説明

積層電子部品

【課題】積層体の積層方向で隣り合う内部導体同士を確実に接続して、接続不良が生じるのを防ぐことが可能な積層電子部品を提供すること。
【解決手段】積層電子部品は、複数の絶縁体層が積層された積層体と、積層体内に絶縁体層の積層方向に併置された複数の内部導体21がスルーホール導体31を通して互いに接続されることにより構成されるコイルと、積層体に配置され、コイルの両端に電気的に接続される端子電極と、を備えている。複数の内部導体21は、積層方向で互いに重なり合うと共にスルーホール導体31に接続される接続領域23をそれぞれ有している。各接続領域23は、積層方向から見て互いに交差する二方向にそれぞれ延びる部分23a,23bからなる。スルーホール導体31は、上記二方向にそれぞれ伸びる部分31a,31bを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば積層インダクタなどの積層電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
積層電子部品として、複数の絶縁体層が積層された積層体と、積層体内に絶縁体層の積層方向に併置された複数の内部導体が互いに電気的に接続されることにより構成されるコイルと、積層体に配置され、コイルの両端に電気的に接続される端子電極と、を備えているものが知られている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されている積層電子部品では、積層方向で隣り合う内部導体の端部同士が、積層方向から見て重なっていると共に長孔形状のスルーホール導体により電気的に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−286125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されている積層電子部品は、以下のような問題点を有している。
【0005】
積層体の積層方向で隣り合う内部導体同士がスルーホール導体の長手方向のうち一方の方向にずれた場合には、特許文献1にも記載されているように、内部導体同士の接続を確保することはできる。しかしながら、積層体の積層方向で隣り合う内部導体同士がスルーホール導体の長手方向のうち他方の方向、すなわち上記一方の方向と反対の方向にずれた場合、内部導体同士の重なり面積が減少するため、内部導体同士の接続を確保することが困難となる。スルーホール導体の短手方向に関しても、同様に、積層体の積層方向で隣り合う内部導体同士がスルーホール導体の短手方向のうち一方の方向にずれた場合は、内部導体同士の接続を確保することはできるものの、上記一方の方向と反対の方向にずれた場合には、内部導体同士の接続を確保することが困難となる。
【0006】
したがって、特許文献1に記載されている積層電子部品では、依然として、内部導体同士の接続を確保することできず、接続不良が生じる懼れがあるという問題点を含んでいる。
【0007】
本発明は、積層体の積層方向で隣り合う内部導体同士を確実に接続して、接続不良が生じるのを防ぐことが可能な積層電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る積層電子部品は、積層体内に絶縁体層の積層方向に併置された複数の内部導体がスルーホール導体を通して互いに接続されることにより構成されるコイルと、積層体に配置され、コイルの両端に電気的に接続される端子電極と、を備え、複数の内部導体は、積層方向で互いに重なり合うと共にスルーホール導体に接続される接続領域をそれぞれ有し、各接続領域は、積層方向から見て互いに交差する二方向にそれぞれ延びる部分からなり、スルーホール導体は、二方向にそれぞれ伸びる部分を有していることを特徴とする積層電子部品。
【0009】
