説明

積層セラミックコンデンサグリーンシート成型用離型フィルム

【課題】
積層セラミックコンデンサ用グリーンシート成形に用いられる離型フィルムにおいて、軽剥離化および離型フィルムのヌレ性の向上に伴うセラミックスラリー塗布加工時における端部の幅縮みの抑制、セラミックシート積層時の密着改善、さらには、基材フィルムとの密着の良く、工程異物の発生をさせない積層セラミックコンデンサの工程および積層コンデンサ全般において、欠点を生じさせることのない離型フィルムを提供すること。
【解決手段】
シリコーン樹脂に添加する架橋剤であるSiH基量を従来の思想にない量を添加し高架橋の離型層を形成することで、セラミックシートへの離型成分の移行抑止と剥離力低減、ヌレ性向上、耐傷性を向上せしめた離型フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
積層セラミックコンデンサのグリーンシート成型用途に用いられ、グリーンシートの剥離性およびセラミックスラリーのハジキ、積層不良等の問題を解決するために用いられる積層セラミックコンデンサグリーンシート成型用離型フィルムに関するものである。特に1μm以下の厚みの積層セラミックコンデンサグリーンシートの成型に適した離型層を有する離型フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルムの表面に離型層を設けたフィルムは、粘着ラベル、粘着フィルム、液晶用偏光板フィルムの離型フィルム、工程用としては、塩化ビニルシート成型、積層セラミックコンデンサのグリーンシート成型などの用途に幅広く利用されている。
【0003】
積層セラミックコンデンサ(以下MLCCと省略することがある。Multi Layer Ceramic Capacitor)のグリーンシート成型のための工程用離型フィルムとしては、機械的強度、耐熱性、熱的寸法安定性および耐薬品に優れ、且つ経済的にも有利であるポリエチレンテレフタレートフィルムの少なくとも片面に離型層としてシリコーン系樹脂層を設けた離型フィルムが一般的に使用されている。
【0004】
ところで近年、MLCCは、小型化と高容量化のために積層厚みをより薄膜化し、かつ多層化することが行われてきている。すなわち、現在のMLCCの積層厚みは、3〜5μmのものが汎用的に用いられているが、更に1μm程度のものが一般的になりつつあり、1μm以下のセラミックシートを積層したものも開発されており、一部製品化されつつある。
【0005】
上述のようにセラミックシートが薄くなると、離型フィルムのセラミックグリーンシートとの剥離力が小さくないと剥離時にシート破れ、シワが発生し上手く剥がすことができない。このため、現在のセラミックシート成形工程に使用している離型フィルムは、剥離力を軽くするために、低分子のシリコーンである軽剥離成分が多く添加されており、剥離力は軽くなるが、ヌレ性の低下によりセラミックスラリーの幅縮みが発生し、フィルムとシートを巻き取った時に縮んで厚くなったシート部分が積層され、ブロッキングによりシート破れが発生するという問題がある。また、軽剥離成分がスラリーに遊離し、シートがゆず肌状となるとともに、軽剥離成分のグリーンシートへの転移により、グリーンシートと電極間の相間密着力が弱くなり、コンデンサにした時に耐圧不良を起こし、コンデンサ収率の低下原因の主要因となっていた。
【0006】
これらの問題解決のためには、軽剥離化およびヌレ性の相反する特性を有し、シリコーン移行量を極力少なくできる離型フィルムが必要になってきた。
【0007】
特許文献1により、ポリエステルフィルム上に帯電防止層を設け、その上に高硬度のシリコーン離型層を設けることで剥離帯電による重剥離化や帯電によるトラブルを防止する技術が開示されているが、グリーンシートの薄膜化に対応できる軽剥離化とヌレ性の確保およびセラミックスラリーの幅縮みの抑制が達成できる具体的な方法は開示されていない。
【0008】
