説明

移植機

【課題】苗供給装置が備えられる移植機のステップ上に肥料タンクを配置するにあたり、良好な乗降性を確保する。
【解決手段】左右両側部に補助ステップ17を有する走行機体1と、走行機体1の後部に設けられる植付作業機3と、機体前方から機体後部まで予備苗を搬送する予備苗供給コンベア7と、肥料を貯留する補助肥料タンク19とを備える乗用型田植機において、走行機体1の左右いずれか一方の側部に沿って予備苗供給コンベア7を配置すると共に、左右の補助ステップ17のうち、予備苗供給コンベア7が配置される側の補助ステップ17上に補助肥料タンク19を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機体前方から機体後部まで予備苗を搬送する苗供給装置や、肥料を貯留する肥料タンクが備えられた乗用型田植機などの移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用型田植機などの移植機の機体側部に設けられ、機体前方から機体後部まで予備苗(マット苗+苗箱)を搬送する予備苗供給コンベア(苗供給装置)が知られている。例えば、特許文献1に記載される予備苗供給コンベアは、左右枠の間に転動ローラを多数設けたローラコンベアからなり、畦際からコンベア前端部に供給される予備苗を連続的に機体後部まで搬送するようになっている。これにより、手渡しによる畔際から機体上への予備苗供給が不要になるだけでなく、機体上におけるオペレータの移動量も減らすことができる。
【0003】
また、近年では、施肥装置を備える移植機が増えてきている。例えば、特許文献2に記載される移植機には、浅層施肥用の肥料を貯留するフロント施肥タンク(主肥料タンク)と、深層施肥用の肥料を貯留するリヤ施肥タンク(補助肥料タンク)とが備えられており、各施肥タンクに貯留された2種類の肥料を圃場の異なる層に施肥するようになっている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−176680号公報
【特許文献2】特許第3372738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に示されるように、圃場の浅層と深層に異なる肥料を施肥する場合や、肥料のストック量を増量したい場合には、補助肥料タンクを別途備える必要がある。このとき、補助肥料タンクを走行機体の座席後方やステップ上に配置すると、補助肥料タンクが機体から大きくはみ出すことを回避し得るが、補助肥料タンクを座席後方に配置した場合には、植付作業機に対する苗補給に際して補助肥料タンクが邪魔になる惧れがあるだけでなく、肥料供給口が畦から遠くなり肥料補給の作業性が低下する可能性がある。
【0006】
一方、補助肥料タンクをステップ上に配置した場合には、補助肥料タンクによって機体への乗降が妨げられる可能性があるため、特許文献2のように、補助肥料タンクを変位させる機構が必要になるという問題がある。また、特許文献1のような苗供給装置を備える移植機では、ステップ上に補助肥料タンクを配置すると、機体への乗降に際して、補助肥料タンクの変位操作だけでなく、苗供給装置の変位操作も要求され、乗降性が大幅に低下する惧れがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、左右両側部にステップを有する走行機体と、走行機体の後部に設けられる植付作業機と、機体前方から機体後部まで予備苗を搬送する苗供給装置と、肥料を貯留する肥料タンクと、を備える移植機において、前記走行機体の左右いずれか一方の側部に沿って苗供給装置を配置すると共に、左右のステップのうち、苗供給装置が配置される側のステップ上に肥料タンクを配置したことを特徴とする。このようにすると、苗供給装置が備えられる移植機のステップ上に肥料タンクを配置するにあたり、走行機体の一方の側部に苗供給装置及び肥料タンクを集約し、走行機体の他方の側部には苗供給装置及び肥料タンクを配置しないようにしたので、走行機体の他方の側部から機体の乗降を容易に行うことができる。
