説明

移植機

【課題】予備苗移送台上を移送される予備苗に薬剤を散布する薬剤散布装置を備えた移植機のコスト低減を図ると共に、前記予備苗移送台から植付作業機の苗載台に予備苗を補給した後、空になった苗箱や苗スクレーパを走行機体の前方に効率よく送り返すことができるようにする。
【解決手段】走行機体4の左右一側に走行機体4の前方から後部に亘って予備苗Nを移送する予備苗移送台5を配設し、該予備苗移送台5には、前記予備苗Nに薬剤を散布する薬剤散布装置41を設ける一方、走行機体4の左右他側には、予備苗Nを蓄えると共に載台21に予備苗Nを補給した後の空になった苗箱Bを走行機体4の前方に送り返すことができるローラコンベアからなる予備苗載台7を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行機体の側部に走行機体の前方から後部に亘って予備苗を移送することができる予備苗移送台を設けた移植機に係り、詳しくは予備苗移送台上にて薬剤散布装置から予備苗に薬剤を散布することができる移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の乗用型移植機では、走行機体の前部にエンジンを覆うボンネットを備えており、このボンネットの左右両側方である走行機体の側方には、走行機体の後方に備える植付作業機の苗載台に予備苗を効率的に補給できるように、前高後低の傾斜姿勢からなるローラコンベア式の苗供給装置を配設すると共に、苗供給装置のローラコンベア上を滑動する予備苗に連動して駆動されるチェン伝動機構を備えた薬剤散布装置を当該苗供給装置に設けたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2008−5720号公報(第4−7頁、図1−図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上述した特許文献1の薬剤散布装置を備えた苗供給装置は、走行機体の左側方に配設されていると解されるが右側方については不明であり、仮に苗供給装置が走行機体の片側のみに配設されているのであれば予備苗を蓄えるための載置スペースが不足する。一方、走行機体の左右両側方に苗供給装置を配設して、各苗供給装置に対して一対の薬剤散布装置を設けるとコストが高くなる。
また、特許文献1の乗用型移植機は、苗供給装置から走行機体の後方に備える植付作業機の苗載台に予備苗を補給した後、空になった苗箱や苗スクレーパを走行機体の前方に送り返すための返送手段を備えておらず作業性の面でも改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、走行機体の後方に苗載台を有する植付作業機を昇降自在に連結すると共に、走行機体の左右一側に走行機体の前方から後部に亘って予備苗を移送する予備苗移送台を配設し、該予備苗移送台には、前記予備苗に薬剤を散布する薬剤散布装置を設ける一方、走行機体の左右他側には、予備苗を蓄える予備苗載台を設けたことを第1の特徴としている。
そして、前記予備苗載台が、予備苗を蓄えない場合は、苗載台に予備苗を補給した後の空になった苗箱を走行機体の前方に送り返すことができる移送台からなることを第2の特徴としている。
更に、前記予備苗載台が、走行機体の前方から後部に亘って予備苗を移送することができる移送台からなることを第3の特徴としている。
【発明の効果】
【0005】
請求項1の発明によれば、走行機体の左右一側(片側)に配設した走行機体の前方から後部に亘って予備苗を移送する予備苗移送台のみに、前記予備苗に薬剤を散布する薬剤散布装置を設けることによってコストの低減を図ることができると共に、当該薬剤散布装置により薬剤の散布を終えた予備苗は、走行機体の左右他側に設けた予備苗台に効率よく蓄えることができるので作業性が向上する。
そして、請求項2の発明によれば、前記予備苗載台が、予備苗を蓄えない場合は、苗載台に予備苗を補給した後の空になった苗箱を走行機体の前方に送り返すことができる移送台からなるので、上述の如く空になった苗箱や苗スクレーパを走行機体の前方に送り返すための特別な返送手段を設けなくて済む。
更に、請求項3の発明によれば、前記予備苗載台が、走行機体の前方から後部に亘って予備苗を移送することができる移送台からなるので、走行機体の左右両側で走行機体の前方から後部に亘って予備苗を移送することができ作業能率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1及び図2は、乗用移植機である乗用型田植機1の側面図と平面図であって、この乗用型田植機1は、左右一対の前輪2及び後輪3に支持された走行機体4を有し、その左右一側(本実施例では左側)には、走行機体4の前方から後部に亘って延設される折畳み式の予備苗移送台5を配設すると共に、他側(右側)には、上下に多段の予備苗台6を備える予備苗載台7を設けている。
【0007】
そして、走行機体4の前部には、ボンネット8で覆われるエンジンEを搭載すると共に、ボンネット8の後方には、ステアリングホイール11、運転操作パネル12、及び主変速レバー13等を備えた操縦部14と、この操縦部14の床面を形成するステップ15、座席16を支持する機体カバー17を設けている。尚、機体カバー17には、座席16後方の左右両側に、前記ステップ15より一段高い平坦な苗供給用ステップ17a,17aを形成している。
