説明

神経変性障害のための遺伝子治療

脳および/または脊髄に対する疾患または損傷によって影響を受ける運動機能などの運動機能に影響を与える障害を処置するための組成物および方法を開示する。また、脊髄性筋萎縮症、筋萎縮性側索硬化症、球脊髄性筋萎縮症、脊髄性小脳運動失調、原発性側索硬化症および外傷性脊髄損傷などの運動ニューロン障害を処置するための自己相補的なアデノ随伴ウイルスベクターも開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は特許法第119条(e)(1)の下、2009年5月2日付で出願された米国特許仮出願第61/174/982号および2009年6月8日付で出願された同第61/268,059号の恩典を主張するものであり、これらの出願はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本発明は全体として、遺伝子送達法に関する。特に、本発明は、脳および/または脊髄に対する疾患または損傷によって影響を受ける運動機能のなどの運動機能に影響を与える障害を処置するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の説明
遺伝子治療は、中枢神経系(CNS)に影響を与える障害のための新たな処置様式である。CNSの遺伝子治療は、有糸分裂後のニューロンに効率的に感染できるウイルスベクターの開発によって容易になっている。中枢神経系は脊髄および脳で構成されている。脊髄は、末梢神経系から脳に感覚情報を伝導し、脳からさまざまなエフェクタに運動情報を伝導している。中枢神経系への遺伝子送達のためのウイルスベクターの概説は、Davidson et al., Nature Rev. (2003) 4:353-364を参照されたい。
【0004】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、好ましい毒性および免疫原性プロファイルを有し、神経細胞に形質導入でき、かつCNSにおいて長期の発現を媒介できるので、CNSの遺伝子治療に有用であると考えられている(Kaplitt et al., Nat. Genet. (1994) 8:148-154; Bartlett et al., Hum. Gene Ther. (1998) 9:1181-1186; およびPassini et al., J. Neurosci. (2002) 22:6437-6446)。
【0005】
AAVベクターの有用な特性の一つは、神経細胞において逆行性および/または非逆行性の輸送を行ういくつかのAAVベクターの能力にある。一つの脳領域中のニューロンは、遠位の脳領域に軸索によって相互接続されており、それによってベクター送達のための輸送システムを提供している。例えば、AAVベクターをニューロンの軸索終末の位置にまたはその近傍に投与してもよい。ニューロンは、AAVベクターを内部移行させ、軸索に沿って細胞体に逆行性の様式でそれを輸送している。アデノウイルス、HSVおよび仮性狂犬病ウイルスの類似の特性が、脳内の遠位の構造に遺伝子を送達することが示されている(Soudas et al., FASEB J. (2001) 15:2283-2285; Breakefield et al., New Biol. (1991) 3:203-218; およびdeFalco et al., Science (2001) 291:2608-2613)。
【0006】
何人かの実験者は、AAV血清型2 (AAV2)による脳の形質導入が頭蓋内の注入部位に限られていることを報告している(Kaplitt et al., Nat. Genet. (1994) 8: 148-154; Passini et al., J. Neurosci. (2002) 22:6437-6446; およびChamberlin et al., Brain Res. (1998) 793:169-175)。AAVベクターおよびレンチウイルスベクターを含む、神経栄養ウイルスベクターの逆行性軸索輸送が、正常なラットの脳の選択回路においても起こりうるという証拠も存在する(Kaspar et al., Mol. Ther. (2002) 5:50-56; Kasper et al., Science (2003) 301:839-842およびAzzouz et al., Nature (2004) 429:413-417)。Roaul et al., Nat. Med. (2005) 11(4):423-428およびRalph et al., Nat. Med. (2005) 11(4):429-433によれば、サイレンシング用ヒトCu/Znスーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)干渉RNAを発現するレンチウイルスの筋肉内注入が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の疾患発症を、治療的に関連するALSげっ歯動物モデルにおいて遅らせたことが報告されている。
【0007】
AAVベクターによって形質導入された細胞は、酵素または神経栄養因子などの治療用導入遺伝子産物を発現し、細胞内で有益な効果を媒介しうる。これらの細胞はまた、治療用導入遺伝子産物を分泌し、その後、治療用導入遺伝子産物は遠位の細胞に取り込まれ、そこでその有益な効果を媒介しうる。この過程はクロスコレクション(cross-correction)として記述されている(Neufeld et al., Science (1970) 169:141-146)。
【0008】
上記の組換えAAVベクターの特性は、一本鎖DNA (ssDNA) AAVゲノムが、コードされた導入遺伝子の発現の前に二本鎖DNA (dsDNA)に変換されなければならないという要件である。この段階は、複数のベクターゲノム間でのDNA合成または塩基対合を要せずにdsDNAに折り重なる逆向きの反復ゲノムをパッケージングする自己相補的ベクターの使用によって回避され、それによってAAV媒介性の遺伝子移入の効率を高めることができる。自己相補的AAVベクターの概説については、例えば、McCarty, D.M. Molec. Ther. (2008) 16:1648-1656を参照されたい。
【0009】
脊髄性筋萎縮症(SMA)は、生存運動ニューロン1 (SMN1)遺伝子における変異によっておよびコードされるSMNタンパク質の喪失によって引き起こされる常染色体劣性神経筋障害である(Lefebvre et al., Cell (1995) 80:155-165)。SMNの喪失は脊髄の前角(ventral horn)(脊髄前角(anterior horn))における運動ニューロンの変性を引き起こし、これが、はい歩き、歩行、頸部制御および嚥下に関わる近位筋、ならびに呼吸および咳嗽を制御する不随意筋の衰弱につながる(Sumner C.J., NeuroRx (2006) 3:235-245)。その結果、SMA患者は肺炎および拘束性肺疾患などの他の肺の問題の傾向増大を呈する。発病および重症度は、一つには、少量のSMNにすることができる表現型変更遺伝子SMN2によって決定される(Monani et al., Hum. Mol. Genet. (1999) 8:1177-1183; Lorson et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1999) 96:6307-6311)。したがって、高いSMN2コピー数(3〜4コピー)を有する患者は、あまり重篤ではない病態(II型またはIII型ともいわれる)を示すのに対し、1〜2コピーのSMN2では、通例、いっそう重篤なI型疾患を引き起こす(Campbell et al., Am. J. Hum. Genet. (1997) 61:40-50; Lefebvre et al., Nat. Genet. (1997) 16:265-269)。現在、SMAに有効な治療はない。
【0010】
この単一遺伝子病を処置するための基礎的な戦略は、SMA患者においてSMNレベルを増大することである。これを達成するための手法の一つは、SMN2プロモーターを活性化するまたはSMN2プレmRNAスプライシングパターンを是正する小分子で内因性SMN2遺伝子を調節することである。SMN2スプライシングの改変をアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびトランス・スプライシングRNAで実現することもできる。しかし、インビトロでのSMN2の調節はSMA細胞株においてSMNレベルを増大し、核ジェム(nuclear gem)を再構築したが、小分子薬による有効性の研究は医療機関で測定可能な改善につながっていない(Oskoui et al., Nerotherapeutics (2008) 5:499-506)。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、従来の組換えAAV (rAAV)ビリオンも、組換え自己相補的AAVベクター(scAAV)も、CNSに遺伝子を送達し、CNS中で成功裏に発現させて、神経変性疾患を処置できるという発見に基づく。神経病理の少なくとも部分的な是正をもたらす治療用分子をコードする遺伝子の送達に向けたこの治療法は、SMAを含めて、種々の神経変性障害を処置するための非常に望ましい方法を提供する。
【0012】
したがって、一つの態様において、本発明は、運動ニューロン障害を有する対象において運動機能を調節するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、自己相補的なアデノ随伴ウイルス(scAAV)ベクターに関する。ある種の態様において、運動ニューロン障害は脊髄性筋萎縮症(SMA)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、球脊髄性筋萎縮症、脊髄性小脳運動失調、原発性側索硬化症(PLS)または外傷性脊髄損傷から選択される。
【0013】
さらなる態様において、scAAVベクター中に存在するポリヌクレオチドは、生存運動ニューロン(SMN)タンパク質をコードする。ある種の態様において、SMNタンパク質はヒトSMN-1である。さらなる態様において、SMN-1は、図9Bに示された配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。さらなる態様において、SMN-1は、図9Bに示されたアミノ酸配列を含む。
【0014】
さらにさらなる態様において、本発明は、上記のscAAVベクターを含む組換えAAVビリオンに関する。
【0015】
さらなる態様において、本発明は、上記の組換えAAVビリオンおよび薬学的に許容される賦形剤を含む、組成物に関する。
【0016】
さらなる態様において、本発明は、上記の組成物の治療的に有効な量を対象の細胞に投与する段階を含む、運動ニューロン障害を有する該対象において運動機能を調節する方法に関する。ある種の態様において、組成物はインビトロの細胞に投与されて細胞に形質導入し、形質導入された細胞が対象に投与される。代替的な態様において、組成物はインビボの細胞に投与される。
【0017】
さらなる態様において、本発明は、上記のAAVベクターを含む組換えAAVビリオンを、それを必要とする対象の細胞に投与する段階を含む、脊髄性筋萎縮症(SMA)を有する対象にSMNタンパク質を提供する方法に関する。ある種の態様において、組成物はインビトロの細胞に投与されて細胞に形質導入し、形質導入された細胞が対象に投与される。代替的な態様において、組成物はインビボの細胞に投与される。
【0018】
上記の方法のそれぞれにおいて、組成物は直接脊髄注入によって投与することができる。他の態様において、組成物は脳室内注入によって投与される。さらなる態様において、組成物は側脳室へ投与される。ある種の態様において、組成物は両方の側脳室へ投与される。他の態様において、組成物は脳室内注入および直接脊髄注入の両方によって投与される。さらなる態様において、組成物はくも膜下注入によって投与される。
【0019】
本発明のこれらのおよび他の態様は、本明細書における開示を考慮すれば当業者には容易に想到されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】AAVhSMN1処置マウス 対 未処置SMAマウスの生存を示す。AAVhSMN1による処置はSMAマウスの生存を増大した。未処置SMAマウス(n = 34、白丸)は15日の平均寿命を有していた。P0時にAAVhSMN1で処置されたSMAマウス(n = 24、黒丸)は、50日の平均寿命を有し(p < 0.0001)、これは寿命の+233%の増大であった。
【図2】図2A〜2Cは、脊髄におけるSMNレベルに対する遺伝子治療処置の効果を示す。示されるのは未処置SMAマウスおよび野生型マウスと比べて、注入された腰部(図2A)、胸部(図2B)および頸部(図2C)におけるhSMNタンパク質レベルである。ウエスタンブロットを注入後16日、58〜66日および120〜220日の時点で脊髄の腰部、胸部および頸部に関して行った。この三部分由来のウエスタンブロットを定量化し、タンパク質レベルを制御するため、SMNをβ-チューブリンに対して規準化し、同齢の野生型の割合としてプロットした。略語一覧(およびn値): SMAは未処置ノックアウト(16日の時点でn = 5); AAVはAAV8-hSMN処置SMAマウス(16日の時点でn = 7、58〜66日の時点でn = 5); scAAVはscAAV8-hSMN処置SMAマウス(各時点でn = 5)。値は平均 ± SEMを表す。
【図3】図3A〜3Jは、処置SMAマウスおよび未処置SMAマウスの脊髄の運動ニューロンにおけるhSMNタンパク質の細胞内分布および発現を示す。hSMNタンパク質は、形質導入細胞の細胞質において豊富に検出された(図3Aおよび3B)。さらに、hSMNタンパク質は、挿入画の中で拡大されたジェム様(gem-like)構造(矢印)の対によって図示される通り、核の中に検出された(図3A)。hSMNタンパク質はニューロンの樹状突起(図3Bおよび3C)ならびに軸索(図3D)の中にも検出された。hSMNタンパク質は未処置SMAマウス由来の組織切片では検出できなかった(図3E)。hSMNタンパク質(図3F)とマウスChAT (図3G)との同時局在から、形質導入細胞のサブセットが運動ニューロンであることが示された(図3Hおよび3I)。hSMNタンパク質について免疫陽性であったChAT細胞の割合を16 (白いバー)日および58〜66 (黒いバー)日の時点で判定した(図3J)。値は平均 ± SEMを表す。
【図4】処置SMAマウスおよび未処置SMAマウスの脊髄中の運動ニューロン細胞数を示す。示されるのは、各群ごとの10 μmの組織切片にて計測されたChAT免疫陽性ニューロンの平均数である。数字は、頸部、胸部、腰部および仙骨部というさまざまな水準からの切片10枚毎の計数を表す。値は平均 ± SEMを表す。略語一覧: , p < 0.05; **, p < 0.01; ***, p < 0.001。
【図5】図5A〜5Cは、処置SMAマウスおよび未処置SMAマウスにおける筋肉群由来の筋線維断面積を示す。複数の筋肉群由来の筋線維断面積がAAVhSMN1処置で増した。16 (図5A)日および58〜66 (図5B)日由来の四頭筋、腓腹筋および肋間筋の積み重ねグラフから、筋線維サイズの分布が処置SMAマウスと野生型マウスとの間で類似していることが示された。16日の時点の全平均から、筋線維断面積が処置によって顕著に高いことが示された(図5C)。さらに58〜66日の時点で、平均面積は腓腹筋および肋間筋において処置SMAマウスと、同齢の野生型との間で統計的に類似していた(図5C)。値は平均 ± SEMを表す。略語一覧: WTは未処置野生型; HETは未処置ヘテロ接合体; SMAは未処置ノックアウト; AAVはAAVhSMN1処置SMAマウス; , p < 0.05; **, p < 0.01; ***, p < 0.001。
【図6】図6A〜6Fは、処置SMAマウスおよび未処置SMAマウスの筋肉におけるNMJの構造を示す。四頭筋、腓腹筋および肋間筋における構造は遺伝子治療で改善された。示されるのは、16日の時点の未処置SMA (図6A)マウス、処置SMA (図6B)マウスおよび未処置野生型(図6C)マウスの四頭筋由来の、ならびに58〜66日の時点の処置SMA (図6D)マウスおよび未処置野生型(図6E)マウスのもの由来の神経筋接合部(NMJ)である。シナプス前およびシナプス後のNMJをそれぞれ、神経フィラメント抗体(緑色)で、およびα-ブンガロトキシン染色(赤色)で標識した。主パネル中の矢印は、挿入画の中で強調されているNMJを指し示す。動物1匹あたり各筋肉ごとに少なくとも100個のNMJを無作為にスコア化した。正常なNMJは、図6Aに示された神経フィラメントタンパク質の異常な蓄積を示さなかったシナプス前末端を有するものと定義された。図6F中の値は平均 ± SEMを表す。略語一覧: WTは未処置野生型; HETは未処置ヘテロ接合体; SMAは未処置ノックアウト; AAVはAAVhSMN1処置SMAマウス; , p < 0.05; **, p < 0.01; ***, p < 0.001。スケールバー 20 μm。
【図7】図7A〜7Fは、処置SMAマウスおよび未処置SMAマウスにおける行動試験の結果を示す。処置SMAマウスは行動試験に関して顕著な改善を示した。処置SMA (星印)マウスおよび未処置野生型(WT)マウスは、16日の時点で未処置SMAマウス(「x」と標識)よりも実質的に健康であった(図7A)。処置SMAマウスはまた、11日目以降、未処置SMA対照よりも顕著に重かった(図7B)。処置SMAマウスは立ち直り反射(図7C)試験、負の走地性(図7D)試験、握力(図7E)試験および後肢開脚(図7F)試験に関して未処置SMAマウスよりも顕著に良好に行動した。処置SMAマウスは12〜16日の時点で立ち直り反射および負の走地性試験に関して野生型およびヘテロ接合体マウスと統計的に同一であった(図7Cおよび7D)。値は平均 ± SEMを表す。略語一覧: 未処置WTマウス(白丸)、未処置ヘテロ接合体マウス(白三角); 未処置SMAマウス(白四角); AAVhSMN1処置SMAマウス(黒四角); , p < 0.05; **, p < 0.01; ***, p < 0.001。
【図8】scAAVhSMN1処置マウスおよび未処置マウスの生存を示す。scAAVhSMN1による処置はSMAマウスでの生存を増大した。P0の時点でscAAVhSMN1により処置されたSMAマウス(n = 17、黒三角)は、未処置SMAマウス(n = 47、白丸)での16日と比べて、157日の平均寿命(p < 0.0001)を有していた。
【図9】図9A〜9Bは、(SEQ ID NO: 1および2)は代表的なヒト生存運動ニューロン(SMN1)遺伝子のコードDNA配列(図9A)および対応するアミノ酸配列(図9B)を示す。
【図10】図10A〜10Fは、scAAV8-hSMNの発現がSMAマウスにおいて運動ニューロン数を増大し、NMJを改善することを示す。図10Aは、注入後16日の時点で胸部-腰部においてhSMNの発現と同時局在していたmChAT免疫陽性細胞の割合を示す。図10B〜10Fは、16日、58〜66日および214〜269日の時点の腰部(図10B)、胸部(図10C)および頸部(図10D)におけるmChAT免疫陽性細胞の平均数、ならびに四頭筋(図10E)および肋間筋(図10F)における崩壊したNMJの平均割合を示す。図10Eおよび10Fの参照基準として、未処置SMAマウスの四頭筋および肋間筋におけるNMJの75〜90%に16日の時点で異常な崩壊構造が含まれていた(図6F参照)。略語一覧およびn値: SMAは未処置ノックアウト(白いバー、16日の時点でn = 8)、AAVはAAV8-hSMN (斜線バー、16日の時点でn = 8、58〜66日の時点でn = 5); scAAVはscAAV8-hSMN (黒いバー、各時点でn = 5); WTは未処置WT (格子縞のバー、16日の時点でn = 8、58〜66日および216〜269日の時点で各n = 5)。値は平均 ± SEMを表す。統計比較を16日の時点で一元配置ANOVAおよびボンフェローニ多重事後検定により行った(図10B〜10F)。対応のない両側スチューデントt検定によって、1) 16日(図10A)および58〜66日(図10B〜10D)の時点で二つのベクターを互いと比較し; 2) scAAV8-hSMN処置での58〜66日および214〜269日の群におけるChAT細胞の相対数を比較し(図10B〜10D); 3) 214〜269日の時点で同齢の未処置WTマウスとscAAV8-hSMN処置SMAマウスとの間の異常なNMJの相対数を比較した(E、F); p <0.05, **p <0.01, ***p <0.001。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明の詳細な説明
