説明

神経系細胞アッセイ

試験動物に薬剤を投与し、放射線を照射して神経幹細胞を枯渇させた脳髄組織及び試験管内で培養された脳髄由来神経塊細胞を含む脳髄組織細胞の応答を測定する、体内で脳細胞の神経発生に及ぼす化学物質及び細胞作用因子の効果を解析するための方法及び分析系。
【選択図面】図2

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、「神経系細胞アッセイ」の名称で2003年8月5日に出願された米国仮特許出願第60/492,506号の優先権を主張するものであり、その内容は参照として本明細書に取り込まれる。
【0002】
(政府の援助に関する記載)
本発明は、米国立衛生研究所(NIH)の助成で認可番号第NINDS37556号の下になされたもので、米国政府は本発明についての権利を有する。
【0003】
(技術分野)
本発明は、一般に医療、神経学、細胞生物学及び毒性学の分野に関するものである。より詳細には、本発明は、神経細胞、特に神経細胞新生に関与する細胞に於ける薬剤の効果を分析する試験(アッセイ)及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0004】
多能性神経幹細胞の周期による永続的な神経細胞新生は、現在、側脳室上衣下層(SEZ)、その連続した吻側細胞移動路(rostral migratory stream:RMS)及び海馬を含む、いくつかの成熟した哺乳動物の脳神経構造内に於ける正常な恒常性維持機能であると認識されている。発達過程及び成熟した哺乳動物の脳のSEZ及び海馬は、「脳髄」と呼ばれ、生来の幹細胞/前駆細胞からの新しい神経細胞の永続的な産生は、遺伝的及び遺伝子以外(環境を含む)の要因並びに脳に影響を与えるきっかけとなる事象に敏感であることから、脳の状態を知るうえで高感度な指標であるといえる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
薬理学的若しくは毒性学的な薬剤又は食品添加物のようなその他の薬剤への曝露は、脳髄の神経新生を妨げる可能性があり、その結果として減弱した認識や記憶を含む脳機能に重篤な影響をもたらし得る。アルツハイマー病、パーキンソン病及びエイズ関連の疾患のような神経学的障害の発生率が増加するにつれて、脳の神経細胞新生の能力を増大させる新しい治療剤が早急に必要であるとの認識が更に高まっている。それゆえ、脳髄細胞に影響を与える様々な薬剤に脳細胞を曝露させて、脳髄の神経細胞新生状態を高感度で定量的に試験することができるアッセイが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要約)
本発明は、神経細胞新生(神経新生)を調べることによって、脳細胞を調節する効果を有する薬剤を同定し分析するための方法と試験に関連する。本発明の方法の一つには、(a)試験動物に薬剤を投与する、(b)SEZ、連続したRMS、嗅球及び/又は海馬由来の脳組織に於ける、細胞の一つ以上の特徴を決定する、及び(c)その細胞の一つ以上の特徴を、薬剤が投与されていない対照動物の同じ領域由来の細胞に於ける特徴と比較する、工程を含む。試験動物と対照動物との特徴の違いは、薬剤が脳細胞に影響を与えることを示唆するものである。
【0007】
当該薬剤には、薬物、低分子化合物、ペプチド、核酸又はヌクレオシド類縁体のような一つ又はそれ以上の物質、又は幹細胞のような細胞が含まれる。このヌクレオシド類縁体は、アジドチミジン、ジデオキシイノシン、ジデオキシチミジン、ジデオキシシチジン、及びシトシンアラビノシドから、選択され得る。
当該薬剤にはまた、放射線のような効力(force)を有する物質も含まれる。
【0008】
脳組織に於いて分析される特徴には、有糸分裂指数、細胞マーカーの発現、脳髄内の神経芽細胞の移動、アポトーシス及びネクローシスが含まれる。
【0009】
前記方法の変法では、好ましくは神経幹細胞塊の形成を促進する条件下で脳組織試料を分離し組織培養する。細胞の一つ以上の特徴は、培養物中に形成される神経幹細胞塊の数及び/又は神経幹細胞塊の細胞構成を分析することによって決定される。
【0010】
変法の一つは、(a)試験動物に一つ以上の幹細胞を投与する、(b)幹細胞又は試験動物に薬剤を投与する、(c)幹細胞を投与された試験動物の脳髄に於ける変化量を分析する、及び(d)試験動物における変化量と、対照幹細胞を投与された対照動物(ここに於いて、対照幹細胞及び対照動物のいずれも、薬剤を投与されていない)における変化量とを比較する、工程を含む、動物に於ける神経細胞新生に対する薬剤の効果を分析する方法である。試験動物及び対照動物間の幹細胞による変化量の差は、薬剤が動物の神経細胞新生に影響を与えることを示唆するものである。
【0011】
前記方法においては、幹細胞は検出可能な標識を含み、試験動物と対照動物の脳髄に於ける変化量を分析する工程は、SEZ、連続したRMS、嗅球又は海馬のうちの一つ以上から、採取された試験又は対照動物の組織試料に於ける検出可能な標識の量を定量することによって実施される。
【0012】
幹細胞として、神経幹細胞、非神経組織由来の体性幹細胞又は胚性幹細胞がある。幹細胞は、CD15、CD133又はCD44のような細胞表面マーカーを発現することができる。幹細胞は、遺伝組み換え技術によって改変されていてもよい。
【0013】
本発明の更なる変法は、(a)試験動物の脳髄を枯渇させる、(b)その脳髄を再増殖させるために試験動物に一つ以上の幹細胞を投与する、及び(c)試験動物に於ける脳髄の再増殖を、脳髄を枯渇させずに一つ以上の幹細胞を投与された対照動物に於ける脳髄の再増殖と比較する(ここに於いて、試験動物に於いてより多くの神経細胞が存在することが、神経細胞新生の増大を示唆するものである)、工程を含有してなる、動物に於ける神経細胞新生を増大させる方法である。
【0014】
上述の方法にあるように、幹細胞は検出可能な標識を含むことができ、試験動物の脳髄の再増殖を分析する工程は、SEZ、連続したRMS、嗅球又は海馬の一つ以上から採取された組織試料の検出可能な標識の量を定量することによって実施される。
【0015】
本方法のいくつかの変法は、放射線照射のような障害の後に起こりうる、脳髄の枯渇を防止又は減少させる、薬剤を同定又は分析するために使用できる。この方法では、保護剤候補の薬剤を添加する前又は添加後に脳髄を枯渇させて、脳髄の枯渇の程度を防止又は減少する効果に基づいて薬剤を選択するものである。
【0016】
本明細書で用いられる技術用語はすべて、特に明記されない限り、本発明が属する技術分野における当業者によって一般に理解されるものと同じ意味である。
【0017】
本明細書で用いられる「薬剤(drug)」という用語は、ヒト又はその他の動物に医療用として使用できる可能性がある如何なる物質をも示す。化合物の類縁体、天然の、合成された及び組み換えられた医薬品、ホルモン、核酸、ポリペプチド、神経伝達物質などが、この定義の範囲に含まれるものである。
【0018】
本明細書で用いられる「幹細胞」という用語は、幹細胞及び系統に関わる前駆娘細胞の両方の正確な二倍化が産生される、非対称分裂して動物生命体の特定の器官の全ての細胞型を産生することが可能な単一細胞を示す。幹細胞は一般に、移植後に生来の生態に適合するように再構成される。幹細胞は、胚組織を含む体内の多くの組織中に見出され、胚性幹細胞及び、造血系、脳及び神経系、上皮、表皮、心臓及び循環系、肝臓、消化管、及び生殖系の幹細胞を含むが、それらに限定されるものではない。
【0019】
「神経幹細胞」という語句は、神経細胞、星状細胞、及び乏突起膠細胞のような成熟した神経系の細胞に分化可能な細胞を意味する。「幹細胞又は前駆細胞」は、体内の成熟した組織及び器官の異なる細胞型を生じさせることができる幹細胞/前駆細胞の特性を有するあらゆる未成熟な細胞を含むものである。一般に、幹細胞/前駆細胞は、それ自身の複製を産生する能力を有する前駆細胞であり、又より分化した娘細胞をも生じさせる。幹細胞/前駆細胞は一般に、体内の組織における傷害や疾病に応じて、再増殖するクローン化可能細胞として機能する。
【0020】
「脳髄」という用語は、神経軸の脳室周囲の上衣下層(SEZ)、終脳の吻側細胞移動路(RMS)、海馬、嗅球及び正常な又は傷ついた中枢神経系の離れた領域を含む、永続的に神経細胞新生が起きている脊椎動物の脳の領域を意味する。
【0021】
