説明

移動壁のブレーキ装置及び移動壁の吊車

【課題】 天井レールに吊設されて移動する移動壁が、壁面に大きな衝撃を伴って衝突しないように該壁面手前でブレーキを働かすことが出来るブレーキ装置であって、簡単な構造であると共に安定して作動することが出来るブレーキ装置に提供。
【解決手段】 天井レール4のガイド部内側面13,13には所定長さのプレート11,11をガイド部8,8に沿って取付け、吊車2から下方へ延びて移動壁1を吊設する吊ボルト3にはブッシュ19を穴18に嵌めたローラ12を取付け、上記プレート11及びローラ12の材質をウレタンゴムとし、そして両プレート11,11とローラ外径との間にはクリアランスを0〜2mmとしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は移動壁を収納部から引き出して配列する場合、壁面に大きな衝撃を伴って当らないようにするブレーキ装置、及び移動壁の吊車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
間仕切りには所定の位置にパネルを据付・固定して構成されるものと、その場所を移動することが出来る移動壁がある。移動壁とは天井レールに吊設されて移動することが出来るように構成され、必要に応じて建物の大きな空間を仕切ることが出来、又、不要な時には収納部へ移動して収納することが出来る。大きな空間を仕切る場合には天井レールに沿って吊設されると共に直線状に配列され、収納する場合には複数枚の移動壁は所定の間隔をおいて平行に配列される。
【0003】
移動壁にも大きな重量級のものから小さな軽量級のものまで多種多様化し、又該移動壁を天井レールに吊設・移動する吊車の型式も色々ある。ところで、これら移動壁は部屋の片隅に設けた収納部に収納され、該収納部から1枚づつ引き出して所定の位置に配列されるが、この際に該移動壁の側端を緩やかに押圧することで移動するが、大きな力で押圧することもある。その結果、壁面に大きな衝撃を伴って当って、該壁面にキズが付き、吊車や吊ボルトが損傷することもある。
【0004】
そこで、収納部から引き出されて移動する移動壁が、部屋の壁面に大きな衝撃を伴って当らないように工夫した技術も知られている。例えば、特開平8−232534号に係る「移動壁のブレーキ装置」は、移動壁を移動操作する場合に、強力に押圧しても、手から離れて単独で走行し、壁面に大きな衝撃力を伴って衝突することがないようにした移動壁のブレーキ装置である。そこで、移動壁の上端に摩擦部材を昇降動可能に取り付けし、摩擦部材にはバネ力を付勢して常に上方へ押し上げる力を与え、該摩擦部材は移動壁の側端に設けた操作部を手放すと同時にバネ力にて天井レールに圧接するように機能する。
【0005】
又、特開2003−13662号に係る「移動壁の走行制御装置」は、天井レールに吊設されて移動する大型の移動壁を収納場所から出し入れするに際して、移動速度が速くならないようにする走行制御装置である。そこで、天井レールの上には伸縮するピストンロットを備えたダンパーを取着し、ピストンロットの先端には支持部材を介してスライダーを揺動可能に軸支すると共に該スライダーの揺動を一定範囲にわたって拘束する為のガイドを備え、吊車がスライダーの先端に当ってピストンロットを縮めることで走行速度を制御することが出来る。
【0006】
ところで、上記特開平8−232534号に係る「移動壁のブレーキ装置」、及び特開2003−13662号に係る「移動壁の走行制御装置」は、構造が複雑であり、その為に製作コストは高くなってしまう。勿論、構造の複雑化はブレーキ動作や走行制御動作が安定しないことも多い。
【特許文献1】特開平8−232534号に係る「移動壁のブレーキ装置」
