説明

積層型電子部品

【課題】 クラックの発生が抑制された積層型電子部品及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 好適な実施形態の積層型電子部品は、セラミック層と内部電極層及び段差解消層とが交互に積層された内層部と、この内層部をその積層方向の両側から挟むように設けられた外層部とを備えており、セラミック層が、誘電体成分とSi酸化物を含む添加成分とを含有し、段差解消層又は外層部が、誘電体成分とSi酸化物及びAl酸化物を含む添加成分とを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
積層型電子部品としては、複数のセラミック層と内部回路要素導体とが積層された積層構造を有するものが知られており、積層セラミックコンデンサ等として適用されている。積層型電子部品は、セラミック層と内部回路要素導体とが交互に積層された内層部と、この内層部を挟み混むように設けられた外層部とを備えた構成とされることがある。
【0003】
ところが、このような積層型電子部品においては、内部回路要素導体に接したセラミック層と、内部回路要素導体から離れた外層部との焼成温度がそれぞれ異なるため、焼成時に焼成ムラが生じ、その結果、焼結による縮率の差に基づいてクラック等が発生し易い傾向にあった。
【0004】
そこで、特許文献1には、焼成ムラを抑制する観点から、外層部を構成する複数のセラミック層が、内層部側から外層部の表面側に向かって、ガラス成分の量の成分量比が大きくなるように積層された積層型電子部品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−351712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
積層型電子部品には、種々の用途が想定されており、各用途に求められる特性によっては、特許文献1のようなガラス成分を添加しない組成が求められる場合がある。そのため、特許文献1に示された手法のようなガラス成分によらずに、積層型電子部品のクラックの発生を抑制する方法も求められている。
【0007】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、クラックの発生が抑制された積層型電子部品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の積層型電子部品は、セラミック層からなる第1層と内部電極層及び段差解消層からなる第2層とが交互に積層された内層部と、この内層部をその積層方向の両側から挟むように設けられた外層部とを備えており、セラミック層は、誘電体成分とSi酸化物を含む添加成分とを含有し、段差解消層又は外層部は、誘電体成分とSi酸化物及びAl酸化物を含む添加成分とを含有することを特徴とする。
【0009】
上記本発明の積層型電子部品においては、セラミック層が添加成分としてSi酸化物を含むとともに、段差解消層又は外層部が添加成分としてSi酸化物とAl酸化物とを組み合わせて含有している。セラミック層並びに段差解消層又は外層部がこのように特定の添加成分をそれぞれ含有していることによって、内部電極層に隣接しているセラミック層と、内部電極層から遠い段差解消層又は外層部とが、それぞれ同程度の焼結性を有することができる。そのため、セラミック層と段差解消層又は外層部とは、焼成の際にともに良好に焼成され得る。したがって、本発明の積層型電子部品は、セラミック層と段差解消層又は外層部との間で焼成ムラが少なく、クラック等の発生が抑制されたものとなる。
【0010】
本発明の積層型電子部品において、段差解消層又は外層部における単位量あたりのSi酸化物の含有量は、セラミック層における単位量あたりのSi酸化物の含有量よりも多いことが好ましい。これにより、段差解消層又は外層部とセラミック層との焼結性が更に近くなり、その結果、積層型電子部品の焼成ムラを抑制してクラックの発生を更に少なくすることができる。
【0011】
また、段差解消層又は外層部における単位量あたりのSi酸化物の含有量は、段差解消層又は外層部における単位量あたりのAl酸化物の含有量よりも多いことが好ましい。段差解消層又は外層部は、このような割合でSi酸化物とAl酸化物とを含むことによって、更にセラミック層に近い焼結性を有するものとなり、その結果、積層型電子部品は、クラックの発生が一層低減されたものとなる。
【0012】
かかる効果が得られる要因としては、以下のことが考えられる。すなわち、まず、段差解消層又は外層部において、Si酸化物よりもAl酸化物の単位量あたりの含有量を多くしすぎてしまうと、焼成によって異相が発生し易くなるほか、焼成に適した添加成分のバランスから大きく外れると考えられる。そのため、Al酸化物を多くしすぎると、焼結性が低下するものと考えられる。これに対し、上記のように、単位量あたりのSi酸化物の含有量を、Al酸化物の含有量よりも多くすることにより、Al酸化物の添加による焼結性の向上効果が良好に得られ、これによって焼成ムラの発生を低減できるようになるものと考えられる。ただし、作用はこれに限定されない。
【0013】
また、外層部における単位量あたりの添加成分の含有量は、段差解消層における単位量あたりの添加成分の含有量よりも多いことが好ましい。これにより、外層部と段差解消層との間の焼成ムラも低減することができ、この部分で生じる可能性があるクラックの発生を低減することが可能となる。
【0014】
また、本発明の積層型電子部品において、セラミック層は、その平面形状が長方形であり、段差解消層における、内部電極層よりもセラミック層の短辺側の領域を第1領域とし、内部電極層よりもセラミック層の長辺側の領域を第2領域としたとき、段差解消層の第2領域における単位量あたりの添加成分の含有量が、段差解消層の第1領域における単位量あたりの添加成分の含有量よりも多いことが好ましい。
