説明

穴部の肉盛り方法および肉盛り装置

【課題】穴部の肉盛り方法および肉盛り装置において、当て板を用いずに穴部を肉盛りすること。
【解決手段】母材3を貫通している穴部3aの肉盛り方法であって、溶接材で形成されたスリーブ14を穴部に挿入する工程と、そのスリーブの内径よりも少なくとも一部の外径が大きい摩擦棒1を回転させながら穴部に圧入する工程と、を備え、スリーブには、半径方向外側に穴部の穴径よりも大きく突出したフランジ部14aが一方の開口端に設けられ、摩擦棒を、フランジ部側からスリーブ内に回転させながら圧入し、該摩擦棒と該スリーブとの間の摩擦熱により該スリーブを塑性流動させて該穴部の内側で母材と混合、接合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩耗やクラック修理のため等に母材の穴部に肉盛りを行う穴部の肉盛り方法および肉盛り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
機械部品等の穴部の摩耗やクラック修理のために、穴部の内側に肉盛りを行う場合があるが、母材がアルミ合金等においても他の金属と同様に、従来は、TIG溶接法(タングステン電極を用いる不活性ガスアーク溶接法)等の溶融溶接により当該穴部の肉盛りを行っていた。
【0003】
アルミ合金等の軽金属の穴部の修理の際、TIG溶接等の溶融溶接による肉盛りを実施すると、かなりの高温になるため、熱によって部品の変形や材料の機械強度低下が発生してしまい、肉盛り不良が生じる場合があった。この対策として、例えば、図3の(a)に示すように、アルミ合金で形成された母材3に空けられた比較的小さな穴部3aの内側を肉盛りして修理する手段として、母材3の下面側において穴部3aの開口端を閉塞するように当て板5を当てがい、穴部3a内に溶接材であるスリーブ4を入れた状態で、該スリーブ4の内径より外径が大きい摩擦棒1をモータ等の駆動手段2で回転させるとともに、図3に(b)に示すように、穴部3a内に圧入させる手段が提案されている。
【0004】
この手段によれば、高速回転する摩擦棒1とスリーブ4との間で瞬間的に大きな摩擦熱を発生させるので、塑性化されたスリーブ4は、摩擦棒1によって塑性流動し、溶接材と母材3とが混合、接合し、穴部3aの内側が肉盛りされる。このような穴部の肉盛り手段では、母材3の融点まで温度を上昇させず、瞬時に溶接材を塑性流動させるため、変形や強度低下が抑えられ、穴部3aの良好な肉盛りが可能となるものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の肉盛り手段では、以下のような課題が残されている。すなわち、溶接材であるスリーブ4がずれたり脱落することを防ぐために、当て板5を穴部3aの下側に当てがう必要があり、当て板を使用せずに肉盛り加工を行うことができなかった。したがって、穴部の下側に当て板を配することができない場合には、穴部の肉盛りが困難であった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、当て板を用いずに穴部を肉盛りすることができる穴部の肉盛り方法および肉盛り装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するため、以下のような構成を採用した。すなわち、請求項1記載の穴部の肉盛り方法では、母材を貫通している穴部の肉盛り方法であって、溶接材で形成されたスリーブを前記穴部に挿入する工程と、そのスリーブの内径よりも少なくとも一部の外径が大きい摩擦棒を回転させながら穴部に圧入する工程と、を備え、前記スリーブには、半径方向外側に前記穴部の穴径よりも大きく突出したフランジ部が一方の開口端に設けられ、前記摩擦棒を、前記フランジ部側から前記スリーブ内に圧入させる技術が採用される。
【0008】
また、請求項2記載の穴部の肉盛り装置では、母材を貫通している穴部の肉盛り装置であって、溶接材で形成され前記穴部に挿入されるスリーブと、該スリーブの内径より少なくとも一部の外径が大きい摩擦棒と、該摩擦棒を回転させるとともに穴部に圧入する駆動手段と、を備え、前記スリーブには、半径方向外側に前記穴部の穴径よりも大きく突出したフランジ部が一方の開口端に設けられ、前記駆動手段は、前記摩擦棒を前記フランジ部側から前記スリーブ内に圧入させる技術が採用される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スリーブに、半径方向外側に穴部の穴径よりも大きく突出したフランジ部が一方の開口端に設けられ、摩擦棒をフランジ部側からスリーブ内に圧入させるので、圧入時にフランジ部でスリーブが支持されるため、スリーブがずれたり脱落することがなく、当て板等を用いる必要が無くなって、当て板を設置できない部品等へも適用することが可能になる。
