説明

神経疾患の治療のためのモデル系及び治療計画

本発明は、脳卒中及び他の神経疾患であって、特に興奮毒性によって少なくとも部分的にもたらされるものの治療及び効果的な予防に利用できる可能性がある薬剤を評価するための動物モデル及び臨床試験を提供する。本発明は、かかる薬剤の臨床応用関する好ましい用量及び注入計画及び医薬組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
<関連出願についてのクロスリファレンス>
本出願は、仮出願ではなく、そして2009年6月10日に出願の米国仮出願番号第61/185,989号の利益を主張する。
【0002】
興奮毒性の初期の研究では、脳卒中及び神経外傷は、グルタミン酸受容体を遮断する薬を使用することで治療できる可能性があることを示唆していた(Albers, Archives in Neurology 49:418-420 (1992); Albers Ann Neurol 25:398-403 (1989))。インビトロ及び動物モデルにおける初期の試験では有望であったにもかかわらず、残念なことに、これまでのグルタミン酸拮抗薬に関する全ての臨床脳卒中試験から、利益がないどころか有毒な副作用さえ示された(Davis et al., Lancet 349:32 (1997); Morris et al., J Neurosurg 91:737-743 (1999); Davis et al., Stroke 31:347-354 (2000); Ikonomidou et al., Proc Natl Acad Sci U S A 97:12885-12890 (2000); Lees et al., Lancet 355:1949-1954 (2000))。CNSの興奮性神経伝達を阻害する薬剤の投与による負の結果が神経保護剤としてのそれらの有用性を上回ったということが、最もらしい説明である(Ikonomidou and Turski, Lancet Neurology383-386 (2002)。グルタミン酸シグナル伝達は、CNS機能に必要とされるため、基本的な興奮性神経伝達を遮断することは負の結果となる(Ikonomidou, Biochem. Pharmacol. 62:401-405 (2001))。したがって、神経細胞死を治療するためのより高度な方法がグルタミン酸受容体を遮断する負の結果を回避するために必要とされている。
【0003】
本発明の発明者のうちの1人は、シナプス後肥厚-95タンパク質(PSD-95)は、興奮毒性及び虚血性脳障害を介する経路でNMDARに結合すると報告した(Aarts et al., Science 298, 846-850 (2002))。この結合は、PSD-95/NMDAR相互作用複合体のどちらか一方側のモジュラードメインに結合するペプチドをニューロンに形質導入することによって破壊された。この治療は、NMDAR活性を遮断することなく下流のNMDARシグナル伝達を弱めて、培養皮質ニューロンを興奮毒性の発作から保護し、一時的な局所的脳虚血状態のラットにおける脳梗塞容積を減らした。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、興奮毒性によってもたらされる疾患の治療又は効果的な予防方法であって、上記方法は、疾患を患っているかそのリスクがある被験体にPSD-95とNMDAR 2Bとの結合及び/又はPSD-95とnNOSとの結合を阻害する薬理学的薬剤を投与することを含み、上記薬剤がアミノ酸配列YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:6)を有するペプチドであるときの用量は、2-3mg/kgであり、上記薬剤がアミノ酸配列YGRKKRRQRRRKLSSIESDVを有するペプチド以外である場合の用量は、2-3mg/kgのアミノ酸配列YGRKKRRQRRRKLSSIESDVを有するペプチドと等価な有効濃度の薬剤を送達する、方法が提供される。いくつかの方法において、上記薬剤はアミノ酸配列YGRKKRRQRRRKLSSIESDVを有するペプチドであり、用量は2.6mg/kgである。いくつかの方法において、上記用量は疾患のエピソードにつき1回投与される。いくつかの方法において、上記用量は、抗炎症剤の共投与なしで投与される。
【0005】
本発明は、興奮毒性によってもたらされる疾患の治療又は効果的な予防方法であって、上記方法は、疾患を患っているかそのリスクがある被験体にPSD-95とNMDAR 2Bとの結合及び/又はPSD-95とnNOSとの結合を阻害する薬理学的薬剤を投与することを含み、上記薬剤は内在化ペプチドに連結され、上記薬剤は5-15分の期間にわたって静脈内注入によって投与される、方法も提供される。いくつかの方法において、内在化(internationalization)ペプチドに連結される薬剤は、アミノ酸配列YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:6)を有するペプチドであり、上記期間は5分である。いくつかの方法において、上記薬理学的薬剤の用量は、1mg/kgより大きい。いくつかの方法において、上記薬理学的薬剤の用量は、2-3mg/kgである。いくつかの方法において、上記薬理学的薬剤の用量は、2.6mg/kgである。いくつかの方法において、上記用量は最高50mg/kgであって、上記用量が3mg/kgより多い場合、上記用量は抗炎症剤と共投与することで提供される。いくつかの方法において、抗炎症剤の共投与なしに投与される。いくつかの方法において、上記被験体は、脳卒中を患っている。いくつかの方法において、上記被験体は手術を受けており、任意に、動脈瘤を治療する血管内手術を受けている。
【0006】
本発明は、(CNSであろうとなかろうと)脳外科又は血管内手術を由来とする虚血性障害を妨げる方法であって、PSD-95とNMDAR 2Bとの結合を阻害する薬剤の有効な投与計画を脳外科を受けている患者に実施することを含む、方法を更に提供する。いくつかの方法において、上記脳外科は、脳の診断的血管造影である。いくつかの方法において、上記脳外科は、動脈瘤を治療する血管内手術である。いくつかの方法において、上記薬剤は、血管内手術の前に投与される。いくつかの方法において、上記薬剤は、血管内手術が完了する1時間以内に投与される。いくつかの方法において、上記血管内手術は、動脈瘤にコイルを挿入することを含む手術である。いくつかの方法において、上記血管内手術には、上記動脈瘤にかかっている血管へステントを挿入することが含まれる。いくつかの方法において、上記血管内手術には、マイクロカテーテルを挿入することが含まれる。
【0007】
本発明は、上記薬理学的薬剤の臨床試験を実行する方法であって、脳動脈瘤に関する血管内手術を受けている患者群に薬理学的薬剤を投与して、上記患者における手術の損傷効果の頻度を上記薬理学的薬剤なしに上記血管内手術を受けているコントロール患者と比較して、上記薬理学的薬剤が上記損傷効果を低減させるか否かを決定する、方法が提供される。いくつかの方法において、上記損傷効果は、脳梗塞の数及び/又はサイズによって評価される。いくつかの方法には、脳卒中動物モデルにおいて上記薬理学的薬剤を試験することが更に含まれる。いくつかの方法には、脳卒中を患っているヒト患者において上記薬理学的薬剤を試験することが更に含まれる。いくつかの方法には、上記薬理学的薬剤に脳卒中治療用のラベルをつけることが更に含まれる。いくつかの方法において、薬理学的薬剤は、PSD95とNMDAR 2Bとの結合及び/又はPSD-95とnNOSとの結合を阻害する。
【0008】
本発明は、薬理学的薬剤を試験する方法を更に提供する。かかる方法は、(a) 粒子を霊長類の脳血管に挿入すること; (b) 薬理学的薬剤を霊長類に投与すること; (c) 霊長類の損傷効果を、化合物で治療されていないコントロール霊長類と比較すること、を伴う。いくつかの方法において、損傷効果は、梗塞の数及び/又はサイズによって評価される。いくつかの方法において、梗塞は、MRI又はCATスキャンによって測定される。いくつかの方法において、損傷効果は、霊長類の行動上の症状をコントロール霊長類と比較することによって評価される。いくつかの方法は、ステップ(a)-(c)の繰り返しで試験する薬剤が、以前に行ったステップ(a)-(c)と同じ薬剤であるかは問わずに、回復期間後に同じ霊長類に対してステップ(a)-(c)を繰り返すことを更に含む。いくつかの方法は、コントロール霊長類に上記薬剤を施すことと、上記薬剤を以前に施されている上記動物がコントロール動物であることを除いたステップ(a)-(c)を繰り返すことを更に含む。いくつかの方法において、薬剤は、PSD-95とNMDAR 2Bとの結合及び/又はPSD-95とnNOSとの結合を阻害する。いくつかの方法には、薬剤をヒト脳卒中被験体に投与することが更に含まれる。いくつかの方法には、動脈瘤の血管内手術を受けているヒト被験体に薬剤を投与することが更に含まれる。いくつかの方法において、薬剤は粒子を脳血管に挿入した後に投与される。いくつかの方法において、薬剤は粒子を脳血管に挿入する前に投与される。いくつかの方法において、粒子は100ミクロンのポリスチレン球である。いくつかの方法において、20個の球が霊長類に投与される。いくつかの方法において、霊長類はマカクである。
【0009】
本発明は、GMP条件下で調製された通常の生理食塩水中のペプチド溶液を由来とする凍結乾燥されたアミノ酸配列YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:6)を有するペプチドを含む凍結乾燥された組成物を更に提供する。
【0010】
本発明は、GMP条件下における通常の生理食塩水中の濃度が10-30mg/mlのアミノ酸配列YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:6)を有するペプチドを含む医薬組成物を少なくとも2年間0℃以下で保存することを含む、医薬組成物を保存する方法を更に提供する。任意に、濃度は、18-20mg/mlである。いくつかの方法には、医薬組成物を患者に投与することが更に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1には、動脈瘤を修復するためにコイルを挿入する血管内手術が施されているヒトと比較した、コントロール動物に球体を注入した24時間後の梗塞についての拡散強調MRIスキャンが示されている。上の部分は、ヒト女性(44歳)の動脈瘤をコイル化した48時間後に拡散が欠損することを示している。下の部分は、雄カニクイザルマカクに20×100umポリスチレンミクロスフィアを注入した24時間後に拡散が欠損することを示している。
【図2】図2は、治療を受けた動物とコントロール動物のMRI可視化梗塞の数及び容積を比較している。
【図3】図3には、皮質における梗塞に関する図2と類似したデータが示されている。
【図4】図4は、3分間又は60分間の注入時間で50mg/kgのTat-NR2B9cを投与した後の血圧の変化を示している。
【図5】図5には、治療の24時間後に測定した梗塞サイズが、5分間の生理食塩水プラセボ注入と比較すると著しく減少したが、1時間の7.6mg/kg Tat-NR2B9c(右端カラム)注入ではそうならなかったことが示されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<定義>
「キメラペプチド」は、互いに自然状態では会合しない2つのコンポーネントのペプチドが、融合タンパク質として又は化学的連結により互いに連結されたペプチドを意味する。
【0013】
「融合」タンパク質又はポリペプチドは複合ポリペプチドを指し、即ち、1つの連続したアミノ酸配列を指し、通常は1つのポリペプチド配列に融合されていない2つ(又はそれより多い)の異なる異種ポリペプチドの配列から構成される複合ポリペプチドを指す。
【0014】