本明細書で用いられる「神経新生(neuropoiesis)」という用語は、「神経細胞新生(neurogenesis)」と同義であり、一般には永続的に神経細胞及び/又はグリアを産生することを意味する。
【0022】
本明細書に記載の類似の又は同等な方法及び材料は、本発明の実施又は試験に用いることができるが、適した方法及び材料を以下に述べる。全ての出版物、特許出願、特許、及び本明細書に記載されたその他の参考文献は、参照によりその全てが本明細書に取り込まれる。以下に考察される特定の態様は、例示のためのみのものであり、何ら本発明を限定するものではない。
【0023】
(発明の詳細な説明)
本発明は、脳細胞に対する薬剤の効果を分析するための様々な方法を提供する。方法の一つの例は、薬剤が投与された試験動物の脳髄における細胞と、薬剤は投与されておらず、その他の点に於いては対照として同様に処置された対照動物(遺伝的背景、週令、性別などにおいて適合する)における細胞とを比較することを含む。方法のもう一つの例は、薬剤が投与された試験動物の神経幹細胞の再増殖と、薬剤は投与されておらず、その他の点に於いては対照として同様に処置された対照動物における神経幹細胞の再増殖とを比較することを含む。
【0024】
この方法は、脳内の神経細胞新生の重要な進行過程に正又は負どちらかの影響を及ぼす多様な薬剤の潜在能力を評価するために用いられる。例えばこの方法は、神経毒性薬剤として機能するか又は神経細胞新生を減少させるかといった、試験化合物の能力又は治療計画を検討するために用いられる。例えば、本発明の方法は、(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、エイズ関連の認知症及び神経学的障害のような神経系の疾患、又はその他の疾患のための)候補治療薬、化学療法剤又はプロトコール、食品添加物、ハーブ抽出液を含む栄養補助食品、環境薬剤などの、脳髄の細胞を傷つける可能性を、選別するために用いることができる。本発明の方法はまた、新薬、候補化合物、天然抽出物及びその類似物を同定するために、並びに、動物に於いて神経細胞新生を増加させる、及び/又は、神経毒性薬剤や神経細胞新生細胞の数を枯渇させ又は脳髄の神経細胞新生能力を減少させるプロトコールから、既存の脳髄幹細胞及び前駆細胞を保存又は保護する治療法を同定するために用いることができる。
【0025】
以下に記載される好ましい態様は、これらの方法の適応を説明するものである。これらの態様の記載から更に、本発明のその他の態様は、以下の記載に基づいて作られ、及び/又は、実施される。
【0026】
(薬剤が誘発する脳髄の変化の評価)
本発明は、薬剤が投与された試験動物の脳髄と、薬剤が投与されていない対照動物の脳髄とを比較することによって、脳細胞や神経産生に影響を与える薬剤の能力を評価する方法を提供する。本発明の一つの態様では、薬剤は試験動物(例えば、ラット又はマウスのような何れかの適切な動物)に投与される。この薬剤は、脳細胞に影響を与えることができる何れかの物質又は効力(force)である。例えば、その薬剤は有機若しくは無機の低分子、核酸若しくはヌクレオシド類縁体、又はポリペプチドのような物質であり、その薬剤は放射線(例えば、イオン化放射線)又は磁力といった効力(force)である。
【0027】
目的の薬剤の一つの種は、例えばヌクレオシド又はヌクレオチド逆転写酵素を阻害することにより、DNA鎖終結剤として機能するヌクレオシド類縁体である。このような薬剤は、HIVのような疾病に対する抗レトロウィルス治療薬として、又ある場合には化学療法剤としての使用が見出されている。この種の薬剤は、AZT(3−アジド−3’−デオキシチミジン)、ジデオキシチミジン、ジデオキシシチジン、ジデオキシイノシン、シトシンアラビノース、及びラミビドン(lamivuidne:3TC)のような薬剤、並びに様々なDNA鎖終結作用を有するその変異体を含むが、これらに限定されるものではない。
【0028】
薬剤は、例えば経口又は、静脈、筋肉若しくは皮下注入、又は頭蓋内投与のような非経口投与等、何れかの適切な手法で動物に投与できる。頭蓋内投与は、例えば後方の眼窩洞への注入、又は脳の適切な部位への直接適用によるなどの、あらゆる適切な経路を介して行われる。薬剤を脳の離れた領域に送達するための方法は、当技術分野で周知のものであり、定位固定の画像化及び送達装置の使用を含む。
【0029】
薬剤は、間欠的に又は連続的に投与され、その投与経路は、投与の目的によって変えることができる。薬剤の連続的投与に有効なシステムは、試験動物の体内、例えば皮下に埋め込まれる浸透圧ミニポンプである。ヌクレオシド類縁体の送達のための浸透圧ミニポンプの使用については、以下の実施例に更に記載されている。
【0030】
薬剤投与に次いで、SEZ、RMS、嗅球、及び/又は海馬の細胞と、対照動物(例えば、薬剤を投与していないことを除いては試験動物と同じ動物)の同じ細胞の、異なった間隔(例えば1時間、2時間、6時間、12時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、14日、21日、28日又はそれ以上)に於ける相対的な変化について検討する。細胞の検査は、その領域の生体内画像化、又はSEZ、RMS、嗅球、及び/又は海馬(脳髄)から採取される脳組織試料を分析することによって実施される。SEZ、RMS、嗅葉、及び/又は海馬から採取される脳組織試料を単離するための適切な方法は、当該技術分野に於いて公知である。例えば、Zhengら、 Cloning and Stem cells4:3−8、2002: Monje ら、Nature Medicine8:955−962,2002を参照のこと。
【0031】
脳髄における薬剤が誘発する変化を同定するために、脳組織試料の細胞の一つ以上の特徴が分析される。そのような細胞のいくつかの異なる特徴が評価されるが、例えば、表現型の特徴が分析される。表現型の特徴としては、(例えば、ブロモデオキシウリジン(BrdU)標識で決定される(例えば、Larison and Bremiller,Development 109:567−576、1990; Hu and Easter, Dev.Bilo.207:309−321、1999; Gotz and Bolz,J. Neurobiol.23:783−802、1992を参照のこと))試料中の細胞の有糸分裂指数及び(例えば、微小管関連タンパク質(MAP)、βIIIチューブリン、ネスチン、PSA−NCAM、NeuN、ダブルコルチン、GFAP、O4、CNPase、及びガラクトセレブロシドのうち一つ又はそれ以上の方法での)マーカー発現が挙げられる。
【0032】
脳組織の表現型の特徴はまた電子顕微鏡によって(微細構造的に)、例えば、SEZの所謂タイプA、B及びC細胞のような、脳髄の特定の細胞型におけるネクローシス及び/又はアポトーシスの形跡を明らかにすることによって評価できる。
【0033】
更なる例として、機能的特徴(すなわち、細胞が何かを成す能力)が分析される。例えば、インビトロの培養において神経幹細胞塊を形成する細胞の能力が分析される。例えば、Laywellら、Methods in Molecular Biology 198:15−27、2002を参照のこと。形成された神経幹細胞塊の数及び、各神経幹細胞塊の細胞構成が分析され、培養物は、幹細胞、神経系細胞及びグリアの前駆細胞、並びに分化した神経細胞及びグリアについて検討される(例えば、Laywellら、Methods in Molec. Biology 198:15−27、2002を参照のこと)。
【0034】
この方法の最終工程は、試験動物由来の細胞の特徴と、対照動物のものとを比較するものである。試験動物と対照動物の特徴の違いは、その薬剤が脳細胞に影響を与えることを示唆する。例えば、ある薬剤が対照動物と比べ、試験動物においてより低い有糸分裂指数を引き起こしているならば、又は試験動物由来の細胞が適切な培養条件の下で、対照動物由来の細胞に比べて、少ない神経幹細胞塊しか形成しなければ、その薬剤は脳細胞及び神経新生に対して負の作用をしているといえる。
【0035】
上記の方法の変法において、薬剤の神経細胞新生に於ける作用は、試験動物に幹細胞を導入することによって分析することができる。この方法は、(a)試験動物に一つ以上の幹細胞を投与する、(b)幹細胞又は試験動物に薬剤を投与する、(c)幹細胞を投与された試験動物の脳髄の変化量を分析する、及び(d)試験動物の脳髄における幹細胞による変化量を、一つ以上の対照幹細胞を投与された対照動物(なお、対照幹細胞も対照動物も薬剤には曝されていない)における変化量と比較する、工程を含む。
