時点で利用可能な治療は対症療法のみである。これまでのところ、疾患プロセスに介入するために、又は細胞死を防ぐために利用可能な薬剤はほとんど存在しない。同様に、トロホブラストの生存を含む、産科合併症の予防又は治療に利用可能な処置もほとんど存在しない。
これらの要求に応えるために、本発明者ら及び他の研究者らは、神経細胞の遊走、増殖、生存、分化、及び/又は神経突起伸長を促進するオリゴヌクレオチド及びペプチド(NRP)を以前に発見しこれらを報告した(米国特許出願10/225,838及び米国特許出願10/976,699号、前記文献は引用により本明細書に含まれる)。
しかしながら、本分野では、新規なNRPを同定し、急性及び慢性神経学的異常並びにトロホブラスト細胞の異常のための新規な治療法を見出すことがなお希求されている。
【発明の開示】
【0003】
発明の概要
本発明の実施態様は新規な神経再生ペプチド(NRP)を含む。本発明の他の実施態様は、神経細胞の遊走、神経突起伸長、神経細胞の増殖、神経分化、神経細胞の生存、及び/又はトロホブラストの増殖、遊走及び生存を促進するために、新規なNRPを使用する方法を含む。
本発明のまた別の実施態様は、末梢ニューロンの変性又は死滅の防止にNRPを使用する方法を含む。
本発明のさらに別の実施態様は、子癇前症、HELLP又はIUGRの治療でNRPを使用する方法を含む。そのような実施態様は、トロホブラストの遊走又は生存を誘発することができるペプチドを含む。本発明の他の実施態様は、TNF-アルファ-及びインターフェロン-ガンマ-誘発損傷を、胎盤のトロホブラスト細胞及び胎盤細胞株の両方においてin vitroで減少させるためにNRPを使用する方法を含み、前記方法は産科合併症の治療にNRPを適切なものにする。
さらに別の実施態様は脳の自己免疫性障害の治療にNRPを使用することを含む。
本発明はその具体的な実施態様の説明によって開示される。本発明の実施態様の他の目的、特徴、及び利点は詳細な説明及び図面から明らかとなろう。
【0004】
詳細な説明
本発明の実施態様は、以下の文献に以前に開示された神経再生ペプチド(NRP)の使用を含む:米国特許出願:10/225,838(“Neural Regeneration Peptides and Methods for Their Use in Treatment of Brain Damage”)(2002年8月22日出願;公開番号:US2003/0211990);米国特許出願:10/976,699(“Neural Regeneration Peptides and Methods for Their Use in Treatment of Brain Damage”)(2004年10月29日出願);米国特許出願60/678,302(“Neural Regeneration Peptides and Methods for Their Use in Preventing Obstetric Complications”)(2005年5月6日出願);米国特許出願60/699,642(“Neural Regeneration Peptides and Antioxidants Protect Neurons From Degeneration”)(2005年7月15日出願);米国特許出願60/714,916(“Neural Regeneration Peptides and Antioxidants Protect Neurons From Degeneration”)(2005年9月7日出願);米国特許出願60/726,904(”Neural Regeneration Peptides and Methods for Their Use in Treatment of Autoimmune Disorders of the Brain”)(2005年10月14日出願);PCT国際特許出願:PCT/US02/26782(“Neural Regeneration Peptides and Methods for Their Use in Treatment of Brain Damage”)(2002年8月22日出願;公開番号:WO03/018754);及びPCT/US2004/036203(“Neural Regeneration Peptides and Methods for Their Use in Treatment of Brain Damage”)(2004年11月1日出願;公開番号:WO2005/042,561)(前記文献はいずれもニューロン及び他の細胞タイプの変性又は死滅防止を目的とする)。前述の特許出願の各々は参照により完全に本明細書に含まれる。
【0005】
定義
“ホモログ”という用語には、1つ以上の遺伝子であって、その遺伝子配列が、進化的関係(種間(オルソログ)又は種内(パラログ)における進化的関係)のために顕著な関連性を有するものが含まれる。ホモログはまた、共通の先祖DNA配列から伝えられることによって関係を有する遺伝子を含む。ホモログはまた、種の形成事象によって分離された遺伝子間の関係、又は遺伝子重複事象による遺伝子間の関係(パラログ参照)を含む。本明細書で用いられる、“ホモログ”という用語はまた、進化的関係によって互いに関連する遺伝子生成物を含む。保存されたアミノ酸配列ドメインをもつNRPはホモログの例である。
“パラログ”という用語は、遺伝子重複の結果として互いに枝分かれした相同な一組の遺伝子の1つを含む。例えば、マウスのアルファグロビンとベータグロビン遺伝子はパラログである。本明細書で用いられる、“パラログ”という用語はまた、進化的関係によって互いに関連する遺伝子生成物を含む。保存されたアミノ酸配列ドメインをもつヒトNRPはパラログの例である。
“オルソログ”という用語は、種の形成の結果として互いに枝分かれした相同な一組の遺伝子の1つを含む。例えば、マウスとニワトリのアルファグロビン遺伝子はオルソログである。本明細書で用いられる、“オルソログ”という用語はまた、進化的関係によって互いに関連する遺伝子生成物を含む。保存されたアミノ酸配列ドメインをもつヒトNRPとマウスNRPはホモログの例である。
“パラログペプチド”という用語はパラログヌクレオチド配列によってコードされるペプチドを含む。
“ペプチド”及び“タンパク質”という用語はアミノ酸で構成されたポリマーを含む。
“プロドラッグ”という用語にはプロペプチド含む分子が含まれ、プロペプチドは、酵素的、代謝的又は他のプロセッシングの後で活性なNRP、活性なNRP類似体又はNRPパラログを生じる。
“NRP化合物”という用語は、NRP、NRPホモログ、NRPパラログ、NRPオルソログ、NRP類似体、及びNRPプロドラッグを含む。
【0006】
“NRP”という用語は、進化的関係とは無関係に、神経遊走、ニューロブラスト遊走、神経増殖、ニューロン分化、ニューロン生存及び神経突起伸長の1つ以上を含む機能を有するペプチドを含む。NRPという用語はまた本明細書に定義する配列を有するペプチドをさす。“配列”又は“配列番号:”はC-末端OHペプチド及びC-末端アミド化ペプチドの両方を含むことは理解されよう。
アミノ酸は以下のとおり標準的な記号で表される:アラニンは“A”又は“Ala”で、アルギニンは“R”又は“Arg”で、アスパラギンは“N”又は“Asn”で、アスパラギン酸は“D”又は“Asp”で、システインは“C”又は“Cys”で、グルタミン酸は“E”又は“Glu”で、グルタミンは“Q”又は“Gln”で、グリシンは“G”又は“Gly”で、ヒスチジンは“H”又は“His”で、イソロイシンは“I”又は“Ile”で、ロイシンは“L”又は“Leu”で、リジンは“K”又は“Lys”で、メチオニンは“M”又は“Met”で、フェニルアラニンは“F”又は“Phe”で、プロリンは“P”又は“Pro”で、セリンは“S”又は“Ser”で、スレオニンは“T”又は“Thr”で、トリプトファンは“W”又は“Trp”で、チロシンは“Y”又は“Tyr”で、さらにバリンは“V”又は“Val”で表される。カルボキシ末端がアミド化されたペプチドは-NH2で表される。
【0007】
“疾患”は動物のCNS又は末梢神経系の健康的でない状態を含み、特にパーキンソン病、レーヴィー小体、ハンチントン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、運動ニューロン疾患、筋ジストロフィー、末梢神経障害、神経の代謝障害(グリコゲン貯蔵疾患を含む)が含まれる。
“傷害”には脳又は他の細胞を変性させるか又は死滅させる任意の疾患又は損傷が含まれる。
“損傷”は動物の任意の急性障害を含み、特に卒中、外傷性脳損傷、低酸素症、虚血、胎児仮死(例えば胎盤剥離、臍帯閉鎖に続くか又は子宮内発育遅延に付随する)に付随する周産期仮死、適切な蘇生又は呼吸の失敗に付随する周産期仮死、重篤なCNS傷害(溺死寸前、突然死寸前、一酸化炭素吸入、アンモニア又は他のガスの中毒に付随する)、心停止、昏睡、髄膜炎、低血糖症及びてんかん重積持続状態、冠状動脈バイパス手術に付随する大脳仮死エピソード、低血圧エピソード及び高血圧クリーゼ、大脳外傷、及び脊髄損傷が含まれる。
【0008】
具体的な実施態様の説明
本発明のある種の実施態様は脳障害の治療のための組成物及び方法を含み、前記方法は神経再生ペプチド(NRP)を当該治療の必要のある哺乳動物に投与することを含む。
NRPは、1つ以上のペプチドドメインの存在を特徴とし、前記ドメインは[A]PG[R,S]ドメイン、例えばAPGS、APG、APGR、APGS、PGR又はPGSを含む。さらにまた、NRPは他のドメイン(ARG、ARR、C-末端GGドメイン、[A,G]RRドメイン(ARR又はGRRドメインを含む)を有することができる。NRPはまたPEドメインを有することができる。したがって、NRPは1つ以上の上記のドメインを有することができる。
一連のNRPが米国特許出願10/225,838及び10/976,699に記載された。これらのNRPの1つ、NRP-5(米国特許出願10/976,669では配列番号:11)は、一文字アミノ酸配列REGRRDAPGRAGG(米国特許出願10/976,669では配列番号:30で、さらにまた“NRP-5RG”と称される)を含み、新規な13-merのNRP類似体の開発に用いられた。前記新規な類似体は、アミノ酸配列REGRRAAPGRAGG(配列番号:1、“NRR-5RG D6A”又は“NRP-5RG類似体D6A”とも称される)を有し、REGRRAAPGRAGG-NH2(配列番号:1)を含む。配列番号:1はGRRドメイン、APGRドメイン及びC-末端GGドメインを有する。
本発明の別の実施態様は、NRP-5(米国特許出願10/976,669では配列番号:11)の11-mer類似体であり、本明細書ではNRP-5セグメントGG類似体D4Aと名付けられ、以下の配列を有する:GRRAAPGRAGG-NH2(配列番号:2)。配列番号:2はGRRドメイン、APGRドメイン及びC-末端GGドメインを有する。
本発明のさらに別の実施態様は、脳の自己免疫性障害(多発性硬化症を含む)から生じる機能的な神経学的欠陥の治療にNRPを使用することを含む。これらの実施態様のある種のものでは、いくつかのNRPが有効であることが見出された。
【0009】
13-merのNRP-5セグメントRG(米国特許出願10/976,669で開示された配列番号:30としてもまた知られている)はREGRRDAPGRAGG(配列番号:3)である。配列番号:1及び配列番号:2に関しては、配列番号:3はGRPドメイン、APGRドメイン及びC-末端GGドメインを有する。
さらにまた、本明細書では25-merのNRP-4 GGと称されるNRP(米国特許出願10/976,669で開示された配列番号:29としてもまた知られている)は、GTPGRAEAGGQVSPCLAASCSQAYG(配列番号:4)である。
24-merのNRP-7 SW(米国特許出願10/976,669では配列番号:24としてもまた知られている)は、SEPEARRAPGRKGGVVCASLAADW(配列番号:5)であり、有用である。
我々は、ヒトの異常である多発性硬化症のモデルとして周知の実験的自己免疫脳炎(EAE)誘発マウスに対するNRPの影響を調べた。EAEを発症させるために、200μgの脳炎誘発性ペプチドMOG35-55(MEVGWYRSPFSRVVHLYRNGK)を含む乳濁液200μLを用いた。
【0010】
本発明のさらに別のNRPには以下が含まれる:
RRAPGSLHPCLAASCSAAG 配列番号:7
DKPEARRAPGS 配列番号:8
GTPGRAEAGGQVSPCLAASCSQAYG 配列番号:9
GTPGRAEAG 配列番号:10
TPGRAEAGG 配列番号:11
GRAEAGGQV 配列番号:12
RAEAGGQVS 配列番号:13
GRAEAGG 配列番号:14
SEPFEARRAPGR 配列番号:15
SEPEARRAP 配列番号:16
EPEARRAPG 配列番号:17
PEARRAPGR 配列番号:18
EARRAPGRK 配列番号:19
ARRAPGRKG 配列番号:20
本発明のある種の実施態様は、末梢ニューロンの変性又は死滅を防ぐためにNRPを使用することを含む。これらの実施態様のある種のものでは、NRP-5セグメントGG類似体D4A(配列番号:2)が有効であることが見出された。
他の実施態様は、トロホブラスト遊走低下を含む異常(子癇前症、HELLP又はIUGRを含む)を治療するためにNRPを使用することを含む。そのような実施態様は、トロホブラストの遊走又は生存を誘導することができるペプチド(例えば配列番号:1)を含む。
我々はまた、予想に反して、NRPは、TNF-α-及びインターフェロン-γ-誘発損傷を、ヒト産期胎盤のトロホブラスト細胞及び胎盤細胞株の両方においてin vitroで減少させることができることを見出した(例えば配列番号:1)。
NRPは、C-末端が自由なOHペプチドとしても、C-末端がアミド化されたペプチドとしても有効であり得ることは理解されよう。C-末端遊離OHペプチド及びC-末端アミド化ペプチドは両者とも有効であり、両者が本発明の範囲内に包含される。
【0011】
NRP化合物の治療的使用
本発明のNRPを用いて、神経学的異常及び産科合併症を治療することができる。NRPは予想に反して、脳の自己免疫異常、末梢神経障害及び神経細胞に対する毒性物質損傷に関連する神経の変性の治療に有効であった。さらにまた、NRPは予想に反してトロホブラスト細胞の生存の促進に有効であった。
したがって、本発明は、NRP、NRPによってコードされるペプチド、NRPのホモログ、オルソログ又はパラログ、NRPの類似体、及びNRPのプロドラッグに関連する実施態様を含む。ここでNRPのプロドラッグは、酵素的、代謝的、又は他の方法で改変されてNRP、NRPホモログ、NRPパラログ、NRPオルソログ又はNRP類似体に成ることができる分子である。そのような分子は包括的に“NRP化合物”又は“NRP”と称される。NRP化合物は、ヌクレオチド配列(DNAでもRNAでもよく、さらに単鎖でも二重鎖でもよい)によってコードされ得る。本発明は、本出願に記載した配列それ自体とともに前記に相補的な配列も含むことは理解されよう。さらにまた、NRPのまた別のスプライシング形も含まれ得ることも理解されよう。その場合、NRP RNAのまた別のスプライシング形、並びにそれらRNAがコードし得るタンパク質及びペプチドもまた本発明の部分と考えることができる。
【0012】
上記に示したように、本発明の実施態様は、本発明者らの新規なNRPの驚くべき発見を根拠にしている。前記NRPは、がニューロン及びニューロブラストの増殖、遊走、分化を誘発し、神経突起伸長をもたらし、さらに神経傷害によって生じる損傷からニューロンを保護することができる。神経細胞の増殖、及び急性脳損傷又は慢性神経変性疾患によって生じた障害領域への神経細胞の遊走は、神経機能の改善をもたらすことができる。さらにまた、NRPはニューロンの生存、ニューロンの分化、及び/又は神経突起伸長を促進することができる。したがって、NRP化合物を用いて、脳組織が変性するか、又は死滅のおそれがあるか、又は死滅した多様な異常及び症状を治療することができる。
上記に示したように、本発明の他の実施態様は、NRPは、末梢神経障害に関連する運動障害及び体重減少を、末梢ニューロンの変性又は死滅を防ぐことによって軽減することができるという本発明者らの驚くべき発見を根拠にしている。
上記に示したように、本発明のさらに他の実施態様は、NRPは産科合併症の治療に有用であるという本発明者らの驚くべき発見を根拠にしている。
細胞はまたNRPオリゴヌクレオチドを用いて、トランスフェクション後にNRPの産生を刺激することができる。いくつかの事例では、トランスフェクションは、複製可能なビヒクル又は他のもので実施することができるが、NRPオリゴヌクレオチドを裸のDNAとして導入してもよい。
【0013】
本発明のNRP化合物が有益であり得る異常及び症状には以下が含まれる:
神経系の症状:
神経の生存、遊走又は増殖を促進する効果を示した本発明のペプチドは、下記表1にそれらの配列番号(SID)、長さ(何量体(mer)又はアミノ酸数として)とともに示されている。新規に開示するNRPは太字のSIDで示されている。上記に特記した一定のペプチドドメインの存在は下線によって示されている。
【0014】
【0015】
NRPで治療することができる神経系の症状には中枢神経系の感染(細菌、菌類、スピロヘータ、寄生虫感染を含む)、及び類肉腫(発熱性感染、急性細菌性髄膜炎、軟膜炎を含む)が含まれる。
脳血管性疾患には以下が含まれる:卒中、虚血性発作、アテローム性硬化症性血栓症、ラクネス(lacunes)、塞栓症、高血圧性出血、動脈瘤破裂、血管形成異常、一過性虚血性発作、頭蓋内出血、自発性クモ膜下出血、高血圧性脳症、能動脈の炎症性疾患、例えば心不全(おそらく冠状動脈バイパス手術から生じる)によって発生する灌流低下、及び脳血管疾患の他の形態。
頭蓋脳の外傷には以下が含まれる:頭蓋底骨折及び頭蓋神経損傷、頸動脈海綿静脈洞瘻、気脳症、気瘤及び鼻漏、脳挫傷、外傷性脳内出血、小児の急性脳浮腫。
脱髄疾患には以下が含まれる:視神経脊髄炎、急性播種性脳脊髄炎、急性及び亜急性壊死性出血性脳炎、末梢神経障害を合併したシルダーの広汎性脳硬化症及び多発性硬化症。
以下の1つ以上の症状を含む神経系の変性疾患:進行性痴呆、広汎性脳萎縮、非アルツハイマー型の広汎性皮質萎縮、レーヴィー小体性痴呆、ピック病、前側頭葉痴呆、視床変性、非ハンチントン型舞踏病及び痴呆症、皮質-脊髄変性(Jakob)、痴呆-パーキンソン病-筋萎縮性側索硬化症複合症(Guamaninaその他)。
末梢神経障害は、末梢ニューロンに対する損傷又は末梢ニューロンの減少を特徴とする一般的な身体障害性症状である。末梢神経障害には100を超える型が存在し、各型は型自体の特徴的な症状、発症パターン及び予後を有する。末梢神経障害は遺伝性でも後天性でもあり得る。末梢神経障害の遺伝型は遺伝子変異によって生じ得る。後天的末梢神経障害は以下から生じ得る:神経に対する物理的損傷(外傷)、腫瘍、毒素(化学療法を含む)、自己免疫応答、栄養失調、アルコール中毒、血管性及び代謝性疾患(例えば糖尿病性神経障害)。HIV関連末梢神経障害は、HIVウイルスの逆転写酵素を標的とする薬剤の一般的な副作用である。末梢神経障害の症状は、一過性のしびれ、刺痛及びチクチクする感覚、触覚の過敏性又は筋肉脆弱から、より激甚な症状、例えば灼熱痛、筋肉疲労、麻痺、器官又は腺の機能不全まで変動し得る。
【0016】
代謝性異常:
神経系の後天的な代謝異常には以下が含まれる:錯乱、昏迷、又は昏睡-虚血-低酸素症、低血糖症、高血糖症、高炭酸ガス症、肝不全及びライ症候群の1つ以上を含む症状として提示される代謝性疾患、進行性錐体外路症候群として提示される代謝性疾患、小脳性運動失調、高体温、シェリアキー-スプルー病として提示される代謝性疾患、精神病又は痴呆を惹起する代謝性疾患(クッシング病及びステロイド脳症、甲状腺精神病及び甲状腺形成不全、並びに膵臓性脳症を含む)。神経障害を生じ得る代謝性疾患の例は、下記でより詳細に述べるピリドキシン過剰である。
栄養失調、アルコール及びアルコール中毒による神経系の疾患。
薬剤及び他の化学物質による神経系の疾患には、アヘン製剤及び合成鎮痛剤、鎮静催眠剤、興奮剤、神経興奮剤、細菌毒素、植物毒、有毒咬創及び刺創、重金属、工業毒性物質、抗新形成薬剤及び免疫抑制薬剤、サリドマイド、アミノグリコシド系抗生物質(聴器毒性)及びペニシリン誘導体(痙攣)、心臓保護剤(ベータ-遮断薬、ジギタリス誘導体及びアミオダロン)による中毒が含まれる。
前述の列挙で示したように、本発明の組成物及び方法はヒトの神経損傷及び疾患の治療に有用であり得る。より包括的には、本発明の組成物及び方法は、急性脳損傷(広汎性軸索損傷、周産期低酸素虚血性損傷、外傷性脳損傷、卒中、虚血性梗塞、塞栓症、及び高血圧性出血;CNS毒素への暴露、中枢神経系の感染、例えば細菌性髄膜炎;代謝性疾患、例えば低酸素虚血性脳症、末梢神経障害及びグリコゲン貯蔵疾患を含むが、ただしこれらに限定されない)の結果として神経障害をもつか、又は慢性の神経損傷若しくは神経変性疾患(多発性硬化症、レーヴィー小体性痴呆、アルツハイマー病、パーキンソン病及びハンチントン病を含むが、ただしこれらに限定されない)に罹患した人間の患者の治療で有用である。そのような疾患又は損傷をもつ患者は、ニューロンの増殖及び遊走を神経突起伸長とともに開始させることができる治療プロトコルによって顕著な利益を受けることができる。
さらにより包括的には、本発明は、外傷、毒素暴露、仮死又は低酸素-虚血の形での傷害後の損傷領域へのニューロン及びニューロブラスト遊走の誘導に利用することができる。
【0017】
産科合併症の治療におけるNRPの使用
トロホブラストは初期妊娠の維持に必須である。それらは、胚盤胞の外層を形成するために分化する最初の細胞の一つである。トロホブラストは胚盤胞の子宮壁への着床を担保し、続いて胎盤へと発育する。胚盤胞の着床に続くトロホブラストの分化は、遊走して子宮基質に侵入する絨毛外トロホブラスト細胞(extravillous trophblast cell)(EVT)の形成をもたらす。トロホブラスト幹細胞は融合して栄養膜合胞体細胞を形成し、前記は繁留絨毛性トロホブラストを形成する。前記絨毛性トロホブラストは、絨毛外トロホブラストとして知られる亜集団を形成する。絨毛外トロホブラストは子宮壁及びその血管に侵入して、平滑筋及び内皮細胞に取って代わることにより母体のらせん動脈を再構成する。結果として、より大きな直径、血流増加及び抵抗性減少を特徴とする血管が作られる。この過程は、妊娠後期の胎児のより多くの血液供給の要求に応え、結果として正常な妊娠の維持のために必須である。
トロホブラストは子宮内膜のらせん動脈内の内皮様細胞に分化する(そこでそれら細胞は平滑筋及び内皮細胞に取って代わることにより前記動脈を再構成して同様な効果(血管の直径の拡大、血流増加及び抵抗ゾーンの減少)を達成する)。
