説明

移植機の苗植付装置

【課題】 農作物の移植栽培で、長ネギの裸苗のように比較的細長い苗の苗植付装置に関し、太くて長い苗を深く植え付けてもでも開溝器の中に上から土が入らず、植付深さを調節しても開溝器の中に上から土が入らない移植機の苗植付装置提供する。
【解決手段】 一対の鎮圧輪15の外周は薄い円筒状のリム15aとし、開溝器13の両側板の後端部上方に補助板19を設け、補助板19にはその後端から鎮圧輪15のリム15aの形状に合わせた細幅の切溝を設け、鎮圧輪15のリム15aの一部は補助板19の切溝を通って開溝器13の内側に入り込み、鎮圧輪15の上下調節により補助板19がその切溝に入り込んだリム15aにより移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物の移植栽培で、長ネギの裸苗のように比較的細長い苗の苗植付装置に関する。
【背景技術】
【0002】
育苗後に苗床から取り出して、根を洗って土を落として束ねた、裸苗のような苗を本圃に移植する移植機は、作業者が一対の弾性円盤の間に直接苗を一本毎に手で供給する移植機として古くから知られている。
【0003】
この種の移植機の苗植付装置は、一対の弾性円盤と開溝器と一対の鎮圧輪によるものである。開溝器とは、前端が閉じ後広がりの一対の側板により、圃面に植付溝を開溝する。一対の鎮圧輪とは、弾性円盤の外側の圃面上に位置し、上方と前方が互いに離れるよう傾斜し、開溝器により開溝した植付溝を閉じるように覆土する。また、鎮圧輪の回転動力で、一対の弾性円盤などを回転させる動力を得るものが知られている。
【0004】
開溝器の一対の側板に対して、その外側に補助板を設けたものも知られている。
【0005】
例えば、実公昭52−6597号公報に示されるように、進行方向と反対方向に拡開した1対の側板よりなる溝切器と、前記溝切器の側方に、前記側板との間に土通過通路を形成する隙間を存して前記側板に対向するよう立設された補助板とをそなえたものである。
【0006】
この植付溝切装置では、盛上ったうね上に溝を切ってもうねがくずれぬように、溝切器の左右に、溝切器で押し分けられた土がうねの肩まで行かぬような補助板をつけているので、押し分けられた土は補助板によってそれから外へ出てゆくことを強制的にとどめられ、うねの肩から落下することが防がれ、もって、うねの崩れるのを防止する、とされている。
【0007】
また、開溝器の一対の側板に対して、孔を開けたものも知られている。
【0008】
例えば、実公平4−13922号公報に示されるように、前端部が閉じた後拡がり状に配置された左右一対の側板を有する作溝器を備え、該作溝器で形成した溝内に、肥料、薬剤等の散布物を散布する散布口と苗の植付けや播種をする作業部を前記作溝器内の前後に配置した作業機において、前記側板の立面部に、外側方から溝内に土を導入する土導入口を形成し、該土導入口の直後に前記散布口を配置するとともに該散布口の後方に前記作業部を配置したものである。
【0009】
この作溝装置では、溝内に散布された散布物は土と混合せしめられているので、移植された苗の根部や播種された種子に多量の肥料や薬剤等の散布物が直接接触したりすることはなく、苗や種子等に肥料やけや薬害等が生じたりする惧れはない、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実公昭52−6597号公報
【特許文献2】実公平4−13922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のような従来の移植機では、苗を5cm程度の植付深さに植えていた。
【0012】
長ネギの栽培では一斉に収穫するのではなく、出荷期間を長くするため、時期をおいて移植することが行なわれる。
【0013】
長ネギの裸苗の場合、育苗期間に余裕があり、一斉に播種して育苗し、最初は細くて短い苗を移植し、最後には太くて長い苗(50cm程度の長さ)を植える場合がある。太くて長い苗の場合は重量も重くなり、上記の5cm程度の植付深さでは植え付けた後に苗が倒れてしまうおそれがある。
【0014】
そこで、太くて長い苗を10から15cm程度の植付深さで植え付けて、植付けた後に苗が倒れないようにすることが考えられる。
【0015】
しかし、単純に植付深さを深くすると、開溝器の後方上部と一対の鎮圧輪の下端前方が干渉する。
