説明

積層体及び積層体の製造方法

【課題】コールドスプレー法を用いてセラミックス基材に金属皮膜を形成した積層体を作製する場合に、セラミックスと金属皮膜との間の密着強度が高い積層体及びこのような積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】積層体は、絶縁性を有するセラミックス基材10と、該セラミックス基材10の表面に形成された金属又は合金を主成分とする中間層50と、該中間層50の表面に、金属又は合金からなる粉末をガスと共に加速し、表面に固相状態のままで吹き付けて堆積させることによって形成された金属皮膜層(回路層20、冷却フィン40)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁基材に金属を積層した積層体及び積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、産業用、自動車用などの電力制御からモータ制御まで、幅広い分野に使用される省エネルギー化のキーデバイスとして、パワーモジュールが知られている。パワーモジュールは、基材である絶縁基材(例えばセラミックス基材)の一方の面に、金属皮膜による回路パターンを介してチップ(トランジスタ)を配設し、他方の面に、金属皮膜を介して温度調節部(冷却部又は加熱部)を配設した装置である(例えば、特許文献1参照)。温度調節部としては、例えば金属又は合金の部材に冷却用又は加熱用の熱媒体の移動経路を設けたものが用いられる。このようなパワーモジュールにおいては、チップから発生した熱を、金属皮膜を介して温度調節部に移動させ外部に放熱することにより、冷却を行うことができる。
【0003】
絶縁基材に金属皮膜を形成した積層体の作製方法としては、例えば、溶射法やコールドスプレー法が挙げられる。溶射法は、溶融又はそれに近い状態に加熱された材料(溶射材)を基材に吹き付けることによって皮膜を形成する方法である。
【0004】
一方、コールドスプレー法は、材料の粉末を、融点又は軟化点以下の状態の不活性ガスとともに末広(ラバル)ノズルから噴射し、固相状態のまま基材に衝突させることにより、基材の表面に皮膜を形成する方法である(例えば、特許文献2参照)。コールドスプレー法においては、溶射法と比較して低い温度で加工が行われるので、熱応力の影響が緩和される。そのため、相変態がなく酸化も抑制された金属皮膜を得ることができる。特に、基材及び皮膜となる材料がともに金属である場合、金属材料の粉末が基材(又は先に形成された皮膜)に衝突した際に粉末と基材との間で塑性変形が生じてアンカー効果が得られると共に、互いの酸化皮膜が破壊されて新生面同士による金属結合が生じるので、密着強度の高い積層体を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−108999号公報
【特許文献2】米国特許第5302414号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した積層体をパワーモジュール等に適用する場合、基材と金属皮膜との間には高い密着強度が求められる。しかしながら、セラミックス基材に対して金属皮膜を形成する場合、コールドスプレー法においては塑性変形が金属側のみで生じるので、セラミックス基材と金属との間で十分なアンカー効果が得られない。そのため、セラミックス基材と金属皮膜との間の密着強度が不十分な積層体が形成されるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、セラミックス基材と金属皮膜との間の密着強度が高い積層体及びこのような積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る積層体は、絶縁性を有するセラミックス基材と、前記セラミックス基材の表面に形成された金属又は合金を主成分とする中間層と、前記中間層の表面に、金属又は合金からなる粉末をガスと共に加速し、前記表面に固相状態のままで吹き付けて堆積させることによって形成された金属皮膜層とを備えることを特徴とする。
【0009】
上記積層体において、前記中間層は、板状の金属又は合金部材を前記セラミックス基材にろう付することにより形成されていることを特徴とする。
【0010】
上記積層体において、前記セラミックス基材は窒化物系セラミックスからなることを特徴とする。
【0011】
上記積層体において、前記中間層は、少なくとも、アルミニウムを主成分とする層を含むことを特徴とする。