【0036】
脳髄を構成することができ、神経幹細胞として機能することができれば、如何なる供給源からの幹細胞を用いてもよい。幹細胞は、神経幹細胞、胚性幹細胞、又は非神経組織由来の体性幹細胞であってもよい。神経幹細胞を含む幹細胞を単離するための方法を、以下に記載する。
【0037】
十分な投与量の幹細胞の数は、一個から数十万個の範囲である。幹細胞を投与する工程の前後いずれかに於いて、試験される薬剤も、動物又は幹細胞に投与される。幹細胞を薬剤で処理する場合は、例えば、幹細胞を組織培養液中で、異なった間隔(例えば1時間、2時間、6時間、12時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、14日、21日、28日又はそれ以上)で薬剤に曝してから試験動物に移植する。動物を薬剤でで処理する場合は、例えば、浸透圧ミニポンプを使った注入により種々の異なった間隔で薬剤を試験動物にインビボ投与する。薬剤の投与後、異なった間隔(例えば1時間、2時間、6時間、12時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、14日、21日、28日又はそれ以上)で幹細胞を移植し、次いで動物の脳のSEZ、RMS、嗅球、及び/又は海馬領域に於ける幹細胞による変化量を、対照幹細胞を投与された対照動物(例えば、薬剤を投与されていない、あるいは幹細胞が薬剤に接触していないという点を除いては試験動物と同じ動物)における変化量と比較して検査する。
【0038】
幹細胞が導入された動物の脳髄の量は、様々な方法で評価できる。例えば、投与された幹細胞が検出可能に標識されていれば、幹細胞が脳髄を構成していることを示す指標として、その動物由来の脳組織試料は、標識の存在又は定量について分析される。下記の実施例に記載されているように、投与される幹細胞を遺伝子操作して、その細胞を脳内に導入(例えば移植によって)した後に、例えば蛍光顕微鏡等で脳切片を観ることによって検出可能な緑色蛍光タンパク質(GFP)のようなマーカーを発現させることができる。更に、脳組織試料はまた、神経芽細胞を選択的に標識する、例えば、ポリシアル酸神経細胞接着分子(PSA−NCAM)に対する抗体のようなマーカーを用いることによって同定される、連鎖的に増殖する細胞(例えば、BrdU標識を使うことによって見られる)又は、嗅球へ向かう途中でRMS内を移動している細胞のような神経新生細胞による変化量に基づいた形態学的特徴について分析される。試験動物と対照動物の脳に於ける神経新生細胞及びそれらの子孫細胞の変化量の差は、薬剤が脳細胞及び神経新生に影響を及ぼすことを示すものである。
【0039】
(神経幹細胞の再増殖の評価)
本発明の方法の様々な変法は、薬剤が神経細胞新生に対する調節作用を有する能力を評価するために、又は幹細胞移植後の神経細胞新生を増大させるために、動物における脳髄を枯渇する工程を含む。本発明で用いられる「脳髄の再増殖」とは、内生の神経幹細胞及び前駆細胞を枯渇又は除去した後に、脳の神経新生幹細胞群が再増殖する過程を意味する。「脳髄の枯渇」とは、脳髄における神経幹細胞(神経芽細胞)及びそれらの子孫細胞の数の減少を意味する。脳髄は、例えば、放射線の照射によって枯渇させることができる。放射線照射によって脳髄を枯渇させる方法は、当該技術分野公知である。例えば、Tada Eら、Exp.Neurol.160:66−77、1999; Monje MLら、Nature Med. 8:955−962、2002を参照のこと。脳髄はまた、細胞発生を阻害し、有糸分裂を阻止し、又は脳髄で分裂している細胞を特異的に殺傷する化学物質を用いて枯渇させることができる。この種の化合物の例としては、シトシンアラビノシド、ヌクレオシド誘導体等を含むが、それらに限定されるものではない。
【0040】
脳髄の再増殖は、再増殖を達成する十分な量の幹細胞を投与することによって、実施される。神経幹細胞の十分な量とは、一個の細胞から数十万個の細胞の範囲である。上述のように試験される薬剤も動物又は幹細胞に投与されるが、幹細胞の投与の前又は後のいずれであってもよい。薬剤投与後、種々の間隔(例えば1時間、2時間、6時間、12時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、14日、21日、28日又はそれ以上)で、幹細胞を動物に導入し、動物の脳のSEZ、RMS、嗅球及び/又は海馬領域に於ける幹細胞による再増殖について、対照動物(例えば、その薬剤を投与されていない、又は幹細胞がその薬剤に接触していない点を除いては試験動物と同じ動物)の幹細胞による再増殖と比較して検査する。
【0041】
上記考察のように、一般的には、幹細胞を導入した脳髄の変化量を評価する様々な方法によって、動物脳髄の再増殖について評価することができる。例えば、GFPのような検出可能な標識を発現するように遺伝子操作された幹細胞を投与して、動物由来の脳組織試料について標識の存在及び量について分析し、幹細胞が脳髄を再増殖したことを示す指標とすることができる。
【0042】
動物における神経細胞新生を増大させる方法のより好ましい態様は、(a)試験動物の脳髄を枯渇させる、(b)動物の脳髄を再増殖するために試験動物に一つ以上の幹細胞を投与する、(c)脳髄を枯渇させることなく幹細胞療法を施された対照動物と比較して、再増殖された脳髄における神経細胞新生の増大を測定する、工程を含む。
【0043】
前記の方法は、障害に応答して脳髄が枯渇されないよいうにする、脳髄を保護する薬剤を同定するために用いることができる。公知の脳髄枯渇剤を試験動物に投与する前又は後のいずれかに保護剤候補の薬剤を動物に投与する。候補の薬剤もまた幹細胞に投与してその幹細胞を次いで動物に投与する。その結果を、候補物質ではなく公知の脳髄枯渇剤を投与した対照動物と比較する。候補の薬剤が、対照動物と比較して試験動物に於いて脳髄の枯渇防ぐ又は枯渇量を減少させれば、保護効果を持つといえる。
【0044】
(幹細胞を単離する手法)
本発明の方法のいくつかの変法は、神経幹細胞を含む幹細胞を単離することを含む。脳組織試料のような組織試料から幹細胞/前駆細胞を単離するための手法は、蛍光標示式細胞分取器(FACS)を含む周知の免疫選別法又は免疫分離法等を含む。FACSは、蛍光色素複合抗体で細胞を標識することを含む。標識された細胞は、次いで、流動細胞計数器を用いて蛍光抗体染色法に基づいて分析及び選別される。FACS用に、例えば、CD15(3−フコシル−N−アセチルラクトサミン及びLeX/ssea抗原としても知られている)、CD133(AC133)、及びレクチン結合複合糖質といった、幹細胞/前駆細胞に特異的なマーカーに結合するものであれば如何なる抗体も使用できる(例えば、Capela and Temple, Neuron 35;865−875、2002 及び Thomas LBら、Glia 17:1−14、1996を参照のこと)。
【0045】
さらに、FACS分析を行う場合、GFPのようなマーカータンパク質を駆動するネスチン、GFAP、神経βIIIチューブリン及びその他の神経細胞及びグリア細胞骨格タンパク質表現型プロモーターを用いるプロモーター駆動型の充実したプロトコルが使用される(例えば、Royら、J.Neurosci. Res.59:321,2000 及び Wangら、Dev.Neurosci.22:167,2000を参照のこと)。例えば、Capela and Temple, Neuron 35:865−875.2002を参照のこと。FACS法の概説として、例えば、Herzenbergら、Clin.Chem.48:1819−1827、2002を参照のこと。FACSを用いた神経幹細胞を選別する手法は、例えば、Murayamaら、J.Neurosci.Res.69:837−847、2002及びOstenfeldら、Brain Res.Dev.Brain Res.134:43−55.2002に記載されている。
【0046】
