積層構造体の強度評価方法
【課題】曲率を有する積層構造体において、簡単に且つ精度よく層間強度を評価することができる積層構造体の強度評価方法を提供する。
【解決手段】曲率を有する積層構造体の層間強度を測定する積層構造体の強度評価方法であって、前記積層構造体から前記曲率を含む供試体12を切り出し、前記曲率が存在する部位を間に挟んだ2つの支持点12a、12bにて前記供試体を支持し、該供試体12の前記2つの支持点12a、12b間に、前記曲率が小さくなる方向に作用する荷重(矢印A、B)を加えて前記供試体12の層間応力を測定する。
【解決手段】曲率を有する積層構造体の層間強度を測定する積層構造体の強度評価方法であって、前記積層構造体から前記曲率を含む供試体12を切り出し、前記曲率が存在する部位を間に挟んだ2つの支持点12a、12bにて前記供試体を支持し、該供試体12の前記2つの支持点12a、12b間に、前記曲率が小さくなる方向に作用する荷重(矢印A、B)を加えて前記供試体12の層間応力を測定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒形状や球殻形状等の曲率を有する積層構造体の強度評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、積層構造体は、複数の薄板部材が積層されてこれらの間が接着部材で接着された構成を有するが、薄板部材間に異物や空気が混入したり、薄板部材間に接着部材溜りや接着部材抜けが存在すると、層間の密着度が低下して構造体の強度を低下させてしまう。そこで、積層構造体の強度評価に際して、構造体全体の引張応力や曲げ応力等の強度測定に加えて、層間引張応力や層間せん断応力等の層間応力の測定が行われている。
【0003】
例えば特許文献1(米国特許第6,314,819号公報)には、樹脂材料の接着強度測定方法が開示されている。この方法は、層間に異なる2つの荷重を作用させることにより層間せん断応力を測定する構成としている。
また、特許文献2(特許第2733134号公報)には積層体のせん断接着強度の測定方法が開示されている。この方法は、積層体を回転ロールに巻き付けて曲げ変形を与えてせん断応力を発生させ、せん断接着強度を測定する構成としている。
【0004】
一方、従来から積層構造体として曲率を有する構造体が広く用いられている。例えば、円筒形状や球殻形状の積層構造体は、フィラメントワインディング(FW)成形法により形成される。FW成形法は、樹脂を含浸させた複合材テープを、回転するマンドレルに対して張力を掛けながら巻き付け、樹脂硬化後に脱型する成形法である。
【0005】
しかし、FW成形法では、複合材テープの張力と型材の回転速度によっては、テープのうねりや上下テープ間の隙間等が生じる可能性がある。隙間については、上記したように層間の樹脂溜り、樹脂抜け、あるいはボイド等の発生原因となる。これらは製造欠陥であり、製品強度低下の要因となる。また、隙間に関しては、製造欠陥とまではならなくても、層間の密着度を低下させる要因となり、特に層間強度に影響を与えることが考えられる。
そこで、FW成形品においても層間強度を評価することが行われていた。この強度評価に際しては、平板状の供試体を作製し、この供試体の層間応力を測定することによりFW成形品の層間応力を推定していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,314,819号公報
【特許文献2】特許第2733134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、平板状の積層構造体と、FW成形品のような曲率を有する積層構造体とでは、層間方向の密着性が異なることによる強度の差が生じるものと考えられる。特に、曲率を有する積層構造体は、平板状の積層構造体に比べて荷重が加わったときの層間強度への影響が大きいが、層間破壊が発生すると面内剛性が低下するため、面内強度に対する影響も考慮しなければならない。
また、曲率を有する積層構造体においては、平板状の供試体を作製して、例えば特許文献1や特許文献2等の方法を用いて層間強度を測定し、この測定結果に対して許容値を設定して実構造部材の強度評価結果としているが、許容値の設定が困難であり、評価精度に不安が残る。
【0008】
したがって、本発明はかかる従来技術の問題に鑑み、曲率を有する積層構造体において、簡単に且つ精度よく層間強度を評価することができる積層構造体の強度評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明に係る積層構造体の強度評価方法は、曲率を有する積層構造体の層間強度を測定する積層構造体の強度評価方法であって、前記積層構造体から前記曲率を含む供試体を切り出し、前記曲率が存在する部位を間に挟んだ2つの支持点にて前記供試体を支持し、該供試体の前記2つの支持点間に、前記曲率が小さくなる方向に作用する荷重を加えて前記供試体の層間応力を測定することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、強度評価対象である積層構造体から曲率を含む供試体を切り出して層間応力を直接測定する構成としているため、新たに平板状の供試体を作製して測定する場合に比べて、簡単に且つ精度の高い強度評価を行うことが可能である。
また、供試体の前記2つの支持点間に、曲率が小さくなる方向に作用する荷重を加える構成としているため、層間応力以外の他の応力に影響されにくく最も効果的に層間応力を発生させることができ、確実に層間強度を評価することが可能となる。
【0011】
また、前記積層構造体が一定の曲率を有しており、前記供試体の前記2つの支持点がそれぞれ回動自在な支持部材で支持され、該支持部材により前記2つの支持点間に、両支持点を通る直線上に作用する引張荷重を加えて、前記供試体の層間引張応力又は層間せん断応力を測定することが好ましい。
【0012】
