説明

移動体位置推定システムと移動体位置推定方法及び移動体位置推定プログラム

【課題】設置センサの位置情報を自動でキャリブレーションしつつ移動体の位置計測も合わせて行う。
【解決手段】測定領域内を移動する移動体Mの位置を推定するシステムにおいて、測定領域内に互いに分散して配置され、互い移動体Mまでの距離を3個以上の距離センサT1〜Tnで計測し、位置推定算出装置Pにて、距離センサそれぞれから任意の時刻のセンサ計測値を取得し蓄積し、取得蓄積された各距離センサのセンサ計測値に対して距離に応じた信頼性の度合いを示す距離信頼度を付与し、取得蓄積されたセンサ計測値のうち信頼度の高い計測値を採用して距離センサ及び移動体それぞれの位置を推定するようにし、位置推定の処理は、移動体Mの移動前後の位置それぞれの2個以上の距離センサから得られるセンサ計測値を用いて各距離センサの位置のキャリブレーション及び前記移動体の移動位置の推定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定領域内に互いに分散して配置される多数の距離センサを用いて領域内を移動する移動体の位置を推定する移動体位置推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から移動体の位置を推定する研究は多くなされているが、環境中にセンサを埋め込み、センサ位置を既知とした上で移動体の位置推定を行う方式が主流である。この方法は、一般に(1)計測システムの設置コストが高い、(2)センサあるいは対象移動物体いずれかの位置を既知としなければならない、といった制約がある。
【0003】
従来の移動体推定技術として、室内にセンサを張り巡らせて人物の位置を取得できるセンシングルームを構築した例がある(非特許文献1参照)。この例は、センシングルーム内での人間の位置を精度良く計測できるようにしたものである。しかしながら、一部屋に500以上のセンサを設置しており、センサ自体のコストだけでなくキャリブレーションにかける労力も多く、汎用的なシステムとは言えない。
【0004】
また、他の例として、WiFi(ワイヤレス・フィデリティー)の既存アクセスポイントを利用することで、計測システムの設置コストの低減を図るだけでなく、ユーザが所持する端末の位置情報を利用してアクセスポイントの位置の自動キャリブレーションを実現した「PlaceEngine」と称される技術もある(非特許文献2参照)。しかしながら、この例による方法では、キャリブレーション時にユーザが所持するRSSI(受信信号強度値)計測端末の位置を既知としなければならず、上記(1)、(2)の両問題点を克服する位置計測は未だ実現できていない。
【0005】
【非特許文献1】森、「生活パターンを覚えて助ける知能住宅」、電子情報通信学会技術研究報告Vol.105 No.224, pp.41-44, 2005。
【0006】
【非特許文献2】暦本純一、塩野崎敦、末吉隆彦、味八木崇、「PlaceEngin:実世界集合知に基づくWiFi位置情報基盤」、インターネットコンファレンス2006, pp.95-104, 2006。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の移動体位置推定システムでは、環境中にセンサを埋め込み、センサ位置を既知とした上で移動体の位置推定を行う方式が主流であった。しかし、上記方式は一般にキャリブレーションが必要である上に、設置コストが高くなる。こういった問題を克服する位置推定アルゴリズムは依然として実現できていないのが現状である。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、設置センサの位置情報を自動でキャリブレーションするだけでなく対象とする移動体の位置計測(トラッキング)も合わせて行うことが可能であり、移動体の位置を容易にかつ高精度に推定することのできる移動体位置推定システム、移動体位置推定方法及び移動体位置推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は以下のような特徴的構成を有する。
