説明

移植材とその製造方法

【課題】移植時に接着効果のあるサイトカインを維持し、治療効果を高める。
【解決手段】脂肪組織から脂肪由来細胞を分離する分離ステップS1と、該分離ステップS1において分離された脂肪由来細胞を培養容器に播種して培地交換を行いながら培養し、コンフルエントになったときに継代することを繰り返す継代培養ステップS2と、該継代培養ステップS2において得られた培養細胞と、脂肪組織から分離された脂肪由来細胞とを混合する混合ステップS3とを備える移植材の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移植材とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒトから採取した脂肪組織を洗浄し、消化酵素液とともに攪拌することにより脂肪組織から脂肪由来細胞を単離させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この技術において得られた脂肪由来細胞は、例えば、種々の生体組織への分化能を有するので、継代培養することにより増殖させ、移植材として利用することができる。
これは、脂肪由来細胞には脂肪由来幹細胞や血管内皮細胞、リンパ球などが含まれるが、継代培養することで、接着細胞である脂肪由来幹細胞を選択的に培養、増殖させることができ、幹細胞の持つ特徴を強く示すようになるからである。
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/012480A2号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、発明者らは、脂肪由来細胞を継代培養することにより、移植時の細胞保護効果があるサイトカインの分泌量が低下していくことを発見した。
このため、従来のように、継代培養することにより増殖させた移植材では、移植時における細胞保護効果が低下し、治療効果を高めることができないという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、移植時に細胞保護効果のあるサイトカインを維持し、治療効果を高めることができる移植材とその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、脂肪組織から分離した脂肪由来細胞と、該脂肪由来細胞を継代培養することにより得られた培養細胞とを混合してなる移植材を提供する。
本発明によれば、脂肪組織から分離しただけの脂肪由来細胞と、脂肪組織を継代培養して得られた培養細胞とを含むので、継代培養により失われるサイトカインを維持することができ、また、継代培養により産生されるサイトカインをも含むことができる。
【0007】
すなわち、発明者らは、研究の結果、脂肪組織から分離した脂肪由来細胞が産生するサイトカインであるIGF−1(インスリン様成長因子)に細胞保護や増殖作用があるが、このサイトカインが継代培養によって徐々に失われていくことを発見した。また、発明者らは、脂肪組織由来細胞の継代培養によって、血管新生を促すサイトカインであるVEGF(血管内皮細胞増殖因子)が増加することも発見した。
【0008】
したがって、本発明によれば、IGF−1を含むことにより、移植細胞の保護や増殖、移植周辺組織の再生を促し、かつ、継代培養により産生されるVEGFによって血管新生を促進して脂肪由来細胞や移植周辺組織の増殖効果を高めることができる。その結果、移植部位において組織の再生を促進し、移植部位の治療効果を高めることができる。
【0009】
上記発明においては、前記培養細胞が、脂肪由来細胞を培養容器に播種して培地交換を行いながら培養し、コンフルエントになったときに継代することを1〜5回繰り返して得られることとしてもよい。
継代培養により産生されるVEGFは6回以上の継代によって著しく少なくなることがわかった。そこで、継代回数を5回以下に限定することで、血管新生に有用なVEGFを十分に含む移植材を提供することができる。
【0010】
また、本発明は、脂肪組織から脂肪由来細胞を分離する分離ステップと、該分離ステップにおいて分離された脂肪由来細胞を培養容器に播種して培地交換を行いながら培養し、コンフルエントになったときに継代することを繰り返す継代培養ステップと、該継代培養ステップにおいて得られた培養細胞と、脂肪組織から分離された脂肪由来細胞とを混合する混合ステップとを備える移植材の製造方法を提供する。
上記発明においては、前記継代培養ステップが、培養と継代とを1〜5回繰り返して行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、移植時に細胞保護効果のあるサイトカインを維持し、治療効果を高めることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る移植材とその製造方法について、図1〜図3を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る移植材は、脂肪組織から分離した脂肪由来幹細胞や血管内皮細胞、リンパ球などを含んだ脂肪由来細胞と、該脂肪由来細胞を継代培養することにより得られた培養細胞とを混合して構成されている。
【0013】
さらに具体的には、本実施形態に係る移植材は、図1に示されるように、以下の製造方法により製造される。
すなわち、ヒトや哺乳動物から採取した脂肪組織を消化酵素液とともに攪拌することにより脂肪由来細胞を単離させ(分離ステップS1)と、単離された脂肪由来細胞を継代培養し(継代培養ステップS2)、得られた培養細胞と、新たに採取した脂肪組織を消化酵素液とともに攪拌することにより得られた培養されていない脂肪由来細胞とを混合する(混合ステップS3)により製造される。
【0014】
継代培養ステップS2は、分離ステップにおいて単離された脂肪由来細胞を培養容器に播種して培地交換を行いながら培養し、コンフルエントあるいはサブコンフルエントになったときに継代することを1〜5回繰り返して行うことにより実施される。