【0015】
積層型電子部品は、セラミック層が長方形の平面形状を有しており、内部電極層がセラミック層よりも内側の領域に形成されることがある。その場合、段差解消層は、内部電極層に対してセラミック層の短辺側の領域(第1領域)と長辺側の領域(第2領域)とを有するが、内部電極層からの距離の相違により、これらの領域間でも焼成ムラが生じる場合がある。これに対し、第1の領域及び第2の領域の添加成分の含有量を上記のような特定の関係を満たすようにすることで、これらの領域間での焼成ムラも抑制して、クラック等の発生を少なくすることができる。
【0016】
さらに、段差解消層又は外層部に含まれる粒子のBET値は、セラミック層に含まれる粒子のBET値よりも大きいことが好ましい。こうすることで、段差解消層又は外層部とセラミック層との焼結性が更に近くなり、クラック等の発生を一層低減することが可能となる。
【0017】
本発明はまた、セラミック層からなる第1層と内部電極層及び段差解消層からなる第2層とが交互に積層された内層部と、該内層部をその積層方向の両側から挟むように設けられた外層部と、を備える積層型電子部品の製造方法であって、セラミック層の前駆体層と内部電極層の前駆体層及び段差解消層の前駆体層とが交互に積層されるとともに、その積層方向の両側から挟むように外層部の前駆体層を積層した積層体を形成する工程と、この積層体を焼成する工程とを有しており、セラミック層の前駆体層は、誘電体成分の原料成分と、Si酸化物の原料成分とを含有しており、段差解消層の前駆体層又は外層部の前駆体層は、誘電体成分の原料成分と、Si酸化物の原料成分及びAl酸化物の原料成分とを含有している、積層型電子部品の製造方法を提供する。
【0018】
このような製造方法によれば、上記本発明の積層型電子部品が良好に得られる。そして、セラミック層の前駆体層と、段差解消層の前駆体層又は外層部の前駆体層とが、それぞれ特定の添加成分を有することから、従来、焼成時に生じ易かったこれらの層間の焼結性の相違に起因する焼成ムラを抑制することができ、クラック等の少ない積層型電子部品を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、クラックの発生が抑制された積層型電子部品及びその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】好適な実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面構成を模式的に示す図である。
【図2】積層セラミックコンデンサC1における内層部10及び外層部20の積層構造を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。以下の実施形態では、積層型電子部品の一例として、積層セラミックコンデンサを例に挙げて説明する。
【0022】
[積層セラミックコンデンサ]
図1は好適な実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面構成を模式的に示す図である。積層セラミックコンデンサC1は、内層部10と、この内層部10を挟むように上下に位置する一対の外層部20とを備えている。積層セラミックコンデンサC1の外表面には、一対の端子電極40が形成されている。端子電極40は、例えば、端子用の電極に適用される公知の金属材料からなるものであり、複数の金属層から構成されてもよい。なお、積層セラミックコンデンサC1の外形寸法は、適宜、所望とする寸法にあわせて設定される。例えば、「1005」タイプである場合、長手方向の長さが1.0mm、幅が0.5mm、高さが0.5mmである。
【0023】
図2は、積層セラミックコンデンサC1における内層部10及び外層部20の積層構造を示す分解斜視図である。内層部10は、セラミック層12と内部電極層14とが交互に積層された構成を有する。セラミック層12間の内部電極層14が形成されていない領域には、当該領域を埋めるように段差解消層16が設けられている。すなわち、段差解消層16は、内部電極層14と同じ層に位置している。
【0024】
セラミック層12及び内部電極層14は、長方形の平面形状を有しており、それぞれの長手方向が同じ方向となるように配置されている。内部電極層14は、その1つの縁部(短辺)のみが内層部10の側面に露出しており、その他の縁部(3つの辺)は、セラミック層12よりも内側の領域に形成されている。内部電極層14は、この露出した部分において、端子電極40と接続される。内部電極層14は、内層部10の対向する端面に交互に露出するようにして積層されている。
【0025】
内部電極層14の厚さは特に制限されないが、0.5〜5μmであると好ましく、0.5〜2.5μmであるとより好ましい。セラミック層12の厚さは、20μm以下であると好ましく、10μm以下であるとより好ましく、5μm以下であると更に好ましく、3μm以下であると一層好ましい。このような厚さを有することで、積層セラミックコンデンサC1の容量を十分に得ながら薄型化を図ることができる。
【0026】
段差解消層16は、セラミック層12間の内部電極層14が形成されていない領域を埋めるように、内部電極層12の周囲に形成されている。そのため、段差解消層16には、図2に示すように、内部電極層14の縁部からセラミック層12の短辺側の内層部10の側面までを埋める第1領域161と、内部電極層14の縁部からセラミック層12の長辺側の内層部10の側面までを埋める第2領域162とを有する。段差解消層16の厚さは、内部電極層14と同等である。
【0027】