in vitro実験では、正常な妊娠では母体細胞がトロホブラストの侵入制御に役割を果たしていることが示唆されたが、ただしこれらの細胞間の調節的相互作用の正確な性質は不明である(Campbell et al. 2003)。母体脱落膜への不完全なヒトトロホブラストの侵入は妊娠関連子癇前症の主要な特徴であるように思われる。例えば、母体のらせん動脈の再構成の失敗は、発育胎児の血流を制限し、子癇前症又は子宮内発育制限の開始の一因となると考えられる。そのような失敗の理由は不明であるが、それら理由にはトロホブラストのアポトーシスの増加、トロホブラスト侵入の低下が含まれ得ると説明されている。
【0018】
子癇前症は、母体の高血圧、蛋白尿及び浮腫の突然の開始を特徴とする。子癇前症の患者では、栄養膜細胞層の侵入は浅く、血管形態変換は不完全である。子癇前症は先進国では妊婦死亡率の主要原因であった。世界的にはこの疾患は毎年ほぼ150,000人の死亡の原因である。前記疾患はまた新生児の死亡率及び罹患率の顕著な原因であり、成人後には健康と密接な関係(高血圧、心臓疾患及び糖尿病のリスク増加を含む)を有すると予想される。
子宮内発育遅延(IUGR)(子癇前症の病的状態に付随する永続的な低酸素性胎盤症状と対を成す)は、胎盤発育遅延、推定される分娩合併症及び/又はヒトの胎児に対する障害(例えば低出生体重をもたらす成熟前帝王切開の必要性)を生じる。子癇前症の稀な結果は、致死的結果が推定される肝不全及び腎不全を特徴とする症候群、いわゆる“HELLP”症候群(溶血、肝酵素上昇、低血小板症候群)である(Volz et al. 1992)。
妊娠中に子癇前症を発症した遺伝性の血栓形成傾向をもつ患者は、低分子量ヘパリン治療(LMWH-療法)に応答することが示された(前記治療は臨床症状をいくらか回復させることができる)(Saisto et al. 2004)。それにもかかわらず、他の型の子癇前症はLMWH-療法に応答しない。
したがって、子癇前症、HELLP症候群又はIUGRの発症を防ぐために妊娠中にトロホブラストの遊走及び侵入を高め得る治療又は予防を確立することは有益である。
【0019】
NRPの投与
NRP化合物(NRP-1、そのオルソログ、類似体、パラログ、本明細書で開示されるNRP、及び同定されたNRPペプチドドメインを含むプロドラッグを含む)を用いて、ニューロン及びニューロブラストの遊走を促進することができる。もっとも簡便には、前記はNRP化合物の患者への直接投与によって達成することができる。
しかしながらNRPは有利に用いることができるが、一方、他の形態のNRP化合物の投与を排除しようとするものではない。例えば、NRPのヒトパラログ形又はペプチドフラグメントをNRPの代わりに投与してもよい。例を挙げれば、CNSにおけるNRPの有効量は、NRP及び担体を含むNRPのプロドラッグ形の投与によって増加させることができる(NRPと担体は患者の体内での切断又は消化に感受性を有する結合によって結び付けられる)。投与後に切断又は消化されてNRPを遊離させる任意の適切な結合を用いることができる。
別の適切な治療方法は、インプラントを介してNRPレベルを高めることである。前記インプラントは、患者の中枢神経系内でNRP又はNRPの類似体、パラログ若しくはプロペプチドを活性な形態で発現することができる細胞株であるか又は前記細胞株を含む。
NRPは医薬又は医薬調製物の部分として投与することができる。前記は、NRP化合物を任意の医薬的に適切な担体、アジュバント又は賦形剤と化合物を混合することを含むことができる。さらにまた、NRP化合物を他の非NRP神経保護物質、増殖物質又は他の薬剤と一緒に用いることもできる。担体、アジュバント又は賦形剤の選択は、通常はもちろん投与経路に左右されるであろう。
投与経路は広範囲に変動し得る。NRPは、種々の方法(腹腔内、静脈内又は脳室内)で投与することができる。末梢適用は、中枢神経との直接的干渉が存在しないので特に優れた方法であり得る。
当分野で公知のいずれの末梢投与経路も用いることができる。これらには非経口経路、例えば末梢循環、皮下、眼窩内、眼、脊髄内、クモ膜下槽内、局所への注射、輸液(例えば徐放性装置又はミニポンプ、例えば浸透圧ポンプ又は皮膚絆創膏を用いる)、インプラント、エーロゾル、吸入、乱刺、腹腔内、関節包内、筋肉内、鼻内、頬、肺、直腸又は膣経路が含まれる。本組成物は、上記に記載した神経学的疾患の治療を提供するために、治療的に有効な量(例えば患者の病変を排除するか又は低下させることができる量)で人間又は他の哺乳動物への非経口的投与のために処方することができる。
ある投与経路は、皮下注射(例えば0.9%塩化ナトリウムに溶解)及び経口投与(例えばカプセルで)を含む。
さらにまた、場合によってはNRP化合物を任意の適切な投与経路によって患者のCNSに直接投与することも所望できることは理解されよう。例には、側頭脳室内注射によるか又は患者の脳の側頭脳室内に外科的に挿入したシャントを介する投与が含まれる。
【0020】
NRPの治療的用量
本発明のいくつかの実施態様では、脳損傷の治療方法は、1つ以上のNRPを約0.01μg/kg体重から約100μg/kg体重の用量範囲で投与することを含む。他の実施態様では、1用量1μg/kg体重から約10μg/kg体重が有用であり得る。我々は、EAEのマウスでは約4.16μg/kgの用量が、生理食塩水のみで処置したコントロール動物と比較して運動機能に顕著な改善を示すことを見出した(実施例3参照)。さらに別の実施態様では、NRPの1用量は約0.01μg/kg体重から約0.1mg/kgの範囲であり得る。
他の実施態様では、投与されるべきNRPの有効量の決定は当業者の通常の技量の範囲内であり、当業者にとっては日常的であろう。ある種の実施態様では、使用されるべきNRPの量は、本明細書に記載するアッセイシステムを用いるin vitro実験で概算することができる。投与されるべきNRPの最終量は、投与経路、使用NRP、及び治療されるべき神経学的異常又は症状の性質に左右されるであろう。適切な用量範囲は、例えば体重1kg当たり約0.1μgから約15μgであるか、又は他の実施態様では約20μg/kgから約30μg/kg体重/日であろう。
医薬に含有させるために、NRPは通常的な方法によって直接合成することができる。前記方法は、例えばMerrifieldの段階的固相合成法(Merrifield et al. J Am Chem Soc 1963 15:2149-2154))、又はM. Goodman記載(M. Goodman (ed.) "Synthesis of Peptides and Peptidomimetics" in Methods of organic chemistry (Houben-Weyl)(Workbench Edition, E22a,b,c,d,e; 2004; Georg Thieme Verlag, Stuttgart, New York)の方法である(前記文献は参照により本明細書に含まれる)。そのようなペプチド合成方法は当分野では周知であり、例えば以下に記載されている:Fields and Colowick, 1997, Solid Phase Peptide Synthesis (Methods in Enzymology, vol 289), Academic Press, San Diego, CA(前記文献は参照により本明細書に含まれる)。また別の合成は、市販のペプチド合成装置、例えばアプライドバイオシステムズのモデル430Aの使用を含むことができる。
【0021】
一般的推奨として、非経口的に投与されるNRPの1用量当たりの医薬的に有効な総用量は、用量応答曲線によって測定することができる範囲内に存在するであろう。例えば、血中NRPは、用量決定のために、治療されるべき哺乳動物の体液で測定することができる。また別には、NRP化合物の量を増加させながら患者に投与し、NRPについて患者の血清中のレベルをチェックすることができる。これらNRPの血清レベルを基準にして用いられるべきNRPの量をモルベースで算出することができる。
この化合物の適切な投与量を決定する一つの方法は、生物学的液体(例えば体液又は血液)中のNRPレベルを測定することを含む。そのようなレベルの測定は、任意の手段(RIA及びELISAを含む)によって実施することができる。NRPレベルの測定後、前記体液を前記化合物とシングルドース又はマルチドースを用いて接触させる。この接触工程の後、体液中のNRPレベルを測定する。前記分子の投与によって所望された有効性を生じるために十分な量だけ体液中のNRPレベルが下降している場合、最大有効性を生じるように前記分子の用量を調節することができる。この方法はin vitro又はin vivoで実施することができる。この方法はin vivoで以下のように実施することができる。例えば液体を哺乳動物から抽出しNRPレベルを測定した後で、本明細書の化合物をシングルドース又はマルチドースを用いて前記動物に投与し(すなわち接触工程は哺乳動物への投与によって達成される)、続いて前記動物から抽出した液体からNRPレベルを測定する。
【0022】
NRP化合物は適切には持続的放出系によって投与される。持続放出組成物の例には、例えばフィルム又はマイクロカプセルのような成形品の形態を有する半透過性ポリマーマトリックスが含まれる。持続放出マトリックスには、ポリラクチド(米国特許3,773,919、EP58,481)、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(Langer et al. 1981)、エチレンビニルアセテート(Langer et al.上掲書)、又はポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸(EP133,988)が含まれる。持続放出組成物にはまたリポソーム結合化合物が含まれる。前記化合物を含むリポソームは、例えば以下で例証されているように当業者に公知の方法によって調製される:DE3,218,121;Hwang et al. 1980;EP52,322;EP36,676;EP88,046;EP143,949;EP142,641;日本国特許出願83-118008;米国特許4,485,045及び4,544,545;並びにEP102,324。いくつかの実施態様では、リポソームは小型の(約200から800オングストローム又は約200オングストローム)単一薄層タイプであり、脂質の内容は約30モルパーセントを超えるコレステロールで、この選択割合はもっとも効果的な治療のために調整されている。上記及び下記の両方において本明細書で引用した全ての米国特許は、引用によりそれらの全体が本明細書に含まれる。
例えばWO95/32003(1995年11月30日公開)に開示されたコンジュゲート技術を用いた、非PEG化ペプチドよりも寿命の長いPEG化ペプチドもまた用いることができる。
【0023】
いくつかの実施態様では、化合物は、一般的には、所望の純度をもつ各々を注射可能なユニット投薬形(溶液、懸濁液又は乳濁液)として、医薬的に又は非経口的に許容できる担体(すなわち用いられる投与量及び濃度で受容者に毒性がなく、さらに処方物の他の成分と適合し得る担体)とともに混合することによって処方することができる。例えば、処方物は、好ましくは酸化剤及びポリペプチドにとって有害であることが判明している他の化合物を含まない。上記用量は制限を意図していないことは理解されよう。上記の範囲外の他の用量は当業者が決定することができる。
いくつかの実施態様では、処方物は、化合物を均質に及び緊密に液性担体と、又は微細分割固形担体と、又はその両方と接触させることによって調製することができる。続いて、所望する場合には、生成物を所望の処方物に成形することができる。いくつかの実施態様では、担体は非経口的担体であるか、或いは受容者の血液と等張な溶液である。そのような担体ビヒクルの例には、水、生理食塩水、リンゲル溶液、緩衝溶液、及びデキストロース溶液が含まれる。非水性ビヒクル(例えば固定油及びオレイン酸エチル)もまた本明細書では有用である。
前記担体は、適切には少量の添加物(例えば等張性及び化学的安定性を強化する物質)を含む。そのような物質は、望ましくは用いられる投与量及び濃度で受容者に毒性がなく、さらに、例示すればバッファー、例えばリン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、酢酸及び他の有機酸、又はそれらの塩;抗酸化剤、例えばアスコルビン酸;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド、例えばポリアルギニン又はトリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン;グリシン;アミノ酸、例えばグルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジン又はアルギニン;単糖類、二糖類及び他の炭水化物(セルロース若しくはその誘導体、グルコース、マンノース、トレハロース又はデキストリンを含む);キレート剤、例えばEDTA;糖アルコール、例えばマンニトール又はソルビトール;対イオン、例えばナトリウム;非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート、ポリキサマー又はポリエチレングリコール(PEG);及び/又は中性塩、例えばNaCl、KCl、MgCl2、CaCl2などが含まれる。ある種の実施態様では、本発明のペプチドは、0.5Mのシュクロース又は0.5Mのトレハロースを用いて安定化することができる。そのような糖を用いることは本ペプチドの長期的貯蔵を可能にすることができる。
【0024】
NRP化合物は、望ましくはそのようなビヒクルでpH約6.5から約8で処方することができる。また別には、pHは約4.5から約8でもよい。前述のある種の賦形剤、担体または安定化剤の使用によって化合物の塩が形成されるであろう。最終的な調製物は安定な液体又は凍結乾燥固体であり得る。
他の実施態様では、アジュバントを用いることができる。錠剤、カプセルなどに取り込むことができる典型的なアジュバントは、結合剤、例えばアカシア、トウモロコシデンプン又はゼラチン;賦形剤、例えば微晶質セルロース;トウモロコシデンプン又はアルギン酸のような崩壊剤;滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム;甘味剤、例えばシュクロース又はラクトース;香料、例えばペパーミント、ウィンターグリーン、チェリーである。投与形がカプセルであるときは、上記物質に加えて、液状担体(例えば脂肪性油)もまた含むことができる。種々のタイプの他の物質をコーチング又は投与ユニットの物理的形態の改変物質として用いてもよい。シロップ又はエリキシルは、活性化合物、甘味剤(例えばシュクロース)、保存料(例えばプロピルパラベン)、着色料及び香料(例えばチェリー)を含むことができる。通常の製薬慣行にしたがって、注射用の無菌的組成物を処方してもよい。例えば、活性化合物のビヒクル、例えば水又は天然に存在する植物油(例えばゴマ油、落花生油又は綿実油)、又は合成脂肪性ビヒクル(例えばオレイン酸エチル又は類似物質)への溶解物又は懸濁物を所望することができる。バッファー、保存料、抗酸化剤なども、許容可能な製薬慣行にしたがって取り入れることができる。
【0025】
望ましくは、治療的投与のために用いられるNRP化合物は無菌的であるべきである。無菌性は、無菌的ろ過メンブレン(例えば約0.2ミクロンのポアサイズを有するメンブレン)でろ過することにより容易に達成することができる。治療用組成物は、一般的には無菌的にアクセスできる口をもつ容器、例えば静脈内溶液バッグ又は皮下注射針を貫通させることができるストッパー付きバイアルに入れることができる。
他の実施態様では、NRP化合物は、ユニットドース又はマルチドース容器(例えば封入アンプル又はバイアル)に、水性溶液として又は再構成用の凍結乾燥処方物として保存することができる。凍結乾燥処方物の例として、10mLバイアルに5mLの滅菌ろ過0.01%(w/v)化合物水溶液を充填し、得られた混合物を凍結乾燥する。輸液溶液は、制菌水又は他の適切な溶媒を用い凍結乾燥化合物を再構成することによって調製することができる。
さらに別の実施態様では、キットは、予め定めた量の凍結乾燥NRP、投与形の調製物のために生理学的に適合できる溶液、混合バイアル、混合装置、及び使用のための指示を含むことができる。そのようなキットは、通常の製薬慣行にしたがって製造し保存することができる。
NRP含有組成物は、1つ以上の種々の経路で投与することができる。例示すれば、静脈内、腹腔内、脳内、脳室内、吸入、洗浄、直腸、腟内、経皮、皮下投与を用いることができる。
【0026】
遺伝子治療
本発明の他の実施態様では、治療方法は生物の治療に遺伝子治療を含み、NRP化合物をコードする核酸を用いる。一般的には、遺伝子治療は生物におけるNRPレベルを増加(又は過剰発現)させるために用いることができる。ヌクレオチド配列の例には、配列番号:1−5及び7−20に示したペプチドをコードする配列が含まれる。そのようなヌクレオチド配列は遺伝コードを参照して容易に識別することができる。本発明のペプチドは比較的短いので、NRPに対するmRNAを基準にした天然の配列だけでなく、本発明のNRPに適したオープンリーディングフレームを有するいずれのヌクレオチド配列も用いることができる。読み取り鎖配列と相補的なオリゴヌクレオチドも用いることができることは理解されよう。したがって、より大きなオリゴヌクレオチドに取り込むことができる相補的な一本鎖オリゴヌクレオチド及び二重鎖オリゴヌクレオチドも用いることができる。例えば、NRPのためのオープンリーディングフレームを含むカセットの挿入は、当分野で周知の方法を用いて達成することができ、ここで詳細に記載する必要はないだろう。しかしながら、そのような方法には、Sambrook and Russelの著書(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition (2001):前記文献は参照により本明細書に含まれる)及び他の標準的な参考文献に記載された方法が含まれる。さらに別の配列を用いてプロ-NRPペプチド(切断されると生物学的に活性なNRPを生じることができる)コードすることができることは理解されよう。
【0027】
生物にNRPコード配列をトランスフェクトする適切な任意のアプローチを用いることができる。例えば、in vivo及びex vivo法を用いてもよい。in vivoデリバリーの場合、核酸(単独で又はベクター、リポソーム、沈殿物などと一緒に)を直接的に生物(例えば人間の患者)に、いくつかの実施態様では、NRP化合物の発現を所望する部位に注射することができる。ex vivo治療の場合は、生物の細胞を取り出し、これら細胞に核酸を導入し、さらにこの改変した細胞を前記生物に直接的に投与するか、又は例えば多孔性膜内に前記改変細胞を被包化しこれを患者に移植する(例えば米国特許4,892,538号及び5,283,187号を参照されたい:前記文献は参照により本明細書に含まれる)。
我々は、培養細胞がNRPを発現することができること、及びこれらのNRP発現細胞を毒性物質による損傷に感受性を有するニューロンとともにインキュベートすると、NRPが発現され、培養液中に分泌され、ニューロンを毒物による損傷から保護することができることを本明細書で示した。この驚くべき発見は、遺伝子移転及びそれに続くNRP組換え細胞の移植によって神経変性を処置する治療的アプローチを支持する。
【0028】
核酸を生細胞に導入するために利用可能な種々の技術が存在する。前記技術は、核酸がin vitroで培養細胞に移入されるか又はin vivoで意図した宿主の細胞に移入されるか否かによって異なる。核酸をin vitroで哺乳動物細胞に移入するために適切な技術は、リポソーム、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、細胞融合、DEAE-デキストラン、リン酸カルシウム沈殿法などの使用を含む。遺伝子のex vivoデリバリーのために一般的に用いられるベクターはRNAレトロウイルスである。ある種の実施態様では、in vivoの核酸移入技術は、ウイルスベクター(例えばアデノウイルス、I型単純ヘルペスウイルス又はアデノ関連ウイルス)によるトランスフェクション、及び脂質依存系(遺伝子の脂質仲介移転に有用な脂質は、例えばN-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウム(DOTMA)、ジオレオイルファチジルエタノールアミン(DOPE)及び3-β[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)カルボモイル]コレステロール(DC-Chol)である)を含む。いくつかの状況では、核酸供給源とともに核酸含有ベクターを標的細胞に誘導する物質を提供することが望ましいであろう。“標的誘導”分子の例には、標的細胞上の細胞表面膜タンパク質に特異的な抗体、標的細胞上のレセプターのためのリガンド、細菌のペネトラチン(PenetratinTM(商標))と形質膜を標的とするヌクレオチド及び/又はペプチド配列(適切な翻訳後プロセッシング及び機能的なタンパク質及びペプチドの合成に必要な他の公知の細胞性プロセスのために用いられる)との融合が含まれる。ペネトラチン(PenetratinTM(商標))1は特許を受けた16アミノ酸ペプチドであり、アンテナペディアタンパク質のホメオドメインの第三ヘリックスに対応する。このペプチドは、エネルギー非依存性メカニズムによって生物学的な膜を貫通して移動することが可能であり、共有結合させたペプチド及びオリゴヌクレオチドを内部移行させ、それらを多くの細胞タイプの細胞質及び核に運搬することができた。活性化したペネトラチン(PenetratinTM(商標))1は、チオール(-SH)官能基をもつオリゴ及びペプチドと結合する。活性化したペネトラチン(PenetratinTM(商標))1はまたビオチン化されたものが利用可能であり、適切なアビジン又はストレプトアビジン試薬を用いて検出することができる。
リポソームが用いられる実施態様では、エンドサイトーシスに関連する細胞表面膜タンパク質と結合するタンパク質を標的誘導のために利用して、摂取を促進することができる。そのようなタンパク質の例には、特定の細胞タイプに好性を示すキャプシドタンパク質及びそのフラグメント、タンパク質(循環中に内在化を経る)に対する抗体、及び細胞内局在化を標的とし細胞内半減期を延長するタンパク質が含まれる。他の実施態様では、レセプター仲介エンドサイトーシスを用いることができる。そのような方法は、例えばWuら(1987)又はWangerら(1990)の文献に記載されている。現在知られている遺伝子マーキング及び遺伝子治療プロトコルの概要についてはAnderson(1992)の文献を参照されたい。さらにまたWO93/25673及びその中の引用文献を参照されたい。上記論文及び特許出願は参照により完全に本明細書に含まれる。