本発明の実施では、他に指定のない限り、当技術分野の技術の範囲内で化学、生化学、組換えDNA技術および免疫学の従来の方法を用いる。このような技術は文献で十分に説明されている。例えば、Fundamental Virology, 2nd Edition, vol. I and II (B.N. Fields and D.M. Knipe, eds.); Handbook of Experimental Immunology, VoIs. I-IV (D.M. Weir and C.C. Blackwell eds., Blackwell Scientific Publications); T.E. Creighton, Proteins: Structures and Molecular Properties (W.H. Freeman and Company, 1993); A.L. Lehninger, Biochemistry (Worth Publishers, Inc., current addition); Sambrook, et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd Edition, 1989); Methods In Enzymology (S. Colowick and N. Kaplan eds., Academic Press, Inc.)を参照されたい。
【0022】
本明細書において引用される全ての刊行物、特許および特許出願は、前述または後述にかかわらず、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0023】
1. 定義
本発明について記述するうえで、以下の用語が用いられ、以下に示される通りに定義されるものとする。
【0024】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられる場合、「一つの(a)」、「一つの(an)」および「その(the)」という単数形は、文脈上明らかにそうでないことが示されない限り、複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。したがって、例えば、「インターロイキン受容体(an interleukin receptor)」への言及は、2つまたはそれ以上のこのような受容体の混合物などを含む。
【0025】
本明細書において互換的に用いられる用語「ポリペプチド」および「タンパク質」またはそれらをコードするヌクレオチド配列は、それぞれ、天然配列、その変種またはその断片のいずれかを表すタンパク質またはヌクレオチド配列をいう。シグナル配列を持つまたは持たない全長タンパク質、およびその断片、ならびに天然配列に対して(本質的に、保存的かまたは非保存的かのいずれかの)欠失、付加および置換などの改変を有するタンパク質は、タンパク質が所望の活性を維持している限り、本明細書での使用が意図される。これらの改変は、部位特異的突然変異誘発によるなど、意図的であっても、またはタンパク質を産生する宿主の変異もしくはPCR増幅に起因する誤りによるなど、偶発的であってもよい。したがって、親配列に対して実質的に相同の活性なタンパク質、例えば、天然分子の所望の活性を保持している、70%...80%...85%...90%...95%...98%...99%などの同一性を有するタンパク質は、本明細書での使用が企図される。
【0026】
生存運動ニューロン(SMN)ポリペプチドのなどの「天然」ポリペプチドは、自然界に由来する対応の分子と同じアミノ酸配列を有するポリペプチドをいう。そのような天然配列は自然界から単離されても、または組換え手段もしくは合成手段によって産生されてもよい。「天然」配列という用語は、特定分子(例えば、細胞外ドメイン配列)の天然の切断型または分泌型、天然の変種型(例えば、オルタナティブスプライス型)およびポリペプチドの天然の対立遺伝子変種を具体的に包含する。本発明のさまざまな態様において、本明細書において開示される天然分子は、添付図に示される全長アミノ酸配列を含む成熟または全長天然配列である。しかし、添付図に開示される分子のなかには図中でアミノ酸位置1と指定されているメチオニン残基から始まるものもあるが、図中でアミノ酸位置1から上流または下流のいずれかに位置する他のメチオニン残基も特定の分子の出発アミノ酸残基として使用されてもよい。あるいは、使われる発現システムに依り、本明細書において記述される分子はN末端メチオニンを欠いてもよい。
【0027】
「変種」とは、対応する全長天然配列、シグナルペプチドを欠くポリペプチド、シグナルペプチドを持つもしくは持たない、ポリペプチドの細胞外ドメイン、または本明細書において開示される全長ポリペプチド配列のその他任意の断片と少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性を有する本明細書において定義の活性なポリペプチドを意味する。そのようなポリペプチド変種は、例えば、一つまたは複数のアミノ酸残基が全長の天然アミノ酸配列のN末端および/またはC末端の位置で、付加されまたは欠失されている、ポリペプチドを含む。通常、変種は、対応する全長天然配列に対して少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも約81%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも約82%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも約83%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも約84%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも約85%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも約86%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも約87%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも約88%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも約89%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも約90%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも約91%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも約92%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも約93%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも約94%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも約95%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも約96%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも約97%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも約98%のアミノ酸配列同一性およびまたは少なくとも約99%のアミノ酸配列同一性を有すると考えられる。通常、変種ポリペプチドは、長さが少なくとも約10アミノ酸、例えば長さが少なくとも約20アミノ酸など、例えば、長さが少なくとも約30アミノ酸、または長さが少なくとも約40アミノ酸、または長さが少なくとも約50アミノ酸、または長さが少なくとも約60アミノ酸、または長さが少なくとも約70アミノ酸、または長さが少なくとも約80アミノ酸、または長さが少なくとも約90アミノ酸、または長さが少なくとも約100アミノ酸、または長さが少なくとも約150アミノ酸、または長さが少なくとも約200アミノ酸、または長さが少なくとも約300アミノ酸、あるいはそれ以上である。
【0028】
特に好ましい変種は、本質的に保存的である置換、すなわち、その側鎖において関連するアミノ酸のファミリー内で行われる置換を含む。具体的には、アミノ酸は一般に4つのファミリー: (1) 酸性 - アスパラギン酸塩およびグルタミン酸塩; (2) 塩基性 - リジン、アルギニン、ヒスチジン; (3) 非極性 - アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン; および(4) 非荷電極性 - グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニン、チロシンに分類される。フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンは場合により芳香族アミノ酸として分類される。例えば、ロイシンのイソロイシンもしくはバリンによる、アスパラギン酸塩のグルタミン酸塩による、トレオニンのセリンによる単離置換、またはアミノ酸の構造的に関連するアミノ酸による同様の保存的置換が生物活性に大きな影響を与えないことは、合理的に予測可能である。例えば、関心対象のポリペプチドは、分子の所望の機能が損なわれないままである限り、約5〜10個までの保存的もしくは非保存的アミノ酸置換、または約15〜20もしくは50個までの保存的もしくは非保存的アミノ酸置換、または5〜50個の間の任意の数の保存的もしくは非保存的アミノ酸置換を含みうる。
【0029】
「相同性」は、2つのポリヌクレオチドまたは2つのポリペプチド部分の間のパーセント同一性をいう。2つのDNA、または2つのポリペプチド配列は、配列が分子の規定の長さにわたって少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約75%、より好ましくは少なくとも約80%〜85%、好ましくは少なくとも約90%、および最も好ましくは少なくとも約95%〜98%の配列同一性を示す場合、相互に対して「実質的に相同性」である。本明細書において用いられる場合、実質的相同性は、指定のDNAまたはポリペプチド配列に対して完全な同一性を示す配列もいう。
【0030】
一般に「同一性」は、2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の、それぞれ、正確なヌクレオチド対ヌクレオチドまたはアミノ酸対アミノ酸の対応をいう。パーセント同一性は、配列を並べ、並べられた2つの配列間の正確な一致数をカウントし、短い方の配列の長さで割り、かつその結果に100を乗じることによる2分子間の配列情報の直接的な比較により判定されうる。ペプチド解析のためにSmith and Waterman Advances in Appl. Math. 2:482-489, 1981の局所相同性アルゴリズムを採用する、ALIGN, Dayhoff, M.O. Atlas of Protein Sequence and Structure M.O. Dayhoff ed., 5 Suppl. 3:353-358, National Biomedical Research Foundation, Washington, DCなどの、容易に利用可能なコンピュータプログラムを用いて解析を補助することができる。ヌクレオチド配列の同一性を判定するためのプログラム、例えば、Smith and Watermanアルゴリズムに同じく依存するBESTFIT、FASTAおよびGAPプログラムはWisconsin Sequence Analysis Package, Version 8 (Genetics Computer Group, Madison, WIから入手可能な)において利用可能である。これらのプログラムは、製造業者によって推奨されおよび上述したWisconsin Sequence Analysis Packageに記述されているデフォルトパラメータで容易に使用される。例えば、基準配列に対する特定のヌクレオチド配列のパーセント同一性は、デフォルトのスコアリング表および6個のヌクレオチド位置のギャップペナルティでSmith and Watermanの相同性アルゴリズムを用いて判定されうる。
【0031】
本発明との関連でパーセント同一性を確立する別の方法は、エジンバラ大学が著作権を有し、John F. CollinsおよびShane S. Sturrokが開発し、IntelliGenetics, Inc. (Mountain View, CA)が配布しているプログラムのMPSRCHパッケージを用いることである。このパッケージソフトから、デフォルトパラメータ(例えば、ギャップ開始ペナルティ12、ギャップ伸長ペナルティ1、およびギャップ6)がスコアリング表に使用されるSmith-Watermanアルゴリズムが使用されうる。生成されたデータから、「Match」値は「配列同一性」を反映する。配列間のパーセント同一性または類似性を計算するのに適した他のプログラムは一般に、当技術分野において公知であり、例えば、別のアライメントプログラムは、デフォルトパラメータで用いられるBLASTである。例えば、BLASTNおよびBLASTPは、次のデフォルトパラメータを用いて使用されうる: 遺伝暗号=標準; フィルタ=なし; 鎖=両方; カットオフ=60; 予想=10; マトリックス=BLOSUM62; 記述=50配列; ソート=HIGH SCORE; データベース=非冗長性, GenBank + EMBL + DDBJ + PDB + GenBank CDS翻訳 + Swiss protein + Spupdate + PIR。これらのプログラムの詳細は当技術分野において周知である。
【0032】
あるいは、相同性は、相同領域の間で安定な二重鎖を形成する条件下でのポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションと、それに続く一本鎖特異的ヌクレアーゼによる消化、および消化された断片のサイズ判定によって決定されうる。実質的に相同性であるDNA配列は、例えば、その特定のシステムについて定義される、ストリンジェントな条件下でのサザンハイブリダイゼーション実験において同定されうる。適切なハイブリダイゼーション条件の定義は当技術分野の技術の範囲内である。例えばSambrookら、前記; DNA Cloning、前記; Nucleic Acid Hybridization、前記を参照されたい。
【0033】
用語「縮重変種」とは、縮重変種が由来するポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと同じアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする、その核酸配列の中に変化を含んだポリヌクレオチドを意味する。
【0034】
「コード配列」または選択したポリペプチドを「コードする」配列は、適切な調節配列の制御下に配置される場合にインビボで転写(DNAの場合)され、ポリペプチドへ翻訳(mRNAの場合)される核酸分子である。コード配列の境界は、5' (アミノ)末端の開始コドンおよび3' (カルボキシ)末端の翻訳停止コドンによって決定される。転写終結配列はコード配列の3'側に位置しうる。
【0035】
「ベクター」とは、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、染色体、ウイルス、ビリオンなどのような、任意の遺伝学的要素を意味し、これらは、適切な制御要素と結び付けられると複製可能であり、遺伝子配列を細胞へ移入することができる。したがって、この用語はクローニング媒体および発現媒体、ならびにウイルスベクターを含む。
【0036】
「組換えベクター」とは、インビボで発現可能である異種核酸配列を含むベクターを意味する。
【0037】
「組換えウイルス」とは、例えば、粒子への異種核酸構築体の添加または挿入によって、遺伝的に改変されたウイルスを意味する。
【0038】
「導入遺伝子」という用語は、細胞へ導入され、RNAへ転写されうる、任意で、適切な条件の下で翻訳および/または発現されうるポリヌクレオチドをいう。一つの局面において、導入遺伝子は、導入された細胞に所望の特性を与えるか、さもなければ所望の治療結果または診断結果をもたらす。
【0039】
ウイルス価に関連して用いられる「ゲノム粒子(gp)」または「ゲノム等価物」という用語は、感染性または機能性にかかわらず、組換えAAV DNAゲノムを含むビリオンの数をいう。特定のベクター調製物中のゲノム粒子の数を、本明細書の実施例に、または例えば、Clark et al., Hum. Gene Ther. (1999) 10:1031-1039; およびVeldwijk et al., Mol. Ther. (2002) 6:272-278に記述されているような手順によって測定することができる。
【0040】
ウイルス価に関連して用いられる「感染単位(iu)」、「感染粒子」または「複製単位」という用語は、例えばMcLaughlin et al., J. Virol. (1988) 62:1963-1973に記述されている通り、複製中心アッセイ法としても公知の、感染中心アッセイ法によって測定される感染性の組換えAAVベクター粒子の数をいう。
【0041】
ウイルス価に関連して用いられる「形質導入単位(tu)」という用語は、本明細書の実施例に、または例えば、Xiao et al., Exp. Neurobiol. (1997) 144:113-124に; もしくはFisher et al., J. Virol. (1996) 70:520-532 (LFUアッセイ法)に記述されているような機能アッセイ法において測定される機能性の導入遺伝子産物の産生をもたらす感染性の組換えAAVベクター粒子の数をいう。
【0042】
「トランスフェクション」という用語は、細胞による外来DNAの取り込みをいうように用いられ、外因性DNAが細胞膜の内側に導入されている場合に細胞は「トランスフェクトされ」ている。いくつかのトランスフェクション技術は一般に、当技術分野において公知である。例えば、Graham et al. (1973) Virology, 52:456、Sambrook et al. (1989) Molecular Cloning, a laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratories, New York、Davis et al. (1986) Basic Methods in Molecular Biology, ElsevierおよびChu et al. (1981) Gene 13:197を参照されたい。このような技術を用いて、一つまたは複数の外因性DNA部分を適当な宿主細胞へ導入することができる。
【0043】
「異種」という用語は、コード配列および制御配列などの核酸配列に関する場合、通常は一緒に連結していない配列、および/または特定の細胞に通常は関連していない配列を示す。したがって、核酸構築体またはベクターのうちの「異種」領域は、他の分子とは自然界で関連して見出されない別の核酸分子内のまたは別の核酸分子に付着された核酸のセグメントである。例えば、核酸構築体のうちの異種領域は、コード配列と自然界では関連して見出されない配列が隣接したコード配列を含みうる。異種コード配列の別の例は、コード配列自体が自然界では見出されない構築体である(例えば、天然遺伝子とは異なるコドンを有する合成配列)。同様に、細胞中に通常は存在しない構築体で形質転換された細胞は、本発明の意図に関して異種であると考えられる。対立遺伝子の改変または天然の変異事象は、本明細書において用いられる場合、異種DNAを生じない。
【0044】
「核酸」配列はDNAまたはRNA配列をいう。この用語は、例えば、以下のDNAおよびRNAの任意の公知の塩基類似体を含むが、それらに限定されない配列を表す: 4-アセチルシトシン、8-ヒドロキシ-N6-メチルアデノシン、アジリジニルシトシン、プソイドイソシトシン、5-(カルボキシヒドロキシル-メチル)ウラシル、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル、5-カルボキシメチル-アミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルアデニン、1-メチルプソイド-ウラシル、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチル-グアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチル-シトシン、5-メチルシトシン、N6-メチルアデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシ-アミノ-メチル-2-チオウラシル、β-D-マンノシルキューオシン、5'-メトキシカルボニルメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、オキシブトキソシン、プソイドウラシル、キューオシン、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、-ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、プソイドウラシル、キューオシン、2-チオシトシンおよび2,6-ジアミノプリン。
