説明

移動体、走行装置、移動体の制御方法

【課題】安価なシステムにより、より性能の高い制御を実現可能な移動体、走行装置、移動体の制御方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る移動体41は、動作状態検出手段44で移動体41の姿勢情報を含む動作状態を検出して、検出した姿勢情報と入力する姿勢情報指令とに基づいて、駆動手段42の駆動速度指令を生成し、生成した駆動速度指令と駆動速度検出手段43で検出した駆動速度とに基づいて、駆動手段42のトルク指令を生成し、速度制御手段46で生成したトルク指令に応じて駆動手段42を駆動して移動する移動体41であって、速度制御手段46は、駆動速度検出手段43で検出した駆動速度が、姿勢制御手段45で生成した駆動速度指令に追従するように速度制御を行い、姿勢制御手段45は、動作状態検出手段44で検出した姿勢情報が、入力する姿勢情報指令に追従するように姿勢制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は移動体、走行装置、移動体の制御方法に関し、特に、自己の姿勢情報を検出して、検出した姿勢情報に基づいて駆動制御を行う移動体、走行装置、移動体の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ジャイロセンサや加速度センサなどを用いて自己の姿勢情報を検出して、検出した姿勢情報に基づいて駆動制御を行う移動体が開発されている。これらの移動体では、自己に搭載したジャイロセンサと加速度センサ信号から自己の姿勢情報を検出して、倒立振子による姿勢を制御する原理により、或いは、二足歩行ロボット制御のZMP(ゼロモーメントポイント)制御の原理により、自己の姿勢を保つようにモータへの回転指令を演算し、モータ制御装置へ回転指令データを送信する。こうしたフィードバック制御により自己の姿勢を保ち、搭乗者の重心姿勢変化により走行することができる。
【0003】
例えば、人間を搭乗させて走行する走行装置であって、自己の姿勢情報を検出して、検出した姿勢情報に基づいて駆動制御を行う様々な車体構成、車両構造の走行装置が提案されている。例えば特許文献1と特許文献2には、同軸上に二車輪が配置された同軸二輪車が開示されている。このような同軸二輪車は構造上前後に不安定なものであり、姿勢センサからのフィードバックにより車輪の制御を行い姿勢を安定させる、という特徴を有している。また、前進、後退、左右旋回などの車両の操作については、乗員の重心移動による指示や、ステップの傾きによる指示や、操縦桿からの指示などにより行われている。或いは、外部からの指令入力による遠隔操作や、自己の軌道計画に基づく自律移動が行われる場合もある。
【特許文献1】特開2006−211899号公報
【特許文献2】特開2006−315666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の同軸二輪車の制御系では、姿勢検出のための演算に処理時間がかかるために、制御の性能を維持しながら高速な制御周期を実現するためには、応答の速い姿勢センサや演算能力の高い制御器(CPU)を必要とするものであった。即ち、高価なシステム(CPU(Central Processing Unit)、姿勢センサ)を使用することになり、コストがかかってしまう。反対に、安価なシステムを採用すると、制御周期が遅くなり、制御ゲインを上げられずに性能が落ちてしまう。このため、安価なシステムで、制御の性能を維持しながら高速な制御周期を実現可能な手法が強く求められている。
【0005】
以下、従来の同軸二輪車の問題点についてより詳細に説明する。従来の同軸二輪車において、車両のピッチ角度及びピッチ角速度の少なくとも一つの制御のみ、或いは、車両のピッチ角度及びピッチ角速度の少なくとも一つの制御と、車両の位置、速度、方向角度(ヨー方向)、方向速度(ヨー速度)の少なくとも一つの制御とを同時に成立させる場合には、一般的には、図11に示す制御系によりトルク指令を生成して、モータアンプに出力している。図11の姿勢制御器64では、車両ピッチ角度指令、車両ピッチ角速度指令、車両位置指令、車両速度指令などが入力され、検出器63で検出された車両ピッチ角度、車両ピッチ角速度、車両位置、車両速度などとの偏差に基づいた制御が行われる。姿勢制御器64の制御としては、PID制御、H∞制御、ファジィ制御などが用いられる。旋回制御器66では、ヨー角度指令、ヨー角速度指令などが入力され、図示しないモータのエンコーダ情報に基づいて検出された車両ヨー角度、車両ヨー角速度などとの偏差に基づいた制御が行われる。旋回制御器65の制御としては、PD制御やPID制御などが用いられる。
【0006】
図12は、特許文献1の図33に示される制御系を示す制御ブロック図である。図12に示す制御系は、図11に示した制御ブロック図をより詳細に示したものに相当する。図11に示した姿勢制御器64は、例えば特許文献1の段落(0013)の(数1)と、図12の利得K1〜K4による状態フィードバックにより示される。また、図11に示した旋回制御器65は、例えば図12の利得K5〜K7を用いて示される。
【0007】
図11に示した従来の同軸二輪車の制御系では、姿勢制御器64で生成した第1トルク指令と、旋回制御器66で生成した第2トルク指令とを加算又は減算してトルク指令とし、モータアンプからなるトルク制御器にトルク指令を出力することで、車輪62の駆動制御を行う。ここで、トルク指令を出力する制御ループ71の中には、検出器63による姿勢検出のための演算が含まれている。一般的に、トルク指令の制御ループ71では高速な制御周期を必要とするのに対して、姿勢検出のための演算には時間がかかる。このため、高速な制御周期により演算を終えるためには高速なCPU(或いは、高速に演算可能な姿勢センサ)を必要とし、システムが高価なものになるという傾向がある。反対に、制御周期を遅くして安価なCPU(或いは、安価な姿勢センサ)によりシステムを構成した場合には、ピッチ角度、ピッチ角速度、車両位置、車両速度に関する制御の性能が低下したり(即ち、安定性が低下したり、車両位置や車両速度の指令追従性が低下する。)、旋回制御の性能が低下する(即ち、方向安定性が低下する。)という弊害が生じる。
【0008】
さらには、従来の同軸二輪車では、走行中に片輪が浮いた場合には、浮いた車輪の負荷が急激に小さくなるが、旋回制御のロバスト性が低いために、接地側の負荷の大きい車輪と浮いた側の負荷の小さい車輪との間で発振が起き、車両の旋回方向に振動を生じて危険な状態になる場合がある。
【0009】
このように従来の同軸二輪車の制御系では、演算時間のかかる姿勢検出処理を、高速な制御周期が必要なトルク指令の制御ループ内に含むために、安価なシステムにより制御の性能を維持しながら高速な制御周期を実現することができないという問題があった。
【0010】
