説明

空気中の揮発性有機化合物を除去するための活性炭繊維シートの使用方法

【課題】小型の装置であっても、有害ガス成分を効率良く完全に除去し、しかも、大量の
空気の処理を行えるとともに吸着材の機能低下が少ない革新的な空気清浄技術の開発。
【解決手段】通気路を構成する隙間に気体を流し、気体中に含まれるガスと粒子の拡散係
数の相違を利用してガスを選択的に通気路表面に吸着させて気体中から除去する拡散スク
ラバーの通気路構成材料として活性炭繊維シートを用いて、空気中の揮発性有機化合物を
非濾過方式で活性炭繊維シートにより除去する活性炭繊維シートの使用方法。この方法を
、空気浄化装置をGormley及びKennedyの拡散スクラバの原理を表す理論式において、1パ
スで50%以上の有害ガス除去効率を得られる構造として適用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たばこ臭に含まれるアセトアルデヒドやシックハウス症候群、及び化学薬品
過敏症などの原因物質であると考えられている室内空気中のホルムアルデヒド、ベンゼン
、トルエン、エチルベンゼン、キシレンなどの揮発性有機化合物(VOC)を除去するた
めの活性炭繊維シートの新規な使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シックハウス症候群、及び化学薬品過敏症などはマンション、住宅、ビルなどの建材、
塗料、接着剤などから発生するホルムアルデヒド、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン
、キシレンなどのVOC成分が大きな原因と考えられてきた。
【0003】
最近では、酸化チタン光触媒を用いたVOCの除去処理に関する研究が多くの研究者に
よって行われてきた。汚染空気処理量を拡大するために酸化チタンを塗布したフィルター
などが開発されてきたが、根本的には汚染空気をフィルターで濾過処理するので、通気抵
抗を少なくするために酸化チタンの塗布量が少ないことが要求される。また、フィルター
を通過する時間は瞬時でありVOCの酸化分解の反応時間が極めて短く、高い効率でVO
Cを除去するには必ずしも適していると言えない。
【0004】
また、酸化チタン光触媒を用いたVOCの除去処理技術の問題点としては、ベンゼン、
トルエン、エチルベンゼン、キシレン等のベンゼン環を有する芳香族炭化水素については
、最終的に無害な水(H2O)、二酸化炭素(CO2)までに酸化分解反応が進まず、種々の中
間生成物が生成し、酸化チタン光触媒の表面に中間生成物が吸着し光触媒作用を抑制する

【0005】
さらに、塩素原子を含む塩化メチレン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、トリクロ
ロエチレン、テトラクロロエチレン等の揮発性有機塩素化合物の場合には、微量ではある
がホスゲン、塩素ガス、塩化水素と言った極めて有害な中間生成物が生成するので問題と
なる。
【0006】
したがって、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等のベンゼン環を有する
芳香族炭化水素、塩化メチレン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、トリクロロエチレ
ン、テトラクロロエチレン等の揮発性有機塩素化合物の場合には、酸化チタン光触媒を用
いたVOCの除去処理技術が必ずしも適しているとは言えない。
【0007】
一方、ガス状の化学成分の除去には粒状活性炭が一般に使用されている。また、近年粒
状活性炭に代わり、繊維状の活性炭である活性炭繊維シートを用いた吸着材が開発され、
空気浄化フィルターなどに使用されている(特許文献1〜3)。
【0008】
本発明者らは、活性炭繊維を基材とした、特にVOCの除去性能が優れた活性炭繊維を
開発した(特許文献4〜7、非特許文献1)。
【0009】
活性炭繊維は、通常の粒状活性炭に比べるとその外表面積、比表面積共に大きいので、
空間中に存在するガス成分との接触効率が高く、フィルターとして使用した場合、吸着速
度を速めることができる。
【0010】
通常、これらの空気清浄機は、汚染空気をフィルター素材の平面と直交する方向に流し
てフィルター素材の中を強制的に通過させて有害ガスの吸着と徐塵を同時に行う濾過方式