マーカー遺伝子を駆動するプロモーターで遺伝子を導入した後に、高勾配磁場細胞選別法(磁場活性化細胞選別法、MACS)、免疫バニング(immunopanning)、又は選択法のような、その他の分離方法も用いることができる。免疫磁気分離及び選別技術は一般に、細胞を標的細胞型に見られる表面抗原に特異的な一次抗体と培養し、標的細胞を磁気ビーズ(例えば、磁気粒子に結合した抗CD15抗体)に免疫学的に結合して、その後、磁場を用いて不均一性の細胞群から標的細胞を分離することを含む。MACSを用いて前駆細胞を単離するプロトコールは、例えば、Martin−Henalら、 Bone Marrow Transplant 18:603−609、1996に記載されている。免疫磁気プロトコールも、例えば、Wrightら、 J.Neurosci Methods 74:37−44、1997に記載されている。
免疫バニング法は、所定の細胞マーカーを結合する抗体で組織培養皿をブレーティングし、その皿に細胞をブレーティングして、非結合細胞を洗い除き、そしてトリプシン分解により抗体に結合した標的細胞を単離することを含む。免疫バニング法は、当該技術分野で周知であり、例えば、Mi and Barres J.Neurosci.19:1049−1061、1999;Ben−Hurら、The Journal of Neuroscience 18:5777−5788、1998; Ingrahamら、 Brain Res Dev Brain Res 112:79−87、1999;Murakamiら、J. Neurosci.Res.55:382−393、1999及びOreffoら、 J.Cell Physiol.186:201−209、2001に記載されている。
【0047】
更に、免疫選別法と免疫分離法の組み合わせは、脳組織試料から幹細胞/前駆細胞を単離するために用いることができる。例えば、磁気マイクロビーズ選択に続いて、アビジンが被覆されたセファデックスビーズのカラムにビオチン化された抗体を適用するか、又は、免疫親和性カラムのような、免疫吸着技術を使用することができる(Johnsenら、Bone Marrow Transplant 24:1329−1336、1999;Lang ら、Bone Marrow Transplant 24:583−589、1999;Handgretingerら、Bone Marrow Transplant 21:987−993、1998)。選別技術のその他の例には、磁気細胞分別機の使用に続いて免疫磁気ビーズに結合した抗幹細胞/前駆細胞特異的マーカー抗体(例えば、抗体CD15)による選択工程を行うことが含まれる(Martin−Henaoら、Transfusion 42:912−920、2002)。2つのMACS系の組み合わせも、本発明の方法に於いて用いることができる(Langら、Bone Marrow Transplant 24:583−589、1999)。
【0048】
便宜的に、脳組織試料から幹細胞/前駆細胞を単離するために上述の方法に用いられる抗体は、特定の細胞型の分離を容易にするために、例えば、磁気ビーズ、ビオチン(これはアビジン又はストレプトアビジンに高い親和性で結合する)、蛍光色素(これはFACSで用いられる)、ハプテン等を用いて、標識化される。多色分析は、FACS又は免疫磁気分離と流動細胞計数器との組み合わせにおいて用いられる。多色分析は、例えば、上述の神経対グリアの細胞骨格タンパク質(例えば、ネスチン、GFAP、及び神経βIIIチューブリン)を含む非表面表現型マーカーと同様に、例えばCD15、CD44、CD133、及びレクチン結合体等の多様な表面抗原に基づいた細胞分離のために重要である。多色分析に用いられる蛍光色素は、例えばフィコエリトリン及びアロフィコシアニンのようなフィコビリンタンパク質、フルオレッセイン及びテキサスレッドを含む。陰性の表示は、染色レベルが、アイソタイプ適合の陰性対照の鮮やかさ程度又はそれ以下であることを示している。不鮮明な表示は、染色レベルが、陰性染色レベルに近いが、アイソタイプ適合の対照よりも鮮やかであることを示唆する。
【0049】
幹細胞/前駆細胞の単離及びこれらの細胞の神経幹細胞塊培養への使用に続いて、低倍率の倒立型位相差顕微鏡での脳試料から産生される神経幹細胞塊を(例えば、数える)分析は、有益な技術である。低倍率の倒立型位相差顕微鏡を用いて神経幹細胞塊を数える一つの方法に於いて、解離した細胞は定量化されて、複数のウェル(6ウェルのような)からなる培養プレートのそれぞれのウェルに既知の密度(例えば、ウェルあたり1万細胞)でブレーティングされる。増殖因子を、適切な間隔(例えば、2週間の間、1日おきに)で添加する。神経幹細胞塊をそれぞれのウェルから集め、おだやかに沈殿させ、そして新鮮な培地中に再縣濁する。それぞれの試料の一定分量(アリコート)(例えば、50マイクロリットル)を、(ガラススライドのような)スライド上に置き、例えば、低倍率の倒立型位相差顕微鏡を用いて、神経幹細胞塊の数を測定する。
【0050】
(分化した神経系細胞系統)
脳細胞は、一旦単離されると、細胞の分化を含むいくつかの特徴で分析できる。細胞が神経細胞、星状細胞、及び乏突起膠細胞に分化したことを確かめるために、細胞は、細胞特異的マーカー(例えば、星状細胞のためにはGFAP、神経細胞のためにはβIIIチューブリン、及び乏突起膠細胞のためにはO4)の存在を測定するために、例えば、免疫細胞化学、又は逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)の対象とされる。様々な神経系又はグリアタンパク質に特異的な抗体は、分化した細胞の表現型特性を同定するために用いられる。神経細胞は、例えば、神経細胞特異的なエノラーゼ、ニューロフィラメント、タウ、βIIIチューブリン、又はその他の公知の神経細胞マーカーに対する抗体を使って同定することができる。星状細胞は、例えば、GFAP又はその他の既知の星状細胞マーカーに対する抗体を使って同定することができる。乏突起膠細胞は、ガラクトセレブロシド、O4、ミエリン塩基性タンパク質又はその他の公知の乏突起膠細胞マーカーに対する抗体を用いて同定することができる。グリア細胞は一般に、M2抗体又はその他の公知のグリアマーカーに対する抗体で染色して同定することができる。
【0051】
細胞の表現型は、それらの表現型により特徴的に産生される化合物を同定することによって、同定することも可能である。例えば、アセチルコリン、ドパミン、エピネフリン、ノルエピネフリン等のような神経伝達物質の産生によって神経細胞を同定することも可能である。
【0052】
(動物)
多くの異なる種属の対象は脳髄及び神経系の障害を持つので、本発明は多くの種類の動物対象に適応可能であると信じられる。そのような動物の非包括的な典型例のリストには、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウシ、イヌ、ネコ、並びに、サル、類人猿及びヒトのような霊長類のような哺乳動物を含む。本明細書で記述される実験において、対象としてマウスが使用された。それでも、ここに教示される方法を医療又は獣医学(例えば、対象動物の体重に従って投与される薬剤の量を調節すること)で知られるその他の方法に適用することにより、本発明の試験は、その他の動物への使用のために容易に最適化することができる。
(実施例)
【0053】
概評
実施例に記載されている本発明を実施するにあたり、以下の材料及び方法を用いた。
【0054】
試験動物としては、IACUCの規則を遵守してフロリダ大学のアニマルケアサービス部門で飼育された、メスのC57BL/6マウス(3ヶ月齢超)をモデル系として用いた。
【0055】
照射及び骨髄の再構成
試験動物を、照射用の網ガラス容器の個々の部屋の中に入れた。850ラドまで照射できるガンマセル40照射器内でセシウム137線源への曝露することにより致死照射(LI)を行った。即死を誘発することはないが、生存細胞の骨髄を枯渇するには十分な照射量である。照射直後に、LIマウスをイソフルランで麻酔し、造血系の生存と再増殖を促進するために“救済量”の1×10個の全骨髄(WBM)細胞を後眼窩洞(ROS)を介してそれぞれのマウスに投与した。犠牲にする同腹の子(イソフルランによる麻酔の後、頚椎脱臼により犠牲にされた)の大腿部からWBMを単離し、10ミリリットルのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で洗浄し、血球計で計数した後、適量のPBSに再縣濁した。1ミリリットルのインスリンシリンジに装着した32ゲージの針を、ROSに挿入して、150マイクロリットルの容量でWBMを注入した。動物を回復させて通常の動物飼育室に戻した。