従って、本発明は、安価なシステムにより、制御の性能を維持しながら高速な制御周期を実現することで、より性能の高い制御を実現可能な移動体、走行装置、移動体の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る移動体は、移動体を駆動する駆動手段と、前記駆動手段の駆動速度を検出する駆動速度検出手段と、前記移動体の姿勢情報を含む動作状態を検出する動作状態検出手段と、前記検出した姿勢情報と入力する姿勢情報指令とに基づいて、前記駆動手段の駆動速度指令を生成する姿勢制御手段と、前記生成した駆動速度指令と前記駆動速度検出手段で検出した駆動速度とに基づいて、前記駆動手段のトルク指令を生成する速度制御手段と、を備え、前記速度制御手段で生成したトルク指令に応じて前記駆動手段を駆動して移動する移動体であって、前記速度制御手段は、前記駆動速度検出手段で検出した駆動速度が、前記姿勢制御手段で生成した駆動速度指令に追従するように速度制御を行い、前記姿勢制御手段は、前記動作状態検出手段で検出した姿勢情報が、前記入力する姿勢情報指令に追従するように姿勢制御を行うものである。
【0012】
これにより、姿勢制御手段が行う姿勢制御では、入力する姿勢情報指令に追従するように姿勢制御を行い、速度制御手段が行う速度制御では、演算時間のかかる姿勢検出処理を含んでおらず、姿勢制御手段で生成した駆動速度指令に追従するように速度制御を行うのみでよい。このため、速度制御手段が行う速度制御は、姿勢制御手段が行う制御と比較して相対的に高速な制御周期を実現することができる。即ち、姿勢制御手段が行う姿勢制御はより高価なシステム(CPU、姿勢センサ)を使用せずとも、従来技術と同等のCPUや姿勢センサを用いて同等の制御性能を実現することができ、同時に、速度制御手段が行う速度制御は単純な制御であるため、安価に高速な制御周期を実現することができる。従って、安価に高速化が可能な速度制御手段による制御系を、姿勢制御手段による制御系の内側の制御ループに有する構成とすることで、システム全体のコストを低下させつつ、より性能の高い制御を実現することができる。
【0013】
さらには、速度制御手段による制御系を、姿勢制御手段による姿勢制御を行う制御器に対して速い下位の制御器で行うことで、負荷変動(走行中の路面からの外乱や、車輪が浮いたことによる負荷変動)に対する高いロバスト性を実現することができる。従って、進行方向の安定性を向上させることができる。
【0014】
また、入力する旋回情報指令に基づいて前記移動体の旋回速度指令を生成する旋回制御手段を更に備え、前記姿勢制御手段は、前記検出した姿勢情報と入力する姿勢情報指令とに基づいて、前記駆動手段の姿勢速度指令を生成し、前記姿勢制御手段で生成した姿勢速度指令と、前記旋回制御手段で生成した旋回速度指令とを加算又は減算して前記移動体の駆動速度指令として前記速度制御手段に入力し、前記速度制御手段は、前記駆動速度検出手段で検出した駆動速度が、前記生成した駆動速度指令に追従するように速度制御を行うようにしてもよい。これにより、システム全体のコストを低下させつつ、姿勢制御と、速度制御と、旋回制御とを同時に成立させることができ、より性能の高い制御を実現することができる。
【0015】
さらにまた、前記移動体の速度情報指令を設定する速度情報指令設定手段を更に備え、前記動作状態検出手段は、前記移動体の姿勢情報及び速度情報を含む動作状態を検出し、前記速度情報指令設定手段は、前記動作状態検出手段で検出した速度情報を前記速度情報指令として設定し、前記姿勢制御手段は、前記検出した姿勢情報と、前記速度情報指令設定手段で設定した速度情報指令とに基づいて、前記駆動手段の駆動速度指令を生成するようにしてもよい。これにより、通常駆動時の駆動制御と速度情報指令が設定された場合の駆動制御とを、同一の制御系により両立させることができる。
【0016】
また、ブレーキレバーを更に備え、前記速度情報指令設定手段は、前記ブレーキレバーが操作された場合には、前記ブレーキレバーの操作量と前記動作状態検出手段で検出した速度情報とに応じて、前記設定した速度情報指令を変更するようにしてもよい。これによりさらに、通常駆動時の制御と、ブレーキレバーの操作に応じた速度制御とを同時に成立させることができ、より良好に移動体の駆動を制御することができる。
【0017】
さらにまた、前記速度情報指令設定手段は、前記動作状態検出手段で検出した速度情報が所定の速度制限範囲を超えた場合には、前記動作状態検出手段で検出した速度情報に応じて、前記設定した速度情報指令を変更するようにしてもよい。これにより、さらに、速度制限範囲を超えた場合の速度制御を同時に成立させることができ、より良好に移動体の駆動を制御することができる。
【0018】
本発明に係る走行装置は、同軸上に配置された複数の車輪を独立に駆動する駆動ユニットと、前記複数の車輪を連結する本体と、前記本体と前記複数の車輪との相対角速度を検出する車輪角速度検出手段と、前記本体の姿勢情報としての姿勢角度及び姿勢角速度の少なくとも一つを検出する姿勢検出手段と、前記検出した姿勢情報と入力する姿勢情報指令とに基づいて、前記駆動ユニットの車輪角速度指令を生成する姿勢制御手段と、前記生成した車輪角速度指令と前記車輪角速度検出手段で検出した車輪角速度とに基づいて、前記複数の車輪のトルク指令を生成する速度制御手段と、を備え、前記速度制御手段で生成したトルク指令に応じて前記駆動ユニットのモータを駆動して走行する走行装置であって、前記速度制御手段は、前記車輪角速度検出手段で検出した車輪角速度が、前記姿勢制御手段で生成した車輪角速度指令に追従するように速度制御を行い、前記姿勢制御手段は、前記姿勢検出手段で検出した姿勢情報が、前記入力する姿勢情報指令に追従するように姿勢制御を行うものである。
【0019】
これにより、姿勢制御手段が行う姿勢制御では、入力する姿勢情報に追従するように姿勢制御を行い、速度制御手段が行う速度制御では、演算時間のかかる姿勢検出処理を含んでおらず、姿勢制御手段で生成した車輪角速度指令に追従するように速度制御を行うのみでよい。このため、速度制御手段が行う速度制御は、姿勢制御手段が行う制御と比較して相対的に高速な制御周期を実現することができる。即ち、姿勢制御手段が行う姿勢制御はより高価なシステム(CPU、姿勢センサ)を使用せずとも、従来技術と同等のCPUや姿勢センサを用いて同等の制御性能を実現することができ、同時に、速度制御手段が行う速度制御は単純な制御であるため、安価に高速な制御周期を実現することができる。従って、安価に高速化が可能な速度制御手段による制御系を、姿勢制御手段による制御系の内側の制御ループに有する構成とすることで、システム全体のコストを低下させつつ、性能の高い姿勢角度制御と、姿勢角速度制御と、車両速度制御との同時成立を実現することができ、より性能の高い制御を実現することができる。
【0020】