か、予め徐塵フィルターで粒子を捕捉した後に有害ガスをガス吸着フィルターで吸着する
濾過方式である。濾過方式で有害物質の吸着効率を上げるには、フィルターの目を細かく
する必要があるので通気抵抗が大きくなり、多量の空気処理が困難である。
【0011】
これに対して、シート状のフィルターを平行に積層したり(特許文献8,9)、コルゲ
ート状にしたり(特許文献10〜12)して通気路となる間隙にフィルター素材の平面と
平行に汚染空気を流して空気流の圧力損失を少なくする方法もあるが、当然ながら素通り
する被処理空気量が多くなり、接触面積を高めるためにプリーツ状やコルゲート状として
も有害物質の吸着効率が悪くなる。この方式で吸着効率を高めるのは非常に難しく、吸着
効率を高めるための工夫としては、例えば、隙間からなる奥行き方向の通路がジグザグと
なるように配設した例(特許文献13)が知られる程度である。
【0012】
【特許文献1】特開平6−339629号公報
【特許文献2】特開平7−251004号公報
【特許文献3】特開2004−526928号公報
【特許文献4】特開2002−159852号公報
【特許文献5】特開2002−219163号公報
【特許文献6】特開2003−053116号公報
【特許文献7】特開2004−277926号公報
【特許文献8】実開平5−85416号公報
【特許文献9】特開平11−207140号公報
【特許文献10】特開平5−78996号公報
【特許文献11】特開2001−120648号公報
【特許文献12】特開2003−62413号公報
【特許文献13】特開2004−298316号公報
【非特許文献1】浅見 圭一他、工業材料、Vol.49,No.1,p.77-80,(2001年1月)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
室内空気汚染への社会的関心の高まりから、 多数の空気清浄技術の研究が行われてき
ている。空気清浄機にVOC除去効果を付加する要求も増えてきている。しかしながら、
問題の重要性に比較して、その多くの技術は、既存のフィルター法、活性炭等の吸着剤等
による濾過方式の除去技術を単に転用したものに過ぎず、その処理能力や処理量に疑問を
持たざるを得ないものも多い。有害ガスの吸着剤として活性炭微粒子や活性炭繊維は代表
的なものであるが、それら単独では有害ガスを十分に除去できないので、薬剤の添着や他
の除去手段との併用などの工夫が必要である。
【0014】
最近では、酸化チタン光触媒を利用した室内空気清浄技術も開発されてきたが、反応槽
でのバッチ的な空気処理技術であるために、空気処理量が毎分数リットル程度と少なく、
多量の空気処理に関しては問題である。
【0015】
また、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等のVOCを酸化チタン光触媒
で除去処理を行う場合、完全に二酸化炭素や水にまでに酸化分解することは困難であり、
中間生成物が生成して触媒表面に吸着し、酸化チタン光触媒の能力を低下させる。
【0016】
さらに、従来のフィルターを用いる濾過方式の室内空気浄化装置は、吸着材による吸着
効率を高めれば高めるほど空気中に含まれる異物粒子が吸着材に付着されてその機能低下
が早まることになり、活性炭繊維を用いた場合でもフィルターの頻繁な交換や再生が必要
となる。また、吸着量に限界があるため、吸着量が飽和すると吸着した成分が通気の力に
よって脱離されて再放出されることになる。また、生活の場において使用される室内空気
浄化装置はできるだけ発生音の小さいことが望まれ、フィルターの圧損を小さくして空気
循環用のファンの騒音を低下させる必要があるが、吸着効果を高めることと矛盾する。
【0017】
そこで、従来の技術の延長ではなく、小型の装置であっても、VOC等の有害ガス成分
を効率良く完全に除去し、しかも、大量の空気の処理を行えるとともに吸着材の機能低下
が少ない革新的な空気清浄技術の開発が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
従来、空気清浄装置のフィルターの吸着性能を発揮させるには、フィルターの平面に対
して汚染空気を直交方向に流す濾過方式が技術的な常識であった。送風手段の低出力化に
よって騒音や振動を低減するために、シート状のフィルターを平行に積層してその間隙に
汚染空気を流す方式は、吸着性能の低下が避けられないと考えられてきた。
【0019】
