説明

積層体およびその製造方法

【課題】耐候性、透明性、基材との密着性に優れた保護被膜を有する積層体を提供する。
【解決手段】基材と、電離放射線硬化性樹脂を硬化し真空紫外光を照射して高エネルギー表面処理を施した第1層と、式(1)のアルキルシリケート類及び式(2)のオルガノシラン類の少なくとも一方を加水分解縮合して得たシロキサン化合物(A)を含む硬化性組成物を硬化した第2層を有する積層体及びその製造方法。
【化1】


[R1,R2,R3,R4=C1-5アルキル基又はC1-4アシル基,n=3-20,R5=C1-10アルキル基等を含む有機基,R6=C1-5アルキル基又はC1-4アシル基,a=1-3]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐候性、透明性、基材との密着性に優れた保護被膜を有する積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、透明ガラスの代替材料として、耐破砕性、軽量性に優れるアクリル樹脂やポリカーボネート樹脂などの透明プラスチック材料が広く使用されるようになってきた。ただし、透明プラスチック材料はガラスに比較して耐摩耗性や耐候性が低く、経時で黄変や白化が起こる傾向にある。そこで、樹脂成形品の表面に保護被膜を形成し、表面硬度や耐候性を改良する試みがなされている。
【0003】
そのような保護被膜として、例えば、多官能(メタ)アクリレート化合物を主成分とする組成物を硬化して得られる架橋被膜や、加水分解性ケイ素化合物を原料としたゾルゲル法により得られるケイ素系被膜が使用されている。
【0004】
特に、ケイ素系被膜は、樹脂成形品に高い表面硬度を与えるので、高擦傷性が要求される用途に広く利用されている。しかし、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂などの樹脂成形品は、紫外線による表面劣化や黄変等の劣化現象が発生し易く、かつケイ素系被膜との密着性が劣る。そこで、基材の表面の化学的および/または物理的特性を改質し、保護被膜との密着性を向上させる表面処理技術として、プラズマ処理およびコロナ放電等の公知の技術が知られている(特許文献1)。しかしながら、これらの表面処理では、耐候性試験後のケイ素系被膜との密着性が十分とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−202731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、耐候性、透明性、基材との密着性に優れた保護被膜を有する積層体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、電離放射線硬化性樹脂を硬化した後、200nm以下の光を照射して高エネルギ−表面処理を施した層に特定構造のシロキサン化合物を積層することにより、耐候性、基材との密着性に優れた保護被膜を有する積層体が得られることを見出した。また、表面処理のための光源としてエキシマランプを使用すれば、さらに耐候性、基材との密着性に優れた保護被膜を有する積層体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、基材と、該基材上に形成された第1層と、該第1層上に形成された第2層とを有する積層体であって、
前記第1層は、電離放射線硬化性樹脂を硬化し、真空紫外光を照射して高エネルギー表面処理を施した層であり、
前記第2層は、下記一般式(1)
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R1、R2、R3及びR4は炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜4のアシル基を示し、nは3〜20の整数を示す。)
で表されるアルキルシリケート類、及び、
下記一般式(2)
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、R5は炭素数1〜10のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、アミノ基またはイソシアネート基を含有する有機基を示し、R6は炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜4のアシル基を示し、aは1〜3の整数を示す。)
で表されるオルガノシラン類のうち少なくとも一方を加水分解縮合して得られるシロキサン化合物(A)を含む硬化性組成物を硬化した層である積層体である。
【0013】
さらに本発明は、基材上で、電離放射線硬化性樹脂を硬化し、真空紫外光を照射して高エネルギ−表面処理を施すことにより第1層を形成する第1の工程と、前記第1層の高エネルギ−表面処理を施した表面上で、前記一般式(1)で表されるアルキルシリケート類、及び、前記一般式(2)で表されるオルガノシラン類のうち少なくとも一方を加水分解縮合して得られるシロキサン化合物(A)を含む硬化性組成物を硬化することにより第2層を形成する第2の工程とを有する積層体の製造方法である。
【0014】
さらに本発明は、前記方法において、真空紫外光の照射をエキシマランプを用いて行う積層体の製造方法である。
【0015】
なお、本発明において「(メタ)アクリル」とは、アクリルとメタクリルの総称であり、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの総称である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐候性、透明性、基材との密着性に優れた保護被膜を有する積層体およびその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において、第1層は、基材上で電離放射線硬化性樹脂を硬化した後、真空紫外光を照射して高エネルギー表面処理を施された層であり、プライマー層として機能する層である。
【0018】
第1層に用いる電離放射線硬化性樹脂は、例えば、ラジカル重合性官能基を持つエチレン性不飽和化合物(a)を含む樹脂組成物であることが好ましく、さらに所望に応じて表面修飾無機微粒子(b)や活性エネルギー線感応性ラジカル重合開始剤(c)を含んでいてもよい。
【0019】
[ラジカル重合性官能基を持つエチレン性不飽和化合物(a)]
ラジカル重合性官能基を持つエチレン性不飽和化合物(a)は、得られる硬化被膜に硬度を付与するための成分である。
【0020】
