説明

移動体システム

【課題】 連続区間か離散区間かを簡単に識別する。
【構成】 移動体に、複数のコイルを移動体の移動方向に沿って配列したコイルアレイを有する検出ヘッドを設ける。コイルアレイの両側方にダミーコイルを設けて、ダミーコイル間の出力差により、磁気マークを一定の第1のピッチで配置した連続区間か、磁気マークを第1のピッチよりも長い間隔で配置した離散区間かを識別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は移動体システムに関し、特に移動体の位置検出に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のコイルからなるコイルアレイを備えた検出ヘッドを、搬送車、スタッカークレーン、あるいは工作機械のヘッド等の移動体の移動方向に沿って設け、地上側に設けた磁気マークを検出することにより、移動体の位置を求めるシステムが知られている(特許文献1:JP2002-337037A)。発明者はこのようなシステムに関して、磁気マークを例えばコイルアレイの長さと等しい第1のピッチで配置することにより、移動体の位置を連続的に求める連続区間と、磁気マークを前記第1のピッチよりも長い間隔で配置することにより磁気マークの存在する区間でのみ移動体の位置を求める離散区間とを設けることを検討した。そして検出ヘッドの両端にホール素子等の磁気センサを設けて、磁気マークを検出し、離散区間か連続区間かを識別する。
【0003】
発明者の実験によると、コイルアレイの中央部付近に磁気マークがある場合、離散区間でも連続区間でも位置の検出結果は同じで、これはコイルアレイに影響している磁気マークが1個のみだからである。次に連続区間で磁気マークがコイルアレイの両端にある場合と、離散区間で磁気マークがコイルアレイの一端にのみある場合とは、ホール素子で簡単に識別できる。またこの場合、離散区間では検出を行わず、連続区間でのみ検出を行うので、問題は生じない。磁気マークがコイルアレイの一端のやや内側にある場合、連続区間ではコイルアレイの他端のやや外側に磁気マークがあり、離散区間ではこの磁気マークはない。この状態では、離散区間か連続区間かで検出結果が異なるが、ホール素子ではコイルアレイのやや外側の磁気マークを検出できず、離散区間か連続区間かを識別できない。従って識別には、コイルアレイの延長方向両外側に別のホール素子を設ける必要がある。しかしながらこのことは、検出ヘッドの長さを増す点で好ましくなく、また検出ヘッドの部品点数を増す点でも好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】JP2002-337037A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の課題は、簡単な構造で離散区間か連続区間かを識別し、移動体の位置検出精度を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、移動体に、複数のコイルを移動体の移動方向に沿って配列したコイルアレイを有する検出ヘッドを設けて、移動体の移動経路に沿って設けた磁気マークを検出することにより移動体の位置を求め、かつ前記移動経路に、前記磁気マークを一定の第1のピッチで配置することにより移動体の位置を連続的に求める連続区間と、前記磁気マークを前記第1のピッチよりも長い間隔で配置することにより磁気マークの存在する区間でのみ移動体の位置を求める離散区間、とを設けた移動体システムであって、
前記コイルアレイの両側方、即ちコイルアレイを長手方向に沿って両側に延長した位置、にダミーコイルを設けて、ダミーコイル間の出力差により、連続区間か離散区間かを識別することを特徴とする。
【0007】
ダミーコイルは磁気マークからの磁界を検出するコイルで、コイルアレイ内の端部のコイルに対して、コイルアレイの内側のコイルと周辺磁界の検出条件を揃える役割も果たす。なお以下、コイルアレイはダミーコイルを含まないものとする。コイルアレイの一端の内側に磁気マークがある場合、連続区間で他端の外側に他の磁気マークがある場合と、離散区間で他端側には磁気マークがない場合とで、他端側のダミーコイルが置かれる状況が異なる。この状況の差をダミーコイルの出力差として検出すると、離散区間か連続区間かを識別できる。またダミーコイルはコイルアレイに隣接して配置すれば良く、コイルアレイとの間に隙間を設ける必要がない。従ってこの発明では、検出ヘッドの長さサイズを増さずにかつ簡単に、連続区間か離散区間かを識別し、位置検出の精度を増すことができる。
【0008】
