説明

空気ばね用下面板及びその製造方法並びに車両用空気ばね

【課題】ゴム座部との摺動による可とう性部材の摩耗を改善し、耐久性に優れた空気ばねに使用する下面板及びその製造方法並びに耐久性が改善された空気ばねを提供する。
【解決手段】車両用空気ばねの下面板20aは、内径部が開口した略ドーナツ状の可とう性部材の下面部を支持するものであって、下面環状支持体35と下面環状支持体35に接着形成されたゴム座部とからなる。ゴム座部は非潤滑ゴム部33と少なくとも一部がポリ四フッ化エチレンを含有する潤滑ゴム部31とからなる。潤滑ゴム部31は、可とう性部材との摺動が大きい部分であるK部を含むように形成されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてボルスタレス台車が採用されている鉄道車両の緩衝装置として設置使用される車両用空気ばねに使用される下面板及びその製造方法並びに車両用空気ばねに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の緩衝装置として設置使用される空気ばねは、一般的には上面板、下面板及び内径部が開口した略ドーナツ状の可とう性部材(ダイヤフラムとも称される)並びに下面板の下部に連接された積層ゴム支持体を備え、上面板、下面板及び可とう性部材にて上下方向並びに水平方向に変形可能な空気室が形成されており、該空気室に圧縮空気を供給して使用される。圧縮空気は一般的に積層ゴム支持体を円筒状に形成して内筒を空気通路とし、該内筒を通じて空気室に供給可能に構成されている。このような空気ばねは、ボルスタレス台車と車体の間に、積層ゴム支持体下部をボルスタレス台車上部に装着するようにして介装される。積層ゴム支持体の内筒部を通じてコンプレッサーより可とう性部材の内径側開口部を通じて加圧空気が供給され、可とう性部材が所定形状に膨張し、主として可とう性部材の変形によって台車の上下方向・水平方向の振動の車体への伝達が緩衝される。また該空気室の空気圧を車両進行方向左右において変更・調整することによって車体の傾斜調整を行ってカーブ走行時の速度を大きく低下させることなく走行することをも可能とする。
【0003】
かかる空気ばねにおいては、車両走行時の蛇行や旋回に伴い、その主要部である可とう性部材に大きな水平変位が発生し、かかる水平変位によって、前記可とう性部材の外周面のゴム層とこれを保持する上面板と下面板のゴム部との接触面で摺動が発生し、摩耗が発生する。可とう性部材のゴム層部分が摩耗すると大きな内圧のために早期に破損するという問題があり、かかる破損防止のために可とう性部材の摩耗防止技術が提案されている(特許文献1〜3など)。
【0004】
特許文献1、2記載の発明は、いずれも上面板と可とう性部材の間に摩擦係数の小さな樹脂シートや繊維材料を配設することにより、可とう性部材のゴムの摩耗を防止する発明である。また特許文献3記載の発明は、摺動による摩耗を防止するとともに低温環境における弾力性の低下防止並びにオゾン劣化防止のために、可とう性部材を構成する原料ゴムとしてエチレンプロピレンゴム(EPDM)を使用し、これにポリ四フッ化エチレンを配合したことを特徴とする発明である。
【0005】
しかし、特許文献1,2記載の発明は上面板と可とう性部材の間の摩耗は防止できるが、下面板との摺動による可とう性部材の摩耗は防止できない。特に可とう性部材と接する下面板のゴム座部は曲率半径が小さく、表面積が小さいために可とう性部材の接触時の圧力が大きく、強い摩擦力が発生するため、上面板以上に摩耗を受けやすい。また特許文献3記載の発明によれば、可とう性部材の摩擦係数は低下するものの、EPDMはゴムの強度がそれほど高くない上にポリ四フッ化エチレンを含有する結果さらに強度が低下し、ゴム座部との接触により摩耗が発生するために空気ばねとしての耐久性には、なお改善の余地を有するものである。
【0006】