【0045】
DNA「制御配列」という用語は、プロモーター配列、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流調節ドメイン、複製起点、内部リボソーム侵入部位(「IRES」)、エンハンサーなどを集合的にいい、これはレシピエント細胞においてコード配列の複製、転写および翻訳を集合的に提供する。選択されたコード配列が適切な宿主細胞において複製、転写および翻訳されうる限り、これらの制御配列の全てが常に存在する必要はない。
【0046】
「プロモーター」という用語は、DNA調節配列を含むヌクレオチド領域をいうようにその通常の意味で本明細書において用いられ、ここで調節配列は、RNAポリメラーゼに結合でき、かつ下流の(3'方向の)コード配列の転写を開始できる遺伝子に由来する。転写プロモーターは「誘導性プロモーター」(このプロモーターに機能的に連結されたポリヌクレオチド配列の発現は分析物、補因子、調節タンパク質などによって誘導される)、「抑制性プロモーター」(このプロモーターに機能的に連結されたポリヌクレオチド配列の発現は分析物、補因子、調節タンパク質などによって誘導される)および「構成性プロモーター」を含むことができる。
【0047】
「機能的に連結された」とは、そのように記述された成分がその通常の機能を果たすように構成された要素の配置をいう。したがって、コード配列に機能的に連結された制御配列は、コード配列の発現をもたらすことができる。制御配列は、コード配列の発現を指令するように機能する限り、コード配列と連続的である必要はない。したがって、例えば、介在する未翻訳であるが転写される配列がプロモーター配列とコード配列との間に存在することもあり、プロモーター配列はそれでも、コード配列に「機能的に連結され」ていると考えることができる。
【0048】
「神経系」という用語は中枢神経系および末梢神経系の両方を含む。「中枢神経系」または「CNS」という用語は、脊椎動物の脳および脊髄の全ての細胞および組織を含む。「末梢神経系」という用語は、脳および脊髄の外側の神経系の部分の全ての細胞および組織をいう。したがって、「神経系」という用語は、限定するものではないが、神経細胞、グリア細胞、星状細胞、脳脊髄液(CSF)中の細胞、間質腔の細胞、脊髄の防御被覆の細胞、硬膜外細胞(すなわち、硬膜の外側の細胞)、神経組織に隣接するか、またはそれに接触するか、または神経支配される非神経組織中の細胞、神経上膜、神経周膜、神経内膜、索、束の細胞などを含む。
【0049】
本発明の意図に関して「活性な」または「活性」は、対応する天然のポリペプチドまたは天然に存在するポリペプチドの生物活性を保持する治療用タンパク質の形態をいう。活性は、対応する天然のまたは天然に存在するポリペプチドで認められるものより大きいことも、それに等しいことも、またはそれに満たないこともある。
【0050】
「単離された」とは、ヌクレオチド配列をいう場合、示された分子が、同じタイプの他の生物学的高分子の実質的な非存在下で存在することを意味する。したがって、「特定のポリペプチドをコードする単離された核酸分子」は、対象ポリペプチドをコードしない他の核酸分子を実質的に含まない核酸分子をいう; しかし、この分子は、組成物の基本的特徴に悪影響を与えない、いくつかのさらなる塩基または部分を含んでもよい。
【0051】
本出願を通じて特定の核酸分子におけるヌクレオチド配列の相対位置を記述する目的のために、例えば、特定のヌクレオチド配列が別の配列に対して「上流」、「下流」、「3-プライム(3')」、または「5-プライム(5')」に位置していると記述される場合、それは当技術分野において従来いわれている通り、DNA分子の「センス」鎖または「コード」鎖における配列の位置であることが理解されるべきである。
【0052】
特に所与の量に関連して、「約」という用語は、±5%の偏差を包含することを意味する。
【0053】
「対象」、「個体」または「患者」という用語は、本明細書において互換的に用いられ、脊椎動物、好ましくは哺乳動物をいう。哺乳動物はネズミ、げっ歯類、サル、ヒト、家畜、競技用動物およびペットを含むが、これらに限定されることはない。
【0054】
本明細書において用いられる「調節する」という用語は、効果または成果の量または強さを変えること、例えば、増強する、増補する、減じる、低減するまたは取り除くことを意味する。
【0055】
本明細書において用いられる場合、「改善する」という用語は、「緩和する」と同義であり、低減または軽減することを意味する。例えば、疾患または疾患の症状を軽快することによって疾患または障害の症状を改善することができる。
【0056】
本明細書において提供される、組成物または薬剤の「治療的、」「有効量」または「治療的に有効な量」という用語は、対象における症状の予防、発症遅延もしくは改善などの所望の応答、または神経病変、例えば、脊髄性筋萎縮症(SMA)などの運動ニューロン病に付随する細胞病変の是正などの所望の生物学的結果の達成をもたらすのに十分な組成物または薬剤の量をいう。「治療的是正」という用語は、対象における症状の予防または発症遅延または改善をもたらすその是正度をいう。必要とされる正確な量は、対象の種、年齢および全身状態、処置される状態の重症度、ならびに関心対象の特定の巨大分子、投与様式などに依り、対象の間で異なると考えられる。当業者は日常的な実験を用いて、いずれの個々の場合でも「有効」量を判定することができる。
【0057】
特定の疾患の「処置」または特定の疾患を「処置すること」は、(1) 疾患を予防すること、すなわち、疾患に曝されうるもしくは疾患の素因を持ちうるが、疾患の症状を未だ経験していないもしくは示していない対象において疾患の発現を予防することもしくはいっそう軽度で疾患を発生させること、(2) 疾患を抑制すること、すなわち、発現を阻止することもしくは疾患状態を逆転すること、または(3) 疾患の症状を和らげること、すなわち、対象が経験する症状の数を減らすこと、および疾患に付随する細胞病変を変化させることを含む。
【0058】
2. 本発明の実施の形態
本発明について詳細に記述する前に、特定の製剤化または過程のパラメータは、当然ながら、変化しうるので、本発明が特定の製剤化または過程のパラメータに限定されないことが理解されるべきである。本明細書において用いられる専門用語は、単に本発明の特定の態様を記述する目的のためのものであり、限定することを意図していないことも理解されるべきである。
【0059】
本明細書において記述される方法および材料と同様または同等のいくつかの方法および材料を本発明の実施において用いることができるが、好ましい材料および方法を本明細書において記述する。
【0060】
本発明の中核を成すのは、脊髄性筋萎縮症(SMA)の侵襲性マウスモデルのCNSへのヒト生存運動ニューロン1 (hSMN1) cDNAを含有するrAAVビリオンの送達が脊髄の全体にわたってSMN1の発現を生じたという発見である。処置されたSMAマウスは処置されていない、同齢の変異体と比べて多数の運動ニューロンを含んでいた。さらに、筋線維サイズの評価から、処置SMAマウスにおける各種の筋肉群由来の個々の筋線維のサイズが野生型マウスで認められたものに近いことが実証された。さらに、処置SMAマウスにおける神経筋接合部(NMJ)の構造は野生型マウスと同様であったが、これは、シナプス前末端での神経フィラメントタンパク質の異常な蓄積を示した未処置のSMAとは対照的であった。処置されたSMAマウスは一連の挙動試験に関して顕著な改善も示し、NMJが機能していたことを示唆するものであった。重要なことには、組換えAAV処置マウスは、その未処置の対照マウスと比べて著しく増加した寿命を有していた。自己相補的なrAAVベクターで処置されたSMAマウスも、従来の、非自己相補的なrAAVベクターによる処置と比べた場合でさえ、平均生存期間の顕著な改善を示した。
【0061】
これらの結果は、CNSに対する、AAV媒介性のSMN1遺伝子増補がSMAの神経病変および筋肉病変の両方の対処で非常に効率的であることを実証しており、SMAなどの、神経病変および筋肉病変、ならびに運動機能に影響を与える他の疾患の処置および予防のための治療戦略としてのウイルス遺伝子治療の有用性を証明している。本明細書において記述される遺伝子治療法は単独で用いられても、または従来薬と併せて用いられてもよい。
【0062】
本発明のさらなる理解のために、運動ニューロン病変および治療用分子、ならびに本発明で用いるためのさまざまな遺伝子送達法に関して、さらに詳細な考察を以下に提供する。
【0063】
運動ニューロン病変および治療用分子
本発明は、運動ニューロン障害または運動ニューロン損傷に罹患している対象において、運動機能を調節する、是正するまたは増補するための組成物および方法を提供する。説明のみを目的として、対象は、脊髄性筋萎縮症(SMA)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、球脊髄性筋萎縮症、脊髄性小脳運動失調、原発性側索硬化症(PLS)または外傷性脊髄損傷の一つまたは複数に罹患していてもよい。特定の理論によって束縛されるものではないが、運動ニューロン損傷に付随する病変は、運動ニューロン変性、神経膠症、神経フィラメント異常、皮質脊髄路および前根中の有髄化線維の消失を含むことができる。例えば、以下の2つの型の発症が認められる - 上位運動ニューロン(皮質および脳幹運動ニューロン)に影響を与え、顔面筋、発話および嚥下に影響を与える延髄性発症; ならびに下位運動ニューロン(脊髄運動ニューロン)に影響を与え、痙縮、全身性脱力、筋萎縮症、麻痺および呼吸不全によって反映される四肢発症。ALSにおいて、対象は延髄性発症も四肢発症も有する。PLSにおいて、対象は延髄性発症を有するだけである。
【0064】
したがって、ある種の態様において、CNS中での発現が対象における症状の予防、発症遅延もしくは改善のなどの、神経病変の少なくとも部分的な是正および/または疾患の進行の安定化、あるいは例えば、上記の運動ニューロン病に付随する細胞病変の変化を含む所望の生物学的結果の達成をもたらす、生物学的に活性な分子をコードするrAAV構築体を対象に提供する。
【0065】
例として、rAAV構築体に存在する導入遺伝子は、生存運動ニューロンタンパク質(SMN1遺伝子またはSMN2遺伝子による)、インスリン増殖因子-1 (IGF-1)、カルビンジンD28、パルブアルブミン、HIF1-α、SIRT-2、VEGF165などのVEGF、CNTF (毛様体神経栄養因子)、ソニックヘッジホッグ(shh)、エリスロポイエチン(EPO)、リシルオキシダーゼ(LOX)、プログラニュリン、プロラクチン、グレリン、ニューロセルピン、アンギオゲニンおよび胎盤ラクトゲンでありうるが、これらに限定されることはない。
【0066】
常染色体劣性神経筋障害SMAの分子的根拠は、SMNテロメア(SMN Telomeric)としても公知でありうる生存運動ニューロン遺伝子1 (SMN1)のホモ接合性の喪失である。SMNセントロメア(SMN Centromeric)としても公知でありうるSMN2と呼ばれるSMN1遺伝子のほぼ同一のコピーは、ヒトにおいて見られ、疾患重症度を調節する。正常SMN1遺伝子の発現はもっぱら、生存運動ニューロン(SMN)タンパク質の発現をもたらす。SMN2遺伝子の発現はおよそ10〜20%のSMNタンパク質および80〜90%の不安定/非機能的なSMNΔ7タンパク質をもたらす。SMN2転写産物のわずか10%しか、SMN1と同一の機能的な全長タンパク質をコードしない。この両遺伝子間の機能的差異は、翻訳的にサイレントな変異であるが、大部分のSMN2転写産物における第7エクソンスキッピングを引き起こすエクソンスプライシングエンハンサーを破壊する変異から生ずる。SMNタンパク質は、スプライセオソームの集合において十分に確立された役割を果たし、軸索およびニューロンの神経末端におけるmRNA輸送を媒介することもできる。
【0067】
さまざまなSMN1分子およびSMNタンパク質のヌクレオチドおよびアミノ酸配列が公知である。例えば、図9A〜9B; NCBIアクセッション番号NM_000344 (ヒト)、NP_000335 (ヒト)、NM_011420 (マウス)、EU 791616 (ブタ)、NM_001131470 (オランウータン)、NM_131191 (ゼブラフィッシュ)、BC062404 (ラット)、NM_001009328 (ネコ)、NM_001003226 (イヌ)、NM_175701 (ウシ)を参照されたい。同様に、さまざまなSMN2配列が公知である。例えば、NCBIアクセッション番号NM_022876、NM_022877、NM_017411、NG_008728、BC_000908、BC070242、DQ185039 (全てヒト)を参照されたい。
【0068】
インスリン様増殖因子1 (IGF-I)は、異なるレベルの中枢神経軸でのその多くの作用により、運動ニューロン障害を含む神経変性障害の処置のための治療用タンパク質である(Dore et al., Trends Neurosci (1997) 20:326-331を参照のこと)。例えば、脳において、それはニューロンおよびグリアのアポトーシスを低減し、鉄、コルヒチン、カルシウム、脱安定化剤、過酸化物およびサイトカインによって誘導される毒性からニューロンを保護すると考えられている。それはまた、神経伝達物質アセチルコリンおよびグルタミン酸の放出を調節し、神経フィラメント、チューブリンおよびミエリン塩基性タンパク質の発現を誘導するようである。脊髄において、IGF-Iは、ChAT活性を調節し、コリン作動性表現型の減少を減弱し、運動ニューロンの出芽を増強し、有髄化を増大し、脱髄を抑制し、運動ニューロンの増殖および前駆細胞からの分化を刺激し、シュワン細胞分化、成熟および増殖を促進すると考えられている。筋肉において、IGF-Iは、神経筋接合部にてアセチルコリン受容体クラスタ形成を誘導し、神経筋機能および筋肉強度を増大するようである。
【0069】
IGF-1遺伝子は複雑な構造を有し、これは当技術分野において周知である。これは、遺伝子転写産物から生じる少なくとも2つの選択的スプライスによるmRNA産物を有する。IGF-IAまたはIGF-IEaを含むいくつかの名で知られる153アミノ酸のペプチド、およびIGF-IBまたはIGF-IEbを含むいくつかの名で知られる195アミノ酸のペプチドが存在する。Eb型もヒトではEcとして知られる。IGF-Iの成熟型は70アミノ酸のポリペプチドである。IGF-IEaもIGF-IEbも70アミノ酸の成熟ペプチドを含有するが、そのカルボキシル末端伸長の長さおよび配列が異なる。IGF-1タンパク質、ならびにIGF-IEaおよびIGF-IEbのペプチド配列は、例えば、全体が参照により本明細書に組み入れられる国際公報WO2007/146046において知られ、記述されている。ヒトIGF-Iのゲノムおよび機能的cDNA、ならびにIGF-I遺伝子およびその産物に関するさらなる情報は、Unigeneアクセッション番号NM_000618で利用可能である。
【0070】
カルビンジンD28K (カルビンジンD28ともいう)およびパルブアルブミンは、カルシウム緩衝作用に関わるとされているカルシウム結合タンパク質である。特定の理論によって束縛されるものではないが、運動ニューロン障害(例えばALS)を有する対象ではカルシウムの恒常性が変化しているようであり、低レベルのカルビンジン-D28Kおよび/またはパルブアルブミンは、増加したカルシウム負荷を処理する運動ニューロンの能力を低減させることによって運動ニューロンの脆弱性を増大しうる。この低減は細胞傷害および最終的な運動ニューロンの死をもたらしうる。さらなる証拠から、カルビンジンD28Kおよびパルブアルブミンのなどのカルシウム結合タンパク質に富んでいるニューロンは変性に対して耐性であることが示唆される。
【0071】
HIF-Iは、以下の2つのサブユニットから構成されるヘテロ二量体タンパク質である: (i) アリール炭化水素核輸送体(ARNT)としても公知の構成的に発現しているβサブユニット(他の関連転写因子(例えば、ダイオキシン/アリール炭化水素受容体(DR/AhR))に共有されている); および(ii) αサブユニット(例えば、HIF-Iαの最新のアフィニティー精製および分子クローニングについて記述している国際公報WO96/39426を参照のこと)。どちらのサブユニットも転写因子のベーシック・ヘリックス・ループ・ヘリックス(bHLH)-PASファミリーの成員である。これらのドメインはDNA結合および二量体形成を調節する。トランス活性化ドメインはタンパク質のC末端に存在する。塩基性領域は、直接的なDNA結合に関与する主に塩基性の約15アミノ酸からなる。この領域は2つの両親媒性αへリックスに隣接し、可変長のループによって分離されており、ファミリー成員間の主要な二量体形成界面を形成している(Moore, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2000) 97:10436-10441)。PASドメインは、PAS AおよびPAS Bと名付けられている、大まかに保存された、主として疎水性の約50アミノ酸の2つの領域を含む200〜300アミノ酸を包含する。HIF-Iαサブユニットは正常酸素圧の条件下では不安定であって、正常な酸素レベル下で培養されている細胞におけるこのサブユニットの過剰発現は、低酸素によって正常に誘導される遺伝子の発現を誘導することができる。低酸素誘導性因子タンパク質のC末端(またはトランス活性化)領域の、例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV) VP16、NFκBまたは酵母転写因子GAL4およびGCN4などの転写活性化タンパク質由来の強力なトランス活性化ドメインとの置換は、正常酸素圧の条件下でタンパク質を安定化させ、強力で恒常的な転写活性化を提供するためにデザインされる。HIF-1α由来のDNA結合および二量体形成ドメイン、ならびにHSV VP16タンパク質由来のトランス活性化ドメインからなるハイブリッド/キメラ融合タンパク質である、代表的な、安定化されている低酸素誘導性因子タンパク質の記述および配列については、例えば、全体が参照により本明細書に組み入れられる国際公報WO 2008/042420を参照されたい。同様に、構成的に安定なハイブリッドHIF-Iαの記述については、米国特許第6,432,927号および同第7,053,062号を参照されたく、このどちらも、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0072】
血管内皮増殖因子(VEGF)ファミリーの成員は、血管生物学の最も強力な調節因子の一つである。それらは血管形成、血管新生および血管維持を調節する。VEGFの4つの異なる分子変種が記述されている。165アミノ酸の変種は、正常な細胞および組織において見られる主な分子形態である。あまり豊富ではないが、位置116と159との間の44アミノ酸の欠失を有するもっと短い形態(VEGF121)、位置116において24個の塩基性残基の挿入を有するもっと長い形態(VEGF189)、および41アミノ酸の挿入を有する別のもっと長い形態であって、VEGF189において見られる24アミノ酸の挿入を含むもの(VEGF206)も公知である。VEGF121およびVEGF165は可溶性タンパク質である。VEGF189およびVEGF206は主に細胞結合型であると考えられる。VEGFの型の全てが生物学的に活性である。例えば、VEGF165 (同様に、GenBankアクセッション番号AB021221参照)、VEGF121 (同様に、GenBankアクセッション番号AF214570参照)およびVEGF189の配列について記述しているTischer et al., J. Biol. Chem. (1991) 266:11947-11954; ならびにVEGF206の配列について記述しているHouck et al., Mol. Endocrinol. (1991) 5:1806-1814を参照されたい。
【0073】
CNTF (毛様体神経栄養因子)は、末梢神経および中枢神経系におけるグリア細胞によって発現されるニューロサイトカインである。CNTFは非ニューロンおよびニューロン細胞型の支持および生存におけるその機能で一般に認識されている。例えば、Vergara, C and Ramirez, B; Brain Res, Brain Res. Rev. (2004) 47:161-73を参照されたい。
【0074】
ソニックヘッジホッグ(Shh)は、ニューロンおよびグリア細胞の生存を含む重要な発生過程を制御する。
【0075】
