説明

積層構造体およびその製造方法

【課題】 簡単に拡散接合ができる積層構造体を提供する。
【解決手段】 積層構造体は、板10と板20とを重ね合わせ、板10の凸部13aを板20の凹部22aに嵌合圧入して板10と板20との当接状態を維持し、嵌合圧入によって当接状態が維持された板10および板20を加熱することによって、板10と板20との対向当接面16を拡散接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、積層構造体およびその製造方法に関し、特に、簡単に拡散接合できる積層構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の積層体の拡散接合方法がたとえば、特開2000−334575号公報(特許文献1)に開示されている。特許文献1によれば、複数個のディスクを積み重ねた積層体を底板と天板との間に配置し、積層体の熱容量に対して個々の熱容量が略等しくなるように外径を設定した複数本の対ロッドにより、底板と天板とを連結して積層体に圧縮荷重を付与し、積層体を真空中で昇温させる拡散接合方法を開示している。
【特許文献1】特開2000−334575号公報(段落番号0008等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の積層体の拡散接合方法は上記のように行なわれていたため、拡散接合時に、積層体の上下方向から圧縮力等の圧力をかける必要があり、そのための装置が大型となり、構成が複雑になるという問題があった。
【0004】
この発明は上記のような問題点を解消するためになされたもので、簡単に拡散接合ができる積層構造体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明にかかる第1の板と第2の板とを重ね合わせて結合した積層構造体は、第1および第2の板の当接状態を維持するように第1の板の一部を第2の板内に嵌合圧入した嵌合圧入部と、第1および第2の板の対向当接面を拡散接合した拡散接合部とを備える。
【0006】
第1の板と第2の板との当接を維持した状態で、対向当接面を拡散接合できるため、従来のように、拡散接合時に加圧を要しない。その結果、簡単に拡散接合可能な積層構造体を提供できる。
【0007】
好ましくは、嵌合圧入部は、第1の板に形成された凸部と、凸部を受入れるように第2の板に形成された凹部とを含む。
【0008】
さらに好ましくは、凸部は、第1の板の周縁部に間隔をあけて複数設けられ、凹部は、第2の板の周縁部に間隔をあけて複数設けられている。
【0009】
凸部および凹部は、プレス加工によって形成されていてもよい。
【0010】
第1および第2の板が対向する領域には、拡散接合領域によって挟まれた流体通路が形成されていてもよい。
【0011】
また、第1および第2の板には、それぞれ、流体通路形成用の溝がプレス加工によって形成されていてもよい。
【0012】
この発明の他の局面においては、積層構造体の製造方法は、第1の板と第2の板とを重ね合わせ、第1の板の一部を第2の板内に嵌合圧入して第1の板と第2の板との当接状態を維持し、嵌合圧入によって当接状態が維持された第1の板および第2の板を加熱することによって、第1の板と第2の板との対向当接面を拡散接合する。
【0013】
第1の板と第2の板との当接状態を嵌合圧入によって維持し、その状態で第1の板および第2の板を加熱することによって、相互の対向当接面を拡散接合するため、従来のように、拡散接合時に加圧を要しない。その結果、簡単に拡散接合可能な積層構造体の製造方法を提供できる。
【0014】
好ましくは、嵌合圧入に先立ち、第1の板にプレス加工によって嵌合圧入用の凸部を形成するとともに、第2の板にプレス加工によって嵌合圧入用の凹部を形成し、凸部を凹部内に嵌合圧入することによって第1の板と第2の板との当接状態を維持する。
【0015】
さらに好ましくは、嵌合圧入に先立ち、第1の板にプレス加工によって流体通路形成用の第1の溝を形成するとともに、第2の板にプレス加工によって流体通路形成用の第2の溝を形成し、拡散接合によって形成される拡散接合領域によって、第1の溝および第2を挟む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。ここでは、この発明にかかる積層構造体およびその製造方法を熱交換器に適用した場合について説明する。図1は、熱交換器を構成する複数の板のうちの1枚を示す平面図である。図1を参照して、熱交換器を構成する板50は、その周囲に内部と外部とを分ける周縁部51を有し、その内部に流体通路となる溝52が形成されている。周縁部51には、後に説明する、嵌合圧入するための加締め点53が間隔を開けて複数設けられている。図1に示した板50と同様の板を複数重ねて熱交換器が製造される。
