説明

種子の殺菌消毒方法

【課題】カイワレ、もやし等、種子に水分が付与されると早期に発芽する早発芽性植物の種子を電解生成酸性水中で浸漬処理して、殺菌消毒する方法であって、浸漬処理中の種子に対して、電解生成酸性水が含有する有効塩素成分に起因する発芽障害や生育障害の潜在化を防止する。
【解決手段】早発芽性植物の種子を、殺菌消毒液である強酸性の電解生成酸性水中にて、浸漬処理温度−1〜5℃の温度下で、浸漬処理時間5時間以内で浸漬処理する。かかる条件での浸漬処理では、処理温度が常温に比較して低温でかつ処理時間が短時間であることから、浸漬処理中の種子には種皮割れ(発芽)の発生が大幅に抑制されて、電解生成酸性水が含有する有効塩素成分の種子内への侵入が防止され、当該種子を使用する植物の栽培時の発芽障害や生育障害の発生を解消することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種子の殺菌消毒方法に関し、特に、カイワレ、もやし等、種子に水分が付与されると早期に発芽する早発芽性植物の種子の殺菌消毒方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農作物を殺菌処理するには、農業用殺菌剤を使用するのが一般である。農業用殺菌剤を用いて農作物の病害防除を行う場合には、使用済みの農業用殺菌剤が土壌中に残留するとともに、土壌中の残留する農業用殺菌剤が水溶液等として外部に浸出して、環境汚染の一因となっている。この問題に対処するには、農業用殺菌剤の使用を極力低減することが考えられるが、この問題を抜本的に解決するには、農業用殺菌剤として、土壌等に残留することがないもの、土壌等に残留しても環境汚染の一因にはならないものを使用することが望ましい。
【0003】
近年、電解生成水の機能が着目され、電解生成酸性水が有する殺菌能が植物の病害防除にとって有用であることが認識されている。具体的には、電解生成酸性水を植物の病害防除するため使用する手段として、「いもち病の防除方法」(特許文献1を参照)、および、「植物病害防除方法」(特許文献2を参照)等が提案されている。
【0004】
上記した「いもち病の防除方法」は、イネ、ムギ、トウモロコシ、アワ、ヒエ等イネ科植物を病害防除の対象とするもので、これらのイネ科植物に対するもち病を防除すべく、イネ科植物の種子を酸性電解水(電解生成酸性水)中に浸漬して処理するものである。より具体的には、0.1%塩化ナトリウム水溶液を被電解水とする有隔膜電解にて生成されたpHが2で、有効塩素濃度が200ppmの電解生成酸性水、および、pHが5で、有効塩素濃度200ppmの電解生成酸性水を採用して、イネ科植物の種子を、これらの各電解生成酸性水中に常温で24時間〜5日浸漬して、当該種子を殺菌消毒している。
【0005】
また、上記した「植物病害防除方法」は、上記した「いもち病の防除方法」と同様、好適にはイネ科植物を病害防除の対象とするもので、イネ科植物に対するもみ枯れ細菌病等を防除すべく、イネ科植物の種子を酸性電解水(電解生成酸性水)中に浸漬して処理するものである。より具体的には、pHが2.0で、有効塩素濃度が200ppmの電解生成酸性水(強酸性の電解生成酸性水)、および、pHが5.0で、有効塩素濃度200ppmの電解生成酸性水(弱酸性の電解生成酸性水)を採用して、イネ科植物の種子を、上記した強酸性の電解生成酸性水中に15℃で5日間浸漬して殺菌処理し、引き続いて、上記した弱酸性の電解生成酸性水中に32℃で1日間浸漬して催芽処理するものである。
【特許文献1】特開平11−302117号公報
【特許文献2】特開平20001−247420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者等は、上記した各特許文献にて提案されている「いもち病の防除方法」や「植物病害防除方法」が病害防除の対象としているイネ科植物とは異なり、当該イネ科植物の種子とは比較にならないほど早期に発芽するカイワレ、もやし等(以下早発芽性植物という)の種子に対して、電解生成酸性水を殺菌消毒液とする殺菌消毒方法について鋭意検討した結果、下記の重要な知見を得た。
【0007】