本発明に係る積層電子部品では、積層方向で互いに重なり合う接続領域が、上記二方向にそれぞれ延びる部分を有すると共に、接続領域同士を接続するスルーホール導体も、上記二方向にそれぞれ延びる部分を有している。このため、積層方向で隣り合う内部導体(接続領域)のいずれか一方が上記二方向のうちの一方の方向及び当該一方の方向と反対方向のいずれの方向にずれた場合でも、一方の方向に延びる部分同士で内部導体(接続領域)同士の接続を確保することができる。また、積層方向で隣り合う内部導体(接続領域)のいずれか一方が上記二方向のうちの他方の方向及び当該他方の方向と反対方向のいずれの方向にずれた場合でも、他方の方向に延びる部分同士で内部導体(接続領域)同士の接続を確保することができる。このように、本発明では、内部導体に積層ずれが生じた場合でも、積層方向で隣り合う内部導体同士の接続不良を防ぐことができる。
【0010】
また、各接続領域が二方向にそれぞれ延びる部分からなるので、内部導体はコイルの内径側にはみ出すような部分を有することがない。したがって、本発明では、コイルに生じる磁束が内部導体で遮られることはなく、インダクタンス値の低下を防ぐことができる。
【0011】
スルーホール導体では、上記二方向にそれぞれ伸びる部分、が離れていてもよい。
【0012】
一般に、スルーホール導体は、絶縁体層を構成するグリーンシートに形成された貫通孔に導電性ペーストを付与し、導電性ペーストをグリーンシートと共に焼成することにより形成される。上記二方向にそれぞれ伸びる部分が離れて、分かれていると、上記各部分を構成することとなる導電性ペーストの体積は、上記各部分が一体とされたスルーホール導体を構成する導電性ペーストの体積よりもそれぞれ小さい。このため、スルーホール導体を導電性ペーストの焼成により形成する際に、スルーホール導体の上記各部分の収縮量が小さくなり、各部分と積層体との間に生じる空隙を小さくできる。これにより、たとえば、当該空隙に水分が滞留することによる磁気特性の低下やショートの発生といった特性劣化を防ぐことができる。また、スルーホール導体の電気抵抗が高くなるのを防ぐこともできる。
【0013】
また、上記各部分を構成することとなる導電性ペーストの体積は、上記各部分が一体とされたスルーホール導体を構成する導電性ペーストの体積よりもそれぞれ小さいため、導電性ペーストを乾燥させた際に表面に形成される窪みも小さくなる。このため、スルーホール導体と内部導体との接続不良が生じるのを防ぐことができる。
【0014】
一般的に、上記導電性ペーストの付与は、スクリーン印刷が用いられる。このとき、スキージが移動する方向と交差する方向に形成されるパターン部分に比べて、スキージが移動する方向に沿って形成されるパターン部分が適切に形成されない場合が多い。スクリーン印刷において上記のように導体パターンが適切に形成されない原因として以下のようなことが考えられる。すなわち、スクリーン印刷において、スキージが移動する方向に対して交差する方向のパターン部分に対応する開口には、スキージが移動する方向に交差する壁が存在するので、スキージによって開口に押し込まれた導電性ペーストは、この壁に衝突することによって下向きの力を受け、開口の深部にまで到達する。このため、導電性ペーストは、グリーンシート上に適切に塗着される。一方、スキージの移動方向に沿ったパターン部分に対応する開口には、上述したような壁が存在しないので下向きの力が弱く、導電性ペーストは、開口の深部にまで到達し難い。このため、導電性ペーストは、グリーンシート上に適切に塗着されない懼れがある。同様の理由から、グリーンシートに形成された貫通孔に導電性ペーストが十分に充填されない懼れがある。すなわち、貫通孔の開口がスキージの移動方向に沿って伸びる場合には、下向きの力を付与する壁が存在しないので、導電性ペーストの貫通孔内への充填不良が生じる懼れがある。
【0015】
スルーホール導体が、上述したように、上記二方向にそれぞれ伸びる部分に分かれていると、スキージが移動する方向に沿って形成されるパターン部分の長さを短く設定することが可能となり、導電性ペーストの付与を適切に行うことが可能となる。
【0016】
スルーホール導体では、上記二方向にそれぞれ伸びる部分が、連続していてもよい。この場合、スルーホール導体が位置することとなる貫通孔の形成を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、積層体の積層方向で隣り合う内部導体同士を確実に接続して、接続不良が生じるのを防ぐことが可能な積層電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係る積層電子部品を示す斜視図である。