活性炭繊維シートも上記のような空気を直交方向に流す方式のフィルターとして専ら使
用されてきた。通常、フィルターの吸着力は、フィルターの平面に対して除去対象成分を
含有する空気を直交方向に流して濾過した場合の、空気中の除去対象成分の平衡濃度(p
pm)とフィルターの平面における平衡吸着量(mg/g)の関係で示される。また、フ
ィルターの吸着性能は、吸着が飽和するまでの単位面積当たりの吸着容量(mmol/m2)で表
すことができ、空気清浄装置のように長時間にわたり使用されるフィルターでは、この値
が大きいほどフィルターを交換するまでに大量の空気の処理が可能であり望ましいが、活
性炭繊維シートを用いた場合、例えば、ベンゼンの吸着容量はよくても数十mmol/m2が限
界であった。
【0020】
しかしながら、本発明者は、活性炭繊維シートを拡散スクラバー方式の通気路構成材料
として用いることによって、空気中のホルムアルデヒド、ベンゼン、トルエン、エチルベ
ンゼン、キシレンなどの揮発性有機化合物(VOC)に対する吸着容量が、濾過方式で使
用する場合よりも数倍以上となり、従来知られていた吸着容量の限界を大幅に上回るとい
う特異で顕著な効果が得られることを見出した。
【0021】
活性炭繊維シートを濾過方式で使用した場合に比べて、拡散スクラバーによって非濾過
方式で使用した場合になぜこのように著しく吸着容量が増大するのか、その理由は明確で
はないが、濾過方式の場合、活性炭繊維シート面に直交して空気を流すので通気抵抗が増
すと活性炭繊維シート表面に吸着されたガス成分が通気の力の作用によって脱離してしま
うのに対して、拡散スクラバーの場合は活性炭繊維シート面に平行して空気を流すので通
気抵抗はなく、また、活性炭繊維シート表面に吸着されたガス成分が通気の力の作用によ
って脱離することが少ないことが主な要因と考えられる。
【0022】
すなわち、本発明は、通気路を構成する隙間に気体を流し、気体中に含まれるガスと粒
子の拡散係数の相違を利用してガスを選択的に通気路表面に吸着させて気体中から除去す
る拡散スクラバーの通気路構成材料として活性炭繊維シートを用いて、空気中の揮発性有
機化合物を非濾過方式で活性炭繊維シートによって除去することを特徴とする活性炭繊維
シートの使用方法である。
【0023】
また、本発明は、通気路をGormley及びKennedyの拡散スクラバーの原理を表す理論式に
おいて、1パスで50%以上の有害ガス除去効率を得られる構成としたことを特徴とする
上記の活性炭繊維シートの使用方法、である。
さらに、本発明は、通気路のユニットを複数段直列に接続したことを特徴とする上記の
活性炭繊維シートの使用方法、である。
【0024】
本発明の方法による空気浄化は拡散スクラバー法の原理に基づくものであり、具体例と
しては、活性炭繊維シートを平行に積層状に多数並べるかコルゲート状の構造として通気
路となる隙間を設けて空気浄化装置の通気路に設置するとよい。この場合、活性炭繊維シ
ートからなる通気路の狭い隙間にVOCを含有した汚染空気を連続的に流すと、ガスと粒
子は、従来のフィルターのように汚染空気の濾過によってガスと粒子がフィルターの表面
で同時に捕捉されるのとは異なり、濾過されることなくガスと粒子の拡散係数の違いによ
って分離されて活性炭繊維シートの表面に拡散してきたVOCのみを活性炭繊維シートの
表面で吸着して空気中から除去することになる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の活性炭繊維シートの使用方法は、(1)単なる活性炭繊維シート面をもつ通気
路によって非濾過方式で効率良くVOCの除去処理が行えること、(2)活性炭繊維シー
ト面を持つ通気路の狭い隙間に汚染空気を流すので、従来の濾過方式とは異なり通気抵抗
がなく、汚染空気の処理量を大きくできること、等の従来の濾過方式とは比較にならない
高効率と高い除去容量で、 VOCを除去処理できる画期的な優位性を持っている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
活性炭繊維は、レーヨン繊維、アクリル繊維、フェノール系繊維、ピッチ系原料から工
業的に生産されている。石炭ピッチを原料として溶融紡糸法によって製造された活性炭繊
維は、例えば、太さが11〜18μm、比表面積(m2/g)700〜2500、外表面積(m
2/g)0.2〜0.7、平均細孔径(nm) 1.7〜2.1の特性を有する。ピッチ系原料か