「PDZドメイン」という用語は、約90アミノ酸のモジュラータンパク質ドメインを指し、脳のシナプスタンパク質PSD-95、ショウジョウバエの中隔結合タンパク質Discs-Large(DLG)、及び上皮のタイトジャンクションタンパク質ZO1(ZO1)と有意な配列同一性(例えば、少なくとも60%)を有することを特徴とする。PDZドメインはまた、Discs-Large相同性リピート(「DHRs」)及びGLGFリピートとしても知られている。PDZドメインは、一般にコアコンセンサス配列を維持するように見える(Doyle, D.A., 1996, Cell 85:1067-76)。例示的なPDZドメインを含むタンパク質とPDZドメイン配列は米国特許出願第10/714,537号明細書に開示され、それは参照によって本明細書中にその内容全体が引用される。
【0015】
「PLタンパク質」又は「PDZリガンドタンパク質」の用語は、PDZドメインと分子複合体を形成する天然のタンパク質、又は全長タンパク質から分離して発現された場合(例えば、3から25残基のペプチド断片、例えば、3、4、5、8、9、10、12、14、又は16残基のペプチド断片として)カルボキシ末端がそのような分子複合体を形成するタンパク質を指す。上記分子複合体は、例えば米国特許出願第10/714,537号明細書に記載された「Aアッセイ」若しくは「Gアッセイ」を使ってインビトロで、又はインビボで観察され得る。
【0016】
「NMDA受容体」又は「NMDAR」という用語は、NMDA(以下に示す様々なサブユニット形態を含む)と相互作用することが知られる膜結合タンパク質を指す。このような受容体はヒト又は非ヒト(例えば、マウス、ラット、ウサギ、サル)由来であってもよい。
【0017】
「PLモチーフ」は、PLタンパク質のC末端のアミノ酸配列(例えば、C末端3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、20又は25の連続した残基)(「C末端PL配列」)、又はPDZドメインに結合することが知られた内部配列(「内部PL配列」)を指す。
【0018】
「PLペプチド」は、PDZドメインに特異的に結合するPLモチーフを含むか若しくはそのモチーフからなる、又はそれ以外の場合にはPLモチーフに基づくペプチドである。
【0019】
「単離された」又は「精製された」の用語は、目的の種(例えば、ペプチド)が、サンプル(例:その目的の種を含む自然発生源から得られたサンプル)に存在する混入物から精製されてきたことを意味する。目的の種が単離され又は精製されれば、その目的の種がサンプル中に存在する主要な高分子(例えば、ポリペプチド)種となる。つまり、その種は、モルベースで他の個々の種よりも多く組成物中に含まれる。好ましくは、その目的の種は、存在する全ての高分子種の少なくとも約50%(モルベース)を占める。一般的には、単離された、精製された又は実質的に純粋な組成物は、組成物中にある全ての高分子種の80から90パーセントより多く含む。最も好ましくは、上記目的の種は実質的に均一に精製され(即ち、混入された種は、従来の検出方法ではその組成物中に検出できない)、その組成物は、実質的に単一の高分子種からなる。単離された又は精製されたという用語は、単離された種と組合わされて作用することを意図した他のコンポーネントの存在を必ずしも除外しない。例えば、内在化ペプチドを、活性ペプチドに連結されているにもかかわらず、単離されたものとして記載することができる。
【0020】
「ペプチドミメティック」とは、天然のアミノ酸からなるペプチドと実質的に構造及び/又は機能的特性が同一の合成化学化合物を指す。上記ペプチドミメティックは、完全に合成された非天然のアミノ酸類似体を含み得、又は部分的に天然のペプチドアミノ酸及び部分的に非天然のアミノ酸類似体を有するキメラ分子であってもよい。上記ペプチドミメティックは、保守的置換がミメティックの構造及び/又は阻害若しくは結合活性を実質的に変更しない限り、任意の量の天然のアミノ酸によるそのような保守的置換をも取り込んでもよい。ポリペプチドミメティックの組成物は非天然構造コンポーネントの任意の組合せを含むことができ、典型的には3つの構造のグループからなる:a)天然アミド結合(「ペプチド結合」)連鎖以外の残基連鎖グループ;b)天然のアミノ酸残基の代わりの非天然残基;又はc)二次構造の模倣を誘導する残基、即ち、二次構造(例えば、ベータターン、ガンマターン、ベータシート、アルファへリックス構造など)を誘導又は安定化するもの。活性ペプチド及び内在化ペプチドを含むキメラペプチドのペプチドミメティックにおいては、その活性部分若しくはその内在化に関する部分又はその両者がペプチドミメティックであってもよい。
【0021】
「特異的結合」の用語は、二つの分子間の結合を指し、例えば、リガンドと受容体のことで、多くの他の様々な分子の存在下においても別の特異的分子(受容体)と結合する分子(リガンド)の能力(即ち不均一な分子の混合物の中で一分子が他の分子に特異的に結合することを示すこと)を特徴とする。リガンドと受容体の特異的結合は、過剰量の非標識リガンドの存在下で検出可能に標識されたリガンドのその受容体への結合が減少することでも(即ち、結合競合アッセイでも)証拠づけられる。
【0022】
興奮毒性とは、興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体(例:NMDA受容体(例:NMDAR2B))の過剰活性化によってニューロンが傷害及び死滅させられる病理学的プロセスである。
【0023】
「被験体」又は「患者」という用語には、ヒトと獣医学的動物(例:哺乳類)が含まれる。
【0024】
「薬剤」という用語には、薬理学的活性がある化合物又はそれがない化合物、天然化合物、合成化合物、低分子、ペプチド及びペプチドミメティックを有する任意の化合物が含まれる。
【0025】
「薬理学的薬剤」という用語は、薬理学的活性を有する薬剤を意味する。薬理学的薬剤には、薬物であることが公知の化合物、動物モデル又は臨床試験で薬理活性が確認されているが更に治療法の評価を受けている化合物が含まれる。キメラ薬剤には、内在化ペプチド連結薬理学的薬剤が含まれる。薬剤は、活性剤が疾患の予防若しくは治療に有用であるか又は有用であるかもしれないことを示すスクリーニングシステムにおいて、それが活性を呈する場合に薬理活性を有するとして記述することができる。上記スクリーニングシステムは、インビトロ、細胞、動物、又はヒトにおけるものとしてもよい。薬剤は、疾患の治療における実際の予防的又は治療的有用性を確立するのに更なる試験が必要であるかもしれないにもかかわらず、薬理活性を有するものとして記載してもよい。
【0026】
tatペプチドは、GRKKRRQRRR(配列番号:1)を含む又はその配列からなるペプチドを意味し、配列中に5残基を超えない残基が削除、置換、又は挿入されても、それが連結されたペプチド又は他の薬剤が細胞中へ取り込まれるのを促進する能力を保持するペプチドを意味する。好ましくは任意のアミノ酸変化は保守的置換である。好ましくは、その集合体中の任意の置換、削除、又は内部挿入は、そのペプチドが正味カチオン荷電を有するままにされ、好ましくは前述の配列のものと同様なものである。tatペプチドのアミノ酸は、炎症反応を減少させるためにビオチン又は類似する分子を用いて誘導体化してもよい。
【0027】
内在化ペプチド連結薬理学的薬剤と抗炎症剤との共投与とは、その2つの薬剤が十分近接した時間内に投与され、上記抗炎症剤が上記内在化ペプチド誘導性の炎症反応を阻害することができることを意味する。
【0028】
統計学的に有意とは、<0.05、好ましくは<0.01、及び最も好ましくは<0.001であるp値を指す。
【0029】
疾患のエピソードは、点在する疾患の兆候及び/又は症状の期間であって、上記期間は兆候及び/又は症状がないか、あったとしても程度がより軽いより長い期間と隣接する期間を意味する。
【0030】
<発明の詳細な説明>
<I. 一般>
本発明は、脳卒中及び他の神経疾患であって、特に興奮毒性によって少なくとも部分的にもたらされるものの治療又は効果的な予防に利用できる可能性がある薬剤を評価するための動物モデル及び臨床試験を提供する。本発明は、かかる薬剤の臨床応用に関する好ましい用量及び注入計画及び医薬組成物を提供する。
【0031】
<II.疾患を治療するための薬剤>
任意の薬剤(以前の脳卒中臨床試験では不成功であった薬剤を含む)は、後述する動物モデル又は臨床試験における有効性に関するスクリーニングを行なうことができるが、好ましい種類の薬剤はPSD-95と1又は複数のNMDARとの間の相互作用を阻害するものである。かかる薬剤は、脳卒中の損傷効果及び他の神経学的状態であってNMDAR興奮毒性によって少なくとも部分的にもたらされるものを低減させるのに有効である。かかる薬剤には、NMDA受容体のPLモチーフ又はPSD95のPDZドメインを有するペプチドかそれに基づくアミノ酸配列を有するペプチドが含まれる。かかるペプチドは、PSD-95とnNOS及び他のグルタミン酸受容体(例えば、カイニット受容体又はAMPA受容体) (例えばKV1-4及びGluR6 ) の間の相互作用を阻害することもできる。好ましいペプチドは、シナプス後肥厚-95タンパク質(PSD-95)(Stathakism, Genomics 44(1):71-82 (1997)により提供されるヒトアミノ酸配列)のPDZドメイン1及び2と、1又は複数のNMDA受容体2サブユニット(ニューロンN-メチル-D-アスパラギン酸受容体のNR2Bサブユニット(Mandich et al., Genomics 22, 216-8 (1994))を含む)のC末端PL配列との間の相互作用を阻害する。NMDAR2Bは、GenBank IDが4099612であり、C末端20アミノ酸FNGSSNGHVYEKLSSIESDV(配列番号:11)及びPLモチーフESDV(配列番号:12)を有する。好ましいペプチドは、ヒト型のPSD-95及びヒトNMDAR受容体を阻害する。しかしながら、阻害は、タンパク質の種変異体からも示すことができる。使用可能なNMDA及びグルタミン酸受容体のリストが、下に表示される:
【0032】
【表1】

【0033】
いくつかのペプチドは、PSD-95と多数のNMDARサブユニットとの間の相互作用を阻害する。このような場合には、ペプチドの使用は、興奮性神経伝達に対する種々のNMDARのそれぞれの貢献の理解を必ずしも要求されるわけではない。他のペプチドは、単一のNMDARに特異的である。
【0034】
ペプチドは、任意の上記サブユニットのC末端由来のPLモチーフを含む又はそれに基づき且つ[S/T]-X-[V/L]を含むアミノ酸配列を有することができる。この配列は好ましくは、本発明のペプチドのC末端にある。好ましいペプチドは、[E/D/N/Q]-[S/T]-[D/E/Q/N]-[V/L](配列番号:38)をC末端に含むアミノ酸配列を有する。例示的なペプチドは、ESDV(配列番号:12)、ESEV(配列番号:29)、ETDV(配列番号:39)、ETEV(配列番号:40)、DTDV(配列番号:41)、及びDTEV(配列番号:42)をC末端アミノ酸として含む。特に好ましい二つのペプチドはKLSSIESDV(配列番号:5)及びKLSSIETDV(配列番号:43)である。このようなペプチドは通常、3〜25アミノ酸(内在化ペプチド無し)を有し、5〜10アミノ酸のペプチド長、特に9アミノ酸(内在化ペプチド無し)が好まれる。そのようなペプチドのいくつかにおいて、すべてのアミノ酸は、NMDA受容体のC末端からなる(内在化ペプチドからのアミノ酸を含まない)。
【0035】
PDS95とNDMARとの相互作用を阻害する他のペプチドには、PSD-95のPDZドメイン1及び/若しくは2由来のペプチド、又はPSD-95とNMDA受容体(例:NMDA2B)との相互作用を阻害する任意のペプチドのサブフラグメント由来のペプチドが含まれる。このような活性ペプチドには、PSD-95のPDZドメイン1及び/又はPDZドメイン2由来の少なくとも50、60、70、80、又は90アミノ酸が含まれる。それは、Stathakism, Genomics 44(l):71-82(1997)(ヒト配列)、若しくはNP_031890.1、GI:6681195(マウス配列)により提供されるPSD-95の約65〜248番目のアミノ酸、又は他の種変異体におけるそのPSD-95のアミノ酸に対応する領域にある。
