説明

積層体の製造方法および製造装置

【課題】所望の垂直度・平行度の精度が悪化しないよう接着剤が完全に硬化した状態で積層体を取り出す積層体の製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】単板3を加熱する高周波加熱源5を外周に設けた保持ブロック体4の下方に、冷却回路15を有し、積層された単板3を側方加圧する複数の保持ブロックからなる保持ブロック体14を配置し、単板3を保持ブロック体14で加圧規制しながら溶融した単板3に塗布された接着剤を冷却回路15により溶融硬化反応温度まで下げ、接着剤を完全に固化させた後に、保持ブロック体14から接着積層された複数枚の単板3を順次押し出して積層体6を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、珪素鋼板等の金属板材から打抜いた単板を積層固着して構成するモータやトランスの積層鉄心等の積層体の製造方法および製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、モータやトランス等の積層鉄心を製造する場合、表面に接着剤の塗布された珪素鋼板等の金属板材を所定の形状に打抜き、打抜いた単板を保持ブロック体内に落下させて順次積層する。この保持ブロック体内において、積層された単板を加圧しながら誘導加熱によって加熱する。加熱することによって単板上の接着剤を溶融して、保持ブロック体で加圧規制しながら複数の単板を相互に接着する。接着後の積層体を保持ブロック体から順次押し出して積層体を得る製造方法があった(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図5は特許文献1に記載された従来の積層体の製造装置を示す側面断面図である。図5において、表面に接着剤の塗布された金属板材10をプレス機構によりパンチ1とダイ2の打抜き部で所定の形状の単板3に打抜き、打抜いた単板3は下方に順次押し出される。打抜き部の下方に配置された複数の保持ブロック体4で圧力発生源7により側方加圧しながら、保持ブロック体4の外周に配置された高周波加熱源5によって保持ブロック体4に加圧規制された単板3を加熱する。単板3を加熱することによって単板3上の接着剤を溶融して相互に接着し、複数の単板3を接着した積層体6を保持ブロック体4から順次押し出して積層体6を得ていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−307636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、モータには従来以上の省電力化や振動・騒音の低減など求められているが、従来の積層体を得るためのかしめ固着による積層方法やレーザー固着による積層方法では積層された単板が固着部分で導通しており、これがモータの電力損失の要因になっている。
【0006】
このため、積層品の固着部分が導通せず、電力損失を最小限に抑えることのできる積層固着方式である接着剤による積層方法が考案されており、接着剤による積層方法によって省電力化に対して電流の損失を低減し、さらに振動・騒音の低減には積層体の高精度化することが必要になってきている。
【0007】
しかしながら、前記従来の構成ではプレス機構で打抜いた単板は保持ブロック体で側方加圧および加熱され、順次押し出されて積層体として取り出されるが、加熱されながら積層体として取り出されているため、十分な放熱が行われておらず、取り出し時の積層体の温度が接着剤の溶融硬化反応温度よりも高くなる。そのため、単板間の接着剤が完全に硬化しておらず、取り出し時の振動や取り出し後の積層体を自然冷却した時、積層体の各部分の熱収縮力の違いによって積層体の接着面にずれや変形が生じて垂直度・平行度等が悪化するために必要な精度が得られないという課題を有していた。
【0008】
本発明は前記の課題を解決するもので、所望の垂直度・平行度の精度が悪化しないよう接着剤が完全に硬化した状態で積層体を取り出す積層体の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明に係る請求項1に記載した積層体の製造方法は、表面に接着剤の塗布された板材を所定の形状の単板に打抜き、打抜いた単板を保持ブロック体内に押し出して順次積層し、保持ブロック体において、積層された単板を側方加圧しながら加熱手段により加熱して単板上の接着剤を溶融し、単板を保持ブロック体をなす複数の保持ブロックで加圧規制しながら溶融した接着剤を冷却手段により溶融硬化反応温度まで下げて固化させた後に、保持ブロック体から複数の単板からなる積層体を順次押し出すことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載した発明は、請求項1の積層