説明

移植支援材料

【課題】生体適合性や細胞親和性に加えて、足場としての機械的強度を維持しつつ、生理活性物質および/または細胞に担持し、移植後数日で材料の大部分が酵素分解される材料の提供。
【解決手段】多糖のカルボキシル基と側鎖にアミノ基を有するポリペプチドのアミノ基が共有結合(アミド結合:−CONH−)している架橋体とカチオンとからなるゲル。かかるゲルは組織を再生させるための使用に適し,特に、宿主の機能を利用して組織再生を促すための細胞増殖用足場材料として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖のカルボン酸(カルボキシル基:−COOH)と側鎖にアミノ基(−NH)を有するポリペプチドのアミノ基が共有結合(アミド結合:−CONH−)している架橋体とカチオンとからなるゲルに関する。本発明は、かかるゲルの組織を再生させるための使用に関する。特に、宿主の機能を利用して組織再生を促すための細胞増殖用足場材料としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織を構築するには細胞のほかに、細胞が接着増殖するための足場(細胞外マトリックス)や細胞の機能発現や構造制御するための刺激(生理活性物質)が必要となる。
【0003】
特に大型の組織再生のためには、移植後速やかに宿主から栄養血管網が誘導されるような足場材料が望ましい。このような材料には、細胞親和性、機械的強度、生体吸収性に加えて、血管の伸張空間を確保するためのプロテアーゼ分解性や、血管伸張を誘導するための血管新生因子の担持が要求される。
【0004】
足場材料として、これまでに合成高分子(ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリグルタミン酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンなど)、天然高分子(ヒアルロン酸、アルギン酸、キトサン、デンプン、フィプロイン、コラーゲン、ゼラチン、エラスチンなど)、無機材料(ハイドロキシアパタイト、ジメチルポリシロキサンなど)、およびこれらの誘導体やその複合体などが検討されている(特許文献1〜3)。これらの中でも特に細胞吸着性、プロテアーゼ分解性に優れる材料として、細胞外マトリクスの構成成分であるコラーゲンやゼラチンが挙げられる。実際には、生体内の湿潤環境下における溶解や拡散を抑制し、足場材料としての機械的特性を確保するためにコラーゲンやゼラチンを何らかの方法で架橋したものが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−145797号
【特許文献2】特開2002−80501号
【特許文献3】WO2007/032404 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、生体適合性や細胞親和性に加えて、足場としての機械的強度を維持しつつ、生理活性物質および/または細胞を担持し、移植後数日で材料の大部分が酵素分解される材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、下記のとおりである:
(1)多糖のカルボキシル基と側鎖にアミノ基を有するポリペプチドのアミノ基が共有結合している、多糖とポリペプチドからなる架橋体;
(2)上記(1)記載の架橋体とカチオンとからなるゲル;
(3)さらに、生理活性物質および/または細胞を含む、上記(2)記載のゲル;
(4)上記(1)記載の架橋体、または上記(2)または(3)記載のゲルを含む医療材料;
(5)カルボキシル基を有する多糖、側鎖にアミノ基を有するアミノ酸を含むポリペプチド及び架橋剤を一緒する工程を含む、上記(1)記載の架橋体の製造方法;
(6)カルボキシル基を有する多糖、架橋剤及び助剤を一緒して、活性化多糖を得る工程、および
前記活性化多糖と側鎖にアミノ基を有するアミノ酸を含むポリペプチドを一緒する工程、
を含む、上記(1)記載の架橋体の製造方法;
(7)上記(1)記載の架橋体または上記(5)若しくは(6)記載の製造方法で得られた架橋体とカチオンを一緒する工程を含む、上記(2)記載のゲルの製造方法;
(8)上記(1)記載の架橋体または上記(5)若しくは(6)記載の製造方法で得られた架橋体と生理活性物質および/または細胞、さらにカチオンを一緒する工程を含む、上記(3)記載のゲルの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のゲルは、常温で液体であり、温和な条件下で速やかに作製されるので、ゲルを形成するときに生理活性物質、細胞や組織をその活性や機能を損なわずに混入することができる。また、本発明のゲルを構成する多糖やポリペプチドは、生体中で容易に分解されるので、本発明のゲルは、生体中での速やかな分解が可能であるとともに、生理活性物質、細胞や組織を保持でき、速やかな組織の再生に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、アルギン酸ゲル、コラーゲン/アルギン酸混合ゲルおよびアルギン酸コラーゲン架橋体ゲルの写真である。
【図2】図2は、アルギン酸溶液(A)、コラーゲン/アルギン酸混合溶液(AC)およびアルギン酸コラーゲン架橋体溶液(A−C)のゲル化におけるゲル重量変化を表した図である。
【図3A】図3Aは、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)含有アルギン酸コラーゲン架橋体カルシウム錯体ゲルをグラフトに注入しラットの腹直筋膜下に埋植後、5日目のグラフトおよびその周辺組織の写真(右側)とその説明図(左側)である。フォンビルブランド(von Willebrand)因子(vWF)染色を施し、光学顕微鏡下で組織学的に観察した。写真は、円筒形グラフトを上下周辺組織の一部とともに摘出したものを、グラフトの中央付近で垂直方向に切断した断面の一部(グラフト断面全体の右半分)である。
【図3B】図3Bは、コラーゲンゲルのみをグラフトに注入しラットの腹直筋膜下に埋植後、5日目のグラフトおよびその周辺組織の写真(右側)とその説明図(左側)である。フォンビルブランド(von Willebrand)因子(vWF)染色を施し、光学顕微鏡下で組織学的に観察した。写真は、円筒形グラフトを上下周辺組織の一部とともに摘出したものを、グラフトの中央付近で垂直方向に切断した断面の一部(グラフト断面全体の右半分)である。
【図3C】図3Cは、アルギン酸カルシウムゲルのみをグラフトに注入しラットの腹直筋膜下に埋植後、5日目のグラフトおよびその周辺組織の写真(右側)とその説明図(左側)である。ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を施し、光学顕微鏡下で組織学的に観察したものである。写真は、円筒形グラフトを上下周辺組織の一部とともに摘出したものを、グラフトの中央付近で垂直方向に切断した断面の一部(グラフト断面全体の右半分)である。
【図3D】図3Dは、グラフトを埋植した組織片と、それを切断した断面の模式図である。
【図4A】図4Aは、実験工程の模式図を表す。
【図4B】図4Bは、埋植したスキャホールドサンプル(アルギン酸コラーゲン架橋体カルシウム錯体ゲルを被覆したスキャホールド)の模式図を表す。
【図4C】図4Cは、ヌードマウスにスキャホールド(アルギン酸コラーゲン架橋体カルシウム錯体ゲルを被覆したスキャホールド(右側)または被覆しないスキャホールド(左側))を埋植して2ヶ月後の状態(摘出時にマウス背部の皮膚を剥離して撮影)の写真である。
【図4D】図4Dは、アルギン酸コラーゲン架橋体カルシウム錯体ゲルを被覆したスキャホールドの周囲に再生された軟骨の断面写真である。
【図5】アルギン酸ナトリウム(1)、および例1で得られたアルギン酸のHOSu活性エステル(2)のFT−IRスペクトルを示す。アルギン酸を例1の条件にて、脱水縮合剤(EDC・HCl)と縮合助剤(HOSu)による活性エステル化反応することで、1774cm−1付近(図中矢印で示す)に新たな吸収ピークが生じた。このピークはHOSu分子構造中のケトンに起因するものと考えられ、アルギン酸のカルボキシル基がHOSu活性エステル化されたことを示唆する。
【図6A】アルギン酸の100糖ユニット中のHOSuの数を横軸、I1774/I1628の比を縦軸にプロットした検量線を表す。
【図6B】拡大図。例えば、I1774/I1628の値が0.71のとき、100糖ユニット中のHOSuで活性化したカルボキシル基の数はおよそ16と求められる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、アルギン酸などの酸性多糖とコラーゲン(ゼラチン)などのポリペプチドとを予めゲル化しない程度に化学架橋しておき、必要に応じて生理活性物質や細胞を添加してから、カチオンを添加することでゲル化させるシステムを発明した。
【0011】
本発明における多糖とは、カルボキシル基を有する多糖を意味し、限定されない例として、酸性多糖などがあげられる。酸性多糖としては、カチオン性物質の添加によってゲル化するものが好ましく、アルギン酸、メトキシルペクチン、ペクチン酸、κ−カラギーナン、コロミン酸、ヒアルロン酸、ジェラン、コンドロイチン硫酸、サクシノグリカン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ケラト硫酸およびそれらの誘導体などが挙げられる。誘導体には、限定されない例として、ハロゲン化、シアノ化、アルキル化、アラルキル化、アリール化、アルコキシ化、アラルキルオキシ化、アリールオキシ化、アルケニル化、アルケニルオキシ化、アルキルチオ化、アラルキルチオ化、アリールチオ化、アルキルアミノ化、アラルキルアミノ化、アリールアミノ化、アルケニルアミノ化、アシル化、アルコキシカルボニル化、アラルキルオキシカルボニル化、アリールオキシカルボニル化、アルケニルオキシカルボニル化、アルキルアミノカルボニル化、複素環導入、アルキルスルホニル化、アリールスルホニル化された上記多糖があげられる。好ましくは、アルギン酸、ペクチン酸、ヒアルロン酸およびそれらの上記誘導体であり、より好ましくは、アルギン酸、ヒアルロン酸およびそれらの上記誘導体である。
【0012】
アルギン酸とは、D−マンヌロン酸のホモポリマーブロック(MM)、L−グルロン酸のホモポリマーブロック(GG)、及びD−マンヌロン酸とL−グルロン酸のヘテロポリマーブロック(MG)が任意に結合したブロック共重合体:
【化1】