ら製造された活性炭繊維の炭素含有率は約93%であり、他の原料のものより相当に高い

【0027】
これらの活性炭繊維は通常の繊維加工機械と技術を駆使してフェルト、クロス、パルプ
等との抄紙など種々の成形体に加工できる。例えば、カード機を使用して乾式シートや乾
式フェルトに成形できる。
【0028】
活性炭繊維は疎水性であるため、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、有
機塩素化合物などの疎水性物質の吸着特性に優れるが、アンモニア、硫化水素、低級アル
コール、低級アルデヒドなどの揮発性の高い親水性ガスの吸着能力はよくない。このよう
な欠点を補うものとして、これらの気体と反応性のある薬剤を添着した活性炭繊維も市販
されている。
【0029】
本発明に使用する活性炭繊維シートとしては、その種類は特に限定されないが、本発明
者らが、これまで開発してきたVOCの除去性能が優れた活性炭繊維(上記特許文献4〜
7、非特許文献1)からなるシートは吸着性能が特に高く有用である。
【0030】
このVOC除去用に適する活性炭繊維は下記の表1に示すとおりの基本性能を有してい
る。
【表1】

【0031】
A−7,A−10,A−15,A−20の順に細孔径、比表面積、細孔容積が大きくな
る。逆に、繊維径は小さくなる。いずれも、ミクロ孔(2nm以下)の発達した構造を有
しており、メソ孔(2〜50nm)の発達した粉状炭や粒状炭に比べて低分子、低濃度の
ガスの吸着性がよいという特徴がある。また、繊維状であるため、フェルト状、シート状
、ペーパー状、ハニカム状、コルゲート状など種々の形に加工できる。低級アルデヒド類
除去用に適する活性炭繊維シートをフィルターとして用いた場合、アセトアルデヒド吸着
特性は1ppmでの平衡吸着量が40mg/g程度である。
【0032】
この活性炭繊維を用いた空気浄化用シートは、施工後のマンション、住宅などの床に敷
設したり、壁に掛けたりすることによって建材、塗料、接着剤などから発生するホルムア
ルデヒド、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンなどのVOC成分を除去する
ことができる。また、プリーツ、コルゲート形状への加工が容易であり、各種空気清浄機
用のフィルターとして使用される。
【0033】
本発明は、活性炭繊維シートを拡散スクラバー方式の通気路構成材料として用いること
を特徴とする。本発明で採用する拡散スクラバー方式の原理は、拡散を利用したガスの捕
集・除去法であり、気体中に含まれるガスと粒子の拡散係数が大きく異なることを利用し
、拡散現象を利用してガスを選択的に気体中から除去する方法である。したがって、本明
細書で言う拡散スクラバーの原理は、水などの溶液にガスを拡散させる、いわゆる湿式拡
散スクラバー法とは異なる。
【0034】
このような拡散スクラバーの原理は、従来、大気中の微量ガス成分の分析手段に用いら
れる程度であったが、本発明者らは、先に、従来の化学フィルター、活性炭等のガス除去
方法とは発想を異にする革新的な空気汚染物質の除去処理技術として拡散スクラバー法を
用いた空気浄化装置を開発した(特許第3483208号公報、特願2003−3710
57)。
【0035】
管内に汚染空気を流すと、拡散係数の大きいガス成分は管内壁面へ拡散し壁面で捕集さ
れる。一方、汚染空気中の粒子は拡散係数が小さいために直進し、管壁面に捕集されない
。このような現象を利用する気体中の微量ガス成分の分離吸着法が拡散スクラバー法であ
る。拡散スクラバーは、1本の円筒管のみならず、2重管、3重管などの多重管で実現す
ることができる。また、多層に並べた平行板は、直径が無限大である多重管に相当する。
また、断面が三角形など多角形の形状も円筒管の変形として対応できる。図1に、拡散ス
クラバー法の原理を平行板を使用した場合について示す。
【0036】
図1に示す様に、プレートの幅をb、プレートの長さをL、隣接するプレートの間隔を
aとする2枚の平行板の隙間に図1に示す空気の流れ方向に汚染空気を流すと、拡散係数
の大きいガスは平行板の壁面へ拡散する。壁面へ到達したガスは、壁面に吸着される。
一方、拡散係数の小さい粒子は壁面へ拡散しない内に平行板を通過してしまう。この平行
板型拡散スクラバー法の理論除去効率は、Gormley及びKennedy(Gormley P., Kennedy M.
