説明

移植機

【課題】一台で球根類でも野菜苗でも移植可能な移植機を提供することである。また、野菜苗の場合でも、植え付けた苗が倒れたり、抜けたりすることを防止できる移植機を提供することである。
【解決手段】供給装置6の供給カップ62の底部に開口部62を設け、供給カップ62の内側に、供給カップ62よりも細長く、且つ底蓋65bを備えたスリーブ65を取り付けることで、移植対象物が野菜苗の場合でも、支持板26上の移送中に苗をスリーブ65内で保持できるため、苗の根の部分を傷めることもない。更に、スリーブ65の底蓋65bを開放することで支持板26の開口部27から苗が落下するため、植付装置7への受け継ぎもスムーズである。また、植付ホッパ部72の前後中心線に対する前植付体72Fの開き量が後植付体72Bよりも大きくなる植付体開き量変更機構を設けることで、前植付体72Fが苗に当たることによる苗倒れを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芋やラッキョウ等の球根類と野菜等の苗を圃場に植え付ける移植機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
作業者によって供給された球根類を圃場に植え付ける移植機が知られている。例えば、特許文献1に示されるように、種芋を貯留する種芋載せ台と該種芋載せ台から種芋が移動して収容される収容部と該収容部の下方に配置された複数の供給カップを設けた供給部と該供給部から受け取った種芋を圃場に植え付ける植付装置を装備した種芋等の移植機がある。前記供給部には平面視円形の供給回転台の円周に沿って複数の供給カップが設けられ、供給カップは供給回転台の回転によってループ状の搬送軌跡を描き、所定位置で供給カップの底部(底板)が開いて植付装置の植え付けカップに種芋を受け継ぐ構成である。
【0003】
そして、特許文献1に記載の構成によれば、供給カップのループ状搬送軌跡内に所定量の種芋等を収容する収容部を設けていることから、作業者は、供給カップへの種芋の供給を各供給カップのループ状搬送軌跡内の収容部から行えるため、供給カップがどの位置にあっても供給しやすく、供給作業を容易にできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−51613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような移植機は、球根類を移植するものであり、野菜等の苗には対応していない。 野菜等の苗は、茎部を有するような背が高くてやわらかい苗であることから、このような球根類用の移植機では供給カップの上端からはみ出したり、倒れてしまったりして植付装置の受け継ぎがうまく行われず、また、供給カップの搬送中に苗が供給カップ内でずれると根の部分が供給カップの底板で擦れて傷ついてしまうため、移植できない。
【0006】
近年、経済性や設置スペース等の観点から、一台で球根類でも野菜苗でも移植可能な移植機が望まれている。
そこで、本発明の課題は、一台で球根類でも野菜苗でも移植可能な移植機を提供することである。
【0007】
また、植付装置の植え付けカップ(植付具)は前後方向に2分割して下部を開放する構成であり、移植機の走行に連動して上下動し、上方で供給部から種芋を受け継いで収容保持した状態で下降し、植え付け位置で下部を前後に開いて圃場に植え付け穴を形成すると共に、該植え付け穴に種芋を供給して植え付ける。この際、特に野菜等の背が高くてやわらかい苗の場合は、移植機の走行速度に対して植え付けカップの開閉速度が速いと植え付けカップにより植え付けた苗が植え付けカップが上がりきる前にカップに当たって後方に倒れたり、抜けてしまうおそれがある。
【0008】
更に、本発明の課題は、野菜苗の場合でも、植え付けた苗が倒れたり、抜けたりすることを防止できる移植機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、下記構成によって達成される。
すなわち、請求項1に係る発明は、移植対象物を供給するための複数の供給カップ(62)と該複数の供給カップ(62)を移送する移送手段(26,61,66)とを備えた供給装置(6)と該供給装置(6)の下方に位置し、供給装置(6)から移植対象物を受けて圃場に植付ける植付装置(7)とを設けた移植機において、前記供給カップ(62)の底部に開口部(62a)を設け、該供給カップ(62)の内側に、供給カップ(62)よりも細長く、且つ底蓋(65b)を備えたスリーブ(65)を着脱可能に取り付け、前記移送手段(26,61,66)は、複数の供給カップ(62)を移送するための移送駆動機構(61,66)と前記複数の供給カップ(62)を下方から支持し、前記移送駆動機構(61,66)により移送される供給カップ(62)内のスリーブ(65)の底蓋(65b)が植付装置(7)の受け継ぎ位置で開くようにするための開口部(27)を設けた支持板(26)とからなる移植機である。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記スリーブ(65)の外面に、前記供給カップ(62)の内面に接するツバ部(65d)を設けた請求項1記載の移植機である。
請求項3に係る発明は、前記スリーブ(65)に、該スリーブ(65)を前記供給カップ(62)に取り付ける際の向きが識別可能な識別手段(65d、65f、65gなど)を設けた請求項1記載の移植機である。
【0011】
請求項4に係る発明は、前記スリーブ(65)の底蓋(65b)に、該底蓋(65b)が開く方向に付勢するスプリング(65e)を設けた請求項1から3のいずれか1項に記載の移植機である。
【0012】
請求項5に係る発明は、前記供給装置(6)の支持板(26)の開口部(27)近傍に、前記植付装置(7)に移植対象物を受け継ぐ供給カップ(62)の上方を覆うカバー(40)を立設し、該カバー(40)の上部に移送中のスリーブ(65)が当たると、カバー(40)の上部が動いてカバー(40)の上部と下部が分割する分割部(43)を設け、該分割部(43)に、分割しない方向に付勢するスプリング(44)を設けたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の移植機である。
【0013】