成分(a)の具体例としては、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA型ジエポキシと(メタ)アクリル酸とを反応させたエポキシジ(メタ)アクリレート等のエポキシポリ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体に2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを反応させたウレタントリ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体に2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを反応させたウレタントリ(メタ)アクリレート、イソホロンジイソシアネートと2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンジ(メタ)アクリレート、イソホロンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンヘキサ(メタ)アクリレート、ジシクロメタンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンジ(メタ)アクリレート、ジシクロメタンジイソシアネートとポリ(n=6−15)テトラメチレングリコールとのウレタン化反応物に2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンジ(メタ)アクリレート等のウレタンポリ(メタ)アクリレート、トリメチロ−ルエタンとコハク酸および(メタ)アクリル酸とを反応させたポリエステル(メタ)アクリレート、トリメチロ−ルプロパンとコハク酸、エチレングリコ−ル及び(メタ)アクリル酸とを反応させたポリエステル(メタ)アクリレート等のポリエステルポリ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステル、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリル酸エステル、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリル酸エステル、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリル酸エステル、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリル酸エステル、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリル酸エステル、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリル酸エステル、2−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリル酸エステル、4−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリル酸エステル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステル又は2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリル酸エステルのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、フェニルオキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性クレゾール(メタ)アクリレート、シクロヘキシルオキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジルオキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ベンジル、イソボルニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ノルボルニルオキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ノルボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸テトラシクロドデカニル、4−t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリル酸エステル、トリメチロールプロパンホルマール(メタ)アクリレート、2−エチル−2−メチル−1,3−ジオキソラン−4−イル−メチルアクリレート、2−イソブチル−2−メチル−1,3−ジオキソラン−4−イル−メチルアクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性リン酸(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールのε−カプロラクトン付加物(n+m=2〜5)のモノ(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0021】
特に、組成物の光重合性や第1層の摩耗性等の点から、2官能以上のアクリレートを用いることが好ましい。具体的には、例えば、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレートが好ましい。
【0022】
成分(a)は、一種を単独で用いても良いし、二種以上を混合して用いても良い。
【0023】
成分(a)の含有量は、第1層用電離放射線硬化性樹脂100質量%に対して、40〜95質量%が好ましい。この含有量が40質量%以上であると、得られる硬化被膜の硬度が優れる。また、95質量%以下であると、硬化収縮が小さくなるので耐候性が良好となる。
【0024】
[表面修飾無機微粒子(b)]
第1層に用いる表面修飾無機微粒子(b)は、得られる硬化物に硬度付与し、第2層との密着性をより高める成分である。
【0025】
表面修飾無機微粒子(b)は、例えば、コロイダルシリカ微粒子(b1)及び有機シラン化合物の加水分解生成物(b2)の縮合反応物であり、親水性であるコロイダルシリカ微粒子表面をシリコーンで被覆して疎水化したものである。この場合、成分(b)は他の成分との相溶性に優れるものとなり、得られる硬化被膜に良好な透明性を付与できる。また、硬化被膜に耐摩耗性も付与することができる。
【0026】
コロイダルシリカ微粒子(b1)は、硬化被膜の耐摩耗性を著しく改善でき、特に、ケイ砂等の微粒子に対する耐摩耗性の改善効果に優れるものである。
【0027】
コロイダルシリカ微粒子(b1)としては、一次粒子の面積平均粒子径(以下「一次粒子径」と略記する)は、好ましくは1〜200nm、より好ましくは5〜80nmのコロイダルシリカ微粒子を分散媒に分散させた状態のものを好適に使用できる。この一次粒子径が1nm以上であると、成分(b)の保存安定性が良好となる。また、200nm以下であると、硬化被膜の透明性が良好になる。
【0028】
コロイダルシリカ微粒子(b1)に用いる分散媒としては、水や有機溶媒が挙げられる。その具体例としては、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、イソブタノール、n−ブタノール等のアルコール系溶剤;エチレングリコール等の多価アルコール系溶剤;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等の多価アルコール誘導体;メチルエチルケトン、ジアセトンアルコール等のケトン系溶剤;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート等のモノマー類が挙げられる。中でも、炭素数3以下のアルコール系溶剤が、成分(b2)との反応工程が簡便であることから特に好ましい。
【0029】
コロイダルシリカ微粒子(b1)は、公知の方法で製造して用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
【0030】
有機シラン化合物の加水分解生成物(b2)は、加水分解してシラノール化合物とし、成分(b1)と予め反応させることにより、成分(A)との相溶性を向上させる成分である。
【0031】
