説明

積層フィルム

【課題】特に耐擦傷性及び潤滑性を要求される分野で成型追従性に優れ、かつ傷回復性の良好な成型用途に適合する積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【解決手段】基材フィルムの少なくとも片側に、A層を有する積層フィルムであって、
該A層が、(1)ポリカプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合、(4)アルカリ金属塩及び/またはアルカリ土類金属塩からなる金属塩、を有し、
該A層が熱架橋により得られることを特徴とする積層フィルム

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐傷性と帯電防止性と耐化粧品に優れ、かつ成型材料として成型追従性を有する積層フィルムに関し、加飾成型用として好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
加飾成型などの成型材料は、成型時の傷防止や成型後の物品使用過程での傷を防止するために表面硬度化層が設けられる。しかしながら表面硬度化層は、成型に追従する伸びが不足するため、成型時にクラックが発生したり、極端な場合にはフィルムが破断したり、表面硬度化層が剥離したりするために、一般的には成型後に表面硬度化層を形成したり、セミ硬化状態で成型した後、加熱や活性線照射などで完全硬化させるなどの手段が適用されている。しかしながら成型後の物品は3次元に加工されているため、後加工で表面硬度化層を設けるのは非常に困難であり、またセミ硬化状態で成型する場合には、成型条件によっては金型の汚れを誘発する場合がある。そのため、成型に追従する耐擦傷性材料が嘱望され、近年硬度アップによる傷防止から軽度の傷を自己修復する「自己治癒材料」(特許文献1)が注目されている。自己治癒材料は、自身の弾性回復範囲の変形を自己修復できるもので、特許文献1〜4によって開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−137780号公報
【特許文献2】特開2006−119772号公報
【特許文献3】特開平11−228905号公報
【特許文献4】特開2007−2260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら活性エネルギー線硬化型の自己治癒材料(特許文献1〜2)は、表面硬度が高いものの伸びが小さく、成形倍率の高い成形用途にはあまり適していない。一方、特許文献3〜4に記載の熱硬化型の自己治癒材料は伸びに優れるものの、耐化粧品に劣り、化粧品が付着すると、表面に白濁した跡が残ることが問題であった。また、一般的にフィルムに使用される樹脂は、表面抵抗値が高いために静電気によるトラブルが生じ、製品の表面等にゴミや塵などが付着して品質低下等の問題が生じてしまう。
【0005】
本発明の目的は、上記課題を解決し、成型時の追従性や自己治癒性、帯電防止性と耐化粧品性に優れた自己治癒層を有する積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下の発明に至ったものである。
すなわち、
基材フィルムの少なくとも片側に、A層を有する積層フィルムであって、
該A層が、(1)ポリカプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合、(4)アルカリ金属塩及び/またはアルカリ土類金属塩からなる金属塩、を有し、
該A層が熱架橋により得られることを特徴とする積層フィルムをその骨子とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の積層フィルムは、擦り傷などの補修機能(自己治癒性)を有し、かつ帯電防止性と耐化粧品性に優れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の積層フィルムは、基材フィルムの少なくとも片側に、A層を有する積層フィルムであって、
該A層が、以下の(1)から(4)の全てを有することが必要である。
(1)ポリカプロラクトンセグメント
(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント
(3)ウレタン結合
(4)アルカリ金属塩及び/またはアルカリ土類金属塩からなる金属塩
さらに本発明の積層フィルムは、該A層が熱架橋により得られることが必要である。また、基材フィルムはポリエステル基材フィルムであることが好ましく、積層構成のポリエステル基材フィルムであることがさらに好ましい。
【0009】
以下、本発明の各構成について説明する。
【0010】
<基材フィルム>
本発明において基材フィルムを構成する樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよく、ホモ樹脂であってもよく、共重合または2種類以上のブレンドであってもよい。より好ましくは、成形性が良好であるため、熱可塑性樹脂である。また、各樹脂中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、無機粒子、有機粒子、減粘剤、熱安定剤、滑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、屈折率調整のためのドープ剤などが添加されていてもよい。
【0011】
熱可塑性樹脂の例としては、ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレン・ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂、脂環族ポリオレフィン樹脂、ナイロン6・ナイロン66などのポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート・ポリブチレンテレフタレート・ポリプロピレンテレフタレート・ポリブチルサクシネート・ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、4フッ化エチレン樹脂・3フッ化エチレン樹脂・3フッ化塩化エチレン樹脂・4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体・フッ化ビニリデン樹脂などのフッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリ乳酸樹脂などを用いることができる。しかし一方で、成型性に耐え得るだけの延伸性と追従性を備える樹脂でなければならない。この中で、強度・耐熱性・透明性の観点から、特にポリエステルであることがより好ましい。
【0012】
また基材フィルムは、単層構成の基材フィルムや積層構成の基材フィルムのいずれも適用することが可能である。
【0013】
<ポリエステル基材フィルム>
本発明におけるポリエステル基材フィルム(基材フィルムを構成する樹脂がポリエステル樹脂を主成分として含む場合、該基材フィルムをポリエステル基材フィルムという。なお、ポリエステル樹脂を主成分として含むとは、基材フィルムの全成分100質量%において、50質量%以上100質量%以下がポリエステル樹脂である態様を意味する。)のポリエステルとは、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子の総称であって、酸成分及びそのエステルとジオール成分の重縮合によって得られる。具体例としてはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどを挙げることができる。またこれらに酸成分やジオール成分として他のジカルボン酸およびそのエステルやジオール成分を共重合したものであっても良い。これらの中で透明性、寸法安定性、耐熱性などの点でポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートが特に好ましい。用いるポリエステルの極限粘度(JIS K7367(2000)に従って25℃のo−クロロフェノール中で測定)は0.4〜1.2dl/gが好ましく、0.5〜0.8dl/gが特に好ましい。該ポリエステルには必要に応じて各種添加剤、例えば有機、無機の粒子、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候性賦与剤、顔料、染料などの着色剤、耐電防止剤、核剤などが添加されていても良い。ポリエステル基材フィルムは、未延伸(未配向)フィルム、一軸延伸(一軸配向)フィルム、二軸延伸(二軸配向)フィルムのいずれも使用しうるが、寸法安定性や耐熱性に優れる二軸延伸フィルムを用いるのが好ましい。二軸延伸フィルムは高度に結晶配向されたものが好ましく、二軸配向とは広角X線回折で二軸配向パターンを示すものをいう。ポリエステル基材フィルムは単層構成であっても積層構成であっても良い。
【0014】
