説明

積層インダクタ及びその製造方法

【課題】本発明は部品サイズが小型化してもコイルを構成する導体が断線しにくい構成をもつ積層インダクタとその製造方法を提供すること。
【解決手段】磁性体部12と、磁性体部12に直接接触するように覆われた導体部13と、磁性体部12の外部にあり導体部13に導通している外部端子と、を有し、磁性体部12は軟磁性合金粒子1、2を含む層からなる積層体であり、導体部13に接する軟磁性合金粒子1はその導体部13側が平坦化されている、積層インダクタ100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層インダクタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、積層インダクタの製造方法の一つとして、フェライト等を含有するセラミックグリーンシートに内部導体パターンを印刷し、これらのシートを積層し、焼成する方法が知られている。
【0003】
特許文献1によれば、フェライト粉を用いて得られたセラミックグリーンシートにおける所定の位置にスルーホールを形成する。次いで、スルーホールを形成したシートの一方の主面に、積層してスルーホール接続することによってらせん状のコイルが構成されるコイル導体パターン(内部導体パターン)を、導電ペーストにより印刷する。
【0004】
次に、上記スルーホールおよびコイル導体パターンが形成されたシートを、1枚ずつ積層方向にプレ・プレスした後、所定の構成で積層し、その上下にスルーホールおよびコイル導体パターンが形成されていないセラミックグリーンシート(ダミーシート)を積層する。次いで、得られた積層体を圧着した後焼成し、コイル末端が導出している端面に外部電極を形成することで積層インダクタが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−77074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近時、電子部品の小型化が進んでおり、部品の小型化に伴いコイルをはじめとする導体部の断線の懸念が高まることから、導体部がより断線しにくい部品設計が求められる。その際に、透磁率を大きくするために、磁性粒子についてはなるべく大きなものを使用できることが好ましい。
【0007】
これらのことを考慮し、本発明は部品サイズが小型化しても導体部が断線しにくい構成をもち、好ましくは高い透磁率を呈する積層インダクタとその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討した結果、以下のような本発明を完成した。
本発明の対象は、磁性体部と、磁性体部に直接接触するように覆われた導体部と、磁性体部の外部にあり導体部に導通している外部端子と、を有する積層インダクタである。磁性体部は軟磁性合金粒子を含む層からなる積層体であり、導体部に接する軟磁性合金粒子はその導体部側が平坦化されている。
好適には、軟磁性合金粒子を含む層の主面に位置する軟磁性合金粒子については、当該粒子の主面側が平坦化されている。
別途好適には、軟磁性合金粒子がFe−Cr−Si系合金からなる。
より好ましくは、軟磁性合金粒子はその表面に酸化被膜を有する。
本発明に係る製造方法によれば、軟磁性合金粒子を含むグリーンシートを調製し、得られたグリーンシートを圧延してからスルーホールを形成するか、あるいは、該グリーンシートにスルーホールを形成してから圧延し、スルーホールを有する圧延後のグリーンシートに導体パターンを印刷し、導体パターンを印刷したグリーンシートを積層、圧着、および熱処理することにより、導体が充填されたスルーホール及び導体パターンが形成する導体部と、該導体部の内外を覆う軟磁性合金粒子からなる磁性体部とを形成させ、上記導体部と導通する外部端子を磁性体部の外部に形成することにより、積層インダクタが得られる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コイル等の導体部と磁性体部との接触面の凹凸が少なくなるため、導体部の断線不良を低減することができる。このように、構造的な要因によって、断線不良の低減が期待されるため、比較的大きい軟磁性合金粒子を用いることができ、結果として透磁率を向上させることができる。