エリスロポイエチン(EPO)は、赤血球前駆細胞の主要な制御因子である。しかし、エリスロポイエチンは神経系において機能的に発現しており、神経保護効果を有することが報告されている。例えば、Bartesaghi, S., 2005. Neurotoxicology, 26:923-8を参照されたい。ヒトおよび他の哺乳動物EPOをコードする遺伝子がクローニングされ、配列決定され、発現されており、種間でコード領域での高度の配列相同性を示す。Wen et al., Blood (1993) 82:1507-1516。天然ヒトEPOをコードする遺伝子の配列、およびそれを得る方法は、例えば、全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,954,437号および同第4,703,008号、ならびにJacobs et al. (1985) Nature 313:806-810; Lin et al. (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:7580; 国際公報番号WO 85/02610; および欧州特許公報番号第232,034 B1号に記述されている。さらに、天然のネコ、イヌおよびブタEPOをコードする遺伝子の配列が公知であり、容易に入手可能(それぞれ、GenBankアクセッション番号: L10606; L13027; およびL10607)であり、サル(アカゲザル(Macaca mulatta))のものをコードする遺伝子の配列も公知であり、入手可能(GenBankアクセッション番号: L10609)である。
【0076】
リシルオキシダーゼ(LOX)はペプチジルリジンの側鎖を酸化し、それによって特定のリジン残基をアルファ-アミノアジピン酸-デルタ-セミアルデヒドに変換する。これは、例えば、コラーゲンおよびエラスチンの成分鎖の共有結合性架橋を可能にする翻訳後変化である。翻訳後変化は、細胞外マトリックスにおいてこれらのタンパク質の線維性沈着物を安定化する。LOXは種々のカチオン性タンパク質内のリジンを酸化することもでき、このことは、その機能が安定化または細胞外マトリックスよりも広いことを示唆している。LOXはプレタンパク質として合成され、細胞からプロLOXとして出現し、活性な酵素へとタンパク質分解性にプロセッシングされる。例えば、Lucero, HA and Kagan, HM, Cell Mol. Life Sci. (2006) 63:2304-2316を参照されたい。
【0077】
プログラニュリン(PGRN)は多面的タンパク質である。この遺伝子における変異は前頭側頭葉変性症を引き起こす。PGRNはCNSにおいてミクログリアおよびニューロンによって発現され、脳の発達において役割を担う。PGRNはまた、発生、創傷修復および腫瘍形成を含む多重「組織モデリング」過程に関与している。PGRNはエラスターゼ酵素によってグラニュリン(GRN)に変換される。プログラニュリンが栄養性特性を有する一方で、GRNは炎症性メディエータにより類似している。CNS疾患の動物モデルからの遺伝子発現調査は、ミクログリア活性化および炎症と組み合わされたPRGNの差次的な増加を示している。PGRN発現の増加は、ミクログリア活性化および神経炎症と密接に関連しうる。さらに、PGRNの発現は、運動ニューロン病およびアルツハイマー病を含む多くの神経変性疾患における活性化ミクログリアで増加している。調査は、PGRN中の変異が神経変性疾患の原因であると同定し、ニューロン生存にとってPGRNの機能が重要であることを示している。
【0078】
オリゴデンドロサイト、つまりCNSの有髄化細胞は、オリゴデンドロサイト前駆体細胞(OPC)により成人期を通じて発生され続け、成人のCNSにおけるミエリン損傷の内因性修復に必要とされる。OPCの増殖を調節する生理学的事象および成人のCNSにおける新たな有髄化オリゴデンドロサイトの発生が広く知られている。近年、多発性硬化症(MS)、つまり脱髄性疾患を有する患者にて妊娠の第3の三半期の間再発率が低下することが報告されており、ホルモンがオリゴデンドロサイトの発生に影響することを示唆している。MS患者の寛解は、活性な白質病変の数およびサイズの減少と相関している。マウスでの妊娠は、母系CNS内で、新たなオリゴデンドロサイトの発生および有髄化軸索数の増加をもたらす(Gregg et al., J. Neurosci. (2007) 27:1812-1823)。プロラクチン、つまり妊娠の最終段階でプラトーに達するホルモンは、妊娠の間にOPCの増殖を調節し、未交尾の雌性マウスにおいて白質の修復を促進することが示されている(Gregg et al., J. Neurosci. (2007) 27:1812-1823)。
【0079】
ヒト胎盤ラクトゲン(hPL)、つまり妊娠の第3の三半期の間にピークに達するホルモンはオリゴデンドロサイトの発生に対して類似の影響を持ちうる。hPLは、ヒト成長ホルモン(hGH)およびプロラクチンに質的に類似するいくつかの生物学的活性を有しており、IGF-Iの主要な制御因子であるようである。hGHもIGF-Iも、成人のCNSにおける有髄化の刺激因子であることが示されている(Carson et al., Neuron (1993) 10:729-740; Peltwon et al., Neurology (1977) 27:282-288)。それゆえ、MS、ALS、脳卒中および脊髄損傷などの脱髄化に関与するCNS疾患の処置は、rhPRLまたはhPL発現用のウイルスベクターの脳室内注入によるなどの、PRLまたはhPLに基づく治療から恩恵を受けうる。
【0080】
グレリンは、成長ホルモン放出のメディエータである胃ホルモンである。例えば、Wu, et al., Ann. Surg. (2004) 239:464を参照されたい。
【0081】
ニューロセルピンはセルピンプロテアーゼ阻害因子ファミリーの成員である。特定のCNSの状態において、ニューロセルピンは、潜在的にtPA効果の遮断を通じて、神経保護の役割を担いうる。例えば、Galliciotti, G and Sonderegger, P, Front Biosci (2006) 11:33; Simonin, et al., (2006) 26:10614; Miranda, E and Lomas, DA, Cell Mol Life Sci (2006) 63:709を参照されたい。
【0082】
アンギオゲニンはRNAseスーパーファミリーの一員である。血行路の正常な構成物であるが、危険因子として運動ニューロン障害に関与してもいる。
【0083】
本発明のある種の組成物および方法において、各導入遺伝子がプロモーターに機能的に連結されて単一のAAVベクターからの導入遺伝子の発現を可能にする、上記の治療用分子の二つ以上をコードする二つ以上の導入遺伝子を送達することができる。さらなる方法では、導入遺伝子を同じプロモーターに機能的に連結することができる。各導入遺伝子は生物学的に活性な分子をコードし、CNS中でのその発現が神経病変の少なくとも部分的な是正をもたらす。さらに、二つ以上の導入遺伝子が送達される場合には、各AAVベクターがプロモーターに機能的に連結された導入遺伝子を含む、二つ以上のAAVベクターによって導入遺伝子を送達することができる。
【0084】
天然分子、ならびに本明細書においてさらに記述されるものを含むさまざまなアッセイ法および動物モデルのいずれかで測定した場合に、所望の生物活性を保持する、天然分子の活性な断片および類似体は本発明での使用が意図される。
【0085】
本発明で用いるための所望のタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、分子生物学の標準的な技術を用いて作製することができる。例えば、上記の分子をコードするポリヌクレオチド配列は、遺伝子を発現する細胞由来のcDNAおよびゲノムライブラリをスクリーニングすることによる、またはこれらを含むことが既知のベクターから遺伝子を誘導することによるなどの、組換え方法を用いて得ることができる。関心対象の遺伝子を、公知の配列に基づいて、クローニングするのではなく合成的に産生することもできる。この分子は、特定の配列に適したコドンでデザインされてもよい。次いで完全な配列は、標準的な方法で調製された重複オリゴヌクレオチドから集合させられ、集合して完全なコード配列へ構築される。例えば、Edge, Nature (1981) 292:756; Nambair et al., Science (1984) 223:1299; およびJay et al., J. Biol. Chem. (1984) 259:6311を参照されたい。
【0086】
したがって、特定のヌクレオチド配列を、所望の配列を持つベクターから得ることができるか、または必要に応じて、部位指向性変異誘発およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術のなどの当技術分野において公知の種々のオリゴヌクレオチド合成技術を用いて、完全にまたは部分的に合成することができる。例えば、Sambrook、前記を参照されたい。所望の配列をコードするヌクレオチド配列を得る一つの方法は、従来の自動ポリヌクレオチド合成機で生成された重複する合成オリゴヌクレオチドの相補的セットのアニーリング、引き続き適切なDNAリガーゼを用いた核酸連結および核酸連結されたヌクレオチド配列のPCRを介した増幅によるものである。例えば、Jayaraman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1991) 88: 4084-4088を参照されたい。さらに、オリゴヌクレオチド指向性の合成(Jones et al., Nature (1986) 54:75-82)、既存のヌクレオチド領域のオリゴヌクレオチド指向性変異誘発(Riechmann et al., Nature (1988) 332:323-327およびVerhoeyen et al., Science (1988) 239:1534-1536)、ならびにT4 DNAポリメラーゼを用いてのギャップのあるオリゴヌクレオチドの酵素的充填(Queen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1989) 86:10029-10033)を用いて、本発明の方法で用いるための分子を提供することができる。
【0087】
産生されたら、構築体を、以下でさらに記述される組換えウイルスベクターを用いて送達する。
【0088】
AAV遺伝子送達技術
上記の構築体は、いくつかのrAAV遺伝子送達技術のいずれかを用いて該当の対象に送達される。遺伝子送達のためのいくつかのAAVを介した方法が当技術分野において公知である。以下でさらに記述される通り、遺伝子は、対象に直接送達されても、または対象に由来する細胞などの適切な細胞にエクスビボで送達され、この細胞が対象に再移植されてもよい。
【0089】
遺伝子送達のためのさまざまなAAVベクターシステムが開発されている。AAVベクターは当技術分野において周知の技術を用いて容易に構築することができる。例えば、米国特許第5,173,414号および同第5,139,941号; 国際公報番号WO 92/01070 (1992年1月23日付で公開)およびWO 93/03769 (1993年3月4日付で公開); Lebkowski et al., Molec. Cell. Biol. (1988) 8:3988-3996; Vincent et al., Vaccines 90 (1990) (Cold Spring Harbor Laboratory Press); Carter, B.J. Current Opinion in Biotechnology (1992) 3:533-539; Muzyczka, N. Current Topics in Microbiol, and Immunol. (1992) 158:97-129; Kotin, R.M. Human Gene Therapy (1994) 5:793-801; Shelling and Smith, Gene Therapy (1994) 1:165-169; ならびにZhou et al., J. Exp. Med. (1994) 179:1867-1875を参照されたい。AAVベクターシステムについても以下でさらに詳細に記述する。
【0090】
AAVゲノムは、約4681ヌクレオチドを含む直線状の、一本鎖DNA分子である。AAVゲノムは一般に、各末端に逆向き末端反復配列(ITR)が隣接している内部の非反復ゲノムを含む。ITRは、長さが約145塩基対(bp)である。ITRは、DNA複製起点、およびウイルスゲノムのパッケージングシグナルの提供を含めて、複数の機能を有する。このゲノムの内部非反復部分は、AAV複製(rep)遺伝子およびカプシド(cap)遺伝子として公知の、2つの大きな読み取り枠を含む。rep遺伝子およびcap遺伝子は、ウイルスの複製およびビリオンへのパッケージングを可能にするウイルスタンパク質をコードする。特に、少なくとも4つのウイルスタンパク質のファミリーが、その見かけの分子量によって、Rep 78、Rep 68、Rep 52およびRep 40と命名されたAAV rep領域から発現される。AAV cap領域は少なくとも3つのタンパク質VPI、VP2およびVP3をコードする。
【0091】
AAVは、AAVゲノムの内部非反復部分(すなわち、rep遺伝子およびcap遺伝子)を欠失し、ITRの間に異種遺伝子を挿入することにより、関心対象の遺伝子を送達するように操作されている。この異種遺伝子は、典型的には、適切な条件の下で患者の標的細胞における遺伝子発現を推進できる異種プロモーター(構成性プロモーター、細胞特異的プロモーターまたは誘導性プロモーター)に機能的に連結される。各種のプロモーターの例は当技術分野において周知である。ポリアデニル化部位のなどの終結シグナルが含まれてもよい。
【0092】
AAVはヘルパー依存性ウイルスである。すなわち、AAVビリオンを形成するためには、ヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルスまたはワクシニア)との同時感染が必要である。ヘルパーウイルスとの同時感染がなければ、AAVは、ウイルスゲノムが宿主細胞染色体へ入るが、感染ビリオンは産生されない潜伏状態を確立する。ヘルパーウイルスによる引き続く感染は、組み込まれたゲノムを「レスキュー」し、これにより、そのゲノムを複製して感染性AAVビリオンへパッケージングすることを可能にする。AAVは、異なる種由来の細胞に感染しうるが、ヘルパーウイルスは、宿主細胞と同じ種のものでなければならない。したがって、例えば、ヒトAAVは、イヌのアデノウイルスに同時感染されたイヌの細胞において複製する。
【0093】
関心対象の遺伝子を含む組換えAAVビリオンは、以下でさらに詳細に記述される種々の当技術分野で認識される技術を用いて産生されうる。野生型AAVおよびヘルパーウイルスを用いて、rAAVビリオンを産生するのに必要な複製機能を提供することができる(例えば、全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,139,941号を参照のこと)。あるいは、ヘルパー機能遺伝子を含むプラスミドは、周知のヘルパーウイルスの1つによる感染と組み合わされて、複製機能の供給源として用いられてもよい(例えば、ともに全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,622,856号および米国特許第5,139,941号を参照のこと)。アクセサリ機能遺伝子を含むプラスミドを、野生型AAVによる感染と組み合わせて用いて、必要な複製機能を提供することができる。これらの3つのアプローチは、rAAVベクターと組み合わせて用いられる場合、rAAVビリオンを産生するのに各々が十分である。当業者は当技術分野において周知の他のアプローチを使用して、rAAVビリオンを産生することもできる。
【0094】
本発明の一つの態様において、三重トランスフェクション法(全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,001,650号に詳細に記述されている)を用いて、rAAVビリオンを産生する。なぜなら、この方法は、感染性ヘルパーウイルスの使用を必要とせず、いずれの検出可能なヘルパーウイルスも存在することなしに、rAAVビリオンが産生されることを可能にするからである。これはrAAVビリオン産生用の以下の3つのベクターの使用によって達成される: AAVヘルパー機能ベクター、アクセサリ機能ベクターおよびrAAV発現ベクター。しかし、これらのベクターによってコードされる核酸配列は、さまざまな組み合わせで2つまたはそれ以上のベクター上に提供されてもよいことを当業者は理解するであろう。
【0095】
本明細書において説明される通り、AAVヘルパー機能ベクターは、「AAVヘルパー機能」配列(すなわち、repおよびcap)をコードし、この配列が、生産的なAAV複製およびカプシド形成のためにトランスで機能する。好ましくは、AAVヘルパー機能ベクターは、検出可能なwt AAVビリオン(すなわち、機能的なrep遺伝子およびcap遺伝子を含有するAAVビリオン)を作製することなく、効率的なAAVベクターの産生を支持する。このようなベクターの一例であるpHLP19は、全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,001,650号に記述されている。AAVヘルパー機能ベクターのrep遺伝子およびcap遺伝子は、上記で説明された通り、任意の公知のAAV血清型に由来しうる。例えば、AAVヘルパー機能ベクターは、AAV-2に由来するrep遺伝子、およびAAV-6に由来するcap遺伝子を有してもよく; 当業者は、決定的な特徴がrAAVビリオン産生を支持する能力である、他のrep遺伝子およびcap遺伝子の組み合わせが可能であることを認識するであろう。
【0096】
アクセサリ機能ベクターは、非AAV由来ウイルスおよび/または複製のためにAAVが依存する細胞性機能(すなわち「アクセサリ機能」)のヌクレオチド配列をコードする。このアクセサリ機能としては、限定するものではないが、AAV遺伝子転写の活性化、段階特異的なAAV mRNAスプライシング、AAV DNA複製、cap発現産物の合成、およびAAVカプシドの集合に関与する部分を含む、AAV複製のために必要なアクセサリ機能が挙げられる。ウイルスに基づくアクセサリ機能は、アデノウイルス、ヘルペスウイルスおよびワクシニアウイルスなどの任意の周知のヘルパーウイルスに由来しうる。一つの態様において、アクセサリ機能プラスミドpLadeno5 (pLadeno5に関する詳細は、全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,004,797号に記載されている)が用いられる。このプラスミドは、AAVベクターの産生のためのアデノウイルスアクセサリ機能の完全なセットを提供するが、複製コンピテントなアデノウイルスを形成するのに必要な成分を欠く。
【0097】
AAVのさらなる理解のために、組換えAAV発現ベクター、およびAAVヘルパー、およびアクセサリ機能に関して、さらに詳細な考察を以下に提供する。
【0098】
組換えAAV発現ベクター
公知の技術を用い組換えAAV (rAAV)発現ベクターを構築して、転写の方向に機能的に連結された成分として、転写開始領域を含む制御要素、関心対象のポリヌクレオチドおよび転写終結領域を少なくとも提供する。この制御要素は、例えば哺乳動物細胞においてなど、関心対象の細胞において機能的であるように選択される。機能的に連結された成分を含む、得られた構築体を、機能的なAAV ITR配列と(5'側および3'側で)結合させる。
【0099】
AAV ITR領域のヌクレオチド配列は公知である。例えばAAV-2配列に関しては、Kotin, R.M. (1994) Human Gene Therapy 5:793-801; Berns, K.I. 「Parvoviridae and their Replication」 Fundamental Virology, 第2版, (B.N. FieldsおよびD.M. Knipe, 編)を参照されたい。本発明のベクターにおいて用いられるAAV ITRは、野生型ヌクレオチド配列を有する必要はなく、例えば、ヌクレオチドの挿入、欠失または置換によって改変されてもよい。さらに、AAV ITRは、限定するものではないが、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9などを含む、任意のいくつかのAAV血清型に由来してもよい。さらに、AAV発現ベクターにおける選択されたヌクレオチド配列に隣接する5' ITRおよび3' ITRは、それらが意図したように機能して、すなわち、宿主細胞ゲノムまたはベクターからの関心対象の配列の切除およびレスキューを可能にし、AAV Rep遺伝子産物がこの細胞に存在する場合にはレシピエント細胞ゲノムへのDNA分子の組み込みを可能にする限り、必ずしも同じAAV血清型もしくは単離物と同一である必要も、または同じAAV血清型もしくは単離物に由来する必要もない。
【0100】