体の製造方法であって、単板を複数の保持ブロックで加圧規制しながら冷却手段により冷却して接着剤を固化させる際に、複数の保持ブロックのうち少なくとも1つの保持ブロックの冷却温度を変えて冷却することを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載した積層体の製造装置は、表面に接着剤の塗布された板材を所定の形状の単板に打抜く打抜き部と、打抜き部の下方に積層した単板を側方加圧する複数の保持ブロックからなる保持ブロック体と、保持ブロック体の外周で保持ブロックに加圧規制された単板を加熱する加熱手段と、保持ブロック体に加熱手段の下方で保持ブロック体に加圧規制された複数の単板からなる積層体を冷却する冷却手段とを備え、保持ブロック体から積層体を順次押し出すことを特徴とする。
【0012】
また、請求項4〜7に記載した発明は、請求項3の積層体の製造装置の単板を加圧規制しながら冷却手段により冷却して接着剤を固化させる複数の保持ブロックにおいて、複数の保持ブロックのうち少なくとも1つの保持ブロックの冷却温度を変えて冷却すること、また冷却手段として、保持ブロック体から順次積層体が押し出される方向と同方向に冷却穴を配置し、押し出される積層体の進行方向とは逆方向に冷却穴から冷媒を流すこと、また保持ブロックにおいて、保持ブロックの単板と接する面に部分的に凸部を設けること、また保持ブロック体に配置されるそれぞれの圧力発生源は、単板の積層方向の下流側となる積層体取り出し側端部の圧力発生源の加圧力が、単板の積層方向の上流側となる打抜き部側端部の圧力発生源の加圧力より大きいことを特徴とする。
【0013】
前述した製造方法および装置によれば、保持ブロック体で積層した単板を加圧規制しながら単板上に塗布された接着剤を固化でき、精度のよい積層体を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、積層体の垂直度・平行度の精度を向上することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態1における積層体の製造装置の側面断面図
【図2】本発明の実施形態2における加熱された積層体の温度分布図
【図3】本発明の実施形態2における積層体の製造装置の平面断面図
【図4】本発明の実施形態4における保持ブロックの平面断面図
【図5】従来の積層体の製造装置を示す側面断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明における実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1における積層体の製造装置の側面断面図である。ここで、前記従来例を示す図5において説明した構成部材に対応し同等の機能を有するものには同一の符号を用いて示し、その詳細な説明を一部省略する。
【0018】
図1において、パンチ1とダイ2は表面に接着剤の塗布された金属板材10をプレス機構により所定の形状の単板3に打抜く打抜き部である。打抜き部の下方に積層された単板3を上下に配置された圧力発生源7によって側方加圧する複数の保持ブロック体4と、保持ブロック体4の外周に保持ブロック体4により加圧規制された単板3を加熱する加熱手段の高周波加熱源5を配置している。保持ブロック体4は高周波加熱源5の内側に配置されているため、積層した単板3を加熱する際に加熱されることを防ぐために非磁性材料または絶縁材料で構成されている。
【0019】
さらに、保持ブロック体4の下方には冷却手段の冷却回路15を有して、積層された単板3を冷却かつ加圧する複数の保持ブロックからなる保持ブロック体14があり、保持ブロック体14は上下に配置された圧力発生源17により積層された単板3を側方加圧している。圧力発生源17は単板3を側方加圧することにより単板3と保持ブロック体14との間に摩擦力を発生させ、打抜かれた単板3が順次押し出される際に単板同志を単板の進行方向に加圧密着させる。
【0020】
また、保持ブロック体14は下方に押し出される単板3を所望の精度に整列させる役割も果たす。さらに、保持ブロック体14に配置された冷却回路15は冷却穴が配置され、そこに冷媒が順次流されており、高周波加熱源5により加熱されて押し出されてくる積層した単板3の熱量を奪う。冷媒には水、油、エマルジョン、空気、窒素ガス、COなどを使用する。また、冷媒の代わりに、ヒートパイプの一端を保持ブロック体14に挿入し、ヒートパイプの他端を冷媒で冷却することで単板3の熱量を奪う方式としてもよい。
【0021】
係る構成によれば高周波加熱源5により加熱されて押し出されてくる単板3を保持ブロック体14で所望の精度に積層整列し、かつ具備している冷却回路15により溶融した単板3上の接着剤を溶融硬化反応温度まで下げ、接着剤を完全に固化させた後に、保持ブロック体14から複数の単板3からなる積層体6を順次押し出して積層体6を得ることにより、積層体6の垂直度・平行度の精度を向上することができる。