また、撹拌部材を摩擦棒と同時に回転させるとともに摩擦棒の圧入に連動して圧入方向に移動させることにより、摩擦棒の圧入時に、撹拌部材の先端がスリーブと母材との境界で回転して接合面を直接撹拌し、塑性流動をより活発化させることができ、さらに良好な接合を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る穴部の肉盛り方法および肉盛り装置の第1実施形態における圧入時の状態を示す要部の断面図である。
【図2】本発明に係る穴部の肉盛り方法および肉盛り装置の第2実施形態における圧入時の状態を示す要部の断面図である。
【図3】本発明に係る穴部の肉盛り方法および肉盛り装置の従来例における圧入前の状態を示す要部を破断した斜視図および圧入時の状態を示す要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る穴部の肉盛り方法および肉盛り装置の第1実施形態を、図1を参照しながら説明する。この図において、符号1は摩擦棒、2は駆動手段、3は母材、14はスリーブである。
【0012】
本実施形態の肉盛り方法に用いる肉盛り装置は、図1に示すように、例えば、アルミ合金で形成された母材3(本実施形態では、厚さが均一な板状のもの)に空けられた比較的小さな穴部3a(例えば、ピン用の穴部)の内側を肉盛りして修理する装置であって、工具鋼で形成され回転可能なプラグである摩擦棒1と、該摩擦棒1を所定の回転数で回転駆動するとともに軸方向に進退させる駆動手段2と、溶接材で形成され穴部3aに挿入されるスリーブ14と、を備えている。
【0013】
スリーブ14は、溶接材として母材3と同じ材料であるアルミ合金で形成されているとともに、一方の開口端には、半径方向外側に穴部3aの穴径よりも大きく突出したフランジ部14aが設けられている。なお、スリーブ14は、フランジ部14a以外の外径が穴部3aより僅かに小さく形成されている。また、摩擦棒1は、その外径がスリーブ14の内径より大きく設定されている。
【0014】
この肉盛り装置を用いた穴部3aの肉盛り方法を、以下に説明する。
【0015】
まず、母材3の穴部3a内にスリーブ14を挿入し、フランジ部14aを母材3の表面に当接させておく。次に、この状態で、駆動手段2によって摩擦棒1を所定の回転数で回転させるとともに、フランジ部14a側からスリーブ14内に圧入させる。このとき、主に摩擦棒1の先端面1aの外縁部がスリーブ14に接触して摩擦熱を発生させる。そして、スリーブ14および母材3は、この摩擦熱によってスリーブ14および母材3を形成するアルミ合金の融点より低い温度で、かつ塑性流動させるのに十分な温度まで加熱される。
【0016】
さらに、摩擦棒1が圧入されることによって、先端面1aでスリーブ14の塑性化成分を流動させて溶接材と母材3とが混合、接合し、穴部3aの内側が肉盛りされる。このとき、フランジ部14aが母材3表面に係止されてスリーブ14が支持される。なお、肉盛り後、穴部3aの開口端側に残ったフランジ部14aは、機械加工によって除去される。
【0017】
このように、本実施形態では、穴部3aの穴径よりも大きく突出したフランジ部14aがスリーブ14の開口端に設けられ、摩擦棒1をフランジ部14a側からスリーブ14内に圧入させるので、圧入時に当て板が無くてもフランジ部14aが母材3表面に係止されてスリーブ14が支持されるため、スリーブ14がずれたり脱落することがない。
【0018】
次に、本発明に係る穴部の肉盛り方法および肉盛り装置の第2実施形態を、図2を参照しながら説明する。
【0019】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、穴部3a内に直にスリーブ14を挿入した状態で、摩擦棒1を挿入しながらスリーブ14内に圧入するのに対し、第2実施形態では、図2に示すように、穴部3aに挿入されたスリーブ14と母材3との間に円筒状の撹拌部材21をスリーブ14とは反対方向から挿入し、撹拌部材21を、摩擦棒20と同時に回転させるとともに摩擦棒20の圧入に連動して圧入方向に移動させる点で異なる。