好ましくは、前記コイルアレイと前記ダミーコイルとを共通の交流電源に接続すると共に、コイルアレイの各コイルとダミーコイルとを共通の磁芯に沿って設ける。このようにすると、ダミーコイルの配設と励磁とが容易になり、かつ両側方のダミーコイルのインピーダンスバランスを容易に取ることができる。
より好ましくは、前記ダミーコイルは前記コイルアレイのコイルと同形状である。このようにすると、ダミーコイルは、コイルアレイの他のコイルと同形状のコイルを、同じ磁芯に対して両側方に配置すれば良く、ダミーコイルをより簡単に設けることができ、しかも両側方のダミーコイルのインピーダンスバランスをより確実に取ることができる。
【0009】
特に好ましくは、前記両側方のダミーコイルを直列に交流電源に接続すると共に、両側方のダミーコイルの中点電位の位相を前記交流電源の位相と比較することにより、連続区間か離散区間かを識別する。このようにすると、簡単な回路で連続区間か離散区間かを確実に識別できる。

【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例の移動体システムでのリニアスケールと地上側の磁気マークとを示す図
【図2】離散区間と連続区間とでの磁気マークの配置を模式的に示す図
【図3】離散区間か連続区間かを識別する際の問題点と、実施例での解決原理を示す図
【図4】実施例でのダミーコイルと周囲のコイルとを示す図
【図5】実施例でのリニアスケールのブロック図
【図6】実施例での、連続区間と離散区間とでの指示値の差を示す特性図
【図7】励磁信号とダミーコイルの中点信号との位相を模式的に示す図
【図8】実施例での、ダミーコイルによる連続区間と離散区間との識別結果を示す特性図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0012】
図1〜図8に、実施例の移動体システムを示す。図において、2はリニアスケールで、図示しない移動体の移動方向に沿ったコイルアレイ4を備え、6はその磁芯で、その左右両端に例えば一対のダミーコイル8,9があり、ダミーコイル8,9は左右それぞれに2個以上ずつ設けても良い。また10はコイルアレイ4に属するコイルを示し、例えばコイル10を4個単位で1ピッチ12とし、ピッチ12をコイルアレイ4の長手方向、即ち移動体の移動方向に沿って例えば10ピッチ配列して、コイルアレイ4とする。
【0013】
14はホール素子で、例えばコイルアレイ4の両端とピッチ12,12間の切れ目に配列し、磁気マーク22等を検出する。コイルアレイ4及びダミーコイル8,9、ホール素子14によりリニアスケール2の検出ヘッド15を構成し、検出ヘッド15からの信号を処理回路16で処理して、移動体の現在位置を求める。また正弦波電源18によりコイルアレイ4の各コイル10並びにダミーコイル8,9に正弦波電流を加え、カウンタ20により正弦波の位相信号ωtを発生させて、処理回路16と正弦波電源18とに供給する。
【0014】
移動体の移動経路に沿って磁気マーク22等を設け、磁気マーク22等はヨーク24と永久磁石25とから成り、ダミーコイル8,9、ホール素子14及びコイル10は磁気マーク22等からの磁界を検出する。磁気マーク22等は、コイルアレイ4の全長と等しいピッチで配列された連続区間と、連続区間での磁気マークの配列ピッチよりも長い間隔をおいて配置された離散区間とがあり、離散区間は例えばカーブ区間とその前後等で、離散区間では磁気マークを一定のピッチで配置する必要はない。また連続区間では磁気マーク22,23の配列ピッチをコイルアレイ4の全長と等しくする。
【0015】
図1の22,23は連続区間での磁気マークで、ここではコイルアレイ4の両端に現れている。ここで図1の磁気マーク26を検出したとする。なお磁気マーク26の構造は磁気マーク22,23等と同一である。1個の磁気マーク26を検出した場合、連続区間か離散区間かは分からない。この場合、連続区間ではダミーコイル9の左側に他の磁気マークが存在するが、離散区間ではダミーコイル9の左側には磁気マークがない。そしてコイルアレイ4の左端のホール素子14−1で、ダミーコイル9の左側の磁気マークを検出することは難しい。このため、リニアスケール2の両端のホール素子で識別すると、連続区間内でも離散区間であると誤認識することがある。そこでこの発明では、ダミーコイル8,9の内部を通る磁芯6により、ダミーコイル8,9から外側に離れた磁石も検出できることを利用して、コイルアレイ4の両外側に別の磁気マークが存在するか否かを検出する。
【0016】