請求項6に係る発明は、走行装置(4,5)と移植対象物を供給するための供給装置(6)と該供給装置(6)の下方に位置し、供給装置(6)から移植対象物を受けて圃場に植付ける植付装置(7)とを設けた移植機において、前記植付装置(7)に、機体の前進方向に向かって前方の前植付体(72F)と後方の後植付体(72B)とからなり、前記供給装置(6)から受け継いだ移植対象物を保持して、前植付体(72F)と後植付体(72B)とを前後に開いて移植対象物を植え付ける植付具(72)を設け、前記前植付体(72F)の上部に、後端部に回動支点(76B)を有する回動作動用前アーム(77F)を設け、前記後植付体(72B)の上部に、前端部に回動支点(76F)を有する回動作動用後アーム(77B)を設け、前記回動作動用前アーム(77F)と回動作動用後アーム(77B)との係合部(78aと79a、78bと79b、78cと79c)の前後位置を変えることで、植付具(72)の前後中心線に対する前植付体(72F)の開き量を後植付体(72B)の開き量よりも大きくすることが可能な植付体開き量変更機構を設けた移植機である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の移植機によれば、供給カップ(62)の内側に、底蓋(65b)を備えた細長いスリーブ(65)を取り付けることで、野菜苗の場合でもスリーブ(65)内で保持できるため、苗の根の部分を傷めることもない。また、スリーブ(65)の底蓋(65b)を開放することで植付装置(7)の受け継ぎもスムーズに行うことできる。
そして、スリーブ(65)を取り外せばジャガイモや里芋等の種芋やラッキョウ等を含む球根類にも使用できるため、1台で球根類でも野菜苗でも移植作業が可能となり、汎用性にも優れる。
【0015】
請求項2記載の移植機によれば、上記請求項1記載の発明の効果に加えて、スリーブ(65)の外面に設けたツバ部(65d)が供給カップ(62)の内面に接していることで、スリーブ(65)を供給カップ(62)に固定できる。また、例えば、供給カップ(62)の移送方法と底蓋(65b)の開閉方法によって底蓋(65b)の取り付け位置が決まっている場合などは、底蓋(65b)が適切に開閉するように、スリーブ(65)を正しい向きで供給カップ(62)に取り付ける必要がある。したがって、ツバ部(65d)の形状や位置によっては供給カップ(62)に取り付けるスリーブ(65)の向きが容易に識別できる。
【0016】
請求項3記載の移植機によれば、スリーブ(65)を供給カップ(62)に取り付ける際の向きが識別可能な識別手段(65d、65f、65gなど)を設ける。例えば、上記のように供給カップ(62)の移送方法と底蓋(65b)の開閉方法によって底蓋(65b)の取り付け位置が決まっている場合などは、底蓋(65b)が適切に開閉するように、正しい向きで供給カップ(62)に取り付ける必要がある。
したがって、請求項3記載の移植機によれば、上記請求項1記載の発明の効果に加えて、識別手段(65d、65f、65gなど)によって、供給カップ(62)に取り付けるスリーブ(65)の向きが容易に識別できる。
【0017】
請求項4記載の移植機によれば、上記請求項1から3のいずれか1項に記載の発明の効果に加えて、スリーブ(65)の底蓋(65b)に、該底蓋(65b)が開く方向に付勢するスプリング(65e)を設けているため、支持板(26)の開口部(27)でスリーブ(65)の底蓋(65b)を素早く開かせることができる。したがって、供給装置(6)から植付装置(7)への受け継ぎを、よりスムーズに行うことできる。
【0018】
請求項5記載の移植機によれば、上記請求項1から4のいずれか1項に記載の発明の効果に加えて、前記供給装置(6)の支持板(26)の開口部(27)近傍に、供給カップ(62)の上方を覆うカバー(40)を設けることで、作業者が誤って指を入れることなどを防止でき、安全性が向上する。
【0019】
一方、ジャガイモや里芋等の種芋やラッキョウ等を含む球根類の場合は比較的背が低いため、カバー(40)に当たることはないが、背の高い野菜苗の場合は、カバー(40)に当たる可能性がある。
しかし、スリーブ(65)がカバー(40)の上部に当たると、カバー(40)の上部が動いて上下に分割するため、カバー(40)が苗に当たることはない。そして、カバー(40)はスプリング(44)による付勢力で元の位置に戻るため、カバー(40)を取り外すことなく、種々の移植対象物の移植作業に対応できる。
【0020】
請求項6記載の移植機によれば、移植機の走行速度に対して植え付けカップの開閉速度が速い場合でも、植付具(72)の前方の植付体(72F)の開き量を後方の植付体(72B)の開き量よりも大きくすることで、野菜苗の場合でも植付具(72)が苗を植え付けて上がる際に前方の植付体(72F)によって植え付けた苗を倒したり、苗が抜けたりすることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態の移植機の側面図である。
【図2】図1の移植機の平面図である。
【図3】図1の移植機の平面図(載置台を除いた図)である。
【図4】供給装置の各構成部品を説明するための分解斜視図である。
【図5】スリーブの斜視図である。
【図6】スリーブの外面に識別標識を設けた場合のスリーブの斜視図である。
【図7】スリーブの形状を変えた場合のスリーブの斜視図である。
【図8】安全カバーの別の例を示す斜視図(簡略図)である。
【図9】植付装置の作動構造を示す拡大側面図である。
【図10】植付装置の作動状態を示す側面図である。
【図11】植付装置の作動状態を示す側面図である。
【図12】図9〜図11に示す植付装置の別の例を示した図である。
【図13】図12の植付装置の前植付体の開き量を模式的に示した図である。
【図14】開閉レバーを回動作動用後アームの後方に取り付けた場合(実線)と回動作動用前アームの後方に取り付けた場合(点線)の図である。
【図15】植付ホッパ部にスプリングを取り付けた場合の簡略側面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面に基づき、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
図1及び図2には、本実施形態の移植機の側面図と平面図を示す。この移植機の前進方向に向かって左右方向をそれぞれ左、右といい、前進方向と後進方向をそれぞれ前、後という。なお、図3は、載置台30を除いている点で、図2と相違する。
【0023】