また、前記苗供給装置に、上方に変位自在な上方変位部を備えると共に、肥料タンクの肥料供給口を、苗供給装置の上方変位部に臨ませたことを特徴とする。このようにすると、苗供給装置の下方近傍に肥料タンクを配置しても、苗供給装置の上方変位部を上方に変位させれば、肥料タンクに対する肥料供給を容易に行うことができる。
また、前記肥料タンクは、主肥料タンクとは別に補助的に設けられる補助肥料タンクであり、前方が主肥料タンク、下方がステップ、上方が苗供給装置で囲まれた空間内に配置されることを特徴とする。このようにすると、補助肥料タンクを機体側部の比較的低い位置に配置できるので、機体の重量バランスに悪影響を与え難いものとできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。図1〜図4において、1は乗用型田植機(移植機)の走行機体であって、該走行機体1の後部には、昇降リンク機構2を介して植付作業機3が連結されている。植付作業機3には、前高後低状に傾斜した苗載台4が設けられ、ここに複数のマット苗が左右並列状に載置される。苗載台4に載置されたマット苗は、苗載台4の傾斜や縦送り機構5の送り作用により苗載台4の下端部まで移送される。苗載台4の下端部近傍には、植付爪を備える植付機構6が設けられており、この植付機構6によってマット苗が分離され、圃場に植え付けられる。
【0009】
図1及び図2に示すように、走行機体1の側部には、機体前方から機体後部まで予備苗(苗箱に収容されたマット苗)を搬送する予備苗供給コンベア(苗供給装置)7が設けられている。本実施形態の予備苗供給コンベア7は、左右枠8と、左右枠8を一体的に連結する前後枠9と、左右枠8間に所定の隙間を存して複数並設される転動ローラ10とを備えるローラコンベアからなり、前高後低状に緩やかに傾斜する姿勢で機体側部に沿って配置されている。これにより、予備苗を畔際から供給する際、予備苗供給コンベア7の前端部に予備苗を順次載せるだけで、複数の予備苗を機体後部まで連続的に供給することが可能になる。
【0010】
また、本実施形態の予備苗供給コンベア7は、機体側部に立設されるステー11に対して固定状態で取り付けられる中間コンベア12と、中間コンベア12の前端部に上方変位自在(A支点の上下回動)に連結される前側コンベア(上方変位部)13と、中間コンベア12の後端部に上方変位自在(B支点の上下回動)に連結される後側コンベア(上方変位部)14とを備えて構成されており、予備苗非供給時には、前側コンベア13や後側コンベア14を上方に変位させて中間コンベア12上に折り畳むことができると共に、折り畳んだコンベア上やコンベア間にも、予備苗を載置できるようになっている。
【0011】
図1〜図4に示すように、走行機体1の上部には、主ステップ(フロアステップ部15a、立ち上がり部15b、リヤステップ部15c)を形成する機体カバー15が備えられている。機体カバー15の中央部には、座席16が取り付けられており、この座席16の前方及び側方前部を囲むようにフロアステップ部15aが形成され、また、フロアステップ部15aの左右両側部から後方に連続するように立ち上がり部15bが形成され、さらに、立ち上がり部15bに連続するようにリヤステップ部15cが形成されている。
【0012】
さらに、走行機体1の左右両側部には、主ステップを拡張する補助ステップ17が備えられている。図5及び図6に示すように、本実施形態の補助ステップ17は、機体カバー15のフロアステップ部15aを外側方に拡張するフロアステップ部17aと、機体カバー15の立ち上がり部15bを外側方に拡張する立ち上がり部17bと、機体カバー15のリヤステップ部15cを外側方に拡張するリヤステップ部17cとを備えている。
【0013】
本実施形態では、上記のような補助ステップ17を形成するにあたり、ステップ本体は金属製の枠体とし、足踏み部は樹脂製の足踏み板(すのこ板)17dとしている。具体的には、補助ステップ17のフロアステップ部17a及びリヤステップ部17cに形成される凹部17eに足踏み板17dを嵌め込み、ボルト17fで固定している。
【0014】