(式中、n=0の場合、m=2以上;m=0の場合、n=2以上;またはm=1以上、n=1以上である)を意味し、好ましくは、水に可溶なアルギン酸のアルカリ塩、より好ましくは、アルギン酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩である。アルギン酸は、2価カチオン(Ca2+など)と安定な複合体をつくって3次元ゲルを形成する。アルギン酸は、多価カチオンによって3次元ゲルを形成できれば、その分子量は限定されないが、好ましくは、50,000−600,000である。
【0013】
アルギン酸は、グルロン酸の含有比率が多いもの程、多価カチオンとの錯体形成にすぐれ、安定な3次元ゲルを形成できる。グルロン酸の含有比率は、3次元ゲルを形成できれば、その含有比率は限定されないが、マンヌロン酸(M)とグルロン酸(G)の含有比率(モル比)[M]/[G]が、0.1〜4.0、好ましくは0.1〜3の範囲にあるものの使用が好ましい。
【0014】
メトキシルペクチンとは、ガラクツロン酸がα−1,4−結合したポリガラクツロン酸を主成分とし、ガラクツロン酸の一部にメトキシ基が存在する酸性多糖を意味する。好ましくは、水に可溶なメトキシルペクチンのアルカリ塩、より好ましくは、メトキシルペクチンのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩である。メトキシルペクチンは、多価カチオン(Mg2+,Fe2+,Ca2+など)と安定な複合体をつくって3次元ゲルを形成する。
【0015】
メトキシルペクチンのゲル化特性はガラクツロン酸のメトキシル基含量と分子量に依存する。メトキシルペクチンは、多価カチオンによって3次元ゲルを形成できれば、そのメトキシル基含量や分子量は限定されないが、好ましくは、メトキシル基含量7%以下、分子量は、50,000〜360,000である。
【0016】
ペクチン酸とは、ガラクツロン酸がα−1,4−結合したポリガラクツロン酸を主成分とした酸性多糖を意味し、好ましくは、水に可溶なペクチン酸のアルカリ塩、より好ましくは、ペクチン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩である。ペクチン酸は、多価カチオン(Mg2+,Fe2+,Ca2+など)と安定な複合体をつくって3次元ゲルを形成する。ペクチン酸は、多価カチオンによって3次元ゲルを形成できれば、その分子量は限定されないが、好ましくは、分子量50,000〜360,000である。
【0017】
カラギーナンとは、D−ガラクトースと3,6−アンヒドロ−D−ガラクトースとの共重合体を意味し、硫酸基の結合部位と構成糖の相違により、κ、ι、λに大別される。カラギーナンは、特に記載がなければ、κ、ι、λ−カラギーナンを意味する。好ましくは、水に可溶なカラギーナンのアルカリ塩、より好ましくは、カラギーナンのナトリウム塩、カリウム塩である。κ、ι−カラギーナンは、二重らせん構造を作り室温でゲルを形成するが、ナトリウム塩などの場合は冷水でも可溶化する。カラギーナンは、タンパク質や多価カチオン(Mg2+,Fe2+,Ca2+など)などのカチオンと安定な複合体をつくって3次元ゲルを形成する。カラギーナンは、多価カチオンによって3次元ゲルを形成できれば、その分子量は限定されない。
【0018】
コロミン酸とは、N−アセチルノイラミン酸がα−2,8−結合した重合体を意味し、好ましくは、水に可溶なコロミン酸のアルカリ塩、より好ましくは、コロミン酸のナトリウム塩、カリウム塩である。コロミン酸は、2価カチオン(Ca2+など)と安定な複合体を形成する。コロミン酸は、多価カチオンによって3次元ゲルを形成できれば、その分子量は限定されない。
【0019】
ヒアルロン酸とは、N−アセチルグルコサミンとグルクロン酸との共重合体を意味する。酸又は塩として水に溶け、水和して相互にミセルを形成し、極めて粘凋な溶液となる。好ましくは、水に可溶なヒアルロン酸のアルカリ塩、より好ましくは、ヒアルロン酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩である。ヒアルロン酸は、ポリカチオン性物質や多価カチオン(Mg2+,Fe2+,Ca2+,Zn2+など)と安定な複合体をつくって3次元ゲルを形成する。ヒアルロン酸は、多価カチオンによって3次元ゲルを形成できれば、その分子量は限定されない。
【0020】
ジェランとは主にグルコース、ラムノース、グルクロン酸などから構成される重合体を意味し、グルクロン酸由来のカルボキシル基を有する。好ましくは、水に可溶なジェランの酸またはアルカリ塩、より好ましくは、ジェランの酸、ナトリウム塩、カリウム塩である。ジェランは多価カチオン(Mg2+,Ca2+など)と安定な複合体をつくって3次元ゲルを形成する。特に脱アシル化したジェランは、カチオンとの相互作用が強く、ナトリウム塩でも水和しにくい。ジェランの分子量は、多価カチオンによって3次元ゲルを形成できれば、限定されない。
【0021】
コンドロイチン硫酸とは、D−グルクロン酸あるいはL−イズロン酸と、N−アセチルガラクトサミンの二糖繰り返し構造に硫酸が結合した重合体を意味し、構成糖の水酸基の硫酸化により多種多様な異性体が存在する。コンドロイチン硫酸鎖は、分子量10−10の直鎖状の多糖で、コア蛋白質に共有結合したプロテオグリカンとして存在する。一般に、天然に存在するコンドロイチン硫酸鎖は1種類の硫酸化二糖の繰り返しのみから成るものは少なく、通常、様々な種類の硫酸化、あるいは非硫酸化二糖を異なる割合で含む。好ましくは、水に可溶なコンドロイチン硫酸のアルカリ塩、より好ましくは、コンドロイチン硫酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩である。コンドロイチン硫酸は多価カチオン(Fe2+,Ca2+,Pt2+など)と安定な複合体をつくって3次元ゲルを形成する。コンドロイチン硫酸は、多価カチオンによって3次元ゲルを形成できれば、その分子量は限定されないが、好ましくは、分子量10,000−300,000である。
【0022】
側鎖にアミノ基を有するアミノ酸を含むポリペプチドには、限定されない例として、天然由来の細胞外マトリクス構成要素およびその機能を模倣や改良した人工合成ポリペプチドや遺伝子組み換えタンパク質などがあげられる。
【0023】
天然由来の細胞外マトリクス構成要素には、限定されない例として、コラーゲン、アテロコラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、ラミニン、エラスチン等およびそれらの誘導体があげられる。
【0024】
人工合成ポリペプチドや遺伝子組み換えタンパク質には、限定されない例として、Poly(PHG)などのオリゴペプチドの脱水縮合体、Poly(PHG/QGIA)やPoly(PHG/RGD)、Poly(PHG/YIGSR/IKVAV)等の機能性ペプチド配列との共重合体等(特開2003−321500)、三洋化成工業製の「プロネクチンF」、「プロネクチンL」、宝酒造製の「レトロネクチン」などがあげられる。
【0025】
好ましくは、コラーゲン、アテロコラーゲン、ゼラチン、Poly(PHG/RGD)であり、より好ましくはコラーゲン、アテロコラーゲン、ゼラチンである。特に好ましくは、哺乳動物または魚由来のコラーゲン、アテロコラーゲン、ゼラチンである。
【0026】
コラーゲンとは、真皮、靭帯、腱、骨、軟骨などを構成するたんぱく質のひとつであり、細胞外マトリックスを構成する要素である。コラーゲンタンパク質のペプチド鎖は、“−(グリシン)−(アミノ酸X)−(アミノ酸Y)−”と、グリシンが3残基ごとに繰り返す一次構造を有する。多くの型のコラーゲンでは、このペプチド鎖が3本集まり、らせん構造を形成し、トロポコラーゲンと呼ばれる。例えば、I型コラーゲンの1本のペプチド鎖は1014アミノ酸残基繰返す配列を持っており、分子量は10万程度である。ヒトのコラーゲンには、30種類以上あることが知られており、例えば、真皮、靱帯、腱、骨などではI型コラーゲンが、関節軟骨ではII型コラーゲンが主成分である。また、すべての上皮組織の裏打ち構造である基底膜にはIV型コラーゲンが主に含まれている。体内で最も豊富に存在しているのはI型コラーゲンである。
【0027】
コラーゲンであれば限定されないが、好ましくは可溶性コラーゲンである。より好ましくは水に可溶なコラーゲンである。可溶性コラーゲンには、中性塩(例えば、0.15〜0.5M NaCl in 0.05M Tris=HCl,pH7.5)溶液に可溶化した中性塩可溶性コラーゲン、酸(例えば、0.5M酢酸または0.1〜0.3Mクエン酸緩衝液、pH3.5〜3.7)溶液に可溶化した酸可溶性コラーゲン、酵素(例えば、ペプシン)で可溶化した酵素可溶性コラーゲンなどがある。コラーゲンは、ペプチド化されたコラーゲン(コラーゲンフラグメント)であってもよい。
【0028】
コラーゲン部位には機械的強度を特に要求しない。従って、使用するコラーゲンにはゲル化する機能を必要とせず、ペプチド化されていてもよい。ただし、細胞接着性や多糖のイオン錯体形成を制御し得る程度の立体構造を有する必要はある。多糖のイオン錯体形成を制御するには、多糖のカルボキシル基とカチオンとのイオン錯体形成を阻害すればよいため、アミノ酸1分子でも効果は得られる。一方、細胞接着性に関しては、アルギニン−グリシン−アスパラギン酸(RGD)配列に代表されるような細胞接着部位配列を含むことが望ましい。コラーゲン由来のペプチドは、側鎖にアミノ基を有するアミノ酸を含めば限定されないが、好ましくは、細胞接着部位配列(RGD)を含む3アミノ酸以上である。
【0029】
アテロコラーゲンとは、コラーゲン分子の両端に存在するテロペプチドを酵素処理で取り外したコラーゲンであり、水に可溶となったコラーゲンである。アテロコラーゲンは、ペプチド化されていてもよい。
【0030】