【0036】
本発明のペプチド及びペプチドミメティックは、修飾アミノ酸残基(例えば、Nアルキル化された残基)を含むことができる。N末端アルキル修飾には、例えばN-メチル、N-エチル、N-プロピル、N-ブチル、N-シクロヘキシルメチル、N-シクロヘキシルエチル(Cyclyhexylethyl)、N-ベンジル、N-フェニルエチル、N-フェニルプロピル、N-(3、4-ジクロロフェニル)プロピル、N-(3,4-ジフルオロフェニル)プロピル及びN-(ナフタレン-2-イル)エチル)が含まれる。
【0037】
Bach, J. Med. Chem. 51, 6450-6459 (2008)及びWO 2010/004003にNMDAR 2B 9cに関する一連の類似体が記載されている。PDZ-結合活性は、3つのC末端アミノ酸(SDV)だけを有するペプチドによって示される。Bach(配列番号:68)は、YtSXVを含む又はからなるアミノ酸配列を有する類似体であって、t及びSは、代替アミノ酸であり、Yは、E、Q及びA又はその類似体の中から選択され、Xは、A、Q、D、N、N-Me-A、N-Me-Q、N-Me-D、及びN-Me-N、又はその類似体の中から選択される、類似体も報告している。任意に、ペプチドは、P3位置(C末端から3番目のアミノ酸(即ち、tSによって占められる位置))の場所において、Nアルキル化される。ペプチドは、シクロヘキサン又は芳香族置換基を用いてNアルキル化することができ、上記置換基と、ペプチド又はペプチド類似体の末端アミノ基との間にスペーサー基を更に含み、上記スペーサーは、アルキル基、好ましくはメチレン基、エチレン基、プロピレン基及びブチレン基の中から選択されるものである。芳香族置換基は、1又は2つのハロゲン及び/又はアルキル基によって置換されたナフタレン-2-イル部分又は芳香族環であってもよい。
【0038】
他の修飾は、活性に悪影響を与えずに組み込むことができ、それらには、1又は複数の天然L-異性体のアミノ酸をD-異性体のアミノ酸に置換したものが含まれる。このように、L-立体配置(化学成分の構造によって、R又はSと称することもできる)として天然に存在する任意のアミノ酸は、同じ化学構造タイプのアミノ酸又はペプチドミメティックであるが逆のキラリティー(一般に、D-アミノ酸と呼ばれ、加えて、R型又はS型と称することもできる)のアミノ酸と置き換えることができる。このように、ペプチドミメティックには、1、2、3、4若しくは5つがD-アミノ酸、少なくとも50%がD-アミノ酸、又は全てがD-アミノ酸であるものが含まれる。いくつかのD残基を含むペプチドミメティック又は全てがD残基のペプチドミメティックは、時には「インベルソ」ペプチドと称される。
【0039】
ペプチドミメティックには、レトロペプチドも含まれる。レトロペプチドは、逆アミノ酸配列を有する。ペプチドミメティックには、レトロインベルソペプチドが含まれる。上記レトロインベルソペプチドは、アミノ酸の順序が逆であるため、本来のC末端アミノ酸はN末端に現れ、且つD-アミノ酸がLアミノ酸の代わりに用いられているものである。WO 2008/014917には、アミノ酸配列vdseisslkrrrqrrkkrgyin(配列番号: 69) (小文字はDアミノ酸を示す)を有するTat-NR2B9cのレトロインベルソ類似体が記載されており、それが脳虚血を阻害するのに効果的であることが報告されている。本願明細書に記載されている他の効果的なペプチドは、Rv-Tat-NR2B9c(RRRQRRKKRGYKLSSIESDV配列番号:70)である。
【0040】
リンカー(例えば、ポリエチレングリコールリンカー) は、ペプチド又はペプチドミメティックの活性部位を二量体化し、タンデム型PDZドメインを含むタンパク質に対するその親和性及び選択性を強化するために使用することができる。例えば、Bach et al., (2009) Angew. Chem. Int. Ed. 48:9685-9689及びWO 2010/004003を参照。PLモチーフを有するペプチドは、好ましくは、かかる2つの分子におけるN末端の結合を介して二量体化し、C末端をフリーにする。Bachは、五量体ペプチドIESDV(配列番号:71)(NMDAR 2BのC末端由来)がNMDAR 2BにPSD95が結合することを阻害するのに効果的であったことを更に報告している。任意に、約2-10部のPEGは、リンカーとしてタンデムに結合することができる。
【0041】
ペプチド、ペプチドミメティック又は他の薬剤に関する適切な薬理活性は、必要に応じて、本出願に記載されている霊長類や臨床試験で試験する前に、以前から述べられているラット脳卒中モデルを使用することで確認できる。ペプチド又はペプチド模倣剤は、例えば、この参照により組み込まれる米国特許出願公開第20050059597号明細書に記載されるアッセイを使ってPSD-95とNMDAR2Bとの相互作用を阻害する能力もスクリーニングできる。有用なペプチドは、このようなアッセイにおいて、通常50μM、25μM、10μM、0.1μM又は0.01μM未満のIC50値を有する。好ましいペプチドは通常0.001〜1μM、より好ましくは0.05〜0.5又は0.05から0.1μMの間のIC50値を有する。ペプチド又は他の薬剤が1つの相互作用(例えば、NMDAR2Bに対するPSD-95の相互作用)に関する結合を阻害するとして特徴づけられるときに、かかる事項はペプチド又は薬剤が他の相互作用も阻害(例えば、nNOSに対するPSD-95の結合阻害)することを除外しない。
【0042】
直前に記載したもののようなペプチドは、任意ではあるが、誘導体化(例えば、アセチル化、リン酸化、及び/又はグリコシル化)して阻害剤の結合親和性を向上させるか、阻害剤が細胞膜を透過して輸送される能力を改善させるか安定性を向上させる。具体的な例としては、C末端から3番目の残基がS又はTの阻害剤の場合、この残基はそのペプチドを使用する前にリン酸化されてもよい。
【0043】
薬理学的薬剤には、PSD95とNMDAR2Bとの間の相互作用、及び/又は上記した他の相互作用を阻害する低分子も含まれる。適切な低分子阻害剤は、WO/2009/006611に記載されている。適切な化合物の例示的なクラスは、次式である:
【0044】
【化1】

(式中、R1は、0-4 R7で置換されたシクロヘキシル、0-4 R7で置換されたフェニル、-(CH2)u-(CHR8R9)、分岐したC1-6アルキル(イソプロピル、イソブチル、1−イソプロピル−2−メチル−ブチル、1−エチループロピル)、及び-NH-C(O)-(CR10R11)vHからなる群より選択されたメンバーであり;
各R7は、独立して、C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、-C(O)R12、OH、COOH、-NO、N置換インドリン、及び細胞膜透過ペプチドからなる群より選択されたメンバーであり;
各R8及びR9は、独立して、H、OH、シクロヘキサン、シクロペンタン、フェニル、置換されたフェニル、及びシクロペンタジエンからなる群より選択され;
各R10及びR11は、独立して、H、シクロヘキサン、フェニル、及び細胞膜透過ペプチドからなる群より選択され;
R12は、C1-6アルキル及びアリールからなる群より選択され;
及び、u及びvのそれぞれは、独立して0から20であり;
式中、R2、R3、R4、R5及びR6の一つは-COOHで、式中R2、R3、R4、R5及びR6の残りは、それぞれ独立して、F、H、OCH3、及びCH3からなる群より選択される。)
【0045】
そのような化合物の一つは、0620-0057であり、その構造は次式である:
【0046】
【化2】

【0047】
薬理学的薬剤は、内在化ペプチドに連結されて細胞への取り込み及び/又は血液脳関門の通過を容易にすることができる。内在化ペプチドは、多くの細胞又はウイルスタンパク質が膜を横断できるようにする比較的短いペプチドの周知のクラスである。内在化ペプチド(別名、細胞膜トランスダクションペプチド又は細胞透過ペプチド)は、例えば5-30アミノ酸を含むことができる。かかるペプチドは、通常以上にアルギニン及び/又はリジン残基が(一般のタンパク質と比較して)現れていることから、典型的にはカチオンの電荷を有し、膜を横切ってのそれらの通過を容易にすると考えられている。かかるペプチドのいくつかは、少なくとも5、6、7又は8つのアルギニン及び/又はリジン残基を有する。例としては、アンテナペディアタンパク質(Bonfanti, Cancer Res.57、1442-6(1997))(及びその変異体)、ヒト免疫不全ウイルスのtatタンパク質、タンパク質VP22、単純ヘルペスウイルス1型のUL49遺伝子産物、ペネトラチン(Penetratin)、SynB1及び3、トランスポータン、アンフィパシック(Amphipathic)、gp41NLS、ポリアルギニン、並びにいくつかの植物及び細菌性のタンパク質毒素(例:リシン、アブリン、モデシン(modeccin)、ジフテリア毒素、コレラ毒素、炭疽菌毒素、熱不安定性の毒素及び緑膿菌外毒素A(ETA))を含む。その他の例は、次の文献に記載される(Temsamani, Drug Discovery Today, 9(23):1012-1019, 2004;De Coupade, Biochem J., 390:407-418, 2005;Saalik Bioconjugate Chem.15:1246-1253, 2004;Zhao, Medicinal Research Reviews 24(1):1-12, 2004; Deshayes, Cellular and Molecular Life Sciences 62:1839-49, 2005)(すべての文献は参照により引用される)。
【0048】
好ましい内在化ペプチドはHIVウイルスのtatである。以前の研究で報告されたtatペプチドは、HIV Tatタンパク質に見いだされる標準的なアミノ酸配列YGRKKRRQRRR(配列番号:2)を含むか、又はその配列からなる。このようなtatモチーフに隣接して付加する追加的な残基が(薬理学的薬剤のそばに)存在するならば、上記残基は例えば、tatタンパク質のこのセグメントに隣接して付加する天然のアミノ酸、スペーサー、若しくは二つのペプチドドメインを結合することに通常使用される種のリンカーアミノ酸(例えば、gly(ser)4(配列番号:44)、TGEKP(配列番号:45)、GGRRGGGS(配列番号:46)、又はLRQRDGERP(配列番号:47)(例えば、Tang et al. (1996), J. Biol. Chem. 271, 15682-15686; Hennecke et al. (1998), Protein Eng. 11, 405-410)を参照))であり、又は、上記残基はその隣接して付加する残基なしにその変異体を取り込む能力を有意に減少しない任意の他のアミノ酸であってもよい。好ましくは、活性ペプチド以外の、隣接して付加するアミノ酸の数は、YGRKKRRQRRR(配列番号:2)のいずれかの側に10を超えない。YGRKKRRQRRR(配列番号:2)のC末端に隣接して付加する追加のアミノ酸残基を含む1つの適切なtatペプチドはYGRKKRRQRRRPQ(配列番号:48)である。しかしながら、好ましくは隣接して付加するアミノ酸は存在しない。使用可能な他のtatペプチドには、GRKKRRQRRRPQ(配列番号:4)及びGRKKRRQRRRP(配列番号:72)が含まれる。
【0049】
N−型カルシウムチャンネルに結合する能力が減少した上述のtatペプチドの変異体は、WO/2008/109010に記載されている。このような変異体は、アミノ酸配列XGRKKRRQRRR(配列番号:49)を含むか又はこのアミノ酸配列からなり、そのXは、Y以外のアミノ酸であってもよく、無くてもよい(Xがない場合、Gは、フリーのN末端残基である)。好ましいtatペプチドは、N末端のY残基がFで置換される。従って、FGRKKRRQRRR(配列番号:3)を含むか又はこのアミノ酸配列からなるtatペプチドが好まれる。別の好ましい変異体tatペプチドは、GRKKRRQRRR(配列番号:1)からなる。