(1)測定領域内を移動する移動体の位置を推定する移動体位置推定システムにおいて、前記測定領域内に互いに分散して配置され、前記移動体までの距離を計測する3個以上の距離センサと、前記3個以上の距離センサそれぞれから任意の時刻のセンサ計測値を取得し蓄積する取得蓄積手段と、前記取得蓄積手段で取得蓄積された各距離センサのセンサ計測値に対して距離に応じた信頼性の度合いを示す距離信頼度を付与する信頼度付与手段と、前記取得蓄積手段で取得蓄積されたセンサ計測値のうち前記信頼度の高い計測値を採用して前記距離センサ及び前記移動体それぞれの位置を推定する位置推定手段とを具備し、前記位置推定手段は、前記移動体の移動前後の位置それぞれにおける2時刻分以上の距離センサから得られるセンサ計測値を用いて各距離センサの位置のキャリブレーション及び前記移動体の移動位置の推定を行うことを特徴とする。
【0010】
(2)(1)の構成において、前記信頼度付与手段は、前記3個以上の距離センサそれぞれについて、予め与えられる距離誤差分布モデルから最新のセンサ計測値に前記距離信頼度を付与し、前記位置推定手段は、前記3個以上の距離センサそれぞれの最新のセンサ計測値を前記距離信頼度が高い順に選択する第1の選択手段、並びに、この第1の選択手段で選択された最新のセンサ計測値に対して空間配置が最も良い計測値を前記取得蓄積手段で蓄積している計測値から選択する第2の選択手段を備えることを特徴とする。
【0011】
(3)(2)の構成において、前記位置推定手段は、前記第1の選択手段で選択された最新のセンサ計測値と前記第2の選択手段で選択された蓄積計測値を用いて前記距離センサ及び移動体間距離に起因する条件式で前記距離センサ及び移動体それぞれの位置を算出する第1の算出手段を備えることを特徴とする。
【0012】
(4)(3)の構成において、前記位置推定手段は、前記第1の算出手段で算出された移動体位置xh'(t)、過去に算出したセンサ位置xs(t-1)と分散Σs(t-1)を用いて距離計測予測値z'を算出し、これらの値(xh'(t),xs(t-1),z')とセンサ計測値zから移動体位置確率密度関数PDFを算出し、この移動体位置確率密度関数PDFから前記移動体の平均位置と分散を算出する第2の算出手段を備えることを特徴とする。
【0013】
(5)(4)の構成において、前記位置推定手段は、前記第2の算出手段で算出された移動体位置確率密度関数PDFから算出された移動体位置xh(t)、過去に算出したセンサ位置xs(t-1)と分散Σs(t-1)、センサ計測予測値z'、そしてセンサ計測値zの情報からセンサ位置PDFを算出し、このセンサ位置PDFから前記距離センサの平均位置と分散を算出する第3の算出手段を備えることを特徴とする。
【0014】
(6)測定領域内を移動する移動体の位置を推定する移動体位置推定方法において、前記測定領域内に互いに分散して配置され、前記移動体までの距離を3個以上の距離センサで計測し、前記3個以上の距離センサそれぞれから任意の時刻のセンサ計測値を取得し蓄積し、前記取得蓄積された各距離センサのセンサ計測値に対して距離に応じた信頼性の度合いを示す距離信頼度を付与し、前記取得蓄積されたセンサ計測値のうち前記信頼度の高い計測値を採用して前記距離センサ及び前記移動体それぞれの位置を推定するようにし、前記位置推定の処理は、前記移動体の移動前後の位置それぞれの2個以上の距離センサから得られるセンサ計測値を用いて各距離センサの位置のキャリブレーション及び前記移動体の移動位置の推定を行うことを特徴とする。
【0015】
(7)(6)の構成において、前記信頼度付与の処理は、前記3個以上の距離センサそれぞれについて、予め与えられる距離誤差分布モデルから最新のセンサ計測値に前記距離信頼度を付与し、前記位置推定の処理は、前記3個以上の距離センサそれぞれの最新のセンサ計測値を前記距離信頼度が高い順に選択し、選択された最新のセンサ計測値に対して空間配置が最も良い計測値を前記蓄積している計測値から選択することを特徴とする。
【0016】
(8)(7)の構成において、前記位置推定の処理は、前記距離信頼度が高い順に選択された最新のセンサ計測値と前記蓄積された計測値から選択された空間配置が最も良い蓄積計測値を用いて前記距離センサ及び移動体間距離に起因する条件式で距離センサ及び移動体それぞれの位置を算出することを特徴とする。
【0017】
