説明

積層シート及び書籍並びに積層シートの製造方法

【課題】シートに角をつける場合でも、折り曲げに強く、加工が簡単な積層シートを提供すること。
【解決手段】天然木層10の一方の面10aに樹脂層30を設け、他方の面10bに裏打層20を設けることにより、天然木層10単独の場合よりも積層シート100全体の強度を増大させることができる。このため、積層シート100に角や折り目等をつける場合でも、天然木層10に割れが発生しにくく積層シート100を折り曲げに強くすることができる。また、天然木層10に樹脂を含浸させずに、樹脂層30及び裏打層20を天然木層10に接着させるため、樹脂を含浸させるよりも加工が比較的簡単となり、木の香りや風合いが損なわれるのを防ぐことができる。副次的には、木の香りと温もりにより、癒し効果も期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然木で形成された積層シート及びこれを用いた書籍並びに積層シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木製の積層シートとして、木製のシート材を合成樹脂で含浸させ、このシート材の裏面に裏当材を接着したものがある(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−191142号公報
【特許文献2】実登3062661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2のような積層シートでは、木製のシート材を合成樹脂で含浸させるため、加工に手間がかかったり、木の香りや風合いが損なわれたりする可能性がある。また、例えば書籍の表紙のように角や折り目をつけて接着する必要がある場合、折り曲げによって強度が低下する可能性がある。さらに、積層シートの表面への印刷も容易でないと考えられる。
【0005】
そこで、本発明は、木の香りや風合いを保ちつつ、シートに角や折り目をつける場合でも、割れや折り曲げに強く、加工が簡単な積層シートを提供することを目的とする。
【0006】
また、本発明は、この積層シートを用いた書籍及び積層シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る積層シートは、天然木を材料とする薄膜状の経木で形成される天然木層と、天然木層の一方の面を支持する裏打層と、天然木層の他方の面に接着された光透過性を有する樹脂シートで形成される樹脂層と、天然木層と裏打層との間に介在して天然木層と裏打層とを接着する接着層と、を備える。
【0008】
上記積層シートでは、天然木層の一方の面に裏打層を設け、他方の面に樹脂層を設けることにより、天然木層単独の場合よりも積層シート全体の強度を増大させることができる。このため、積層シートに角や折り目等をつける場合でも、天然木層に割れが発生しにくく積層シートを折り曲げに強くすることができる。また、天然木層に樹脂を含浸させずに、裏打層及び樹脂層を天然木層に接着させるため、樹脂を含浸させるよりも加工が比較的簡単となり、木の香りや風合いが損なわれるのを防ぐことができる。
【0009】
また、本発明の具体的な態様又は観点では、樹脂層は、天然木層に対向する面側に接着剤で形成された接合層を有する。この場合、樹脂層が接合層を介して天然木層に接着されるため、樹脂層を天然木層に接着する加工が比較的簡単となる。また、様々な樹脂層による表面コートが可能になる。
【0010】
また、本発明の別の態様によれば、樹脂層のいずれか一方の面には、情報が印刷されている。この場合、樹脂層に情報を印刷することにより、積層シートを様々な用途に用いることができる。ここで、天然木層の両面側に樹脂層及び裏打層を設けた積層シート状態で印刷することにより、積層シートを紙と同様に取り扱うことができ、印刷が容易となる。
【0011】
また、本発明の別の態様によれば、裏打層は、紙で形成され裏打層のうち天然木層側の反対側の面は、裏面として露出している。この場合、裏打層が紙であるため、天然木層とマッチして自然に優しい素材を提供することができる。また、接着層を十分薄くすれば、裏打層を介して十分な量の天然木の香りを発散させることができ、メンタルヒーリング等の効果も生じうる。
【0012】