【特許文献2】特開2003−13662号に係る「移動壁の走行制御装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、従来の移動壁に備わっているブレーキ装置には上記のごとき問題がある。本発明が解決しようとする課題はこれら問題点であり、天井レールに沿って移動する移動壁が壁面に近づいたところでブレーキが自動的に掛かって、該壁面に大きな衝撃を伴って衝突しないようにした移動壁のブレーキ装置、及び該移動壁の吊車を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
移動壁としての基本的な構造は従来と共通し、天井に取付けた天井レールに吊車を介して吊設される。吊車は移動壁の上端両サイドに取着され、該吊車から垂下する吊ボルトの下端に移動壁が連結している。ここで、吊車の型式は吊ボルトに所定の間隔をおいて2個の水平車輪を回転自在に軸支した水平車輪型式であっても、直方体のブロック本体の側面に車輪を回転自在に軸支した垂直車輪型式であってもよい。
【0009】
そして、天井レールのガイド部内側面にはプレートを取付け、吊ボルトにはウレタンなどの樹脂ローラを嵌め、ボルトが貫通する穴にはメタルなどの硬質ブッシュを嵌めている。上記プレートはある程度の長さを有してガイド部に沿設して吊ボルトに嵌めた上記ローラを挟み込む構造としている。ここで、プレート及びローラの少なくとも片方は摩擦面を有し、移動壁が移動する際に僅かに圧縮して摩擦力を発生することが出来る。プレートは壁面の手前に設けられ、壁面に近づく移動壁にブレーキを働かせるように機能する。
【0010】
ここで、上記プレートの材質は特に限定しないが、ウレタンゴムが一般的である。ウレタンゴムは耐摩耗性に優れて何時までも安定した摩擦力を発生する。そして、あくまでも互いに接触する表面が摩擦面であればよく、金属プレートや硬質樹脂プレートにウレタンゴムなどの摩擦材を貼り合わせた構造とすることも可能である。そして、該プレートの場合にはローラとの間に適度な接触圧を保つ為にバネを介してガイドに取付けることもある。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る移動壁のブレーキ装置は、天井レールのガイド部内側面にプレートを取付け、移動壁が移動して壁面に近づいたならば、吊ボルトに嵌ったローラは上記プレートに挟まれ、該プレートとの間に滑り摩擦が発生して移動壁にブレーキが作用する。プレートの長さ及びローラの外径は適当な寸法でなくてはならないが、極めて簡単な構造である為に製作コストは安く、動作は常に安定して故障の心配はない。
【0012】
そして、上記吊ボルトに嵌って軸支されるローラは一般にウレタンゴムなどの比較的柔らかくて摩擦係数の高い材質が使用されるが、該ローラの穴にはメタルブッシュ又はメタルに相当する硬質のブッシュが嵌っていることで、吊ボルトのネジ山が穴内面に食い込むことはない。
【0013】
吊ボルトに嵌って取付けられたローラは移動壁の移動に際して、左右の両プレートに均等に接しない為に摩擦力が大きな方のプレートとの接触にて回転するが、吊ボルトのネジ山がローラ穴内面に食い込むならば、ローラの回転に伴って該ローラは上昇する。その結果、幅寸法を小さくしている天井レールの分岐部(交差部)のガイド溝を通過することが出来なくなるが、本発明ではローラ穴に硬質ブッシュを嵌めることでネジ山の食い込みは防止され、その結果、ローラの上昇は阻止される。
【実施例】
【0014】
図1は一般的な移動壁1を表している正面図である。該移動壁1はその上端両サイドには吊車2,2が取付けられ、吊車2,2と移動壁1とは吊ボルト3,3にて連結している。吊車2は天井に敷設した天井レールに遊嵌されて移動することが出来、移動壁1は吊車2,2に吊設されて、吊車2,2と共に移動することが出来る。
【0015】
図2は天井レール4に吊設されている移動壁1の断面を表しているが、該吊車2は水平車輪型式とし、2個の水平車輪5a,5bは吊ボルト3に所定の間隔をおいて回転自在に軸支されている。天井レール4は一方の側壁部7aに走行片6aを有し、他方の側壁部7bには走行片6bを有しており、水平車輪5aの外周は走行片6aに載り、水平車輪5bの外周は走行片6bに載っている。
【0016】