またポリエステル基材フィルムが積層構成の場合には、ポリエステル樹脂Cを主成分として含む層(C層)とポリエステル樹脂Dを主成分として含む層(D層)とを、交互にそれぞれ50層以上有する多層積層構成のポリエステル基材フィルムとすることにより、干渉色ないし更には金属調色を有するために好ましい。より好ましくは、200層以上である。積層数の上限値としては特に限定するものではないが、装置の大型化や層数が多くなりすぎることによる積層精度の低下に伴う波長選択性の低下を考慮すると、1500層以下であることが好ましい。なお、ポリエステル樹脂Cを主成分として含む層とは、当該層の全成分100質量%において、ポリエステル樹脂Cを50質量%以上100質量%以下含む態様を意味する。同様に、ポリエステル樹脂Dを主成分として含む層とは、当該層の全成分100質量%において、ポリエステル樹脂Dを50質量%以上100質量%以下含む態様を意味する。
【0015】
またポリエステル基材フィルムは、内部に微細な空洞を有するポリエステルフィルムであっても良い。
【0016】
<A層およびその原料>
本発明において、A層は、少なくとも(1)ポリカプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合、(4)アルカリ金属塩及び/またはアルカリ土類金属塩からなる金属塩、の全てを有することが必要である。
【0017】
かかる成分をA層が有することにより、A層に自己治癒性を付与することができる。より詳しくは、A層表面に傷が付されたとしても、数秒の短時間で傷を消滅させる(自己治癒させる)ことができる。また、金属塩に含まれる金属イオンがA層の樹脂内を移動することで、電気伝導性が良好となり、帯電防止性が良好となるとともに耐化粧品性も良好となる。
【0018】
以下、A層に含まれる成分について、詳説する。
【0019】
<ポリカプロラクトンセグメント>
本発明では、A層が(1)ポリカプロラクトンセグメントを有することが重要である。A層が(1)ポリカプロラクトンセグメントを有することで、A層に弾性回復性(自己治癒性)を賦与することができる。
【0020】
なお本発明において(1)ポリカプロラクトンセグメントとは、化学式1で示されるセグメントを指す。
【0021】
A層が(1)ポリカプロラクトンセグメントを有するためには、A層を形成するために用いる組成物が、(1)ポリカプロラクトンセグメントを含有する樹脂を含むことで可能となる。A層を形成するために用いる組成物が、(1)ポリカプロラクトンセグメントを含有する樹脂を含む場合には、かかる(1)ポリカプロラクトンセグメントを含有する樹脂は、少なくとも1以上の水酸基(ヒドロキシル基)を有することが好ましい。水酸基は、ポリカプロラクトンセグメントを含有する樹脂の末端にあることが好ましい。
【0022】
【化1】

【0023】
A層を形成するために用いる組成物に好適な、(1)ポリカプロラクトンセグメントを含有する樹脂としては、特に、2〜3官能の水酸基を有するポリカプロラクトン、具体的にはポリカプロラクトンジオール(化学式2)、ポリカプロラクトントリオール(化学式3)やラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(化学式4)などのラジカル重合性ポリカプロラクトンを用いることができる。
【0024】
【化2】

【0025】
【化3】

【0026】
【化4】

【0027】
また、本発明において、A層を形成するために用いる組成物中の、(1)ポリカプロラクトンセグメントを含有する樹脂は、(1)ポリカプロラクトンセグメント以外に、他のセグメントやモノマーが含有(共重合)されていても良い。たとえば、後述する(2)ポリジメチルシロキサンセグメントやポリシロキサンセグメントが含有(共重合)されていても良い。つまり、A層を形成するために用いる組成物には、(1)ポリカプロラクトンセグメントと(2)ポリジメチルシロキサンセグメントの共重合体、(1)ポリカプロラクトンセグメントと(2)ポリシロキサンセグメントとの共重合体、(1)ポリカプロラクトンセグメントと(2)ポリジメチルシロキサンセグメントと(2)ポリシロキサンセグメントとの共重合体などを用いることが可能であり、このような組成物を用いて得られるA層は、(1)ポリカプロラクトンセグメントと(2)ポリジメチルシロキサンセグメント及び/又はポリシロキサンセグメントを有することが可能となる。
【0028】
また、本発明において、A層を形成するために用いる組成物中の、(1)ポリカプロラクトンセグメントを含有する樹脂中の、ポリカプロラクトンセグメントの重量平均分子量は500〜2500であることが好ましく、より好ましい重量平均分子量は1000〜1500で、自己治癒性の効果がより発現し、また耐傷性も向上する。つまりA層中の(1)ポリカプロラクトンセグメントの重量平均分子量は、500〜2500であることが好ましく、より好ましくは1000〜1500である。
【0029】
<ポリシロキサンセグメント>
本発明では、A層が(2)ポリシロキサンセグメント及び/又はポリジメチルシロキサンセグメントを有することが重要である。
【0030】
なお本発明において(2)のポリシロキサンセグメントとは、以下の化学式5で示されるセグメントを指す。
【0031】
A層が(2)ポリシロキサンセグメント及び/又はポリジメチルシロキサンセグメントを有するためには、A層を形成するために用いる組成物が、ポリシロキサンセグメントを含有する樹脂を含むことで可能となる。
【0032】
【化5】

【0033】
本発明において、ポリシロキサンセグメントを含有する樹脂とは、かかる化学式5で示されるセグメントを含有する樹脂を言う。
【0034】
本発明では、加水分解性シリル基を含有するシラン化合物の部分加水分解物、オルガノシリカゾルまたは該オルガノシリカゾルにラジカル重合体を有する加水分解性シラン化合物を付加させた塗料組成物,詳細にはテトラアルコキシシラン、メチルトリアルコキシシラン、ジメチルジアルコキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、γ−グリシドキシプロピルアルキルジアルコキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリアルコキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルアルキルジアルコキシシランなどの加水分解性シリル基を有するシラン化合物の完全もしくは部分加水分解物や有機溶媒に分散させたオルガノシリカゾル、さらには該オルガノシリカゾルの表面に加水分解性シリル基の加水分解シラン化合物を付加させたものなどを、ポリシロキサンセグメントを含有する樹脂として用いることができる。
【0035】
また、本発明において、ポリシロキサンセグメントを含有する樹脂は、ポリシロキサンセグメント以外に、他のセグメント等が含有(共重合)されていても良い。たとえば、前述したポリカプロラクトンセグメント、ポリジメチルシロキサンセグメントを有するモノマー成分が含有(共重合)されていても良い。
【0036】
また本発明においては、ポリシロキサンセグメントを含有する樹脂として、A層の強靱性を向上させる意味で、イソシアネート基と反応する水酸基を有するモノマー等が共重合されていることが好ましい。ポリシロキサンセグメントを含有する樹脂が水酸基を有する共重合体であることで、該水酸基を有するポリシロキサンセグメントを含有する樹脂とイソシアネート基を含有する化合物とを含む組成物を用いてA層を形成すると、効率的にA層が(2)ポリシロキサンセグメントと(3)ウレタン結合とを有する態様とすることができる。
【0037】
<ポリジメチルシロキサンセグメント>
前述の通り本発明では、A層が(2)ポリシロキサンセグメント及び/又はポリジメチルシロキサンセグメントを有することが重要である。
【0038】
なお本発明において、(2)のポリジメチルシロキサンセグメントとは、化学式6で示されるセグメントを指す。
【0039】
A層が(2)ポリシロキサンセグメント及び/又はポリジメチルシロキサンセグメントを有するためには、A層を形成するために用いる組成物が、ポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂を含むことで可能である。
【0040】
【化6】

【0041】
A層が、かかるポリジメチルシロキサンセグメントを有すると、ポリジメチルシロキサンセグメントがA層の表面に配位することとなる。ポリジメチルシロキサンセグメントがA層の表面に配位することにより、A層表面の潤滑性が向上し、摩擦抵抗を低減することができる(すなわち、傷付き性を抑制することができる)。
【0042】
本発明において、ポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂とは、かかる化学式6で示されるセグメントを含有する樹脂を言う。
【0043】
また、本発明において、A層を形成するために用いる組成物として、ポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂を使用する場合は、ポリジメチルシロキサンセグメント以外に、他のセグメント等が含有(共重合)されていても良い。たとえば、前述したポリカプロラクトンセグメントやポリシロキサンセグメントが含有(共重合)されていても良い。