また、外層部20は、複数(ここでは5層)のセラミック層21が積層されて形成されている。外層部20の厚さは、10〜50μmであると好ましく、20〜30μmであるとより好ましく、所望の厚さが得られるようにセラミック層21の層数を調整する。
【0028】
なお、実際には、セラミック層12、段差解消層16及びセラミック層21は、焼結によってそれらの境界が視認できない程度に一体化されている。以下、積層セラミックコンデンサC1における内層部10の各層の構成について詳細に説明する。
【0029】
(内部電極層14)
内部電極層14は、金属等の導電性を有する材料によって構成される。例えば、セラミック層12の構成材料が耐還元性を有することから、卑金属を用いることが好ましい。卑金属としては、Ni又はNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn、Cr、Co及びAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましい。この場合、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P等の各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。
【0030】
(セラミック層12)
セラミック層12は、誘電体成分とSi酸化物を含む添加成分とを含有する誘電体磁器組成物によって構成される。誘電体成分は、誘電体磁器組成物の主成分であって、誘電特性を発現する成分である。この誘電体成分としては、チタン酸バリウム(BaTiO)が好ましい。
【0031】
セラミック層12は、添加成分として少なくともSi酸化物を含む。Si酸化物の含有量は、誘電体成分100モルに対して、0.2〜1.5molであると好ましく、0.4〜1.0molであるとより好ましく、0.5〜0.8molであると更に好ましい。Si酸化物の含有量が好適な範囲であるほど、セラミック層12の焼結性が良好となるほか、後述する段差解消層16や外層部20との間での焼成ムラを低減しやすくなる。Si酸化物の含有量が少なすぎると、容量温度特性が悪くなる傾向にある。一方、多すぎると、絶縁抵抗(IR)寿命が不十分となる傾向にある。
【0032】
Si酸化物は、セラミック層12において、SiOとして含まれていてもよく、Siを含む複合酸化物の形態で含まれていてもよい。複合酸化物としては、例えば、(Ba,Ca)SiO2+x(ただし、x=0.7〜1.2)が挙げられる。
【0033】
セラミック層12は、添加成分として、Si酸化物に加えて、その他の成分を含んでいてもよいが、少なくともAl酸化物は含まない。ただし、原料に不純物として含まれていた場合や、製造過程において混入した場合等、微量(誘電体成分100モルに対して0.01モル以下程度)のAl酸化物が不可避的に含まれる場合はある。
【0034】
その他の添加成分としては、まず、Mg、Ca、Ba及びSrから選ばれる少なくとも一種の元素の酸化物、具体的には、MgO、CaO、BaO、SrO等が挙げられる。これらは、誘電体成分100モルに対して、0.6〜1.75mol含まれると好ましい。これらの成分を含むことによって、容量温度変化率を平坦化することが可能となる。これらの成分の含有量が少なすぎると、かかる効果が得られ難くなる傾向にあり、多すぎると、焼結性が悪くなって比誘電率が低下するおそれがある。
【0035】
また、その他の添加成分としては、V、Mo及びWから選ばれる少なくとも一種の元素の酸化物、例えば、V、MoO、WO等が挙げられる。これらは、誘電体成分100モルに対して、0.01〜0.2mol含まれると好ましい。これらの成分を含むことによって、キュリー温度以上での容量温度特性を平坦化する効果や、IR寿命を向上させる効果が得られるようになる。この含有量が少なすぎると、かかる効果が不十分となる傾向にある。一方、多すぎると、IRが低下してしまうおそれがある。
【0036】
また、セラミック層12は、添加成分として、希土類元素の酸化物を含有してもよい。希土類元素としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等が挙げられる。希土類元素の酸化物は、誘電体成分100モルに対して、0.1〜1.0mol含まれると好ましい。希土類元素の酸化物を含むことにより、希土類元素の種類に応じて、容量温度特性を平坦化する効果や、IRおよびIR寿命を改善する効果が得られる。
【0037】
さらに、その他の添加成分としては、Mn及びCrのうちの少なくとも一種の元素の酸化物、例えば、MnCOやCrを含むことができる。これらは、誘電体成分100モルに対して、0.01〜0.6mol含まれると好ましい。これらの成分を含むことで、焼結を促進する効果や、IRを高くする効果、或いはIR寿命を向上させる効果が得られる傾向にある。ただし、これらの成分の含有量が多すぎると、容量温度特性が悪化する場合がある。
【0038】
セラミック層12は、このような誘電体成分及び添加成分を含む誘電体磁器組成物から構成されるものであるが、微視的には、主として焼結によって形成された多数の粒子(結晶粒子)からなる構造を有する。この粒子間には、粒子とは組成が異なる粒界領域が形成される場合もある。セラミック層12においては、粒子のBET値が、6〜12g/mであると好ましく、7〜10g/mであるとより好ましい。なお、セラミック層12における粒子のBET値とは、BET法(Brunauer−Emmett−Teller Method)によって求められる値であり、測定対象の試料の粉末の単位重量(1g)当たりの表面積を合計して平方m単位で表したものである。例えば、試料を加熱しつつ真空排気した後に窒素ガスを吸着させ、試料の表面に吸着した窒素ガス分子の吸着量をBET吸着等温式から求めることによって算出することができる。