下面板のゴム座部や上面板の上面ゴム部を製造した後にこれらを構成する加硫ゴムの表面に市販のポリ四フッ化エチレン含有塗料やグラファイト含有塗料を塗布して潤滑層を形成する方法も可能であるが、潤滑層の厚さが薄いと耐久性に欠ける一方で塗装では潤滑層を厚くすることが難しく、また塗料の密着性向上のためにバフがけ等の加硫後のゴムの表面の処理を行う必要があって、工数がかかるという問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開2001−89549号公報
【特許文献2】特開2003−40967号公報
【特許文献3】特開2007−308656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は,上記の公知技術の問題点に鑑みて,ゴム座部との摺動による可とう性部材の摩耗をさらに改善し、耐久性に優れた空気ばねに使用する下面板及びその製造方法並びに耐久性が改善された空気ばねを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の空気ばね用下面板は、車両用空気ばねにおいて、内径部が開口した略ドーナツ状の可とう性部材の下面部を支持する下面板であって、
前記下面板は下面環状支持体と前記下面環状支持体に接着形成されたゴム座部とからなり、
前記ゴム座部は少なくとも一部がポリ四フッ化エチレンを含有する潤滑ゴム部であることを特徴とする。
【0010】
上記構成の下面板を使用することにより、ゴム座部との摺動による可とう性部材の摩耗による寿命低下が改善され、耐久性に優れた空気ばねを構成することができる。またポリ四フッ化エチレンを含有しないために可とう性部材自体の強度、寿命も改善される。またゴム部を加硫成形後に塗装する場合と比較して、バフがけ等の処理が不要である。
【0011】
本発明の車両用空気ばねは、少なくとも上面板、下面板及び内径部が開口した略ドーナツ状の可とう性部材とを備え、前記可とう性部材の開口部が前記上面板と下面板にて保持された車両用空気ばねであって、
前記上面板は上面環状支持体と前記上面環状支持体に接着形成された上面ゴム部とからなり、前記下面板は下面環状支持体と前記下面環状支持体に接着形成されたゴム座部とからなり、
前記ゴム座部又は前記ゴム座部と前記上面ゴム部の少なくとも一部がポリ四フッ化エチレンを含有する潤滑ゴム部であることを特徴とする。
【0012】
上記構成の空気ばねは下面板のゴム座部との摺動、さらには上面板の上面ゴムとの摺動による可とう性部材の摩耗による寿命低下が改善され、耐久性に優れたものである。またポリ四フッ化エチレンを含有しないために可とう性部材自体の強度、寿命も改善された空気ばねである。またゴム部を加硫成形後に塗装する場合と比較して、バフがけ等の処理が不要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の下面板のゴム座部並びに上面板の上面ゴム部を構成するゴムは、可とう性部材を構成するゴムのように耐候性、特にオゾンによるクラック発生の問題がないために、EPDMやポリクロロプレンのような耐候性に優れるが強度が十分でないゴムを使用する必要はない。ゴム座部並びに上面ゴム部を構成する原料ゴムとしては、天然ゴム単独使用、スチレンブタジエンゴム単独使用、天然ゴムとスチレンブタジエンゴムの併用、天然ゴムとブタジエンゴムの併用、スチレンブタジエンゴムとブタジエンゴムの併用又は天然ゴムとスチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムの併用から選択することが、好ましい。天然ゴムとスチレンブタジエンゴムの併用、天然ゴムとブタジエンゴムの併用又は天然ゴムとスチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムの併用である場合、スチレンブタジエンゴムないしブタジエンゴムの配合比は原料ゴム100重量部中10重量部以上であることが好ましい。天然ゴムとブタジエンゴムの併用、又はスチレンブタジエンゴムとブタジエンゴムの併用の場合、ブタジエンゴムの比率は原料ゴム100重量部中10〜50重量部であることが好ましく、10〜30重量部であることがより好ましい。