【図2】本実施形態に係る積層電子部品に含まれる積層体の分解斜視図である。
【図3】本実施形態に係る積層電子部品の断面構成を説明するための図である。
【図4】内部導体とスルーホール導体との関係を説明するための図である。
【図5】スルーホール導体の断面構成を説明するための図である。
【図6】スルーホール導体の断面構成を説明するための図である。
【図7】スクリーン印刷を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0020】
まず、図1〜図3を参照して、積層電子部品の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る積層電子部品を示す斜視図である。図2は、本実施形態に係る積層電子部品に含まれる積層体の分解斜視図である。図3は、本実施形態に係る積層電子部品の断面構成を説明するための図である。
【0021】
積層電子部品1は、略直方体形状の素体2と、素体2内に配置されることとなるコイル3と、素体2の両端部にそれぞれ配置された一対の端子電極4,5と、を備えている。素体2の底面は、積層電子部品1が外部基板(図示せず)などに実装されたときに、当該外部基板に対向する面(実装面)である。積層電子部品1は、たとえば、積層チップビーズである。
【0022】
端子電極4,5は、素体2の端面の全面を覆い且つその一部が当該端面と隣り合う四側面上に回り込むように形成されている。端子電極4,5は、導電性金属粉末及びガラスフリットなどを含む導電性ペーストを焼き付けることによって形成されている。必要に応じて、形成された端子電極4,5の上にめっき層が形成されることもある。
【0023】
素体2は、複数の絶縁体層11が積層されることにより構成されている積層体である。実際の積層電子部品1は、絶縁体層11間の境界が視認できない程度に一体化されている。絶縁体層11は、後述するように、絶縁体グリーンシートの焼成物からなるものであり、絶縁体として機能する。
【0024】
絶縁体層11は、電気絶縁性を有しており、後述するような絶縁体グリーンシートの焼成物からなるものである。絶縁体層11は、たとえば、フェライト(Ni−Cu−Zn系フェライト、Ni−Cu−Zn−Mg系フェライト、Cu−Zn系フェライト、又はNi−Cu系フェライトなど)から構成されている。絶縁体層11は、フェライト以外の材料、たとえば、ストロンチウム、カルシウム、アルミナ及び酸化珪素からなるガラスと、アルミナとからなるガラス系セラミックなどから構成されていてもよい。
【0025】
コイル3は、複数の内部導体21がスルーホール導体31を通して互いに接続されることにより構成されている。各内部導体21は、コイル3の略3/4ターン分に相当し、対応する絶縁体層11上でそれぞれ略U字状に形成されている。各内部導体21は、絶縁体層11の縁、すなわち当該縁により形成されることとなる素体2の側面に沿う直線部分と、当該直線部分を接続するコーナー部分とからなる。複数の内部導体21は、素体2内に絶縁体層11の積層方向に併置されている。
【0026】
各内部導体21は、その両端部に、積層された状態で各スルーホール導体31と接続される接続領域23を有している。各内部導体21は、積層された状態で、各スルーホール導体31を介して上記積層方向にそれぞれ隣接する内部導体21と電気的に接続される。すなわち、各絶縁体層11が積層され、各内部導体21が対応するスルーホール導体31を介して相互に電気的に接続されることにより、コイル3が構成されることとなる。
【0027】
素体2内には、コイル3の両端側において、当該コイル3を端子電極4,5に電気的に接続するための複数の内部導体25が上記積層方向に併置されている。各内部導体25は、スルーホール導体33を通して互いに接続されている。最もコイル3寄りの内部導体25は、スルーホール導体35を通してコイル3の両端側に位置することとなる内部導体21に接続されている。
【0028】