【0039】
(段差解消層16)
段差解消層16は、誘電体成分と、Si酸化物及びAl酸化物とを含む添加成分とを含有する誘電体磁器組成物によって構成される。これらの層における誘電体成分は、特に制限されないが、セラミック層12との間の焼成ムラを小さくする観点から、セラミック層12におけるものと同じであることが好ましく、BaTiOが好適である。
【0040】
段差解消層16は、添加成分として、少なくともSi酸化物及びAl酸化物を含む。Si酸化物としては、セラミック層12と同様のものが適用できる。Al酸化物としては、Alの酸化物又はAlを含む複合酸化物が挙げられる。Al酸化物としては、具体的には、Al等を例示できる。ただし、段差解消層16は、クラック等の発生を効果的に低減するため、Al及びSiを含む複合酸化物は、不可避的に混入した場合を除いて含まないことが望ましい。段差解消層16にAl及びSiを含む複合酸化物が、不可避的に混入してしまうレベルを超えて含まれると、複合酸化物の粒径が大きいことから、スラリー中に分散した際に偏析して残り易く、焼成ムラが発生するという不都合が生じるおそれがある。
【0041】
Si酸化物の含有量は、誘電体成分100モルに対して、0.6mol以上1.5mol未満であると好ましく、0.7〜1.3molであるとより好ましく、0.8〜1.2molであると更に好ましい。Si酸化物の含有量が多すぎると、偏析が生じ易くなってチップ強度が低下する場合があり、衝撃等によりカケやチッピングが発生し易くなるおそれがある。
【0042】
特に、段差解消層16においては、単位量あたりのSi酸化物の含有量が、セラミック層12における単位量あたりのSi酸化物の含有量よりも大きいことが好ましい。これにより、段差解消層16の焼結性が良好となって、セラミック層12との間の焼成ムラが低減される。このような効果を良好に得る観点からは、段差解消層16における単位量あたりのSi酸化物の含有量の値は、セラミック層12における値の1.2倍以上であると好ましく、1.5倍以上であるとより好ましい。
【0043】
ここで、単位量あたりのSi酸化物の含有量とは、段差解消層16の単位量(この単位量には、段差解消層16の全構成成分の量が含まれる)中のSi酸化物の含有量をいい、例えば、段差解消層100モル中のSi酸化物の量として示すことができる。このような単位量あたりのSi酸化物の含有量は、例えば、蛍光X元素分析を用いてピーク強度を測定し、これに基づいて測定サンプル中の濃度を求めることによって算出することができる。なお、以下に示す他の成分の「単位量あたりの含有量」も、全て同様に定義及び測定される値である。
【0044】
段差解消層16におけるAl酸化物の含有量は、誘電体成分100モルに対して、0.05〜0.18molであると好ましく、0.07〜0.15molであるとより好ましく、0.08〜0.13molであると更に好ましい。Al酸化物の含有量がこのような範囲であると、段差解消層16の焼結性が良好となり、セラミック層12との間の焼成ムラを低減できる。Al酸化物の含有量が多すぎると、偏析が生じ易くなってチップ強度が低下する場合があり、衝撃等によりカケやチッピングが発生し易くなるおそれがある。
【0045】
段差解消層16において、単位量あたりのSi酸化物の含有量は、単位量あたりのAl酸化物の含有量よりも多いことが好ましい。特に、単位量あたりのSi酸化物の含有量の値が、Al酸化物の含有量の値の6倍以上であると好ましく、8倍以上であるとより好ましい。これによって、段差解消層16の焼結性を、セラミック層12の焼結性に一層近づけることが可能となり、さらに焼成ムラを低減することが可能となる。
【0046】
段差解消層16は、上述のように、第1領域161及び第2領域162を有している。この場合、段差解消層16は、第1領域161と第2領域162とが同じ組成を有していてもよいが、添加成分の含有量が異なるものであると好ましい。具体的には、第2領域162における単位量あたりの添加成分の含有量が、第1領域161における単位量あたりの添加成分の含有量よりも多いと好ましく、1.1倍以上であるとより好ましく、1.2倍以上であると更に好ましい。ここで、添加成分の含有量とは、段差解消層16に含まれる全ての添加成分の単位量あたりの合計の含有量を意味することとする。
【0047】
段差解消層16は、焼成の際に、内部電極層14に近いほど焼結し易い傾向にあるが、第1領域161と第2領域162とが上記のような添加成分の含有量の関係を満たすようにすることで、これらの領域の焼結性を近づけることが可能となり、更に焼成ムラを抑制することが可能となる。
【0048】
段差解消層16は、微視的には、セラミック層12と同様、主として焼結によって形成された多数の粒子(結晶粒子)から構成され、粒子間に粒界領域を含む構造を有する。段差解消層16を構成する粒子のBET値は、セラミック層12を構成する粒子のBET値よりも大きいことが好ましい。この場合、段差解消層16を構成する粒子が、セラミック層12を構成する粒子よりも小さいため、段差解消層16の焼結性がセラミック層12に対して相対的に高められる。結果として、段差解消層16とセラミック層12との焼結性の差を小さくして、焼成ムラを低減することが可能となる。
【0049】
段差解消層16は、添加成分として、Si酸化物及びAl酸化物以外に、セラミック層12と同様のその他の成分を含んでいてもよい。段差解消層16が、セラミック層12と同様のその他の添加成分を含むことによって、セラミック層12との焼結性の差が小さくなり、更に焼成ムラを解消することが可能となる場合がある。
【0050】
(外層部20)