:Proc. R. Ir. Acad., 45, 59-63 (1938))によって導かれた下記の式(1)、(2)に
よって算出される。各VOCの拡散定数(D)は、ベンゼン:0.0828cm/s
、トルエン:0.0792cm/s、p−キシレン:0.075 cm/sである。
【0037】
【数1】

【0038】
VOCを吸着除去できるを平行板として並べ、その活性炭繊維シートの隙間に汚染空気
を流すと、拡散係数の大きいVOCは活性炭繊維シート内表面へ拡散する。表面へ到達し
たVOCは、表面に吸着し空気中から除去される。
【0039】
また、Gormley及びKennedy理論式に基づくコルゲート型拡散スクラバーの除去効率の算
出式は下記の式(3)、(4)、(5)で表せる。コルゲート型の通気断面は、円形では
なく三角形なので、管状型拡散スクラバーの除去効率を求めるGormley及びKennedy理論式
(式(3)、Gormley P., Kennedy M.:Proc. R. Ir. Acad., 52A, 163-169 (1949))に
、Possanzinらが導き出した相当直径(δ)の概念を用いる式(4)、(5)(Atmos.Envi
ron.Vol.17,2605-2610(1983)で求めた除去のパラメータ(μ)を代入し、算出する。
【0040】
【数2】

【0041】
本発明の活性炭繊維シートの使用方法を空気浄化装置に適用する場合は、Gormley及びK
ennedyの拡散スクラバーの原理を表す理論式において、1パスで50%以上の有害ガス除
去効率を得られる構造とする。空気中のVOCの除去効率は1回空気を流して50%以上
となれば、実用上は十分であるから、平行板構造体の隙間の間隔又はコルゲート状構造体
の三角形の寸法は、前記のGormley及びKennedyによって導かれた式に基づいて 除去効率
50%を満たすように設計すればよい。
【0042】
この様に、汚染空気をフィルターの微細孔を通過させてVOCを吸着除去する従来の
方法とは全く異なり、拡散スクラバー法では、単にガス吸着面をもつ通気路の隙間に汚
染空気を流すだけの非濾過方式なので通気抵抗が非常に小さく、大容量の汚染空気中のV
OCを小さなエネルギーで除去・処理できる。
【0043】
図2に、本発明の活性炭繊維シートの使用方法の一例を示す。図2の(A)は、活性炭
繊維シート1とスペーサ2の関係を示す側面図であり、(B)は上面図である。活性炭繊
維シート1をスペーサ2で所定の間隔に保持して隙間を形成し、図2の(c)の斜視図に
示すように、活性炭繊維シート1を平行に多数並べて通気路を構成し、これを直方体のハ
ウジング(図示せず)内に収容してスクラバーユニット3とする。平行板構造体の基本ユ
ニットは通気断面積S=a×b,隙間a、幅b、通気の有効長Lとなる。このスクラバー
ユニット3に、図に示すように、汚染空気を下側から流すと、上側から清浄空気が排出さ
れる。
【0044】
図3に、本発明の活性炭繊維シートの使用方法の別の例を示す。直方体のハウジング(
図示せず)内に活性炭繊維シート1からなるコルゲート状構造体を保持してスクラバーユ
ニット3として使用する方法である。コルゲート状構造体の基本ユニットは右拡大図に示
すように、平行板構造の隙間に相当する三角形の通気断面積S=a×b×1/2,高さa
、底辺b、三角形の周囲長l、通気の有効長Lとなる。スクラバーユニット3に、図に示
すように、汚染空気を下側から流すと、上側から清浄空気が排出される
【0045】
通気路の構造は、上記の平行板、コルゲート状の他に多重円筒状やチューブ状のものを
多数束ねたものでもよい。これらの通気路のユニットは通気方向に複数段直列に接続して
配置すると多段に重ねた部分で乱流効果が加わり、VOCの吸着効果が高まる。複数段重
ねる際に90度ずつずらして配置するようにすると、乱流効果が更に高まり、吸着効果を
非常に高めることができる。
【0046】
上記のスクラバーユニットは、例えば、図4の側面図(A),上面図(B)に示すよう
に、空気清浄装置10内にスクラバーユニット3として装着してファンなどの送風手段1
1によって吸気口から外部の空気を取り入れ、スクラバーユニット3を通過させることに
よってVOCを活性炭繊維シートに吸着させる。スクラバーユニット3を通過する粒子は