有機シラン化合物は、特に限定されず、公知のものを使用できる。有機シラン化合物の具体例としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ビニルフェニレントリメトキシシラン、ビニルフェニレントリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ビニルトリス(3−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニルーγ−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、パーフルオロアルキルトリメトキシシラン、パーフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートとアミノ基含有トリメトキシシランのマイケル付加体、パーフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートとメルカプト基含有トリメトキシシランのマイケル付加体、パーフルオロアルキル基を有するアルコールとイソシアネート基含有トリメトキシシランの付加体が挙げられる。これらは、一種単独で、又は二種以上を併用して用いることができる。
【0032】
また、それらの有機シラン化合物のエポキシ基やグリシジル基に(メタ)アクリル酸を付加したシラン化合物、アミノ基に2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物をマイケル付加したシラン化合物、アミノ基やメルカプト基に(メタ)アクリロイルオキシ基及びイソシアネート基を有する化合物を付加したシラン化合物、イソシアネート基に(メタ)アクリロイルオキシ基及び水酸基を有する化合物を付加したシラン化合物等も用いることができる。
【0033】
中でも、最も好ましい有機シラン化合物は、下記一般式(3)で表される単量体である。
【0034】
【化3】

【0035】
(式中、Xはメタクリロイルオキシ基、アクリロイルオキシ基、ビニルフェニレン基又はビニル基を示し、R7は直鎖結合若しくは炭素数1〜8の直鎖型又は分岐型アルキレン基を示し、R8及びR9は炭素数1〜8の直鎖型又は分岐型アルキル基を示し、bは1〜3の整数を示し、cは0〜2の整数を示し、b+cは1〜3の整数である。)
この一般式(3)で示される単量体は、成分(a)との化学結合形成が可能でかつ光硬化性の成分(b)を得ることができる。また、そのような成分(b)を用いれば、得られる硬化被膜に強靭性を付与することができる。
【0036】
一般式(3)で示される単量体としては、特に活性エネルギー線照射により重合活性を示すアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニルフェニレン基又はビニル基を有するシラン化合物が挙げられる。その具体例としては、例えば、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、2−メタクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、2−アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、2−メタクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、2−アクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルフェニレントリメトキシシラン、ビニルフェニレントリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが挙げられる。これらは、一種単独で、又は二種以上を併用して用いることができる。
【0037】
中でも、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランから選択されるシラン化合物は、成分(b)との反応性が優れる点で特に好ましい。
【0038】
表面修飾無機微粒子(b)の製造法は、特に限定されない。例えば、成分(b1)の分散体と成分(b2)との存在下で、成分(b1)の分散媒を常圧又は減圧下でトルエン等の非極性溶媒と共に共沸留出させ、分散媒を非極性溶媒に置換した後、加熱下で反応させて得ることができる。成分(b1)の分散媒が、既に非極性溶媒に置換されている場合は、縮合反応で生成した水を、共沸により系外へ取り除くだけでよい。
【0039】
ここでいう成分(b1)と成分(b2)の存在下とは、下記2通りの方法により得られる状態を意味する。
方法1:成分(b1)と有機シラン化合物とを混合した後、加水分解触媒を加え、常温又は加熱下で攪拌する等の常法により成分(b1)及び成分(b2)を共存させる方法。
方法2:予め有機シラン化合物を加水分解して得た成分(b2)と成分(b1)を混合し、共存させる方法。
【0040】
具体的には、アルコール溶媒等の有機溶媒の存在下又は非存在下において、有機シラン化合物1モルに対して、前記方法1の場合には成分(b1)の存在下、前記方法2の場合には成分(b1)の非存在下、0.5〜6モルの水、あるいは0.001〜0.1規定の塩酸又は酢酸水溶液等の加水分解触媒を加え、加熱下で攪拌しつつ、加水分解で生じるアルコールを系外に除去することにより、加水分解生成物を製造することができる。
【0041】
次いで行われる縮合反応は、以下の如く行えばよい。具体的には、前記方法1では得られた成分(b2)の存在下、前記方法2では得られた(b2)成分と(b1)成分とを混合した後、まず成分(b1)中の分散媒と縮合反応で生じる水を常圧又は減圧下で60〜100℃、好ましくは70〜90℃の温度で共沸留出させ、固形分濃度を50〜90質量%とする。
【0042】
次に、系内にトルエン等の非極性溶媒を加え、この非極性溶媒、水、及びコロイダルシリカ微粒子の分散媒を更に共沸留出させながら60〜150℃、好ましくは80〜130℃の温度で固形分濃度を30〜90質量%、好ましくは50〜80質量%に保持しながら、0.5〜10時間攪拌し縮合反応を行う。この際、反応を促進させる目的で、水、酸、塩基、塩等の触媒を用いてもよい。このような工程を経て、成分(b)を得ることができる。
【0043】
非極性溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン等の炭化水素類;トリクロルエチレン、テトラクロルエチレン等のハロゲン化炭化水素類;1,4−ジオキサン、ジブチルエーテル等のエーテル類;酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル等のエステル類が挙げられる。中でも、炭化水素類、芳香族炭化水素類は、成分(b1)と成分(b2)との反応の面から好ましい。特に好ましい非極性溶媒としては、トルエン、キシレンが挙げられる。成分(b1)と成分(b2)の縮合反応後は適用する基材に応じて、これら非極性溶媒を適宜、用途に応じた溶媒に置換してもよい。
【0044】
前述した成分(b)の製造工程において、成分(b1)の含有量(以下「固形分濃度」と略記する)は30〜90質量%が好ましい。この固形分濃度が30質量%以上であると、成分(b1)と成分(b2)との反応が良好となり、これを用いた被覆組成物を用いて得られる硬化被膜は十分な透明性が得られる。また、90質量%以下であると、縮合反応が急激に起こることなく組成物の塗工作業性や得られる硬化被膜の物性が良好になる。
【0045】
成分(b)を得るために行う縮合反応中の温度は、60〜150℃が好ましい。反応温度が60℃以上であると、反応が十分に進行し、反応時間が短くなる傾向にある。また、150℃以下であると、シラノールの縮合以外の反応やゲル化が起こり難くなる。
【0046】