ここで、各内部導体21,25及び各スルーホール導体31,33,35は、積層型の電気素子の内部電極として通常用いられる導電性材料(たとえば、銀、銅、又はニッケルなど)からなる。各内部導体21,25及び各スルーホール導体31,33,35は、上記導電性材料を含む導電性ペーストの焼結体として構成される。
【0029】
各接続領域23は、図4に示されるように、積層方向(図中、矢印D方向)で互いに重なり合うと共に、スルーホール導体31に接続されている。各接続領域23は、第一部分23aと第二部分23bとからなる。第一部分23aは、積層方向に直交する一の方向に延びている。第二部分23bは、積層方向に直交し且つ積層方向から見て上記一の方向に交差する方向に延びている。本実施形態では、第一部分23aが延びる方向(上記一の方向)と第二部分23bが延びる方向とは略直交している。接続領域23(第一部分23a及び第二部分23b)の幅は、内部導体21における接続領域23以外の領域と略同じとされている。
【0030】
スルーホール導体31は、図5にも示されるように、第一部分31aと第二部分31bとを有している。第一部分31aは、第一部分23aが延びる方向に延びている。第二部分31bは、第二部分23bが延びる方向に延びている。第一部分31aと第二部分31bとは、連続して形成されている。本実施形態では、第一部分31aは、当該第一部分31aが延びる方向に沿って幅が略一定とされた形状を呈し、第二部分31bも、当該第二部分31bが延びる方向に沿って幅が略一定とされた形状を呈している。図5では、スルーホール導体31の積層方向に直交する方向に切断した断面形状が示されている。
【0031】
続いて、積層電子部品1の製造方法について説明する。
【0032】
まず、絶縁体層11を形成するための絶縁体グリーンシートを準備する。絶縁体セラミックグリーンシートは、焼成されることにより積層電子部品1の絶縁体層11を構成する。絶縁体グリーンシートは、絶縁体グリーンシート用塗料をドクターブレード法などにより基材上に塗布し、その後乾燥させることにより、基材上に形成される。絶縁体グリーンシート用塗料は、上述したフェライトの粉末と、バインダ樹脂と、バインダ樹脂の溶媒と、を含有する。基材には、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムなどを用いることができる。
【0033】
次に、絶縁体グリーンシートに貫通孔を形成する。ここでは、絶縁体グリーンシートの所定の位置、すなわち上述したスルーホール導体31,33,35が形成される予定の位置に、貫通孔を形成する。貫通孔の形成は、レーザ加工やパンチによる機械加工などにより行うことができる。
【0034】
次に、絶縁体グリーンシートに導電性ペーストを付与し、焼成後に内部導体21,23を構成する導体パターンを絶縁体グリーンシート上に形成する。ここでは、導体パターンの形成と共に、導電性ペーストを絶縁体グリーンシートに形成された貫通孔に充填する。導電性ペーストは、たとえば、上述した金属を主成分とする金属粉末にガラスフリット及び有機ビヒクルを混合したものを用いることができる。導体パターンの形成及び貫通孔内への導電性ペーストの充填は、スクリーン印刷法などにより行われる。絶縁体グリーンシート上に形成された導体パターンと、貫通孔に充填された導電性ペーストとは、一体化している。このため、後述する焼成により、内部導体21,23及びスルーホール導体31,33,35が一体的で且つ同時に形成されることとなる。
【0035】
次に、導体パターンが形成された絶縁体グリーンシートを基材から剥がし、積層する。ここでは、絶縁体グリーンシートを所定の大きさに揃えて所定の枚数で積層し、積層方向から加圧してグリーン積層体を得る。基材は、絶縁体グリーンシートを順次積層する毎に、積層した絶縁体グリーシートから剥がしてもよく、また、積層する前に、絶縁体グリーシートから剥がしておいてもよい。
【0036】
次に、グリーン積層体を切断機で所定の大きさのチップに切断しグリーンチップを得る。得られたグリーンチップをバレル研磨し、グリーンチップの稜部を丸めてもよい。
【0037】
次に、グリーンチップから、各部に含まれるバインダ樹脂を除去した後、このグリーンチップを焼成する。この焼成により、絶縁体グリーンシートから絶縁体層11が、また、導体パターンから内部導体21,23が、また、貫通孔内に充填された導電体ペーストからスルーホール導体31,33,35が、それぞれ形成された素体2が得られる。得られた素体2は、バレル研磨して、引き出し部を外表面に確実に露出させてもよい。