この移植機1は、前部にエンジン2及びミッションケース3と走行車輪としての左右一対の前輪4及び後輪5と、後部に植付装置7、供給装置6、鎮圧輪8及び操縦ハンドル9とを備えて構成されている。
この移植機1は、機体が圃場内の畝Uをまたぐように、前輪4及び後輪5が畝間を走行し、畝の上面の左右幅方向における中央位置に植付装置7により移植対象物を植え付けていくようになっている。
【0024】
また、ミッションケース3の左右端には該ミッションケース3に対して回動可能な走行エクステンションケース10を左右それぞれ設け、左右の走行エクステンションケース10のそれぞれの端部に走行チェーンケース11を取り付けている。したがって、エンジン2から入力されるミッションケース3内の動力を走行チェーンケース11内に伝動する構成となっている。
【0025】
走行チェーンケース11の回動先端部の左右外側には、走行車輪である左右一対の後輪5をそれぞれ取り付け、この左右一対の後輪5の駆動により機体が走行するようになっている。したがって、ミッションケース3は、走行車輪としての後輪5に伝動する伝動装置となっている。
【0026】
一方、エンジン載置台の下部には左右方向に延びる前輪支持フレーム12を前後方向のローリング軸13(図1参照)回りに回動可能に設け、この前輪支持フレーム12の左右両端部に前輪4を取り付けている。
【0027】
また、ミッションケース3の後端の左右方向に配置された横フレーム14の後部には、機体の左右方向右寄りの位置に延びる主フレーム15を設けている。該主フレーム15の後端部には操縦ハンドル9を設け、この操縦ハンドル9が主フレーム15及び、横フレーム14を介してミッションケース3に支持されている。
【0028】
また、ミッションケース3の後部で左右方向の中央には、油圧昇降シリンダ16を設けている。この油圧昇降シリンダ16は、ミッションケース3に取り付けられた油圧切替バルブ部17に固着して設けられ、ミッションケース3に取り付けられた油圧ポンプからの油圧を切り替える油圧切替バルブ部17に備えられた昇降操作バルブを操作することにより作動する。
【0029】
また、油圧昇降シリンダ16のシリンダロッド端には左右に延びる横杆19を設け、この横杆19の左右端部にそれぞれ後輪昇降ロッド20,21を枢着し該ロッド20,21の他端をそれぞれの走行エクステンションケース10に取り付けられた上側アーム10aに枢着して、横杆19と走行エクステンションケース10とが連結された構成となっている。
【0030】
したがって、油圧昇降シリンダ16の伸縮により横杆19、後輪昇降ロッド20,21を介してミッションケース3の左右の出力軸回りに走行チェーンケース11が回動され、該走行チェーンケース11の回動により後輪5が上下して機体が昇降する構成となっている。
【0031】
また、左側の後輪昇降ロッド20が伸縮するように該ロッド20の中途部に油圧ポンプからの油圧により作動する水平用油圧シリンダ22を設けており、該水平用油圧シリンダ22の伸縮により右側の後輪5の上下位置に対して左側の後輪5を上下させて、畝の谷部の凹凸に関係なく機体を左右水平に維持できるようになっている。
【0032】
なお、ミッションケース3の右側には振り子式の左右傾斜センサ23が設けられて、この左右傾斜センサ23の検出により油圧切替バルブ部17に備えられた水平操作バルブを介して水平用油圧シリンダ22を作動させ機体を左右水平に維持する構成となっている。
【0033】
本実施の形態の植付装置7は、球根類や野菜苗などの移植対象物を1個ずつ圃場の畝部に植付けるべく、ミッションケース3内からの動力がミッションケース3の後側に設けた植付伝動ケース24と、その植付伝動ケース24に取り付けられた植付装置駆動ケース25aを介して伝達され作動するようになっている。
【0034】
植付装置7は、先端が尖ったカップ状の植付具72と該植付具72を昇降させるべく作動するリンク機構75(図9)などで構成される。植付具72の先端は、植付具72の昇降動作によって、図1に示すように、概ね楕円形の軌跡Bを描いて図中の矢印方向に繰り返し作動する。
【0035】
そして、移植対象物用の載置台30は、基部が植付伝動ケース24に固着された苗枠フレーム31上に杆体にて枠組みされ、移植対象物の一例としての種芋を収容したコンテナAを機体左右方向に3個並べて載置する主載置枠32と、該主載置枠32の左側後部にコンテナAを1個載置できる副載置枠33とから構成されている。
【0036】
そして、副載置枠33は、主載置枠32の下部に固着されたパイプ状フレーム34にて前後方向に摺動自在に構成されている。即ち、副載置枠33を主載置枠32の後部に引き出した状態では、副載置枠33に種芋などを収容したコンテナAを1個載置することができ、作業者は、機体の左側で該副載置枠33の後方を歩きながら、副載置枠33に載置したコンテナAから種芋を取出して、側方の供給装置6の各供給カップ62に容易に入れることができて、作業性良く且つ作業効率良く移植作業を行なうことができる。なお、副載置枠33に載置したコンテナAの種芋が無くなった時は、主載置枠32上の種芋が入ったコンテナAを置き換えて作業を続行する。また、副載置枠33を主載置枠32の下部に押し入れて収納した状態とすれば、機体移動時や機体を納屋等に収納する際に便利である。
【0037】
そして、供給装置6は、植付装置7の上方位置で種芋を受けて周回軌道64上を移送する8個の供給カップ62…を備え、回転駆動機構66の回転動力によって所定速度で回転作動される。なお、この回転作動は植付装置7の昇降動作と対応させており、すなわち、供給装置6から種芋が落下するタイミングを植付装置7が最も上昇した位置にある時に同期させている。
【0038】
図4には、供給装置6の各構成部品を説明するための分解斜視図を示す。
供給装置6は、植付装置7の上方に設けられた、上端と下端に開口部62aを有する供給カップ62を8つ貫通させてループ状に配置した回転可能な回転テーブル61と、その下側に配置されて且つ移植機1の機体側に固定配置された支持板26と、回転テーブル61を反時計回りに回転させるための回転駆動機構66と、植付装置7の受け継ぎ位置Gに移動してきた供給カップ62の中に作業者の指などが誤って入らないようにするための安全カバー40等を備えている。
【0039】
回転テーブル61は、外周縁部61aが下方に曲げられた盆状部材であって、その円形平面部(主面部)61bの外周寄りに等間隔に開けられた8つの貫通孔に、両端が開放された円筒状の供給カップ62がそれぞれ貫通して設けられている。また、回転テーブル61の中央部には、回転駆動機構66からの回転力により回転テーブル61を反時計回りに回転するための回転軸66fが固定配置されている。