本発明の好適態様では、導体部が無い部分についても、軟磁性合金粒子を含む層どうしが平滑面どうしで接触することになり、結果として軟磁性合金粒子が密にパッキングされることになるので、透磁率のさらなる向上が見込まれる。
本発明の別の好適態様では、軟磁性合金粒子がFe−Cr−Si系合金であって、比較的変形しやすいため、上述の平坦化が効率的に生じやすい。
本発明の別の好適態様では、軟磁性合金粒子の表面にある酸化被膜の作用により、磁性体部の絶縁性が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の積層インダクタにおける、導体部周辺の部分構造の模式断面図である。
【図2】積層インダクタの模式断面図である。
【図3】積層インダクタの模式的な分解図である。
【図4】比較例における導体部周辺の部分構造の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を適宜参照しながら本発明を詳述する。但し、本発明は図示された態様に限定されるわけでなく、また、図面においては発明の特徴的な部分を強調して表現することがあるので、図面各部において縮尺の正確性は必ずしも担保されていない。
【0012】
本発明の対象である積層インダクタは、導体部の大部分が磁性材料(磁性体部)の中に埋没している構造を有する。内部の導体部は、例えば、ほぼ環状あるいは半環状などの導体パターンを、スクリーン印刷法などによってグリーンシート上に印刷し、スルーホールに導体を充填して、前記シートを積層することにより形成される。導体パターンが印刷されるグリーンシートは、磁性材料を含有し、所定の位置にスルーホールが設けられている。導体部としては、図示された螺旋状のコイル形状の他、渦巻き状のコイル、ミアンダ(蛇行)状の導線、あるいは直線状の導線等が挙げられる。
【0013】
図1は、本発明の積層インダクタにおける、導体部周辺の部分構造の模式断面図である。積層インダクタの部分構造100おいて、軟磁性合金粒子1、2が多数集積して所定形状の磁性体部12を構成している。個々の軟磁性合金粒子1、2は好適にはその周囲の概ね全体にわたって酸化被膜が形成されていて、この酸化被膜により磁性体部12の絶縁性が確保される。各図面では、酸化被膜の描写を省略している。隣接する軟磁性合金粒子1、2どうしは、概ね、それぞれの軟磁性合金粒子1、2がもつ酸化被膜どうしが結合することにより、一定の形状を有する磁性体部12を構成している。部分的には、隣接する軟磁性合金粒子1、2の金属部分どうしが結合していてもよい。また、導体部13の近傍では、主に上記酸化被膜を介して、軟磁性合金粒子1と導体部13とが密着している。軟磁性合金粒子1、2がFe−M−Si系合金(但し、Mは鉄より酸化し易い金属である。)からなる場合、酸化被膜には、磁性体であるFe34と、非磁性体であるFe23及びMO(xは金属Mの酸化数に応じて決まる値である。)を少なくとも含むことが確認されている。
【0014】
上述の酸化被膜どうしの結合の存在は、例えば、約3000倍に拡大したSEM観察像などにおいて、隣接する軟磁性合金粒子1、2が有する酸化被膜が同一相であることを視認することなどで、明確に判断することができる。酸化被膜どうしの結合の存在により、積層インダクタにおける機械的強度と絶縁性の向上が図られる。積層インダクタの全体にわたって、隣接する軟磁性合金粒子1、2が有する酸化被膜どうしが結合していることが好ましいが、一部でも結合していれば、相応の機械的強度と絶縁性の向上が図られ、そのような形態も本発明の一態様であるといえる。
【0015】
同様に、上述の軟磁性合金粒子1、2の金属部分どうしの結合(金属結合)についても、例えば、約3000倍に拡大したSEM観察像などにおいて、隣接する軟磁性合金粒子1、2どうしが同一相を保ちつつ結合点を有することを視認することなどにより、金属結合の存在を明確に判断することができる。軟磁性合金粒子1、2どうしの金属結合の存在により透磁率のさらなる向上が図られる。
【0016】