【0014】
上記のゴムは耐摩耗性に優れたものであり、ポリ四フッ化エチレンを添加することにより、可とう性部材との摩擦を低下させて可とう性部材のゴムの摩耗を低下させる一方で、ゴム座部並びに上面ゴム部の摩耗も抑制することができる。
【0015】
ゴム座部及び上面ゴム部を構成するゴムに配合添加するポリ四フッ化エチレンの量は、原料ゴム100重量部に対して3〜15重量部であることが好ましい。
【0016】
ポリ四フッ化エチレンの配合量が多すぎるとゴムの強度が低下して逆にゴム座部及び上面ゴム部の摩耗が大きくなる場合がある。ポリ四フッ化エチレンの配合量が少なすぎると摩擦係数が十分に低下せず、可とう性部材の摩耗が大きくなる。
【0017】
ゴム座部及び上面ゴム部を構成するゴムには、公知の添加剤を配合することができる。具体的には補強性充填剤としてカーボンブラック、シリカなどが例示され、加工助剤として酸化亜鉛、ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス等が例示され、プロセスオイルなどの可塑剤、老化防止剤、タルクや硫酸カルシウムなどの無機充填剤、加硫剤、加硫促進剤などが例示される。ゴム座部を構成する加硫ゴムは硬度(デュロメーター A硬度)が45〜60であることが好ましく、上面ゴム部を構成する加硫ゴムは硬度(デュロメーター A硬度)が65〜75であることが好ましい。
【0018】
ポリ四フッ化エチレンは微粉末として添加する。ポリ四フッ化エチレンは低分子量ポリエチレンとともに配合することが好ましく、かかる構成によればポリ四フッ化エチレンのゴム材料中への分散性が向上しゴムの強度の向上等の好ましい結果が得られる。使用する低分子量ポリエチレンは融点が100℃以上140℃以下であることが好ましい。ポリ四フッ化エチレンと低分子量ポリエチレンを予め混合して原料ゴム組成物の製造に供することが好ましく、予め混合する場合、ポリ四フッ化エチレンは全量中10重量%以上〜50重量%以下であることが好ましく、20重量%以上であることがより好ましい。
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面にもとづいて説明する。
図1は空気ばねを例示した縦断側面図であり、本発明は少なくともゴム座部を構成するゴム材料に特徴を有するものであるが、その他の構成は従来の空気ばねと同じである。空気ばね10は上面板16、可とう性部材18及び下面板20からなり、大きな変位を吸収する大変形吸収部と該大変形吸収部を支持するとともに可とう性部材の内部に圧縮空気を供給する空気通路を有する円筒状の積層ゴム支持体24から構成されている。積層ゴム支持体24は環状円板26とゴム層28が複数接着積層されたものであり、振動の緩衝作用を有する。積層ゴム支持体24の下部には円筒部を通じて空気室に圧縮空気を送る接続ノズル29が設けられている。
【0020】
可とう性部材18は内径部が開口した略ドーナツ状(断面略C字状)であり、タイヤに類似した形状、構造を有するものであって開口部の端部は上面側、下面側それぞれ外面側に凸状の上面ビード部19a、下面ビード部19bが形成され、該上下のビード部19a、19bにはタイヤと同様にビードワイヤ(図示せず)が内径周方向に配設されている。可とう性部材18は補強材としてテキスタルコードが埋設された加硫ゴム膜にて形成され、補強材はタイヤと同様にバイアス状に配設され、補強材の端部はビードワイヤに巻き付けられた構造になっている。ビードワイヤを含むビード部19a、19bはそれぞれセルフシール方式もしくは締結方式により上面板16とストッパー受台11及び下面板20とストッパー30に固定されている。上面板16は上面環状支持体12と該上面環状支持体12の少なくとも可とう性部材18との接触側に接着形成された上面ゴム部14を備えている。また下面板20は下面環状支持体35と該環状支持体の少なくとも可とう性部材との接触側に接着形成されたゴム座部を備えている。
【0021】
上面板16の外周側は下方、すなわち可とう性部材の側に傾斜する傾斜面が形成されている。また可とう性部材18は上下のビード部19a、19bの中心面より下方、すなわち下面板20側に偏心するように構成されている。かかる構成によって可とう性部材が水平方向(前後左右方向)に変形する外力を受けた場合において、傾斜面がストッパーとして作用し、変形に対抗する反力が形成される。上面板16を構成する上面環状支持体12は平坦であって上面ゴムだけを傾斜面を形成するように構成してもよく、別途ストッパーを設ける場合には上面板16が平坦であってもよい。
【0022】
図2には本発明の下面板20のゴム座部を拡大して例示した。下面板20aは本発明の好適な1実施形態であり、環状支持体35と該環状支持体35の可とう性部材18との接触側である上面から外側端部下面に及んでゴム座部が形成されており、該ゴム座部は非潤滑ゴム部33とその外面、すなわち可とう性部材18と接触する面に皮膜状に形成された潤滑ゴム部31とからなる。K部は可とう性部材との摺動が大きい部分である。環状支持体35の内径に近い部分では、可とう性部材との接触はあるが、摺動は小さい。従って潤滑ゴム部31は部分的に、すなわち少なくとも可とう性部材との摺動が強く発生するK部を含むように形成されていることが好ましく、K部だけに形成されていてもよい。
【0023】
皮膜状に形成する潤滑ゴム部31の厚さは0.3mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましい。皮膜状の潤滑ゴム部の厚さが薄すぎる場合にはポリ四フッ化エチレンを含んだ層が摩耗消滅する場合があり、その場合には摺動による可とう性部材の摩耗が発生し、また上面板、下面板の製造に際して未加硫状態の潤滑ゴム原料組成物を単独でシート化する場合に薄く加工する必要があり、加工が難しくなる。
【0024】
図2(b)に示した下面板20bは、形状自体は下面板20aと同じであるが、非潤滑ゴム部33は下面環状支持体35の内径側に、潤滑ゴム部31はゴム座部を縦方向に分割して外径側に形成されている。潤滑ゴム部31は、上述の通り可とう性部材との摺動が発生するK部を含むように形成されている。
【0025】
図3は図1に例示の空気ばねの上面板16を拡大した断面図である。上面板16は下面板と同様に上面環状支持部材12と該上面環状支持部材12に上面ゴム部16が接着形成されており、上面ゴム部16は非潤滑ゴム部14とその可とう性部材18と接触する表面側に形成された潤滑ゴム部15とから構成されている。
【0026】
図4は本発明の上面板ないし下面板を使用した空気ばねの別の実施形態を示した部分縦断側面図である。この実施形態の空気ばね40においては、上面板を構成する上面環状支持体42の構造が中央部の環状体を一体化した構造に構成されている。また下面板48の断面がS字状に形成されると共に幅が図1の例より狭く形成されており、補強のために鋼製リング57が下面環状支持体35に接して配設されている。
【0027】
図5は図4に示した下面板48のゴム座部の構造を例示した断面図である。図5(a)のゴム座部は下面環状支持体55とその上面に固定配設された鋼製リング57側の非潤滑ゴム部53と該非潤滑ゴム部の外周面を被覆する潤滑ゴム部51とから構成されており、図5(b)のゴム座部は下面環状支持体55とその上面に固定配設された鋼製リング57からなる補強部材の外周側に潤滑ゴム部51が、そして内周側に非潤滑ゴム部53が形成されている。
【0028】
潤滑ゴム層は下面板のゴム座部ないし下面板と上面板の上面ゴム部の双方に設けることが好ましく、ゴム座部のみに設けた場合、上面板と可とう性部材の間に特許文献1に記載のように低摩擦係数の摺動シートを設けてもよい。
【0029】
下面板を構成する下面環状支持体並びに上面板を構成する上面環状支持体は高剛性材料にて形成される。かかる高剛性材料としては鋼板、ステンレス板、繊維補強樹脂などが使用可能であるが、鋼板を使用することが好ましい。上下の環状支持体と加硫ゴムの接着方法は特に限定されるものではないが、通常支持体上に接着剤と塗布した後に未加硫ゴムを配設し、その後金型内で加圧加硫して加硫ゴム部を形成すると同時に接着する加硫接着が行われる。
【0030】
潤滑ゴム層を有する上面板、下面板の製造方法を説明する。非潤滑ゴム層を構成する非潤滑ゴム原料組成物並びに潤滑ゴム層を構成する潤滑ゴム原料組成物をそれぞれ周知の方法によって調製する。すなわち潤滑ゴム原料組成物、非潤滑ゴム原料組成物を構成する原料の内、加硫剤と加硫促進剤を除いた成分を一般的にはバンバリーミキサーを使用して混練してマスターバッチとし、該マスターバッチを冷却した後にマスターバッチと加硫剤と加硫促進剤とをニーダーや混練ロールを使用して混練し、加熱により加硫する反応硬化性の原料組成物とする。反応硬化性の原料ゴム組成物は押出機などを利用して成形に適した形状に成形し、上面板、下面板の製造に使用する。具体的には、押出機を使用して連続平坦シート状に成形し、適宜の長さに裁断し、これを必要に応じて重ねて環状支持体に積層して例えば図2(a)の断面形状に近い状態に形成した後に金型内で加熱、加圧する方法、断面が例えば図2(a)であって環状支持体との接着面を水平にした形状のダイスを使用し、押出機で押し出した後に環状支持体に接着し、金型内で加熱、加圧する方法などが例示される。この際に潤滑層を構成する原料ゴムはシート状で別に成形して成形時に積層してもよく、2台の押出機を1個のダイスに接続して第1の押出機に潤滑ゴム原料組成物を、第2の押出機に非潤滑ゴム原料組成物をそれぞれ供給し、所定の2層構造に押出成形して上面板、下面板の成形にもよい。細いリボン状の原料ゴム組成物を押し出しつつ重ねて所定形状に形成するストリップビルド工法を使用することも可能である。
【0031】
潤滑ゴムはポリ四フッ化エチレン微粉末を成分として含有する。また上記のようにポリ四フッ化エチレンは低分子量ポリエチレンと混合した状態で、混練することが好ましい。加熱により加硫硬化するポリ四フッ化エチレンと低分子量ポリエチレンと混合物を含有する原料ゴム組成物の混練においては、混練ゴムの温度は低分子量ポリエチレンの融点以上にならないようにすることが、ポリ四フッ化エチレンの均一分散の観点より好ましい。また原料ゴム組成物を加硫硬化させる加硫温度は140℃以上となるようにすることが好ましい。
【0032】
加硫接着を行う場合には、上面板を構成する環状支持部材並びに下面板を構成する環状支持部材には、ゴム部形成部位に必要に応じて加硫接着剤を塗布する。鋼板やステンレスなどの金属材料の場合には予めショットブラストを行い、その後加硫接着剤を塗布する。
【実施例】
【0033】
〔潤滑ゴム原料組成物の調製〕
(実施例1)
天然ゴム100重量部、アロマ系プロセスオイル15重量部、FEFカーボンブラック30重量部、酸化亜鉛5重量部、ステアリン酸1重量部、パラフィンワックス1重量部、酸化防止剤2重量部、ポリ四フッ化エチレンと低分子量ポリエチレンとの混合物(ポリ四フッ化エチレン含有率40重量%)10重量部をバンバリーミキサーにて混練物の温度が120℃となるように混練してマスターバッチとし、得られたマスターバッチを室温に冷却した後にニーダーを使用してマスターバッチ全量に対して硫黄3重量部とスルフェンアミド系加硫促進剤0.8重量部を添加・混練し、潤滑ゴム原料組成物とした。
【0034】
(実施例2)
原料ゴムとしてスチレンブタジエンゴムを100重量部使用した以外は実施例1と同じ配合組成・方法にて潤滑ゴム原料組成物を調製した。
【0035】
(実施例3)
原料ゴムとして天然ゴム80重量部とブタジエンゴム20重量部を使用した以外は実施例1と同じ配合組成・方法にて潤滑ゴム原料組成物を調製した。
【0036】
(実施例4)
原料ゴムとして天然ゴム80重量部とスチレンブタジエンゴム20重量部使用した以外は実施例1と同じ配合組成・方法にて潤滑ゴム原料組成物を調製した。
【0037】
〔非潤滑ゴム原料組成物の調製〕
実施例のゴム座部と上面ゴム部の非潤滑ゴム部並びに比較例のゴム座部と上面ゴム部を構成する非潤滑ゴム原料組成物は以下のように調整した。天然ゴム100重量部、アロマ系プロセスオイル15重量部、FEFカーボンブラック30重量部、酸化亜鉛5重量部、ステアリン酸1重量部、パラフィンワックス1重量部、老化防止剤2重量部をバンバリーミキサーにて混練してマスターバッチとし、得られたマスターバッチを室温に冷却した後にニーダーを使用してマスターバッチ全量に対して硫黄3重量部とスルフェンアミド系加硫促進剤0.8重量部を添加・混練し、非潤滑ゴム原料組成物とした。
【0038】
(可とう性部材)
可とう性部材は周知の方法により製造した。すなわちナイロンコードをトッピング処理し、カレンダーロールを使用してゴム原料組成物をトッピングしてトッピングコードとし、これをカッターによりコードが所定の角度を形成するように裁断して成形に使用した。成形においてはトッピングコードを必要に応じて積層し、端部にビードを配設した後にトッピングコードをビードを包むように折り返し、表層と内層にゴム部材を貼り付けて未加硫成形体とし、これを金型内で加圧成型した。可とう性部材の原料ゴム組成物の配合は以下のとおりである。
ポリクロロプレンゴム 70重量部
天然ゴム 30重量部
FEFカーボンブラック 30重量部
アロマ系プロセスオイル 10重量部
酸化亜鉛 5重量部
ステアリン酸 1重量部
パラフィンワックス 2重量部
脂肪酸エステル(エクストンK-1) 3重量部
硫黄 2重量部
チアゾール系加硫促進剤 1重量部
チウラム系加硫促進剤 0.5重量部
【0039】
(ゴム座部成形用ゴム材料、上面ゴム部成形用ゴム材料の調製)
成形用の潤滑ゴム組成物は上記の未加硫ゴム組成物をロールにてシート化し、それぞれのシートを積層して成形用の材料とした。非潤滑ゴム組成物は必要な厚さとなるように押出機にてシート化し、シート状の潤滑ゴム組成物と非潤滑ゴム組成物を成形に適した形状の成形用ゴム材料となるように積層して上面板と下面板の製造に供した。
【0040】
(下面板の製造)
図1,2に示した断面形状を有し、下面板を構成する鉄製の下面環状支持部材の両面をショットブラスト処理した後に市販の加硫接着剤を塗布した。加硫接着剤を塗布した下面環状支持部材に非潤滑ゴム原料組成物の成形物と潤滑ゴム原料組成物の成形物を接着し、金型内で160℃にて加熱加圧して未加硫ゴムを加硫するとともに所定形状に成形して下面板を製造した。
【0041】
(上面板の製造)
下面板の製造と同様な方法で図3に示したように表面に厚さ約2mmの潤滑層が形成された上面ゴム部を有する上面板を作製した。
【0042】
実施例1〜4の潤滑ゴム原料組成物について、厚さ2mmのシート状の加硫ゴムを作成した。
【0043】
(評価)
(1)空気ばねの耐久試験
空気ばねを実使用と同じ状態にセットし、温度25℃にて内圧500kPaをかけて、上下の振動を100万回と水平方向の振動を20万回繰り返し加えた後にゴム座部表面と上面ゴム表面の摩耗を評価した。評価結果は(表1)に示した。振動は上下方向に振幅±30mm、振動数1.0Hz、水平方向に振幅±75mm、振動数0.5Hzにて行った。
(2)テーバー摩耗
ゴム/ゴム摩耗試験を行った。可とう性部材のシートを円盤状に裁断してテーバー摩耗試験機の回転板にセットし、潤滑ゴム及び非潤滑ゴムにて摩耗輪を2個作成してテーバー摩耗試験機の左右の摩耗輪取付アームにセットする。摩耗試験はJIS K 6264に従って荷重500gにて行った。結果は2000回摩耗後の摩耗輪のゴムとシート状ゴムの摩耗量(×10−3cc)を測定し、表3に示した。
(3)指触評価
テーバー摩耗試験後の摩耗輪構成ゴムの表面を指触により粘着の程度を評価した。粘着の程度は指触により簡単に評価できる性能である。結果は表2に示した。
【0044】
【表1】

【0045】
表1には空気ばねの耐久試験結果を示した。表1の結果より、本発明の潤滑ゴム部を有するゴム座部を備えた下面板並びに潤滑ゴム部を有する上面ゴム部を備えた上面板を使用した空気ばねは、可とう性部材の耐摩耗性が改善されたものであり、結果として耐久性がすぐれたものであることが分かる。また表3に示したテーバー摩耗の評価結果も本発明の潤滑ゴムを使用した場合には、ゴム座部、可とう性部材の双方のゴムの摩耗が低減しており、耐久試験結果を裏付けるものである。
【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
上面板の上面ゴム部並びに下面板のゴム座部の潤滑ゴム部に実施例2の潤滑ゴムを使用して空気ばねを製造し、評価を行った結果を表1に示したが、実施例1〜4の潤滑ゴムについては、指触評価を行った結果が表2に示されている。いずれもポリ四フッ化エチレンを含有しない比較例のゴムと比較して潤滑性が優れていることが分かる。従って実施例1,3,4の潤滑ゴムを使用した場合も、空気ばねの耐久性に優れたものとなることが推認される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の下面板を使用した空気ばねを例示する縦断側面図
【図2】本発明の下面板の構造の好適な実施形態を示す部分断面図
【図3】本発明の上面板の構造の好適な実施形態を示す部分断面図
【図4】本発明の下面板の構造の好適な別の実施形態を示す部分断面図
【図5】図4に示した下面板のゴム座部を拡大して示す部分断面図
【符号の説明】
【0050】
10 空気ばね
16 下面板
18 可とう性部材
31 潤滑ゴム部
35 下面環状支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用空気ばねにおいて、内径部が開口した略ドーナツ状の可とう性部材の下面部を支持する下面板であって、
前記下面板は下面環状支持体と前記下面環状支持体に接着形成されたゴム座部とからなり、
前記ゴム座部は少なくとも一部がポリ四フッ化エチレンを含有する潤滑ゴム部である空気ばね用下面板。
【請求項2】
前記潤滑ゴム部を構成する原料ゴムは天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、天然ゴムとスチレンブタジエンゴム及び/又はブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムのいずれかである請求項1に記載の空気ばね用下面板。
【請求項3】
少なくとも上面板、下面板及び内径部が開口した略ドーナツ状の可とう性部材とを備え、前記可とう性部材の開口部が前記上面板と下面板にて保持された構造を含む車両用空気ばねであって、
前記上面板は上面環状支持体と前記上面環状支持体に接着形成された上面ゴム部とからなり、前記下面板は下面環状支持体と前記下面環状支持体に接着形成されたゴム座部とからなり、
前記ゴム座部又は前記ゴム座部と前記上面ゴム部の少なくとも一部がポリ四フッ化エチレンを含有する潤滑ゴム部である車両用空気ばね。
【請求項4】
前記潤滑ゴム部を構成する原料ゴムは天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、天然ゴムとスチレンブタジエンゴム及び/又はブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムである請求項3に記載の車両用空気ばね。
【請求項5】
車両用空気ばねにおいて、内径部が開口した略ドーナツ状の可とう性部材の下面部を支持する下面板の製造方法であって、
前記下面板は下面環状支持体と前記下面環状支持体に接着形成されたゴム座部とからなり、
前記ゴム座部はポリ四フッ化エチレンを含有する潤滑ゴム部とポリ四フッ化エチレンを含有しない非潤滑ゴム部とからなり、前記潤滑ゴム部を形成する潤滑ゴム原料組成物と前記非潤滑ゴム部を形成する非潤滑ゴム原料組成物とを前記下面環状支持体に配設し、金型内にて加熱加硫する空気ばね用下面板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−202412(P2012−202412A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64274(P2011−64274)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】