成分(b)の製造において、反応工程での成分(b1)と成分(b2)の使用割合は、質量比で、好ましくは(b1)/(b2)=40〜90/10〜60、より好ましくは50〜80/20〜50(但し、成分(b1)と成分(b2)の合計量を100質量部とする)である。成分(b1)の使用割合が40質量部以上であると、反応性が良好で、これを用いた硬化被膜の耐摩耗性が向上する傾向にある。また、90質量部以下であると、反応系が白濁、ゲル化することなく、硬化被膜にクラックが発生し難くなる。
【0047】
また、非極性溶媒中で成分(b1)と成分(b2)とを反応させることにより、成分(a)と相溶性良好な成分(b)を合成することができる。
【0048】
成分(b)の含有量は特に限定されないが、成分(b)及び成分(a)の合計100質量部中、3〜65質量部が好ましく、5〜60質量部がより好ましい。この含有量が5質量部以上であると、硬化被膜の硬度が十分に発現する。また、60質量部以下であると、硬化被膜にクラックが発生し難い傾向にある。
【0049】
[活性エネルギー線感応性ラジカル重合開始剤(c)]
第1層に用いる活性エネルギー線感応性ラジカル重合開始剤(c)は、紫外線や可視光線に代表される活性エネルギー線に感応してラジカルを発生するものであり、従来知られる各種のものが使用できる。
【0050】
活性エネルギー線感応性ラジカル重合開始剤(c)の具体例としては、ベンゾイン、ベンゾインモノエチルエーテル、アセトイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1,1−オン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、メチルフェニルグリオキシレート、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モノフォリノプロパン−1、ベンジルジメチルケタール、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、カンファーキノン、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−ピロリル−1−フェニル)チタニウム等が挙げられる。中でも、特に、メチルフェニルグリオキシレート、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1,1−オン、ベンジルジメチルケタール、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドが好ましい。
【0051】
活性エネルギー線感応性ラジカル重合開始剤(c)は、一種を単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0052】
活性エネルギー線感応性ラジカル重合開始剤(c)の配合量は、第1層用電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましい。この配合量が0.01質量部以上であると良好な硬化性が得られ、10質量部以下であると着色の少ない被膜が得られる傾向にある。
【0053】
第1層に用いる電離放射線硬化性樹脂は、さらに、必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤、シランカップリング剤、有機溶媒等を含んでいても良い。また、単官能(メタ)アクリレートを多官能(メタ)アクリレートと共に配合することにより、硬化性、コーティング性、被膜物性を調整することもできる。
【0054】
第1層用電離放射線硬化性樹脂に紫外線吸収剤を配合することで、基材を紫外線による劣化から保護することができる。特に、耐侯性が劣る樹脂製の基材(例えばポリカーボネート)を用いる場合は、紫外線吸収剤を配合することが好ましい。例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、無機系、紫外線吸収性官能基を高分子鎖に取り込んだ高分子系などの何れの紫外線吸収剤も使用できる。紫外線吸収剤の具体例としては、2−ヒドロキシベンゾフェノン、5−クロロ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクチロキシベンゾフェノン、4−ドデシロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4,4'−ジメトキシベンゾフェノン、2−(2−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5'−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−4−オクチロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、酸化チタン、酸化亜鉛、ベンゾトリアゾール骨格あるいはベンゾフェノン骨格を構造内に有するアクリル樹脂系高分子紫外線吸収剤またはアクリルウレタン樹脂系高分子紫外線吸収剤が挙げられる。高分子紫外線吸収剤としては、分子量3,000〜3,000,000のものが好ましい。特に、多官能(メタ)アクリレートとの相溶性が良い点から、2−ヒドロキシ−4−オクチロキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、耐水性が良い点から、アクリル樹脂系高分子紫外線吸収剤(大塚化学製PUVA−Mシリーズ、山南合成化学製RSAシリーズ、一方社油脂工業製USLシリーズ等)が好ましい。紫外線吸収剤は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。また、必要に応じ、ヒンダードアミン型の光安定剤を合わせて添加してもよい。
【0055】
紫外線吸収剤の配合量は、第1層用電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましい。この配合量が0.1質量部以上であれば、基材の紫外線による劣化を抑制できる。また、20質量部以下であれば、第2層(ケイ素系被膜)との密着性低下を抑制できる。
【0056】
第1層用電離放射線硬化性樹脂にシランカップリング剤を配合することで、その上に形成される第2層(ケイ素系被膜)との密着性を向上させることができる。シランカップリング剤の具体例としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。中でも、安定性、密着性向上の効果が優れている点から、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが好ましい。
【0057】
シランカップリング剤類の配合量は、第1層用電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、5〜50質量部が好ましい。この配合量が5質量部以上であれば、第2層(ケイ素系被膜)との密着性を向上させることができる。また、50質量部以下であれば、より透明性の高い第1層を得ることができる。
【0058】