、スクラバーユニット3の後段に配置した除塵フィルター12で除去する。粒子等が多い
場合には、除塵フィルタ12をスクラバーユニット3の前後に配置してもよい。
【実施例1】
【0047】
活性炭繊維シートとして、幅(b)=19cm、長さ(L)=11.5cmのシート(
ユニチカ製HPS−C060;表1の活性炭繊維A−15に相当、目付量80g/m
活性炭の含有量は75%)を用意した。図2に示すように、プラスチック製のスペーサと
活性炭繊維シートとを交互に層状に多数並べて配置し、平行板構造体を形成した。活性炭
繊維シート234枚に233枚のスペーサを挿入し、間隔(a)=0.12cmとた。こ
れを、内寸:39cm(長さ)×19cm(幅)×12cm(高さ)の長方形のハウジン
グに収容してスクラバーユニットとし、このスクラバーユニットを2つ用いて実験に使用
した。活性炭繊維シートの隙間を確保するためにプラスチック製のスペーサをシート間に
挿入するのでVOCを吸着できる活性炭繊維シートの有効面は、幅(b)=17cm、長
さ(L)=10.5cmとなる。従って、1対の活性炭繊維シートの通気断面積(S)は
、2.04cmとなり、1つのスクラバーユニットに233個の隙間があるので、2つ
のスクラバーユニットにおける全通気断面積は951cmとなる。活性炭繊維シートを
スペーサで挟持することにより、活性炭繊維シートの固定がゆるくなり、遊びの部分が乱
流を引き起こし、吸着効果をより高めることができる。
【0048】
このスクラバーユニットを実験装置に設置して、通気流量を50m/h、100m
/h、200m/hとして、ベンゼン、トルエン、p−キシレンを混合したVOCを発
生・導入し、スクラバーユニットのVOC除去の性能評価実験を行なった。除去効率(%
)は、スクラバーユニットの入口と出口で各VOC濃度をGC−MSで測定し、式(6)
より算出した。結果を表2に示す。除去効率の下の括弧内の値は、各VOCの入口濃度の
平均値(ppmv)である。表2から、ベンゼン、トルエン、p−キシレンについて高い除去効
率が得られたことが分かる。
f(%)=(C1−C2)×100/C1・・・(6)
f;除去効率(%)、C1;各VOCの入口濃度(ppmv)、C2;各VOCの出口濃度(ppm
v)
【0049】
【表2】

【実施例2】
【0050】
図3に示すように、活性炭繊維シートとして、三角形(底辺:0.31cm、高さ;0
.23cm、通気断面積(S):0.0357cm)の孔を15,652個有し、全体
の通気断面積が558cm、高さ(通気の有効長(L))さが10cmのコルゲート構
造体(ユニチカ製FMC−B550−CC;表1の活性炭繊維A−15に相当、目付量8
0g/m、活性炭の含有量は75%)を用意した。これを内寸:48cm(長さ)×1
9cm(幅)×10cm(高さ)の長方形のハウジングに収容してスクラバーユニットと
した。このスクラバーユニットを実験装置に設置して、通気流量を100m/h、20
0m/hとして、実施例1と同じ条件で性能評価実験を行なった。各VOCの除去効率
も実施例1と同様にして算出した。結果を表3に示す。除去効率の下の括弧内の値は、各
VOCの入口濃度の平均値(ppmV)である。表3から、ベンゼン、トルエン、p−キシレン
について高い除去効率が得られたことが分かる。
【0051】
【表3】

【実施例3】
【0052】
実施例1と同じ1対の活性炭繊維シート(幅10cm、長さ5cm、VOCの吸着表面
積100cm)を0.38cmの隙間に設定した平行板型拡散スクラバーを用いて、通
気流速は14.4cm/sとし、連続してベンゼン、トルエン、p−キシレンを混合した
VOCを含有する空気を流した。ベンゼン、トルエン、p−キシレンのスクラバーユニッ
トへの入口濃度はそれぞれ142.6±9.6ppm(n=7)、190.0±8.9p
pm(n=7)、172.0±19.3ppm(n=8)であった。入口濃度と出口濃度
を濃度差が0になるまで時間経過毎に測定した。実験結果を図5に示した。
(比較例1)
【0053】
実施例1と同じ活性炭繊維シートを用いて、従来、一般的に使用されている濾過捕集方
式により実験を行った。通気流速は14.4cm/sとし、活性炭繊維シートの濾過表面
積は3cmφ(7.07cm)とした。 ベンゼン、トルエン、p−キシレンを混合し