キットもまた本発明の範囲内に包含される。典型的なキットは、医薬的に許容できるバッファー中に存在する1つ以上のNRP化合物を含むNRP処方物のための容器(いくつかの実施態様ではバイアル)及びこの医薬処方物を利用する使用者に指示を提供する指示書(例えば製品挿入物又はラベル)を含むことができる。
【0029】
以下の実施例は本発明のある種の実施態様を例示するために提供される。他の実施態様も容易に考案することができ、それらもなお本発明の範囲内にあることは容易に理解されよう。これら他の実施態様はいずれも本発明の部分であると考えられる。
【0030】
実施例
実施例1:小脳微小外植片の生存及び増殖に対するNRPの作用
NRPの調製
NRP-5 RG類似体D6A(配列番号:1)及びNRP-5 GG類似体D4A(配列番号:2)はオースペップ(Auspep、オーストラリア)に発注した。ペプチドは標準的な固相合成を用いて合成された。ペプチドはC-末端がアミド化されて供給され、MALDI-MSスペクトル解析によって分析したとき95%を超える純度であった。ペプチドは、使用まで0.5Mのシュクロース又は0.5Mのトレハロース中でアルゴン下-80℃で凍結乾燥させて保存した。それらはPBSで或いは100μg/mLのヒトトランスフェリン/PBSで、又は他の実施態様では100μg/mLのBSA/PBSで0.5Mシュクロース又は0.5Mトレハロースにて再構成された。
細胞培養物の調製
2つの半球の小脳皮質の薄片をP3、P4、P7又はP8ウィスターラットから外植片として取り出し、0.65%のD(+)グルコース溶液を含むGBSS中で細片に切り、さらに0.4mmゲージの注射針ですりつぶし、続いて125μmの孔サイズの篩から押出した。培養液を無血清BSA補充STARTV-培養液(Biochem)に交換するために、得られた微小外植片を2回遠心(60xg)した。最後に、この外植片を500μLのSTARTV-培養液で再構成した。培養のために、38μLの細胞懸濁液を35mmのペトリ皿中のポリ-D-リジン被覆カバースリップ上で、空気中5%のCO2及び100%の湿気を含む雰囲気下で34℃にて1時間インキュベートした。続いて、損傷用毒素(下記で説明する)、NRP及び1mLのSTARTV-培養液を添加し、培養2−3日後に前記培養を評価した。
免疫組織化学実験及びニューロン遊走実験については、小脳微小外植片を培養2−3日後に以下の手順にしたがって固定した:微小外植片を、連続的に2分間それぞれ0.4%、1.2%、3%のパラホルムアルデヒドで処理し、続いて0.1Mリン酸ナトリウム(pH7.4)中の4%パラホルムアルデヒド/0.25%グルタルアルデヒドで5分間インキュベートすることによって固定した。
【0031】
毒素誘発神経損傷に対するNRPの効果
毒素学実験及び薬剤投与実験は、1/100部の毒素及び神経保護薬を新しく調製した小脳微小外植片に同時に投与した。グルタミン酸は、MilliQ水中の50mMストック溶液として調製し、一方、50mMの3-ニトロプロピオン酸はMilliQ水中でpH調整(pH6.8−7.2)を実施した。酸化的ストレス誘発毒素、3-ニトロプロピオン酸(3-NP)、及びエキサイトトキシン、グルタミン酸のアッセイにおける濃度は、各々0.5mMであった。凍結乾燥ペプチドは、PBS又は100μg/mLのヒトトランスフェリン中で10μMのストック溶液として再構成した。続いて連続稀釈を作成した。小脳微小外植片は、空気に5%のCO2及び100%湿度で34℃にて48−72時間培養し、その後それらをパラホルムアミドの量を増加させながら固定した(0.4%、1.2%、3%及び4%、各々の処理は2−3分)。
上記に記載の毒素を用い、培養の開始時にNRPの稀釈物に(生存アッセイ)、又はNRP及び0.1μMのBrdUに(増殖アッセイ)小脳外植片を24時間暴露した。続いて、新しい毒素及びNRPを添加することなく、培養液の80%を交換した。この小脳培養を上記に記載したようにin vitroで3日後に固定した。取り込まれたBrdUレベルの検出は以前に記載したように実施した。
データ変換及び統計解析
生存の統計的解析のために、最高の細胞密度を含む各固定小脳培養の4視野(各視野は0.65mm2の面積を有する)を選択し、神経突起伸長を示す細胞を数えた(生存アッセイ)。
増殖の統計解析のためには、BrdU陽性核を数えた。統計的有意性はスチューデントt-検定によって測定した。
【0032】
結果
神経保護:
NRP-5セグメントRG類似体D6A(配列番号:1;濃度100fM)は、毒素と同時に投与されたときには、重度の損傷後に39.1%の神経保護の生存率を付与した(図1)。IGF-1のような神経保護物質は、この特定のアッセイではほぼ20%保護の救済値を達成しただけである。NRPの高い能力は注目に値する。
ニューロン増殖:
NRP-5 RG類似体D6A(配列番号:1;1pM)は、非損傷ビヒクルと比較してこれらの培養において増殖速度を顕著に高めた(図2)。NRP-5 GG類似体D4A(配列番号:2;100pM)は同様な効果を有し、増殖を高めた。両化合物は、NRPを投与されていない損傷細胞と比較したとき高度に増殖誘導性である(p<0.01)(図2)。我々は、NRP-5 RG類似体D6A及びNRP-5 GG類似体D4Aは各々ニューロン増殖を誘発し、さらにこれらのNRPは神経損傷又は神経疾患に付随する神経変性の治療に有用であり得ると結論した。
【0033】
実施例2:生理的(非損傷)条件下でのNRP仲介遊走
マウスの神経幹細胞に対する遊走誘発/化学誘引活性について、下記で述べる接触走性遊走アッセイでNRPを試験した。
方法
初期NRPコーティング:
12μmのポアサイズをもつトランスウェルプレート(Transwell plate, Corning)のコントロールウェルを1.5mLのBSA/PBSビヒクルで被覆した。残りのプレートは0.1ng/mLのNRP(配列番号:1)(10ug/mLのBSAを含むPBS中で調製)を用いて被覆した。
細胞外マトリックスコーティング:
ラミニン(7μg/mL)をマウス初代幹細胞のための細胞外マトリックス(ECM)コーティングとして用いた。このマトリックスを37℃、5%CO2にて2時間室温でインキュベートした。細胞をインサート上に播種した(30,000細胞/ウェル)。プレートを1−2日間in vitroで固定した(DIV)。
インサートのコーティング:
5ug/mLのPDL/PLL混合物(PBS中)を用いてインサートを被覆した。続いて前記インサートをMilliQ水で洗浄した。
細胞の固定:
インサートを廃棄し、ウェルをPFAの連続稀釈(0.4、1.2、3及び4%)で各稀釈に付き3−5分間固定した。前記ウェルをリンスし、さらにPFAの連続稀釈(0.4、1.2、3及び4%)で各稀釈に付き3−5分間保存した。ウェルをリンスし、計測までPBS中で保存した。神経突起伸長を示し、さらに底部チャンバーに移動した全ての細胞を遊走細胞として数えた。
結果
NRPを含まないプレートの遊走と比較して、NRP処理プレートでは55%を超える細胞が遊走した。NRP-5 RG類似体D6A(配列番号:1;0.1ng/mL)は、BSAビヒクル単独と比較して、55.4%を超えるMEB-5細胞を培養皿の底部へ遊走させた(図3A)。我々は、NRP-5 RG類似体D6Aはニューロン細胞遊走を誘発し、それらは各々、神経損傷又は神経疾患に付随する神経変性の治療に有用であり得ると結論した。
【0034】
実施例3:損傷条件下でのNRP仲介遊走
マウスの神経幹細胞に対する遊走誘発/化学誘引活性について、下記で述べる損傷条件下での接触走性遊走アッセイにおいて配列番号:1のNRPを試験した。
方法
星状細胞単層の作成:
P1(出生後1日目)のウィスター又はスプレーグ・ドーリー(SD)ラットを断頭して犠牲にした。皮質半球を取り出し、4mLのDMEMを含む別個のチューブに採集した(1皮質/チューブ)。この組織を機械的に磨り潰した。滅菌ピペットを用いて細胞を培養液中に移し、100umの細胞ろ過器から50mLの遠心管にろ過した。各チューブには50mLまでDMEMを入れた。このチューブを350xgにて5分間22℃で遠心した。細胞を40mLのDMEM+10%のFBSに再懸濁した。続いて細胞を5nMのオカダ酸(ocadaic acid)(アポトーシス細胞死を誘発することによってニューロンを除去するため)を含む12-ウェルプレートに播種し、37℃/10%CO2でボイデンチャンバーにて24時間インキュベートした。1日後に培養液+FBSを新しいDMEM+10%FBSに交換した。細胞の増殖をコンフルエントになるまで(14−18日)モニターした。
薬理学的及び機械的損傷:
単層星状細胞の損傷誘発は、星状細胞を活性化するために薬理学的物質である形質転換増殖因子β1(TGFβ1)及びそれと同時に単層の機械的スクラッチを用いて実施した。10ng/mLのTGFβ1を星状細胞単層に24時間投与した。さらに、星状細胞をメスで機械的に傷つけた(ウェルの底の端から端まで一掻き)。
前標識幹細胞の播種:
フルオレセインジアセテート標識した未分化のマウス胚神経幹細胞(NSC)をポリ-D-リジン(PDL;5μg/mL)被覆インサートに播種した。ボイデンチャンバーの下方区画には100fMのNRP-5 RG類似体D6A(配列番号:1)を加えた。
細胞固定:
インサートを廃棄し、ウェルをPFAの連続稀釈(0.4、1.2、3及び4%)で各稀釈に付き3−5分間固定した。前記ウェルをリンスし、さらにPFAの連続稀釈(0.4、1.2、3及び4%)で各稀釈に付き3−5分間保存した。ウェルを洗浄し、計測までPBS中で保存した。神経突起伸長を示し、さらに底部チャンバーに移動した全ての細胞を遊走細胞として数えた。
解析:
24時間後に蛍光によるコンピュータ処理画像化システム(Discovery-1)によって標識した細胞のうち遊走した幹細胞数を解析した。
結果
NRP-5 RG類似体D6A(配列番号:1;100fM)は、ビヒクル処理コントロールよりも多くの幹細胞(69.1%)の遊走を刺激した(図3B)。我々は、NRP-5 RG類似体D6Aはニューロン幹細胞の遊走を誘導し、このNRPは神経損傷又は神経疾患に付随する神経変性の治療に有用であり得ると結論した。
【0035】
実施例4:多発性硬化症モデルにおけるNRPの治療的及び予防的効果
NRPの治療的及び予防的効果を、ミエリン稀突起神経膠細胞糖タンパク質(MOG)によって誘発される実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)(多発性硬化症(MS)の公知の動物モデル)で調べた。
方法及び材料
動物:
雌のマウス(6−8週齢、C57Bl/6J系統、各々平均24g体重)を用いた。
NRPの調製:
NRP-5セグメントRG(配列番号:3)はアウスペップ(Auspep、オーストラリア)から供給された。前記はC-末端アミド化されたもので供給され、HPLCで決定したとき、95%を超える純度であった。配列は質量分析計で確認した。前記ペプチドは、使用までアルゴン下-80℃で凍結乾燥して保存した。ペプチドは使用の日にPBSで再構成した。他のNRPも上記のように提供された。
以下のNRPを使用した:
13-merのNRP-5セグメントRG(米国特許出願10/976,699号で開示された配列番号:30としても知られている)は、REGRRDAPGRAGG(配列番号:3)である。
25-merのNRP-4 GG(米国特許出願10/976,699号で開示された配列番号:29としても知られている)は、GTPGRAEAGGQVSPCLAASCSQAYG(配列番号:4)である。
24-merのNRP-7 SW(米国特許出願10/976,699号で開示された配列番号:24としても知られている)は、SEPEARRAPGRKGGVVCASLAADW(配列番号:5)である。
EAEの誘発:
完全フロイントアジュバント(Difco, Detrit, USA)中に200μgの脳炎誘発ペプチドMOG35-55(MEVGWYRSPFSRVVHLYRNGK;配列番号:6)を含む乳濁液200μLをC.S. Bio Co.(USA)から入手し(前記アジュバントは800μgのヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis, Difco, Detroit, USA)を含む)、一方の大腿部の皮下に注射した。マウスの腹腔内に400ngの百日咳毒素(List Biological Laboratories, USA)を直ちに、及び48時間後に再度注射した。
【0036】
処置
治療的処置:
疾患の最頂期(MOG-免疫後17日目)に、NRP-5RG(配列番号:3)を0.1μgペプチド/動物(4.16μg/kg)の日量で14日間動物の腹腔内に注射して治療した。
予防的処置:
MOG35-55による脳脊髄炎誘発チャレンジ後5日目から始めて14日間連続して、動物の腹腔内に薬剤を注射した。NRP-4 GG(配列番号:4)の用量は1ugペプチド/日で、NRP-7 SW(配列番号:5)の用量は0.2μgペプチド/日(8.33μg/kg)であった。
神経学的損傷の評価
マウスを毎日モニターし、以下のような恣意的臨床スコアを基準にして神経学的障害のスコアを記録した:0−臨床症状なし;1−尾の弛緩;2−後肢脱力;3−後肢麻痺;4−後肢脱力及び前肢脱力;5−対麻痺;6−死亡。
【0037】
結果
マウスのEAEに対するNRPの治療的効果:
疾患の最頂期に始めて連続14日間のNRPの腹腔内投与によって、処置群では平均臨床スコアが2.61から1.16に激減した。コントロール群で観察された効果は有意ではなかった(図4)。
【0038】
予防的効果:
EAEの動物では、疾患は典型的にはMOGによる免疫後10日から始まった。腹腔内注射はMOGによる免疫後5日目に開始し、18日目まで継続させた。
図5は、マウスのEAEに対する本発明の2つのNRPの効果を比較した実験の結果を示す。図5Aは、MOGによる免疫後のEAEの運動症状の進行の緩和におけるNRP-4GG(配列番号:4)の有効性を示すグラフを示している。Iは疾患の誘発を示し、Mは死亡率を示す。コントロール群では、9匹の動物の8匹が、臨床スコアの増加に反映されているように疾患の臨床症状を進行させた。NRP処置群では、発症率は10匹のうち8匹であった。両群で死亡率は0であった。
図5Bは、MOGによる免疫後のEAEの運動症状の進行の緩和におけるNRP-7SW(配列番号:5)の有効性を示す結果を示している。コントロール群の発症率は9匹のうち8匹であり、NRP処置群では9匹のうち7匹であった。EAEの進行の結果として死亡した動物はいない。
12日以降、NRP-4RGで処置した動物は、生理食塩水のみで処置したコントロール群と比較して疾患プロフィルの有意な緩和を示した(例えば運動欠陥の回復)。有意な改善は27日目(実験の最後の日)まで持続した。27日目のコントロール群の平均臨床スコアは2.0であり、NRP処置群のそれは1.0であった(図5A)。マウスNRP-7SWで処置した群では、生理食塩水のみで処置したコントロール群と比較して臨床スコアの有意な緩和が12日以降から観察された。コントロール群及びNRP処置群の平均はそれぞれ2.0及び0.5未満であった。
我々は、NRPは、脳の自己免疫疾患に付随する運動障害の治療に有用であり、ヒトの多発性硬化症の治療に有用であり得ると結論する。
【0039】
実施例5:末梢神経障害におけるNRPの効果
ヒトの末梢神経障害は、極めて大量のビタミンB6(ピリドキシン)の摂取によって開始され得る。6gまでの12−40ヶ月の経口投与によって進行性感覚神経障害が生じ、感覚運動失調、遠位肢の固有受容の低下、感覚異常、及び知覚過敏が示される(Dalton and Dalton, 1987;Foca, 1985;Schaumburg and Spencer, 1979)。続いて、Pary and Bredesen(1985)は、1日当たり200mgというわずかな量で前記症状を誘発することができ、一方、成人では推奨される毎日の摂取量は2−4mgであることを報告した。同様な作用が、高用量のピリドキシンに暴露された実験動物で観察され得る。したがって、ラットのピリドキシン誘発末梢神経障害の実験を、人間で観察される作用に直接適用することができる。特に、動物系におけるNRPの治療的有効性は、人間で観察される効果を合理的に予想させる。
したがって、我々は、ピリドキシンよって誘発された実験的末梢神経障害をもつラット(ヒトの異常の公知のモデル)でNRPの作用を調べた。ラットの実験では、8から15日間引き続いて600−700mgのピリドキシン/kg/日を腹腔内投与する投与スケジュールが用いられており、前記は、中間的ピリドキシン投薬を模倣して神経障害を与えるための技術として当技術分野で記載されている(Krinke et al. 1985;Xu et al. 1989;及びCallizot et al. 2001)。
【0040】
方法及び材料
この末梢神経障害の動物システムを用いて実施される全ての実験は、オークランド大学の動物倫理委員会(the Animal Ethics Commettee of the University of Auckland)によって承認されたプロトコルにしたがって実施された。投薬スケジュール及び運動障害の解析はCallizotら(2001)の論文にしたがって実施した。
動物:
成熟雄のスプラーグドーリーP50ラットをビヒクル群(n=9)及びNRP処置群(n=10)に分けた。ピリドキシンの最初の投与から24日でラットを過剰用量のペントバルビタール酸ナトリウムで殺した。
末梢神経障害の誘発:
1日目から全てのラットに1日2回、350mg/kgのピリドキシンを連続して8日間腹腔内に注射(IP)した。注射用ピリドキシン(Sigma)溶液は以下の割合を用いて作成した:1mLの水に95mgのピリドキシン及び重炭酸ナトリウム41mg。
薬剤処置:
1日目から10日目までビヒクル群(n=9)には24mMのシュクロースを毎日1回IP-注射し、NRP-処置群(n=10)ラットには4μg/kgのNRP-5セグメントGG類似体D4A(GRRAAPGRAGG-NH2;配列番号:2)(24mMシュクロースで稀釈)を投与した。凍結乾燥NRPはシュクロース或いはトレハロースの存在下で室温で保存した。腹腔注射(i.p.)毎に、NRP-5セグメントGG類似体D4Aを0.5Mシュクロース/トレハロース含有100μMペプチド濃度に再構成し、続いて実際の作業溶液、0.5μg/mLのNRP-5セグメントGG類似体D4A(24mMのシュクロースを含む)にPBSで稀釈した。250gの体重のラットに200μLの作業溶液を注射した。
【0041】
ピリドキシン処置後の体重減少の分析:
24日の実験期間中、動物の体重を毎日測定した。実験プロトコルにしたがい、体重の15%を超える体重減少を示した動物は直ちに殺した。コントロール動物の1匹をピリドキシン処置の4日目に殺した(コントロールn=9)。
ピリドキシン処置後の運動障害の分析:
全体的な運動障害は各ラットの歩調を以下のように評価することによって分析した:1)平坦表面上の歩行、及び2)木製ビームを渡る能力。この試験はピリドキシン注射後8、10、13、15、17、20及び24日目に実施した。
平坦表面に置いたときの動物の身体的動き:
特に動物の歩行に全く問題がなければ、前記動物のスコアを“0”とした。その歩調に外見的に問題があるようであれば、動物を上昇させた木製ビーム上に置いた。ビーム上に置いたとき動物が平衡を取ることに困難を示したならば、スコア“1”を与えた。動物が平坦な表面で後肢を腹部の下で縮める代わりに斜めに広げ、明らかにもがきながら歩こうとする場合は、スコアを“2”とした。ラットが重度の脱力、不動性を示すか、又は側面横臥の状態で横たわる場合は、この動物にスコア“3”を与えた。二方向ANOVAとそれに続くボンフェローニ(Bonferroni)後試験を統計解析に用いた。
【0042】
後肢内転試験:
各ラットがその後肢を内転させる(その足を体幹近くに維持する)能力を評価することによって、全体的な運動障害を分析した。ピリドキシン中毒によって動物はその足の位置が認識不能になる。この試験の際、各ラットは平坦表面の上方に垂直位に保持され、その後肢のフットパッドが表面に触れるようにゆっくりと下ろした。正常なラットは、両後肢による表面との接触を維持しようとして下方に向かって蹴ろうとし、即座に両後肢を体幹に引き寄せる(内転)であろう。これらの動物には“0”のスコアを与えた。わずかな遅延の後で両後肢を引き寄せたラットはスコアを“1”とした。表面と接触した後で一方の足のみを体幹に引き寄せるか、又は断続的態様で応答(一側性)したラットはスコアを“2”とし、最後に後肢を体幹に引き寄せることができなかったラットはスコアを“3”とした。試験は、8、10、13、15、17、20及び24日目に実施した。
ビーム歩行評価:
ビーム上の正確歩行試験を用いて、動物の協調運動を13、17及び24日目に評価した。簡単に記せば、ピリドキシン処置の前に、1日1回7日間動物を1.5mの長さのビーム上で慣らした(前記ビームは、ビームの中央を示す縦に2本の筋を有する)。0日目(ピリドキシン/NRP処置の1日前)にビーム上の運動行動の基準をビデオテープに収めた。13、17及び24日目に、動物をビーム上での7歩歩行に付し、以下の等級にしたがって各一歩についてスコアを付けた:スコア1−前記中央線上に肢を置く;スコア2−前記線の上部に肢を置く;スコア3−前記線の下部に肢を置く;スコア4−線の下に肢を置く。全スコアを7歩の歩行について加算し、ある時点での1被検動物についての合計スコアを示した。被検ラットがビーム上に立つことができるだけで歩くことができない場合はスコアを30とし、ビーム上に立つことができない場合にはスコアを32とした。
【0043】
結果
体重減少:
8日目(ピリドキシン処置終了)から21日目まで、NRP処置動物(NRP-5 GG類似体D4A(GRRAAPGRAGG-NH2;配列番号:2)の体重は、ビヒクル処置群の体重より有意に高かった(図6)。NRP処置動物(1日目の体重の96.3+1.2%)では、ピリドキシン処置の結果として体重減少が最高となる10日目のビヒクル群(1日目の体重の90.4%+1.2%)ほど体重は減少しなかった。最初の3.7%の体重減少の回復は、コントロール動物よりNRP処置群ではるかに迅速であった。21日目より後ではNRP処置群はビヒクル群より多くの体重を獲得する傾向にあった。
運動障害:
NRP処置群では運動障害スコアの極めて有意な低下が観察された。13日目の疾患のピーク時には、NRP処置群は実験を通して明白な困難さを示さないか、又はわずかな脱力を示しただけであるが(スコア:0.60+0.52)、コントロール群の全動物が障害された(スコア:1.44+0.53)。24日目には、NRP処置群の全動物が回復した(図7)。
後肢内転:
ビヒクル処置動物は、疾患最頂期(13日目から15日目の間)に後肢の遅延内転及び即時内転を示した(図8)。NRP-5GG類似体D4A(配列番号:2)で処置した動物は、内転行動を示さないか、又は断続的内転行動のみを示した。実験終了時に、NRP処置群の10匹の動物のうち9匹がマニュアル操作後に後肢内転症状を示さなかったが(スコア0.10+0.31)、コントロール群ではなお断続的内転の症状を示した(0.88+0.78)。後肢内転試験スコアにおける両群間の相違はきわめて有意であった。有意性は二方向ANOVAで解析した。