第1層用電離放射線硬化性樹脂に有機溶媒を配合することで、固形分濃度調整、分散安定性向上、塗布性向上、基材への密着性向上等を図ることができる。有機溶媒としては、例えば、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、セロソルブ類、芳香族化合物類などの溶媒が挙げられる。有機溶媒の具体的としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール、ベンジルアルコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−ブトキシエタノール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジアセトンアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、アニソール、フェネトール、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、グリセリンエーテル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、3−メトキシブチルアセテート、2−エチルブチルアセテート、2−エチルヘキシルアセテート、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、γ−ブチロラクトン、2−メトキシエチルアセテート、2−エトキシエチルアセテート、2−ブトキシエチルアセテート、2−フェノキシエチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ベンゼン、トルエン、キシレンが挙げられる。有機溶媒は、一種を単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0059】
有機溶媒の含有量は、第1層用電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、10〜1000質量部が好ましい。この含有量が10質量部以上であれば、コーティング性良好で、保存安定性の良い組成物が得られる。また、1000質量部以下であれば、良好な膜厚と耐摩耗性を与える組成物が得られる。
【0060】
[第1層(プライマー層)]
本発明においては、以上説明した第1層用電離放射線硬化性樹脂を基材上に成膜し、硬化することによって硬化被膜を形成する。成膜法としては、例えば、ディップコート法、バーコート法、スプレーコート法、ロールコート法、スピンコート法、カーテンコート法、印刷法など、従来より知られる塗布法を用いることができる。また、鋳型に電離放射線硬化性樹脂を塗布して活性エネルギー線を照射することにより硬化した後に、その鋳型を用いてポリメチルメタクリル樹脂をキャスト重合を行うことで得る方法も挙げられる。なお、この方法は鋳型の表面を転写し、ブツ等の欠陥を生じにくい特徴がある。
【0061】
第1層用電離放射線硬化性樹脂を硬化する為には、活性エネルギー線を照射すればよい。活性エネルギー線としては、例えば、真空紫外線、紫外線、可視光線、近赤外線、赤外線、遠赤外線、マイクロ波、電子線、β線、γ線が挙げられる。中でも、紫外線、可視光線を、光感応性ラジカル重合開始剤と組み合わせて使用することが、重合速度が速い点、基材の劣化が比較的少ない点から好ましい。活性エネルギー線の光源の具体例としては、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、フュージョンランプ、白熱電球、キセノンランプ、ハロゲンランプ、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、蛍光灯、タングステンランプ、ガリウムランプ、エキシマーレーザー、太陽光が挙げられる。照射エネルギーに関しては、200〜600nmの波長の積算エネルギーが0.05〜10J/cm2となるように照射することが好ましい。活性エネルギー線の照射雰囲気は、空気中でも良いし、窒素、アルゴン等の不活性ガス中でも良い。
【0062】
第1層は、第2層の成膜前に実質上完全に硬化してもよい。また、第1層を完全に硬化していない状態あるいは半硬化の状態で、その上に第2層を成膜し、その後活性エネルギー線を照射して第1層および第2層を同時に硬化してもよい。
【0063】
次いで、この硬化被膜に真空紫外光を照射して高エネルギー表面処理を施すことにより、第1層(プライマー層)が得られる。
【0064】
この高エネルギー表面処理は、真空紫外光を照射することにより実施する。15〜200nmの波長域が真空紫外領域と呼ばれ、真空紫外光の照射には、この波長域の光線を発生するランプであればどのような光源も使用可能である。例えば、エキシマランプ、エキシマレーザー、重水素ランプ、水銀放電ランプ、メタルハライドランプ等の紫外線照射用ランプが使用される。特に、エキシマランプは、単位面積当たり数10mWの高出力が得られ、連続照射及び瞬時の点灯点滅が可能である点から好ましい。特に、希ガスエキシマランプ、希ガスエキシマレーザーは希ガスによるエキシマ発光を利用するもので、Xe2エキシマ光(発振波長172nm)、Kr2エキシマ光(146nm)、Ar2エキシマ光(126nm)は、放射される波長域が1つの波長に集中しており高い効率が得られ、また真空紫外域で高出力が得られる光源である。また、真空紫外光としては、水銀放電ランプから放射される波長185nmの光も利用できる。
【0065】
第1層(プライマー層)の厚さは、1〜30μmが好ましい。厚さが1μm以上であれば、第2層との良好な密着性が得られる傾向にある。また、30μm以下であれば、成膜時に被膜にシワ、白化等の外観上の欠陥が発生し難い傾向がある。特に好ましい第1層の厚さは、2〜25μmである。
【0066】
[第2層(ケイ素系被膜)]
本発明においては、第1層の高エネルギ−表面処理を施した表面上で、前記一般式(1)で表されるアルキルシリケート類、及び、前記一般式(2)で表されるオルガノシラン類のうち少なくとも一方を加水分解縮合して得られるシロキサン化合物(A)を含む硬化性組成物を硬化することにより第2層を形成する。
【0067】
第2層に用いるシロキサン化合物(A)は、特定のアルキルシリケート類及びオルガノシラン類の少なくとも一方を予め加水分解・縮合することにより、分子間に架橋構造が形成された高分子量化されたオリゴマーである。これにより、組成物における硬化性の向上と、得られる保護被膜に好適な物性を付与できる。また、シロキサン化合物(A)が高分子量化したオリゴマーであることにより、硬化時の重縮合による収縮とそれに伴い発生する応力を低減でき、その結果クラックを低減でき、かつ基材との被膜密着性を向上できる。
【0068】
シロキサン化合物(A)を形成する為の一般式(1)で表されるアルキルシリケート類において、式(1)中、R1、R2、R3及びR4は、炭素原子数1〜5のアルキル基または炭素数1〜4のアシル基を示す。これらの基は、相互に同一でもよいし異なっていてもよい。nは、アルキルシリケート類の繰り返し単位の数を表し、3〜20のいずれかの整数である。nが3以上であれば、アルキルシリケート類の加水分解・縮合により得られるシロキサン化合物の分子量が大きく、得られる硬化性組成物の硬化性、成膜性の低下を抑制することができる。また、nが20以下であれば、加水分解・縮合の際にゲル化を抑制することができる。良好な硬化性、被膜物性が得られ、しかもゲル化の抑制し得ることの点から、nは4〜10(シリカ換算濃度:約51〜54質量%に相当)の整数であることが好ましい。ここで、シリカ換算濃度とは、アルキルシリケート質量とアルキルシリケート類を完全に加水分解し、縮合させた際に得られるSiO2の質量との比を意味する。
【0069】
一般式(1)で表されるアルキルシリケート類の具体例としては、R1〜R4がメチル基であるメチルシリケート、R1〜R4がエチル基であるエチルシリケート、R1〜R4がイソプロピル基であるイソプロピルシリケート、R1〜R4がn−プロピル基であるn−プロピルシリケート、R1〜R4がn−ブチル基であるn−ブチルシリケート、R1〜R4がn−ペンチル基であるn−ペンチルシリケート、R1〜R4がアセチル基であるアセチルシリケートが挙げられる。中でも、入手が容易な点、加水分解速度が速い点から、メチルシリケート、エチルシリケートが好ましい。
【0070】