図1〜図4、図7、図8に示すように、走行機体1には、三つの肥料タンク18、19が備えられている。機体前部の左右両側部に設けられる二つの肥料タンク18は、浅層施肥用の肥料(例えば、速効性の液状肥料)を貯留する主肥料タンク18であり、機体後部の一側部に設けられる肥料タンク19は、深層施肥用の肥料(例えば、遅効性の液状肥料)を貯留するために補助的に設けられる補助肥料タンク19である。図7及び図8に示すように、主肥料タンク18に貯留される肥料は、パイプ20を介して施肥ポンプ21で吸引されると共に、ホース22を介して浅層用施肥ノズル23に供給され、ここから圃場の浅層に吐出される。また、補助肥料タンク19に貯留される肥料は、パイプ24を介して施肥ポンプ25で吸引されると共に、ホース26を介して深層用施肥ノズル27に供給され、ここから圃場の深層に吐出される。なお、18a、19aは肥料タンク18、19の上部に形成される肥料供給口(蓋)である。
【0015】
本発明の実施形態に係る乗用型田植機では、走行機体1に上記の補助肥料タンク19を配置するにあたり、走行機体1の左右いずれか一方の側部(本実施形態では左側部)に沿って予備苗供給コンベア7を配置すると共に、左右の補助ステップ17のうち、予備苗供給コンベア7が配置される側の補助ステップ17上に補助肥料タンク19を配置する構成とした。つまり、予備苗供給コンベア7が備えられる乗用型田植機の補助ステップ17上に補助肥料タンク19を配置するにあたり、走行機体1の一方の側部に予備苗供給コンベア7及び補助肥料タンク19を集約し、走行機体1の他方の側部には予備苗供給コンベア7及び補助肥料タンク19を配置しないようにしたので、走行機体1の他方の側部から機体の乗降を容易に行うことができる。
【0016】
また、予備苗供給コンベア7及び補助肥料タンク19を上記のように配置する場合には、補助肥料タンク19の肥料供給口19aを、予備苗供給コンベア7の後側コンベア14に臨ませることが好ましい。このようにすると、予備苗供給コンベア7の下方近傍に補助肥料タンク19を配置しても、予備苗供給コンベア7の後側コンベア14を上方に変位させれば、補助肥料タンク19に対する肥料供給を容易に行うことができる。
【0017】
また、予備苗供給コンベア7及び補助肥料タンク19を上記のように配置する場合、補助肥料タンク19は、前方が主肥料タンク18、下方が補助ステップ17、上方が予備苗供給コンベア7で囲まれた空間内に配置されることが好ましい。このようにすると、補助肥料タンク19を機体側部の比較的低い位置に配置できるので、機体の重量バランスに悪影響を与え難いものとできる。しかも、本実施形態では、補助肥料タンク19の下部前後幅を上部前後幅に比して小さくし、補助肥料タンク19の下部を補助ステップ17のリヤステップ部17cよりも下方に位置させているので、補助肥料タンク19の取付け高さをより低くできるという利点がある。
【0018】
補助肥料タンク19は、タンクステー28を介して補助ステップ17に取り付けられている。図9〜図11に示すように、本実施形態のタンクステー28は、補助肥料タンク19を保持するステー本体28aと、補助ステップ17に固定される前後一対の取付板28bとを備えて構成されている。取付板28bは、平面形状が足踏み板17dと略同一としてある。これにより、補助ステップ17のフロアステップ部17a及びリヤステップ部17cに形成される既存の凹部17eを利用し、ここに足踏み板17dに代えて取付板28bを固定することにより、タンクステー28の取り付けが可能になる。また、取付板28bには、パイプ挿通孔28cが形成されており、このパイプ挿通孔28cに前記パイプ24を挿通すれば、補助肥料タンク19を短距離で施肥ポンプ25に接続することができる。
【0019】
ところで、本実施形態では、図7に示すように、予備苗供給コンベア7や補助肥料タンク19が配置されない側の補助ステップ17の下方に燃料タンク29を配置している。このようにすると、予備苗供給コンベア7や補助肥料タンク19による機体バランスの偏りを可及的に相殺し、良好な走行性能を維持することができる。