さらには、速度制御手段による制御系を、姿勢制御手段による姿勢制御を行う制御器に対して速い下位の制御器で行うことで、負荷変動(走行中の路面からの外乱や、車輪が浮いたことによる負荷変動)に対する高いロバスト性を実現することができる。従って、進行方向の安定性が向上し、走行中に片輪が浮いた場合であっても安定することができる。
【0021】
また、入力する旋回情報指令に基づいて前記走行装置の旋回速度指令を生成する旋回制御手段を更に備え、前記姿勢制御手段は、前記検出した姿勢情報と入力する姿勢情報指令とに基づいて、前記駆動ユニットの姿勢速度指令を生成し、前記姿勢制御手段で生成した姿勢速度指令と、前記旋回制御手段で生成した旋回速度指令とを加算又は減算して前記走行装置の車輪角速度指令として前記速度制御手段に入力し、前記速度制御手段は、前記車輪角速度検出手段で検出した車輪角速度が、前記生成した車輪角速度指令に追従するように速度制御を行うようにしてもよい。これにより、システム全体のコストを低下させつつ、姿勢角度制御と、姿勢角速度制御と、車両速度制御と、旋回制御とを同時に成立させることができ、より性能の高い制御を実現することができる。
【0022】
さらにまた、前記車輪角速度検出手段で検出した前記複数の車輪の車輪角速度と、前記姿勢検出手段で検出する姿勢角速度とに基づいて、前記走行装置の車両速度を検出する車両速度検出手段と、前記走行装置の車両速度指令を設定する車両速度指令設定手段と、を更に備え、前記車両速度指令設定手段は、前記車両速度検出手段で検出した車両速度を前記車両速度指令として設定し、前記姿勢制御手段は、前記検出した姿勢情報と、前記車両速度指令設定手段で設定した車両速度指令とに基づいて、前記駆動ユニットの車輪角速度指令を生成するようにしてもよい。これにより、通常走行時の走行制御と速度情報指令が設定された場合の走行制御とを、同一の制御系により両立させることができる。
【0023】
また、ブレーキレバーを更に備え、前記車両速度指令設定手段は、前記ブレーキレバーが操作された場合には、前記ブレーキレバーの操作量と前記車両速度検出手段で検出した車両速度とに応じて、前記設定した車両速度指令を変更するようにしてもよい。これによりさらに、同一の制御系により、通常走行時における走行制御と、ブレーキレバーの操作に応じた車両速度制御をと同時に成立させることができ、より良好に走行装置の駆動を制御することができる。
【0024】
さらにまた、前記車両速度指令設定手段は、前記車両速度検出手段で検出した車両速度が所定の速度制限範囲を超えた場合には、前記車両速度検出手段で検出した車両速度に応じて、前記設定した車両速度指令を変更するようにしてもよい。これにより、さらに、速度制限範囲を超えた場合の車両速度制御を同時に成立させることができ、より良好に走行装置の駆動を制御することができる。
【0025】
本発明に係る移動体の制御方法は、移動体を駆動する駆動手段の駆動速度を検出し、前記移動体の姿勢情報を含む動作状態を検出し、前記検出した姿勢情報と入力する姿勢情報指令とに基づいて、前記駆動手段の駆動速度指令を生成し、前記生成した駆動速度指令と前記検出した駆動速度とに基づいて、前記駆動手段のトルク指令を生成して、前記生成したトルク指令に応じて前記駆動手段を駆動して移動する移動体の制御方法であって、前記検出した駆動速度が、前記生成した駆動速度指令に追従するように速度制御を行う速度制御ステップと、前記検出した姿勢情報が、前記入力する姿勢情報指令に追従するように姿勢制御を行う姿勢制御ステップと、を有するものである。
【0026】
これにより、姿勢制御ステップでは、入力する姿勢情報指令に追従するように姿勢制御を行い、速度制御ステップでは、演算時間のかかる姿勢検出処理を含んでおらず、姿勢制御ステップで生成した駆動速度指令に追従するように速度制御を行うのみでよい。このため、速度制御ステップでは、姿勢制御ステップで行う制御と比較して相対的に高速な制御周期を実現することができる。即ち、姿勢制御ステップで行う姿勢制御はより高価なシステム(CPU、姿勢センサ)を使用せずとも、従来技術と同等のCPUや姿勢センサを用いて同等の制御性能を実現することができ、同時に、速度制御ステップで行う速度制御は単純な制御であるため、安価に高速な制御周期を実現することができる。従って、安価に高速化が可能な速度制御ステップでの制御系を、姿勢制御ステップでの制御系の内側の制御ループに有する構成とすることで、システム全体のコストを低下させつつ、より性能の高い制御を実現することができる。
【0027】
さらには、速度制御ステップでの制御系を、姿勢制御ステップでの姿勢制御を行う制御器に対して速い下位の制御器で行うことで、負荷変動(走行中の路面からの外乱や、車輪が浮いたことによる負荷変動)に対する高いロバスト性を実現することができる。従って、進行方向の安定性が向上し、走行中に片輪が浮いた場合であっても安定することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、安価なシステムにより、制御の性能を維持しながら高速な制御周期を実現することで、より性能の高い制御を実現可能な移動体、走行装置、移動体の制御方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照しながら本発明について説明する。まず、本発明の具体的な実施の形態の説明に先立ち、本発明の概要について説明する。図1は、本発明に係る移動体の制御系の概要を示す制御ブロック図である。本発明に係る移動体41は、移動体41を駆動する駆動手段42と、駆動手段42の駆動速度を検出する駆動速度検出手段43と、移動体41の姿勢情報を含む動作状態を検出する動作状態検出手段44と、検出した姿勢情報と入力する姿勢情報指令とに基づいて、駆動手段42の駆動速度指令を生成する姿勢制御手段45と、生成した駆動速度指令と駆動速度検出手段で検出した駆動速度とに基づいて、駆動手段42のトルク指令を生成する速度制御手段46と、を備えている。本発明に係る移動体41は、速度制御手段46で生成したトルク指令に応じて駆動手段42を駆動して移動する。本発明に係る移動体の姿勢制御手段45は、動作状態検出手段44で検出した姿勢情報が、入力する姿勢情報指令に追従するように姿勢制御を行い、かつ、速度制御手段46は、駆動速度検出手段43で検出した駆動速度が、姿勢制御手段45で生成した駆動速度指令に追従するように速度制御を行うことを特徴とする。
【0030】
これにより、安価に高速化が可能な速度制御手段46による制御ループ51を、姿勢制御手段45による制御ループ52の内側に有する構成とすることで、システム全体のコストを低下させつつ、より性能の高い制御を実現することができる。
【0031】
さらには、速度制御手段46による制御系を、姿勢制御手段45による姿勢制御を行う制御器に対して速い下位の制御器で行うことで、負荷変動(走行中の路面からの外乱や、車輪が浮いたことによる負荷変動)に対する高いロバスト性を実現することができる。従って、進行方向の安定性が向上し、走行中に片輪が浮いた場合であっても安定することができる。
【0032】
発明の実施の形態1.