なお、隣接する軟磁性合金粒子が、酸化被膜どうしの結合も、金属粒子どうしの結合もいずれも存在せず単に物理的に接触又は接近するに過ぎない形態が部分的にあってもよい。
【0017】
図2は積層インダクタの模式断面図である。積層インダクタ10は、磁性体部12と、磁性体部12内に埋め込まれるように設けられた導体部13とを有する。導体部13を構成する導体は積層インダクタにおいて通常使用される金属を適宜用いることができ、銀や銀合金などを非限定的に例示することができる。導体部13の両端は、典型的には、それぞれ引出導体13a、13bを介して磁性体部12を構成する部品本体11としての積層体の外表面の相対向する端面(外部)に引き出され、外部端子14、15に接続される。
【0018】
導体部13を構成するために、典型的には、グリーンシート上に導体粒子を含むペースト等を印刷して導体パターンを形成する。グリーンシート各層の表面に由来する積層後の積層界面は、熱処理後に得られる積層インダクタにおいても残存し、かかる積層界面は、例えば、積層インダクタの断面の電子顕微鏡写真などにより把握することができる。さらに、積層インダクタの断面を電子顕微鏡などで観察すると、導体部を形成するために導体パターンが印刷されたグリーンシートの表面に由来する部分を特定することができる。
【0019】
図1に示されるように、本発明によれば、導体部13に接する部分の軟磁性合金粒子1が平坦化されている。より具体的には、導体部13に接する軟磁性合金粒子1の導体部側が平坦化されている。本発明においては、軟磁性合金粒子1の導体部13側が幾何学的に平面を構成することを要するものではなく、例えば、導体部13から離れたところにある軟磁性合金粒子2と対比したときに、導体部13に接する軟磁性合金粒子1の導体部13への接面側がより平らになるように変形されていればよい。ここで、「変形」とは、粒子が押しつぶされることや、引き延ばされることや、場合によっては粒子の一部が削り取られることなど、粒子の形状が変わることを特に制限無く広く含む概念である。
【0020】
本発明によれば、導体部13と磁性体部12との接触界面の凹凸が少なくなり平滑化しており、それ故、導体部13の断線不良を低減することができる。さらに、直流抵抗(Rdc)を低く抑えることが期待される。本発明の作用による断線不良低減は、軟磁性合金粒子1、2の大きさには基本的には依存しないことが見込まれるため、粒子サイズが比較的大きい軟磁性合金粒子1、2を用いることができ、結果として、透磁率の向上を図ることができる。
【0021】
好適には、導体部13に接する部分のみならず、積層インダクタ内の個々の積層構造において、積層面にある軟磁性合金粒子が平坦化されている。換言すると、磁性体部12を構成する積層体における、各々の層の両主面に位置する軟磁性合金粒子は、好ましくは、その主面側が平坦化されている。層の主面とは、層の厚み方向に垂直である対向する2つの平面である。層の主面を構成する軟磁性合金粒子は、層の外側に面する部分が平坦化されており、これにより、積層界面はより平滑になり、結果として、軟磁性合金粒子が密にパッキングされることになるので、透磁率の向上が見込まれる。
【0022】
以下、本発明に係る積層インダクタ10の典型的な製造方法を説明する。積層インダクタ10の製造にあたっては、まず、ドクターブレードやダイコータ等の塗工機を用いて、予め用意した磁性体ペースト(スラリー)を、樹脂等からなるベースフィルムの表面に塗工する。これを熱風乾燥機等の乾燥機で乾燥してグリーンシートを得る。上記磁性体ペーストは、軟磁性合金粒子1、2と、典型的には、バインダとしての高分子樹脂と、溶剤とを含む。
【0023】
軟磁性合金粒子1、2は、主として合金からなる軟磁性を呈する粒子である。合金の種類としては、Fe−M−Si系合金(但し、Mは鉄より酸化し易い金属である。)などが挙げられる。Mとしては、Cr、Alなどが挙げられ、好ましくはCrである。軟磁性合金粒子1、2としては、例えばアトマイズ法で製造される粒子が挙げられる。
【0024】
