説明

神経性疾患を処置するための方法および組成物

本発明は、ニューロペプチドYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントをコードする核酸配列を哺乳動物神経系標的細胞に送達する方法に関する。外因性NPYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントの標的細胞における発現は、神経学的障害に罹患した被験体に治療的な利益を提供する。哺乳動物神経系標的細胞に核酸配列を送達する方法であって、ここで、該核酸配列は該標的細胞において3ヶ月以上発現可能であり、該方法は発現ベクターを該標的細胞へ投与する工程を包含し、ここで、該発現ベクターが、ニューロペプチドYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントをコードする核酸配列を含む、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、ニューロペプチドY(NPY)またはその誘導体もしくは機能性フラグメントをコードする核酸配列の送達、および神経系の細胞におけるNPYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントの発現に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
本発明が属する分野の状態をより完全に記載するため、いくつかの刊行物および特許文献が本願において参照される。これらの刊行物および文書の各々の開示は、参考としてその全体が本明細書中に援用される。
【0003】
一般に、本発明は、神経性疾患を処置する方法に関する。神経性疾患/障害は、しばしば、急速に進行し、患者の生活の本質的に全ての面を破壊するものとなり得る。そのため、これらの疾患は、患者、介護者、および主治医にとって深刻な問題を提示する。さらに、これらの疾患の進行性という性質のため、治療過程中の時間の経過を考慮することが重要となる。神経性疾患、特に、認知機能に影響を与えるものの処置選択は、処置計画の効力を決定するために頻繁に必要とされる時間の長さによって複雑になり得る。実際、関与する疾患に依って、影響を受けた個体の集団のうちの相当の割合が、難治性疾患の形態を呈し得る。
【0004】
ヒト遺伝子治療に向けられた方法論は、核酸配列の神経系への直接送達(それらの発現は治療的に有益な様式で操作され得る)を介して、多数の神経学的障害の処置を実現可能にする。これは、例えば、利用可能な薬物に応答性でない型の疾患を有しているか、または多くの処置様式に関連した有害な副作用を許容し得ない、難治性の神経性疾患を有する患者にとって特に貴重な選択肢である。しかしながら、中枢神経系(CNS)への遺伝子導入は、脳内の大部分のニューロンの有系分裂後という性質、様々な脳領域への接近可能性に関する制約、および血液脳関門に関係する障壁を含む、系のいくつかの特色により妨害される。
【0005】
レトロウイルスによって媒介される遺伝子導入は、組み込みおよび発現のために少なくとも1回の細胞分裂を必要とするため、体細胞遺伝子導入のためにルーチンに使用されているレトロウイルスベクターは、有系分裂後の神経細胞における適用には一般的に有用でない。CNSへの遺伝子導入に固有の問題を解決するため、多数のベクターおよび非ウイルス法が開発されている。多数の研究が、インビトロでレトロウイルスにより形質導入された細胞の移植を含むエクスビボアプローチ、またはインビボアプローチのいずれかを使用して、CNSへの遺伝子導入の成功を様々な程度で達成している。研究者らは、CNSの細胞への遺伝子導入を達成するために、HSV−1およびアデノウイルスのベクターも利用しているし、カチオン性脂質により媒介されるトランスフェクションを含む非ウイルス法も利用している(非特許文献1)。
【0006】
Grovesらは、例えば、エクスビボアプローチを使用してレトロウイルスベクターを乏突起膠細胞に感染させ、その後、それを脱髄性障害の同系ラットモデルへ移植した(非特許文献2)。繊維芽細胞および一次筋細胞を含む非ニューロン細胞も、外因性の核酸配列およびそれらのコードされた産物をCNSへ導入するために成功裡に使用されている(非特許文献3;非特許文献4)。
【0007】
インビボアプローチは、大部分が、ラット脳においてマーカー遺伝子の持続的発現(即ち、2ヶ月)を駆動することが示されている向神経性単純ヘルペスウイルス(HSV−1)および多数のアデノウイルスのベクターの使用に向けられている(非特許文献5)。ウイルスベクターアプローチに加え、その他の研究者らは、カチオン性リポソーム:プラスミド複合体の直接注射を使用しており、このアプローチを使用してマーカー遺伝子の低レベルかつ一過性の発現を証明した(非特許文献6)。
【0008】
しかしながら、CNSの細胞への「治療用」遺伝子の導入に向けられた研究は極わずかしか存在しない。これらの研究の大多数は、パーキンソン病のモデルにおいて使用するためのLドパ分泌細胞の起源を供給するヒトチロシンヒドロキシラーゼ遺伝子による繊維芽細胞および筋細胞の形質導入を含むエクスビボアプローチを使用した(例えば、非特許文献3;非特許文献4)。HSVベクターは、β−グルクロニダーゼ(非特許文献7)、グルコーストランスポーター(非特許文献8)および神経増殖因子(非特許文献9)の発現を含む多数のインビボアプローチに使用されている。アデノウイルスベクターも、ヒトα1−アンチトリプシンの低レベルの一過性の発現を誘導するために成功裡に使用された(非特許文献10)。
【0009】
脳への遺伝子導入を立証する臨床研究は極わずかしか報告されていない。これらのうち、Culverら[非特許文献11]は、HSV−1チミジンキナーゼ(tk)遺伝子を発現するレトロウイルスを感染させた神経膠腫細胞系を脳内移植し、その後、ガンシクロビルで処置することにより、ラットを本質的に治癒させた。動物モデルにおいて達成された成功は、レトロウイルスtkベクター−−ガンシクロビルアプローチを使用した多形神経膠芽腫のためのヒトプロトコルの承認に至った(非特許文献12)。
【非特許文献1】Wolff、Curr.Opin.Biol.(1993年)3:743−748
【非特許文献2】Grovesら、Nature(1993年)362:453−457
【非特許文献3】Horrelouら、Neuron(1990年)5:393−402
【非特許文献4】Jiaoら、Nature(1993年)362:450−453
【非特許文献5】Davidsonら、Nature Genetics(1993年)3:219−2223
【非特許文献6】Onoら、Neurosci.Lett.(1990年)117:259−263
【非特許文献7】Wolfeら、Nature Genetics(1992年)1:379−384
【非特許文献8】Hoら、Proc.Natl.Acad.Sci.(1993年)90:6791−6795
【非特許文献9】Federoffら、Proc.Natl.Acad.Sci.(1992年)89:1636−1640
【非特許文献10】Bafoccchiら(1993年)3:229−234
【非特許文献11】Culverら、Science(1992年) 256:18550−18522]
【非特許文献12】Oldfield et al(1993)Human Gene Ther.4:39−69
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
(要旨)
本発明は、核酸配列が標的細胞において3ヶ月以上発現可能である、NPYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントをコードする核酸配列を含む発現ベクターを標的細胞へ投与することを含む、核酸配列を哺乳動物神経系標的細胞に送達する方法に向けられる。
【0011】
本発明の方法の一つの面において、NPYまたはその機能性フラグメントをコードする核酸配列は、構成的にまたは制御可能な条件の下で、標的細胞において発現される。
【0012】
本発明の方法の一つの実施形態において、標的細胞におけるNPYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントの発現は、ニューロンの興奮性を改変する。方法のもう一つの実施形態において、標的細胞におけるNPYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントの発現は、ニューロンの興奮性を低下させる。方法のさらにもう一つの実施形態において、標的細胞におけるNPYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントの発現は、ニューロンの過興奮性に関連した症状を低下させる。
【0013】
従って、本発明は、哺乳動物神経系標的細胞へ送達するための薬剤の調製における、NPYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントをコードする核酸配列を含む発現ベクターの使用を包含する(ここで、薬剤の送達は、神経系標的細胞におけるNPYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントの3ヶ月以上の発現をもたらす)。特定の実施形態において、薬剤は定位的に送達される。神経系標的細胞におけるNPYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントの発現は、ニューロンの興奮性を改変することができる。特定の実施形態において、神経系標的細胞におけるNPYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントの発現は、ニューロンの興奮性を低下させる。もう一つの実施形態において、神経系標的細胞におけるNPYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントの発現は、ニューロンの過興奮性に関連した症状を低下させる。
【0014】
本発明の方法によると、発現ベクターは、ウイルス性または非ウイルス性の発現ベクターである。本発明の方法において有利に使用され得るウイルス発現ベクターには、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクターおよび単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクターが含まれるが、これらに制限はされない。
【0015】
ウイルス発現ベクターが標的細胞を形質導入することができるAAVベクターである方法の一つの面において、AAVベクターは野生型ウイルスおよびヘルパーウイルスの両方を欠いている。本発明において有用な例示的なAAVベクターの型には、セロタイプ2 AAVベクターおよびキメラセロタイプ1/2AAVベクターが含まれる。
【0016】
NPYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントが誘導可能制御配列に作動可能に連結されている、本法の一面において、誘導可能制御配列の活性化は、核酸配列からのNPYをコードするメッセンジャーRNAの転写をもたらす。一つの実施形態において、誘導可能制御配列は、NPY発現を神経系特異的または中枢神経系特異的なものにする。いくつかの適用のため、NPY発現は、中枢神経系の内側側頭葉または側頭皮質に特異的である。さらなる面において、NPY発現は、内側側頭葉に向けられ得、そこで海馬および/または扁桃体へと局在化される。
【0017】
方法の一つの面において、NPY発現は神経特異的または膠細胞特異的である。
【0018】
本法のもう一つの面において、標的細胞は、霊長類、げっ歯類、食肉類および偶蹄類からなる群より選択される哺乳動物目の哺乳動物細胞である。より具体的には、標的細胞はヒト細胞であり得る。標的細胞は、細胞培養中または生存哺乳動物の体内に存在するものであり得る。
【0019】
方法の一実施形態において、本発明の発現ベクターは、哺乳動物の本質的に全ての神経系細胞へ送達される。または、発現ベクターは、哺乳動物の神経系の特定の細胞型または領域に特異的に送達される。特定の実施形態において、本発明の発現ベクターは定位注射を介して送達される。
【0020】
方法の一面において、神経系の細胞におけるNPYの発現を達成するための、NPYをコードする核酸配列の神経系の細胞への送達は、神経系の障害を処理する。本発明の方法を使用して治療可能な神経系障害には、てんかんが含まれるが、これに制限はされない。本法により治療可能なてんかんの具体例には、難治性てんかんおよび側頭葉てんかんが含まれるが、これらに制限はされない。
【0021】
従って、本発明は、神経系の障害の処置のための薬剤の調製における、NPYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントをコードする核酸配列を含む発現ベクターの使用に向けられる(ここで、NPYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントの発現は、哺乳動物神経系へとターゲティングされ、長期間(例えば、3ヶ月超)持続する)。そのような薬剤が使用され得る神経系の障害には、てんかんが含まれるが、これに制限はされない。てんかんの具体例には、難治性てんかんおよび側頭葉てんかんが含まれるが、これらに制限はされない。特定の実施形態において、薬剤は定位的に送達される。
【0022】
本発明の方法によると、NPYをコードする核酸配列は、配列番号2;配列番号4;配列番号6;もしくは配列番号8を含むアミノ酸配列、またはそれらの誘導体もしくは機能性フラグメントをコードする核酸配列である。
【0023】
本法の一実施形態において、NPYをコードする核酸配列は、配列番号2;配列番号4;配列番号6;もしくは配列番号8を含むアミノ酸配列、もしくはそれらの誘導体もしくは機能性フラグメント、または配列番号2;配列番号4;配列番号6;もしくは配列番号8、もしくはそれらの誘導体もしくは機能性フラグメントと少なくとも90%相同なアミノ酸配列をコードする核酸配列である。方法のさらなる面において、NPYをコードする核酸配列は、配列番号2;配列番号4;配列番号6;もしくは配列番号8を含むアミノ酸配列、もしくはそれらの誘導体もしくは機能性フラグメント、または配列番号2;配列番号4;配列番号6;もしくは配列番号8、もしくはそれらの誘導体もしくは機能性フラグメントと少なくとも85%相同なアミノ酸配列をコードする核酸配列である。
【0024】
方法のもう一つの面において、NPYをコードする核酸配列は、配列番号1;配列番号3;配列番号5;もしくは配列番号7を含む核酸配列、またはそれらの誘導体もしくは機能性フラグメントである。
【0025】
方法のもう一つの面において、NPYをコードする核酸配列は、配列番号1;配列番号3;配列番号5;もしくは配列番号7を含む核酸配列、もしくはそれらの誘導体もしくは機能性フラグメント、または配列番号1;配列番号3;配列番号5;もしくは配列番号7、もしくはそれらの誘導体もしくは機能性フラグメントと少なくとも90%相同な核酸配列である。方法のさらなる面において、NPYをコードする核酸配列は、配列番号1;配列番号3;配列番号5;もしくは配列番号7を含む核酸配列、もしくはそれらの誘導体もしくは機能性フラグメント、または配列番号1;配列番号3;配列番号5;もしくは配列番号7、もしくはそれらの誘導体もしくは機能性フラグメントと少なくとも85%相同な核酸配列である。
【0026】
方法の特定の実施形態において、NPYをコードする核酸配列を含む発現ベクターは、定位微量注射により投与され得る。
【0027】
AAVの複製シグナルおよびパッケージングシグナルのみを保持し、かつNPYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントをコードする核酸配列を含むAAVベクターも、本発明に包含される。NPYをコードする核酸配列は、例えば、配列番号1;配列番号3;配列番号5;もしくは配列番号7の核酸配列またはそれらの誘導体もしくは機能性フラグメントを含み得る。NPYをコードする核酸配列は、配列番号2;配列番号4;配列番号6;もしくは配列番号8を含むアミノ酸配列またはそれらの誘導体もしくは機能性フラグメントをコードする核酸配列を含み得る。
【0028】
本発明は、NPYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントをコードする核酸配列を含むAAVベクターと、薬学的に受容可能なキャリアまたは賦形剤とを含む組成物も含む。
【0029】
本発明は、NPYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントをコードする核酸配列を含む発現ベクターを哺乳動物の体内の標的細胞へ投与することを含む、神経性疾患を有する哺乳動物を処置する方法にも向けられる(ここで、投与は、標的細胞におけるNPYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントの発現をもたらし、NPY発現は、神経性疾患の症状を低下させ、それにより、神経性疾患を有する哺乳動物を処置する)。方法の一面において、発現ベクターは、ウイルス性または非ウイルス性の発現ベクターであり得る。ウイルスベクターが利用される方法の面において、そのようなベクターには、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクターおよび単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクターが含まれるが、これらに制限はされない。
【0030】
従って、本発明は、神経性疾患を有する哺乳動物の処置のための薬剤の調製における、NPYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントをコードする核酸配列を含む発現ベクターの使用を包含する。本発明の発現ベクターは、ウイルス性または非ウイルス性の発現ベクターであり得る。有用なウイルスベクターには、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクターおよび単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクターが含まれるが、これらに制限はされない。そのような薬剤が有効である神経性疾患には、てんかんが含まれるが、これに制限はされない。特定の実施形態において、処置されるてんかんは、難治性てんかんおよび側頭葉てんかんである。特定の実施形態において、薬剤は定位的に送達される。
【0031】
方法の一実施形態において、NPYをコードする核酸配列は、配列番号2もしくは配列番号4を含むアミノ酸配列またはそれらの誘導体もしくは機能性フラグメントをコードする核酸配列である。もう一つの実施形態において、NPYをコードする核酸配列は、配列番号1または配列番号3を含む核酸配列、またはそれらの誘導体もしくは機能性フラグメントである。
【0032】