従来のAAVベクターで用いるのに適したポリヌクレオチド分子は、サイズが約5キロベース(kb)未満または約5キロベース(kb)である。選択されたポリヌクレオチド配列は、インビボにおいて対象内でその転写または発現を指令する制御要素に機能的に連結される。このような制御要素は、選択された遺伝子と通常結び付いている制御配列を含んでもよい。あるいは、異種制御配列が使用されてもよい。有用な異種制御配列は一般に、哺乳動物またはウイルスの遺伝子をコードする配列に由来する配列を含む。プロモーターの非限定的な例としては、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(Kaplitt et al., Nat. Genet. (1994) 8:148-154)、CMV/ヒトβ3-グロビンプロモーター(Mandel et al., J. Neurosci. (1998) 18:4271-4284)、GFAPプロモーター(Xu et al., Gene Ther. (2001) 8:1323-1332)、1.8 kbのニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター(Klein et al., Exp. Neurol. (1998) 150:183-194)、ニワトリβアクチン(CBA)プロモーター(Miyazaki, Gene (1989) 79:269-277)、β-グルクロニダーゼ(GUSB)プロモーター(Shipley et al., Genetics (1991) 10:1009-1018)、ならびに全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,667,174号に記述されている通り、ヒトユビキチンA、ヒトユビキチンBおよびヒトユビキチンCから単離されたプロモーターなどのユビキチンプロモーターが挙げられるが、これらに限定されることはない。発現を引き延ばすために、例えば、ウッドチャック肝炎ウイルス調節後要素(WPRE) (Donello et al., J. Virol. (1998) 72:5085-5092)またはウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化部位などの他の調節要素がさらに、導入遺伝子に機能的に連結されてもよい。さらに、ネズミメタロチオネイン遺伝子などの、非ウイルス遺伝子に由来する配列も本明細書での用途が見つかると考えられる。このようなプロモーター配列は、例えば、Stratagene (San Diego, CA)から市販されている。
【0101】
ある種のCNS遺伝子治療の適用のためには、転写活性を制御することが必要な場合がある。このために、ウイルスベクターを用いた遺伝子発現の薬理学的な調節を、例えば、Habermaet al., Gene Ther. (1998) 5.1604-16011; およびYe et al., Science (1995) 283:88-91に記述のさまざまな調節要素および薬物応答性プロモーターを含めることによって得てもよい。
【0102】
AAV ITRに結合された関心対象のポリヌクレオチド分子を保有するAAV発現ベクターは、選択された配列を、主要なAAV読み取り枠(「ORF」)が切り出されたAAVゲノムへ直接挿入することにより構築されうる。複製およびパッケージング機能を可能にするのに十分なITRの部分が残っている限り、AAVゲノムの他の部分が欠失されてもよい。このような構築体は当技術分野において周知の技術を用いてデザインされうる。例えば、米国特許第5,173,414号および同第5,139,941号; 国際公報番号WO 92/01070 (1992年1月23日付で公開)およびWO 93/03769 (1993年3月4日付で公開); Lebkowski et al. (1988) Molec. Cell. Biol. 8:3988-3996; Vincent et al. (1990) Vaccines 90 (Cold Spring Harbor Laboratory Press); Carter (1992) Current Opinion in Biotechnology 3:533-539; Muzyczka (1992) Current Topics in Microbiol. and Immunol. 158:97-129; Kotin (1994) Human Gene Therapy 5:793-801; Shelling and Smith (1994) Gene Therapy 1:165-169; ならびにZhou et al. (1994) J. Exp. Med. 179:1867-1875を参照されたい。
【0103】
あるいは、AAV ITRは、ウイルスゲノムから切り出されても、またはそれを含んだAAVベクターから切り出されてもよく、Sambrookら、前記に記述されているものなどの、標準的な核酸連結技術を用いて、別のベクターに存在する選択された核酸構築体の5'側および3'側で融合されてもよい。例えば、核酸連結は、20 mM Tris-Cl pH 7.5、10 mM MgCl2、10 mM DTT、33 μg/ml BSA、10 mM〜50 mM NaCl、および(「付着末端」核酸連結の場合) 0℃で40 μM ATP、0.01〜0.02 (Weiss)単位のT4 DNAリガーゼまたは(「平滑末端」核酸連結の場合) 14℃で1 mM ATP、0.3〜0.6 (Weiss)単位のT4 DNAリガーゼのいずれかで達成することができる。分子間の「付着末端」核酸連結は、30〜100 μg/mlの総DNA濃度(5〜100 nMの総終濃度)で通常行われる。ITRを含んだAAVベクターは、例えば、米国特許第5,139,941号に記述されている。特に、その中には、アメリカンタイプカルチャーコレクション(「ATCC」)からアクセッション番号53222、53223、53224、53225および53226の下で入手可能な、いくつかのAAVベクターが記述されている。
【0104】
ある種の態様において、rAAV発現ベクターは、自己相補的なrAAVベクターとして提供される。典型的には、rAAV DNAは、長さが約4600ヌクレオチドの一本鎖DNA (ssDNA)分子としてウイルスカプシドへパッケージングされる。ウイルスによる細胞の感染後、単一のDNA鎖が二本鎖DNA (dsDNA)型へ変換される。含まれる遺伝子をRNAへ転写する細胞のタンパク質にとってdsDNAだけが有用である。したがって、AAVの従来の複製スキームでは、相補DNA鎖のデノボ合成を要する。発現の前にssDNA AAVゲノムをdsDNAへ変換するこの段階は、自己相補的(sc)ベクターの使用によって回避されうる。
【0105】
自己相補的ベクターは、DNA合成を必要としない、2つの感染ウイルスからの相補鎖の塩基対合によって産生される(例えば、Nakai et al., J. Virol. (2000) 74:9451-9463を参照のこと)。この鎖間塩基対合または鎖アニーリング(SA)は、AAVが等しい効率でプラスまたはマイナスDNA鎖のどちらかをパッケージングするので、可能である(Berns, K.I., Microbiol. Rev. (1990) 54:316-329)。
【0106】
したがって、かつ理論に関して制限されるわけではなく、SAまたはDNA合成のどちらかによるdsDNA変換の必要性は、両鎖を単一の分子としてパッケージングすることによって完全に回避されうる。これは、AAV複製サイクル中に二量体反転繰り返しゲノムを産生するAAVの傾向を利用することによって達成されうる。これらの二量体が十分に短い場合には、それらは従来のAAVゲノムと同じようにパッケージングされることができ、ssDNA分子の両半分が折り重なり塩基対合して、半分の長さのdsDNA分子を形成することができる。dsDNAの変換は、宿主細胞のDNA合成およびベクター濃度に依存しない(McCarty et al., Gene Ther. (2001) 8:1248-1254)。
【0107】
scAAVウイルス構築体はおよそ4.6 kbを含み、正常なAAVカプシドへパッケージングされることができる。公知のAAV血清型の各々が同様の効率でscAAVゲノムをパッケージングすることができる(例えば、Sipo et al., Gene Ther. (2007) 14:1319-1329を参照のこと)。したがって、本発明のある種の態様において、scAAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8またはAAV9血清型から選択される血清型由来のカプシドタンパク質を含む。しかしながら、scAAVベクターは、公知の血清型のいずれか由来のカプシドタンパク質または当技術分野において公知の改変カプシドタンパク質を含むことができる。これらのscAAVベクターは、第二のAAV血清型のカプシド中に一種のAAV血清型のゲノムを含む偽型ベクターであってもよい。このようなベクターは、例えば、AAV2カプシドおよびAAV1ゲノムを含むAAVベクターまたはAAV5カプシドおよびAAV2ゲノムを含むAAVベクターを含むことができる(Auricchio et al., (2001) Hum. Mol. Genet., 10(26):3075-81)。
【0108】
当初、scAAVベクター中の導入遺伝子配列はおよそ2.2 kbしか含むことができないものと考えられていた。しかしながら、以前に考えられていたよりもパッケージング能の許容範囲はもっと大きいようである。例えば、Wu et al., Human Gene Ther. (2007) 18:171-182によれば、3,300 bpを超えるscAAV-2構築体が成功裏にパッケージングされ、十分にDNase耐性の二量体反転繰り返しゲノムであることが実証された。これらのベクターは、培養細胞での試験時にssAAVに比べて予想される形質導入効率の増加をもたらした。
【0109】
scAAVベクターは、感染性の二本鎖型の選択的精製と組み合わせて従来のゲノムサイズのおよそ半分のベクタープラスミドの作製により、または二本鎖ウイルスの合成をもたらすAAVウイルスの末端分離配列(terminal resolution sequences)の一つに変異を有するおよそ半分のゲノムサイズのベクタープラスミドの使用により産生することができる。どちらの戦略でも、一つの末端反復配列の位置で共有結合的に連結されている+鎖および−鎖のウイルスゲノムが作製される。
【0110】
特に、通常の単量体AAVゲノムの作製は各ラウンドのDNA合成ごとに、順々での2つのITRの効率的な分離に依る。この反応はAAV Repの2つの大きい方のアイソフォームのssDNAエンドヌクレアーゼ活性によって媒介される。末端分離部位でのITRのニック作製の後に、宿主DNAポリメラーゼによるニックからのDNA伸長が行われる。二量体ゲノムは、他端で開始される複製複合体が到達する前にRepが末端分離部位にニックを入れられない場合に形成される。
【0111】
scAAV prepにおける二量体ゲノムの収量は、一つの末端反復配列での分離を阻害することによって劇的に増加されうる。これは、Repタンパク質が不可欠なssDNAニックを生じないように、一つのITRから末端分離部位の配列を欠失させることによって容易に達成される(例えば、McCarty et al., Gene Ther. (2003) 10:2112-2118およびWang et al., Gene Ther. (2003) 10:2105-2111を参照のこと)。他のITRの位置で開始された複製複合体が次に、ヘアピンを通じてコピーされ、開始末端の方に戻ってゆく。複製は鋳型分子の末端まで進行し、野生型ITRを各末端の位置におよび変異ITRを中央に有するdsDNA逆向き反復配列を残す。この二量体の逆向き反復配列が次いで、二つの野生型ITR末端から通常のラウンドの複製を起こしうる。各置換された娘鎖は、完全なITRを各末端の位置におよび変異ITRを中央に有するssDNA逆向き反復配列を含む。AAVカプシドへのパッケージングは置換鎖の3'末端で始まる。一つの変異ITRを有する構築体からのscAAVの産生は、典型的には、90%超の二量体ゲノムを生ずる。
【0112】
変異ITR構築体からのscAAVベクターの産生および精製は、以下でさらに記述される通り、従来のssAAVと同じである。しかし、ドットブロットまたはサザンブロットを用いる場合には、ベクターDNAは好ましくは、相補鎖の再アニーリングを防ぐためにアルカリ性条件の下でハイブリダイゼーション膜に適用される。さらに、単量体ゲノムの末端分離および作製を可能にするよう変異ITRと十分に近くで偽のRepニック作製部位が生成されることも可能である。これは、典型的には、変異体および野生型の末端反復配列に対して導入遺伝子カセットの向きを変えることにより回避することができる。
【0113】
例えば、scAAV構築体を産生する方法については、全体が参照により本明細書に組み入れられるMcCarty, D.M., Molec. Ther. (2008) 16:1648-1656; McCarty et al., Gene Ther. (2001) 8:1248-1254; McCarty et al., Gene Ther. (2003) 10:2112-2118; Wang et al., Gene Ther. (2003) 10:2105-2111); Wu et al., Human Gene Ther. (2007) 18:171-182; 米国特許出願公開第2007/0243168号および同第2007/0253936号; ならびに本明細書の実施例を参照されたい。
【0114】
本発明の意図に関して、AAV発現ベクター(従来のベクターまたはscベクターのいずれかの)からrAAVビリオンを産生するのに適した宿主細胞には、微生物、酵母細胞、昆虫細胞および哺乳動物細胞が含まれ、これらの宿主細胞は、異種DNA分子のレシピエントとして用いられてもよいかまたは用いられており、かつ例えば、懸濁培養、生物反応器などにおいて増殖することができる。この用語は、トランスフェクトされたもとの細胞の子孫を含む。したがって、本明細書において用いられる「宿主細胞」とは一般に、外因性DNA配列でトランスフェクトされた細胞をいう。安定なヒト細胞株である293 (例えば、アメリカンタイプカルチャーコレクションを通じてアクセッション番号ATCC CRL1573の下で容易に入手可能)由来の細胞が本発明の実施においては好ましい。具体的には、ヒト細胞株293は、アデノウイルス5型DNA断片で形質転換されたヒト胚性腎細胞株であり(Graham et al. (1977) J. Gen. Virol. 36:59)、アデノウイルスのE1aおよびE1b遺伝子を発現する(Aiello et al. (1979) Virology 94:460)。293細胞株は容易にトランスフェクトされ、rAAVビリオンを産生するのに特に都合のよいプラットフォームを提供する。
【0115】
AAVヘルパー機能
上記のAAV発現ベクターを含む宿主細胞は、AAV ITRに隣接したヌクレオチド配列を複製しカプシド形成してrAAVビリオンを産生するために、AAVヘルパー機能を提供できるようにされなければならない。AAVヘルパー機能は一般に、AAV遺伝子産物を提供するように発現されうるAAV由来コード配列であり、この産物が次に、生産的なAAV複製のためにトランスで機能する。AAVヘルパー機能はここで、AAV発現ベクターから欠失している必須のAAV機能を補完するために用いられる。したがって、AAVヘルパー機能には、主なAAV ORF、すなわちrepおよびcapコード領域の一方もしくは両方、またはそれらの機能的ホモログが含まれる。
【0116】
「AAV repコード領域」とは、複製タンパク質Rep 78、Rep 68、Rep 52およびRep 40をコードするAAVゲノムの、当技術分野で認識される領域を意味する。これらのRep発現産物は、AAVのDNA複製起点の認識、結合およびニック作製、DNAヘリカーゼ活性、ならびにAAV (または他の異種の)プロモーターからの転写の調節を含めて、多くの機能を有することが示されている。Rep発現産物は全体として、AAVゲノムを複製するために必要である。AAV repコード領域の記述については、例えば、Muzyczka, N. (1992) Current Topics in Microbiol. and Immunol. 158:97-129; およびKotin, R.M. (1994) Human Gene Therapy 5:793-801を参照されたい。AAV repコード領域の適当なホモログには、AAV-2 DNA複製を媒介することも公知のヒトヘルペスウイルス6 (HHV-6) rep遺伝子が含まれる(Thomson et al. (1994) Virology 204:304-311)。
【0117】
「AAV capコード領域」とは、カプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3、またはその機能的ホモログをコードするAAVゲノムの、当技術分野で認識される領域を意味する。これらのCap発現産物は、ウイルスゲノムをパッケージングするために全体として必要である、パッケージング機能を供給する。AAV capコーディング領域の記述については、例えば、Muzyczka, N. and Kotin, R.M. (前記)を参照されたい。
【0118】
AAVヘルパー機能はAAV発現ベクターのトランスフェクションの前に、またはトランスフェクションと同時に、AAVヘルパー構築体を用いて宿主細胞をトランスフェクトすることによって宿主細胞へ導入される。したがって、AAVヘルパー構築体を用いて、AAV repおよび/またはcap遺伝子の少なくとも一過性の発現を提供して、生産的AAV感染のために必要である、失われているAAV機能を補完する。AAVヘルパー構築体は、AAV ITRを欠き、それ自体では複製することもパッケージングすることもできない。
【0119】
これらの構築体は、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、ウイルスまたはビリオンの形態であってもよい。通常用いられるプラスミドpAAV/Ad、およびRep発現産物もCap発現産物もコードするpIM29+45などの、いくつかのAAVヘルパー構築体が記述されている。例えば、Samulski et al. (1989) J. Virol. 63:3822-3828; およびMcCarty et al. (1991) J. Virol. 65:2936-2945を参照されたい。Repおよび/またはCap発現産物をコードする、いくつかの他のベクターが記述されている。例えば、米国特許第5,139,941号を参照されたい。
【0120】
AAVアクセサリ機能
宿主細胞(またはパッケージング細胞)はまた、rAAVビリオンを産生するために、非AAV由来機能、または「アクセサリ機能」を提供できるようにされなければならない。アクセサリ機能は非AAV由来のウイルスおよび/または細胞の機能であって、AAVがその複製のために依存する機能である。したがって、アクセサリ機能には少なくともそれらの非AAVタンパク質、およびAAV複製に必要であるRNAが含まれ、これにはAAV遺伝子転写の活性化、段階特異的なAAV mRNAスプライシング、AAV DNA複製、Cap発現産物の合成、およびAAVカプシドの集合に関与する機能が含まれる。ウイルスに基づくアクセサリ機能は、任意の公知のヘルパーウイルスに由来しうる。
【0121】
特に、アクセサリ機能は、当業者に公知の方法を用いて、宿主細胞へ導入され、次いで宿主細胞中で発現されうる。典型的には、アクセサリ機能は、関連のないヘルパーウイルスを用いた宿主細胞の感染によって提供される。アデノウイルス; 単純ヘルペスウイルス1型および2型などの、ヘルペスウイルス; ならびにワクシニアウイルスを含めて、いくつかの適当なヘルパーウイルスが公知である。非ウイルスアクセサリ機能にはまた、例えば任意のさまざまな公知の作用物質を用いる細胞同期化によって提供されるものなど、本明細書での用途が見つかると考えられる。例えば、Buller et al. (1981) J. Virol. 40:241-247; McPherson et al. (1985) Virology 147:217-222; Schlehofer et al. (1986) Virology 152:110-117を参照されたい。
【0122】