【0044】
また本発明においては、ポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂としては、ポリジメチルシロキサンセグメントにビニルモノマーが共重合された共重合体を用いることが好ましい。
【0045】
また、A層の強靱性を向上させる意味で、ポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂は、イソシアネート基と反応する水酸基を有するモノマー等が共重合されていることも好ましい。ポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂が水酸基を有する共重合体であることで、該水酸基を有するポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂とイソシアネート基を含有する化合物とを含む組成物を用いてA層を形成すると、効率的にA層が(2)ポリジメチルシロキサンセグメントと(3)ウレタン結合とを有する態様とすることができる。
【0046】
ポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂が、かかるビニルモノマーとの共重合体の場合(ポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂がビニルモノマーとの共重合体の場合、これは、ポリジメチルシロキサンセグメントとアクリルセグメントとを含有する樹脂であり、これを以後、ポリジメチルシロキサン系共重合体という)は、ブロック共重合体、グラフト共重合体、ランダム共重合体のいずれであっても良い。かかるポリジメチルシロキサン系共重合体は、リビング重合法、高分子開始剤法、高分子連鎖移動法などに製造することができるが、生産性を考慮すると高分子開始剤法、高分子連鎖移動法を用いるのが好ましい。
【0047】
高分子開始剤法を用いる場合には下記の化学式7で示される高分子アゾ系ラジカル重合開始剤を用いて他のビニルモノマーと共重合させることができる。またペルオキシモノマーと不飽和基を有するポリジメチルシロキサンとを低温で共重合させて過酸化物基を側鎖に導入したプレポリマーを合成し、該プレポリマーをビニルモノマーと共重合させる二段階の重合を行うこともできる。高分子連鎖移動法を用いる場合は例えば化学式8に示すようなシリコーンオイルにHS−CH2COOHやHS−CH2CH2COOH等を付加してSH基を有する化合物とした後、該SH基の連鎖移動を利用して該シリコーン化合物とビニルモノマーとを共重合させることでブロック共重合体を合成することができる。更にポリジメチルシロキサン系グラフト共重合体を合成するには、例えば化学式9に示す化合物、すなわちポリジメチルシロキサンのメタクリルエステルなどとビニルモノマーを共重合させることにより容易にグラフト共重合体を得ることができる。
【0048】
【化7】

【0049】
【化8】

【0050】
【化9】

【0051】
ポリジメチルシロキサンとの共重合体に用いられるビニルモノマーとしては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート,n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、オクチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジアセチトンアクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、アリルアルコールなどを挙げることができる。
【0052】
また、かかるポリジメチルシロキサン系共重合体(ポリジメチルシロキサンセグメントとアクリルセグメントとを有する樹脂)は、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤などを単独もしくは混合溶媒中で溶液重合法によって製造されることが好ましい。
【0053】
必要に応じてベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチルニトリルなどの重合開始剤を併用する。重合反応は50〜150℃で3〜12時間行うのが好ましい。本発明におけるポリジメチルシロキサン系共重合体中のポリジメチルシロキサンセグメントの量は、A層の潤滑性や耐汚染性の点で、ポリジメチルシロキサン系共重合体の全成分100質量%において1〜30質量%であるのが好ましい。また該ポリジメチルシロキサンセグメントの重量平均分子量は1000〜30000程度とするのが好ましい。
【0054】
(1)ポリカプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及びポリジメチルシロキサンセグメントを有する態様のA層を得るための組成物中の、ポリジメチルシロキサン系共重合体、ポリカプロラクトン、およびポリシロキサンの反応は、上記ポリジメチルシロキサン系共重合体合成時に、適宜ポリカプロラクトンセグメント及びポリシロキサンセグメントを添加して共重合することができる。
【0055】
本発明は、A層を形成するために用いる組成物中において、ポリカプロラクトンセグメントが共重合される場合であっても、別途添加される場合であっても、A層を形成するために用いる組成物の全成分100質量%(組成物の全成分100質量%には、反応に関与しない溶媒は含まない。但し、液体成分であっても、反応に関与するモノマー成分は含む。)において、ポリカプロラクトンセグメントの量が5〜50質量%であるのが、傷修復性、耐汚染性の点で好ましい。つまりA層は、A層を構成する全成分100質量%において、ポリカプロラクトンセグメントを5〜50質量%有する態様が好ましい。
【0056】
本発明は、A層を形成するために用いる組成物中において、ポリシロキサンセグメントが、共重合される場合であっても、別途添加される場合であっても、A層を形成するために用いる組成物の全成分100質量%(組成物の全成分100質量%には、反応に関与しない溶媒は含まない。但し、液体成分であっても、反応に関与するモノマー成分は含む。)において、ポリシロキサンセグメントが1〜20質量%であるのが、傷修復性、耐汚染性、耐候性、耐熱性の点で好ましい。つまりA層は、A層を構成する全成分100質量%において、ポリシロキサンセグメントを1〜20質量%有する態様が好ましい。
【0057】
本発明は、A層を形成するために用いる組成物中において、ポリジメチルシロキサンセグメントが、共重合される場合であっても、別途添加される場合であっても、A層を形成するために用いる組成物の全成分100質量%(組成物の全成分100質量%には、反応に関与しない溶媒は含まない。但し、液体成分であっても、反応に関与するモノマー成分は含む。)において、ポリジメチルシロキサンセグメントが5〜50質量%であると、表面に滑り性を付与して耐傷性が向上して好ましい。
【0058】
<ウレタン結合>
本発明では、A層が(3)ウレタン結合を有することが重要である。
【0059】
A層が(3)ウレタン結合を有するためには、A層を形成するために用いる組成物が、市販のウレタン変性樹脂を含むことで可能である。また、A層が(3)ウレタン結合を有するための別の方法としては、A層を形成するために用いる組成物を選択することで、A層を形成する際に、イソシアネート基と水酸基を反応させてウレタン結合を生成させる方法があり、こちらの方法がより好ましく用いられる。
【0060】
後者の方法によって、A層中にウレタン結合を含ませることにより、A層の強靱性を向上させると共に弾性回復性(自己治癒性)を助長することができる。また、前述したポリシロキサンセグメントを含有する樹脂やポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂が、水酸基を有する場合は、熱などによってこれら樹脂とイソシアネート基を有する化合物との間にウレタン結合を生成させることが可能であるので、A層を形成するために用いる組成物中に、イソシアネート基を有する化合物と、水酸基を有するポリシロキサンセグメントを含有する樹脂や水酸基を有するポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂を含ませる方法は有用である。これにより、A層の強靱性および弾性回復性(自己治癒性)をさらに高めることができる。
【0061】
本発明において、(3)ウレタン結合を有するA層を形成するために用いる組成物中のイソシアネート基を含有する化合物とは、イソシアネート基を含有する樹脂や、イソシアネート基を含有するモノマーやオリゴマーを指し、例えば、メチレンビス−4−シクロヘキシルイソシアネート、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、イソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、トリレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ヘキサメチレンイソシアネートのビューレット体などのポリイソシアネート、および上記イソシアネートのブロック体などを挙げることができる。