外層部20は、誘電体成分と、Si酸化物及びAl酸化物とを含む添加成分とを含有する誘電体磁器組成物によって構成される。誘電体成分、Si酸化物及びAl酸化物としては、段差解消層16と同様のものを適用でき、焼成ムラを小さくする観点からは、段差解消層16と同じ成分を適用することが好ましい。
【0051】
外層部20において、Si酸化物の含有量は、誘電体成分100モルに対して、0.6mol以上1.5mol未満であると好ましく、0.7〜1.3molであるとより好ましく、0.8〜1.2molであると更に好ましい。
【0052】
Al酸化物の含有量は、誘電体成分100モルに対して、0.05〜0.18molであると好ましく、0.07〜0.15molであるとより好ましく、0.08〜0.13molであると更に好ましい。Al酸化物の含有量がこのような範囲であると、外層部20の焼結性が良好となり、偏析の発生を防止することができ、セラミック層12との間の焼成ムラを低減できる。
【0053】
外層部20においては、段差解消層16と同様に、単位量あたりのSi酸化物の含有量が、セラミック層12における単位量あたりのSi酸化物の含有量よりも多いことが好ましく、具体的には、1.3倍以上であると好ましく、1.6倍以上であるとより好ましい。また、外層部20において、単位量あたりのSi酸化物の含有量は、単位量あたりのAl酸化物の含有量よりも多いことが好ましく、具体的には6倍以上であると好ましく、8倍以上であるとより好ましい。これらの条件を満たすようにSi酸化物及びAl酸化物を含むことによって、外層部20とセラミック層12との焼結性の差を小さくすることができ、偏析の発生を防止して焼成ムラを低減することが可能となる。
【0054】
また、外層部20における単位量あたりの添加成分の含有量は、段差解消層16における単位量あたりの添加成分の含有量よりも多いことが好ましく、1.1倍以上であるとより好ましい。添加成分の合計の含有量が、外層部20と段差解消層16との間でこのような関係を満たすことにより、外層部20と段差解消層16との間での焼成ムラの発生も低減することが可能となり、クラック等の発生を一層低減することが可能となる。
【0055】
外層部20も、微視的には、セラミック層12と同様に、主として焼結によって形成された多数の粒子(結晶粒子)から構成され、粒子間に粒界領域を含む構造を有する。ここで、外層部20を構成する粒子のBET値は、セラミック層12を構成する粒子のBET値よりも大きいことが好ましい。また、外層部20を構成する粒子のBET値は、段差解消層16を構成する粒子のBET値よりも大きいと好ましい。これらの条件を満たす場合、外層部20が、セラミック層12や段差解消層16に近い焼結性を有することとなって、焼成ムラを一層低減することが可能となる。
【0056】
外層部20は、添加成分として、Si酸化物及びAl酸化物以外に、セラミック層12と同様のその他の成分を含んでいてもよい。外層部20が、セラミック層12と同様のその他の添加成分を含むことによって、セラミック層12との焼結性の差が小さくなり、焼成ムラを更に低減することが可能となる場合がある。
【0057】
[積層セラミックコンデンサの製造方法]
次に、上述した好適な実施形態の積層セラミックコンデンサの製造方法の好適な実施形態について説明する。
【0058】
積層セラミックコンデンサC1の製造においては、まず、内部電極層14を形成するための導電性ペースト、セラミック層12を形成するためのセラミックペーストCP1、段差解消層16を形成するためのセラミックペーストCP2、及び、外層部20におけるセラミック層21を形成するためのセラミックペーストCP3を準備する。
【0059】
導電性ペーストは、例えば、内部電極層14を構成する金属の粉末に、バインダ樹脂や溶剤等を混合したペースト状の組成物である。
【0060】
セラミックペーストCP1は、例えば、セラミック層12を構成する誘電体成分及び添加成分の原料に、有機ビヒクルなどを混合・混練することによって得られるペーストである。誘電体成分の原料としては、例えば、誘電体成分に含まれる金属原子(BaTiOの場合、BaやTi)の酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等の組み合わせが挙げられる。添加成分の原料としては、添加成分そのものや、焼成によって添加成分となり得る化合物等が挙げられる。例えば、Si酸化物の場合、Si酸化物や、焼成後にSi酸化物となる炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等が挙げられる。
【0061】
有機ビヒクルとしては、バインダを有機溶剤中に溶解したものを用いることができる。バインダとしては、例えば、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、アクリル樹脂等を適用することができる。また、有機溶剤は、例えば、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択して用いることができる。
【0062】
セラミックペーストCP2も、段差解消層16を構成する誘電体成分及び添加成分の原料に、有機ビヒクルなどを混合・混練することによって得られるペーストであり、原料としてはセラミックペーストCP1の場合と同様の化合物等を適用できる。さらに、セラミックペーストCP3も、セラミック層21を構成する誘電体成分及び添加成分の原料に、有機ビヒクルなどを混合・混練することによって得られるペーストである。これらの原料としては、セラミックペーストCP1の場合と同様の化合物等を適用できる。
【0063】
セラミックペーストCP1、CP2及びCP3の調製においては、焼成後のセラミック層12、段差解消層16及び外層部20に、所定の誘電体成分や添加成分が含まれるように、またそれらが所定の含有量となるように、これらの各成分の原料の種類や配合割合を決定する。
