説明

移植用材料及び未分化間葉系幹細胞の培養方法

【課題】口唇口蓋裂症や変形関節症などの複雑、且つ広範な骨又は軟骨欠損をともなう疾患の治療において、骨又は軟骨欠損部に移植して、これらをより短期間で再生するための移植用材料及びこれの作製に関連する未分化間葉系幹細胞の培養方法を提供する。
【解決手段】コラーゲンなどのゲル形成材と、ヒアルロン酸と、未分化間葉系幹細胞と、緩衝液と、動物細胞培養液とを混合してゲル化し移植用材料とした。この移植用材料に包埋された未分化間葉系幹細胞は、分化誘導因子が存在しない環境下では未分化のまま増殖するが、分化誘導因子が存在する環境下では、ヒアルロン酸を含まない対照群と比較して骨や軟骨への分化がより強く誘導される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、移植用材料及び未分化間葉系幹細胞の培養方法に関するものであり、特に複雑かつ広範囲な三次元形状の骨又は軟骨欠損部に対する修復治療に使用可能な移植用材料、及びこれの作製に関連する未分化間葉系幹細胞の培養方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
口唇口蓋裂症や変形性顎関節症に罹患した患者は、その骨又は軟骨の一部に欠損が生じており、これを治療して正常な咬合機能を回復するため、顎顔面部の骨及び軟骨の再生技術を確立することは歯科医療分野において極めて重要な研究課題である。近年、各種分化誘導因子を使用することにより、未分化間葉系幹細胞から骨芽細胞や軟骨細胞への誘導が可能となってきてはいるが、これらの細胞を上記のような複雑かつ広範囲な三次元形状の欠損部に対して適用するためには、細胞を患部に固定して生着するのに適した担体が求められている。
【0003】
このような担体としては、コラーゲン、動物細胞培養用培地、緩衝液等を含むゲル状の担体が挙げられ、この担体に未分化間葉系幹細胞を包埋した移植用材料も開発されている(非特許文献1を参照。)。ただ、この移植用材料は、安全性、細胞の増殖性に優れてはいるものの、未分化間葉系幹細胞から目的とする細胞に分化するまでに時間がかかるとの問題点があった。
【非特許文献1】米野ら、"Multi-differentiation Potential of Mesenchymal Stem Cells in Collagen Gel."第51回国際歯科研究学会日本部会(JAPANESE ASSOCIATION FOR DENTAL RESEARCH 2003年12月1,2日開催)抄録集第115頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、この発明は、安全、かつ細胞の増殖性に優れているとともに、移植されてから短時間で包埋している未分化間葉系幹細胞が骨芽細胞や軟骨細胞などの細胞に分化するとともに、移植された組織に生着・吸収され易い移植用材料、及びこれの作製に関連する未分化間葉系幹細胞の培養方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の移植用材料は、コラーゲンなどの生体吸収性のゲル形成材、未分化間葉系幹細胞、緩衝液、動物細胞用培養液などを含有するゲル状の移植用材料において、ヒアルロン酸をその成分として含有していることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
この発明の移植用材料は、従来からある移植用材料に比べ、骨又は軟骨欠損部に移植されると包埋している未分化間葉系幹細胞がより短期間で分化し、移植された組織と一体化する。そのため、口唇口蓋裂症や変形性顎関節症で生じた欠損部に移植すれば、これら疾患の治療期間を短縮することができ、患者の生活の質を向上することができる。また、この発明の未分化間葉系幹細胞の培養方法は、分化誘導因子を別途添加しなければ、未分化のまま間葉系幹細胞を増殖することができるため、生着性のよい移植用材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
この発明の移植用材料は、生体吸収性のゲル形成材、ヒアルロン酸、未分化間葉系幹細胞とを少なくとも含有しており、未分化間葉系幹細胞の生存・増殖に必要な動物細胞用培養液、緩衝液などを含んでいてもよい。そこで、これら各成分について以下に詳説する。
【0008】