本構成においては、供試体の2つの支持点間に曲率が存在するため、2つの支持点間に引張荷重を加えることにより層間応力を発生させることができる。したがって、2つの支持点間に引張荷重をかけるのみで簡単に層間引張応力又は層間せん断を測定することが可能となる。さらにこのとき、引張荷重をかけると、曲がっている供試体が延びて支持点が回転するが、本構成では2つの支持点がそれぞれ回動自在な支持部材で支持されているため、支持点が回転しても両支持点を通る直線上に引張荷重を加えることができる。
なお、本構成において、一定の曲率を有する積層構造体は、例えば円筒形状や球殻形状等の構造体である。
【0013】
さらに、前記供試体の曲率中心に対する前記2つの支持点間の角度範囲が90°以上180°以下であることが好ましい。
このように両支持点間の角度範囲を設定することにより、2つの支持点間に効果的に層間応力を発生させることができる。ここで、2つの支持点間の角度範囲が90°未満の場合、層間応力よりも供試体自体の引張応力が支配的となり、層間応力に関する有効な測定結果が得られにくい。一方、2つの支持点間の角度範囲が180°超過の場合、層間応力以外に曲げ応力等の他の応力が複雑に発生してしまい、やはり層間応力に関する有効な測定結果が得られにくい。
【0014】
また、前記積層構造体が一定の曲率を有しており、水平方向に離間して配置される2つの支持部材上に前記供試体が上に凸の状態で載置され、前記2つの支持部材で支持される前記2つの支持点の間に、2つの作用点から垂直下方に曲げ荷重を加えて、前記供試体の層間引張応力を測定することが好ましい。
本構成は、4点曲げ法を援用したものであり、上に凸の状態で供試体を2つの支持部材上に載置し、供試体の支持点間に2つの作用点により垂直下方の荷重を加えている。このように、支持部材上の2つの支持点間に曲げ荷重を加えることにより層間応力を発生させることができ、簡単に層間引張応力を測定することが可能となる。
なお、一定の曲率を有する積層構造体は、例えば円筒形状や球殻形状等の構造体である。
【0015】
また、前記積層構造体は、マトリックス樹脂中に強化繊維が分散された複合材を用いてフィラメントワインディング成形により形成された円筒形状若しくは球殻形状の構造体であることが好ましい。
これにより、平板状の供試体を作製して強度評価していた従来の方法に比べて、簡単に且つ精度の高い強度評価を行うことが可能である。
【0016】
さらにまた、前記供試体は、人工欠陥が層間に挿入されている前記積層構造体から該人工欠陥を含む部位を切り出して作製されることが好ましい。
このように、積層構造体の積層時に層間に人工欠陥を挿入しておき、この人工欠陥を含む供試体に対して強度評価を行うことによって、積層構造体製造時に発生する可能性の高い欠陥混入による強度低下に対しても積層構造体の健全性を評価することが可能となるとともに、構造体における許容欠陥の評価・確認を行うことも可能となる。
なお、人工欠陥としては、例えばテフロンフィルム(テフロン:登録商標)が用いられる。
【発明の効果】
【0017】
以上記載のように本発明によれば、強度評価対象である積層構造体から曲率を含む供試体を切り出して層間応力を直接測定する構成としているため、新たに平板状の供試体を作製して測定する場合に比べて、簡単に且つ精度の高い強度評価を行うことが可能である。
また、供試体の前記2つの支持点間に、曲率が小さくなる方向に作用する荷重を加える構成としているため、層間応力以外の他の応力に影響されにくく最も効果的に層間応力を発生させることができ、確実に層間強度を評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態における測定対象の一例を示す図であり、(A)は円筒形状の積層構造体を示す斜視図で、(B)は供試体を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態における測定対象の他の一例を示す図であり、(A)は球殻形状の積層構造体を示す斜視図で、(B)は供試体を示す斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る強度評価方法を説明する図である。
【図4】本発明の第1実施形態における層間応力を説明する図であり、(A)は層間引張応力を示す図で、(B)は層間せん断応力を示す図である。
【図5】強度評価試験結果を示すグラフであり、(A)は板厚方向における層間引張応力を示すグラフで、(B)は周方向における層間引張応力を示すグラフである。
【図6】強度評価試験結果を示すグラフであり、(A)は板厚方向に対する層間せん断応力を示すグラフで、(B)は周方向に対する層間せん断応力を示すグラフである。
【図7】強度評価試験における供試体の各寸法を説明する図である。
【図8】本発明の第1実施形態に係る強度評価方法の変形例を示す図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る強度評価方法を説明する図である。
【図10】本発明の第2実施形態における層間引張応力を説明する図である。
【図11】強度評価試験結果を示すグラフであり、(A)は板厚方向における層間引張応力を示すグラフで、(B)は周方向における層間引張応力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。但しこの実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
本発明の実施形態における測定対象は、曲率を有する積層構造体である。積層構造体としては、例えば、FRP(繊維強化プラスチック)等が用いられる。測定対象は、曲率が一定であってもよいし、一定でなくてもよい。
【0020】
本発明の実施形態に係る積層構造体の強度評価方法においては、まず最初に、積層構造体から曲率を含む供試体を切り出す。
図1は本発明の実施形態における測定対象の一例を示す図であり、(A)は円筒形状の積層構造体10を示す斜視図で、(B)は供試体11、12を示す斜視図である。図1(A)に示すような円筒状の積層構造体10からその一部を環状に切り出し、図1(B)に示すように環状の供試体11としてもよいし、環状の積層構造体をさらに円弧状に切り出し、円弧状の供試体12としてもよい。