【0038】
次に、素体2の外表面に導電性ペーストを付与して、熱処理を施すことにより導電性ペーストを素体2に焼付けて、端子電極4,5を形成する。導電性ペーストは、たとえばCuを主成分とする金属粉末にガラスフリット及び有機ビヒクルを混合したものを用いることができる。金属粉末は、Ni、Ag−PdあるいはAgを主成分とするものであってもよい。導電性ペーストを焼き付けて形成した電極の上にめっきを施してもよい。めっきは、Ni,Sn,Ni−Sn合金,Sn−Ag合金,Sn−Bi合金などの金属めっきを施すことができる。金属めっきは、たとえば、NiとSnとで2層以上形成した多層構造としてもよい。
【0039】
これらの工程により、上述した積層電子部品1が得られる。
【0040】
以上のように、本実施形態では、積層方向で互いに重なり合う接続領域23が、第一部分23aと第二部分23bとを有すると共に、接続領域23同士を接続するスルーホール導体31も、第一部分31aと第二部分31bとを有している。このため、積層方向で隣り合う内部導体21(接続領域23)のいずれか一方が上記一の方向及び当該一の方向と反対方向のいずれの方向にずれた場合でも、第一部分23a同士が第一部分31aを通して接続された状態が維持され、内部導体21(接続領域23)同士の接続を確保することができる。また、積層方向で隣り合う内部導体21(接続領域23)のいずれか一方が上記一の方向に交差する方向及び当該方向と反対方向のいずれの方向にずれた場合でも、第二部分23b同士が第二部分31bを通して接続された状態が維持され、内部導体21(接続領域23)同士の接続を確保することができる。このように、本実施形態では、内部導体21に積層ずれが生じた場合でも、積層方向で隣り合う内部導体21同士の接続不良を防ぐことができる。
【0041】
本実施形態では、各接続領域23が第一部分23aと第二部分23bとからなるので、内部導体21はコイル3の内径側にはみ出すような部分を有することがない。したがって、コイル3に生じる磁束が内部導体21で遮られることはなく、インダクタンス値の低下を防ぐことができる。
【0042】
本実施形態では、スルーホール導体31では、第一部分31aと第二部分31bとが連続していている。この場合、スルーホール導体31が位置することとなる貫通孔の形成を容易に行うことができる。たとえば、レーザ加工により、貫通孔における、第一部分31aが位置することとなる領域と第二部分31bが位置することとなる領域とを連続して形成することができる。
【0043】
以上、本発明の好適な実施形態について説明してきたが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0044】
スルーホール導体31の断面形状(積層方向に直交する方向に切断した断面形状)は、上述した形状に限られない。たとえば、図6の(a)〜(c)に示されるように、各部分31a,31bは、その延びる方向に沿って幅が変化する形状を呈していてもよい。
【0045】
スルーホール導体31の第一部分31aと第二部分31bとは、図6の(d)に示されるように、離れていてもよい。
【0046】
第一部分31aと第二部分31bとが離れて、分かれていると、各部分31a,31bを構成することとなる導電性ペーストの体積は、各部分31a,31bが一体とされたスルーホール導体31を構成する導電性ペーストの体積よりもそれぞれ小さい。このため、スルーホール導体31を導電性ペーストの焼成により形成する際に、各部分31a,31bの収縮量が小さくなり、各部分31a,31bと素体2との間に生じる空隙を小さくできる。これにより、たとえば、当該空隙に水分が滞留することによる磁気特性の低下やショートの発生といった特性劣化を防ぐことができる。また、スルーホール導体31の電気抵抗が高くなるのを防ぐこともできる。
【0047】