【0012】
上記積層体において、前記中間層は、ゲルマニウム、マグネシウム、珪素、銅の内のいずれかの金属からなる群より選択される少なくとも1種類を含有することを特徴とする。
【0013】
上記積層体において、前記中間層は、銀、ニッケル、金、銅の内のいずれかの金属を主成分とする層をさらに含むことを特徴とする。
【0014】
上記積層体において、前記金属皮膜層は、銅又はアルミニウムからなることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る積層体の製造方法は、絶縁性を有するセラミックス基材の表面に、金属又は合金を主成分とする中間層を形成する中間層形成工程と、前記中間層の表面に、金属又は合金からなる粉末をガスと共に加速し、前記表面に固相状態のままで吹き付けて堆積させることによって金属皮膜層を形成する皮膜形成工程とを含むことを特徴とする。
【0016】
上記積層体の製造方法において、前記中間層形成工程は、前記セラミックス基材の表面にアルミニウムろう材を配置するろう材配置工程と、前記アルミニウムろう材上に板状の金属又は合金部材を配置する金属部材配置工程と、前記アルミニウムろう材及び前記金属又は合金部材が順次配置された前記セラミックス基材を熱処理する熱処理工程とを含むことを特徴とする。
【0017】
上記積層体の製造方法において、前記ろう材配置工程は、ろう材ペーストの前記セラミックス基材への塗布と、ろう材箔の前記セラミックス基材上への載置と、蒸着法若しくはスパッタ法による前記セラミックス基材へのろう材の付着との内のいずれかの工程を含むことを特徴とする。
【0018】
上記積層体の製造方法において、前記熱処理工程は真空中又は不活性ガス雰囲気中で行われることを特徴とする。
【0019】
上記積層体の製造方法において、前記アルミニウムろう材は、ゲルマニウム、マグネシウム、珪素、銅の内のいずれかの金属からなる群より選択される少なくとも1種類を含有することを特徴とする。
【0020】
上記積層体の製造方法において、前記アルミニウム部材の厚さが1mm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、セラミックス基材の表面に金属又は合金を主成分とする中間層を形成し、この中間層の表面に、金属又は合金からなる粉末をガスと共に加速し、固相状態のままで吹き付けて堆積させることによって金属皮膜層を形成するので、金属皮膜層がアンカー効果により中間層に密着すると共に、粉末が中間層に衝突する際に中間層がセラミックス基材に向かって押圧される。それにより、セラミックス基材と金属皮膜層との間の密着強度が高い積層体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る積層体であるパワーモジュールの構成を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示すパワーモジュールの要部を拡大して示す断面図である。
【図3】図3は、図1に示すパワーモジュールの作製方法を示すフローチャートである。
【図4A】図4Aは、セラミックス基材に対してアルミニウムろう材層を形成する工程を説明する断面図である。
【図4B】図4Bは、アルミニウムろう材層上にアルミニウム箔を配置する工程を説明する断面図である。
【図5】図5は、コールドスプレー装置の概要を示す模式図である。
【図6】図6は、積層体に対する密着強度の試験を行った引張試験装置の概略構成を示す模式図である。
【図7】図7は、実施例及び比較例による積層体の作製条件及び実験条件、並びに実験結果を示す表である。
【図8A】図8Aは、実施例1に係る積層体の断面を示す写真である。
【図8B】図8Bは、図8Aに示すアルミニウム箔と銅皮膜との境界付近を拡大して示す写真である。
【図8C】図8Cは、図8Aに示すアルミニウムろう材層と窒化アルミニウム基材との境界付近を拡大して示す写真である。
【図9A】図9Aは、実施例2に係る積層体の断面を示す写真である。
【図9B】図9Bは、図9Aに示すアルミニウム箔と銅皮膜との境界付近を拡大して示す写真である。
【図9C】図9Cは、図9Aに示すアルミニウムろう材層と窒化珪素基材との境界付近を拡大して示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明において参照する各図は、本発明の内容を理解し得る程度に形状、大きさ、及び位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。即ち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、及び位置関係のみに限定されるものではない。