【0017】
次に、熱交換器の製造方法について説明する。ここでは、理解の容易のために、熱交換器を構成する複数の板のうち、相互に拡散接合される2枚の板について説明する。図2は、図1に示した板50となる、2枚の板10および20を相互に拡散接合して積層構造体を形成する工程を段階ごとに示す図であり、図1において、II−IIで示す部分に対応する。
【0018】
図2を参照して、板10を準備し、板10の所定の位置に流体通路となる溝11a〜11cをプレスで形成する(図2(A)および(B))。次いで、板10を反転し、その両周縁部にプレスで半抜き加工して凹部12a、12bと凸部13a、13bとを形成する(図2(C))。同様に、板20についても所定の位置に流体通路となる溝21a〜21cをプレスで形成し(図2(D)および(E))、その両周縁部にプレスで半抜き加工して凹部22a、22bと凸部23a,23bとを形成する(図2(F))。このように加工された板10、20が、上記したように、図1に示した板50に対応する。また、両板10,20の凹部12、22および凸部13、23が図1に示した加締め点53に対応し、凹部22は、凸部13を嵌合可能に受入れる。
【0019】
次に、このように加工された板10の凸部13a、13bを、板20の凹部22a、22bに嵌合圧入する(図2(G))。このように嵌合圧入することによって、両板10、20は、溝11、21以外の平面部分で当接し、その当接状態が維持される。また、溝11a〜11cと溝21a〜21cとが相互に重なり、所定の高さを有する流体の流体通路15a〜15cが形成される。
【0020】
次に、この状態で、積層構造体を所定の温度まで加熱して、両板10,20の対向した当接面16を拡散接合させる。拡散接合された部分を図2(H)において斜線で示す。図2(H)に示すように、流体通路15a〜15cを除いた、対向当接面において拡散接合された部分が形成され、流体通路15a〜15cは、拡散接合された領域で挟まれる。
【0021】
このように、板10の凸部13を板20の凹部22に嵌合圧入することによって、両板10,20の当接状態を維持した状態で、対向した当接面16を拡散接合する。
【0022】
その結果、従来であれば、拡散接合は、加圧と加温とを同時に行なわなければならないため、設備が大型で複雑になるという問題があったが、この方法であれば、加圧設備が不要になり、加熱設備だけでよいため、簡単な構成で拡散接合が可能になる。
【0023】
次に、3枚以上の複数の板を用いて熱交換器を製造する場合の加締め点近傍の状態について説明する。図3は、図2で示した板10,20に加えて同様の板30,40・・・を複数準備し、それらを重ねて、加締め点53(図1参照)でプレスによって嵌合圧入し、積層された複数の板の周縁部51を一体化する手順を示す図であり、図1においてIII-IIIで示す部分に対応する。図3(A)は、厚さの異なる複数の板を準備した状態を示し図2(A)、図2(D)に対応する。図3(B)は、それぞれの板をプレスによって半抜きした状態を示し、図2(C)、図2(F)の凸部13,23、凹部12,22に対応する。図3(C)は、凸部13,23を凹部12,22に嵌合圧入して加締めた後の状態を示す図である。
【0024】
図3(A)に示すように、まず、複数の板10、20、30・・・を準備する。ここで熱交換器用の板厚としては、約0.3mm〜1.0mm程度が好ましい。
【0025】
次に、図3(B)に示すように、加締め点53において図中矢印で示すようにプレスで圧入し、半抜き加工を行なう。ここで、半抜き加工する場合の上の板から下の板への突出寸法は、それぞれの板厚の半分程度が好ましい。
【0026】
その結果、各板10,20,・・・には下方向に凸部13,23,・・・とその反対側に凹部12,22,・・・が形成される。なお、最下部の板90の凸部91は除去する。こうすることによって、積層構造体に凸部がなくなる。
【0027】
図3(C)に示すように、複数の板10,20,30・・・を嵌合圧入した状態でこの積層構造体を所定の温度まで加熱して、拡散接合を行なう。その結果、図2(H)で示したのと同様の拡散接合領域が各板10,20・・・の対向当接面に形成される。
【0028】
次に、この発明の他の実施の形態について説明する。図4は、この発明の他の実施の形態における、2枚の板60、70からなる積層構造体の嵌合圧入状態を示す図であり、先の実施の形態の図2(G)に対応する。図4を参照して、この実施の形態においては、各板60、70の両端部にプレスによって形成された段部61a,61b,71a,71bが設けられている。板60の下方向に突出した段部61a,61bは、板70の凹んだ段部71a,71bに嵌合圧入するようになっている。このようにして、板60と板70との当接状態を維持した状態で対向した当接面66を拡散接合する。