【0050】
【表2】

【0051】
Xはフリーのアミノ末端、1つ又は複数のアミノ酸、又は抱合された部分を表すことができる。内在化ペプチドは、インベルソ又はレトロ又はインベルソレトロ型であって、かかる型で存在する連結ペプチド又はペプチドミメティックが有ったり無かったりの状態で用いることができる。例えば、好ましいキメラペプチドは、RRRQRRKKRGY-KLSSIESDV(配列番号:70)を含む又はからなるアミノ酸配列を有する。
【0052】
内在化ペプチドは、従来法により薬理学的薬剤に結合することができる。例えば、上記薬剤は化学的連結(例:結合剤又は抱合剤を介するもの)を介して内在化ペプチドに連結することができる。そのような薬剤の多くは市販されており、Wong, Chemistry of Protein Conjugation and Cross-Linking, CRC Press (1991)によって概説される。クロスリンク試薬のいくつかの例には、J-サクシニミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸(SPDP)又はN,N'-(1,3-フェニレン)ビスマレイミド;N,N'-エチレン-ビス(イオドアセタミド)若しくは6から11の炭素メチレンブリッジを有する他の試薬(スルフヒドリル基に相対的特異的なもの);及び1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン(これはアミノ基及びチロシン基と不可逆的なリンクを形成する)が含まれる。他のクロスリンク試薬には、p,p'-ジフルオロ-m,m'-ジニトロジフェニルスルフォン(これは、アミノ基及びフェノール系基と不可逆的なクロスリンクを形成する);ジメチルアジピミデート(これはアミノ基に特異的である);フェノール-1,4-ジスルフォニルクロライド(これは主にアミノ基と反応する);ヘキサメチレンジイソシアネート若しくはジイソチオシアネート、又はアゾフェニル-p-ジイソシアネート(これは主にアミノ基と反応する);グルタルアルデヒド(これはいくつかの異なる側鎖と反応する)及びジスジアゾベンジジン(これは主にチロシンとヒスチジンと反応する)が含まれる。
【0053】
ペプチドである薬理学的薬剤の場合、内在化ペプチドへの結合は、好ましくはN末端に内在化ペプチドが融合されたペプチド配列を含む融合タンパクを作製することにより達成することができる。
【0054】
任意ではあるが、tatペプチドに融合された薬理学的ペプチドは、固相合成又は遺伝子組換えの方法で合成することができる。ペプチド模倣剤は、科学文献及び特許文献に記載される様々な過程及び方法論を使って合成することができる。例えば、Organic Syntheses Collective Volumes、Gilman et al. (Eds) John Wiley & Sons, Inc., NY, al-Obeidi (1998) Mol. Biotechnol. 9:205-223; Hruby (1997) Curr. Opin. Chem. Biol. 1:114-119; Ostergaard (1997) Mol. Divers. 3:17-27; Ostresh (1996) Methods Enzymol. 267:220-234がある。
【0055】
<III.非ヒト霊長類モデル>
背景節で述べたように、以前に行われた、脳卒中治療のための薬理学的薬剤に関するいくつかの臨床試験は、上記薬剤が脳卒中の下等動物(例えばラット)モデルにおいて有望な結果を示したにもかかわらず失敗に終わった。非ヒト霊長類を用いた類似のモデル実験を実施することは、ある薬剤がヒトにおいてどのように機能するかについてより良好な指標を提供し、不成功だった場合の臨床試験の労力と費用をおそらく抑えるだろう。しかしながら、ラットで実行される実験のタイプは、動物の屠殺を通常伴うため、ある薬剤を評価するのに必要な範囲で霊長類に対して実行することは非倫理的である、及び/又は極端に高価である。
【0056】
本願は、脳虚血性疾患の霊長動物モデルであって、霊長類の屠殺を必要とせず、霊長類に対する永続的な損傷が殆ど無い動物モデルを提供する。脳虚血は、粒子を霊長類の脳血管に導入することによって誘導される。粒子は、動脈瘤の治療に関する血管内手術を施されているヒト被験体に実行するのと類似した血管内手術によって導入することができる。使用する粒子は、直径が約50-200であり、好ましくは75-150又は100ミクロンである。導入される粒子の数は、例えば動物当たり1-100又は10-30であり、約20が好ましい。粒子の数及び粒度が脳卒中の重症度を上げる。例えば、400ミクロンの粒子径は脳卒中を引き起こし得るため、大型動物では回復しないかもしれない。Polysciences, Inc.由来のポリスチレンマイクロスフェアが適切である。任意のタイプの非ヒト霊長類(例えばマカク、マーモセット、ヒヒ又はチンパンジー)をモデルとして使用することができる。任意の薬剤は、上述のものか、従来技術の動物モデル又は臨床試験において以前試験されたものを含めて試験することができる。
【0057】
粒子を導入する効果は、例えば、MRI、CATスキャン及び/又は行動的に評価することができる。MRI分析法は、通常粒子を導入することが粒子の存在部位周辺にいくつかの小さな梗塞を誘導させることを示す。MRI分析は、好ましくは拡散強調(DW-MRI)である。拡散強調MRIは、梗塞が周囲組織より暗く見える脳卒中画像診断の標準的な技術である。バイポーラグラジェントパルス及び適切なパルスシーケンスの使用は、拡散強調画像(高速陽子拡散の領域を遅延拡散の領域から区別できる画像)の獲得を可能にする。拡散強調画像は、急性虚血の任意の領域を同定し、脳における急性梗塞を過去の脳卒中及び他の慢性変化と区別するのに非常に役に立つ。急性の梗塞だけは、拡散画像で高強度に現れる。
【0058】
梗塞の出現は、動脈瘤を修復させる血管内手術を受けているヒト被験体において度々見られる梗塞と類似している。梗塞は、例えば、粒子導入の4時間後、24時間後又は14日後に評価することができる。典型的には、100ミクロンのマイクロスフェアを20個注入することでMRI画像診断によって検出可能な12〜14の梗塞が生じる。かかる梗塞によって占められる典型的脳容積は、各々約5-10 mm3である、又は総量で約60-70+/-30 mm3である。血管内手術を受けているヒト被験体において、梗塞はより大きく、典型的には直径5-10mmであり、これは各々約0.5〜1.5 cm3に対応する。
【0059】
薬理学的薬剤は、粒子の導入の前、その間、又はその後に霊長類へ投与できる。いくつかの方法において、薬理学的薬剤は、粒子導入後の0-3時間又は1-3時間の間に投与される。他の方法において、医薬剤は、粒子を導入する0-3時間前に投与される。薬理学的薬剤の投与と平行して、媒体(例えば、PBS)は、粒子が施されているコントロール霊長類に対しても通常は投与される。
【0060】
治療の効果は、治療を受けた霊長類又は治療を受けた霊長類群とコントロール又はコントロール霊長類群との間における梗塞の数、容積及び/又は外見及び/又は行動特性を比較することによって評価される。コントロール霊長類(群)と比較することで、治療を受けた霊長類(群)の梗塞の数及び/又は容積の減少から、薬剤は、脳卒中と、興奮毒性によって部分的にもたらされる他の疾患の治療に潜在的に有効な活性を有することが示される。
【0061】
非ヒト霊長類の認識機能又は神経障害を評価する様々な方法が述べられてきている(Marshall et al., Stroke 2003;34:2228-2233; Stroke 2001;32:190-198; Brain Res Bull 2003;61:577-585; Hatsopoulos et al., Proc Natl Acad Sci U S A 1998;95:15706-15711; Spetzler et al., Neurosurgery 1980;7:257-261; Barbay et al., Exp Brain Res 2006;169:106-116を参照)。例示的な実験は、サルが自身の上肢を使って、コンピュータスクリーン上でカーソルを視覚的に導く(中心保持位置から半径方向に局在する標的位置までの平面到達運動を使用)よう、サルに条件付けることを伴う。カーソルが標的へ移動する時間からある程度の認識機能又は逆に神経障害が提供される。
【0062】
治療を受けた動物及びコントロール動物の分析が終了した後、梗塞由来の拡散強調MRIシグナルが消える間に回復期間が動物に与えられる。この期間は、典型的に約10-14日である。ビーズを最初に挿入した後の約14-28日後、任意に、治療を受けた動物をコントロール(その逆もしかり)として手順を繰り返す。治療を受けた動物とコントロール動物との間の手順の交差反復は、特定動物の異常に起因する何らかの結果の偏りを取り除くのに役立つ。かかる繰り返しの手順によれば、たった10匹の霊長類を伴う試験から信頼性が高い結果が得られる。各霊長類は、少なくとも5サイクルの粒子挿入を受けることができ、そしてほとんど永続的な神経障害がない通常の生活を送り続ける。
【0063】
実験モデルは、脳卒中の治療に用いられる薬理学的薬剤や脳に分布する血管に関する任意の処置を伴う手術、特に脳動脈瘤の血管内修復の補助剤として用いられる薬理学的薬剤を評価するのに特に有効である。試験は、他の疾患や脳虚血によって特徴づけられる、及び/又は興奮毒性(excitotoxity)によってもたらされる障害を治療するのに使用される薬理学的薬剤の適合性に関する有効な指標を提供する。薬理学的薬剤が霊長類試験の梗塞又は神経学的な行動障害の発症を阻害する場合、薬剤はヒト臨床試験(例えば、脳卒中被験体の試験)においてか、脳動脈瘤の血管内修復を受けている被験体において試験することができる。
【0064】
<IV.臨床試験>
大血管(例えば大動脈弓)を処置することを伴う手順(心肺バイパス)及びカテーテルを頸部頸動脈に導入する手順(例えば診断的及び治療的脳血管造影)は、一般的には、頻度及び重症度を変化させる虚血性脳卒中を引き起こす可能性がある塞栓物質を除去する(Bendszus, Lancet Neurol 2006 April;5(4):364-72 2006により報告)。例えば、選択的冠状動脈バイパス手術(CABG)を受けている35の継続被験体の代表研究においては、拡散強調磁気共鳴画像は、9(26%)の被験体に新しい虚血性病変を示す(Bendszus et al., Arch.Neurol. 59 (7):1090-1095, 2002)。文献によると、拡散強調MRI (DWI-MRI)による新しい病変についてのかかる評価は、CABG被験体群の45%にまで変動する (Knipp et al., Eur.J.Cardiothorac.Surg. 25 (5):791-80,0 2004)。そして心臓弁修復を受けている被験体群の47%にまで変動する(Knipp et al., Eur.J.Cardiothorac.Surg. 28 (1):88-96 2005)。大多数の被験体は、2以上の病変を示す(Knipp et al., 2004, supra)。この効果がオンポンプ又はオフポンプCABGのいずれかを受けている被験体に見られるのは、おそらく、これが有害な塞栓を除去するのに重要な大血管の処置だからである。
【0065】
脳血管撮影は、それ自体、脳卒中の原因である。Bendszus et al. Lancet 354 (9190):1594-1597 (1999)は、診断的又は介入的脳血管造影を受けている被験体群の類似の研究を行った。
【0066】
91の被験体に対して行われた100の連続血管造影(66の診断的手順及び34の介入的手順)に関する前向き研究において、塞栓症の評価のための血管造影の前後に拡散強調磁気共鳴画像(MRI)を実施した。血管造影の前は、拡散強調MRIでの異常が見られなかった。拡散強調MRIは、23の手順(17の診断的手順、6の介入的手順)の後に、23の被験体において42個の明るい病変を塞栓症に一致するパターンで示した。