MがCrである場合、つまり、Fe−Cr−Si系合金におけるクロムの含有率は、好ましくは2〜15wt%である。クロムの存在は、熱処理時に不動態を形成して過剰な酸化を抑制するとともに強度および絶縁抵抗を発現する点で好ましく、一方、磁気特性の向上の観点からはクロムが少ないことが好ましく、これらを勘案して上記好適範囲が提案される。
【0025】
Fe−Cr−Si系軟磁性合金におけるSiの含有率は、好ましくは0.5〜7wt%である。Siの含有量が多ければ高抵抗・高透磁率という点で好ましく、Siの含有量が少なければ成形性が良好であり、これらを勘案して上記好適範囲が提案される。
【0026】
Fe−Cr−Si系合金において、SiおよびCr以外の残部は不可避不純物を除いて、鉄であることが好ましい。Fe、SiおよびCr以外に含まれていてもよい金属としては、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、チタン、マンガン、コバルト、ニッケル、銅などが挙げられ、非金属としてはリン、硫黄、カーボンなどが挙げられる。
【0027】
積層インダクタ10における各々の軟磁性合金粒子1、2を構成する合金については、例えば、積層インダクタ10の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影して、その後、エネルギー分散型X線分析(EDS)によるZAF法で化学組成を算出することができる。
【0028】
軟磁性合金粒子の粒子径は、体積基準において、d50が好ましくは2〜30μmであり、d10が好ましくは1〜5μmであり、d90が好ましくは4〜30μmである。軟磁性合金粒子のd50、d10、d90は、レーザ回折散乱法を利用した粒子径・粒度分布測定装置(例えば、日機装(株)製のマイクロトラック)を用いて測定される。軟磁性合金粒子を用いる積層インダクタ10においては、原料粒子としての軟磁性合金粒子の粒子サイズは、積層インダクタ10の磁性体部12を構成する軟磁性合金粒子1、2の粒子サイズと概ね等しいことが分かっている。
【0029】
上述の磁性体ペーストには、好適にはバインダとしての高分子樹脂が含まれる。高分子樹脂の種類は特に限定はなく、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)等のポリビニルアセタール樹脂などが挙げられる。磁性体ペーストの溶剤の種類は特に限定はなく、例えば、ブチルカルビトール等のグリコールエーテルなどを用いることができる。磁性体ペーストにおける軟磁性合金粒子、高分子樹脂、溶剤などの配合比率などは適宜調節することができ、それによって、磁性体ペーストの粘度などを設定することも可能である。
【0030】
磁性体ペーストを塗工および乾燥してグリーンシートを得るための具体的な方法は従来技術を適宜援用することができる。
【0031】
本発明の一実施形態においては、軟磁性合金粒子を含むグリーンシートを圧延する。圧延には、カレンダーロールや、ロールプレスなどを用いることができる。圧延により、グリーンシートの表面にある軟磁性合金粒子の表面側を平坦化することができる。圧延はグリーンシート単独でもよいしベースフィルムとともに行ってもよい。圧延は、例えば、1800kgf以上、好ましくは、2000kgf以上、より好ましくは2000〜8000kgfの荷重をかけて、例えば、60℃以上、好ましくは60〜90℃にて行われる。
【0032】
圧延におけるさらに詳細な条件としては、非限定的な例示として、(1)上下ロール径がφ100mm、ロール幅165mm、(2)シート幅が30〜120mm、(3)送り速度が0.1〜3.5m/min、(4)圧延前シート厚みT1が40〜80μm、(5)圧延後シート厚みT2が20〜50μm、(6)圧延時ロールギャップが0mm、(7)圧延率が37.5〜50%などが挙げられる。圧延率は、(T1−T2)/T1×100%で表される。これらの諸条件は適宜変更することができる。
【0033】