また、特許文献2には、MLCC用離型フィルムとして、オルガノポリシロキサン中のビニル基に対するオルガノハイドロジェンポリシロキサンのSiH基量の比が1.9〜3.5程度の塗剤を塗布した硬化型シリコーン樹脂からなり、加熱硬化後のSiH量とビニル基量を一定値以下とすることで、剥離帯電を抑え軽剥離化する技術が開示されている。特許文献3には、オルガノポリシロキサン中のビニル基に対するオルガノハイドロジェンポリシロキサンのSiH基量の比が1.0/0.75の塗剤を塗布し、塗膜の残留SiHの量を少なくし、経時による被着体との重剥離化を抑える技術が開示されている(特許文献2、3参照)。さらに、一般的な離型用途であるアクリル系粘着剤の離型用途では、SiH基はアクリル粘着剤と反応して剥離力が昂進するため、なるべく添加量を低くすることが常識であった(特許文献4)。また特許文献5には、離型性の良い離型性樹脂は基材フィルムとの密着性が良くないため、シリコーン系離型樹脂層の基材フィルムとの接着性を高くし、かつ離型性を良くするという相反する特性を満足するために、基材フィルム上に第1の層を設けて密着力を確保し、第2の離型樹脂層を設けることで離型性を確保する方法が開示されており、離型成分中のSiH基のアルケニル基に対する比率が0.5〜5のものが開示されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−192661号公報
【特許文献2】特開2005−22201号公報
【特許文献3】特開平9−239914号公報
【特許文献4】特開2009−46647号公報
【特許文献5】特開2005−231355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
電極印刷、断裁処理後のグリーンシートと電極の積層プレス加工時の相間密着性を改善し放電を防止することにより、MLCCの不良率を低減させ、電気特性を向上させる。また、軽剥離化することにより、グリーンシート剥離時のシート破れ、しわ発生による積層不良、更にヌレ性改善によるセラミックスラリー塗工時の端部の巾縮みを抑制し、工程での不良率の低減も併せて改善させることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、基材フィルムの少なくとも片面に、中間層および離型樹脂層を設けた離型フィルムであって、該離型樹脂層が、ヘキセニル基を有するオルガノポリシロキサンとSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンの付加反応により架橋したものであり、該離型樹脂を成形したシートのゴム硬度が60〜75であることを特徴とする積層セラミックコンデンサグリーンシート成型用離型フィルムにより達成できる。
【0012】
また、好ましくは、離型樹脂層表面の純水接触角が100〜107°の範囲であり、ポリビニルブチラールシートとの剥離力が5〜25mN/50mmの範囲であることを特徴とする積層セラミックコンデンサグリーンシート成型用離型フィルムである。
【0013】
さらには、離型樹脂層に基材フィルムを接触させ、100℃で24時間密着させたあとの基材フィルム側へのオルガノポリシロキサンの移行量が100μg/m以下であることを特徴とする積層セラミックコンデンサグリーンシート成型用離型フィルムであり、剥離力の溶剤擦過後上昇率が、20%以下である積層セラミックコンデンサグリーンシート成型用離型フィルムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のMLCCグリーンシート成型用離型フィルムは、グリーンシートへのシリコーンの移行量が非常に少なく、シートの積層及びプレス時の層間剥離を改善することによりMLCCの不良率を低減できる。
【0015】
また、軽剥離化することにより薄膜化されたグリーンシート剥離時に問題となるシート破れ、しわ等による積層不良を低減できるとともに、セラミックスラリー塗工時の端部の巾縮みを抑制し、ブロッキングを防止するとともに、異物の付着、フィルムの削れによる異物発生を防ぐことによる異物起因のピンホールも防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のMLCCグリーンシート成型用離型フィルムは、基材フィルムの少なくとも片面に、中間層および離型樹脂層を設けた離型フィルムである。
【0017】
本発明の基材フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ポリアミドフィルム、アクリル樹脂フィルム、ノルボルネン系樹脂フィルム、シクロオレフィン樹脂フィルム等が挙げられるが、特にMLCCグリーンシートのような平面性が要求されるシート成型に使用される基材フィルムとしては、機械的強度、耐熱性、熱寸法安定性および耐薬品性に優れ、且つ経済的である二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが好適に用いられる。基材フィルムの厚みとしては、18〜125μmが好ましく、さらに好ましくはコストの面から25〜50μmである。