【0067】
脈管障害の病歴を有する被験体の診断的血管造影の後、病変の頻度は、脈管危険因子のない被験体よりも著しく高かった(44%対13%、p=0.03)。血管内動脈瘤のコイル化は、診断的血管造影と比較して処置性脳卒中のリスクを劇的に増加させる。前向き研究において、Cronqvist et al., Neuroradiology 47(11):855-73 (2005)は、血管内動脈瘤修復を受けている40の被験体のうちの37の被験体(92.5%)において、47個の新規な虚血性脳卒中を示した。ヘルスネットワーク大学での、脳動脈瘤に対する神経介入的修復を受けている47の被験体に実施された研究において、DWI-MRI画像診断によって発見された小さな虚血性脳卒中の発生率は75%であり、大部分の被験体は少なくとも2つの塞栓症を経験していた。大多数のケースにおいて、血管撮影又は心肺バイパスの後に発生する脳卒中は、小容積の円型病変(直径< 20mm)であり、外観はラクナ脳梗塞に類似する。それらは一般的には急性処置後障害を生じないが、多くの文献では、現在、生活を通じて被る小さな脳卒中と、認識力の悪化、早発性血管痴呆及びアルツハイマー病とを強く関連づけている(Devasenapathy and Hachinski, Options Neurol 2:61-72 (2000); Merino and Hachinski, Curr Atheroscler Rep 4:285-290 (2002); Di and Hachinski, Curr Opin Investig Drugs 4:1082-1087 (2003); Del et al., J Neurol Sci 231:3-11 (2005); Hachinski, Stroke 38:1396 (2007)。
【0068】
急性の虚血性脳卒中は、医学的な共存症(例えば虚血性心疾患、糖尿病、高血圧及び有病率が数十年後に上がる他の障害)を一般的に有する高齢患者群を苦しめる。従って、上記患者群は、一般的には他の臨床試験のケースより毒性に対して脆弱である。急性の虚血性脳卒中を患っている患者に対して臨床試験を行うことの他の困難性は、制限期間内に彼らが試験に登録されなければならないこと、侵襲的なモニタリングを一様に受けることができないこと、そして一般的には最初に麻酔医による看護を受けられないことである。過去に、初期試験において候補薬に対して明らかな許容性があるにもかかわらず、急性の虚血性脳卒中に関するいくつかの臨床試験は、フェーズ3で持ち上がる安全性の問題に起因して中止しなければならなかった。
【0069】
頭蓋内動脈瘤手術を受けている患者から適切な患者群が提供され、薬理学的薬剤の作用を試験して全く対処されていない医学ニーズを示す。かかる患者は、通常、初老(動脈瘤診断の発生率は60及び70代でピーク)であるため、一般的には急性の虚血性脳卒中を最も苦しんでいる患者群の年齢範囲を再現することができる。上記のように、大多数は、少なくとも一つの小さな梗塞を発病している。更に、動脈瘤患者に対する標準治療では、麻酔医による一定のモニタリング、ECGを有する心臓モニタリング及び侵襲的なモニタリングが備えられ、一定の血圧モニタリングのための動脈ライン並びに中心(右心房)ライン(必要と見なされる場合)、血液酸素飽和の一定のモニタリング及び動脈血ガス(O2, PCO2, pH)並びに必要である場合は血清グルコース及び電解質の定期的な測定が伴う。薬剤投与は、気管内挿管及び人工呼吸の条件で開始することができるので、心肺を危険にさらす場合における基本的な安全に関するシナリオを提供して心臓及び呼吸の全パラメーターの基本的なコントロールを可能にする。薬剤投与及び回復は、患者が麻酔医と他の医療及び準医療スタッフとの1:1のケア(看護を含む)を受ける環境において実施できる。臨床試験における更なるモニタリング及び他の安全準備の成否が、臨床試験を打ち切ることなく任意の有害事象を検出して対処するより多くの機会を提供する。
【0070】
臨床試験は、脳に分布する血管(即ち、脳から心臓に接続しているもの(例えば、頸動脈及び頸静脈))又は脳若しくはCNS自体であって測定可能な梗塞(例えば上述のもの)の発症に関係があるものに対する外科的処置を受けている患者の任意の群に対して実行することができる。臨床試験は、網膜、腎臓、脊髄又は四肢に血液を供給している動脈に対する血管内処置を受けている患者に実行することもできる。患者の好ましい種類は、脳動脈瘤を治療するために血管内手術を受けている患者である。血管内手術は、例えば、コイルを動脈瘤に導入すること又はステントを動脈瘤がある血管に導入することを伴うことができる。薬剤は、血管内手術の前、その間、又は血管内手術の完了後に投与することができる。好ましい投与期間は、血管内手術の30分前から血管内手術完了の1時間後までである。例えば、薬理学的薬剤は、手術完了の0-30分に投与できる。臨床試験は、好ましくは、ある患者群には薬理学的薬剤を施し、他の患者群には薬理学的薬剤を欠いているプラセボ又は媒体を施すコントロール試験である。薬理学的薬剤の治療の効果は、コントロール群と比較して治療を受けた患者の梗塞の数及び/又は容積の減少によって評価することができる。梗塞は、プラセボ治療を受けている患者と比較して、脳又は他の組織(例えば網膜、腎臓、脊髄及び四肢)において(例えば、MRIによって)評価できる。神経学的欠損は、行動特性から評価することもできる。試験下の薬剤の最大血清中濃度、血清半減期、血清曲線下面積及び薬剤のCSF濃度のような薬物動態パラメーターを測定することもできる。
【0071】
かかる臨床試験において試験されるいくつかの薬理学的薬剤は、以前に、脳卒中又は他の脳虚血性疾患の動物モデルにおいて試験されている。動物モデルは、下等動物モデル(例えば、上述した通り、ラット又は霊長動物モデル)とすることができる。いくつかの薬剤は、実施例に記載されている通り、第一相ヒト臨床試験の安全性評価も受けている。薬理学的薬剤から動脈瘤患者に対する有効な活性の根拠が示される場合、上記薬剤は急性の脳卒中患者の臨床試験を試験することができるか又は通常の臨床使用にてかかる患者に投与することができる。試験可能なタイプの薬理学的薬剤には、上述のもの、及びそれ以外は脳卒中若しくは脳虚血性疾患の動物モデルにおける従来技術又は以前の臨床試験で試験したものが含まれる。
【0072】
<V. 疾患>
本発明の薬理学的薬剤には、様々な疾患、特に神経疾患及び特に興奮毒性(excitotoxity)によって部分的にもたらされる疾患を治療する際に有効である。かかる疾患及び状態は、脳卒中、てんかん、低酸素症、CNSに対する外傷であって脳卒中を伴わないもの(例えば外傷性脳損傷及び脊髄損傷)、他の脳虚血、アルツハイマー病及びパーキンソン病が含まれる。本発明の薬剤によって治療可能な他の神経疾患は、不安及び痛みを含む興奮毒性に関連していることは既知ではない。
【0073】
脳卒中は、原因に関わらずCNSの血流障害から生じる状態である。可能性のある原因としては、塞栓症、出血、血栓症が含まれる。いくつかの神経細胞は血流障害の結果すぐに死滅する。これらの細胞は、グルタミン酸を含むそのコンポーネントの分子を放出し、順次NMDA受容体を活性化し、細胞内カルシウムレベルを上げ、そして、さらなる神経細胞死を導くように細胞内酵素レベルを上げる(興奮毒性カスケード)。CNS組織の死滅は梗塞と呼ばれる。梗塞容積(即ち、脳卒中に起因する死滅した神経細胞の容積)は、脳卒中に起因する病理学的損傷の程度の指標として使用することができる。症候性の効果は、梗塞容積とそれが脳のどこに位置するかとの両者に依存する。障害指数は、症候性障害の基準(例:ランキンストローク予後スケール(Rankin, Scott Med J;2:200-15(1957))とバーセルインデックス)として使用され得る。以下のように、ランキンスケールは患者の全体的な状態を直接評価することに基づいている。
【0074】
【表3】

【0075】
バーセルインデックスは、日常生活の10個の基本的活動を行うための患者の能力に関する一連の質問に基づいている。その結果、0と100との間のスコアになり、より低いスコアはより重い障害を示す(Mahoney et al., Maryland State Medical Journal 14:56-61 (1965))。
【0076】
代わりに、脳卒中重篤度/予後はNIH脳卒中スケールを用いて測定してもよい(world wide web ninds.nih.gov/doctors/NIH_Stroke_Scale_Booklet.pdfで利用できる)。
【0077】
そのスケールは、患者の意識、運動機能、知覚機能、及び言語機能のレベル評価を含む11グループの機能を行う患者の能力に基づいている。
【0078】
虚血性脳卒中は、より具体的には、脳への血流の遮断が原因の脳卒中のタイプを指す。このタイプの遮断の基礎となる状態は、最も一般的には血管壁の内層にある脂肪沈着の発生である。この状態はアテローム性動脈硬化症と呼ばれる。これらの脂肪沈着は、2種類の閉塞を生じることができる。脳血栓症は、血管の詰まった部分に発生する血栓(thrombusとblood clot)を指す。「脳塞栓症」は、一般的に循環器系(通常、心臓及び胸郭上部及び頚部の大動脈)の別の位置で形成する血栓を指す。血栓の一部は、それから緩んで分解し、血流に入り、そして小さすぎて通過できない血管に到着するまで脳の血管を移動する。塞栓症の2つ目の重要な原因は、動脈細動として知られる不規則な心拍である。それが血栓を心臓で形成し、取りはずれ、脳へ移動できる状態を作り出す。虚血性脳卒中の更なる潜在的な原因は、出血、血栓症、動脈又は静脈の解離、心臓停止、出血を含む任意の原因のショック、及び医原性の原因(例:脳血管若しくは脳に通じる血管への直接的な外科的損傷又は心臓手術)である。虚血性脳卒中は、脳卒中のすべての症例の約83%を占める。
【0079】
一過性脳虚血発作(TIA)は、軽微な又は警告的脳卒中である。TIAでは、虚血性脳卒中を示す状態が存在し、典型的な脳卒中の警告兆候が発生する。しかしながら、閉塞(血栓)は短時間起こり、通常のメカニズムを介してそれ自身を消散させる傾向がある。心臓手術を受けている患者は、一過性脳虚血発作の特別なリスクがある。
【0080】
出血性脳卒中は、脳卒中症例の約17%を占める。それは、弱くなった血管が破裂して周辺の脳へ出血することに起因する。血液は蓄積されて周囲の脳組織を圧迫する。出血性脳卒中の2つの一般的なタイプは、脳内出血及びくも膜下出血である。出血性脳卒中は、弱くなった血管の破裂に起因する。弱くなった血管の破裂に関する潜在的な原因には、高血圧性出血(そこでは、高い血圧が血管の破裂を引き起こす)、又は弱くなった血管の別の基礎的原因(例:破裂脳血管奇形(例:脳動脈瘤、動静脈奇形(AVM)、又は海綿状奇形))が含まれる。出血性脳卒中は、梗塞部位で血管を弱体化する虚血性脳卒中が出血性のものへ変化すること、又は異常に弱い血管を含むCNSにある原発性腫瘍若しくは転移性腫瘍からの出血によっても生じることができる。出血性脳卒中は、医原性の原因(例:脳血管への直接的な外科的損傷)からも生じる可能性がある。動脈瘤は、血管の弱体化領域が肥大化したものである。放置した場合、その動脈瘤は、それが破裂して脳に出血するまで弱くなり続ける。動静脈奇形(AVM)は、異常に形成された血管のクラスターである。海綿状奇形は、弱くなった静脈構造からの出血を引き起こす可能性がある静脈異常である。これらの血管のいずれか一つが破裂し、脳に出血を引き起こす可能性もある。出血性脳卒中は、物理的外傷に起因する可能性もある。脳の一部に起こる出血性脳卒中は、出血性脳卒中において失われた血液の不足を介して別の部分に虚血性脳卒中を引き起こすことができる。
【0081】
