説明

移植片対宿主病の治療

本願は、クローン骨髄幹細胞(cMSC)を活性成分として用いる、急性又は慢性の移植片対宿主病を治療するための治療剤について記載するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急性又は慢性の移植片対宿主病を治療するための治療剤に関する。本発明はまた、間充織幹細胞を活性成分として含有する、急性又は慢性の移植片対宿主病を治療するための治療剤に関する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は、2007年5月25日に出願された米国仮特許出願第60/940,349号明細書(その内容全体が参照により本明細書中に援用される)に対する優先権の利益を主張するものである。
【0003】
移植片対宿主病(GVHD)とは、患者身体が同種移植において注射されるドナーの末梢血又は骨髄のTリンパ球に対して免疫反応を有する疾患を称する。すなわち、移植片対宿主病は、肝機能障害、皮膚病変、黄疸、下痢、発熱、汎血球減少症等、及び深刻な場合には患者の死亡を招く免疫反応の原因となる、輸注した生リンパ球により誘発される疾患である。
【0004】
移植片対宿主病は、急性移植片対宿主病(aGVHD)と慢性移植片対宿主病(cGVHD)とに大別することができる。cGVHDは、血液及び骨髄前駆細胞の移植後100日間生存する患者の20%〜70%に起こる主要且つ一般的な副作用であり、移植後の死亡の主な原因である。cGVHDとaGVHDとは連続した疾患ではなく、aGVHDは異なったアプローチを必要とする。また、cGVHDは血液及び骨髄前駆細胞の移植による治療法の発展のために、より大きな問題となっている。
【0005】
cGVHDは同種移植の場合、通常は移植後4ヶ月〜6ヶ月に起こり、80日以内又は1年以降の発生は稀である。したがって、同種反応がcGVHDを引き起こすための主な要件であり、cGVHDの発病機序は長いインキュベート期間を経過するか、又は標的器官への影響が徐々に現れると見なすことができる。cGVHDでは、胸腺の機能における様々な問題が発見されており、移植前の治療、又は末梢機構からの同種抗原/自己抗原により引き起こされる損傷のために正常な胸腺を除去しない場合、病的移植片T細胞が反応により増加するが、この種の病的CD陽性T細胞は、Th2免疫反応により、細胞傷害性攻撃、炎症性線維症サイトカインの分泌、B細胞活性化、及び自己抗体の形成による標的器官の損傷を含む、自己免疫疾患と同様の免疫不全を引き起こすと考えられる。
【0006】
cGVHDの臨床症状には紅斑、乾燥、そう痒、色素変化、及び斑点状丘疹等の皮膚における変化、薄毛及び脱毛等の毛髪における変化、並びに歯肉炎、粘膜炎、及び唇萎縮等の口における変化が含まれる。これの他に眼、生殖器官、肝臓、肺、胃腸管、筋膜、骨格系、漿膜等に現れる様々な病変が挙げられる。
【0007】
cGVHDは概して、骨髄移植後100日以降に起こるGVHDと定義されるが、その発症時期よりも病状(manifested conditions)が診断に重要である。症状の発症時期に応じて、cGVHDの発症に移行するまでaGVHDが治癒しない進行性の発症、aGVHDが完全に治癒した後にcGVHDが現れる静止性の発症、及び先のaGVHDの発現なく起こる新たな発症に分類することができる。罹患率及び死亡率は進行性の発症が最も高く、次が静止性の発症であり、新たな発症の場合が最も低い。病状としては、多くの場合、皮膚及び口腔の粘膜層における苔癬性発疹が最初の症状であるが、aGVHDと同一部位に現れることもあり、病変は丘疹状(papulous)、浸潤性で、白色鱗屑で覆われている。病理組織学的観点からaGVHDと比較すると、多くの衛星細胞の壊死が依然として見られるが、リンパ球浸潤は過度の硬化帯域(consolidated band)を示す。これとは別に、胆嚢管が縮小し、胆汁の滞留が見られることもあるが、投薬又はウイルス性肝炎と関連する病変(legions)と混ざっている場合もあり得るため、cGVHDと区別するのが困難な場合もあり得る。
【0008】
cGVHDの場合、免疫機能が既に低下しているため、治療中の重症感染の恐れがあり、治療による副作用のほとんどない新たな有効な治療が切実に必要とされている。これに関して、間充織幹細胞に多くの器官の細胞に分化する能力があり、T細胞を抑制することにより移植片対宿主(graft-versus-hot)反応を改善することができると述べる多くの研究が報告されている。
【0009】
間充織幹細胞は元の中胚葉の始原細胞のように未分化状態で増殖することができ、骨髄、脂肪組織、肝臓、腱、滑膜、及び臍帯等の様々な器官から分離することができるが、それを間充織幹細胞であると正確に規定する単一のマーカーは存在しない。しかし、CD14、CD34、及びCD45が骨髄に対するマーカーとして知られており、SH−2(CD105)、SH−3(CD73)、SH−4、及びTh7−1が間葉に対するマーカーとして知られている。間充織幹細胞又は間充織間質細胞(MSC)は主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)クラス1を発現し、MHCクラス1はインターフェロンγ(IFN−γ)により症状を誘導し得るが、MSCはFAS又はFAS L(CD40)型副刺激分子を示さないため、免疫反応を誘導せず、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)及びナチュラルキラー(NK)細胞による細胞崩壊は起こらない。また、間充織幹細胞は、混合リンパ球反応(MLR)時の密度に依存してT細胞の増殖を抑制し、B細胞の増殖及び免疫グロブリンの形成を抑制するが、MHC適合性はMSC免疫抑制に必要ではないことが知られている。また、50回分裂した場合もMSCの核型又はテロメラーゼの活性に変化はないことが知られている。
【0010】
しかし、体内に存在するMSCは非常に稀であるので、単離技術の発展が重要である。現在、密度勾配遠心分離、Sca−1又はSTRO−1に特異的なモノクローナル抗体を用いた方法、及び細胞サイズによる分離方法がMSCの分離方法として知られている。本発明者らは以前、特定の機械装置又は試薬を必要としない有効なMSC分離方法(韓国特許第10−0802011号明細書)を開発したが、該方法は、個体から採取した骨髄を培養し、培養液の上方を新たな容器に繰り返し取ることによりさらに培養することを特徴とする。