【0018】
本発明における基材フィルム表面は、少なくとも片面の三次元平均表面粗さSRaが10nm以下であり、かつ突起高さ200nm以上の表面突起を持たないことが望ましい。基材フィルム表面において三次元平均表面粗さSRaを10nm以下とすることで離型層の平面性が向上し、物理的な剥離抵抗が小さくなることで離型性が向上する。
また、基材フィルム表面において突起高さが200nm以上の表面突起が存在すると、極薄のグリーンシートの成型において、ピンホールハジキやグリーンシートの平面性が悪化することによるコンデンサの耐電圧特性の低下、および剥離不良によるグリーンシートの破れ、シワ発生の原因となる。
【0019】
本発明において、基材フィルムの非塗工面は、その表面粗さや表面突起は特に規定されるものではないが、離型フィルムを巻物状にするなどで離型層や成型シートへ表面突起の転写が懸念される場合は、中間層及び離型樹脂層形成面と同等の平滑性があり、表面突起を持たないことが好ましい。しかし、工程通過性や巻物状としての取扱上のハンドリング性が、離型層形成面と非塗工面との接触面積が支配的である剥離帯電が問題になる場合は、非塗工面を、離型層形成面や次工程において成型するシートに対し表面粗さや表面突起の転写が著しく生じない範囲で粗くしても良い。
【0020】
基材層の基材フィルムとしてのポリエチレンテレフタレートフィルムとしては、東レ(株)製「ルミラー」(登録商標)R80や、東洋紡(株)製“コスモシャイン”A4100などの市販のフィルムを用いることができる。
【0021】
本発明における中間層は、基材フィルム製膜時のインラインコート、製膜後のオフラインコートを問わず、有機珪素化合物もしくは、有機金属化合物を含む有機珪素化合物で形成される層であり、基材フィルムと離型樹脂層との密着力を向上させるために設ける。有機珪素化合物としてはエチルシリケートが好適であり、有機金属化合物を含む有機珪素化合物は、有機金属化合物としてアルミニウムキレートを含有し、γ-メタクリロキシ基含有オルガノアルコキシシラン、エポキシ基含有オルガノアルコキシシラン、ビニル基含有オルガノアルコキシシラン、ビニル基含有アセトキシシランおよびこれらの混合物からなる群より選ばれる有機珪素化合物が好適に用いられる。
【0022】
中間層の形成法としては、特に限定されるものではないが、通常の熱風乾燥型グラビア塗工機での塗工が好適である。塗液としては水を媒体とするものでもよく、有機溶剤を媒体とするものでもよいが、好ましくは低級アルコールと水とを混合した媒体を用いる。有機珪素化合物を含有する塗液としては、市販されている“コルコート”N−103X(コルコート(株)製)などを使用してもよい。
【0023】
有機溶剤としてはメチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロヘキサノン、n−ヘキサン、トルエン、キシレン、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールが挙げられる。有機溶剤を用いる場合、これらを単独、もしくは複数を組み合わせて用いることができる。
【0024】
本発明における塗液の固形分濃度は、特にこれに限定されるものではないが、通常10重量%以下であり、更には0.5〜5重量%であることが好ましい。0.5重量%未満であると、基材フィルム上でハジキが発生しやすく、他方10重量%を超えると表面が粗れるおそれがあり好ましくない。
【0025】
本発明のMLCCグリーンシート成型用離型フィルムは、上記中間層の上に離型樹脂層を設けることにより完成する。離型樹脂層のシリコーン樹脂は、ヘキセニル基を有するオルガノポリシロキサンとSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンの付加反応により架橋したものである。
【0026】
一般的に、付加反応硬化型シリコーン樹脂は、オルガノポリシロキサンの分子鎖末端、あるいは側鎖に存在するビニル、アリール、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニルなどのアルケニル基における二重結合と、オルガノハイドロジェンポリシロキサンのSiH基が白金触媒の存在下で付加反応により架橋するものである。