【0064】
したがって、セラミックペーストCP1には、添加成分として少なくともSi酸化物の原料を添加するとともに、Al酸化物の原料は添加しないようにする。また、セラミックペーストCP2及びCP3には、少なくともSi酸化物とAl酸化物の原料の両方を添加する。そして、さらに好適には、上述したような各層間での添加成分の含有量の関係が満たされるように、添加成分の配合量を調整する。
【0065】
また、セラミックペーストCP1、CP2及びCP3の調製においては、セラミック層12、段差解消層16及び外層部20に含まれる粒子のBET値が上述したような関係を満たし易いように、添加する誘電体材料の平均粒径等を設定することが好ましい。例えば、セラミックペーストCP2及びセラミックペーストCP3における誘電体材料として、セラミックペーストCP1における誘電体材料よりも平均粒径が小さいものを用いることが好ましい。こうすれば、段差解消層16及び外層部20に含まれる粒子のBET値が、セラミック層12に含まれる粒子のBET値よりも大きくなり易く、これらの層間の焼成ムラを低減することができる。
【0066】
次に、上述したような各種ペーストを用いて、焼成後に内層部10及び外層部20となる積層構造を有する積層体(グリーンチップ)を形成する。このようなグリーンチップは、PET等の支持基材上に、各ペーストを順次印刷することによって形成することができる。例えば、支持基材上に、セラミックペーストCP3を印刷し、この上に、セラミックペーストCP1の印刷と、導電体ペースト及びセラミックペーストCP2の印刷とを交互に繰り返し行った後、更にセラミックペーストCP3を印刷することで、グリーンチップが得られる。
【0067】
この場合、セラミックペーストCP3の印刷は、セラミック層21の層数に応じて複数回行ってもよい。また、導電体ペーストは、セラミックペーストCP1の層上に、内部電極層14に対応した形状となるように印刷する。セラミックペーストCP2は、セラミックペーストCP1上の導電体ペースト以外の領域に印刷すればよい。なお、上述したように、段差解消層16における第1領域と第2領域とで添加成分の含有量を異ならせる場合は、セラミックペーストCP2を2種類準備し、これを領域毎に塗り分けるようにしてもよい。これによって、各ペーストの印刷物からなる各層の前駆体層が積層されたグリーンチップが得られる。
【0068】
また、あらかじめ各ペーストからシートを形成しておき、これを積層することによってグリーンチップを形成することもできる。この方法では、例えば、まず、セラミックペーストCP1を用いてシート(グリーンシート)を形成した後、この上に導電体ペースト及びセラミックペーストCP2を印刷等して、積層シートを得る。そして、この積層シートを複数積層するとともに、その最外層の両側に、セラミックペーストCP3を用いて形成しておいたシートを所定の枚数積層する。これによっても、各層の前駆体層が積層されたグリーンチップを得ることができる。
【0069】
こうして形成されたグリーンチップに対しては、焼成前に脱バインダ処理を施すことが好ましい。脱バインダ処理は、各ペーストから形成された前駆体層に含まれるバインダや有機溶剤の揮発が生じるような条件で行うことが好ましく、加熱や減圧の条件下で行うことができる。
【0070】
そして、脱バインダ後のグリーンチップを焼成することにより、内層部10及び外層部20を含む積層構造を備える焼結体が得られる。この焼成によって、導電体ペースト、セラミックペーストCP1、セラミックペーストCP2及びセラミックペーストCP3を用いて形成された各前駆体層から、それぞれ内部電極層14、セラミック層12、段差解消層16及びセラミック層21が形成される。
【0071】
焼成は、例えば、還元性雰囲気下、好ましくは1100〜1300℃で行うことができる。還元雰囲気としては、例えば、NとHとの混合ガス雰囲気が挙げられる。また、焼成後には、得られた焼結体に対して、酸化性雰囲気下、上記の焼成温度よりも低い温度で加熱するアニール処理を施してもよい。
【0072】
その後、内層部10及び外層部20を有する焼結体に対して、内部電極層14が露出した一対の端面に適宜研磨処理等を施した後、この端面に端子電極40を形成するための端子電極ペーストを塗布、印刷又は転写し、焼成することによって、端子電極40を形成する。端子電極ペーストとしては、例えば、端子電極に適用する金属の粉末等を用いて、導電性ペーストと同様に調製したものを適用することができる。端子電極40の表面上には、更に必要に応じてめっき等を施してもよい。
【0073】
このような製造方法により、図1に示すような、内層部10、外層部20及び端子電極40を備え、内層部10が、セラミック層12と内部電極層14とが交互に積層されるとともに、セラミック層12間の内部電極層14が形成されていない領域に段差解消層16が設けられた構造を有する積層セラミックコンデンサC1が得られる。
【0074】
そして、このようにして得られた積層セラミックコンデンサC1は、セラミック層12が少なくとも添加成分としてSi酸化物を含み、段差解消層16及び外層部20が少なくとも添加成分としてSi酸化物とAl酸化物の両方を含む。そのため、セラミック層12と段差解消層16及び外層部20との焼結性が近く、製造過程で行う焼成の際に、焼成ムラを少なくすることが可能である。その結果、積層セラミックコンデンサC1は、クラック等の発生が大幅に低減されたものとなり得る。
【0075】
以上、本発明の積層型電子部品及びその製造方法の好適な実施形態について、積層セラミックコンデンサを例に挙げて説明したが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【0076】