治療が可能な1つの患者の種類は、脳に分布している血管に関するか関する可能性がある外科的処置又は、さもなければ脳若しくはCNSに対する外科的処置を受けている患者である。いくつかの実施例は、心肺バイパス、頸動脈ステント術、脳又は大動脈弓の冠状動脈の診断的血管造影、脈管外科的処置及び神経外科的処置を受けている患者である。かかる患者に関する追加の例は、上記のIV節において述べられている。脳動脈瘤を患っている患者は、特に適する。かかる患者は、血液を止めるために動脈瘤を留めること、又は小さなコイルで動脈瘤を遮断するか動脈瘤が現れている血管にステントを導入するための血管内手術を実行すること、又はマイクロカテーテルを挿入することを含む様々な外科的処置によって治療することができる。血管内処置は、動脈瘤を留めることよりも侵襲性が低く、より良好な患者の予後を伴うが、予後にはまだ小さい梗塞の高発生率が含まれている。かかる患者は、NMDAR 2BとPSD95との相互作用に対する阻害剤、特にペプチドYGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:6 (別名Tat-NR2B9c ) )を含む上述の薬剤で治療することができる。手術の実行に関連する投与のタイミングは、臨床試験に関する上記の通りとすることができる。
【0082】
<VI.投与に関する有効な投与計画>
内在化ペプチドに任意に連結された薬理学的薬剤は、効果的な量、頻度及び投与ルートで投与し、治療中の疾患を患っている患者における少なくとも一つの疾患の兆候又は症状の更なる治癒、低減又は、悪化を阻害する。特に明記しない限り、内在化ペプチドに連結された薬理学的薬剤を含むキメラ薬剤の用量は、キメラ薬剤に関する薬理学的薬剤の構成成分だけではなく、むしろ薬剤全体を指す。治療上有効量は、非常に十分な薬剤の量を意味し、薬剤で治療されない疾患又は状態を患っている患者(又は、動物モデル)のコントロール群の損傷と比較して、本発明の薬剤で治療される疾患を患っている患者(又は、動物モデル)群において、治療される疾患又は状態に関する少なくとも一つの兆候又は症状の更なる悪化を治癒、低減又は阻害する。本発明の方法で治療しない比較対象患者のコントロール群における平均予後よりも、個々の治療を受けた患者のほうがより好ましい予後を達成する場合、上記量は治療的に有効であるとも考えられる。治療的に有効な投与計画は、意図した目的を達成するのに必要な投与回数及び経路にて治療的に有効な用量を投与することに関する。
【0083】
脳卒中又はその他の虚血状態を罹患している患者の場合、脳卒中又は他の虚血状態の損傷効果を低減させるのに効果的な投与量、投与回数及び投与経路を含む投与計画にて上記薬剤は投与される。治療を必要とする状態が脳卒中である場合、梗塞容積若しくは障害指数によって、その予後が測定され得る。個々の治療を受けた患者のランキンスケールが2以下の障害若しくはバーセルスケールが75以上の障害であると示す場合、又は治療された群が未治療の比較群よりも障害スケールのスコア分布が有意な改善を示す(即ち、より低い障害の)場合、投与量は治療的に有効であると考えられる(Lees et at l., N Engl J Med 2006;354:588-600を参照されたい)。単一用量の薬剤が、脳卒中の治療に通常十分である。
【0084】
本発明はまた、疾患のリスクがある被験体において、上記疾患の予防のための方法及び組成物も提供する。通常このような被験体は、コントロール群に比べて、障害(例:状態、病気、障害、又は疾患)を発症する可能性が増大することを示す。例えば、上記コントロール群は、障害と診断されたことがない、又は家族歴を有しない一般群(例えば、年齢、性別、人種、及び/又は民族が適合した群)から無作為に選択される1又は複数の個人を含むことができる。上記障害と関連する「リスク因子」が被験体と関連することが分かった場合、上記被験体は上記疾患のリスクがあると考えてもよい。リスク因子には、例えば被験体群に関する統計学的若しくは疫学的調査を通して所定の障害と関連のある、任意の活性、体質、発症、又は性質が含まれる。従って、その基礎的リスク因子を同定する調査が具体的に被験体を含まなかった場合でさえも、被験体は上記障害のリスクを有するとして分類してもよい。心臓手術を受けていない被験体群に比べて、それを受けた被験体群において、一過性脳虚血発作の頻度が増加するため、例えば、心臓手術を受けている被験体は一過性脳虚血発作のリスクがある。
【0085】
その他の脳卒中の共通するリスク因子には、年齢、家族歴、性別、脳卒中、一過性脳虚血発作若しくは心臓発作の前発症、高血圧、喫煙、糖尿病、頸動脈若しくは他の動脈疾患、心房細動、他の心臓疾患(例:心臓疾患、心不全、拡張型心筋症、心臓弁膜症、及び/又は先天性心欠陥)、高血中コレステロール、及び食事(例:飽和脂肪、トランス脂肪、若しくはコレステロールの高い食事)が含まれる。
【0086】
疾患の少なくとも一つの兆候若しくは症状の発生を阻止、遅延、又は阻害するのに十分な量、回数、及び経路において、上記疾患を患っていないが上記疾患のリスクがある患者に、内在化ペプチドが任意に連結された薬理学的薬剤が投与される。予防的に有効な量とは、本発明のキメラ薬剤で治療していない疾患のリスクがある患者(又は動物モデル)のコントロール群に比べ、上記薬剤で相対的に治療された疾患のリスクがある患者(又は動物モデル)の群において、上記疾患の少なくとも一つの兆候若しくは症状を阻止、阻害、又は遅延するために十分有意な薬剤の量を意味する。本発明の方法で治療しない比較対象患者のコントロール群の平均予後よりも、個々の治療を受けた患者の方がより好ましい予後を達成する場合、その量は予防的に有効であるとも考えられる。予防的に有効な投与計画は、意図した目的を達成するのに必要な投与回数及び経路で予防的に有効な用量を投与することに関する。切迫した脳卒中リスクを有する患者(例えば、心臓手術を受けている患者)における脳卒中の予防の場合、単一用量の薬剤が通常十分である。
【0087】
薬剤に応じて、投与は、非経口的、静脈内、経鼻的、口腔的、皮下的、動脈内、頭蓋内、髄腔内、腹腔内、局所的、鼻腔内又は筋肉内とすることができる。静脈内投与は、ペプチド薬剤に関して好ましい。
【0088】
内在化ペプチド、特にHIV tatペプチドのアミノ酸配列を有するキメラ薬剤に関して、薬剤の投与は、高レベルの内在化ペプチドに関連するヒスタミン放出とその下流の効果を低減させるために抗炎症剤とを組み合わせても組み合せなくてもよい。共投与に関する好ましい薬剤は、マスト細胞脱顆粒阻害剤(例えばここでリスト化されているクロモリン又はロドキサミド又は任意の他のもの)である。抗ヒスタミン又はコルチコステロイドを使用することもでき、特に組合せ又はより高い用量で使用することもできる(WO2009/076105、2009年6月10日に出願された61/185,943及び代理人docket 026373-000920PC を参照)。
【0089】
ヒトに対する投与に関して、キメラ薬剤Tat-NR2B9cの好ましい用量は2-3mg/kgであり、より好ましくは2.6mg/kgである。指示用量は、典型的な病院の設定において量り取ることができる用量の精度の点で固有の誤差限界を含んでいること理解しなければならない。薬剤は、著しい量のヒスタミン放出及びほとんどの患者に引き続いて起こる後遺症なしに投与することができる最大量であるため、上記用量が好ましい。より高い用量でのヒスタミン放出が上述の抗炎症剤の共投与によって制御することができ、そしていずれにしても通常は有害事象なしに自発的に消散されるが、ヒスタミン放出は、3mg/kg未満、好ましくは2-3mg/kg未満、より好ましくは2.6mg/kg未満の用量に保つことにより避けた方がよい。かかる量は、一回の投与量、即ち疾患のエピソード当たり一回の用量である。
【0090】
ヒスタミン放出は、周知の後遺症(例えば血圧低下、腫脹及び赤み)のためだけではなく、ヒスタミン放出を制御することで脳卒中の動物モデルにおける梗塞の進行を阻害することもできるという報告(WO 04/071531)のために避けた方がよい。逆に、より低い用量が、より慢性経過(例えば、不安、痛み、アルツハイマー、パーキンソン)の指標において効果的であり、そして好ましくさえあるだろうが、第一投与が不適当であるか又は不十分であることが判明した場合、極めて急性の性質の脳卒中及び類似の状態は、ごくわずかな第二投与の余地を残すかもしれない。それに応じて、急性の症状を治療する際、好ましくは、大部分の患者において著しいヒスタミン放出が起こる前のレベル又はその付近で一回分の量を投与することである。
【0091】
上で指示する用量は、キメラ薬剤Tat-NR2B9c(YGRKKRRQRRRKLSSIESDV;配列番号:6)に関するものである。同じ効果を成し遂げる他の薬剤の等価用量は、いくつかの方法によって決定することができる。1又は数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失し、分子量が同じかその約+/-25%以内のままである、薬剤の近類の変異体について、上記の用量は依然として良好な指針である。しかしながら、一般的に他の薬剤については、内在化ペプチドが存在する場合、それを含めた薬剤の分子量やそれを含めない薬剤の分子量、その標的に対するそのKd、並びにその薬物動態及び薬力学的パラメーターに応じて等価用量を変化させることができる。いくつかの薬剤に関して、等価用量は、薬理学的薬剤の等モル量を送達するように算出することができる。他の薬剤に関して、Kd又は薬物動態及び薬力学的パラメーターの相違を考慮することで、更に調整される。いくつかの薬剤に関して、等価用量は、動物モデル又は臨床試験において同じ指標に達する用量から経験的に決定される。
【0092】
ペプチド薬剤(例えばTat-NR2B9c)は、好ましくは血管への注入によって、より好ましくは静脈内注入によって送達される。注入の時間は、副作用(例えば、マスト細胞脱顆粒及びヒスタミン放出に起因するもの)及び有効性に影響を及ぼす可能性がある。一般に所定の用量レベルに関して、より短い注入時間は、よりヒスタミン放出が導かれそうである。しかしながら、より短い注入時間は、有効性が改善されるという結果にもなるだろう。本発明の実施は、メカニズムの理解には依存していないが、後者の結果は、患者の病状の進行が相対的に著しく遅いことと、キメラ薬剤の血漿中の半減期が相対的に著しく長い(結果としてキメラ薬剤の用量が最適な治療レベルに達しない)ことの両方のためであると説明することができる。キメラ薬剤Tat-NR2B9cに関して、これらの考慮すべき点が釣り合う好ましい注入時間は5-15分、より好ましくは10分である。指示時間は、10% +/-の誤差限界(marking of error)を含むことは理解すべきである。注入時間には、普通ならば完了した初期分散由来のいかなる残留液滴を洗浄するための洗浄分散に関するいかなる余分な時間も含まれない。Tat-NR2B9cの注入時間は、他の薬理学的薬剤であって、任意に内在化ペプチドに連結したもの、特に上述したTat-NR2B9cの近類変異体についての指針としても役立てることができる。
【0093】
<VII.医薬組成物>
本発明のキメラ又は他の薬剤は、医薬組成物の形で投与できる。医薬組成物は、典型的にはGMP条件下で製造される。非経口投与のための医薬組成物は、特に滅菌処理(例えば、フィルターによるペプチドの滅菌)したものであり、そして発熱性物質が存在しないものである。医薬組成物は、単位用量型(すなわち、単回投与のための用量)として提供できる。医薬組成物は、一つ以上の生理的に許容可能な担体、希釈液、賦形剤又は助剤であって医薬的に使用可能な製剤へとキメラ薬剤を容易に処理できるものを使用する従来の方法を用いて調製することができる。適切な製剤は、選択される投与ルートに依存する。
【0094】
キメラ薬剤Tat-NR2B9cの例示的な製剤には、濃度が10-30mg/ml(例えば18-20mg/ml)のペプチドを含有する通常の生理食塩水(0.8-1.0%、好ましくは0.9%生理食塩水)が含まれる。凍結して保存する場合、かかる組成物は2年以上安定である(ペプチドの些細な分解又は凝集はある)。追加の賦形剤の添加も可能であるが、かかる賦形剤を含まない通常の生理食塩水でもこの安定性を十分得られる。使用に関して、かかる組成物は、血管へ注入するために解凍してより大きい容量の通常の生理食塩水で希釈する。他の組成物は、賦形剤が存在する又は存在しない条件下で、濃度が1-50mg/mlのキメラ薬剤Tat-NR2B9cを含有する通常の生理食塩水を凍結乾燥することによって製造できる。かかる賦形剤には、安定性を増加させるものか、又は薬剤を劣化させることができる細菌、ウイルス又は他の病原体の成長を阻害するものが含まれる。凍結乾燥された組成物は、-20度又は室温で安定である。凍結乾燥された組成物は、通常の生理食塩水にて再構成できる。