【0024】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る積層体であるパワーモジュールの構成を示す模式図である。また、図2は、図1に示す積層体の要部を拡大して示す断面図である。
図1に示すパワーモジュール1は、絶縁基板であるセラミックス基材10と、セラミックス基材10の一方の面に形成された回路層20と、回路層20上に半田C1によって接合されたチップ30と、セラミックス基材10の回路層20とは反対側の面に設けられた冷却フィン40とを備える。
【0025】
セラミックス基材10は、絶縁性材料からなる略板状の部材である。絶縁性材料としては、例えば、窒化アルミニウム、窒化珪素等の窒化物系セラミックスや、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、ステアタイト、フォルステライト、ムライト、チタニア、シリカ、サイアロン等の酸化物系セラミックスが用いられる。
【0026】
回路層20は、後述するコールドスプレー法によって形成された金属皮膜層であり、例えば銅等の良好な電気伝導度を有する金属又は合金からなる。この回路層20には、チップ30等に対して電気信号を伝達するための回路パターンが形成されている。
【0027】
チップ30は、ダイオード、トランジスタ、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等の半導体素子によって実現される。なお、チップ30は、使用の目的に合わせてセラミックス基材10上に複数個設けられても良い。
【0028】
冷却フィン40は、後述するコールドスプレー法によって形成された金属皮膜層であり、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、銀、銀合金等の良好な熱伝導性を有する金属又は合金からなる。このような冷却フィン40を介して、チップ30から発生した熱がセラミックス基材10を介して外部に放出される。
【0029】
図2に示すように、セラミックス基材10と回路層20との間、及びセラミックス基材10と冷却フィン40との間には、金属又は合金を主成分とする中間層50が設けられている。この中間層50は、後で詳細に説明するように、ろう材を用いて板状の金属又は合金部材(以下、これらをまとめて金属部材という)をセラミックス基材10に接合することにより形成されている。
【0030】
ろう材の種類は、セラミックス基材10の種類や板状の金属部材の種類に応じて選択することができる。本実施の形態においては、アルミニウムを主成分とし、ゲルマニウム、マグネシウム、珪素、銅の内の少なくとも1種を含有するアルミニウムろう材を用いている。
【0031】
また、板状の金属部材としては、セラミックス基材10に対してろう付による接合が可能であり、且つ、コールドスプレー法による皮膜形成が可能な程度の硬度を有する金属又は合金が用いられる。この硬度の範囲はコールドスプレー法における成膜条件等によっても異なるため、一概には定められないが、概ね、ビッカース硬度が100HV以下の金属部材であれば適用することができる。具体的には、アルミニウム、銀、ニッケル、金、銅、又はこれらの金属を含む合金等が挙げられる。
本実施の形態においては、板状の金属部材としてアルミニウムを用いており、この場合、中間層50は全体として、アルミニウムを主成分とする層となる。
【0032】
次に、パワーモジュール1の作製方法について、図3〜5を参照しながら説明する。図3は、パワーモジュール1の作製方法を示すフローチャートである。
まず、工程S1において、図4Aに示すように、好ましくは窒化物系のセラミックス基材10の表面にアルミニウム(Al)ろう材51を配置する。
【0033】
アルミニウムろう材51をセラミックス基材10表面に配置する方法としては、公知の種々の方法が用いられる。例えば、有機溶剤及び有機バインダーを含むペースト状のろう材をスクリーン印刷法によってセラミックス基材10に塗布しても良い。また、箔状のろう材(ろう材箔)をセラミックス基材10上に載置しても良い。或いは、蒸着法やスパッタ法等によりろう材をセラミックス基材10の表面に付着させても良い。
【0034】