また、図2は本発明の実施形態における測定対象の他の一例を示す図であり、(A)は球殻形状の積層構造体20を示す斜視図で、(B)は供試体21を示す斜視図である。図2(A)に示すような球殻状の積層構造体20から一部を切り出し、図2(B)に示すように円弧状の供試体21としてもよい。
【0021】
次いで、曲率が存在する部位を間に挟んだ2つの支持点にて、支持部材により供試体を支持する。そして、供試体の2つの支持点間に、曲率が小さくなる方向に作用する荷重を加えて供試体の層間応力を測定する。ここで、層間応力とは、層間引張応力又は層間せん断応力を含む。
具体的には、供試体の2つの支持点間に曲率が小さくなる方向に作用する荷重を加えて、層間応力により層間剥離が生じたときの荷重を測定する。そして、この荷重を用いて、予め求めておいた荷重と応力との関係に基づいて、層間応力を求める。荷重と応力との関係は、例えば特許文献1等に開示される理論式によって求めてもよいし、シミュレーションによって求めてもよい。
【0022】
本実施形態によれば、強度評価対象である積層構造体から曲率を含む供試体を切り出して層間応力を直接測定する構成としているため、新たに平板状の供試体を作製して測定する場合に比べて、簡単に且つ精度の高い強度評価を行うことが可能である。
また、供試体の前記2つの支持点間に、曲率が小さくなる方向に作用する荷重を加える構成としているため、層間応力以外の他の応力に影響されにくく最も効果的に層間応力を発生させることができ、確実に層間強度を評価することが可能となる。
【0023】
また、本実施形態において、供試体は、人工欠陥が層間に挿入されている積層構造体から該人工欠陥を含む部位を切り出して作製されるようにしてもよい。
このように、積層構造体の積層時に層間に人工欠陥を挿入しておき、この人工欠陥を含む供試体に対して強度評価を行うことによって、積層構造体製造時に発生する可能性の高い欠陥混入による強度低下に対しても積層構造体の健全性を評価することが可能となるとともに、構造体における許容欠陥の評価・確認を行うことも可能となる。なお、人工欠陥としては、例えばテフロンフィルム(テフロン:登録商標)が用いられる。
以下に、本実施形態の具体的な態様について説明する。
【0024】
(第1実施形態)
図3は本発明の第1実施形態に係る強度評価方法を説明する図である。
本第1実施形態の測定対象は、一定の曲率を有する積層構造体であり、図1又は図2に示す供試体が好適に用いられる。ここでは一例として、図1(B)に示す円弧状の供試体12を用いて説明する。この供試体12は、曲率中心に対する2つの支持点間の角度が180°となっている。
【0025】
第1実施形態に係る強度評価方法においては、積層構造体10から切り出した供試体12の両端部に支持点12a、12bを設定し、この支持点12a、12bを支持部材5、5でそれぞれ支持する。支持部材4、5は、それぞれ回動自在に構成されている。このとき、支持部材4、5は、供試体12の支持点12a、12b、及びこれら支持点間の中央部12cの3点を通る面に垂直な回動軸4a、5aを中心として回動することが好ましい。支持部材4、5による支持方法は特に限定されないが、支持点12a、12bを接着させて支持してもよいし、支持点12a、12bを把持してもよい。
【0026】
供試体12を支持部材4、5で支持した状態で、支持部材4、5により2つの支持点12a、12b間に、両支持点を通る直線L上に作用する引張荷重を加える。具体的には、支持部材4、5により支持点12aと支持点12bとを矢印A、B方向にそれぞれ引っ張ってもよいし、いずれか一方の支持点12a又は12bを保持したまま、他方の支持点12b又は12aを矢印B方向又は矢印A方向に引っ張ってもよい。
【0027】
引張荷重を加えたとき、供試体12には層間引張応力及び層間せん断応力が発生する。図4に示すように、層間引張応力は、主に両支持点12a、12b間の中央部に発生し、図中矢印のように層間を引き離す方向に応力が生じる。図5に示すように、層間せん断応力は、主に両支持点12a、12bの近傍に発生し、図中矢印のように層間をずらす方向に応力が生じる。いずれか一方の応力が供試体の層間強度を上回ったときに、層間剥離が生じる。層間剥離が生じた位置又は状態に基づいて、層間引張応力であるか又は層間せん断応力であるかを判断するとともに、そのときの荷重を測定する。
【0028】
そして、測定した荷重を用いて、予め求めておいた荷重と応力との関係に基づいて、層間応力を求める。このとき、層間応力の種類(層間引張応力又は層間せん断応力)に応じて荷重と応力との関係を選定し、層間応力を求めるようにする。
【0029】
ここで、図5及び図6に強度評価試験結果を示す。図5は強度評価試験結果を示すグラフであり、(A)は板厚方向における層間引張応力を示すグラフで、(B)は周方向における層間引張応力を示すグラフである。図6は強度評価試験結果を示すグラフであり、(A)は板厚方向に対する層間せん断応力を示すグラフで、(B)は周方向に対する層間せん断応力を示すグラフである。なお、図7は強度評価試験における供試体の各寸法を説明する図である。ここでは、供試体12の外周面の曲率半径をr0、内周面の曲率半径をri、板厚内の任意の点における曲率半径をr、板厚をtとしている。
【0030】
図5(A)、(B)に示すように、層間引張応力は、板厚方向において中央部が最も高く、周方向においても中央部が最も高くなる。また、図6(A)、(B)に示すように、層間せん断応力は、板厚方向において中央部が最も高く、周方向において端部が最も高くなる。したがって、層間応力の種類を層間剥離位置から特定する際には、供試体12の中央部に層間剥離が生じた場合には層間引張応力と判断し、供試体12の端部に層間剥離が生じた場合には層間せん断応力と判断することが好ましい。
【0031】