【0056】
組織の免疫組織化学
野生型(WT)及びLI動物の両方に、3級ペンチルアルコールとトリブロモエタノールを用いて調製した致死量の麻酔薬アヴァーチンを投与した後、左心室を通してパラホルムアルデヒド(PFA)の4%PBS溶液で還流した。還流後、脳を取り出し、4%PFA中、4℃で一晩、後固定し、その後、ライカ製のサファイア製の刃を装着したビブラトーム(モデルVT−1000−S)を用いて、冠状断面又は矢状断面のいずれかに沿って40マイクロメートルの厚さで連続的に切片化した。免疫組織化学のための組織を、10%ウシ胎児血清、5%ドライミルク、及び0.01%トリトンX−100を含むPBS中、室温下、1時間ブロッキングして調製した。一次抗体(抗βIIIチューブリンモノクローナル抗体:プロメガ、Madison、WI;G712A、1:1000;抗βIIIチューブリンポリクローナル抗体:コバンス、Prinston、NJ;PRB−435P、1:5000;抗ポリシアル酸神経細胞接着分子[PSA−NCAM]モノクローナル抗体:ケミコン、Temecula、CA;MAB5324、1:100;抗BrdUモノクローナル抗体:ヒトハイブリドーマバンク、Manassas、VA;1:30;抗グリアフィブリラリ酸性タンパク質[GFAP]ポリクローナル抗体:イムノン シャンドン、Pittsburgh、PA;1:100)を4℃で一晩、穏やかに撹拌しながら切片に適用した。
【0057】
残存する一次抗体を、5分間3回の洗浄(0.01%トリトンX−100を含むPBS)によって除去し、そして二次抗体(ローダミンレッド−X修飾抗マウスIgGヤギ抗体:モレキュラープローブ、Eugene、OR;R−6393、1:500;テキサスレッド修飾抗ウサギIgG抗体、ベクターラボ;TI−1000、1:500;フルオレッセイン修飾抗ウサギIgG抗体、ベクターラボ、Burlingame、CA;FI−1000、1:500)を室温で50分間適用した。最後に、切片をPBSで5分間3回洗浄し、プラスに荷電したガラススライド(フィッシャーブランド、Pittsburgh、PA スーパーフロスト/プラス(登録商標)、12−550−15)上に搭載して、37℃で15分間乾燥してから、ベクタシールド(ベクターラボ、Burlingame、CA;H−1000)の封入剤で覆った。切片を、ツァイス(Thornwood、NY)のアキシオプラン2直立型顕微鏡又はライカ(Wetzlar、Germany)のモデルDMLBのいずれかを用いた蛍光顕微鏡により、分析し、写真撮影した。
【0058】
BrdU標識による増殖細胞の同定
致死量の放射線を照射して3週間又は3ヶ月後、WT及びLIマウスに、5−ブロモ−2’−デオキシウリジン(BrdU、シグマ、St.Louis、MO;B−5002)を1日に3回3日間腹腔内(IP)注入(単回注入あたり3マイクログラム/300マイクロリットル)により投与した。その脳を、上記のように固定し、取り出して、上記のように切片化した。切片を、65℃で2時間、2XSSC/フォルムアミド(1:1)溶液中で第一培養して、BrdU用の免疫組織化学のために調製した。室温下、2XSSCで5分間洗浄後、切片を37℃で30分間、2規定の塩酸中で培養した。最後に、切片を、室温下で10分間、0.1Mのホウ酸緩衝液中で洗浄し、その後、上述のように抗BrdUモノクローナル抗体及び抗βIIIチューブリンポリクローナル抗体で二重免疫標識のために処理した。
【0059】
連続した冠状断面を、盲検法の形式(別々の研究者によってコード化されスコア化された切片)を用いて、SEZ内のBrdU陽性細胞について分析した。分析されたSEZの領域は、側脳室の下方先端から側脳室の壁に上方に沿って(およそ5細胞体分深い領域)側脳室の背側部の角から700マイクロメートル伸長した位置へ伸長する領域を包含するものであった。特に、BrdU陽性の神経芽細胞の存在については切片を40倍の倍率で分析した。その分析領域は、全ての切片(動物あたり3隣接切片)で保たれ、候補隣接切片は、前交連(AC)が側脳室(LV)の最も腹側(ventral most point)の側面にある切片であった。分析された領域は、LVの最も腹側部分から、側脳室の壁に沿って伸長し、その後、側角から側方に700マイクロメートルすすんだ領域を含んでいた。LVの壁に沿った領域は、線条体(ST)へ5細胞深く伸びていた。その組織の両焦点面における細胞を分析して、その総数を計算した。側脳室の壁に並んだBrdU陽性(赤く染色された)細胞も、βIIIチューブリンに陽性(緑色)に染色した。その確定された領域を、その組織の両焦点面において40倍の倍率で慎重に分析した。
【0060】
切片間の整合性を保つために、BrdU標識細胞を、抗体蛍光強度に関わらず、“陽性”として記録した。組織あたり3枚の隣接切片を、切片間の一致した目印として前交連の位置を用いて、記録した。細胞数を集計し、平均化して、マイクロソフト(Redmond、WA)エクセル(登録商標)表計算を用いて図示した。値の統計的有意性を、P値が0.05未満のとき有意であるとみなされる、対応ステューデントのt−検定分析により決定した。
【0061】
細胞培養
SEZの神経幹細胞(NSC)に及ぼす致死量の放射線照射の影響を比較分析するため、(Laywell EDら、 In:Zigova Tら、eds.Methods in Molecular Biology,Vol.198,Neural Stem Cells;Methods and Protocols,Humana.Press Inc., Totowa.NJ2002,pp.15−27.)に記載されているように、WT及びLI動物から培養神経幹細胞塊(NS)を産生した。即ち、動物をイソフルランで麻酔して、断頭した。脳を取り出し、氷冷した滅菌済み解剖台に載せて、嗅球、小脳、海馬、線条体の外側部及び側面と背面の大脳皮質を取り除くことにより、SEZを含む長方形の前脳の塊を得た。その塊を、滅菌された外科用メスで細かく刻み、抗生物質及び抗真菌薬(ペニシリン−ストレプトマイシン、ギブコ/インビトロジェン、Carlsbad,CA;15140−122、ファンギソンアンチマイコティック、ギブコ/インビトロジェン、Carlsbad,CA;15295−017)を含む氷冷PBS内に10分間置いた。
【0062】
その後、細かく刻んだ組織を4℃、1分間に1100回転で、5分間遠心して、EDTA(ギブコ/インビトロジェン、Carlsbad、CA;25200−056)を含む0.25%トリプシン3ミリリットルに再縣濁し、次いで37℃で5分間培養した。1ミリリットルのウシ胎児血清を添加してトリプシンを中和した後、連続して直径が減少する火で磨かれたパスツールピペットでその組織を分注して、単一細胞縣濁液に粉砕投入(triturated)した。細胞を、4℃、5分間、1100rpmで、DMEM/F12(ギブコ/インビトロジェン、Carlsbad,CA;11330−032)中で洗浄し、DMEM/F12、5%FBS、L−グルタミン(ギブコ/インビトロジェン、Carlsbad,CA;25030−081)、N−2補給剤(ギブコ/インビトロジェン、Carlsbad,CA;17502−048)、組み換えヒトEGF(20ナノグラム/ミリリットル、R&Dシステム、Minneapolis、MN;236−EG)及び組み換えヒトFGF(10ナノグラム/ミリリットル、R&Dシステム、Minneapolis、MN;233−FB)からなる生育培地に再縣濁した。細胞を、非吸着6ウェルプレート(コースター、Kennebunk、Maine;3471)に1000細胞/cmの密度で撒いた。2日ごとに、培養液にEGF及びFGF(それぞれ20ナノグラム/ミリリットル及び10ナノグラム/ミリリットル)を補給された。
【0063】
神経幹細胞塊産生に対するLI効果についての二重盲検分析
NS産生に対する致死量の放射線照射の効果を測定するために、3匹ずつのWT及びLIマウス(致死量の照射後2ヶ月、齢を適合させた)由来培養物の公平な調製及び検討が可能な二重盲検実例を用いた。即ち、動物を犠牲にし、研究者Aが脳を取り出し、それぞれの脳に識別番号(1〜6)を付与した。その後、研究者Bが、それぞれの脳から同様にSEZ(上述のように)を取り出した。次いで単離したSEZ組織を、文字と数字のコードの両方を知る唯一の個人である研究者Cが、文字(AからF)により再コード化した。その後、組織を研究者Aに戻し培養(上述のように)及び定量化した。
【0064】