方法のもう一つの実施形態において、NPYをコードする核酸配列は、配列番号1もしくは配列番号3を含む核酸配列もしくはそれらの誘導体もしくは機能性フラグメント、または配列番号1もしくは配列番号3もしくはそれらの誘導体もしくは機能性フラグメントと少なくとも90%相同な核酸配列である。方法は、配列番号1もしくは配列番号3を含む核酸配列もしくはそれらの誘導体もしくは機能性フラグメント、または配列番号1もしくは配列番号3と少なくとも85%相同な核酸配列であるNPYをコードする核酸配列の使用も包含する。
【0033】
本発明の方法を使用して治療可能な神経性疾患には、てんかんが含まれるが、これに制限はされない。特定の実施形態において、処置されるてんかんは、難治性てんかんおよび側頭葉てんかんである。
【0034】
方法によると、NPYをコードする核酸配列を含む発現ベクターは、神経性疾患を有する哺乳動物の処置を達成するため、定位微量注射により投与される。一面において、定位微量注射は、中枢神経系の内側側頭葉または側頭皮質にターゲティングされる。さらなる面において、内側側頭葉への投与は、海馬および/または扁桃体へと局在化され得る。
【0035】
本発明は、標的細胞を形質導入し;NPYポリペプチドまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントをコードする核酸配列を含み、野生型ウイルスおよびヘルパーウイルスの両方を欠いているアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを標的細胞へ投与することを含む、核酸配列を哺乳動物神経系標的細胞へ送達する方法も包含する(ここで、核酸配列は標的細胞において3ヶ月以上発現可能である)。または、方法に従い、NPYポリペプチドまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントをコードするAAVベクターを含む本発明の組成物が、投与され得る。
【0036】
本発明は、哺乳動物の体内の標的細胞へAAVベクターを投与することを含む、神経性疾患を有する哺乳動物を処置する方法も含む(ここで、AAVベクターは、NPYポリペプチドまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントをコードする核酸配列を含み、投与は標的細胞におけるNPYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントの発現をもたらし、NPY発現は、神経性疾患の症状を低下させ、それにより、神経性疾患を有する哺乳動物を処置する)。方法によると、NPYポリペプチドまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントをコードするAAVベクターを含む本発明の組成物も、NPY発現を実行するために投与され得る(ここで、その発現は、神経性疾患の症状を低下させ、それにより、神経性疾患を有する哺乳動物を処置する)。
【0037】
従って、本発明は、神経性疾患の処置のための薬剤の調製における、NPYポリペプチドまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントをコードする核酸配列を含むAAVベクターの使用を包含する(ここで、NPYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントの発現は、神経性疾患の症状を低下させる)。例えば、てんかんに関しては、疾患に関連した症状には、てんかん発作が含まれ、疾患症状の低下とは、てんかん発作の頻度、重度、および/または持続時間の低下をさす。特定の実施形態において、薬剤は、神経性疾患を有する哺乳動物の神経系に送達される。もう一つの特定の実施形態において、薬剤は、定位的に送達される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
(発明の詳細な説明)
(定義)
本発明の分子および方法に関する様々な用語が、上記においても、明細書および特許請求の範囲の全体を通しても使用される。
【0039】
本発明の核酸に関して、「単離された核酸」という用語がときどき使用される。この用語は、DNAに適用される場合、それが由来する生物の天然に存在するゲノムにおいて(5’および3’方向で)直接隣接している配列から分離されたDNA分子をさす。例えば、「単離された核酸」は、プラスミドベクターもしくはウイルスベクターのようなベクターに挿入されているか、または原核生物もしくは真核生物のDNAへ組み込まれているDNAまたはcDNAの分子を含み得る。
【0040】
本発明のRNA分子に関して、「単離された核酸」という用語は、上に定義されるような単離されたDNA分子によりコードされたRNA分子を主としてさす。または、その用語は、「実質的に純粋な」型(「実質的に純粋な」という用語は下に定義される)で存在するよう、天然の状態において(即ち、細胞または組織において)関連しているであろうRNA分子から十分に分離されているRNA分子をさし得る。
【0041】
タンパク質に関して、「単離されたタンパク質」または「単離され精製されたタンパク質」という用語がときどきここで使用される。この用語は、本発明の単離された核酸分子の発現により産生されたタンパク質を主としてさす。または、この用語は、「実質的に純粋な」型で存在するよう、天然に関連しているであろう他のタンパク質から十分に分離されているタンパク質をさし得る。
【0042】
「ベクター」とは、もう一つの核酸セグメントが、そのセグメントの複製または発現をもたらすために機能的に挿入され得るプラスミド、ファージ、コスミドまたはウイルスのようなレプリコンである。
【0043】
「発現ベクター」とは、(適切な転写および/または翻訳の調節配列の存在のため)ベクターへクローニングされたDNA分子を発現することができ、それにより、該DNAにより提供された発現可能な遺伝子によりコードされたRNAまたはタンパク質の産物を産生することができるベクターである。発現ベクターが適切な宿主細胞へ導入された場合に、クローニングされた配列の発現が起こる。原核細胞発現ベクターが利用される場合、適切な宿主細胞はクローニングされた配列を発現することができる原核細胞であろう。同様に、例えば、遺伝子送達前の遺伝子操作のために、真核細胞発現ベクターが使用される場合には、適切な宿主細胞はクローニングされた配列を発現することができる真核細胞であろう。
【0044】
「作動可能に連結された」という用語は、コーディング配列の発現が達成されるよう、コーディング配列の発現に必要な制御配列が、コーディング配列に対する適切な位置でDNA分子内に置かれていることを意味する。この同じ定義は、発現ベクターにおけるコーディング配列および転写調節エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサーおよび終結エレメント)の配置にもときどき適用される。この定義は、ハイブリッド核酸分子が作製される、第一および第二の核酸分子の核酸配列の配置にもときどき適用される。
【0045】
「形質転換する」、「トランスフェクトする」、「形質導入する」という用語は、核酸が細胞または宿主生物へ導入される方法または手段をさし、同じ意味を伝えるために交換可能に使用され得る。そのような方法には、トランスフェクション、電気穿孔、微量注射、PEG融合等が含まれるが、これらに制限はされない。導入された核酸は、レシピエントの細胞または生物の核酸へ組み込まれ(共有結合的に連結され)てもよいし、または組み込まれなくてもよい。例えば、細菌、酵母、植物および哺乳動物の細胞において、導入された核酸は、プラスミドのようなエピソームエレメントまたは非依存性レプリコンとして維持され得る。または、導入された核酸は、レシピエントの細胞または生物の核酸へ組み込まれ、その細胞または生物において安定的に維持され、さらにそのレシピエントの細胞または生物の子孫の細胞または生物へと継代または遺伝され得る。その他の適用において、導入された核酸は、レシピエント細胞または宿主生物において一過性にのみ存在するかもしれない。
【0046】
「実質的に純粋な」という用語は、少なくとも50〜60重量%の目的の化合物(例えば、核酸、オリゴヌクレオチド、タンパク質等)を含む調製物をさす。より好ましくは、調製物は、少なくとも75重量%、最も好ましくは90〜99重量%の目的の化合物を含む。純度は、目的の化合物にとって適切な方法(例えば、クロマトグラフィ法、アガロースまたはポリアクリルアミドゲル分析、HPLC分析等)により測定される。
【0047】
「から本質的になる」という語句は、特定のヌクレオチドまたはアミノ酸をさす場合、所定の配列番号の特性を有している配列を意味する。例えば、アミノ酸配列に関して使用される場合、その語句は、配列そのもの、並びに配列の基本的特徴および新規の特徴に影響を与えないであろう分子的修飾を含む。
【0048】
「免疫応答」という用語は、免疫系の(一般にB細胞の活性化および免疫学的に特異的な抗体の生成に関する)体液性の分枝および/または(一般にT細胞により媒介される応答に関係する)細胞性の分枝が活性化される、抗原または抗原性因子によって誘発される対象の生理学的応答をさす。
【0049】
ここで使用されるように、「レポーター」、「レポーター系」、「レポーター遺伝子」または「レポーター遺伝子産物」という用語は、核酸が、発現された場合に、例えば、生物学的アッセイ、イムノアッセイ、ラジオイムノアッセイ、比色分析法、蛍光発生法、化学発光法またはその他の方法により容易に測定可能なレポーターシグナルを発生する産物をコードする遺伝子を含む、機能的な遺伝系を意味するものとする。核酸は、直鎖状または環伏の、一本鎖または二本鎖の、アンチセンスまたはセンス極性の、RNAまたはDNAのいずれかであり得、レポーター遺伝子産物の発現に必要な調節エレメントに作動可能に連結される。必要とされる調節エレメントは、レポーター系の性質、およびレポーター遺伝子がDNAの形態で存在するかまたはRNAの形態で存在するかによって変動し、プロモーター、エンハンサー、転写調節配列、ポリA付加シグナル、転写終結シグナル等のようなエレメントを含み得るが、これらに制限はされない。
【0050】
「同一率」という用語は、核酸またはアミノ酸の配列間の比較に関してここで使用される。核酸およびアミノ酸の配列は、核酸またはアミノ酸の配列を整列化し、それによりその二つの間の相違を定義するコンピュータプログラムを使用して、しばしば比較される。本発明の目的のため、核酸配列の比較は、Genetics Computer Group(Madison,Wisconsin)より入手可能なGCG Wisconsin Package version 9.1を使用して実施される。便宜のため、そのプログラムにより指定されたデフォルトパラメータ(ギャップ生成ペナルティ=12、ギャップ伸張ペナルティ=4)が、配列同一性を比較するためにここで使用されるものとする。または、National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/;Altschul et al.,1990,J Mol Biol 215:403−410)により提供されたBlastn 2.0プログラムが、デフォルトパラメータでギャップを挿入されたアラインメントを使用して、核酸配列間およびアミノ酸配列間の同一性および相同性のレベルを決定するために使用され得る。
【0051】
「機能性の」という用語は、ここで使用されるように、核酸またはアミノ酸の配列が言及されたアッセイまたは目的にとって機能性であることを暗示する。
【0052】
「機能性フラグメント」とは、ここで使用されるように、全長ポリペプチドまたはペプチドの活性を保持しているポリペプチドまたはペプチドの一部またはサブドメインをさす。NPYに関して、NPYの機能性フラグメントは、NPYの活性を保持しているNPYペプチドの一部またはサブドメインである。本発明に関して、NPYの活性とは、ここで記載されるように、神経学的障害に関連した症状を改善するNPYの能力をさし得る。
【0053】
本発明の方法において有用なNPYの機能性フラグメント/誘導体には、NPY受容体と結合し得るNPY機能性フラグメント/誘導体が含まれる。本発明に関して特に利用可能なNPY機能性フラグメント/誘導体には、阻害性であり、NPYの抗てんかん効果および阻害効果の大部分を媒介するNPY受容体のY2サブタイプに対するアゴニストとして作用し得るものが含まれる。Y2受容体アゴニストとして作用し得る例示的なNPY機能性フラグメント/誘導体は、C2−NPYである。
【0054】
特定の機能性フラグメントには、NPYの様々なカルボキシ末端(C末端)フラグメントが含まれるが、これらに制限はされない。NPYの例示的なC末端フラグメントには、NPY2−36、NPY13−36、NPY16−36およびNPY18−36が含まれるが、これらに制限はされない。これらのC末端フラグメントのうち、NPY Y2受容体アゴニストとして作用することができるC末端NPYフラグメントは、本発明の方法において特に利用可能である。Y2サブタイプのNPY受容体に対するアゴニストとして作用することができる例示的なC末端NPYフラグメントには、NPY13−36およびNPY18−36が含まれるが、これらに制限はされない。Bleakmanら(Br.J Pharmacol 1991,103:1781−89);Michelら(Trends in Pharmacological Sciences 1991,12:389−394);Kagaら(Peptides 2001,22:501−506);Sunら(J Physiol 2001,531:67−79);Balasubramaniamら(Am J Surg 2002,183:430−4);およびD’Angeloら(Neuroscience 2004,125:1−39−1049)を参照のこと。
【0055】
(発明の説明)
本発明者らは、ヒトてんかんのラットモデル系において、NPYをコードする核酸配列を含む組換え発現ベクターの局所適用の後のNPYの長期的な局所的な過剰発現が、急性カイニン酸発作およびキンドリングてんかん発生を劇的に低下させるという新規の発見をした。ここに記載されるように、本発明の例示的な発現ベクターは、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。特に、海馬内カイニン酸により誘導されるEEG発作は、NPY発現の拡散に依って50%〜75%低下し、発作開始は著しく遅延した。さらに、キメラAAVベクターによりNPYを発現させた場合、てんかん重積が排除され、キンドリング獲得が有意に遅延した。従って、ターゲティングされたNPY遺伝子導入は、てんかん患者、特に薬物抵抗性てんかん患者のための有効な抗てんかん処置のための新規の戦略となる。
【0056】
本発明の方法は、NPYをコードする核酸配列のAAVベクターを使用した局所送達およびその結果としてのNPYの局在化された発現が、てんかん患者を処置するための有効な方法を含むという新規の所見に基づく。ここに記載されるように、局所送達は、好ましくは、内側側頭葉(例えば、海馬および扁桃体)および/または側頭皮質に向けられる。本発明者らは、ラット脳内の細胞のおよそ0.1%のみにおけるNPYの発現が、発作回数の劇的な低下をもたらし、遷延性の発作エピソードを阻害し、一般的に抗痙攣剤および抗てんかん剤として作用するという驚くべき発見をした。この発見の予想外の性質は、本発明の方法が、通常はNPYを発現しない細胞において局在化されたNPY発現をもたらすということを認識することによっても強調される。従って、脳内の細胞の約0.1%のみにおける異所性のNPY発現は、てんかんのような、発作を特徴とする神経学的障害に罹患した対象に治療的な利益を賦与する。
【0057】
本発明者らは、異所的に発現されたNPYがプレNPY mRNAから適切にプロセシングされること、さらに、成熟NPYが、適切に保管され、次いで、通常内因性NPYの放出をもたらす生理学的に関連した細胞刺激(例えば、脱分極刺激)に応答して放出されることも証明した。実際、本発明者らの発見以前に、内因性(ネイティブ)のNPYを発現しない細胞が、異所性のNPYの生成に必要とされる上記の工程を実行し得るであろうと予測することは合理的ではなかった。従って、NPYの合成および放出に関与している上記の方法の複雑さを考慮すると、本発明の方法の望ましい結果が確実に予測されることはなかったであろう。
【0058】
従って、NPYまたはその機能性フラグメントをコードする核酸配列を含む臨床的等級のAAVベクターのてんかん患者の発作焦点への直接的な定位送達は、海馬における基底の阻害性緊張を増加させることにより、発作を阻害かつ/または抑制する。これは、難治性側頭葉てんかん(TLE)を有する患者にとって特に魅力的な治療オプションである。従って、本発明の方法は、影響を受けた脳領域の外科的切除の代替法または手術の必要性の遅延を提供する。
【0059】
本発明の方法によると、標的細胞への効率的な遺伝子導入が起こるのであれば、任意の遺伝子送達ベクターまたは媒体が使用され得る。従って、本法は、AAVベクターに制限されず、本質的に任意のウイルス性または非ウイルス性のベクターを包含する。同様に、裸のDNA、DNAでコーティングされた粒子、リポソームに封入されたDNA、またはポリリシンと複合体化されたDNAも、本発明の実施において使用され得る。利用可能なウイルスベクターには、AAVベクターに加え、アデノウイルス(部分欠失型および完全欠失型の両方)、ヘルペス(HSV)ベクター(部分欠失型および完全欠失型の両方)並びにレトロウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)が含まれる。これらのベクターの概説に関しては、Robbinsら[(1998)Trends Biotechnol 16,35−40]を参照のこと。
【0060】
36アミノ酸ポリペプチドであるNPYは、CNS内に広範に分布し、そこで様々な生理学的機能に関与している[Mitchell et al.Neuropathol.Appl.Neurobiol.23,299−306(1997);Pedrazzini et al.Cell.Mol.Life Sci.60,350−77(2003)]。NPYは、てんかんに関与している可能性があるため、最近、大いに注目されるようになった[Redrobe et al.Brain Res.848,153−66(1999);Vezzani et al.Trends Neurosci.22,25−30(1999)]。脳内の広範な分布にも関わらず、NPYおよびその受容体の変化は、発作の開始および伝播に決定的に関与している脳領域において起こる。げっ歯動物において、発作は、このペプチドが構成的に発現されている門部阻害性海馬介在ニューロン、並びにNPYを通常発現していない興奮性の顆粒細胞およびそれらの苔状線維において、NPYレベルを増強する[Marksteiner et al.Neurosci.Lett.112,143−8(1990);概説に関しては、Vezzani et al.Trends Neurosci.22,25−30(1999)を参照のこと]。難治性側頭葉てんかん(TLE)を有する患者の海馬においては、NPYを過剰発現する介在ニューロンが、興奮性貫通線維軸索の終末領域および苔状線維終末へと出芽する[de Lanerolle et al.Brain Res.495,387−95(1989);Mathern et al.J.Neurosci.15,3990−4004(1995);Furtinger et al.J.Neurosci.21,5804−12(2001)]。
【0061】