例えば、積層型電子部品としては、必ずしも積層セラミックコンデンサに限定されず、同様の構造を有するものであれば、少なくとも焼成ムラを低減するという効果を達成することができる。積層セラミックコンデンサ以外の積層型電子部品としては、例えば、積層インダクタ、積層バリスタ、積層NTCサーミスタ、積層PTCサーミスタ等が例示される。
【0077】
また、上述した実施形態の積層セラミックコンデンサC1は、段差解消層16と外層部20の両方が、添加成分としてSi酸化物とAl酸化物の両方を組み合わせて含むものであった。しかし、本発明はこれに限定されず、段差解消層及び外層部のうちで、セラミック層との焼結性の差が大きくなり易いものがSi酸化物及びAl酸化物を組み合わせた添加成分を含んでいればよい。したがって、Si酸化物及びAl酸化物を組み合わせた添加成分は、段差解消層16と外層部20のいずれか一方のみが含んでいても、両方が含んでいてもよい。
【0078】
さらに、上述した実施形態では、内部電極層14が、端子電極40が形成される端面に露出する部分を除いて、内層部20の内部に形成されたものであったが、これに限定されず、内部電極は、内層部において、端子電極が形成されない端面に露出していてもよい。この場合、段差解消層は、第2領域を有していないため、均一な組成を有していると好ましい。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0080】
[積層セラミックコンデンサの製造]
(サンプル1)
まず、セラミック層を形成するための誘電体成分の原料として、平均粒径0.2μmのBaTiOの粉末を準備し、また添加成分の原料として、SiO、MgO、V、Y、MnCO、及びBaCOの粉末をそれぞれ準備した。これらを、焼成後の組成が、BaTiO100モルに対して、SiO0.6モル、MgO1.25モル、V0.05モル、Y0.6モル、MnCO0.15及びBaCO0.2モルとなるように混合した。
【0081】
これらの原料の混合物100重量部と、バインダ樹脂7.5重量部と、有機溶剤60重量部と、可塑剤や分散剤とをビーズミルで混合、分散し、ペースト化して、セラミック層を形成するためのセラミックペーストCP1を調製した。
【0082】
また、段差解消層及び外層部を形成するための誘電体成分の原料として、平均粒径0.2μmのBaTiOの粉末を準備するとともに、添加成分の原料として、SiO及びAlの粉末を準備した。これらを、焼成後の組成が、BaTiO100モルに対して、SiO0.6モル及びAl0.050モルとなるように混合したこと以外は、セラミックペーストCP1と同様にして、段差解消層形成用のセラミックペーストCP2及び外層部形成用のセラミックペーストCP3をそれぞれ得た。
【0083】
また、平均粒径0.1〜0.3μmのNi粒子100重量部と、有機ビヒクル(エチルセルロース8重量部をテルピネオール、テルピネルアセテート、ブチルカルビトールなどの各種有機溶剤92重量部に溶解したもの)40重量部と、テルピネオール、テルピネルアセテート、ブチルカルビトールなどの各種有機溶剤10重量部とを攪拌機により混練し、ペースト化して内部電極層を形成するための導電性ペーストを得た。
【0084】
次いで、PETフィルム上に、セラミックペーストCP1を塗布してグリーンシートを形成した。このグリーンシート上に、導電性ペーストを所望とする内部電極層の形状が得られるように印刷した後、それ以外の領域にセラミックペーストCP2を印刷して、積層シートを得た。
【0085】
得られた積層シートを用い、内部電極層が対向する端面に交互に露出するように積層して、内層部及び外層部に対応する積層構造を有する積層体を得た。
【0086】
得られた積層体に対し、まず、空気中、25℃/時間で昇温した後、800℃で24時間保持する熱処理を行うことにより、バインダを除去する脱バインダ処理を行った。
【0087】
次いで、脱バインダ後の積層体に対し、加湿したN及びHの混合ガスを含み、酸素分圧が10−12気圧である雰囲気下、2000℃/時間で昇温し、1100〜1300℃で0.5〜1.0時間保持した後、200℃/時間で冷却する熱処理を行うことにより、積層体を焼成して焼結体を得た。
【0088】
その後、焼結体に対し、加湿したNガスを含み、酸素分圧が10−6気圧である雰囲気下、300℃/時間で昇温し、1000℃で1時間保持した後、200℃/時間で冷却するアニール処理を行った。
【0089】
アニール後の焼結体における内部電極層が露出している両端面をサンドブラストで研磨した後、これらの端面にIn−Gaを塗布して端子電極を形成した。これにより、図1、2に示す構造を有する積層セラミックコンデンサを得た。
【0090】
得られた積層セラミックコンデンサにおいては、セラミック層における単位量あたりのSi酸化物の含有量(モル)、並びに、段差解消層及び外層部における単位量あたりのSi酸化物及びAl酸化物の含有量(モル)は、表1に示すとおりであった。これらの成分の単位量あたりの含有量は、対応する原料の配合量に基づいて算出した。
【0091】
(サンプル2〜17)
段差解消層及び外層部における単位量あたりのSi酸化物の含有量及びAl酸化物の含有量が表1に示す通りとなるように、セラミックペーストCP2及びCP3の配合を変えたこと以外は、サンプル1と同様にして、サンプル2〜17の積層セラミックコンデンサを製造した。
【0092】
なお、単位量あたりのSi酸化物の含有量又はAl酸化物の含有量が0である場合、対応する添加成分を添加しなかったことを意味する。また、サンプル17は、段差解消層及び外層部に、添加成分としてSi酸化物及びAl酸化物に代えて、B酸化物を、括弧内に示す単位量あたりの含有量となるように添加したものである。
【0093】