すなわち、第1の知見は、殺菌能を有する電解生成酸性水は早発芽性植物の種子に対する殺菌消毒液として有効ではあるが、当該種子は早期に発芽することから、電解生成酸性水に浸漬中の種子には種皮割れ(発芽)の発生が著しく、種子に種皮割れが発生すると、電解生成酸性水が含有する有効塩素成分(殺菌能成分)が種子内に侵入して、当該種子のその後の発芽および生育に大きな障害を引き起こすという事項である。また、第2の知見は、電解生成酸性水中での当該種子の種皮割れは、殺菌消毒液として採用する電解生成酸性水の成分組成よりも、むしろ、電解生成酸性水の水温(浸漬処理温度)、および、浸漬処理時間が大きく関わっているという事項である。
【0008】
本発明は、これらの知見に基づくものであり、その主たる目的は、上記した早発芽植物の種子を殺菌消毒する殺菌消毒液として、殺菌能を有する電解生成酸性水を採用した場合に、当該種子の電解生成酸性水中での種皮割れの発生を防止することによって、当該種子に対する殺菌消毒効果を向上し、電解生成酸性水に起因する当該種子のその後の発芽障害および生育障害を解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、種子の殺菌消毒方法に関し、特に、カイワレ、もやし等、種子に水分が付与されると早期に発芽する早発芽性植物の種子の殺菌消毒方法に関する。本発明に係る種子の殺菌消毒方法は、早発芽性植物の種子を殺菌消毒液に浸漬して殺菌消毒する種子の殺菌消毒方法であり、当該種子の殺菌消毒方法では、前記殺菌消毒液として殺菌能を有する電解生成酸性水を採用して、前記種子を、−1〜5℃の温度に維持された電解生成酸性水に浸漬して、浸漬状態を5時間以内維持することを特徴とするものである。
【0010】
本発明に係る殺菌消毒方法において、前記殺菌消毒液として、無機塩化物を電解質とする希薄水溶液を被電解水とする有隔膜電解にて生成されるpHが2〜3、有効塩素濃度が10〜30ppmの強酸性の電解生成酸性水を採用し、浸漬処理温度を0〜2℃とし、かつ、浸漬処理時間を2時間以内とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る殺菌消毒方法においては、殺菌消毒液として殺菌能を有する電解生成酸性水を採用して、早発芽性植物の種子を電解生成酸性水中に浸漬することにより、当該種子の殺菌消毒処理を行うものであるが、電解生成酸性水での処理温度を低温度にし、かつ、処理時間を短時間としている。これにより、当該種子の電解生成酸性水中での種皮割れ(発芽)が大幅に抑制されて、処理時間内での種皮割れの発生が防止される。
【0012】
この結果、電解生成酸性水中の有効塩素成分は、浸漬処理中の種子内に侵入することがほとんどなく、有効塩素成分の種子内への侵入に起因する種子の発芽障害および生育障害を引き起こすことはない。このため、当該種子は、電解生成酸性水が有する有効塩素成分により、何等の支障もなく効果的に殺菌消毒されることになる。換言すれば、本発明に係る殺菌消毒方法によれば、当該種子に何等の障害を与えることなく、当該種子の出荷時の一般生細菌数を有意に抑えることができる。
【0013】
また、当該種子の殺菌消毒は、低温度の電解生成酸性水で行うことから、電解生成酸性水が有する有効塩素成分の塩素ガスとしての揮発の発生が大幅に抑制され、当該種子の殺菌消毒処理工程での刺激臭の発生や、塩素ガスに起因する周辺の腐食を大幅に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、カイワレ、もやし等、種子に水分が付与されると早期に発芽する早発芽性植物の種子の殺菌消毒方法に関する。本発明に係る種子の殺菌消毒方法は、早発芽性植物の種子を殺菌消毒液に浸漬して殺菌消毒する種子の殺菌消毒方法であって、当該種子の殺菌消毒方法では、前記殺菌消毒液として殺菌能を有する電解生成酸性水を採用して、前記種子を、−1〜5℃の温度に維持された電解生成酸性水に浸漬して、浸漬状態を5時間以内維持するものである。
【0015】
本発明における殺菌消毒液として採用する電解生成酸性水は、有効塩素成分を含有する殺菌能を有する電解生成酸性水であることが必要であり、種子の殺菌消毒には、電解生成酸性水が含有する有効塩素成分に起因する殺菌能が有効に機能するものである。殺菌能を有する電解生成酸性水は、好ましくは、塩化カリウムや塩化ナトリウム(食塩)等、無機塩化物を電解質とする希薄水溶液を被電解水とする有隔膜電解にて、陽極側電解室にて生成される強酸性の電解生成酸性水であって、好ましくは、pHが2〜3、有効塩素濃度が10〜30ppmの強酸性の電解生成酸性水である。但し、pHがこれより若干高くても、有効塩素濃度がこれと同等の電解生成酸性水は、当該種子の殺菌消毒液として有効に機能する。かかる電解生成酸性水としては、無隔膜電解にて生成される電解次亜塩素酸ソーダ水や、塩酸またはこれに食塩を添加してなる水溶液を被電解水とする無隔膜電解にて生成される弱酸性の電解生成酸性水を挙げることができる。