続く工程S2において、図4Bに示すように、アルミニウムろう材51上にアルミニウム(Al)箔52を配置する。アルミニウム箔52は、厚さが例えば0.01mm〜0.2mm程度の板状の圧延部材である。本実施の形態においては、このように厚さの小さい部材を用いることにより、後述する熱処理工程において、アルミニウム箔52とセラミックス基材10との間における熱膨張率の差に起因する破損を防止することとしている。なお、アルミニウムろう材51上に配置する部材としては、箔状のアルミニウムに限定されず、厚さが約1mm以下であれば、板状のアルミニウム部材を配置しても良い。
【0035】
なお、図2に示すように、セラミックス基材10の両面に中間層50を形成する場合には、アルミニウムろう材51を両面に配置したセラミックス基材10を2枚のアルミニウム箔52によって挟むようにすると良い。
【0036】
続く工程S3において、アルミニウムろう材51及びアルミニウム箔52を表面に配置したセラミックス基材10を所定時間、所定温度に保持して真空中において熱処理を施す。この熱処理により、アルミニウムろう材51が溶融し、セラミックス基材10とアルミニウム箔52との接合体が得られる。このようにしてセラミックス基材10表面に設けられたアルミニウムろう材51及びアルミニウム箔52が中間層50となる。なお、真空ろう付の代わりに、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で熱処理を行っても良い。
【0037】
続く工程S4において、コールドスプレー法により中間層50上に金属皮膜層(回路層20及び冷却フィン40)を形成する。図5は、金属皮膜層の形成に使用されるコールドスプレー装置の概要を示す模式図である。
【0038】
図5に示すコールドスプレー装置60は、圧縮ガスを加熱するガス加熱器61と、金属皮膜層の材料の粉末を収容し、スプレーガン63に供給する粉末供給装置62と、加熱された圧縮ガス及びそこに供給された材料粉末を基材に噴射するガスノズル64と、ガス加熱器61及び粉末供給装置62に対する圧縮ガスの供給量をそれぞれ調節するバルブ65及び66とを備える。
【0039】
圧縮ガスとしては、ヘリウム、窒素、空気などが使用される。ガス加熱器61に供給された圧縮ガスは、例えば50℃以上であって、金属皮膜層の材料粉末の融点よりも低い範囲の温度に加熱された後、スプレーガン62に供給される。圧縮ガスの加熱温度は、好ましくは300〜900℃である。
一方、粉末供給装置62に供給された圧縮ガスは、粉末供給装置62内の材料粉末をスプレーガン63に所定の吐出量となるように供給する。
【0040】
加熱された圧縮ガスは末広形状をなすガスノズル64により超音速流(約340m/s以上)にされる。この際の圧縮ガスのガス圧力は、1〜5MPa程度とすることが好ましい。圧縮ガスの圧力をこの程度に調整することにより、中間層50に対する金属皮膜層の密着強度の向上を図ることができるからである。より好ましくは、2〜4MPa程度の圧力で処理すると良い。スプレーガン63に供給された粉末材料は、この圧縮ガスの超音速流の中への投入により加速され、固相状態のまま、セラミックス基材10上の中間層50に高速で衝突して堆積し、皮膜を形成する。なお、材料粉末をセラミックス基材10に向けて固相状態で衝突させて皮膜を形成できる装置であれば、図5に示すコールドスプレー装置60に限定されるものではない。
【0041】
なお、金属皮膜層として回路層20を形成する場合には、例えば、中間層50の上層に回路パターンが形成されたメタルマスク等を配置し、例えば銅の粉末を用いて皮膜形成を行えば良い。一方、金属皮膜層として冷却フィン40を形成する場合には、例えばアルミニウムの粉末を用いて所望の厚さの皮膜(堆積層)を形成し、その後、この皮膜(堆積層)に対してレーザ切削等により所望の流路パターンを形成すれば良い。
【0042】
さらに、必要に応じてチップ30等の部品を半田で回路層20に接合する。それにより、図1に示すパワーモジュール1が完成する。
【0043】
以上説明したように、本実施の形態においては、セラミックス基材10の表面にアルミニウムろう材51及びアルミニウム箔52を用いて中間層50を形成し、この中間層50上に、コールドスプレー法により金属皮膜層を形成する。このため、材料粉末が中間層50に衝突した際に十分なアンカー効果が生じ、中間層50に強固に密着した金属皮膜層が形成される。また、材料粉末の衝突の際に、中間層50にセラミックス基材10方向の押圧力が加えられるので、セラミックス基材10に対する中間層50の接合強度が向上する。その結果、セラミックス基材10と中間層50と金属皮膜層とが強固に密着した積層体を得ることができる。