これらの可塑性の変化は、ニューロンの興奮性に対する阻害効果を賦与し、結果的に発作に対する阻害効果を賦与すると考えられている。従って、海馬GABA含有介在ニューロンにおけるNPY過剰発現は、錐体ニューロンの終末および顆粒細胞への阻害性の入力を増加させ得る[Milner et al.Comp.Neurol.386,46−59(1997)]。この作用は、グルタミン酸放出を阻害するシナプス前NPY−Y2受容体により媒介される可能性が高い[Colmers and Bleakman.Trends Neurosci.17,373−9(1994);Greber et al.Br.J.Pharmacol.113,737−40(1994)]。実際、Y2受容体は、実験モデルおよびTLE患者から単離されたてんかん組織において、これらの部位においてアップレギュレートされている[Furtinger et al.J.Neurosci.21,5804−12(2001);概説に関しては、Vezzani et al.Trends Neurosci.22,25−30(1999)を参照のこと]。
【0062】
NPYの外因性の適用または内因性NPY放出の後の応答により証明されるように、NPYの抗痙攣性の役割は実験的に示唆されている。例えば、NPYを過剰発現するトランスジェニックラットは、低下した発作感受性およびてんかん発生を示し[Vezzani et al.Neuroscience 110,237−43(2002)]、NPYまたはY2受容体遺伝子を欠くノックアウトマウスは、化学的または電気的に誘導される痙攣に対してより脆弱である[Baraban et al.J.Neurosci.17,8927−36(1997);DePrato Primeaux et al.Neurosci.Lett.287,61−4(2000);Weinshenker et al.Neurosci.21,7764−9(2001);El Bahh et al.,No 148.12.Soc for Neurosci,2002)。海馬発作開始を有するてんかん患者からの海馬スライスにおいて、NPYは、歯状顆粒細胞からの貫通線維により惹起される興奮性応答に対して強力かつ長期的な阻害作用を及ぼす[Patrylo et al.J.Neurophysiol.82,478−83(1999)]。
【0063】
(神経性疾患)
神経性疾患の発生率は、一部には高齢者集団の相対的な増加のため、世界的に上昇中である。ヒト集団における神経性疾患の有病率、およびこれらの状態の多くが患者の身体的、知的および情緒面の健康に対して及ぼす壊滅的効果を考慮すると、そのような疾患に罹患した患者を処置するための新たな改良された処置計画の開発は、極めて重要である。例えば、てんかんは世界中の5000万人超の人々に影響を与えているため、この神経性疾患のためのより効果的な治療薬の開発は世界的な懸念である。抗てんかん治療薬の差し迫った必要性を強調するのは、入手可能な治療薬に対して不応性のてんかん病者の圧倒的に高い頻度である(影響を受けた個体のおよそ30〜40%と推測される)。そのような患者は、一般的に、難治性疾患を有しているものとして特徴付けられる。
【0064】
本発明は、特に、てんかん、特に難治性てんかんを有する患者を処置する方法に関する。医学的に難治性のてんかんとは、最大限の医学的処置にもかかわらず、手術のリスクを保証するために十分に衰弱性であり続ける持続性の発作活動と定義されている。下記のように、この定義は、小児てんかん集団と成人てんかん集団とで異なる意味を有している。
【0065】
成人は、しばしば低い発作の頻度を有しており、従って、わずか1ヶ月に1回という発作の頻度ですら、成人が難治性てんかんを有すると診断されることは珍しくない。その結果として、これらの患者における査定過程は、単独療法および多剤療法の両方において異なる薬物療法および用量に対する患者の応答が評価される長期的な過程をしばしば含む。
【0066】
対照的に、ある種の小児発作症候群、(例えば)片側巨頭症(hemimeganencephaly)のような先天性奇形、スタージ−ウェーバー症候群またはラスムッセン脳炎は、発作の難治性により特徴的に定義される。そのような小児患者は、最大限の医学的療法にもかかわらず、1日に40〜100回の発作を起こすことが稀でない。これらの状態のための医学的計画は、しばしば失敗し、第一選択薬および第二選択薬に対しても、多剤療法に対しても乏しい応答を示す。高い発作の頻度のため、処置計画の試験は、迅速に試験され得、それにより、処置のための最適な様式の正確な査定が容易となる。
【0067】
遺伝的および先天的な奇形、子宮内および出生後の傷害、無酸素による損傷、感染(ウイルスおよび細菌)、並びに、例えば、虚血、外傷および腫瘍による血管の奇形および傷害を含む多くの要因が、発作およびてんかんの発症の素因を子供に与え得る。
【0068】
難治性てんかんは、1)全般発作が後続する部分発作の高い発生率(特に、側頭葉てんかん);2)脳内の器質的病変により引き起こされる症候性てんかんの高い発生率;3)疾患の開始と診断との間の長い期間および高い発作の頻度;および4)病歴におけるてんかん重積の高い発生率、によって広く特徴付けられる。難治性てんかんの特色は、側頭葉が難治性てんかんの病因において特に重要であることを示唆する。さらに、てんかんは、患者において進行するにつれ、難治性へと発展する場合がある。難治性てんかんは、外傷、脳外科手術の後に臨床的に現れたり、またはてんかん手術後に再発したりする場合もある。
【0069】
難治性てんかんは、以下のものを含む3つの臨床的な型へと分類される:局所関連性のてんかんおよび症候群、全般性のてんかんおよび症候群、並びに局所性であるか全般性であるか不定のてんかんおよび症候群。
【0070】
局在関連性のてんかんおよび症候群の例には、側頭葉てんかん、前頭葉てんかんおよび多葉てんかんが含まれる。側頭葉てんかんおよび前頭葉てんかんは、難治性てんかんの典型例である。多葉てんかんは、2つ以上の葉を含むと考えられる。全般性のてんかんおよび症候群の例には、レノックス−ガストー症候群、ウェスト症候群およびミオクローヌスてんかんが含まれる。局所性であるか全般性であるか不定のてんかんおよび症候群の例は、多様な発作型を示す乳児の重度ミオクローヌスてんかんである。特に強直間代発作が高頻度に起こり、それはしばしばてんかん重積へと至る。そのような状態の重度を考慮すると、てんかん専門の医師による早期の治療が、患者の健康にとって不可欠である。
【0071】
難治性てんかんに関連した発作は、以下に制限はされないが、強直発作、強直間代発作、非定型アプサンス発作、アトニー発作、ミオクローヌス発作、間代発作、単純部分発作、複雑部分発作、および二次性全般発作を含むカテゴリーに分類されている。
【0072】
側頭葉てんかんは、側頭葉内の発作焦点を特徴とする難治性てんかんの一つの型である。それは、てんかんの国際的分類に基づき、前頭葉てんかん、頭頂葉てんかんおよび後頭葉てんかんも含む症候性局在関連てんかんと共にカテゴリー化される。側頭葉てんかんの症候群は、発作焦点の位置および発作伝播の型に依って変動する。この点に関して注目すべきことに、側頭葉は、新皮質、異種皮質および旧皮質を含む解剖学的に複雑な構造を有している。側頭葉てんかんは、一般に、複雑部分発作を引き起こすが、単純部分発作、二次性全般発作およびそれらの組み合わせを誘導することもある。
【0073】
単純部分発作には、自律神経的および精神的な症状が含まれ、さらに嗅覚、聴覚または視覚を含む知覚的な症状も含まれる。複雑部分発作は、運動停止およびそれに続く摂食機能の自動運動をしばしば示し、局在に依って扁桃体−海馬発作および外側側頭葉発作に類別される。側頭葉てんかんの場合、発作の70〜80%が海馬に限局しており、前兆、運動停止、唇自動運動および意識の混濁が連続的に発生し、健忘がもたらされる。焦点が扁桃体にある場合には、上胃部の不快感、恐怖および幻嗅のような自律神経的症状が起こり得る。焦点が優位半球にある場合、外側側頭葉発作には、幻聴、幻覚および言語障害が含まれる。側頭葉てんかんは、その他の症状並びに認識および記憶の障害に加え、長期的な精神病様の状態を、他のてんかんより高頻度に示す。側頭葉てんかんの処置は、ルーチンには、最大許容用量の薬物の組み合わせを利用した薬物療法に向けられるか、または外科的処置による。
【0074】
難治性てんかんのもう一つの型、皮質てんかんは、大脳皮質内の焦点に関連しており、局在関連(局所)性のてんかんおよび症候群に属する症候性てんかんとして分類される。国際的分類において、皮質てんかんに関連した発作は、意識の低下が存在しない単純部分発作として分類される。皮質てんかんは、通常、脳腫瘍、頭部外傷(cephalotrauma)の影響または出生時の傷害により引き起こされる。焦点に基づき、皮質てんかんは、側頭葉てんかん、頭頂葉てんかんまたは後頭葉てんかんとして分類される。
【0075】
外傷性てんかんは、難治性てんかんのもう一つの型である。外傷性てんかんは、広義には、「早期てんかん」および「後期てんかん」という2つのカテゴリーに類別される。早期てんかんは、外傷を被った後一週間以内に痙攣により誘導された脳の刺激により引き起こされるため、真のてんかんとは見なされない。対照的に、後期てんかんは、外傷を被ってから1週間以上後に現れるため、真のてんかんとみなされる。
【0076】
外傷性てんかんの大部分は、皮質の傷害部分での焦点形成に関連しており、部分てんかんの典型例として認められる。従って、外傷性てんかんの処置は、薬物療法に向けられる。しかしながら、異なる個体における症状の開始および進行は多様であるため、多くの症例が抗てんかん剤の投与を通して難治性になる。
【0077】
二次性全般発作は、難治性てんかんに関連した症状のうちの一つである。それは、一つの大脳半球の限られた部分における発作の開始と共にニューロンの興奮として検出された臨床的な症候群および脳波特色を示す部分発作の一つの型である。二次性全般発作は、単純部分発作(意識障害なし)または複雑部分発作(意識障害あり)として開始され、二次性全般化によって誘導された全身痙攣へと進展する。主な症状は、強直間代発作、強直発作または間代発作のような痙攣である。
【0078】
難治性てんかんは、複雑部分発作の症状も含み、この用語は、意識障害を伴う部分発作をさす。国際的な分類案(1981)において、複雑部分発作は「意識障害を伴い、一側性または両側性の放電が、広範性または側頭もしくは前頭側頭の部分における焦点に起因する発作中の脳波を示す」発作と定義される。
【0079】
複雑部分発作の神経機序は、前頭葉および側頭葉に加え、扁桃体、海馬、視床下部および嗅覚皮質を含むと考えられる。発作は、典型的には1〜2分またはそれよりわずかに長く続き、発作の開始および停止は、突然ではなく徐々である。複雑部分発作の例には、(1)意識の低下を伴う発作(徐々に進化する意識障害、運動、言語および反応の阻止並びに健忘);(2)認知発作(既視(deja−vu)、未視(jamais−vu)、観念(ideo)発作);(3)情動発作(恐怖、怒り、空虚、奇異、喜び、歓喜);(4)精神知覚発作(幻視、幻聴、幻味、幻嗅、体感幻覚);および(5)精神運動発作(自動運動、唇なめ、唇噛み、常同症)が含まれる。
【0080】
もう一つの型の難治性てんかん、てんかん重積においては、意識が失われ、発作の途中に回復し得ない。そのような発作は30分以上にわたり続くことがあり、反復性になる場合がある。注目すべきことに、任意の型の発作がてんかん重積へと発展し得る。その最も一般的な例は強直間代てんかんであり、そのてんかん重積は致命的で、直ちに処置されなければならない。多くの症例において、抗てんかん剤の停止はてんかん重積を誘導する。従って、抗てんかん剤は、中枢神経系障害および全身状態をモニタリングし調節しながら、静脈内に投与される。てんかん重積痙攣は難治性てんかんに至ることが既知であるため、即座の適切な行為がてんかん重積痙攣の診断および応急処置に必要とされる。初期の段階における痙攣発作の抑制が、アフターケアの重要な鍵である。
【0081】
ヒトにおける難治性てんかんの臨床的モデルは、動物モデル系において開発されている。そのような動物モデルの例には、「キンドリングモデル」および「カイニン酸誘導発作」が含まれる。
【0082】
(キンドリングモデル)
弱い電気刺激が間隔をおいて繰り返し脳の特定の部分に適用された場合、部分発作の全般発作への発展が観察される。この現象はキンドリングと呼ばれる。キンドリングの効果は長期的であり、脳内のてんかん起始部の形成をもたらし、それがときに自発的なてんかん発作を引き起こす。キンドリングは長期的な現象であるが、脳内の大規模な形態学的変化は観察されない。従って、キンドリングモデルは、組織傷害が存在せずに、非特異的なてんかん起始部が脳内で獲得され、長間間持続するため、てんかんの有用な実験モデルとして役立つ。このモデルの利用可能性は、難治性てんかんに関する後天性のてんかん起始部の強化過程、並びに発作の開始、継続および停止のような病理学的に特異的な段階(例えば、発作後段階および無発作段階)の調査を可能にする。
【0083】
多様な臨床的に関連するてんかんモデルが、キンドリングモデルを使用して作製され得、所望の結果は、刺激のため選択された脳の部分に基づき達成され得る。最も感受性の高い部分は扁桃体であり、それは、後発射しきい値(最小刺激強度;一般的に1日1回)で繰り返し刺激され、以下のような発作段階を示す:段階1(噛み);段階2(頭部縦振り);段階3(前肢クローヌス);段階4(後肢立ち);および段階5(後肢立ちおよび転倒)。段階1および2は、ヒト側頭葉てんかんの複雑部分発作に相当し、段階3〜5は二次性全般発作の段階であると見なされる。段階5はキンドリングの確立の段階と見なされる。一旦キンドリングが確立されれば、電気刺激への感受性は本質的に動物の一生を通して維持される。
【0084】
キンドリングは、発作症状のみならず、抗てんかん剤のような治療薬に対する応答性に関してもヒトのてんかんに類似している。従って、キンドリングモデルは、てんかん現象を研究するための特に有用な道具である。大脳辺縁系または皮質に焦点を有しているキンドリングモデルを使用して、部分発作に対する効果;部分発作から二次性全般発作への発達段階に対する効果;(てんかん発生の獲得のための作用、および大脳辺縁系における発作の全般化に関する神経機序のような)その作用機序;並びに臨床症状に対する効果のような多様な現象が調査され得る。全般発作の確立へ向かうキンドリング発生過程における薬学的効果は、「予防効果」と呼ばれ、それは、てんかん発生の獲得に対する医薬品の予防効果により評価される。全般発作の確立の後の反復刺激を含むキンドリング発生過程における薬学的効果は、「治療効果」と呼ばれる。従って、キンドリングモデルは、ヒト患者において観察される複雑部分発作、二次性全般発作を伴う治療抵抗性側頭葉てんかんの優れた動物モデルである。
【0085】
本発明の方法は、哺乳動物、好ましくはヒトにおける改変された量のNPY、NPY受容体および/または改変されたNPYシグナリングに関連した疾患または障害の処置、予防、軽減または阻害に向けられる。これらの障害または疾病には、脳梗塞、てんかん、神経変性性状態、ストロークおよび関連状態、脳血管痙攣または出血、不安、統合失調症、うつ病および痴呆のようなNPYに関連した脳の疾患および状態が含まれる。
【0086】
(外因性DNA)
他に特記しない限り、本発明は、分子生物学の実務者に周知であり、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Sambrook et al.eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989);Ausubel et al.eds.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,NY,NY(1995)を含むいくつかの実験プロトコルハンドブックに記載された標準的な技術を利用する。
【0087】
本発明の「外因性DNA」は、発現ベクター(例えば、AAV)およびレシピエントに対して外因性である。レシピエントに関係しているため、この用語の付加的な説明に関しては下記を参照のこと。DNAは、合成DNA、相補的DNA、ゲノムDNAまたはそれらの組み合わせであり得る。DNAは、ベクターに組み込まれ、標的細胞へと送達され得るのであれば、任意の配列または長さであり得る。典型的には、例えば、AAVのパッケージング制限のため、外因性DNAは、約10〜5,000塩基という長さを有しているであろう。好ましくは、DNAは100〜4,000塩基である。
【0088】
特定の実施形態において、外因性DNAは、ヒトNPY cDNA(配列番号1)またはサルNPY cDNA(配列番号3)のようなNPYコーディング核酸配列である。または、ヒトまたはサルのゲノムNPYコーディング配列は、外因性DNAを含み得る。ヒトまたはサルのNPYの機能性フラグメント、誘導体または変異体をコードする核酸配列は、外因性配列を含み得る。
【0089】
本発明に関して、NPYの特定の機能性フラグメントおよび/または誘導体はNPY受容体と結合することができる。NPYの特定の機能性フラグメントおよび/または誘導体には、NPY2−36(全長NPYのアミノ酸残基2−36)、NPY13−36(全長NPYのアミノ酸残基13−36)、NPY16−36(全長NPYのアミノ酸残基16−36)、NPY18−36(全長NPYのアミノ酸残基18−36)およびC2−NPYが含まれるが、これらに制限はされない。NPY13−36、NPY18−36およびC2−NPYは、NPY Y2受容体アゴニストとして作用することができるため、これらのフラグメント/誘導体は、本発明の方法において特に有利に使用され得る。ここで使用されるように、NPY2−36、NPY13−36、NPY16−36、NPY18−36またはC2−NPYは、ヒト、サルまたはげっ歯動物の全長NPYポリペプチド配列のフラグメント/誘導体であり得る。そのような全長ポリペプチド配列には、配列番号2;配列番号4;配列番号6;または配列番号8が含まれるが、これらに制限はされない。配列番号2;配列番号4;配列番号6;または配列番号8の機能性フラグメントおよび/または誘導体をコードする核酸配列も、本発明に包含される。
【0090】
熟練した実務者であれば、任意の種のNPYタンパク質をコードする核酸配列が本発明の方法において使用され得ることを認識するであろう。そのようなNPYタンパク質は相同であり、活性および機能に関して共通の特性を共有している。例えば、ヒトNPY配列は、非ヒト霊長類(例えば、チンパンジー種)のNPYオルソログと98%相同であり、ラットおよびマウス両方のNPYオルソログと88%相同である。多様な種から単離されたNPY配列が公に入手可能である。例えば、GenBank登録番号K01911[ホモサピエンス(Homo sapiens)(ヒト)]NPY mRNA;AF162280[マカカムラッタ(Macaca mulatta)(アカゲザル)NPY mRNA;配列番号3];BC043012[ムスムスキュラス(Mus musculus)(ヨーロッパハツカネズミ)NPY mRNA;配列番号5];およびNM_012614[ラッツスノルベギキュス(Rattus norvegicus)(ノルウェーラット(Norway rat))NPY mRNA;配列番号7]を参照のこと。
【0091】