ゼラチンとは、コラーゲンのうち水で長時間加熱することで、水に抽出されたものを意味する。ゼラチンは、ペプチド化されていてもよい。ゼラチンのペプチドは、コラーゲンの場合と同じである。
【0031】
本発明では、生理活性物質が、多糖に存在するカルボキシル基と優先的に相互作用することが好ましい。従って、側鎖にアミノ基を有するアミノ酸を含むポリペプチドに存在するカルボキシル基は少ないほうがよい。
【0032】
ゼラチンは、コラーゲンの熱変性物質であるため、アミノ酸組成はコラーゲンとほぼ同じである。由来にもよるが、酸性基が12%程度存在し、その約3分の1がアミド化されている。ゼラチンは、水抽出の前処理工程によって、酸処理ゼラチンとアルカリ処理ゼラチンなどが存在する。酸処理ゼラチンは、塩酸や硫酸などの無機酸によって数十時間から数日処理され、脱アミド率が低いのに対し、アルカリ処理ゼラチンは、2〜3ヶ月の石灰漬工程で100%近く脱アミドされる。本発明では、分子中に存在するカルボキシル基の少ない酸処理ゼラチンの方が好ましい。
【0033】
フィブロネクチンとは、A,Bの2本鎖がC端のS−S結合でつながった分子量200,000〜250,000の糖タンパク質を意味する。血漿中に存在する他、線維芽細胞などの間葉細胞の外囲や表皮などの基底膜に存在する。血漿中に存在するものは、血漿フィブロネクチンとよばれ分子量200,000〜220,000の単量体が会合した二量体の構造をなしており、血漿中に0.3mg/ml程度含有されている。間葉細胞や基底膜に存在するものは200,000〜250,000の分子量を持つ単量体がN端領域同士で結合して分子が次々と会合し、長大な線維構造を形成しており、細胞性フィブロネクチンと呼ばれている。これらのフィブロネクチンはいくつかのドメインから成り、それぞれが例えば、トランスグルタミナーゼ、ヘパリン、フィブリン、細胞接着分子(インテグリン)、コラーゲンなどと結合でき、結合組織のネットワーク構築において重要な機能を果たしている。フィブロネクチンは細胞の接着、伸展、および増殖を促進することが知られている。好ましくは、ヒト由来のフィブロネクチンであり、例えば、Sigma−Aldrich社製のHuman Fibronectinなどが挙げられる。また、組換え型であっても、フラグメントであってもよい。例えば、組換え型のフィブロネクチンフラグメントであるタカラバイオ株式会社製のRetronectin(レトロネクチン)などが挙げられる。フィブロネクチンフラグメントは、側鎖にアミノ基を有するアミノ酸を含めば限定されないが、好ましくは、細胞接着部位配列(RGD/PHSRN/LDV/REDV)を含む3アミノ酸以上である。
【0034】
ラミニンとは、分子量39000〜52000のα鎖を中心として、屈曲した分子量35000〜36000のβ鎖および分子量約10000のγ鎖が、ジスルフィド結合してヘテロ三量体の十字架構造をもつタンパク質を意味する。基底膜のなかで最も量的に多く存在し、血液中にも少量みられる。現在3種類のα鎖、3種類のβ鎖、2種類のγ鎖が発見されており、その組み合わせでメロシン、s−ラミニン、アンデュリン、エピリグリン、カリニンなどが同定されている。ラミニンにはアルギニン、グリシン、アスパラギン酸の3アミノ酸からなるRGD配列などの細胞接着部位をもっており、これ以外にも4型コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ナイドゲンといった基底膜成分と結合する部位がある。ラミニンは細胞の接着や分化、移動、増殖を促進することが知られている。好ましくは、ヒト由来のラミニンであり、例えば、Sigma−Aldrich社製のHuman Lamininなどが挙げられる。また、組換え型のラミニンなどであってもよく、例えば、オリエンタル酵母工業株式会社製のrLAMININ−5(ラミニン−5)などが挙げられる。また、ラミニンは、そのフラグメントであってもよい。ラミニンフラグメントは、側鎖にアミノ基を有するアミノ酸を含めば限定されないが、好ましくは、細胞接着部位配列(RGD)を含む3アミノ酸以上である。
【0035】
エラスチンとは、主として、グリシン、バリン、アラニンおよびプロリンからなる、分子量64〜66kDaの繊維状タンパク質を意味し、830のアミノ酸から構成された不規則またはランダムコイル構造をもつ。主要な繰り返しペプチド配列として、ペンタペプチド(GVGVP)及びヘキサペプチド(VGVAPG)配列があり、GVGVPは弾性機能を有し、VGVAPGは細胞の遊走、増殖などを促進する。エラスチンは生体内ではコラーゲンに絡みつくような構造で存在し、大動脈をはじめ、項靭帯、黄色靭帯、肺、皮膚、子宮、弾性軟骨などの弾性線維として機能することが知られている。エラスチンは、水に不溶性であることから、可溶化して得られる水溶性エラスチン、または、前駆蛋白質であるトロポエラスチンなどであってもよく、ペプチド化されていてもよい。エラスチンのペプチドは、側鎖にアミノ基を有するアミノ酸を含めば限定されないが、好ましくは、側鎖にアミノ基を有するアミノ酸とともに上記のペンタペプチドやヘキサペプチド配列を含むことが望ましい。
【0036】
多糖のカルボキシル基とポリペプチドのアミノ基の共有結合は、架橋剤、場合により架橋剤と助剤を用いて形成することができる。
【0037】
多糖のカルボキシル基との共有結合するポリペプチドのアミノ基は、ポリペプチドを構成するアミノ酸の側鎖のアミノ基およびポリペプチドのアミノ末端のアミノ基の両方を意味する。
【0038】
多糖とポリペプチドからなる架橋体とは、多糖のカルボキシル基とポリペプチドの側鎖のアミノ基およびアミノ末端のアミノ基を、架橋剤(場合により架橋剤と助剤)を用いて共有結合(アミド結合:−CONH−)させた多糖−ポリペプチド複合体(−多糖−ポリペプチド−多糖−ポリペプチド−)を意味する。ここで、多糖−ポリペプチド間の共有結合は、通常、多糖のカルボキシル基とポリペプチドの側鎖のアミノ基の共有結合および多糖のカルボキシル基とポリペプチドのアミノ末端のアミノ基の共有結合の混合からなるが、多糖のカルボキシル基とポリペプチドの側鎖のアミノ基の共有結合だけからなっていてもよいし、多糖のカルボキシル基とポリペプチドのアミノ末端のアミノ基の共有結合だけからなっていてもよい。
【0039】
多糖のカルボキシル基と側鎖にアミノ基を有するポリペプチドのアミノ基が共有結合しているとは、架橋体中に、多糖のカルボキシル基とポリペプチドのアミノ基の共有結合が少なくとも1つ存在することを意味する。
【0040】
架橋体には、共有結合に参加していない多糖のカルボキシル基とポリペプチドのアミノ基が存在していることが好ましい。血管伸張を誘導するための血管新生因子などを担持するためには、これらの生理活性物質と相互作用するための官能基を必要とする場合がある。例えば電荷が正に偏っているbFGFは、多糖のカルボキシル基と静電相互作用をする。また、良好な細胞接着性や酵素分解性を維持するためには、多糖のカルボキシル基とポリペプチドのアミノ基間の共有結合形成によるポリペプチド側鎖構造の破壊や、立体構造変化を最小限にすることが望ましい。また、多糖のカルボキシル基は、カチオンとのゲル化に関与するので、多糖類とポリペプチド間の架橋度が高くなるにつれて、ゲル化に必要な架橋体(多糖)の量が多くなる。また、架橋度が高くなりすぎると、多糖類−ポリペプチド架橋体だけでゲル化が生じてしまう。
【0041】
よって、架橋度は、多糖類−ポリペプチド架橋体自体でゲル化が生じず、架橋体がカチオンによってゲル化するならば、特に限定されない。架橋度が、多糖、ポリペプチド、架橋剤、助剤の種類や濃度、反応温度、時間等によって任意に変化することを当業者は周知である。
【0042】
架橋剤とは、多糖類のカルボキシル基とポリペプチドのアミノ酸側鎖のアミノ基との間に共有結合を形成させるためのもので、限定されない例として、脱水縮合剤が挙げられる。脱水縮合剤の限定されない例として、1,1−カルボニルジイミダゾール(CDI)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド(DMT−MM)、2−エトキシ−1,2−ジヒドロキノリン−1−カルボキシレイト(EEDQ)、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレイト(TBTU)、ジフェニルリン酸アジド(DPPA)等があげられる。好ましくは、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド(DMT−MM)であり、より好ましくは1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)である。EDCは、塩酸塩などの塩であってもよい。
【0043】
架橋剤の助剤とは、活性化の反応時間を短縮する場合や、活性化率を上げる場合や、活性化率を維持しながら架橋剤の添加量を低減する場合や、副反応を低減する場合(例えば、ペプチド合成時におけるアミノ酸のラセミ化抑制)などに用いられるものであり、限定されない例として、脱水縮合剤の助剤などがあげられる。脱水縮合剤の助剤には、限定されない例として、ヘキサフルオロリン酸(ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ)トリピロリジノホスホニウム(PyBOP)などのBOP試薬誘導体、N−ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)等があげられる。好ましくは、N−ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)であり、より好ましくはN−ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)である。
【0044】
例えば、EDCの助剤としてHOSuを用いると、単離した多糖類のHOSu活性化エステル基:
【化2】