従って、このような積層体をパワーモジュール1に適用することにより、モジュール全体の機械的強度を向上させることができる。
【0044】
また、本実施の形態によれば、回路層20や冷却フィン40を、機械締結部材や半田やシリコングリース等を用いることなく配設することができる。従って、従来よりも熱伝導性に優れ、構造も簡素となり、サイズを小型化することができる。また、パワーモジュール1のサイズを従来と同程度にする場合には、冷却フィン等の主要な構成部分が占める割合を大きくすることができる。
【0045】
また、本実施の形態によれば、回路層20及び冷却フィン40を、良好な熱伝導性を有するアルミニウムを主成分とする中間層50のみを介してセラミックス基材10に配設するので、回路層20において発生した熱を冷却フィン40から効率良く放熱することができる。
【0046】
ここで、例えばパワーモジュール用の絶縁基板としては、良好な熱伝導性を有する窒化物系セラミックスの使用が従来より望まれていた。しかしながら、窒化物系セラミックス基板に対して冷却フィン等の部材を大気ろう付する場合、両者の接合強度が不十分となっていた。また、窒化物系セラミックス基板に対して真空ろう付により冷却フィン等の部材を接合する場合、真空ろう付においては熱処理温度が高温(例えば600℃以上)となるため、熱膨張率差により剥離や割れが生じるおそれがあった。
【0047】
それに対して、本実施の形態においては、窒化物系セラミックス基材に対し、アルミニウム箔という厚さの薄い部材を真空(又は不活性ガス雰囲気中で)ろう付して中間層を形成するので、熱処理温度が高温になっても、熱膨張率の差による基板からの中間層の剥離や割れが生じることはない。そして、この中間層上に、冷却フィン等の部材となる金属皮膜層をコールドスプレー法により直接形成するので、機械的強度が強く、良好な熱伝導性を有するパワーモジュールを作製することが可能となる。
【0048】
なお、上記実施の形態においては、金属皮膜層によって形成される温度調節装置を、チップから発生した熱を放熱する冷却フィンとして説明したが、チップ等のセラミックス基材に積層された部品を加熱するために設けられる加熱装置であってもよい。
【0049】
また、上記実施の形態においては、セラミックス基材10の両側に中間層50及び金属皮膜層を形成したが、セラミックス基材10のいずれか一方の面(例えば、冷却フィン40側の面)のみに中間層50及び金属皮膜層を設けることとしても良い。
【0050】
また、上記実施の形態においては、積層体の基材として絶縁性を有する窒化物系セラミックスや酸化物系セラミックスを挙げたが、炭化物系セラミックス等の導電性の基材に対しても同様の方法により積層体を作製することができる。
【0051】
上記実施の形態においては、アルミニウムろう材51及びアルミニウム箔52を用いて中間層50を形成しているため、中間層50はアルミニウムを主成分とするほぼ一様な層として観察されることが多い。しかしながら、中間層50に対する元素分布分析やSEMによる金属組織観察等により、板状のアルミニウム部材に由来し、ほぼアルミニウムからなる層と、アルミニウムろう材に由来し、アルミニウム以外の成分(ゲルマニウム、マグネシウム、珪素、銅等)を含有する層とを識別できる場合もある。
【0052】
また、上記実施の形態において、アルミニウム箔52の代わりに銀、ニッケル、金、銅といった他の種類の金属部材を用いる場合にも、同様の方法により積層体を作製することができる。この場合、中間層50は、当該金属を主成分とする層と、アルミニウムろう材に由来し、アルミニウムを主成分とする層との2層構造となることもある。
【実施例】
【0053】
本実施の形態に係る積層体の製造方法により、窒化物系セラミックスの基材上に銅(Cu)皮膜を形成した積層体のテストピースを作製し、基材と銅皮膜との間の密着強度を測定する実験を行った。
【0054】
図6は、テストピースの密着強度測定の際に使用した簡易引張試験法による試験装置を示す模式図である。この試験装置70において、皮膜層(銅皮膜)83に接着剤73を介してアルミピン72を固着し、固定台71の孔部71aに、アルミピン72を上方から挿通してテストピース80を固定台71上に載置し、アルミピン72を下方に引っ張ることにより、基材81と、中間層82を介して形成された皮膜層83との間の密着強度を評価した。また、比較例については、基材81上に直接形成した皮膜層83にアルミピン72を接着して、同様の実験を行うこととした。評価は、皮膜層83が基材81から剥離した時点での引張応力と剥離状態により行なった。なお、基材81のサイズについては、実施例、比較例とも、50mm×50mm×0.635mmとした。