ビーム歩行:
13日目にはコントロール群の動物でビーム上に立てないものはいなかったが(32.00+0.00)、10匹のNRP(NRP-5GG 類似体D4A;配列番号:2)処置ラットのうち6匹は7歩歩行を達成した(スコア:23.50+2.46)。17日目には、1匹を除く全NRP処置動物が前記歩行を達成した(21.70+1.43)。対照的に、9匹のコントロール動物の6匹がなおビーム上で立つことができなかった(30.78±0.78)(図9)。24日目には、ビヒクル群とNRP処置群との間にはもはや有意さはなかった。二方向ANOVAとそれに続くボンフェローニー後試験を統計解析に用いた。
結論
我々は、NRPは末梢ニューロンの変性又は細胞死を防ぐか又は緩和することができ、種々の形態の末梢神経障害の予防又は治療に有効であると結論した。
【0044】
実施例6:トロホブラストの遊走、生存及び増殖に対するNRPの作用
方法及び材料
オークランド大学の倫理委員会(the Ethics Committee of the University of Auckland)の事前の承認および患者の同意を得て、ヒトトロホブラスト細胞を満期胎盤から単離した。母体の脱落膜を除去し、胎盤の絨毛性内側を露出させた。絨毛組織片を切り出し、PBSで十分に洗浄した後、0.25%トリプシンを用いて消化した。続いて、消化物をロックリンゲルバッファー及びDNAase I中で稀釈した。胎盤細胞の周囲の結合組織の消化は、磁石攪拌装置を用いて混合物を37℃で攪拌しながら実施した。このプロセスを8回繰り返し、最後の6回の上清をウシ胎児血清(FBS)を含むビンに採集した。この消化工程によって不均質な分散細胞調製物が生成された。プールした上清を1200rpmで7分間遠心した。細胞ペレットをPBSに再懸濁し遠心した。この後、赤血球溶解バッファー中で10分インキュベーションを実施し(最後の2分間ではFBS下層を含む)、続いて7分間遠心した。細胞をM199培養液に再懸濁し、再度遠心した。
続いて、細胞をパーコール勾配(5、20、30、35、40、50及び60%)を用いて精製した。前記勾配は、底に60%のパーコールを用い、勾配の最上部近くまで濃度を減少させながら調製した。細胞を5%のパーコール層に導入した。この細胞を20分間1200Gで遠心し、40%パーコールバンドにトロホブラストのバンドを残して、トロホブラストを残屑及び他の細胞タイプから分離した。
【0045】
細胞株
試薬:
ダルベッコーの改変イーグル培養液(DMEM;10566-016)、F-12栄養混合物(ham;11765-062)、ウシ胎児血清(FBS;10091-148)、トリプシン(25300-054)、及びPBS(14040-182)はインビトロゲン(Invitrogen, California, USA)から購入した。
バッファー及び溶液:
細胞培養液:10%FBS補充DMEM/F-12
細胞培養:
絨毛癌細胞(Jeg-3, BeWo and Jar; ATCC)を、同様な条件下でDMEM/F-12細胞培養液中でフィルタートップ付きの75cm2のフラスコ(Raylab)にて培養した。細胞を付着させ、95%/5%の空気/CO2で平衡させたインキュベーターでほぼ70%のコンフルエンシーまで増殖させてから、1xの濃度のトリプシン-EDTAを2mL添加することによって2から3日毎に分割した。1100rpmで5分間の遠心工程後、細胞を無菌的な組織培養フラスコ中の15mLの新しいDMEM/F-12に再懸濁し、前記インキュベーターに戻した。
【0046】
実験1:接触走性遊走アッセイ
接触走性遊走アッセイは、米国特許出願10/976,699(前記文献は参照により本明細書に含まれる)に記載のように用いた。
ボイデンチャンバーアッセイ:
NRPのトロホブラストに対する化学誘引作用を調べるために、細胞を12ウェルのボイデンチャンバー(トランスウェルプレート;Biolab)のインサート内に加えた。この場合、チャンバーは底部、側面及び底部の上方の多孔性膜インサートを有する。前記インサートの膜は、細胞が単に重力のために通過することができないような十分に小さな孔を有する。したがって、膜の下及びチャンバーの底から上方に間隙が存在する。培養液は、膜の上方レベルまで満たされるように加えられ、細胞は膜の上方のチャンバー部分に加えられる。膜の孔を通過して遊走する細胞は膜とチャンバーの底との間の間隙に侵入する。
コントロール条件下では、チャンバーの底は仮定的化学誘引物質で予め被覆されてはいない。試験条件下では、チャンバーの底には仮定的化学誘引物質が被覆されている(又は配置されている)。脱付着及びその後の化学誘引物質の培養液中への拡散によって、チャンバーの底から遠くへ向かって濃度減少勾配が生じる。化学誘引物質は膜の孔から拡散することができ、それによって生物学的に検出可能な濃度が膜の孔の内部及び膜の上部に生じる。ボイデンチャンバーの最上部に置かれた感受性細胞は、化学誘引物質の濃度勾配に反応することができ、膜の孔を通過しチャンバーの底へと遊走し、前記細胞はチャンバーの底部表面に付着することができる。そのような細胞は、RNA/DNAインターカレート剤(“染料”、例えば蛍光性生染色Syto24TM、又はフルオレセインジアセテート(FDA)としても知られている)を用い又は前記を用いずに顕微鏡法で同定することができるが、さらに蛍光顕微鏡法を用いて同定してもよい。非感受性細胞は化学誘引物質と反応せず、チャンバーの底へ遊走しない。したがって遊走細胞数を定量することができる。
蛍光生染色を適用して検出したとき、蛍光細胞は、ラミニン被覆マトリックス上のボイデンチャンバーの底に22時間以内に付着した。
【0047】
方法
初期NRPコーティング:
12μmのポアサイズをもつトランスウェル(商標)(TranswellTM)プレート(Corning)のコントロールウェルを1.5mLのウシ血清アルブミン/リン酸緩衝食塩水(BSA/PBS)ビヒクルで被覆した。残余のプレートは種々の濃度のNRP-5RG D6A類似体(配列番号:1;10ug/mLのBSAを含むPBS中で調製した0.1ng/mL)を用いて被覆した。続いてプレートを被覆のために37℃で1時間インキュベートした。続いてウェルを1mLの無菌的PBSで2回リンスした。
細胞外マトリックスコーティング:
ラミニン(7μg/mL)をトロホブラストのための細胞外マトリックス(ECM)コーティングとして用いた。すべてのECM化合物はPBSで稀釈した。ウェル当たり1.5mLのECMを室温で2時間インキュベートした。続いてウェルを、1mLの無血清培養液(例えばNB/B27)で1回洗浄し、続いて1mLのPBSでリンスした。
インサートのコーティング:
5ug/mLのPDL (ポリ-D-リジン)/PLL (ポリ-L-リジン)混合物(PBS中)を用いてインサートを被覆した。続いて、前記インサートを蒸留した脱イオン(“MilliQTM”)水でリンスした。
培養液への移転及び細胞播種:
適切な培養液を前記12ウェルプレートに移した。続いてこのプレートを37℃、5%CO2でインキュベートし、100fMのNRP-5RG D6A(配列番号:1)の存在下で前記インサートに50,000細胞を播種した。20時間後に、細胞を0.1μg/mLのSyto24とともに2時間インキュベートした。この後前記プレートを固定した。
固定:
インサートを廃棄し、ウェルをパラホルムアルデヒド(PFA)の連続稀釈(0.4、1.2、3及び4%)中で各稀釈につき3−5分固定した。前記ウェルをリンスし、さらにPFAの連続稀釈(0.4、1.2、3及び4%)で各稀釈に付き3−5分間保存した。ウェルを洗浄し、計測までPBS中で保存した。神経突起伸長を示し、さらに底部チャンバーに移動した全ての細胞を遊走細胞として数えた。
結果
NRPの処置は、高度に精製したトロホブラスト濃縮初代ヒト分娩胎盤組織分画に由来する遊走細胞の95%の増加をもたらした。
【0048】
実験2:トロホブラスト生存アッセイ
この実験シリーズでは、我々は、NRP-5RG D6Aは精製初代胎盤トロホブラストをTNF-アルファ仲介損傷から保護することができるか否かを調べた。
1.単離トロホブラストにおけるTNF-アルファ誘発細胞傷害性に対するNRPの効果
この実験では、我々は、30,000の新しく単離したトロホブラスト細胞をマイクロタイターウェルプレートの各ウェルにプレートし、続いて24時間NRP-5RG D6A(配列番号:1)とともに前インキュベーションを実施した。さらに、我々は、TNF-アルファ(5ng/mL;“低損傷”又は50ng/mL;“高損傷”)及びインターフェロンガンマ(100IU/100μL)による48時間損傷を導入した。細胞生存の分析結果は図11に示されている。
図11は、精製初代胎盤トロホブラストとNRP-5類似体D6A(配列番号:1)との24時間の前インキュベーションは、用量依存態様でTNF-アルファ仲介損傷から細胞を保護し、1pMの濃度で100%保護がもたらされることを示している。10pMの濃度では、NRPは保護性であるが、高濃度(1nM)では、NRPの作用は統計的に有意ではなかった。この効果は、TNF-アルファ毒素の2つの別個の適用濃度で非常に強い。
【0049】
2.不死化トロホブラスト細胞株におけるTNF-アルファ誘発細胞傷害性に対するNRPの効果
この実験では、我々は、ウェル当たり50,000のJAr細胞をプレートした。JAr細胞は、ヒト絨毛癌細胞に由来する細胞の不死化株である。ウェルを2時間、図12に表示の濃度でNRP-5RG D6A(配列番号:1)と、又は上皮増殖因子(EGF;5ng/mL)と前インキュベートした。続いて、細胞をTNF-アルファ(5ng/mL)及びインターフェロンガンマ(5ng/mL)に48時間暴露してストレスを誘発した。結果は図12に示されている。
図12は、EGF単独では、TNF-アルファ誘発細胞傷害性からJAr細胞を救済するためには弱い効果しか持たないことを示している。内部コントロールとして、我々は増殖誘導ペプチドEGFを用い、この実験条件下で細胞は公知の増殖物質に反応することができることを示した。我々は、EGFはTNF-アルファ損傷の非存在下ではトロホブラストの増殖を刺激することを示した。EGFの救済効果の欠如とは対照的に、我々は、予想に反してNRP-5RG D6A(配列番号:1)は濃度依存態様で救済効果をもたらすことを見出した。顕著な効果が10fMの濃度で観察され、最大効果は約1pMから約100pMの濃度で観察された。更なる濃度の増加(1nMまで)は救済効果を低下させた。
【0050】
実験3.トロホブラスト増殖アッセイ
細胞増殖はBrdUの取り込みによって決定し、トロホブラストの増殖に対するNRP-5RG D6Aの効果を調べた。EGFはトロホブラスト増殖強化に役割を果たすことが以前の実験(Maruo et al. 1992)で示されているので、EGF(0.8x10-9M)を陽性コントロールとして用いた。
最初に細胞をNRP-5RG D6A(配列番号:1)、EGF及びBrdU(0.05μM)で72時間処理した。BrdUは長期のインキュベーションで有毒であるので、最初の24時間後に80%の培養液を取り出した。72時間のインキュベーションに続いて、4%PFAで固定することによって反応を停止させた。しかしながら、この実験設計では、ほとんどのトロホブラストは72時間終了時までに合胞体を形成し、NRP-5RG D6Aのトロホブラストに対する増殖作用の正確な調査が妨害されるであろう。したがって、この実験設計を改変し、細胞を処理後24時間で固定した。これによって単核トロホブラストの増殖解析が可能になった。
初代ヒトトロホブラストのNRP-5RG D6Aによる処理は、10-14Mでトロホブラスト増殖の有意な増加をもたらした(図13)。NRP-5RG D6Aは、10-14Mで183.3±50.2%のトロホブラスト増殖増加をもたらし、一方、10-13Mではコントロールと比較して増殖増加は観察されなかった。より高濃度を同様に調べたが、10-14M以外のいずれのNRP-5RG D6A濃度でも増殖作用は検出されなかった(データは示さず)。EGFは、コントロールと比較してトロホブラスト増殖を116.7±44%増加させた。
結果
BrdU取込によるDNA合成評価により、NRP-5RG D6Aは10-14Mでトロホブラスト増殖の有意な増加をもたらすことが明らかになった。陽性コントロールとしてEGF(0.8x10-9M)を用い、トロホブラスト増殖の有意な増加が示された。細胞増殖は、0.05μMのBrdU、NRP-5RG D6A及びEGFで処理した培養液(1%血清)中に1.3x105細胞/cm2を播種した後24時間にわたって調べた(図13)。
【0051】
本発明をその固有の実施態様を参照しながら説明した。当業者は本明細書の開示及び教示を基にして他の実施態様を開発することができる。そのような実施態様はいずれも本発明の部分と考えられる。本明細書に引用した全ての参考文献は参照により完全に本明細書に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】NRP-5セグメントRG類似体D6A(配列番号:1)によるニューロンの生存及び増殖誘導を示す。図1は、0.1fMから100nMの広い投薬範囲にわたるNRP-5セグメントRG類似体D6Aの神経保護活性における効果を示す。スチューデントt-検定を統計解析に用いた(***p<0.001、N=4)。
【図2】NRP-5セグメントGG類似体D4A(配列番号:2)及びNRP-5セグメントRG類似体D6A(配列番号:1)の小脳細胞内での増殖誘導能力を示す。スチューデントt-検定を統計解析に用いた(*p<0.02、N=8)。
【図3A】NRPによるニューロン遊走誘発の実験結果のグラフを示す。図3Aは、NRP-5セグメントRG類似体D6A(配列番号:1)は、接触走性遊走アッセイを用いて示されるように、生理学的(非損傷)条件下でニューロン幹細胞(“NCS”)の誘引において化学誘引特性を示すことを示している。55.4%を超える細胞がNRP条件下で遊走していた。スチューデントt-検定を統計解析に用いた(**p<0.01、N=6)。
【図3B】NRPによるニューロン遊走誘発の実験結果のグラフを示す。図3Bは、NRP-5セグメントRG類似体D6A(配列番号:1)は、活性化した星状膠細胞単層(CNS損傷条件に類似する条件である(それらはSCI時に生じるので))への遊走を促進することを示す。69.1%を超える幹細胞がNRP条件下で遊走した。スチューデントt-検定を統計解析に用いた(***p<0.001、N=5)。
【図4】疾患のピーク時に投与されたとき、EAEのMS疾患モデルで生じる運動障害の重篤度を低下させるNRP-5セグメントRG(配列番号:3)の顕著な長期的潜在能力を示す。スコア1は最低スコアであり尾の弛緩のみを含み、一方、最高スコアは脆弱(スコア2)又は後肢の完全な麻痺(スコア3)を含む。クルスカル-ウォリス(Kruskal-Wallis)試験を統計解析に用いた(**p=0.01、N=9)。
【図5A】動物モデルの実験的アレルギー脳炎(EAE)の副作用の軽減におけるNRP-4GG(配列番号:4)の有効性を示す。
【図5B】動物モデルの実験的アレルギー脳炎(EAE)の副作用の軽減におけるNRP-7SW(配列番号:5)の有効性を示す。
【図6】ピリドキシン損傷後の実験時間枠中のビヒクル処理(n=9)及びNRP処理群(n=10)の平均体重を示す。二方向ANOVAテストをデータの統計解析に用いた(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
【図7】ピリドキシン処理後、実験8、10、13、15、17、20及び24日目に実施した運動評価試験の結果を示す。ボンフェローニー後テスト(Bonferroni posttest)を含む二方向ANOVAテストをデータの統計解析に用いた(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
【図8】ピリドキシン処理後、実験8、10、13、15、17、20及び24日目に実施した後肢内転行動試験の結果を示す。二方向ANOVAテストをデータの統計解析に用いた(***p<0.001)。
【図9】実験0、13、17及び24日目に実施した精密ビーム歩行試験の結果を示す。ボンフェローニー後テストを伴う二方向ANOVAテストを統計解析に用いた(**p<0.01、***p<0.001)。
【図10】ボイデンチャンバーアッセイにNRPを適用することによって、ヒト初代トロホブラストの遊走を顕著に強化することができることを示す。ボンフェローニー後テストを含む一方向ANOVAをデータの統計解析に用いた(**p=0.0016)。
【図11】TNFα仲介ヒトトロホブラスト細胞障害は、NRPとの前インキュベーションによって防ぐことができることを示す。ボンフェローニー後テストを含む一方向ANOVAをデータの統計解析に用いた(*p<0.05、**p<0.01)。
【図12】TNFα仲介ヒトトロホブラスト絨毛癌JAR細胞株仲介細胞障害は、NRPとの前インキュベーションによって用量依存態様で防ぐことができることを示す。ボンフェローニー後テストを含む一方向ANOVAをデータの統計解析に用いた(*p<0.05、**p<0.01)。
【図13】NRP-5 RG類似体D6A(配列番号:1)は、10-14Mでトロホブラスト増殖の顕著な増加をもたらすことを示す。提示のデータは、1つの実験に由来するプールした複製物の(n=4)の平均百分率値±SEM(コントロールに対して標準化)である(*p<0.05、**p<0.01、ポストhoc試験としてボンフェローニーを用いる一方向ANOVA)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経細胞及びトロホブラスト細胞の遊走、増殖、生存、分化、及び/又は成長を促進するオリゴヌクレオチド及びペプチドの組成物及び前記の使用方法を目的とする。より具体的には、本発明は、そのようなペプチドの脳損傷、神経変性疾患及び/又は産科合併症における使用を目的とする。
【背景技術】
【0002】
関連技術
軽度から重度の外傷性脳損傷(TBI)、限局性又は広汎性虚血、並びに神経学的傷害及び異常は、傷害後短時間の顕著な神経細胞喪失及び脳機能低下をもたらし得る。現在のところ、疾患によって引き起こされる頭部の損傷又は傷害の結果として脳内で生じる細胞死を防ぐために利用可能な処置はほとんど存在しない。今日まで、神経機能を回復させるために利用可能な処置もまたほとんど存在しない。慢性神経変性疾患、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、及び多発性硬化症のために現時点で利用可能な治療は対症療法のみである。これまでのところ、疾患プロセスに介入するために、又は細胞死を防ぐために利用可能な薬剤はほとんど存在しない。同様に、トロホブラストの生存を含む、産科合併症の予防又は治療に利用可能な処置もほとんど存在しない。
これらの要求に応えるために、本発明者ら及び他の研究者らは、神経細胞の遊走、増殖、生存、分化、及び/又は神経突起伸長を促進するオリゴヌクレオチド及びペプチド(NRP)を以前に発見しこれらを報告した(米国特許出願10/225,838及び米国特許出願10/976,699号、前記文献は引用により本明細書に含まれる)。
しかしながら、本分野では、新規なNRPを同定し、急性及び慢性神経学的異常並びにトロホブラスト細胞の異常のための新規な治療法を見出すことがなお希求されている。
【発明の開示】
【0003】
発明の概要
本発明の実施態様は新規な神経再生ペプチド(NRP)を含む。本発明の他の実施態様は、神経細胞の遊走、神経突起伸長、神経細胞の増殖、神経分化、神経細胞の生存、及び/又はトロホブラストの増殖、遊走及び生存を促進するために、新規なNRPを使用する方法を含む。
本発明のまた別の実施態様は、末梢ニューロンの変性又は死滅の防止にNRPを使用する方法を含む。
本発明のさらに別の実施態様は、子癇前症、HELLP又はIUGRの治療でNRPを使用する方法を含む。そのような実施態様は、トロホブラストの遊走又は生存を誘発することができるペプチドを含む。本発明の他の実施態様は、TNF-アルファ-及びインターフェロン-ガンマ-誘発損傷を、胎盤のトロホブラスト細胞及び胎盤細胞株の両方においてin vitroで減少させるためにNRPを使用する方法を含み、前記方法は産科合併症の治療にNRPを適切なものにする。
さらに別の実施態様は脳の自己免疫性障害の治療にNRPを使用することを含む。
本発明はその具体的な実施態様の説明によって開示される。本発明の実施態様の他の目的、特徴、及び利点は詳細な説明及び図面から明らかとなろう。
【0004】
詳細な説明
本発明の実施態様は、以下の文献に以前に開示された神経再生ペプチド(NRP)の使用を含む:米国特許出願:10/225,838(“Neural Regeneration Peptides and Methods for Their Use in Treatment of Brain Damage”)(2002年8月22日出願;公開番号:US2003/0211990);米国特許出願:10/976,699(“Neural Regeneration Peptides and Methods for Their Use in Treatment of Brain Damage”)(2004年10月29日出願);米国特許出願60/678,302(“Neural Regeneration Peptides and Methods for Their Use in Preventing Obstetric Complications”)(2005年5月6日出願);米国特許出願60/699,642(“Neural Regeneration Peptides and Antioxidants Protect Neurons From Degeneration”)(2005年7月15日出願);米国特許出願60/714,916(“Neural Regeneration Peptides and Antioxidants Protect Neurons From Degeneration”)(2005年9月7日出願);米国特許出願60/726,904(”Neural Regeneration Peptides and Methods for Their Use in Treatment of Autoimmune Disorders of the Brain”)(2005年10月14日出願);PCT国際特許出願:PCT/US02/26782(“Neural Regeneration Peptides and Methods for Their Use in Treatment of Brain Damage”)(2002年8月22日出願;公開番号:WO03/018754);及びPCT/US2004/036203(“Neural Regeneration Peptides and Methods for Their Use in Treatment of Brain Damage”)(2004年11月1日出願;公開番号:WO2005/042,561)(前記文献はいずれもニューロン及び他の細胞タイプの変性又は死滅防止を目的とする)。前述の特許出願の各々は参照により完全に本明細書に含まれる。