は、長期間安定に保存でき、必要なときにペプチドとのカップリング反応を行える。
【0045】
カルボキシル基を有する多糖、架橋剤及び助剤で一緒するとは、カルボキシル基を有する多糖、架橋剤および助剤を混合して、ポリペプチドのアミノ基と共有結合するために、多糖のカルボキシル基を活性化することを意味する。活性化多糖とは、ポリペプチドのアミノ基と共有結合する活性化されたカルボキシル基を有する多糖を意味する。反応条件(濃度、温度、時間、pH等)は、多糖、架橋剤および助剤によって任意に変化することができる。
【0046】
カルボキシル基を有する多糖の溶液が、温度、pH、多糖の濃度、品質などによってゲル化することを当業者は周知である。ゲル化した多糖は、架橋化のための十分な活性化反応が期待できない。そのため、カルボキシル基を有する多糖、架橋剤および助剤との反応は、液体状態でなされることが好ましい。カルボキシル基を有する多糖溶液のゲル化しない条件(濃度、温度、pH等)は、多糖の種類、品質ごとに異なり、当業者は適宜その条件を設定することができる。
【0047】
活性化された多糖は、限定されないが、多糖中のカルボキシル基の活性化度が、0.05%〜20%、好ましくは0.5〜15%、より好ましくは1〜5%、さらに好ましくは2〜4%である。例えば、多糖中のカルボキシル基の活性化度が1%とは、多糖中の100個のカルボキシル基うち、1個が活性化カルボキシル基であることを意味する。また、活性化カルボキシル基とは、タンパク質のアミノ基と共有結合し、架橋体を形成する多糖中のカルボキシル基を意味する。例えば、助剤HOSuを用いた場合の多糖中の活性化カルボキシル基とは、HOSu活性化エステル基を意味する。この場合、多糖中のカルボキシル基の活性化度が1%とは、多糖中の100個のカルボキシル基うちの1個がHOSu活性化エステル基であることを意味する。
【0048】
多糖中のHOSu活性化エステル基は、例1−3のFT−IRスペクトルの吸収ピーク強度比(I1774/I1628)と図6の検量線に基づいて求められる。そして、本発明で使用する多糖中のカルボキシル基の活性化度とは、FT−IRスペクトルの吸収ピーク強度比(I1774/I1628)と図6の検量線に基づいて求められる値のことを意味する。
【0049】
多糖中のカルボキシル基の活性化を助剤またはHOSuのような助剤を使用しないで行う場合は、それと同等の活性化をHOSuを使用して行い、HOSu活性化エステル基数をFT−IRスペクトルの吸収ピーク強度比(I1774/I1628)と図6の検量線に基づいて求めて、多糖中のカルボキシル基の活性化度を求めてもよい。
【0050】
上記の活性化度を有する多糖は、限定されないが、多糖がゲル化しない条件下で、多糖中のカルボキシル基1モルに対して、架橋剤および助剤をそれぞれ0.001〜5モル、好ましくは0.01〜1モル、より好ましくは0.02〜0.5モル、さらに好ましくは0.05〜0.3モルで反応させて製造できる。架橋剤単独であっても良い。
【0051】
前記活性化多糖と側鎖にアミノ基を有するアミノ酸を含むポリペプチドを一緒するとは、カルボキシル基が活性化された多糖とポリペプチドを混合して、活性化されたカルボキシル基とポリペプチドのアミノ基間に共有結合(アミド結合−CONH−)を形成することを意味する。本発明における、架橋とは、多糖の活性化されたカルボキシル基とポリペプチドのアミノ基間の共有結合の形成をいう。反応条件(濃度、温度、時間、pH等)は、活性化多糖とポリペプチドによって任意に変化することができる。
【0052】
側鎖にアミノ基を有するアミノ酸を含むポリペプチドの溶液が、温度、pH、ポリペプチドの濃度、品質等によってゲル化することを当業者は周知である。ゲル化したポリペプチドは、活性化多糖との十分な架橋反応が期待できない。そのため、活性化多糖とポリペプチドとの反応は液体状態でなされることが好ましい。ポリペプチドがゲル化しない条件(濃度、温度、pH等)は、ポリペプチドの種類、品質ごとに異なり、当業者は適宜その条件を設定することができる。
【0053】
多糖のカルボキシル基の活性化工程と活性化多糖とポリペプチドとの架橋反応工程は、カルボキシル基を有する多糖、ポリペプチドと架橋剤を一緒にすることにより、同時に行ってもよいが、カルボキシル基を有する多糖、架橋剤と助剤を一緒にすることによる多糖のカルボキシル基の活性化工程、および活性化多糖とポリペプチドを一緒にすることによる架橋反応工程を分離して行うことが好ましい。
【0054】
ポリペプチドと多糖を共存させた系で活性化反応と架橋反応を同時に行う場合、ポリペプチドの分子量が低いことが好ましい。カルボキシル基を有する多糖にはポリペプチドと比べて圧倒的に多くのカルボキシル基が存在するので、ポリペプチド同士の架橋反応(ポリペプチドの活性化されたカルボキシル基末端とポリペプチドのアミノ基の架橋反応)よりも、ポリペプチド−多糖間の架橋が優先的に進行できる。得られた架橋体がゲル化しなければ、活性化反応と架橋反応を同時に行ってもよい。
【0055】
カルボキシル基を有する多糖類の活性化反応と、それに続くポリペプチドとのカップリング反応に用い得る架橋剤および助剤は、溶媒の種類によって制限される。このことは、当業者に周知である。
【0056】
例えば、カルボキシル基を有する多糖類が、DMSOやDMFなどの有機系溶媒に可溶ならば、DCCやCDIなどの有機溶媒中で使用できる架橋剤を用い得る。一方、水が溶媒となる場合には、EDCやDMT−MMなどの水溶性の架橋剤を用いる。
【0057】
多糖とポリペプチドの架橋体は、限定されないが、架橋度が0.05%〜20%、好ましくは0.5〜15%、より好ましくは1〜5%、さらに好ましくは2〜4%である。例えば、架橋度が1%とは、多糖中の100個のカルボキシル基うちの1個がタンパク質のアミノ基と共有結合していることを意味する。助剤HOSuを用いた場合、多糖中の100個のカルボキシル基うちの1個がHOSu活性化エステル基であり、この1個のHOSu活性化エステル基がタンパク質のアミノ基と共有結合していることを意味する。HOSuのような助剤を用いた場合、多糖中の助剤によって活性化したカルボキシル基のすべてが、タンパク質のアミノ基と架橋を形成すると仮定するので、架橋体の架橋度と多糖中のカルボン酸の活性化度とは同じ意味で用いられてもよい。
【0058】
上記の架橋度を有する架橋体を製造する場合の多糖(活性化多糖)とポリペプチドの混合比は、限定されないが、重量比で多糖:ポリペプチド=1:0.01〜100、好ましくは多糖:ポリペプチド=1:0.1〜10、より好ましくは多糖:ポリペプチド=1:0.5〜5、さらに好ましくは多糖:ポリペプチド=1:1〜2.5である。
【0059】
本発明のゲルは、医療用、特に移植用足場材料として用いるため、DICやEDCなどのアレルギー反応を起しにくい架橋剤の使用が望ましい。副反応による生成物の除去が容易な架橋剤と助剤の組み合わせとしてもEDCとHOSuが挙げられる。
【0060】
カチオンには、限定されない例として、ポリカチオン、二価カチオン及び多価金属カチオンなどが挙げられる。
【0061】
ポリカチオンには、限定されない例として、天然由来の高分子および人工高分子などが挙げられる。天然由来の高分子には、限定されない例として、キチン、キトサン、コラーゲンなどが挙げられる。この場合、高分子鎖どうしが多点的に錯体形成するため、その協同効果によって、二価カチオン及び多価カチオンの場合よりも安定なゲルが得られる。好ましくは、脱アセチル化キトサン(ダイキトサン100D、大日精化工業製)およびカチオンニックキトサン(カチオン化キトサン、大日精化工業製)である。
【0062】
人工高分子には、限定されない例として、ポリエチレンイミン等が挙げられる。
【0063】
多価金属カチオンには、限定されない例として、カルシウムイオン、バリウムイオン、銅イオン、ストロンチウムイオン、亜鉛イオン、マンガンイオン、鉄イオン、マグネシウムイオンなどの2価金属カチオンが挙げられる。好ましい2価金属カチオンには、カルシウムイオン、亜鉛イオン、銅イオン、鉄イオンなどが挙げられる。カルシウムイオンには、塩化カルシウム、塩化亜鉛、塩化銅、塩化鉄、塩化マグネシウムなどの無機塩、またはアスコルビン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、パントテン酸カルシウムなどの有機塩などが挙げられる。
【0064】
二価カチオンとは、分子上に二価以上のカチオンを持つ分子を意味し、例えば、限定されない例として、アルギニンなどが挙げられる。
【0065】
架橋体を構成する多糖は、カチオンとキレートを形成して網目状構造を有する半固体状態のゲルになる性質を有する。
【0066】
ゲルとは、溶解していた高分子が網目のような構造に変化し、その網目の隙間を液体および物質が行き来するような半固体状態を意味する。
【0067】
よって、架橋体とカチオンとからなるゲルとは、架橋体を構成する多糖とカチオンとから形成される網目状構造を有する半固体状態の架橋体−カチオン複合体を意味する。
【0068】
架橋体とカチオンとからなるゲルは、架橋体とカチオンを混合することで形成される。よって、架橋体とカチオンを一緒するとは、架橋体とカチオンを混合することによって、架橋体を構成する多糖がカチオンとともに多糖−カチオン錯体を形成し、架橋体がゲル化することを意味する。ゲル化条件は、架橋体およびカチオンによって任意に変化することができる。
【0069】
多糖のグリコシド結合、ポリペプチドのペプチド結合、および多糖−カチオン錯体は、生体内において容易に分解されるので、架橋体とカチオンとからなるゲルは、多糖のカルボン酸基とポリペプチドのアミノ基間の共有結合を除いて、容易に分解され得る。多糖のカルボキシル基とポリペプチドのアミノ基間の共有結合は、結合の近傍に存在する糖が立体障害となり、プロテアーゼの認識および接近が制限されるため容易に分解されない。
【0070】
生理活性物質には、限定されない例として、増殖因子およびサイトカイン、抗体などが挙げられる。増殖因子およびサイトカインには、限定されない例として、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor,VEGF)、酸性線維芽細胞増殖因子(acidic fibroblast growth factor,a−FGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growthfactor,b−FGF)、血小板由来内皮細胞増殖因子(platelet-derived endothelial cell growth factor,PD−ECGF)、トランスフォーミング増殖因子(transforming growth factor,TGF−α、TGF−β)、腫瘍壊死因子(angiogenin tumor necrosis factor-α,TNF−α)、肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor,HGF)、顆粒球マクロファージ−コロニー刺激因子(Granulocyte/Macrophage-Colony Stimulating Factor,GM−CSF)、インシュリン、インシュリン様成長因子(Insulin-like growth factor,IGF−I、IGF−II)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、上皮細胞増殖因子(epidermal growth factor:EGF)、ヘパリン結合性増殖因子(heparin binding growth factor:hbgf)、神経成長因子(nerve growth factor:NGF)、筋肉形成因子(muscle morphogenic factor:MMF)、骨形成タンパク質(bone morphogenetic protein,BMP)等があげれられる。抗体には、限定されない例として、抗CD3抗体や抗CD28抗体などの細胞を刺激できる抗体などが挙げられる。好ましくは、塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growthfactor,b−FGF)、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor,VEGF)、血小板由来内皮細胞増殖因子(platelet-derived endothelial cell growth factor,PD−ECGF)、肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor,HGF)、顆粒球マクロファージ−コロニー刺激因子(granulocyte/macrophage-colony stimulating factor,GM−CSF)であり、より好ましくは塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growthfactor,b−FGF)、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor,VEGF)である。
【0071】
生理活性物質は、生理活性物質を分泌する細胞であっても良い。
【0072】
細胞は、限定されないが、好ましくは、軟骨細胞;繊維軟骨細胞;骨細胞;骨芽細胞;破骨細胞;滑膜細胞;骨髄細胞;間葉細胞;間質細胞;脂肪組織由来の前駆細胞;末梢血液前駆細胞;インシュリン産生細胞;B細胞あるいはハイブリドーマ等の抗体産生細胞;ホルモン産生細胞;肥満細胞;化学伝達物質産生細胞(免疫系細胞);遺伝子組み替え細胞;幹細胞(ES細胞、EG細胞、iPS細胞、および成体(組織)幹細胞など);肝、神経、甲状腺、胸腺、副腎髄質、副腎皮質、腎臓あるいは消化管の生理活性因子を産生する細胞;及びこれらの細胞と他の細胞の組み合わせである。細胞は、凝集形態や組織の一部であってもよい。細胞は、限定されないが、好ましくは、哺乳動物、より好ましくは、イヌ、ネコ等の愛玩動物;ヒト;ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等の家畜動物;サル、ウサギ、マウス、ラット等の実験動物、特に好ましくはヒトである。また、細胞は、免疫による拒絶を避けるために、移植対象由来であることが好ましい。
【0073】
本発明の架橋体またはゲルを含む組成物は、限定されないが、好ましくは、化粧用組成物または医薬組成物であり、より好ましくは医薬組成物である。
【0074】
本発明の架橋体またはゲルを含む医薬組成物は、限定されないが、好ましくは医療用材料である。より好ましくは、組織再生または移植支援材料、特に好ましくは細胞増殖用足場材料である。そのため、本発明の架橋体またはゲルは、他の細胞培養、組織再生や移植のための器具や材料と一緒に組み合わせて用いられることができる。
【0075】
本発明のゲルを組織再生または移植支援材料として使用する場合、ゲルを対象の移植場所に埋め込み、組織再生を誘導するために使用することができる。また、本発明のゲルを、生体外で、細胞増殖または組織形成ために使用してもよい。この場合、増殖された細胞または形成された組織は、ゲルと一緒にまたは分離して対象に移植される。
【実施例】
【0076】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0077】
実施例
例1. 活性エステル化アルギン酸の調製
1gのアルギン酸ナトリウム(和光一級、粘度:500−600mPaS(10g/L,20℃))を100mLの蒸留水に溶解し、1N塩酸でpH4に調製した。このアルギン酸水溶液に0.5gの縮合助剤N−ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)を添加し、その後、0.8gの脱水縮合剤1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩を添加すると、溶液は無色透明となり、気泡の発生がみられた。室温(特に記載しない場合、室温は24℃〜25℃を意味する)にて6時間攪拌したのち、反応溶液を含水エタノール(水/エタノール=1:2)中に滴下し、白色沈殿物を遠沈(1000rpm,1分)回収した。この場合、含水エタノールの含水率(水:エタノール)が50容量%以上では沈殿が生じなかった。含水エタノール(水/エタノール=1:2)で2回洗浄した後、エタノールで1回洗浄し、室温にて4時間減圧乾燥することでHOSu活性エステル化アルギン酸(収量0.92g)を得た。HOSu活性エステル化アルギン酸の合成はフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR―8400S、島津社製、KBr法)によって確認した(図5)。また、含水エタノールを用いず、エタノールのみで3回洗浄した場合、HOSu活性エステル化アルギン酸の水に対する再溶解性が著しく低下した。これは、沈殿物のアルギン酸部位と結合水との疎水性相互作用による立体構造が変化したためと考えられる。
【0078】
FT−IRの測定は一般的な方法で行った。測定試料(HOSuとアルギン酸混合物、またはHOSu活性エステル化アルギン酸)約3mgを臭化カリウム(KBr)粉末30mg程度に混合し、メノウ鉢で磨り潰し、測定機器附属の型に入れて加圧して円盤状のペレットを作製した。これを装置にセットして、吸収スペクトル(室温24℃、測定波長範囲450〜4000cm−1)を測定した。ピークの高さ(ピーク強度)は、チャート上の波長1774cm−1と1628cm−1の2つのピークの高さ(長さ)を手で物差しを用いて計測した。ピークの高さ(ピーク強度)は、測定チャート毎に高さ(長さ)が異なるので、波長1774cm−1と1628cm−1の2つのピーク強度の相対比(ピーク強度比)として規格化する。
【0079】
ピーク強度の比(I1774/I1628)は、以下の式のように示される:
1774/I1628=波長1774cm−1におけるピークの高さ(長さ)/1628cm−1におけるピークの高さ(長さ)。
【0080】
例1−2. 活性エステル化の程度の異なるアルギン酸の調製とそのゲル化
0.6gのアルギン酸ナトリウム(和光一級、粘度:500−600mPaS)を60mLの蒸留水に溶解し、1N塩酸でpH5に調製してアルギン酸1重量%水溶液とした。このアルギン酸1重量%水溶液を20mLずつ分注し、それぞれに縮合助剤N−ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)を5,10,25,50,100,400mg添加した。その後、各溶液に、脱水縮合剤1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)を11,22,45,90,180,720mgずつ添加して、24℃で1時間攪拌して、アルギン酸の活性化反応を行った。この時、溶液の粘度は添加剤の添加量に応じて低下した。各反応溶液を含水エタノール(水/エタノール=1:2、50mL)中に滴下し、白色沈殿物を遠沈(1000rpm,1分)回収した。含水エタノール(水/エタノール=1:2,50mL)で2回洗浄した後、エタノール(50mL)で1回洗浄し、24℃で4時間減圧乾燥した。以下の表1に条件と収率を示す。
【0081】
【表1】