たVOCを比較的低濃度で含有する空気を流した。ベンゼン、トルエン、p−キシレンの
スクラバーユニットへの入口濃度は、それぞれ6.47±0.26ppm(n=6)、6
.23±0.32ppm(n=6)、14.08±2.58ppm(n=4)であった。
入口濃度と出口濃度を濃度差が0になるまで時間経過毎に測定した。
(比較例2)
【0054】
ベンゼン、トルエン、p−キシレンの入口濃度をそれぞれ96.0±3.94ppm(
n=10)、130.0±7.07ppm(n=9)、161.8±4.94ppm(n
=9)とし、高濃度とした以外は、比較例1と同じ条件で濾過捕集方式で実験を行った。
入口濃度と出口濃度を濃度差が0になるまで時間経過毎に測定した。実験結果を図6に示
した。
【0055】
上記の実施例3と比較例1、比較例2の実験結果に基づいて算出した活性炭繊維シート
1m当りの単独VOC吸着容量の比較結果を表4に示す。この結果から分かるように、
平行板型拡散スクラバー方式で使用した場合、濾過捕集の数倍以上の吸着容量となること
が分かった。
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の使用方法は、 極めてシンプルな方法による省エネルギー・経済的合理性を有
した高性能なVOC除去処理技術であり、半導体製造等のクリーンルーム関連、生ゴミ・
悪臭・トイレ関連、病院・高齢者関連、動物飼育関連、駅・劇場・レストラン等公共施設
関連、博物館・美術館関連、 実験ラボ関連、列車・バス関連、 更に、ドライクリーニン
グ、一般家庭と多岐に亘る分野での空気清浄装置における吸着効率の高く長期間にわたり
交換や再生が必要でないフィルターの使用方法として応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】拡散スクラバー法の原理を示す概略説明図である。
【図2】本発明の活性炭繊維シートの使用方法の一例を示す平行板構造体の平行板とスペーサとの関係を示す側面図(a)、上面図(b)、多層構造を示す概略斜視図(c)である。
【図3】本発明の活性炭繊維シートの使用方法の別の例を示すコルゲート型構造体の概略斜視図と部分拡大図である。
【図4】上記のスクラバーユニットを空気浄化装置にセットした実施形態を示す模式図である。
【図5】実施例3における、ベンゼン、トルエン、p−キシレンのスクラバーユニットの入口濃度と出口濃度の時間経過毎の測定結果を示すグラフである。
【図6】比較例2における、ベンゼン、トルエン、p−キシレンのスクラバーユニットの入口濃度と出口濃度の時間経過毎の測定結果を示すグラフである。。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気路を構成する隙間に気体を流し、気体中に含まれるガスと粒子の拡散係数の相違を利
用してガスを選択的に通気路表面に吸着させて気体中から除去する拡散スクラバーの通気
路構成材料として活性炭繊維シートを用いて、室内空気中の揮発性有機化合物を非濾過方
式で活性炭繊維シートにより除去することを特徴とする活性炭繊維シートの使用方法。
【請求項2】
通気路をGormley及びKennedyの拡散スクラバの原理を表す理論式において、1パスで50
%以上の有害ガス除去効率を得られる構成としたことを特徴とする請求項1記載の活性炭
繊維シートの使用方法。
【請求項3】
前記活性炭繊維シート間にスペーサを挟持して複数枚重ねることを特徴とする請求項1記
載の活性炭繊維シートの使用方法。
【請求項4】
通気路のユニットを複数段直列に接続したことを特徴とする請求項1又は2記載の活性炭
繊維シートの使用方法。
【請求項5】
前記ユニットを90度ずつずらして複数段直列に接続したことを特徴とする請求項4記載
の活性炭繊維シートの使用方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−280675(P2006−280675A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105480(P2005−105480)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】