【0005】
定義
“ホモログ”という用語には、1つ以上の遺伝子であって、その遺伝子配列が、進化的関係(種間(オルソログ)又は種内(パラログ)における進化的関係)のために顕著な関連性を有するものが含まれる。ホモログはまた、共通の先祖DNA配列から伝えられることによって関係を有する遺伝子を含む。ホモログはまた、種の形成事象によって分離された遺伝子間の関係、又は遺伝子重複事象による遺伝子間の関係(パラログ参照)を含む。本明細書で用いられる、“ホモログ”という用語はまた、進化的関係によって互いに関連する遺伝子生成物を含む。保存されたアミノ酸配列ドメインをもつNRPはホモログの例である。
“パラログ”という用語は、遺伝子重複の結果として互いに枝分かれした相同な一組の遺伝子の1つを含む。例えば、マウスのアルファグロビンとベータグロビン遺伝子はパラログである。本明細書で用いられる、“パラログ”という用語はまた、進化的関係によって互いに関連する遺伝子生成物を含む。保存されたアミノ酸配列ドメインをもつヒトNRPはパラログの例である。
“オルソログ”という用語は、種の形成の結果として互いに枝分かれした相同な一組の遺伝子の1つを含む。例えば、マウスとニワトリのアルファグロビン遺伝子はオルソログである。本明細書で用いられる、“オルソログ”という用語はまた、進化的関係によって互いに関連する遺伝子生成物を含む。保存されたアミノ酸配列ドメインをもつヒトNRPとマウスNRPはホモログの例である。
“パラログペプチド”という用語はパラログヌクレオチド配列によってコードされるペプチドを含む。
“ペプチド”及び“タンパク質”という用語はアミノ酸で構成されたポリマーを含む。
“プロドラッグ”という用語にはプロペプチド含む分子が含まれ、プロペプチドは、酵素的、代謝的又は他のプロセッシングの後で活性なNRP、活性なNRP類似体又はNRPパラログを生じる。
“NRP化合物”という用語は、NRP、NRPホモログ、NRPパラログ、NRPオルソログ、NRP類似体、及びNRPプロドラッグを含む。
【0006】
“NRP”という用語は、進化的関係とは無関係に、神経遊走、ニューロブラスト遊走、神経増殖、ニューロン分化、ニューロン生存及び神経突起伸長の1つ以上を含む機能を有するペプチドを含む。NRPという用語はまた本明細書に定義する配列を有するペプチドをさす。“配列”又は“配列番号:”はC-末端OHペプチド及びC-末端アミド化ペプチドの両方を含むことは理解されよう。
アミノ酸は以下のとおり標準的な記号で表される:アラニンは“A”又は“Ala”で、アルギニンは“R”又は“Arg”で、アスパラギンは“N”又は“Asn”で、アスパラギン酸は“D”又は“Asp”で、システインは“C”又は“Cys”で、グルタミン酸は“E”又は“Glu”で、グルタミンは“Q”又は“Gln”で、グリシンは“G”又は“Gly”で、ヒスチジンは“H”又は“His”で、イソロイシンは“I”又は“Ile”で、ロイシンは“L”又は“Leu”で、リジンは“K”又は“Lys”で、メチオニンは“M”又は“Met”で、フェニルアラニンは“F”又は“Phe”で、プロリンは“P”又は“Pro”で、セリンは“S”又は“Ser”で、スレオニンは“T”又は“Thr”で、トリプトファンは“W”又は“Trp”で、チロシンは“Y”又は“Tyr”で、さらにバリンは“V”又は“Val”で表される。カルボキシ末端がアミド化されたペプチドは-NH2で表される。
【0007】
“疾患”は動物のCNS又は末梢神経系の健康的でない状態を含み、特にパーキンソン病、レーヴィー小体、ハンチントン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、運動ニューロン疾患、筋ジストロフィー、末梢神経障害、神経の代謝障害(グリコゲン貯蔵疾患を含む)が含まれる。
“傷害”には脳又は他の細胞を変性させるか又は死滅させる任意の疾患又は損傷が含まれる。
“損傷”は動物の任意の急性障害を含み、特に卒中、外傷性脳損傷、低酸素症、虚血、胎児仮死(例えば胎盤剥離、臍帯閉鎖に続くか又は子宮内発育遅延に付随する)に付随する周産期仮死、適切な蘇生又は呼吸の失敗に付随する周産期仮死、重篤なCNS傷害(溺死寸前、突然死寸前、一酸化炭素吸入、アンモニア又は他のガスの中毒に付随する)、心停止、昏睡、髄膜炎、低血糖症及びてんかん重積持続状態、冠状動脈バイパス手術に付随する大脳仮死エピソード、低血圧エピソード及び高血圧クリーゼ、大脳外傷、及び脊髄損傷が含まれる。
【0008】
具体的な実施態様の説明
本発明のある種の実施態様は脳障害の治療のための組成物及び方法を含み、前記方法は神経再生ペプチド(NRP)を当該治療の必要のある哺乳動物に投与することを含む。
NRPは、1つ以上のペプチドドメインの存在を特徴とし、前記ドメインは[A]PG[R,S]ドメイン、例えばAPGS、APG、APGR、APGS、PGR又はPGSを含む。さらにまた、NRPは他のドメイン(ARG、ARR、C-末端GGドメイン、[A,G]RRドメイン(ARR又はGRRドメインを含む)を有することができる。NRPはまたPEドメインを有することができる。したがって、NRPは1つ以上の上記のドメインを有することができる。
一連のNRPが米国特許出願10/225,838及び10/976,699に記載された。これらのNRPの1つ、NRP-5(米国特許出願10/976,669では配列番号:11)は、一文字アミノ酸配列REGRRDAPGRAGG(米国特許出願10/976,669では配列番号:30で、さらにまた“NRP-5RG”と称される)を含み、新規な13-merのNRP類似体の開発に用いられた。前記新規な類似体は、アミノ酸配列REGRRAAPGRAGG(配列番号:1、“NRR-5RG D6A”又は“NRP-5RG類似体D6A”とも称される)を有し、REGRRAAPGRAGG-NH2(配列番号:1)を含む。配列番号:1はGRRドメイン、APGRドメイン及びC-末端GGドメインを有する。
本発明の別の実施態様は、NRP-5(米国特許出願10/976,669では配列番号:11)の11-mer類似体であり、本明細書ではNRP-5セグメントGG類似体D4Aと名付けられ、以下の配列を有する:GRRAAPGRAGG-NH2(配列番号:2)。配列番号:2はGRRドメイン、APGRドメイン及びC-末端GGドメインを有する。
本発明のさらに別の実施態様は、脳の自己免疫性障害(多発性硬化症を含む)から生じる機能的な神経学的欠陥の治療にNRPを使用することを含む。これらの実施態様のある種のものでは、いくつかのNRPが有効であることが見出された。
【0009】
13-merのNRP-5セグメントRG(米国特許出願10/976,669で開示された配列番号:30としてもまた知られている)はREGRRDAPGRAGG(配列番号:3)である。配列番号:1及び配列番号:2に関しては、配列番号:3はGRPドメイン、APGRドメイン及びC-末端GGドメインを有する。
さらにまた、本明細書では25-merのNRP-4 GGと称されるNRP(米国特許出願10/976,669で開示された配列番号:29としてもまた知られている)は、GTPGRAEAGGQVSPCLAASCSQAYG(配列番号:4)である。
24-merのNRP-7 SW(米国特許出願10/976,669では配列番号:24としてもまた知られている)は、SEPEARRAPGRKGGVVCASLAADW(配列番号:5)であり、有用である。
我々は、ヒトの異常である多発性硬化症のモデルとして周知の実験的自己免疫脳炎(EAE)誘発マウスに対するNRPの影響を調べた。EAEを発症させるために、200μgの脳炎誘発性ペプチドMOG35-55(MEVGWYRSPFSRVVHLYRNGK)を含む乳濁液200μLを用いた。
【0010】
本発明のさらに別のNRPには以下が含まれる:
RRAPGSLHPCLAASCSAAG 配列番号:7
DKPEARRAPGS 配列番号:8
GTPGRAEAGGQVSPCLAASCSQAYG 配列番号:9
GTPGRAEAG 配列番号:10
TPGRAEAGG 配列番号:11
GRAEAGGQV 配列番号:12
RAEAGGQVS 配列番号:13
GRAEAGG 配列番号:14
SEPFEARRAPGR 配列番号:15
SEPEARRAP 配列番号:16
EPEARRAPG 配列番号:17
PEARRAPGR 配列番号:18
EARRAPGRK 配列番号:19
ARRAPGRKG 配列番号:20
本発明のある種の実施態様は、末梢ニューロンの変性又は死滅を防ぐためにNRPを使用することを含む。これらの実施態様のある種のものでは、NRP-5セグメントGG類似体D4A(配列番号:2)が有効であることが見出された。
他の実施態様は、トロホブラスト遊走低下を含む異常(子癇前症、HELLP又はIUGRを含む)を治療するためにNRPを使用することを含む。そのような実施態様は、トロホブラストの遊走又は生存を誘導することができるペプチド(例えば配列番号:1)を含む。
我々はまた、予想に反して、NRPは、TNF-α-及びインターフェロン-γ-誘発損傷を、ヒト産期胎盤のトロホブラスト細胞及び胎盤細胞株の両方においてin vitroで減少させることができることを見出した(例えば配列番号:1)。
NRPは、C-末端が自由なOHペプチドとしても、C-末端がアミド化されたペプチドとしても有効であり得ることは理解されよう。C-末端遊離OHペプチド及びC-末端アミド化ペプチドは両者とも有効であり、両者が本発明の範囲内に包含される。
【0011】
NRP化合物の治療的使用
本発明のNRPを用いて、神経学的異常及び産科合併症を治療することができる。NRPは予想に反して、脳の自己免疫異常、末梢神経障害及び神経細胞に対する毒性物質損傷に関連する神経の変性の治療に有効であった。さらにまた、NRPは予想に反してトロホブラスト細胞の生存の促進に有効であった。
したがって、本発明は、NRP、NRPによってコードされるペプチド、NRPのホモログ、オルソログ又はパラログ、NRPの類似体、及びNRPのプロドラッグに関連する実施態様を含む。ここでNRPのプロドラッグは、酵素的、代謝的、又は他の方法で改変されてNRP、NRPホモログ、NRPパラログ、NRPオルソログ又はNRP類似体に成ることができる分子である。そのような分子は包括的に“NRP化合物”又は“NRP”と称される。NRP化合物は、ヌクレオチド配列(DNAでもRNAでもよく、さらに単鎖でも二重鎖でもよい)によってコードされ得る。本発明は、本出願に記載した配列それ自体とともに前記に相補的な配列も含むことは理解されよう。さらにまた、NRPのまた別のスプライシング形も含まれ得ることも理解されよう。その場合、NRP RNAのまた別のスプライシング形、並びにそれらRNAがコードし得るタンパク質及びペプチドもまた本発明の部分と考えることができる。
【0012】
上記に示したように、本発明の実施態様は、本発明者らの新規なNRPの驚くべき発見を根拠にしている。前記NRPは、がニューロン及びニューロブラストの増殖、遊走、分化を誘発し、神経突起伸長をもたらし、さらに神経傷害によって生じる損傷からニューロンを保護することができる。神経細胞の増殖、及び急性脳損傷又は慢性神経変性疾患によって生じた障害領域への神経細胞の遊走は、神経機能の改善をもたらすことができる。さらにまた、NRPはニューロンの生存、ニューロンの分化、及び/又は神経突起伸長を促進することができる。したがって、NRP化合物を用いて、脳組織が変性するか、又は死滅のおそれがあるか、又は死滅した多様な異常及び症状を治療することができる。
上記に示したように、本発明の他の実施態様は、NRPは、末梢神経障害に関連する運動障害及び体重減少を、末梢ニューロンの変性又は死滅を防ぐことによって軽減することができるという本発明者らの驚くべき発見を根拠にしている。
上記に示したように、本発明のさらに他の実施態様は、NRPは産科合併症の治療に有用であるという本発明者らの驚くべき発見を根拠にしている。
細胞はまたNRPオリゴヌクレオチドを用いて、トランスフェクション後にNRPの産生を刺激することができる。いくつかの事例では、トランスフェクションは、複製可能なビヒクル又は他のもので実施することができるが、NRPオリゴヌクレオチドを裸のDNAとして導入してもよい。
【0013】
本発明のNRP化合物が有益であり得る異常及び症状には以下が含まれる:
神経系の症状:
神経の生存、遊走又は増殖を促進する効果を示した本発明のペプチドは、下記表1にそれらの配列番号(SID)、長さ(何量体(mer)又はアミノ酸数として)とともに示されている。新規に開示するNRPは太字のSIDで示されている。上記に特記した一定のペプチドドメインの存在は下線によって示されている。
【0014】
【0015】
NRPで治療することができる神経系の症状には中枢神経系の感染(細菌、菌類、スピロヘータ、寄生虫感染を含む)、及び類肉腫(発熱性感染、急性細菌性髄膜炎、軟膜炎を含む)が含まれる。
脳血管性疾患には以下が含まれる:卒中、虚血性発作、アテローム性硬化症性血栓症、ラクネス(lacunes)、塞栓症、高血圧性出血、動脈瘤破裂、血管形成異常、一過性虚血性発作、頭蓋内出血、自発性クモ膜下出血、高血圧性脳症、能動脈の炎症性疾患、例えば心不全(おそらく冠状動脈バイパス手術から生じる)によって発生する灌流低下、及び脳血管疾患の他の形態。
頭蓋脳の外傷には以下が含まれる:頭蓋底骨折及び頭蓋神経損傷、頸動脈海綿静脈洞瘻、気脳症、気瘤及び鼻漏、脳挫傷、外傷性脳内出血、小児の急性脳浮腫。
脱髄疾患には以下が含まれる:視神経脊髄炎、急性播種性脳脊髄炎、急性及び亜急性壊死性出血性脳炎、末梢神経障害を合併したシルダーの広汎性脳硬化症及び多発性硬化症。
以下の1つ以上の症状を含む神経系の変性疾患:進行性痴呆、広汎性脳萎縮、非アルツハイマー型の広汎性皮質萎縮、レーヴィー小体性痴呆、ピック病、前側頭葉痴呆、視床変性、非ハンチントン型舞踏病及び痴呆症、皮質-脊髄変性(Jakob)、痴呆-パーキンソン病-筋萎縮性側索硬化症複合症(Guamaninaその他)。
末梢神経障害は、末梢ニューロンに対する損傷又は末梢ニューロンの減少を特徴とする一般的な身体障害性症状である。末梢神経障害には100を超える型が存在し、各型は型自体の特徴的な症状、発症パターン及び予後を有する。末梢神経障害は遺伝性でも後天性でもあり得る。末梢神経障害の遺伝型は遺伝子変異によって生じ得る。後天的末梢神経障害は以下から生じ得る:神経に対する物理的損傷(外傷)、腫瘍、毒素(化学療法を含む)、自己免疫応答、栄養失調、アルコール中毒、血管性及び代謝性疾患(例えば糖尿病性神経障害)。HIV関連末梢神経障害は、HIVウイルスの逆転写酵素を標的とする薬剤の一般的な副作用である。末梢神経障害の症状は、一過性のしびれ、刺痛及びチクチクする感覚、触覚の過敏性又は筋肉脆弱から、より激甚な症状、例えば灼熱痛、筋肉疲労、麻痺、器官又は腺の機能不全まで変動し得る。
【0016】
代謝性異常:
神経系の後天的な代謝異常には以下が含まれる:錯乱、昏迷、又は昏睡-虚血-低酸素症、低血糖症、高血糖症、高炭酸ガス症、肝不全及びライ症候群の1つ以上を含む症状として提示される代謝性疾患、進行性錐体外路症候群として提示される代謝性疾患、小脳性運動失調、高体温、シェリアキー-スプルー病として提示される代謝性疾患、精神病又は痴呆を惹起する代謝性疾患(クッシング病及びステロイド脳症、甲状腺精神病及び甲状腺形成不全、並びに膵臓性脳症を含む)。神経障害を生じ得る代謝性疾患の例は、下記でより詳細に述べるピリドキシン過剰である。
栄養失調、アルコール及びアルコール中毒による神経系の疾患。
薬剤及び他の化学物質による神経系の疾患には、アヘン製剤及び合成鎮痛剤、鎮静催眠剤、興奮剤、神経興奮剤、細菌毒素、植物毒、有毒咬創及び刺創、重金属、工業毒性物質、抗新形成薬剤及び免疫抑制薬剤、サリドマイド、アミノグリコシド系抗生物質(聴器毒性)及びペニシリン誘導体(痙攣)、心臓保護剤(ベータ-遮断薬、ジギタリス誘導体及びアミオダロン)による中毒が含まれる。
前述の列挙で示したように、本発明の組成物及び方法はヒトの神経損傷及び疾患の治療に有用であり得る。より包括的には、本発明の組成物及び方法は、急性脳損傷(広汎性軸索損傷、周産期低酸素虚血性損傷、外傷性脳損傷、卒中、虚血性梗塞、塞栓症、及び高血圧性出血;CNS毒素への暴露、中枢神経系の感染、例えば細菌性髄膜炎;代謝性疾患、例えば低酸素虚血性脳症、末梢神経障害及びグリコゲン貯蔵疾患を含むが、ただしこれらに限定されない)の結果として神経障害をもつか、又は慢性の神経損傷若しくは神経変性疾患(多発性硬化症、レーヴィー小体性痴呆、アルツハイマー病、パーキンソン病及びハンチントン病を含むが、ただしこれらに限定されない)に罹患した人間の患者の治療で有用である。そのような疾患又は損傷をもつ患者は、ニューロンの増殖及び遊走を神経突起伸長とともに開始させることができる治療プロトコルによって顕著な利益を受けることができる。
さらにより包括的には、本発明は、外傷、毒素暴露、仮死又は低酸素-虚血の形での傷害後の損傷領域へのニューロン及びニューロブラスト遊走の誘導に利用することができる。
【0017】
産科合併症の治療におけるNRPの使用
トロホブラストは初期妊娠の維持に必須である。それらは、胚盤胞の外層を形成するために分化する最初の細胞の一つである。トロホブラストは胚盤胞の子宮壁への着床を担保し、続いて胎盤へと発育する。胚盤胞の着床に続くトロホブラストの分化は、遊走して子宮基質に侵入する絨毛外トロホブラスト細胞(extravillous trophblast cell)(EVT)の形成をもたらす。トロホブラスト幹細胞は融合して栄養膜合胞体細胞を形成し、前記は繁留絨毛性トロホブラストを形成する。前記絨毛性トロホブラストは、絨毛外トロホブラストとして知られる亜集団を形成する。絨毛外トロホブラストは子宮壁及びその血管に侵入して、平滑筋及び内皮細胞に取って代わることにより母体のらせん動脈を再構成する。結果として、より大きな直径、血流増加及び抵抗性減少を特徴とする血管が作られる。この過程は、妊娠後期の胎児のより多くの血液供給の要求に応え、結果として正常な妊娠の維持のために必須である。
トロホブラストは子宮内膜のらせん動脈内の内皮様細胞に分化する(そこでそれら細胞は平滑筋及び内皮細胞に取って代わることにより前記動脈を再構成して同様な効果(血管の直径の拡大、血流増加及び抵抗ゾーンの減少)を達成する)。
in vitro実験では、正常な妊娠では母体細胞がトロホブラストの侵入制御に役割を果たしていることが示唆されたが、ただしこれらの細胞間の調節的相互作用の正確な性質は不明である(Campbell et al. 2003)。母体脱落膜への不完全なヒトトロホブラストの侵入は妊娠関連子癇前症の主要な特徴であるように思われる。例えば、母体のらせん動脈の再構成の失敗は、発育胎児の血流を制限し、子癇前症又は子宮内発育制限の開始の一因となると考えられる。そのような失敗の理由は不明であるが、それら理由にはトロホブラストのアポトーシスの増加、トロホブラスト侵入の低下が含まれ得ると説明されている。
【0018】
子癇前症は、母体の高血圧、蛋白尿及び浮腫の突然の開始を特徴とする。子癇前症の患者では、栄養膜細胞層の侵入は浅く、血管形態変換は不完全である。子癇前症は先進国では妊婦死亡率の主要原因であった。世界的にはこの疾患は毎年ほぼ150,000人の死亡の原因である。前記疾患はまた新生児の死亡率及び罹患率の顕著な原因であり、成人後には健康と密接な関係(高血圧、心臓疾患及び糖尿病のリスク増加を含む)を有すると予想される。
子宮内発育遅延(IUGR)(子癇前症の病的状態に付随する永続的な低酸素性胎盤症状と対を成す)は、胎盤発育遅延、推定される分娩合併症及び/又はヒトの胎児に対する障害(例えば低出生体重をもたらす成熟前帝王切開の必要性)を生じる。子癇前症の稀な結果は、致死的結果が推定される肝不全及び腎不全を特徴とする症候群、いわゆる“HELLP”症候群(溶血、肝酵素上昇、低血小板症候群)である(Volz et al. 1992)。
妊娠中に子癇前症を発症した遺伝性の血栓形成傾向をもつ患者は、低分子量ヘパリン治療(LMWH-療法)に応答することが示された(前記治療は臨床症状をいくらか回復させることができる)(Saisto et al. 2004)。それにもかかわらず、他の型の子癇前症はLMWH-療法に応答しない。
したがって、子癇前症、HELLP症候群又はIUGRの発症を防ぐために妊娠中にトロホブラストの遊走及び侵入を高め得る治療又は予防を確立することは有益である。
【0019】
NRPの投与
NRP化合物(NRP-1、そのオルソログ、類似体、パラログ、本明細書で開示されるNRP、及び同定されたNRPペプチドドメインを含むプロドラッグを含む)を用いて、ニューロン及びニューロブラストの遊走を促進することができる。もっとも簡便には、前記はNRP化合物の患者への直接投与によって達成することができる。
しかしながらNRPは有利に用いることができるが、一方、他の形態のNRP化合物の投与を排除しようとするものではない。例えば、NRPのヒトパラログ形又はペプチドフラグメントをNRPの代わりに投与してもよい。例を挙げれば、CNSにおけるNRPの有効量は、NRP及び担体を含むNRPのプロドラッグ形の投与によって増加させることができる(NRPと担体は患者の体内での切断又は消化に感受性を有する結合によって結び付けられる)。投与後に切断又は消化されてNRPを遊離させる任意の適切な結合を用いることができる。
別の適切な治療方法は、インプラントを介してNRPレベルを高めることである。前記インプラントは、患者の中枢神経系内でNRP又はNRPの類似体、パラログ若しくはプロペプチドを活性な形態で発現することができる細胞株であるか又は前記細胞株を含む。
NRPは医薬又は医薬調製物の部分として投与することができる。前記は、NRP化合物を任意の医薬的に適切な担体、アジュバント又は賦形剤と化合物を混合することを含むことができる。さらにまた、NRP化合物を他の非NRP神経保護物質、増殖物質又は他の薬剤と一緒に用いることもできる。担体、アジュバント又は賦形剤の選択は、通常はもちろん投与経路に左右されるであろう。
投与経路は広範囲に変動し得る。NRPは、種々の方法(腹腔内、静脈内又は脳室内)で投与することができる。末梢適用は、中枢神経との直接的干渉が存在しないので特に優れた方法であり得る。
当分野で公知のいずれの末梢投与経路も用いることができる。これらには非経口経路、例えば末梢循環、皮下、眼窩内、眼、脊髄内、クモ膜下槽内、局所への注射、輸液(例えば徐放性装置又はミニポンプ、例えば浸透圧ポンプ又は皮膚絆創膏を用いる)、インプラント、エーロゾル、吸入、乱刺、腹腔内、関節包内、筋肉内、鼻内、頬、肺、直腸又は膣経路が含まれる。本組成物は、上記に記載した神経学的疾患の治療を提供するために、治療的に有効な量(例えば患者の病変を排除するか又は低下させることができる量)で人間又は他の哺乳動物への非経口的投与のために処方することができる。