【0008】
また、走行機体4の後方には、昇降リンク機構18を介して植付作業機19を昇降自在に連結している。植付作業機19は、前高後低状に傾斜して設けた苗載台21と、該苗載台21から苗を掻取って植え付ける複数の植付杆22を備えた移植装置23と、この移植装置23の下方には、植付け田面を整地するフロート24等を設けているが、これらの基本的な構成は何れも従来通りであり詳細な説明を省略する。
【0009】
そして、ボンネット8の左右両側に形成されているフロントステップ25L,25Rのうち、左側のフロントステップ25Lの下方からは、走行機体4の外側方に延出させた2本の支柱26a,26bを立ち上げると共に、両支柱26a,26bの上部に前高後低状のステー28を形成することによって、このステー28の上部に折畳み式の予備苗移送台5を構成する固定移送台5aを螺設できるように構成している。
【0010】
更に固定移送台5aの前側と後側には、この固定移送台5aに対して回動可能な第1可動移送台5bと第2可動移送台5cとを連結してあり、予備苗移送台5は、図1及び図2(図3)に示すように、各移送台5a,5b,5cが側面視で前高後低の略一直線状に展開される展開姿勢状態と第1可動移送台5bと第2可動移送台5cとが固定移送台5aの上方に折畳まれる図示しない格納姿勢状態とに姿勢変更できるようになっている。
【0011】
尚、予備苗移送台5が展開姿勢状態にある時は、第1可動移送台5bは、ボンネット8より高い位置に展開して走行機体4の前端から大きく突出するので、圃場面からの段差が大きい畦際の道路や畦等から当該予備苗移送台5へ予備苗(マット苗)Nを補給する際の作業性がよい。また、第2可動移送台5cの終端は、苗供給用ステップ17a,17aの上方で且つ外側に位置するので、第2可動移送台5cから苗載せ台21への予備苗Nの供給がスムーズに行える。
【0012】
また、予備苗移送台5を構成する固定移送台5a、第1可動移送台5b、及び第2可動移送台5cは、軽量部材であるアルミ合金製の左右の外枠31,31、またはポリアミド(ナイロン)等の熱可塑性樹脂を用いて射出成形した左右の外枠の間に、所定の前後間隔で複数の転動ローラ32を取り付けたローラコンベアの形態を採用している。
【0013】
そして、圃場面からの段差が大きい畦際の道路や畦等から予備苗移送台5に予備苗Nを補給する際は、先ず走行機体4の前端から大きく突出する第1可動移送台5bを畦際に進入させ、しかる後に予備苗Nが育苗されている方形状の苗箱B、あるいは苗箱Bに育苗されている予備苗Nを苗スクレーパで掬い取った状態で、予備苗移送台5の複数の転動ローラ32上を機体後方に向けて滑動させることによって、当該予備苗Nを畦際から連続的に予備苗移送台5上に補給することができるようになっている。
【0014】
一方、予備苗移送台5を構成する固定移送台5aの前側には、予備苗(マット苗)Nを強制的に等速搬送する等速搬送装置38を備えた薬剤散布装置41を設けている。前記等速搬送装置37は、ベルトコンベアからなり、複数の搬送プーリ38,38,・・を有する前後一対のプーリ軸39,・と、前後の搬送プーリ38,・間に巻回される搬送ベルト40,40と、後側のプーリ軸39を回転駆動する電動モータ(ベルトコンベア駆動モータ)Mを備えており、予備苗Nが育苗されている方形状の苗箱B、あるいは苗箱Bに育苗されている予備苗Nを苗スクレーパで掬い取った状態で、移送上手側の第1可動移送台5bから固定移送台5aに受け継いで苗補給を行う時は、当該等速搬送装置38によって予備苗Nの搬送速度を一定に保つことができるので、予備苗Nの搬送速度の変化に起因する薬剤散布量のバラツキが抑制される。
【0015】
更に、予備苗移送台5を構成する固定移送台5a及び第2可動移送台5cには、予備苗Nの位置を検出する複数の苗検出スイッチS1,S2,S3,S4を設けている。これら苗検出スイッチS1,S2,S3,S4は、接触式の検知スイッチであり、第一苗検出スイッチS1は、等速搬送装置38の搬送始端位置における予備苗Nの存在を検出し、第二苗検出スイッチS2は、薬剤散布装置41による薬剤散布開始位置における予備苗Nの存在を検出すると共に、第三苗検出スイッチS3及び第四苗検出スイッチS4は、第2可動移送台5cの始端部と後端部における予備苗Nの存在を検出できるように配置している。
【0016】
そして、薬剤散布装置41の図示しない制御部には、薬剤散布モータ、メインスイッチ、薬剤散布量調節ダイヤル、電動モータ(ベルトコンベア駆動モータ)M、及び苗検出スイッチS1,S2,S3,S4等を接続してあり、当該制御部では、メインスイッチ、薬剤散布量調節ダイヤル、及び苗検出スイッチS1,S2,S3,S4の入力に基づいて、電動モータM及び薬剤散布モータの駆動制御を行ないながら予備苗Nに薬剤を散布することができるように構成してある。
【0017】
以上説明した構成によれば、走行機体4の左右一側(片側)に配設した走行機体4の前方から後部に亘って予備苗Nを移送する予備苗移送台5のみに、前記予備苗Nに薬剤を散布する薬剤散布装置41を設けることによってコストの低減を図ることができると共に、当該薬剤散布装置41により薬剤の散布を終えた予備苗Nは、走行機体4の左右他側に設けた予備苗載台7に効率よく蓄えることができるので作業性が向上する。