【0011】
cGVHDに対する治療方法に関して、米国特許第6,544,506号明細書は、臓器移植患者に非同種反応性抗細胞傷害性リンパ球を注射することで、細胞傷害性Tリンパ球を除去するという顕著な特徴を有するGVHDの予防及び治療の方法を提示している。米国特許第6,936,281号明細書は、間充織幹細胞を用いるGVHD治療方法を記載している。米国特許第7,173,016号明細書は、アデノシンデアミナーゼ阻害剤を注射する工程を含むGVHD治療方法を記載している。米国特許第6,328,960号明細書は、標的臓器移植患者の同種抗原に対するエフェクター細胞の免疫反応を軽減するために、標的臓器移植患者の抗原に対するエフェクター細胞の免疫反応を軽減することのできる量で、間充織幹細胞を注射するという顕著な特徴を有するGVHD治療方法を記載している。米国特許第6,368,636号明細書は、エフェクター細胞を、同種抗原に対する免疫反応を低減することのできる注射量で間充織幹細胞の上清(upper liquid)と接触させる工程を含む、エフェクター細胞により引き起こされる免疫反応を軽減する方法を記載している。
【0012】
これまで、間充織幹細胞又は骨髄幹細胞を用いてcGVHDの治療が成功した症例は報告されていない。したがって、本発明者らはcGVHDの治療を試み、亜分画培養法を用いて分離した間充織幹細胞又は骨髄幹細胞がcGVHDを効果的に治療することを臨床的に検証することによって、本発明を完成させた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】韓国特許第10−0802011号明細書
【特許文献2】米国特許第6,544,506号明細書
【特許文献3】米国特許第6,936,281号明細書
【特許文献4】米国特許第7,173,016号明細書
【特許文献5】米国特許第6,328,960号明細書
【特許文献6】米国特許第6,368,636号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の一目的は、急性又は慢性の移植片対宿主病に対する治療剤を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、急性又は慢性の移植片対宿主病に対する治療方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために、本発明は、間充織幹細胞又は骨髄幹細胞を含む、急性又は慢性の移植片対宿主病を治療するための治療剤を提供する。
【0017】
また、本発明は、急性又は慢性の移植片対宿主病の患者において、有効な用量の間充織幹細胞又は骨髄幹細胞を注射する工程を含む、移植片対宿主病を治療する方法も含む。
【0018】
一態様では、本発明は、移植片対宿主病を患っていることが確認された被験者において、ドナー骨髄由来のT細胞の活性を阻害する方法であって、それを必要とする被験者に、治療的に有効な量の同種クローン骨髄幹細胞集団を投与することを含む、方法に関する。幹細胞の投与量は、1回の投与につき1×10細胞/kg体重〜1×10細胞/kg体重であり得る。幹細胞は亜分画培養法を用いて単離され得る。幹細胞はCD29細胞表面抗原、CD44細胞表面抗原、及びCD105細胞表面抗原を発現するが、HLA−DR細胞表面抗原は発現しないものであり得る。幹細胞はCD29細胞表面抗原、CD44細胞表面抗原、CD73細胞表面抗原、CD90細胞表面抗原、CD105細胞表面抗原、及びCD166細胞表面抗原を発現するが、CD106細胞表面抗原、CD119細胞表面抗原、又はHLA−DR細胞表面抗原は発現しないものであり得る。同種クローン骨髄幹細胞は、インターロイキン−10を少なくとも約5ng/mlの濃度で分泌し得る。
【0019】
別の態様では、本発明は、移植片対宿主病を患っていることが確認された被験者において、移植片対宿主病の症状を治療する方法であって、それを必要とする被験者に、治療的に有効な量の同種クローン骨髄幹細胞集団を投与することを含む、方法に関する。移植片対宿主病の症状は、胃腸管症状、皮膚硬化、経口摂取の制限、目の乾燥、肝症状、息切れ、又は腕若しくは脚の緊張であり得る。胃腸症状は1日糞便量の増加又は大腸炎症であり得る。肝症状は血清中アルカリホスファターゼ値の上昇であり得る。
【0020】
別の態様では、本発明は、移植片対宿主病を患っていることが確認された被験者において、ドナー骨髄由来のT細胞の活性を阻害する方法であって、(A)骨髄細胞の生体サンプルを操作することであって、(i)細胞サンプルを容器に定着させること、(ii)上清を容器から別の容器に移すこと、及び(iii)サンプルにおいて比較的低い密度を有する細胞を上清から単離し、同種クローン骨髄幹細胞集団を得る、単離することを含む、操作すること、並びに(B)それを必要とする被験者に、(A)で得られる同種クローン骨髄幹細胞集団を治療的に有効な量投与することを含む、方法に関する。上記方法において、容器をコーティングにより処理してもよい。コーティングはコラーゲン、ポリリジン、フィブリノーゲン、又はゼラチンであり得る。
【0021】
さらに別の態様では、本発明は、移植片対宿主病を患っていることが確認された被験者において、移植片対宿主病の症状を治療する方法であって、(A)骨髄細胞の生体サンプルを操作することであって、(i)細胞サンプルを容器に定着させること、(ii)上清を容器から別の容器に移すこと、及び(iii)サンプルにおいて比較的低い密度を有する細胞を上清から単離し、同種クローン骨髄幹細胞集団を得る、単離することを含む、操作すること、並びに(B)それを必要とする被験者に、(A)で得られる同種クローン骨髄幹細胞集団を治療的に有効な量投与することを含む、方法に関する。
【0022】
幹細胞の投与量は、1×10細胞/kg〜1×10細胞/kgであり得る。細胞はCD29細胞表面抗原、CD44細胞表面抗原、及びCD105細胞表面抗原を発現するが、HLA−DR細胞表面抗原は発現しないものであり得る。細胞はCD29細胞表面抗原、CD44細胞表面抗原、CD73細胞表面抗原、CD90細胞表面抗原、CD105細胞表面抗原、及びCD166細胞表面抗原を発現するが、CD106細胞表面抗原、CD119細胞表面抗原、又はHLA−DR細胞表面抗原は発現しないものであり得る。細胞集団は、インターロイキン−10を少なくとも約5ng/mlの濃度で分泌し得る。
【0023】