また、本発明の別の態様によれば、天然木層は、少なくとも一部が光透過性を有する。この場合、天然木層及び樹脂層を介して裏打層の表面を透視させることができる。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る書籍は、上述の積層シートで形成された表紙を備える。この場合、上述の積層シートを書籍の表紙材として用いることにより、書籍の背表紙部分等の加工に際して、積層シートにひび割れを生じさせることなく、折り曲げることができる。これにより、製本工程の作業性を向上させることができる。また、上述の積層シートを書籍の表紙材として用いることにより、書籍の耐久性を維持することができる。さらに、天然木の香りを楽しみながら読書をすることができる。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係る積層シートの製造方法は、天然木を材料とする薄膜状の経木で形成された天然木層を作製する工程と、天然木層の一方の面上に接着層を介して天然木層を支持するための裏打層を設ける工程と、天然木層の他方の面上に光透過性を有する樹脂シートで形成される樹脂層を設ける工程と、を備える。この場合、天然木層の一方の面に裏打層を設け、他方の面に樹脂層を設けることにより、天然木層単独の場合よりも積層シート全体の強度を増大させることができる。また、天然木層に樹脂を含浸させずに、裏打層及び樹脂層を天然木層に接着させるため、樹脂を含浸させるよりも加工が比較的簡単となり、木の香りや風合いが損なわれるのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の積層シートの構造を説明する図である。
【図2】(A)は、図1の積層シートの製造方法を説明する図であり、(B)は、図3の書籍の作製方法を説明する図である。
【図3】(A)〜(C)は、本実施形態の書籍を説明する図である。
【図4】(A)、(B)は、図3の書籍の変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る積層シート及び書籍について説明する。
図1に示すように、積層シート100は、天然木層10と、裏打層20と、樹脂層30と、接着層40とを備える。ここで、各層10,20,30,40は、それぞれ薄膜状の部材であり、各層10,20,30,40が積層されて積層シート100が形成されている。
【0017】
積層シート100のうち、天然木層10は、天然木を材料とする薄膜状の経木で形成されている。天然木には、スギやヒノキ等の間伐材が用いられている。天然木層10は、この間伐材をスライスしたものであり、接着用の樹脂を含浸せずにそのままの状態で用いる。天然木層10の厚さは、例えば0.08〜0.1mmであり、天然木層10の少なくとも一部が透視可能となっている。透視可能な部分は、全部でも一部でもよいが、ここでは、天然木層10に木目が存在しており、木目の濃色部で遮光され木目の淡色部で透視可能であるとして説明する。なお、天然木層10を形成する経木は、木の香りや風合いを保つ程度に染色を施すこともできる。
【0018】
裏打層20は、薄膜状の天然木層10を片側から補強するものである。裏打層20は、上述の天然木層10の一方の面10b側に配置されており、天然木層10の一方の面10bを支持している。裏打層20は、後述する接着層40を介して天然木層10に接着されている。裏打層20には、例えば紙が用いられるが、布地等の他の材料を用いることもできる。裏打層20の厚さは、0.1mm以上であり、一定の強度を保ちつつ、積層シート100の用途に応じて積層シート100の柔軟性を損なわないようになっている。
【0019】
樹脂層30は、薄膜状の天然木層10を片側から補強するものであり、光透過性を有する樹脂シート31で形成されている。樹脂層30は、上述の天然木層10の一方の面10bとは異なる他方の面10a側に配置されている。樹脂層30は、天然木層10の他方の面10aに対向する面30bに接合層32を有しており、この接合層32を介して天然木層10に接着されている。樹脂層30には、例えばポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル等が用いられる。樹脂層30の厚さは、例えば0.05mm以下であり、天然木層10の柔軟性を損なわないようになっている。樹脂層30の面30a,30bのいずれか一方には、情報や模様等が印刷されている。樹脂層30への印刷方式は、例えばレーザープリント、スクリーン印刷、オフセット印刷等がある。なお、樹脂層30の表側の面30aへの印刷は、天然木層10への接着前後のいずれでもよいが、裏側の面30bへの印刷は、天然木層10の接着の前に行う必要がある。この場合、面30bへの印刷後、面30bに例えば接着剤を塗布する。
【0020】
接着層40は、天然木層10と裏打層20との間に介在して、天然木層10と裏打層20とを接着するものである。接着層40は、例えば、ホットメルトや感圧接着等によってその両面40a,40bに被接着材を圧着可能な接着シート材で形成されている。この接着シート材には、天然木層10と裏打層20との接着強度及び反りを考慮した材料を用いている。つまり、接着層40は、被接着層となる天然木層10及び裏打層20のそれぞれが接着後に剥がれない程度に接着強度を有する。また、接着層40は、天然木層10や裏打層20を形成する材料の硬さや含水率等に対応して、性質の異なる天然木層10や裏打層20を貼り合わせることに起因する反りをある程度防ぐ弾力性を有する。なお、接着層40の厚さは、圧着した際に天然木層10と裏打層20とを、これらの表面の凹凸を充填しつつ十分に接着できる程度の厚さとなっている。