ある投与経路は、皮下注射(例えば0.9%塩化ナトリウムに溶解)及び経口投与(例えばカプセルで)を含む。
さらにまた、場合によってはNRP化合物を任意の適切な投与経路によって患者のCNSに直接投与することも所望できることは理解されよう。例には、側頭脳室内注射によるか又は患者の脳の側頭脳室内に外科的に挿入したシャントを介する投与が含まれる。
【0020】
NRPの治療的用量
本発明のいくつかの実施態様では、脳損傷の治療方法は、1つ以上のNRPを約0.01μg/kg体重から約100μg/kg体重の用量範囲で投与することを含む。他の実施態様では、1用量1μg/kg体重から約10μg/kg体重が有用であり得る。我々は、EAEのマウスでは約4.16μg/kgの用量が、生理食塩水のみで処置したコントロール動物と比較して運動機能に顕著な改善を示すことを見出した(実施例3参照)。さらに別の実施態様では、NRPの1用量は約0.01μg/kg体重から約0.1mg/kgの範囲であり得る。
他の実施態様では、投与されるべきNRPの有効量の決定は当業者の通常の技量の範囲内であり、当業者にとっては日常的であろう。ある種の実施態様では、使用されるべきNRPの量は、本明細書に記載するアッセイシステムを用いるin vitro実験で概算することができる。投与されるべきNRPの最終量は、投与経路、使用NRP、及び治療されるべき神経学的異常又は症状の性質に左右されるであろう。適切な用量範囲は、例えば体重1kg当たり約0.1μgから約15μgであるか、又は他の実施態様では約20μg/kgから約30μg/kg体重/日であろう。
医薬に含有させるために、NRPは通常的な方法によって直接合成することができる。前記方法は、例えばMerrifieldの段階的固相合成法(Merrifield et al. J Am Chem Soc 1963 15:2149-2154))、又はM. Goodman記載(M. Goodman (ed.) "Synthesis of Peptides and Peptidomimetics" in Methods of organic chemistry (Houben-Weyl)(Workbench Edition, E22a,b,c,d,e; 2004; Georg Thieme Verlag, Stuttgart, New York)の方法である(前記文献は参照により本明細書に含まれる)。そのようなペプチド合成方法は当分野では周知であり、例えば以下に記載されている:Fields and Colowick, 1997, Solid Phase Peptide Synthesis (Methods in Enzymology, vol 289), Academic Press, San Diego, CA(前記文献は参照により本明細書に含まれる)。また別の合成は、市販のペプチド合成装置、例えばアプライドバイオシステムズのモデル430Aの使用を含むことができる。
【0021】
一般的推奨として、非経口的に投与されるNRPの1用量当たりの医薬的に有効な総用量は、用量応答曲線によって測定することができる範囲内に存在するであろう。例えば、血中NRPは、用量決定のために、治療されるべき哺乳動物の体液で測定することができる。また別には、NRP化合物の量を増加させながら患者に投与し、NRPについて患者の血清中のレベルをチェックすることができる。これらNRPの血清レベルを基準にして用いられるべきNRPの量をモルベースで算出することができる。
この化合物の適切な投与量を決定する一つの方法は、生物学的液体(例えば体液又は血液)中のNRPレベルを測定することを含む。そのようなレベルの測定は、任意の手段(RIA及びELISAを含む)によって実施することができる。NRPレベルの測定後、前記体液を前記化合物とシングルドース又はマルチドースを用いて接触させる。この接触工程の後、体液中のNRPレベルを測定する。前記分子の投与によって所望された有効性を生じるために十分な量だけ体液中のNRPレベルが下降している場合、最大有効性を生じるように前記分子の用量を調節することができる。この方法はin vitro又はin vivoで実施することができる。この方法はin vivoで以下のように実施することができる。例えば液体を哺乳動物から抽出しNRPレベルを測定した後で、本明細書の化合物をシングルドース又はマルチドースを用いて前記動物に投与し(すなわち接触工程は哺乳動物への投与によって達成される)、続いて前記動物から抽出した液体からNRPレベルを測定する。
【0022】
NRP化合物は適切には持続的放出系によって投与される。持続放出組成物の例には、例えばフィルム又はマイクロカプセルのような成形品の形態を有する半透過性ポリマーマトリックスが含まれる。持続放出マトリックスには、ポリラクチド(米国特許3,773,919、EP58,481)、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(Langer et al. 1981)、エチレンビニルアセテート(Langer et al.上掲書)、又はポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸(EP133,988)が含まれる。持続放出組成物にはまたリポソーム結合化合物が含まれる。前記化合物を含むリポソームは、例えば以下で例証されているように当業者に公知の方法によって調製される:DE3,218,121;Hwang et al. 1980;EP52,322;EP36,676;EP88,046;EP143,949;EP142,641;日本国特許出願83-118008;米国特許4,485,045及び4,544,545;並びにEP102,324。いくつかの実施態様では、リポソームは小型の(約200から800オングストローム又は約200オングストローム)単一薄層タイプであり、脂質の内容は約30モルパーセントを超えるコレステロールで、この選択割合はもっとも効果的な治療のために調整されている。上記及び下記の両方において本明細書で引用した全ての米国特許は、引用によりそれらの全体が本明細書に含まれる。
例えばWO95/32003(1995年11月30日公開)に開示されたコンジュゲート技術を用いた、非PEG化ペプチドよりも寿命の長いPEG化ペプチドもまた用いることができる。
【0023】
いくつかの実施態様では、化合物は、一般的には、所望の純度をもつ各々を注射可能なユニット投薬形(溶液、懸濁液又は乳濁液)として、医薬的に又は非経口的に許容できる担体(すなわち用いられる投与量及び濃度で受容者に毒性がなく、さらに処方物の他の成分と適合し得る担体)とともに混合することによって処方することができる。例えば、処方物は、好ましくは酸化剤及びポリペプチドにとって有害であることが判明している他の化合物を含まない。上記用量は制限を意図していないことは理解されよう。上記の範囲外の他の用量は当業者が決定することができる。
いくつかの実施態様では、処方物は、化合物を均質に及び緊密に液性担体と、又は微細分割固形担体と、又はその両方と接触させることによって調製することができる。続いて、所望する場合には、生成物を所望の処方物に成形することができる。いくつかの実施態様では、担体は非経口的担体であるか、或いは受容者の血液と等張な溶液である。そのような担体ビヒクルの例には、水、生理食塩水、リンゲル溶液、緩衝溶液、及びデキストロース溶液が含まれる。非水性ビヒクル(例えば固定油及びオレイン酸エチル)もまた本明細書では有用である。
前記担体は、適切には少量の添加物(例えば等張性及び化学的安定性を強化する物質)を含む。そのような物質は、望ましくは用いられる投与量及び濃度で受容者に毒性がなく、さらに、例示すればバッファー、例えばリン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、酢酸及び他の有機酸、又はそれらの塩;抗酸化剤、例えばアスコルビン酸;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド、例えばポリアルギニン又はトリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン;グリシン;アミノ酸、例えばグルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジン又はアルギニン;単糖類、二糖類及び他の炭水化物(セルロース若しくはその誘導体、グルコース、マンノース、トレハロース又はデキストリンを含む);キレート剤、例えばEDTA;糖アルコール、例えばマンニトール又はソルビトール;対イオン、例えばナトリウム;非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート、ポリキサマー又はポリエチレングリコール(PEG);及び/又は中性塩、例えばNaCl、KCl、MgCl2、CaCl2などが含まれる。ある種の実施態様では、本発明のペプチドは、0.5Mのシュクロース又は0.5Mのトレハロースを用いて安定化することができる。そのような糖を用いることは本ペプチドの長期的貯蔵を可能にすることができる。
【0024】
NRP化合物は、望ましくはそのようなビヒクルでpH約6.5から約8で処方することができる。また別には、pHは約4.5から約8でもよい。前述のある種の賦形剤、担体または安定化剤の使用によって化合物の塩が形成されるであろう。最終的な調製物は安定な液体又は凍結乾燥固体であり得る。
他の実施態様では、アジュバントを用いることができる。錠剤、カプセルなどに取り込むことができる典型的なアジュバントは、結合剤、例えばアカシア、トウモロコシデンプン又はゼラチン;賦形剤、例えば微晶質セルロース;トウモロコシデンプン又はアルギン酸のような崩壊剤;滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム;甘味剤、例えばシュクロース又はラクトース;香料、例えばペパーミント、ウィンターグリーン、チェリーである。投与形がカプセルであるときは、上記物質に加えて、液状担体(例えば脂肪性油)もまた含むことができる。種々のタイプの他の物質をコーチング又は投与ユニットの物理的形態の改変物質として用いてもよい。シロップ又はエリキシルは、活性化合物、甘味剤(例えばシュクロース)、保存料(例えばプロピルパラベン)、着色料及び香料(例えばチェリー)を含むことができる。通常の製薬慣行にしたがって、注射用の無菌的組成物を処方してもよい。例えば、活性化合物のビヒクル、例えば水又は天然に存在する植物油(例えばゴマ油、落花生油又は綿実油)、又は合成脂肪性ビヒクル(例えばオレイン酸エチル又は類似物質)への溶解物又は懸濁物を所望することができる。バッファー、保存料、抗酸化剤なども、許容可能な製薬慣行にしたがって取り入れることができる。
【0025】
望ましくは、治療的投与のために用いられるNRP化合物は無菌的であるべきである。無菌性は、無菌的ろ過メンブレン(例えば約0.2ミクロンのポアサイズを有するメンブレン)でろ過することにより容易に達成することができる。治療用組成物は、一般的には無菌的にアクセスできる口をもつ容器、例えば静脈内溶液バッグ又は皮下注射針を貫通させることができるストッパー付きバイアルに入れることができる。
他の実施態様では、NRP化合物は、ユニットドース又はマルチドース容器(例えば封入アンプル又はバイアル)に、水性溶液として又は再構成用の凍結乾燥処方物として保存することができる。凍結乾燥処方物の例として、10mLバイアルに5mLの滅菌ろ過0.01%(w/v)化合物水溶液を充填し、得られた混合物を凍結乾燥する。輸液溶液は、制菌水又は他の適切な溶媒を用い凍結乾燥化合物を再構成することによって調製することができる。
さらに別の実施態様では、キットは、予め定めた量の凍結乾燥NRP、投与形の調製物のために生理学的に適合できる溶液、混合バイアル、混合装置、及び使用のための指示を含むことができる。そのようなキットは、通常の製薬慣行にしたがって製造し保存することができる。
NRP含有組成物は、1つ以上の種々の経路で投与することができる。例示すれば、静脈内、腹腔内、脳内、脳室内、吸入、洗浄、直腸、腟内、経皮、皮下投与を用いることができる。
【0026】
遺伝子治療
本発明の他の実施態様では、治療方法は生物の治療に遺伝子治療を含み、NRP化合物をコードする核酸を用いる。一般的には、遺伝子治療は生物におけるNRPレベルを増加(又は過剰発現)させるために用いることができる。ヌクレオチド配列の例には、配列番号:1−5及び7−20に示したペプチドをコードする配列が含まれる。そのようなヌクレオチド配列は遺伝コードを参照して容易に識別することができる。本発明のペプチドは比較的短いので、NRPに対するmRNAを基準にした天然の配列だけでなく、本発明のNRPに適したオープンリーディングフレームを有するいずれのヌクレオチド配列も用いることができる。読み取り鎖配列と相補的なオリゴヌクレオチドも用いることができることは理解されよう。したがって、より大きなオリゴヌクレオチドに取り込むことができる相補的な一本鎖オリゴヌクレオチド及び二重鎖オリゴヌクレオチドも用いることができる。例えば、NRPのためのオープンリーディングフレームを含むカセットの挿入は、当分野で周知の方法を用いて達成することができ、ここで詳細に記載する必要はないだろう。しかしながら、そのような方法には、Sambrook and Russelの著書(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition (2001):前記文献は参照により本明細書に含まれる)及び他の標準的な参考文献に記載された方法が含まれる。さらに別の配列を用いてプロ-NRPペプチド(切断されると生物学的に活性なNRPを生じることができる)コードすることができることは理解されよう。
【0027】
生物にNRPコード配列をトランスフェクトする適切な任意のアプローチを用いることができる。例えば、in vivo及びex vivo法を用いてもよい。in vivoデリバリーの場合、核酸(単独で又はベクター、リポソーム、沈殿物などと一緒に)を直接的に生物(例えば人間の患者)に、いくつかの実施態様では、NRP化合物の発現を所望する部位に注射することができる。ex vivo治療の場合は、生物の細胞を取り出し、これら細胞に核酸を導入し、さらにこの改変した細胞を前記生物に直接的に投与するか、又は例えば多孔性膜内に前記改変細胞を被包化しこれを患者に移植する(例えば米国特許4,892,538号及び5,283,187号を参照されたい:前記文献は参照により本明細書に含まれる)。
我々は、培養細胞がNRPを発現することができること、及びこれらのNRP発現細胞を毒性物質による損傷に感受性を有するニューロンとともにインキュベートすると、NRPが発現され、培養液中に分泌され、ニューロンを毒物による損傷から保護することができることを本明細書で示した。この驚くべき発見は、遺伝子移転及びそれに続くNRP組換え細胞の移植によって神経変性を処置する治療的アプローチを支持する。
【0028】
核酸を生細胞に導入するために利用可能な種々の技術が存在する。前記技術は、核酸がin vitroで培養細胞に移入されるか又はin vivoで意図した宿主の細胞に移入されるか否かによって異なる。核酸をin vitroで哺乳動物細胞に移入するために適切な技術は、リポソーム、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、細胞融合、DEAE-デキストラン、リン酸カルシウム沈殿法などの使用を含む。遺伝子のex vivoデリバリーのために一般的に用いられるベクターはRNAレトロウイルスである。ある種の実施態様では、in vivoの核酸移入技術は、ウイルスベクター(例えばアデノウイルス、I型単純ヘルペスウイルス又はアデノ関連ウイルス)によるトランスフェクション、及び脂質依存系(遺伝子の脂質仲介移転に有用な脂質は、例えばN-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウム(DOTMA)、ジオレオイルファチジルエタノールアミン(DOPE)及び3-β[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)カルボモイル]コレステロール(DC-Chol)である)を含む。いくつかの状況では、核酸供給源とともに核酸含有ベクターを標的細胞に誘導する物質を提供することが望ましいであろう。“標的誘導”分子の例には、標的細胞上の細胞表面膜タンパク質に特異的な抗体、標的細胞上のレセプターのためのリガンド、細菌のペネトラチン(PenetratinTM(商標))と形質膜を標的とするヌクレオチド及び/又はペプチド配列(適切な翻訳後プロセッシング及び機能的なタンパク質及びペプチドの合成に必要な他の公知の細胞性プロセスのために用いられる)との融合が含まれる。ペネトラチン(PenetratinTM(商標))1は特許を受けた16アミノ酸ペプチドであり、アンテナペディアタンパク質のホメオドメインの第三ヘリックスに対応する。このペプチドは、エネルギー非依存性メカニズムによって生物学的な膜を貫通して移動することが可能であり、共有結合させたペプチド及びオリゴヌクレオチドを内部移行させ、それらを多くの細胞タイプの細胞質及び核に運搬することができた。活性化したペネトラチン(PenetratinTM(商標))1は、チオール(-SH)官能基をもつオリゴ及びペプチドと結合する。活性化したペネトラチン(PenetratinTM(商標))1はまたビオチン化されたものが利用可能であり、適切なアビジン又はストレプトアビジン試薬を用いて検出することができる。
リポソームが用いられる実施態様では、エンドサイトーシスに関連する細胞表面膜タンパク質と結合するタンパク質を標的誘導のために利用して、摂取を促進することができる。そのようなタンパク質の例には、特定の細胞タイプに好性を示すキャプシドタンパク質及びそのフラグメント、タンパク質(循環中に内在化を経る)に対する抗体、及び細胞内局在化を標的とし細胞内半減期を延長するタンパク質が含まれる。他の実施態様では、レセプター仲介エンドサイトーシスを用いることができる。そのような方法は、例えばWuら(1987)又はWangerら(1990)の文献に記載されている。現在知られている遺伝子マーキング及び遺伝子治療プロトコルの概要についてはAnderson(1992)の文献を参照されたい。さらにまたWO93/25673及びその中の引用文献を参照されたい。上記論文及び特許出願は参照により完全に本明細書に含まれる。
キットもまた本発明の範囲内に包含される。典型的なキットは、医薬的に許容できるバッファー中に存在する1つ以上のNRP化合物を含むNRP処方物のための容器(いくつかの実施態様ではバイアル)及びこの医薬処方物を利用する使用者に指示を提供する指示書(例えば製品挿入物又はラベル)を含むことができる。
【0029】
以下の実施例は本発明のある種の実施態様を例示するために提供される。他の実施態様も容易に考案することができ、それらもなお本発明の範囲内にあることは容易に理解されよう。これら他の実施態様はいずれも本発明の部分であると考えられる。
【0030】
実施例
実施例1:小脳微小外植片の生存及び増殖に対するNRPの作用
NRPの調製
NRP-5 RG類似体D6A(配列番号:1)及びNRP-5 GG類似体D4A(配列番号:2)はオースペップ(Auspep、オーストラリア)に発注した。ペプチドは標準的な固相合成を用いて合成された。ペプチドはC-末端がアミド化されて供給され、MALDI-MSスペクトル解析によって分析したとき95%を超える純度であった。ペプチドは、使用まで0.5Mのシュクロース又は0.5Mのトレハロース中でアルゴン下-80℃で凍結乾燥させて保存した。それらはPBSで或いは100μg/mLのヒトトランスフェリン/PBSで、又は他の実施態様では100μg/mLのBSA/PBSで0.5Mシュクロース又は0.5Mトレハロースにて再構成された。
細胞培養物の調製
2つの半球の小脳皮質の薄片をP3、P4、P7又はP8ウィスターラットから外植片として取り出し、0.65%のD(+)グルコース溶液を含むGBSS中で細片に切り、さらに0.4mmゲージの注射針ですりつぶし、続いて125μmの孔サイズの篩から押出した。培養液を無血清BSA補充STARTV-培養液(Biochem)に交換するために、得られた微小外植片を2回遠心(60xg)した。最後に、この外植片を500μLのSTARTV-培養液で再構成した。培養のために、38μLの細胞懸濁液を35mmのペトリ皿中のポリ-D-リジン被覆カバースリップ上で、空気中5%のCO2及び100%の湿気を含む雰囲気下で34℃にて1時間インキュベートした。続いて、損傷用毒素(下記で説明する)、NRP及び1mLのSTARTV-培養液を添加し、培養2−3日後に前記培養を評価した。
免疫組織化学実験及びニューロン遊走実験については、小脳微小外植片を培養2−3日後に以下の手順にしたがって固定した:微小外植片を、連続的に2分間それぞれ0.4%、1.2%、3%のパラホルムアルデヒドで処理し、続いて0.1Mリン酸ナトリウム(pH7.4)中の4%パラホルムアルデヒド/0.25%グルタルアルデヒドで5分間インキュベートすることによって固定した。
【0031】
毒素誘発神経損傷に対するNRPの効果
毒素学実験及び薬剤投与実験は、1/100部の毒素及び神経保護薬を新しく調製した小脳微小外植片に同時に投与した。グルタミン酸は、MilliQ水中の50mMストック溶液として調製し、一方、50mMの3-ニトロプロピオン酸はMilliQ水中でpH調整(pH6.8−7.2)を実施した。酸化的ストレス誘発毒素、3-ニトロプロピオン酸(3-NP)、及びエキサイトトキシン、グルタミン酸のアッセイにおける濃度は、各々0.5mMであった。凍結乾燥ペプチドは、PBS又は100μg/mLのヒトトランスフェリン中で10μMのストック溶液として再構成した。続いて連続稀釈を作成した。小脳微小外植片は、空気に5%のCO2及び100%湿度で34℃にて48−72時間培養し、その後それらをパラホルムアミドの量を増加させながら固定した(0.4%、1.2%、3%及び4%、各々の処理は2−3分)。
上記に記載の毒素を用い、培養の開始時にNRPの稀釈物に(生存アッセイ)、又はNRP及び0.1μMのBrdUに(増殖アッセイ)小脳外植片を24時間暴露した。続いて、新しい毒素及びNRPを添加することなく、培養液の80%を交換した。この小脳培養を上記に記載したようにin vitroで3日後に固定した。取り込まれたBrdUレベルの検出は以前に記載したように実施した。
データ変換及び統計解析
生存の統計的解析のために、最高の細胞密度を含む各固定小脳培養の4視野(各視野は0.65mm2の面積を有する)を選択し、神経突起伸長を示す細胞を数えた(生存アッセイ)。