本発明のこれらの目的及び他の目的は、以下の本発明の説明、本明細書に添付した参照図面、及び本明細書に添付した特許請求の範囲より、さらに十分に理解される。
【0024】
本発明は、本明細書中の以下に示す詳細な説明、及び実例としてのみ示し、したがって、本発明を限定するものではない添付図面により、さらに十分に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明において用いられる亜分画培養法によって、クローン骨髄幹細胞又は間充織間質細胞を単離する手順の流れ図を示す。
【図2】亜分画培養法により単離され、GVHD患者の治療に使用されるクローン骨髄幹細胞上の細胞表面エピトープのFACS表現型検査結果を示す図である。
【図3】A:GVHD患者の治療に使用されるクローン骨髄幹細胞(cMSC−15)から分泌されるTGF−β、及び従来の密度勾配遠心分離法により単離される対照間充織幹細胞の量のグラフを示す。 B:GVHD患者の治療に使用されるクローン骨髄幹細胞(cMSC−15)から分泌されるIL−10、及び従来の密度勾配遠心分離法により単離される対照間充織幹細胞の量のグラフを示す。
【図4】GVHD患者における、クローン骨髄幹細胞の投与後の1日糞便量及びアルカリホスファターゼ活性の変化のグラフを示す。
【図5】A:クローン骨髄幹細胞を注射されたGVHD患者の、治療前の大腸内視鏡検査写真を示す。 B:クローン骨髄幹細胞を注射されたGVHD患者の、治療の10日後に撮影した大腸内視鏡検査写真を示す。 C:クローン骨髄幹細胞を注射されたGVHD患者の、治療の1ヶ月後に撮影した大腸内視鏡検査写真を示す。 D:クローン骨髄幹細胞を注射されたGVHD患者の、治療の3ヶ月後に撮影した大腸内視鏡検査写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本願において、「1つの("a" and "an")」は、物の単数及び複数の両方に言及するために用いる。
【0027】
本明細書中で使用される場合、「身体サンプル」は、単一種の細胞を単離することが望まれる哺乳類から得られる任意のサンプルを指す。かかる身体サンプルとしては、骨髄サンプル、末梢血、臍帯血、脂肪組織サンプル、及びサイトカインで活性化された末梢血が挙げられる。
【0028】
本明細書中で使用される場合、「クローン骨髄幹細胞」は、単一幹細胞に由来する細胞を指す。この表現は、亜分画培養法により得られる「多分化性幹細胞」と交換可能に用いられる。
【0029】
本明細書中で使用される場合、細胞の「同種」集団とは通常、同一の種類の細胞が集団内に存在することを示す。実質的に同種とは、約80%の同種性、又は約85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、若しくは99.9%の同種性を意味し得る。特に、細胞の同種性は単一の細胞起源からの細胞の増殖によるものである。現在利用可能なMSC特異的抗原はなく、したがって利用可能なMSC特異的抗体もない。理論上は、100%同種のMSC集団を得るための唯一の方法は、後にその分化能及び増殖能を特性化することでMSCと確認される単一細胞を増殖させることである。「幹細胞の同種集団」は、後にかかる特性研究により幹細胞と確認される単一細胞に由来する幹細胞を指す。
【0030】
本明細書中で使用される場合、「低密度細胞」は、サンプル中の他のものよりも密度の低く、単離の対象となる細胞を指す。低密度細胞としては、多分化性幹細胞、前駆細胞、及び他の骨髄間質細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
本明細書中で使用される場合、細胞の起源及び治療を考察する目的での「哺乳類」は、ヒト、家畜(domestic and farm animals)、及び動物園、スポーツ、又は愛玩用の動物、例えばイヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ラット、マウス、ウサギ等を含む哺乳類に分類される任意の動物を指す。好ましくは、哺乳類はヒトである。
【0032】
本明細書中で使用される場合、「MLSC」は、多分化性幹細胞を指す。
【0033】
本明細書中で使用される場合、「MLSC/PC」は、多分化性幹細胞又は前駆細胞を指す。
【0034】
本明細書中で使用される場合、「MSC」は、骨髄間質細胞、又は間充織幹細胞、又は骨髄幹細胞を指し、これらの用語は交換可能に用いられる。
【0035】
本明細書中で使用される場合、「細胞サンプル」は、骨髄サンプル、末梢血、臍帯血、脂肪組織サンプル、及びサイトカインで活性化された末梢血を含む、異なる種類の細胞の混合物を含有する任意のサンプルを指す。
【0036】
亜分画培養法
移植片対宿主病の治療に使用される細胞を得るのに好ましい方法は、MSC、MLSC、又はMLSC/PCを単離する任意の特定の方法にとらわれるものではなく、ヒト骨髄等の身体サンプル又は起源から同種性の高いクローン骨髄幹細胞集団又は多分化性幹細胞(MLSC)を単離するために使用される方法である、「亜分画培養法」によるものである。その手順は、米国特許出願公開第2006/0286669号明細書(米国特許出願第11/471,684号明細書、2006年6月19日出願)「多分化性幹細胞の単離(Isolation of Multi-Lineage Stem Cells)」(その内容全体が参照により本明細書中に援用される)に記載されている。
【0037】
骨髄MSCは、造血細胞を混入させることなく単離することが困難であることが知られている。臨床応用のためには、免疫原性の問題を回避し、臨床効果を正確に評価する目的で、MSCの同種集団を得ることが重要である。従来、MSCの同種集団の単離は、MSCに特異的な抗体カラムによる精製により行なわれていた。しかし、このように完全にMSCに特異的な抗体が未だに利用可能でないため、この方法は好適ではない。
【0038】
重いか、又は密度の高い細胞のほとんどは、最初に2回行われる2時間のインキュベート工程において除去され得るため、亜分画培養法の実施において、赤血球又は白血球等の任意の種類の細胞をサンプルから予め取り出すために、いかなる種類の遠心分離も行う必要がない。このように、本発明のシステムの利点の1つは、細胞培養液中にPicoll、Ficoll、又はFicoll−hypaque等の混入をもたらすおそれのある、従来用いられる密度勾配遠心分離工程及び単核細胞分画工程を避けることができることである。したがって、本発明の亜分画培養法は、身体サンプル、好ましくは骨髄サンプルから同種性の高いMLSCを単離するための、単純且つ効果的で、経済的なプロトコルである。