【0022】
また、本実施形態1において、圧力発生源17はばね等で保持ブロック体14を押圧しているが、油圧シリンダ、空圧シリンダ等を使用して保持ブロック体14を積層した単板3の方向に可動させることで単板3を側方加圧してもよい。
【0023】
(実施形態2)
図2は本発明の実施形態2における加熱された積層体の温度分布図、また図3は積層体の製造装置の平面断面図である。なお、図2,図3において、図1で説明した構成部材に対応し同等の機能を有するものには同一の符号を用いて示し、その詳細な説明を一部省略する。
【0024】
また、図2において、高周波加熱源により加熱された積層した単板3の温度分布は、単板3の外周部分の温度が高くなっており、内側にいくに従って温度が低くなっている。しかし、積層した単板内の最大温度や最低温度の分布は単板3の平面形状に依存しており、単純に外周部分の温度が最大となるわけではない。したがって、強制冷却する際にも積層した単板3の温度分布に合わせた冷却方法が必要となる場合がある。
【0025】
図3において、積層した単板3の温度分布が異なるため、例えば保持ブロック体14をなす複数の保持ブロック14a〜14dのうち、例えば単板3の熱量の大きい部分に隣接している保持ブロック14aは冷却回路15aの冷媒温度を低くする、または冷媒速度を速くする、または冷却回路15aの冷却穴の断面積を大きくする、または冷却回路15aの冷却穴の数を増やす等により冷却温度を低くするため冷却能力を上げる。
【0026】
係る構成によれば、不均一に加熱された単板3をできるだけ均一に冷却することができ、単板3の熱収縮による寸法変化の差異を小さくできることから、積層体6の垂直度・平行度の精度を向上することができる。
【0027】
なお、本実施形態2において、保持ブロック体14の冷却能力を上げる際に保持ブロック体14の材料を非磁性の超硬またはりん青銅、アームズブロンズ、ベリリウム銅などの銅合金、または表面を陽極酸化して酸化膜をつけたアルミ合金などの熱伝導性のよい材料を使用することで冷却能力に差をつけてもよい。
【0028】
(実施形態3)
図1において、保持ブロック体14の各保持ブロックに配置される冷却回路15(冷却穴)は積層した単板3が押し出されてくる方向と平行に配置し、冷却回路15に流す冷媒は積層した複数の単板3からなる積層体6が保持ブロック体14から押し出される進行方向とは逆方向に流す。
【0029】
係る構成によれば、保持ブロック体14の下方にいくほど保持ブロック体14に配置された冷却回路15に流れる冷媒の温度は初期温度に近くなっており、保持ブロック体14の冷却能力は保持ブロック体14の下方ほど冷却能力が高い状態になり、保持ブロック体14から排出される積層体6の温度管理が容易になる。このことにより、積層体6の垂直度・平行度の精度を向上することができる。
【0030】
(実施形態4)
図4は本発明の実施形態4における保持ブロック体の平面断面図である。また、図4において、図3で説明した構成部材に対応し同等の機能を有するものには同一の符号を用いて示し、その詳細な説明を一部省略する。
【0031】
図4に示すように、保持ブロック14a〜14dを積層した単板3を所望の精度に積層整列および冷却するため単板3に対して4方向に配置し、単板3を側方から加圧するとともに冷却している。しかし、保持ブロック14a〜14dにおいて、単板3と接する面は単板3の形状に依存し、保持ブロック14aおよび保持ブロック14cは、単板3の曲面で接触することになる。この曲面で接触させると、保持ブロック14a,14cと単板3は冷却されていく過程で温度が変化するため、各々の熱膨張係数の違いによって、保持ブロック14a,14cと単板3が接触する部分が変化して単板3の整列精度が悪化する。
【0032】
そのため、保持ブロック14a,14cには単板3との接触面に少なくとも1つの部分的凸部を設け、保持ブロック14a,14cと単板3が温度変化しても接触する部分が変化しない場所に凸部18を配置する。
【0033】
係る構成によれば、保持ブロック体14と単板3は冷却されていく過程で温度変化をしても接触する位置が変化せず、安定して所望の精度に単板3を整列させ、積層体6の垂直度・平行度の精度を向上することができる。
【0034】
なお、本実施形態4において、保持ブロック14a〜14dは4方向に配置しているが、単板3の形状によって少なくとも2方向に配置すればよい。また、保持ブロック14a,14cの凸部18は単板3形状の曲率と保持ブロック14a,14cの曲率を変えることで、温度変化しても接触する部分が変化しないようにしてもよい。
【0035】
(実施形態5)