シロキサン化合物(A)を形成する為の一般式(2)で表されるオルガノシラン類において、式(2)中、R5は炭素数1〜10のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、アミノ基またはイソシアネート基を含有する有機基を示し、R6は炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜4のアシル基を示し、aは1〜3のいずれかの整数を示す。式中、R5、R6が複数存在する場合、それらは相互に同一であっても異なっていてもよい。R6としては、製造が容易な点、加水分解速度が速い点から、メチル基、エチル基が好ましい。
【0071】
一般式(2)で示されるオルガノシラン類の具体例としては、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルエトキシシラン等を挙げることができる。これらのうち、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシランが挙げられる。これらは1種または2種以上の混合物として使用できる。
【0072】
一般式(1)で表されるアルキルシリケート類と一般式(2)で表されるオルガノシラン類の加水分解は、特に制限されない。例えば、アルキルシリケート類及びオルガノシラン類の少なくとも一方をアルコール類と混合し、さらに水をアルコキシル基1モルに対して例えば0.25〜250モル程度加え、これに塩酸や酢酸などの酸を加えて溶液を酸性(例えばpH2〜5)とし、攪拌する方法がある。また、アルキルシリケート類及びオルガノシラン類の少なくとも一方をアルコール類と混合し、さらに水をアルコキシル基1モルに対して、例えば0.25〜250モル程度加えて、例えば30〜100℃等に加熱する方法がある。加水分解に際して発生するアルコールは、系外に留去してもよい。加水分解に続く縮合は、加水分解状態にあるアルキルシリケート類やオルガノシラン類を放置することにより進行させることができる。その際、pHを中性付近(例えば、pH6〜7)に制御することにより、縮合の進行を速めることもできる。縮合に際して発生する水は、系外に留去してもよい。
【0073】
加水分解・縮合における一般式(1)で表されるアルキルシリケート類と一般式(2)で表されるオルガノシラン類とを併用する際の混合比率は、オルガノシラン類1モルに対して、アルキルシリケート類0.01〜1.0モルが好ましく、0.01〜0.1モルがより好ましい。
【0074】
シロキサン化合物(A)を硬化させる為の触媒としては、熱硬化系と光硬化系が挙げられる。熱硬化系触媒としては、例えば、カルボン酸のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩、過塩素酸塩、アセチルアセトンの金属錯塩、第四級アンモニウムおよび第四級アンモニウム塩等が挙げられる。光硬化系触媒としては、ジフェニルヨードニウム系化合物、トリフェニルスルホニウム系化合物、芳香族スルホニウム系化合物、ジアゾジスルホン系化合物等が挙げられる。具体例としては、上市されているイルガキュア250(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、製品名)、アデカオプトマーSP−150およびSP−170(旭電化工業(株)製、製品名)、サイラキュアUVI−6970、サイラキュアUVI−6974、サイラキュアUVI−6990およびサイラキュアUVI−6950(米国ユニオンカーバイド社製、製品名)、DAICATII(ダイセル化学工業(株)製、製品名)、UVAC1591(ダイセル・サイテック(株)製、製品名)、CI−2734、CI−2855、CI−2823およびCI−2758(日本曹達(株)製、製品名)、サイラキュアUVI−6992(ダウケミカル日本(株)製、製品名)、サンエイドSI−L85、SI−L110、SI−L145、SI−L150、SI−L160、SI−H15、SI−H20、SI−H25、SI−H40、SI−H50、SI−60L、SI−80LおよびSI−100L(三新化学工業(株)製、製品名)、CPI−100PおよびCPI−101A(サンアプロ(株)製、製品名)が挙げられる。硬化触媒としては、熱硬化系、光硬化系を単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。また、熱と光を併用して使用することもできる。
【0075】
触媒の配合量は特に限定されないが、第2層硬化性組成物100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲内が好ましい。0.01質量部以上であれば、活性エネルギー線の照射によって十分に硬化し、良好な保護被膜に好適な硬化被膜が得られる傾向にある。また、10質量部以下であれば、硬化被膜について、クラックが発生することなく、また着色が抑制され、表面硬度や耐摩耗性が良好となる傾向にある。
【0076】
第2層用硬化性組成物には、硬化触媒、溶剤、その他、必要に応じて、無機微粒子、ポリマー、ポリマー微粒子、充填剤、染料、顔料、顔料分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、ゲル粒子、微粒子粉などを含有してもよい。
【0077】
塗工膜を形成するには、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソコート法、スクリーン、フローコート法、スプレーコート法、浸漬法等を使用することができる。
【0078】
塗工膜の硬化には、真空紫外線、紫外線、可視光線、近赤外線、赤外線、遠赤外線、マイクロ波、電子線、β線、γ線、熱などを挙げることができる。これらは、一種類を単独で使用してもよく、異なるものを複数種使用してもよい。異なる複数種を使用する場合は、同時に照射しても、順番に照射することもできる。
【0079】
第2層(ケイ素系被膜)の厚さは特に限定されないが、0.5〜100μmが好ましく、0.5〜10μmがさらに好ましい。厚さが0.5μm以上であれば、表面硬度や耐摩耗性が良好となる傾向にある。また、100μm以下であれば、クラックが発生することなく、表面硬度や耐摩耗性が良好となる傾向にある。
【0080】
[基材]
本発明においては、基材上に第1層及び第2層の2層構造を形成するが、その基材の形状や材質は特に限定されない。例えば、従来より樹脂製の成形品に使用し得るものとして知られる各種のものを使用できる。具体的には、ポリメチルメタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ(ポリエステル)カ−ボネ−ト樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリレ−ト樹脂、ポリメタクリルイミド樹脂、ポリアリルジグリコ−ルカ−ボネ−ト樹脂、ポリオレフィン樹脂、非晶質ポリオレフィン樹脂が挙げられる。特に、ポリメチルメタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリルイミド樹脂、非晶質ポリオレフィン樹脂は、透明性に優れ、かつ耐摩耗性改良要求も強いので、本発明を適用するのが特に有効である。
【0081】
また、本発明における2層構造の保護被膜は、樹脂基材はもとより、金属、缶、紙、木質材、無機質材等の基材にも応用可能である。
【実施例】
【0082】
次に、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0083】
[合成例1:表面修飾無機微粒子(b)の合成]