図2は、本発明に係る実施の形態1として、本発明に係る走行装置の一実施形態の構成を示す図である。尚、図2のAは正面図を示し、図2のBは側面図を示す。図2において、本実施の形態1に係る走行装置は、乗員が立つ部分である本体1に対して、同軸芯線上に平行に車輪3A、3Bを有する同軸二輪車である。
【0033】
尚、以下の説明で用いる同軸二輪車の車両の全体に対する各座標系を、図中に記載のように、車軸に対して垂直方向をX軸、車軸方向をY軸、鉛直方向をZ軸、車軸周り(Y軸周り)をピッチ軸、車両上面視においてX−Y平面上の回転方向をヨー軸とする。
【0034】
本実施の形態1に係る走行装置は、本体1と、本体1に同軸上に取り付けられた1対の駆動ユニット2A及び2Bと、駆動ユニット2A及び2Bによりそれぞれ回転駆動される車輪3A及び3Bと、乗員がつかまるT字型のハンドル4と、本体1の前後(Y軸周り)の傾きを検出する姿勢検出装置4と、旋回操作を指示するための旋回操作装置6と、を備えている。また、本体1には、図示しないが、後述する車両の制御を行う制御装置が設けられている。尚、本体1には乗員の乗車を識別するセンサ、或いはスイッチ(図示せず)を内蔵していてもよい。
【0035】
図3は、本実施の形態1に係る同軸二輪車の車両制御の構成を示すブロック図である。姿勢検出装置5は、本体1の姿勢情報を検出する。本体1の姿勢情報は、姿勢角度(車両ピッチ角度)及び姿勢角速度(車両ピッチ角速度)の少なくとも一つを含む。また、本体1の姿勢情報指令が制御装置11に入力される。本体1の姿勢情報指令は、姿勢角度指令(車両ピッチ角度指令)及び姿勢角速度指令(車両ピッチ角速度指令)の少なくとも一つを含む。
【0036】
旋回操作装置6は、旋回情報指令としての車両の旋回角度指令及び旋回角速度指令を生成する。旋回操作装置6は、生成した旋回角度指令及び旋回角速度指令の少なくとも1つを制御装置11に出力する。以下では、少なくとも旋回角速度指令を制御装置11に出力するものとして説明する。旋回操作装置6は、例えば、乗員によるハンドル4の操作や、乗員による旋回ハンドル(不図示)の操作などを受け、これら操作量に応じた旋回角度指令及び旋回角速度指令を生成する。また、旋回操作装置6としては、本出願人が既に提案している、乗員の重心移動により傾斜した車両のロール角度に応じて旋回指令を入力する技術(特開2006−315666号公報)を適用するようにしてもよい。尚、以下では、旋回角速度指令をヨー角速度指令として説明する。
【0037】
制御装置11は、車両を目標値である車両ピッチ角度指令と、車両ピッチ角速度指令と、ヨー角速度指令とに安定に追従するように制御する。即ち、制御装置11は、これら目標値と姿勢検出装置5及び旋回操作装置6とから入力される情報とに基づいて、全体系を倒れないように安定化させるのに必要な駆動トルクを計算し、駆動ユニット2A、2Bの各モータを駆動する。駆動ユニット2A、2Bの各モータの回転に伴う車輪3A、3Bの車輪角度及び車輪角速度が制御装置11にフィードバックされる。このような車両制御の構成により、同軸二輪車は、乗員が重心を前後にずらすことで前進後退を行い、乗員が旋回操作装置6を操作することで左右旋回を行う。
【0038】
以下、図4及び図5を参照して、車両の動作制御について詳細に説明する。図4は、本実施の形態1に係る同軸二輪車の動作制御系を示す制御ブロック図である。図5は、図4に示す動作制御系を、各駆動ユニット2A、2Bと車輪3A、3Bとについてより詳細に説明する図である。
【0039】
まず、以下の説明に用いる変数について説明する。βは車両ピッチ角度を示し、β′は車両ピッチ角速度を示す。xは車両位置を示し、x′は車両速度を示す。これら車両ピッチ角度β、車両ピッチ角速度β′、車両位置x、車両速度x′は検出値を示す。また、βは車両ピッチ角度指令を示し、β′は車両ピッチ角速度指令を示す。xは車両位置指令を示し、x′は車両速度指令を示す。γ′は車両のヨー角速度指令を示す。これら車両ピッチ角度指令β、車両ピッチ角速度指令β′、車両位置指令x、車両速度指令x′、ヨー角速度指令γ′は目標値である指令値を示す。即ち、下添え文字にrが付いている変数は指令値を示し、rが付いていない変数は検出値を示す。また、2Lはトレッド幅を示し、Rは車輪半径を示す。尚、本実施の形態1において、図4における車両の動作制御は通常走行時における動作制御を説明するものであり、姿勢制御器12に対して少なくとも車両ピッチ角度指令と車両ピッチ角速度指令が入力される。
【0040】