(9)(8)の構成において、前記位置推定手段は、前記条件式で算出された移動体位置xh'(t)、過去に算出したセンサ位置xs(t-1)と分散Σs(t-1)を用いて距離計測予測値z'を算出し、これらの値(xh'(t),xs(t-1),z')とセンサ計測値zから移動体位置確率密度関数PDFを算出し、前記移動体位置確率密度関数PDFから前記移動体の平均位置と分散を算出し、前記移動体位置確率密度関数PDFから算出された移動体位置xh(t)、過去に算出したセンサ位置xs(t-1)と分散Σs(t-1)、センサ計測予測値z'、そしてセンサ計測値zの情報からセンサ位置PDFを算出し、前記センサ位置PDFから前記距離センサの平均位置と分散を算出することを特徴とする。
【0018】
(10)測定領域内を移動する移動体の位置を推定する計算をコンピュータに実行させるための移動体位置推定プログラムにおいて、前記測定領域内に互いに分散して配置され、前記移動体までの距離を計測する3個以上の距離センサそれぞれから任意の時刻のセンサ計測値を取得し蓄積する処理と、前記取得蓄積された各距離センサのセンサ計測値に対して距離に応じた信頼性の度合いを示す距離信頼度を付与する処理と、前記取得蓄積されたセンサ計測値のうち前記信頼度の高い計測値を採用して前記距離センサ及び前記移動体それぞれの位置を推定する処理とを備え、前記位置推定の処理は、前記移動体の移動前後の位置それぞれの2個以上の距離センサから得られるセンサ計測値を用いて各距離センサの位置のキャリブレーション及び前記移動体の移動位置の推定を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
すなわち、本発明では、(1)計測システムの設置コストが高い、(2)センサあるいは対象物体の位置のいずれかを既知としなければならないといった従来システムの問題点を解決するため、(1)センサをユーザが適当に配置できる、(2)センサと移動体間の距離のみを用いたキャリブレーション法であるため、いずれの位置情報を取得する必要がないといった効果を得ることができる。また、移動体と距離の近い3つのセンサ間とのみ毎時キャリブレーションを行うため、比較的信頼性の高い距離情報を用いることができる上、全計算量を抑えるといった効果も得ることができ、非常に汎用性の高い移動体位置推定システムであるといえる。
【0020】
以上のように、本発明によれば、設置センサの位置情報を自動でキャリブレーションするだけでなく移動体の位置計測も合わせて行うことが可能であり、移動体の位置を容易にかつ高精度に推定することのできる移動体位置推定システム、移動体位置推定方法及び移動体位置推定プログラムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本発明に係る移動体位置推定方法を利用したシステムの概要を説明するための概念図である。図1において、計測領域内には距離センサを搭載した送信機T0(ID:0),T1(ID:1),T2(ID:2),T3(ID:3),…,Tn(ID:n)が予め任意の地点(相対位置座標(xi,yi):iは0〜n)に分散設置される。上記計測領域内を移動する移動体Mには受信機Rが装着される。
【0022】
各送信機T0〜Tnは、それぞれ移動体Mをセンシングしてその距離を計測する距離センサ(図示せず)を備え、距離情報として送信ID、計測時刻、計測距離を定期的に送信する。送信機T0〜Tnが扱う信号は電波、音波を問わず、距離変換可能なものであればよい。
【0023】
上記計測領域内を移動する移動体Mには受信機Rが装着される。この受信機Rは各送信機T0〜Tnから送信される距離情報を選択的に取得して位置推定算出装置Pに送る。この位置推定算出装置Pは、例えば汎用コンピュータによって実現されるもので、図2に示すように、受信機Rで受信された各送信機T0〜Tnからの位置情報を取り込むインターフェース11と、予め解析された位置推定アルゴリズムに基づいて移動体Mの位置推定処理を実行するためのプログラムを格納するROM(Read Only Memory)12、ROM12に格納されるプログラムに従って受信機Rにて得られる距離情報から移動体Mの位置を推定するCPU(Central Processing Unit)13、CPU13の作業領域として機能し、推定結果を格納するRAM(Random Access Memory)14、CPU13に対するプログラムの実行指示やデータの入力を行う入力装置15、CPU13の推定処理状況をモニタするモニタ装置16を備える。
【0024】
尚、以下の説明において、距離センサを搭載した送信機T0〜Tnをそれぞれセンサ、受信機Rが装着された移動体Mをユーザと称する。
上記構成において、図3を参照して本発明に係る移動体位置推定システムの全体のアルゴリズムについて説明する。
