説明

積層構造体及びその製造方法

【課題】非付着性ブロックがより高い割合で露出する積層構造体を得る。
【解決手段】基材と、分子量分布が1.0以上、1.5以下の高分子膜であって、前記基材の表面に付着できる付着基を有する付着性ブロック構成単位からなる1種の付着性ブロック、及び非付着性ブロック構成単位からなる1種又は2種以上の非付着性ブロックを有する高分子を用いてなる高分子膜とを備える積層構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、複数種のブロックを含む共重合体からなる高分子であって、基材表面に付着できる特性を有する付着性ブロック構成単位からなる付着性ブロックと、基材表面に付着しにくい特性を有する非付着性ブロック構成単位からなる非付着性ブロックとを含む高分子を備え、付着性ブロックが基材の表面に付着し、かつ非付着性ブロックが最表面に露出する、積層構造体が製造されてきた(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、上記従来技術の積層構造体では、非付着性ブロックのみならず、付着性ブロックの一部もかなりの割合で積層構造体の最表面に露出していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−109108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
結果として上記従来の積層構造体において、非付着性ブロックの露出割合が低下してしまうため、基材に形成される膜に求められる物理的、化学的性質が十分には得られなかったり、求められる物理的、化学的性質の均一性が損なわれてしまったりするといった問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、基材に形成された高分子膜において、非付着性ブロックをより高い割合で最表面に露出させることができる積層構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、非付着性ブロック構成単位からなる非付着性ブロックがより高い割合で最表面に露出する積層構造体を得るために鋭意研究を進め、下記本発明を完成するに至った。本発明は、以下の〔1〕〜〔9〕を提供する。
〔1〕基材と、分子量分布が1.0以上、1.5以下であり、前記基材の表面に付着できる付着基を有する付着性ブロック構成単位からなる1種の付着性ブロック、及び非付着性ブロック構成単位からなる1種又は2種以上の非付着性ブロックを有する高分子を用いてなる高分子膜とを備える積層構造体。
〔2〕前記高分子が下記式(1):
【化1】

(式中、Ar11、Ar12、Ar13、・・・、Arn(nは14以上の整数である)は、同一又は異なり、前記付着性ブロック構成単位又は前記非付着性ブロック構成単位であって、置換基を有していてもよい共役系の2価の基である。前記非付着性ブロック同士、又は前記付着性ブロック及び前記非付着性ブロックは結合基を介して結合されていてもよく、前記非付着性ブロック同士、又は前記付着性ブロック及び前記非付着性ブロックが直接的に結合している場合には、互いに隣接する2個のブロックは異なっている。m11、m12、m13、・・・、mnは、同一又は異なり、3以上の整数である)
で表される構造を有する、〔1〕に記載の積層構造体。
〔3〕前記付着性ブロックが芳香族ポリアミン残基である、〔2〕に記載の積層構造体。
〔4〕前記式(1)で表される構造を有する高分子が、下記式(6):
【化2】

(式中、Ar1、Ar2及びAr3は、置換基を有していてもよい共役系の2価の基であり、Ar1とAr2とは異なり、Ar2とAr3とは異なる。RX及びRYは、同一又は異なり、末端基である。m1、m2及びm3は、同一又は異なり、0以上の整数であって、m1、m2及びm3のうち、少なくとも2個は3以上の整数である。Ar2が付着基を有する場合には、Ar及びArは同一であり、Ar1及びAr3は付着基を有しない。Ar2が付着基を有しない場合には、Ar1又はAr3が付着基を有する。)
で表される高分子である、〔2〕又は〔3〕に記載の積層構造体。
〔5〕前記式(6)で表される高分子が、下記式(7):
【化3】