【0016】
本発明に係る殺菌消毒方法では、当該種子の電解生成酸性水中での浸漬処理温度は−1〜5℃、好ましくは0〜2℃であり、かつ、浸漬処理時間は3時間以内、このましくは2時間以内である。当該種子の電解生成酸性水中での種皮割れの発生を大幅に抑制するには、浸漬処理温度を極力低い温度にし、かつ、浸漬処理時間を極力短い時間とすることが好ましい。但し、当該種子の浸漬処理温度および浸漬処理時間の設定には、使用する電解生成酸性水の殺菌能を考慮することが必要である。
【0017】
当該種子を常温の電解生成酸性水中に浸漬した状態では、3時間程度経過した時点で、発芽の兆候である種皮割れの発生が顕著に認められる。また、当該種子を2℃の電解生成酸性水中に浸漬した状態では、24時間経過した時点で、発芽の兆候である種皮割れの発生が認められる。これらの殺菌消毒処理を行った種子においては、有効塩素成分に起因する発芽障害および生育障害が潜在していることは明らかであり、実際に、当該種子の発芽不良および生育不良を確認している。
【実施例】
【0018】
本実施例では、種子用殺菌消毒液として、希薄食塩水を被電解水とする有隔膜電解にて陽極側電解室に生成された強酸性の電解生成酸性水を採用して、カイワレの種子を殺菌消毒し、殺菌消毒後の種子について、当該種子に存在する一般生細菌数の測定を行い、当該種子の生育障害を観察し、当該種子から生育した生体(カイワレ)の胚軸および子葉に存在する一般生細菌数の測定を行った。殺菌消毒液としては、pH2.6(at20℃)、有効塩素濃度20mg/kg(20ppm)の強酸性の電解生成酸性水を採用し、種子としてカイワレの種子を採用した。浸漬処理では、当該種子5gに対して浸漬処理水(電解生成酸性水)100mLとした。
【0019】
(1)殺菌消毒の第1の実験:当該種子を20℃の温度に維持した電解生成酸性水中で浸漬処理する実験と、当該種子を2℃の温度に維持した電解生成酸性水中で浸漬処理する実験を行った。前者の浸漬処理においては、24時間経過した時点では、浸漬処理中の当該種子には発芽の発生が顕著であって、浸漬処理が24時間経過した時点の当該種子を使用したカイワレの栽培では、根が伸長せず、カビの発生が認められた。また、後者の浸漬処理においては、24時間経過した時点では、浸漬処理中の当該種子には種皮割れが発生し始まり、浸漬処理が24時間経過した時点の当該種子を使用したカイワレの栽培では、生育が遅れ、生育不良個体の発生が認められた。
【0020】
(2)殺菌消毒の第2の実験:当該種子を2℃の温度に維持した電解生成酸性水中で浸漬処理した。当該浸漬処理では、各時間経過した時点で浸漬処理中の種子を採取し、採取したそれぞれの種子を使用してカイワレの栽培を行い、浸漬処理の時間経過に起因する発芽障害を観察した。得られた結果を図1のグラフに示す。カイワレの栽培には、浸漬処理時間を異にする12種類の種子を選択し行い、当該グラフの横軸には、選択された種子を浸漬処理時間毎に番号で表示している。選択された種子の浸漬処理時間(時間)は、下記の通りである。
【0021】
種子1は浸漬処理時間(0時間)、種子2は浸漬処理時間(0.5時間)、種子3は浸漬処理時間(1時間)、種子4は浸漬処理時間(2時間)、種子5は浸漬処理時間(3時間)、種子6は浸漬処理時間(5時間)、種子7は浸漬処理時間(7時間)、種子8は浸漬処理時間(10時間)、種子9は浸漬処理時間(12時間)、種子10は浸漬処理時間(15時間)、種子11は浸漬処理時間(20時間)、種子12は浸漬処理時間(24時間)である。
【0022】
当該実験では、浸漬処理温度が常温に比較してかなりの低温度(2℃)であるにも関わらず、浸漬処理中の種子には時間経過とともに種皮割れの発生が認められ、さらには、発芽の発生が認められる。第1図のグラフから明らかなように、浸漬処理時間が5時間を経過した時点以降の種子7〜12では、発芽率が大幅に低下する傾向にあることが確認される。当該種子を2℃の温度に維持した電解生成酸性水中で浸漬処理する場合には、浸漬状態にある種子に対する有効塩素成分の障害を回避するには、浸漬処理時間は5時間(種子6)内であり、好ましくは2時間(種子4)以内である。