この発明に使用するゲル形成材としては、細胞を生きたまま封入でき、且つ生体内で分解するものであれば特に限定なく使用することができる。すなわち、0℃から40℃程度の範囲内でゾル−ゲル転移でき、溶媒が水であるもの、すなわちハイドロゲルであり、その水のpHおよび浸透圧は生理的条件、すなわちpHは中性(pH=7)付近、浸透圧は200〜300mOsmであるのものであればよい。なお、以上の条件を満たすゲル形成材としては、コラーゲン、ポリロタキサン、ゼラチン、フィブロネクチン、ヘパリン、キチン、キトサン、ラミニン、アルギン酸カルシウム、アガロースなどのような天然高分子材料、ポリ(メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル)などのような合成高分子材料が例示できる。
【0009】
これらの中でも、コラーゲンは中性水溶液で、4℃付近の低温でゾル状態のものが、生体温度(37℃)付近でゲル化する性質を有すること、アガロースは20℃付近の温度でゲル化する性質を有すること、アルギン酸は 2価のプラス金属イオン(Ca2+、Mg2+など)を添加すると生理的条件下でゲル化する性質を有すること、及びこれらは移植後に分解吸収されることから、ゲル形成材としてはこれらを使用することが好ましい。
【0010】
なお、コラーゲンとしては、酸可溶性コラーゲン、アルカリ可溶性コラーゲン、酵素可溶性コラーゲンなどの様々な可溶性コラーゲンがあるが、I型コラーゲン、その中でも、アテロコラーゲンが、生体毒性の原因となる分子末端のテロペプチドが酵素処理により一部または全部除去されているため好ましい。なお、コラーゲンを使用する場合には、移植用材料がゲル化する程度の量、例えば、移植用材料の全重量に対して酸可溶性コラーゲンを使用する場合には0.1〜0.5重量%程度の割合で混合する。なお、酵素可溶性コラーゲンを使用する場合には、もう少し濃度を高くすることができる。
【0011】
この発明に使用するヒアルロン酸は、自然産の物質、例えば、ニワトリの鶏冠から抽出した酸のような天然産のものから精製したものであり臨床応用可能なものであれば、採取した種や部位にかかわらず使用することができるが、乳酸菌が産生したものが好ましい。なお、ヒアルロン酸の量としては、移植用材料の全重量に対して0.1〜10mg/mlであり、0.1〜2mg/ml程度が好ましい。
【0012】
この発明に使用する未分化間葉系幹細胞は、例えば、動物(ヒトを含む、以下同じ。)の骨髄組織から無菌的に取り出した未分化間葉系幹細胞、動物の歯髄組織から無菌的に取り出した未分化間葉系幹細胞ものであり、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞などに分化可能な幹細胞である。
【0013】
このような未分化間葉系幹細胞は、動物の組織から無菌的に取り出して、細胞の生育に悪影響を与える夾雑物を除くため、下記の培養液で洗浄したのち、Ca2+を取り除き細胞同士の接着を剥がす薬品、例えば、EGTA(エチレングリコールビス(2−アミノエチルエーテル)四酢酸)を溶解した培養液に37℃で短時間細胞を浸して(EGTA処理)、遠心分離などの操作で細胞画分を回収し、継代培養したのちに使用する。また、低温保存や凍結保存された未分化間葉系幹細胞を使用してもよい。
【0014】
この発明に使用する培養液は、動物細胞の生存や増殖に必要なすべての必須栄養素、エネルギー代謝・触媒作用に必須のビタミンやそのほかの微量金属など、動物細胞の培養に必須の成分を含むものであれば特に限定はないが、具体的にはMEM培養液等を挙げることができる。また、培養液は、微生物による汚染を防ぐため、ペニシリン、カナマイシンなどの抗生物質を含んでいてもよい。
【0015】
また、pH値が大きく変動するのを防ぐため、培養液に緩衝液を添加してもよい。緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液などのpH7〜8付近の緩衝液を使用できる。なお、緩衝液の添加量は、混合物がpH7〜8付近において緩衝能を有するような量で適宜添加されれば特に制限することはない。
【0016】
この発明の移植用材料は、上記のような各成分から構成され、例えば、コラーゲン水溶液、濃縮培養液、濃縮緩衝液を混合し、これに未分化間葉系幹細胞を懸濁させて培養皿などに流し込み、CO2 インキュベーター内に30分ほど放置してゲル化させることにより、製造することができる。このとき、患者の欠損部の形状に合わせた型のなかでゲル化させれば、欠損部の形状に形成することなくそのまま移植できる。なお、未分化間葉系幹細胞を細胞培養担体に播種する際の移植対象細胞の播種密度(包埋密度)は、予定される培養期間やゲル形成材の種類や培地の種類に依存するが、一般に、1×104〜1×107個/mlが適切であり、5×105〜5×106個/mlがさらに好ましい。