【0027】
製造のしやすさから一般的にアルケニル基としてはビニル基が選択されるが、本発明におけるアルケニル基はヘキセニル基を選択する。ヘキセニル基部分の分子鎖が長いことにより架橋の効率が上がり、高度に架橋した構造においても柔軟性が付与され、離型樹脂層の摩擦耐久性が向上する。
【0028】
ヘキセニル基を有するオルガノポリシロキサンとは、分子鎖両末端をトリメチルシロキシ基あるいはジメチルヘキセニルシロキシ基で封鎖され、主骨格がメチルヘキセニルシロキサンおよびジメチルシロキサンの共重合体で構成されるものに代表される。上記構造におけるメチル基は、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチルなどのアルキル基や、フェニル、トリル、キシリル、ナフチルなどのアリール基、ベンジル、フェネチルなどのアラルキル基などに置き換えることができる。1分子鎖中のヘキセニル基の数は2以上であることが架橋のために必要である。
【0029】
SiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとは、水素原子HがSiに直接結合したSiH基を分子鎖末端あるいは分子鎖中に有するものであり、一般式HRSiO1/2、RHSiO2/2、RSiO2/2、RSiO1/2のユニットの組み合わせにより表現される、直鎖状、分岐状、あるいは環状のオルガノポリシロキサンであり、1分子鎖中にSiH基が3つ以上存在するものである。ここでRはアルケニル基以外の一価の炭化水素基であり、通常はメチル基に代表される。
【0030】
本発明のMLCCグリーンシート成型用離型フィルムにおいて、上記ヘキセニル基を有するオルガノポリシロキサンとSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンからなる離型樹脂を硬化反応させて成形したシートのゴム硬度は、SRIS−0101規格によるゴム硬度が60〜75であることが特徴である。
【0031】
ゴム硬度が60未満の離型樹脂を用いて離型樹脂層を形成した場合、一般粘着剤用途では十分な離型性を有し、かつ被着体との剥離力が昂進しない好ましい塗剤組成であるが、グリーンシートとの剥離では離型樹脂層の硬化が不十分となり、離型樹脂層が柔らかく、微粘着状の被膜となり、軽剥離化する事が出来ない。また、離型樹脂層からのシリコーン離型成分がセラミックグリーンシート表面に移行し、セラミックシート積層工程において、層間の密着が弱くなり、放電現象によりコンデンサ収率を落とす事になる。
【0032】
ゴム硬度が75を越えると、調合塗剤のポットライフが低下し、生産性を低下させるとともに、硬化反応が進みすぎて硬化皮膜がもろくなり、擦過により離型層樹脂が剥離しやすくなり、異物を発生させる原因になる。
【0033】
上記ゴム硬度を達成するための重要な塗剤の設計思想は以下の通りである。すなわち通常の粘着剤用の離型フィルムでは、硬化反応後の皮膜に残存するSiH量を抑え、硬化皮膜表面と粘着剤界面での反応または相互作用を抑え、重剥離化させないことが肝要であり、このためビニル基やヘキセニル基などのアルケニル基に対するSiH基の当量の比率を3以下程度に抑えることが一般的である。しかし、本発明のMLCCグリーンシート成型用離型フィルムにおいてはヘキセニル基に対するSiH基の当量の比率を3〜10とすることが好ましい。さらに好ましくは、ヘキセニル基に対するSiH基の当量の比率は5〜10である。ヘキセニル基に対するSiH基の当量の比率が3以上であるとグリーンシートとの剥離を軽くすることができ、10以下とすることでやはり剥離力を軽くすることができる。
【0034】
離型層の厚みは、10〜300nmであることが好ましく、20〜150nmであることがより好ましい。塗布層を上記範囲とすることで、不必要な厚みを塗布することで生産性を低下させることなく、安定した剥離性能を実現させることができる。
【0035】
離型用シリコーン樹脂を塗布する方法としては、グラビアコーティング、メイヤーバーコーティング、エアーナイフコーティング、ドクターナイフコーティング等に挙げられるコーティング方式を利用することが出来るが、塗工後の表面粗さSRaが10nm以下、表面突起高さ200nm以下とする為には、グラビアロールを使用し加工する場合、レベリングの点でグラビアメッシュを400μm以下、乾燥オーブン温度は160℃以下とすることが好ましい。