次いで、打ち抜き加工機やレーザ加工機等の穿孔機を用いて、グリーンシートに穿孔を行ってスルーホール(貫通孔)を所定配列で形成する。スルーホールの配列については、各シートを積層したときに、導体を充填したスルーホールと導体パターンとで導体部13が形成されるように設定される。導体部13を形成するためのスルーホールの配列および導体パターンの形状については、従来技術を適宜援用することができ、また、後述の実施例において図面を参照しながら具体例が説明される。導体部13として、コイル形状以外の、例えば、渦巻き状のコイル、ミアンダ(蛇行)状の導線、あるいは直線状の導線等を形成する場合には、それぞれの形状に適合するように、導体パターンやスルーホールを形成することができる。
【0034】
なお、上記記載ではグリーンシートを圧延した後にスルーホールを形成することとしているが、本発明では、グリーンシートにスルーホールを形成してしかる後に圧延を施してもよい。ここで、圧延とスルーホール形成との先後は問わないが、後述する導体ペーストの印刷に先立って圧延が行われることが好ましい。
【0035】
スルーホールに充填するため、および、導体パターンの印刷のために、好ましくは導体ペーストが使用される。導体ペーストには導体粒子と、典型的にはバインダとしての高分子樹脂と溶剤とが含まれる。
【0036】
導体粒子としては、銀粒子などを用いることができる。導体粒子の粒子径は、体積基準において、d50が好ましくは1〜10μmである。導体粒子のd50は、レーザ回折散乱法を利用した粒子径・粒度分布測定装置(例えば、日機装(株)製のマイクロトラック)を用いて測定される。
【0037】
導体ペーストには、好適にはバインダとしての高分子樹脂が含まれる。高分子樹脂の種類は特に限定はなく、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)等のポリビニルアセタール樹脂などが挙げられる。導体ペーストの溶剤の種類は特に限定はなく、例えば、ブチルカルビトール等のグリコールエーテルなどを用いることができる。導体ペーストにおける導体粒子、高分子樹脂、溶剤などの配合比率などは適宜調節することができ、それによって、導体ペーストの粘度などを設定することも可能である。
【0038】
次いで、スクリーン印刷機やグラビア印刷機等の印刷機を用いて、導体ペーストをグリーンシートの表面に印刷し、これを熱風乾燥機等の乾燥機で乾燥して、導体部13の形状に対応する導体パターンを形成する。印刷の際に、上述のスルーホールにも導体ペーストの一部が充填される。その結果、スルーホールに充填された導体ペーストと、印刷された導体パターンとが導体部13を構成することになる。
【0039】
印刷後のグリーンシートを、吸着搬送機とプレス機を用いて、所定の順序で積み重ねて熱圧着して積層体を作製する。続いて、ダイシング機やレーザ加工機等の切断機を用いて、積層体を部品本体サイズに切断して、加熱処理前の磁性体部及び導体部を含む、加熱処理前チップを作製する。
【0040】
焼成炉等の加熱装置を用いて、大気等の酸化性雰囲気中で、加熱処理前チップを加熱処理する。この加熱処理は、通常は、脱バインダプロセスと酸化被膜形成プロセスとを含み、脱バインダプロセスは、バインダとして用いた高分子樹脂が消失する程度の温度、例えば、約300℃、約1hrの条件が挙げられ、酸化物膜形成プロセスは、例えば、約750℃、約2hrの条件が挙げられる。
【0041】
加熱処理前チップにあっては、個々の軟磁性合金粒子どうしの間に、多数の微細間隙が存在し、通常、該微細間隙は溶剤とバインダとの混合物で満たされている。これらは脱バインダプロセスにおいて消失し、脱バインダプロセスが完了した後は、該微細間隙はポアに変わる。また、加熱処理前チップにおいて、導体粒子どうしの間にも多数の微細隙間が存在する。この微細間隙は溶剤とバインダとの混合物で満たされている。これらも脱バインダプロセスにおいて消失する。
【0042】
脱バインダプロセスに続く酸化被膜形成プロセスでは、軟磁性合金粒子1、2が密集して磁性体部12ができ、典型的には、その際に、軟磁性合金粒子1、2それぞれの表面に酸化被膜が形成される。このとき、導体粒子が焼結して導体部13が形成される。これにより積層インダクタ10が得られる。
【0043】