【0039】
代替的には、従来の密度勾配遠心分離によるMSCの単離法により単離/分画された単核細胞も、単一細胞に由来するコロニーを得て、その後幹細胞又は前駆細胞の同種集団を単離するために、D1皿に供することができる(図1)。したがって、亜分画培養法は、従来の密度勾配遠心分離法により分画された単核細胞について用いることができる。
【0040】
本願は、生体サンプル、特に骨髄サンプル中に存在する多分化性幹細胞又は前駆細胞には、例示するように幾つか異なる種類があることを示す、単離される単一細胞に由来する幹細胞系の細胞表面タンパク質の発現における特徴の多様性について記載する。単離したMLSCは通常、CD34、HLA−DR、CD31、CD166、HLAクラスIに対しては陰性又はわずかに陽性であり、CD44、CD29、CD105に対しては非常に陽性であった。しかし、D4皿及びD5皿より得られる幾つかの細胞系は、顕著なレベルの表面タンパク質を示したが、このことは、骨髄中には幾つか異なる種類の多分化性幹細胞又は前駆細胞が存在し得ることを示している(図1)。これらの異なる表面マーカーを有するMSCは、異なる細胞分化能を示し得る。したがって、亜分画培養法による単一細胞に由来する同種幹細胞の単離により、これらの細胞群が骨髄又は他の特異的に単離した身体サンプル中に存在し、且つ培養条件により細胞増殖中にこれらの能力が変化しない限りは、組織特異的な幹細胞又は関係する前駆細胞の単離が可能になる。MSCによる治療及び細胞移植処理の安全性及び有効性は、本願に示すように、特定の性質を有する細胞の亜集団を特徴付けることができることにより向上する。
【0041】
密度勾配遠心分離工程及び単核細胞分画工程を省くことにより、且つ幹細胞の分離に抗体又は特定の酵素を用いることを必要とせずに、亜分画培養法により、単純且つ効率的で経済的な手順で、より同種なMSC又はMLSCの集団ができ、治療状況に対してより安全な適用がなされる。
【0042】
本発明の実施においては、好ましくは骨髄幹細胞は上記の亜分画培養法を用いて得ることができるが、これに限定されない。さらに、得られるMSCがCD29細胞表面抗原、CD44細胞表面抗原、CD105細胞表面抗原のいずれか又は全てを発現するのが好ましい。MSCにおいて、HLA−DR細胞表面抗原のいずれか又は全てが発現されないのも好ましい。より好ましくは、CD29細胞表面抗原、CD44細胞表面抗原、CD90細胞表面抗原、CD105細胞表面抗原、及びCD166細胞表面抗原のいずれか又は全てがMSCにおいて発現され、CD106細胞表面抗原、CD119細胞表面抗原、及びHLA−DR細胞表面抗原のいずれか又は全てがMSCにおいて発現されない。
【0043】
好ましくは、本発明に使用されるMSCは、インターロイキン(Interlukin)−10(IL−10)を発現する。好ましくは、IL−10は培養後、治療の時点で5ng/ml超又は10ng/ml超発現される。
【0044】
一態様において、本発明は、1)個体から骨髄を得る工程、2)骨髄を培養する工程、3)2)の上清のみを新たな容器に移すと共に、培養する工程、及び4)3)の上清のみを分離すると共に、任意でコーティング処理した培養容器において繰り返して培養する工程を含む、亜分画培養法により得られる細胞の使用に関する。
【0045】
上記の亜分画培養法に関して、上記工程4)の繰り返しの培養は、任意の特定の時間量に限定されるものではないが、37℃で約1時間〜4時間、次に約2回〜3回繰り返して37℃で約12時間〜36時間、次に37℃で約24時間〜72時間、毎回上清を新たな培養容器に移しながら行われ得る。
【0046】
別の態様では、より接着性の高い幹細胞を得るために、コラーゲン、ゼラチン、フィブリノーゲン、又はポリリジンでコーティングされた培養皿が用いられた。本出願人は、電荷を有する任意の培養表面は、正電荷及び負電荷のいずれであっても、コーティングしていない皿の表面に比べ、幹細胞の表面への接着を促進することを発見した。コラーゲン又はポリリジンでコーティングした培養皿には、コーティングしていない皿よりも、それぞれ約2倍〜3倍の細胞が付着した(データは示さない)。
【0047】
このように、一実施形態では、培養皿の底面は、幹細胞又は前駆細胞が皿の底面により良好に接着するのを促進するために、ポリリジン、ポリアルギニン等の正電荷を有するアミノ酸、若しくはポリアスパラギン酸塩、ポリグルタミン酸塩等の負電荷を有するアミノ酸、又はこれらの組み合わせでコーティングすることができる。
【0048】
培養容器をコーティング処理するのが好ましく、細胞の容器への接着を向上することのできる(than can)任意の物質が使用され得るが、コラーゲン、ポリリジン、フィブリノーゲン、又はゼラチンを使用するのが特に好ましい。より好ましくは、コラーゲン又はポリリジンが使用され得る。さらにより好ましくは、コラーゲンが使用され得る。また、細胞をコラーゲンで処理した培養容器中で約3回〜6回繰り返して培養するのが望ましく、細胞を約4回〜5回繰り返して培養するのがさらにより望ましい。
【0049】
治療剤の医薬品は、当業界における従来の知識を用いて製造することができる。例えば、治療剤は水又は薬学的に許容可能な滅菌溶液、並びに注射用懸濁液中の非経口剤型で使用することができる。例えば、薬学的に許容可能な担体又は媒体、具体的には滅菌水又は生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定化剤、賦形剤、ビヒクル、保存剤、結合剤等と組み合わせて、必要に応じて薬学的応用において一般に認められている単位量形態(unit capacity format)でブレンドした医薬品を挙げることができる。また、注射用の滅菌合成物を、既知の薬学的応用に基づき、注射用蒸留水等の支持液体を用いて処方することができる。
【0050】
併用することのできる注射用の水性溶液の例としては、生理食塩水、グルコース、又はD−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール(D-manitol)、塩化物、若しくはナトリウム等の支持薬物を含む等張液を挙げることができる。適切な液化支持剤の例としては、アルコール、具体的にはエタノール、又はプロピレングリコール等の多価アルコール、又はポリソルベート80(商標)若しくはHCO−50等の非電離界面活性剤を挙げることができる。