あるいは、アクセサリ機能は、上記のアクセサリ機能ベクターを用いて提供されうる。例えば、全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,004,797号および国際公報番号WO 01/83797を参照されたい。アクセサリ機能を提供する核酸配列は、アデノウイルス粒子のゲノムなどの天然の供給源から得られても、または当技術分野において公知の組換え法もしくは合成法を用いて構築されてもよい。上記で説明された通り、アデノウイルス遺伝子の完全な相補体はアクセサリヘルパー機能には必要ないことが実証されている。特に、DNA複製および後期遺伝子合成をできないアデノウイルス変異体は、AAV複製に許容的であることが示されている。Ito et al., (1970) J. Gen. Virol. 9:243; Ishibashi et al, (1971) Virology 45:317。同様に、E2BおよびE3領域内の変異体は、AAV複製を支持することが示されており、このことは、E2BおよびE3領域が、アクセサリ機能を提供することにおそらく関与していないということを示す。Carter et al., (1983) Virology 126:505。しかし、E1領域に欠損があるか、または欠失E4領域を有するアデノウイルスは、AAV複製を支持することができない。したがって、E1AおよびE4領域は、直接的にまたは間接的に、AAV複製に必要である可能性が高い。Laughlin et al., (1982) J. Virol. 41:868; Janik et al., (1981) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78:1925; Carter et al., (1983) Virology 126:505。特徴付けられている他のAd変異体にはE1B (Laughlin et al. (1982)、前記; Janik et al. (1981)、前記; Ostrove et al., (1980) Virology 104:502); E2A (Handa et al., (1975) J. Gen. Virol. 29:239; Strauss et al., (1976) J. Virol. 17:140; Myers et al., (1980) J. Virol. 35:665; Jay et al., (1981) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78:2927; Myers et al., (1981) J. Biol. Chem. 256:567); E2B (Carter, Adeno-Associated Virus Helper Functions, I CRC Handbook of Parvoviruses (P. Tijssen ed., 1990)); E3 (Carter et al. (1983)、前記); およびE4 (Carter et al.(1983)、前記; Carter (1995))が含まれる。E1Bコード領域において変異を有するアデノウイルスによって提供されたアクセサリ機能の研究は矛盾する結果を生じたが、Samulski et al., (1988) J. Virol. 62:206-210によれば、AAVビリオンの産生にはE1B55kが必要であるのに対し、E1B19kは必要でないことが報告されている。さらに、国際公報番号WO 97/17458およびMatshushita et al., (1998) Gene Therapy 5:938-945には、さまざまなAd遺伝子をコードするアクセサリ機能ベクターが記述されている。特に好ましいアクセサリ機能ベクターは、アデノウイルスVA RNAコード領域、アデノウイルスE4 ORF6コード領域、アデノウイルスE2A 72 kDコード領域、アデノウイルスE1Aコード領域、およびインタクトなE1B55kコード領域を欠くアデノウイルスE1B領域を含む。このようなベクターは国際公報番号WO 01/83797に記述されている。
【0123】
ヘルパーウイルスを用いた宿主細胞の感染、またはアクセサリ機能ベクターを用いた宿主細胞のトランスフェクションの結果として、AAVヘルパー構築体をトランス活性化してAAV Repタンパク質および/またはCapタンパク質を産生するアクセサリ機能が発現される。Rep発現産物は、AAV発現ベクターから組換えDNA (関心対象のDNAを含む)を切り出す。Repタンパク質はまた、AAVゲノムを二倍にするように働く。発現されたCapタンパク質は集合してカプシドを構築し、組換えAAVゲノムはカプシドへパッケージングされる。したがって、生産的AAV複製が結果として起こり、DNAはrAAVビリオンへパッケージングされる。「組換えAAVビリオン」または「rAAVビリオン」は本明細書において、AAV ITRが両側に隣接する関心対象の異種ヌクレオチド配列をカプセル化するAAVタンパク質殻を含む、感染性の複製欠損ウイルスとして定義される。
【0124】
組換えAAV複製の後、rAAVビリオンはカラムクロマトグラフィー、CsCl勾配などのような種々の従来の精製方法を用いて、宿主細胞から精製されうる。例えば、陰イオン交換カラム、アフィニティーカラムおよび/または陽イオン交換カラムによる精製などの複数のカラム精製段階を用いることができる。例えば、国際公報番号WO 02/12455を参照されたい。さらに、アクセサリ機能を発現するために感染を用いる場合には、残りのヘルパーウイルスは公知の方法を用いて不活化されうる。例えば、アデノウイルスは、例えば、20分またはそれ以上の間およそ60℃の温度まで加熱することによって不活化されうる。この処理はヘルパーウイルスのみを効果的に不活化する。というのは、AAVは極度に熱安定性であるが、ヘルパーアデノウイルスは熱不安定性であるからである。
【0125】
関心対象のヌクレオチド配列を含む、得られたrAAVビリオンを次いで、以下に記述の技術を用いて遺伝子送達のために用いることができる。
【0126】
組成物および送達
A. 組成物
産生されると、関心対象の遺伝子をコードするrAAVビリオンは送達に適した組成物に製剤化される。組成物は、関心対象の遺伝子の治療的に有効な量、すなわち、(1) 疾患に曝されうるもしくは疾患の素因を持ちうるが、疾患の症状を未だ経験していないもしくは示していない対象において疾患の発現を予防するのにもしくはいっそう軽度で疾患を発生させるのに、(2) 疾患を抑制するのに、すなわち、発現を阻止するのにもしくは疾患状態を逆転するのに、または(3) 疾患の症状を和らげるのに、すなわち、対象が経験する症状の数を減らすのに、および疾患に付随する細胞病変を変化させるのに十分な量をもたらすために十分な遺伝物質を含む。
【0127】
適切な用量はまた、数ある中でも、処置される哺乳動物(例えば、ヒトもしくは非ヒト霊長類または他の哺乳動物)、処置される対象の年齢および全身状態、処置される状態の重症度、投与様式に依ると考えられる。当業者は適切な有効量を容易に判定することができ、代表的な量を以下に示す。
【0128】
組成物はまた、薬学的に許容される賦形剤を含む。このような賦形剤には、組成物を投与された個体に有害な抗体の産生をそれ自体が誘発せず、かつて過度の毒性なしに投与されうる、任意の薬剤が含まれる。薬学的に許容される賦形剤には、ソルビトール、任意のさまざまなTWEEN化合物、ならびに水、生理食塩水、グリセロールおよびエタノールなどの液体が含まれるが、これらに限定されることはない。薬学的に許容される塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩などのような鉱物の酸性塩; および酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩などのような有機酸の塩がその中に含まれてもよい。さらに、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝物質などのような、補助物質がこのような媒体に存在してもよい。薬学的に許容される賦形剤の十分な考察は、REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES (Mack Pub. Co., N.J. 1991)において利用可能である。
【0129】
製剤は、液体または固体であっても、例えば、凍結乾燥されてもよい。製剤はエアロゾルとして投与されてもよい。
【0130】
特に有用な製剤の一つは、一つまたは複数の二価アルコールまたは多価アルコール、および任意で、ソルビタンエステルなどの界面活性剤との組み合わせで関心対象のrAAVビリオンを含む。例えば、全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,764,845号を参照されたい。
【0131】
B. 送達
一般に、組換えビリオンはインビボまたはインビトロのいずれかの形質導入技術を用いて対象へ導入される。インビトロで形質導入された場合には、所望のレシピエント細胞は対象から取り出され、組換えベクターで形質導入され、対象へ再導入される。あるいは、対象において不適切な免疫応答を生じない場合には、同系細胞または異種細胞が用いられてもよい。哺乳類宿主動物への送達に適した細胞には、臓器、組織または細胞株由来の哺乳類細胞種が含まれる。例えば、ヒト、ネズミ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、イヌ、ネコおよびブタ細胞を用いることができる。用いるのに適した細胞腫には、非限定的に、線維芽細胞、肝細胞、内皮細胞、角化細胞、造血細胞、上皮細胞、筋細胞、神経細胞および幹細胞が含まれる。さらに、神経前駆細胞はインビトロで形質導入され、次いでCNSに送達されることができる。
【0132】
適切な培地中で組換えベクターを所望の細胞と組み合わせることによりインビトロで細胞は形質導入されることができ、かつサザンブロットおよび/もしくはPCRなどの従来の技術を用い、または選択可能なマーカーを用いることにより関心対象のDNAを保有する細胞を求めて、細胞をスクリーニングすることができる。形質導入された細胞を次いで、上記の通り、薬学的組成物へ製剤化することができ、この組成物を一つまたは複数の用量で、下記の通りにさまざまな技術によって対象へ導入することができる。
【0133】
インビボ送達のために、組換えビリオンは薬学的組成物へ製剤化され、一回または複数回の投与量が示された様式で直接投与されうる。ヒト脳における構造の同定のために、例えば、The Human Brain: Surface, Three-Dimensional Sectional Anatomy With MRI, and Blood Supply, 2nd ed., eds. Deuteron et al., Springer Vela, 1999; Atlas of the Human Brain, eds. Mai et al., Academic Press; 1997; およびCo-Planar Sterotaxic Atlas of the Human Brain: 3-Dimensional Proportional System: An Approach to Cerebral Imaging, eds. Tamarack et al., Thyme Medical Pub., 1988を参照されたい。マウス脳における構造の同定のために、例えば、The Mouse Brain in Sterotaxic Coordinates, 2nd ed., Academic Press, 2000を参照されたい。所望により、ヒトの脳構造を別の哺乳動物の脳の類似の構造と相関させてもよい。例えば、ヒトおよびげっ歯動物を含む大部分の哺乳動物は、前側海馬への突出が嗅内皮質の内側部分内のニューロンから生じているのに対して、外側および内側嗅内皮質両方の外側部分におけるニューロンが海馬の背側または中隔極にまで突出しており、嗅内-海馬突出が類似の組織分布を示している(Principles of Neural Science, 4th ed., eds Kandel et al., McGraw-Hill, 1991; The Rat Nervous System, 2nd ed., ed. Paxinos, Academic Press, 1995)。さらに、嗅内皮質のII層細胞は、歯状回にまで突出しており、歯状回の分子層の外側2/3において終結している。III層細胞由来の軸索は、海馬のアンモン角領域CA1およびCA3の両方にまで突出し、網状層の分子層において終結している。
【0134】
ベクターを中枢神経系の特定の領域に、具体的には脳の特定の領域に特異的に送達するために、ベクターは定位微量注入によって投与されうる。例えば、手術当日、患者は所定の位置に固定した(頭蓋骨にねじくぎで取り付けた)定位支持枠を有する。定位支持枠を有する脳(基準点となる標識にMRI適合性である)を、高解像度MRIを用いて撮像する。次いで、MRI画像は定位脳ソフトウェアを実行するコンピュータに移される。一連の冠状、矢状および軸方向画像を用いて、ベクター注入の標的部位および軌道を決定する。ソフトウェアを、軌道を定位枠に適切な3次元座標に直接変換する。穿頭孔を侵入部位上に開け、定位脳装置を所定の深さで植え込んだ針とともに局在させる。次いで、薬学的に許容される担体中のベクターを注入する。次いで、ベクターを直接注入によって一次標的部位に投与し、軸索によって遠位標的部位に逆行的に輸送する。さらなる投与経路、例えば、直接可視化の下での表面上の皮層への適用または定位固定でない他の適用を用いてもよい。
【0135】
いずれかの血清型の組換えAAVを本発明において用いることができ、ここで組換えAAVは自己相補的AAVまたは非自己相補的AAVのどちらであってもよい。本発明のある種の態様において用いられるウイルスベクターの血清型は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8およびAAV9からなる群より選択される(例えば、Gao et al. (2002) PNAS, 99:11854 11859; およびViral Vectors for Gene Therapy: Methods and Protocols, ed. Machida, Humana Press, 2003を参照のこと)。本明細書において列挙されるもの以外の他の血清型が用いられてもよい。さらに、本明細書に記述される方法において偽型AAVベクターが使用されてもよい。偽型AAVベクターは、第二のAAV血清型のカプシド中に一種のAAV血清型のゲノムを含むものであり; 例えば、AAV2カプシドおよびAAV1ゲノムを含むAAVベクターまたはAAV5カプシドおよびAAV2ゲノムを含むAAVベクターである(Auricchio et al., (2001) Hum. Mol. Genet., 10(26):3075-81)。
【0136】
組換えビリオンまたはインビトロで形質導入された細胞は、末梢神経、網膜、後根神経節、神経筋接合部などの神経組織へ、およびCNSへ、例えば、側脳室の一方または両方のなどの脳室領域への注入によって、ならびに線条体(例えば、線条体の尾状核または被殻)、小脳、脊髄および神経筋接合部へ、定位注入によるなどの当技術分野において公知の脳神経外科技術を用い、注射針、カテーテルまたは関連の装置によって直接送達されてもよい(例えば、Stein et al., J Virol 73:3424-3429, 1999; Davidson et al., PNAS 97:3428-3432, 2000; Davidson et al., Nat.Genet. 3:219-223, 1993; およびAlisky and Davidson, Hum. Gene Ther. 11:2315-2329, 2000を参照のこと)。例示的な態様において、送達は対象または患者の脊髄への高力価ベクター溶液の直接注入によって達成される。
【0137】
別の例示的な態様において、対象の脊髄および/または脳幹領域に導入遺伝子を送達するための方法は、対象の脳の小脳の小脳核(DCN)領域の少なくとも一つの領域に導入遺伝子を含む組換えAAVベクターを投与することによるものである。小脳核と呼ばれる内側(室頂)核、挿入(中位)核および外側(歯状)核といった灰白質は、小脳の深部である。本明細書において用いられる場合、「小脳核」という用語は、これら3つの領域をまとめていい、これら3つの領域の一つまたは複数を標的化することができる。ウイルスの送達は、脊髄および/または脳幹領域における、対象の脊髄の少なくとも一つの小区分における、導入遺伝子の発現に有利に働く条件の下である。これらの小区分には頸部、胸部、腰部または尾部の一つまたは複数が含まれる。
【0138】
理論に関して限定されるものではないが、本発明の一つの態様は、治療用分子(例えば、タンパク質またはペプチド)を脊髄の各区分へ提供できることにある。これは、scAAVベクターを含むAAVベクターをDCNへ注入することによって達成されうる。さらに、各脊髄区分内の個々の薄膜を標的とすることが重要なこともある。薄膜は脳および脊髄の領域内の特異的な小領域である。特定の脊髄区分内の特異的な薄膜を標的とすることがある種の態様では望ましいこともある。運動ニューロン損傷は上部運動ニューロン内にも生じることがあるので、治療用分子(例えば、タンパク質またはペプチド)を脳幹の区分へ提供することが望ましいこともある。一つの態様において、一部または全部の小区分を含む脊髄、ならびに一部または全部の小区分を含む脳幹の両方へ治療用分子を提供することが望ましいこともある。本発明ではAAVベクターのDCNへの導入を用いて、脊髄領域および/または脳幹への治療用分子の上述の送達を達成する。
【0139】
脊髄(例えば、グリア)を標的化するための別の方法は、脊髄組織自体にではなくクモ膜下腔送達によるものである。このような送達は多くの利点を示す。標的化されたタンパク質は、周囲のCSFへ放出され、ウイルスとは異なり、放出されたタンパク質はクモ膜下腔内注入の直後に脊髄の実質へ浸透しうる。実際、ウイルスベクターのクモ膜下腔内送達は、発現を局所に維持しうる。クモ膜下腔内遺伝子治療のさらなる利点は、このクモ膜下腔経路が、ヒトにおいて既に常用の腰椎穿刺投与(すなわち、脊椎穿刺)を模倣するということである。
【0140】
組換えベクターまたは形質導入された細胞を投与するための別の方法は、後根神経節(DRG)ニューロンへの送達によるものであり、例えば、DRGへの拡散を後に伴う硬膜外腔への注入によるものである。例えば、組換えベクターまたは形質導入された細胞は、タンパク質がDRGに拡散される条件の下でクモ膜下腔内カニューレ挿入を介して送達されうる。例えば、Chiang et al., Acta Anaesthesiol. Sin. (2000) 38:31-36; Jain, K.K., Expert Opin. Investig. Drugs (2000) 9:2403-2410を参照されたい。
【0141】
CNSに対するさらに別の投与方法では対流増強送達(CED)システムを用いるが、これは任意の手動によらないベクターの送達である。CEDの一つの態様において、手動によらない送達システムの使用によって圧力勾配を作り出す。CEDを用いることにより、組換えベクターをCNSの広域にわたる多くの細胞に送達することができる。さらに、送達されたベクターはCNS細胞(例えば、グリア細胞)において、導入遺伝子を効率的に発現する。任意の対流増強送達装置が組換えベクターの送達に適切でありうる。好ましい態様において、装置は浸透圧ポンプまたは注入ポンプである。浸透圧ポンプも注入ポンプも種々の供給業者、例えばAlzet Corporation, Hamilton Corporation, Alza, Inc., Palo Alto, California)から市販されている。典型的には、組換えベクターは以下の通りにCED装置を介して送達される。カテーテル、カニューレまたは他の注入装置を、選択された対象のCNS組織へ挿入する。定位マッピングおよび位置決め装置は、例えば、ASI Instruments, Warren, MIから入手可能である。CTおよび/またはMRI画像によって得られた解剖学的なマップを用いることにより位置決めを行って、選択された標的に対して注入装置をガイドすることを補助してもよい。さらに、対象の比較的大きな領域が組換えベクターを取り込むように本明細書において記述される方法を実施できるので、注入カニューレは少なくてもかまわない。外科的な合併症は穿通の回数に関連することが多いので、この送達方法は、従来の送達技術で見られる副作用を減らすように働く。CED送達に関する詳細な説明については、全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,309,634号を参照されたい。
【0142】
組換えAAVベクターの側脳室内または脳室内送達は、脳脊髄液(CSF)で満たされている脳室のいずれか一つまたは複数において実施されうる。CSFは脳室を満たす透明な液体であり、くも膜下腔に存在し、脳および脊髄を取り囲んでいる。CSFは脈絡叢により産生され、脳による組織液の浸出または透過を介して脳室に至る。脈絡叢は、側脳室底ならびに第三および第四脳室天井を裏打ちする構造である。ある種の研究では、これらの構造が1日に400〜600 ccsの液体を産生可能であり、これは1日に4回中枢神経系腔を満たす量に一致することが示唆されている。成人において、この液体の体積を計算すると125〜150 ml (4〜5オンス)であった。CSFは連続的に形成され、循環し、吸収されている。ある種の研究では、およそ430〜450 ml (ほぼ2カップ)のCSFが毎日産生されうることが示唆されている。ある計算によれば、産生は成人で毎分およそ0.35 mlに等しく、乳児で毎分0.15 mlに等しいものと推測されている。側脳室の脈絡叢はCSFの大部分を産生している。それは、モンロー孔を通って第三脳室に流れ込み、そこで第三脳室から産生されたものに添加され、シルビウス水道を通って第四脳室に至る。第四脳室がさらに多くのCSFをもたらし; 次に液体はマジャンディ孔およびルシュカ孔を通って、くも膜下腔に移動する。次いで脳底を循環し、脊髄周辺を下り、大脳半球上を上昇する。CSFはくも膜絨毛および脳内の血管洞を介して血液に流れ込む。