【0055】
図7は、実施例及び比較例による積層体の作製条件及び実験条件、並びに実験結果を示す表である。図7において、「密着強度」欄の数値は、基材81と皮膜層83との間で剥離が生じたときの引張応力の値を示す。また、「密着強度」欄の「≧60MPa」との記載は、試験装置70において接着剤73の破断による剥離が生じたこと、即ち、試験装置70において測定可能な最大引張応力(60MPa)を与えても基材81と皮膜層83とが剥離しなかったことを意味する。
【0056】
(実施例1)
実施例1として、窒化アルミニウム(AlN)基材上に、アルミニウムろう材、及び厚さ約0.2mmのアルミニウム(Al)箔を配置し、590℃の真空中で4時間熱処理を施すことにより中間層を形成した。この中間層上に、コールドスプレー法により厚さ約1.0mmの銅(Cu)皮膜を形成した。この際の成膜条件は、窒素ガス(N)の温度を400℃、噴射圧力を5MPaとした。
図7に示すように、実施例1の場合、基材81と皮膜層83との間において、60MPa以上の密着強度が得られていた。
【0057】
図8A〜図8Cは、引張試験の実施後、実施例1による積層体の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)により観察した写真である。図8Aは、窒化アルミニウム(AlN)基材、中間層(Al箔+Alろう材層)、銅(Cu)皮膜を含む300倍の拡大写真である。図8Bは、図8Aに示すアルミニウム(Al)箔と銅皮膜との境界付近を示す2000倍の拡大写真である。図8Cは、図8Aに示す窒化アルミニウム基材とアルミニウム(Al)ろう材層との境界付近を示す2000倍の拡大写真である。
【0058】
図8Aに示すように、中間層内においては、熱処理を施した結果、アルミニウム箔とアルミニウムろう材層との間に明確な境界は見られなくなっていた。また、図8Bに示すように、アルミニウム箔の上部には、銅皮膜がアルミニウム箔に食い込んで両者が密着しているアンカー効果が観察された。さらに、図8Cに示すように、窒化アルミニウム基材とアルミニウムろう材層との境界には、熱処理により軟化したアルミニウムろう材層が窒化アルミニウム基材表面に密に結合している現象が見られた。
これらの図8A〜8Cのいずれにも、引張試験による剥離や破断の形跡は見られなかった。
【0059】
(実施例2)
実施例2として、窒化珪素(Si)基材上に、アルミニウムろう材、及び厚さ約0.2mmのアルミニウム(Al)箔を配置し、590℃の真空中で4時間熱処理を施すことにより中間層を形成した。この中間層上に、コールドスプレー法により厚さ約1.0mmの銅(Cu)皮膜を形成した。この際の成膜条件は実施例1と同様である。
図7に示すように、実施例2の場合も、基材81と皮膜層83との間において、60MPa以上の密着強度が得られていた。
【0060】
図9A〜図9Cは、引張試験の実施後、実施例2による積層体の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)により観察した写真である。図9Aは、窒化珪素(Si)基材、中間層(Al箔+Alろう材層)、銅(Cu)皮膜を含む300倍の拡大写真である。図9Bは、図9Aに示すアルミニウム(Al)箔と銅皮膜との境界付近を示す2000倍の拡大写真である。図9Cは、図9Aに示す窒化珪素基材とアルミニウム(Al)ろう材層との境界付近を示す2000倍の拡大写真である。
【0061】
図9Aに示すように、実施例2においても実施例1と同様に、中間層内にはアルミニウム箔とアルミニウムろう材層との間の明確な境界は観察されなかった。また、図9Bに示すように、アルミニウム箔の上部には、アンカー効果により銅皮膜がアルミニウム箔に密着している現象が観察された。図9Cに示すように、窒化珪素基材とアルミニウムろう材層との境界においても、アルミニウムろう材層が窒化珪素基材に密に結合している様子が観察され、窒化珪素基材からの中間層や銅皮膜の剥離は認められなかった。
【0062】
(比較例)
比較例1として、窒化アルミニウム(AlN)基材上に、コールドスプレー法により銅(Cu)皮膜を直接形成した。また、比較例2として、窒化珪素(Si)基材上に、コールドスプレー法により銅(Cu)皮膜を直接形成した。なお、比較例における成膜条件は、実施例1と同様である。