【0036】
本発明の離型樹脂層表面の純水接触角が100〜107°の範囲であり、ポリビニルブチラールシートとの剥離力が5〜25mN/50mmの範囲であることが好ましい。グリーンシートとの離型性が良くなれば一般的に純水の接触角が大きくなるが、純水の接触角を107°以下とすることでセラミックスラリーの巾縮みを抑え、フィルムとシートを巻き取った時に縮んで厚くなったシート部分が積層されることでブロッキングによりシート破れが発生するという問題を解決する。また、純水接触角が100°を切るとグリーンシートとの剥離力が高くなりやすく、100°以上とすることで安定した離型性を確保できる。
【0037】
グリーンシートのバインダーとして一般的に使用されるポリビニルブチラールシートとの剥離力が5〜25mN/50mmの範囲とすることで、グリーンシートとの安定した剥離性を確保することができる。すなわち、25mN/50mm以下であればグリーンシートとの剥離を軽くすることができ、5mN/50mm以上とすることでグリーンシート成型時のフィルムのハンドリング時に不意に剥離することなく安定した工程通過性を確保できる。
【0038】
さらに、離型樹脂層に基材フィルムを接触させ、100℃で24時間密着させたあとの基材フィルム側へのオルガノポリシロキサンの移行量が100μg/m以下であることが好ましい。基材フィルム側へのオルガノポリシロキサンの移行量は低ければ低い程好ましいが、100μg/m以下であれば、積層セラミックコンデンサグリーンシートと電極を積層したときの層間密着力が十分となり、積層セラミックコンデンサの不良率が低下し、電気特性が向上するので好ましい。
【0039】
本発明において、本発明の離型フィルムの離型層を溶剤で擦過する前の剥離力と溶剤で擦過した後の剥離力の比率(剥離力の溶剤擦過後上昇率(%))は低ければ低い程良いが、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。剥離力の溶剤擦過後上昇率が20%以下とすることで、セラミックスラリーが塗布されたあと、セラミックスラリー中の有機溶剤により離型層が劣化することで剥離力が昂進することなく、グリーンシートを安定して剥離することができる。本発明において、剥離力の溶剤擦過後上昇率とは綿布の擦れと溶剤への耐性を示し、次の式を用いて算出できる。
【0040】
剥離力の溶剤擦過後上昇率(%)=((A−B)/B)×100
擦過後剥離力(A):学振型摩擦試験機を用いて、離型フィルムの離型層形成面を溶剤を染み込ませた綿布により擦過させた後、離型フィルムの離型層形成面に粘着テープを貼りあわせ、粘着テープを剥離したときの剥離荷重。
【0041】
離型面剥離力(B):離型フィルムの離型層形成面に粘着テープを貼りあわせ、粘着テープを剥離したときの剥離荷重。
本発明における中間層は基材フィルム層と離型層に対して共に密着性が良いため、剥離力の溶剤擦過後上昇率は低く、脱落や削れが起りにくくなる。
【0042】
上記のように製造した積層セラミックコンデンサグリーンシート成型用離型フィルムは、例えば、セラミックススラリーをドクターブレード方式などにて該フィルムにコートし、乾燥後に剥離させてセラミックスシートを作成する際に使用される。
【実施例】
【0043】
実施例、比較例の物性は次のようにして測定した。
【0044】
(1)シリコーン移行量測定方法(μg/m
離型面を同じ側にして、100mm×100mmのサンプルを各水準毎に30枚重ね合わせ、テスター産業(株)製卓上型テストプレス機(型番SA−302)にて100℃、ゲージ圧力300kgf(サンプルへの圧力29.4N/cm)の荷重をかけて24時間放置する。その後、離型層面と接する非コート面側を50mmφに切り取り、下記条件の蛍光X線装置にて非コート面側のケイ素元素強度A(cps)をカウントする。次に非コート面側をトルエンで洗浄、乾燥後、前記と同様な方法でケイ素元素強度B(cps)をカウントした。このようにして得られたケイ素元素強度Aからケイ素元素強度Bを引いた値(A−B)(cps)を計算した。
【0045】
一方で、離型塗剤の固形分濃度(wt%)と離型塗剤の塗布量(g/m)から離型面のシリコーンの塗布量C(g/m)を計算した。また、この離型面のケイ素元素強度D(cps)を測定し、A−BとCの比率からシリコーンの移行量(μg/m)をC×(A−B)/Dで計算した。