図2に連続区間30での磁気マーク32〜34の配置と、離散区間31での磁気マーク35の配置を示し、磁気マーク32〜35は前記の磁気マーク22等と同じ構造である。連続区間30では磁気マーク32〜34等はコイルアレイ4の全長と同じピッチで走行経路の地上側に配置され、離散区間31では磁気マーク35等が離散的に走行経路の地上側に配置されている。連続区間30の区間全体に対して、リニアスケール2は一定の精度で位置を検出できる。しかし離散区間31では、磁気マーク35等の周囲でのみ位置を検出でき、しかも1個の磁気マーク35により検出できるエリアの長さはコイルアレイ4の長さよりも短い。
【0017】
図3に実施例での離散区間及び連続区間での計測範囲を示し、連続区間では左端のピッチ12−1から右端のピッチ12−10までの全区間で磁気マークを検出し、離散区間では両端のピッチ12−1,12−10では磁気マークを検出せず、ピッチ12−2〜12−9の範囲で磁気マークを検出する。問題なのは、ピッチ12−2またはピッチ12−9で磁気マークを検出した際に、離散区間であるのか連続区間であるのかの識別である。具体的に言うと、磁気マーク26を検出した場合で、図3の左側に磁気マーク27があれば連続区間で、無ければ離散区間である。そして磁気マーク27をホール素子14−1で検出するのは難しい。そこでこの発明では、ダミーコイル8,9を用いて、コイルアレイ4の両側方の磁気マーク27を検出する。なお連続区間でコイルアレイ4の右端に磁気マーク22があれば左端に磁気マーク23があり、これらはホール素子14−11,14−1で容易に検出できる。
【0018】
図4にダミーコイル9の配置を示し、ダミーコイル8も同様である。ケイ素鋼等の磁芯6にコイル10を巻き付け、これと同径で同じピッチ数、かつ同じ材質のダミーコイル9を、同じ磁芯6に巻き付ける。従ってダミーコイル8,9を設けるには、コイル10と同じものを2個、コイルアレイ4の両側方に隙間なく巻き付ければよい。
【0019】
図5に、リニアスケール2のブロック図を示し、正弦波電源18はカウンタから位相信号ωtを供給され、図示しないDAコンバータにより正弦波を発生し、コイルアレイの各ピッチ12並びに左右のダミーコイル8,9の直列片に正弦波を供給する。直列に接続したダミーコイル8,9の中点の電位をDで表す。各ピッチ12の4個のコイル10−1〜10−4をブリッジ状に配置し、ブリッジ信号を増幅回路40,41で増幅し、増幅回路40からsinθ・sinωtの信号を、増幅回路41からcosθ・sinωtの信号を取り出す。ここにθはピッチに対する磁気マークの位置を示し、磁気マークが1ピッチ分移動すると、θは2πだけ変化する。各ピッチ毎に増幅回路40,41を設けても良いが、ここでは各ピッチの出力を同じ増幅回路40,41に入力する。位相検出回路42では、増幅回路40,41の信号からθ成分を取り出し、ホール素子14の信号により、どのピッチで磁気マークを検出しているかを求め、オフセット補正部44でピッチの番号に対応するオフセットを加減算する。
【0020】
リニアスケール2にはスケール毎のばらつきがあるので、連続区間用の補正テーブル46と離散区間用の補正テーブル48の2種類の補正テーブルを切り替えて補正する。補正テーブル46では、連続区間での図3のピッチ12−1〜12−10の範囲に対して補正を行い、補正テーブル48では、離散区間での図3のピッチ12−2〜12−9の範囲に対して補正を行う。ダミーコイル8,9の中点からの信号Dを増幅回路54で増幅し、抵抗等を組み込んだデジタルトランジスタ56で増幅し、判定部58に入力する。51〜53は固定抵抗で、Vccは回路電源であり、デジタルトランジスタ56は、図7に示す閾値を用いたコンパレータとして作用する。そして判定部58は、位相信号ωtを基準とする所定のタイミングで、デジタルトランジスタ56の出力をチェックし、離散区間か連続区間を識別して、スイッチ50を切り替える。これによりオフセット補正後の位置信号を、補正テーブル46,48のいずれで補正するかを決定する。
【0021】
図6〜図8に実施例の動作を示す。図6は補正テーブル46,48の補正前の信号について、離散区間と連続区間での位置の指示値の差を示す。なおここではコイルアレイの全長は300mmで、計測範囲は連続区間では−150mm〜+150mm、離散区間では−115mm〜+115mmである。−97.5mm〜+97.5mm程度の範囲では、離散区間でも連続区間でも信号の差は僅かで、このためこの区間に対しては、例えば補正テーブル46,48のデータを共通にしておく。+97.5mm〜+115mmと、−97.5mm〜−115mmでは、離散区間か連続区間かにより出力が異なるので、連続区間か離散区間かに応じて補正テーブル46,48を切り替える。
【0022】