図4において、駆動ユニット2は、同軸上に配置された複数の車輪3を独立に駆動する。駆動ユニット2は、各車輪3を駆動するためのモータとアンプを含み、入力されるトルク指令を受けてトルク制御を行う。モータの回転に伴い車輪3にはトルクが加えられる。また、モータの回転に伴い車両本体1に対してトルクの反力が加わると共に、車輪3の回転に伴い車両本体1に対して地面からの反力としての力が加えられる。
【0041】
図示しない車輪角速度検出手段により、本体1と複数の車輪3との相対角度及び相対角速度としての車輪角度及び車輪角速度を検出する。車輪角速度検出手段は、例えば、モータの回転軸に設けられたエンコーダ情報から、車輪角度及び車輪角速度を検出する。
【0042】
姿勢検出装置5は、本体1の車両ピッチ角度及び車両ピッチ角速度を検出する。姿勢検出装置5は、ジャイロセンサや加速度センサを用いて車両ピッチ角度及び車両ピッチ角速度を検出する。
【0043】
姿勢制御手段としての姿勢制御器12は、姿勢検出装置5で検出した車両ピッチ角度及び車両ピッチ角速度が、入力する車両ピッチ角度指令及び車両ピッチ角速度指令に追従するように姿勢制御を行う。即ち、姿勢制御器12は、姿勢検出装置5で検出した車両ピッチ角度及び車両ピッチ角速度と、入力する車両ピッチ角度指令及び車両ピッチ角速度指令とに基づいて、駆動ユニット2の姿勢速度指令を生成し、姿勢速度指令についての制御を行う。
【0044】
より具体的には、姿勢制御器12は、入力される車両ピッチ角度指令β及び車両ピッチ角速度指令β′と、姿勢検出装置5で検出した車両ピッチ角度β及び車両ピッチ角速度β′との差を取り、差を0に収束させるようにPD(比例・微分)制御を行う。通常は、車両ピッチ角度指令β及び車両ピッチ角速度指令β′の値を共に0として入力し、乗員の重心移動によって生じる車両ピッチ角度β及び車両ピッチ角速度β′を0に保つように姿勢制御を行う。姿勢制御器12は、PD制御により、以下の数1を用いて姿勢速度指令を計算する。数1において、Kppは比例ゲインを示し、Kdpは微分ゲインを示す。
(数1)
姿勢速度指令=Kpp(β−β)+Kdp(β′−β′)
これらの制御ゲインによって、モータが車両ピッチ角度指令β及び車両ピッチ角速度指令β′に対して応答する追従性が変化する。例えば、モータロータは、比例ゲインKppを小さくすると、ゆっくりとした追従遅れをもって動くようになり、比例ゲインKppを大きくすると、高速に追従するようになる。このように、制御ゲインを変化させることにより、車両ピッチ角度指令β及び車両ピッチ角速度指令β′と、実際に検出した車両ピッチ角度β及び車両ピッチ角速度β′との誤差の大きさや応答時間を調整することが可能となる。尚、姿勢制御器12では、PD制御に限定されず、H∞制御や、ファジィ制御などを用いて制御を行うようにしてもよい。
【0045】
旋回制御手段としての旋回制御器14は、入力するヨー角速度指令に基づいて旋回速度指令を生成する。ヨー角速度指令は、上述した旋回操作装置6により入力する。旋回制御器14は、車両のトレッド幅2Lと車輪Rとを用いて、入力されるヨー角速度指令γ′を各車輪3への旋回速度指令に分解する。旋回制御器14は、以下の数2を用いて旋回速度指令を計算する。
(数2)
旋回速度指令=(Lγ′)/R
【0046】
姿勢制御器12で生成した姿勢速度指令と、旋回制御器14で生成した旋回速度指令とを加算器により加算して(又は減算器により減算)、車輪角速度指令として速度制御器13に入力する。図5に示すように左右の車輪3A、3Bに対して車輪角速度指令を生成する場合には、数1で計算した姿勢速度指令と、数2で計算した旋回速度指令とから、以下の数3及び数4を用いて左右の車輪の角速度指令を計算する。
(数3)
左車輪角速度指令=姿勢速度指令−旋回速度指令
(数4)
右車輪角速度指令=姿勢速度指令+旋回速度指令
【0047】
速度制御手段としての速度制御器13は、入力される車輪角速度指令と、車輪角速度検出手段で検出した車輪角速度との差を取り、差を0に収束させるようにPI(比例・微分)制御を行い、検出値が指令値に一致するように速度制御を行う。即ち、速度制御器13は、入力される車輪角速度指令と、車輪角速度検出手段で検出した車輪角速度とに基づいて、複数の車輪3のトルク指令を生成し、駆動ユニット2へと出力する。速度制御器13は、モータのエンコーダ情報に基づいた単純なPI制御やPD制御を行なうので、安価なCPUにより十分高速な制御周期を実現することができる。
【0048】
以上の制御系により、乗員の体重移動に応じた姿勢制御と、乗員の操作や体重移動による旋回制御とを両立することができる。
【0049】
発明の実施の形態2.