【0040】
支持板26は、植付装置7の受け継ぎ位置Gに開口部27が設けられた円盤状の板部材であって、その外周部に安全カバー40を固定するための出っ張り部29を有し、供給カップ62の直ぐ下側で、回転テーブル61の円形平面部(主面部)61bに平行であって、後述する支柱93に溶接によって固定されている。支持板26の更に下側には、回転駆動機構66が設けられている。
【0041】
この支持板26は、出っ張り部29を除き、回転テーブル61の直径より小さく、且つ、リング状に配置された8個の供給カップ62の下端の開口の投影領域を包括できる直径の円盤状の板部材であり、その板部材の一部には、供給カップ62の下端開口の直径より大きい円形状の開口部27が、植付ホッパ部72への受け継ぎ位置G、すなわち植付ホッパ部72が上死点に位置する時の植付ホッパ部72のロート状上部筒部71の上方に対応する位置に1つ形成されている。
【0042】
また、支持板26は、供給カップ62の下端の縁部から所定の距離を隔てて、回転テーブル61の主面に平行に配置されており、供給カップ62に補給された種芋が、開口部27を除き、支持板26と供給カップ62の下端の縁部との隙間から落下することが無く、しかも、回転移動する供給カップ62が、動作中に振動などしても、支持板26にぶつかることがない程度の間隔が確保されている。
【0043】
ここで、支持板26の出っ張り部29は、開口部27に近傍の外周側に所定寸法だけ突き出しており、安全カバー40を締結部品40a、40bで固定するための2つの貫通孔29aが設けられている。安全カバー40については、後述する。
【0044】
支持板26には、その上面に溜まったゴミなどを効果的に排出し、種芋は落下しない程度の大きさのスリット状の長孔部35が、半径方向に沿って形成されている。
一方、回転テーブル61の裏面には、支持板26に形成された長孔部35からゴミを落とすための長方形状の硬質ゴム製のスクレーパ36が固定配置されている。
【0045】
また、支持板26は、移植機1の機体から後方に向けて配置されている支柱93により支持されると共に、その支持部において溶接固定されている。なお、後述する軸受け部材66gの外周側面は、支柱93の後方端93aに固定されている(図4参照)。
【0046】
なお、上記構成によれば、供給カップ62の下端は開放されており、すなわち蓋が無く、しかも支持板26の裏面に支柱93が直接固定されているので、供給カップ62の下端の開口位置と、植付ホッパ部72の上死点との距離がより短くできる。なお、供給カップ62の底全面ではなく、底面の一部に開口部62aを設けても良い。
【0047】
そして、回転駆動機構66は回転テーブル駆動ケース25bに一端が回転可能に接続され、回転方向変換ユニット66bの入力側に他端が回転可能に接続された回転力伝達部材66cと、回転方向変換ユニット66bの入力側の回転軸に対して直交配置された出力側の回転軸66dに固定された第1歯車66e1と、第1歯車66e1と噛み合って配置された第2歯車66e2とを備えている。第2歯車66e2は反時計方向に滑らかに回転する。
【0048】
また、回転方向変換ユニット66bの上面には、回転方向変換ユニット固定用アングル67が締結部品67aによって固定されている。更に、回転方向変換ユニット66bは、回転方向変換ユニット固定用アングル67を介して、支持板26の裏面に固定されているユニット固定用アングル68に締結部品67bによって固定されている。
【0049】
また、軸受け部材66gは、第2歯車66e2の回転軸66fを回転可能に支持する軸受け部材であり、上述した通り、その外周側面の下端側において、支柱93の後方端93aと固定されている。一方、軸受け部材66gの上端側は、支持板26の中心部に設けられた貫通孔28を貫通しており、軸受け部材66gから上方に飛び出している回転軸66fが回転テーブル61の中心部に固定されている。これにより、回転テーブル61は、回転軸66fを介して、軸受け部材66gにより回転可能に支持されている。
【0050】
以上、説明した供給装置6において、茎部を有する比較的背が高くてやわらかい野菜苗を供給する場合は、供給カップ62の上端からはみ出したり、倒れてしまったりして植付装置6の受け継ぎがうまく行われない場合がある。また、搬送中に苗がずれて根の部分が擦れて傷つく場合もある。
【0051】
そこで、本実施形態の移植機によれば、供給カップ62の内側に、供給カップ62よりも細長く、底蓋65bを備えたスリーブ65を取り付けたことを特徴としている。スリーブとは袖を意味するが、移植機では、通常、球根類や野菜苗などの作物を入れる筒状の部材のことを言う。
【0052】
そして、例えば、図4に示すように、スリーブ65の本体部65a(図5)は供給カップ62の上下高さよりも背が高く、供給カップ62よりも径が小さめであり、供給カップ62に比べて全体的に細長い形状である。スリーブ65の上方又は下方の径を供給カップ62の開口部62aの径よりも大きくしたり、スリーブ65と供給カップ62との間に緩衝材を挟んだりすることで、スリーブ65は供給カップ62にはまり、供給カップ62から落下することはない。また、外側が供給カップ62に接し、内径の小さい、厚みのあるスリーブ65としても良い。
【0053】
図5には、スリーブ65の斜視図を示す。図5の右上には簡略平面図を示す。
スリーブ65の本体部65aの外面に、供給カップ62の内面に接するツバ部65dを固着すると、ツバ部65dが供給カップ62の内面に接することで、供給カップ62の内側に固定される。また、スリーブ65の上方の径が供給カップ62の下端部の径より小さくても、供給カップ62の内壁にスリーブ65のツバ部65dが嵌合し、スリーブ65はツバ部65dにより供給カップ62に引っかかっているため供給カップ62から落下することはない。
【0054】
更に、スリーブ65の本体部65aの下端部に底蓋65bを設けていることから、比較的背が高くてやわらかい苗の場合でもスリーブ65内で保持できるため、苗の根の部分を傷めることもない。
【0055】
また、供給カップ62が支持板26上を移送されて受け継ぎ位置Gに設けた開口部27を通過する際に、スリーブ65の底蓋65bが開くことで植付装置7への苗の受け継ぎもスムーズに行うことできる。スリーブ65は径や高さの異なるものを複数種類、そろえておくと、苗の種類によって最適なものを使用できる。