【0020】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、左右両側部に補助ステップ17を有する走行機体1と、走行機体1の後部に設けられる植付作業機3と、機体前方から機体後部まで予備苗を搬送する予備苗供給コンベア7と、肥料を貯留する補助肥料タンク19とを備える乗用型田植機において、走行機体1の左右いずれか一方の側部に沿って予備苗供給コンベア7を配置すると共に、左右の補助ステップ17のうち、予備苗供給コンベア7が配置される側の補助ステップ17上に補助肥料タンク19を配置したので、予備苗供給コンベア7が備えられる乗用型田植機の補助ステップ17上に補助肥料タンク19を配置するにあたり、走行機体1の一方の側部に予備苗供給コンベア7び補助肥料タンク19を集約し、走行機体1の他方の側部には予備苗供給コンベア7及び補助肥料タンク19が配置されないことになり、その結果、走行機体1の他方の側部から機体の乗降を容易に行うことができる。
【0021】
また、予備苗供給コンベア7に、上方に変位自在な後側コンベア14を備えると共に、補助肥料タンク19の肥料供給口19aを、予備苗供給コンベア7の後側コンベア14に臨ませたので、予備苗供給コンベア7の下方近傍に補助肥料タンク19を配置しても、予備苗供給コンベア7の後側コンベア14を上方に変位させれば、補助肥料タンク19に対する肥料供給を容易に行うことができる。
【0022】
また、補助肥料タンク19は、前方が主肥料タンク18、下方が補助ステップ17、上方が予備苗供給コンベア7で囲まれた空間内に配置されるので、補助肥料タンク19を機体側部の比較的低い位置に配置し、機体の重量バランスに悪影響を与え難いものとできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】乗用型田植機の平面図である。
【図2】乗用型田植機の側面図である。
【図3】予備苗供給コンベアが外された状態を示す乗用型田植機の平面図である。
【図4】予備苗供給コンベアが外された状態を示す乗用型田植機の側面図である。
【図5】補助ステップの平面図である。
【図6】補助ステップの側面図である。
【図7】施肥装置の構成を示す乗用型田植機の平面図である。
【図8】施肥装置の構成を示す乗用型田植機の側面図である。
【図9】(A)はタンクステーの平面図、(B)はタンクステーの正面図、(C)はタンクステーの側面図である。
【図10】(A)はタンクステーに取付けられた補助肥料タンクの平面図、(B)はタンクステーに取付けられた補助肥料タンクの正面図、(C)はタンクステーに取付けられた補助肥料タンクの側面図である。
【図11】(A)はタンクステーが取付けられた補助ステップの平面図、(B)はタンクステーが取付けられた補助ステップの側面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 走行機体
3 植付作業機
7 予備苗供給コンベア
12 中間コンベア
13 前側コンベア
14 後側コンベア
15 機体カバー
16 座席
17 補助ステップ
18 主肥料タンク
19 補助肥料タンク
19a 肥料供給口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右両側部にステップを有する走行機体と、走行機体の後部に設けられる植付作業機と、機体前方から機体後部まで予備苗を搬送する苗供給装置と、肥料を貯留する肥料タンクと、を備える移植機において、
前記走行機体の左右いずれか一方の側部に沿って苗供給装置を配置すると共に、左右のステップのうち、苗供給装置が配置される側のステップ上に肥料タンクを配置したことを特徴とする移植機。
【請求項2】
前記苗供給装置に、上方に変位自在な上方変位部を備えると共に、肥料タンクの肥料供給口を、苗供給装置の上方変位部に臨ませたことを特徴とする請求項1記載の移植機。
【請求項3】
前記肥料タンクは、主肥料タンクとは別に補助的に設けられる補助肥料タンクであり、前方が主肥料タンク、下方がステップ、上方が苗供給装置で囲まれた空間内に配置されることを特徴とする請求項1又は2記載の移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−173029(P2008−173029A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−7641(P2007−7641)
【出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】