【0025】
まず、ユーザをセンシングしているセンサそれぞれの計測値(d0(t),d1(t),d2(t),…,dn(t))の中から信頼度の高い計測値を選択する(ステップS11)。ここでは、予め作成しておいたセンサ計測値の誤差分布を利用して計測値を選択する。例えば、距離計測値の分散を10、計測値と理論値との平均偏差を100[mm]までの計測値を許容するとすれば、図4((a)は理論値−計測値の分布を示し、(b)は理論値に対する分散の分布を示す)に示すような誤差分布を用いると、フィルタ閾値を4[m]として、4[m]以内の距離計測値を全て選択するということになる。
【0026】
ステップS11で選択されたm個(m≧3)のセンサの距離計測値とそのセンサIDを用いてm個のセンサTとユーザMの位置算出を行っていく。ここで、代表センサは設定済か判断することで、初回計算か否かを把握する(ステップS12)。初回計算時(NO)には、まず、代表センサを3つ選択し、座標系を設定する。具体的には、設定された代表センサのうち、2つのセンサ位置を局所座標系x軸上に設定し、片方を原点とする。残りの一つのセンサ位置を+y軸方向に設定する(図5)。(ステップS13)。代表センサの設定後、またはステップS12で代表センサが設定済の場合(YES)には、過去に計測した距離データを選択する(ステップS14)。ステップS14に関しては後述する。
【0027】
次に、3つの代表センサ位置とユーザの位置をN−R法といった数値計算によって算出する(ステップS15)。数値計算で解くべき条件式の一例としては、以下の(1)式に示すように、過去から現在までに得た計測距離に起因する送受信機間の幾何学的関係を表す条件式A部と送信機の位置不変に起因する条件式B部からなるものがある。(1)式により、代表センサ初期位置とユーザ位置を算出する。
【0028】
【数1】

また、本発明による手法では、各センサ位置算出する際、各センサ位置の初期値が必要となる。新たに計測されたセンサ(Nセンサと呼ぶことにする)がm個の場合、x軸上に設置された2つの代表センサと1つのNセンサを用いてステップS15と同様にしてNセンサの初期位置を算出する。つまり、m個のNセンサ位置を算出するためにm-2[回]N−R法を解くことで、m個のセンサ初期位置を算出する。
【数2】

ここで、ステップS14、ステップS15の説明のために、図5に示すセンサT0、センサT1、センサT2によるユーザMの位置算出アルゴリズムについて述べる。但し、ここではセンサT0とセンサT1,T2を代表センサとする。
【0029】
N−R法計算時には2時刻分以上の3つのセンサとユーザ間の距離データが必要となる(n時刻の距離データを用いた場合:状態変数=センサ位置変数+n時刻分のユーザ位置、条件式=n時刻分の(1)A部+B部、すなわち3+2*n≦条件式3*n+1→2≦n)。今回、最新の距離データを含めて4時刻分の距離データを用いるが、より多くの距離データを用いてもよい。
【0030】
そこで、過去に計測した距離データの中から信頼度に基づいて最適な距離データを選択する(ステップS14)。この場合、距離データの選択法として、例えばセンサとユーザ間の空間配置に基づく信頼度を用いる。今回、(1)式A部は三角測量に他ならないが、一般的に三角測量は計測物と被計測物の空間配置に精度が大きく依存する。
【0031】
例えば、GPS(全地球測位システム)電波による三角測量の場合、図6に示すように、ユーザMを単位球の原点に置いたとき、三次元空間中の4つのGPS衛星S1〜S4の位置ベクトルと単位球との交点が作り出す四面体の体積が大きいほど位置算出精度はよくなる。したがって、一箇所に密集した4つの衛星S1〜S4によるユーザMの位置計測は精度が悪化する。
【0032】
以上のことから、ステップS14で位置算出を行う全3つのセンサから相対位置の大きく異なるユーザ位置に着目し、それらの位置で計測された距離データを蓄積されている過去の距離データから選択することができれば位置算出精度の向上が図れる。つまり、最真値の距離データをd(t)=(d0(t),d1(t),d2(t))と表したとき、d(t)と非類似度の高い3つの距離データ(d(t1),d(t2),d(t3))を距離のログデータから選択すればよい。非類似度の評価式としては、例えば図6に示す四面体の体積を用いればよい。四面体の体積算出式を以下の(3)式に示す。
【0033】
【数3】

新たに計測したセンサの初期位置も同様にして算出する。以上により、ステップS11で選択した3つの代表センサと新たに計測されたNセンサの計3+m個のセンサ初期位置とユーザの位置算出が可能となる。
最後にパーティクルフィルタを用いたSLAM(Simultaneous Localization And Mapping)理論によって、ステップS15で算出したユーザ位置と、距離センサによる距離データを用いて、局所座標系におけるユーザと各センサの平均位置・分散を算出していく(ステップS16)。
【0034】
図8は上記SLAM理論によるアルゴリズムの詳細な処理の流れを示すブロック線図である。ここでは、時刻tにおける処理として、入力をYt-1[k]:t−1各におけるパーティクル、u:制御入力、z:センサ計測値としたときの、出力Yt[k]=<x1,t[k],N1,t[k],<μ1,t[k],Σ1,t[k]>,<μ2,t[k],Σ2,t[k]>,…,<μNt[k],t[k],ΣNt[k],t[k]>>を求める例を示している。ここで、x1,t[k]はユーザの平均位置を表し、N1,t[k]は計測したセンサ数を表す。
【0035】
パーティクルは各センサ毎に独立してセンサ位置とユーザ位置を算出する。各パーティクルは、ユーザの平均位置、計測したセンサ数、そして各センサ位置の平均・分散を格納している。まず、時刻tにおけるk番目のパーティクルがj番目のセンサに対してユーザの位置算出を行う場合について述べる。尚、観測モデルはN(zt,h(mct,xt),Qt)と定義する。
【0036】
図8において、ユーザの位置予測100では、N−R法によって時刻tのユーザ位置の予測値x^j,t[k]を算出し(110)、時刻t−1に算出したパーティクルYt-1からセンサ特徴位置の平均μj,t-1[k]と分散Σj,t-1[k]を抽出し(120)、これらの値を用いて観測モデルに基づきセンサ計測予測値z-j,t[k]を算出し(130)、これらの値(x^j,t[k],μj,t-1[k],Σj,t-1[k])と時刻tのセンサ計測値ztからユーザ位置確率密度関数(PDF)を算出し(140)、時刻tのユーザ位置の平均μj,t[k]と分散Σj,t [k]を算出する。ここで、時刻tの距離計測予測値z-j,t[k]を算出する観測モデルは(4)式のようなものがある。
【0037】
【数4】

上記PDFは時刻1からt−1までのユーザの位置軌跡x1:t-1と、時刻1からtまでの距離データμ1:t、計測値z1:t、センサIDの対応付けc1:tのそれぞれが与えられたときのユーザ位置xtの条件付確率と同値である。次に、算出したユーザの平均・分散から作成されるガウス分布に基づいてユーザの位置の推定値xt,j[k]をサンプリングする(150)。
【0038】
センサ位置推定値の更新200では、サンプリングされたユーザ位置xt,j[k]とセンサ位置の平均μj,t-1[k]と分散Σj,t-1[k]の値を用いて観測モデルに基づき最適なセンサ計測予測値z^j,t[k]を算出する(210)。ここで、特徴とする位置が既知の場合、上記で算出した値(z^t,j[k],zt,xj,t[k],μj,t-1[k],Σj,t-1[k])を用いてPDFを算出し、センサ位置の平均μj,t[k]と分散Σj,t[k]を算出する(220)。特徴とする位置が未知の場合、j番目のセンサ位置初回計算時には、センサ位置の平均値μj,t[k]として、図2のステップS15のN−R法で算出したセンサ初期位置を用いる(230)。
【0039】
また、SLAM計算時にj番目のセンサが計測されなかった場合は、センサの位置の算出は行わず、過去の算出結果を保存する(240)。上記PDFは、時刻tにおけるユーザ位置xt[k]、時刻1からtまでの計測値z1:t、センサIDの対応付けc1:tが与えられたときのセンサ位置の条件付確率と同値である。このとき算出した尤度(時刻1からt−1までのユーザの位置軌跡x1:t-1、計測値z1:t-1、センサIDの対応付けc1:t-1と、時刻1からtまでの距離データμ1:tが与えられたときのセンサ位置ztの条件付確率)を重みとしてパーティクルに付与する。最後に、重みに比例した確率でパーティクルをリサンプリング(復元抽出として確率の低いものを捨てて確率の高いものを優先的に抽出すること)する(300)。これにより、重みの小さいパーティクルは消滅し、重みの高いパーティクルが選択されていく。
【0040】