また、スリーブ65は球根類を移植する際には取り外せば良い。
【0056】
このように、スリーブ65を供給カップ62に取り付けたり取り外したりすることで、移植機の供給装置6は比較的背が高くてやわらかい野菜苗用の供給装置6としても、比較的堅くて背の低い(丸い)球根類用の供給装置6としても使用できる。したがって、1台で種々の作物の移植作業が可能となり、汎用性にも優れる。
【0057】
また、スリーブ65の底蓋65bは、受け継ぎ位置Gに設けた開口部27において、移送方向の上手側に設けた支軸65c周りに下方に回動して開く構成である。すなわち、供給カップ62が支持板26上を移送されて開口部27に達し、平面視でスリーブ65の底蓋65b全面が開口部27と重複した時に蓋65bが開き、支軸65c部分が開口部27を通過して支持板26上にスリーブ65の底蓋65bが接すると、底蓋65bが閉じる。
【0058】
このように、供給カップ62の移送方法と底蓋65bの開閉方法によってスリーブ65の底蓋65bの取り付け位置が決まっている場合などは、底蓋65bが適切に開閉するように、スリーブ65を正しい向きで供給カップ62に取り付ける必要がある。したがって、ツバ部65dの形状や位置によっては供給カップ62に取り付けるスリーブ65の向きが容易に識別できる。例えば、スリーブ65の本体部65aの外面に等間隔で設けずに、支軸65c側を多く、支軸65cと反対側を少なく設けるなど個数を変えたり、又は支軸65c側と支軸65cと反対側のツバ部65dの形状や大きさを変えたりしても良い。
【0059】
図5に示す例では、ツバ部65dを三つ設けた場合に、等間隔に120度ずつ設けるのではなく、支軸65c側のツバ部65dの間隔を狭くして、支軸65cと反対側のツバ部65dの間隔を広くしている。
【0060】
本構成により、供給カップ62に取り付けるスリーブ65の向きが容易に識別できる。したがって、スリーブ65を間違った向きで供給カップ62に取り付けてしまうことを防止できる。
また、スリーブ65の底蓋65bはツバ部65の外周より内側に設けることで、スリーブ65を供給カップ62に容易に出し入れできる。
【0061】
図6には、スリーブ65の本体部65aの外面に識別標識を設けた場合のスリーブ65の斜視図を示す。
例えば、スリーブ65の取り付ける際の向きが分かるように、スリーブ65の本体部65aの外面に矢印の刻印などの識別標識65fを付しても良い。また、色を付けたり絵や文字を書いたりしても良い。本構成により、供給カップ62に取り付けるスリーブ65の向きが容易に識別できるため、スリーブ65を間違った向きで供給カップ62に取り付けてしまうことを防止できる。また、スリーブ65だけでなく、供給カップ62の外面又は内面にも同様の識別標識65fを付しても良い。
【0062】
図7には、スリーブ65の本体部65aの形状を変えた場合のスリーブ65の斜視図を示す。
供給カップ62の形状を一部変えて、スリーブ65の本体部65aの形状も供給カップ62の形状に合わせて変えることでスリーブ65の取り付ける際の向きが分かるようにしても良い。例えば、図7に示すように、円筒状の供給カップ62の一部に平面部62bを設け、スリーブ65の本体部65aの形状もそれに合わせて平面部65aaを設ける。
【0063】
供給カップ62とスリーブ65の平面部同士が重なるように、スリーブ65を供給カップ62に取り付けることで、間違った向きに取り付けてしまうことを防止できる。したがって、本構成によっても、供給カップ62に取り付けるスリーブ65の向きが容易に識別できる。
【0064】
また、スリーブ65の底蓋65bの支軸65cに底蓋65bが開く方向に付勢するトルクスプリング65eを設けても良い。供給カップ62が支持板26上を移送されて開口部27に達すると、トルクスプリング65eの作用によってスリーブ65の蓋65bが素早く開くため、植付装置7への苗の受け継ぎを、よりスムーズに行うことできる。
【0065】
また、図8には、安全カバー40の別の例の斜視図を示す。
図4に示す安全カバー40は、支持板26の出っ張り部29に固定するための2つの貫通孔41aが一端側に形成された、断面がコの字型の安全カバー支持部41と、安全カバー支持部41の他端側に固定された安全カバー本体42とから構成されており、支持板26の開口部27近傍に、締結部品40a、40bによって立設している。
【0066】
安全カバー本体42は、供給カップ62が受け継ぎ位置Gに移動して来た時に、その供給カップ62の上端の開口を完全に覆う屋根部であり、作業者が誤って指などを入れることを防止できる。
【0067】
そして、この安全カバー40を上下に分割可能な構成にする。具体的には、安全カバー本体42を支持する板状の安全カバー支持部41の上部が移送経路の外側に折れ曲がり可能な分割部43を設ける。安全カバー支持部41を上下2枚の板で構成し、ヒンジ(図示せず)等で連結しても良い。そして、安全カバー支持部41の分割部43に分割しない方向に付勢するスプリング44を設ける。
【0068】
ジャガイモや里芋等の種芋やラッキョウ等を含む球根類の場合は比較的背が低いため、これらの作物が安全カバー40に苗が当たることはないが、比較的背の高い苗の場合は安全カバー40に苗が当たる可能性がある。
【0069】
しかし、移送中のスリーブ65が安全カバー本体42に当たると安全カバー支持部41の上部が矢印Y方向に回動し、外側に倒れるため苗に当たることはない。
【0070】
そして、安全カバー本体42はスプリング44による付勢力で元の位置に戻るため、安全カバー40を取り外すことなく、種々の作物の移植作業に対応できる。なお、安全カバー支持部41への安全カバー本体42の取り付け位置を変えることで安全カバー本体42の支持板26からの高さを変更可能な構成としても良いが、この場合も分割部43を設けることで、わざわざ高さを変えなくて済む。
【0071】
また、図4に示す安全カバー40は、安全カバー本体42が安全カバー支持部41の他端側に固定されているが、安全カバー本体42が安全カバー支持部41から容易に取り外し可能な構成でも良い。
【0072】
図8に示すように、安全カバー支持部41の上端部に安全カバー本体42の基部側をボルト87やナット(図示せず)などで取り付けることで、安全カバー本体42の取り付けと取り外しが簡単にできる。また、安全カバー支持部41と安全カバー本体42との取り付け部分の形状を嵌合可能な形状としても良い。安全カバー支持部41に安全カバー本体42を嵌め込むことで容易に取り付けられる。また、ねじ止めにしても良い。