NSは、14日目にインビトロで回収し、沈殿させ、2ミリリットルの培地に再縣濁した。NSの収量を測定するために、それぞれの培養液から採取したそれぞれ50マイクロリットルのアリコート4つを、12ウェルの組織培養プレートに撒いた。アリコートは、ニコンの倒立位相差顕微鏡で4倍及び10倍の倍率で、“スポット(登録商標)”プログラムの使用してNSの直径を測定して、分析した。直径40マイクロメートル以下のNSを、肥大した細胞との混乱の可能性を避ける方法として除外した。さらに、強い位相差では輝度が大きく境界が不明瞭な、NS基準を示さなかった球状の凝集体は数えなかった。アリコート当たりの塊の総数が測定され、次いでこれらの数字から、それぞれの培養物の総収量及び百分率収率を計算した。値の統計的有意性は対応のステューデントのt−検定分析によって測定し、P値が0.05未満である場合に有意性が有るとされた。分析の結果、コードは解読され、培養物が識別された。
【0065】
野生型及びLIマウス由来の培養神経幹細胞塊の免疫組織化学的分析
NSを、2マイクロリットルにセットした手持ちピペッターを使って、その培養液から採取し、ラミニン/ポリ−D−リジンで被覆した、各室に仕切られた培養スライド(ベクトン/ディッキンソン、Palo Alt,Ca;カタログ番号352688)上の5%FBSを含むDMEM/F12中に載せた。塊を接着して2日間分化し、その後培地を除去して、細胞を室温下、30分間、4%PFAを含むPBS溶液中で培養して固定した。固定後、細胞を上記のようにβIIIチューブリン及びGFAPに対する抗体で免疫標識するために処理した。
【実施例1】
【0066】
動物からの脳髄単離
動物の脳(例えば、RMS、SEZ、海馬)の部分は、外科的に取り出し、機械的により小さな組織片に分離することができる。脳組織をより小さな組織片に機械的に分離するような方法の一つには、脳組織をかみそりの刃で細かく刻むことが含まれる。さらにその小片を単一細胞の懸濁液に分散するために、組織片をトリプシン、パパイン及び/又はヒアルロニダーゼのようなタンパク質分解酵素を含む溶液中で培養する。そのような培養の例としては、組織片をトリプシン/EDTA溶液中で37℃、10分間培養することが挙げられる。その他の例としては、14ユニット/ミリリットルのパパイン又は1.3ミリグラム/ミリリットルのトリプシン及び0.67ミリグラム/ミリリットルのヒアルロニダーゼ中で、静かに揺らしながら1時間培養することが挙げられる。
【0067】
酵素を含む溶液で培養した後に、その組織はパスツールピペット(例えば、火で磨いたパスツールピペット)を用いてさらに機械的に分散してもよい。その組織を単一細胞の懸濁液に一旦分散させて、細胞を適切な培地で洗浄する(例えば、N2補給剤(インビトロジェン、Carlsbad、CA;Cat.#17502048)及び5〜10%のウシ胎児血清(FBS)を含む基本培地で2回洗浄、又はDMEM(ギブコ、Carlsbad、CA)で洗浄する)。洗浄後、組織を適切な培地(例えば、5%FBS、20ナノグラム/ミリリットルのEGF及び20ナノグラム/ミリリットルのbFGFを含むN2補給された培地又はDMEM)中で、単一細胞の懸濁液になるように再縣濁する。脳組織試料中の細胞は、その後、以下の記載のように神経幹細胞塊の培養に適当な条件下で培養する。
【実施例2】
【0068】
神経幹細胞塊の形成
単離した神経系細胞は通常、神経幹細胞塊の成長及び増殖が可能な培地中で培養する。単離した細胞を増殖する培養液は、多能性神経幹細胞の増殖に効果的な、一つ又はそれ以上のあらかじめ決定された成長因子を含む無血清培地を用いることができる。白血球阻害因子(LIF)、上皮成長因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF−2;bFGF)から選択される成長因子又はそれらの組み合わせを培地に補給してもよい。さらに、神経生存因子(NSF)(SanDiego、CA)及び/又はウシ胎児血清を培地に補給してもよい。この方法に従って培養した神経幹細胞塊は、グリアの線維性酸性タンパク質(GFAP;星状細胞のマーカー)、ニューロフィラメント(NF;神経細胞のマーカー)、神経細胞特異的エノラーゼ(NSE;神経細胞のマーカー)又はミエリン塩基性タンパク質(MBP;乏突起膠細胞のマーカー)に対して免疫反応性がない。しかしながら、神経幹細胞塊の中の細胞は、多種類の未分化なCNS細胞(Lehndahl ら、Cell 60:585−595,1990)に見られる中間径フィラメントタンパク質であるネスチンに対し免疫反応性がある。
【0069】
同定、培養、成長、及びヒトを含む哺乳動物の使用、懸濁培養又は接着培養のいずれかでの神経幹細胞の培養は、Weissらの米国特許第5750376号公報、Weissらの米国特許第5851832号公報、国際公開第98/30678号公報、国際公開第02/14479号公報、及びLaywellらのMethods in Molecular Biology 198:15−27,2002に開示されている。Kukekovらの米国特許第6638763号公報は、細胞と細胞及び細胞と薬剤の相互作用を防止するメチルセルロース又はほかの因子を使う懸濁培養方法を開示している。さらに、Joheの米国特許第5753506号公報は、接着性CNS神経幹細胞の培養について言及している。
【実施例3】
【0070】
脳細胞に於ける薬剤の効果の分析
脳髄の特定の構成要素は、既に特徴付けられている。成熟マウスの脳室周囲の上衣下層(SEZ)に於いて、側脳室から嗅球(OB)へと伸長する吻側細胞移動路(RMS)を取り巻く細胞外マトリックス(ECM)タンパク質であるテナシンを含む、発達するように調節されている分子の持続的な発現が確立されている。骨髄内に観察されるものと同様、脳髄内の高密度のECMは、例えばテナシンに対する抗体を用いて、脳切片内に可視化することができる。髄組織は、持続的な細胞増殖を示すものとして特徴付けられているが、脳髄の場合は、持続的な神経細胞新生である。
【0071】
神経βIIIチューブリンに対する抗体を用いる対照成熟マウス由来のSEZを含む矢状方向の脳切片の免疫染色は、脳髄を通って嗅球に移動するまでの経路に於いて後外側方向の指向性をほとんど持たない高密度の免疫陽性の未成熟な神経細胞塊の存在を明らかにした。犠牲にする3時間前に細胞増殖マーカーのBrdUを全身性に注入されたマウスに於いて、神経βIIIチューブリンに免疫陽性の細胞もBrdUに対しても陽性であり、このことは未成熟神経細胞の増殖を証明している。
【0072】
脳髄は、上記で実施されたように照射後7日目の齢を適合させた成熟マウスで、同様の方法で観察した。前脳を通る側矢状切片において、βIIIチューブリン抗体での免疫染色は、照射後SEZ/RMS内に存在していなかった。このように神経細胞新生は、照射処理により、これらの動物に於いて大きく減弱していた。
【実施例4】
【0073】
幹細胞/前駆細胞に於ける再増殖に関する考察
マウスに、上述のような脳髄を枯渇させる亜致死性の照射手順を行った。緑色蛍光タンパク質(GFP)で標識された神経幹細胞を、マウスの脳室系に移植した。移植された神経幹細胞の高倍率及び低倍率の画像を検討した。
【0074】
その結果は、GFP標識細胞がSEZにうまく取り込まれ、そしてRMS中に神経芽細胞として移動し始めたことを示した。さらに、GFPを発現している幹細胞は、照射され枯渇した海馬に戻り、そしてその位置で機能的に一体化されていくのが観察された。細胞は、照射された動物の海馬歯状回内で、正常な位置を占め、分化プログラムを開始した。このようにして、神経幹細胞の移植により、枯渇した脳髄を再増殖することができた。
【実施例5】
【0075】
全身照射によるSEZにおける神経細胞新生の枯渇
この実施例は、マウス脳のSEZ、RMS及びOBへ移動する神経芽細胞に対する薬剤(すなわち、イオン化照射の単回致死量)の効果を示す。
【0076】
マウスに致死量のX線を照射し、その後、小さくなった(ablated)造血系の回復を可能にするために救済量の野生型骨髄を補給した。LI後2週間で、その動物を、4%のパラホルムアルデヒドで還流して、それらの脳を40マイクロメートルの厚さの矢状断面に切片化した。移動する神経芽細胞に特異的なマーカーであるPSA−NCAMに対する抗体を、組織に適用し、切片を20倍の倍率で写真撮影した。
【0077】