【0062】
本発明におけるA層は、前述の通り、(1)ポリカプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合、を有することが重要であり、そのためには(1)ポリカプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合がそれぞれ別の樹脂に存在する態様でも構わないし、(1)ポリカプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合が一つの樹脂に存在する態様でも構わない。
【0063】
好ましくは、(1)ポリカプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合の全てを有する樹脂を、A層が含む態様である。また、A層が、(1)ポリカプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合の全てを有する樹脂を主成分とすることがさらに好ましい。ここでいう主成分とは、A層を構成する全成分100質量%において、80質量%以上100質量%以下を占める成分を意味する。(1)ポリカプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合の全てが、高分子体である一つの樹脂の中に含まれることにより、A層はより強靱な層となるため好ましい。また、A層を構成する全成分100質量%において、(1)ポリカプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合の全てを有する樹脂が、80質量%以上100質量%以下を占めることにより、自己治癒性が高まるため好ましい。
【0064】
<アルカリ金属塩及び/またはアルカリ土類金属塩からなる金属塩>
本発明では、A層が(4)アルカリ金属塩及び/またはアルカリ土類金属塩からなる金属塩を有することが必要である。A層が上記金属塩を有することにより、金属塩に含まれる金属イオンがA層の樹脂内を移動することで、電気伝導性が良好となり、帯電防止性が良好となる。また、理由は定かではないが、A層が(4)アルカリ金属塩及び/またはアルカリ土類金属塩からなる金属塩を有することで、A層の耐化粧品性も良好となる。ここで耐化粧品性とは、美肌効果、紫外線カット効果を有するクリーム剤に対する耐性のことである。一般的に自己治癒性を有する層(材料)は、耐化粧品性が不良であり、化粧品と接触すると、経時で表面に白化が生じやすい。本発明では上記金属塩を含有することにより帯電防止性と耐化粧品性が良好となる。
【0065】
また、本発明の(4)アルカリ金属塩及び/またはアルカリ土類金属塩からなる金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩、マグネシウム塩、及びカルシウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物であることが好ましい。このような化合物としては、具体的には、Li(CFSON、Li(CFSOC、LiCFSO、Mg{(CFSON}、LiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiB(C、Mg{(CFSOC}、Mg{CFSO等が挙げられる。
【0066】
さらに、A層の合計100質量%におけるリチウムの質量比率をリチウム濃度とすると、本発明の積層フィルムのA層は、上記リチウム濃度が0.09質量%以上1質量%以下とすることが好ましい。A層は、リチウム濃度が高くなるにしたがって電気伝導性が良好となり、帯電防止性が良好になる。A層のリチウム濃度が1質量%よりも高くなると、A層の耐擦傷性や密着性が低下してしまうことがある。また、A層のリチウム濃度が0.09質量%未満であると十分な帯電防止性が得られないため好ましくない。
【0067】
さらに、本発明の積層フィルムのA層は、上記リチウム濃度が0.4質量%以上0.7質量%以下であるとさらに好ましい。上記リチウム濃度を0.4質量%以上0.7質量%以下とすることで、さらに良好な帯電防止性、密着性及び耐擦傷性を発揮できる。
【0068】
さらに、A層が有する(4)アルカリ金属塩及び/またはアルカリ土類金属塩からなる金属塩において、該金属塩の陰イオンは、BF、ClO、PF、AsF、SbF、CFSO、(CFSO、(CFSO、及びB(C−からなる群より選ばれる少なくとも1つの陰イオンであることが好ましい。これらの陰イオンを選択することで、A層は、優れた帯電防止性を得ることができる。上記陰イオンはアルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンに比してイオンサイズが極めて大きいため、金属のイオン化が良好となり、優れた帯電防止性を得ることができる。
【0069】
また、陰イオン中にCFの繰り返し単位を含む金属塩を用いると、A層を熱硬化させたとき、その表面抵抗値が大きくなりやすく、帯電防止性の低下が生じる。これに対し、上記陰イオン中には、CFの繰り返し単位が含まれていないため、本発明の積層フィルムでは、陰イオンの影響による帯電防止性の低下が生じることはない。
【0070】
A層は、(1)ポリカプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合、(4)アルカリ金属塩及び/またはアルカリ土類金属塩からなる金属塩の全てを有することが重要であるが、A層におけるその他の成分としては、例えば耐熱剤、紫外線吸収剤、光安定剤、有機、無機の粒子、顔料、染料、離型剤、帯電防止剤などが挙げられる。
【0071】
(1)ポリカプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、及び(3)ウレタン結合の全てを含む樹脂、並びに(4)アルカリ金属塩及び/またはアルカリ土類金属塩からなる金属塩を有するA層は、例えば次のように製造することができる。つまり、水酸基を有するポリジメチルシロキサン系共重合体、ポリカプロラクトン、イソシアネート基を含有する化合物、アルカリ金属塩及び/またはアルカリ土類金属塩からなる金属塩の4成分全てを含む組成物を、基材フィルム上に塗布して加熱により反応させることで、(1)ポリカプロラクトンセグメント、(2)ポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合の全てを有する樹脂、及び(4)アルカリ金属塩及び/またはアルカリ土類金属塩からなる金属塩を有するA層を得ることができる。
【0072】
本発明においてA層は、熱架橋によって形成されることが重要である。ここで熱架橋とは、任意の温度によって、樹脂や化合物同士を連結反応させることである。熱架橋によって得られたA層は、フィルム基材への密着性に優れるとともに、所定の表面硬度を保持し、耐殺傷性、さらには殺傷が生じた場合の自己治癒性にも優れる。
【0073】
特に、本発明においてA層は、イソシアネート基を含有する化合物を含む組成物により形成されてなる層であることが好ましい。例えば、イソシアネート基を含有する化合物である硬化剤と、イソシアネート基と付加反応する別の官能基(水酸基など)を持った化合物を熱架橋させる方法が、ウレタン結合を生成できるために好ましい。また、イソシアネート基を含有する化合物の量は限定されないが、A層を形成するために用いる組成物の全成分100質量%中に、イソシアネート基を含有する化合物を11質量%以上22質量%以下含んでいると、A層の自己治癒性が非常に速くなることから好ましい。
【0074】
本発明のA層は、(3)ウレタン結合を有することが重要なので、A層を形成するために用いる組成物中には、最終的に(3)ウレタン結合を形成可能な化合物を含むことが重要である。なお、このような(3)ウレタン結合を形成可能な化合物として、イソシアネート基を含有する化合物を含んだ組成物を用いて、A層を形成することが好ましい。なお、A層を形成するための組成物中には、アルコキシメチロールメラミンなどのメラミン架橋剤、3−メチル−ヘキサヒドロ無水フタル酸などの酸無水物系架橋剤、ジエチルアミノプロピルアミンなどのアミン系架橋剤などの他の架橋剤を含むことも可能である。
【0075】
また、A層を形成するために用いる組成物中には、ウレタン結合の形成反応を促進させるためにジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジエチルヘキソエート、アルミニムアセチルアセトナートなどの架橋触媒を用いても良い。
【0076】
<その他の成分>
本発明のA層は、上述した成分以外にもアクリルセグメント、ポリオレフィンセグメント、ポリエステルセグメントなどのその他の成分が含まれていても良い。
【0077】
ポリオレフィンセグメントは、ポリオレフィン系樹脂と同等の構造を有する炭素原子数が2〜20のオレフィンから導かれる繰返し単位からなる重合体である。
【0078】