【0023】
(3)殺菌消毒の第3の実験:0℃の温度に維持した電解生成酸性水中で1時間浸漬処理した種子と、2℃の温度に維持した電解生成酸性水中で1時間浸漬処理した種子について、各種子をそれぞれホモジナイズして、その菌液を培地と混合して希釈し、37℃下、48時間経過後の一般生細菌数を測定した。得られた結果を図2のグラフに示す。これらの浸漬処理による殺菌消毒では、出荷時に存在する一般生細菌は高い割合で除去されていることが認めらる。このことは、強酸性の電解生成酸性水は、当該種子に対する高い殺菌消毒効果を有することを示している。なお、図2のグラフの横軸に示す対照は無処理を意味し、2℃(1hr)は浸漬処理温度2℃(浸漬処理時間1時間)を意味し、0℃(1hr)は浸漬処理温度0℃(浸漬処理時間1時間)を意味する。
【0024】
(4)殺菌消毒の第4の実験:2℃の温度に維持した電解生成酸性水中で0.5時間浸漬処理した種子と、2℃の温度に維持した電解生成酸性水中で1時間浸漬処理した種子について、これらの種子を使用してカイワレの栽培を行った。カイワレの栽培は、上記した浸漬処理済みの各種子を、水道水を含有するスポンジに置床し、照明付きインクベーター内にて6日間栽培して出荷可能な生育状態とした。これらのカイワレの胚軸部および子葉部を採取して、上記した第3の実験と同様の手段で、胚軸部および子葉部の存在する一般生細菌数を測定した。得られた結果を図3のグラフに示す。
【0025】
当該グラフから、強酸性の電解生成酸性水にて浸漬処理した種子を使用して栽培したカイワレは、浸漬未処理の種子を使用して栽培したカイワレに比較して、一般生細菌数が大幅に低減していることが確認される。なお、図3のグラフの横軸に示す対照は無処理を意味し、2℃(0.5hr)は浸漬処理温度2℃(浸漬処理時間0.5時間)を意味し、2℃(1hr)は浸漬処理温度2℃(浸漬処理時間1時間)を意味する。また、各棒グラフ中、斜線表示の棒グラフは胚軸部を意味し、空白表示の棒グラフは子葉部を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】電解生成酸性水による浸漬処理の時間経過毎の発芽率を示すグラフである。
【図2】電解生成酸性水による浸漬処理した種子に存在する一般生細菌を培養した場合の一般生細菌数を示すグラフである。
【図3】電解生成酸性水による浸漬処理した種子を使用して栽培したカイワレの胚軸部および子葉部に存在する一般生細菌を培養した場合の一般生細菌数を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
早発芽性植物の種子を殺菌消毒液に浸漬して殺菌消毒する種子の殺菌消毒方法であり、当該殺菌消毒方法では、前記殺菌消毒液として殺菌能を有する電解生成酸性水を採用して、前記種子を、−1〜5℃の温度に維持された電解生成酸性水に浸漬して、浸漬状態を5時間以内維持することを特徴とする種子の殺菌消毒方法。
【請求項2】
請求項1に記載の種子の殺菌消毒方法において、前記殺菌消毒液として、無機塩化物を電解質とする希薄水溶液を被電解水とする有隔膜電解にて生成されるpHが2〜3、有効塩素濃度が10〜30ppmの強酸性の電解生成酸性水を採用し、浸漬処理温度を0〜2℃とし、かつ、浸漬処理時間を2時間以内とすることを特徴とする種子の殺菌消毒方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の種子の殺菌消毒方法において、前記種子としてカイワレ、もやしの種子を採用することを特徴とする種子の殺菌消毒方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−208077(P2008−208077A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46958(P2007−46958)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000194893)ホシザキ電機株式会社 (989)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】