図6は、本発明に係る実施の形態2に係る走行装置の一実施形態の構成を示す図である。尚、図6のAは正面図を示し、図6のBは側面図を示す。図6において、本実施の形態2に係る走行装置は、乗員が立つ部分である本体1に対して、同軸芯線上に平行に車輪3A、3Bを有する同軸二輪車である。
【0050】
本実施の形態2に係る走行装置は、本体1と、本体1に同軸上に取り付けられた1対の駆動ユニット2A及び2Bと、駆動ユニット2A及び2Bによりそれぞれ回転駆動される車輪3A及び3Bと、乗員がつかまるT字型のハンドル4と、本体1の前後の傾きを検出する姿勢検出装置4と、旋回操作を指示するための旋回操作装置6と、を備えている。また、本体1には、図示しないが、後述する車両の制御を行う制御装置が設けられている。尚、本体1には乗員の乗車を識別するセンサ、或いはスイッチ(図示せず)を内蔵していてもよい。さらに、本実施の形態2に係る走行装置では、ハンドル4の端部にブレーキレバー7と、ブレーキレバー7の操作情報(操作量、操作速度)を検出するブレーキ検出装置9とを備えている。
【0051】
図7は、ブレーキレバー7の周りの構造例を示す図である。尚、図7のAは上面図を示し、図7のBは側面図を示す。図7に示すように、ハンドル4にブレーキレバー7が取り付けられ、このブレーキレバー7の操作量や、操作速度を、ブレーキ検出装置8としてのポテンショメータ、或いはロータリーエンコーダによって検出する。さらに、ブレーキレバー7には戻りバネ9が設けられており、これらブレーキ検出装置8と戻りバネ9とはブラケット10に納められている。
【0052】
図8は、本実施の形態2に係る同軸二輪車の車両制御の構成を示すブロック図である。姿勢検出装置5は、車両ピッチ角度及び車両ピッチ角速度を検出する。旋回操作装置6は、車両の旋回角度指令及び旋回角速度指令を生成し、少なくとも旋回角速度指令を制御装置21に出力する。旋回操作装置6は、例えば、乗員によるハンドル4の操作や、乗員による旋回ハンドル(不図示)の操作などを受け、これら操作量に応じた旋回角度指令及び旋回角速度指令を生成する。また、旋回操作装置6としては、乗員の重心移動により傾斜した車両のロール角度に応じて旋回指令を入力する技術を適用するようにしてもよい。尚、以下では、旋回角速度指令をヨー角速度指令として説明する。
【0053】
制御装置21は、車両を目標値である車両ピッチ角度指令と、車両ピッチ角速度指令と、車両速度指令と、ヨー角速度指令とに安定に追従するように制御する。即ち、制御装置21は、これら目標値と姿勢検出装置5及び旋回操作装置6とから入力される情報とに基づいて、全体系を倒れないように安定化させるのに必要な駆動トルクを計算し、駆動ユニット2A、2Bの各モータを駆動する。駆動ユニット2A、2Bの各モータの回転に伴う車輪3A、3Bの車輪角度及び車輪角速度が制御装置21にフィードバックされる。このような車両制御の構成により、同軸二輪車は、乗員が重心を前後にずらすことで前進後退を行い、乗員が旋回操作装置6を操作することで左右旋回を行う。
【0054】
走行中に乗員によりブレーキレバー7が操作された場合には、ブレーキ検出装置8は、乗員が操作したブレーキレバー7の操作量と操作速度とを検出する。車両速度検出手段としての車両速度検出装置22は、駆動ユニット2A及び2Bで検出された本体1と車輪との相対角速度である車輪角速度と、姿勢検出装置5で検出された車両ピッチ角速度とから、現在の車両速度を求める。そして、車両速度指令設定手段としての車両速度指令設定装置23は、ブレーキ検出装置8と車両速度検出装置22との出力から減速度を決定し、車両速度指令を決定する。即ち、上述した処理によって、車両速度指令設定装置23はブレーキ操作量とブレーキ操作速度の大きさによって、減速度を適切に調節する。これにより、制御装置21は、車両ピッチ角度指令(=0、即ち水平に保つ)と、車両ピッチ角速度指令(=0、即ち現在の角度に保つ)と、車両速度指令と、ヨー角速度指令とに、車両を安定的に追従させる。
【0055】
尚、車両速度指令設定装置23は、乗員によりブレーキレバー7が操作された場合に限らず、車両速度検出装置22で検出した車両速度が所定の速度制限範囲を超えた場合においても、車両速度検出装置22で検出した車両速度に応じて、設定した車両速度指令を変更するようにしてもよい。また、車両速度指令設定装置23は、通常走行時には、車両速度検出装置22で検出した車両速度を車両速度指令として設定することで、通常走行時の走行制御とブレーキレバーの操作に応じた速度制御とを、同一の制御系により同時に両立させることができる。
【0056】
以下、図9及び図10を参照して、車両の動作制御について詳細に説明する。図9は、本実施の形態2に係る同軸二輪車の動作制御系を示す制御ブロック図である。図10は、図9に示す動作制御系を、各駆動ユニット2A、2Bと車輪3A、3Bとについてより詳細に説明する図である。以下の説明に用いる変数については上述した実施の形態1で説明した変数と同一であり、ここではその詳細な説明を省略する。尚、本実施の形態2においては、ブレーキレバー操作や速度制限に応じて車両速度を減速させる場合における動作制御について説明するため、姿勢制御器24に対して少なくとも車両ピッチ角度指令、車両ピッチ角速度指令、車両速度指令が入力される。
【0057】
図9において、駆動ユニット2は、同軸上に配置された複数の車輪3を独立に駆動する。駆動ユニット2は、各車輪3を駆動するためのモータとアンプを含み、入力されるトルク指令を受けてトルク制御を行う。モータの回転に伴い車輪3にはトルクが加えられる。また、モータの回転に伴い車両本体1に対してトルクの反力が加わると共に、車輪3の回転に伴い車両本体1に対して地面からの反力としての力が加えられる。
【0058】
図示しない車輪角速度検出手段により、本体1と複数の車輪3との相対角度及び相対角速度としての車輪角度及び車輪角速度を検出する。車輪角速度検出手段は、例えば、モータの回転軸に設けられたエンコーダ情報から、車輪角度及び車輪角速度を検出する。
【0059】
姿勢検出装置5は、本体1の車両ピッチ角度及び車両ピッチ角速度を検出する。姿勢検出装置5は、ジャイロセンサや加速度センサを用いて車両ピッチ角度及び車両ピッチ角速度を検出する。
【0060】
車両速度検出装置22は、車輪角速度検出手段で検出された車輪角速度と、姿勢検出装置5で検出された車両ピッチ角速度とから、現在の車両速度を求める。現在の車両速度は、車両ピッチ角速度と車輪角速度との差(又は和)に車輪径を掛けることにより計算する。車両速度指令設定装置23は、ブレーキ検出装置8と車両速度検出装置22との出力からある関数fに従って減速度指令(aVref=f(B、B′、x′))を決定し、車両速度指令(今回のx′=前回のx′−aVref)を設定する。関数fは、例えばf(B、B′、x′)=LB+LB′+Lx′に示すような形式であり、ブレーキ操作量Bと、ブレーキ操作速度B′と、車両本体の速度x′とが大きいときは大きな減速度指令を算出するように係数L、L、L決める。尚、関数fの決め方によっては、車両本体の速度が小さいときに大きな減速度指令を算出するというような、異なる性質を持たせることもできる。また、車両速度指令が0または負になった場合には、車両速度指令は0とする。