以上により、代表センサが計測される限り図8の処理を繰り返していくことで、代表センサ以外のセンサが新たに計測された場合でも、各センサ位置を算出していくことが可能となる。
したがって、上記構成による移動体位置推定システムによれば、複数のセンサ(送信機)の位置をキャリブレーションしながらユーザ(受信機)の移動を追尾することが可能となり、移動体の位置を容易にかつ高精度に推定することができる。
【0041】
なお、本発明は、上記実施形態例そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態例に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより種種の発明を形成できる。例えば、実施形態例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。更に、異なる実施形態例に亘る構成要素を適宜組み合わせても良い。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係る移動体位置推定システムの概略構成を示す概念図。
【図2】上記実施形態のシステムに用いられる位置推定算出装置の具体的な構成を示す概略構成図。
【図3】上記実施形態の移動体位置推定システムの全体のアルゴリズムを示すフローチャート。
【図4】上記実施形態のシステムに用いられるセンサの計測値の誤差分布例を示す特性図。
【図5】本発明の実施形態のシステムにおいて、代表点の設定例を示す概念図。
【図6】上記実施形態のシステムに用いられる三角測量の精度を説明するための概念図。
【図7】上記実施形態のシステムのセンサ選択の具体的な方法を説明するための概念図。
【図8】上記実施形態のシステムに用いられるSLAM理論によるアルゴリズムの詳細な処理の流れを示すブロック線図。
【符号の説明】
【0043】
T0〜Tn…送信機(距離センサ搭載)、M…移動体、R…受信機、P…位置推定算出装置、11…インターフェース、12…ROM、13…CPU、14…RAM(Random Access Memory)、15…入力装置、13…CPU、16…モニタ装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定領域内を移動する移動体の位置を推定する移動体位置推定システムにおいて、
前記測定領域内に互いに分散して配置され、前記移動体までの距離を計測する3個以上の距離センサと、
前記3個以上の距離センサそれぞれから任意の時刻のセンサ計測値を取得し蓄積する取得蓄積手段と、
前記取得蓄積手段で取得蓄積された各距離センサのセンサ計測値に対して距離に応じた信頼性の度合いを示す距離信頼度を付与する信頼度付与手段と、
前記取得蓄積手段で取得蓄積されたセンサ計測値のうち前記信頼度の高い計測値を採用して前記距離センサ及び前記移動体それぞれの位置を推定する位置推定手段と
を具備し、
前記位置推定手段は、前記移動体の移動前後の位置それぞれにおける2時刻分以上の距離センサから得られるセンサ計測値を用いて各距離センサの位置のキャリブレーション及び前記移動体の移動位置の推定を行うことを特徴とする移動体位置推定システム。
【請求項2】
前記信頼度付与手段は、前記3個以上の距離センサそれぞれについて、予め与えられる距離誤差分布モデルから最新のセンサ計測値に前記距離信頼度を付与し、
前記位置推定手段は、前記3個以上の距離センサそれぞれの最新のセンサ計測値を前記距離信頼度が高い順に選択する第1の選択手段、並びに、この第1の選択手段で選択された最新のセンサ計測値に対して空間配置が最も良い計測値を前記取得蓄積手段で蓄積している計測値から選択する第2の選択手段を備えることを特徴とする請求項1記載の移動体位置推定システム。
【請求項3】
前記位置推定手段は、前記第1の選択手段で選択された最新のセンサ計測値と前記第2の選択手段で選択された蓄積計測値を用いて前記距離センサ及び移動体間距離に起因する条件式で前記距離センサ及び移動体それぞれの位置を算出する第1の算出手段を備えることを特徴とする請求項2記載の移動体位置推定システム。
【請求項4】
前記位置推定手段は、前記第1の算出手段で算出された移動体位置xh'(t)、過去に算出したセンサ位置xs(t-1)と分散Σs(t-1)を用いて距離計測予測値z'を算出し、これらの値(xh'(t),xs(t-1),z')とセンサ計測値zから移動体位置確率密度関数PDFを算出し、この移動体位置確率密度関数PDFから前記移動体の平均位置と分散を算出する第2の算出手段を備えることを特徴とする請求項3記載の移動体位置推定システム。
