説明

移動支援機器

【課題】 高齢者等の使用者が歩行運動をしながら、当該歩行運動に連動して当該使用者の移動を支援すること。
【解決手段】 車体11と、車体11を走行させるための駆動装置12とを備えて移動支援機器10が構成されている。車体11は、後方に向かって動作可能となる歩行面Fと、駆動装置12によって回転駆動される前輪17とを備えている。駆動装置12は、歩行面Fを動作させる第1駆動手段21と、前輪17を回転させる第2駆動手段22と、第2駆動手段22の駆動を制御する制御手段30とを備えている。制御手段30は、第1駆動手段21に掛かる負荷に応じて、第2駆動手段22の駆動を制御し、使用者Hが歩行面F上で歩行動作を行うと、当該歩行動作に応じて決定される速度で車体11が走行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動支援機器に係り、更に詳しくは、使用者の歩行動作に基づいて自動的に走行する移動支援機器に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者が自立生活を持続的に行うためには、健康維持が大きな課題となる。しかしながら、加齢に伴う身体機能の低下は、行動範囲の狭小化を招き、それに伴う運動頻度の減少は、更なる身体能力の低下を引き起こすという悪循環を生み出す。ここで、車いす等の移動機器を使用することで、行動範囲の狭小化を解決することも考えられるが、多少なりとも歩行能力のある高齢者にとっては、前記移動機器を使用することは殆ど無いと思われ、仮に、当該移動機器を使用したとしても、歩行運動がなされる訳でないから、身体機能を向上させることは期待できない。
【0003】
ところで、従来、使用者の歩行動作に伴って走行可能なトレッドミル形走行車が知られている(特許文献1参照)。このトレッドミル形走行車は、前後両側のロールと、これらロールに掛け回される幅広のベルトと、このベルトの回転を動力として回転する駆動輪とを備えている。このような構成により、使用者がベルト上で歩行動作を行うと、当該歩行動作でベルトが後方に蹴られて回転し、ベルトと機構的に繋がる駆動輪が回転されて走行車が走行することになる。
【特許文献1】実用新案登録第3100834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記トレッドミル形走行車にあっては、自己の歩行動作を動力とするベルトの回転力で走行するようになっており、自己の運動により走行する点では、自転車と同様である。このように前記走行車にはパワーアシストがないことから、歩行機能が低下した高齢者等が使用すると、走行車に十分な動力を与えるための運動量には限界があり、特に上り坂等では、自分の足を使った自立歩行の方がまだ楽に移動できる結果となるから、高齢者等にとっての使用価値は少ない。ここで、仮に、前記トレッドミル形走行車に、前記駆動輪を駆動させるモータ等のパワーアシストを付け、手元等でのスイッチ操作により、前記駆動輪を自動的に駆動させることも考えられるが、高齢者にとっては、操作が煩雑になるばかりか、この駆動は、使用者の歩行動作と無関係に行えることになるから、歩行動作を行わなくても走行車を走行させることができ、使用者の歩行運動に寄与するものとはならない。
【0005】
本発明は、このような問題に着目して案出されたものであり、その目的は、高齢者等の使用者が歩行運動をしながら、当該歩行運動に連動して当該使用者の移動を支援することができる移動支援機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)前記目的を達成するため、本発明は、駆動輪の回転により走行可能な車体と、前記駆動輪を駆動させる駆動装置とを備えた移動支援機器において、
前記車体は、後方に向かって動作可能となる歩行面を備え、
前記駆動装置は、前記歩行面を動作させる第1駆動手段と、前記駆動輪を回転させる第2駆動手段と、当該第2駆動手段の駆動を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記第1駆動手段に掛かる負荷に応じて、前記第2駆動手段の駆動を制御し、使用者が前記歩行面上で歩行動作を行うと、当該歩行動作に応じて決定される速度で車体が走行すること、という構成を採っている。
【0007】
(2)ここで、前記制御手段は、前記第1駆動手段を構成するモータの負荷電流値を検出する負荷電流検出部と、当該負荷電流検出部で検出された負荷電流値から、使用者の歩行動作の状態を判断し、これら各状態に対応させて前記駆動輪の回転速度を決定する前進方向駆動決定部とを備えたこと、という構成を採ることが好ましい。
【0008】