装置名:Rigaku製 X線SPECTROMETER RIX1000
X線管:横型Crターゲット
元素コード:Si06
分光結晶 :LIF1
スリット :COARSE
一次フィルター:OUT
ダイアフラム :30mm
印加電圧、電流(XG):50kV−50mA
PHA :100−350
PEAK :2θ/144.520deg、時間/40秒
BG.1 :2θ/143.000deg、時間/10秒
BG.2 :2θ/146.100deg、時間/10秒。
【0046】
(2)ポリビニルブチラール(PVB)剥離力(mN/50mm)
積水化学工業(株)製ポリビニルブチラール(製品名 BM−S)をトルエン:エタノール=1:1の溶剤で溶解させ、この溶液をワイヤーバーを用いて、離型面に乾燥後の塗布厚みが5μmとなるように塗布し、熱風型オーブンで100℃で2分間乾燥させ、ポリビニルブチラール塗工フィルムを作成した。その後、引っ張り試験機(ミネベア(株)製 TG500N)を用いて、180°方向に300mm/分の速度で、離型フィルムの離型面とポリビニルブチラール樹脂層間の剥離力を測定した。測定は、20℃、55%RH条件下で実施した。
【0047】
(3)ゴム硬度測定
ポリプロピレン製ビーカーに固形分濃度20〜40重量%の離型層用塗剤を入れて、脱泡機にて脱泡後、防爆型オーブン(エスペック(株)製SPH−201)により100℃にて、24時間乾燥させる。その後、乾燥固化した厚さ約12mmの樹脂塊をSRIS−0101規格に基づいて(株)テクロック製のゴム硬度計GS−701Nにて測定した。
【0048】
(4)純水接触角評価方法
協和界面科学株式会社製 接触角計CA−X型にて測定した。注射器に純水を注入し、常温下で0.4μlを離型層に滴下して滴下後3秒後に接触角(°)を計測した。
【0049】
(5)剥離力の溶剤擦過後上昇率(%)
テスター産業(株)製の学振型摩擦試験機II型を用いて、離型フィルムの離型層形成面をトルエンを1ml染み込ませた綿布(金布3号)を取り付けた標準の摩擦子(摩擦面:20mm×20mm、R45mm)に荷重200gをかけて、ストローク長120mm、30往復/分で1分間、30往復擦過し、フィルム面についた溶剤を乾燥させた後、ポリエステル粘着テープ(日東電工(株)製No31Bテープ:18mm幅、厚み50μm)を5kgゴムローラーで圧着させながら貼りあわせ、1時間放置し、引っ張り試験機300mm/分で180°方向に粘着テープを剥離したときの剥離荷重を測定し擦過後剥離力(A)とした。
【0050】
一方、離型フィルムの離型層形成面にポリエステル粘着テープ(日東電工(株)製No31Bテープ)を5kgゴムローラーで圧着させながら貼りあわせ1時間放置し、引っ張り試験機により300mm/分で180°方向に粘着テープを剥離したときの剥離荷重を測定し離型面剥離力(B)とした。これらの剥離力から剥離力の溶剤擦過後上昇率(%)を次式により求めた。
【0051】
耐溶剤性保持率(%)=((A−B)/B)×100
A:擦過後剥離力
B:離型面剥離力。
【0052】
(6)耐キズ性評価方法
テスター産業(株)製の学振型摩擦試験機II型を用いて、離型フィルムの離型層形成面を綿布(金布3号)を取り付けた標準の摩擦子(摩擦面:20mm×20mm、R45mm)に荷重200gをかけて、ストローク長120mm、30往復/分で1分間、30往復擦過し、擦過部のキズの数を目視にて判定した。キズが無いものを1級とし、1〜2本を2級、3本以上を3級とした。
【0053】
(実施例1)
基材フィルムとしてポリエチレンテレフタレートフィルム、東レ(株)#38「ルミラー」(登録商標)R80タイプ1m幅(片面SRa10nm、片面SRa40nm)の平滑面上に下記記載の中間層および離型樹脂層を順次積層し離型フィルムを作成した。
【0054】
中間層としてコルコート(株)製有機酸化珪素樹脂 “コルコート”N−103Xタイプ30wt%エタノール溶液2kgをトルエン/MEK(50/50)混合溶剤8kgで希釈して塗工液を作成した。この中間層塗工液を乾燥後の塗布厚みが40nmとなるようにグラビアにてコートし、熱風型乾燥機にて125℃で3秒間脱溶剤処理し中間樹脂層を設けた。
【0055】