【0021】
以上において、接着層40及び接合層32は、天然木層10の内部にまで浸透せず、木の風合いを損なわないようになっている。
【0022】
以下、図2(A)を用いて積層シート100の製造方法について説明する。なお、予め各層10,20,30,40に用いる部材の形状を揃えておいた方が好ましい。
まず、整形した複数の間伐材を接着して所望の大きさのブロックを作製する(ステップS11)。ここで、間伐材の木の種類を統一してもよいし、異なる種類の木を用いてもよい。次に、作製したブロックを、0.08〜0.1mmの厚さに均一にスライスして天然木層10を形成する薄膜状の経木を作製する(ステップS12)。スライスされた経木と裏打層20を形成する例えば薄い紙との間に接着層40を形成する接着シート部材を挟んだ状態で仮止めをする(ステップS13)。その後、仮止めした状態で積層表面に均一に圧力をかけ又は圧力及び熱をかけ、天然木層10の面10bと裏打層20の面20aとを接着層40を介して接着させる(ステップS14)。積層表面に圧力及び熱をかけた際、接着シート部材は融解するが、天然木層10及び裏打層20の内部にはほとんど浸透しない。天然木層10に裏打層20を接着した後、天然木層10の面10aと樹脂層30を形成する樹脂シート31の面30bとを接合層32を介して接着させる(ステップS15)。天然木層10に樹脂層30を接着した後、必要があれば、積層シート100を所望の大きさに切り揃える(ステップS16)。この際、積層シート100は、1枚のシートとして切り揃えてもよいし、同一の又は異なる大きさや形状の複数のシートに切り揃えてもよい。印刷をする場合は、例えばレーザプリンタを用いて、積層シート100の表面となる樹脂層30の面30a上に情報や模様等を印刷する(ステップS17)。以上において、ステップS16,S17は必ずしも行わなくてもよい。また、ステップS17の後にステップS16の工程を行ってもよい。つまり、1枚の積層シート100に印刷をした後に、複数の積層シート100に切断する。
【0023】
以下、上述の積層シート100を用いた書籍について説明する。
図3(A)〜3(C)に示すように、書籍200は、表紙201と、本文が記載されている本体202とを備える。表紙201は、表紙材として1枚の積層シート100で形成されている。具体的には、積層シート100の天然木層10には、スギ等を用いており、裏打層20には、紙を用いている。積層シート100は、樹脂層30側が書籍200の表面となるように本体202に貼り付けられている。表紙201と本体202とは背表紙部分BCで接着されており、この際、表紙201は本体202の形状に合わせて略直角に折り曲げられている。
【0024】
以下、図2(B)を用いて書籍200の作製方法について説明する。
まず、表紙201を作製する(スッテプS22)。具体的には、印刷した積層シート100を本体202の大きさにある程度合わせた状態に切断しておく。なお、積層シート100にタイトル等を印刷してから切断してもよいが、積層シート100を切断してからタイトル等を印刷してもよい。また、別途、本体202を作製する(ステップS21)。具体的には、本文が印刷された用紙をページ順に揃えて1冊分にまとめた状態で背の部分を削り落とし、接着剤で接着する。ステップS21,S22の後、表紙201と本体202とを接着剤で貼り合わせる(ステップS23)。表紙201と本体202とを接着した後、書籍200の背C1の部分以外の3辺C2,C3,C4を裁ち落とす(ステップS24)。
【0025】
なお、本実施形態の書籍200は、主に単行本の用途に用いられる無線綴じ製本の態様について説明したが、様々な製本態様に用いることができる。例えば、図4(A)に示すようなハードカバーの書籍200の表紙として積層シート100を用いる場合、厚紙を芯にして積層シート100を貼り付けて表紙201を作製する。なお、裏打層20に厚紙を用いて表紙201として用いてもよい。また、図4(B)に示すように、積層シート100は、雑誌や取扱説明書等のような中綴じ製本にも対応することができる。
【0026】
以上の説明から明らかなように、本実施形態の積層シート100では、天然木層10の一方の面10aに樹脂層30を設け、他方の面10bに裏打層20を設けることにより、天然木層10単独の場合よりも積層シート100全体の強度を増大させることができる。このため、積層シート100に角や折り目等をつける場合でも、天然木層10に割れが発生しにくく積層シート100を折り曲げに強くすることができる。また、天然木層10に樹脂を含浸させずに、樹脂層30及び裏打層20を天然木層10に接着させるため、樹脂を含浸させるよりも加工が比較的簡単となり、木の香りや風合いが損なわれるのを防ぐことができる。副次的には、木の香りと温もりにより、癒し効果も期待できる。