【0073】
安全カバー本体42はスリーブ65が当たると倒れるため、スリーブ65内の苗に影響はないが、スリーブ65と安全カバー40が干渉することで、両者又は一方に傷が付く場合もある。したがって、不要な時は安全カバー本体42を取り外すことで、種々の使い方が可能となり汎用性にも優れる。
【0074】
また、スリーブ65が安全カバー本体42に当たることで傷つくことを防止するために、スリーブ65の外面から搬送方向上手側に突出する突出片65gを設けてもよい。この突出片65gは、図8に示すように、周回軌道64に沿うように平面視で円弧状にすると、先端部が安全カバー本体42に当たると共に、供給カップ62に取り付けるスリーブ65の向きも容易に識別できる。
【0075】
次に、植付装置7の駆動構成を詳細に説明する。図9〜図11には、植付装置7の側面図を示す。図9は、植付装置7の作動構造を示す拡大側面図であり、図10及び図11は、植付装置7の作動状態を示す側面図である。
【0076】
植付装置7は、供給装置6のスリーブ65の底蓋65bが開いて落下供給された苗を受けるロート状上部筒部71と該上部筒部71の下方に位置して閉じた状態で内部に球根類や野菜苗を保持し、圃場の土中に突入した時に前後に開いて保持した球根類や野菜苗を開放して植え付ける植付ホッパ部72を装備している。
なお、回転テーブル61の下方にある駆動部を覆うように防護カバー50(図1)を設けると、作業者が駆動部と接触することを防止できる。
【0077】
そして、植付装置7は、前部が植付装置駆動ケース25aに回動自在に上下前部支持軸75F,75Fで支持されて植付装置駆動ケース25a内の駆動機構によってその後部が上下方向に作動するリンク機構75の上下後部支持軸75B,75Bに装着支持されており、植付装置7の上部筒部71の上部開口部が供給装置6の供給カップ62の下方位置近くに位置する状態(スリーブ65の底蓋65bが開いて植付装置7内に苗が落下供給される状態)から、植付装置7の植付ホッパ部72下部が圃場の土中に突入して前後に開いて保持した苗を開放し植付ける状態に上下動する。
【0078】
植付ホッパ部72は、嘴状の前植付体72Fと後植付体72Bにより、その内部に球根類や野菜苗を収納できる構成である。そして、前植付体72Fと後植付体72Bは、共にその上部が植付装置7のフレーム73に設けた前支持軸76Fと後支持軸76Bに前後方向に回動自在に各々枢支されている。後植付体72Bは前支持軸76Fを支点として後方に回動し、前植付体72Fは後支持軸76Bを支点として前方に回動する。
【0079】
そして、前植付体72Fと後植付体72Bには、各々、回動作動用前アーム77Fと回動作動用後アーム77Bが一体回動するように装着されている。なお、回動作動用前アーム77Fには係止ピン78の基部が溶接固着され、係止ピン78の先端部は回動作動用後アーム77Bに設けた係合孔79に係合し、回動作動用前アーム77Fによる前植付体72Fの前方開放回動に連動して、回動作動用後アーム77Bが回動して後植付体72Bが後方開放回動する構成となっている。
【0080】
一方、回動作動用前アーム77Fの前部に上方に向けて設けた連係アーム部77F’の上部が、リンク機構75の上後部支持軸75Bに回動自在に装着されたL字状の中継アーム80の前端部に連結されている。そして、リンク機構75の上前部支持軸75Fに矢印イ方向に付勢された従動アーム81の先端に従動カム85を回転自在に設け、従動アーム81の先端部と中継アーム80の下端部を連結ロッド82で連結している。リンク機構75の下側の前部支持軸75Fには、植付装置7の上下作動に連動して回転する駆動カム83が設けられており、該駆動カム83の外周面には上記の従動カム85が接当している。
【0081】
したがって、植付ホッパ部72が圃場面から供給カップ62の下方位置近くに上動移動して来る時(最上動位置に来る手前で)に従動カム85は駆動カム83の最小径に接当する状態となって、前植付体72Fと後植付体72Bは閉じて、植付ホッパ部72の内部に球根類や野菜苗を保持できる状態となる。
【0082】
そして、最上動位置でスリーブ65の底蓋65bが開いて植付ホッパ部72内に苗が落下供給された後、植付ホッパ部72が圃場の土中に突入するまで下動した時に、従動カム85は駆動カム83の最大径に接当する状態となって、従動アーム81が矢印ロ方向に揺動して連結ロッド82を引き、中継アーム80及び回動作動用前アーム77Fを介して前植付体72Fの前方開放回動に連動して、回動作動用後アーム77Bが回動して後植付体72Bが後方開放回動し、前後に開いて保持した苗を開放して圃場中に植え付ける。
【0083】
また、回動作動用前アーム77Fと回動作動用後アーム77Bの各上部には各々把持部84が設けられており、両把持部84を握り締めることにより、前植付体72Fを前方開放回動させ、後植付体72Bを後方開放回動させることができる。すなわち、機体を止めた状態で、両把持部84を握り操作することにより、手動で植付ホッパ部72の前植付体72F及び後植付体72Bを開放回動させて、植付ホッパ部72内部に溜まった泥土やゴミ等を容易に掃除することができる。
【0084】
図12には、図9〜図11に示す植付装置7の別の例を示す。この図は、植付装置7の各構成部品を説明するための分解斜視図である。図12の植付装置7は、回動作動用前アーム77Fと回動作動用後アーム77Bの係合機構が図9〜図11に示す植付装置7と異なり、その他の部分は同様であるため、リンク機構75などの部材は省略している。
【0085】
植付装置7及び供給装置6は移植機の走行と同期して駆動しており、供給装置6の各供給カップ62…に入れられた球根類や野菜苗は周回軌道64上を移送されて植付装置7の上方位置(植え継ぎ位置G)で支持板26の開口部27から植付装置7の植付ホッパ部72に落下供給されて、圃場に植付けを行う構成である。
【0086】
移植対象物を圃場に植え付ける場合、植付ホッパ部72は植え付け後に機体に対して後ろ向きに移動する軌跡Bを描くため、植付ホッパ部72の後植付体72Bと植え付け後の移植対象物が干渉するおそれはない。
【0087】
一方、種芋などの堅くて背の低いものでは特に問題はないが、背が高くてやわらかい野菜苗の場合は、移植機1の走行速度に対して植付ホッパ部72の開閉速度が速いと、植付ホッパ部72により植え付けた苗が、植付ホッパ部72が上がりきる前に前植付体72Fの下部に当たって後方に倒れたり、抜けてしまうおそれがある。