このようにして得られる積層インダクタ10においては、導体パターンが印刷された部分の軟磁性合金粒子1については、その他の部分にある軟磁性合金粒子2と比較したときに、歪な構造になっている。より具体的には、導体パターンが印刷された部分の軟磁性合金粒子1の導体パターン側(つまり、導体部13側)が平坦化されており、より好ましくは、前記導体パターンが印刷された部分を含む平面全体にわたって軟磁性合金粒子1の導体パターン側が平坦化されている。
【0044】
通常は、加熱処理の後に外部端子14、15を形成する。ディップ塗布機やローラ塗布機等の塗布機を用いて、予め用意した導体ペーストを部品本体11の長さ方向両端部に塗布し、これを焼成炉等の加熱装置を用いて、例えば、約600℃、約1hrの条件で焼付け処理を行うことにより、外部端子14、15が形成される。外部端子用の導体ペーストは、上述した導体パターンの印刷用のペーストや、それに類似したペーストを適宜用いることができる。
【0045】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に記載された態様に限定されるわけではない。
【実施例1】
【0046】
[積層インダクタの具体構造]
本実施例で製造した積層インダクタ10の具体構造例を説明する。部品としての積層インダクタ10は長さが約3.2mmで、幅が約1.6mmで、高さが約0.8mmで、全体が直方体形状を成している。積層インダクタ10は、直方体形状の部品本体11と、該部品本体11の長さ方向の両端部に設けられた1対の外部端子14、15とを有している。図2は積層インダクタの模式断面図である。部品本体11は、積層体からなる直方体形状の磁性体部12と、該磁性体部12によって覆われた螺旋状の導体部としてのコイル13とを有しており、該コイル13の両端はそれぞれ対向する2つの外部端子14、15に接続している。
【0047】
図3は積層インダクタの模式的な分解図である。磁性体部12は、計20層の磁性体層ML1〜ML6が一体化した構造を有し、長さが約3.2mmで、幅が約1.6mmで、高さが約0.8mmである。各磁性体層ML1〜ML6の長さは約3.2mmで、幅は約1.6mmで、厚さは約40μmである。この磁性体部12は、軟磁性合金粒子であるFe−Cr−Si合金粒子を主体として成形されてなる。磁性体部12は、ガラス成分を含んでいない。Fe−Cr−Si合金粒子の組成は、Feが92wt%で、Crが4.5wt%で、Siが3.5wt%である。Fe−Cr−Si合金粒子のd50は10μmで、d10は3μmで、d90は16μmである。d10、d50およびd90は体積基準の粒子径分布を表現するパラメータである。また、Fe−Cr−Si合金粒子それぞれの表面には酸化被膜(図示せず)が存在し、磁性体部12内のFe−Cr−Si合金粒子は隣接する合金粒子それぞれが有する酸化被膜を介して相互結合していることを、本発明者らはSEM観察(3000倍)によって確認した。また、コイル13近傍のFe−Cr−Si合金粒子1は酸化被膜を介してコイル13と密着している。この酸化被膜は、磁性体に属するFe34と、非磁性体に属するFe23及びCr23を少なくとも含むことを確認した。
【0048】
コイル13は、計5個のコイルセグメントCS1〜CS5と、該コイルセグメントCS1〜CS5を接続する計4個の中継セグメントIS1〜IS4とが、螺旋状に一体化した構造を有し、その巻き数は約3.5である。このコイル13は、主として銀粒子を熱処理して得られ、原料として用いた銀粒子の体積基準のd50は5μmである。
【0049】
4個のコイルセグメントCS1〜CS4はコ字状を成し、1個のコイルセグメントCS5は帯状を成しており、各コイルセグメントCS1〜CS5の厚さは約20μmで、幅は約0.2mmである。最上位のコイルセグメントCS1は、外部端子14との接続に利用されるL字状の引出部分LS1を連続して有し、最下位のコイルセグメントCS5は、外部端子15との接続に利用されるL字状の引出部分LS2を連続して有している。各中継セグメントIS1〜IS4は磁性体層ML1〜ML4を貫通した柱状を成しており、各々の口径は約15μmである。
【0050】
各外部端子14及び15は、部品本体11の長さ方向の各端面と該端面近傍の4側面に及んでおり、その厚さは約20μmである。一方の外部端子14は最上位のコイルセグメントCS1の引出部分LS1の端縁と接続し、他方の外部端子15は最下位のコイルセグメントCS5の引出部分LS2の端縁と接続している。この各外部端子14及び15は、主として体積基準のd50が5μmである銀粒子を熱処理して得た。