【0017】
ゲル化した移植用材料は、患者の患部にすぐに移植してもよく、一定期間培養して含有する細胞の数を増やしたのちに移植してもよい。なお、培養した後に移植する場合には、培養皿等の中でゲル化させて培養液を重層し、例えば、温度36.5〜37.0℃、CO2 濃度2.0〜5.0容積%のCO2 インキュベーター内で培養する。この場合、培地は1〜2日ごとに1回の割合で交換する。
【0018】
上記のようにして得られた移植用材料は、骨又は軟骨欠損部の修復材として、歯槽骨折、先天的な歯槽骨又は軟骨の欠陥などの骨又は軟骨欠損部、補綴を必要とする骨の構造及び歯周の欠陥(例えば、歯根膜細胞の欠損)等の生体硬組織の欠損部などに対して、整形外科や歯科における標準的な外科的手術、例えば、骨片を移植する際に使用する方法など、により移植される。なお、移植に先立って、組織適合性を検査せねばならないことは、従来からある移植用材料と同様である。
【0019】
以下にこの発明を実施例に従ってさらに詳しく説明するが、この発明の特許請求の範囲は如何なる意味においても下記の実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
(1)移植用材料の作製
コラーゲンゲル培養キット(新田ゼラチン、大阪)内のコラーゲン溶液、濃縮培養液、再構成用緩衝液及びヒト未分化間葉系幹細胞 (Mesenchymal Stem Cell, 以下、MSCと略す。) を添付の説明書に記載の方法で混合し、直径17 mm 培養皿 (Corning Inc.) に1 mlずつ分注したのち、リン酸緩衝液(PBS)で1 mg/mlに調製されたヒアルロン酸を同量加え、37℃インキュベーター内で30分間ゲル化させて試験群を作製した。また、ヒアルロン酸ナトリウム水溶液の代わりにPBSを加えたことを除いて、試験群と同様の方法により対照群を作製した。
【0021】
なお、MSC及びMSC培養液は、Cambrex Bio Science Walkersville Inc. (MD, USA) より購入し、継代数5〜7の細胞を使用した。また、コラーゲンゲルに混合するヒアルロン酸には、分子量190万のスベニール(Suvenyl(登録商標)、Aventis Pharma Ltd. 東京)を使用した。さらに、試験群及び対照群の細胞密度は、骨芽細胞への分化誘導実験用は5.0 x 105 cell/mlであり、軟骨細胞への分化誘導実験用は5.0 x 106 cell/mlである。
【0022】
(2)未分化の検討
コラーゲンゲルに包埋した未分化間葉系幹細胞が、骨又は軟骨細胞への分化誘導因子を添加しなければ、これらの細胞に分化しないことを確認するため、上記の試験群及び対照群を分化誘導因子が含まれない環境で培養し、その細胞表面抗原及び未分化マーカー遺伝子の発現量を測定した。
【0023】
(2a)細胞表面抗原の発現量の測定
試験群及び対照群に1 mlのMSC培養液を重層し10日間培養した。培養が完了した試験群及び対象群の培養皿からそれぞれゲルを取り出し、ゲルを0.02% コラゲナーゼS-1 ( 新田ゼラチン、大阪) を含有したCell Dissociation Buffer Enzyme-Free PBS-based (Invitrogen Corp., Carlsbad, CA, USA) を使用して37℃で30分間処理したのち、ピペッティングにより細胞の単離を行った。単離した細胞はPBSで洗浄を行い、CD29-PE (日本ベクトンディッキンソン、東京)及び CD44-FITC (日本ベクトンディッキンソン) の抗体で氷上にて30分間標識させ、FACS calibur HG フローサイトメーター (日本ベクトンディッキンソン) で測定した。その結果を図1に示す。
【0024】
この図に示すように、試験群と対照群との間では、表面抗原の発現量に大差はないことから、培地中に分化誘導因子が含まれていない場合、移植用材料にヒアルロン酸を加えても未分化間葉系幹細胞は分化しないことが確認できた。
【0025】
(2b)未分化マーカー遺伝子の発現量の測定
試験群及び対照群に1 mlのMSC培養液を重層し10日間培養した。培養が完了した試験群及び対象群の培養皿からそれぞれゲルを取り出し、ゲルからOptima L-70k ultracentrifuge (Beckman Instruments, Inc. , Fullerton, USA) を使用してグアニジン-トリフルオロ酢酸セシウム超遠心法(Smale, 1992 )にてTotal RNAを抽出した。なお、Total RNAの定量は分光光度計(Gene Spec I, 日立, 東京)を使用し、波長波長260nmの吸光度を測定した。