[剥がれ又はクラックの発生割合の測定]
サンプル1〜17の積層セラミックコンデンサを、それぞれ10000個ずつ作製し、それらについて層間での剥がれやクラックが生じているか否かを確認した。そして、各サンプルに対応する10000個の積層セラミックコンデンサのうち、剥がれ及びクラックの少なくとも一方が生じていたものの発生割合(ppm)を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0094】
【表1】

【0095】
表1に示すように、段差解消層及び外層部が、添加成分としてSi酸化物及びAl酸化物の両方を含むサンプル1〜15は、段差解消層及び外層部が、Si酸化物及びAl酸化物の少なくとも一方を含まないサンプル16と比べて、剥がれ及びクラックの発生割合が少ないことが判明した。また、サンプル1〜15は、段差解消層及び外層部が、Si酸化物やAl酸化物に代えて、その他の添加成分を含むサンプル17と比べても、剥がれ及びクラックの発生割合が小さいことが判明した。なお、上記のサンプル1〜17のそれぞれについて、セラミック層、段差解消層及び外層部の断面をEPMA(Electron Probe Micro Analysis)分析により観察するとともに元素マッピングを行って、これらの部位にSi酸化物又はAl酸化物の偏析が生じているか否かを確認した。その結果、サンプル9及び15に偏析が発生していることが確認された。
【0096】
[積層セラミックコンデンサの製造]
(サンプル18〜19)
段差解消層及び外層部における単位量あたりのSi酸化物の含有量及びAl酸化物の含有量が表2に示す通りとなるように、セラミックペーストCP2及びCP3の配合を変えたこと以外は、サンプル1と同様にして、サンプル18〜19の積層セラミックコンデンサを製造した。
【0097】
[剥がれ及びクラックの発生割合の測定]
サンプル18〜19の積層セラミックコンデンサについて、上記と同様にして剥がれ及びクラックの発生割合を求めた。得られた結果を表2に示す。
【表2】

【0098】
表2に示すように、まず、段差解消層や外層部における単位量あたりのSi酸化物の含有量が、セラミック層における単位量あたりのSi酸化物の含有量より多いと、剥がれ及びクラックの発生を効果的に低減できることが確認された。また、表2より、段差解消層及び外層部における単位量あたりのSi酸化物の含有量が、単位量あたりのAl酸化物の含有量よりも多いと、剥がれ及びクラックの発生を効果的に低減できることも確認された。
【符号の説明】
【0099】
C1…積層セラミックコンデンサ、10…内層部、12…セラミック層、14…内部電極層、16…段差解消層、20…外層部、21…セラミック層、40…端子電極、161…第1領域、162…第2領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック層と内部電極層及び段差解消層とが交互に積層された内層部と、該内層部をその積層方向の両側から挟むように設けられた外層部と、を備えており、
前記セラミック層は、誘電体成分とSi酸化物を含む添加成分とを含有し、
前記段差解消層又は前記外層部は、誘電体成分とSi酸化物及びAl酸化物を含む添加成分とを含有する、
積層型電子部品。
【請求項2】
前記段差解消層又は前記外層部における単位量あたりのSi酸化物の含有量は、前記セラミック層における単位量あたりのSi酸化物の含有量よりも多い、請求項1記載の積層型電子部品。
【請求項3】
前記段差解消層又は前記外層部における単位量あたりのSi酸化物の含有量は、前記段差解消層又は前記外層部における単位量あたりのAl酸化物の含有量よりも多い、請求項1又は2記載の積層型電子部品。
【請求項4】
前記外層部における単位量あたりの前記添加成分の含有量は、前記段差解消層における単位量あたりの前記添加成分の含有量よりも多い、請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層型電子部品。
【請求項5】
前記セラミック層は、その平面形状が長方形であり、
前記段差解消層における、前記内部電極層よりも前記セラミック層の短辺側の領域を第1領域とし、前記内部電極層よりも前記セラミック層の長辺側の領域を第2領域としたとき、
前記段差解消層の前記第2領域における単位量あたりの添加成分の含有量が、前記段差解消層の前記第1領域における単位量あたりの添加成分の含有量よりも多い、請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層型電子部品。
【請求項6】
前記段差解消層又は前記外層部に含まれる粒子のBET値が、前記セラミック層に含まれる粒子のBET値よりも大きい、請求項1〜5のいずれか一項に記載の積層型電子部品。
【請求項7】
セラミック層と内部電極層及び段差解消層とが交互に積層された内層部と、該内層部をその積層方向の両側から挟むように設けられた外層部と、を備える積層型電子部品の製造方法であって、
前記セラミック層の前駆体層と前記内部電極層の前駆体層及び前記段差解消層の前駆体層とが交互に積層されるとともに、その積層方向の両側から挟むように前記外層部の前駆体層を積層した積層体を形成する工程と、
前記積層体を焼成する工程と、を有しており、
前記セラミック層の前駆体層は、誘電体成分の原料成分と、Si酸化物の原料成分とを含有しており、
前記段差解消層の前駆体層又は前記外層部の前駆体層は、誘電体成分の原料成分と、Si酸化物の原料成分及びAl酸化物の原料成分とを含有している、積層型電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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