アクリルセグメントは、アクリル単位を構成成分として含む重合体であり、アクリル単位を50mol%以上含むことが好ましい。好適例として、メタクリル酸メチル単位、アクリルメチル単位、アクリルエチル単位およびアクリルブチル単位を挙げることができる。
【0079】
ポリエステルセグメントのジオール成分としては、ブタンジオールおよび/またはヘキサンジオール以外に、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ダイマージオール、水添ダイマージオールを用いることができる。ポリエステルセグメントの酸成分としては、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸、アゼライン酸、コハク酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などを用いることができ、これらの構成成分が複数含まれていてもよい。
【0080】
これらの中でも、特にA層がアクリルセグメントを有する態様が、耐薬品性、強靱性に優れたA層とすることができる点から好ましい。
【0081】
<A層の特性>
本発明の積層フィルムは、A層が自己治癒性を有する。ここでA層が自己治癒性を有するとは、温度20℃での傷の回復時間が15秒以下であることを意味する。さらに、A層の温度20℃での傷の回復時間が5秒以下であることが好ましく、より好ましくは、傷の回復時間が2秒以下である。回復時間が5秒以下であると、傷が瞬時に回復するためハードコートに近い耐傷性を維持する。温度20℃での傷の回復時間を5秒以下とするためには、A層が、(1)ポリカプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合、を有する構成であり、さらにA層が、イソシアネート基を含有する化合物を含む組成物との熱架橋反応によって得られる層であることが必要であり、かつA層のTgが−30〜20℃の範囲にあることが好ましい。
【0082】
A層のTgが20℃を超える場合は、自己治癒性が極端に遅くなり、また、A層のTgが−30℃未満では、すべり性が低下してロールでの巻き取り不良やブロッキング、更には成型時の金型との密着性が大きくなり成型不良などの問題が発生する。A層のTgは、塗料組成物に対してイソシアネート基を含有する化合物の量を変えることにより調整することができる。
【0083】
A層のTgは、より好ましくは−30〜0℃である。A層のTgが−30〜0℃の範囲を満たすことにより、自己治癒速度が大きく向上したものが得られる。A層のTgを上述の−30〜0℃の範囲とするためには、A層をイソシアネート基を含有する化合物を含む組成物により形成されてなる層として、さらに該組成物の全成分100質量%中に上記イソシアネート基を含有する化合物を11〜22質量%とし、熱架橋によりA層を形成することが重要である。これにより、ウレタン結合の架橋密度を下げることになるので、Tgを−30〜0℃の範囲に制御することができる。
【0084】
A層のTgを上述の−30〜0℃の範囲とするための別の方法としては、熱架橋により形成されるA層において、さらに低Tg成分を有することが好ましい。特に好ましい態様としては、A層が低Tg成分のアクリルセグメントを有することである。低Tg成分のアクリルセグメントとは、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレートなどのモノマーの重合体で構成されるセグメントを意味する。A層中にこのような低Tg成分のアクリルセグメントの含有量を増やすことで、A層のTgを−30〜0℃の範囲に制御できるために好ましい
また、本発明の積層フィルムのA層は、表面抵抗値が2×1012〜1×10の範囲にあることが好ましい。表面抵抗値を2×1012〜1×10の範囲とするには、本発明の積層フィルムにおいて、A層の合計100質量%におけるリチウムの質量比率をリチウム濃度とした際の上記リチウム濃度を、0.09質量%以上1質量%以下とする方法が好ましい。本発明の積層フィルムのリチウム濃度を0.09質量%以上1質量%以下にすることにより、帯電防止性と耐化粧品性が良好となる。
【0085】
<積層フィルムの特性と製造方法>
本発明の積層フィルムは、80℃および150℃での平均破壊伸度が65%以上である場合、特に好ましい。また、それ以上の成型温度においても、十分な伸度を維持できることを発明者らは確認している。80℃又は150℃の平均破壊伸度が65%未満の場合には、高度な成型(高倍率成型)や深絞り加工などの成型時にA層の破壊や剥離が生じたり、成型時の伸びが不均一になったり、部分的に著しい干渉縞が発生したりするので好ましくない。また、80℃および150℃の平均破壊伸度の上限値は大きいほど好ましいが、基材フィルムとの追従性の点から100%未満であることが好ましい。
【0086】
本発明の積層フィルムの80℃および150℃の平均破壊伸度を65%以上とするためには、本発明の積層フィルムのA層は、以下の(A)〜(C)の工程をその順に経て、製造することで達成することができる。
(A)積層工程:(ポリエステル基材フィルムなどの)基材フィルムの少なくとも片側に、(1)ポリカプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合、(4)アルカリ金属塩及び/またはアルカリ土類金属塩からなる金属塩、を有する化合物から形成されてなる層を設ける(積層する)。
(B)加熱工程:150℃以上で1分間以上加熱することで、熱架橋する工程。
(C)エージング工程:20℃〜80℃で3日間以上加熱する工程。
以下、それぞれの工程について、詳細に説明する。
【0087】
(A)積層工程:
(ポリエステル基材フィルム)などの基材フィルムへのA層の積層手法は、特に限定されるものではないが、例えば、A層を形成する材料と、必要に応じて溶媒を含む塗液(A層を形成するために用いる組成物)を、(ポリエステル基材フィルム)などの基材フィルムの少なくとも片側に、塗布する手法を挙げることができる。また、塗布方法としては、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、ダイコート法、リバースコート法、ナイフコート法、バーコート法など公知の塗布方法を適用することができる。
【0088】
A層の厚みは、厚いほど自己治癒効果が向上する一方で、伸びや耐化粧品性が悪化する傾向にあるため、使用用途や必要とされる性能を考慮する必要がある。本発明のA層は、厚みは特に限定されないが、本発明のA層の好ましい厚みは15〜30μmである。この範囲を満たす場合には、自己治癒性、伸びにおいて優れたものとすることができる。また、本発明の積層フィルムを成形する場合、成形によりA層の厚みは薄くなるため、成形倍率にあわせてA層の厚みを厚くしておくのが有効である。
【0089】
(B)加熱工程(熱架橋工程)
(B)加熱工程では、加熱を行うことにより、層中の溶媒が揮発するとともに、A層の熱架橋反応を生じさせる。
【0090】
前述の通り、熱架橋とは、任意の温度によって、樹脂や化合物同士を連結反応させることであるが、ここでいう任意の温度について以下説明する。
【0091】
本発明では、A層を形成するための熱架橋反応を促進させるため、加熱工程における加熱温度は150℃以上であることが好ましく、より好ましくは160℃以上であり、さらに好ましくは170℃以上である。このように、加熱温度は高温であるほど好ましく、高温で加熱することによりA層の熱架橋反応が進行するため、タック性が消失する利点を有する。一方(ポリエステル基材フィルム)などの基材フィルムの熱収縮によるしわの発生などを勘案すると、(B)加熱工程におけるその上限温度は180℃以下であることが好ましい。また、加熱温度が150℃未満であると、A層の熱架橋反応が十分に進行せず、タック性が残るとともに、その後のエージング工程において、A層が硬質化してしまい、本発明の積層フィルムの平均破壊伸度が低下する原因となる。
【0092】
また、加熱時間は、1分間以上、好ましくは2分間以上、更に好ましくは3分間以上であることが好ましい。上限は特に定められるものではないが、生産性、基材フィルムの寸法安定性、透明性の維持の点で、5分間以下とすることが望ましい。具体的には、本発明では、加熱温度を150℃以上としかつ加熱時間を1〜5分間とすることが好ましい。より好ましくは、加熱温度を160℃以上としかつ加熱時間を1〜3分間とすることであり、さらに好ましくは加熱温度を170℃以上としかつ加熱時間を1〜2分間とすることである。
【0093】
加熱工程における加熱方法は特に限定されるものではないが、加熱効率の点から熱風で行うのが好ましく、公知の熱風乾燥機、または、ロール搬送やフローティングなどの連続搬送が可能な熱風炉などを適用できる。
【0094】
(C)エージング工程
(B)加熱工程において、高温かつ短時間で加熱させた積層フィルムは、その後、加熱温度(エージング温度)を20〜80℃とし、かつ加熱時間(エージング時間)を3日間以上、好ましくは7日間以上、更に好ましくは20日間以上とする加熱処理(エージング処理)を経ることが好ましい。エージング処理により、ウレタン結合が増えるため、A層の平均破壊伸度が向上して、本発明の積層フィルムの平均破壊伸度を65%以上とすることができる。