図7に、コイルアレイ4への励磁電圧sinωtに対するダミーコイルの中線からの信号D(電位信号)の波形を示す。図の左側は−端側で磁気マークの影響が+端側よりも強い場合を示し、ダミーコイルからの信号は励磁信号と逆位相である。図の右側では、+端側で−端側よりも磁気マークの影響が強く、ダミーコイルの信号は励磁信号の電圧波形と同位相となる。そこでωtが90°と270°等の適宜のタイミングで、信号Dをサンプリングし、デジタルトランジスタ56の動作閾値を超えているかどうかをチェックすれば、連続区間か離散区間かを識別できる。
【0023】
図8はダミーコイルからの信号を判定部58で処理した結果を示し、横軸はリニアスケールに対する磁気マークの位置を示し、太線の波形は離散区間での波形を、細線の波形は連続区間での波形を示す。リニアスケールの中央部に磁気マークがある場合、ダミーコイルからの信号は連続区間でも離散区間でも変わらず、また図6に示すように、この範囲では連続区間か離散区間かを識別する必要がない。磁気マークがリニアスケールの+端側にある場合、連続区間では95mm付近で信号が変化し、信号がそのまま−端側寄りとなる。同じ区間が離散区間の場合、信号は105mm付近まで中立を保ち、105mmの手前で+端寄りとなる。従って95mm以上で連続区間か離散区間かを識別できる。−端側でも同様に連続区間か離散区間かを識別でき、連続区間では−95mm付近で信号が+端側寄りとなるが、離散区間ではこの付近で信号は変化せず、−105mmの手前で−端寄りとなる。
【0024】
実施例では以下の効果が得られる。
(1) コイルアレイ4の両端のやや内側に磁気マークが1個存在する場合に、連続区間か離散区間かを識別でき、検出精度が向上する。
(2) 一対のダミーコイル8,9をコイルアレイ4の左右両端に追加すると、連続区間か離散区間かを識別でき、リニアスケール2の長さがほとんど増さない。
(3) ダミーコイル8,9はコイルアレイ4と同じ磁芯に設けることができ、形状もコイルアレイ4のコイル10と同じものでよい。
(4) ダミーコイル8,9はコイルアレイ4と同じ正弦波電源18で駆動できる。
(5) 一対のダミーコイル8,9は同じ磁芯6上にあり同形状なので、これらのインピーダンスのバランスを容易に取ることができる。
(6) ダミーコイル8,9は、最も外側のピッチ12−1,12−10のコイルに対し、他のピッチのコイルと環境を近づける。
【0025】
実施例ではダミーコイル8,9を直列に正弦波電源18に接続し、中点電位を取り出した。しかしながらダミーコイル8,9をそれぞれ単独で正弦波電源18等に接続し、磁気マークの有無によるインピーダンスの変化を測定しても良い。

【符号の説明】
【0026】
2 リニアスケール
4 コイルアレイ
6 磁芯
8,9 ダミーコイル
10 コイル
12 ピッチ
14 ホール素子
15 検出ヘッド
16 処理回路
18 正弦波電源
20 カウンタ
22,23,26 磁気マーク
24 ヨーク
25 永久磁石
27 磁気マーク
30 連続区間
31 離散区間
32〜35 磁気マーク
40,41,54 増幅回路
42 位相検出部
44 オフセット補正部
46,48 補正テーブル
50 スイッチ
51〜53 抵抗
56 デジタルトランジスタ
58 判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に、複数のコイルを移動体の移動方向に沿って配列したコイルアレイを有する検出ヘッドを設けて、移動体の移動経路に沿って設けた磁気マークを検出することにより移動体の位置を求め、かつ前記移動経路に、前記磁気マークを一定の第1のピッチで配置することにより移動体の位置を連続的に求める連続区間と、前記磁気マークを前記第1のピッチよりも長い間隔で配置することにより磁気マークの存在する区間でのみ移動体の位置を求める離散区間、とを設けた移動体システムであって、
前記コイルアレイの両側方にダミーコイルを設けて、ダミーコイル間の出力差により、連続区間か離散区間かを識別することを特徴とする、移動体システム。
【請求項2】
前記コイルアレイと前記ダミーコイルとを共通の交流電源に接続すると共に、コイルアレイの各コイルとダミーコイルとを共通の磁芯に沿って設けたことを特徴とする、請求項1の移動体システム。
【請求項3】
前記ダミーコイルは前記コイルアレイのコイルと同形状であることを特徴とする、請求項2の移動体システム。
【請求項4】
前記両側方のダミーコイルを直列に交流電源に接続すると共に、両側方のダミーコイルの中点電位の位相を前記交流電源の位相と比較することにより、連続区間か離散区間かを識別するようにしたことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかの移動体システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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