(3)更に、前記前進方向駆動決定部は、所定時間単位で負荷電流値の所定範囲を時間で積分した値に対し、所定の閾値を使って、使用者の歩行動作の各状態を判断すること、という構成を採用する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、使用者が歩行動作を行うと、当該歩行動作に応じて決定される速度で車体が走行するため、歩行動作が駆動輪の操作指令となり、特別なスイッチ操作を不要として、歩行速度よりも増速した状態で車体を自動走行させることができる。従って、使用者は、特別な操作をせずに楽に移動することができ、しかも、歩行動作に応じて車体が移動するから、能力が向上した歩行感覚で車体を走行させることができ、誤操作等の虞が大幅に低減されるばかりか、移動支援を行いながらも使用者に歩行運動をさせることができる。従って、高齢者等が使用する場合には、低下した歩行機能を補う移動支援機能を有しつつも、使用者に自発的な歩行運動をさせることができ、使用者の健康維持に大きく寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1には、本実施形態に係る移動支援機器の概略斜視図が示され、図2には、図1のA−A線に沿う断面図が示されている。これらの図において、移動支援機器10は、車体11と、この車体11を走行させるための駆動装置12とを備えて構成されている。
【0012】
前記車体11は、前後方向に延びる左右一対のフレーム13,13と、これらフレーム13,13の前後両側で回転可能に支持された丸棒状のシャフト14,14と、これらシャフト14,14に掛け回されるとともに、上側が使用者Hの乗る歩行面Fとなる平ベルト15と、掛け回された平ベルト15の内側に配置されて当該平ベルト15を支持するプレート16(図2参照)と、各フレーム13,13の前側で回転可能に支持されるとともに、駆動装置12によって回転駆動される駆動輪としての前輪17,17と、各フレーム13,13の後側で、回転可能且つ左右方向に揺動可能に支持された後輪19,19とを備えている。
【0013】
前記平ベルト15は、特に限定されるものではないが、高齢者の一般的な歩幅よりも広い長さに設定され、当該高齢者の横幅よりも広い幅に設定されている。また、プレート16の上下両面には、接触する平ベルト15との摩擦力を軽減させるためのテープ(図示省略)が貼り付けられている。
【0014】
前記駆動装置12は、平ベルト15を回転させる第1駆動手段21と、前輪17,17に駆動力を付与する第2駆動手段22と、車体11を左右方向に操舵する操作手段27と、第1駆動手段21及び操作手段27の状態により、第2駆動手段22の駆動を制御する制御手段30とを備えて構成されている。
【0015】
前記第1駆動手段21は、図示省略しているが、モータ、プーリ、ベルト等により構成され、図示しない電源を投入すると、歩行面Fを後方に向かって僅かに動作させる方向に平ベルト15が回転するように構成されている。
【0016】
前記第2駆動手段22は、左側の前輪を駆動させる左駆動モータ22Lと、右側の前輪を駆動させる右駆動モータ22Rとからなる。
【0017】
前記操作手段27は、使用者Hが両手で把持する丸棒状のハンドル35と、このハンドル35を左右方向に回転可能に支持するとともに、ハンドル35の回転角度を検出するポテンショメータ37と、ハンドル35の回転運動に対し所定の抵抗を付与するロータリーダンパ38と、これら各部材35〜38を支持するロッド39とを備えて構成されている。
【0018】
前記制御手段30は、ソフトウェア及び/又はハードウェアによって構成され、プロセッサ等、複数のプログラムモジュール及び/又は処理回路より成り立っており、第1駆動手段21のモータに掛かる負荷に応じて、第2駆動手段22の駆動を制御し、使用者Hが歩行面F上で歩行動作を行うと、当該歩行動作に応じて増速した状態で車体11が走行するように設定されている。
【0019】
この制御手段30は、図3に示されるように、第1駆動手段21のモータの負荷電流値を検出する負荷電流検出部40と、この負荷電流検出部40からの検出結果に基づいて、所望の速度で車体11が走行するように左右両側の前輪17,17の回転速度を決定する前進方向駆動決定部41と、ポテンショメータ37からの検出結果に基づいて、左右の駆動モータ22L,22Rの回転比を決定する左右方向駆動決定部42と、各駆動決定部41,42により決定された回転速度で前輪17,17が回転するように、各駆動モータ22L,22Rを駆動させるドライバ43とを備えて構成されている。
【0020】
このように構成された移動支援機器10は、回転する平ベルト15上で使用者Hが歩行動作を行うことにより、制御手段30で次のように左右の駆動モータ22L,22Rが制御され、走行することになる。
【0021】