走行片6a,6bの走行面は内側へ傾斜している為に、水平車輪5a,5bの下側外周が走行面に接して回転することが出来る。そして、各水平車輪5aは側壁部7aに近接し、水平車輪5bは側壁部7bに近接しているために、該吊車2は横ズレすることなく天井レール4に沿って移動することが出来る。
【0017】
吊車2から下方へ延びる吊ボルト3は天井レール4の一部として形成している両ガイド部8,8の間のガイド空間を貫通して下方へ延び、吊ボルト3の下端は移動壁1に固定されている。ガイド部8,8の下端には外側へ張り出す支持部9,9が設けられ、この支持部9,9には天井パネルの縁が載って支持される。
【0018】
そして、移動壁1の上部には上圧接部材10,10が吊ボルト3を挟んだ両面側に設けられ、該上圧接部材10,10を上昇するならば上記支持部9,9に圧接して移動壁1が固定される。勿論、移動壁1の下部には下圧接部材を備えており、移動壁1の下端は下圧接部材を介して床面に固定される。すなわち、移動壁1は天井レール4に吊設された状態であり、その位置を変えることが出来ると共に、所定の位置に配置された状態でも揺れ動くことから、一般には上圧接部材10及び下圧接部材を備えて固定される。
【0019】
ところで、天井レール4のガイド部8,8の内側面にはプレート11,11が該ガイド部8,8に沿って取付けられ、吊ボルト3にはローラ12が嵌っている。プレート11の材質としてはウレタンゴムが使用され、ローラ12もウレタンゴムを用いることが出来る。ウレタンゴムは摩擦係数が高くて耐摩耗性に優れ、ローラ12がプレート11,11に接することで摩擦が発生する。従って、移動壁1の移動速度にブレーキが作用することになる。
【0020】
図3は吊ボルト3に取付けられるローラ12を単独で表している具体例である。このローラ12は外径Dで高さHの寸法を有し、内径dの穴18にはブッシュ19が嵌っている。ブッシュ19は金属製のメタルブッシュであり、上端にはツバ20を形成してローラ12の上端に載っている。このブッシュ19を嵌めた状態で吊ボルト3に取付けられる為に、該吊ボルト3はブッシュ穴を挿通している。
【0021】
吊ボルト3はその外周にネジ山を有しているが、このネジ山はローラ穴に嵌ったメタルブッシュ19によって保護され、ローラ穴の内周面に食い込むことはない。移動壁1が横揺れするならば、ローラ外壁はプレート11と吊ボルト3との間に挟まれてネジ山は穴内周面に食い込むが、これを防止することが出来る。
【0022】
ここで、上記ブッシュの材質は必ずしも金属製に限るものではなく、ネジ山が食い込まない程度の硬質であればよく、樹脂製ブッシュであっても構わない。ただし、移動壁1と共に吊ボルト3が揺れることで大きな衝撃力が作用する為に、この衝撃力に耐え得る材質でなくてはならない。
【0023】
図4は本発明に係るブレーキ装置の概略図であり、横断面を示している。ガイド部8,8の内側面13,13にはプレート11,11が固定され、吊ボルト3にはローラ12が嵌っている。勿論、ローラ穴18にはブッシュ19が嵌っている為に、吊ボルト3は該ローラ穴18に直接当らない。同図はローラ12が両プレート11,11に挟まれている状態であり、プレート11,11の表面14,14は僅かに窪み、ローラ12の接触部も僅かに窪み変形する。
【0024】
このように、プレート11,11にローラ12が接することで、該ローラ12が移動する際にはプレート11,11の間に摩擦力が発生する。ところで、両プレート表面14,14とローラ12との間は僅かなクリアランスが存在している。又はクリアランス0の状態であり、マイナスクリアランスではない。
【0025】
ローラ12は両プレート11,11間に進入する場合、移動壁1は横揺れして該ローラ12はプレート11に接する。仮に、1mmのクリアランスを設けた場合であっても、ローラ12がプレート11に接することなく通過することは現実的にはあり得ない。勿論、横揺れしなくても芯がズレることで吊ボルト3は僅かに傾き、その為に該ローラ12はプレート11と接することになる。
【0026】