【0061】
姿勢制御器24は、姿勢検出装置5で検出した車両ピッチ角度及び車両ピッチ角速度と車両速度検出装置22で検出した車両速度とが、入力する車両ピッチ角度指令及び車両ピッチ角速度指令と車両速度指令設定装置23で決定した車両速度指令とに追従するように姿勢制御を行う。即ち、姿勢制御器24は、姿勢検出装置5で検出した車両ピッチ角度及び車両ピッチ角速度と車両速度検出装置22で検出した車両速度と、入力する車両ピッチ角度指令及び車両ピッチ角速度指令と車両速度指令設定装置23で決定した車両速度指令とに基づいて、駆動ユニット2の姿勢速度指令を生成し、姿勢速度指令についての制御を行う。
【0062】
より具体的には、姿勢制御器24は、入力される車両ピッチ角度指令β、車両ピッチ角速度指令β′、車両速度指令x′と、検出した車両ピッチ角度β、車両ピッチ角速度β′、車両速度x′との差を取り、差を0に収束させるように状態フィードバック制御を行う。通常は、車両ピッチ角度指令β及び車両ピッチ角速度指令β′の値を共に0として入力し、乗員の重心移動によって生じる車両ピッチ角度β及び車両ピッチ角速度β′を0に保つように姿勢制御を行う。姿勢制御器24は、以下の数5を用いて姿勢速度指令を計算する。数5において、K、K、Kはゲインを示す。ここで、通常走行時には、車両速度検出装置22で検出した車両速度を車両速度指令として入力する。そうするとKに係る項の値が0となり、乗員の重心移動による加減速を良好に行うことができる。ブレーキレバーが操作された場合には、車両速度指令x′は現在の車両速度x′よりも小さくなり、良好な減速を行うことができる。
(数5)
姿勢速度指令=K(β−β)+K(β′−β′)+K(x′−x′)
これらの制御ゲインによって、モータが車両ピッチ角度指令β及び車両ピッチ角速度指令β′と車両速度指令x′に対して応答する追従性が変化する。例えば、モータロータは、ゲインKを小さくすると、ゆっくりとした追従遅れをもって動くようになり、ゲインKを大きくすると、高速に追従するようになる。このように、制御ゲインを変化させることにより、車両ピッチ角度指令β及び車両ピッチ角速度指令β′と車両速度指令x′に、実際に検出した車両ピッチ角度β及び車両ピッチ角速度β′と車両速度指令x′との誤差の大きさや応答時間を調整することが可能となる。尚、姿勢制御器12では、状態フィードバック制御に限定されず、H∞制御や、ファジィ制御などを用いて制御を行うようにしてもよい。
【0063】
旋回制御器26は、上述した実施の形態1で説明した手法と同様にして、入力するヨー角速度指令に基づいて旋回速度指令を生成する。ヨー角速度指令は、上述した旋回操作装置6により入力する。
【0064】
姿勢制御器24で生成した姿勢速度指令と、旋回制御器26で生成した旋回速度指令とを加算器により加算して(又は減算器により減算して)、車輪角速度指令として速度制御器25に入力する。図10に示すように左右の車輪3A、3Bに対して車輪角速度指令を生成する場合には、数5で計算した姿勢速度指令と、上述した実施の形態1で説明した数2で計算した旋回速度指令とから、左右の車輪の角速度指令を計算する。
【0065】
速度制御器25は、入力される車輪角速度指令と、車輪角速度検出手段で検出した車輪角速度との差を取り、差を0に収束させるようにPI(比例・微分)制御を行い、検出値が指令値に一致するように速度制御を行う。即ち、速度制御器25は、入力される車輪角速度指令と、車輪角速度検出手段で検出した車輪角速度とに基づいて、複数の車輪3のトルク指令を生成し、駆動ユニット2へと出力する。速度制御器13は、モータのエンコーダ情報に基づいた単純なPI制御やPD制御を行なうので、安価なCPUにより十分高速な制御周期を実現することができる。
【0066】
以上の制御系により、乗員の体重移動に応じた姿勢制御と、乗員の操作や体重移動による旋回制御と、さらには、乗員のブレーキ操作に応じた車両速度制御と、車両速度制限を越えた場合の速度制御とを両立することができる。
【0067】
以上説明したように、本発明によれば、安価に高速化が可能な速度制御手段による制御系を、姿勢制御手段による制御系の内側の制御ループに有する構成とすることで、システム全体のコストを低下させつつ、性能の高い姿勢制御と、旋回制御と、車両速度制御との同時成立を実現することができ、より性能の高い制御を実現することができる。
【0068】
さらには、速度制御手段による制御系を、姿勢制御手段による姿勢制御を行う制御器に対して速い下位の制御器で行うことで、負荷変動に対する高いロバスト性を実現することができる。旋回速度指令をフィードフォワードとして与えているため、進行方向の安定性が向上し、走行中に片輪が浮いた場合であっても安定して走行することができる。
【0069】
尚、本発明は上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、既に述べた本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係る移動体の制御系の概要を示す制御ブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る走行装置の一実施形態の構成を示す図である。
【図3】本実施の形態1に係る同軸二輪車の車両制御の構成を示す制御ブロック図である。
【図4】本実施の形態1に係る同軸二輪車の動作制御系の構成を示す制御ブロック図である。
【図5】本実施の形態1に係る同軸二輪車の動作制御系の構成を示す制御ブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係る走行装置の一実施形態の構成を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係る走行装置の要部の構成を示す図である。
【図8】本実施の形態2に係る同軸二輪車の車両制御の構成を示す制御ブロック図である。
【図9】本実施の形態2に係る同軸二輪車の動作制御系の構成を示す制御ブロック図である。
【図10】本実施の形態2に係る同軸二輪車の動作制御系の構成を示す制御ブロック図である。
【図11】従来の同軸二輪車の制御系の構成を示す制御ブロック図である。
【図12】従来の同軸二輪車の制御系の構成を示す制御ブロック図である。
【符号の説明】
【0071】
1 本体、2A、B 駆動ユニット、3A、B 車輪、4 ハンドル、
5 姿勢検出装置、6 旋回操作装置、
7 ブレーキ、8 ブレーキ検出装置、9 戻りバネ、10 ブラケット、
11 制御装置、12 姿勢制御器、13A、B 速度制御器、14 旋回制御器、

21 制御装置、22 車両速度検出装置、23 車両速度指令設定装置、
24 姿勢制御器、25 速度制御器、26 旋回制御器、

41 移動体、42 駆動手段、43 駆動速度検出手段、