【0082】
例1−3. アルギン酸に対する架橋剤および助剤のモル比によるアルギン酸の活性化度の測定
アルギン酸の活性化度は、HOSu活性化アルギン酸のFT−IRスペクトルの吸収ピーク強度比(I1774/I1628)と検量線から求めた。検量線は、アルギン酸の1糖ユニットに対してモル比で0,0.05,0.1,0.2,0.5,1,2のEDC(分子量:192)およびHOSu(分子量:115)を混合し、24℃で1時間反応後、反応産物のIR吸収スペクトルを測定し、1774cm−1と1628cm−1のピーク強度の比(I1774/I1628)を求めた(表1−2)。ここで、アルギン酸の1糖ユニットとは、アルギン酸の構成糖であるD−マンヌロン酸またはL−グルロン酸を意味し、平均分子量を195とした。
【0083】
【表1−2】

【0084】
得られた検量線は、アルギン酸の1糖ユニットに対するモル比0.2(100糖ユニットに対するHOSuの数にして20個)以下の範囲で直線関係が得られた(図6A)。これより、I1774/I1628を測定することにより、検量線から、アルギン酸の1糖ユニット(100糖ユニット)中の、HOSuで活性化されたカルボキシル基(HOSu活性化エステル)の数、すなわちアルギン酸のHOSu活性化度が求められる。なお、アルギン酸は、その1糖ユニットあたり1個のカルボキシル基を有することから、アルギン酸のHOSu活性化度は、アルギン酸のカルボキシル基のHOSu活性化度を表す。
【0085】
No.1−21〜No.1−26のHOSu活性化度をFT−IRスペクトルの吸収ピーク強度比(I1774/I1628)を測定し、検量線(図6B)から求めた。その結果を表1−3に示す。
【0086】
【表1−3】

【0087】
No.1−21の活性化アルギン酸のHOSu活性化度は、1より小さい、すなわちアルギン酸の100個の糖ユニット(カルボキシル基)あたりのHOSu活性化カルボキシル基(HOSu活性化エステル)の数は1より小さい。よって、アルギン酸(アルギン酸のカルボキシル基)のHOSu活性化度は1%未満である。
【0088】
No.1−22の活性化アルギン酸のHOSu活性化度は、約2、すなわちアルギン酸の100個の糖ユニット(カルボキシル基)あたりのHOSu活性化カルボキシル基(HOSu活性化エステル)の数は約2であり、アルギン酸(アルギン酸のカルボキシル基)のHOSu活性化度は約2%である。
【0089】
No.1−23の活性化アルギン酸のHOSu活性化度は、約4、すなわちアルギン酸の100個の糖ユニット(カルボキシル基)あたりのHOSu活性化カルボキシル基(HOSu活性化エステル)の数は約4であり、アルギン酸(アルギン酸のカルボキシル基)のHOSu活性化度は約4%である。
【0090】
ゲル化
アルギン酸活性エステル(No.1−21、1−22、1−23)を蒸留水に溶解し、1,0.5,0.2,0.1,0.05,0.02重量%水溶液を調製した。各溶液0.05mLをスライドガラス上に滴下し、さらに、塩化カルシウム水溶液(0.05wt%)を0.05mL添加し、ガラス棒(φ0.5mm)にて素早く攪拌した。
【0091】
結果
アルギン酸の活性化程度が高くなるにつれて、ゲル化に必要なアルギン酸濃度は、高くなる傾向がみられた。これは、カルシウムと錯体形成するアルギン酸のカルボキシル基が、活性化反応によって消費されたためと考えられる。この結果は、アルギン酸の濃度を変化させることなく、アルギン酸の活性化程度(架橋剤や助剤の添加量)を調整することで、イオン錯体形成によるゲル化性能を制御できることを示唆している。
【0092】
【表2】

【0093】
アルギン酸−ゼラチン架橋体の合成
上記方法で作製した活性エステル化アルギン酸と、コラーゲンまたはゼラチンのアミノ基との縮合反応を行った。本実施例として、ゼラチン(G7041−100G;Sigma−Aldrich社製:魚皮由来)、ゼラチン(077−03155;和光純薬工業(株)社製:1級、ウシ皮膚由来)、アテロコラーゲン(コーケンアテロコラーゲンインプラント;(株)高研社製:仔牛真皮由来)、コラーゲン(NMPコラーゲンPS;日本ハム社製:ブタ皮膚由来ペプシン可溶化コラーゲン凍結乾燥粉末、タイプI+タイプIII、中性塩可溶性、架橋あり)を挙げる。活性エステル化アルギン酸は1%水溶液で使用した。
【0094】
例2. 魚由来のゼラチンの場合
例2−1
0.2,0.4,0.8,1.6及び3.2gのゼラチン(SIGMA社製、G7041、魚由来)をそれぞれ蒸留水(8mL)にゲル化しない温度(24℃)で溶解し、2.5,5,10,20,及び40重量%のゼラチン溶液(pH6)を作製した。ゲル化しない温度(24℃)で激しく攪拌させている各ゼラチン水溶液8mlに、HOSu活性エステル化アルギン酸1重量%水溶液(2mL、例1および例1−2のNo1−25、HOSu活性化度13%)を滴下したのち、室温にて12時間攪拌した。ゼラチン濃度2.5,5,10重量%では、白濁及び凝集体が生じた。20及び40重量%では白濁や凝集はせず反応の進行に伴い粘度が増加する傾向はみられた。表3中のゲル化温度は、ゼラチン溶液のゲル化温度を示す。例えば、魚由来のゼラチンの場合、20重量%以下のゼラチン溶液のゲル化温度は4℃より低いことを表し、40重量%のゼラチン溶液のゲル化温度は、24℃より低いことを表す。液体状態を保つにはゼラチン溶液のゲル化温度より高い温度で操作する必要がある。
【0095】
例2−2
多糖−ポリペプチド架橋体は、流動性があることで、生理活性物質や細胞を均一に混合でき、任意な形状へ成型加工性が良く、移植母床との高い密着性も確保出来る等の特徴を発揮する。架橋体単独での凝集やゲル化によって架橋体の流動性が低下すると、成型加工性が悪くなり。また、材料が不均一であるため、生体内分解性も低下する。
【0096】
pH6における、2.5,5,10重量%濃度のゼラチンを用いた架橋体の作製では、白濁及び凝集体を生じた(表3)。これは、ゼラチンのアミノ基とアルギン酸の活性化カルボキシル基の架橋に加え、ゼラチンのアミノ基とアルギン酸の活性化されていないカルボキシル基とがポリイオン錯体を形成したためと考えられた。そこで、ポリイオン錯体形成を抑制するため、ゼラチンが負電荷を帯びるようにアルカリ条件下で実施した。
【0097】
0.2,0.4,0.8,1.6及び3.2gのゼラチン(SIGMA社製、G7041、魚由来)をそれぞれ蒸留水(8mL)にゲル化しない温度(24℃)で溶解し、水酸化ナトリウムでpH8に調整して2.5,5,10,20,及び40重量%のゼラチン溶液(pH8)を作製した。ゲル化しない温度(24℃)で激しく攪拌させている各ゼラチン水溶液8mLに、HOSu活性エステル化アルギン酸1重量%水溶液(2mL、例1および例1−2のNo1−25、HOSu活性化度13%)を滴下したのち、室温にて12時間攪拌した(溶液におけるアルギン酸濃度:0.2重量%、ゼラチン濃度:2、4、8、16、32重量%)。反応の進行に伴い粘度が増加する傾向が見られた。得られた溶液を透析膜(セルロースエステルチューブ、MWCO2000)にて蒸留水中、2日間透析し、未反応物・副生成物などを除去した。凍結乾燥し、アルギン酸ゼラチン架橋体を得た(収量0.16,0.35,0.74,1.52,3.1g)。
【0098】
結果
魚由来のゼラチンの場合、pH6ではゼラチン濃度が低いとアルギン酸−ゼラチンの凝集体が生じてしまい、液状のアルギン酸−ゼラチン架橋体を得られないことがわかった。しかしながら、アルカリ条件とすることで、低濃度のゼラチン溶液を用いても、液状のアルギン酸−ゼラチン架橋体を得られることがわかった。得られたアルギン酸−ゼラチン架橋体は、高濃度(40重量%)のゼラチンを用いても、室温でゲル化することなく液状を保った。
【0099】
【表3】

【0100】
魚由来のゼラチンを使用した場合、4〜40℃において液状のアルギン酸ゼラチン架橋体を得るためには、ゼラチン水溶液の濃度を40重量%以下、好ましくは10〜40重量%、活性化アルギン酸水溶液とコラーゲン溶液の混合後の全体溶液のpHを8以上、好ましくはpH8〜12、全体溶液におけるゼラチン濃度を0.5重量%以上、好ましくは8〜32重量%、活性化アルギン酸濃度を0.05重量%以上、好ましくは0.05〜1重量%、より好ましくは0.2〜1重量%、さらに好ましくは0.2〜0.4重量%となるように、各溶液を調製することが考えられる。
【0101】
例3. ウシ由来のゼラチンの場合
0.1、0.2,0.4,0.8,1.6及び3.2gのゼラチン(和光純薬社製、077−03155)を蒸留水(8mL)に、ゲル化しない温度(40℃)で溶解し、1.3、2.5,5,10,20,及び40重量%のゼラチン溶液(pH6)を作製した。同様に、水酸化ナトリウムでpH8に調整したものを1.3、2.5,5,10,20,及び40重量%のゼラチン溶液(pH8)とした。ゲル化しない温度(40℃)で激しく攪拌させている各ゼラチン水溶液8mLに、HOSu活性エステル化アルギン酸1重量%水溶液(2mL、pH6、例1および例1−2のNo1−25、HOSu活性化度13%)を滴下したのち、40℃にて12時間攪拌した(溶液におけるアルギン酸濃度:0.2重量%、ゼラチン濃度:1.04、2、4、8、16、32重量%)。反応の進行に伴い粘度が増加する傾向が見られた。表4中のゲル化温度は、ゼラチン溶液のゲル化温度を示す。ゼラチン溶液の濃度によって、ゲル化温度は異なるので、液体状態を保つにはゼラチン溶液のゲル化温度より高い温度で操作する必要がある。
【0102】
結果
魚由来のゼラチンと異なり、ウシ由来のゼラチンではpH6でアルギン酸−ゼラチン凝集体が生じることはなかった。また、ゼラチン溶液が液状である条件であれば、高濃度(40重量%)のゼラチン溶液を用いても、得られたアルギン酸−ゼラチン架橋体は、ゲル化することなく液状を保つがわかった。よって、目的とする温度、たとえば細胞や生理活性物質を失活させない温度(4℃〜40℃)において液状の架橋体を得るためには、その温度(4℃〜40℃)でゲル化しない濃度のポリペプチドを使用すればよいことがわかる。よって、ウシ由来のゼラチンの場合、室温(24〜25℃)で液状となる材料を作製するには、ゼラチン溶液の液状を保つためにゼラチン濃度を5.0重量%以下で調製する必要がある。
【0103】
【表4】