【0029】
この実施の形態においても、板60の段部61を板70の段部に嵌合圧入することによって、両板60,70の当接状態を維持した状態で、対向した当接面66を拡散接合する。
【0030】
なお、上記実施の形態においては、積層構造体を熱交換器に用いた場合について説明したが、これに限らず、任意の積層構造体に適用できる。
【0031】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示された実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
この発明に係る積層構造体の製造方法は、拡散接合時に加圧を必要としないため、拡散接合するのに有利に利用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】積層構造体の一例としての熱交換器を構成する1枚の板を示す平面図である。
【図2】熱交換器を製造する工程を段階ごとに示す図である。
【図3】所定の加締め点でプレスすることにより、相互に隣接する板を嵌合圧入して、一体化された積層構造体を構成する手順を示す模式図である。
【図4】この発明の他の実施の形態における嵌合圧入状態を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
10,20,30,40,50 板、11,21,52 溝、12,22,32 凹部、13,23,33 凸部、15 流体通路、16,66 対向当接面、51 周縁部、53 加締め点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の板と第2の板とを重ね合わせて結合した積層構造体であって、
前記第1および第2の板の当接状態を維持するように第1の板の一部を第2の板内に嵌合圧入した嵌合圧入部と、
前記第1および第2の板の対向当接面を拡散接合した拡散接合部とを備える、積層構造体。
【請求項2】
前記嵌合圧入部は、前記第1の板に形成された凸部と、前記凸部を受入れるように前記第2の板に形成された凹部とを含む、請求項1に記載の積層構造体。
【請求項3】
前記凸部は、前記第1の板の周縁部に間隔をあけて複数設けられ、
前記凹部は、前記第2の板の周縁部に間隔をあけて複数設けられている、請求項2に記載の積層構造体。
【請求項4】
前記凸部および前記凹部は、プレス加工によって形成されている、請求項2または3に記載の積層構造体。
【請求項5】
前記第1および第2の板が対向する領域には、前記拡散接合領域によって挟まれた流体通路が形成されている、請求項1〜3のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項6】
前記第1および第2の板には、それぞれ、前記流体通路形成用の溝がプレス加工によって形成されている、請求項5に記載の積層構造体。
【請求項7】
第1の板と第2の板とを重ね合わせ、第1の板の一部を第2の板内に嵌合圧入して第1の板と第2の板との当接状態を維持し、
嵌合圧入によって当接状態が維持された第1の板および第2の板を加熱することによって、第1の板と第2の板との対向当接面を拡散接合する、積層構造体の製造方法。
【請求項8】
前記嵌合圧入に先立ち、前記第1の板にプレス加工によって嵌合圧入用の凸部を形成するとともに、前記第2の板にプレス加工によって嵌合圧入用の凹部を形成し、
前記凸部を前記凹部内に嵌合圧入することによって前記第1の板と前記第2の板との当接状態を維持する、請求項7に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項9】
前記嵌合圧入に先立ち、前記第1の板にプレス加工によって流体通路形成用の第1の溝を形成するとともに、前記第2の板にプレス加工によって流体通路形成用の第2の溝を形成し、
前記拡散接合によって形成される拡散接合領域によって、前記第1の溝および前記第2を挟む、請求項8に記載の積層構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−239740(P2006−239740A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−59067(P2005−59067)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(591222061)株式会社エナミ精機 (13)
【Fターム(参考)】