さらに、付加反応硬化型シリコーン樹脂として、ヘキセニル基を有するオルガノポリシロキサンとSiH基を有する分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサンの混合物である東レダウコーニング(株)製LTC310の30wt%トルエン溶液500gに、さらに架橋剤として分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン(東レダウコーニング(株)製SP7297タイプ)の固形分濃度100wt%のものを8gを配合し、さらに白金系化合物(東レダウコーニング(株)製SRX212タイプ)を5g添加し、トルエン/MEK(50/50)混合溶剤10kgで全体を希釈して塗工液を作成した。
【0056】
この塗剤と同じ固形分比率でトルエン/MEKで希釈する前の溶液を、200mlのポリプロピレン製ビーカーに100g量り取り、脱泡機にて脱泡後、防爆型オーブン内で100℃で24時間乾燥させる。その後、乾燥固化した厚さ12mmの樹脂シートを(株)テクロック製のゴム硬度計GS−701Nにて測定したところ、ゴム硬度は70であった。
【0057】
上記LTC310タイプの付加反応硬化型シリコーン樹脂は、ヘキセニル基を有するオルガノポリシロキサンとして、ヘキセニル価が0.02mol/100gのものを100重量部と、SiH基を有する分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサンとしてSiH基量2mol/100gのもの2重量部を混合したものからなる。このLTC310をそのまま用いた場合はヘキセニル基に対するSiH基量は2.0であるが、上記固形分濃度30%塗剤500gに、さらにSiH基当量2mol/100gのSiH基を有する分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサンを8g加えた場合は、ヘキセニル基に対するSiH基の比率は7.4となる。
【0058】
この離型層塗工液を中間樹脂層上に乾燥後塗工厚みが50nmとなるようにグラビアコートし、130℃の熱風オーブンで12秒間脱溶剤及び硬化反応させ離型樹脂層を設けた。この離型フィルムの評価結果を表1に示した。
【0059】
(実施例2)
実施例1において、架橋剤(東レダウコーニング(株)製SP7297)の100wt%固形分濃度のもの3gを配合し、塗工液全体のヘキセニル基量とSiH基量の比率が4.0となるよう調整した以外は、実施例1と同様に実施した。離型フィルムの評価結果を表1に示した。純水接触角が108°と若干高めとなり、移行量、剥離力の溶剤擦過後の上昇率も高めとなったが実用上問題ないものが得られた。
【0060】
(実施例3)
実施例1において、架橋剤(東レダウコーニング(株)製SP7297)の100wt%固形分濃度のもの6gを配合し、塗工液全体のヘキセニル基量とSiH基量の比率が6.1となるよう調整した以外は、実施例1と同様に実施した。離型フィルムの評価結果を表1に示した。
【0061】
(実施例4)
実施例1において、架橋剤(東レダウコーニング(株)製SP7297)の100wt%固形分濃度のもの11gを配合し、塗工液全体のヘキセニル基量とSiH基量の比率が9.5となるよう調整した以外は、実施例1と同様に実施した。離型フィルムの評価結果を表1に示した。耐キズ性が2級と若干低下したが実用上問題ないものが得られた。
【0062】
(実施例5)
シランカップリング剤であるBY24−846B(東レダウコーニング(株)製)を0.3kg、BY24−846C(東レダウコーニング(株)製)を0.1kg、アルミ金属触媒であるBY24−846E(東レダウコーニング(株)製)0.2kgをトルエン/IPAの混合(50/50)で希釈した中間層塗工液を使用し、乾燥後塗工厚みが38nmとなるように調整塗布し、125℃オーブンで3秒間脱溶剤した以外は、実施例1と同様に実施した。離型フィルムの評価結果を表1に示した。
【0063】
(実施例6)
実施例1において、希釈溶剤量とグラビアロールの番手を調整し、離型樹脂層の厚みを30nmとした以外は、実施例1と同様に実施した。離型フィルムの評価結果を表1に示した。耐キズ性が2級と若干低下したが実用上問題ないものが得られた。
【0064】
(実施例7)
実施例1において、希釈溶剤量とグラビアロールの番手を調整し、離型樹脂層の厚みを12nmとした以外は、実施例1と同様に実施した。離型フィルムの評価結果を表1に示した。PVB剥離力が若干高めで剥離が重いものになり、耐キズ性が2級と若干低下したが実用上問題ないものが得られた。