ローラ12とプレート11,11間をマイナスクリアランスとするならば、ローラ12がプレート11,11へ進入することで過大な摩擦が発生して移動壁1はその位置で停止してしまう虞がある。ここで、該クリアランスの大きさは特に限定しないが、一般的には0クリアランス〜2mm程度のクリアランスが適している。
【0027】
このように、移動壁1が通過する際にはローラ12はプレート11の表面14に接して滑り摩擦を発生し、移動壁1にブレーキが作用する。この場合、両プレート11,11との間に僅かなクリアランスを介在したローラ12は、両プレート11,11に同時に接することはなく、片方のプレート11と擦れ合うことで滑り摩擦が生じる。その結果、該ローラ12には該摩擦力によって多少なりと回転するが、ローラ穴18にはメタルブッシュ19が嵌っていることで、吊ボルト3のネジ山が内周面に食い込むことはなく、しかも回転に伴ってローラ12が上昇することもない。
【0028】
図5は垂直車輪型式の吊車2にて移動壁1を吊設している場合である。垂直車輪型式の吊車2は直方体のブロック本体15の両側及び前後に垂直車輪16,16・・を回転自在に軸支している。同図においては両側の垂直車輪16,16・・は天井レール4の走行片17,17に載って転動し、吊車2から下方へ垂下する吊ボルト3にはローラ12が嵌っている。勿論、該ローラ12の穴にも上記ブッシュ19が嵌っていて、吊ボルト3のネジ山がローラ穴内周面に食い込むことがないようにしている。
【0029】
そして、走行片17,17から下方へ延びるガイド部8,8の内側面にはプレート11,11が固定されている。この場合も、両プレート11,11とローラ12との間には寸法上の僅かなクリアランスが存在しているが、移動壁1が移動する際には横揺れが発生して該ローラ12はプレート11に接して摩擦を発生する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】吊車を取付けた移動壁の正面図。
【図2】水平車輪型式の吊車に吊設された移動壁。
【図3】穴にブッシュを嵌めたローラ。
【図4】本発明に係るブレーキ装置の概略図。
【図5】垂直車輪型式の吊車に吊設された移動壁。
【符号の説明】
【0031】
1 移動壁
2 吊車
3 吊ボルト
4 天井レール
5 水平車輪
6 走行片
7 側壁部
8 ガイド部
9 支持部
10 上圧接部材
11 プレート
12 ローラ
13 内側面
14 表面
15 本体
16 垂直車輪
17 走行片
18 穴
19 ブッシュ
20 ツバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井レールに吊設されて移動する移動壁が、壁面に大きな衝撃を伴って衝突しないように該壁面手前でブレーキを働かすことが出来るブレーキ装置において、天井レールのガイド部内側面には所定長さのプレートをガイド部に沿って取付け、吊車から下方へ延びて移動壁を吊設する吊ボルトには、穴に金属などの硬質材質から成るブッシュを嵌めたローラを取付け、上記プレートの表面又はローラの外表面の少なくとも片方を互いに接することで摩擦を発生することが出来る摩擦材とし、そして両プレートとローラ外径との間のクリアランスを0〜2mmとしたことを特徴とする移動壁のブレーキ装置。
【請求項2】
上記プレートの材質又はローラの材質をウレタンゴムとした請求項1記載の移動壁のブレーキ装置。
【請求項3】
天井レールに吊設されて移動する移動壁が、壁面に大きな衝撃を伴って衝突しないように該壁面手前でブレーキを働かすことが出来る移動壁の吊車において、移動壁を吊設する為に下方へ延びる吊ボルトにはウレタンゴムなどの樹脂製ローラを取付け、しかもローラ穴には金属又は金属に相当する硬質ブッシュを嵌め、天井レールのガイド部内側面に沿設した所定長さのプレートに上記ローラが接して滑り摩擦を発生するようにしたことを特徴とする移動壁の吊車。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate