説明

空孔付き光ファイバ

【課題】 波長1460nmから1625nmの広波長域において、波長分散特性の制御性、及び屈折率分布を簡易化し、容易に製造することができる空孔付き光ファイバを提供することにある。
【解決手段】 コア部1と、コア部1を覆うクラッド部2と、コア部1の中心C1から所定の距離Λ1に等間隔に形成された6個の空孔部3とを有し、所定の距離Λ1をコア部1のコア半径aで規格化した規格化空孔位置Λ/aと、空孔部3の空孔直径dをコア部1のコア直径2aで規格化した規格化空孔直径d/2a、及びコア半径aとクラッド部2に対するコア部1の比屈折率差Δをそれぞれ所定の範囲にして、波長1460nmから波長1625nmにおける波長分散の絶対値が3.5ps/nm・kmから10ps/nm・kmの範囲となるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空孔付き光ファイバに関し、特に波長1460nmから1625nmの広波長域を用いた高速光通信に供して好適な空孔付き光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
高密波長分割多重(Dense Wavelength Division Multiplexing)(以下、DWDMと略す)の技術を用いた高速光伝送システムでは、光伝送中の光非線形現象、及び累積分散の影響を低減するため、広波長域における光伝送路の波長分散特性を最適化する必要が生じる。例えば、非特許文献1では、光伝送路の波長分散を約3ps/nm・kmから11ps/nm・kmの範囲に設定することにより、波長1460nmから波長1625nmの広波長域におけるDWDM伝送特性を改善できることが報告されている。
【0003】
一方、広波長域における波長分散特性の最適化を行うためには、当該波長域で分散スロープを低減した光ファイバの開発が必要となる。このため、従来技術では、光ファイバの半径方向における屈折率分布を最適化することにより、分散スロープを低減する手法が検討されている。更に、特許文献1には、多数の空孔を形成した構造にすることにより、波長1200nm帯から波長1700nm帯といった、極めて広い波長帯域における波長分散特性を制御する技術も開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−114348号公報
【非特許文献1】中島 和秀 他著、「広波長域DWDM伝送用光ファイバの分散特性に関する考察」、2003年電子情報通信学会通信ソサイエティ大会、B-13-2、p.468、2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した屈折率分布の最適化による手法では、波長分散特性の制御性、及び屈折率分布が複雑化してしまう、といった課題があった。また、特許文献1に記載の手法では、多数の空孔を形成した構造となっているため、所望の特性を有する光ファイバを長尺に製造することが困難になってしまう、といった課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、前述した課題に鑑み提案されたもので、波長1460nmから1625nmの広波長域において、波長分散特性の制御性、及び屈折率分布を簡易化し、容易に製造することができる空孔付き光ファイバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決する第1の発明に係る空孔付き光ファイバは、コア部と、前記コア部を覆うクラッド部と、前記コア部の中心から所定の距離に等間隔に形成された、少なくとも4個の空孔部とを有し、波長1460nmから波長1625nmにおける波長分散の絶対値を3.5ps/nm・kmから10ps/nm・kmの範囲としたことを特徴とする。
【0008】
上述した課題を解決する第2の発明に係る空孔付き光ファイバは、第1の発明に記載された空孔付き光ファイバであって、前記コア部の中心から所定の距離Λを前記コア部のコア半径aで規格化した規格化空孔位置Λ/aと、前記空孔部の空孔直径dを前記コア部のコア直径で規格化した規格化空孔直径d/2a、及び前記コア半径aと前記クラッド部に対する前記コア部の比屈折率差Δが、それぞれ(0.5≦Λ/a≦0.8)と(0.05≦d/2a≦0.1)、及び(3.0μm≦a≦6.5μm)と(0.6%≦Δ≦1.4%)の範囲である、または(1≦Λ/a≦1.2)と(0.05≦d/2a≦0.15)、及び(2.0μm≦a≦3.5μm)と(0.5%≦Δ≦1.4%)の範囲であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る空孔付き光ファイバによれば、コア部の中心から所定の距離に、数個の空孔部を形成した構造となっているため、多数の空孔部を形成した従来の光ファイバに比べて、所望の特性を有する光ファイバを長尺に容易に製造することができる。また、コア部、及びクラッド部は所定の屈折率を有しており、屈折率分布が簡易化する。
【0010】
また、規格化空孔位置Λ/a、規格化空孔直径d/2a、コア半径a、及びクラッド部に対するコア部の比屈折率差Δをそれぞれ所定の範囲にすることにより、波長1460nmから波長1625nmにおいて、波長分散特性が簡易化し、具体的には、前記波長域における波長分散の絶対値が、3.5ps/nm・kmから10ps/nm・kmとなり、当該波長帯域における高速DWDM伝送特性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明に係る空孔付き光ファイバを実施するための最良の形態を図を用いて説明する。
【0012】
図1は、本発明の最良の形態に係る空孔付き光ファイバの断面図であり、図1(a)に、空孔部がコア部の領域に形成される場合の断面、図1(b)に空孔部がクラッド部の領域に形成される場合の断面を示す。
【0013】
本発明の最良の形態に係る空孔付き光ファイバは、屈折率が均一なクラッド部と、前記クラッド部に対して所定の比屈折率差を有するコア部と、前記コア部の中心から所定の距離に、等間隔にて形成された少なくとも4個の空孔部とを有する。すなわち、このような空孔付き光ファイバとして、図1(a)に示すように、屈折率n1でありコア半径a1のコア部1と、コア部1を覆い、屈折率n2であるクラッド部2と、コア部1の領域におけるコア部1の中心C1から所定の距離Λ1に等間隔にて形成された6個の空孔部3とを有する空孔付き光ファイバ10や、図1(b)に示すように、屈折率n1でありコア半径a2のコア部11と、コア部11を覆い、屈折率n2であるクラッド部12と、クラッド部12の領域におけるコア部11の中心C2から所定の距離Λ2に等間隔にて形成された6個の空孔部13とを有する空孔付き光ファイバ20が挙げられる。
【0014】
比屈折率差Δは、コア部1,11の屈折率n1、及びクラッド部2,12の屈折率n2を用い、次式(1)により定義される。
Δ = (n12−n22)/(2n12) (1)
【0015】
ここで、コア部の中心から空孔部までの距離Λをコア半径aで規格化した値を規格化空孔位置Λ/aとして定義し、空孔部の空孔直径dをコア直径2aで規格化した値を、規格化空孔直径d/2aとして定義する。
【0016】
図2は、本発明の最良の形態に係る空孔付き光ファイバにおいて、波長1460nmから波長1625nmにおける波長分散の絶対値が、3.5ps/nm・kmから10ps/nm・kmの範囲となる、規格化空孔位置Λ/aと規格化空孔直径d/2aの関係を示す図である。ここで、上述の波長分散範囲は、非特許文献1において伝送速度40Gbit/sの高速DWDM伝送特性を最適とする領域に該当する。
【0017】
したがって、図2中の網掛け領域、すなわち、規格化空孔位置Λ/aと規格化空孔直径d/2aをそれぞれ、(0.5≦Λ/a≦0.8)と(0.05≦d/2a≦0.1)、または(1≦Λ/a≦1.2)と(0.05≦d/2a≦0.15)の範囲にすることにより、上述の波長分散範囲における高速DWDM伝送特性が向上する。
【0018】
図3は、本発明の最良の形態に係る空孔付き光ファイバにおいて、波長1460nmから波長1625nmにおける波長分散の絶対値が、3.5ps/nm・kmから10ps/nm・kmの範囲となる、コア半径aとコア部の比屈折率差Δの関係について示す図である。図3(a)に、空孔部がコア部の領域に形成される場合におけるコア半径aとコア部の比屈折率差Δの関係、図3(b)に空孔部がクラッド部の領域に形成される場合におけるコア半径aとコア部の比屈折率差Δの関係を示す。
【0019】
従って、図2及び図3に示すように、空孔付き光ファイバにおいて、波長1460nmから波長1625nmにおける波長分散の絶対値が、3.5ps/nm・kmから10ps/nm・kmの範囲となる、規格化空孔位置Λ/aと規格化空孔直径d/2a、及びコア半径aとコア部の比屈折率差Δは、それぞれ(0.5≦Λ/a≦0.8)と(0.05≦d/2a≦0.1)、及び(3.0μm≦a≦6.5μm)と(0.6%≦Δ≦1.4%)の範囲となる、または(1≦Λ/a≦1.2)と(0.05≦d/2a≦0.15)、及び(2.0μm≦a≦3.5μm)と(0.5%≦Δ≦1.4%)の範囲となる。
【0020】
図4は、図2及び図3に示した条件を満たす、すなわち、本発明の最良の形態に係る空孔付き光ファイバにおいて、規格化空孔位置Λ/a、規格化空孔直径d/2a、コア半径a、及びコア部の比屈折率差Δをそれぞれ所定の値にしたときの波長分散特性を示す図である。この図において、実線は空孔部がコア部の領域に形成される空孔付き光ファイバ、すなわち、規格化空孔位置Λ/a、規格化空孔直径d/2a、コア半径a、及び比屈折率差Δが、それぞれ0.6、0.1、4μm、及び0.9%となる空孔付き光ファイバの波長分散特性を示す。破線は空孔部がクラッド部の領域に形成される空孔付き光ファイバ、すなわち、規格化空孔位置Λ/a、規格化空孔直径d/2a、コア半径a、及び比屈折率差Δが、それぞれ1.2、0.1、2.5μm、及び1%となる空孔付き光ファイバの波長分散特性を示す。
【0021】
この図に示すように、空孔部がコア部の領域に形成される空孔付き光ファイバでは、波長1.46μmから波長1.62μmにおいて、波長分散が−10ps/nm・kmから−5ps/nm・kmの範囲となり、空孔部がクラッド部の領域に形成される空孔付き光ファイバでは、波長1.46μmから波長1.62μmにおいて、波長分散が5ps/nm・kmから10ps/nm・kmの範囲となることが分かった。
【0022】
したがって、本発明の最良の形態に係る空孔付き光ファイバによれば、コア部の中心から所定の距離に、数個の空孔部を形成した構造となっているため、多数の空孔部を形成した従来の光ファイバに比べて、所望の特性を有する光ファイバを長尺に容易に製造することができる。また、コア部、及びクラッド部は所定の屈折率を有しており、屈折率分布が簡易化する。
【0023】
また、規格化空孔位置Λ/a、規格化空孔直径d/2a、コア半径a、及びクラッド部に対するコア部の比屈折率差Δをそれぞれ所定の範囲にすることにより、波長1460nmから波長1625nmにおいて、波長分散特性が簡易化し、具体的には、前記波長域における波長分散の絶対値が、3.5ps/nm・kmから10ps/nm・kmとなり、当該波長帯域における高速DWDM伝送特性が向上する。
【0024】
上記では、6個の空孔部を有する空孔付き光ファイバ10,20を用いて説明したが、異方性が生じず、上記波長分散特性を有すれば良く、コア部の中心から所定の距離に等間隔にて少なくとも4個以上の空孔部を形成した空孔付き光ファイバであれば、上述した空孔付き光ファイバ10,20と同様な作用効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、空孔付き光ファイバ、特に波長1460nmから1625nmの広波長域を用いた高速光通信に供して好適な空孔付き光ファイバに利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の最良の形態に係る空孔付き光ファイバの断面図である。
【図2】本発明の最良の形態に係る空孔付き光ファイバにおいて、波長1460nmから波長1625nmにおける波長分散の絶対値が、3.5ps/nm・kmから10ps/nm・kmの範囲となる、規格化空孔位置Λ/aと規格化空孔直径d/2aとの関係を示す図である。
【図3】本発明の最良の形態に係る空孔付き光ファイバにおいて、波長1460nmから波長1625nmにおける波長分散の絶対値が、3.5ps/nm・kmから10ps/nm・kmの範囲となる、コア半径aとコア部の比屈折率差Δの関係について示す図である。
【図4】本発明の最良の形態に係る空孔付き光ファイバにおいて、規格化空孔位置Λ/a、規格化空孔直径d/2a、コア半径a、及びコア部の比屈折率差Δをそれぞれ所定の値にしたときの波長分散特性を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1,11 コア部
2,12 クラッド部
3,13 空孔部
10,20 空孔付き光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部と、前記コア部を覆うクラッド部と、前記コア部の中心から所定の距離に等間隔に形成された、少なくとも4個の空孔部とを有し、波長1460nmから波長1625nmにおける波長分散の絶対値を3.5ps/nm・kmから10ps/nm・kmの範囲とした
ことを特徴とする空孔付き光ファイバ。
【請求項2】
請求項1に記載された空孔付き光ファイバであって、
前記コア部の中心から所定の距離Λを前記コア部のコア半径aで規格化した規格化空孔位置Λ/aと、前記空孔部の空孔直径dを前記コア部のコア直径で規格化した規格化空孔直径d/2a、及び前記コア半径aと前記クラッド部に対する前記コア部の比屈折率差Δが、それぞれ(0.5≦Λ/a≦0.8)と(0.05≦d/2a≦0.1)、及び(3.0μm≦a≦6.5μm)と(0.6%≦Δ≦1.4%)の範囲である、または(1≦Λ/a≦1.2)と(0.05≦d/2a≦0.15)、及び(2.0μm≦a≦3.5μm)と(0.5%≦Δ≦1.4%)の範囲である
ことを特徴とする空孔付き光ファイバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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