【0065】
(実施例8)
実施例1において、希釈溶剤量とグラビアロールの番手を調整し、離型樹脂層の厚みを80nmとした以外は、実施例1と同様に実施した。離型フィルムの評価結果を表1に示した。
【0066】
(実施例9)
実施例1において、希釈溶剤量とグラビアロールの番手を調整し、離型樹脂層の厚みを80nmとした以外は、実施例1と同様に実施した。離型フィルムの評価結果を表1に示した。PVB剥離力が低く、グリーンシート成型時の剥離に注意が必要となり、純水接触角も高めであり、移行量も若干多めとなり、使用するにあたって注意が必要なものとなった。
【0067】
(比較例1)
実施例1において、架橋剤樹脂を追加せずLTC310単独で離型樹脂層を形成した以外は、実施例1と同様に実施した。離型フィルムの評価結果を表1に示した。移行量が多く、剥離力の溶剤擦過後の上昇率も高く、実用に耐えないものとなった。
【0068】
(比較例2)
実施例1において、架橋剤(東レダウコーニング(株)製SP7297)の100wt%固形分濃度のもの15gを配合し、塗工液全体のヘキセニル基量とSiH基量の比率が12.2となるよう調整した以外は、実施例1と同様に実施した。離型フィルムの評価結果を表1に示した。耐キズ性が3級と悪く実用に耐えるものではなかった。
【0069】
(比較例3)
付加反応硬化型シリコーン樹脂として、ビニル基を有するオルガノポリシロキサンとSiH基を有する分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサンの混合物を用い、実施例1と同様の方法でビニル基に対するSiH基の比率を5.1に調整して塗工した以外は、実施例1と同様に実施した。離型フィルムの評価結果を表1に示した。耐キズ性が3級と悪く実用に耐えるものではなかった。
【0070】
(比較例4)
実施例1において、中間層を設けない以外は、実施例1と同様に実施した。離型フィルムの評価結果を表1に示した。剥離力の溶剤擦過後の上昇率が極めて高くなり、実用に耐えるものではなかった。
【0071】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも片面に、中間層および離型樹脂層を設けた離型フィルムであって、該離型樹脂層が、ヘキセニル基を有するオルガノポリシロキサンとSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンの付加反応により架橋したものであり、該離型樹脂を成形したシートのゴム硬度が60〜75であることを特徴とする積層セラミックコンデンサグリーンシート成型用離型フィルム。
【請求項2】
離型樹脂層表面の純水接触角が100〜107°の範囲であり、ポリビニルブチラールシートとの剥離力が5〜25mN/50mmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の積層セラミックコンデンサグリーンシート成型用離型フィルム。
【請求項3】
離型樹脂層に基材フィルムを接触させ、100℃で24時間密着させたあとの基材フィルム側へのオルガノポリシロキサンの移行量が100μg/m以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層セラミックコンデンサグリーンシート成型用離型フィルム。
【請求項4】
剥離力の溶剤擦過後上昇率が、20%以下である請求項1〜3いずれかに記載の積層セラミックコンデンサグリーンシート成型用離型フィルム。
剥離力の溶剤擦過後上昇率(%)=((A−B)/B)×100
擦過後剥離力(A):学振型摩擦試験機を用いて、離型フィルムの離型層形成面を溶剤を染み込ませた綿布により擦過させた後、離型フィルムの離型層形成面にポリエステル粘着テープを貼りあわせ、粘着テープを剥離したときの剥離荷重。
離型面剥離力(B):離型フィルムの離型層形成面にポリエステル粘着テープを貼りあわせ、粘着テープを剥離したときの剥離荷重。

【公開番号】特開2012−6213(P2012−6213A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143341(P2010−143341)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000222462)東レフィルム加工株式会社 (142)
【Fターム(参考)】