【0020】
すなわち、第2実施形態の穴部の肉盛り装置は、撹拌部材21および摩擦棒20が同軸に固定され駆動手段2により回転駆動される回転軸部材23を備え、摩擦棒20は、先端側に設けられスリーブ14の内径より外径が大きい圧入部20aと、基端側に設けられスリーブ14の内径より外径が小さいとともにスリーブ14より長い挿入棒部20bとから構成され、回転軸部材23に着脱可能に取り付けられている。
【0021】
第2実施形態の肉盛り装置を用いた穴部3aの肉盛り方法を、以下に説明する。
【0022】
まず、予め摩擦棒20を回転軸部材23から外しておき、穴部3aに撹拌部材21を挿入すると共に反対側から撹拌部材21内にスリーブ14を挿入する。このとき、スリーブ14のフランジ部14aを母材3の表面に当接させるとともに、撹拌部材21の先端がフランジ部14aに接触するようにする。そして、外していた摩擦棒20を回転軸部材23に取り付ける。なお、摩擦棒20の挿入棒部20bには、回転方向に対して逆ねじになっている雄ねじ部(図示略)が形成されており、該雄ねじ部が回転軸部材23に形成されている雌ねじ孔(図示略)に螺着される。
【0023】
次に、この状態で、摩擦棒20および撹拌部材21を回転させながら圧入部20aをスリーブ14内に圧入させるように、回転軸部材23を軸方向に移動させる。すなわち、穴部3aに挿入させた摩擦棒20を挿入側の反対側から回転させながら引き抜くようにして圧入部20aを圧入させる。そして、圧入部20aの回転・圧入によって、スリーブ14の塑性化成分が流動し、溶接材と母材3とが混合、接合される。このとき、同時に回転する撹拌部材21の先端が、スリーブ14と母材3との境界を混ぜ合わせながら、穴部3aの内側が肉盛りされる。
【0024】
このように本実施形態では、撹拌部材21を摩擦棒20と同時に回転させるとともに摩擦棒20の圧入に連動して圧入方向に移動させるので、摩擦棒20の圧入時に、撹拌部材21の先端がスリーブ14と母材3との境界で回転して接合面を直接撹拌し、回転方向の塑性流動をより活発化させることができる。
【0025】
なお、上記各実施形態では、スリーブ14に母材3と同じ材料の溶接材を用いたが、溶接材料として肉盛りに適用可能な材料であれば、他の材料で溶接材を形成しても構わない。
【符号の説明】
【0026】
1、20 摩擦棒
2 駆動手段
3 母材
3a 穴部
14 スリーブ
14a フランジ部
20a 圧入部
20b 挿入棒部
21 撹拌部材
23 回転軸部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材を貫通している穴部の肉盛り方法であって、
溶接材で形成されたスリーブを前記穴部に挿入する工程と、そのスリーブの内径よりも少なくとも一部の外径が大きい摩擦棒を回転させながら穴部に圧入する工程と、を備え、
前記スリーブには、半径方向外側に前記穴部の穴径よりも大きく突出したフランジ部が一方の開口端に設けられ、
前記摩擦棒を、前記フランジ部側から前記スリーブ内に圧入させることを特徴とする穴部の肉盛り方法。
【請求項2】
母材を貫通している穴部の肉盛り装置であって、
溶接材で形成され前記穴部に挿入されるスリーブと、該スリーブの内径より少なくとも一部の外径が大きい摩擦棒と、該摩擦棒を回転させるとともに穴部に圧入する駆動手段と、を備え、
前記スリーブには、半径方向外側に前記穴部の穴径よりも大きく突出したフランジ部が一方の開口端に設けられ、
前記駆動手段は、前記摩擦棒を前記フランジ部側から前記スリーブ内に圧入させることを特徴とする穴部の肉盛り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−5701(P2010−5701A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236442(P2009−236442)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【分割の表示】特願平11−253650の分割
【原出願日】平成11年9月7日(1999.9.7)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】