図7に示すように、比較例1及び2においては、基材に対して銅皮膜があまり付着せず、テストピースの作製後、基材から銅皮膜が剥離してしまい、引張試験を行うことができなかった。
【符号の説明】
【0063】
1 パワーモジュール
10 セラミックス基材
20 回路層
30 チップ
40 冷却フィン
50 中間層
51 アルミニウムろう材
52 アルミニウム箔
60 コールドスプレー装置
61 ガス加熱器
62 粉末供給装置
63 スプレーガン
64 ガスノズル
65 バルブ
70 試験装置
71 固定台
71a 孔部
72 アルミピン
73 接着剤
80 テストピース
81 基材
82 中間層
83 皮膜層(銅皮膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性を有するセラミックス基材と、
前記セラミックス基材の表面に形成された金属又は合金を主成分とする中間層と、
前記中間層の表面に、金属又は合金からなる粉末をガスと共に加速し、前記表面に固相状態のままで吹き付けて堆積させることによって形成された金属皮膜層と、
を備えることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記中間層は、板状の金属又は合金部材を前記セラミックス基材にろう付することにより形成されていることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記セラミックス基材は窒化物系セラミックスからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記中間層は、少なくとも、アルミニウムを主成分とする層を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記中間層は、ゲルマニウム、マグネシウム、珪素、銅の内のいずれかの金属からなる群より選択される少なくとも1種類を含有することを特徴とする請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
前記中間層は、銀、ニッケル、金、銅の内のいずれかの金属を主成分とする層をさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の積層体。
【請求項7】
前記金属皮膜層は、銅又はアルミニウムからなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項8】
絶縁性を有するセラミックス基材の表面に、金属又は合金を主成分とする中間層を形成する中間層形成工程と、
前記中間層の表面に、金属又は合金からなる粉末をガスと共に加速し、前記表面に固相状態のままで吹き付けて堆積させることによって金属皮膜層を形成する皮膜形成工程と、
を含むことを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項9】
前記中間層形成工程は、
前記セラミックス基材の表面にアルミニウムろう材を配置するろう材配置工程と、
前記アルミニウムろう材上に板状の金属又は合金部材を配置する金属部材配置工程と、
前記アルミニウムろう材及び前記金属又は合金部材が順次配置された前記セラミックス基材を熱処理する熱処理工程と、
を含むことを特徴とする請求項8に記載の積層体の製造方法。
【請求項10】
前記ろう材配置工程は、ろう材ペーストの前記セラミックス基材への塗布と、ろう材箔の前記セラミックス基材上への載置と、蒸着法若しくはスパッタ法による前記セラミックス基材へのろう材の付着との内のいずれかの工程を含むことを特徴とする請求項9に記載の積層体の製造方法。
【請求項11】
前記熱処理工程は真空中又は不活性ガス雰囲気中で行われることを特徴とする請求項9又は10に記載の積層体の製造方法。
【請求項12】
前記アルミニウムろう材は、ゲルマニウム、マグネシウム、珪素、銅の内のいずれかの金属からなる群より選択される少なくとも1種類を含有することを特徴とする請求項11に記載の積層体。
【請求項13】
前記金属又は合金部材の厚さが1mm以下であることを特徴とする請求項9〜12のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【公開番号】特開2013−18190(P2013−18190A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153198(P2011−153198)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】