本第1実施形態においては、供試体の2つの支持点間に曲率が存在するため、2つの支持点間に引張荷重を加えることにより層間応力を発生させることができる。したがって、2つの支持点間に引張荷重をかけるのみで簡単に層間引張応力又は層間せん断を測定することが可能となる。さらにこのとき、引張荷重をかけると曲がっている供試体が延びて支持点が回転するが、本第1実施形態では2つの支持点がそれぞれ回動自在な支持部材で支持されているため、支持点が回転しても両支持点を通る直線上に引張荷重を加えることができる。
【0032】
また、本第1実施形態において、供試体の曲率中心に対する2つの支持点間の角度範囲が90°以上180°以下であることが好ましい。
このように両支持点間の角度範囲を設定することにより、2つの支持点間に効果的に層間応力を発生させることができる。ここで、2つの支持点間の角度範囲が90°未満の場合、層間応力よりも供試体自体の引張応力が支配的となり、層間応力に関する有効な測定結果が得られにくい。一方、2つの支持点間の角度範囲が180°超過の場合、層間応力以外に曲げ応力等の他の応力が複雑に発生してしまい、やはり層間応力に関する有効な測定結果が得られにくい。
【0033】
図8は本発明の第1実施形態に係る強度評価方法の変形例を示す図である。
この方法においては、図1(B)の環状の供試体11を用いている。供試体11の内周面に支持部材4’、5’を当接し、図中矢印A、B方向に引っ張ることにより引張荷重を加えている。
環状の供試体11においては、上記方法を用いることにより、供試体11に対して簡単に層間引張荷重を加えることが可能となる。
【0034】
(第2実施形態)
図9は本発明の第2実施形態に係る強度評価方法を説明する図である。
本第2実施形態の測定対象は、第1実施形態と同様に、一定の曲率を有する積層構造体である。
【0035】
第2実施形態に係る強度評価方法においては、水平方向に離間して配置される2つの支持部材6、7上に、供試体12を上に凸の状態で載置する。ここで、供試体12の2つの支持部材6、7で支持される部位が、供試体12の2つの支持点12c、12dとなる。このとき、供試体12の支持点12c、12dが回動自在なように、支持部材6、7に供試体12を固定してもよい。これにより供試体12の位置ずれを防止できる。
この2つの支持部材6、7で支持される2つの支持点12c、12dの間に、2つの作用点8、9から図中矢印Cのように垂直下方に曲げ荷重を加える。2つの作用点8、9から与える荷重は同一である。
【0036】
曲げ荷重を加えたとき、供試体12には層間引張応力が発生する。図10に示すように、層間引張応力は、主に両支持点12c、12d間の中央部に発生し、図中矢印のように層間を引き離す方向に応力が生じる。この層間引張応力が層間強度を上回ったときに、層間剥離が生じる。このときの荷重を測定し、この荷重を用いて、予め求めておいた荷重と応力との関係に基づいて、層間応力を求める。
【0037】
ここで、図11に強度評価試験結果を示す。図11は強度評価試験結果を示すグラフであり、(A)は板厚方向における層間引張応力を示すグラフで、(B)は周方向における層間引張応力を示すグラフである。なお、強度評価試験における供試体の各寸法は、上記の図7に示した通りである。
図11(A)、(B)に示すように、層間引張応力は、板厚方向において中央部が最も高く、周方向においては一定となる。したがって、周方向のいずれの位置においても、層間剥離が生じた場合には、層間引張応力と判断する。
【0038】
本第2実施形態は、4点曲げ法を援用したものであり、上に凸の状態で供試体を2つの支持部材上に載置し、供試体の支持点間に2つの作用点により垂直下方の荷重を加えている。このように、支持部材上の2つの支持点間に曲げ荷重を加えることにより層間応力を発生させることができ、簡単に層間引張応力を測定することが可能となる。
【0039】
また、上記の第1実施形態又は第2実施形態において、積層構造体は、マトリックス樹脂中に強化繊維が分散された複合材を用いてフィラメントワインディング成形により形成された円筒形状若しくは球殻形状の構造体であることが好ましい。
これにより、平板状の供試体を作製して強度評価していた従来の方法に比べて、簡単に且つ精度の高い強度評価を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0040】
4〜7 支持部材
8、9 作用点
10 積層構造体(円筒形状)
11、12 供試体
12a〜12d 支持点
20 積層構造体(球殻形状)
21 供試体
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒形状や球殻形状等の曲率を有する積層構造体の強度評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、積層構造体は、複数の薄板部材が積層されてこれらの間が接着部材で接着された構成を有するが、薄板部材間に異物や空気が混入したり、薄板部材間に接着部材溜りや接着部材抜けが存在すると、層間の密着度が低下して構造体の強度を低下させてしまう。そこで、積層構造体の強度評価に際して、構造体全体の引張応力や曲げ応力等の強度測定に加えて、層間引張応力や層間せん断応力等の層間応力の測定が行われている。
【0003】
例えば特許文献1(米国特許第6,314,819号公報)には、樹脂材料の接着強度測定方法が開示されている。この方法は、層間に異なる2つの荷重を作用させることにより層間せん断応力を測定する構成としている。
また、特許文献2(特許第2733134号公報)には積層体のせん断接着強度の測定方法が開示されている。この方法は、積層体を回転ロールに巻き付けて曲げ変形を与えてせん断応力を発生させ、せん断接着強度を測定する構成としている。
【0004】
一方、従来から積層構造体として曲率を有する構造体が広く用いられている。例えば、円筒形状や球殻形状の積層構造体は、フィラメントワインディング(FW)成形法により形成される。FW成形法は、樹脂を含浸させた複合材テープを、回転するマンドレルに対して張力を掛けながら巻き付け、樹脂硬化後に脱型する成形法である。
【0005】