図1において、保持ブロック体14には上下に圧力発生源17がそれぞれ配置され、これらの圧力発生源17により積層された単板3を側方加圧している。保持ブロック体14に配置されるそれぞれの圧力発生源17は、単板3の積層方向の下流側となる積層体6の取り出し側端部の圧力発生源17の加圧力が、単板3の積層方向の上流側となる打抜き部側端部の圧力発生源17の加圧力より大きい。
【0036】
係る構成によれば、保持ブロック体14と積層した単板3が冷却されていく過程で温度変化し、取り出し側の単板3が小さくなることにより、単板3への側方加圧力が不安定にならず、保持ブロック体14の取り出し側端部の側方加圧力を常時安定して作用させることができ、安定して所望の精度に積層した単板3を整列させ、積層体6の垂直度・平行度の精度を向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係る積層体の製造方法および製造装置は、プレス加工により安価な構成で効率的に積層体の垂直度・平行度の精度を向上することができ、モータやトランスの積層鉄心以外に金属製立体形状体の製造方法や製造装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0038】
1 パンチ
2 ダイ
3 単板
4,14 保持ブロック体
5 高周波加熱源
6 積層体
7,17,17a,17b,17c,17d 圧力発生源
10 金属板材
14a,14b,14c,14d 保持ブロック
15,15a,15b,15c,15d 冷却回路
18 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に接着剤の塗布された板材を所定の形状の単板に打抜き、打抜いた前記単板を保持ブロック体内に押し出して順次積層し、前記保持ブロック体において、前記積層された単板を側方加圧しながら加熱手段により加熱して前記単板上の接着剤を溶融し、前記単板を前記保持ブロック体をなす複数の保持ブロックで加圧規制しながら前記溶融した接着剤を冷却手段により溶融硬化反応温度まで下げて固化させた後に、前記保持ブロック体から複数の単板からなる積層体を順次押し出すことを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項2】
前記単板を複数の保持ブロックで加圧規制しながら冷却手段により冷却して接着剤を固化させる際に、前記複数の保持ブロックのうち少なくとも1つの保持ブロックの冷却温度を変えて冷却することを特徴とする請求項1記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
表面に接着剤の塗布された板材を所定の形状の単板に打抜く打抜き部と、前記打抜き部の下方に積層した前記単板を側方加圧する複数の保持ブロックからなる保持ブロック体と、前記保持ブロック体の外周で前記保持ブロックに加圧規制された前記単板を加熱する加熱手段と、前記保持ブロック体に前記加熱手段の下方で前記保持ブロック体に加圧規制された複数の単板からなる積層体を冷却する冷却手段とを備え、前記保持ブロック体から前記積層体を順次押し出すことを特徴とする積層体の製造装置。
【請求項4】
前記単板を加圧規制しながら冷却手段により冷却して接着剤を固化させる複数の保持ブロックにおいて、前記複数の保持ブロックのうち少なくとも1つの保持ブロックの冷却温度を変えて冷却することを特徴とする請求項3記載の積層体の製造装置。
【請求項5】
前記単板を複数の保持ブロックで加圧規制しながら接着剤を固化させるため冷却する冷却手段として、前記保持ブロック体から順次積層体が押し出される方向と同方向に冷却穴を配置し、押し出される前記積層体の進行方向とは逆方向に前記冷却穴から冷媒を流すことを特徴とする請求項3記載の積層体の製造装置。
【請求項6】
前記単板を加圧規制しながら冷却手段により冷却して接着剤を固化させる複数の保持ブロックにおいて、前記保持ブロックの前記単板と接する面に部分的に凸部を設けることを特徴とする請求項3記載の積層体の製造装置。
【請求項7】
前記単板を加圧規制しながら冷却手段により冷却して接着剤を固化させる保持ブロック体において、前記保持ブロック体に配置されるそれぞれの圧力発生源は、前記単板の積層方向の下流側となる積層体取り出し側端部の圧力発生源の加圧力が、前記単板の積層方向の上流側となる打抜き部側端部の圧力発生源の加圧力より大きいことを特徴とする請求項3記載の積層体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−274625(P2010−274625A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132020(P2009−132020)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】