攪拌機、温度計及びコンデンサーを備えた3Lの4つ口フラスコに、メタノールシリカゾル(MT−ST)[分散媒メタノール、SiO2濃度30質量%、一次粒子径12nm、商品名MT−ST、日産化学工業(株)製]1200.0g(SiO2分として360.0g)と、有機シラン化合物として3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン[商品名SZ6030、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製]230.0gを入れ、攪拌しながら昇温させ、揮発成分の還流が始まると同時に純水100.0gを徐々に滴下し、滴下終了後、還流下で2時間攪拌しながら加水分解を行った。加水分解終了後、常圧状態でアルコール、水等の揮発成分を留出させ、固形分濃度が60質量%の時点でトルエン720.0gを追加し、アルコール、水等をトルエンと一緒に共沸留出させた。
【0084】
次に、トルエン1000.0gを追加し、完全に溶媒置換を行い、トルエン分散系とした。このときの固形分濃度は約40質量%であった。更に、トルエンを留出させながら110℃で4時間反応を行い、固形分濃度を約60質量%とした。この後更に1−メトキシ−2−プロパノール1000.0gを追加し、トルエンを蒸発留出させ溶媒置換を行い、表面修飾無機微粒子(b)の1−メトキシ−2−プロパノール分散系とした。
【0085】
得られた有機被覆シリカ分散体を含む1−メトキシ−2−プロパノール分散系は、黄色状で透明な液体であり、固形分濃度は加熱残分で50質量%であった。
【0086】
[合成例2:シロキサン化合物(A−1)の合成]
オルガノシラン類としてメチルトリメトキシシラン(多摩化学工業(株)製、分子量136)54.0g、及び、フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、分子量198)6.0gに、イソプロピルアルコール45.0gを加え、攪拌して均一な溶液とした。さらに水45.0gを加え、攪拌しつつ80℃で3時間加熱し、加水分解・縮合を行った。その後25℃まで冷却し、24時間攪拌して縮合を進行させ、固形分濃度20質量%のシロキサン化合物(A−1)の溶液150gを得た。
【0087】
[合成例3:シロキサン化合物(A−2)の合成]
アルキルシリケート類としてシリカ換算濃度53質量%のメチルシリケート(コルコート(株)製、平均約7量体、平均分子量約789、商品名メチルシリケート53A)10.0g、及び、メチルトリメトキシシラン(多摩化学工業(株)製、分子量136)20.0gに、イソプロピルアルコール10.0gを加え、攪拌して均一な溶液とした。さらに水10.0gを加え、攪拌しつつ80℃で3時間加熱し、加水分解−縮合を行った。その後25℃まで冷却し、24時間攪拌して縮合を進行させた。さらに、γ−ブチロラクトンを加えて全体を76.0gとし、固形分濃度20質量%のシロキサン化合物(A−2)の溶液を得た。ここでの固形分濃度とは、完全に加水分解・縮合させたと仮定した際に得られるシロキサン化合物の溶液全体に対する質量百分率を意味する。
【0088】
[合成例4:その他の成分(F−1)の合成]
撹拌子及びコンデンサーを備えた300mlナス型フラスコに、コロイド状シリカとしてイソプロピルアルコール分散コロイド状シリカ(商品名スノーテックスIPA−ST−L)100.0g(固形分30.0g)、オルガノアルコキシシランとしてメチルトリメトキシシラン(多摩化学工業(株)製、分子量136)6.8g(0.05モル)、純水5.4g(0.3モル)及びイソプロピルアルコール54.5gを仕込み、ウォーターバスを用いて80℃で3時間、加熱・撹拌して加水分解・縮合を行い、縮合物の20質量%溶液を得た。
【0089】
<実施例1>
[第1層(プライマー層)用電離放射線硬化性組成物1の調製]
1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(C6DA)[大阪有機化学工業(株)製]50g(固形分50g)、コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸のモル比1:2:4の縮合混合物(TAS)[大阪有機化学工業(株)製]50g(固形分50g)、及び、ベンゾインエチルエーテル(BEE)[精工化学(株)製]1.5gを混合攪拌して均一溶液とし、電離放射線硬化性組成物1を得た。
【0090】
[第1層(プライマー層)の形成]
電離放射線硬化性組成物1をSUS板に滴下し、その上に厚さ20μmのポリエチレンテレフタレート製の2軸延伸フィルム(ダイヤホイル社製)を配置し、JIS硬度40゜のゴムロールでしごき、塗工膜の厚みを20μm(但し、実施例7は15μm)に設定した。その後、PETフィルムを剥離し、18度の雰囲気下で10分放置し、出力120W/cm2の高圧水銀灯下30cmの位置を、塗布面を上にして2.5m/分のスピードで2度通過させ硬化させた。この様に処理したSUS板と別のSUS板を硬化被膜形成塗布面が内側になるように対向させ、周囲を軟質ポリ塩化ビニル製のガスケットで封じ、注型重合用のセルを作製した。このセルに、メタクリル酸メチル重合体(分子量(Mw)240000)20質量%とメタクリル酸メチル80質量%からなるシラップ100質量部と、重合開始剤としてt−ヘキシルパーオキシピバレート0.22質量部とからなる樹脂原料を注入し、82℃の水浴中で30分、次いで130度の空気炉で30分重合した。冷却後、SUS板を剥離することにより片面に電離放射線硬化性組成物1の硬化被膜を有するポリメタクリル系樹脂板を得た。
【0091】
次いで、波長172nmの真空紫外光を放射するキセノンエキシマランプ((株)エム・ディ・エキシマ製、放射強度50mW/cm)を用い、ランプ面から5mm隔たった位置に硬化被膜を有するポリメタクリル系樹脂板を置き、室温、空気環境下にて5秒照射することにより、高エネルギー表面処理を施し、第1層(プライマー層)を完成した。
【0092】
[第2層(ケイ素系被膜)用硬化性組成物の調製]
合成例2で得たシロキサン化合物(A−1)の溶液500g(固形分100g)、硬化剤として酢酸ナトリウム0.02g、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテル125g、シリコーン系レベリング剤(東レダウコーニング(株)製、商品名L−7001)を混合し、第2層用硬化性組成物を得た。
【0093】
[第2層(ケイ素系被膜)の形成]
この第2層用硬化性組成物を、第1層の表面処理面上に適量滴下し、バーコーティング法(バーコーター#26)にて塗布し、乾燥機にて90℃で120分硬化して、硬化被膜としての第2層(ケイ素系被膜)を形成し、本発明の積層体を得た。
【0094】
[被膜の評価]
以上のようにして得た2層構造の保護被膜を有するポリメチルメタクリル樹脂を、以下の方法により評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0095】
1)外観:
目視にて試験片の透明性、白化の有無を観察し、以下の基準により評価した。
「○」:透明で、白化の欠陥の無いもの(良好)。
「×」:不透明な部分のあったもの、白化等の欠陥があったもの(不良)。
【0096】
2)膜厚:
Metricon社製MODEL 2010 PRISM COUPLERにて測定した。
【0097】
3)被膜密着性:
硬化被膜に対して、カミソリの刃で1mm間隔に縦横11本ずつの切れ目を入れて100個のマス目を作り、セロハンテープを良く密着させ、45度手前方向に急激に剥がし、硬化被膜が剥離せずに残存したマス目数を計測して、以下の基準で評価した。
「○」:剥離したマス目がない(密着性良好)。
「△」:剥離したマス目が1〜5個(密着性中程度)。