【0018】
また、走行機体4の右側に設けられている上下に多段の予備苗台6を備えた予備苗載台7(図2参照)を、図3に示す乗用型田植機1の平面図のように、走行機体4の左側に延設されている折畳み式の予備苗移送台5と同様な固定移送台7a、第1可動移送台7b、及び第2可動移送台7cからなる折畳み式の予備苗移送台として構成してもよい。この場合も、予備苗載台(予備苗移送台)7を構成する固定移送台7a、第1可動移送台7b、及び第2可動移送台7cは、軽量部材であるアルミ合金製の左右の外枠31,31、またはポリアミド(ナイロン)等の熱可塑性樹脂を用いて射出成形した左右の外枠の間に、所定の前後間隔で複数の転動ローラ32を取り付けたローラコンベアの形態を採用する。
【0019】
そして、上述の予備苗載台(予備苗移送台)7は、図4及び図5に示すように、ボンネット8の右側に形成されているフロントステップ25Rの下方から2本のパイプ支柱46a,46bを延出させて走行機体4の外側方に立ち上げ、両パイプ46a,46bに内嵌する支柱47a,47bの上部を自由支点P1,P2としてステー48を連結すると共に、このステー48の上部に固定移送台7aを螺設できるように構成している。
【0020】
更に、上述した2本のパイプ支柱46a,46bに内嵌する支柱47a,47bは、ハンドル付位置決めピン49a,49bを介して高さ調節できるように構成している。即ち、図4に示す如く予備苗載台(予備苗移送台)7を構成する各移送台7a,7b,7cが、側面視で前高後低の略一直線状に展開される展開姿勢状態となるように両支柱47a,47bを調節した時は、予備苗Nが育苗されている方形状の苗箱B、あるいは苗箱Bに育苗されている予備苗Nを苗スクレーパで掬い取った状態で、予備苗載台(予備苗移送台)7の複数の転動ローラ32上を機体後方に向けて滑動させることによって、圃場面からの段差が大きい畦際の道路や畦等から連続的に予備苗載台(予備苗移送台)7上に補給することができる。一方、図5に示す如く予備苗載台(予備苗移送台)7を構成する各移送台7a,7b,7cが、側面視で前低後高の略一直線状に展開される展開姿勢状態となるように両支柱47a,47bを調節した時は、苗載台21に予備苗Nを補給した後の空になった苗箱Bや苗スクレーパを走行機体4の前方に送り返すことができる。
【0021】
以上説明した図3〜図5に示す構成によれば、ローラコンベアの形態を採用している走行機体4の左側に配設した予備苗移送台5と走行機体4の右側に配設した予備苗載台(予備苗移送台)7によって、走行機体4の左右両側で走行機体4の前方から後部に亘って予備苗Nを移送することができるので作業能率が向上する。
【0022】
また、走行機体4の右側に設けた予備苗載台(予備苗移送台)7は、側面視における展開姿勢を前高後低から前低後高の略一直線状に姿勢変更可能であり、しかも、ローラコンベアの形態を採用しているので、苗載台21に予備苗Nを補給した後の空になった苗箱Bや苗スクレーパを走行機体4の前方に効率よく送り返すことができる移送台として使用可能であり、上述の如く空になった苗箱Bや苗スクレーパを走行機体4の前方に送り返すための特別な返送手段を設けなくて済む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】乗用型田植機の側面図。
【図2】乗用型田植機の平面図(第一実施例)。
【図3】乗用型田植機の平面図(第二実施例)。
【図4】予備苗載台(予備苗移送台)の苗補給姿勢を示す要部側面図。
【図5】予備苗載台(予備苗移送台)の苗箱返送姿勢を示す要部側面図。
【符号の説明】
【0024】
4 走行機体
5 予備苗移送台
19 植付作業機
21 苗載台
41 薬剤散布装置
B 苗箱
N 予備苗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体(4)の後方に苗載台(21)を有する植付作業機(19)を昇降自在に連結すると共に、走行機体(4)の左右一側に走行機体(4)の前方から後部に亘って予備苗(N)を移送する予備苗移送台(5)を配設し、該予備苗移送台(5)には、前記予備苗(N)に薬剤を散布する薬剤散布装置(41)を設ける一方、走行機体(4)の左右他側には、予備苗(N)を蓄える予備苗載台(7)を設けたことを特徴とする移植機。
【請求項2】
前記予備苗載台(7)が、予備苗(N)を蓄えない場合は、苗載台(21)に予備苗(N)を補給した後の空になった苗箱(B)を走行機体(4)の前方に送り返すことができる移送台からなる請求項1に記載の移植機。
【請求項3】
前記予備苗載台(7)が、走行機体(4)の前方から後部に亘って予備苗(N)を移送することができる移送台からなる請求項1または請求項2に記載の移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−240218(P2009−240218A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90514(P2008−90514)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】