【0095】
エージング工程における加熱温度(エージング)は20〜80℃であることが好ましく、より好ましくは40℃〜80℃であり、さらに好ましくは60℃〜80℃である。なお、60℃〜80℃でエージングする場合、エージング時間は3〜15日間とすることが好ましい。80℃を超える温度で長時間エージングすると積層フィルムの平面性が悪化する問題が生じるので好ましくない。エージング処理は、所定の温度設定が可能な恒温室で枚葉もしくはロールで処理することが好ましい。
【0096】
<用途>
本発明の積層ポリエステルフィルム等の積層フィルムの好ましい用途は成型分野、特にパソコンや携帯電話などの筐体に適用される加飾成型分野に好適であり、その成型方法は特に限定するものでは無く、種々の成型方法に適用することができる。具体的には本発明の積層フィルムは、射出成型、圧空成型、真空成型、熱成型、プレス成形などの成型方法を適用して、成型体とすることができる。中でも、成型時に80℃〜180℃に加温される用途に特に好適に適用することができる。
【0097】
また、成型用途に用いる場合、本発明の積層フィルムの成型倍率が、1.1〜1.6倍の範囲を有していることが好ましい。成型体は、折り曲げ部分や湾曲部分などが特に成型倍率が高くなりやすく、その部分の成型倍率が、上記の成型倍率を満たしておれば深絞りの成形にも対応できるため好ましい。成型倍率を1.6倍よりも大きくすると、自己治癒性を維持するためにA層の厚みをかなり厚くする必要があり、逆に密着性や塗工性などが悪化するため好ましくない。
【0098】
[特性の測定方法および効果の評価方法]
本発明における特性の測定方法および効果の評価方法は以下のとおりである。
【0099】
(1)A層の厚み
積層フィルムの超薄膜断面切片を切り出し、RuO染色あるいはOsO染色により、透過型電子顕微鏡(日立(株)製 H−7100FA)にて層厚みを測定した。測定は10サンプルの平均値とした。また、成型体の測定個所は、成型体の中心部分50mm四方を切り取り、その中の3箇所を測定した。
【0100】
(2)80および150℃における積層フィルムの平均破壊伸度
積層フィルムを10mm幅×200mm長に切り出し、長手方向にチャックで把持してインストロン型引っ張り試験機(インストロン社製超精密材料試験機MODEL5848)にて引っ張り速度100mm/分で伸長した。測定雰囲気温度を80℃とし、伸度5%単位でサンプルを採取した。採取したサンプルの薄膜断面を切り出し、「A層の厚み」測定と同様の方法で、観察するA層の厚みが、透過型電子顕微鏡の観察画面上において、30mm以上になるような倍率でA層を観察し、A層平均厚みの50%以上のクラック(亀裂)が発生している場合をクラック有り(A層の破壊有り)として、当該フィルムの破壊伸度とした。同一の測定を計3回行い、それらの平均値を80℃における積層フィルムの平均破壊伸度とした。
【0101】
次いで、測定雰囲気温度を150℃とした以外は、測定雰囲気温度が80℃の場合と同様にして150℃における積層フィルムの平均破壊伸度を求めた。
【0102】
(3)タック性
加熱工程を経たA層の表面を、触指でタック性(粘着性)を観察し、以下の評価で判定した。○以上を良好とした。
○ :全く粘着しない(フィルムが指に付かない)。
△ :やや粘着する(やや粘着するがフィルムは指に付かない)。
× :粘着する(フィルムが指に付く)。
【0103】
(4)A層のTg
示差熱量分析(DSC)を用い、JIS−K−7122(1987年)に従って測定・算出した。刃ナイフで削りだしたA層のサンプルを、アルミ製のパンに詰め、−100℃から100℃まで20℃/minで昇温した。
装置:セイコー電子工業(株)製”ロボットDSC−RDC220”
データ解析”ディスクセッションSSC/5200”
サンプル質量:5mg
(5)耐スチールウール性
2cm×2cmのスチールウール(#0000)を用い、この上に200gの荷重をかけて試料表面を擦り、傷が発生する時の往復回数を目視でカウントした。
◎:21回以上
○:10〜20回
△:5〜9回
×:4回以下
(6)密着性
JIS K 5600(1999年制定)に準拠した碁盤目試験を行った。具体的にはA層面上に1mm間隔で縦横に11本の切れ目を入れ、1mm角の碁盤目を100個作った。この上にセロハンテープ(セキスイ製)を貼り付け、90度の角度で素早く剥がし、剥がれずに残った碁盤目の状態を目視観察し、下記の基準に則り密着性の評価を行った。
◎:剥離が殆ど認められず、密着性が非常に優れている
○:僅かに剥離が認められるが、密着性は良好である
△:やや剥離が認められるが、実用上問題がないレベル
×:剥離が目立ち実用上問題がある
(7)A層の自己治癒性
JIS K5600(1999年制定)に準じてHB鉛筆(“ユニ”三菱鉛筆製)を用い、750g/cm荷重でA層表面に傷を付けた後、サンプルの真上から以下のカメラ撮影条件で傷が見えなくなるまでの時間を回復時間とした。回復時間が速ければそれだけ自己治癒性が高いことを表す。測定は3回行い、その平均値を採った。また、測定は温調されているアクリルボックス内で行い、温度20℃の時で行った。また、成型体の測定個所は、成型体の中心部分50mm四方を切り取り、その中の3箇所を測定した。
【0104】
光源:LuminarAce LA−150UXのリングライトをカメラ先端に設置
カメラ:VW−6000(キーエンス株式会社)
sample rate:10pps
exposhure time:20000μs
(8)耐化粧品性
市販品のトリ(カプリルーカプリン酸)グリセリン、2-エチルヘキサン酸セトステアリル、メチルポリシロキサン、及びミリスチン酸イソプロピルの等量混合液を、A層表面に塗り、60℃・95%の恒温恒湿オーブン内に3日間保存した。その後、常温下で1時間乾燥させた後に、表面をガーゼできれいに拭き取った。一日後に表面を観察して、下記の基準に則り判定を行った。また、成型体の測定個所は、成型体の中心部分50mm四方の中で行った。
◎:白斑の発生なし。
○:わずかに白斑発生するが拭き取ればきれいになる。
●:白斑が発生したが拭き取ればきれいになる。
△:白斑が発生し、拭き取っても一日後に再度発生する。
×:白斑が発生し、拭き取っても一日後および二日後に再度発生する。
(9)表面抵抗値
積層フィルムを、アドバンテスト製ハイレジスタンスメータを用いて、A層の表面抵抗値を測定した。
(10)リチウム濃度の測定
積層フィルムよりA層をカッターで切り出して秤量し、硝酸、硫酸、フッ化水素酸および過塩素酸で加熱分解し、希硝酸で加熱溶解して定容とした。この溶液について、ICP発光分光分析法(装置:エヌアイアイ・テクノロジー製 SP4000)でリチウムを測定し、A層中の含有量を求めた。
(11)ウレタン結合の有無
エージング経過後に、FT−IR装置(Digilab製、FTS−7000e)にて、A層表面を下記方法で測定し、Zの吸収ピークの有無で判断した。Zの吸収ピークがある場合を○、ない場合を×とした。
Z:1701cm―1または1719cm―1のピーク強度(ウレタン結合の吸収)
1回反射ATR装置:Thermo Spectra−Tech社製
IRE:Ge
入射角:45°
分解能 : 8cm―1
積算回数 : 128回
<ポリシロキサンaの合成>
攪拌機、温度計、コンデンサおよび窒素ガス導入管を備えた500ml容量のフラスコにエタノール106質量部、テトラエトキシシラン320質量部、脱イオン水21質量部、および1質量%塩酸1質量部を仕込み、85℃で2時間保持した後、昇温しながらエタノールを回収し、180℃で3時間保持した。その後、冷却し、粘調なポリシロキサンaを得た。
【0105】
<ポリジメチルシロキサン系グラフト共重合体aの合成>
上記のポリシロキサンaの合成と同様の装置を用い、トルエン50質量部、およびメチルイソブチルケトン50質量部、ポリジメチルシロキサン系高分子重合開始剤(和光純薬株式会社製 VPS−0501)20質量部、メタクリル酸メチル30質量部、メタクリル酸ブチル26質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート23質量部、メタクリル酸1質量部および1−チオグリセリン0.5質量部を仕込み、80℃で8時間反応させてポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体aを得た。得られたポリジメチルシロキサン系グラフト共重合体aは、固形分濃度が50質量%であった。
【0106】
<金属塩a>
化学式Li(CFSONで表されるリチウムビス(トリフルオロメタンスルホルニル)イミドを金属塩aとする。
【0107】
<原料A1の調合>