【0051】
油剤としては、ゴマ油又はダイズ油を挙げることができ、安息香酸ベンジル又はベンジルアルコールと併用することができる。また、油剤はリン酸緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液等の緩衝剤、又はノボカイン等の鎮痛溶液、又はベンジルアルコール、フェノール等の安定化剤、又は抗酸化剤と組み合わせることができる。調製した注射液体は一般に認められた適切なアンプル中に入れることができる。
【0052】
患者の体内への投与は非経口的であるのが望ましく、より具体的には、静脈に1回又は3回投与するのが基本であるが、それ以上の注射も許容可能である。さらに、投与期間は短期間であっても、又は長期間であってもよい。より具体的には、注射式又は経皮式の投与を挙げることができる。注射式の例としては、静脈注射、動脈注射、選択的動脈注射、筋肉注射、腹腔内注射、皮下注射、脳室内注射(intracerebral injection)、脳内注射(cerebral injection)、又は骨髄注射により投与することができるが、静脈注射が望ましい。静脈注射の場合、一般的な輸血を用いた移植方法が可能であるため、患者の外科手術は必要なく、さらに局所麻酔が必要ないことから、患者及び医師の負担は軽い。救急医療の今後の発展を考慮すると、緊急輸送中、又は現場(critical site)での投与を考えることができる。
【0053】
また、本発明は、間充織幹細胞又は骨髄幹細胞を治療に有効な用量で、上記の移植片対宿主病を患う患者に投与する工程を含む、移植片対宿主病の患者を治療する方法を提供する。
【0054】
哺乳類、特にヒトにおけるGVHD又はGVHDの症状の治療のためのクローン骨髄細胞の単回注射当たりの有効量は、1×10細胞/kg体重〜1×10細胞/kg体重、2×10細胞/kg体重〜1×10細胞/kg体重、2.5×10細胞/kg体重〜1×10細胞/kg体重、2×10細胞/kg体重〜1×10細胞/kg体重、2.5×10細胞/kg体重〜1×10細胞/kg体重、2×10細胞/kg体重〜3×10細胞/kg体重、2.5×10細胞/kg体重〜3×10細胞/kg体重、2×10細胞/kg体重〜2×10細胞/kg体重、2.5×10細胞/kg体重〜2×10細胞/kg体重、2×10細胞/kg体重〜1×10細胞/kg体重、2.5×10細胞/kg体重〜1×10細胞/kg体重、2×10細胞/kg体重〜1×10細胞/kg体重、又は2.5×10細胞/kg体重〜1×10細胞/kg体重であり得る。
【0055】
任意の特定の投与方法に限定されるものではないが、非経口投与方法が好ましい。全身又は局所(partial body)投与が可能であるが、全身投与が好ましく、静脈注射が最も好ましい。
【0056】
移植片対宿主病の治療
本発明者らは、治療に反応を示さなかった急性又は慢性の移植片対宿主病患者の状態を、米国特許出願公開第2006/0286669号明細書(2006年6月19日出願)「多分化性幹細胞の単離(Isolation of Multi-Lineage Stem Cells)」(その内容全体が参照により本明細書中に援用される)に記載される方法(図1)を用いて分離した間充織幹細胞又は骨髄幹細胞を投与することで改善することができた。
【0057】
GVHDの兆候又は症状に関しては、皮膚硬化、経口摂取の制限、目の乾燥、嚥下障害、食欲不振、嘔気、嘔吐、腹痛、若しくは下痢等の胃腸(GI)管症状、ビリルビン値の上昇、アルカリホスファターゼ値の上昇、及びアラニンアミノトランスフェラーゼ(aminotranferease)(ALT)/アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)比(AST/ALT)の上昇により現れる肝症状、息切れ、及び/又は腕若しくは脚の緊張が挙げられる。
【0058】
被験者は、移植片対宿主病に冒された組織に応じて複数の症状を示し得る。4つ〜5つの症状を有する患者もいれば、1つ〜2つの症状を有する患者もいる。したがって、本発明は、被験者の任意の組織に現れる、GVHDに関連する症状のいずれか又は全てを治療することに関する。兆候又は症状を治療することにより、GVHD疾患自体も治療されると考えられる。
【0059】
以下の記載は、亜分画培養法の適用、及びそれにより得られる同種クローン骨髄幹細胞を、GVHDの症状を患っていることが確認された個体に投与するために使用することの詳細を提供する。理論に束縛されるものではないが、投与した幹細胞が被験者においてIL−10を分泌し、これがドナーのT細胞の悪影響を中和又は不活性化することにより、GVHD及びGVHDの症状が治療されると考えられる。
【0060】
間充織幹細胞又は骨髄幹細胞を、慢性移植片対宿主病を患う上記患者の母親から亜分画培養法を用いて分離し、モノクローナル起源の細胞系として樹立した後、これをcMSC−15と命名した。細胞表面抗原分析を柔組織細胞分析により行なって、上記細胞系が実際に間充織幹細胞又は骨髄幹細胞であるか否かを求めた(図2)。この結果、CD29細胞表面抗原、CD44細胞表面抗原、CD90細胞表面抗原、CD105細胞表面抗原、及びCD166細胞表面抗原が発現し、CD106細胞表面抗原、CD119細胞表面抗原、及びHLA−DR細胞表面抗原が発現しないことが示されたため、これが間充織幹細胞又は骨髄幹細胞であり、造血幹細胞ではないことが確認された。CD133及びSTRO−1発現は弱陽性であった。したがって、上記細胞系の特性をより具体的に検証するために、TGF−β及びIL−10の発現の程度をELISA法を用いて検証した(図3)。TGF−β発現の場合、対照である従来の密度勾配遠心分離法により得られる間充織幹細胞との大きな違いはなかった。しかし、IL−10は、対照と比較して少なくとも5倍の発現の増加を示した。
【0061】
したがって、本発明者らは、上記の樹立した間充織幹細胞又は骨髄幹細胞を治療に十分な量となるまで培養した後、慢性移植片対宿主病の発症により生命が危険な状況にある患者の治療に適用した。具体的には、上記患者は急性骨髄性白血病であると診断され、導入療法により寛解に到達した後、同種骨髄移植を受けた18歳の女性であった。6ヶ月間の免疫抑制剤の投与を停止して1ヶ月後、慢性移植片対宿主病が発症し、シクロスポリンA(CsA)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、及びステロイドを用いて治療したが、継続的な血便、ビリルビン値の上昇、並びに皮膚、口、及び眼の乾燥により患者の状態は悪化し、治療の副作用のためサイトメガロウイルス(CMV)が活性化し、BKウイルスの感染により尿及び血液中でもBKウイルスが見られたため、Cideforvirを用いた治療を開始した。