【0143】
一つの局面において、開示される方法は、治療用タンパク質をコードする導入遺伝子を保有しているrAAVビリオンを罹患対象のCNSに投与する段階、および発現タンパク質がCSFを介してCNS全体に運搬される場合に治療効果を及ぼすのに十分なレベルにおいて投与部位の近傍のCNS内で導入遺伝子が発現されることを可能にする段階を含む。いくつかの態様において、該方法は、発現産物の最終的な作用部位より遠位のCNS内の第一の部位にて治療レベルで導入遺伝子産物が発現されるように治療用導入遺伝子を保有する高力価ビリオン組成物を投与することを含む。
【0144】
実験マウスにおいて、注入されるAAV溶液の全体積は、例えば、1〜20 μlである。ヒトを含めて、他の哺乳動物のために、体積および送達速度は適切にスケーリングされる。処置は、標的部位1つあたり1回の注入からなっても、または一つもしくは複数の部位にて繰り返されてもよい。複数の注入部位が用いられてもよい。例えば、いくつかの態様において、導入遺伝子を保有するウイルスベクターを含む組成物が、第一の投与部位に加えて、第一の投与部位に対して対側性または同側性であってもよい別の部位に投与される。注入は1回または複数回、一側性または両側性であってもよい。
【0145】
投与量処置は、連続的もしくは断続的に単一用量の計画であっても、または複数用量の計画であってもよい。さらに、必要に応じて、多くの用量として対象に投与されてもよい。複数用量が投与される場合には、投与される第一の製剤は、その後の製剤と同じであってもまたは異なってもよい。したがって、例えば、第一の投与はAAVベクターの形態であってもよく、第二の投与はアデノウイルスベクター、プラスミドDNA、タンパク質組成物などの形態であってもよい。さらに、その後の送達はまた、第二の送達方法と同じであってもまたは異なってもよい。
【0146】
さらに、対象は、本発明において開示される送達方法の組み合わせによって本発明のrAAVベクターを受けてもよい。したがって、対象は、脳室内注入、直接脊髄注入、くも膜下注入および脳(例えば、線条体、小脳核を含む小脳)実質内注入からなる群より選択される少なくとも二つの注入部位でのAAVベクターの注入を受けてもよい。一つの態様において、対象は、(1) 少なくとも一回の脳室内注入および少なくとも一回の直接脊髄注入、または(2) 少なくとも一回の脳室内注入および少なくとも一回のくも膜下注入、または(3) 少なくとも一回の脳室内注入および少なくとも一回の脳実質内注入、または(4) 少なくとも一回の直接脊髄注入および少なくとも一回のくも膜下注入、または(5) 少なくとも一回の直接脊髄注入および少なくとも一回の脳実質内注入、または(6) 少なくとも一回のくも膜下注入および少なくとも一回の脳実質内注入によって、rAAVベクターを受けてもよい。
【0147】
送達された組換えビリオンによって二つ以上の導入遺伝子が発現されうることが理解されるべきである。あるいは、一つまたは複数の異なる導入遺伝子を各々が発現する別個のベクターが、本明細書において記述される通り対象に送達されてもよい。したがって、複数の導入遺伝子が同時にまたは連続的に送達されてもよい。さらに、本発明の方法によって送達されたベクターを他の適当な組成物および治療法と組み合わせられることも意図される。さらに、タンパク質および核酸による処置の組み合わせが用いられてもよい。
【0148】
最も効果的な投与手段および治療的に有効な投与量を判定する方法は、当業者に周知であり、ベクター、治療の組成、標的細胞および処置される対象によって異なると考えられる。治療的に有効な用量は、例えば、問題の特定疾患の動物モデルの一つまたは複数を用いて容易に判定することができる。「治療的に有効な量」は、臨床試験を通じて判定されうる比較的広い範囲に入ると考えられる。例えば、rAAVビリオンのインビボ注入の場合、用量はおよそ106〜1015個のゲノム粒子の組換えウイルス、より好ましくは108〜1014個のゲノム粒子の組換えウイルス、または所望の影響を与えるのに十分なこれらの範囲内の任意の用量であると考えられる。ある種の態様において、組成物中のベクターの濃度または力価は、少なくとも(a) 5 6、7、8、9、10、15、20、25もしくは50 (×1012 gp/ml); (b) 5、6、7、8、9、10、15、20、25もしくは50 (×109 tu/ml); または(c) 5、6、7、8、9、10、15、20、25もしくは50 (×1010 iu/ml)である。
【0149】
インビトロでの形質導入の場合、細胞に送達されるrAAVビリオンの有効量は、およそ108〜1013個の組換えウイルスであると考えられる。薬学的組成物中の形質導入細胞の量は順に、約104〜1010個の細胞、より好ましくは105〜108個の細胞であると考えられる。当業者は用量反応曲線を確定する日常の試験を通じて他の有効な投与量を容易に確定することができる。
【0150】
一般に、0.01〜約0.5 ml、例えば0.08、0.09、0.1、0.2などのような約0.05〜約0.3 mlなどの、1 μl〜1 mlの組成物が送達され、これらの範囲内の任意の数値の組成物が送達されると考えられる。
【0151】
動物モデル
上記の導入遺伝子を含むAAVビリオンを用いて治療的有効性および安全性を、適切な動物モデルで試験することができる。例えば、ヒト疾患に最も類似しているように見える動物モデルには、高発生率の特定の疾患を自発的に発現する動物種、またはそうするように誘導されている動物種が含まれる。
【0152】
特に、SMAのいくつかの動物モデルが公知であり、作製されている。例えば、Sumner C.J., NeuroRx (2006) 3:235-245; Schmid et al., J. Child Neurol. (2007) 22:1004-1012を参照されたい。上記で説明された通りに、常染色体劣性神経筋障害SMAの分子基盤は、生存運動ニューロン遺伝子1 (SMN1)のホモ接合性の喪失である。SMN2と呼ばれる、SMN1遺伝子のほとんど同一のコピーがヒトにおいて見られ、疾患重症度を調節する。ヒトとは対照的に、マウスはSMN1に等価な単一の遺伝子(SMN)を有する。この遺伝子のホモ接合性の喪失は、胚にとって致死的であり、大量の細胞死を引き起こし、このことから、SMN遺伝子産物が細胞の生存および機能に必要であることが示唆される。SMNを欠くマウスへの2コピーのSMN2の導入は、胚性致死性をレスキューし、SMA表現型を有するマウスを生ずる(Monani et al., Hum. Mol. Genet. (2000) 9:333-339)。高コピー数のSMN2は、十分なSMNタンパク質が運動ニューロンにおいて産生されるので、マウスをレスキューする。また、ヒトSMN2を発現する遺伝子導入マウス系統の作製について報告しているHsieh-Li, et al., Nat. Genet. (2000) 24:66-70を参照されたい。特に、SMN-/-のバックグラウンドにおいてSMN2を持つ遺伝子導入マウスは、SMA患者のものに類似した脊髄および骨格筋の病的変化を示す。これらのマウスにおける病的変化の重症度は、第7エクソンによってコードされる領域を含んだSMNタンパク質の量と関連がある。このマウスモデルにおける表現型には運動ニューロン細胞の喪失、骨格筋の萎縮、異常な神経筋接合部(NMJ)、行動の欠陥、麻痺および約2週間の寿命の短縮が含まれる。Le et al., Hum. Mol. Genet. (2005) 14:845-857。
【0153】
同様に、ALSの動物モデルが公知である。ALSは、皮質、脳幹および脊髄における運動ニューロンの選択的な喪失によって特徴付けられる致死的な神経変性疾患である。疾患の進行は四肢、軸および呼吸筋の萎縮をもたらしうる。運動ニューロンの細胞死は、反応性神経膠症、神経フィラメント異常、ならびに皮質脊髄路および前根における大きな有髄化線維の有意な喪失を伴う。ALSの病因はあまり理解されていないが、蓄積している証拠は、孤発性(SALS)および家族性(FALS) ALSが多くの類似した病理学的特徴を共有することを示唆しており、したがって、いずれかの形態の研究が共通の処置につながるという希望を与えている。FALSは、診断症例のおよそ10%を占め、そのうちの20%が、Cu/Znスーパーオキシドジスムターゼ(SODI)における優性遺伝性変異に関連している。変異体ヒトSODIタンパク質を発現する遺伝子導入マウス(例えば、SODIG93Aマウス)は、ALSの多くの病理学的特徴を反復しており、ALSを研究するために利用可能な動物モデルである。SALSの場合、グルタミン酸誘導性興奮毒性、毒物曝露、プロテアソーム機能障害、ミトコンドリア損傷、神経フィラメント組織崩壊および神経栄養支持の喪失を含めて、無数の病理学的機構が根本原因に関係があるとされている。
【0154】
実験的アレルギー性脳脊髄炎とも呼ばれる実験的自己免疫脳脊髄炎(EAE)はMSの動物モデルを提供する。EAEはMSのさまざまな形態および段階に非常によく似ている。EAEは急性または慢性の再発性、後天性、炎症性かつ脱ミエリン性の自己免疫疾患である。この疾患を生じさせるために、ミエリン、つまりニューロンを取り囲む絶縁被覆を構成するタンパク質を動物に注入する。これらのタンパク質は注入された動物において自己免疫反応を誘導し、それらの動物はヒトでのMSによく似た疾患過程を発現する。EAEは、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、マカク、アカゲザルおよびマーモセットを含むいくつかの異なる動物種において誘導されている。
【0155】
球脊髄性筋萎縮症(SBMA)は、アンドロゲン受容体(AR)遺伝子の第1エクソンにおけるトリヌクレオチド反復配列(TNR)の伸長によって引き起こされる、成人発症の運動ニューロン疾患である。この障害は運動および感覚ニューロンの変性によって、近位筋萎縮によって、ならびに女性化乳房および低受精率などの内分泌異常によって特徴付けられる。男性しか症状を発現せず、その一方で女性保因者は通常、無症候性である。SBMAの分子基盤は、アンドロゲン受容体(AR)遺伝子の第1エクソンにおいてポリグルタミン(ポリQ)鎖をコードするトリヌクレオチドCAG反復配列の伸長である。病理学的特質は、脳幹および脊髄中のならびにいくつかの他の内臓器官中の残存運動ニューロンにおける伸長されたポリQを有する変異体および切断ARを含んだ核内封入体(NI)である。SBMAの発病について研究するために、いくつかの遺伝子導入マウスモデルが作製されている。例えば、Katsuno et al., Cytogen. and Genome Res. (2003) 100:243-251を参照されたい。例えば、ヒトARプロモーターの下に純粋な239個のCAGを保有する遺伝子導入マウスモデル、および伸長されたCAGを有する切断ARを保有する別のモデルは運動障害および脊髄運動ニューロン中の核NIを示す。伸長されたポリQを有する全長ヒトARを保有する遺伝子導入マウスは、進行性運動障害および神経性の病状ならびに表現型の性差を示す。これらのモデルは、SBMAで観察される表現型の発現を反復する。
【0156】
脊髄小脳失調3型とも呼ばれるマシャド・ジョセフ病(Machado-Joseph disease) (MJD)は、ポリグルタミン伸長を有する変異体アタキシン-3によって引き起こされる。MJD、および他のポリグルタミン脊髄小脳失調のマウスモデルが作製されている。これらのモデルの概説については、例えば、Gould, V.F.C. NeuroRX (2005) 2:480-483を参照されたい。
【0157】
したがって、当技術分野において標準的な動物モデルは、運動ニューロン障害の処置のための本発明の方法および組成物の活性および/または有効性のスクリーニングおよび/または評価のために利用可能である。
【0158】
本発明のキット
本発明はまた、キットを提供する。ある種の態様において、本発明のキットは、関心対象のタンパク質をコードする組換えベクターを含む一つまたは複数の容器を含む。キットはさらに、本明細書において記述されるいずれかの方法のためのベクターの使用に関する、適当なセットの使用説明書、一般に文章による使用説明書を含むことができる。
【0159】
キットは任意の都合の良い、適切な包装の中に成分を含むことができる。例えば、組換えベクターが乾燥製剤(例えば、凍結乾燥された粉末または乾燥粉末)として提供される場合には、弾性栓を通じて液体を注入することによりベクターを容易に再懸濁できるように、弾性栓の付いたバイアルが通常用いられる。非弾性の除去可能なふた(例えば、密封ガラス)または弾性栓の付いたアンプルが液体製剤には最も好都合に用いられる。同様に企図されるのは、注射器などの特定の装置または小型ポンプなどの輸液用装置と組み合わせて用いるための包装である。
【0160】
使用に関するまたは組換えベクターに関する使用説明書には一般に、投与量、投薬計画および意図した使用法のための投与経路に関する情報が含まれる。容器は単位用量、大量包装(例えば、多用量包装)または副単位用量であってもよい。本発明のキットの中に供給される使用説明書は、典型的には、ラベル上の文章による使用説明書または添付文書(例えば、キットの中に含まれる紙シート)であるが、機械可読の使用説明書(例えば、磁気または光学保存ディスクにて持ち運ばれる使用説明書)も許容される。
【0161】
2. 実験
以下は、本発明を実施するための具体的な態様の例である。この例は、例示の目的でのみ提供されるのであって、本発明の範囲を決して限定することを意図するものではない。
【0162】
使用された数値(例えば、量、温度など)に関して正確性を保障するための労力を払っているが、当然ながらある程度の実験誤差および偏差が認められるべきである。
【0163】
材料および方法
AAVベクター
例示的なヒトSMN1遺伝子の読み取り枠(読み取り枠の配列は図9Aに示されており; 対応するアミノ酸配列は図9Bに示されており; 完全なヌクレオチド配列はGenBankアクセッション番号NM_000344で見出される)を、AAV2逆向き末端反復配列(ITR)および1.6 kbのサイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ-アクチン(CBA)プロモーターまたはscAAV2 ITRおよび0.4 kbのヒトβ-グルクロニダーゼ(GUSB)プロモーターのいずれかを含んだシャトルプラスミドへクローニングした。scAAVパッケージング反応における組換えゲノムのサイズ制約から、小さなプロモーターの使用が必要になった(McCarty, D.M. Molec. Ther. (2008) 16:1648-1656)。したがって、0.4 kb GUSBプロモーターを選択した。これは、脊髄の運動ニューロンを含むCNSの全体に普遍的に発現されるからである(Passini et al., J. Virol. (2001) 75:12382-12392)。組換えプラスミドをそれぞれ、ヒト293細胞の三重プラスミド同時形質移入によりAAV血清型-8カプシドへパッケージングし(例えば、全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,001,650号を参照のこと)、ビリオンを既報(O'Riordan et al., J. Gene Med. (2000) 2:444-454.)の通りにカラム精製した。その結果として得られたベクターAAV2/8-CBA-hSMN1 (AAV-hSMN1)およびscAAV2/8-GUSB-hSMN1 (scAAV-hSMN1)はそれぞれ、1 mlあたり8.3 e12および2.8 e12ゲノムコピーの力価を持っていた。
【0164】
動物および手順
ヘテロ接合体(SMN+/-、hSMN2+/+、SMNΔ7+/+)の雌雄を交配させ、出生日(P0)に、新生仔の両脳半球の側脳室および腰上部脊髄へ各2 μl計3回の注入を受けさせた。ウイルスベクターの総用量はAAV-hSMN1およびscAAV-hSMN1について、それぞれ、5.0 e10および1.7 e10ゲノムコピーであった。注入は全て、記述(Passini et al, J. Virol. (2001) 75:12382-12392)の通りに細延伸ガラスマイクロピペット針で行った。注入の後、仔の足指を留め、遺伝子型を同定して(Le et al., Hum. Mol. Genet. (2005) 14:845-857)、SMA (SMN-/-、hSMN2+/+、SMNΔ7+/+)、ヘテロ接合体および野生型(SMN+/+、hSMN2+/+、SMNΔ7+/+)マウスを特定した。全ての同腹仔を7匹の仔に選別し、生存に関して同腹仔のサイズを管理した。同腹仔のなかには、未処置対照群を作製するために注入されなかったものもあった。
【0165】
ウエスタンブロット
生化学的分析のため、処置マウスおよび未処置マウスを16日および58〜66日の時点で殺処理し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で灌流し、脊髄を解剖し、腰部、胸部および頸部へ分け、液体窒素中で急速凍結した。T-Per溶解用緩衝液およびプロテアーゼ阻害剤カクテル(Pierce, Rockford, IL)を用いて組織を50 mg/mLの濃度でホモジナイズした。ホモジネートを6分間10,000 RCFでの遠心分離によって清澄化し、タンパク質濃度をBCAアッセイ法(Pierce, Rockford, IL)によって測定した。ホモジネートタンパク質10〜20 μgを4〜12% SDS-PAGEにて分離し、ニトロセルロース膜に転写し、マウスモノクローナル抗SMN (1:5,000 BD Biosciences, San Jose, CA)抗体およびウサギポリクローナル抗β-チューブリン(1:750, Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)抗体でプローブした。膜を赤外吸収二次抗体(1:20,000, LI-COR Biosciences, Lincoln NB)とともにインキュベートし、Odyssey (LI-COR Biosciences)を用いて定量的蛍光によりタンパク質のバンドを可視化した。分子量マーカーによってバンドのサイズが確認された。
【0166】
免疫組織化学
組織学的分析のため、処置マウスおよび未処置マウスを16日および58〜66日の時点で殺処理し、4%パラホルムアルデヒド(pH 7.4)で灌流し、脊髄を取り出し、48〜72時間30%スクロース中に入れ、OCT中で包埋し、クリオスタットにより10 μmの凍結切片へ切り分けた。脊髄切片を室温(RT)で1時間ブロッキングし、次いでマウスモノクローナル抗SMN抗体(1:200希釈)とともにインキュベートしてAAV由来のhSMN発現を特定し、または、ヤギポリクローナル抗コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)抗体とともにインキュベートして脊髄のラミナ8および9 (前角)の運動ニューロンを特定し、または、ウサギポリクローナル抗グリア細胞繊維性酸性タンパク質(GFAP)抗体(Sigma-Aldrich, 1:2,500希釈)とともにインキュベートして星状細胞を検出した。一次抗体をRTで1時間インキュベートし、引き続き加湿チャンバ中にて4℃での終夜インキュベーションを行った。脊髄切片を次いで、FITC結合抗ウサギ二次抗体またはCy3結合抗ヤギ二次抗体(Jackson ImmunoResearch; West Grove, PA; 1:250希釈)のいずれかとともにRTで1時間インキュベートした。SMNおよびChAT免疫陽性シグナルを増加させるために、TSAシグナル増幅キット(Perkin Elmer; Waltham, MA)またはクエン酸抗原回復プロトコル(Vector Labs; Burlingame, CA)をそれぞれ、製造業者の使用説明書にしたがって行った。切片にVectashield封入剤(Vector Labs; Burlingame, CA)とともにカバーガラスをかけた。
【0167】
運動ニューロン数の計測
ChAT免疫陽性細胞の数を頸部、胸部および腰部において計測した。3脊髄部の体軸に沿って前角で倍率100×にて左右両側の計測を行った。隣り合う切片を少なくとも100ミクロン離して同じ細胞の二重の計測を防いだ。異なる動物間で解剖学的に適合された切片を比較するために特別な注意を払い、一人の観察者が全ての細胞計数を盲検的に評価した。バックグラウンドを著しく上回る蛍光ChATシグナルを示している脊髄のラミナ8および9に位置する細胞を運動ニューロンと見なした。
【0168】
筋線維サイズ
末梢の組織学的分析のため、各マウスの右側から固定された四頭筋、腓腹筋および肋間筋をパラフィンによって加工処理し、ヘマトキシリンエオシン染色して既報(Avila et al., J. Clin. Invest. (2007) 117:659-671)の通りに筋線維サイズを判定した。動物1匹あたり各筋肉からおよそ500の非重複筋線維を無作為に選択し、倍率60×で写真撮影した。Metamorphソフトウェア(Molecular Devices, Sunnyvale, CA)を用いて各筋線維の断面積を測定した。