配列番号1、3、5および7に提示された核酸配列に加え、本発明の方法は、これらの配列のうちの一つの変異体、バリアントまたは誘導体である核酸を利用してもよい。バリアント配列は、特定の配列(例えば、配列番号1、3、5、または7)の一つ以上のヌクレオチドの付加、挿入、欠失および置換の一つ以上の改変により異なるかもしれない。ヌクレオチド配列への変化は、遺伝暗号により決定されるように、タンパク質レベルでアミノ酸変化をもたらす場合もあるし、またはもたらさない場合もある。
【0092】
従って、本発明に係る核酸は、本発明の配列番号に示された配列とは異なるが、同じアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする配列を含み得る。
【0093】
他方、コードされたポリペプチドは、本発明の配列番号(例えば配列番号2、4、6または8)に示されたアミノ酸配列と一つ以上のアミノ酸残基が異なるアミノ酸配列を含み得る。本発明の配列番号のアミノ酸配列の変異体、バリアントまたは誘導体であるポリペプチドをコードする核酸が、本発明によりさらに提供される。そのようなポリペプチドをコードする核酸は、本発明の配列番号に示されたコーディング配列との60%超の相同性、約70%超の相同性、約80%超の相同性、約90%超の相同性または約95%超の相同性を示すかもしれない。
【0094】
ここで使用されるように、NPYの機能性フラグメント、誘導体または変異体をコードする核酸配列は、全長または野生型NPYの少なくとも一つの活性を保持しているペプチドをコードする核酸配列である。全長または野生型NPYによる活性は、当技術分野において既知であり、ここに例示されている。NPY活性を査定するためのアッセイは、例えば、内因性NPY受容体を発現するかまたは外因性NPYを発現するよう工作された細胞が、NPY(例えば、異なる濃度のNPY)と共にインキュベートされ、NPY活性を測定するため下流シグナリング応答がモニタリングされる、細胞に基づくアッセイにおいて提示される。本発明の実施例も、NPY活性を測定/検出するためのインビボアッセイを提供する。
【0095】
特定の実施形態において、NPYの機能性フラグメント、誘導体または変異体をコードする核酸配列は、例えば、NPY2−36(全長NPYのアミノ酸残基2−36)、NPY13−36(全長NPYのアミノ酸残基13−36)、NPY16−36(全長NPYのアミノ酸残基16−36)、NPY18−36(全長NPYのアミノ酸残基18−36)またはC2−NPYをコードする核酸配列である。上記のように、NPY受容体のY2サブタイプに対するアゴニストとして作用することができるNPYの機能性フラグメントおよび/または誘導体は、本発明の方法において特に有利に使用され得る。Y2受容体アゴニストとして作用する例示的なNPYの機能性フラグメントおよび/または誘導体は、NPY13−36、NPY18−36およびC2−NPYを含むが、これらに制限はされない。NPY2−36、NPY13−36、NPY16−36、NPY18−36またはC2−NPYは、配列番号2;配列番号4;配列番号6;または配列番号8のようなヒト、サルまたはげっ歯動物の全長NPYポリペプチド配列のフラグメント/誘導体であり得る。配列番号2;配列番号4;配列番号6;または配列番号8の機能性フラグメントおよび/または誘導体をコードする例示的な核酸配列には、全長NPYポリペプチドのNPY2−36、NPY13−36、NPY16−36、NPY18−36またはC2−NPY機能性フラグメント/誘導体をコードするものが含まれるが、これらに制限はされない。
【0096】
本発明は、改変されたNPYの活性または機能に関連した、任意の遺伝的に基づくまたは獲得された障害の遺伝子治療において使用され得る。特定の実施形態において、障害はNPY活性と関連したまたは関係のある神経学的障害である。個体は、一つ以上の遺伝子の制御領域および/またはコーディング配列における一つ以上の変異の結果として、特定の遺伝子産物が不適切に発現されているため、例えば、正しくないアミノ酸配列を有しているか、もしくは間違った組織において、もしくは間違った時点で発現されているか、もしくは過少発現されているか、もしくは過剰発現されているため、または通常NPYもしくはその受容体を発現している細胞が疾患過程に関与しているため、遺伝子治療を必要としているかもしれない。従って、その個体(即ち、レシピエント)に送達されたDNAは、ネイティブ/内因性遺伝子と同一であったとしても、それが送達される個体の同族遺伝子のものと制御領域またはコーディング領域が異なっているのであれば、外因性であるとみなされる。この相違の結果として、そのような外因性遺伝子は異なる遺伝子産物をコードするか、または少なくともいくつかの条件の下で異なる程度で、かつ/もしくは異なる細胞において発現される。
【0097】
(例示的な送達ベクター)
(アデノ随伴ウイルス(AAV)およびAAVベクター)
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、ゲノムが一本鎖DNA分子としてキャプシド形成する、欠陥パルボウイルスである。プラス極およびマイナス極の鎖が両方ともパッケージングされるが、別々のウイルス粒子にパッケージングされる。AAVは、ヘルパーウイルスの非存在下でも特別な環境の下で複製することができるが、効率的な複製は、一般に、ヘルペスウイルス科またはアデノウイルス科のヘルパーウイルスの同時感染を必要とする。ヘルパーウイルスの非存在下では、AAVは、宿主細胞に組み込まれたプロウイルスとしてウイルスゲノムが存在する潜伏感染を確立する。注目すべきことに、AAV遺伝子発現は潜伏感染を確立するために必要とされない。潜伏感染細胞系が、適当なヘルパーウイルスにより続いて重感染された場合に、AAVプロウイルスが切り出され、ウイルスは生活環の「増殖」期に入る。しかしながら、ある種のAAVに由来する形質導入ベクターは、アデノウイルス重感染により救出されないことが報告されている。
【0098】
末端逆方向反復に加え、特定の部位でのヒト第19染色体への組み込みを可能にするrepタンパク質を保持している野生型アデノ随伴ウイルスと異なり、ほぼ常にrepを欠損しているAAVベクターは、既知の特定のまたは好ましい組み込み部位を有していない。AAVベクターは第19染色体へ組み込まれ得るが、それは野生型ウイルス組み込み部位においてではない。それらはその他のヒト染色体へも組み込まれ得る。しかしながら、ベクターゲノムは、大部分が、組み込まれたゲノムに加え、多様な型のタンデムコンカテマー(例えば、頭−尾、頭−頭、尾−尾)、並びにモノマーおよび大きなコンカテマーとして、安定的なエピソームとして存在するため、AAVベクターはほとんどの遺伝子治療適用にとって好ましい。注目すべきことに、第19染色体ターゲティングに必要とされるrepは、レシピエント細胞にとって高頻度に毒性であり、ベクターのパッケージング能力を制限する。従って、rep欠損AAVベクターは、分裂細胞および非分裂細胞両方への長期的かつ非毒性の遺伝子導入にとって好ましい。
【0099】
AAVは、ヒトウイルスであるが、溶解性増殖のための宿主域は非常に広い。試験された事実上全ての哺乳動物種からの細胞系(多様なヒト、サル、イヌ、ウシおよびげっ歯動物の細胞系を含む)が、適切なヘルパーウイルス(例えば、イヌ細胞においてはイヌアデノウイルス)が使用されるのであれば、AAVにより増殖性感染され得る。このことにも関わらず、HSVともアデノウイルスとも異なり、ヒトまたはその他の動物の集団において、AAVと関連付けられている疾患は存在しない。しかしながら、AAVは、急性アデノウイルス感染の間に単離された排泄物、眼および呼吸器系の標本において非病原性の同時感染因子として検出された。AAVは、その他の疾病に関連した同時感染因子であることは示されていない。
【0100】
同様に、潜伏AAV感染は、ヒト細胞および非ヒト細胞の両方において同定されている。全体として、ウイルス組み込みは、細胞の増殖または形態学に対して明白な効果を及ぼさないようである。Samulski(1993)Curr.Op.Gen.Devel.3:74−80を参照のこと。
【0101】
AAV−2のゲノムは4,675塩基長であり、各145塩基の逆方向末端反復配列が両側に隣接している。これらの反復はDNA複製のための起点として作用すると信じられている。2つの主要なオープンリーディングフレームが存在する。左のフレームは、Rep群を含む少なくとも4つの非構造タンパク質をコードする。2つのプロモーター、P5およびP19が、これらのタンパク質の発現を調節する。ディファレンシャルスプライシングを介して、P5プロモーターは、Rep78およびRep68タンパク質の発現を駆動し、P19プロモーターは、Rep52およびRep40タンパク質の発現を駆動する。Repタンパク質は、ウイルスDNA複製、ウイルスプロモーターからの転写のトランス活性化、並びに異種のエンハンサーおよびプロモーターの抑制に関与していると考えられている。
【0102】
P40プロモーターにより発現が制御される右ORFは、キャプシドタンパク質Vp1(91kDa)、Vp2(72kDa)およびVp3(60kDa)をコードする。Vp3が、ビリオン構造の80%を構成しており、Vp1およびVp2はマイナーな成分である。ポリアデニル化部位はマップユニット95に見出される。AAV−2ゲノムの完全な配列に関しては、Vastava et al(1983)J.Virol.45:555−64を参照のこと。
【0103】
McLaughlinら[(1988)J.Virol.62:1963−73]は、2つのAAVベクター:AAV rep遺伝子を保持しているdl52−91、およびAAVコーディング配列の全部が欠失しているdl3−94を調製した。しかしながら、それは、2つの145塩基末端反復、およびAAVポリアデニル化シグナルを含む付加的な139塩基を保持している。制限部位がシグナルの片側に導入された。
【0104】
ネオマイシン耐性をコードする外来遺伝子が両ベクターに挿入された。ウイルスストックは、欠けているAAV遺伝子産物をトランスに供給するが、大きすぎるためパッケージングされ得ない組換えAAVゲノムによる補完により調製された。しかしながら、この方法により作製されたウイルスストックには、おそらくは欠陥ウイルスと補完ウイルスとの間の相同的組み換えの結果として、野生型AAVが混入していた(dl3−94の場合10%)。
【0105】
その後、Samulskiら[(1989)J.Virol.63:3822−28]は、検出可能な野生型ヘルパーAAVを含まない組換えAAVストックを作製する方法を開発した。それらのAAVベクターは、AAV染色体の末端の191塩基のみを保持していた。ヘルパーAAVにおいて、AAV染色体の末端の191塩基はアデノウイルス末端配列と交換された。従って、ベクターとヘルパーAAVとの間の配列相同性が本質的に排除されたため、検出可能な野生型AAVは相同的組み換えにより生成しなかった。さらに、AAV末端がこの過程に必要とされるため、ヘルパーDNAは複製されずキャプシド形成しなかった。従って、ヘルパーウイルスは、最終産物から完全に排除され得、それにより、ヘルパーなしのAAVベクターストックがもたらされる。
【0106】
ヒト細胞を形質導入するためのヘルパーなしのAAVベクターの利用可能性を示す証拠は、多数の刊行物に提供されている。Muro−Cachoら[(1992)J.Immunother.11:231−237]は、例えば、Tリンパ球およびBリンパ球の両方への遺伝子導入のため、AAVに基づくベクターを成功裡に使用した。Walshら[(1992)Proc.Nat.Acad.Sci.(USA)89:7257−61]は、ヒト赤白血病細胞へヒトガンマグロブリン遺伝子を導入し発現させるためにAAVベクターを利用した。Flotheら[(1993)J.Biol.Chem.268:3781−90]は、AAVベクターにより嚢胞性繊維症膜コンダクタンス制御遺伝子を気道上皮細胞へ送達した。Flotte et al(1992)Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.7:349−56;Flotte et al(1993)Proc.Nat.Acad.Sci.(USA)90:10613−17も参照のこと。
【0107】
組換えパルボウイルスベクターおよびそのようなベクターを作成する方法に関するさらなる情報は、米国特許第6,491,907号に提示されている。ヘルパーウイルスなしのAAVストックを作製するための改良された方法も、米国特許第6,458,587号に見出される。それらの内容は、各々、完全に参照によりここに組み入れられる。
【0108】
ここに例示されるように、セロタイプ2 AAVベクター粒子は、セロタイプ2キャプシドタンパク質をディスプレイしている。一方、キメラセロタイプ1/2ベクター粒子は、キメラ/ハイブリッド(セロタイプ1および2)キャプシドタンパク質から構成されたキメラキャプシドタンパク質をディスプレイしている。
【0109】
多数のAAVベクター(セロタイプ1〜9を含む)が開発されているが、それらは全てアデノ随伴ウイルスの誘導体である。例えば、米国特許第6,491,907号および第6,503,888号を参照のこと。特定のAAVベクターがここに提示された例において使用されるが、熟練した当業者であれば、有害な副作用の臨床的に許容されないスペクトルを引き起こすことなく、CNSの細胞における外因性遺伝子(例えば、NPYまたはその機能性誘導体もしくは機能性フラグメント)の長期発現を達成することができる本質的に任意のAAVベクターを用いて、本発明の方法が実施され得ることを認識するであろう。本発明の方法において利用可能なAAVベクターは、最小の免疫原性および非病原性を示しつつ、高い効率および安定性で、成熟ニューロンのような有系分裂後の細胞を形質導入することができる。そのようなAAVベクターは、広い宿主および細胞の範囲も示すかもしれない。
【0110】
特定の実施形態において、本発明のAAVベクターは、例えば、感染の臨床症状の非存在下で患者に存在するかもしれないヘルペスウイルスまたはアデノウイルスによる補完による救済の可能性を低下させるため、修飾される。そのような修飾は、遺伝子の発現を防止するか、または修飾された非機能性の遺伝子産物の発現をもたらす一つ以上のウイルス遺伝子への点突然変異を含み得る。点突然変異は可逆的であるため、問題の遺伝子の一部または全部の欠失が好ましい。このアプローチは、構築物をウイルス粒子へ効率的にパッケージングするパッケージング機能の能力により合計サイズが制限される、より大きな外因性核酸配列のベクターへの挿入も促進する。
【0111】
AAVベクターdl3−94のように、ウイルス遺伝子の全部が欠失させられるか、または不活化されることが好ましい。しかしながら、AAVベクターdl52−91のような、一つ以上のAAV遺伝子を保持しているベクターも、遺伝子送達に使用され得ることが理解されるべきである。
【0112】
インビトロでのベクターの伝播のため、感受性細胞が、AAVに由来するベクターおよび適当なAAVに由来するヘルパーウイルスまたはプラスミドによりコトランスフェクトされる。好ましくは、ベクターは、本質的に複製およびパッケージングのための認識シグナルのみをAAVから保持している。
【0113】
AAVに由来する配列は、それらの野生型プロトタイプと正確に一致している必要はない。ベクターがヘルパーウイルスの補助により複製されパッケージングされ得、かつ標的細胞における非病原性の潜伏感染を確立し得るのであれば、本発明のAAVベクターは、例えば、変異型の逆方向末端反復を特色としていてもよい。
【0114】
ベクターは、外来DNAがパッケージングおよび複製に干渉することなくクローニングされ得る一つ以上の制限部位をさらに含むかもしれない。好ましくは、少なくとも一つの非反復制限部位が提供される。ベクターは、遺伝子の操作および検出を容易にするために一つ以上のマーカー遺伝子も含むかもしれない。適当なマーカー遺伝子には、ネオマイシンおよびハイグロマイシンの耐性遺伝子、細菌lacZ遺伝子、並びにホタルルシフェラーゼ遺伝子が含まれるが、これらに制限はされない。
【0115】
(AAVに由来するヘルパーウイルスまたはプラスミド)
AAVに由来するヘルパーウイルスまたはプラスミドは、ベクターストックを作製する目的で、適当な宿主細胞におけるAAVベクターの複製およびパッケージングに必要なタンパク質のスペクトルを提供することができるウイルスまたはプラスミドであり得る。
【0116】
特定の実施形態において、ヘルパーウイルスまたはプラスミドは、ヘルパーDNAとベクターDNAとの間の組み換えのリスクを低下させるために工作されている。最も望ましくは、ベクターDNAのAAV配列とヘルパーDNAのAAV配列との間で保持されている配列相同性は最小であるかまたは存在しない。例えば、ヘルパーDNAは、アデノウイルス(例えば、アデノウイルス5型DNA)のようなもう一つのウイルスの対応する配列にAAV逆方向末端反復が交換されているAAVであり得る。Samulskiら(前記)を参照のこと。
【0117】
または、もう一つの実施形態において、ヘルパーアデノウイルスは、56℃30分間の熱不活化により除去されてもよいし、または塩化セシウム勾配における遠心分離によりパッケージングされたAAVベクターから分離されてもよい。
【0118】
熟練した当業者であれば、任意のAAV(例えば、セロタイプ1〜9またはそれらのキメラウイルス)または関連パルボウイルスベクターが、本発明の方法において使用され得ることを認識するであろう。実際、本発明の方法は、NPYをコードする核酸配列の脳内の標的細胞への送達のための特定のウイルス性または非ウイルス性のベクターに制限されない。熟練した当業者であれば、本発明の方法が、有害な副作用の臨床的に許容されないスペクトルを引き起こすことなく、CNSの標的細胞における外因性遺伝子(例えば、NPYまたはその機能性フラグメント)の長期発現を達成することができる本質的に任意のベクター(ウイルス性または非ウイルス性)を用いて実施され得ることを理解するであろう。本発明の方法において有用なウイルス性および非ウイルス性のベクターは、最小の免疫原性および非病原性を示しつつ、高い効率および安定性で、成熟ニューロンのような有系分裂後の細胞を形質導入/トランスフェクトすることができる。
【0119】
脳全体における外因性DNAの長期発現を達成するための手段を提供するその他の遺伝子送達系は、以前に記載されている。米国特許第6,436,708号を参照のこと。そのような送達系も、本発明の方法において適用され得る。遺伝子送達法には、アデノウイルス、AAV、レトロウイルス、レンチウイルスのベクター(HIV、FIVおよびEIAVに基づくものを含む)、HSV、SV40、シンドビス、森林セムリキおよびアルファウイルスを含むウイルスベクターが含まれるが、これらに制限はされない。さらに、裸のDNA、リポソームと会合したDNA、重合体およびその他のカチオン送達法、さらにペプチド核酸複合体、タンパク質形質導入ドメインと会合した核酸、さらに核酸抗体複合体を含む非ウイルス系。これらの送達法の概説に関しては、Pardridge.(2002)Neuron 36:555−8;Fisher and Ho.(2002)CNS Drugs 16:579−93;Davidson and Breakefield.(2003)Nat Rev Neurosci.4:353−64を参照のこと。
【0120】
(アデノウイルスおよびアデノウイルスベクター)