【0016】
開溝器と鎮圧輪が干渉する理由は、開溝器の下部の幅は苗が通過するだけの幅であるが、その上部は一対の弾性円盤の押さえローラーを収容するため幅が広くなっている。さらに、長ネギ苗のように溝の中に植え付けるものでは、一対の鎮圧輪の上方の開き傾斜は溝の壁に干渉するので大きくできないためである。
【0017】
開溝器の鎮圧輪との干渉部分から上方を切り欠くと、苗を植え付ける前に開溝器の中に上から土が入り、植え付け不能となる。植付深さを深くすると、開溝器で分けられる土の量が増し、鎮圧輪の前の土の高さが高くなるためである。
【0018】
一方、植付深さを調節するには一対の弾性円盤と開溝器に対して鎮圧輪の相対位置を上下に調節して行なうが、植付深さが浅い状態に合わせて開溝器の干渉部分から上方を切り欠き、植付深さを深く調節すると鎮圧輪と開溝器の切り欠きとの間隔が開いてより開溝器の中に上から土が入る。
【0019】
そこで本発明は、太くて長い苗を深く植え付けてもでも開溝器の中に上から土が入らず、植付深さを調節しても開溝器の中に上から土が入らない移植機の苗植付装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
請求項1の発明の移植機の苗植付装置は、一対の鎮圧輪15の外周は薄い円筒状のリム15aとし、開溝器13の両側板にはその後端から鎮圧輪15のリム15aの形状に合わせた細幅の切溝19aを設け、鎮圧輪15のリム15aの一部は開溝器13の切溝19aを通って開溝器13の内側に入り込むものである。
【0021】
請求項2の発明の移植機の苗植付装置は、一対の鎮圧輪15の外周は薄い円筒状のリム15aとし、開溝器13の両側板の後端部上方に補助板19を設け、補助板19にはその後端から鎮圧輪15のリム15aの形状に合わせた細幅の切溝19aを設け、鎮圧輪15のリム15aの一部は補助板19の切溝19aを通って開溝器13の内側に入り込み、鎮圧輪15の上下調節により補助板19がその切溝19aに入り込んだリム15aにより移動するものである。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の発明によれば、一対の鎮圧輪15の外周は薄い円筒状のリム15aとし、開溝器13の両側板にはその後端から鎮圧輪15のリム15aの形状に合わせた細幅の切溝19aを設け、鎮圧輪15のリム15aの一部は開溝器13の切溝19aを通って開溝器13の内側に入り込むから、鎮圧輪15のリム15aより内側にも開溝器13の両側板が在ることになり、開溝器13の中に上から土が入ることがなく、植付深さが深くても正常に植え付けられる。
【0023】
請求項2の発明によれば、一対の鎮圧輪15の外周は薄い円筒状のリム15aとし、開溝器13の両側板の後端部上方に補助板19を設け、補助板19にはその後端から鎮圧輪15のリム15aの形状に合わせた細幅の切溝19aを設け、鎮圧輪15のリム15aの一部は補助板19の切溝19aを通って開溝器13の内側に入り込み、鎮圧輪15の上下調節により補助板19がその切溝19aに入り込んだリム15aにより移動するから、鎮圧輪15のリム15aより内側にも補助板19が在ることになり、植付深さを調節しても開溝器13の中に上から土が入ることがなく、植付深さが深くても正常に植え付けられる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は移植機の苗植付装置を示す正面図である。
【図2】図2は図1の側面図である。
【図3】図3は図1の平面図である。
【図4】図4は図2の要部を示す部分拡大図である。
【図5】図5は図4の植付深さの深い状態を示す図である。
【図6】図6は図4の要部を示す部分拡大図である。
【図7】図7は図6の平面図である。
【図8】図8は図4の要部を示す部分拡大図である。
【図9】図9は図5の要部を示す部分拡大図である。
【図10】図10は図7の要部を示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
太くて長い苗を深く植え付けてもでも開溝器の中に上から土が入らない移植機の苗植付装置10を提供する目的を、一対の鎮圧輪15の外周は薄い円筒状のリム15aとし、開溝器13の両側板にはその後端から鎮圧輪15のリム15aの形状に合わせた細幅の切溝19aを設け、鎮圧輪15のリム15aの一部は開溝器13の切溝19aを通って開溝器13の内側に入り込むことで実現した。