【0026】
つぎに、細胞より抽出したTotal RNA 1 μgを使用して、Rever Tra Ace-α-(登録商標、東洋紡、大阪)によりfirst strand cDNAを合成した。合成したcDNAを鋳型にしてAdvantage cDNA Polimerase mix ( Clontech, CA, USA) およびGeneAmp PCR System 2400 (Applied Biosystems) により、CD29、CD44およびCD105 遺伝子の増殖を行って、アガロースゲル電気泳動を行い、これをエチレンブロマイド染色して発現量を確認した。ここで、プライマーおよびプローブ(図2)はPrimer Expressソフトウェア(Applied Biosystems)を使用して検索・設計を行った。また、RT-PCRの反応条件は変性反応を94℃ 30秒間、アニーリングを60℃ 1分間、伸張反応を72℃ 1分間を1サイクルに設定し、CD29およびCD44は26サイクル、CD105は28サイクル、GAPDHは21サイクル行った。その結果を図3に示す。
【0027】
この図に示すように、試験群と対照群との間では、CD29、CD44、CD105、GAPDHのmRNA発現量に大差はないことから、培地中に分化誘導因子が含まれていない場合、移植用材料にヒアルロン酸を加えても未分化間葉系幹細胞は分化しないことがこの実験でも確認できた。
【0028】
(3)細胞分化にヒアルロン酸が与える影響の検討
ゲル化した試験群及び対照群に、MSC培養液の替わりに、1 mlの骨又は軟骨への分化誘導培養液を重層して培養した。なお、骨芽細胞への分化誘導には、1.0 x 10-7 Mデキサメタゾン (dexamethasone、以下、Dexと略す。) 、10 mM β-グリセロリン酸 (β-glycerophosphate) および50μM L-アスコルビン酸二リン酸 (L-ascorbic acid-2-phosphate; AsAP) を添加した無血清MSC培養液を14日間使用し、軟骨細胞への分化誘導には、10 ng/ml トランスフォーミング成長因子β3 (transforming growth factor-β3; TGF-β3, R&D Systems, MN, USA) 、1 mM ピルビン酸 (sodium pyruvate)、100μg/ml AsAP、1.0 x 10-7 M DEX、1% ITS、5.33 μg/ml リノレイン酸 (linolate)、1.25 mg/ml bovine serum albuminおよび40 μg/ml L-プロリン (L-proline) を添加した無血清MSC培養液を20日間使用した。
【0029】
このようにして作製した試験群及び対照群を使用して、骨芽細胞及び軟骨細胞への分化誘導を評価した。具体的には、骨芽細胞への分化誘導を評価するため、カルシウム量、ALP活性、骨マーカー遺伝子の発現量を測定した。また、軟骨細胞への分化誘導を評価するため、グリコサミノグリカン量、軟骨マーカー遺伝子の発現量を測定した。なお、各評価には、それぞれ3つのサンプルを使用した。
【0030】
(3a)カルシウム量の測定
骨分化誘導を14日間行った場合の細胞基質中のカルシウム蓄積を検討するために、ゲル中のカルシウム量の測定を行った。ゲル中のカルシウム量を測定は、まず、0.2% (v/v) Triton-X-100、0.02%コラゲナーゼS-1 (collagenas S-1; 新田ゼラチン)を含有したCell Dissociation Buffer Enzyme-Free PBS-based (Invitrogen Corp., Carlsbad, CA, USA) を使用して37℃で30分間処理してゲルを溶解したのち、12N HClを使用してカルシウムの溶出を行った。つぎに、溶出した各々のサンプルをcalcium-C kit(和光、大阪)で処理したのち、マイクロプレートリーダー(モデル550、BIO-RAD、東京)を使用して波長570nmにおける吸光度を測定した。その結果を表1及び図4に示す。なお、標準曲線の作製には、付属のカルシウム標準液を使用した。
【0031】
【表1】

【0032】