【0051】
[積層インダクタの製造]
上記Fe−Cr−Si合金85wt%、ブチルカルビトール(溶剤)が13wt%、ポリビニルブチラール(バインダ)2wt%からなる磁性体ペーストを調製した。ドクターブレードを用いて、この磁性体ペーストをプラスチック製のベースフィルムの表面に塗工し、これを熱風乾燥機で、約80℃、約5minの条件で乾燥した。このようにしてベースフィルム上にグリーンシートを得た。このグリーンシートを、単独であるいはベースフィルムとともに、カレンダーロールにて、約70℃、2000kgfの荷重で圧延した。その際、(1)上下ロール径がφ100mm、ロール幅165mm、(2)シート幅が120mm、(3)送り速度が0.1m/min、(4)圧延前シート厚みT1が40μm、(5)圧延後シート厚みT2が25μm、(6)圧延時ロールギャップが0mm、(7)圧延率が37.5%であった。その後、グリーンシートをカットして、磁性体層ML1〜ML6(図3を参照)に対応し、且つ、多数個取りに適合したサイズの第1〜第6シートをそれぞれ得た。
【0052】
続いて、穿孔機を用いて、磁性体層ML1に対応する第1シートに穿孔を行い、中継セグメントIS1に対応する貫通孔を所定配列で形成した。同様に、磁性体層ML2〜ML4に対応する第2〜第4シートそれぞれに、中継セグメントIS2〜IS4に対応する貫通孔を所定配列で形成した。
【0053】
続いて、印刷機を用いて、上記Ag粒子が85wt%で、ブチルカルビトール(溶剤)が13wt%で、ポリビニルブチラール(バインダ)が2wt%からなる導体ペーストを上記第1シートの表面に印刷し、これを熱風乾燥機で、約80℃、約5minの条件で乾燥して、コイルセグメントCS1に対応する第1印刷層を所定配列で作製した。同様に、上記第2〜第5シートそれぞれの表面に、コイルセグメントCS2〜CS5に対応する第2〜第5印刷層を所定配列で作製した。
【0054】
第1〜第4シートそれぞれに形成した貫通孔は、第1〜第4印刷層それぞれの端部に重なる位置に存するため、第1〜第4印刷層を印刷する際に導体ペーストの一部が各貫通孔に充填されて、中継セグメントIS1〜IS4に対応する第1〜第4充填部が形成される。
【0055】
続いて、吸着搬送機とプレス機を用いて、印刷層及び充填部が設けられた第1〜第4シートと、印刷層のみが設けられた第5シートと、印刷層及び充填部が設けられていない第6シートとを、図3に示した順序で積み重ねて熱圧着して積層体を作製した。この積層体を切断機で部品本体サイズに切断して、加熱処理前チップを得た。
【0056】
続いて、焼成炉を用いて、大気中雰囲気で、加熱処理前チップを多数個一括で加熱処理した。まず、脱バインダプロセスとして約300℃、約1hrの条件で加熱し、次いで、酸化被膜形成プロセスとして約750℃、約2hrの条件で加熱した。この加熱処理によって、軟磁性合金粒子が密集して磁性体部12が形成し、また、銀粒子が焼結してコイル13が形成され、これにより部品本体11を得た。
【0057】
続いて、外部端子14、15を形成した。上記銀粒子を85wt%、ブチルカルビトール(溶剤)を13wt%で、ポリビニルブチラール(バインダ)を2wt%含有する導体ペーストを塗布機で、部品本体11の長さ方向両端部に塗布し、これを焼成炉で、約600℃、約1hrの条件で焼付け処理を行った。その結果、溶剤及びバインダが消失し、銀粒子が焼結して、外部端子14及び15が形成され、積層インダクタ10を得た。
【0058】
[比較例1]
グリーンシートを形成した後に、カレンダーロールによる圧延を省略したこと以外は実施例1と同様の原料およびプロセスによって、積層インダクタを得た。
【実施例2】
【0059】
軟磁性合金粒子として、Fe−Cr−Si合金粒子の代わりに、Feが85wt%で、Siが9wt%で、Alが6wt%ある組成のFe−Si−Al合金粒子(d50が30μm、d10が10μmで、d90が100μm)を用いたことの他は実施例1と同様にして、積層インダクタを得た。