【0026】
また、植付深さを調節しても開溝器の中に上から土が入らない移植機の苗植付装置10を提供する目的を、一対の鎮圧輪15の外周は薄い円筒状のリム15aとし、開溝器13の両側板の後端部上方に補助板19を設け、補助板19にはその後端から鎮圧輪15のリム15aの形状に合わせた細幅の切溝19aを設け、鎮圧輪15のリム15aの一部は補助板19の切溝19aを通って開溝器13の内側に入り込み、鎮圧輪15の上下調節により補助板19がその切溝19aに入り込んだリム15aにより移動することで実現した。
【実施例1】
【0027】
図1から図10は、本発明の実施例に係る移植機の苗植付装置10である。
【0028】
本実施例に使用する苗Pは、育苗後に苗床から取り出して、根を洗って土を落として束ねた、長ネギの裸苗のように比較的細長い苗Pである。
【0029】
その苗Pが50cm程度の長い苗Pでも本圃に植え付けられる移植機の苗植付装置10に関する。
【0030】
移植機にはその機枠1と、機枠1の前方上方に作業者が着座する座席2と背もたれ3を設ける。機枠1の前方にトラクターを取り付け、トラクターの進行により牽引されて進行する。
【0031】
機枠1の下方から後方に苗植付装置10を設ける。実施例は2畦用の移植機を示しており、左右一対の苗植付装置10を有している。一対の苗植付装置10の間隔である畦間は95cmの状態を示している。
【0032】
苗植付装置10には前方から後方に長い植付部枠11を設け、植付部枠11の前端部はその後端が上下に回動するよう機枠1に取り付け、植付部枠11の前方下方に圃場を耕す溝切刃12と、その後方に植付溝を開溝する開溝器13とを設ける。
【0033】
植付部枠11内の中央部に一対の弾性円盤である植付円盤14を設ける。実施例では植付円盤14は薄い金属製で直径80cmであり、内面外周部にスポンジ体を貼着している。
【0034】
植付円盤14の前方から下方の外周部に一対の植付円盤14を掌合させる多数の押さえローラー31を設け、植付円盤14に水平に受け渡された苗Pを垂直として植え付ける。
【0035】
植付円盤14のやや後方下方に左右一対の鎮圧輪15を設ける。鎮圧輪15は圃面Eに接しており、移植機の進行により鎮圧輪15が回転する。開溝器13で開溝した植付溝に植付円盤14で苗Pが移送され、その苗Pに鎮圧輪15で土を寄せて定植する。
【0036】
一方、鎮圧輪15と植付円盤14の間に鎖と鎖車を設け、鎮圧輪15の回転動力を植付円盤14に伝える。このとき、移植機の進行速度と植付円盤14の周速をほぼ同一として、苗Pと圃場の相対速度差が無い状態として植え付ける。
【0037】
鎮圧輪15は植付部枠11に対して、植付深さ調整ハンドル16を回すことにより、上下に調節自在とされており、植付深さ調整ハンドル16を回すことにより植付部枠11の後端が上下動し、植付円盤14と開溝器13も上下動する。
【0038】
植付部枠11の後端部下方に左右一対の土寄円盤17を設け、土寄円盤17は植え付けられた苗Pに土を寄せる。
【0039】
左右の植付円盤14の上方の機枠1に苗台4を設け、苗台4にはこれから植え付ける苗Pを載せておく。
【0040】
苗台4の下部の機枠1から植付部枠11の後部上方の間に、垂下を規制しつつ機体の荷重を苗植付装置10に伝える圧縮バネ5を設ける。
【0041】
植付円盤14の前方で植付部枠11上に苗供給装置20を設ける。苗供給装置20は、そこから苗植付装置10の植付円盤14に向けて苗Pを倒置して水平方向から下向きに搬送する。
【0042】
苗供給装置20には箱状の苗供給部枠21を設け、苗供給部枠21から水平方向から下向きに回動する苗供給ベルト22を設ける。
【0043】
左右一対の鎮圧輪15の根元の植付部枠11から後方上方に鎮圧輪取付枠18を設け、鎮圧輪取付枠18と植付部枠11の間に螺子が刻まれた植付深さ調整ハンドル16が挿通し、植付深さ調整ハンドル16を回すことにより鎮圧輪取付枠18と植付部枠11の相対位置を調節可能としている。
【0044】
図4に示すのは、植付部枠11に対し鎮圧輪取付枠18が下降し、植付部枠11が上昇して鎮圧輪15が下降した浅植え状態を示す。図5に示すのは、植付部枠11に対し鎮圧輪取付枠18が上昇し、植付部枠11が下降して鎮圧輪15が上昇した深植え状態を示す。