しかし、FW成形法では、複合材テープの張力と型材の回転速度によっては、テープのうねりや上下テープ間の隙間等が生じる可能性がある。隙間については、上記したように層間の樹脂溜り、樹脂抜け、あるいはボイド等の発生原因となる。これらは製造欠陥であり、製品強度低下の要因となる。また、隙間に関しては、製造欠陥とまではならなくても、層間の密着度を低下させる要因となり、特に層間強度に影響を与えることが考えられる。
そこで、FW成形品においても層間強度を評価することが行われていた。この強度評価に際しては、平板状の供試体を作製し、この供試体の層間応力を測定することによりFW成形品の層間応力を推定していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,314,819号公報
【特許文献2】特許第2733134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、平板状の積層構造体と、FW成形品のような曲率を有する積層構造体とでは、層間方向の密着性が異なることによる強度の差が生じるものと考えられる。特に、曲率を有する積層構造体は、平板状の積層構造体に比べて荷重が加わったときの層間強度への影響が大きいが、層間破壊が発生すると面内剛性が低下するため、面内強度に対する影響も考慮しなければならない。
また、曲率を有する積層構造体においては、平板状の供試体を作製して、例えば特許文献1や特許文献2等の方法を用いて層間強度を測定し、この測定結果に対して許容値を設定して実構造部材の強度評価結果としているが、許容値の設定が困難であり、評価精度に不安が残る。
【0008】
したがって、本発明はかかる従来技術の問題に鑑み、曲率を有する積層構造体において、簡単に且つ精度よく層間強度を評価することができる積層構造体の強度評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明に係る積層構造体の強度評価方法は、曲率を有する積層構造体の層間強度を測定する積層構造体の強度評価方法であって、前記積層構造体から前記曲率を含む供試体を切り出し、前記曲率が存在する部位を間に挟んだ2つの支持点にて前記供試体を支持し、該供試体の前記2つの支持点間に、前記曲率が小さくなる方向に作用する荷重を加えて前記供試体の層間応力を測定することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、強度評価対象である積層構造体から曲率を含む供試体を切り出して層間応力を直接測定する構成としているため、新たに平板状の供試体を作製して測定する場合に比べて、簡単に且つ精度の高い強度評価を行うことが可能である。
また、供試体の前記2つの支持点間に、曲率が小さくなる方向に作用する荷重を加える構成としているため、層間応力以外の他の応力に影響されにくく最も効果的に層間応力を発生させることができ、確実に層間強度を評価することが可能となる。
【0011】
また、前記積層構造体が一定の曲率を有しており、前記供試体の前記2つの支持点がそれぞれ回動自在な支持部材で支持され、該支持部材により前記2つの支持点間に、両支持点を通る直線上に作用する引張荷重を加えて、前記供試体の層間引張応力又は層間せん断応力を測定することが好ましい。
【0012】
本構成においては、供試体の2つの支持点間に曲率が存在するため、2つの支持点間に引張荷重を加えることにより層間応力を発生させることができる。したがって、2つの支持点間に引張荷重をかけるのみで簡単に層間引張応力又は層間せん断を測定することが可能となる。さらにこのとき、引張荷重をかけると、曲がっている供試体が延びて支持点が回転するが、本構成では2つの支持点がそれぞれ回動自在な支持部材で支持されているため、支持点が回転しても両支持点を通る直線上に引張荷重を加えることができる。
なお、本構成において、一定の曲率を有する積層構造体は、例えば円筒形状や球殻形状等の構造体である。
【0013】
さらに、前記供試体の曲率中心に対する前記2つの支持点間の角度範囲が90°以上180°以下であることが好ましい。
このように両支持点間の角度範囲を設定することにより、2つの支持点間に効果的に層間応力を発生させることができる。ここで、2つの支持点間の角度範囲が90°未満の場合、層間応力よりも供試体自体の引張応力が支配的となり、層間応力に関する有効な測定結果が得られにくい。一方、2つの支持点間の角度範囲が180°超過の場合、層間応力以外に曲げ応力等の他の応力が複雑に発生してしまい、やはり層間応力に関する有効な測定結果が得られにくい。
【0014】
また、前記積層構造体が一定の曲率を有しており、水平方向に離間して配置される2つの支持部材上に前記供試体が上に凸の状態で載置され、前記2つの支持部材で支持される前記2つの支持点の間に、2つの作用点から垂直下方に曲げ荷重を加えて、前記供試体の層間引張応力を測定することが好ましい。
本構成は、4点曲げ法を援用したものであり、上に凸の状態で供試体を2つの支持部材上に載置し、供試体の支持点間に2つの作用点により垂直下方の荷重を加えている。このように、支持部材上の2つの支持点間に曲げ荷重を加えることにより層間応力を発生させることができ、簡単に層間引張応力を測定することが可能となる。
なお、一定の曲率を有する積層構造体は、例えば円筒形状や球殻形状等の構造体である。
【0015】
また、前記積層構造体は、マトリックス樹脂中に強化繊維が分散された複合材を用いてフィラメントワインディング成形により形成された円筒形状若しくは球殻形状の構造体であることが好ましい。
これにより、平板状の供試体を作製して強度評価していた従来の方法に比べて、簡単に且つ精度の高い強度評価を行うことが可能である。
【0016】
さらにまた、前記供試体は、人工欠陥が層間に挿入されている前記積層構造体から該人工欠陥を含む部位を切り出して作製されることが好ましい。
このように、積層構造体の積層時に層間に人工欠陥を挿入しておき、この人工欠陥を含む供試体に対して強度評価を行うことによって、積層構造体製造時に発生する可能性の高い欠陥混入による強度低下に対しても積層構造体の健全性を評価することが可能となるとともに、構造体における許容欠陥の評価・確認を行うことも可能となる。