上述したように、各部分31a,31bを構成することとなる導電性ペーストの体積は、各部分31a,31bが一体とされたスルーホール導体31を構成する導電性ペーストの体積よりもそれぞれ小さいため、導電性ペーストを乾燥させた際に表面に形成される窪みも小さくなる。このため、スルーホール導体31と内部導体21との接続不良が生じるのを防ぐことができる。
【0048】
スクリーン印刷では、一般に、スキージが移動する方向と交差する方向に形成されるパターン部分に比べて、スキージが移動する方向に沿って形成されるパターン部分が適切に形成されない場合が多い。スクリーン印刷において上記のように導体パターンが適切に形成されない原因として以下のようなことが考えられる。すなわち、図7に示されるように、スクリーン版50において、スキージ51が移動する方向に対して交差する方向のパターン部分に対応する開口53には、スキージ51が移動する方向に交差する壁53aが存在するので、スキージ51によって開口に押し込まれた導電性ペーストは、この壁53aに衝突することによって下向きの力を受け、開口53の深部にまで到達する。このため、導電性ペーストは、グリーンシート55上に適切に塗着される。一方、スキージ51の移動方向に沿ったパターン部分に対応する開口には、上述したような壁53aが存在しないので下向きの力が弱く、導電性ペーストは、開口の深部にまで到達し難い。このため、導電性ペーストは、グリーンシート上に適切に塗着されない懼れがある。同様の理由から、グリーンシートに形成された貫通孔に導電性ペーストが十分に充填されない懼れがある。すなわち、貫通孔の開口がスキージの移動方向に沿って伸びる場合には、下向きの力を付与する壁が存在しないので、導電性ペーストの貫通孔内への充填不良が生じる懼れがある。
【0049】
スルーホール導体31が、上述したように、第一部分31aと第二部分31bとに分かれていると、スキージが移動する方向に沿って形成されるパターン部分の長さを短く設定することが可能となり、導電性ペーストの付与を適切に行うことが可能となる。
【0050】
本実施形態に係る積層電子部品1は、コイル3の軸心方向が素体2の端面と交差している構造(縦巻構造)とされているが、これに限られない。積層電子部品1は、コイル3の軸心方向が素体2の端面と平行である構造(横巻構造)とされていてもよい。
【0051】
内部電極21の形状は、上述した形状に限られない。たとえば、略L字状や略I字状などに形成されていてもよい。また、内部電極21の積層数(積層方向での数)も、上述した実施形態に限られない。
【0052】
本発明は、上述した積層チップビーズに限られことなく、積層チップインダクタや、コイルを含む積層複合部品(たとえば、積層フィルタ)などに適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1…積層電子部品、2…素体、3…コイル、4,5…端子電極、11…絶縁体層、21…内部導体、23…接続領域、23a…第一部分、23b…第二部分、31…スルーホール導体、31a…第一部分、31b…第二部分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の絶縁体層が積層された積層体と、
前記積層体内に前記絶縁体層の積層方向に併置された複数の内部導体がスルーホール導体を通して互いに接続されることにより構成されるコイルと、
前記積層体に配置され、前記コイルの両端に電気的に接続される端子電極と、を備え、
前記複数の内部導体は、積層方向で互いに重なり合うと共に前記スルーホール導体に接続される接続領域をそれぞれ有し、
各前記接続領域は、前記積層方向から見て互いに交差する二方向にそれぞれ延びる部分からなり、
前記スルーホール導体は、前記二方向にそれぞれ伸びる部分を有していることを特徴とする積層電子部品。
【請求項2】
前記スルーホール導体では、前記二方向にそれぞれ伸びる前記部分が、離れていることを特徴とする請求項1に記載の積層電子部品。
【請求項3】
前記スルーホール導体では、前記二方向にそれぞれ伸びる前記部分が、連続していることを特徴とする請求項1に記載の積層電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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