上記のポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体a65質量部、上記のポリシロキサンa7.5質量部、水酸基を有するポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学工業(株)製 プラクセル308、重量平均分子量850)10質量部および上記金属塩a17.5質量部を配合(混合)した原料100質量部に対し、ジヘキサメチレンイソシアネートのイソシアヌレート体(武田薬品工業(株)製、タケネートD−170N)を25質量部添加し、さらにメチルエチルケトンを用いて希釈し、固形分濃度40質量%の原料A1を作成した。
【0108】
[実施例1]
上記で作成した原料A1を、厚み100μmのポリエステル基材フィルム(東レ(株)製 “ルミラー”U46)上に、エージング工程後のA層厚みが30μmとなるようにワイヤーバーを用いて塗布した。塗布後、160℃で2分間、熱風乾燥機で加熱した(加熱工程)。その後、20℃で14日間加熱(エージング)を行い(エージング工程)、積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。優れた自己治癒性と表面抵抗値を示した。
【0109】
<原料A2の調合>
上記のポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体a58質量部、上記のポリシロキサンa6.8質量部、水酸基を有するポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学工業(株)製 プラクセル308、重量平均分子量850)9質量部および上記金属塩a26.2質量部を配合(混合)した原料100質量部に対し、ジヘキサメチレンイソシアネートのイソシアヌレート体(武田薬品工業(株)製、タケネートD−170N)を25質量部添加し、さらにメチルエチルケトンを用いて希釈し、固形分濃度40質量%の原料A2を作成した。
【0110】
[実施例2]
上記で作成した原料A2を、実施例1と同様の方法にて塗工した。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。優れた自己治癒性と表面抵抗値を示した。
【0111】
<原料A3の調合>
上記のポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体a51質量部、上記のポリシロキサンa5.9質量部、水酸基を有するポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学工業(株)製 プラクセル308、重量平均分子量850)7.8質量部および上記金属塩a35.3質量部を配合(混合)した原料100質量部に対し、ジヘキサメチレンイソシアネートのイソシアヌレート体(武田薬品工業(株)製、タケネートD−170N)を25質量部添加し、さらにメチルエチルケトンを用いて希釈し、固形分濃度40質量%の原料A3を作成した。
【0112】
[実施例3]
上記で作成した原料A3を、実施例1と同様の方法にて塗工した。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。優れた自己治癒性と表面抵抗値を示した。
【0113】
<原料A4の調合>
上記のポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体a75質量部、上記のポリシロキサンa8.6質量部、水酸基を有するポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学工業(株)製 プラクセル308、重量平均分子量850)12質量部および上記金属塩a4.4質量部を配合(混合)した原料100質量部に対し、ジヘキサメチレンイソシアネートのイソシアヌレート体(武田薬品工業(株)製、タケネートD−170N)を25質量部添加し、さらにメチルエチルケトンを用いて希釈し、固形分濃度40質量%の原料A4を作成した。
【0114】
[実施例4]
上記で作成した原料A4を、実施例1と同様の方法にて塗工した。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。優れた自己治癒性と表面抵抗値を示した。
【0115】
<原料A5の調合>
上記のポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体a65質量部、上記のポリシロキサンa7.5質量部、水酸基を有するポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学工業(株)製 プラクセル308、重量平均分子量850)10質量部および上記金属塩a17.5質量部を配合(混合)した原料100質量部に対し、ジヘキサメチレンイソシアネートのイソシアヌレート体(武田薬品工業(株)製、タケネートD−170N)を15質量部添加し、さらにメチルエチルケトンを用いて希釈し、固形分濃度40質量%の原料A5を作成した。
【0116】
[実施例5]
上記で作成した原料A5を、実施例1と同様の方法にて塗工した。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。非常に優れた自己治癒性と表面抵抗値を示した。
【0117】
<原料A6の調合>
上記のポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体a65質量部、上記のポリシロキサンa7.5質量部、水酸基を有するポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学工業(株)製 プラクセル308、重量平均分子量850)10質量部および上記金属塩a17.5質量部を配合(混合)した原料100質量部に対し、ジヘキサメチレンイソシアネートのイソシアヌレート体(武田薬品工業(株)製、タケネートD−170N)を9質量部添加し、さらにメチルエチルケトンを用いて希釈し、固形分濃度40質量%の原料A6を作成した。
【0118】
[実施例6]
上記で作成した原料A6を、実施例1と同様の方法にて塗工した。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。非常に優れた自己治癒性と表面抵抗値を示した。
【0119】
<原料A7の調合>
上記のポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体a65質量部、上記のポリシロキサンa7.5質量部、水酸基を有するポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学工業(株)製 プラクセル308、重量平均分子量850)10質量部および上記金属塩a17.5質量部を配合(混合)した原料100質量部に対し、ジヘキサメチレンイソシアネートのイソシアヌレート体(武田薬品工業(株)製、タケネートD−170N)を18質量部添加し、さらにメチルエチルケトンを用いて希釈し、固形分濃度40質量%の原料A7を作成した。
【0120】
[実施例7]
上記で作成した原料A7を、実施例1と同様の方法にて塗工した。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。非常に優れた自己治癒性と表面抵抗値を示した。
【0121】
<金属塩b>
化学式Li(CFSOCで表されるリチウムトリス(トリフルオロメタンスルホルニル)メタンを金属塩bとする。
【0122】
<原料B1の調合>
上記のポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体a65質量部、上記のポリシロキサンa7.5質量部、水酸基を有するポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学工業(株)製 プラクセル308、重量平均分子量850)10質量部および上記金属塩b17.5質量部を配合(混合)した原料100質量部に対し、ジヘキサメチレンイソシアネートのイソシアヌレート体(武田薬品工業(株)製、タケネートD−170N)を25質量部添加し、さらにメチルエチルケトンを用いて希釈し、固形分濃度40質量%の原料B1を作成した。
【0123】
[実施例8]
上記で作成した原料B1を、実施例1と同様の方法にて塗工した。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。優れた自己治癒性と表面抵抗値を示した。
【0124】
<金属塩c>
化学式LiCFSOで表されるトリフルオロメタンスルホン酸リチウムを金属塩cとする。
<原料C1の調合>
上記のポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体a65質量部、上記のポリシロキサンa7.5質量部、水酸基を有するポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学工業(株)製 プラクセル308、重量平均分子量850)10質量部および上記金属塩c17.5質量部を配合(混合)した原料100質量部に対し、ジヘキサメチレンイソシアネートのイソシアヌレート体(武田薬品工業(株)製、タケネートD−170N)を25質量部添加し、さらにメチルエチルケトンを用いて希釈し、固形分濃度40質量%の原料C1を作成した。
【0125】