図示しない電源を投入すると、第1駆動手段21が作動して平ベルト15が回転し、歩行面Fが後方に向かって微小速度で動くことになる。そして、この状態から、使用者Hが平ベルト15の上に乗ると、第1駆動手段21に掛かる使用者Hの体重や摩擦力等の負荷を考慮し、使用者Hを乗せた平ベルト15がそのままでは後方に動かない程度の駆動力をもって、第1駆動手段21のモータが駆動する。従って、歩行面F上に立つ使用者Hは、ほぼ静止した状態となるが、このとき、前記モータは、平ベルト15を後方に動かす方向に僅かな駆動力で駆動していることになる。そして、使用者Hは、平ベルト15上の一定位置で歩行動作を行い、当該平ベルト15を後方に蹴って回転させると、以下に詳述するように、当該歩行動作に応じて車体11が走行することになる。この歩行動作時において、使用者Hの踵が歩行面Fに接地する際には、平ベルト15の回転に対する制動力が働き、第1駆動手段21のモータに対する負荷(以下、「モータ負荷」と称する。)が増大することになる。一方、使用者Hのつま先が歩行面Fから離れる際には、使用者Hが平ベルト15を後方に蹴る動作がなされ、平ベルト15の回転に対する推進力が働き、第1駆動手段21のモータ負荷が低減されることになる。従って、前記モータ負荷の指標となる負荷電流値と時間との関係を示すグラフには、前記制動力が作用したときの山部分と、前記推進力が作用したときの谷部分とが歩行周期単位で繰り返し表れる。ここで、歩行者Hが加速すると、前記推進力が大きくなるため、前記モータ負荷が減少する一方、歩行者Hが減速すると、前記制動力が大きくなるため、前記モータ負荷が増大する。
【0022】
従って、制御手段30では、第1駆動手段21のモータの負荷電流値に基づいて、前輪17の回転速度が求められ、歩行者Hの歩行動作に応じた速度で車体11が走行するように、第2駆動手段22の駆動が制御される。この際、ハンドル35の回転角度に応じて、左右の前輪17,17の駆動速度に差を付けることにより、ハンドル35の回転方向及びその角度に応じて車体11が曲がるように、第2駆動手段22の駆動が制御される。
【0023】
すなわち、先ず、負荷電流検出部40で、前記負荷電流値が所定のタイミングで検出される。そして、前進方向駆動決定部41で、負荷電流検出部40により検出された所定時間単位の負荷電流値から、使用者Hの歩行状態が加速状態、減速状態若しくは等速状態の何れかを判断し、加速状態と判断した場合、前輪17,17の駆動速度を現在の速度に対して加速した値に決定し、減速状態と判断した場合、前輪17,17の駆動速度を現在の速度に対して減速した値に決定し、等速状態と判断した場合、前輪17,17の駆動速度を現在の速度と同一の値に決定する。
【0024】
つまり、前進方向駆動決定部41では、負荷電流検出部40で検出された負荷電流値に基づき、所定時間単位で次の処理が行われる。
【0025】
最初に、負荷電流検出部40で検出された負荷電流値I(t)から、次式で表される加速負荷電流値関数a(t)及び減速負荷電流値関数b(t)が求められる。
a(t)=max(Center(v)−I(t)−A) (1)
b(t)=max(I(t)−Center(v)−B) (2)
ここで、
max(x)=x(x>0),0(x≦0)と定義し、A,Bは所定の閾値である。
また、Center(v)は、使用者Hが加速も減速も行っていないときの前記負荷電流値であり、
Center(v)=f+Cv (3)
で表される。ここでのfは、機械的な摩擦による負荷に基づく補正係数であり、Cは、使用者の体重に基づく補正係数であり、vは、走行面Fの速度である。
【0026】
次に、加速負荷電流値関数a(t)及び減速負荷電流値関数b(t)を時間で積分した値が、それぞれ求められ、速度vに応じて変わる閾値Ta(v),Tb(v)よりも大きいか否かが判定される。
ここで、加速に関する閾値であるTa(v)は、
Ta(v)=Dv+E (4)
で表される。ここでのD,Eは、補正係数である。
一方、減速に関する閾値であるTb(v)は、
Tb(v)=Fv+G (5)
で表される。ここでのF,Gは、補正係数である。
つまり、加速負荷電流値関数a(t)の積分値が閾値Ta(v)を超えた場合は、使用者Hの歩行状態が加速状態と判断される。そして、加速状態でないと判断された場合で、減速負荷電流値関数b(t)の積分値が閾値Tb(v)を超えた場合は、使用者Hの歩行状態が減速状態と判断される。また、加速状態でも減速状態でもないと判断された場合は、使用者Hの歩行状態が等速状態と判断される。
【0027】
そして、加速状態と判断された場合、車体11の速度Vaは、
Va=Ka・n(v) (6)
とされ、この速度で車体11が走行するように、幾何学的に車輪17,17の回転速度が決定される。
ここで、Kaは、加速用ゲインであり、n(v)は、速度が高くなる程、大きくなる速度vの離散的な関数を示している。
【0028】
一方、減速状態と判断された場合、車体11の速度Vbは、