アデノウイルスゲノムは、約36kbの二本鎖DNAからなる。アデノウイルスは、気道上皮細胞を標的とするが、神経細胞に感染することができる。
【0121】
組換えアデノウイルスベクターは、非分裂細胞のための遺伝子導入媒体として成功裡に使用されている。アデノウイルスE1a最初期遺伝子は除去されているが、ほとんどのウイルス遺伝子が保持されているため、これらのベクターは組換えHSVベクターに類似している。E1a遺伝子は小さく(およそ1.5kb)、アデノウイルスゲノムはHSVゲノムのサイズのおよそ3分の1であるため、その他の非必須アデノウイルス遺伝子も、外因性遺伝子のアデノウイルスゲノムへの挿入を容易にするために除去される。
【0122】
HSVベクターと比較した、組換えアデノウイルスベクターの主要な利点のうちの一つは、アデノウイルス感染に起因する疾患が、HSV感染により誘導されるものほど重度でないという点である。しかしながら、これらのベクターが企図される処置計画を予定する場合には、アデノウイルスベクターの使用に関連したある種の合併症を考慮に入れるべきである。レシピエント細胞における多くのアデノウイルス遺伝子の保持および発現は、細胞における細胞傷害効果に至る場合がある。さらに、組換えアデノウイルスベクターは、ベクターにより媒介される遺伝子導入の有効性を制限し、かつ形質導入された細胞の破壊を容易にするようはたらく免疫応答を誘発する場合がある。最後に、一部には、高頻度での非分裂宿主細胞のゲノムへの特異的なウイルス組み込みのメカニズムが存在しないため、長期発現の安定性は可変性である。
【0123】
しかしながら、熟練した当業者であれば、アデノウイルスベクターが、これらのベクターの使用に関連した可能性のある危険性を考慮することにより、本発明の方法において有利に使用され得ることを認識するであろう。これらのベクターのある種の特色は、遺伝子治療に向けられた適用にとって特に有益である。アデノウイルス粒子は安定しており、比較的簡単な手法を使用して高力価で作製され得る。さらに、アデノウイルスゲノムは容易に遺伝子操作され得る。アデノウイルスベクターは、インビトロおよびインビボで複製細胞および非複製細胞を効率的に形質導入することができる。
【0124】
E1AおよびE1B遺伝子が欠失させられた第一世代アデノウイルスベクターを含む多数のアデノウイルスベクターが記載されている[Gilardi et al.(1990)FEBS Letters 267:60−62;Stratford−Perricaudet et al.(1990)Hum.Gene Ther.1:241−256]。外来DNAを組み込むベクターの容量を増加させるため、E3も欠失させられ得る。従って、外来DNAの取り込みのための容量は、約8kbである。現在までのところ、第一世代アデノウイルスベクターは、ベクターのE1AおよびE1B欠陥を補完する293細胞において主として作製されている。
【0125】
第2世代アデノウイルスベクターは、E1AおよびE1Bの欠失に加え、E2および/またはE4の欠失を特徴とする[Engelhardt et al.(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.91:6196−6200;Yang et al.(1994)Nature Genet.7;362−367;Gorziglia et al.(1996)J.Virol.70:4173−4178;Krougliak and Graham(1996)Hum.Gene Ther.6:1575−1586;Zhou et al.(1996)J.Virol.70:7030−7038]。外来DNAを組み込むベクターの容量を増加させるため、E3も欠失させられ得る。第2世代アデノウイルスベクターはより少数のウイルス遺伝子/タンパク質を発現しており、それにより、抗ウイルス免疫応答に至ることができる抗原性トリガーが低下している。外来DNAの取り込みの容量は、第一世代アデノウイルスベクターと比較して無視し得る程度に増加している。第2世代アデノウイルスベクターは、E1AおよびE1Bに加え、E2および/またはE4の欠陥を補完する細胞系において作製される。
【0126】
外因性DNAの大きい配列が組み込まれ得る大容量アデノウイルスベクターも記載されている。そのようなベクターにおいては、ウイルスのコーディングDNA配列が本質的に欠失している[Kochanek et al.(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.93:5731−5736;Fisher et al.(1996)Virology 217:11−22;Kumar−Singh and Chamberlain.(1996)Hum.Mol.Genet.5:913−921]。これらのベクターは、逆方向末端反復(ITR)およびパッケージングシグナルを含むウイルスの末端のみを含む。外来DNAの取り込みの容量は、約37kbである。大きなDNA容量のアデノウイルスベクターを作製するための様々な系が記載されている[Kochanek et al.(前記);Parks et al.(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.93:13565−13570;Hardy et al.(1997)J.Virol.71:1842−1849]。大きなDNA容量を有するアデノウイルスベクターは、外来DNAの取り込みのより大きな容量を有しており、低下した毒性および免疫原性を示すため、第1および第2世代のアデノウイルスベクターと比較して改良された特色を示す[Schiedner et al.(1998)Nature Genet.18:180−183;Morral et al.(1998)Hum.Gene Ther.9:2709−2716]。大容量のアデノウイルスベクターは、増殖感染周期に必要なウイルス機能をトランスで提供するE1AおよびE1B欠失ヘルパーウイルスの補助によって作製され得る。大きなDNA容量のアデノウイルスベクターは、293細胞において、または293細胞に由来する細胞系において作製され得る。例えば、Parksら(前記);およびHardyら(前記)を参照のこと。
【0127】
Cre発現293細胞の感染の際に、ウイルスコーディング配列の大部分またはウイルスコーディング配列の全部がloxP認識配列間の組み換えにより欠失するのと同じ方式でウイルスゲノム内に位置するバクテリオファージP1のloxP認識配列を有している、本質的には第一世代ベクターである欠失アデノウイルスベクターが記載されている。これらのベクターのゲノムのサイズは約9kbであり、外来DNAの取り込みの容量は、約9kbである[Lieber et al.(1996)J.Virol.70,8944−8960]。
【0128】
ベクターに関するさらなる情報については、Akli et al.(1993)Nature Genetics 3:224−228;Le Gal La Salle et al.Science 259:988−90(1993)、Le Gal La Salle(1993)Nature Genetics 3:1−2;およびNeve(1993)TIBS 16:251−253も参照のこと。
【0129】
(HSVベクター)
HSVベクターも、本発明の方法において使用され得る。HSVは、多くの組織型に感染する能力を有しており、従って、HSVウイルスベクターは、多様な細胞型を形質導入するための有望な系を提供する。発現された遺伝子産物が最初の産生の位置から移動する可能性はあるが、HSV感染の潜伏はニューロン細胞において確立される傾向がある。従って、米国特許第6,613,892号(Prestonらに発行された)および第6,610,287号(Breakefieldらに発行された)に記載されたもののような組換えHSVウイルスベクターは、外因性/異種の核酸配列をニューロン細胞へ送達し、そこでそれらが発現させるのに特に有用である。ここに記載されたもののような核酸配列(即ち、NPYおよびその機能性誘導体およびフラグメント)、およびそれらからコードされたペプチドの発現は、神経学的障害に関連した症状の改善により治療効果を賦与する。
【0130】
本発明の組換えHSVベクターは、HSV−1もしくはHSV−2、または両方の型に由来するヌクレオチド配列を含むHSV−1とHSV−2との型間(intertype)組換え体であり得る。組換えHSVゲノムは、変異体HSVウイルスに一般に含有されているであろう。
【0131】
米国特許第6,573,090号(Breakefieldらに発行された)に記載されたもののような組換えHSVベクターを作成する方法も、本発明に包含される。
【0132】
(レンチウイルスベクター)
本発明の方法は、レンチウイルスベクターとも適合性である。ベクターが由来し得るレンチウイルスの例には、以下のものが含まれる:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ白血病ウイルス(BLV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、細胞会合エンベロープ(cell−associated enveloped)ウイルス(CEV)およびビスナウイルス。レンチウイルスベクターパッケージング細胞系およびレンチウイルスベクターストックを作製するための方法は、以前に記載されている。例えば、米国特許第6,613,569号(Doughertyらに発行された)を参照のこと。付加的なレトロウイルスベクター粒子およびレトロウイルスベクターのRNAゲノムをコードするDNA構築物も記載されている。米国特許第6,235,522号(Kingsmanらに発行された)を参照のこと。パッケージングされ得るレンチウイルスベクター転写物、および哺乳動物細胞における高力価組換えレンチウイルスの迅速な産生のためのレンチウイルスタンパク質の両方の合成を指図する無毒化されたレンチウイルスベクターも、記載されている。無毒化されたレンチウイルスベクターを作成するのに有用な細胞系も提示される。米国特許第6,428,953号(Naldiniらに発行された)を参照のこと。
【0133】
熟練した当業者であれば、本発明のDNA配列を発現するために修飾され得る多様な発現ベクター(ウイルス性および非ウイルス性)が利用可能であることを認識するであろう。ここに例示された特定のベクターは、例示的なものに過ぎず、本発明の範囲を制限するためのものではない。オルタナティブ発現ベクターおよびそれらの発現の方法は、当技術分野において既知であり、Sambrookら(前記)またはAusubelら(前記)により記載されている。
【0134】
(遺伝子発現)
発現ベクター(例えば、AAVベクター)に組み込まれた外因性DNAは、自然界に存在する核酸配列、天然に存在するポリペプチドをコードする天然には存在しない核酸配列、またはそのようなポリペプチドの認識可能な変異体をコードする遺伝子を含むかもしれない。
【0135】
遺伝子発現に必要とされる制御領域の正確な性質は、生物に依って変動するかもしれないが、一般に、RNA転写の開始を指図するプロモーターを含む。そのような領域は、TATAボックスのような転写の開始に関連した5’非コーディング配列を含んでいるかもしれない。プロモーターは構成性または制御可能であり得る。構成性プロモーターは、作動可能に連結された遺伝子の発現を本質的に常に駆動する。他方、制御可能プロモーターは、細胞の状態または誘導分子のようなレギュレーターに応答して活性化または不活化され得る。制御可能プロモーターには、通常は「オフ」であるが、「オン」へと誘導され得る誘導可能プロモーター、および通常は「オン」であるが、オフに転換され得る「抑制可能」プロモーターが含まれる。温度、ホルモン、重金属および制御タンパク質を含む多様なレギュレーターが、制御可能プロモーターの活性を調節することが既知である。しかしながら、構成性プロモーターは、いくつかの環境の下で多少は応答性または制御可能であるかもしれないことに注意することが重要である。
【0136】
プロモーターの制御可能性は、インデューサーまたはリプレッサーが結合する「オペレーター」としばしば呼ばれる特定の遺伝エレメントに関連しているかもしれない。オペレーターはその制御を改変するために修飾され得る。一つのプロモーターのオペレーターがもう一つのものへ転移されたハイブリッドプロモーターが構築され得る。
【0137】
プロモーターは、宿主生物の本質的に全ての細胞において活性な「遍在性」プロモーター、例えば、ベータアクチンプロモーターもしくはサイトメガロウイルスプロモーターであるかもしれないし、または発現が特定の型の組織もしくは標的細胞に多少特異的なプロモーターであるかもしれない。好ましくは、神経特異的である本発明の組織特異的プロモーターは、本質的に神経系の細胞においてのみ機能性である。プロモーターの活性は、いくつかの細胞型または神経系の領域において、他よりも高いかもしれない。
【0138】
従って、プロモーターは、主として中枢神経系において、もしくは主として末梢神経系において活性であるかもしれないし、または両方において有意に活性であるかもしれない。CNSにおいて活性である場合、それは、脊髄、脳幹(髄質、脳橋、中脳もしくはそれらの組み合わせ)、小脳、間脳(視床および/もしくは視床下部)、終脳(線条体および/もしく大脳皮質、並びに、後者の場合、後頭葉、側頭葉、頭頂葉および/もしくは前頭葉)またはそれらの組み合わせに特異的であるかもしれない。特異性は、絶対的であるかもしれないしまたは相対的であるかもしれない。
【0139】
同様に、プロモーターは、CNSの場合のニューロンもしくは膠細胞、またはPNSの場合の特定の受容体または効果器のような特定の細胞型に特異的であるかもしれない。それは、膠細胞において活性である場合、星状細胞、乏突起膠細胞、上衣細胞、シュワン細胞またはミクログリアに特異的であるかもしれない。それは、ニューロンにおいて活性である場合、特定の型のニューロン、例えば、運動ニューロン、感覚ニューロンまたは介在ニューロンに特異的であるかもしれない。さらに、プロモーターの組織特異性は、修飾され得るまたは第二のプロモーターへ転移され得る特定の遺伝エレメントに関連しているかもしれない。
【0140】
外因性核酸配列の発現は、多様な遺伝子発現調節エレメントを使用して達成され得る。以下は、作動可能に連結された遺伝子の発現を指図するための利用可能な手段のうちのいくつかのリストを提供する。それは、決して包括的なものではなく、いくつかの異なるカテゴリーの制御エレメントの代表例を提供するものとして見なされるべきである。
【0141】
(全ての細胞型における発現)
強力なウイルスプロモーター(例えば、最初期CMV)および比較的非特異的な細胞プロモーター(例えば、ベータ−アクチン、Genbank HUMACTBET,K00790)が、全ての細胞型における発現を指図するために使用され得る。
【0142】
(ニューロン特異的な発現)
ラットニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター(EMBL HSENO2,X51956)が、神経特異的な発現の達成のための例示的なプロモーターとして挙げられる。本発明の方法において使用するためのAAVベクターに組み込まれ得るその他の神経特異的プロモーターは多数存在することが認識されるであろう。そのような神経特異的プロモーターには、芳香族アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)、神経フィラメント(GenBank HUMNFL,L04147)、シナプシン(GenBank HUMSYMIB,M55301)、thy−1プロモーター[Chen et al.(1987)Cell 51:7−19]、およびセロトニン受容体(GenBank S62283)プロモーター、並びにチロシンヒドロキシラーゼプロモーター(TH)(Nucl.Acids.Res.15:2363−2384(1987)およびNeuron 6:583−594(1991)参照);GnRHプロモーター(Radovick et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:3402−3406(1991));L7プロモーター(Oberdick et al.,Science 248:223−226(1990));DNMTプロモーター(Bartge et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:3648−3652(1988));エンケファリンプロモーター(Comb et al.,EMBO J.17:3793−3805(1988));およびMBPプロモーター等のような神経細胞の亜集団において遺伝子の発現を駆動するプロモーターが含まれるが、これらに制限はされない。より広範囲に活性なプロモーターと、発現をニューロンに限定するサイレンサーエレメントとの組み合わせも企図され得る。
【0143】
(膠細胞特異的な発現)
例えば、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)プロモーター(GenBank HUMGFAP,J04569)、S100プロモーター(GenBank HUMS100AS,M65210)およびグルタミンシンターゼ(EMBL HSGLUS,X59834)プロモーターのような、膠細胞特異的プロモーターまたは神経/膠細胞特異的プロモーターを含む発現ベクター(例えば、AAVベクター)も、本発明に包含される。
【0144】
(ニューロン亜集団特異的な発現)
本発明の方法において使用され得るその他のプロモーターには、例えば、エンケファリン(GenBank HUMENKPH1,K00488)、プロダイノルフィン、ソマトスタチン(GenBank RATSOMG,J00787;GenBank HUMSOMI,J00306)のペプチド作動性プロモーター;チロシンヒドロキシラーゼ(GenBank M23597)、ドーパミンベータ−ヒドロキシラーゼ(GenBank RATDBHDR,M96011)、PNMT(EMBL HSPNMTB、X52730)のモノアミン作動性プロモーター;およびコリンアセチルトランスフェラーゼプロモーター(GenBank HUMCHAT1,M89915;EMBL HSCHAT,X56585)のようなコリン作動性ニューロンプロモーターが含まれる。
【0145】
遺伝子が発現可能であるためには、コーディング配列が、標的細胞において機能性のプロモーター配列に作動可能に連結されなければならない。プロモーターがコーディング配列の転写を達成し得るように位置付けられている場合、そのプロモーター領域はそのコーディング配列に作動可能に連結されている。2つの作動可能に連結された配列が相互に隣接している必要はない。
【0146】
所望であれば、所望のRNA産物をコードする遺伝子配列の3’側の非コーディング領域が得られてもよい。この領域は、終結およびポリアデニル化を提供するもののような、その転写終結制御配列のために保持され得る。従って、コーディング配列に天然に隣接している3’領域の保持により、転写終結シグナルが提供される。または、異なる遺伝子から単離された3’領域が内因性遺伝子のものと置換されてもよい。
【0147】