【0104】
哺乳動物由来のゼラチンを使用した場合、24〜40℃において液状のアルギン酸ゼラチン架橋体を得るためには、ゼラチン水溶液の濃度を40重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは1.3〜5重量%、アルギン酸水溶液とコラーゲン溶液の混合後の全体溶液のpHを4以上、好ましくはpH6〜8、全体溶液におけるゼラチン濃度を0.5重量%以上、好ましくは1〜32重量%、活性化アルギン酸濃度を0.05重量%以上、好ましくは0.05〜1重量%、より好ましくは0.2〜1重量%、さらに好ましくは0.2〜0.4重量%となるように、各溶液を調製することが考えられる。
【0105】
アルギン酸−アテロコラーゲン架橋体の合成
例4. アテロコラーゲンの場合
1mLの3重量%アテロコラーゲン(高研社製、コーケンアテロコラーゲンインプラント)溶液を4℃で蒸留水(5mL)に溶解(pH5.5)し、塩酸および水酸化ナトリウムでpH3と8に調整した(pH3と8においてもゲル状ではない)。4℃で激しく攪拌させている各アテロコラーゲン水溶液(6ml)に、HOSu活性エステル化アルギン酸1重量%水溶液(1.5mL、例1および例1−2のNo1−25、HOSu活性化度13%)を滴下した(溶液におけるアルギン酸濃度:0.2重量%、アテロコラーゲン濃度:0.4重量%)。pH3,5.5,8をそれぞれ維持しながら、アテロコラーゲンの熱変性による凝集体形成やゲル化を抑えるために4℃にて12時間攪拌し、アルギン酸コラーゲン架橋体溶液を得た。アテロコラーゲン溶液は、低温(4℃)でもゲル化しない。
【0106】
結果
アテロコラーゲンの場合、アテロコラーゲン溶液は液状であっても、pHによって、得られる架橋体がゲル状になることがわかった。アテロコラーゲンの場合、液状の架橋体を得るためには、pHを調製する必要がある。
【0107】
【表5】

【0108】
例4−2
二種類のアテロコラーゲン溶液を用いて、pHを調製する以外に、PBSによる液状の架橋体の調製を検討した。
(1)コーケンアテロコラーゲンインプラント(高研社製)の場合
1mLのコーケンアテロコラーゲンインプラント(高研社製、アテロコラーゲンの3重量%水溶液)を4℃で蒸留水(4.5mL)に溶解し(pH5.5)、リン酸緩衝溶液(PBS、SIGMA社製、DULBECCO’S PHOSPHATE BUFFERED SALINE 10X、pH7.4)を0.05mL添加した。4℃で激しく攪拌させながら、HOSu活性エステル化アルギン酸(例1−2のNo.1−21,1−22,1−23)の1重量%水溶液(1.5mL)を滴下(溶液におけるアルギン酸濃度:0.21%、アテロコラーゲン濃度:0.43%)し、さらに4℃で12時間攪拌し、アルギン酸コラーゲン架橋体溶液No.4−21、No.4−22およびNo.4−23を得た。
【0109】
また、1mLのコーケンアテロコラーゲンインプラント(高研社製、アテロコラーゲンの3重量%水溶液)を4℃で蒸留水(4.5mL)に溶解し(pH5.5)、リン酸緩衝溶液(PBS、SIGMA社製、DULBECCO’S PHOSPHATE BUFFERED SALINE 10X、pH7.4)を0.05mL添加した。4℃で激しく攪拌させながら、HOSu活性エステル化アルギン酸(例1−22)の0.5,0.25重量%水溶液(1.5mL)を滴下(溶液におけるアルギン酸濃度:0.11重量%および0.05重量%、アテロコラーゲン濃度:0.43%)し、さらに4℃で12時間攪拌し、アルギン酸コラーゲン架橋体溶液No.4−24およびNo.4−25を得た。
【0110】
(2)アテロセル(高研社製)の場合
5mLのアテロセル(高研社製、0.5重量%アテロコラーゲン含有0.01M塩酸溶液、pH3)にリン酸緩衝溶液(SIGMA社製、DULBECCO’S PHOSPHATE BUFFERED SALINE 10X、pH7.4)を0.05mL添加して、pH7に調整した。一方、水酸化ナトリウム溶液で中和(pH7)にした場合には、白濁や凝集体の析出がみられ不均一な溶液となった。4℃で激しく攪拌させながら、HOSu活性エステル化アルギン酸(例1−2のNo.1−22)の1重量%水溶液(1.5mL)を滴下(溶液におけるアルギン酸濃度:0.23重量%、アテロコラーゲン濃度:0.38重量%)し、さらに4℃で12時間攪拌し、アルギン酸コラーゲン架橋体溶液No.4−31を得た。アテロコラーゲン溶液は、低温(4℃)でもゲル化しない。
【0111】
結果
PBSの添加によるカップリング反応への効果
PBSをアテロコラーゲン溶液に添加することによって、カップリング反応を行うためにHOSu活性エステル化アルギン酸を添加するときに生じるゲル化や凝集体形成が抑制された。この結果、均一なアルギン酸アテロコラーゲン架橋体の溶液を得ることが出来た。これは、過剰なリン酸アニオンが系に存在するために、アテロコラーゲンのアミノ基と、HOSu活性エステル化アルギン酸の活性化されていないカルボキシル基とのポリイオンコンプレックス形成が抑制されたためと考えられる。このカップリング反応中へのPBSの添加は、他のゼラチンやコラーゲンでも同様に、ポリペプチドのアミノ基と、多糖の活性化されていないカルボキシル基間のポリイオンコンプレックス形成の抑制に有効であると考えられる。
【0112】
アルギン酸の活性化度によるアルギン酸アテロコラーゲン架橋体への効果
反応に用いたアルギン酸活性化エステルの活性化度が高いほど、得られたアルギン酸アテロコラーゲン架橋体の粘度が高くなる傾向が見られた。最も活性エステル化されているNo.1−23(HOSu活性化度約4%)を用いて合成したアルギン酸アテロコラーゲン架橋体(No.4−23)は、24℃では液状であったが、4℃でゲル化した。
【0113】
アルギン酸の濃度によるアルギン酸アテロコラーゲン架橋体への効果
反応に用いた活性化アルギン酸エステルの濃度が0.2重量%以下の場合、4℃で液状のアルギン酸アテロコラーゲン架橋体が得られた。
【0114】
【表6】

【0115】
アテロコラーゲンを使用した場合、4〜30℃において液状のアルギン酸アテロコラーゲン架橋体を得るためには、アテロコラーゲン水溶液の濃度を3重量%以下、好ましくは0.4〜0.5重量%、アルギン酸水溶液とコラーゲン溶液の混合後の全体溶液のpHを4〜7、温度を室温以下、好ましくは0〜4℃とし、全体溶液におけるアテロコラーゲン濃度を0.1重量%以上、好ましくは0.3〜0.5重量%、活性化アルギン酸濃度を0.05重量%以上、好ましくは0.05〜1重量%、より好ましくは0.2〜1重量%、さらに好ましくは0.2〜0.4重量%となるように、各溶液を調製することが考えられる。
【0116】
例5. NMPコラーゲンPS(日本ハム(NIPPON MEAT PACKERS CO.,LTD)社製、豚皮由来ペプシン消化コラーゲン)の場合
0.2,0.4,1.0、1.28および2.0gのペプシン消化コラーゲン(日本ハム社製、NMPコラーゲンPS、豚皮由来)をそれぞれ蒸留水(160mL,40℃)にゲル化しない40℃で溶解し、水酸化ナトリウムでpH8に調整し0.12,0.25,0.6、0.8及び1.25重量%コラーゲン溶液を作製した。40℃で激しく攪拌させている各コラーゲン水溶液160mLに、HOSu活性エステル化アルギン酸1重量%水溶液(40mL、例1および例1−2のNo1−25、HOSu活性化度13%)を滴下した(溶液におけるアルギン酸濃度:0.2重量%、コラーゲン濃度:0.096、0.2、0.48、0.64、1重量%)。0.8,1.25重量%コラーゲン溶液の場合、経時的に白濁し不均一なゲルを得た。0.12,0.25,0.6重量%コラーゲン溶液の場合、室温で12時間攪拌したがゲル化しなかった。ゲル化しなかったこれら3つの反応溶液を透析膜(セルロースエステルチューブ、MWCO2000)にて蒸留水中、2日間透析し、未反応物および副生成物などを除去した。凍結乾燥し、アルギン酸コラーゲンPS架橋体を得た(収量0.5,0.7,1.2g)。表7中のゲル化温度は、コラーゲン溶液のゲル化温度を示す。コラーゲン溶液の濃度によって、ゲル化温度は異なるので、液体状態を保つには、コラーゲン溶液のゲル化温度濃度より高い温度で操作する必要がある。
【0117】
結果
NMPコラーゲンPSの場合
ペプシン消化コラーゲン(コラーゲンPS)の場合、アテロコラーゲンとは異なり、pHによって、得られる架橋体がゲル化することはなかった。しかし、高濃度のコラーゲンを使用した場合、コラーゲン溶液が液状である温度においても、得られる架橋体がゲル化することがわかった。これは、アルギン酸とコラーゲンの重量比に原因があると考えられ、アルギン酸に対してコラーゲンを2.5倍以下で調製すると、室温及び40℃において液状のアルギン酸−コラーゲン架橋体が得られることがわかった。なお、室温及び40℃において液状のアルギン酸−コラーゲン架橋体は、4℃においてゲル化が認められたが、温度を戻すことにより液状に戻ることもわかった。
【0118】
【表7】

【0119】
ペプシン消化コラーゲン(コラーゲンPS)を使用した場合、24〜40℃において液状のアルギン酸コラーゲン架橋体を得るためには、アルギン酸に対するコラーゲンの重量比は2.5倍以下で、アルギン酸水溶液とコラーゲン溶液の混合後の全体溶液のpHを4以上、好ましくは5〜7となるように、各溶液を調製することが考えられる。好ましくは、コラーゲン水溶液の濃度を0.6重量%以下、より好ましくは0.12〜0.6重量%、全体溶液におけるコラーゲン濃度を1重量%以下、より好ましくは0.48重量%〜0.1重量%、活性化アルギン酸濃度0.05重量%以上、好ましくは0.05〜0.4重量%、より好ましくは0.2〜0.4重量%となるように、各溶液を調製することが考えられる。
【0120】
イオン錯体ゲルの形成
例6. アルギン酸ゼラチン架橋体のイオン錯体ゲルの作製
例3(牛由来のゼラチン)のpH6で合成したNo.3−1〜No.3−6(表4)の各アルギン酸ゼラチン架橋体溶液0.1mLを室温または40℃において0.5重量%塩化カルシウム溶液0.1mLを添加し、静電的相互作用によるゲル化性能を評価した。表8中のアルギン酸/ゼラチンは、例3で使用したアルギン酸とゼラチンの重量比を表す。表4に示したように、ゼラチン溶液が24℃で液状である、No.3−1とNo.3−2のアルギン酸ゼラチン架橋体は、24℃で実施したが、ゼラチンが液状であるための温度が24℃より高いNo.3−3〜No.3−6のアルギン酸ゼラチン架橋体は、40℃において行った。
【0121】
結果
液状のアルギン酸ゼラチン架橋体を、CaClによりゲル化できることがわかった。得られたゲルは室温と40℃の範囲内において熱不可逆性であり、体内に移植した場合、体温付近で溶解することなく足場としての機械的強度が維持できる。一方、カチオン(Ca2+)との錯体でないゲル、例えば、30℃より低い温度でゲル状であるNo.3−5のアルギン酸ゼラチン架橋体をそのまま移植すると、体温(37℃、炎症により局部体温が更に高くなる)によって速やかに液体状態に戻り、足場として機能できない。
【0122】
【表8】

【0123】
例7. アルギン酸コラーゲン架橋体のイオン錯体ゲルの作製
例5(No.5−2)で作製したアルギン酸コラーゲンPS架橋体20mgを1mL PBSに24℃で溶解(2%溶液)し、さらにPBSで希釈することで、2,1,0.4,0.2重量%の溶液を作製した。各アルギン酸コラーゲン架橋体溶液(0.2mL)に1、0.5、0.13、0.05、0.025重量%の塩化カルシウム水溶液(0.2mL)を添加し、静電的相互作用によるゲル化性能を評価した。
【0124】
結果
液状のアルギン酸コラーゲンPS架橋体を、CaClによりゲル化できることがわかった。また、ゲル形成において、架橋体濃度とカルシウム濃度には相関関係があることがわかった。架橋体濃度が低い場合には、カルシウム濃度を高くする必要があり、カルシウム濃度が低い場合には、架橋体濃度を高くする必要がある。
【0125】
【表9】