「×」:剥離したマス目が6個以上(密着性不良)。
【0098】
4)耐候性:
試験片に対して、耐候試験機(スガ試験機(株)社製、装置名サンシャインカ−ボンウエザオメ−タ−WEL−SUN−HC−B型)を用い、ブラックパネル温度63±3℃、降雨12分間、照射48分間のサイクルの条件で試験した。1000時間、2000時間曝露後の硬化被膜の変化を以下のように確認した。
(外観)
「○」:透明で、白化、クラック欠陥の無いもの(良好)。
「×」:不透明な部分のあったもの、白化、クラック等の欠陥があったもの(不良)。
(密着性)
「◎」:剥離したマス目がない(密着性良好)。
「○」:剥離したマス目が1〜5個(密着性中程度)。
「△」:剥離したマス目が6個以上(密着性不良)。
【0099】
<実施例2>
第1層の形成工程において、キセノンエキシマランプの照射時間を1分に変更したこと以外は、実施例1と同様にして積層体を作製し、評価した。
【0100】
<実施例3>
第2層の形成工程において、乾燥機にて90℃で10分乾燥し、次いで、高圧水銀灯((株)オーク製作所、紫外線照射装置、ハンディーUV−1200、QRU-2161型)にて、紫外線を約30秒間、約2,000mJ/cm2照射し、硬化被膜を得ること以外は、実施例2と同様にして積層体を作製し、評価した。
【0101】
<実施例4>
第1層の形成工程において、キセノンエキシマランプの処理を窒素雰囲気下で行ったこと以外は、実施例2と同様にして積層体を作製し、評価した。
【0102】
<実施例5>
第2層用硬化性組成物を表1に記載の組成に変更したこと以外は、実施例2と同様にして積層体を作製し、評価した。
【0103】
<実施例6>
第1層の形成工程において、キセノンエキシマランプの照射時間を10分に変更したこと以外は、実施例1と同様にして積層体を作製し、評価した。
【0104】
<実施例7>
厚さ3mmのポリメチルメタクリル樹脂(三菱レイヨン(株)製、商品名アクリライトL)上に、表1に示す組成の硬化性組成物を適量滴下し、バーコーティング法(バーコーター#26)にて塗布し、乾燥機にて80℃で3分乾燥し、次いで高圧水銀灯((株)オーク製作所、紫外線照射装置、ハンディーUV−1200、QRU-2161型)にて、紫外線を約30秒間、約2,000mJ/cm2照射し、第1層を形成した。それ以降の工程は実施例1と同様にして積層体を作製し、評価した。
【0105】
<比較例1>
第1層の形成工程において、真空紫外光照射による高エネルギー表面処理(キセノンエキシマランプ照射)をしなかったこと以外は、実施例1と同様にして積層体を作製し、評価した。
【0106】
<比較例2>
第1層の形成工程において、真空紫外光照射による高エネルギー表面処理(キセノンエキシマランプの照射)の代わりに、プラズマ処理(BMC600真空蒸着装置((株)シンクロン社製)、100W、真空度1×10-4mHg、アルゴンガス)を行ったこと以外は、実施例1と同様にして積層体を作製し、評価した。
【0107】
<比較例3>
第1層を形成せず、基材上に直接第2層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして積層体を作製し、評価した。
【0108】
以上の各実施例及び各比較例の評価結果を、表1及び表2に示す。
【0109】
【表1】

【0110】
【表2】

【0111】
表中の略号は、以下の化合物を示す。
・「C6DA」:1,6−ヘキサンジオールジアクリレート[大阪有機化学工業(株)製]
・「TAS」:コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸のモル比1:2:4の縮合混合物[大阪有機化学工業(株)製]
・「BEE」:ベンゾインエチルエーテル[精工化学(株)製]
・「A−1」:合成例2で得たシロキサン化合物(A−1)
・「A−2」:合成例3で得たシロキサン化合物(A−2)
・「SI−100L」:カウンターアニオンがヘキサフルオロアンチモネートであるスルホニウム塩系光重合開始剤[三新化学工業(株)製]
・「PGM」:プロピレングリコールモノメチルエーテル
・「L−7001」:シリコーン系レベリング剤[東レダウコーニング(株)製]
・「F−1」:合成例4で得たその他の成分(F−1)。
【0112】
表1及び表2に示す通り、第一層にエキシマ処理をした実施例1〜7では、被膜密着性及び耐候性が良好であった。一方、第一層にエキシマ処理を行わなかった比較例1及びエキシマ処理に代えてプラズマ処理を行った比較例2では、被膜密着性が悪く、耐候性評価も実施できなかった。さらに、第一層が無い比較例3でも、比較例1及び2と同様の結果が得られた。
【0113】
以上より、本発明により、耐候性、透明性、基材との密着性に優れた保護被膜を有する積層体及びその製造方法を提供することができることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に形成された第1層と、該第1層上に形成された第2層とを有する積層体であって、
前記第1層は、電離放射線硬化性樹脂を硬化し、真空紫外光を照射して高エネルギー表面処理を施した層であり、
前記第2層は、下記一般式(1)
【化1】

(式中、R1、R2、R3及びR4は炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜4のアシル基を示し、nは3〜20の整数を示す。)
で表されるアルキルシリケート類、及び、
下記一般式(2)
【化2】

(式中、R5は炭素数1〜10のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、アミノ基またはイソシアネート基を含有する有機基を示し、R6は炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜4のアシル基を示し、aは1〜3の整数を示す。)
で表されるオルガノシラン類のうち少なくとも一方を加水分解縮合して得られるシロキサン化合物(A)を含む硬化性組成物を硬化した層である積層体。
【請求項2】
基材上で、電離放射線硬化性樹脂を硬化し、真空紫外光を照射して高エネルギ−表面処理を施すことにより第1層を形成する第1の工程と、
前記第1層の高エネルギ−表面処理を施した表面上で、下記一般式(1)
【化3】

(式中、R1、R2、R3及びR4は炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜4のアシル基を示し、nは3〜20の整数を示す。)
で表されるアルキルシリケート類、及び、
下記一般式(2)
【化4】

(式中、R5は炭素数1〜10のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、アミノ基またはイソシアネート基を含有する有機基を示し、R6は炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜4のアシル基を示し、aは1〜3の整数を示す。)
で表されるオルガノシラン類のうち少なくとも一方を加水分解縮合して得られるシロキサン化合物(A)を含む硬化性組成物を硬化することにより第2層を形成する第2の工程とを有する積層体の製造方法。
【請求項3】
真空紫外光の照射をエキシマランプを用いて行う請求項2に記載の積層体の製造方法

【公開番号】特開2012−223910(P2012−223910A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91059(P2011−91059)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】