[実施例9]
上記で作成した原料C1を、実施例1と同様の方法にて塗工した。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。優れた自己治癒性と表面抵抗値を示した。
<原料A8の調合>
上記のポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体a77質量部、上記のポリシロキサンa9質量部、水酸基を有するポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学工業(株)製 プラクセル308、重量平均分子量850)12質量部および上記金属塩a2質量部を配合(混合)した原料100質量部に対し、ジヘキサメチレンイソシアネートのイソシアヌレート体(武田薬品工業(株)製、タケネートD−170N)を25質量部添加し、さらにメチルエチルケトンを用いて希釈し、固形分濃度40質量%の原料A8を作成した。
【0126】
[実施例10]
上記で作成した原料A8を、実施例1と同様の方法にて塗工した。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。優れた自己治癒性と表面抵抗値を示した。
<原料A9の調合>
上記のポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体a33質量部、上記のポリシロキサンa6質量部、水酸基を有するポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学工業(株)製 プラクセル308、重量平均分子量850)7質量部および上記金属塩a46質量部を配合(混合)した原料100質量部に対し、ジヘキサメチレンイソシアネートのイソシアヌレート体(武田薬品工業(株)製、タケネートD−170N)を25質量部添加し、さらにメチルエチルケトンを用いて希釈し、固形分濃度40質量%の原料A9を作成した。
【0127】
[実施例11]
上記で作成した原料A9を、実施例1と同様の方法にて塗工した。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。優れた自己治癒性と表面抵抗値を示した。
【0128】
[実施例12]
エージングを行わない以外、実施例1と同様の方法にて製膜した。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。優れた自己治癒性、表面抵抗値を示した。
<原料A10の調合>
上記のポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体a75質量部、上記のポリシロキサンa10質量部、水酸基を有するポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学工業(株)製 プラクセル308、重量平均分子量850)15質量部を配合(混合)した原料 100質量部に対し、ジヘキサメチレンイソシアネートのイソシアヌレート体(武田薬品工業(株)製、タケネートD−170N)を25質量部添加し、さらにメチルエチルケトンを用いて希釈し、固形分濃度40質量%の原料A10を作成した。
【0129】
[比較例1]
上記で作成した原料A10を、実施例1と同様の方法にて塗工した。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。優れた自己治癒性を示すが、表面抵抗値が高く実用性に乏しい。
【0130】
<アクリレートa>
化学式CH=CHCOO(CHCHO)14COCH=CHで表されるポリエチレングリコールジアクリレート(共栄社化学株式会社製、ライトアクリレート14EG−A)を60質量部と金属塩a40質量部を混合し、40℃に加熱して溶解させた。
【0131】
<アクリレートb>
攪拌機、温度計、及びコンデンサを備えたフラスコ内にイソホロンジイソシアネート50部を仕込み、そこにペンタエリスルトールトリアクリレート250部(東亜合成株式会社製、M−305)、ジブチル錫ラウレート0.01部を添加し、70℃にて8時間反応させた。この反応生成物を赤外分光光度計で測定したところ、イソシアネートのピークが消失していた。このようにして、6官能のアクリレートbを得た。
【0132】
<原料D1の調合>
アクリレートaの55部とウレタンアクリレートbの45部とを混合し、光開始剤としてIrg184(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)を3部添加して、原料D1を生成した。
【0133】
[比較例2]
上記で作成した原料D1を、厚み100μmのポリエステル基材フィルム(東レ(株)製 “ルミラー”U46)上に、A層厚みが10μmとなるようにワイヤーバーを用いて塗布し、水銀ランプを用いて積算光量300mj/cmの紫外線で硬化させた。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。優れた表面抵抗値と耐化粧品性を示すが、自己治癒性が低かった。
【0134】
<原料D2の調合>
上記のポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体a65質量部、上記のポリシロキサンa7.5質量部、水酸基を有するポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学工業(株)製 プラクセル308、重量平均分子量850)10質量部および上記金属塩a17.5質量部を配合(混合)した原料100質量部に対し、ジヘキサメチレンイソシアネートのイソシアヌレート体(武田薬品工業(株)製、タケネートD−170N)を25質量部と、光開始剤としてIrg184(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)を2.5部添加して、さらにメチルエチルケトンを用いて希釈し、固形分濃度40質量%の原料A1を作成した。
【0135】
[比較例3]
上記で作成した原料D2を、比較例2と同様にして塗工し硬化させた。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。優れた表面抵抗値と耐化粧品性を示すが、自己治癒性が低かった。
[比較例4]
A層を設けない以外、実施例1と同様の方法にて製膜した。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。自己治癒性、表面抵抗値ともに悪く、実用性に乏しい。
【0136】
【表1】

【0137】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0138】
自己治癒性と帯電防止性が同時に求められる用途、特に、加飾成型用フィルムとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも片側に、A層を有する積層フィルムであって、
該A層が、(1)ポリカプロラクトンセグメント、(2)ポリシロキサンセグメント及び/またはポリジメチルシロキサンセグメント、(3)ウレタン結合、(4)アルカリ金属塩及び/またはアルカリ土類金属塩からなる金属塩、を有し、
該A層が熱架橋により得られることを特徴とする積層フィルム。
【請求項2】
該A層のガラス転移点が−30〜0℃であることを特徴とする、積層フィルム。
【請求項3】
前記A層が、イソシアネート基を含有する化合物を含む組成物により形成されてなる層であり、
該組成物は、組成物の全成分100質量%中にイソシアネート基を含有する化合物を11質量%以上22質量%以下含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記金属塩は、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩、マグネシウム塩、及びカルシウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項5】
A層の合計100質量%におけるリチウムの質量比率をリチウム濃度とすると、上記リチウム濃度が0.09質量%以上1質量%以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記金属塩の陰イオンが、BF−、ClO−、PF−、AsF−、SbF−、CFSO−、(CFSON−、(CFSOC−、及びB(C−からなる群より選ばれる少なくとも1つの陰イオンであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項7】
80℃および150℃における平均破壊伸度が65%以上である請求項1〜6のいずれかに記載の積層フィルム。

【公開番号】特開2012−166356(P2012−166356A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26745(P2011−26745)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】