【0126】
例8. カチオンの種類
例5(No.5−2)で作製したアルギン酸コラーゲンPS架橋体20mgを1mL PBSに24℃で溶解(2重量%溶液)し、0.2mLを分取して金属塩の水溶液(0.2mL)を添加し、静電的相互作用によるゲル化性能を評価した。実施例として、塩化マグネシウム、塩化鉄、塩化銅、塩化亜鉛を挙げる。
【0127】
結果
塩化カルシウム以外にも、塩化亜鉛および塩化鉄、塩化銅を用いることによって、アルギン酸コラーゲン架橋体をゲル化できることがわかった。ただし、塩化鉄や塩化銅の水溶液そのものはpHが低く、得られるゲルのpHも低くなるため、細胞や生理活性物質を担持させる場合などでは好ましくない。また、塩化亜鉛は、細胞毒性を考慮すると、濃度が低い方が良く、ゲル化後には生理食塩水にて余分な亜鉛イオンを除去する方がよい。
【0128】
【表10】

【0129】
例9. 有機塩基化合物の種類
例5(No.5−2)で作製したアルギン酸コラーゲンPS架橋体20mgを1mL PBSに24℃で溶解(2重量%溶液)し、0.2mLを分取して有機塩基化合物水溶液(1または2重量%、0.2mL)を添加し、静電的相互作用によるゲル化性能を評価した。実施例として、アスコルビン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、アルギニン、尿素、ポリエチレンイミン(PEI、分子量≒100,000、和光純薬)を挙げる。
【0130】
結果
塩化カルシウム、塩化亜鉛以外にも、アスコルビン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、ポリエチレンイミンを用いることによって、アルギン酸コラーゲン架橋体をゲル化できることがわかった。クエン酸Caは1%未満で飽和した。
【0131】
【表11】

【0132】
多糖−ポリペプチド架橋体のイオン錯体ゲルの形成には、架橋体濃度とカチオン濃度に相関関係があり、架橋体濃度が低い場合には、カチオン濃度を高く、逆にカチオン濃度が低い場合には、架橋体濃度を高くすることが必要である。
【0133】
多糖−ポリペプチド架橋体のイオン錯体ゲルを形成する場合の、好ましいカチオンの終濃度は、塩化カルシウムの場合、0.05重量%以上、好ましくは0.5〜1重量%、塩化亜鉛の場合、0.1重量%以上、好ましくは0.5〜1重量%、ポリエチレンイミン(分子量≒100,000)の場合、0.1重量%以上、好ましくは0.1〜0.5重量%にすることが考えられた。
【0134】
動物埋植実験
例10. bFGF含有アルギン酸コラーゲン架橋体カルシウム錯体ゲルを用いた動物埋植実験
例5(No.5−3、HOSu活性化度13%)で作製したアルギン酸コラーゲンPS架橋体の0.7重量%PBS溶液、コラーゲン(日本ハム社製、NMPコラーゲンPS、豚皮由来)の0.5重量%PBS溶液(0.015mL)、またはアルギン酸ナトリウム(和光純薬、500−600mPaS)の0.2重量%PBS溶液(0.015mL)に塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF,1mg/mL、科研製薬(株)社製、フィブラストスプレー500)を添加し、これらを人工血管用ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製グラフトの断片(内径φ3mm,高さ2mm、W.L.ゴア&アソシエイツ社製、Gore−Tex Stretch Vascular Graft)に注入し、さらに0.05重量%塩化カルシウム溶液(0.015mL)を添加することでゲルを調製した。0.5重量%のNMPコラーゲンPSは、24℃より低くすることでゲル化する(表7)。
【0135】
これらグラフトをWister系オスラット(8週齢、体重300−600g)腹部に皮下埋植し、5日後にグラフトおよびその周辺組織を摘出した。フォンビルブランド(von Willebrand)因子(vWF)染色またはヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を施し、光学顕微鏡下で組織学的に観察した。
【0136】
結果
図3A、BとCの右側は、移植部位の写真であり、左側の図は、写真の説明図である。図3Dは、グラフト移植の全体図と写真の取られた部位を説明する。移植写真に見られるように、人工血管グラフト(右端の黒い部分)の左側にゲルを埋植した領域が存在する。アルギン酸コラーゲン架橋体カルシウム錯体ゲルの場合、ゲルは埋植後5日で完全に肉芽組織に置換された。更に新生肉芽組織には血管網(黒色の斑点群)が豊富に存在していた(図3A)。一方、コラーゲンの埋植結果では、コラーゲンが埋植早期に溶解し、グラフトから流出しており、新生肉芽組織が侵入していない。ゲル移植部位は、大部分が湿潤液で満たされ、白く見える(図3B)。この結果は、コラーゲンは生体吸収が早いため、足場としての機械的強度を維持できないことを示している。したがって、周囲の肉芽組織および血管によるゲル内部への侵入は、コラーゲンよりアルギン酸コラーゲン架橋体ゲルの方が容易であることを示している。アルギン酸カルシウムゲルを埋植した場合は、5日間で殆ど分解しておらず、新生肉芽組織も侵入していない(図3C)。この結果は、アルギン酸カルシウムゲルの分解速度が遅いため、数日以内での肉芽組織および血管のゲル内部への侵入が困難であることを示している。
【0137】
例10−1
架橋度(HOSu活性化度1%未満、2%、4%)の異なるアルギン酸アテロコラーゲン架橋体を用いて例10と同様の動物埋植実験を行った。
【0138】
例4−2で作製したアルギン酸アテロコラーゲン架橋体(No.4−21,4−22,4−23)溶液(0.015mL)を、人工血管用ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製グラフトの断片(内径φ3mm,高さ2mm、W.L.ゴア&アソシエイツ社製、Gore−Tex Stretch Vascular Graft)に注入し、さらに0.05重量%塩化カルシウム溶液(0.015mL)を添加することで、グラフト内にゲルを調製した。グラフトをWister系オスラット(8週齢、体重300−600g)腹部に皮下埋植し、5日後にグラフトおよびその周辺組織を摘出した。ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を施し、光学顕微鏡下で組織学的に観察した。
【0139】
結果
アルギン酸アテロコラーゲン架橋体の架橋程度が低い場合(No.4−21)、5日間の埋植実験では、ゲルが殆ど分解していなかった。これは、アルギン酸部位に存在する遊離なカルボキシル基の数が多いため、安定なカルシウムイオン錯体を形成でき、緻密な構造を持ったゲルになったためと考えられる。その結果、分解酵素の侵入が抑制され、ゲルの分解性が低下したといえる。一方、アルギン酸アテロコラーゲン架橋体の架橋程度が高い場合(No.4−23)も、5日間の埋植実験では、ゲルが完全に分解していなかった。これは、アテロコラーゲンとアルギン酸との間の化学架橋が高い場合、アテロコラーゲンの酵素分解速度が低下したためと考えられる。これらの結果から、ゲルの分解性は、アルギン酸アテロコラーゲン架橋体の架橋度を制御することで制御でき、埋植後5日程度で分解するゲルの作製には、No.4−22のアルギン酸アテロコラーゲン架橋体の作製条件が適していることが分かった。一方、5日以上の長期にわたってゲルが維持される必要がある場合には、No.4−21やNo.4−23が適当であることが分かった。
【0140】
【表12】

【0141】
例10−2
アルギン酸組成比(0.23、0.11、0.05重量%)の異なるアルギン酸アテロコラーゲン架橋体を用いて例10と同様の動物埋植実験を行った。
【0142】
例4−2で作製したアルギン酸アテロコラーゲン架橋体(No.4−22,4−24,4−25)溶液(0.015mL)を、人工血管用ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製グラフトの断片(内径φ3mm,高さ2mm、W.L.ゴア&アソシエイツ社製、Gore−Tex Stretch Vascular Graft)に注入し、さらに0.05%塩化カルシウム溶液(0.015mL)を添加することでゲルを調製した。グラフトをWister系オスラット(8週齢、体重300−600g)腹部に皮下埋植し、5日後にグラフトおよびその周辺組織を摘出した。ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を施し、光学顕微鏡下で組織学的に観察した。
【0143】
結果
活性エステル化アルギン酸の濃度が低くなる(No.4−22:0.23%、No.4−24:0.11%、No.4−25:0.05%)につれて、ゲルがグラフトからの流出する傾向が見られた。これは、アルギン酸濃度の低下によって、十分に機械的な強度をもったゲルが得られず、埋植後に速やかに生体内の浸潤液によって分解・吸収されたためと考えられる。この結果から、埋植後5日程度後でもゲル状態が認められるゲルを作製するには、アルギン酸アテロコラーゲン架橋体の架橋度(またはアルギン酸の活性化度)にもよるが、0.2重量%以上のアルギン酸濃度で架橋体を作製することが適当であることが分かった。一方、埋植直後にゲル状態が維持されていればよい場合には、No.4−24やNo.4−25が適当であることが分かった。
【0144】
【表13】