【0062】
本発明者らは、上記の培養した間充織幹細胞又は骨髄幹細胞を、韓国食品医薬品安全庁の応急臨床許可を受けた後、静脈注射により1回投与した。投与中又は投与後に有害/陰性反応は観察されず、患者の症状は1回目の投与後から徐々に改善され、2回目の投与は3週間後に行なった。その後、患者の症状は改善され、2回目の投与の34日後に、患者はステロイドの服用を止め、免疫抑制剤のみ服用している状態で退院した。
【0063】
この治療の病的影響を検証するために、本発明者らは、移植片対宿主病の主要な指標である糞便量及び血中アルカリホスファターゼの活性を測定した(図4)。糞便量は大幅に減少し、血清学的指標である血中アルカリホスファターゼの活性も正常値(60ng/ml〜220ng/ml)まで低下した。また、大腸内視鏡検査分析を行ない、症状が改善されているかを検証した(図5)。図5に示すように、本発明における間充織幹細胞又は骨髄幹細胞の投与後の時間の経過に伴い、潰瘍は大腸内視鏡検査データよりもさらに改善された。
【0064】
上記のように、本発明者らは、本発明の亜分画培養法を用いて分離した間充織幹細胞又は骨髄幹細胞が、慢性移植片対宿主病の治療に有効であることを臨床試験により検証した。
【0065】
本発明の範囲は、本明細書中に記載される特定の実施形態に限定されない。実際に、本明細書中に記載されるものに加えて、本発明の様々な変更形態が、上述の記載及び添付の図面から当業者に明らかである。かかる変更形態は、添付の特許請求の範囲内にあることが意図される。以下の実施例は本発明を例示する目的で提示され、限定を目的とするものではない。
【実施例】
【0066】
実施例1−亜分画培養法を用いた間充織幹細胞又は骨髄幹細胞の分離
骨髄提供者(治療標的の慢性移植片対宿主病患者の母親)の臀部に局所麻酔を適用した後、注射針を寛骨に挿入して骨髄を抽出した。20%FBS、及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン、及び上記の骨髄提供者から抽出した骨髄2mlを含む15mlのDMEM(ダルベッコ変法イーグル培地、GIBCO-BRL, Life-technologies、MD、USA)を100mmの培養容器に入れ、37℃、5%COの細胞培養器内で2時間培養した。培養の後、底部に付着した細胞が落ちないように培養容器を少し傾けて、培養容器内の培養液の上層を最大の量で新たな容器に移した。
【0067】
同一の手順をもう1度繰り返した後、採取した培養液を培養容器(Becton Dickinson)に移し、37℃で2時間培養した。培養液を再度新たな容器に移し、24時間後に別の新たな容器に移し、24時間後に再度新たな容器に移した。最後に、48時間後、新たな容器に移した後に残った細胞は培養容器の底部に付着し、増殖したことを目視で検証した。幾度かの層分離を経て、この工程に達することのできる細胞は、他の細胞より小さい細胞であると推測することができる。約3時間〜5時間の経過後には、細胞は単一クローンを形成する。この単一クローンをトリプシンで処理し、分離して、1ウェル当たり10〜6×10の細胞数で6ウェル培養容器に移した。37℃、5%COの細胞培養器で4日〜5日間培養した後、細胞が80%増殖した時点で細胞を0.25%トリプシン/1mM EDTA(GIBCO-BRL)で処理し、集めた後、75cmの培養容器に移し、続いて培養した。モノクローナル起源を有する細胞系を上記のように得て、cMSC−15と命名した。
【0068】
上記細胞の形状を顕微鏡下で観察した結果、初期段階の細胞は線維芽細胞と同様の形状を有し、連続培養の第5段階まで形状の大きな変化は見られないことが明らかとなった。細胞が倍になるのにかかる時間は、24時間〜36時間であることが観察され、線維芽細胞と大差なかった。
【0069】
実施例2−分離した間充織幹細胞又は骨髄幹細胞の検証
実施例2.1−フローサイトメトリーを用いた間充織幹細胞又は骨髄幹細胞の特性の分析
上記実施例1の方法を用いて骨髄から分離したcMSC−15細胞が間充織幹細胞又は骨髄幹細胞であるかを検証するために、フローサイトメトリー(BD Biosciences)を使用して、細胞表面抗原が幹細胞特性を有するかを調べた。
【0070】
75cm2の培養容器内で6日〜7日間連続培養した幹細胞を、0.25%トリプシンで処理し、細胞を集めた。細胞を1×PBS/0.4%BSAで2回洗浄し、トリプシン及び培養液を除去した。細胞を遠心分離を用いて回収し、細胞数を測定した後、1×106個の細胞を1.5ml容試験管に集め、ヤギ血清(Vector)を用いて室温で1時間ブロッキングした。ブロッキングが完了した後、細胞を1×PBS/0.4%BSAで2回洗浄し、フィコエリスリン(PE)標識(attached)抗CD14、CD29、CD31、CD34、CD44、CD73、CD90、CD105、CD106、CD119、CD133、CD166、HLA−DR、HLAクラス1及びSTRO−1抗体(Serotec Ltd、Kidington、OX、UK)の各々で処理し、4℃で40分間反応させた。細胞を1×PBS/0.4%BSAで2回洗浄した後、0.5mlの1×PBS/0.4%BSA中に懸濁し、フローサイトメトリーに入れ、分析した。
【0071】
間充織幹細胞に特異的なインテグリン抗原であるCD29、並びに同様に間充織幹細胞に特異的なマトリックス受容体抗原であるCD44及びCD105は、陽性反応を示した。CD90細胞表面抗原、CD166細胞表面抗原、及びHLAクラス1細胞表面抗原は発現したが、CD106細胞表面抗原、CD119細胞表面抗原、並びにHLA−DR細胞表面抗原は発現しなかった。これとは別に、CD31、CD133、及びSTRO−1の場合、発現レベルは弱陽性であった(図2)。かかる細胞表面抗原の発現は、6連続の培養を受けた細胞において維持されていた。このことは、分離細胞は連続培養しても、間充織幹細胞に特異的な抗原を継続して発現することを示す。
【0072】
実施例2.2−間充織幹細胞の免疫抑制に関連するサイトカイン分泌状態の分析