(式中、Ar4及びAr5は、相異なり、置換基を有していてもよい共役系の2価の基である。RX及びRYは、前記と同義である。m4及びm5は、同一又は異なり、3以上の整数である。Ar4又はAr5は付着基を有する。)
で表される高分子である、〔4〕に記載の積層構造体。
〔6〕前記高分子が、下記式:
A−Z<3.5°
(式中、Zは前記高分子の接触角の値であり、ZAは前記高分子が含む付着性ブロック構成単位のみからなる化合物の接触角の値及び前記高分子が含む非付着性ブロック構成単位のみからなる化合物の接触角の値のうちの最大値である。)
又は、下記式:
Z−ZB<3.5°
(式中、Zは前記高分子の接触角の値であり、ZBは前記高分子が含む付着性ブロック構成単位のみからなる化合物の接触角の値及び前記高分子が含む非付着性ブロック構成単位のみからなる化合物の接触角の値のうちの最小値である。)
を満たす、〔5〕に記載の積層構造体。
〔7〕前記Arが置換基を有していてもよいアリーレン残基であり、前記Arが置換基を有していてもよい芳香族アミン残基である〔5〕又は〔6〕に記載の積層構造体。
〔8〕前記基材を前記高分子を含む溶液に浸漬する工程を含む〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の積層構造体の製造方法。
〔9〕前記高分子を含む溶液を前記基材に塗布する工程を含む〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の積層構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の積層構造体によれば、非付着性ブロック構成単位からなる非付着性ブロックをより高い割合で露出させることができる。結果として、高分子膜に求められる物理的、化学的性質の均一性を全域で高めることができ、ひいてはより高性能な膜(即ち、この膜を備えた積層構造体)とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1で作製した積層構造体の高分子膜及び参考例2で作製した参考用高分子スピンコート膜の蛍光スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の積層構造体を詳細に説明する。積層構造体は、基材と、ポリスチレン換算の分子量分布(重量平均分子量:Mw/数平均分子量:Mn)が1.0以上、1.5以下であり、基材の表面に付着できる付着基を有する付着性ブロック構成単位(モノマー)からなる1種の付着性ブロック、及び非付着性ブロック構成単位(モノマー)からなる1種又は2種以上の非付着性ブロックを有する高分子(ポリマー)を用いてなる高分子膜とを備える点に特徴を有している。
【0011】
(積層構造体)
本発明の積層構造体の高分子膜は、基材の表面に付着できる付着部位を有する付着性ブロック構成単位からなる1種の付着性ブロック、及び非付着性ブロック構成単位からなる1種又は2種以上の非付着性ブロックを含む高分子を用いてなる。
【0012】
ここで、「基材の表面に付着」とは、ある特定のブロック構成単位からなるブロックが、他のブロックに比べて優先的に基材と接して付着していることを意味し、例えば、基材の表面近傍(通常、基材の表面から1nm以内)の空間にあるブロックが占める空間が、他のブロックが占める空間よりも大きいことを意味する。
【0013】
「優先的」とは、本明細書において、ある特定の構成要素が占める空間、面、数量等が他の構成要素よりも多いことを意味し、例えば、付着性ブロックが基材の表面に占める割合が50%を超えることを意味する。
【0014】
「非付着性ブロック(非付着性ブロック構成単位)が露出」とは、本明細書において、積層構造体を高分子膜が形成された側から見た場合に、最表面近傍(通常、最表面から1nm以内)の空間の性質が、基材及び/又は付着性ブロック(付着性ブロック構成単位)の性質ではなく、非付着性ブロック(非付着性ブロック構成単位)の所定の性質に近い状態となることを意味する。この非付着性ブロックの所定の性質は、積層構造体に求められる所望の性質を得ることができる任意の性質であるが、例えば、接触角、電離エネルギー(イオン化ポテンシャル)、色調、硬度、耐熱性、耐水性、吸着性、耐溶媒性、電気伝導性、発光性、吸光性等が挙げられる。
【0015】
本発明の積層構造体においては、非付着性ブロックが優先的に最表面に露出している。即ち、本発明の積層構造体の最表面の液体に対する接触角の値は、非付着性ブロック(非付着性ブロック構成単位)のみからなる化合物の膜の液体に対する接触角の値に近づくほど、非付着性ブロックの露出の割合が高いといえる。ここで「接触角」とは、固体表面と液滴とが接するときに、液面と固体面とのなす角度であって、液体を含む側の角度をいう。具体的には、高分子膜又は後述する比較用のスピンコート膜といった固体表面と超純水とが接するときの超純水側の角度をいう。
【0016】
ここで、Zを高分子の接触角の値とし、ZAを高分子が含む付着性ブロック構成単位からなる化合物の接触角の値及び高分子が含む非付着性ブロック構成単位からなる化合物の接触角の値のうちの最大値とし、ZBを高分子が含む付着性ブロック構成単位からなる化合物の接触角の値及び高分子が含む非付着性ブロック構成単位からなる化合物の接触角の値のうちの最小値としたとき、積層構造体は、下記式:
A−Z<3.5°
又は下記式:
Z−ZB<3.5°
を満たすことが好ましく、下記式:
A−Z<3°
又は下記式:
Z−ZB<3°
を満たすことがより好ましく、下記式:
A−Z<2.5°
又は下記式:
Z−ZB<2.5°
を満たすことがさらに好ましい。
【0017】
(基材)
基材は、高分子が付着して、その表面に高分子膜が形成できればよく、例えば平板の板状体が挙げられる。基材を構成する材料としては、ガラス;サファイア;シリコン等の半導体;樹脂;卑金属;白金、金、パラジウム等の貴金属;酸化シリコン、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化スズ、酸化チタン、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化アルミニウム等の酸化物;窒化シリコン、窒化ガリウム等の窒化物;炭化シリコン等の炭化物が挙げられる。
【0018】
これらの基材の材料は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。例えば基材の最表層の材料を内部の材料と異なるものとしてもよい。基材としては、ガラス基板の表面にインジウムスズ酸化物の層を設けた基材等が挙げられる。
【0019】
なお、基材が2種以上の材料からなる場合には、基材の表面に現れる材料に、高分子膜を構成する高分子が付着する。基材の表面に現れる材料には、物理的にも化学的にも安定な材料を用いることが好ましい。
【0020】
基材の形状は、用途にもよるが、平滑なものが好ましく、その厚みは1μm〜1mであることが好ましく、0.01mm〜100mmであることがより好ましく、0.1mm〜10mmであることが特に好ましい。なお、基材は平面状の表面を有する必要はなく、その表面が曲面であってもよい。基材全体として、例えば大きさが1nm〜100μmの粒状であってもよく、中でも球状粒子が好ましい。基材が球状粒子である場合の直径は3nm〜5μmが好ましく、5nm〜1μmがさらに好ましく、5nm〜500nmが特に好ましい。
【0021】
(高分子膜)
高分子膜は、後述する高分子を用いてなる、基材の表面に形成される層(薄膜)である。高分子膜の平均的厚さは、通常、0.1nm〜10μmであるが、好ましくは0.2nm〜1μmであり、より好ましくは0.5nm〜500nmであり、さらに好ましくは0.5nm〜200nmである。基材の表面では、基材と、基材に優先的に付着する付着性ブロック構成単位に含まれる付着基とが、相互作用(ファンデルワールス力、イオン結合及び水素結合等の結合力)で接触(結合)していることが好ましい。
【0022】
(高分子)
本実施形態の高分子膜に用いられる高分子について説明する。この高分子は2種以上のブロックを含む所謂ブロック共重合体である。ここでブロックとは、通常、3個以上の単一種類のブロック構成単位(単量体)から構成される、高分子中の部分領域を意味する。このブロックは様々な構造とすることができるが、好ましくは単一種類のブロック構成単位が連結した構造であり、より好ましくは3個以上が連結した構造であり、さらに好ましくは4個以上が連結した構造であり、特に好ましくは5個以上が連結した構造である。
【0023】
高分子の分子量があまりに小さいと再現性よく高分子層を形成することができないことが多く、また分子量が大きすぎると溶媒に対する溶解性が小さくなることが多いので、本実施形態の高分子のポリスチレン換算の数平均分子量は、1×103以上であることが好ましく、1×103以上、1×108以下であることがより好ましく、5×103以上、1×107以下であることが特に好ましい。
【0024】
本実施形態の高分子において、(ポリスチレン換算の重量平均分子量:Mw)/(ポリスチレン換算の数平均分子量:Mn)で規定される分子量分布は、1.00以上、1.50以下である。この分子量分布が、1.50を超える場合、得られる積層構造体において、非付着性ブロックのみならず、付着性ブロックもかなりの割合で表面に露出する傾向がある。この分子量分布は、1.00以上、1.45以下であることが好ましく、1.00以上、1.40以下であることが特に好ましい。
【0025】
分子量分布の値をこのような範囲として高分子の全長を揃えることにより、非付着性ブロック(非付着性ブロック構成単位)をより高い割合で露出させ、かつ付着性ブロック(付着性ブロック構成単位)の露出を抑制することができる。よって付着性ブロックと非付着性ブロックとが積層構造体の厚み方向において精密に相分離された層構造を得ることができる。ここで「相分離」とは、性質が互いに異なる複数のブロックを有する高分子が基材の表面に形成する高分子膜において、同一の性質を有する特定のブロック同士が基材の表面の延在方向に揃うことにより、擬似的に複数の層が形成されているかのような態様をいう。従って非付着性ブロックが有する機能を、高分子膜が形成された全領域においてムラなくほぼ均一に発揮させることができる。
【0026】
付着性ブロック、非付着性ブロックを構成する構成単位となり得る「置換基を有していてもよい共役系の2価の基」(Arn等で表される2価の基)としては、芳香環を有する2価の基が挙げられる。
【0027】
芳香環を有する2価の基としては、以下に例示される基を使用することができる。この中では安定性、合成の容易さの観点から、式(C−1)〜(C−20)、(D−1)〜(D−20)、(E−1)〜(E〜2)、(E−7)〜(E−13)、(E−15)〜(E−20)、(E−22)〜(E−26)、(G−1)〜(G−8)及び(J−1)〜(J−3)、(J−5)〜(J−14)、(J−18)〜(J−22)で表される2価の基が好ましく、式(C−1)〜(C−6)、(C−10)、(C−11)、(C−15)、(D−16)〜(D−20)、(E−17)〜(E−20)、(G−1)〜(G−8)、(J−1)〜(J−3)で表される2価の基がより好ましく、式(C−1)〜(C−3)、(C−10)、(C−11)、(C−15)、(D−16)〜(D−19)、(E−17)〜(E−20)、(G−1)〜(G−6)で表される2価の基がさらに好ましく、式(C−1)、(C−11)、(C−15)、(D−16)、(E−20)、(G−1)、(G−2)で表される2価の基が特に好ましい。
【0028】
【化4】

【0029】
【化5】

【0030】
【化6】

【0031】
【化7】

【0032】
【化8】

【0033】
【化9】

【0034】
【化10】

【0035】
式中、Rは、水素原子又は置換基であり、安定性や合成のしやすさの観点から、好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、1価の複素環基であり、より好ましくはアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、1価の複素環基であり、さらに好ましくはアルキル基、アリール基である。
【0036】
で表されるアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その炭素数は通常1〜20であり、好ましくは1〜15であり、より好ましくは1〜10である。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソアミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、3,7−ジメチルオクチル基、ラウリル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロオクチル基が挙げられ、合成の行いやすさと耐熱性のバランスからは、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソアミル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、3,7−ジメチルオクチル基が好ましい。Rが複数個存在する場合には、それらのうちの2個のR同士で結合して環を形成してもよい。
【0037】
で表されるアリール基は、芳香族炭化水素から、水素原子1個を除いた残りの原子団であり、縮合環をもつ基、独立したベンゼン環又は縮合環2個以上が直接的に又はビニレン等の基を介して間接的に結合した基も含まれる。アリール基の炭素数は、通常6〜60であり、好ましくは7〜48である。アリール基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントラセニル基、2−アントラセニル基、9−アントラセニル基、ペンタフルオロフェニル基が例示され、これらはさらにアルキル基、アルコキシ基、アルキルオキシカルボニル基、置換アミノ基等の置換基を有していてもよい。有機溶媒への溶解性、合成の行いやすさの観点からは、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基及びアルキルオキシカルボニル基からなる群から選ばれる少なくとも1個の置換基を有するフェニル基が好ましい。
【0038】
で表されるアリールアルキル基の炭素数は、通常7〜60であり、好ましくは7〜48である。アリールアルキル基としては、フェニル−C1〜C12アルキル基(「C1〜C12アルキル」は、アルキル部分の炭素数が1〜12であることを意味する。以下、同様である。)、C1〜C12アルコキシフェニル−C1〜C12アルキル基(「C1〜C12アルコキシ」は、アルコキシ部分の炭素数が1〜12であることを意味する。以下、同様である。)、C1〜C12アルキルフェニル−C1〜C12アルキル基、1−ナフチル−C1〜C12アルキル基、2−ナフチル−C1〜C12アルキル基が挙げられ、有機溶媒への溶解性、合成の行いやすさといった観点からは、C1〜C12アルコキシフェニル−C1〜C12アルキル基、C1〜C12アルキルフェニル−C1〜C12アルキル基が好ましい。
【0039】
で表される1価の複素環基とは、複素環式化合物から水素原子1個を除いた残りの原子団をいい、その炭素数は通常4〜60であり、好ましくは4〜20である。なお、1価の複素環基の炭素数には、置換基の炭素数は含まない。複素環式化合物とは、環式構造をもつ有機化合物のうち、環を構成する元素が炭素原子だけでなく、酸素、硫黄、窒素、燐、硼素等のヘテロ原子を環内に含む基をいう。具体的には、チエニル基、C1〜C12アルキルチエニル基、ピロリル基、フリル基、ピリジル基、C1〜C12アルキルピリジル基、ピペリジル基、キノリル基、イソキノリル基が例示され、チエニル基、C1〜C12アルキルチエニル基、ピリジル基、C1〜C12アルキルピリジル基が好ましい。
【0040】
式中、Rcは、同一又は異なり、水素原子又は置換基である。置換基としては、好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキルチオ基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、ハロゲン原子、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、イミド残基、1価の複素環基、カルボキシル基、置換カルボキシル基、シアノ基であり、より好ましくはアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、置換アミノ基、置換シリル基、アシル基、置換カルボキシル基、シアノ基であり、さらに好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、置換カルボキシル基であり、特に好ましくはアルキル基、アルコキシ基、アリール基であり、とりわけ好ましくはアルキル基である。
【0041】
で表されるアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その炭素数は通常1〜20であり、好ましくは1〜15であり、より好ましくは1〜10である。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソアミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、3,7−ジメチルオクチル基、ラウリル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロオクチル基が挙げられ、合成の行いやすさと耐熱性のバランスからは、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソアミル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、3,7−ジメチルオクチル基が好ましい。アルキル基が複数個存在する場合には、それらのうちの2個のアルキル基同士で結合して環を形成してもよい。
【0042】
で表されるアルコキシ基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その炭素数は通常1〜20であり、好ましくは1〜15である。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、3,7−ジメチルオクチルオキシ基、ラウリルオキシ基、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、パーフルオロブトキシ基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロオクチル基、メトキシメチルオキシ基、2−メトキシエチルオキシ基、2−エトキシエチルオキシ基が挙げられ、有機溶媒への溶解性、合成の行いやすさ、耐熱性のバランスからは、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、デシルオキシ基、3,7−ジメチルオクチルオキシ基が好ましい。アルコキシ基が複数個存在する場合には、それらのうちの2個のアルコキシ基同士で結合して環を形成してもよい。
【0043】
で表されるアルキルチオ基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その炭素数は通常1〜20であり、好ましくは3〜20である。
【0044】
で表されるアリール基は、芳香族炭化水素から、水素原子1個を除いた残りの原子団であり、縮合環をもつ基、独立したベンゼン環又は縮合環2個以上が直接的又はビニレン等の基を介して間接的に結合した基も含まれる。アリール基の炭素数は、通常6〜60であり、好ましくは7〜48である。アリール基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントラセニル基、2−アントラセニル基、9−アントラセニル基、ペンタフルオロフェニル基が例示され、これらはさらにアルキル基、アルコキシ基、アルキルオキシカルボニル基等の置換基を有していてもよい。
【0045】
で表されるアリールオキシ基の炭素数は、通常6〜60であり、好ましくは7〜48である。アリールオキシ基としては、フェノキシ基、C1〜C12アルコキシフェノキシ基、C1〜C12アルキルフェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、ペンタフルオロフェニルオキシ基が例示され、有機溶媒への溶解性、合成の行いやすさの観点からは、C1〜C12アルコキシフェノキシ基、C1〜C12アルキルフェノキシ基が好ましい。
【0046】
で表されるアリールチオ基の炭素数は、通常3〜60であり、アリールチオ基としては、フェニルチオ基、C1〜C12アルコキシフェニルチオ基、C1〜C12アルキルフェニルチオ基、1−ナフチルチオ基、2−ナフチルチオ基、ペンタフルオロフェニルチオ基が例示される。
【0047】
で表されるアリールアルキル基の炭素数は、通常7〜60であり、好ましくは7〜48である。アリールアルキル基としては、フェニル−C1〜C12アルキル基、C1〜C12アルコキシフェニル−C1〜C12アルキル基、C1〜C12アルキルフェニル−C1〜C12アルキル基、1−ナフチル−C1〜C12アルキル基、2−ナフチル−C1〜C12アルキル基が例示される。
【0048】
で表されるアリールアルコキシ基の炭素数は、通常7〜60であり、好ましくは7〜48である。アリールアルコキシ基としては、フェニルメトキシ基、フェニルエトキシ基、フェニルブトキシ基、フェニルペンチロキシ基、フェニルヘキシロキシ基、フェニルヘプチロキシ基、フェニルオクチロキシ基等のフェニル−C1〜C12アルコキシ基、C1〜C12アルコキシフェニル−C1〜C12アルコキシ基、C1〜C12アルキルフェニル−C1〜C12アルコキシ基、1−ナフチル−C1〜C12アルコキシ基、2−ナフチル−C1〜C12アルコキシ基が例示される。
【0049】
で表されるアリールアルキルチオ基の炭素数は、通常7〜60であり、好ましくは7〜48である。
【0050】
で表されるアリールアルケニル基の炭素数は、通常8〜60であり、フェニル−C2〜C12アルケニル基、C1〜C12アルコキシフェニル−C2〜C12アルケニル基、C1〜C12アルキルフェニル−C2〜C12アルケニル基、1−ナフチル−C2〜C12アルケニル基、2−ナフチル−C2〜C12アルケニル基が例示される。
【0051】
で表されるアリールアルキニル基の炭素数は、通常8〜60であり、フェニル−C2〜C12アルキニル基、C1〜C12アルコキシフェニル−C2〜C12アルキニル基、C1〜C12アルキルフェニル−C2〜C12アルキニル基、1−ナフチル−C2〜C12アルキニル基、2−ナフチル−C2〜C12アルキニル基が例示される。
【0052】
で表される置換アミノ基としては、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基及び1価の複素環基からなる群から選ばれる1個又は2個の基で置換されたアミノ基が挙げられ、該アルキル基、アリール基、アリールアルキル基又は1価の複素環基は置換基を有していてもよい。置換アミノ基の炭素数は置換基の炭素数を含めないで通常1〜60であり、好ましくは2〜48である。置換アミノ基としては、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、プロピルアミノ基、ジプロピルアミノ基、i−プロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、i−ブチルアミノ基、t−ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基、ヘキシルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、ヘプチルアミノ基、オクチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ノニルアミノ基、デシルアミノ基、3,7−ジメチルオクチルアミノ基、ラウリルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、ジシクロペンチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、ジシクロヘキシルアミノ基、ピロリジル基、ピペリジル基、ジトリフルオロメチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、C1〜C12アルコキシフェニルアミノ基、ジ(C1〜C12アルコキシフェニル)アミノ基、ジ(C1〜C12アルキルフェニル)アミノ基、1−ナフチルアミノ基、2−ナフチルアミノ基、ペンタフルオロフェニルアミノ基、ピリジルアミノ基、ピリダジニルアミノ基、ピリミジルアミノ基、ピラジルアミノ基、トリアジルアミノ基、フェニル−C1〜C12アルキルアミノ基、C1〜C12アルコキシフェニル−C1〜C12アルキルアミノ基、C1〜C12アルキルフェニル−C1〜C12アルキルアミノ基、ジ(C1〜C12アルコキシフェニル−C1〜C12アルキル)アミノ基、ジ(C1〜C12アルキルフェニル−C1〜C12アルキル)アミノ基、1−ナフチル−C1〜C12アルキルアミノ基、2−ナフチル−C1〜C12アルキルアミノ基が例示される。
【0053】
で表される置換シリル基としては、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基及び1価の複素環基からなる群から選ばれる1〜3個の基で置換されたシリル基が挙げられる。置換シリル基の炭素数は通常1〜60であり、好ましくは3〜48である。なお、該アルキル基、アリール基、アリールアルキル基又は1価の複素環基は置換基を有していてもよい。
【0054】
で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が例示される。
【0055】
で表されるアシル基の炭素数は、通常2〜20であり、好ましくは2〜18である。アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基が挙げられる。
【0056】
で表されるアシルオキシ基の炭素数は、通常2〜20であり、好ましくは2〜18である。アシルオキシ基としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基が挙げられる。
【0057】
で表されるアミド基の炭素数は、通常2〜20であり、好ましくは2〜18である。アミド基としては、ホルムアミド基、アセトアミド基、プロピオアミド基、ブチロアミド基、ベンズアミド基、トリフルオロアセトアミド基が挙げられる。
【0058】
で表される1価の複素環基とは、複素環式化合物から水素原子1個を除いた残りの原子団をいい、1価の複素環基の炭素数は通常4〜60であり、好ましくは4〜20である。なお、1価の複素環基の炭素数には、置換基の炭素数は含まない。ここで、複素環式化合物とは、環式構造をもつ有機化合物のうち、環を構成する元素が炭素原子だけでなく、酸素、硫黄、窒素、燐、硼素等のヘテロ原子を環内に含む基をいう。具体的には、チエニル基、C1〜C12アルキルチエニル基、ピロリル基、フリル基、ピリジル基、C1〜C12アルキルピリジル基、ピペリジル基、キノリル基、イソキノリル基が例示され、チエニル基、C1〜C12アルキルチエニル基、ピリジル基、C1〜C12アルキルピリジル基が好ましい。
【0059】
で表される置換カルボキシル基としては、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基又は1価の複素環基で置換されたカルボキシル基が挙げられ、その炭素数は通常2〜60であり、好ましくは2〜48である。置換カルボキシル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、i−プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、i−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシロキシカルボニル基、シクロヘキシロキシカルボニル基、ヘプチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシロキシカルボニル基、ノニルオキシカルボニル基、デシロキシカルボニル基、3,7−ジメチルオクチルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基、トリフルオロメトキシカルボニル基、ペンタフルオロエトキシカルボニル基、パーフルオロブトキシカルボニル基、パーフルオロヘキシルオキシカルボニル基、パーフルオロオクチルオキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、ナフトキシカルボニル基、ピリジルオキシカルボニル基が挙げられる。なお、該アルキル基、アリール基、アリールアルキル基又は1価の複素環基はさらに置換基を有していてもよい。置換カルボキシル基の炭素数には置換基の炭素数は含まない。
【0060】
高分子中、各ブロックの両末端は、各々、他のブロックと連結するか、又は末端基と結合している。隣接するブロック同士を連結する部分は、ブロック同士が直接的に結合していてもよいし、連結基(結合基)としてスペーサー(基)を介して間接的に結合していてもよい。連結基としては、例えば、原子数100以下の合成が容易な2価の基を用いることができ、原子数30以下の合成が容易な2価の基が好ましい。このような合成が容易な2価の基としては、アルケニル基、アルコキシアルケニル基が挙げられる。
【0061】
高分子の末端をなす部分の構造(末端基)としては、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキルチオ基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、ハロゲン原子、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、イミド残基、1価の複素環基、カルボキシル基、置換カルボキシル基、スルホン酸基、シアノ基、水酸基、リン酸基、チオール基が挙げられる。なお、高分子に複数存在する末端基は、同一であっても異なっていてもよく、基材表面に付着できる付着基を有していてもよい。
【0062】
本実施形態の高分子膜では、付着性ブロックが芳香族ポリアミン残基であることが好ましい。また、本実施形態の高分子膜では、非付着性ブロックがポリアリーレン残基であることが好ましい。
【0063】
1個の高分子を構成するブロックの種類は、高分子の合成の容易さと相分離の精密性の観点から、2〜10種が好ましく、2〜5種がより好ましく、2〜3種がさらに好ましく、2種が特に好ましい。
【0064】
前記芳香族ポリアミン残基とは、複素環基及び/又は置換アミノ基を含む共役系の2価の基が3個以上連結してなる2価の基である。芳香族ポリアミン残基としては、上記(D−1)、(D−4)〜(D−10)、(D−16)〜(D−19)、(D−22)、(E−19)〜(E−21)、(E−24)、(G−1)〜(G−8)、(J−7)、(J−10)、(J−20)、(J−21)で表される2価の基が3個以上連結してなる2価の基が挙げられる。
【0065】
前記ポリアリーレン残基とは、2価の芳香族炭化水素基が3個以上連結してなる2価の基である。2価の芳香族炭化水素基としては、上記(E−1)〜(E−18)で表される2価の基、置換基を有していてもよいフルオレンジイル基、置換基を有していてもよいベンゾフルオレンジイル基、置換基を有していてもよいフェニレン基、置換基を有していてもよいチエニレン基等が挙げられるが、置換基を有していてもよいフルオレンジイル基、置換基を有していてもよいベンゾフルオレンジイル基が好ましい。置換基としては、前記置換基Rcとして説明し例示したものと同じである。
【0066】
前記高分子において、ブロック構成単位のうちの1種は、優先的に基板に付着する性質を有する付着性ブロック構成単位である。そのため、ブロック構成単位の1種は、基材の表面に付着できる基(即ち、「付着基」である。)を有することが好ましい。付着基は、用いられる基材の表面の材料に合わせて、選択することができる。
【0067】
基材の表面を構成する材料が金属又は金属酸化物の場合、付着基としては、水酸基、リン酸基、スルホン酸基、チオール基、カルボキシル基、エステル基、アミノ基、置換アミノ基、アミド基、アルキルチオ基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアルコキシ基、アリールアルキルチオ基、シリル基、置換シリル基、ハロゲン原子、アシル基、アシルオキシ基、イミジル基、1価の複素環基、シアノ基、芳香族アミン残基等が挙げられる。これらの基は、前記で説明し例示したものと同じである。
【0068】
これらの中でも、基材の表面を構成する材料が金又は銀の場合、付着基としては、チオール基が好ましい。
【0069】
また、基材の表面を構成する材料がアルミニウム酸化物、インジウムスズ酸化物、ガラス等の金属酸化物である場合、付着基としては、水酸基、リン酸基、スルホン酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、置換アミノ基、アミド基、芳香族アミン残基が好ましい。
【0070】
前記高分子を安定に有機溶媒に溶解させることができ、かつ、高分子の優先的な付着性の観点から、付着性ブロック構成単位が含む窒素原子の割合は、高分子中の全付着性ブロック構成単位に対して、好ましくは0.05重量%以上であり、より好ましくは0.1重量%以上であり、さらに好ましくは0.2重量%以上である。
【0071】
本実施形態の高分子膜において、高分子膜の均一性、再現性、合成の容易さの観点から、高分子は1種の付着性ブロック構成単位と1〜3種の非付着性ブロック構成単位とから構成されることが好ましく、1種の付着性ブロック構成単位と1種又は2種の非付着性ブロック構成単位とから構成されることがより好ましく、1種の付着性ブロック構成単位と1種の非付着性ブロック構成単位とから構成されることが特に好ましい。
【0072】
また、本実施形態の高分子膜において、高分子膜の均一性、再現性、合成の容易さの観点から、高分子の分子鎖末端において、一方の分子鎖末端では、付着性ブロックの末端の付着性ブロック構成単位が末端基と結合しており、かつ、他方の分子鎖末端では、非付着性ブロックの末端の非付着性ブロック構成単位が末端基と結合していることが好ましく、高分子が1種の付着性ブロック構成単位からなる付着性ブロック及び1種の非付着性ブロック構成単位からなる非付着性ブロックの2種のブロックからなり、一方の分子鎖末端では付着性ブロックの付着性ブロック構成単位が末端で末端基と結合しており、かつ、他方の分子鎖末端では非付着性ブロックの非付着性ブロック構成単位が末端基と結合していることが特に好ましい。
【0073】
本発明の好ましい一実施形態は、前記高分子が、下記式(1):
【化11】

(式中、Ar11、Ar12、Ar13、・・・、Arn(nは14以上の整数である)は、同一又は異なり、前記付着性ブロック構成単位又は前記非付着性ブロック構成単位であって、置換基を有していてもよい共役系の2価の基である。前記非付着性ブロック同士、又は前記付着性ブロック及び前記非付着性ブロックは結合基を介して結合されていてもよく、前記付着性ブロック同士、前記非付着性ブロック同士、又は前記付着性ブロック及び前記非付着性ブロックが直接的に結合している場合には、互いに隣接する2個のブロックは異なっている。m11、m12、m13、・・・、mnは、同一又は異なり、3以上の整数である。)
で表される構造を有する。
【0074】
前記式(1)中、Ar11、Ar12、Ar13、・・・、Arnで表される置換基を有していてもよい共役系の2価の基は、前記で説明し例示したものと同じである。
【0075】
前記式(1)中、m11、m12、m13、・・・、mnは、少なくとも2個が3〜1×106の整数であることが好ましく、少なくとも2個が4〜1×104の整数であることがより好ましく、少なくとも2個が5〜1×10の数であることが特に好ましい。
【0076】
本発明のより好ましい実施形態では、前記式(1)で表される構造を有する高分子が、下記式(6):
【化12】

(式中、Ar1、Ar2及びAr3は、同一又は異なり、置換基を有していてもよい共役系の2価の基であり、Ar1とAr2とは異なり、Ar2とAr3とは異なる。RX及びRYは、同一又は異なり、末端基である。m1、m2及びm3は、同一又は異なり、0以上の整数であって、m1、m2及びm3のうち、少なくとも2個は3以上の整数である。Ar2が付着基を有する場合には、Ar1及びAr3は同一であり、Ar1及びAr3は付着基を有しない。Ar2が付着基を有しない場合には、Ar1又はAr3が付着基を有する。)
で表される高分子である。
【0077】
前記式(6)中、Ar1、Ar2及びAr3で表される置換基を有していてもよい共役系の2価の基は、前記で説明し例示したものと同じである。
【0078】
前記式(6)中、m1、m2及びm3は、少なくとも2個が3〜1×106の整数であることが好ましく、少なくとも2個が4〜1×104の整数であることがより好ましく、少なくとも2個が5〜1×103の整数であることが特に好ましい。
【0079】
本発明のさらに好ましい実施形態では、前記式(6)で表される高分子が、下記式(7):
【化13】

(式中、Ar4及びAr5は、同一又は異なり、置換基を有していてもよい共役系の2価の基であり、Ar4とAr5とは異なる。RX及びRYは、前記と同義である。m4及びm5は、同一又は異なり、3以上の整数である。Ar4又はAr5は付着基を有する。)
で表される高分子である。
【0080】
前記式(7)中、Ar4及びAr5で表される置換基を有していてもよい共役系の2価の基は、前記で説明し例示したものと同じである。その中でも、Arが置換基を有していてもよいアリーレン残基であり、Arが置換基を有していてもよい芳香族アミン残基であることが好ましい。
【0081】
前記式(7)中、m4及びm5は、3〜1×106の整数であることが好ましく、4〜1×104の整数であることがより好ましく、5〜1×103の整数であることが特に好ましい。
【0082】
前記式(7)で表される高分子としては、以下の式(L−1)〜(L−6)で表される高分子が好ましく、式(K−1)〜(K−6)で表される高分子がより好ましい。これらの高分子において、m及びnは、m4及びm5と同義である。RDは、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアリールアルキル基である。ここで、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基は、前記で説明し例示したものと同じである。RF及びRGは、同一又は異なり、末端基を表す。これらの末端基は、RX及びRYと同義である。
【0083】
【化14】

【0084】
【化15】

【0085】
前記高分子のポリスチレン換算の数平均分子量Mnは、通常、1×103〜1×108であり、好ましくは2×103〜1×107であり、より好ましくは3×10〜1×106であり、さらに好ましくは5×10〜5×105である。これらの数平均分子量は、高分子のサイズ排除クロマトグラフィー(以下、「SEC」という)によって測定できる。
【0086】
前記高分子は、如何なる製造方法によって得られた高分子でもよいが、例えば、下記式(b)で表される化合物2種類以上を、P(Bu)Pd(Ph)Br等の適切な触媒の存在下で縮合重合させることにより製造することができる。
【化16】

(式中、Arは、置換基を有していてもよい共役系の2価の基である。X1は、ハロゲン原子、下記式(c)で表されるスルホネート基、又はメトキシ基である。M1は、ホウ酸エステル残基、ホウ酸残基、下記式(d)で表される基、下記式(e)で表される基、又は下記式(f)で表される基である。)
【化17】

(式中、RPは、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基である。)
【化18】

(式中、Xは、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。)
【化19】

(式中、Xは、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。)
【化20】

(式中、RQ、RR及びRSは、同一又は異なり、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基である。)
【0087】
前記式(b)中、X1で表されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0088】
前記式(c)中、RPで表される置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基を構成するアルキル基、アリール基は、前記で説明し例示したものと同じである。
【0089】
前記式(c)で表されるスルホネート基としては、メタンスルホネート基、トリフルオロメタンスルホネート基、フェニルスルホネート基、4−メチルフェニルスルホネート基等が挙げられる。
【0090】
前記式(b)中、M1で表されるホウ酸エステル残基としては、下記式で表される基が挙げられる。
【化21】

【0091】
前記高分子の製造方法としては、特開2008−223015号公報、特開2008−109108号公報に記載の方法を参考にすることができる。
【0092】
<製造方法>
次に、本発明の積層構造体の製造方法を説明する。積層構造体は、高分子を適切な基材に適切な条件で付着させることにより作製することができる。
【0093】
高分子の基材への付着方法は、高分子の種類及び分子量にもよるが、気相、液相、又は固相で行うことができ、取り扱いの容易さの観点から、液相で行うことが好ましい。気相で行う場合は、高分子を、蒸着等の方法によって真空中で清浄な基材上に堆積させて形成することができる。固相で行う場合は、高分子を清浄な基材上に擦りつける方法を用いることができる。液相で行う場合は、適切な基材を準備し、高分子を含む溶液に浸漬して付着させる方法、高分子を含む溶液を塗布する方法等が挙げられる。
【0094】
高分子の基材への付着方法としては、高分子を含む溶液に基材を浸漬して高分子を基材の表面に付着させる方法、基材に高分子を含む溶液を塗布する方法が好適である。
【0095】
即ち、本発明の積層構造体の好ましい製造方法は、(1)基材を高分子を含む溶液に浸漬する工程、又は(2)高分子を含む溶液を基材に塗布する工程を含む。
【0096】
これら(1)又は(2)の工程によって形成された高分子の層を、高分子の良溶媒と接触させる工程や、後述の除去工程をさらに含むことが好ましい。
【0097】
いずれの方法を用いる場合でも、基材の表面は予め清浄にしておくことが好ましい。ここで、基材表面に汚れ、ゴミが付着していると高分子膜に欠陥が生じるおそれがある。そのため、付着工程の直前に基材の洗浄を終えて、直ちに付着工程に入ることが好ましい。洗浄方法は、公知の方法を用いることができる。欠陥の少ない高分子膜を形成するためには、洗浄の最終工程で、オゾン、プラズマ等で表面処理することが好ましく、オゾン、酸素プラズマ等の活性酸素種で処理することがさらに好ましく、簡便さの観点から、オゾンで処理することが特に好ましい。
【0098】
ここで、特に好ましい実施形態である、基材を高分子を含む溶液に浸漬する工程について説明する。高分子の溶液の濃度は、高分子を安定に溶解させることができる濃度範囲で調整することができる。高分子膜の再現性の観点からは、高分子の溶液の濃度は、好ましくは0.001〜1000g/Lであり、より好ましくは0.01〜100g/Lであり、特に好ましくは0.01〜10g/Lである。基材を、高分子を含む溶液に浸漬する時間は、通常、200時間以内である。
【0099】
また、使用する高分子を含む溶液は、不純物を極力除去した溶液を用いることが好ましい。ゴミ、基材の表面に吸着する性質の他の分子が溶液に混入していると、得られる高分子膜に欠陥が生じるおそれがある。
【0100】
さらに、浸漬後の基材から、余分な高分子を除去する工程(即ち、除去工程である。)を行うことが好ましい。この除去工程では、浸漬に使用する溶媒により洗浄すればよい。
【実施例】
【0101】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明する。
【0102】
ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)及びポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により、次の条件で求めた。
装置 :東ソー製HLC−8220GPC
カラム:以下の4本を直列に繋げた。
TSKguard column SuperH−H(東ソー製)1本
TSKgel SuperHM−H(東ソー製)2本
TSKgel SuperH2000(東ソー製)1本
移動相:テトラヒドロフラン
検出器:示差屈折率検出器
【0103】
<合成例1>−分子量分布の狭いブロック共重合体Aの合成−
(i) 2−ブロモ−9,9−ジオクチルフルオレン−7−ボロン酸ピナコールエステルを、J. Am. Chem. Soc. 126, 7041(2004)を参考にして合成した。
【0104】
(ii) (4−ブロモフェニル)−(4−メトキシフェニル)−[4−(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)フェニル]アミン(化合物(c))を、特開2007−211237号公報を参考にして合成した。
【0105】
(iii) P(Bu)Pd(Ph)Brを、J. Am. Chem. Soc. 126, 1184(2004)を参考にして、アルゴン雰囲気下、ビス(トリ−t−ブチルホスフィン)パラジウム(0)とブロモベンゼンを反応させることにより合成した。
【0106】
(iv) アルゴンガス雰囲気下、フラスコに、2−ブロモ−9,9−ジオクチルフルオレン−7−ボロン酸ピナコールエステル149mg(0.25mmol)、オクチルベンゼン(内部標準物質、100μL)を加えてアルゴン置換した。そこに、乾燥テトラヒドロフラン(THF)38mLを加えて溶解させた後に、2M 炭酸ナトリウム(aq)5mLを添加して、モノマー溶液を調製した。別途、アルゴングローブボックスにて、P(Bu)Pd(Ph)Br5.83mg(0.0013mmol、5.0mol%)をテトラヒドロフラン2mLに溶解させた黄色溶液を、アルゴンガス雰囲気下で、上記モノマー溶液中へ添加し、室温にて30分間攪拌したところ、高速液体クロマトグラフィーにて2−ブロモ−9,9−ジオクチルフルオレン−7−ボロン酸ピナコールエステルの消失を確認した。ここで、SECにおけるピークトップのポリスチレン換算の分子量が1.6×10であることを確認した。
【0107】
次いで、そこに、脱水THF2mLに溶解させた下記式:
【化22】

で表される化合物(c)30mg(0.063mmol)を加えて室温で30分間攪拌した。ここで、SECにおけるピークトップのポリスチレン換算の分子量は2.1×10であり、共重合により分子量が増加したことを確認した。次いで、室温にて水層を分液した。また、油層中へ2規定塩酸10mLを加えて攪拌した後、得られた溶液をメタノールに注加して攪拌したところ、沈殿が析出した。この沈殿をろ過して減圧乾燥したところ、分子量分布の狭いブロック共重合体A(Mn=14600、Mw/Mn=1.34)を得た。ブロック共重合体Aは、H NMRの結果から、下記式:
【化23】

で表される構成単位(A)と、下記式:
【化24】

で表される構成単位(B)とを、82:18のモル比で有するものであると認められた。
【0108】
<合成例2>−ブロック共重合体Bの合成−
300mL3口フラスコに下記式:
【化25】

で表される化合物(b)125mg(0.21mmol)を入れ、フラスコ内をアルゴンガスで置換した。そこに、4−t−ブチルブロモベンゼン2.3mg(0.011mmol)及びトルエン10mLを添加し、45℃で5分間攪拌した。次いで、そこに、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム0.29mg(0.0003mmol)及びトリス(2−メトキシフェニル)ホスフィン0.9mg(0.0026mmol)を加え、45℃で10分間攪拌し、33重量%炭酸セシウム水溶液1.0mLを加えた後、45℃で5分間攪拌した。
【0109】
その後、110℃で1時間攪拌し、高速液体クロマトグラフィーにて化合物(b)の消失を確認した。ここで、SECにおけるピークトップのポリスチレン換算の分子量が2.2×104であることを確認した。
【0110】
次いで、そこに、化合物(c)67.4mg(0.14mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム0.19mg(0.0002mmol)、トリス(2−メトキシフェニル)ホスフィン0.59mg(0.0016mmol)、33重量%炭酸セシウム水溶液0.6mL及びトルエン1mLを加え、110℃にて26時間攪拌した。その後、高速液体クロマトグラフィーにて化合物(c)の消失を確認した。ここで、SECにおけるピークトップのポリスチレン換算の分子量は2.8×104であり、共重合により分子量が増加したことを確認した。
【0111】
次いで、そこに、4−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)トルエン27.9mg(0.13mmol)及びトルエン1mLを加え、110℃にて2.5時間攪拌した。室温まで冷却した後、得られた反応溶液の有機層と水層とを分離した。そして、この有機層をメタノール45mLに滴下したところ、沈殿が析出した。得られた沈殿を濾過し、乾燥したところ、黄色固体を得た。この黄色固体をトルエン25mLに溶解させ、シリカゲルと活性アルミナのカラムクロマトグラフィーを行い、濃縮乾固した。得られた固体をテトラヒドロフランに溶解させ、メタノールへ溶液を滴下したところ、沈殿が析出した。この沈殿を濾過、乾燥する操作を3回繰り返し、固体を得た。
【0112】
さらに、この固体をトルエンに溶解させ、得られた溶液をメタノールに滴下して沈殿を析出させ、この沈殿を濾過、乾燥することにより、ブロック共重合体B(Mn=14300,Mw/Mn=2.44)を得た。
【0113】
ブロック共重合体Bは、H NMRの結果から、構成単位(A)と構成単位(B)とを、80:20のモル比で有するものであると認められた。
【0114】
<合成例3>−重合体Cの合成−
300mL3口フラスコに下記式:
【化26】

で表される化合物(c)540mg(1.12mmol)を仕込み、フラスコ内をアルゴンガスで置換した。そこに、4−t−ブチルブロモベンゼン9.39mg(0.044mmol)及びトルエン7.4mLを添加し、45℃で5分間攪拌した。次いで、そこに、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム1.49mg(0.0016mmol)及びトリス(2−メトキシフェニル)ホスフィン4.59mg(0.013mmol)を加え45℃で10分間攪拌し、33重量%炭酸セシウム水溶液5mLを加えた後、110℃で3時間攪拌し、室温まで冷却した。その後、得られた反応溶液をメタノール47mLに滴下したところ、沈殿が析出した。この沈殿を濾過することにより、固体を得た。この固体にクロロホルム6.2mLを加え、得られた溶液をメタノールに滴下したところ、沈殿が析出した。この沈殿を濾過、乾燥し、構成単位(B)のみからなる重合体(以下、「重合体C」という。)を得た。重合体Cのポリスチレン換算の数平均分子量Mnは3.4×10であり、分子量分布Mw/Mnは2.06であった。
【0115】
<合成例4>−重合体Dの合成−
構成単位(A)のみからなる重合体(以下、「重合体D」という。)は市販品(Aldrich製)を用いた。重合体Dのポリスチレン換算の数平均分子量Mnは1.5×10であり、分子量分布Mw/Mnは2.80であった。
【0116】
<参考例1>−参考用高分子スピンコート膜の作製−
重合体CのTHF溶液(2.5g/L)を用いてガラス基板上にスピンコート膜を作製し、得られた膜の接触角を測定したところ77.7°であった。得られた結果を表1に示す。また、得られた膜のイオン化ポテンシャルを大気中光電子分光装置(理研計器株式会社製、商品名:AC2)で測定したところ、5.18eVであった。得られた結果を表1に示す。また、高分子膜の膜厚を触針式の膜厚計(小坂研究所製、商品名:Surfcorder ET3000)で測定したところ、15nm〜20nmであった。
【0117】
<参考例2>−参考用高分子スピンコート膜の作製−
参考例1において、重合体Cの代わりに重合体Dを用いた以外は、参考例1と同様にして、スピンコート膜を作製し、得られたスピンコート膜の接触角、イオン化ポテンシャル及び膜厚を測定したところ、スピンコート膜の接触角は88.8°であり、イオン化ポテンシャルは5.78eVであり、膜厚は15nm〜20nmであった。得られた結果を表1に示す。また、励起光波長を350nmとして、蛍光スペクトルを測定した。こうして得られた蛍光スペクトルを図1に示す。
【0118】
<実施例1>−積層構造体の作製−
基材であるガラス基板を有機溶剤(クロロホルム及びメタノール)、アルカリ性洗剤の水溶液及び蒸留水で洗浄した後にオゾンガスに15分間曝露することで、ガラス基板の表面の付着物を取り除いた。こうして得られたガラス基板をブロック共重合体Aのトルエン溶液(2.5g/L)に浸漬し、3日間静置した後に引き上げ、トルエンを吹きかけて洗浄した。
【0119】
得られたガラス基板に紫外線を当てたところ、肉眼で蛍光を確認した。さらに、励起光波長を350nmとして、蛍光スペクトルを測定した。こうして得られた蛍光スペクトルを図1に示す。この蛍光スペクトルの特徴から、先に確認した蛍光発光が、ブロック共重合体Aに含まれる構成単位(A)に起因する蛍光発光であることを確認した。即ち、ブロック共重合体Aがガラス基板上に付着していることが判明した。
【0120】
得られた積層構造体における高分子膜に超純水0.5μLを付着させ、接触角測定を行ったところ88.0°であった。得られた結果を表1に示す。また、この高分子膜のイオン化ポテンシャルを大気中光電子分光装置(理研計器株式会社製、商品名:AC2)で測定したところ、5.54eVであった。得られた結果を表1に示す。また、高分子膜の膜厚を触針式の膜厚計(小坂研究所製、商品名:Surfcorder ET3000)で測定したところ、5nm〜10nmであった。
【0121】
<比較例1>−比較用積層構造体の作製−
実施例1において、ブロック共重合体Aの代わりにブロック共重合体Bを用いた以外は、実施例1と同様にして、積層構造体を作製し、得られた積層構造体における高分子膜の接触角、イオン化ポテンシャル及び膜厚を測定したところ、高分子膜の接触角は85.0°であり、イオン化ポテンシャルは5.25eVであり、膜厚は5nm〜10nmであった。
【0122】
【表1】

【0123】
<評価>
参考例1と参考例2より、構成単位(A)のみからなる重合体Dの膜の最表面の接触角は88.8°であり、構成単位(B)のみからなる重合体Cの膜の最表面の接触角は77.7°であった。これに対して、分子量分布の狭いブロック共重合体Aの高分子膜(実施例1)の接触角は88.0°であり、ブロック共重合体Bの高分子膜(比較例1)の接触角は85.0°であることから、ブロック共重合体Aの高分子膜の接触角は、重合体Cの膜の接触角よりも重合体Dの膜の接触角に近い値であった。
また、参考例1と参考例2より、構成単位(A)のみからなる重合体Dの膜のイオン化ポテンシャルは5.78eVであり、構成単位(B)のみからなる重合体Cの膜のイオン化ポテンシャルは5.18eVであった。これに対して、分子量分布の狭いブロック共重合体Aの高分子膜(実施例1)のイオン化ポテンシャルは5.54eVであり、ブロック共重合体Bの高分子膜(比較例1)のイオン化ポテンシャルは5.25eVであることから、ブロック共重合体Aの高分子膜のイオン化ポテンシャルは、重合体Cの膜のイオン化ポテンシャルよりも重合体Dの膜の接触角に近い値であった。
このことより、共重合体Aの高分子膜は、共重合体Bの高分子膜よりも、非付着性ブロック構成単位である構成単位(A)からなる非付着性ブロックを高い割合で表面に露出していることが認められる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明にかかる積層構造体及びその製造方法は、例えば、電気伝導性の高い非付着性ブロックを高い割合で露出させることができる。そのため、製造した積層構造体上に基材等を設けると、基材等との間で効率よく電気を流すことが可能であり、電気的に優れた特性を示す。そのため、光電変換素子、発光材料、電池用材料、電子部品材料等の先端機能材料の機能層及びその製造方法に好適に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
分子量分布が1.0以上、1.5以下であり、前記基材の表面に付着できる付着基を有する付着性ブロック構成単位からなる1種の付着性ブロック、及び非付着性ブロック構成単位からなる1種又は2種以上の非付着性ブロックを有する高分子を用いてなる高分子膜と
を備える積層構造体。
【請求項2】
前記高分子が下記式(1):
【化1】

(式中、Ar11、Ar12、Ar13、・・・、Arn(nは14以上の整数である。)は、同一又は異なり、前記付着性ブロック構成単位又は前記非付着性ブロック構成単位であって、置換基を有していてもよい共役系の2価の基である。前記非付着性ブロック同士、又は前記付着性ブロック及び前記非付着性ブロックは結合基を介して結合されていてもよく、前記非付着性ブロック同士、又は前記付着性ブロック及び前記非付着性ブロックが直接的に結合している場合には、互いに隣接する2個のブロックは異なっている。m11、m12、m13、・・・、mnは、同一又は異なり、3以上の整数である)
で表される構造を有する、請求項1に記載の積層構造体。
【請求項3】
前記付着性ブロックが芳香族ポリアミン残基である、請求項2に記載の積層構造体。
【請求項4】
前記式(1)で表される構造を有する高分子が、下記式(6):
【化2】

(式中、Ar1、Ar2及びAr3は、置換基を有していてもよい共役系の2価の基であり、Ar1とAr2とは異なり、Ar2とAr3とは異なる。RX及びRYは、同一又は異なり、末端基である。m1、m2及びm3は、同一又は異なり、0以上の整数であって、m1、m2及びm3のうち、少なくとも2個は3以上の整数である。Ar2が付着基を有する場合には、Ar1及びAr3は同一であり、RX、RY、Ar1及びAr3は付着基を有しない。Ar2が付着基を有しない場合には、Ar1又はAr3が付着基を有する。)
で表される高分子である、請求項2又は3に記載の積層構造体。
【請求項5】
前記式(6)で表される高分子が、下記式(7):
【化3】

(式中、Ar4及びAr5は、相異なり、置換基を有していてもよい共役系の2価の基である。RX及びRYは、前記と同義である。m4及びm5は、同一又は異なり、3以上の整数である。Ar4又はAr5は付着基を有する。)
で表される高分子である、請求項4に記載の積層構造体。
【請求項6】
前記高分子が、下記式:
A−Z<3.5°
(式中、Zは前記高分子の接触角の値であり、ZAは前記高分子が含む付着性ブロック構成単位のみからなる化合物の接触角の値及び前記高分子が含む非付着性ブロック構成単位のみからなる化合物の接触角の値のうちの最大値である。)
又は、下記式:
Z−ZB<3.5°
(式中、Zは前記高分子の接触角の値であり、ZBは前記高分子が含む付着性ブロック構成単位のみからなる化合物の接触角の値及び前記高分子が含む非付着性ブロック構成単位のみからなる化合物の接触角の値のうちの最小値である。)
を満たす、請求項5に記載の積層構造体。
【請求項7】
前記Arが置換基を有していてもよいアリーレン残基であり、前記Arが置換基を有していてもよい芳香族アミン残基である、請求項5又は6に記載の積層構造体。
【請求項8】
前記基材を前記高分子を含む溶液に浸漬する工程を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項9】
前記基材に前記高分子を含む溶液を塗布する工程を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の積層構造体の製造方法。

【図1】
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