【実施例】
【0095】
<実施例1:虚血性脳卒中の霊長類モデル>
以下の実施例は、10匹のマカクを5匹の被験体と5匹のコントロールに分けて実施した。各動物に対して、第一ラウンドでの試験動物を第二ラウンドではコントロールとする(その逆もしかり)、2回の手順を課した。
【0096】
20個の100ミクロンポリスチレン球を各動物の大脳内血管に送達し、塞栓脳卒中を誘導させた。球体導入の1時間後、動物をTat-NR2B9c(2.6mg/kg)又は媒体コントロールで処理した。動物は、球体導入の4時間後、24時間後及び14日後にMRI脳分析及び神経学的な検査を受けた。
【0097】
14-28日後に、試験動物群をコントロール群として(その逆もしかり)、手順を繰り返した。
【0098】
図1には、動脈瘤を修復するためにコイルを挿入する血管内手術を施されているヒトと比較した、コントロール動物に球体を注入した24時間後の梗塞についてのMRIスキャンが示されている。脳サイズに関連する梗塞の数、サイズ及び外観は、ヒトと動物との間で比較可能である。
【0099】
図2は、治療を受けた動物及びコントロール動物のMRI可視化梗塞の数及び体積を比較している。Tat-NR2B9cでの治療は、脳全体の梗塞の数及び容積を著しく減少させた。図3には、皮質における梗塞に関する類似したデータが示されている。梗塞の数及び容積の減少は、脳全体よりも皮質の方が更に大きかった。脳におけるこの領域は主に認識機能に関与するので、皮質での減少は特に重要である。
【0100】
<実施例2:注入時間>
Tat-NR2B9cは、3分間又は60分間の注入時間で50mg/kgをラットに投与した。図4は、投与後の血圧変化を示す。3分間注入されたラットにおいては、回復する前の90分間に血圧が約50%低下した。1時間注入されたラットに関しては、わずかな血圧低下だけがあり、1時間にわたって回復した。
【0101】
ウィスカーバレル皮質上の中大脳動脈の3終枝に恒常的軟膜血管閉塞(P3VO)を施す前に、成体スプラーグドーリーラット(10〜12週齢)(雄〜300g、雌〜250g)を12〜18時間絶食させた脳卒中ラットモデルにおける有効性に関して、注入時間の差異を比較した。このラットモデルの分析のための手順は、WO/2008/008348に記載されている。血管閉塞後に、Tat-NR2B9cをi.v.で7.6mg/kg投与し、媒体を比較のために投与した。2つの注入期間(5分及び1時間)を比較した。図5には、治療の24時間後に測定した梗塞サイズが、5分間の生理食塩水プラセボ注入と比較すると著しく減少したが、1時間の注入ではそうならなかったことが示されている。
【0102】
<実施例3:第一相臨床試験>
我々は、ヒトにおけるTat-NR2B9cの安全性、許容性及び薬物動態の研究を行った。被験体は、最小年齢が18歳である、通常で健常な、タバコを吸わない男性又は閉経後であるか外科的に不妊の女性被験体のいずれかであった。被験体は、Tat-NR2B9c ( Lot #: 124-134-001B )又は所定のプラセボ(リン酸緩衝生理食塩水) ( Lot #: 124-134-001A )のいずれかが、静脈内注入(10±1分)として投与された。4人の被験体は、コホート1〜3の各々において一回分投与され、10人の被験体はコホート4〜8の各々において一回分投与された。全62人の被験体に対する研究を完了した。
【0103】
<方法>
採血のタイムポイント:
試験期間中、薬物動体解析のため、11の血液サンプルを各被験体から以下のタイムポイントで回収した:投薬後0.00(投薬前)、0.08(5分)、0.17から0.25(各々の独立した薬物注入の終了から正確に10から15分)、0.33(20分)、0.50、0.75、1.00、2.00、6.00、12.00、及び24.00時間。それに加え、ヒスタミン分析のために、各被験体から以下のタイムポイントで8つの血液サンプルを回収した:投薬後0.00(投薬前)、0.08(5分)、0.17(10分)、0.25、0.50、1.00、2.00、及び24.00時間。
【0104】
安全評価:
試験経過中少なくとも一回投薬を受けたすべての被験体において、安全性試験を行った。すべての有害事象(AE)の出来事を治療と被験体番号により集計した。バイタルサインの絶対値、心電図(ECG)パラメーター、実験パラメーター及び身体診察も文書化され、正常範囲外の値に印をつけた。ベースライン値からシフトしたものを集計した。AEは、研究者及び国際医薬用語集 (MedDRA)の用語を使って文書化した。
【0105】
<A.結果>
3.75mg/kg用量群での8被験体中7人は、NA1投与開始から10分後に10nmol/Lよりも高い(平均24.3nmol/L;最大39.8nmol/L)ヒスタミンレベルを有していた。上記被験体のうち3人は、NA1投与開始から15分後に10nmol/Lよりも高い(平均15.3nmol/L;最大20.3nmol/L)のヒスタミンレベルをまだ有していた。
【0106】
3.75mg/kg用量群の他は、どの治療群も有意に異常なレベルのヒスタミンを有していなかった。プラセボ群及び0.375mg/kg用量群は、1つのタイムポイントでヒスタミンレベルが上昇する被験体を1人ずつ有していたが、これらの結果はそれぞれ、スクリーニング時及び投薬後2.00時間においてであった。すべての異常ヒスタミン結果は、薬物投与の24.00時間以内に正常な範囲に戻った。
【0107】
試験に参加した40人の被験体は、上記試験中に総数168個の有害事象(AE)を経験した。AEの大半は重症度が軽度なものであった。プラセボ治療を受けた16人中6人の被験体(37.5%)は少なくとも1つのAEを経験した一方で、実薬治療を受けた46人中34人の被験体(73.9%)は少なくとも1つのAEを経験した。2.60及び3.75mg/kg用量群の被験体は、それより低い用量群の被験体よりも有意に多くのAEを経験した。重度の有害事象(SAE)は報告されなかった。Tat-NR2B9cを施された被験体が経験した最も共通する有害事象は、熱感(46分の13; 28.3%)、そう痒症(46分の12; 26.1%)、潮紅(46分の10; 21.7%)、及び口渇(46分の9; 19.6%)であった。すべてのAEは、血中グルコースが増加した2例を除いて消散したため、被験体を経過観察することはできなかった。
【0108】
2.60及び3.75mg/kg用量群でのAEの発生頻度は、プラセボ、0.02、0.08、0.20、0.375、0.75、及び1.50mg/kg用量群におけるAE発生率よりも高かった。Tat-NR2B9cの≧2.60mg/kgの用量においては、いくつかのAEが頻繁に報告された。これらには、(1)血圧の減少、(2)ピリピリ感(知覚異常)、(3)しびれ感(低感覚)、(4)発赤(紅斑)、(5)発疹、(6)かゆみ(そう痒症)、(7)口渇、(8)悪心、(9)熱感、及び(10)潮紅が含まれる。これらの有害事象の発症は、試験薬物の投与と同時に起こり、そして、おそらく試験薬物に関連していた。
【0109】
ラット、イヌ及び霊長類に対するTat-NR2B9cを用いた前臨床試験では、ヒスタミンレベルの上昇が高用量群で観察され、副作用(腫脹、発赤、及び低血圧を含む)の原因である可能性があった。現在の試験では、静脈内薬物投与の開始10分後において、最も高い用量群(3.75mg/kg)で8人中7人の被験体においてヒスタミンレベルが上昇し、そして、薬物投与の15分後においてもこれらの被験体中3人は上昇したままであり、その後レベルは正常範囲に回復した。3.75mg/kg用量群においては、ヒスタミンレベルが上昇した同一の期間中にほとんどのAEが観察された。このことは、ヒスタミンレベルの上昇が最も頻繁に報告されたAE(血圧の減少、ピリピリ感、しびれ感、発赤、発疹、かゆみ、口渇、悪心、熱感、及び潮紅)の原因であったことを示唆する。
【0110】
<実施例4:神経介入性動脈瘤修復処置を受けている患者のおけるTat-NR2B9cの臨床試験>
有効性の主要な基準は、MRI検出可能なDWIの総容積及びFLAIR-シーケンス-陽性病変であって血管内介入後のものである。大きい体積脳卒中患者が多くいる場合、これらの異常値体積は、より通常の分布の体積を考慮するために最高10ccまでで切り捨てて、標準的なパラメーター統計によって検定する。主要な分析は、2つの治療グループ(薬剤対プラセボ)における平均値が等しい帰無仮説と、治療グループの平均病変総容積がプラセボ群より小さい対立仮説に関するt検定である。試験の最大サンプルサイズは400であり、治療群当たりは200である。
【0111】
血管内治療によって誘導される塞栓性脳卒中の数を減らす、薬剤の単回静脈内用量の有効性の決定は、DWI/FLAIR MRI シーケンスから脳卒中の計数に基づく。治療を受けたグループ及びプラセボグループの各々の患者当たりの脳卒中数は、以下の通り、5つの区分に分類される:0(脳卒中でない)、1、2、3、及び4又はそれ以上の脳卒中。
【0112】
処置的に誘導された血管性認知障害を減らす薬剤の能力は、神経認知テストバッテリーから得られる加重集成値を使用して決定される。
【0113】
大規模な(>10ccの体積)脳卒中の頻度を減らす薬剤の有効性を決定するために、治療を受けた及びプラセボグループの大規模な脳卒中の数は、上記分割表解析を使用して比較される。
【0114】
血管内処置を受けている患者における修正ランキンスコア(mRS;範囲、0〜5、0は残遺症状がないことを示し、5は寝たきりで、一定の看護を必要とすることを示す)は、mRS 0〜2(独立して機能すること示す)と、mRS 3又はそれ以上(致命的又は依存的であることを示す)の二種類に分けられる。NIH脳卒中スケール(NIHSS;範囲は0から42、高いスコアは、重症度が上がっていることを示す)データは、二分法(NIHSS 0-1対2又はそれ以上、カイ二乗検定又はフィッシャーの正確確率検定を使用)として評価される。上記分析は、患者がくも膜下出血を呈したか否かに従って更に階層化される。
【0115】
脳動脈瘤の血管内修復が完了し(典型的に最終的なコイル又はステントの挿入の後)、そして、最終的な血管造影画像診断が完了するとすぐに、投薬は開始される。投薬のタイミングは、点滴の開始時に始まる。投薬は、上肢の静脈に挿入された静脈内カテーテルを通って被験体に100mLバッグの内容物を、薬物注入ポンプ[例えば、FLO-GARD Volumetric Infusion Pump 6201又は等価物]を使用して投与することによって行われる。IVバッグ内容物が被験体に投与される間、投薬は10±1分のコースを通じて均一に実施される。IVミニバッグの完全な体積(治療用量)が投与される。用量投与の後、最低10mL(15mLを超えない)の生理食塩水は、IVチューブ内に残った任意の残留薬物をフラッシュするために薬物注入ポンプを使用して投与される。
【0116】
<実施例5:投与製剤>
通常の(0.9%)生理食塩水中のTat-NR2B9c又はプラセボが入っている注射器のバイアルは、各臨床現場の薬局において-20℃で保存される。研究対象の登録において、1又は複数(必要とされる総量に依存)のTat-NR2B9c薬剤又はプラセボの注射器のバイアルは、薬:プラセボランダム化コードに基づいて薬局で選択され、使用の前に解凍される。個々の被験体に投薬するための注射器に被験体番号を付け、注射器のバイアルから吸い出す量を以下の通りに算出することによって調製する:(2.60 mg/kg×被験体重量(kg))/[mg/ml中の薬効]。これによって、注射器へ引き上げるミリリットル数を決定する。Tat-NR2B9c又はプラセボを含む注射器は、投与部位へ運ばれ、0.9%通常生理食塩水の100mL点滴バッグのIVポートに注入された。
【0117】