本発明の形質導入された神経細胞における発現のための例示的な制御エレメントとして、ウッドチャック翻訳後制御エレメント(WPRE)およびウシ成長ホルモンポリAシグナルが挙げられる。本発明の方法において使用するための発現ベクター(例えば、AAVベクター)に組み込まれ得るその他の制御エレメントは多数存在することが認識されるであろう。WPREの代替物には、改良されたmRNAの輸送および安定性に関連した3’ エレメントが含まれるが、これに制限はされない。ウシ成長ホルモンポリAシグナルの代わりに用いられ得るエレメントには、SV40の初期および後期のポリAシグナル、並びに合成ポリAシグナルが含まれるが、これらに制限はされない。熟練した当業者であれば、そのような制御エレメントにとって好ましい特色を承知し、どの制御エレメントがここに例示された制御エレメントの代わりに用いられるための十分な機能性を提供するかを承知しているであろう。
【0148】
(標的細胞)
本発明の方法の標的細胞は、哺乳動物の中枢または末梢の神経系の細胞である。特定の実施形態において、標的細胞はCNS内に位置する。さらなる特定の実施形態において、CNSの標的細胞は、脳の内側側頭葉(例えば、海馬および/もしくは扁桃体)または側頭皮質から単離されるかまたはそれらの中に見出される。
【0149】
一つの実施形態において、細胞はインビトロで培養される。別の実施形態において、細胞は、ベクターが細胞に送達される時点で生存している哺乳動物の一部である。哺乳動物は、送達の時点で任意の発達段階、例えば、胚、胎児、幼児、年少者または成人であり得る。
【0150】
ベクターは、中枢神経系の細胞、末梢神経系の細胞または両方に送達され得る。ベクターは、中枢神経系の細胞に送達される場合、脊髄、脳幹(髄質、脳橋および中脳)、小脳、間脳(視床、視床下部)、終脳(線条体、大脳皮質、もしくは皮質内の後頭葉、側頭葉、頭頂葉もしくは前頭葉)またはそれらの組み合わせの細胞に送達され得る。
【0151】
同様に、末梢神経系内では、それは、感覚および/または効果器経路の細胞に送達され得る。
【0152】
ここおよび米国特許第6,503,888号に例示されるように、中枢神経系の特定の領域に特異的にベクターを送達するため、それは定位微量注射により投与され得る。例えば、手術の日に、患者は、定位フレームベース(frame base)を適所に固定される(頭蓋へねじで取り付けられる)。定位フレームベース(基準の印を有しMRI適合性)を有する脳が、高分解能MRIを使用して画像化される。MRI画像は定位ソフトウェアを装備したコンピュータに転送される。一連の冠状面、矢状面および横断面の画像が、標的部位(発現ベクター注射の部位)および軌道を決定するために使用され得る。ソフトウェアは、その軌道を定位フレームに適した三次元座標へと直接翻訳する。進入部位の上にバーホール(Burr holes)が開けられ、所定の深さで移植された針により定位装置が位置付けられ、発現ベクター(例えば、AAVベクター)が同定された標的部位に注射される。特定の実施形態において、標的部位は、脳の内側側頭葉(例えば、海馬および/もしくは扁桃体)または皮質領域に位置する。例えば、AAVベクターは、ウイルス粒子を作製するのではなく、標的細胞へと組み込まれるため、その後のベクターの広がりは少なく、大部分は組み込み前の注射の部位からの受動拡散の関数である。拡散の程度は、ベクターと流動性キャリアとの比率を調整することにより調節される。
【0153】
発現ベクター(例えば、AAVベクター)の用量は、一部には、処置すべき脳の範囲における細胞の数および標的部位のサイズに基づき、熟練した神経外科医によって決定され得る。特定の実施形態において、例えば、本発明のAAVベクターは、ゲノム粒子またはウイルス粒子およそ10〜1013個という用量で投与され得る。
【0154】
発現ベクターは、適用に依って、脳室内、実質内および/またはくも膜下腔内に送達され得る。付加的な投与経路は、直接可視化の下での発現ベクターの局所適用(例えば、表在皮質適用)またはその他の非定位適用に向けられる。
【0155】
ベクターを特定の型の細胞、例えば、ニューロンへターゲティングするためには、細胞の表面受容体と特異的に結合するホーミング剤とベクターを会合させることが望ましいかもしれない。従って、ベクターは、ある種の神経系細胞が受容体を有しているリガンド(例えば、エンケファリン)と接合され得る。接合は、共有結合性、例えば、グルタルアルデヒドのような架橋剤、または非共有結合性、例えば、アビジン化リガンドのビオチン化ベクターへの結合であり得る。共有結合性接合のもう一つの型は、リガンドが表面に露出されるよう、コードされたコートタンパク質のうちの一つが、ネイティブのAAVコートタンパク質と、例えば、ペプチドまたはタンパク質のリガンドとのキメラであるように、ベクターストックを調製するために使用されるヘルパーウイルスを工作することにより提供される。接合の型が何であれ、そのような修飾は、発現ベクター(例えば、AAVベクター)の組み込み、またはリガンドの細胞受容体との結合に実質的に干渉するべきではない。
【0156】
標的細胞は、ヒト細胞、またはその他の哺乳動物、特に、非ヒト霊長類並びにげっ歯類(マウス、ラット、ウサギ、ハムスター)、食肉類(ネコ、イヌ)およびウシ目(ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ)の哺乳動物の細胞であり得る。
【0157】
(医薬品)
薬学的組成物は、単独で投与されてもよいし、または以下に制限はされないが、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロースおよび水を含む無菌の生体適合性の薬学的キャリアにおいて投与され得る、安定化化合物のような少なくとも一つの他の因子と組み合わせられて投与されてもよい。組成物は、単独で、または他の因子、調整剤もしくは薬物(例えば、抗生物質)と組み合わせられて患者に投与され得る。
【0158】
特定の実施形態において、薬学的組成物は、薬学的に受容可能なキャリアまたは賦形剤も含有している。そのような材料は、非毒性であるべきであり、活性成分の効力に干渉するべきでない。薬学的に受容可能な賦形剤には、水、生理食塩水、グリセロール、糖類およびエタノールのような液体が含まれるが、これらに制限はされない。薬学的に受容可能な塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩等のような鉱酸塩;および酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩等のような有機酸の塩も含まれ得る。さらに、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝物質等のような補助物質が、そのような媒体の中に存在し得る。薬学的に受容可能な賦形剤の詳細な考察は、Remington’s Pharmaceutical Sciences[Mack Pub.Co.,18th Edition,Easton,Pa.(1990)]において入手可能である。キャリアまたはその他の材料の正確な性質は、投与経路に依って異なるかもしれない。ここに記載されるように、本発明は、本発明の発現ベクターおよびそれらの組成物の、神経系内の標的細胞への投与に向けられる。
【0159】
本発明によると、個体に与えられるべきNPYを含む発現ベクターは、好ましくは、個体への利益を示すのに十分な「治療的に有効な量」または「予防的に有効な量」(場合によっては、予防は処置と見なされる)で投与される。
【0160】
本発明の組成物はヒト治療薬に関して記載されたが、これらの道具が、神経学的障害を有する動物対象のための処置計画の開発に向けられた動物実験においても有用であることは、当業者には明白であろう。実際、ここに記載されるように、ヒト神経学的障害のモデル系として役立つ様々な神経学的障害に特徴的な症状を示す動物対象が開発されている。
【0161】
以下の実施例は、本発明のある種の実施形態を例示するために提供される。それらは、決して本発明を制限するためのものではない。
【実施例】
【0162】
(実施例I)
ここに提示された結果は、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターにより媒介された遺伝子導入の後のNPYの長期持続性の過剰発現が、ヒトてんかんのラットモデル系において急性カイニン酸発作およびキンドリングてんかん発生を劇的に低下させることを明らかにする。注目すべきことに、トランスジーン発現は、7日目までに有意に増加し、少なくとも3ヶ月間持続した。セロタイプ2 AAVベクターは、門部介在ニューロンにおけるNPY発現を増加させ、キメラセロタイプ1/2ベクターは、苔状線維、錐体細胞および海馬台も包含する、より広範囲の発現をもたらした。海馬内カイニン酸により誘導されたEEG発作は、NPY発現の広がりに依って、50%〜75%低下し、発作開始は著しく遅延した。さらに、キメラセロタイプ1/2ベクターを注射されたラットにおいては、てんかん重積が排除され、キンドリング獲得が有意に遅延した。従って、ターゲティングされたNPY遺伝子導入は、薬物抵抗性のヒト患者における有効な抗てんかん処置のための新規の戦略を提示する。
【0163】
海馬におけるNPYの構成性過剰発現に起因する局所阻害性緊張の強化が、発作およびてんかん発生の阻害のための有効な戦略になるか否かを解明するため、本発明者らは、てんかんの動物モデルにおいて状態を処置するためにNPYを発現する組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)を使用した。注目すべきことに、rAAVは、高い効率および安定性、最小の免疫原性および非病原性、並びに広い宿主および細胞の範囲で、成熟ニューロンのような有系分裂後の細胞を成功裡に形質導入することができる[During.Adv.Drug Deliv.Rev.27,83−94(1997)]。従って、ニューロンにおいてNPYを構成性発現することができるNPYをコードする核酸配列を含むベクターを設計した。
【0164】
下記のように、NPY配列を含むrAAVによるラットのターゲティングされた感染は、感染した脳領域におけるNPYの過剰発現をもたらした。ターゲティングされた感染が海馬および周辺領域におけるNPYの過剰発現をもたらしたラットは、カイニン酸により誘導されるEEG発作の劇的な低下、発作開始の遅延および損なわれたキンドリングてんかん発生を示した。これらのデータは、例えば、側頭葉てんかんのような、局所開始を有する難治性発作の処置および管理のための本発明の新規の方法の利用可能性を証明している。
【0165】
(方法)
(実験動物)
雄スプラーグ−ドーリー成体ラット(約220g、Charles River,Calco,Italy)が使用された。それらは、固定された12h明暗サイクルで、食物および水を自由に摂取し得るよう、一定の温度(23℃)および相対湿度(60%)で収容された。動物およびそれらの世話を含む手法は、国家および国際の法律および政策に従う制度化されたガイドラインに準じて実施された。
【0166】
(プラスミド構築およびAAVベクター作製)
プラスミドAAV/NSE−NPY WPRE(AAV−NPY)は、標準的な分子クローニング手法を使用して構築された。ヒトプレプロNPY(ppNPY)cDNAが、ラットニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター、ウッドチャック翻訳後制御エレメント(WPRE)およびウシ成長ホルモンポリAシグナルからなる発現カセットへとサブクローニングされた。トランスジーンを含まない同じ発現カセットが、対照として使用された(AAV−Empty)。発現カセットは、AAV2逆方向末端反復が両側に隣接しているAAV骨格へサブクローニングされた。
【0167】
高力価AAVセロタイプ2ベクターは、以前に記載されたようにして[During et al.Methods Mol.Med.76,221−36(2003)]、AAVプラスミドをパッケージングすることにより作製された。キメラAAV1/2ベクターは、AAV2ヘルパーとの1:1の比率で、AAV1キャプシドヘルパープラスミドを付加することにより、発表されたプロトコルを使用してパッケージングされた。キメラウイルス粒子上のAAV2キャプシドタンパク質の存在は、ヘパリン−アガロースカラム上でのアフィニティ精製によるそれらの単離を可能にした。ベクターストックのゲノム力価は、以前に記載されたようにして[Clark et al.J Drug.Target 7,269−83(1999)]、Perkin−Elmer(PE)−Applied Biosystems(Foster City,CA)Prism 7700配列検出器系を使用して決定された。
【0168】
(NPY遺伝子送達)
2つの異なるAAV−NSE−NPYベクター:セロタイプ2、またはAAV1および2キャプシドタンパク質の両方を含むキメラセロタイプのいずれかが使用された。rAAVベクターは、以前に記載されたようにして[Mastakov et al.Mol.Ther.5,371−80(2002);Lin et al.Eur.J.Neurosci.印刷中(2003)]、ラット海馬の背側面および腹側面に両側的に注射された(3μl/45分 rAAV/NSE−NPY、各部位4.2×10、マイクロプロセッサーにより調節された10μlハミルトン注射器および輸液ポンプを使用)。その後の海馬内カイニン酸注射に供されたラットに関しては、rAAVが背側海馬のみへ両側的に注射された。注射は全て、エクイテシン(Equithesin)麻酔下のラットにおいて定位ガイダンスの下で実施された[Vezzani et al.Neurosci.19,5054−65(1999)]。対照ラットは、等容量のrAAV−NSE−emptyを注射された。
【0169】
(カイニン酸)
rAAV−NSE−NPYまたはrAAV−emptyのいずれかの注射から8週間後、Vezzaniらにより記載されたようにして[Vezzani et al.Neuroscience 110,237−43(2002);Vezzani et al.J Neurosci.19,5054−65(1999)]、ラット(n=5〜10)に、深いエクイテシン麻酔下で、薬物注射のための海馬および皮質の電極およびガイドカニューレが移植された。手術から4日後、自由に動いているラットに、背側海馬(40ng)または外側脳室(250ng)に一側的にカイニン酸が注射された。EEG記録は、カイニン酸投与の前(基線)、途中および180分後まで作成され、ラットの同一性を承知していない研究者により決定されたような基線のものから変動した活性を検出するために視覚的に分析された。発作は、記録の皮質誘導および海馬誘導における高周波および/または多棘波複合および/または高電位同調棘波または波活性の同時発生からなっていた[Vezzani et al.Neuroscience 110,237−43(2002);Vezzani et al.19,5054−65(1999)]。発作活動は、3時間の記録において最初の発作(開始)までの潜伏時間、発作の回数およびそれらの持続時間を測定することにより定量された。この発作の実験モデルは、NPY受容体リガンドの調整効果に対して高度に感受性であることが既知であるため、選択された[Vezzani et al.J.Nutr.130,1046S−8S(2000)]。
【0170】
(迅速なキンドリング)
8週間前にrAAV−emptyベクターまたはキメラ1/2AAV−NSE−NPYを注射されたラットの異なる群(n=7〜9)が電気的に刺激され、200分間5分間隔で、双極電極からの定電流刺激(50Hz、400μAの10sec列、1−msec双極方形波)を使用して、よく確立されている迅速キンドリングプロトコル[Kopp et al.Brain Res.Mol.Brain Res.72,17−29(1999)]に従い、左腹側海馬においてEEGが記録された。行動が、Racine[Racine.Electroencephalogr.Clin.Neurophysiol.32,281−94(1972)]に従い観察されスコア化された。全ての動物について、各刺激の後に、刺激された海馬において後発射が測定された。キンドリング完了から24時間後、完全にキンドリングされたラットは、キンドリング維持を確認するために、上記のような電気刺激をさらに5回受けた(再テスト日)。
【0171】
(mRNAのインサイチューハイブリダイゼーション分析)
ラットは、rAAV−NSE−NPYまたはrAAV−emptyベクター注射から8週間後に斬首により屠殺され(n=3〜4)、それらの脳がイソペンタン(−70℃)で急速凍結された。これらのラットは発作に供されなかった。冠状切片(20μm)が凍結切片化され、ゼラチンをコーティングされたスライド上に設置され、−30℃で保管された。NPY mRNAのためのインサイチューハイブリダイゼーションが、以前に詳細に記載されたようにして[Gruber et al.Hippocampus 4,474−82(1994)]、実施された。ppNPY mRNAの塩基214−259(GenBank登録番号NM_012614)に相補的な46マーオリゴヌクレオチドプローブ(CTCTGTCTGGTGATGAGATTGATGTAGTGTCGCAGAGCGGAGTAGT;配列番号9)が使用され、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(Roche,Mannheim,Germany)を用いた反応により3’末で[35S]α−チオ−dATP(1300Ci/mmol;New England Nuclear,Wilmington,DE)で放射標識された。42℃でのインキュベーション(18時間)およびストリンジェントな洗浄の後、切片が、まず3日間BioMax MRフィルム(Amersham Pharmacia Biotech,Buckinghamshire,UK)に感光させられ、続いて、Kodak NTB−2感光乳剤(Kodak,Rochester,NY;蒸留水で1:1希釈)に浸漬され、1週間感光させられた。フォトエマルジョン(photoemulsion)を現像し、クレシルバイオレットにより対比染色した後、カバースリップを切片に適用した。
【0172】
(免疫組織化学)
ラットは、エクイテシン麻酔下で、PBS、続いて4%パラホルムアルデヒドを含むPBSの経心潅流により、rAAV−NSE−emptyまたはrAAV−NSE−NPY(セロタイプ2または1/2)(各群n=3)を送達されてから3日〜3ヶ月後に屠殺された[Vezzani et al.Neuroscience 110,237−43(2002)]。これらのラットは発作に供されなかった。脳が、同じ固定液で4℃で一夜、後固定され、次いで30%ショ糖を含むPBSで凍結保護された。40μm冠状海馬切片が中隔側頭伸張全体を通して各ラットにおいて凍結切片化され、5番目毎の切片が分析された。免疫組織化学は、ウサギポリクローナル抗NPY抗体(1:2000希釈、Chemicon Int,Temecula,CA)を使用して、記載されたようにして[Schwarzer et al.Brain Res.Brain Res.Rev.22,27−50(1996)]、実施された。免疫反応性は、アビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼ技術(Vectastain ABC kit,Vector Labs,USA)により検出され、次いで3’,3’−ジアミノベンジジン(Sigma)とのインキュベーションにより現像された。
【0173】
(統計分析)
データは平均値±SEMとして提示される。AAV−NSE−Empty対照に対するベクター治療の効果を決定するため、一元配置のANOVAの後、チューキー法が使用された。
【0174】
(結果)
(rAAV−NSE−NPY遺伝子発現)
rAAV−NSE−NPY構築物(セロタイプ2またはセロタイプ1/2)または空ウイルスベクターのいずれかの局所注射は、最小の局所ニューロン傷害を引き起こし、それは、脳切片のフルオロジェイド(Fluoro Jade)またはニッスル(Nissl)染色分析によりベクター注射から3日後および8週間後に査定されたように、注射針路に隣接している範囲に限定されていた[方法論の詳細については、Xu et al.Gene Ther.8,1323−32(2001)を参照のこと]。
【0175】
NPY遺伝子過剰発現は、増加したNPY mRNA発現の範囲を評価することにより判断されるように、注射された海馬に限定され、セロタイプ2およびセロタイプ1/2の注射部位の周囲にそれぞれ約1.5mmまたは約2.5mm拡張されていた。形質導入された遺伝子が発現された範囲に関する補強証拠は、緑色蛍光タンパク質遺伝子(GFP)を保持しているrAAV−NSEを注射されたラットからの冠状脳切片の共焦点顕微鏡分析により得られた。いずれのベクターにより誘導されたNPY遺伝子発現も、ニューロンに限定されており、2週間後に最大となり、少なくとも3ヶ月間維持された。
【0176】
ベクター注射から8週間後、セロタイプ2rAAV−NSE−NPYは、rAAV−NSE−emptyを注射されたラットの対応する切片と比較して、注射された背側海馬の門部介在ニューロンにおけるNPY mRNAハイブリダイゼーションシグナルの著しい増加を誘導した。従って、注射された部位(背側歯状回)を包含する冠状脳切片の免疫細胞化学的分析は、門部および外側分子層のそれらの終末投射範囲における強く標識された繊維を含む、門部介在ニューロンにおける増強されたNPY免疫反応性を示した。NPY免疫反応性は、注射された領域、および注射された歯状門部の苔状細胞から発生する連合性/交連線維が終結するその領域の輪郭を描く対側海馬の両方において、内側分子層において増加していた[Laurberg.J.Comp.Neurol.184,685−708(1979)]。
【0177】
上記と同じ実験条件で、セロタイプ1/2rAAV−NSE−NPYを注射されたラットは、注射された部位の錐体細胞と同様に門部介在ニューロンおよび顆粒細胞においてもNPY mRNAの高い発現を示した。強力な転写物シグナルは、海馬台にも観察された。従って、キメラセロタイプrAAV−NSE−NPYで処理されたラットの注射された海馬におけるNPYの免疫細胞化学的分析は、苔状線維の終末領域およびCA1錐体細胞において強く増加したペプチドレベルを示した。門部介在ニューロン、CA3錐体細胞および海馬台は、増強された免疫反応性を示した。増加したNPY免疫反応性は、対側海馬の内側分子層、並びに注射された海馬の内側分子層および外側分子層の両方にも見出された。
【0178】
(カイニン酸により誘導される発作)
予備実験は、背側海馬または側脳室に一側的に注射されたそれぞれ40ngおよび250ngのカイニン酸が、死亡率の非存在下で、処理されたラットの100%において再現可能なEEG発作をもたらす最低の痙攣促進用量であることを証明した。カイニン酸の海馬内または脳室内(icv)の注射の後、全ての対照ラットが、平均で2.5分持続する不連続の発作エピソードを発症した。図2Bおよび[Laurberg.J.Comp.Neurol.184,685−708(1979)]を参照のこと。平均で85分持続する連続発作活動により定義され、全般性間代性痙攣と関連しているてんかん重積は、カイニン酸のicv適用の後にのみ観察された(図2C)。
【0179】
両方のrAAV−NSE−NPYベクターが、40ngのカイニン酸の海馬内適用により誘導される発作活動を有意に低下させた(図1)。従って、EEG発作の回数およびそれらの持続時間は、セロタイプ2rAAV−NSE−NPYを注射されたラット(n=5)において約50%減少し、セロタイプ1/2rAAV−NSE−NPYを注射されたラットにおいて約75%減少し(n=10;AAV2−NSE−NPYと比較してp<0.005);発作開始までの時間は両方の群で約2倍遅延した(rAAV−emptyに対してp<0.01、n=10)。
【0180】
セロタイプ1/2rAAV−NSE−NPYベクターが、より広範囲のNPY遺伝子の形質導入を誘導し、より大きな発作低下をもたらしたため、発作感受性のさらなる特徴決定はこのベクターを注射されたラットにおいて実施された。表1は、rAAV−NSE−empty(対照ラット)対セロタイプ1/2rAAV−NSE−NPYの海馬内注射から8週間後に、250ngのカイニン酸のicv投与によりラットにおいて誘導されたEEG発作活動の定量的評価を示す。rAAV−NSE−NPYを注射されたラットは、発作開始の約2倍の遅延、およびてんかん重積の防止による、EEG発作中に経過した総時間の約76%もの低下を有していた(p<0.01)(図2Cおよび2Fを比較されたし)。
【0181】
【表1】

(キンドリングにより誘導されるてんかん発生)
rAAV−NSE−NPYセロタイプ1/2ベクターを注射されたラットまたは空ベクターカセットを注射されたラットにおいて、注射後8週目に、キンドリングてんかん発生の発生が調査され比較された。rAAV−NSE−NPYラットにおいて、キンドリングの開始前の刺激された海馬における後発射を誘導するためのしきい電流は40%増加した(p<0.05、表2)。このパラメーターは、セロタイプ2rAAV−NSE−NPYベクターを注射されたラットにおいては修飾されなかった。痙攣前段階1および2を誘導するために必要とされる刺激の数は、NPY過剰発現により影響を受けなかったが、段階3(背筋の間代性収縮)および段階4〜5(姿勢の損失を伴うまたは伴わない全般性間代性運動発作)を誘導するために必要とされる電気刺激の回数は約2倍増加した(p<0.05および0.01)。rAAV−NSE−NPYを注射されたラット(4±1、n=7、p<0.01)における段階4〜5発作の総回数は、空ベクター(9±2、n=9)と比較してより低かった。刺激された海馬におけるキンドリングの間に発生する累積後発射の平均持続時間は約30%低下した(p<0.05)。
【0182】
【表2】

(考察)
本発明者らは、AAVに基づくベクターの局所適用により誘導された海馬におけるNPYのインビボの異所性発現が、辺縁系の発作からの有意な防御を提供し、ラットにおけるてんかん発生を損なうことを初めて示した。遺伝子形質導入は、これらのベクターの強力なニューロン向性[Xu et al.Gene Ther.8,1323−32(2001);Kaplitt et al.Nat.Genet.8,148−54(1994);McCown et al.Brain Res.713,99−107(1996)]およびニューロン特異的なプロモーターの使用のため、ニューロンにおいて排他的に観察された。正常な生理学的条件の下では、NPYは、門部、多形細胞層CA1〜CA3および放線状層CA3の介在ニューロンに構成的に存在する[Milner et al.J.Comp.Neurol.386,46−59(1997)]。ここに記載されるように、使用されたベクターセロタイプに依って、2つの異なるNPY発現のパターンが、注射された海馬において観察された。セロタイプ2の利用は、門部介在ニューロンにおける強固な発現に至り、キメラセロタイプ1/2の使用は、錐体細胞および顆粒細胞におけるさらなる発現をもたらした。注射された海馬において、NPYは、歯状回の内側分子層および外側分子層、ならびに苔状線維の終末領域に位置している繊維において強く発現された。増加したNPY免疫反応性も、交連線維が終結する対側海馬の内側分子層において特異的に観察された。これらの結果は、NPYが、ベクターにより媒介される細胞体への形質導入の後、神経終末へと効率的に輸送され、局所注射部位を超えて治療的な利益を及ぼす可能性が高いことを証明している。
【0183】
NPYの抗痙攣作用および抗てんかん作用[Vezzani et al.Trends Neurosci.22,25−30(1999);Baraban et al.J.Neurosci.17,8927−36(1997);DePrato Primeaux et al.Neurosci.Lett.287,61−4(2000);Smialowska et al.Neuropeptides 30,67−71(1996);Woldbye.Regul.Pept.75−76,279−82(1998);Marsh et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96,13518−23(1999);Reibel et al.Peptides 22,529−39(2001);Husum et al.Neuropeptides 36,363−9(2002);Mazarati and Wasterlain.Neurosci.Lett.331,123−7(2002)]と一致して、このペプチドのベクターにより媒介された過剰発現は、脳内カイニン酸適用により誘導される発作活動を有意に低下させた。特に、広範囲のNPY過剰発現(セロタイプ1/2ベクター)を有するラットは、門部介在ニューロンに限定されたNPY過剰発現を有するラットにおいて観察された50%の減少と比較して、より大きな、即ち、75%の不連続発作エピソードの低下を示した。これは、NPY発現が、門部介在ニューロン、苔状線維並びに錘体ニューロンおよび海馬台ニューロンの終末を含む多数のシナプス部位で海馬の過興奮性を効率的に調節し得ることを示している。
【0184】
遷延性発作エピソードは、icvカイニン酸を注射されたラットの海馬において典型的に観察された。これらのエピソードは、全般性運動発作に関連しており、従って、辺縁系回路における反響活動を表している可能性が高い。遷延性発作エピソードは、多数の海馬亜領域にNPYを過剰発現するラットにおいて排除され、このことは、ペプチド過剰発現が、海馬内の阻害性緊張を増強することにより、発作全般化を損なうことを示している。同様に、セロタイプ1/2ウイルスにより媒介されたNPY過剰発現も、キンドリングてんかん発生を効率的に遅延させ、この効果は、全般性運動痙攣が起こる段階3から段階4〜5までで明白であった。これらのデータは、海馬における亜慢性NPY注入がキンドリング獲得を遅らせることを示す薬理学的証拠と一致している[Reibel et al.Epilepsia 41 Suppl 6,S127−33(2000]。キンドリングに対する同じ阻害性のプロファイルが、脳内にNPYを選択的に過剰発現するトランスジェニックラットにおいて見出された[Vezzani et al.Neuroscience 110,237−43(2002)]。
【0185】
実験モデルおよびヒトにおける重度の発作の後の門部多形細胞層におけるNPY介在ニューロンの明白な欠損にも関わらず、NPY/GABA含有顆粒細胞下介在ニューロン、顆粒ニューロン、そしていくつかの場合において、錐体細胞は、一般に残される[de Lanerolle et al.Brain Res.495,387−95(1989);Mathern et al.J.Neurosci.15,3990−4004(1995);Furtinger et al.J.Neurosci.21,5804−12(2001);Sloviter.Hippocampus 1,41−66(1991);Sperk et al.Neuroscience 50,831−46(1992);Sundstrom et al.Brain 124,688−97(2001)]。従って、硬化側頭葉内の生存細胞は、ベクターにより媒介されるNPY過剰発現のための魅力的な標的集団を表す。本発明者らは、ラット海馬におけるNPYの慢性過剰発現がNPY−Y2受容体に有意に影響を与えないことも見出しており[Vezzani et al.Neuroscience 110,237−43(2002);Thorsell et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97,12852−7(2000)も参照のこと]、様々なてんかんの動物モデルおよびTLEを有する患者における海馬NPY−Y2受容体の広範囲の明白なアップレギュレーションの確実な証拠が存在する[Furtinger et al.J.Neurosci.21,5804−12(2001);Gobbi et al.J.Neurochem.70,1615−22(1998);Schwarzer et al.Mol.Pharmacol.53,6−13(1998)]。これらの所見は、グルタミン酸作動性機能に対する、そして拡張によりニューロンの興奮性に対するNPYの阻害効果を媒介する重大な標的が、てんかん組織においてNPYにとって容易に利用可能であることを示している。
【0186】
発作を調節するための標的分子としてのニューロペプチドの利用可能性を強調するニューロペプチド制御の興味深い局面は、古典的な神経伝達物質の放出に必要とされるものより高い刺激の頻度でそれらがニューロンから放出されるという観察に関係している[Hokfelt.Neuron 7,867−79(1991)]。これは、NPYが、てんかんイベント中に優先的にニューロンの興奮性に対して阻害作用を及ぼし、非発作期間中にはより少ない程度で作用することを暗示している[Vezzani et al.Trends Neurosci.22,25−30(1999)]。
【0187】
ウイルスベクター形質導入後の海馬におけるNPY過剰発現により媒介される阻害効果は、側頭葉てんかんのような局所開始を有する難治性発作の処置および管理のための新規の治療用試薬としてのそのようなベクターの利用可能性を強く示している。組換えAAV技術の急速な進歩によって、難治性TLEを有する患者における発作焦点へと直接定位的に送達され得る臨床的等級のAAVベクターが作製された。これらの患者における発作焦点におけるAAVにより媒介されるNPY発現は、海馬における基底の阻害性緊張を増加させることにより、発作を阻害かつ/または抑制し、従って、影響を受けた脳領域の外科的切除の代替法または手術の必要性の遅延を提供する可能性がある。
【0188】
(実施例II)
本発明者らは、予めAAV−NPYを注射された動物から採取された脳スライスからNPYが放出されることを証明することにより、実施例Iに提示された結果を拡張し確証した。表3および図7に提示されたデータは、上記のキメラベクター1/2AAV−NPYベクターを注射されたラットから単離された脳スライスを使用して作製された。表3および図7に示されるように、これらの脳スライスからのNPY放出はカリウム依存的に誘発され、それは、内因性NPYの放出を刺激する生理学的条件を再利用する。(予めAAV対照ベクターを注射された)対照動物から採取された脳スライスからの内因性NPYの放出は、本法を使用して検出可能ではない。これらの結果は、カリウム依存的に誘導された場合、異所性または外因性のNPYが内因性NPYより高いレベルで発現されることを証明している。
【0189】
表3および図7に示された放出データは、Vezzaniら[Brain Res. 1994,660(1):138−43]およびRizziら[Eur J Neurosci.1993,5(11):1534−8]により以前に記載された方法論を使用して作製された。試料は、500μl培地におけるスライスの5分間の静止インキュベーションを表す。
【0190】
放出に使用されたスライスにおけるNPY含有量は、AAV−NPYを注射されたラットにおいて、空ベクターを注射されたラットに対して、平均して少なくとも3倍高かった。
【0191】
【表3】

(実施例III)
本発明者らは、NPYの遺伝子導入がAAVベクターを使用して達成される動物において、Y2サブタイプNPY受容体はダウンレギュレートされないが、NPY Y1サブタイプ受容体がダウンレギュレートされるという驚くべき発見もした。図8A〜Dを参照のこと。Y2サブタイプ受容体は、阻害性であり、大部分は、NPYの抗てんかん効果および阻害効果を媒介するため、この所見は本発明に関して重要である。さらに、Y1サブタイプNPY受容体はNPYの刺激効果を媒介するため、これらの受容体の減少は本発明の方法において有益である。Gariboldiら[Eur J Neurosci.1998,10(2):757−9およびBenmaamarら[Eur J Neurosci.2003,18(4):768−74]を参照のこと。多くの増殖因子およびその他のタンパク質の慢性投与が、それらの受容体およびそれらの受容体と連結されたシグナル伝達経路のダウンレギュレーションに関連しているため、NPY Y2サブタイプ受容体に関して示された結果は、驚くべきものであり、本発明の方法の実行可能性にさらなる信頼性を与える。
【0192】
(方法)
(AAV構築物)
NPYトランスジーンを含むまたは含まない最小プロモーターおよび制御エレメントを含むAAV−1/2ベクター/ビリオンを使用して動物が形質導入され、続いて、それらから脳スライスが単離された。
【0193】
(Y1およびY2受容体オートラジオグラフィー)
受容体結合は以下のようにして実施された。[Pro34]ポリペプチドYY(PYY)および[125I]hPYY3−36がクロラミンT法を使用して新鮮に放射性ヨウ素化され([125I]は、NEN,Boston,MAより得られた)、[125I]ペプチド誘導体がHPLCにより精製された。
【0194】
全ての切片の設置された切片が同時に処理された。それらが解凍させられ、室温で60分間、20mlクレブス−ヘンセライト(Henseleit)−トリス緩衝液(118mM NaCl、4.8mM KCl、1.3mM MgSO、1.2mM CaCl、50mMグルコース、15mM NaHCO、1.2mM KHPO、10mMトリス、pH7.3)中でプレインキュベートされた。インキュベーションは、室温で2時間、0.1%ウシ血清アルブミン、0.05%バシトラシンおよびそれぞれの放射性リガンド(Y1受容体オートラジオグラフィーには50pM[125I][Pro34]PYYまたはY2受容体の標識には25pM[125I]PYY3−36)が補足された同緩衝液20mlを含有しているジョプリンジャー(Joplin jars)において実施された。非特異的結合は1μM NPYの存在下で決定された。切片は2回浸漬され、次いで、30秒間氷冷クレブス−ヘンセライト−トリス緩衝液で洗浄され、脱イオン水に浸漬され、冷気流下で急速に乾燥させられた。次いで、スライドが10日間[125I]マイクロスケールと共にマックス(max)フィルム(いずれも、Amersham Pharmacia Biotech,Buckinghamshire,UK)に感光させられた。受容体結合の特徴決定のため、NPY、PYY、PYY3−36、PYY13−36、[D−Trp32]hNPY、ラット膵臓ポリペプチド(PP)(全て、Neosystem,Strasbourgh,France)、[hPP1−17,Ala31,Aib32]NPYおよびBIBO3304が、30〜300nMの濃度で使用された。
【0195】
図8A〜Dは、AAV−emptyおよびAAV−NPYを注射されたラットにおけるY1およびY2サブタイプ受容体結合の代表的な写真を示す(背側および腹側両方の海馬における一側性の注射(IPSI))。図8Aおよび8B(矢じり)に示されるように、Y1受容体の強力な減少が存在する。対照的に、Y2受容体レベルの明白な変化は存在しない。図8Cおよび8Dを参照のこと。調査された4匹のラットは全て類似した結果を与えた。図8に示された結果は、ベクター注射から1ヶ月後に実施された。