【0045】
鎮圧輪取付枠18の下端部には略左右に突出する軸が設けられ、その軸に自由に回転するよう左右一対の鎮圧輪15がはめ込まれ固定される。一対の鎮圧輪15は、植付円盤14の外側の圃面E上に位置し、上方と前方が互いに離れるよう傾斜し、開溝器13により開溝した植付溝を閉じるように覆土する。
【0046】
左右一対の鎮圧輪15の外周は薄い円筒状のリム15aとする。実施例では、リム15aの外径が約64cm、幅が約7.5cm、厚さが約6mmとした。
【0047】
リム15aは複数本のスポーク15bに支持され、リム15aの外周の外方には多数の滑り止用の爪15cを設ける。
【0048】
開溝器13は、前端が閉じ後広がりの左右一対の側板により、圃面Eに植付溝を開溝する。開溝器13はその側面視で船のように前方下端が後ろ下がりに傾斜し、後端はほぼ垂直としている。開溝器13の後端部には、一対の鎮圧輪15の下端前方のリム15aが干渉する位置の側板に切欠き13aを設ける。
【0049】
開溝器13の両側板の後端部上方に左右一対の補助板19を設ける。補助板19は略矩形の薄板で、上方が前傾している。補助板19の上端部に略水平方向の長孔19bを設け、案内体30が長孔19bを通ることにより開溝器13の側板から少し離れた平行な位置に、前後方向の移動と回転移動を許容して固定される。
【0050】
補助板19には、その後端から前方上方へ鎮圧輪15のリム15aの略円弧形状に合わせた細幅の切溝19aを設ける。実施例では、リム15aの厚さが約6mmに対して切溝19aの幅を約12mmとしている。
【0051】
補助板19の切溝19a周囲の外方には厚板の補強板19cを固定する。補強板19cにも補助板19と同様に切溝19aを設ける。実施例では、補助板19の厚さを約1.6mm、補強板19cの厚さを約9mmとした。
【0052】
鎮圧輪15のリム15aの下端前方の一部は補助板19の切溝19aを通って開溝器13の内側に入り込む。植付深さ調整ハンドル16を回す鎮圧輪15の上下調節により、補助板19がその切溝19aに入り込んだリム15aにより略水平方向と下端が前後に回動して移動する。
【0053】
補助板19はその浅植え状態では前方に移動し、その後端が開溝器13の側板の後端とほぼ一致し、深植え状態では後方に移動して開溝器13の側板の後端から突出し回動して前傾する。
【0054】
補助板19の大きさは、補助板19が移動しても開溝器13の側板の切欠き13aをほぼ覆う大きさとする。
【0055】
これにより、鎮圧輪15のリム15aより内側にも左右一対の補助板19と開溝器13の両側板が在ることになり、植付深さを調節しても開溝器13の中に上から土が入ることがなく、植付深さが深くても正常に植え付けられる。
【0056】
以上の実施例では、鎮圧輪15の上下調節により補助板19が移動し補助板19に切溝19aを設けた例を示したが、鎮圧輪が移動しない場合には開溝器13の両側板に直接切溝を設けても良い。
【0057】
また、苗Pとして長ネギの裸苗の例を示したが、通常より深植えする作物の苗の場合であれば良い。
【0058】
また、苗植付装置10として一対の植付円盤14と押さえローラー31によるものを示したが、苗植付装置は他の方法でも良い。
【符号の説明】
【0059】
13 開溝器
15 鎮圧輪
15a リム
19 補助板
19a 切溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の鎮圧輪の外周は薄い円筒状のリムとし、開溝器の両側板にはその後端から鎮圧輪のリムの形状に合わせた細幅の切溝を設け、鎮圧輪のリムの一部は開溝器の切溝を通って開溝器の内側に入り込む移植機の苗植付装置。
【請求項2】
一対の鎮圧輪の外周は薄い円筒状のリムとし、開溝器の両側板の後端部上方に補助板を設け、補助板にはその後端から鎮圧輪のリムの形状に合わせた細幅の切溝を設け、鎮圧輪のリムの一部は補助板の切溝を通って開溝器の内側に入り込み、鎮圧輪の上下調節により補助板がその切溝に入り込んだリムにより移動する移植機の苗植付装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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