本発明は、理解を明確にする目的のために詳細に記載されているものの、ある種の変更が添付した請求の範囲の範囲内で実践され得ることは明らかであろう。本出願で引用したすべての出版物、登録番号及び特許文書は、それぞれが個々に示されると同程度に、参照によって全ての目的のためにその内容全体が本明細書中に組み込まれる。二つ以上の配列が異なる時間に1つの登録番号を伴う限りでは、本願の有効な出願日付の登録番号に関連した配列を意味する。有効な出願日は、当該の登録番号を開示している最先の優先権出願の日付である。文脈から明らかでない限り、本発明の任意の要素、実施形態、工程、機能、又は態様は任意の他との組み合わせで行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
興奮毒性によってもたらされる疾患の治療又は効果的な予防方法であって、
前記疾患を患っているかそのリスクがある被験体にPSD-95とNMDAR 2Bとの結合及び/又はPSD-95とnNOSとの結合を阻害する薬理学的薬剤を投与すること、を含み、
前記薬剤がアミノ酸配列YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:6)を有するペプチドである時の用量は、2-3mg/kgであり、
前記薬剤が前記アミノ酸配列YGRKKRRQRRRKLSSIESDVを有するペプチド以外である場合の前記用量は、2-3mg/kgの前記アミノ酸配列YGRKKRRQRRRKLSSIESDVを有するペプチドと等価な有効濃度の前記薬剤を送達させる、方法。
【請求項2】
前記薬剤は、アミノ酸配列YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:6)を有するペプチドであり、前記用量は2.6mg/kgである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記用量は、疾患エピソードにつき1回だけ投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記用量は、抗炎症剤との共投与なしで投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
興奮毒性によってもたらされる疾患の治療又は効果的な予防方法であって、
前記疾患を患っているかそのリスクがある被験体にPSD-95とNMDAR 2Bとの結合及び/又はPSD-95とnNOSとの結合を阻害する薬理学的薬剤を投与すること、を含み、
前記薬剤は内在化ペプチドに連結され、前記薬剤は5-15分の期間にわたって静脈内注入によって投与される、方法。
【請求項6】
前記内在化(internationalization)ペプチドに連結した前記薬剤は、アミノ酸配列YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:6)を有するペプチドであり、前記期間は5分である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記薬理学的薬剤の用量は、1mg/kgより大きい、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記薬理学的薬剤の用量は、2-3mg/kgである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記薬理学的薬剤の用量は、2.6mg/kgである、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記用量は、最高50mg/kgであって、前記用量が3mg/kgより大きい場合は抗炎症剤と共投与される、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記用量は、抗炎症剤との共投与なしで投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
前記被験体は、脳卒中を患っている、請求項5に記載の方法。
【請求項13】
前記被験体は、手術を受けている、請求項5に記載の方法。
【請求項14】
前記被験体は、動脈瘤を治療するために血管内手術を受けている、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
脳から心臓まで接続している血管又は肢、腎臓、網膜若しくは脊髄に血液を供給する血管に対する脳外科又は血管内手術由来の虚血性障害を妨げる方法であって、
PSD-95にNMDAR 2Bが結合すること阻害する薬剤の有効な投与計画を、血管に対する前記脳外科又は前記血管内手術を受けている被験体に施すことを含む、方法。
【請求項16】
虚血性障害は脳外科手術由来であり、前記脳外科手術は前記脳の診断的血管造影である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
虚血性障害は脳外科手術由来であり、前記脳外科手術は動脈瘤を治療する血管内手術である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記薬剤は、前記血管内手術の前に投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記薬剤は、血管内手術が完了する1時間以内に投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記血管内手術は、動脈瘤にコイルを挿入することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記血管内手術は、動脈瘤にかかっている前記血管にステントを挿入することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記血管内手術は、マイクロカテーテルを挿入することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
薬理学的薬剤の臨床試験を実行する方法であって、
脳の血管又は脳から心臓まで接続している血管又は肢、網膜、腎臓若しくは脊髄に血液を供給する血管に対する血管内手術を受けている被験体群に前記薬理学的薬剤を投与することと、
前記被験体における前記手術の損傷効果の頻度を前記薬理学的薬剤なしに前記血管内手術を受けているコントロール被験体と比較して、前記薬理学的薬剤が前記損傷効果を低減させるか否かを決定すること、を含む方法。
【請求項24】
前記被験体は、血管内脳動脈瘤手術を受けている、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記損傷効果は、脳梗塞の数及び/又はサイズによって評価される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記損傷効果は、前記網膜、前記腎臓、前記脊髄若しくは前記四肢の梗塞の数及び/又はサイズによって評価される、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
脳卒中の動物モデルにおいて前記薬理学的薬剤を試験することを更に含む、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
脳卒中を患っているヒト被験体において前記薬理学的薬剤を試験することを更に含む、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記薬理学的薬剤に脳卒中治療用のラベルをつけることを更に含む、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記薬理学的薬剤は、NMDAR 2BとPSD95との結合及び/又はnNOSとPSD-95との結合を阻害する、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
薬理学的薬剤を試験する方法であって、
(a) 粒子を霊長類の脳血管に挿入すること、
(b) 前記薬理学的薬剤を前記霊長類に投与すること、
(c) ステップ(a)に関する前記霊長類の損傷効果を、化合物で治療されていないコントロール霊長類と比較することを含む、方法。
【請求項32】
前記損傷効果は、梗塞の数及び/又はサイズによって評価される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記梗塞は、MRI又はCATスキャンにより測定される、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記損傷効果は、前記霊長類の行動上の症状を前記コントロール霊長類と比較することによって評価される、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
ステップ(a)-(c)の繰り返しで試験する薬剤が、以前に行ったステップ(a)-(c)と同じ薬剤であるかは問わずに、回復期間後に同じ霊長類に対してステップ(a)-(c)を繰り返すことを更に含む、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
前記コントロール霊長類に前記薬剤を施すことと、前記薬剤を以前に施されている前記動物が前記コントロール動物であることを除いたステップ(a)-(c)を繰り返すことを更に含む、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
前記薬剤は、NMDAR 2BとPSD-95との結合及び/又はnNOSとPSD-95との結合を阻害する、請求項31に記載の方法。
【請求項38】
前記薬剤をヒト脳卒中被験体に投与することを更に含む、請求項31に記載の方法。
【請求項39】
前記薬剤を動脈瘤の血管内手術を受けているヒト被験体に投与することを更に含む、請求項31に記載の方法。
【請求項40】
前記薬剤は、粒子を前記脳血管に挿入した後に投与される、請求項31に記載の方法。
【請求項41】
前記薬剤は、粒子を前記脳血管に挿入する前に投与される、請求項31に記載の方法。
【請求項42】
前記粒子は、100ミクロンポリスチレン球である、請求項31に記載の方法。
【請求項43】
20個の球が前記霊長類に投与される、請求項31に記載の方法。
【請求項44】
前記霊長類は、マカクである、請求項31に記載の方法。
【請求項45】
GMP条件下で調製された通常の生理食塩水中のペプチド溶液を由来とする凍結乾燥されたアミノ酸配列YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:6)を有するペプチドを含む凍結乾燥された組成物。
【請求項46】
GMP条件下における通常の生理食塩水中の濃度が10-30mg/mlのアミノ酸配列YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:6)を有するペプチドを含む医薬組成物を少なくとも2年間0℃以下で保存することを含む、医薬組成物を保存する方法。
【請求項47】
前記濃度は、18-20mg/mlである、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記医薬組成物を被験体に投与することを含む、請求項46又は47に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2012−530057(P2012−530057A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515147(P2012−515147)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際出願番号】PCT/US2010/038200
【国際公開番号】WO2010/144721
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(509011178)ノノ インコーポレイテッド (8)
【住所又は居所原語表記】88 Strath Avenue Toronto,Ontario Canada
【Fターム(参考)】