なお、人工欠陥としては、例えばテフロンフィルム(テフロン:登録商標)が用いられる。
【発明の効果】
【0017】
以上記載のように本発明によれば、強度評価対象である積層構造体から曲率を含む供試体を切り出して層間応力を直接測定する構成としているため、新たに平板状の供試体を作製して測定する場合に比べて、簡単に且つ精度の高い強度評価を行うことが可能である。
また、供試体の前記2つの支持点間に、曲率が小さくなる方向に作用する荷重を加える構成としているため、層間応力以外の他の応力に影響されにくく最も効果的に層間応力を発生させることができ、確実に層間強度を評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態における測定対象の一例を示す図であり、(A)は円筒形状の積層構造体を示す斜視図で、(B)は供試体を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態における測定対象の他の一例を示す図であり、(A)は球殻形状の積層構造体を示す斜視図で、(B)は供試体を示す斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る強度評価方法を説明する図である。
【図4】本発明の第1実施形態における層間応力を説明する図であり、(A)は層間引張応力を示す図で、(B)は層間せん断応力を示す図である。
【図5】強度評価試験結果を示すグラフであり、(A)は板厚方向における層間引張応力を示すグラフで、(B)は周方向における層間引張応力を示すグラフである。
【図6】強度評価試験結果を示すグラフであり、(A)は板厚方向に対する層間せん断応力を示すグラフで、(B)は周方向に対する層間せん断応力を示すグラフである。
【図7】強度評価試験における供試体の各寸法を説明する図である。
【図8】本発明の第1実施形態に係る強度評価方法の変形例を示す図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る強度評価方法を説明する図である。
【図10】本発明の第2実施形態における層間引張応力を説明する図である。
【図11】強度評価試験結果を示すグラフであり、(A)は板厚方向における層間引張応力を示すグラフで、(B)は周方向における層間引張応力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。但しこの実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
本発明の実施形態における測定対象は、曲率を有する積層構造体である。積層構造体としては、例えば、FRP(繊維強化プラスチック)等が用いられる。測定対象は、曲率が一定であってもよいし、一定でなくてもよい。
【0020】
本発明の実施形態に係る積層構造体の強度評価方法においては、まず最初に、積層構造体から曲率を含む供試体を切り出す。
図1は本発明の実施形態における測定対象の一例を示す図であり、(A)は円筒形状の積層構造体10を示す斜視図で、(B)は供試体11、12を示す斜視図である。図1(A)に示すような円筒状の積層構造体10からその一部を環状に切り出し、図1(B)に示すように環状の供試体11としてもよいし、環状の積層構造体をさらに円弧状に切り出し、円弧状の供試体12としてもよい。
また、図2は本発明の実施形態における測定対象の他の一例を示す図であり、(A)は球殻形状の積層構造体20を示す斜視図で、(B)は供試体21を示す斜視図である。図2(A)に示すような球殻状の積層構造体20から一部を切り出し、図2(B)に示すように円弧状の供試体21としてもよい。
【0021】
次いで、曲率が存在する部位を間に挟んだ2つの支持点にて、支持部材により供試体を支持する。そして、供試体の2つの支持点間に、曲率が小さくなる方向に作用する荷重を加えて供試体の層間応力を測定する。ここで、層間応力とは、層間引張応力又は層間せん断応力を含む。
具体的には、供試体の2つの支持点間に曲率が小さくなる方向に作用する荷重を加えて、層間応力により層間剥離が生じたときの荷重を測定する。そして、この荷重を用いて、予め求めておいた荷重と応力との関係に基づいて、層間応力を求める。荷重と応力との関係は、例えば特許文献1等に開示される理論式によって求めてもよいし、シミュレーションによって求めてもよい。
【0022】
本実施形態によれば、強度評価対象である積層構造体から曲率を含む供試体を切り出して層間応力を直接測定する構成としているため、新たに平板状の供試体を作製して測定する場合に比べて、簡単に且つ精度の高い強度評価を行うことが可能である。
また、供試体の前記2つの支持点間に、曲率が小さくなる方向に作用する荷重を加える構成としているため、層間応力以外の他の応力に影響されにくく最も効果的に層間応力を発生させることができ、確実に層間強度を評価することが可能となる。
【0023】
また、本実施形態において、供試体は、人工欠陥が層間に挿入されている積層構造体から該人工欠陥を含む部位を切り出して作製されるようにしてもよい。
このように、積層構造体の積層時に層間に人工欠陥を挿入しておき、この人工欠陥を含む供試体に対して強度評価を行うことによって、積層構造体製造時に発生する可能性の高い欠陥混入による強度低下に対しても積層構造体の健全性を評価することが可能となるとともに、構造体における許容欠陥の評価・確認を行うことも可能となる。なお、人工欠陥としては、例えばテフロンフィルム(テフロン:登録商標)が用いられる。
以下に、本実施形態の具体的な態様について説明する。
【0024】
(第1実施形態)
図3は本発明の第1実施形態に係る強度評価方法を説明する図である。
本第1実施形態の測定対象は、一定の曲率を有する積層構造体であり、図1又は図2に示す供試体が好適に用いられる。ここでは一例として、図1(B)に示す円弧状の供試体12を用いて説明する。この供試体12は、曲率中心に対する2つの支持点間の角度が180°となっている。
【0025】