この製造方法により製造された移植材は、上述したように、継代培養された脂肪由来細胞と、脂肪組織から単離されただけの培養されていない脂肪由来細胞とを含んでいる。
【0015】
発明者らは、以下の実験を行った結果、脂肪組織から分離した脂肪由来細胞に含まれるサイトカインであるIGF−1(インスリン様成長因子)が継代培養によって徐々に失われていくことを発見した。また、発明者らは、脂肪由来細胞の継代培養によって、血管新生を促すサイトカインであるVEGF(血管内皮細胞増殖因子)が増加することも発見した。
【0016】
(実験条件)
使用細胞:皮下脂肪組織由来細胞
培養培地:D−MEM(F−12)培地+10%ウシ胎仔血清
測定試薬:Human
IGF−1 ELISA 測定キット(R&D社製)
Human
VEGF−C ELISA 測定キット(R&D社製)
【0017】
(実験方法)
(1) 皮下脂肪組織からコラゲナーゼ処理で脂肪由来細胞を回収し、培養培地に懸濁して培養容器に播種した。
(2) 一晩静置した後、培養上清を回収し、−30℃で凍結保存した。
(3) 3〜4日ごとに培地交換しながら培養を継続した。
(4) サブコンフルエントになったところで培養上清を回収して凍結保存し、細胞をトリプシン処理により培養容器から剥離させて回収し、新たな培養容器に5000〜7000cells/cmの播種密度で回収された脂肪由来細胞を播種することにより継代した。
(5) (3)および(4)を繰り返して、脂肪由来細胞の継代培養を行い、継代回数6回までの培養上清を回収した。
(6) 凍結保存していた培養上清を融解し、測定試薬を用いてサイトカインの測定を行った。
【0018】
実験の結果を図2および図3に示す。
図2は、継代時に得られた培養上清に含まれるIGF−1の量の変化、図3は、VEGFの量の変化をそれぞれ示している。
【0019】
図2によれば、IGF−1は細胞の培養開始後、継代の回数を追うに従って分泌量が減少していることが示されており、培養前の状態、すなわち、脂肪組織から単離しただけの状態において、特に多く含まれていることが示されている。
【0020】
また、図3によれば、VEGFは細胞の培養開始時には全く含まれておらず、培養開始後、継代の回数を追うに従って分泌量が増加し、継代回数3回の時点で分泌量が最も増加していることが示されている。また、この図3によれば、継代回数5回の時点でVEGFの分泌量が急激に減少していることが示されている。したがって、継代回数1〜5回の範囲の脂肪由来細胞であれば、多くのVEGFを分泌しているものとなる。
【0021】
したがって、脂肪組織から単離しただけの脂肪由来細胞と、単離後、1〜5回の継代培養を繰り返した脂肪由来細胞とを混合してなる本実施形態に係る移植材は、IGF−1およびVEGFを多く含んでいるので、以下の効果を奏する。
【0022】
すなわち、IGF−1は、活性酸素障害の軽減、外傷性運動神経細胞死の抑制、細胞成長(特に神経細胞)、細胞のエネルギ代謝を亢進させ細胞自体の成長を促進するなど、様々な細胞保護作用を有する。さらに、細胞の増殖、生存、分化に関与することから、心筋再生治療の際に効果をもたらす可能性がある。すなわち、本実施形態に係る移植材を虚血性心筋症モデルに投与することで、虚血により心筋細胞のアポトーシスが抑制され、残存心筋の肥大促進や血管新生促進効果により高い心筋保護作用を得ることができる。
【0023】
また、VEGFは、血管内皮細胞表面にある血管内皮細胞増殖因子受容体に結合し、細胞分裂や遊走・分化の刺激または微小血管の血管透過性を亢進させたりする作用があり、IGF−1と同様に、心筋再生治療に効果を及ぼす可能性のある液性因子の1つである。
したがって、本実施形態に係る移植材によれば、これらIGF−1およびVEGFの効果を併せ持ち、移植部位を迅速に治療することができるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る移植材の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】脂肪由来細胞の継代に従うIGF−1の分泌量の変化を示すグラフである。
【図3】脂肪由来細胞の継代に従うVEGFの分泌量の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0025】
S1 分離ステップ
S2 継代培養ステップ
S3 混合ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪組織から分離した脂肪由来細胞と、
該脂肪由来細胞を継代培養することにより得られた培養細胞とを混合してなる移植材。
【請求項2】
前記培養細胞が、脂肪由来細胞を培養容器に播種して培地交換を行いながら培養し、コンフルエントになったときに継代することを1〜5回繰り返して得られる請求項1に記載の移植材。
【請求項3】
脂肪組織から脂肪由来細胞を分離する分離ステップと、
該分離ステップにおいて分離された脂肪由来細胞を培養容器に播種して培地交換を行いながら培養し、コンフルエントになったときに継代することを繰り返す継代培養ステップと、
該継代培養ステップにおいて得られた培養細胞と、脂肪組織から分離された脂肪由来細胞とを混合する混合ステップとを備える移植材の製造方法。
【請求項4】
前記継代培養ステップが、培養と継代とを1〜5回繰り返して行う請求項3に記載の移植材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−160074(P2009−160074A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340178(P2007−340178)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】