【0088】
そこで、このような場合には、植付ホッパ部72の前植付体72Fの開き量を後植付体72Bよりも多くする。なお、この開き量とは、植付ホッパ部72の前後中心線C(図11の点線)に対する開き量を言う。
図12に示すように、回動作動用前アーム77Fの係止ピン78と回動作動用後アーム77Bの係合孔79をそれぞれ前後に複数設け(図示例では三つ)、前方係止ピン78aが前方係合孔79aに係合する前方係合部、中央係止ピン78bが中央係合孔79bに係合する中央係合部、後方係止ピン78cが後方係合孔79cに係合する後方係合部の三つの係合部のうち、いずれか一つを選択することで、回動作動用前アーム77Fと回動作動用後アーム77Bとを連結させる。
【0089】
図13には、上記各係合の場合による回動作動用前アーム77Fと回動作動用後アーム77Bの作動量を模式的に示す。
回動作動用前アーム77Fは後支持軸76Bを支点として回動し、回動作動用後アーム77Bは前支持軸76Fを支点として回動する。回動作動用前アーム77Fには係止ピン78の基部が溶接固着されているため、回動作動用前アーム77Fが引かれるとそれと同時に係止ピン78も後支持軸76Bを支点として回動する。一方、係止ピン78の先端部は回動作動用後アーム77Bに設けた長穴の係合孔79に遊嵌しているため、係止ピン78が係合孔79内を動くことで、回動作動用後アーム77Bが後方へ回動する。したがって、回動作動用後アーム77Bは回動作動用前アーム77Fの作動に遅れて作動する。
【0090】
そして、図13に示すように、前方係合部(前方係止ピン78aと前方係合孔79a)の回動作動用前アーム77Fの作動量R1、中央係合部(中央係止ピン78bと中央係合孔79b)の回動作動用前アーム77Fの作動量R2、後方係合部(後方係止ピン78cと後方係合孔79c)の回動作動用前アーム77Fの作動量R3の順に、回動作動用前アーム77Fの作動量、すなわち前植付体72Fの開き量は小さくなる。
【0091】
前方係合部の場合、回動作動用前アーム77Fの回動支点である後支持軸76Bからの距離が一番長くなるため、回動作動用前アーム77Fの作動量R1が大きくなり、前植付体72Fの開き量を大きくできる。反対に、後方係合部の場合、回動作動用前アーム77Fの回動支点である後支持軸76Bからの距離が一番短くなるため、回動作動用前アーム77Fの作動量R3も小さくなり、前植付体72Fの開き量も前方係合部や中央係合部の場合と比べると小さくなる。また、反対に、回動作動用後アーム77Bの作動量は後方係合部、中央係合部、前方係合部の順に小さくなる。
【0092】
前述のように、回動作動用後アーム77Bは係合孔79を介して作動するため、回動作動用後アーム77Bの作動角βは回動作動用前アーム77Fの作動角αに比べて小さい。
【0093】
例えば、後方係合部にした場合に、前植付体72Fの開き量と後植付体72Bの開き量が同量になるようにすると、中央係合部にした場合は若干前植付体72Fの開き量を大きくすることができ、前方係合部にした場合は更に前植付体72Fの開き量を大きくすることができる。このように、回動作動用前アーム77F、後支持軸76B、係止ピン78a、回動作動用後アーム77B、前支持軸76F、係合孔79aなどにより、前植付体72Fと後植付体72Bとの開き量を変更できる植付体開き量変更機構を構成している。
【0094】
したがって、移植機1の走行速度に対して植付ホッパ部72の開閉速度が速くても、中央係合部や前方係合部を選択することで前植付体72Fの開き量を大きくすることができ、背が高くてやわらかい苗の場合でも植付ホッパ部72が苗を植え付けて上がる際に前植付体72Fによって植え付けた苗を倒したり、苗が抜けたりすることを防止できる。
【0095】
この回動作動用前アーム77Fの係止ピン78と回動作動用後アーム77Bの係合孔79とは、ボルト90などの固定具によって連結すれば良い。例えば、図12に示すように、先端部にネジ部を有するボルト90を係合孔79に挿入し、係止ピン78にねじ込むことで外側から取り付ける。ボルト90の付け替え位置を変えることで、各係合部の変更が容易にできる。また、植付ホッパ部72の位置が機体の左右一側に偏っている場合は、回動作動用前アーム77Fが機体の内側で、回動作動用後アーム77Bが機体の外側(偏っている側)になるように両アーム77F,77Bを配置すれば、ボルト90の付け替えも簡単にできる。
【0096】
また、図12に示すように、植付ホッパ部72の開閉レバー88を、前方に回動支点(前支持軸76F)がある回動作動用後アーム77Bの後方に取り付けても良い。
この場合は、図9〜図11の把持部84と比べて、後方の操縦ハンドル9側に開閉レバー88の把持部88aが位置するため、作業者が操作しやすい。また、把持部88a(図14)を持って開閉レバー88を下方に回す場合は、植付装置7の後方の覆土鎮圧輪8,8に干渉してしまうことが考えられる。図1に示す例では、植付装置7と覆土鎮圧輪8,8との間が比較的広いが、コンパクトな移植機など、移植機の種類によっては植付装置7と覆土鎮圧輪8,8との間が狭い場合もある。
【0097】
しかし、このような移植機でも把持部88aを持って開閉レバー88を上方に回して植付ホッパ部72の前植付体72F及び後植付体72Bを開放することで、覆土鎮圧輪8,8との干渉を防止できる。
【0098】
図14には、開閉レバー88を回動作動用後アーム77Bの後方に取り付けた場合(実線)と回動作動用前アーム77Fの後方に取り付けた場合(点線)の図を示す。
実線で示すように、開閉レバー88を回動作動用後アーム77Bの後方に取り付け、開閉レバー88の把持部88aを後方に延ばすことで、前支持軸76Fと把持部88aとの距離が長くなるため、回動作動用前アーム77Fの後方に取り付けた場合と比べて、より少ない力で前植付体72F及び後植付体72Bを開閉することができる。したがって、本構成により、植付ホッパ部72の内部に溜まった泥土やゴミ等を容易に掃除することができる。
【0099】
図15には、植付ホッパ部72にスプリングを取り付けた場合の簡略側面図を示す。
植付ホッパ部72は、供給装置6から球根類や野菜苗を受け継いだ後、下動して圃場の土中に突入するまでは、球根類や野菜苗を保持していなければならない。したがって、植付ホッパ部72の下動途中で前植付体72Fと後植付体72Bとが開かないように、両植付体72F,72Bの間には閉じる方向に付勢するスプリング89を取り付けると良い。