【0060】
[比較例2]
グリーンシートを形成した後に、カレンダーロールによる圧延を省略したこと以外は実施例2と同様の原料およびプロセスによって、積層インダクタを得た。
【0061】
[軟磁性合金粒子の形状評価]
得られた積層インダクタの断面を2000倍のSEM像で観察した。実施例1、2では、コイル接する軟磁性合金粒子は、図1に示すように、コイル13に向けて平坦化されていることを確認した。また、コイル13に接触しない軟磁性合金粒子についても、積層界面については、界面側(即ち、各層の両主面)が平坦化されていて、結果として積層界面が平滑面を構成していることを確認した。他方、比較例1、2では、上記のような軟磁性合金粒子の平坦化は確認されなかった。図4は比較例におけるコイル周辺の部分構造の模式断面図である。この部分構造200においては、コイル13に接しない軟磁性合金粒子4との対比において、コイル13に接する軟磁性合金粒子3がコイル13に向けて平坦化していないことを表現している。
【0062】
[軟磁性合金粒子の微視的評価]
すべての実施例および比較例について、得られた積層インダクタに含まれる軟磁性合金粒子における酸化被膜どうしの結合が存在することをSEM(3000倍)で確認した。
【0063】
[コイルの断線評価]
得られた積層インダクタについて、100個のサンプルを用いて、直流抵抗値の評価試験を行うことで、コイルの断線のしやすさを評価した。得られた積層インダクタについて、直流抵抗値が、300mΩ以上であれば断線していると判断した。これは、コイルが断線していなければ通常は、直流抵抗値は100mΩ以下であり、他方、コイルが断線していれば通常は、直流抵抗値は1Ω以上になるからである。
上記試験において、断線率が1%未満である場合をA、1%以上10%未満である場合をB、10%以上である場合をCであると格付けした。
【0064】
各実施例、比較例の製造条件と評価結果を表1にまとめる。
【表1】

【符号の説明】
【0065】
1,2 軟磁性合金粒子、10 積層インダクタ、11 部品本体、12 磁性体部、13 導体部、14,15 外部端子、100,200 積層インダクタの部分構造。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体部と、磁性体部に直接接触するように覆われた導体部と、磁性体部の外部にあり導体部に導通している外部端子と、を有し、
磁性体部は軟磁性合金粒子を含む層からなる積層体であり、
導体部に接する軟磁性合金粒子はその導体部側が平坦化されている、
積層インダクタ。
【請求項2】
上記軟磁性合金粒子を含む層の主面に位置する軟磁性合金粒子の、前記主面側が平坦化されている、請求項1記載の積層インダクタ。
【請求項3】
軟磁性合金粒子がFe−Cr−Si系合金からなる請求項1又は2記載の積層インダクタ。
【請求項4】
軟磁性合金粒子はその表面に酸化被膜を有する請求項1〜3のいずれかに記載の積層インダクタ。
【請求項5】
軟磁性合金粒子を含むグリーンシートを調製し、
得られたグリーンシートの表面にある軟磁性合金粒子の表面側が平坦化する程度に該シートを圧延してからスルーホールを形成するか、あるいは、グリーンシートにスルーホールを形成してから該シートの表面にある軟磁性合金粒子の表面側が平坦化する程度に該シートを圧延し、
スルーホールを有する圧延後のグリーンシートに導体パターンを印刷し、
導体パターンを印刷したグリーンシートを積層、圧着、および熱処理して、
導体が充填されたスルーホール及び導体パターンが形成する導体部と、該導体部の内外を覆う軟磁性合金粒子からなる磁性体部とを形成させ、
上記導体部と導通する外部端子を磁性体部の外部に形成する、
積層インダクタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−38263(P2013−38263A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173907(P2011−173907)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】