増殖の統計解析のためには、BrdU陽性核を数えた。統計的有意性はスチューデントt-検定によって測定した。
【0032】
結果
神経保護:
NRP-5セグメントRG類似体D6A(配列番号:1;濃度100fM)は、毒素と同時に投与されたときには、重度の損傷後に39.1%の神経保護の生存率を付与した(図1)。IGF-1のような神経保護物質は、この特定のアッセイではほぼ20%保護の救済値を達成しただけである。NRPの高い能力は注目に値する。
ニューロン増殖:
NRP-5 RG類似体D6A(配列番号:1;1pM)は、非損傷ビヒクルと比較してこれらの培養において増殖速度を顕著に高めた(図2)。NRP-5 GG類似体D4A(配列番号:2;100pM)は同様な効果を有し、増殖を高めた。両化合物は、NRPを投与されていない損傷細胞と比較したとき高度に増殖誘導性である(p<0.01)(図2)。我々は、NRP-5 RG類似体D6A及びNRP-5 GG類似体D4Aは各々ニューロン増殖を誘発し、さらにこれらのNRPは神経損傷又は神経疾患に付随する神経変性の治療に有用であり得ると結論した。
【0033】
実施例2:生理的(非損傷)条件下でのNRP仲介遊走
マウスの神経幹細胞に対する遊走誘発/化学誘引活性について、下記で述べる接触走性遊走アッセイでNRPを試験した。
方法
初期NRPコーティング:
12μmのポアサイズをもつトランスウェルプレート(Transwell plate, Corning)のコントロールウェルを1.5mLのBSA/PBSビヒクルで被覆した。残りのプレートは0.1ng/mLのNRP(配列番号:1)(10ug/mLのBSAを含むPBS中で調製)を用いて被覆した。
細胞外マトリックスコーティング:
ラミニン(7μg/mL)をマウス初代幹細胞のための細胞外マトリックス(ECM)コーティングとして用いた。このマトリックスを37℃、5%CO2にて2時間室温でインキュベートした。細胞をインサート上に播種した(30,000細胞/ウェル)。プレートを1−2日間in vitroで固定した(DIV)。
インサートのコーティング:
5ug/mLのPDL/PLL混合物(PBS中)を用いてインサートを被覆した。続いて前記インサートをMilliQ水で洗浄した。
細胞の固定:
インサートを廃棄し、ウェルをPFAの連続稀釈(0.4、1.2、3及び4%)で各稀釈に付き3−5分間固定した。前記ウェルをリンスし、さらにPFAの連続稀釈(0.4、1.2、3及び4%)で各稀釈に付き3−5分間保存した。ウェルをリンスし、計測までPBS中で保存した。神経突起伸長を示し、さらに底部チャンバーに移動した全ての細胞を遊走細胞として数えた。
結果
NRPを含まないプレートの遊走と比較して、NRP処理プレートでは55%を超える細胞が遊走した。NRP-5 RG類似体D6A(配列番号:1;0.1ng/mL)は、BSAビヒクル単独と比較して、55.4%を超えるMEB-5細胞を培養皿の底部へ遊走させた(図3A)。我々は、NRP-5 RG類似体D6Aはニューロン細胞遊走を誘発し、それらは各々、神経損傷又は神経疾患に付随する神経変性の治療に有用であり得ると結論した。
【0034】
実施例3:損傷条件下でのNRP仲介遊走
マウスの神経幹細胞に対する遊走誘発/化学誘引活性について、下記で述べる損傷条件下での接触走性遊走アッセイにおいて配列番号:1のNRPを試験した。
方法
星状細胞単層の作成:
P1(出生後1日目)のウィスター又はスプレーグ・ドーリー(SD)ラットを断頭して犠牲にした。皮質半球を取り出し、4mLのDMEMを含む別個のチューブに採集した(1皮質/チューブ)。この組織を機械的に磨り潰した。滅菌ピペットを用いて細胞を培養液中に移し、100umの細胞ろ過器から50mLの遠心管にろ過した。各チューブには50mLまでDMEMを入れた。このチューブを350xgにて5分間22℃で遠心した。細胞を40mLのDMEM+10%のFBSに再懸濁した。続いて細胞を5nMのオカダ酸(ocadaic acid)(アポトーシス細胞死を誘発することによってニューロンを除去するため)を含む12-ウェルプレートに播種し、37℃/10%CO2でボイデンチャンバーにて24時間インキュベートした。1日後に培養液+FBSを新しいDMEM+10%FBSに交換した。細胞の増殖をコンフルエントになるまで(14−18日)モニターした。
薬理学的及び機械的損傷:
単層星状細胞の損傷誘発は、星状細胞を活性化するために薬理学的物質である形質転換増殖因子β1(TGFβ1)及びそれと同時に単層の機械的スクラッチを用いて実施した。10ng/mLのTGFβ1を星状細胞単層に24時間投与した。さらに、星状細胞をメスで機械的に傷つけた(ウェルの底の端から端まで一掻き)。
前標識幹細胞の播種:
フルオレセインジアセテート標識した未分化のマウス胚神経幹細胞(NSC)をポリ-D-リジン(PDL;5μg/mL)被覆インサートに播種した。ボイデンチャンバーの下方区画には100fMのNRP-5 RG類似体D6A(配列番号:1)を加えた。
細胞固定:
インサートを廃棄し、ウェルをPFAの連続稀釈(0.4、1.2、3及び4%)で各稀釈に付き3−5分間固定した。前記ウェルをリンスし、さらにPFAの連続稀釈(0.4、1.2、3及び4%)で各稀釈に付き3−5分間保存した。ウェルを洗浄し、計測までPBS中で保存した。神経突起伸長を示し、さらに底部チャンバーに移動した全ての細胞を遊走細胞として数えた。
解析:
24時間後に蛍光によるコンピュータ処理画像化システム(Discovery-1)によって標識した細胞のうち遊走した幹細胞数を解析した。
結果
NRP-5 RG類似体D6A(配列番号:1;100fM)は、ビヒクル処理コントロールよりも多くの幹細胞(69.1%)の遊走を刺激した(図3B)。我々は、NRP-5 RG類似体D6Aはニューロン幹細胞の遊走を誘導し、このNRPは神経損傷又は神経疾患に付随する神経変性の治療に有用であり得ると結論した。
【0035】
実施例4:多発性硬化症モデルにおけるNRPの治療的及び予防的効果
NRPの治療的及び予防的効果を、ミエリン稀突起神経膠細胞糖タンパク質(MOG)によって誘発される実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)(多発性硬化症(MS)の公知の動物モデル)で調べた。
方法及び材料
動物:
雌のマウス(6−8週齢、C57Bl/6J系統、各々平均24g体重)を用いた。
NRPの調製:
NRP-5セグメントRG(配列番号:3)はアウスペップ(Auspep、オーストラリア)から供給された。前記はC-末端アミド化されたもので供給され、HPLCで決定したとき、95%を超える純度であった。配列は質量分析計で確認した。前記ペプチドは、使用までアルゴン下-80℃で凍結乾燥して保存した。ペプチドは使用の日にPBSで再構成した。他のNRPも上記のように提供された。
以下のNRPを使用した:
13-merのNRP-5セグメントRG(米国特許出願10/976,699号で開示された配列番号:30としても知られている)は、REGRRDAPGRAGG(配列番号:3)である。
25-merのNRP-4 GG(米国特許出願10/976,699号で開示された配列番号:29としても知られている)は、GTPGRAEAGGQVSPCLAASCSQAYG(配列番号:4)である。
24-merのNRP-7 SW(米国特許出願10/976,699号で開示された配列番号:24としても知られている)は、SEPEARRAPGRKGGVVCASLAADW(配列番号:5)である。
EAEの誘発:
完全フロイントアジュバント(Difco, Detrit, USA)中に200μgの脳炎誘発ペプチドMOG35-55(MEVGWYRSPFSRVVHLYRNGK;配列番号:6)を含む乳濁液200μLをC.S. Bio Co.(USA)から入手し(前記アジュバントは800μgのヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis, Difco, Detroit, USA)を含む)、一方の大腿部の皮下に注射した。マウスの腹腔内に400ngの百日咳毒素(List Biological Laboratories, USA)を直ちに、及び48時間後に再度注射した。
【0036】
処置
治療的処置:
疾患の最頂期(MOG-免疫後17日目)に、NRP-5RG(配列番号:3)を0.1μgペプチド/動物(4.16μg/kg)の日量で14日間動物の腹腔内に注射して治療した。
予防的処置:
MOG35-55による脳脊髄炎誘発チャレンジ後5日目から始めて14日間連続して、動物の腹腔内に薬剤を注射した。NRP-4 GG(配列番号:4)の用量は1ugペプチド/日で、NRP-7 SW(配列番号:5)の用量は0.2μgペプチド/日(8.33μg/kg)であった。
神経学的損傷の評価
マウスを毎日モニターし、以下のような恣意的臨床スコアを基準にして神経学的障害のスコアを記録した:0−臨床症状なし;1−尾の弛緩;2−後肢脱力;3−後肢麻痺;4−後肢脱力及び前肢脱力;5−対麻痺;6−死亡。
【0037】
結果
マウスのEAEに対するNRPの治療的効果:
疾患の最頂期に始めて連続14日間のNRPの腹腔内投与によって、処置群では平均臨床スコアが2.61から1.16に激減した。コントロール群で観察された効果は有意ではなかった(図4)。
【0038】
予防的効果:
EAEの動物では、疾患は典型的にはMOGによる免疫後10日から始まった。腹腔内注射はMOGによる免疫後5日目に開始し、18日目まで継続させた。
図5は、マウスのEAEに対する本発明の2つのNRPの効果を比較した実験の結果を示す。図5Aは、MOGによる免疫後のEAEの運動症状の進行の緩和におけるNRP-4GG(配列番号:4)の有効性を示すグラフを示している。Iは疾患の誘発を示し、Mは死亡率を示す。コントロール群では、9匹の動物の8匹が、臨床スコアの増加に反映されているように疾患の臨床症状を進行させた。NRP処置群では、発症率は10匹のうち8匹であった。両群で死亡率は0であった。
図5Bは、MOGによる免疫後のEAEの運動症状の進行の緩和におけるNRP-7SW(配列番号:5)の有効性を示す結果を示している。コントロール群の発症率は9匹のうち8匹であり、NRP処置群では9匹のうち7匹であった。EAEの進行の結果として死亡した動物はいない。
12日以降、NRP-4RGで処置した動物は、生理食塩水のみで処置したコントロール群と比較して疾患プロフィルの有意な緩和を示した(例えば運動欠陥の回復)。有意な改善は27日目(実験の最後の日)まで持続した。27日目のコントロール群の平均臨床スコアは2.0であり、NRP処置群のそれは1.0であった(図5A)。マウスNRP-7SWで処置した群では、生理食塩水のみで処置したコントロール群と比較して臨床スコアの有意な緩和が12日以降から観察された。コントロール群及びNRP処置群の平均はそれぞれ2.0及び0.5未満であった。
我々は、NRPは、脳の自己免疫疾患に付随する運動障害の治療に有用であり、ヒトの多発性硬化症の治療に有用であり得ると結論する。
【0039】
実施例5:末梢神経障害におけるNRPの効果
ヒトの末梢神経障害は、極めて大量のビタミンB6(ピリドキシン)の摂取によって開始され得る。6gまでの12−40ヶ月の経口投与によって進行性感覚神経障害が生じ、感覚運動失調、遠位肢の固有受容の低下、感覚異常、及び知覚過敏が示される(Dalton and Dalton, 1987;Foca, 1985;Schaumburg and Spencer, 1979)。続いて、Pary and Bredesen(1985)は、1日当たり200mgというわずかな量で前記症状を誘発することができ、一方、成人では推奨される毎日の摂取量は2−4mgであることを報告した。同様な作用が、高用量のピリドキシンに暴露された実験動物で観察され得る。したがって、ラットのピリドキシン誘発末梢神経障害の実験を、人間で観察される作用に直接適用することができる。特に、動物系におけるNRPの治療的有効性は、人間で観察される効果を合理的に予想させる。
したがって、我々は、ピリドキシンよって誘発された実験的末梢神経障害をもつラット(ヒトの異常の公知のモデル)でNRPの作用を調べた。ラットの実験では、8から15日間引き続いて600−700mgのピリドキシン/kg/日を腹腔内投与する投与スケジュールが用いられており、前記は、中間的ピリドキシン投薬を模倣して神経障害を与えるための技術として当技術分野で記載されている(Krinke et al. 1985;Xu et al. 1989;及びCallizot et al. 2001)。
【0040】
方法及び材料
この末梢神経障害の動物システムを用いて実施される全ての実験は、オークランド大学の動物倫理委員会(the Animal Ethics Commettee of the University of Auckland)によって承認されたプロトコルにしたがって実施された。投薬スケジュール及び運動障害の解析はCallizotら(2001)の論文にしたがって実施した。
動物:
成熟雄のスプラーグドーリーP50ラットをビヒクル群(n=9)及びNRP処置群(n=10)に分けた。ピリドキシンの最初の投与から24日でラットを過剰用量のペントバルビタール酸ナトリウムで殺した。
末梢神経障害の誘発:
1日目から全てのラットに1日2回、350mg/kgのピリドキシンを連続して8日間腹腔内に注射(IP)した。注射用ピリドキシン(Sigma)溶液は以下の割合を用いて作成した:1mLの水に95mgのピリドキシン及び重炭酸ナトリウム41mg。
薬剤処置:
1日目から10日目までビヒクル群(n=9)には24mMのシュクロースを毎日1回IP-注射し、NRP-処置群(n=10)ラットには4μg/kgのNRP-5セグメントGG類似体D4A(GRRAAPGRAGG-NH2;配列番号:2)(24mMシュクロースで稀釈)を投与した。凍結乾燥NRPはシュクロース或いはトレハロースの存在下で室温で保存した。腹腔注射(i.p.)毎に、NRP-5セグメントGG類似体D4Aを0.5Mシュクロース/トレハロース含有100μMペプチド濃度に再構成し、続いて実際の作業溶液、0.5μg/mLのNRP-5セグメントGG類似体D4A(24mMのシュクロースを含む)にPBSで稀釈した。250gの体重のラットに200μLの作業溶液を注射した。
【0041】
ピリドキシン処置後の体重減少の分析:
24日の実験期間中、動物の体重を毎日測定した。実験プロトコルにしたがい、体重の15%を超える体重減少を示した動物は直ちに殺した。コントロール動物の1匹をピリドキシン処置の4日目に殺した(コントロールn=9)。
ピリドキシン処置後の運動障害の分析:
全体的な運動障害は各ラットの歩調を以下のように評価することによって分析した:1)平坦表面上の歩行、及び2)木製ビームを渡る能力。この試験はピリドキシン注射後8、10、13、15、17、20及び24日目に実施した。
平坦表面に置いたときの動物の身体的動き:
特に動物の歩行に全く問題がなければ、前記動物のスコアを“0”とした。その歩調に外見的に問題があるようであれば、動物を上昇させた木製ビーム上に置いた。ビーム上に置いたとき動物が平衡を取ることに困難を示したならば、スコア“1”を与えた。動物が平坦な表面で後肢を腹部の下で縮める代わりに斜めに広げ、明らかにもがきながら歩こうとする場合は、スコアを“2”とした。ラットが重度の脱力、不動性を示すか、又は側面横臥の状態で横たわる場合は、この動物にスコア“3”を与えた。二方向ANOVAとそれに続くボンフェローニ(Bonferroni)後試験を統計解析に用いた。
【0042】
後肢内転試験:
各ラットがその後肢を内転させる(その足を体幹近くに維持する)能力を評価することによって、全体的な運動障害を分析した。ピリドキシン中毒によって動物はその足の位置が認識不能になる。この試験の際、各ラットは平坦表面の上方に垂直位に保持され、その後肢のフットパッドが表面に触れるようにゆっくりと下ろした。正常なラットは、両後肢による表面との接触を維持しようとして下方に向かって蹴ろうとし、即座に両後肢を体幹に引き寄せる(内転)であろう。これらの動物には“0”のスコアを与えた。わずかな遅延の後で両後肢を引き寄せたラットはスコアを“1”とした。表面と接触した後で一方の足のみを体幹に引き寄せるか、又は断続的態様で応答(一側性)したラットはスコアを“2”とし、最後に後肢を体幹に引き寄せることができなかったラットはスコアを“3”とした。試験は、8、10、13、15、17、20及び24日目に実施した。
ビーム歩行評価:
ビーム上の正確歩行試験を用いて、動物の協調運動を13、17及び24日目に評価した。簡単に記せば、ピリドキシン処置の前に、1日1回7日間動物を1.5mの長さのビーム上で慣らした(前記ビームは、ビームの中央を示す縦に2本の筋を有する)。0日目(ピリドキシン/NRP処置の1日前)にビーム上の運動行動の基準をビデオテープに収めた。13、17及び24日目に、動物をビーム上での7歩歩行に付し、以下の等級にしたがって各一歩についてスコアを付けた:スコア1−前記中央線上に肢を置く;スコア2−前記線の上部に肢を置く;スコア3−前記線の下部に肢を置く;スコア4−線の下に肢を置く。全スコアを7歩の歩行について加算し、ある時点での1被検動物についての合計スコアを示した。被検ラットがビーム上に立つことができるだけで歩くことができない場合はスコアを30とし、ビーム上に立つことができない場合にはスコアを32とした。
【0043】
結果
体重減少:
8日目(ピリドキシン処置終了)から21日目まで、NRP処置動物(NRP-5 GG類似体D4A(GRRAAPGRAGG-NH2;配列番号:2)の体重は、ビヒクル処置群の体重より有意に高かった(図6)。NRP処置動物(1日目の体重の96.3+1.2%)では、ピリドキシン処置の結果として体重減少が最高となる10日目のビヒクル群(1日目の体重の90.4%+1.2%)ほど体重は減少しなかった。最初の3.7%の体重減少の回復は、コントロール動物よりNRP処置群ではるかに迅速であった。21日目より後ではNRP処置群はビヒクル群より多くの体重を獲得する傾向にあった。
運動障害:
NRP処置群では運動障害スコアの極めて有意な低下が観察された。13日目の疾患のピーク時には、NRP処置群は実験を通して明白な困難さを示さないか、又はわずかな脱力を示しただけであるが(スコア:0.60+0.52)、コントロール群の全動物が障害された(スコア:1.44+0.53)。24日目には、NRP処置群の全動物が回復した(図7)。
後肢内転:
ビヒクル処置動物は、疾患最頂期(13日目から15日目の間)に後肢の遅延内転及び即時内転を示した(図8)。NRP-5GG類似体D4A(配列番号:2)で処置した動物は、内転行動を示さないか、又は断続的内転行動のみを示した。実験終了時に、NRP処置群の10匹の動物のうち9匹がマニュアル操作後に後肢内転症状を示さなかったが(スコア0.10+0.31)、コントロール群ではなお断続的内転の症状を示した(0.88+0.78)。後肢内転試験スコアにおける両群間の相違はきわめて有意であった。有意性は二方向ANOVAで解析した。
ビーム歩行:
13日目にはコントロール群の動物でビーム上に立てないものはいなかったが(32.00+0.00)、10匹のNRP(NRP-5GG 類似体D4A;配列番号:2)処置ラットのうち6匹は7歩歩行を達成した(スコア:23.50+2.46)。17日目には、1匹を除く全NRP処置動物が前記歩行を達成した(21.70+1.43)。対照的に、9匹のコントロール動物の6匹がなおビーム上で立つことができなかった(30.78±0.78)(図9)。24日目には、ビヒクル群とNRP処置群との間にはもはや有意さはなかった。二方向ANOVAとそれに続くボンフェローニー後試験を統計解析に用いた。
結論
我々は、NRPは末梢ニューロンの変性又は細胞死を防ぐか又は緩和することができ、種々の形態の末梢神経障害の予防又は治療に有効であると結論した。
【0044】
実施例6:トロホブラストの遊走、生存及び増殖に対するNRPの作用
方法及び材料
オークランド大学の倫理委員会(the Ethics Committee of the University of Auckland)の事前の承認および患者の同意を得て、ヒトトロホブラスト細胞を満期胎盤から単離した。母体の脱落膜を除去し、胎盤の絨毛性内側を露出させた。絨毛組織片を切り出し、PBSで十分に洗浄した後、0.25%トリプシンを用いて消化した。続いて、消化物をロックリンゲルバッファー及びDNAase I中で稀釈した。胎盤細胞の周囲の結合組織の消化は、磁石攪拌装置を用いて混合物を37℃で攪拌しながら実施した。このプロセスを8回繰り返し、最後の6回の上清をウシ胎児血清(FBS)を含むビンに採集した。この消化工程によって不均質な分散細胞調製物が生成された。プールした上清を1200rpmで7分間遠心した。細胞ペレットをPBSに再懸濁し遠心した。この後、赤血球溶解バッファー中で10分インキュベーションを実施し(最後の2分間ではFBS下層を含む)、続いて7分間遠心した。細胞をM199培養液に再懸濁し、再度遠心した。
続いて、細胞をパーコール勾配(5、20、30、35、40、50及び60%)を用いて精製した。前記勾配は、底に60%のパーコールを用い、勾配の最上部近くまで濃度を減少させながら調製した。細胞を5%のパーコール層に導入した。この細胞を20分間1200Gで遠心し、40%パーコールバンドにトロホブラストのバンドを残して、トロホブラストを残屑及び他の細胞タイプから分離した。
【0045】
細胞株
試薬:
ダルベッコーの改変イーグル培養液(DMEM;10566-016)、F-12栄養混合物(ham;11765-062)、ウシ胎児血清(FBS;10091-148)、トリプシン(25300-054)、及びPBS(14040-182)はインビトロゲン(Invitrogen, California, USA)から購入した。
バッファー及び溶液:
細胞培養液:10%FBS補充DMEM/F-12
細胞培養:
絨毛癌細胞(Jeg-3, BeWo and Jar; ATCC)を、同様な条件下でDMEM/F-12細胞培養液中でフィルタートップ付きの75cm2のフラスコ(Raylab)にて培養した。細胞を付着させ、95%/5%の空気/CO2で平衡させたインキュベーターでほぼ70%のコンフルエンシーまで増殖させてから、1xの濃度のトリプシン-EDTAを2mL添加することによって2から3日毎に分割した。1100rpmで5分間の遠心工程後、細胞を無菌的な組織培養フラスコ中の15mLの新しいDMEM/F-12に再懸濁し、前記インキュベーターに戻した。
【0046】
実験1:接触走性遊走アッセイ
接触走性遊走アッセイは、米国特許出願10/976,699(前記文献は参照により本明細書に含まれる)に記載のように用いた。
ボイデンチャンバーアッセイ:
NRPのトロホブラストに対する化学誘引作用を調べるために、細胞を12ウェルのボイデンチャンバー(トランスウェルプレート;Biolab)のインサート内に加えた。この場合、チャンバーは底部、側面及び底部の上方の多孔性膜インサートを有する。前記インサートの膜は、細胞が単に重力のために通過することができないような十分に小さな孔を有する。したがって、膜の下及びチャンバーの底から上方に間隙が存在する。培養液は、膜の上方レベルまで満たされるように加えられ、細胞は膜の上方のチャンバー部分に加えられる。膜の孔を通過して遊走する細胞は膜とチャンバーの底との間の間隙に侵入する。
コントロール条件下では、チャンバーの底は仮定的化学誘引物質で予め被覆されてはいない。試験条件下では、チャンバーの底には仮定的化学誘引物質が被覆されている(又は配置されている)。脱付着及びその後の化学誘引物質の培養液中への拡散によって、チャンバーの底から遠くへ向かって濃度減少勾配が生じる。化学誘引物質は膜の孔から拡散することができ、それによって生物学的に検出可能な濃度が膜の孔の内部及び膜の上部に生じる。ボイデンチャンバーの最上部に置かれた感受性細胞は、化学誘引物質の濃度勾配に反応することができ、膜の孔を通過しチャンバーの底へと遊走し、前記細胞はチャンバーの底部表面に付着することができる。そのような細胞は、RNA/DNAインターカレート剤(“染料”、例えば蛍光性生染色Syto24TM、又はフルオレセインジアセテート(FDA)としても知られている)を用い又は前記を用いずに顕微鏡法で同定することができるが、さらに蛍光顕微鏡法を用いて同定してもよい。非感受性細胞は化学誘引物質と反応せず、チャンバーの底へ遊走しない。したがって遊走細胞数を定量することができる。
蛍光生染色を適用して検出したとき、蛍光細胞は、ラミニン被覆マトリックス上のボイデンチャンバーの底に22時間以内に付着した。
【0047】
方法
初期NRPコーティング:
12μmのポアサイズをもつトランスウェル(商標)(TranswellTM)プレート(Corning)のコントロールウェルを1.5mLのウシ血清アルブミン/リン酸緩衝食塩水(BSA/PBS)ビヒクルで被覆した。残余のプレートは種々の濃度のNRP-5RG D6A類似体(配列番号:1;10ug/mLのBSAを含むPBS中で調製した0.1ng/mL)を用いて被覆した。続いてプレートを被覆のために37℃で1時間インキュベートした。続いてウェルを1mLの無菌的PBSで2回リンスした。
細胞外マトリックスコーティング:
ラミニン(7μg/mL)をトロホブラストのための細胞外マトリックス(ECM)コーティングとして用いた。すべてのECM化合物はPBSで稀釈した。ウェル当たり1.5mLのECMを室温で2時間インキュベートした。続いてウェルを、1mLの無血清培養液(例えばNB/B27)で1回洗浄し、続いて1mLのPBSでリンスした。
インサートのコーティング:
5ug/mLのPDL (ポリ-D-リジン)/PLL (ポリ-L-リジン)混合物(PBS中)を用いてインサートを被覆した。続いて、前記インサートを蒸留した脱イオン(“MilliQTM”)水でリンスした。
培養液への移転及び細胞播種:
適切な培養液を前記12ウェルプレートに移した。続いてこのプレートを37℃、5%CO2でインキュベートし、100fMのNRP-5RG D6A(配列番号:1)の存在下で前記インサートに50,000細胞を播種した。20時間後に、細胞を0.1μg/mLのSyto24とともに2時間インキュベートした。この後前記プレートを固定した。
固定:
インサートを廃棄し、ウェルをパラホルムアルデヒド(PFA)の連続稀釈(0.4、1.2、3及び4%)中で各稀釈につき3−5分固定した。前記ウェルをリンスし、さらにPFAの連続稀釈(0.4、1.2、3及び4%)で各稀釈に付き3−5分間保存した。ウェルを洗浄し、計測までPBS中で保存した。神経突起伸長を示し、さらに底部チャンバーに移動した全ての細胞を遊走細胞として数えた。
結果
NRPの処置は、高度に精製したトロホブラスト濃縮初代ヒト分娩胎盤組織分画に由来する遊走細胞の95%の増加をもたらした。
【0048】
実験2:トロホブラスト生存アッセイ
この実験シリーズでは、我々は、NRP-5RG D6Aは精製初代胎盤トロホブラストをTNF-アルファ仲介損傷から保護することができるか否かを調べた。
1.単離トロホブラストにおけるTNF-アルファ誘発細胞傷害性に対するNRPの効果
この実験では、我々は、30,000の新しく単離したトロホブラスト細胞をマイクロタイターウェルプレートの各ウェルにプレートし、続いて24時間NRP-5RG D6A(配列番号:1)とともに前インキュベーションを実施した。さらに、我々は、TNF-アルファ(5ng/mL;“低損傷”又は50ng/mL;“高損傷”)及びインターフェロンガンマ(100IU/100μL)による48時間損傷を導入した。細胞生存の分析結果は図11に示されている。
図11は、精製初代胎盤トロホブラストとNRP-5類似体D6A(配列番号:1)との24時間の前インキュベーションは、用量依存態様でTNF-アルファ仲介損傷から細胞を保護し、1pMの濃度で100%保護がもたらされることを示している。10pMの濃度では、NRPは保護性であるが、高濃度(1nM)では、NRPの作用は統計的に有意ではなかった。この効果は、TNF-アルファ毒素の2つの別個の適用濃度で非常に強い。
【0049】
2.不死化トロホブラスト細胞株におけるTNF-アルファ誘発細胞傷害性に対するNRPの効果
この実験では、我々は、ウェル当たり50,000のJAr細胞をプレートした。JAr細胞は、ヒト絨毛癌細胞に由来する細胞の不死化株である。ウェルを2時間、図12に表示の濃度でNRP-5RG D6A(配列番号:1)と、又は上皮増殖因子(EGF;5ng/mL)と前インキュベートした。続いて、細胞をTNF-アルファ(5ng/mL)及びインターフェロンガンマ(5ng/mL)に48時間暴露してストレスを誘発した。結果は図12に示されている。
図12は、EGF単独では、TNF-アルファ誘発細胞傷害性からJAr細胞を救済するためには弱い効果しか持たないことを示している。内部コントロールとして、我々は増殖誘導ペプチドEGFを用い、この実験条件下で細胞は公知の増殖物質に反応することができることを示した。我々は、EGFはTNF-アルファ損傷の非存在下ではトロホブラストの増殖を刺激することを示した。EGFの救済効果の欠如とは対照的に、我々は、予想に反してNRP-5RG D6A(配列番号:1)は濃度依存態様で救済効果をもたらすことを見出した。顕著な効果が10fMの濃度で観察され、最大効果は約1pMから約100pMの濃度で観察された。更なる濃度の増加(1nMまで)は救済効果を低下させた。
【0050】
実験3.トロホブラスト増殖アッセイ
細胞増殖はBrdUの取り込みによって決定し、トロホブラストの増殖に対するNRP-5RG D6Aの効果を調べた。EGFはトロホブラスト増殖強化に役割を果たすことが以前の実験(Maruo et al. 1992)で示されているので、EGF(0.8x10-9M)を陽性コントロールとして用いた。
最初に細胞をNRP-5RG D6A(配列番号:1)、EGF及びBrdU(0.05μM)で72時間処理した。BrdUは長期のインキュベーションで有毒であるので、最初の24時間後に80%の培養液を取り出した。72時間のインキュベーションに続いて、4%PFAで固定することによって反応を停止させた。しかしながら、この実験設計では、ほとんどのトロホブラストは72時間終了時までに合胞体を形成し、NRP-5RG D6Aのトロホブラストに対する増殖作用の正確な調査が妨害されるであろう。したがって、この実験設計を改変し、細胞を処理後24時間で固定した。これによって単核トロホブラストの増殖解析が可能になった。
初代ヒトトロホブラストのNRP-5RG D6Aによる処理は、10-14Mでトロホブラスト増殖の有意な増加をもたらした(図13)。NRP-5RG D6Aは、10-14Mで183.3±50.2%のトロホブラスト増殖増加をもたらし、一方、10-13Mではコントロールと比較して増殖増加は観察されなかった。より高濃度を同様に調べたが、10-14M以外のいずれのNRP-5RG D6A濃度でも増殖作用は検出されなかった(データは示さず)。EGFは、コントロールと比較してトロホブラスト増殖を116.7±44%増加させた。
結果
BrdU取込によるDNA合成評価により、NRP-5RG D6Aは10-14Mでトロホブラスト増殖の有意な増加をもたらすことが明らかになった。陽性コントロールとしてEGF(0.8x10-9M)を用い、トロホブラスト増殖の有意な増加が示された。細胞増殖は、0.05μMのBrdU、NRP-5RG D6A及びEGFで処理した培養液(1%血清)中に1.3x105細胞/cm2を播種した後24時間にわたって調べた(図13)。
【0051】
本発明をその固有の実施態様を参照しながら説明した。当業者は本明細書の開示及び教示を基にして他の実施態様を開発することができる。そのような実施態様はいずれも本発明の部分と考えられる。本明細書に引用した全ての参考文献は参照により完全に本明細書に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】NRP-5セグメントRG類似体D6A(配列番号:1)によるニューロンの生存及び増殖誘導を示す。図1は、0.1fMから100nMの広い投薬範囲にわたるNRP-5セグメントRG類似体D6Aの神経保護活性における効果を示す。スチューデントt-検定を統計解析に用いた(***p<0.001、N=4)。
【図2】NRP-5セグメントGG類似体D4A(配列番号:2)及びNRP-5セグメントRG類似体D6A(配列番号:1)の小脳細胞内での増殖誘導能力を示す。スチューデントt-検定を統計解析に用いた(*p<0.02、N=8)。
【図3A】NRPによるニューロン遊走誘発の実験結果のグラフを示す。図3Aは、NRP-5セグメントRG類似体D6A(配列番号:1)は、接触走性遊走アッセイを用いて示されるように、生理学的(非損傷)条件下でニューロン幹細胞(“NCS”)の誘引において化学誘引特性を示すことを示している。55.4%を超える細胞がNRP条件下で遊走していた。スチューデントt-検定を統計解析に用いた(**p<0.01、N=6)。
【図3B】NRPによるニューロン遊走誘発の実験結果のグラフを示す。図3Bは、NRP-5セグメントRG類似体D6A(配列番号:1)は、活性化した星状膠細胞単層(CNS損傷条件に類似する条件である(それらはSCI時に生じるので))への遊走を促進することを示す。69.1%を超える幹細胞がNRP条件下で遊走した。スチューデントt-検定を統計解析に用いた(***p<0.001、N=5)。
【図4】疾患のピーク時に投与されたとき、EAEのMS疾患モデルで生じる運動障害の重篤度を低下させるNRP-5セグメントRG(配列番号:3)の顕著な長期的潜在能力を示す。スコア1は最低スコアであり尾の弛緩のみを含み、一方、最高スコアは脆弱(スコア2)又は後肢の完全な麻痺(スコア3)を含む。クルスカル-ウォリス(Kruskal-Wallis)試験を統計解析に用いた(**p=0.01、N=9)。
【図5A】動物モデルの実験的アレルギー脳炎(EAE)の副作用の軽減におけるNRP-4GG(配列番号:4)の有効性を示す。
【図5B】動物モデルの実験的アレルギー脳炎(EAE)の副作用の軽減におけるNRP-7SW(配列番号:5)の有効性を示す。
【図6】ピリドキシン損傷後の実験時間枠中のビヒクル処理(n=9)及びNRP処理群(n=10)の平均体重を示す。二方向ANOVAテストをデータの統計解析に用いた(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
【図7】ピリドキシン処理後、実験8、10、13、15、17、20及び24日目に実施した運動評価試験の結果を示す。ボンフェローニー後テスト(Bonferroni posttest)を含む二方向ANOVAテストをデータの統計解析に用いた(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
【図8】ピリドキシン処理後、実験8、10、13、15、17、20及び24日目に実施した後肢内転行動試験の結果を示す。二方向ANOVAテストをデータの統計解析に用いた(***p<0.001)。
【図9】実験0、13、17及び24日目に実施した精密ビーム歩行試験の結果を示す。ボンフェローニー後テストを伴う二方向ANOVAテストを統計解析に用いた(**p<0.01、***p<0.001)。
【図10】ボイデンチャンバーアッセイにNRPを適用することによって、ヒト初代トロホブラストの遊走を顕著に強化することができることを示す。ボンフェローニー後テストを含む一方向ANOVAをデータの統計解析に用いた(**p=0.0016)。
【図11】TNFα仲介ヒトトロホブラスト細胞障害は、NRPとの前インキュベーションによって防ぐことができることを示す。ボンフェローニー後テストを含む一方向ANOVAをデータの統計解析に用いた(*p<0.05、**p<0.01)。
【図12】TNFα仲介ヒトトロホブラスト絨毛癌JAR細胞株仲介細胞障害は、NRPとの前インキュベーションによって用量依存態様で防ぐことができることを示す。ボンフェローニー後テストを含む一方向ANOVAをデータの統計解析に用いた(*p<0.05、**p<0.01)。
【図13】NRP-5 RG類似体D6A(配列番号:1)は、10-14Mでトロホブラスト増殖の顕著な増加をもたらすことを示す。提示のデータは、1つの実験に由来するプールした複製物の(n=4)の平均百分率値±SEM(コントロールに対して標準化)である(*p<0.05、**p<0.01、ポストhoc試験としてボンフェローニーを用いる一方向ANOVA)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:1、配列番号:2、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:14、配列番号:15または配列番号:20記載の配列からなるペプチド、又はそのC-末端アミド化ペプチドであって、神経生存、ニューロン増殖、ニューロン分化、トロホブラスト生存、トロホブラスト遊走、及びトロホブラスト増殖からなる群から選択される少なくとも1つの特性を示す、前記ペプチド。
【請求項2】
配列番号:1又は配列番号:2の配列からなる、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:14、配列番号:15および配列番号:20からなる群から選択されるペプチド又はそのC-末端アミド化ペプチドの医薬的に有効な量を、その必要がある哺乳動物に投与することを含む、神経学的又は産科的異常に関連する細胞変性及び/又は細胞死を治療する方法。
【請求項4】
異常が自己免疫疾患又は末梢神経障害に関連する神経学的異常である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
異常がトロホブラスト細胞の変性に関連する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
産科的異常が、子癇前症、又は溶血、肝酵素上昇、低血小板(HEELP)症候群を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
自己免疫疾患が多発性硬化症である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
末梢神経障害が、毒素、代謝不全、抗レトロウイルス療法、化学療法、又はヒト免疫不全ウイルス(HIV)によって誘発される、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
末梢神経障害が糖尿病性神経障害である、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
ペプチドが、下限が約0.01μg/kg及び上限が約0.1mg/kgである範囲で投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
ペプチドが配列番号:1及び配列番号:2からなる群から選択される配列を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
予め定めた量の、凍結乾燥した請求項1記載のNRP;
生理学的に適合し得る溶液;
前記NRPの投薬形を混合するためのバイアル;
混合装置;及び、
使用のための指示書、を含むキット。
【請求項13】
請求項1に記載のペプチド;
安定化剤;及び、
医薬的に許容できる賦形剤、
を含む処方物。
【請求項14】
安定化剤がシュクロース又はトレハロースである、請求項13に記載の処方物。
【請求項15】
シュクロース又はトレハロースが約0.5Mの濃度で存在する、請求項14に記載の処方物。
【請求項16】
ペプチドが、血管内、腹腔内、大脳半球間、脳室内、経口、子宮内、末梢循環、皮下、眼窩内、眼、脊髄内、小脳延髄槽内、局所、輸液、インプラント、エーロゾル、吸入、乱刺、腹腔内、関節包内、筋肉内、鼻内、頬、肺、直腸又は膣経路を介して投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項17】
配列番号:1、配列番号:2、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:14、配列番号:15および配列番号:20からなる群から選択される配列を有するペプチドをコードするオープンリーディングフレームを含むオリゴヌクレオチド、又は前記オリゴヌクレオチドの相補物を含む、組成物。
【請求項18】
開始配列、プロモーター、及び請求項17に記載のオリゴヌクレオチド配列を含むオープンリーディングフレームを含む複製可能ビヒクル。
【請求項1】
配列番号:1、配列番号:2、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:14、配列番号:15または配列番号:20記載の配列からなるペプチド、又はそのC-末端アミド化ペプチドであって、神経生存、ニューロン増殖、ニューロン分化、トロホブラスト生存、トロホブラスト遊走、及びトロホブラスト増殖からなる群から選択される少なくとも1つの特性を示す、前記ペプチド。
【請求項2】
配列番号:1又は配列番号:2の配列からなる、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:14、配列番号:15および配列番号:20からなる群から選択されるペプチド又はそのC-末端アミド化ペプチドの医薬的に有効な量を、その必要がある哺乳動物に投与することを含む、神経学的又は産科的異常に関連する細胞変性及び/又は細胞死を治療する方法。
【請求項4】
異常が自己免疫疾患又は末梢神経障害に関連する神経学的異常である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
異常がトロホブラスト細胞の変性に関連する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
産科的異常が、子癇前症、又は溶血、肝酵素上昇、低血小板(HEELP)症候群を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
自己免疫疾患が多発性硬化症である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
末梢神経障害が、毒素、代謝不全、抗レトロウイルス療法、化学療法、又はヒト免疫不全ウイルス(HIV)によって誘発される、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
末梢神経障害が糖尿病性神経障害である、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
ペプチドが、下限が約0.01μg/kg及び上限が約0.1mg/kgである範囲で投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
ペプチドが配列番号:1及び配列番号:2からなる群から選択される配列を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
予め定めた量の、凍結乾燥した請求項1記載のNRP;
生理学的に適合し得る溶液;
前記NRPの投薬形を混合するためのバイアル;
混合装置;及び、
使用のための指示書、を含むキット。
【請求項13】
請求項1に記載のペプチド;
安定化剤;及び、
医薬的に許容できる賦形剤、
を含む処方物。
【請求項14】
安定化剤がシュクロース又はトレハロースである、請求項13に記載の処方物。
【請求項15】
シュクロース又はトレハロースが約0.5Mの濃度で存在する、請求項14に記載の処方物。
【請求項16】
ペプチドが、血管内、腹腔内、大脳半球間、脳室内、経口、子宮内、末梢循環、皮下、眼窩内、眼、脊髄内、小脳延髄槽内、局所、輸液、インプラント、エーロゾル、吸入、乱刺、腹腔内、関節包内、筋肉内、鼻内、頬、肺、直腸又は膣経路を介して投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項17】
配列番号:1、配列番号:2、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:14、配列番号:15および配列番号:20からなる群から選択される配列を有するペプチドをコードするオープンリーディングフレームを含むオリゴヌクレオチド、又は前記オリゴヌクレオチドの相補物を含む、組成物。
【請求項18】
開始配列、プロモーター、及び請求項17に記載のオリゴヌクレオチド配列を含むオープンリーディングフレームを含む複製可能ビヒクル。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2009−505944(P2009−505944A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510293(P2008−510293)
【出願日】平成18年5月5日(2006.5.5)
【国際出願番号】PCT/US2006/017534
【国際公開番号】WO2006/121926
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(505353744)ニューレン ファーマシューティカルズ リミテッド (9)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月5日(2006.5.5)
【国際出願番号】PCT/US2006/017534
【国際公開番号】WO2006/121926
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(505353744)ニューレン ファーマシューティカルズ リミテッド (9)
【Fターム(参考)】
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