第1実施形態に係る強度評価方法においては、積層構造体10から切り出した供試体12の両端部に支持点12a、12bを設定し、この支持点12a、12bを支持部材5、5でそれぞれ支持する。支持部材4、5は、それぞれ回動自在に構成されている。このとき、支持部材4、5は、供試体12の支持点12a、12b、及びこれら支持点間の中央部12cの3点を通る面に垂直な回動軸4a、5aを中心として回動することが好ましい。支持部材4、5による支持方法は特に限定されないが、支持点12a、12bを接着させて支持してもよいし、支持点12a、12bを把持してもよい。
【0026】
供試体12を支持部材4、5で支持した状態で、支持部材4、5により2つの支持点12a、12b間に、両支持点を通る直線L上に作用する引張荷重を加える。具体的には、支持部材4、5により支持点12aと支持点12bとを矢印A、B方向にそれぞれ引っ張ってもよいし、いずれか一方の支持点12a又は12bを保持したまま、他方の支持点12b又は12aを矢印B方向又は矢印A方向に引っ張ってもよい。
【0027】
引張荷重を加えたとき、供試体12には層間引張応力及び層間せん断応力が発生する。図4に示すように、層間引張応力は、主に両支持点12a、12b間の中央部に発生し、図中矢印のように層間を引き離す方向に応力が生じる。図5に示すように、層間せん断応力は、主に両支持点12a、12bの近傍に発生し、図中矢印のように層間をずらす方向に応力が生じる。いずれか一方の応力が供試体の層間強度を上回ったときに、層間剥離が生じる。層間剥離が生じた位置又は状態に基づいて、層間引張応力であるか又は層間せん断応力であるかを判断するとともに、そのときの荷重を測定する。
【0028】
そして、測定した荷重を用いて、予め求めておいた荷重と応力との関係に基づいて、層間応力を求める。このとき、層間応力の種類(層間引張応力又は層間せん断応力)に応じて荷重と応力との関係を選定し、層間応力を求めるようにする。
【0029】
ここで、図5及び図6に強度評価試験結果を示す。図5は強度評価試験結果を示すグラフであり、(A)は板厚方向における層間引張応力を示すグラフで、(B)は周方向における層間引張応力を示すグラフである。図6は強度評価試験結果を示すグラフであり、(A)は板厚方向に対する層間せん断応力を示すグラフで、(B)は周方向に対する層間せん断応力を示すグラフである。なお、図7は強度評価試験における供試体の各寸法を説明する図である。ここでは、供試体12の外周面の曲率半径をr0、内周面の曲率半径をri、板厚内の任意の点における曲率半径をr、板厚をtとしている。
【0030】
図5(A)、(B)に示すように、層間引張応力は、板厚方向において中央部が最も高く、周方向においても中央部が最も高くなる。また、図6(A)、(B)に示すように、層間せん断応力は、板厚方向において中央部が最も高く、周方向において端部が最も高くなる。したがって、層間応力の種類を層間剥離位置から特定する際には、供試体12の中央部に層間剥離が生じた場合には層間引張応力と判断し、供試体12の端部に層間剥離が生じた場合には層間せん断応力と判断することが好ましい。
【0031】
本第1実施形態においては、供試体の2つの支持点間に曲率が存在するため、2つの支持点間に引張荷重を加えることにより層間応力を発生させることができる。したがって、2つの支持点間に引張荷重をかけるのみで簡単に層間引張応力又は層間せん断を測定することが可能となる。さらにこのとき、引張荷重をかけると曲がっている供試体が延びて支持点が回転するが、本第1実施形態では2つの支持点がそれぞれ回動自在な支持部材で支持されているため、支持点が回転しても両支持点を通る直線上に引張荷重を加えることができる。
【0032】
また、本第1実施形態において、供試体の曲率中心に対する2つの支持点間の角度範囲が90°以上180°以下であることが好ましい。
このように両支持点間の角度範囲を設定することにより、2つの支持点間に効果的に層間応力を発生させることができる。ここで、2つの支持点間の角度範囲が90°未満の場合、層間応力よりも供試体自体の引張応力が支配的となり、層間応力に関する有効な測定結果が得られにくい。一方、2つの支持点間の角度範囲が180°超過の場合、層間応力以外に曲げ応力等の他の応力が複雑に発生してしまい、やはり層間応力に関する有効な測定結果が得られにくい。
【0033】
図8は本発明の第1実施形態に係る強度評価方法の変形例を示す図である。
この方法においては、図1(B)の環状の供試体11を用いている。供試体11の内周面に支持部材4’、5’を当接し、図中矢印A、B方向に引っ張ることにより引張荷重を加えている。
環状の供試体11においては、上記方法を用いることにより、供試体11に対して簡単に層間引張荷重を加えることが可能となる。
【0034】
(第2実施形態)
図9は本発明の第2実施形態に係る強度評価方法を説明する図である。
本第2実施形態の測定対象は、第1実施形態と同様に、一定の曲率を有する積層構造体である。
【0035】
第2実施形態に係る強度評価方法においては、水平方向に離間して配置される2つの支持部材6、7上に、供試体12を上に凸の状態で載置する。ここで、供試体12の2つの支持部材6、7で支持される部位が、供試体12の2つの支持点12c、12dとなる。このとき、供試体12の支持点12c、12dが回動自在なように、支持部材6、7に供試体12を固定してもよい。これにより供試体12の位置ずれを防止できる。
この2つの支持部材6、7で支持される2つの支持点12c、12dの間に、2つの作用点8、9から図中矢印Cのように垂直下方に曲げ荷重を加える。2つの作用点8、9から与える荷重は同一である。
【0036】
曲げ荷重を加えたとき、供試体12には層間引張応力が発生する。図10に示すように、層間引張応力は、主に両支持点12c、12d間の中央部に発生し、図中矢印のように層間を引き離す方向に応力が生じる。この層間引張応力が層間強度を上回ったときに、層間剥離が生じる。このときの荷重を測定し、この荷重を用いて、予め求めておいた荷重と応力との関係に基づいて、層間応力を求める。
【0037】