表1及び図4から明らかなように、移植用材料にヒアルロン酸を加えることにより、細胞基質中のカルシウム蓄積量が増加していることが判った。また、一般的に、細胞基質中のカルシウムの蓄積は骨芽細胞等の骨細胞への分化と関連すると考えられていることから、培地中に分化誘導因子が含まれている場合、移植用材料にヒアルロン酸を加えることにより、未分化間葉系幹細胞の骨細胞への分化がより促進されることが確認できた。
【0033】
(3b)ALP活性の測定
骨分化誘導した場合の骨分化能を検討するため、Young(Young, 1981)らの手技を使用して14日目のALP活性の測定を行った。ALP活性の測定は、まず、氷冷しながら生理食塩水でゲルを3回洗浄し、0.2% (v/v) Triton-X-100、0.02%、及び0.02%コラゲナーゼS-1を含む生理食塩水中でゲルをホモジナイズしたのち、遠心操作を行って上清を回収した。つぎに、上清に5 mM p-ニトロフェニルリン酸 (p-nitrophenyl phosphate)を含むTris-MgCl2 (0.5 M Tris-HCl(pH 9.5)、0.5 mM MgCl2) を加え、37℃にて30分間反応させた。さらに、各サンプルについて、マイクロプレートリーダーを使用して波長405 nmにおける吸光度を測定した。その結果を表2及び図5に示す。なお、標準曲線の作製にはp-ニトロフェノール (p-nitrophenol) を使用した。
【0034】
【表2】

【0035】
表2及び図5から明らかなように、移植用材料にヒアルロン酸を加えることにより、細胞基質のALP活性が増加していることが判った。また、一般的に、ALP活性の増加は骨芽細胞等の骨細胞への分化と関連すると考えられていることから、培地中に分化誘導因子が含まれている場合、移植用材料にヒアルロン酸を加えることによって、未分化間葉系幹細胞の分化がより促進されることが確認できた。
【0036】
(3c)グリコサミノグリカン(GAG)量の測定
20日目の軟骨分化の程度を検討するために、65℃のパパイン溶液 (pH6.5、 1 μl/ml パパイン、50 mMリン酸水素二ナトリウム (sodium phosphate)、2 mM N-アセチル-L-システイン (N-acetyl-L-cysteine)、2 mM EDTA)でゲルを溶解したのち、Blyscan Sulfated Glycosaminoglycan Assay kit (Biocolor Ltd. , Northern Ireland, UK) 及びマイクロプレートリーダーを使用して波長655nmにおける吸光度を測定し、グリコサミノグリカン量を算出した。なお、標準曲線はコンドロイチン硫酸 (chondroitin-4-sulfate) を使用して作製した。その結果を表3及び図6に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
表3及び図6から明らかなように、移植用材料にヒアルロン酸を加えることにより、GAG量が増加していることが判った。また、一般的に、GAG量の増加は軟骨細胞への分化と関連すると考えられていることから、培地中に分化誘導因子が含まれている場合、移植用材料にヒアルロン酸を加えることにより、未分化間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化がより促進されることが確認できた。
【0039】
(3d)骨及び軟骨マーカー遺伝子の発現量の測定
骨および軟骨への分化の程度を検討するために、骨マーカーであるBSP, ALP, type I collagenおよび軟骨マーカーであるtype II collagen, type X collagenの発現を定量的RT-PCR法により解析した。サンプルは骨分化では5日目のものを、軟骨分化では5,10,15,20日目のものを使用した。なお、内部標準遺伝子としては、GAPDH (Glyceraldehydes-3-phosphate dehydrogenase)を利用した。
【0040】
まず、ゲルからOptima L-70k ultracentrifuge (Beckman Instruments, Inc., Fullerton, USA) を使用してグアニジン-トリフルオロ酢酸セシウム超遠心法(Smale, 1992)にてTotal RNAを抽出した。抽出したTotal RNAの定量は、分光光度計(Gene Spec I;日立、東京)を使用して、波長260nmの吸光度を測定して行った。
【0041】