【0196】
以上、本発明のある種の実施形態が記載され具体的に例示されたが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。以下の特許請求の範囲に示されるような本発明の範囲および精神を逸脱することなく、様々な修飾がそれらに対してなされ得る。
【図面の簡単な説明】
【0197】
【図1】図1は、それぞれの対照(rAAV−NSE−Emptyを注射されたラット)について決定された値に対する%として表された、発作の回数、発作(発作活動)中に経過した時間および最初の発作の開始までの時間の平均値±SE(n=5〜10)を示すヒストグラムを示す。ラットの背側海馬にそれぞれのベクターを両側的に注射し、8週間後に40ngのカイニン酸の片側海馬内適用により発作を誘導した。それぞれの対照に対してp<0.05;**p<0.01;白丸セロタイプ2に対してp<0.05、チューキー法(Tukey’s test)による。
【図2】図2A〜2Fは、rAAV−NSE−NPYセロタイプ2(D、F)または空ベクター(A〜C)を8週間前に注射されたラットにおける250ngの脳室内カイニン酸により誘導された発作活動を示すEEGトレーシングを示す。図2Aおよび2Dは、右(R)および左(L)の皮質(CTX)または海馬(HP)における基線記録を表す。図BおよびCに示されたトレースは、それぞれ、空ベクターを注射されたラットにおける不連続の発作エピソードおよび遷延性の発作エピソードを示す。rAAV−NSE−NPYを注射されたラットにおいては、不連続の発作エピソードのみが観察されたことに注意すること(図2E)。バー=5秒。
【図3】図3AおよびBは、(A)ヒトニューロペプチドY cDNAをコードする核酸配列(配列番号1)および(B)配列番号1によりコードされたヒトNPYのアミノ酸配列(配列番号2)を示す。
【図4】図4AおよびBは、(A)アカゲザルニューロペプチドY cDNAをコードする核酸配列(配列番号3)および(B)配列番号3によりコードされたアカゲザルNPYのアミノ酸配列(配列番号4)を示す。
【図5】図5AおよびBは、(A)マウスニューロペプチドY cDNAをコードする核酸配列(配列番号5)および(B)配列番号5によりコードされたマウスNPYのアミノ酸配列(配列番号6)を示す。
【図6】図6AおよびBは、(A)ラットニューロペプチドY cDNAをコードする核酸配列(配列番号7)および(B)配列番号7によりコードされたヒトNPYのアミノ酸配列(配列番号8)を示す。
【図7】図7は、予めAAV−NPYを注射され、示されたようにインビトロでインキュベートされた動物から採取された脳スライスからのNPY放出を示す折れ線グラフを示す。
【図8】図8A〜Dは、Y1およびY2 NPY受容体サブタイプの発現レベルを明らかにする脳スライスの写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物神経系標的細胞に核酸配列を送達する方法であって、ここで、該核酸配列は該標的細胞において3ヶ月以上発現可能であり、該方法は発現ベクターを該標的細胞へ投与する工程を包含し、ここで、該発現ベクターが、ニューロペプチドYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントをコードする核酸配列を含む、方法。
【請求項2】
ニューロペプチドYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントをコードする前記核酸配列が、構成的にまたは制御可能な条件の下で、前記標的細胞において発現される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記標的細胞におけるニューロペプチドYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントの発現が、ニューロンの興奮性を改変する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記標的細胞におけるニューロペプチドYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントの発現が、ニューロンの興奮性を低下させる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記標的細胞におけるニューロペプチドYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントの発現が、ニューロンの過剰興奮性に関連する症状を低下させる、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記発現ベクターが、ウイルス性発現ベクターまたは非ウイルス性の発現ベクターである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ウイルス性発現ベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクターまたは単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクターである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ウイルス性発現ベクターが、前記標的細胞を形質導入することが可能なAAVベクターであり、該AAVベクターが野生型ウイルスおよびヘルパーウイルスの両方を欠いている、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記AAVベクターが、セロタイプ2AAVベクターまたはキメラセロタイプ1/2AAVベクターである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ニューロペプチドYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントをコードする前記核酸配列が、誘導可能制御配列に作動可能に連結されており、ここで、該誘導可能制御配列の活性化が該核酸配列からのニューロペプチドYをコードするメッセンジャーRNAの転写をもたらす、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
該誘導可能制御配列が、NPY発現を神経系特異的または中枢神経系特異的なものにする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ニューロペプチドYの発現が、前記中枢神経系の内側側頭葉または側頭皮質に特異的である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記内側側頭葉におけるニューロペプチドYの発現が、海馬および/または扁桃体に局在化される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記発現が神経特異的または膠細胞特異的である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記標的細胞が、霊長類、げっ歯類、食肉類および偶蹄類からなる群より選択される哺乳動物目の哺乳動物細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記標的細胞がヒト細胞である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記標的細胞が細胞培養物中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記標的細胞が生存哺乳動物の体内に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記ベクターが、哺乳動物の本質的に全ての神経系細胞に送達される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ベクターが、前記哺乳動物の神経系の特定の細胞型または領域に特異的に送達される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記神経系の細胞におけるニューロペプチドYの発現をもたらすために、該神経系の細胞にニューロペプチドYをコードする核酸を送達するための方法が、該神経系の障害を処置する、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記神経系の障害がてんかんである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記てんかんが難治性てんかんである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記てんかんが側頭葉てんかんである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
ニューロペプチドYをコードする前記核酸配列が、配列番号2、配列番号4、配列番号6または配列番号8を含むアミノ酸配列またはそれらの誘導体もしくは機能性フラグメントをコードする核酸配列である、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
ニューロペプチドYをコードする前記核酸配列が、配列番号2、配列番号4、配列番号6または配列番号8を含むアミノ酸配列、あるいは配列番号2、配列番号4、配列番号6または配列番号8に少なくとも90%相同なアミノ酸配列をコードする核酸配列である、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
ニューロペプチドYをコードする前記核酸配列が、配列番号2、配列番号4、配列番号6または配列番号8を含むアミノ酸配列、あるいは配列番号2、配列番号4、配列番号6または配列番号8に少なくとも85%相同なアミノ酸配列をコードする核酸配列である、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記ニューロペプチドYをコードする核酸配列が、配列番号1、配列番号3、配列番号5もしくは配列番号7を含む核酸配列またはそれらの誘導体もしくは機能性フラグメントである、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
ニューロペプチドYをコードする前記核酸配列が、配列番号1、配列番号3、配列番号5または配列番号7を含む核酸配列、あるいは配列番号1、配列番号3、配列番号5または配列番号7に少なくとも90%相同な核酸配列である、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
ニューロペプチドYをコードする前記核酸配列が、配列番号1、配列番号3、配列番号5または配列番号7を含む核酸配列、あるいは配列番号1、配列番号3、配列番号5または配列番号7に少なくとも85%相同な核酸配列である、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記投与が定位微量注射による、請求項18に記載の方法。
【請求項32】
AAVの複製シグナルおよびパッケージングシグナルのみを保持するAAVベクターであって、該AAVベクターは、ニューロペプチドYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントをコードする核酸配列を含む、AAVベクター。
【請求項33】
前記核酸配列が、配列番号1、配列番号3、配列番号5または配列番号7の核酸配列あるいはそれらの誘導体または機能性フラグメントを含む、請求項32に記載のAAVベクター。
【請求項34】
前記核酸配列が、配列番号2、配列番号4、配列番号6または配列番号8を含むアミノ酸配列あるいはそれらの誘導体または機能性フラグメントをコードする、請求項32に記載のAAVベクター。
【請求項35】
請求項32に記載のAAVベクターおよび薬学的に受容可能なキャリアを含む、組成物。
【請求項36】
請求項33に記載のAAVベクターおよび薬学的に受容可能なキャリアを含む、組成物。
【請求項37】
請求項34に記載のAAVベクターおよび薬学的に受容可能なキャリアを含む、組成物。
【請求項38】
神経性疾患を有する哺乳動物を処置するための方法であって、該方法は、発現ベクターを該哺乳動物中の標的細胞へ投与する工程を包含し、ここで、該発現ベクターが、ニューロペプチドYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントをコードする核酸配列を含み、ここで、該投与する工程が、該標的細胞におけるニューロペプチドYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントの発現をもたらし、そして該発現が該神経性疾患の症状を低下し、それにより、該神経性疾患を有する哺乳動物を処置する、方法。
【請求項39】
前記発現ベクターが、ウイルス性または非ウイルス性の発現ベクターである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記ウイルス発現ベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクターまたは単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクターである、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
ニューロペプチドYをコードする前記核酸配列が、配列番号2、配列番号4、配列番号6または配列番号8を含むアミノ酸配列またはそれらの誘導体もしくは機能性フラグメントをコードする核酸配列である、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
ニューロペプチドYをコードする前記核酸配列が、配列番号2、配列番号4、配列番号6または配列番号8を含むアミノ酸配列、あるいは配列番号2、配列番号4、配列番号6または配列番号8に少なくとも90%相同なアミノ酸配列をコードする核酸配列である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
ニューロペプチドYをコードする前記核酸配列が、配列番号2、配列番号4、配列番号6または配列番号8を含むアミノ酸配列、あるいは配列番号2、配列番号4、配列番号6もしくは配列番号8に少なくとも85%相同なアミノ酸配列をコードする核酸配列である、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
ニューロペプチドYをコードする前記核酸配列が、配列番号1、配列番号3、配列番号5または配列番号7あるいはそれらの誘導体または機能性フラグメントを含む核酸配列である、請求項38に記載の方法。
【請求項45】
ニューロペプチドYをコードする前記核酸配列が、配列番号1、配列番号3、配列番号5または配列番号7を含む核酸配列、あるいは配列番号1、配列番号3、配列番号5または配列番号7と少なくとも90%相同な核酸配列である、請求項38に記載の方法。
【請求項46】
ニューロペプチドYをコードする前記核酸配列が、配列番号1、配列番号3、配列番号5または配列番号7を含む核酸配列、あるいは配列番号1、配列番号3、配列番号5または配列番号7と少なくとも85%相同な核酸配列である、請求項38に記載の方法。
【請求項47】
前記神経性疾患がてんかんである、請求項38に記載の方法。
【請求項48】
前記神経性疾患が難治性てんかんである、請求項38に記載の方法。
【請求項49】
前記神経性疾患が側頭葉てんかんである、請求項38に記載の方法。
【請求項50】
前記投与が定位微量注射による、請求項38に記載の方法。
【請求項51】
前記投与が前記中枢神経系の内側側頭葉または側頭皮質への定位微量注射による、請求項38に記載の方法。
【請求項52】
前記内側側頭葉への投与が、海馬および/または扁桃体に局在化される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
哺乳動物神経系標的細胞へ核酸配列を送達するための方法であって、ここで、該核酸配列が該標的細胞において3ヶ月以上発現可能であり、該方法はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを標的細胞へ投与することを含み、ここで、該ベクターが該標的細胞を形質導入し;そして該AAVベクターが、請求項32に記載のAAVベクターを含み、かつ野生型ウイルスおよびヘルパーウイルスの両方を欠いている、方法。
【請求項54】
哺乳動物神経系標的細胞へ核酸配列を送達するための方法であって、ここで、該核酸配列が該標的細胞において3ヶ月以上発現可能であり、該方法は請求項35の組成物を標的細胞へ投与する工程を包含し、該組成物が該標的細胞を形質導入することができるAAVベクターを含み;そして該AAVベクターが、野生型ウイルスおよびヘルパーウイルスの両方を欠いている、方法。
【請求項55】
神経性疾患を有する哺乳動物を処置するための方法であって、該方法は、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを該哺乳動物中の標的細胞へ投与する工程を包含し、ここで、該AAVベクターが請求項32に記載のAAVベクターを含み、そして該投与する工程が、該標的細胞におけるニューロペプチドYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントの発現をもたらし、そして該発現が、該神経性疾患の症状を低下させ、それにより、該神経性疾患を有する哺乳動物を処置する、方法。
【請求項56】
神経性疾患を有する哺乳動物を処置するための方法であって、該方法は、請求項35に記載の組成物を標的細胞へ投与する工程を包含し、該組成物が該標的細胞を形質導入することができるAAVベクターを含み、ここで、該投与する工程が、該標的細胞におけるニューロペプチドYまたはその誘導体もしくは機能性フラグメントの発現をもたらし、そして該発現が該神経性疾患の症状を低下させ、それにより、該神経性疾患を有する哺乳動物を処置する、方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−505602(P2008−505602A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−535645(P2006−535645)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【国際出願番号】PCT/US2004/033871
【国際公開番号】WO2005/037211
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(506124309)ニューロロジックス リサーチ, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】