Vb=Kb・m(v) (7)
とされ、この速度で車体11が走行するように、幾何学的に車輪17,17の回転速度が決定される。
ここで、Kbは、減速用ゲインであり、m(v)は、速度が高くなる程、大きくなる速度vの離散的な関数を示している。
【0029】
次に、左右方向駆動決定部42では、ポテンショメータ37により検出されたハンドル35の角度に応じて、当該ハンドル35の回転方向に車体11が曲がるように、所定のゲインを設定して、左右の前輪17,17の回転速度に差を設ける。この際、前輪17,17の回転速度は、前進方向駆動決定部41で決定された前輪17の回転速度が加味された上で、ハンドル35の角度に対応した回転速度比となるように決定される。
【0030】
そして、ドライバ43では、以上のように決定された回転速度で左右の前輪17,17がそれぞれ駆動するように、左駆動モータ22L及び右駆動モータ22Rに駆動指令を与える。
【0031】
従って、このような実施形態によれば、使用者Hが歩行面F上で歩行動作を行うと、当該歩行動作に合わせて前輪17,17の回転速度が制御されることになるため、歩行動作が低下した高齢者にとっては、歩行動作を行いながら、低下した歩行機能を補填するように歩行感覚で車体11が走行することになり、高齢者の健康維持を図り且つ移動支援を行う機器として有用である。
【0032】
なお、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本実施形態に係る移動支援機器の概略斜視図。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図。
【図3】制御手段の概略構成図。
【符号の説明】
【0034】
10 移動支援機器
11 車体
12 駆動装置
17 前輪(駆動輪)
21 第1駆動手段
22 第2駆動手段
30 制御手段
40 負荷電流検出部
41 前進方向駆動決定部
F 歩行面
H 使用者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪の回転により走行可能な車体と、前記駆動輪を駆動させる駆動装置とを備えた移動支援機器において、
前記車体は、後方に向かって動作可能となる歩行面を備え、
前記駆動装置は、前記歩行面を動作させる第1駆動手段と、前記駆動輪を回転させる第2駆動手段と、当該第2駆動手段の駆動を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記第1駆動手段に掛かる負荷に応じて、前記第2駆動手段の駆動を制御し、使用者が前記歩行面上で歩行動作を行うと、当該歩行動作に応じて決定される速度で車体が走行することを特徴とする移動支援機器。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第1駆動手段を構成するモータの負荷電流値を検出する負荷電流検出部と、当該負荷電流検出部で検出された負荷電流値から、使用者の歩行動作の状態を判断し、これら各状態に対応させて前記駆動輪の回転速度を決定する前進方向駆動決定部とを備えたことを特徴とする請求項1記載の移動支援機器。
【請求項3】
前記前進方向駆動決定部は、所定時間単位で負荷電流値の所定範囲を時間で積分した値に対し、所定の閾値を使って、使用者の歩行動作の各状態を判断することを特徴とする請求項2記載の移動支援機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−203754(P2007−203754A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−21376(P2006−21376)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年8月2日 バイオメカニズム学会事務局発行の「第19回バイオメカニズム・シンポジウム予稿集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年9月8日 日本感性工学会発行の「第7回日本感性工学会大会予稿集2005」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年(平成17年)12月7日 社団法人日本機械学会発行の「福祉工学シンポジウム2005講演論文集 通計番号No.05−44」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年12月8日〜9日 ライフサポート学会 日本生活支援工学会主催の「第3回生活支援工学系学会連合大会」において文書をもって発表
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(391016842)岐阜県 (70)