つぎに、細胞より抽出したTotal RNA 1μgを使用しRever Tra Ace-α-(登録商標、東洋紡、大阪)によりfirst strand cDNAを合成した。ここで、プライマーおよびプローブ(図7及び図8)はPrimer Expressソフトウェア(Applied Biosystems)を使用して検索・設計を行った。また、骨マーカープライマーはReverseの5'側をFAMで3'側をTAMRAで標識した。また、GAPDH プライマーのReverseの5'側をVICで3'側をTAMRAで標識した。また、RT-PCRの反応条件は、変性反応を94℃で 1分間、アニーリングを64℃で 1分間を1サイクルに設定して5サイクル行ったのち、85℃で30秒間の変性反応と64℃で1分のアニーリングを1サイクルとして計50サイクル行った。さらに、DNAの増幅にはTaqman(登録商標)Universal PCR Master Mix (Applied Biosystems)または、SYBR Green(登録商標) PCR Master Mix (Applied Biosystems)を使用し、DNAサーマルサイクラー (ABI Prism 7700 sequence Detection System、Applied Biosystems) にてPCR解析を行った。なお、各ターゲット遺伝子の反応生成物量が検出限界に達するCycle threshold値はGAPDHの値で標準化し、骨分化誘導では対照群と、軟骨分化誘導では5日目の対照群と比較した。その結果、骨マーカー遺伝子の発現量の時間変化を表4及び図9に示すとともに、軟骨マーカー遺伝子の発現量の時間変化を表5及び図10に示す。なお、図9及び図10は、表4及び表5の3つのサンプルをそれぞれ平均した結果を表示している。
【0042】
【表4】

【0043】
【表5】

【0044】
表4及び図9、並びに表5及図10から明らかなように、移植用材料にヒアルロン酸を加えることにより、骨又は軟骨遺伝子のmRNAの転写量が増加していることが判った。このことからも、培地中に分化誘導因子が含まれている場合、移植用材料にヒアルロン酸を加えることにより、未分化間葉系幹細胞の骨又は軟骨細胞への分化がより促進されることが確認できた。なお、type X collageのmRNA発現量は、軟骨細胞への分化が始まると増加してすぐにピークに達し、そのあとは減少する。そのため、上記のようにヒアルロン酸を加えることによって、type X collageのmRNA発現量がより早くピークすることは、軟骨細胞への分化が早期に促進されていることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】ヒアルロン酸の添加が、細胞表面抗原の発現量に与えた影響を比較した図である。
【図2】未分化遺伝子マーカーとして利用したプライマー及びプローブの配列を示す図である。
【図3】ヒアルロン酸の添加が、未分化遺伝子マーカーの発現量に与えた影響を比較した電気泳動図である。
【図4】ヒアルロン酸の添加が、細胞基質中のカルシウム量に与えた影響を比較したグラフである。
【図5】ヒアルロン酸の添加が、ALP活性に与えた影響を比較したグラフである。
【図6】ヒアルロン酸の添加が、GAG量に与えた影響を比較したグラフである。
【図7】骨マーカー遺伝子のプライマー及びプローブの配列を示す図である。
【図8】軟骨マーカー遺伝子のプライマー及びプローブの配列を示す図である。
【図9】ヒアルロン酸の添加が、骨マーカー遺伝子の発現量に与えた影響を比較したグラフである。
【図10】ヒアルロン酸の添加が、軟骨マーカー遺伝子の発現量に与えた影響を比較したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性のゲル形成材と、ヒアルロン酸と、未分化間葉系幹細胞とを少なくとも含有することを特徴とする移植用材料。
【請求項2】
生体吸収性のゲル形成材がコラーゲンであることを特徴とする請求項1に記載の移植用材料。
【請求項3】
生体吸収性のゲル形成材とヒアルロン酸とを少なくとも含有する固体培地にて、未分化間葉系幹細胞を培養することを特徴とする未分化間葉系幹細胞の培養方法。
【請求項4】
生体吸収性のゲル形成材が、コラーゲンであることを特徴とする請求項3記載の未分化間葉系幹細胞の培養方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−122147(P2006−122147A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−311487(P2004−311487)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】