【0169】
神経筋接合部の染色(NMJ)
各マウスの左側から固定された筋肉群をNMJ分析のためにPBS中で保存した。四頭筋、腓腹筋および肋間筋から裂かれた筋線維に対する全体染色を既報(Lesbordes et al., Hum. Mol. Genet. (2003) 12:1233-1239)の通りに行った。シナプス前神経末端を150 kDの神経フィラメントアイソフォームに対するウサギポリクローナル抗体(NF-M, Millipore, Billerica, MA, 1:200希釈)、その後、ビオチン化抗ウサギ二次抗体(Jackson ImmunoResearch, 1:200希釈)との4℃での終夜インキュベーションによって標識した。筋終板のアセチルコリン受容体をRTで3時間5000分の1 (1:5000)のAlexa 555結合α-ブンガロトキシン(Molecular Probes, Eugene, OR)によって標識した。染色された筋線維をスライド上に載せ、Vectashieldとともにカバーガラスをかけ、落射蛍光下で観察した。NMJ定量化のため、動物1匹あたり各筋肉から最低100個のNMJを無作為に選択し、顕微鏡下で評価した。Zeiss LSM 510-META顕微鏡を用いて共焦点像を撮った。
【0170】
行動試験
立ち直り反射では、各マウスを仰臥位で置き、マウスが全四肢上へ体の位置を変えるのにかかった時間を測定した。この手順を各動物で3回繰り返し、3スコアの平均を立ち直りスコアと指定した。マウスが60秒以内に反応しなかった場合には、試験を終えた。負の走地性では、各マウスを下向きに45°のプラットフォームに置いた。マウスが「頭部挙上」位へ180°回転した場合には、試験を成功と見なした。この作業課題を180秒またはそれ以下で完了する試みを各マウスに3回与えた。握力では、前肢および後肢をワイヤグリッド上に一緒に置き、メッシュに沿って水平方向に引きずった。力変換器によりグラム単位で抵抗を記録した。後肢開脚試験では、各マウスをそのしっぽで5秒間懸垂させ、その結果として起きた開脚を任意のシステムに基づきスコア化した。野生型マウスで観察されたものに類似した両後肢の正常な開脚に4のスコアを与えた。両後肢の開脚鋭角度または「弱い開脚」を3のスコアとした。片足の開脚には2のスコアを割り当てた。開脚を示さなかったマウスには1のスコアを与えた。最後に、仔が両方の後肢を引き寄せ、互いに効果的に交叉させた場合に0のスコアを付けた。
【0171】
統計
行動試験、運動ニューロンの数、筋線維断面積およびNMJを一元配置ANOVAおよびボンフェローニ多重事後比較で、ならびに対応のない両側スチューデントt検定で解析した。カプラン・マイヤー生存曲線をマンテル・ヘンツェル試験に等価なlog-rank試験で解析した。全ての統計解析はGraphPad Prism v4.0 (GraphPad Software, San Diego, CA)で行った。p < 0.05を有する値を有意と見なした。
【実施例】
【0172】
実施例1 AAV媒介性のSMN1送達を用いた処置による生存の顕著な増大
マウス1匹あたり5.0 e10ゲノムコピーの総用量について、出産後0日目(P0)のSMAマウスにAAV-hSMN1を、その両側脳室へ脳室内注入し、かつその腰上部脊髄へ直接的に脊髄注射した。処置SMAマウスおよび未処置SMAマウスを、全てのマウスがそのままにされかつ人道的な終点で殺処理された生存コホートへ、または全てのマウスが末期の未処置SMAマウスとの同齢比較のために16日の時点で殺処理された同齢のコホートへ、無作為に分けた。
【0173】
生存コホートでは、AAV-hSMN1で処置されたSMAマウスは、未処置SMA対照での15日と比べて、50日までの平均寿命の顕著な増加(p < 0.0001)を示した(図1)。処置SMAマウスの全てが15日の時点で生存し、19日の時点で未処置SMAでの0%と比べて処置SMAマウスの87.5%が生存していた。カプラン・マイヤー曲線からは処置による二峰性の生存分布が示されたが、ここでは、第一の群が17〜27日の時点で死亡し、第二の群が58〜66日の時点で死亡していた(図1)。第一の群では、処置SMAマウスの大部分が歩行を示したが、しかしマウスは発育不全で、最終的には、檻の中で死んでいるのが見つかった。58〜66日の時点で処置SMAマウスの第二の群は歩行および体重増加を示したが、しかし動物の安楽死に終わる重篤な後肢壊死を最後には発現した。したがって、58〜66日のマウスを16日の同齢のコホートと同時に分析した。
【0174】
実施例2 脊髄におけるAAV媒介性のSMN発現および運動ニューロン数の計測
hSMNタンパク質のレベルは、AAV-hSMN1のCNS投与後に脊髄の全体で増加した。16日の時点のAAV処置SMAマウスでは、未処置SMAマウスおよび野生型マウスと比べて、それぞれ、注入腰部でのhSMNタンパク質レベルのおおよそ34.0倍および3.6倍の増加が認められた(図2A)。hSMNタンパク質発現の増大は他の部分に広がり、これには16日の時点での胸髄および頸髄における野生型レベルを上回る2.0倍超の増加が含まれた(図2Bおよび2C)。第二の群では、hSMNタンパク質発現は58〜66日の時点でAAV処置SMAマウスでは維持されていた。注入された腰部ならびに隣接する胸部および頸部は、同齢のWT対照よりも、それぞれ、およそ2.5倍、2.2倍および1.2倍高かった。
【0175】
組織切片の免疫染色から、16日および58〜66日の時点での処置SMAマウスの脊髄の後角および前角におけるhSMNタンパク質が示された(図3)。形質導入細胞のさらに詳しい調査により、ベクター由来のhSMNの発現がサイトゾルの全体に点状のパターンで、および核中にジェム様の構造で検出された(図3A)。さらに、hSMNタンパク質は、樹状突起および軸索の全長にわたって見ることができた独特の顆粒様構造において神経突起に局在化していた(図3B〜3D)。SMAマウスにおけるかなり低レベルの内因性hSMNタンパク質は、細胞における免疫検出の閾値未満であった(図3E)。
【0176】
ChATおよびhSMNの同時局在から、形質導入細胞のサブセットが実際に、運動ニューロンであることが確認された(図3F〜3I)。16日の時点で、脊髄の胸部、腰部および頸部におけるChAT陽性細胞のおよそ18〜42%がAAV-hSMN1によって形質導入された(図3J)。この割合は58〜66日の時点でさらに高く、この場合には3箇所の脊髄部分において60〜70%の運動ニューロンが外因性hSMNを発現していた(図3J)。未処置変異体と比べて処置SMAマウスでの運動ニューロン数の全体的な増加が認められた(図4)。しかしながら、16日および58〜66日の時点で野生型マウスと比べて処置SMAマウスで顕著に少ない運動ニューロンが認められた(図4)。
【0177】
未処置の、脳室内(ICV)だけに注入された、および腰部だけに注入されたヘテロ接合体マウスからの頸部組織切片のhSMN免疫染色を行った。ICV注入だけでは脳で感知できるほどのAAV形質導入パターンに寄与しなかったが、それでもなお腰部だけの注入では達成できなかった頸髄の実質的な標的化をもたらした。特に、ICVだけの注入ではhSMNの頸髄発現が起きた。これは、おそらく注入部位からは末梢部に近いため、頸髄での形質導入をほとんど示さなかった腰部の実質内注入とは対照的であった。時折、ジェム様の外観を持つSMN免疫陽性シグナルが、未処置ヘテロ接合体および野生型マウスの核内で観察された。しかし、この免疫染色パターンは未処置SMAマウスの核内では観察されなかった。
【0178】
このように、P0マウスにおけるICV注入および腰部注入の組み合わせにより、脊髄での幅広い、広範囲にわたる形質導入が得られた。AAV8-hSMNのICV注入では形質導入のために頸髄を標的とした。
【0179】
実施例3 筋線維サイズ、NMJおよび行動に対するAAV処置の効果
分析のために四頭(近位)筋、腓腹(遠位)筋および肋間(呼吸)筋を選んだ。というのは、それらが著明な変性を示すからである。16日の時点の未処置SMAマウスでは、筋線維が小さく、個々の細胞の大部分が100 um2未満(< 100 um2)の断面積を含んでいた(図5A)。未処置SMAマウス由来の筋線維の10%未満に200 um2超の断面積が含まれていた。対照的に、AAV-hSMN1処置SMAマウスにおける筋線維サイズの分布は野生型のものに類似しており、多くの細胞が16日および58〜66日の時点で、それぞれ、200 μm2超および400 μm2超の断面積を保有していた(図5Aおよび5B)。16日の時点の全平均から、処置SMAマウス由来の筋線維が、未処置SMAマウス由来のものよりも2倍超大きいことが示された(図5C)。さらに、58〜66日の時点の処置SMAマウスにおける平均の筋線維断面積は、四頭筋、腓腹筋および肋間筋において野生型マウスのそれの、それぞれ、67%、76%および82%であった(図5C)。
【0180】
16日の時点の未処置SMAマウス由来の神経筋接合部(NMJ)の分析から、シナプス前末端での神経フィラメントタンパク質の異常な蓄積が示された(図6A)。四頭筋、腓腹筋および肋間筋由来のシナプス前末端のおよそ75〜90%が未処置SMAマウスにおいてこの特徴的な病変を示した(図6F)。対照的に、AAV-hSMN1処置SMAマウス由来のシナプス前末端の大部分がこの崩壊構造を含んでいなかった(図6B、6D)。処置SMAマウス由来のシナプス前末端のわずか10〜25%および5%しか、それぞれ、16日および58〜66日の時点でこの特徴的な病変を示していなかった(図6F)。しかしながら、処置は野生型と比べてシナプス前末端の位置でより多くの枝分れを生じた(図6B〜6E)。処置SMAマウスおよび野生型マウス由来のシナプス後NMJに関して、α-ブンガロトキシン染色は、アセチルコリン受容体の機能的なネットワークを示す「プレッツェル様」構造を生じた(図6B〜6E)。
【0181】
処置マウスおよび未処置マウスを、この動物モデルに対して検証されている周期性の行動試験に供した(Butchbach et al., Neurobiol. Dis. (2007) 27:207-219; El-Khodar et al., Exp. Neurol. (2008) 212:29-43)。処置SMAマウスは良好な身体スコアおよび歩行技術を有したのに対し、未処置SMAマウスは解放され麻痺した(図7A)。処置SMAマウスは、野生型のサイズには決して達しなかったが、未処置SMA対照よりも顕著に重かった(図7B)。処置SMAマウスは、立ち直り待ち時間の顕著な改善を示した(図7C)。空間移動行動を測定する負の走地性試験を完了する、処置SMAマウスでの顕著な改善も認められた(図7D)。さらに、処置SMAマウスは、握力の顕著な改善、およびその後肢を開脚する能力の顕著な改善を示した(図7E、7F)。
【0182】
実施例4 自己相補的AAVを用いた寿命に対する効果
理論に関して制限されるわけではないが、自己相補的AAV (scAAV)ベクターは二本鎖組換えゲノムによっていっそう速い発現動態を有するものと予想される(McCarty, D.M. Molec. Ther. (2008) 16:1648-1656において概説されている)。この素早い発現の増大は、介入の時間ウィンドウが小さい非常に侵攻性の疾患または状態において、有益でありうる。したがって、より早い発現が効力を改善できるかどうか判定するために、scAAVベクター(scAAV-hSMN1)を遺伝子操作し試験した。実施例1で行われたのと同じ注入部位を用いて、1.7 e10ゲノムコピーのscAAV-hSMN1の用量をP0 SMAマウスへ投与した。
【0183】
scAAV-hSMN1による処置は、平均生存期間157日の顕著なかつ目覚ましい改善をもたらし(p < 0.0001)、これはAAV-hSMN1処置SMAマウスおよび未処置SMAマウスと比べて、それぞれ、+214%および+881%の増加であった(図8)。およそ42%のscAAV処置マウスが平均生存期間の1000%超の増加(log倍の増加)を有していた。さらに、scAAV2/8-GUSB-hSMN1処置は、AAV2/8-CBA-hSMN1での0%とは対照的に、66日を超えるSMAマウスの生存88%をもたらした。scAAV処置SMAマウスは、正常な身体スコアを保有し、毛並みが良く、体重が増え、全生涯を通じて歩行を維持していた。興味深いことに、scAAV処置SMAマウスは、重篤な表現型へ決して進行しないごく軽度の後肢壊死を発現した。scAAV処置SMAマウスの大部分を、呼吸時に聞き取れるかちかち鳴る息切れ(audible clicking gasp)および呼吸速度の低下を含む、不測かつ突然の呼吸困難の出現によって殺処理した。
【0184】
scAAV8-hSMNで観察された生存時間の増大の根拠をより良く理解するために、さらなるSMAマウスをP0で処置し、注入後16日または64日(58〜66d)の時点で殺処理し、生存曲線から長く生きたscAAV8処置マウスで分析を行った(図8)。16日の時点で、scAAV8-hSMN群由来のSMN発現レベルはWT動物で観察されたものに対しておよそ60〜90%であった。これらのレベルはこの時点でAAV8-hSMN処置によって達成されたものよりも実質的に低かった。scAAV8-hSMN処置SMAマウスにおいて、腰部および胸部の両方のSMNレベルはそれぞれ、58〜66日および120〜220日の時点でWTレベル超またはWTレベルであった(図2Aおよび2B)。対照的に、頸髄におけるSMNレベルは全時点で比較的低いままであった。
【0185】
腰髄におけるAAVベクター指向性の比較を注入後16日および157日の時点で未処置SMAマウス、AAV8-hSMN処置SMAマウスおよびscAAV8-hSMN処置SMAマウス由来の凍結組織切片に対するhSMN免疫染色によって調べた。グリア細胞の形態と一致するびまん性のhSMN免疫染色パターンがAAV8-hSMNにより16日の時点で観察された。hSMNおよびmGFAPの二重免疫標識から、AAV8-hSMN形質導入細胞のサブセットが星状細胞であることが確認された。対照的に、scAAV8処置は、神経形態を有する異なる細胞体でのみhSMNの発現をもたらし、これはGFAPと同時局在していなかった。hSMNおよび運動ニューロンマーカーmChATの二重免疫標識から、scAAV8-hSMNおよびAAV8-hSMNによって形質導入された細胞のサブセットが運動ニューロンであることが確認された。hSMNの発現も157日の時点のscAAV8-hSMNによって例示される通り、両方のウイルスベクターによって脊髄のニューロン間細胞層において観察された。したがってAAV8-hSMNとは対照的に、scAAV8-hSMN処置SMAマウスの組織学的分析から、hSMN発現が主としてニューロンに限られることが示された。
【0186】
さらに、hSMNおよびmChATを用いた二重免疫染色により、AAV8-hSMNと比べてscAAV8-hSMNで形質導入された運動ニューロンの割合の顕著な増加が示された(図10A)。scAAVによる運動ニューロンのさらに効率的な標的化は、ChAT陽性細胞数の顕著な増加と相関性があった(図10B〜10D)。16日の時点の四頭筋および肋間筋におけるNMJの分析からも、AAV8-hSMNと比べてscAAV-hSMNによる崩壊構造の数の顕著な減少が示された(図10Eおよび10F)。しかしながら、216〜269日の時点で異常なNMJの数の増加を認め、これはscAAV-hSMN群における運動ニューロン細胞数の減少と同時に起きた(図10B〜10F)。
【0187】
要約すると、SMAマウスモデルのCNSへの出生時のAAV8-hSMNの注入は、脊髄全体にわたるSMNの広範な発現を引き起こし、これが骨格筋の生理機能の強固な改善につながった。処置SMA動物はまた、行動試験に関して顕著な改善を示し、このことから、神経筋接合部が機能的であることが示唆された。重要なことには、AAV8-hSMNによる処置は、未処置対照の場合の15日と比べて50日までSMAマウスの平均寿命を増大した。さらに、自己相補的AAVベクターを注入されたSMAマウスは、157日までの平均生存期間の顕著な延長を含めて効力の改善を生じた。これらのデータは、CNS指向性の、AAVを介したSMNの増強が重篤なSMAマウスモデルの神経病変および筋肉病変の両方の対処で非常に効率的であることを証明している。
【0188】
このように、脊髄障害を処置するための組成物および方法が開示される。本発明の好ましい態様をいくらか詳細に記述してきたが、本明細書において定義される本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、明らかな変更を行えることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運動ニューロン障害を有する対象において運動機能を調節するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、自己相補的なアデノ随伴ウイルス(scAAV)ベクター。
【請求項2】
前記運動ニューロン障害が、脊髄性筋萎縮症(SMA)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、球脊髄性筋萎縮症、脊髄性小脳運動失調、原発性側索硬化症(PLS)または外傷性脊髄損傷から選択される、請求項1記載のscAAVベクター。
【請求項3】
前記運動ニューロン障害がSMAである、請求項2記載のscAAVベクター。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチドが生存運動ニューロン(SMN)タンパク質をコードする、請求項3記載のscAAVベクター。
【請求項5】
前記SMNタンパク質がヒトSMN-1によってコードされる、請求項4記載のscAAVベクター。
【請求項6】
前記SMNタンパク質が、図9Bに示された配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項5記載のscAAVベクター。
【請求項7】
前記SMNタンパク質が、図9Bに示されたアミノ酸配列を含む、請求項6記載のscAAVベクター。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項記載のscAAVベクターを含む、組換えAAVビリオン。
【請求項9】
請求項8記載の組換えAAVビリオンおよび薬学的に許容される賦形剤を含む、組成物。
【請求項10】
請求項9記載の組成物の治療的に有効な量を対象の細胞に投与する段階を含む、運動ニューロン障害を有する該対象において運動機能を調節する方法。
【請求項11】
請求項4〜7のいずれか一項記載のAAVベクターを含む組換えAAVビリオンを、それを必要とする対象の細胞に投与する段階を含む、脊髄性筋萎縮症(SMA)を有する該対象にSMNタンパク質を提供する方法。
【請求項12】
小脳の小脳核の少なくとも一つの領域への投与によって前記組成物が投与される、請求項10または11記載の方法。
【請求項13】
前記組成物が直接脊髄注入によって投与される、請求項10または11記載の方法。
【請求項14】
前記組成物が脳室内注入によって投与される、請求項10または11記載の方法。
【請求項15】
前記組成物が少なくとも一方の側脳室へ投与される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記組成物が、脳室内注入および直接脊髄注入の両方によって投与される、請求項10または11記載の方法。
【請求項17】
前記組成物がくも膜下注入によって投与される、請求項10または11記載の方法。
【請求項18】
運動ニューロン障害を有する対象において運動機能を調節するための医薬の製造における、請求項8記載の組換えAAVビリオンの使用。
【請求項19】
脊髄性筋萎縮症(SMA)を有する対象の細胞にSMNタンパク質を提供するための医薬の製造における、請求項4〜7のいずれか一項記載のAAVベクターを含む組換えAAVビリオンの使用。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図10E】
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【図10F】
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【公表番号】特表2012−526046(P2012−526046A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508474(P2012−508474)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【国際出願番号】PCT/US2010/001239
【国際公開番号】WO2010/129021
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(511256897)ジェンザイム コーポレイション (1)
【Fターム(参考)】