44 動作状態検出手段、45 姿勢制御手段、46 速度制御手段、

61 車両、62 車輪、63 検出器、64 姿勢制御器、65 トルク制御器、
66 旋回制御器、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体を駆動する駆動手段と、前記駆動手段の駆動速度を検出する駆動速度検出手段と、前記移動体の姿勢情報を含む動作状態を検出する動作状態検出手段と、前記検出した姿勢情報と入力する姿勢情報指令とに基づいて、前記駆動手段の駆動速度指令を生成する姿勢制御手段と、前記生成した駆動速度指令と前記駆動速度検出手段で検出した駆動速度とに基づいて、前記駆動手段のトルク指令を生成する速度制御手段と、を備え、前記速度制御手段で生成したトルク指令に応じて前記駆動手段を駆動して移動する移動体であって、
前記速度制御手段は、前記駆動速度検出手段で検出した駆動速度が、前記姿勢制御手段で生成した駆動速度指令に追従するように速度制御を行い、
前記姿勢制御手段は、前記動作状態検出手段で検出した姿勢情報が、前記入力する姿勢情報指令に追従するように姿勢制御を行う
ことを特徴とする移動体。
【請求項2】
入力する旋回情報指令に基づいて前記移動体の旋回速度指令を生成する旋回制御手段を更に備え、
前記姿勢制御手段は、前記検出した姿勢情報と入力する姿勢情報指令とに基づいて、前記駆動手段の姿勢速度指令を生成し、
前記姿勢制御手段で生成した姿勢速度指令と、前記旋回制御手段で生成した旋回速度指令とを加算又は減算して前記移動体の駆動速度指令として前記速度制御手段に入力し、
前記速度制御手段は、前記駆動速度検出手段で検出した駆動速度が、前記生成した駆動速度指令に追従するように速度制御を行う
ことを特徴とする請求項1記載の移動体。
【請求項3】
前記移動体の速度情報指令を設定する速度情報指令設定手段を更に備え、
前記動作状態検出手段は、前記移動体の姿勢情報及び速度情報を含む動作状態を検出し、
前記速度情報指令設定手段は、前記動作状態検出手段で検出した速度情報を前記速度情報指令として設定し、
前記姿勢制御手段は、前記検出した姿勢情報と、前記速度情報指令設定手段で設定した速度情報指令とに基づいて、前記駆動手段の駆動速度指令を生成する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の移動体。
【請求項4】
ブレーキレバーを更に備え、
前記速度情報指令設定手段は、前記ブレーキレバーが操作された場合には、前記ブレーキレバーの操作量と前記動作状態検出手段で検出した速度情報とに応じて、前記設定した速度情報指令を変更する
ことを特徴とする請求項3記載の移動体。
【請求項5】
前記速度情報指令設定手段は、前記動作状態検出手段で検出した速度情報が所定の速度制限範囲を超えた場合には、前記動作状態検出手段で検出した速度情報に応じて、前記設定した速度情報指令を変更する
ことを特徴とする請求項3又は4記載の移動体。
【請求項6】
同軸上に配置された複数の車輪を独立に駆動する駆動ユニットと、前記複数の車輪を連結する本体と、前記本体と前記複数の車輪との相対角速度を検出する車輪角速度検出手段と、前記本体の姿勢情報としての姿勢角度及び姿勢角速度の少なくとも一つを検出する姿勢検出手段と、前記検出した姿勢情報と入力する姿勢情報指令とに基づいて、前記駆動ユニットの車輪角速度指令を生成する姿勢制御手段と、前記生成した車輪角速度指令と前記車輪角速度検出手段で検出した車輪角速度とに基づいて、前記複数の車輪のトルク指令を生成する速度制御手段と、を備え、前記速度制御手段で生成したトルク指令に応じて前記駆動ユニットのモータを駆動して走行する走行装置であって、
前記速度制御手段は、前記車輪角速度検出手段で検出した車輪角速度が、前記姿勢制御手段で生成した車輪角速度指令に追従するように速度制御を行い、
前記姿勢制御手段は、前記姿勢検出手段で検出した姿勢情報が、前記入力する姿勢情報指令に追従するように姿勢制御を行う
ことを特徴とする走行装置。
【請求項7】
入力する旋回情報指令に基づいて前記走行装置の旋回速度指令を生成する旋回制御手段を更に備え、
前記姿勢制御手段は、前記検出した姿勢情報と入力する姿勢情報指令とに基づいて、前記駆動ユニットの姿勢速度指令を生成し、
前記姿勢制御手段で生成した姿勢速度指令と、前記旋回制御手段で生成した旋回速度指令とを加算又は減算して前記走行装置の車輪角速度指令として前記速度制御手段に入力し、
前記速度制御手段は、前記車輪角速度検出手段で検出した車輪角速度が、前記生成した車輪角速度指令に追従するように速度制御を行う
ことを特徴とする請求項6記載の走行装置。
【請求項8】
前記車輪角速度検出手段で検出した前記複数の車輪の車輪角速度と、前記姿勢検出手段で検出する姿勢角速度とに基づいて、前記走行装置の車両速度を検出する車両速度検出手段と、前記走行装置の車両速度指令を設定する車両速度指令設定手段と、を更に備え、
前記車両速度指令設定手段は、前記車両速度検出手段で検出した車両速度を前記車両速度指令として設定し、
前記姿勢制御手段は、前記検出した姿勢情報と、前記車両速度指令設定手段で設定した車両速度指令とに基づいて、前記駆動ユニットの車輪角速度指令を生成する
ことを特徴とする請求項6又は7記載の走行装置。
【請求項9】
ブレーキレバーを更に備え、
前記車両速度指令設定手段は、前記ブレーキレバーが操作された場合には、前記ブレーキレバーの操作量と前記車両速度検出手段で検出した車両速度とに応じて、前記設定した車両速度指令を変更する
ことを特徴とする請求項8記載の走行装置。
【請求項10】
前記車両速度指令設定手段は、前記車両速度検出手段で検出した車両速度が所定の速度制限範囲を超えた場合には、前記車両速度検出手段で検出した車両速度に応じて、前記設定した車両速度指令を変更する
ことを特徴とする請求項8又は9記載の走行装置。
【請求項11】
移動体を駆動する駆動手段の駆動速度を検出し、前記移動体の姿勢情報を含む動作状態を検出し、前記検出した姿勢情報と入力する姿勢情報指令とに基づいて、前記駆動手段の駆動速度指令を生成し、前記生成した駆動速度指令と前記検出した駆動速度とに基づいて、前記駆動手段のトルク指令を生成して、前記生成したトルク指令に応じて前記駆動手段を駆動して移動する移動体の制御方法であって、
前記検出した駆動速度が、前記生成した駆動速度指令に追従するように速度制御を行う速度制御ステップと、
前記検出した姿勢情報が、前記入力する姿勢情報指令に追従するように姿勢制御を行う姿勢制御ステップと、を有する
ことを特徴とする移動体の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−30436(P2010−30436A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194844(P2008−194844)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】