【0100】
上記のように、前後方向に開閉する植付ホッパ部72の場合は、回動作動用前アーム77Fと回動作動用後アーム77Bとの連結部が左右一側にあるため、その連結部側にはスプリング89を取り付けることができない。
【0101】
しかし、回動作動用前アーム77Fと回動作動用後アーム77Bとの連結部とは反対側(左右他側)にスプリング89を上下に二本取り付けることで、左右や前後などの違う側に一本ずつ取り付けた場合と同等以上の張力を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の苗移植機は、球根類や比較的背の高い野菜苗などの種々の作物を植え付ける移植機として利用可能性がある。
【符号の説明】
【0103】
1 移植機 2 エンジン
3 ミッションケース 4 前輪
5 駆動輪(後輪) 6 供給装置
7 植付装置 8 鎮圧輪
9 ハンドル 10 走行エクステンションケース
11 走行チェーンケース 12 前輪支持フレーム
13 ローリング軸 14 横フレーム
15 主フレーム 16 油圧昇降シリンダ
17 油圧切替バルブ部 19 横杆
20,21 後輪昇降ロッド 22 水平用油圧シリンダ
23 左右傾斜センサ 24 植付伝動ケース
25a 植付装置駆動ケース 25b 回転テーブル駆動ケース
26 支持板 27 開口部
28 貫通孔 29 出っ張り部
30 載置台 31 苗枠フレーム
32 主載置枠 33 副載置枠
34 パイプ状フレーム 35 長孔部
36 スクレーパ 40 安全カバー
40a、40b 締結部品 41 安全カバー支持部
42 安全カバー本体 43 分割部
44 スプリング 50 防護カバー
61 回転テーブル 61a 外周縁部
61b 円形平面部 62 供給カップ
62a 開口部 64 周回軌道
65 スリーブ 65a 本体部
65b 底蓋 65c 支軸
65d ツバ部 65e スプリング
65f 識別標識 65g 突出片
66 回転駆動機構
66b 回転方向変換ユニット
66d,66f 回転軸 66e 歯車
66g 軸受け部材
67 回転方向変換ユニット固定用アングル
71 ロート状上部筒部
72 植付ホッパ部(植付具) 73 フレーム
75 リンク機構 75F 前部支持軸
75B 後部支持軸 76 支持軸
77 回動作動用アーム 78 係止ピン
79 係合孔 80 中継アーム
81 従動アーム 82 連結ロッド
83 駆動カム 84 把持部
85 従動カム 87,90 ボルト
88 開閉レバー 89 スプリング
93 支柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植対象物を供給するための複数の供給カップ(62)と該複数の供給カップ(62)を移送する移送手段(26,61,66)とを備えた供給装置(6)と該供給装置(6)の下方に位置し、供給装置(6)から移植対象物を受けて圃場に植付ける植付装置(7)とを設けた移植機において、
前記供給カップ(62)の底部に開口部(62a)を設け、
該供給カップ(62)の内側に、供給カップ(62)よりも細長く、且つ底蓋(65b)を備えたスリーブ(65)を着脱可能に取り付け、
前記移送手段(26,61,66)は、複数の供給カップ(62)を移送するための移送駆動機構(61,66)と前記複数の供給カップ(62)を下方から支持し、前記移送駆動機構(61,66)により移送される供給カップ(62)内のスリーブ(65)の底蓋(65b)が植付装置(7)の受け継ぎ位置で開くようにするための開口部(27)を設けた支持板(26)とからなることを特徴とする移植機。
【請求項2】
前記スリーブ(65)の外面に、前記供給カップ(62)の内面に接するツバ部(65d)を設けたことを特徴とする請求項1記載の移植機。
【請求項3】
前記スリーブ(65)に、該スリーブ(65)を前記供給カップ(62)に取り付ける際の向きが識別可能な識別手段(65d、65f、65gなど)を設けたことを特徴とする請求項1記載の移植機。
【請求項4】
前記スリーブ(65)の底蓋(65b)に、該底蓋(65b)が開く方向に付勢するスプリング(65e)を設けたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の移植機。
【請求項5】
前記供給装置(6)の支持板(26)の開口部(27)近傍に、前記植付装置(7)に移植対象物を受け継ぐ供給カップ(62)の上方を覆うカバー(40)を立設し、
該カバー(40)の上部に移送中のスリーブ(65)が当たると、カバー(40)の上部が動いてカバー(40)の上部と下部が分割する分割部(43)を設け、
該分割部(43)に、分割しない方向に付勢するスプリング(44)を設けたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の移植機。
【請求項6】
走行装置(4,5)と移植対象物を供給するための供給装置(6)と該供給装置(6)の下方に位置し、供給装置(6)から移植対象物を受けて圃場に植付ける植付装置(7)とを設けた移植機において、
前記植付装置(7)に、機体の前進方向に向かって前方の前植付体(72F)と後方の後植付体(72B)とからなり、前記供給装置(6)から受け継いだ移植対象物を保持して、前植付体(72F)と後植付体(72B)とを前後に開いて移植対象物を植え付ける植付具(72)を設け、
前記前植付体(72F)の上部に、後端部に回動支点(76B)を有する回動作動用前アーム(77F)を設け、
前記後植付体(72B)の上部に、前端部に回動支点(76F)を有する回動作動用後アーム(77B)を設け、
前記回動作動用前アーム(77F)と回動作動用後アーム(77B)との係合部(78aと79a、78bと79b、78cと79c)の前後位置を変えることで、植付具(72)の前後中心線に対する前植付体(72F)の開き量を後植付体(72B)の開き量よりも大きくすることが可能な植付体開き量変更機構を設けたことを特徴とする移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−223136(P2012−223136A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93943(P2011−93943)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】