ここで、図11に強度評価試験結果を示す。図11は強度評価試験結果を示すグラフであり、(A)は板厚方向における層間引張応力を示すグラフで、(B)は周方向における層間引張応力を示すグラフである。なお、強度評価試験における供試体の各寸法は、上記の図7に示した通りである。
図11(A)、(B)に示すように、層間引張応力は、板厚方向において中央部が最も高く、周方向においては一定となる。したがって、周方向のいずれの位置においても、層間剥離が生じた場合には、層間引張応力と判断する。
【0038】
本第2実施形態は、4点曲げ法を援用したものであり、上に凸の状態で供試体を2つの支持部材上に載置し、供試体の支持点間に2つの作用点により垂直下方の荷重を加えている。このように、支持部材上の2つの支持点間に曲げ荷重を加えることにより層間応力を発生させることができ、簡単に層間引張応力を測定することが可能となる。
【0039】
また、上記の第1実施形態又は第2実施形態において、積層構造体は、マトリックス樹脂中に強化繊維が分散された複合材を用いてフィラメントワインディング成形により形成された円筒形状若しくは球殻形状の構造体であることが好ましい。
これにより、平板状の供試体を作製して強度評価していた従来の方法に比べて、簡単に且つ精度の高い強度評価を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0040】
4〜7 支持部材
8、9 作用点
10 積層構造体(円筒形状)
11、12 供試体
12a〜12d 支持点
20 積層構造体(球殻形状)
21 供試体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲率を有する積層構造体の層間強度を測定する積層構造体の強度評価方法であって、
前記積層構造体から前記曲率を含む供試体を切り出し、
前記曲率が存在する部位を間に挟んだ2つの支持点にて前記供試体を支持し、該供試体の前記2つの支持点間に、前記曲率が小さくなる方向に作用する荷重を加えて前記供試体の層間応力を測定することを特徴とする積層構造体の強度評価方法。
【請求項2】
前記積層構造体が一定の曲率を有しており、
前記供試体の前記2つの支持点がそれぞれ回動自在な支持部材で支持され、該支持部材により前記2つの支持点間に、両支持点を通る直線上に作用する引張荷重を加えて、前記供試体の層間引張応力又は層間せん断応力を測定することを特徴とする請求項1に記載の積層構造体の強度評価方法。
【請求項3】
前記供試体の曲率中心に対する前記2つの支持点間の角度範囲が90°以上180°以下であることを特徴とする請求項2に記載の積層構造体の強度評価方法。
【請求項4】
前記積層構造体が一定の曲率を有しており、
水平方向に離間して配置される2つの支持部材上に前記供試体が上に凸の状態で載置され、前記2つの支持部材で支持される前記2つの支持点の間に、2つの作用点から垂直下方に曲げ荷重を加えて、前記供試体の層間引張応力を測定することを特徴とする請求項1に記載の積層構造体の強度評価方法。
【請求項5】
前記積層構造体は、マトリックス樹脂中に強化繊維が分散された複合材を用いてフィラメントワインディング成形により形成された円筒形状若しくは球殻形状の構造体であることを特徴とする1乃至4のいずれか一項の記載の積層構造体の強度評価方法。
【請求項6】
前記供試体は、人工欠陥が層間に挿入されている前記積層構造体から該人工欠陥を含む部位を切り出して作製されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の積層構造体の強度評価方法。
【請求項1】
曲率を有する積層構造体の層間強度を測定する積層構造体の強度評価方法であって、
前記積層構造体から前記曲率を含む供試体を切り出し、
前記曲率が存在する部位を間に挟んだ2つの支持点にて前記供試体を支持し、該供試体の前記2つの支持点間に、前記曲率が小さくなる方向に作用する荷重を加えて前記供試体の層間応力を測定することを特徴とする積層構造体の強度評価方法。
【請求項2】
前記積層構造体が一定の曲率を有しており、
前記供試体の前記2つの支持点がそれぞれ回動自在な支持部材で支持され、該支持部材により前記2つの支持点間に、両支持点を通る直線上に作用する引張荷重を加えて、前記供試体の層間引張応力又は層間せん断応力を測定することを特徴とする請求項1に記載の積層構造体の強度評価方法。
【請求項3】
前記供試体の曲率中心に対する前記2つの支持点間の角度範囲が90°以上180°以下であることを特徴とする請求項2に記載の積層構造体の強度評価方法。
【請求項4】
前記積層構造体が一定の曲率を有しており、
水平方向に離間して配置される2つの支持部材上に前記供試体が上に凸の状態で載置され、前記2つの支持部材で支持される前記2つの支持点の間に、2つの作用点から垂直下方に曲げ荷重を加えて、前記供試体の層間引張応力を測定することを特徴とする請求項1に記載の積層構造体の強度評価方法。
【請求項5】
前記積層構造体は、マトリックス樹脂中に強化繊維が分散された複合材を用いてフィラメントワインディング成形により形成された円筒形状若しくは球殻形状の構造体であることを特徴とする1乃至4のいずれか一項の記載の積層構造体の強度評価方法。
【請求項6】
前記供試体は、人工欠陥が層間に挿入されている前記積層構造体から該人工欠陥を含む部位を切り出して作製されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の積層構造体の強度評価方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−132840(P2012−132840A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286507(P2010−286507)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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