野生型(WT)対照動物に於いて、PSA−NCAM陽性の神経芽細胞は豊富にあり、脳室から嗅球へ伸長していることが見られた。これらの切片に於いて、RMSを通って上衣下層から嗅球へ神経芽細胞が移動するのが、PSA−NCAM陽性細胞の明確な連鎖として視覚化された。
【0078】
致死量の照射(LI)2週間後、照射されたマウスは、RMSに於けるPSA−NCAM陽性神経芽細胞の数に顕著な減少を示した。これらの脳切片の写真は、LIマウスのRMSから移動する神経芽細胞の枯渇を示した。この観察は、WT及びLIマウス両方の脳由来の組織切片を総神経マーカーβIIIチューブリンで染色した後、確認された。神経芽細胞の枯渇は、RMSに於ける細胞の小さなポケットを保持しているいくつかの動物で、変わりやすかった。しかしながら、LIマウスのRMSにおける移動している神経芽細胞の大多数は、未処置のマウスに見られるものとは決して同様のものではなかった。さらには、移動する神経芽細胞の容量は、LI後3ヶ月においてさえ、対照動物においてみられるレベルにまで回復しなかった。これらの知見により、イオン化照射に曝露することはSEZの神経芽細胞産生細胞に永久的な障害をもたらす、という結論に至った。
【0079】
SEZに於ける神経芽細胞の枯渇の分析及び定量化
LIによって誘発される神経芽細胞の枯渇の程度を定量する目的で、SEZ(Thomas MAら、Glia17:1−14.1996)内の分裂細胞を標識するため5−ブロモ−2’−デオキシウリジン(BrdU)を用いた。即ち、LI(それぞれの条件でn=4)後3週間及び3ヶ月で、処置及び未処置マウスに、1日当たり3回3日間BrdUを腹腔内投与し、その後犠牲にした。前交連(AC)のレベルで連続した冠状断面にβIIIチューブリン及びBrdUに対する抗体で免疫標識したとき、WT動物のSEZは、分裂する神経芽細胞の明確な層を含んでいた。LI後3週間で、この同じ領域は、新しく産生された神経芽細胞が有意に減少していることを示し、この枯渇はLI後3ヶ月持続した。
【0080】
図1は、それぞれの条件(各条件マウス4匹、動物あたり3切片)のBrdU陽性細胞数をグラフで示したものである。野生型又はLIマウスいずれかの3枚の隣接する冠状断面におけるBrdU陽性神経芽細胞の総数は、集計され、上記のようにグラフ化された。
【0081】
対照と比較して、3週目の時点で、BrdU陽性細胞の数がおよそ60%減少したことを観察した。対応ステューデントのt−検定分析により、この減少が有意なものである(p値=0.003)ことが確認された。対照と比較して3ヶ月目の時点でBrdU陽性細胞の数は87%減少し、有意性の値は、ステューデントのt−検定により測定された(p値=0.002)。LI後3週間及び3ヶ月の間で、BrdU陽性細胞数は68%減少しており、また有意であった(p値=0.03)。
【0082】
βIIIチューブリン免疫標識により、記録された細胞が、実際に、この領域に常在しているほかの分裂細胞ではなく神経芽細胞であることが確定された。対照マウスでもLI後3ヶ月マウスでも、BrdU陽性細胞は、βIIIチューブリンに対して陽性に染色された。このデータは、RMSにおける移動する神経芽細胞の減少がSEZ内に反映していること、及びこの枯渇が有意であり、長期にわたるものであることを確定するものである。
【0083】
培養における神経幹細胞塊の収率に対するLIの作用
神経幹細胞塊を形成する細胞が、神経幹細胞のインビトロに於ける発現であることは、よく認識されていること(Reynolds BAandWeiss S, Science255:1701−10, 1992)であるので、我々はSEZにおける幹細胞のプールがLIによって影響を受けるかどうかを決定するために、WT及びLIマウス両方由来の神経幹細胞塊を二重盲検法の形式で培養した。SEZ組織を、野生型の成熟マウス及び2ヶ月前にLIされた成熟マウスの両方由来のNSを産生するために、同じやり方で処置されたあらゆる組織とともに培養した。結果的なNSの収率は、上述の手順に従って測定された。図2に示されるように、その結果は、LI脳から培養された神経幹細胞塊が、WT培養と比べて、平均しておよそ77%の収率で減少することを示した(p値=0.02)。この減少は、致死照射後にインビボに於けるBrdU陽性の神経芽細胞の減少したレベルとよく一致しており、この知見の確実性をさらに支持するものである。
【0084】
SEZに於ける幹細胞の総数は、分散されたSEZ組織由来の神経幹細胞塊の収率によって決定され、全細胞のおよそ0.02%〜1.0%であることが報告されている( Reynolds BA and Weiss S, Science255:1701−10,1992;Reynolds BA and Weiss S,Dev.Biol.175:1−13,1996;Weiss Sら、J.Neurosci.16:7599−7606,1996)が、本研究におけるWT脳由来の神経幹細胞塊の平均収率はこの範囲内にある(0.15%)。致死量の放射線を照射された脳から単離されたNSの平均収率は0.03%と有意に低下しており、このことは致死量の放射線照射への曝露が、NS産生の元となる脳のNSCの数を枯渇させることを示している。
【実施例6】
【0085】
神経細胞新生に関する抗レトロウィルスヌクレオシド類縁体の作用
一般に処方される抗レトロウィルス薬のAZT(3’−アジド−3’−デオキシチミジン)は、ジデオキシチミジン、ジデオキシシチジン、ジデオキシイノシン、及び3TCのようなほかの同様なDNA連鎖停止剤と同様、成熟哺乳動物の脳の海馬及び上衣下層(SEZ)内での持続的な神経細胞新生に対して有害な作用を有しているかもしれない。AZT及び上述されたその他の薬剤は、選択的な逆転写酵素阻害剤として市販されているが、いずれもDNAポリメラーゼによって、伸長するDNA鎖に取り込まれるときに、鎖の形成を停止することによって作用する。
【0086】
神経細胞新生に対するAZTのようなDNA連鎖停止剤(ヌクレオシド類縁体)の作用は、次の実験例によって試験される。成熟マウスの4群(それぞれの群でnは4より大)に、皮下に埋め込まれたAlzetの浸透圧ミニポンプ(Cat.#2004、Durect Corp.、Cupertino、CA)を介して、AZTを0、10、50、又は100mg/kg/日の用量で投与する。これらのポンプは、1時間当たり0.25マイクロリットルの溶液を28日間に亘り放出する。AZTは、0.9%の滅菌生理食塩水に適切な濃度に溶解する。0mg/kg/日のAZTを投与する対照マウスには、滅菌生理食塩水だけを満たしたミニポンプが埋め込んである。アヴァーチン麻酔下で、充填されたポンプは、動物の背中の皮膚内の皮下ポケットに埋め込んであり、実験期間中その位置にある。
【0087】
28日後(そのポンプの注入能力の終わり)に、動物に、例えば、SEZ及び海馬内の、増殖細胞を標識するために、ブロモデオキシウリジン(BrdU)を単回注入する。さらに1週間後、動物に4%パラホルムアルデヒドを含む緩衝液を経心臓的に還流して、それらの脳を取り出し、そしてミクロトームを用いて傍矢状面で切片にする。海馬(新たに産生された海馬神経細胞の究極の目的地)の歯状回及びSEZを通る選択された切片を、BrdU及び、NeuN又はβIIIチューブリンのような、神経細胞特異的タンパク質で免疫標識し、そして新たに産生された神経細胞(両マーカーで二重標識されている)の数を上述のように定量する。さらに、いくつかのSEZ試料を、電子顕微鏡(EM)を用いて超微細構造の完全性について分析する。SEZの微細構造は、よく確立されており、EM分析はこの神経細胞新生領域に対する障害を検出するために有用である。特に、AZTの有害作用は、最終的に吻側細胞移動路を通り嗅球へと移動する、SEZで生まれた神経系前駆細胞を表すSEZ“A”細胞のネクローシス又はアポトーシスにより顕在化する。さらには、ほかのSEZ細胞構成要素(すなわち“B”及び/又は“C”細胞)に対する障害又はその消失は、上衣細胞層のすぐ下の領域に蓄積した細胞の残骸から明らかである。
【0088】
固定された組織切片に新しく産生された神経細胞の定量化に加えて、4つの実験群に於ける動物の脳由来の神経幹細胞塊を産生する相対的能力も評価する。上述のように、神経幹細胞塊はインビボ神経幹細胞のインビトロ関連物(correlate)であると考えられる。それゆえ脳内の神経細胞新生を司る細胞の障害は、培養皿における神経幹細胞塊産生能力が減少することからも明らかである。薬剤送達期間の28日の終わりに、動物をイソフルランで軽く麻酔して、断頭する。それぞれの動物由来のSEZ及び海馬を、荒い切片にして、神経幹細胞塊産生条件下で培養する(上記実施例2参照)。それぞれの脳由来の神経幹細胞塊の収率は、実験の諸条件下での、神経幹細胞塊を産生する能力の違いを明らかにするために測定される(上記実施例5参照)。