【0145】
例11. 軟骨細胞含有アルギン酸コラーゲン架橋体カルシウム錯体ゲルを用いた動物埋植実験
室温で、スポンジ状ポリ乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)製スキャホールド(株式会社KRI、外注品)に、軟骨細胞(細胞数1600万)を含んだアテロコラーゲンの1%培養液を含ませ(図4Aの(1))、次いで37℃で1時間静置して、スキャホールドとともに細胞含有アテロコラーゲン1重量%培養液をゲル化した(図4Aの(2))。アテロコラーゲンは37℃で熱変性してゲル化する。細胞含有アテロコラーゲン1%培養液からスキャホールド(スポンジの間隙には細胞含有アテロコラーゲン1重量%培養液が浸み込んでいる)を取り出し(図4Aの(3))、bFGF(1mg/mL、科研製薬(株)社製、フィブラストスプレー500)を含むアルギン酸コラーゲン架橋体(No.5−3、HOSu活性化度13%)の0.7重量%PBS溶液(0.2mL)に浸漬した(図4Aの(4))。次いで、スキャホールドとbFGFを含むアルギン酸コラーゲン架橋体の0.7重量%PBS溶液を含む容器を、0.05重量%塩化カルシウム水溶液に浸漬する(図4Aの(5))ことでスキャホールド周囲に静電的相互作用によるゲル層を調製した(図4Aの(6)〜(8))。このように調製したスキャホールドは、その周囲をアルギン酸コラーゲンPS架橋体のゲルが覆い、スキャホールドの内部(間隙)には細胞と培養液を含んだアテロコラーゲンのゲルが存在する(アルギン酸コラーゲン架橋体カルシウム錯体ゲルを被覆したスキャホールド、図4B)。また、工程(1)〜(3)までにより、アルギン酸コラーゲン架橋体カルシウム錯体ゲルを被覆しないスキャホールドを調製した。これらをヌードマウス背部に皮下埋植し、2ヶ月後に摘出した。
【0146】
軟骨細胞(細胞数1600万)は、以下のように調製した(J. Biol. Chem., 282, 28, (2007) 20407-20415)。耳介軟骨は、小耳症患者からヘルシンキ条約に順守して、外科的に入手した。ヒト軟骨細胞は、耳介軟骨から0.15重量%コラゲナーゼ(和光純薬製)で酵素処理によって単離した。軟骨細胞は、6,400cell/cmの密度で、φ100mmのプラスチック製組織培養皿中に播種し、軟骨細胞増殖培地(富士ソフト社製)で培養した。継代は、トリプシンEDTA溶液(シグマ社製)で行い、細胞数が、最初の細胞数の1000倍に増加するまで繰り返した。
【0147】
脱分化した軟骨細胞は、10個のcell/mlの密度で、0.8重量%のアテロコラーゲン溶液(川研ファインケミカル製)に懸濁した。動物実験は、東京大学の委員会(Animal Care and Use Committee)によって承認されたプロトコルによって行なった。
【0148】
結果
細胞とアテロコラーゲンを含んだスキャホールドをヌードマウスに2ヶ月移植した場合、スキャホールドの周囲に僅かな血管網が形成された(図4Cの左側)。これに対して、細胞とアテロコラーゲンを含んだスキャホールド周囲にアルギン酸コラーゲンPS架橋体カルシウム錯体ゲルを被覆してヌードマウスに2ヶ月移植した場合、スキャホールドの周囲に豊富な血管網が形成された(図4Cの右側)。この結果から、スキャホールドをアルギン酸コラーゲンPS架橋体カルシウム錯体ゲルで被覆することで、移植した周辺の組織からスキャホールド周囲へと血管網を効果的に誘導できることが分かった。
【0149】
また、ゲルで被覆されたスキャホールドにおいては、スキャホールド内部の軟骨細胞によりスキャホールドの形状を反映した形態で、軟骨の再生が認められたが、被覆されていないスキャホールドにおいては、移植中にスキャホールドが崩壊した。また、再生された軟骨内部は、部分的にスキャホールドが残っているが、そのほとんどが軟骨細胞で占められていた(図4D)。
【0150】
例12
アルギン酸アテロコラーゲン架橋体を用いて例11と同様の動物埋植実験を行った。
スポンジ状ポリ乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)製スキャホールドに、軟骨細胞(細胞数1600万)を含んだ1重量%アテロコラーゲン(高研社製、コーケンアテロコラーゲンインプラント)を含浸させ、次にこのスキャホールドを、bFGFを含むアルギン酸アテロコラーゲン架橋体(例4(No.4−22または23)で作製)溶液(0.2mL)に浸漬した。さらに、No.4−22で作製した架橋体の場合、スキャホールドとbFGFを含むアルギン酸アテロコラーゲン架橋体の0.7重量%PBS溶液を含む容器を、0.05重量%塩化カルシウム溶液に浸漬することでスキャホールド周囲に静電的相互作用によるゲル層を調製した。No.4−23で作製した架橋体の場合、4℃においてゲル化させ、0.05重量%塩化カルシウム溶液に浸漬することでスキャホールド周囲に静電的相互作用によるゲル層を調製した。これらをヌードマウス背部に皮下埋植し、5日後に摘出した。
【0151】
結果
アルギン酸コラーゲン架橋体カルシウム錯体ゲルの場合と同様に、ゲルで被覆されたスキャホールドにおいては、スキャホールドの周囲に豊富な血管網の形成が認められた。この結果から、スキャホールドをゲルで被覆することで、少なくとも5日間で移植した周辺の組織からスキャホールド周囲へと血管網を効果的に誘導できることが分かった。
【0152】
例13. ゲルの保水力
実験方法
ペプシン消化コラーゲン(日本ハム、NMPコラーゲンPS、豚皮由来)50mgを40℃で蒸留水5mLに溶解(1wt%)した。アルギン酸ナトリウム(和光純薬、粘度:500−600mPaS(10g/L,20℃))40mgを24℃で蒸留水5mLに溶解(0.8wt%)した。この溶液1mLに蒸留水1mLを添加し、0.4重量%アルギン酸水溶液とした。また、アルギン酸0.8重量%溶液1mLに1重量%コラーゲン水溶液1mLを添加し、アルギン酸/コラーゲン混合溶液を調製した。例5のNo5−2のアルギン酸コラーゲン架橋体9mgを25℃で蒸留水1mLに溶解し、アルギン酸コラーゲン架橋体溶液を調製した。
【0153】
0.4重量%アルギン酸水溶液、アルギン酸/コラーゲン混合溶液、アルギン酸コラーゲン架橋体溶液を、それぞれ0.05mLずつポリスチレン秤量皿上に滴下し、さらに、塩化カルシウム水溶液(0.1wt%)を0.05mL添加し、ガラス棒(φ0.5mm)にて素早く攪拌した。ゲルの形成に伴って排出される水を除去しながら、経時的に秤量した(図2)。30分後にゲルをスライドガラス上に乗せデジタルカメラにて撮影した(図1)。
【0154】
図2に示すように、アルギン酸コラーゲン架橋体ゲルの方が、アルギン酸ゲル、コラーゲン/アルギン酸混合ゲルと比較して、保水力の高いことがわかる。
【0155】
また、アルギン酸のみでは、透明ゲルが得られ、コラーゲン/アルギン酸混合では、経時的に白濁したゲルが得られ、アルギン酸コラーゲン架橋体では、混合した場合と比較して白濁の減少が認められた(図1)。
【0156】
例14. ポリカチオンとしてのキトサン
脱アセチル化キトサンまたはカチオン化キトサンとアルギン酸(1重量%)によるアルギン酸/ゼラチン混合溶液のゲル化
実験方法
脱アセチル化キトサン(ダイキトサン100D、大日精化工業製)20mgを24℃で1N塩酸(1mL)に溶解したのち、1N水酸化ナトリウムでpH6に合わせ、蒸留水にて全量を2mLとして脱アセチル化キトサン溶液(1重量%)を調製した。また、カチオン化キトサン(カチオニックキトサン、大日精化工業製)及びアルギン酸ナトリウム(和光純薬、粘度:500−600mPaS(10g/L,20℃))を20mgずつ24℃で蒸留水2mLに溶解してカチオン化キトサン水溶液(1重量%)とアルギン酸水溶液(1重量%)を調製した。ゼラチン(077−03155;和光純薬工業(株)社製:1級、ウシ皮膚由来)200mg及び400mgを40℃で蒸留水2mLに溶解し、ゼラチン溶液(10重量%及び20重量%)を調製した。
【0157】
脱アセチル化キトサン、カチオン化キトサン、及びアルギン酸の0.5%水溶液は、各1%水溶液(0.5mL)に蒸留水を0.5mL添加して調製した。また、脱アセチル化キトサン、カチオン化キトサンまたはアルギン酸の1%水溶液(0.5mL)に10%または20%ゼラチン水溶液を0.5mL添加して、ゼラチンを含むポリカチオン溶液またはポリアニオン溶液を調製した。
【0158】
ゲル化の確認は、ポリアニオン溶液(アルギン酸およびそのゼラチン混合溶液)0.05mLをスライドガラス上に滴下し、更にポリカチオン溶液(脱アセチル化キトサン、カチオン化キトサン、及びこれらのゼラチン混合溶液)0.05mLを添加して、素早くガラス棒にて攪拌・混合して行った。
【0159】
【表14】

【0160】
【表15】

【0161】
【表16】

【0162】
【表17】

【0163】
結果
カチオン化キトサン溶液をアルギン酸溶液に添加すると、速やかに白色凝集体が析出した(表14、13−11〜14)。カチオン化キトサン濃度が0.5重量%の場合、添加初期に凝集体が析出するが再溶解し、無色透明の溶液となった(13−12)。カチオン化キトサン(0.5重量%)/ゼラチン(5重量%)混合溶液を、アルギン酸溶液に添加した場合、アルギン酸濃度0.5重量%では増粘し(13−13)、1重量%ではゲル化した(13−14)。含有するゼラチン濃度を上げて、カチオン化キトサン(0.5重量%)/ゼラチン(10重量%)混合溶液をアルギン酸溶液に添加すると、アルギン酸濃度が0.5重量%の場合でもゲル化した(13−13)。ゼラチン溶液(10重量%)のみをアルギン酸溶液に添加してもゲル化しなかった(表14、13−15)。
【0164】
カチオン化キトサン溶液をアルギン酸/ゼラチン混合溶液に添加するとゲル化した(表15、13−21〜24)。カチオン化キトサン/ゼラチン混合溶液をアルギン酸/ゼラチン混合溶液に添加した場合、凝集体の形成が抑制される傾向がみられた(13−23、24)。
【0165】
脱アセチル化キトサン溶液をアルギン酸溶液に添加すると、凝集体が析出し、一部にゲル化がみられた(13−31、32)。脱アセチル化キトサン(0.5重量%)/ゼラチン(10重量%)混合溶液をアルギン酸溶液に添加した場合、アルギン酸濃度0.5重量%では凝集体が析出せず増粘し、アルギン酸濃度1重量%では均一なゲルが得られた(表16、13−34)。
【0166】
脱アセチル化キトサン(0.5重量%)/ゼラチン(5、10重量%)混合溶液をアルギン酸(0.5重量%)/ゼラチン(10重量%)混合溶液に添加した場合、均一なゲルが得られた(表17、13−43〜44)。
【0167】
これらの結果は、アルギン酸溶液にカチオン化キトサン及び脱アセチル化キトサンを添加すると凝集体が形成されるが、ゼラチン5%以上混合することにより凝集体の形成が抑制され、調製条件によっては均一なゲルを得られることを示唆する。これは、アルギン酸とポリカチオン(カチオン化キトサンやダイキトサン)との多点的な相互作用による安定なコンプレックス形成が、過剰に存在するゼラチン分子鎖によって、立体的に阻害されたためと考えられる。
【0168】
よって、アルギン酸ゼラチン架橋体のイオン錯体形成(ゲル化)のために、カチオン化キトサン及び脱アセチル化キトサンを使用できる。また、アルギン酸コラ−ゲン架橋体のイオン錯体形成(ゲル化)のためにカチオン化キトサン及び脱アセチル化キトサンを使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明によれば、生体内での組織再生のための足場材料を提供することができる。また、本発明は、生体外での組織の作製のための足場材料として使用することもできる。生体外での組織作製においては、単一な組織への適用に留まらず、より高次な複合組織の作製にも適用できる可能性がある。つまり、各種材料組織ユニットを集積するための基幹材料として用いることで、より高次な構造体を作製することも可能である。そして、作製した高次構造体を生体に移植することで、これまで達成されえなかった大型組織の再生も期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖のカルボキシル基と側鎖にアミノ基を有するポリペプチドのアミノ基が共有結合している、多糖とポリペプチドからなる架橋体。
【請求項2】
請求項1記載の架橋体とカチオンとからなるゲル。
【請求項3】
さらに、生理活性物質および/または細胞を含む、請求項2記載のゲル。
【請求項4】
請求項1記載の架橋体、請求項2または3記載のゲルを含む組成物。
【請求項5】
カルボキシル基を有する多糖、側鎖にアミノ基を有するアミノ酸を含むポリペプチド及び架橋剤を一緒する工程を含む、請求項1記載の架橋体の製造方法。
【請求項6】
カルボキシル基を有する多糖、架橋剤及び助剤を一緒して、活性化多糖を得る工程、および
前記活性化多糖と側鎖にアミノ基を有するアミノ酸を含むポリペプチドを一緒する工程、
を含む、請求項1記載の架橋体の製造方法。
【請求項7】
請求項1記載の架橋体または請求項5若しくは6記載の製造方法で得られた架橋体とカチオンを一緒する工程を含む、請求項2記載のゲルの製造方法。
【請求項8】
請求項1記載の架橋体または請求項5若しくは6記載の製造方法で得られた架橋体と生理活性物質および/または細胞、さらにカチオンを一緒する工程を含む、請求項3記載のゲルの製造方法。

【図6A】
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【図6B】
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【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−160817(P2011−160817A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23001(P2010−23001)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、三次元複合臓器構造体委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】