本発明者らは、本発明における亜分画培養法を用いて単離した間充織幹細胞の特性についてさらに調べるために、免疫抑制関連サイトカインの発現レベルを分析した。
【0073】
具体的には、同一の骨髄提供者から採取し、現行の密度勾配遠心分離法を用いて分離した間充織幹細胞又は骨髄幹細胞(対照群)、及び実施例1に記載した上記の方法を用いて分離した本発明におけるcMSC−15を培養した後、培養液において分泌されるTGF−β及びIL−10の発現量を酵素免疫測定法(ELISA)を用いて分析した。正確な分析のために、上記2つの細胞系は無血清バッチを用いて培養し、上記ELISAはともにR&D systems(USA)製のキットを使用し、メーカーの使用説明書に従って行なった。
【0074】
分析の結果、TGF−βでは対照群との違いはほとんど示されなかったが、IL−10の場合、亜分画培養法を用いて得られたcMSC−15細胞は、対照群と比較して5倍を超える発現の増加を示した(図3)。このことは、移植片対宿主病の治療効果と、間充織幹細胞又は骨髄幹細胞のIL−10発現レベルとの間に相関があることを示す。
【0075】
実施例3−単離した間充織幹細胞又は骨髄幹細胞の臨床適用
実施例3.1−間充織幹細胞又は骨髄幹細胞の投与
患者は急性骨髄性白血病であると診断され、導入療法により寛解に到達した後、同種骨髄移植を受けた18歳の女性であった。6ヶ月間の免疫抑制剤の投与を停止して1ヶ月後、慢性移植片対宿主病が発症し、シクロスポリンA(CsA)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、及びステロイドを用いて治療したが、継続的な血便、ビリルビン値の上昇、並びに皮膚、口、及び眼の乾燥により患者の状態は悪化し、治療の副作用のためCMVが活性化し、BKウイルスの感染により尿及び血液中でもBKウイルスが見られたため、Cideforvirを用いた治療を開始した。韓国食品医薬品安全庁の応急臨床許可を受けた後、実施例1に記載のように単離した患者の母親の間充織幹細胞又は骨髄幹細胞をGMP施設において培養し、静脈注射を用いて患者に投与した。投与中又は投与後に有害/陰性反応は観察されず、患者の症状は1回目の投与後から徐々に改善され、2回目の投与は1回目と同一の量で3週間後に行なった。その後、患者の症状は大幅に改善され、2回目の投与の34日後に、患者はステロイドの服用を止め、免疫抑制剤としてMMFのみを1.5g/日で服用している状態で退院した。
【0076】
実施例3.2−治療後の疾患の指標の変化
本発明における亜分画培養法を用いて単離された間充織幹細胞又は骨髄幹細胞が治療に有効であるかを検証するために、本発明者らは、糞便量及び主な指標である血中アルカリホスファターゼの活性を測定した(図4)。血中アルカリホスファターゼの活性化は、市販のキット(Sigma Chemical Company、USA)を用いて行なった。
【0077】
結果として、慢性移植片対宿主病の主な指標である糞便量は大幅に減少し、血清学的指標である血中アルカリホスファターゼの活性も正常値(60ng/ml〜220ng/ml)まで低下した。また、大腸内視鏡検査分析を行ない、症状が改善されているかを検証した(図5)。結果として、間充織幹細胞の投与から3ヶ月後の大腸内視鏡検査による見解は、潰瘍が非常に改善されているというものであった。上述したように、本発明者らは、本発明における亜分画培養法を用いて分離した間充織幹細胞又は骨髄幹細胞が慢性移植片対宿主病の治療に有効であることを臨床試験により検証した。
【0078】
本発明は、間充織幹細胞又は骨髄幹細胞を活性成分として含む、急性又は慢性の移植片対宿主病を治療するための治療剤に関するものであるが、本発明における治療剤により、治療が非常に困難であった移植片対宿主病、特に骨髄移植外科手術の後、副作用として頻繁に起こる致命的な急性又は慢性の移植片対宿主病を非常に効果的に治療することができる。
【0079】
本明細書中で引用した参考文献の全ての内容は、参照により本明細書中に援用される。
【0080】
当業者であれば、単なる日常実験により、本明細書中に具体的に記載の具体的実施形態の多くの均等物を理解するであろうし、又は確認することができる。かかる均等物も、特許請求の範囲内に含まれるように意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植片対宿主病を患っていることが確認された被験者において、ドナー骨髄由来のT細胞の活性を阻害する方法であって、それを必要とする被験者に、治療的に有効な量の同種クローン骨髄幹細胞集団を投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記幹細胞の投与量が、1回の投与につき1×10細胞/kg体重〜1×10細胞/kg体重である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記幹細胞を亜分画培養法を用いて単離する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記幹細胞がCD29細胞表面抗原、CD44細胞表面抗原、及びCD105細胞表面抗原を発現するが、HLA−DR細胞表面抗原は発現しない、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記幹細胞がCD29細胞表面抗原、CD44細胞表面抗原、CD73細胞表面抗原、CD90細胞表面抗原、CD105細胞表面抗原、及びCD166細胞表面抗原を発現するが、CD106細胞表面抗原、CD119細胞表面抗原、又はHLA−DR細胞表面抗原は発現しない、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記同種クローン骨髄幹細胞が、インターロイキン−10を少なくとも約5ng/mlの濃度で分泌する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
移植片対宿主病を患っていることが確認された被験者において、移植片対宿主病の症状を治療する方法であって、それを必要とする被験者に、治療的に有効な量の同種クローン骨髄幹細胞集団を投与することを含む、方法。
【請求項8】