【0089】
(その他の態様)
本発明は、その詳細な説明とともに記載されてきたが、これまでの記述は例示のためのものであり、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲をなんら限定するものではないということを理解されたい。その他の態様、効果、及び修飾は、前記の特許請求の範囲内のものである。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1は、野生型及び致死量の放射線を照射された(LI)成熟マウスの側脳室上衣下層(SEZ)に於けるBrdU陽性神経芽細胞の数の定量化を示すグラフである。
【図2】図2は、成熟SEZから単離された神経幹細胞塊(NS)培養物に対するLIの効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)薬剤を試験動物に投与する;
(b)上衣下層、連続した吻側細胞移動路、嗅球及び海馬からなる群より選択される領域に於ける、試験動物の脳組織の細胞の一つ以上の特徴を決定する;及び
(c)細胞の一つ以上の特徴を、薬剤を投与されていない対照動物の同一領域に於ける脳組織の細胞の特徴と比較し、前記比較による試験動物と対照動物の特徴の差が、前記薬剤が脳細胞に対して調節作用を有していることを示唆するものである;
工程を含有してなる、薬剤の脳細胞に対する調節作用を分析する方法。
【請求項2】
薬剤が薬物、細胞、低分子化合物、ペプチド、核酸、又はヌクレオシド類縁体の一つ以上を含有してなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ヌクレオシド類縁体が、アジドチミジン、ジデオキシイノシン、ジデオキシチミジン、ジデオキシシチジン、及びシトシンアラビノシドからなる群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
薬剤が放射線照射を含有してなる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
薬剤が、前記の脳組織又は前記の脳組織に由来する細胞に於いて、神経細胞新生を調節する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
特徴が、分裂指標、細胞マーカーの発現、脳髄に於ける神経芽細胞の移動、アポトーシス及びネクローシスからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記脳組織の試料が前記動物から取り出されたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記試料が分離され、組織培養されたものである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
組織培養が神経幹細胞塊の形成を促進する条件下でなされるものである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
細胞の一つ以上の特徴を決定する工程(b)が、組織培養に於いて形成される神経幹細胞塊の数を測定することを含有してなる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
細胞の一つ以上の特徴を決定する工程(b)が、組織培養に於いて形成される神経幹細胞塊の細胞構成を分析することを含有してなる、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
細胞の一つ以上の特徴を決定する工程(b)が、神経細胞、星状細胞、又は乏突起膠細胞からなる一つ以上の細胞型に特異的なマーカーの発現を検出することを含有してなる、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
(a)試験動物に一つ以上の幹細胞を投与する;
(b)幹細胞又は試験動物に薬剤を投与する;
(c)幹細胞を投与された試験動物の脳髄に於ける変化量を分析する;及び
(d)試験動物の前記変化量を、対照幹細胞、対照動物のどちらにも当該薬剤が投与されていない、対照幹細胞を投与された対照動物に於ける変化量と比較し、試験動物及び対照動物に於ける幹細胞による変化量の差が、薬剤が動物の神経細胞新生に効果があることを示唆するものである;
工程を含有してなる、動物の神経細胞新生に於ける薬剤の効果を測定する方法。
【請求項14】
幹細胞が検出可能な標識を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
試験動物又は対照動物の脳髄に於ける変化量を分析する工程(c)又は(d)が、SEZ、連続したRMS、嗅球、及び海馬からなる群より選択される、試験動物又は対照動物の一つ以上の組織に於いて検出可能な標識の量を定量することにより実施される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
幹細胞が、神経幹細胞、非神経組織由来の体性幹細胞、及び胚性幹細胞からなる群より選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
幹細胞が、CD15、CD133及びCD44からなる群より選択される細胞表面マーカーを発現する、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
幹細胞が、遺伝子操作されている、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
試験動物及び対照動物に於いて脳髄を枯渇させ、投与された幹細胞による試験動物と対照動物に於ける脳髄の再増殖を比較する工程を更に含有してなる、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
(a)試験動物の脳髄を枯渇させる;
(b)前記試験動物の脳髄を再増殖させるために試験動物に一つ以上の幹細胞を投与する;及び
(c)試験動物に於ける脳髄の再増殖を、脳髄を枯渇させずに一つ以上の幹細胞を投与された対照動物に於ける脳髄の再増殖と比較し、前記比較により、試験動物に於いてより多くの神経細胞が存在することが、神経細胞新生の増大を示唆するものである;
工程を含有してなる、動物に於ける神経細胞新生を増大させる方法。
【請求項21】
幹細胞がCD15、CD133及びCD44からなる群より選択される細胞表面マーカーを発現している、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
幹細胞が遺伝子操作されている、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
幹細胞が、神経幹細胞、非神経組織由来の体性幹細胞、及び胚性幹細胞からなる群より選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
脳髄が放射線照射又は化学的な方法によって枯渇させられている、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
幹細胞が、検出可能な標識を含有してなる、請求項20に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−519393(P2007−519393A)
【公表日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522723(P2006−522723)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【国際出願番号】PCT/US2004/025317
【国際公開番号】WO2005/017189
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(506040249)ユニバーシティー オブ フロリダ リサーチ ファンデーション, インク. (3)
【Fターム(参考)】