【0027】
また、上述の積層シート100を書籍200の表紙材として用いることにより、書籍200の背表紙部分BC等の加工に際して、積層シート100にひび割れを生じさせることなく、折り曲げることができる。これにより、製本工程の作業性を向上させることができる。また、上述の積層シート100を書籍200の表紙材として用いることにより、書籍の耐久性を維持することができる。特に、樹脂層30側は防水性に優れているため、より耐久性が向上する。さらに、天然木の香りを楽しみながら読書をすることができる。
【0028】
また、天然木層10に間伐材を用いることにより、資源の有効活用や環境問題に配慮することができる。
【0029】
以上実施形態に即して本発明を説明したが、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0030】
上記実施形態において、裏打層20に網目状の材料や模様の入った紙等を用いることができる。この場合、透視可能な天然木層10と光透過性を有する樹脂層30を介して、網目や模様が透けて見える状態となる。
【0031】
また、上記実施形態において、天然木層10を形成する経木を文字やパターンでくり抜いてもよい。この場合、積層シート100は、くり抜いた部分に裏打層20が露出して見える状態となる。
【0032】
また、上記実施形態において、樹脂シート31には、予め接合層32を設けているが、天然木層10へ接着する直前に塗布してもよい。また、粘着シートを用いて樹脂シート31を天然木層10へ圧着してもよい。この場合、裏打層20とともに圧着することも可能である。
【0033】
また、上記実施形態において、樹脂層30への印刷を容易にするために、樹脂層30の面30a,30bに印刷を容易にする印刷下地層を設けてもよい。
【0034】
また、上記実施形態において、樹脂層30の面30a,30bに印刷することについて説明したが、樹脂層30の内部に印刷してもよい。例えば、樹脂層30を2枚の樹脂シート31で形成し、そのうちの下層の樹脂シート31の表面に印刷し、さらにその上にもう1枚の樹脂シート31を接着する。
【0035】
また、上記実施形態において、積層シート100を書籍200の表紙201として用いることについて説明したが、見返し紙や本体202の一部に用いてもよい。また、積層シート100は、書籍200として用いる場合に限らず、しおり、包装紙、カップ、袋、ハンドバッグ等の様々な材料に用いることができる。
【符号の説明】
【0036】
100…積層シート、 10…天然木層、 20…樹脂層、 30…裏打層、 40…接着層、 200…書籍、 201…表紙、 202…本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然木を材料とする薄膜状の経木で形成される天然木層と、
前記天然木層の一方の面を支持する裏打層と、
前記天然木層の他方の面に接着された光透過性を有する樹脂シートで形成される樹脂層と、
前記天然木層と前記裏打層との間に介在して前記天然木層と前記裏打層とを接着する接着層と、
を備える積層シート。
【請求項2】
前記樹脂層は、前記天然木層に対向する面側に接着剤で形成された接合層を有する、請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
前記樹脂層のいずれか一方の面には、情報が印刷されている、請求項1及び請求項2のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項4】
前記裏打層は、紙で形成され前記裏打層のうち前記天然木層側の反対側の面は、裏面として露出している、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項5】
前記天然木層は、少なくとも一部が光透過性を有する、請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の積層シートで形成された表紙を備える書籍。
【請求項7】
天然木を材料とする薄膜状の経木で形成された天然木層を作製する工程と、
前記天然木層の一方の面上に接着層を介して前記天然木層を支持するための裏打層を設ける工程と、
前記天然木層の他方の面上に光透過性を有する樹脂シートで形成される樹脂層を設ける工程と、
を備える積層シートの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−51263(P2011−51263A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203128(P2009−203128)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000139964)株式会社一穂社 (1)
【Fターム(参考)】