前記移植片対宿主病の症状が、胃腸管症状、皮膚硬化、経口摂取の制限、目の乾燥、肝症状、息切れ、又は腕若しくは脚の緊張である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記胃腸症状が1日糞便量の増加である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記胃腸症状が大腸炎症である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記肝症状が血清中アルカリホスファターゼ値の上昇である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
移植片対宿主病を患っていることが確認された被験者において、ドナー骨髄由来のT細胞の活性を阻害する方法であって、
(A)骨髄細胞の生体サンプルを操作することであって、
(i)前記細胞サンプルを容器に定着させること、
(ii)上清を前記容器から別の容器に移すこと、及び
(iii)前記サンプルにおいて比較的低い密度を有する細胞を前記上清から単離し、同種クローン骨髄幹細胞集団を得る、単離することを含む、操作すること、並びに
(B)それを必要とする前記被験者に、(A)で得られる同種クローン骨髄幹細胞集団を治療的に有効な量投与することを含む、方法。
【請求項13】
前記容器をコーティングにより処理する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記コーティングがコラーゲン、ポリリジン、フィブリノーゲン、又はゼラチンである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
移植片対宿主病を患っていることが確認された被験者において、移植片対宿主病の症状を治療する方法であって、
(A)骨髄細胞の生体サンプルを操作することであって、
(i)前記細胞サンプルを容器に定着させること、
(ii)上清を前記容器から別の容器に移すこと、及び
(iii)前記サンプルにおいて比較的低い密度を有する細胞を前記上清から単離し、同種クローン骨髄幹細胞集団を得る、単離することを含む、操作すること、並びに
(B)それを必要とする前記被験者に、(A)で得られる同種クローン骨髄幹細胞集団を治療的に有効な量投与することを含む、方法。
【請求項16】
前記細胞の投与量が、1×10細胞/kg〜1×10細胞/kgである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞がCD29細胞表面抗原、CD44細胞表面抗原、及びCD105細胞表面抗原を発現するが、HLA−DR細胞表面抗原は発現しない、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞がCD29細胞表面抗原、CD44細胞表面抗原、CD73細胞表面抗原、CD90細胞表面抗原、CD105細胞表面抗原、及びCD166細胞表面抗原を発現するが、CD106細胞表面抗原、CD119細胞表面抗原、又はHLA−DR細胞表面抗原は発現しない、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞集団が、インターロイキン−10を少なくとも約5ng/mlの濃度で分泌する、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
急性又は慢性の移植片対宿主病を治療するための治療剤であって、活性成分として同種クローン骨髄幹細胞集団を含む、治療剤。
【請求項21】
前記細胞が、亜分画培養法を用いて単離される、請求項20に記載の治療剤。
【請求項22】
前記細胞がCD29細胞表面抗原、CD44細胞表面抗原、及びCD105細胞表面抗原を発現するが、HLA−DR細胞表面抗原は発現しない、請求項20に記載の治療剤。
【請求項23】
前記細胞がCD29細胞表面抗原、CD44細胞表面抗原、CD73細胞表面抗原、CD90細胞表面抗原、CD105細胞表面抗原、及びCD166細胞表面抗原を発現するが、CD106細胞表面抗原、CD119細胞表面抗原、又はHLA−DR細胞表面抗原は発現しない、請求項20に記載の治療剤。
【請求項24】
前記細胞が少なくとも約5ng/mlのインターロイキン−10(IL−10)を分泌する、請求項20に記載の治療剤。
【請求項25】
前記細胞が、密度勾配遠心分離法を用いて単離される細胞の少なくとも約5倍のIL−10を分泌する、請求項20に記載の治療剤。
【請求項26】
密度勾配遠心分離法を用いて単離される細胞の少なくとも約5倍のIL−10を発現する、同種クローン骨髄幹細胞集団。
【請求項27】
密度勾配遠心分離法を用いて単離される細胞の少なくとも約5倍のIL−10を発現する、同種クローン骨髄幹細胞集団であって、
(i)骨髄細胞のサンプルを容器に定着させること、
(ii)上清を前記容器から別の容器に移すこと、及び
(iii)前記サンプルにおいて比較的低い密度を有する細胞を前記上清から単離することにより得られる、同種クローン骨髄幹細胞集団。
【請求項28】
前記骨髄細胞を37℃で約1時間〜3時間、次に約2回〜3回繰り返して37℃で約12時間〜36時間、次に37℃で約24時間〜72時間、毎回培養上清の上方を新たな培養容器に移しながらインキュベートする、請求項27に記載の同種クローン骨髄幹細胞集団。
【請求項29】
前記容器をコーティングにより処理する、請求項27に記載の同種クローン骨髄幹細胞集団。
【請求項30】
前記コーティングがコラーゲン、ポリリジン、フィブリノーゲン、又はゼラチンである、請求項29に記載の同種クローン骨髄幹細胞集団。
【請求項31】
前記繰り返しのインキュベーションを約4回〜5回行なう、請求項28に記載の同種クローン骨髄幹細胞集団。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−527988(P2010−527988A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508932(P2010−508932)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【国際出願番号】PCT/IB2008/003005
【国際公開番号】WO2009/040666
【国際公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(310009524)ホメオ セラピー カンパニー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】