【請求項5】
前記位置推定手段は、前記第2の算出手段で算出された移動体位置確率密度関数PDFから算出された移動体位置xh(t)、過去に算出したセンサ位置xs(t-1)と分散Σs(t-1)、センサ計測予測値z'、そしてセンサ計測値zの情報からセンサ位置PDFを算出し、このセンサ位置PDFから前記距離センサの平均位置と分散を算出する第3の算出手段を備えることを特徴とする請求項4記載の移動体位置推定システム。
【請求項6】
測定領域内を移動する移動体の位置を推定する移動体位置推定方法において、
前記測定領域内に互いに分散して配置される3個以上の距離センサで前記移動体までの距離を計測し、
前記3個以上の距離センサそれぞれから任意の時刻のセンサ計測値を取得し蓄積し、
前記取得蓄積された各距離センサのセンサ計測値に対して距離に応じた信頼性の度合いを示す距離信頼度を付与し、
前記取得蓄積されたセンサ計測値のうち前記信頼度の高い計測値を採用して前記距離センサ及び前記移動体それぞれの位置を推定するようにし、
前記位置推定の処理は、前記移動体の移動前後の位置それぞれにおける2時刻分以上の距離センサから得られるセンサ計測値を用いて各距離センサの位置のキャリブレーション及び前記移動体の移動位置の推定を行うことを特徴とする移動体位置推定方法。
【請求項7】
前記信頼度付与の処理は、前記3個以上の距離センサそれぞれについて、予め与えられる距離誤差分布モデルから最新のセンサ計測値に前記距離信頼度を付与し、
前記位置推定の処理は、前記3個以上の距離センサそれぞれの最新のセンサ計測値を前記距離信頼度が高い順に選択し、選択された最新のセンサ計測値に対して空間配置が最も良い計測値を前記蓄積している計測値から選択することを特徴とする請求項6記載の移動体位置推定方法。
【請求項8】
前記位置推定の処理は、前記距離信頼度が高い順に選択された最新のセンサ計測値と前記蓄積された計測値から選択された空間配置が最も良い蓄積計測値を用いて前記距離センサ及び移動体間距離に起因する条件式で距離センサ及び移動体それぞれの位置を算出することを特徴とする請求項7記載の移動体位置推定方法。
【請求項9】
前記位置推定手段は、
前記条件式で算出された移動体位置xh'(t)、過去に算出したセンサ位置xs(t-1)と分散Σs(t-1)を用いて距離計測予測値z'を算出し、
これらの値(xh'(t),xs(t-1),z')とセンサ計測値zから移動体位置確率密度関数PDFを算出し、
前記移動体位置確率密度関数PDFから前記移動体の平均位置と分散を算出し、
前記移動体位置確率密度関数PDFから算出された移動体位置xh(t)、過去に算出したセンサ位置xs(t-1)と分散Σs(t-1)、センサ計測予測値z'、そしてセンサ計測値zの情報からセンサ位置PDFを算出し、
前記センサ位置PDFから前記距離センサの平均位置と分散を算出することを特徴とする請求項8記載の移動体位置推定方法。
【請求項10】
測定領域内を移動する移動体の位置を推定する計算をコンピュータに実行させるための移動体位置推定プログラムにおいて、
前記測定領域内に互いに分散して配置され、前記移動体までの距離を計測する3個以上の距離センサそれぞれから任意の時刻のセンサ計測値を取得し蓄積する処理と、
前記取得蓄積された各距離センサのセンサ計測値に対して距離に応じた信頼性の度合いを示す距離信頼度を付与する処理と、
前記取得蓄積されたセンサ計測値のうち前記信頼度の高い計測値を採用して前記距離センサ及び前記移動体それぞれの位置を推定する処理とを備え、
前記位置推定の処理は、前記移動体の移動前後の位置それぞれの2個以上の距離センサから得られるセンサ計測値を用いて各距離センサの位置のキャリブレーション及び前記移動体の移動位置の推定を行うことを特徴とする移動体位置推定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−127650(P2010−127650A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300022(P2008−300022)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】