説明

空気入りタイヤの耐久試験方法

【課題】タイヤゴムの厚み方向の酸素濃度分布が均一となるようにタイヤの劣化促進処理を行うことにより経年劣化したタイヤを再現して、経年劣化時のタイヤの耐久性を高精度で評価することができる空気入りタイヤの耐久試験方法を提供することを課題とする。
【解決手段】試験用タイヤ内側空間40の酸素分圧をタイヤ内の全圧PTの30%以上、試験用タイヤ外側空間50の酸素分圧を試験用タイヤ外側空間50の全圧POの30%以上とし、PT−POの値を0〜350kPaの範囲として、酸素によるタイヤの劣化促進工程を行う。この工程では、タイヤ内側及びタイヤ外側の両方を高酸素濃度とすることにより、タイヤを構成するゴム(タイヤゴム)ヘの酸素の浸透がタイヤ内側とタイヤ外側との両方から進む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの劣化促進処理を行って、経年劣化時のタイヤの耐久性評価を適切に行いうる空気入りタイヤの耐久試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは、大気中の酸素などにより経年劣化する(例えば特許文献1参照)。このため、タイヤの劣化促進処理を行うことにより経年劣化を短時間で再現させた試験用タイヤを用いて、経年劣化時におけるタイヤの耐久性評価を行うことが重要になっている。
【0003】
経年劣化させたタイヤを再現することとしては、特許文献1〜4に、タイヤ内部に酸素を充填させて劣化させることが開示されている。また、特許文献5には、タイヤの外側を高酸素濃度環境下とすることが開示されている。更に、特許文献6には、温熱サイクルと乾熱サイクルに交互にタイヤを暴露させることで、高温多湿環境での劣化の再現を図ることが開示され、特許文献7には、タイヤ内に酸素を充填した状態で耐久試験を行うことが開示されている。
【0004】
しかし、何れの開示技術であっても、タイヤゴムの厚み方向の酸素濃度分布が均一とならずに偏った分布となる。一方、市場を長期間走行した後のタイヤでは、タイヤ厚み方向の酸素濃度分布がほぼ一定である。このため、劣化促進処理を行ったタイヤの劣化度の分布が実際の市場走行品(市場を走行したタイヤ)とは異なっている。
【特許文献1】特許第3373737号公報
【特許文献2】特許第3497502号公報
【特許文献3】特開2006−162381号公報
【特許文献4】特開2006−170693公報
【特許文献5】特開2005−241369号公報
【特許文献6】特開2005−98754号公報
【特許文献7】特開2006−266782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、タイヤゴムの厚み方向の酸素濃度分布が均一となるようにタイヤの劣化促進処理を行うことにより経年劣化したタイヤを再現して、経年劣化時のタイヤの耐久性を高精度で評価することができる空気入りタイヤの耐久試験方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、従来の方法でタイヤの劣化促進処理を行うとタイヤゴムの厚み方向の酸素濃度分布が均一にならない原因について検討した。そして、タイヤ内のみに高濃度の酸素を高圧で充填すると、高濃度の酸素雰囲気に晒されているタイヤ内面側では、タイヤ外面側よりも酸素濃度分布が高くなることを突き止めた。
【0007】
そこで本発明者は、このような原因を取り除くことを検討し、実験を重ねて更に検討を加え、本発明を完成するに至った。
【0008】
請求項1に記載の発明は、タイヤ内の充填気体の全圧をPT(kPa)、該全圧に対する酸素の分圧をPT(kPa)とした場合に下記式(1)で表される酸素濃度x(%)が30以上となるように高濃度の酸素をタイヤ内に注入し、タイヤ外環境の全圧をPO(kPa)、該全圧に対する酸素の分圧をPO(kPa)とした場合に下記式(2)で表される酸素濃度y(%)を30以上としたタイヤ外環境とし、かつ、下記式(3)で表される差圧zが0〜350kPaの範囲となるようにPT及びPOを設定した、酸素によるタイヤの劣化促進工程を含むことを特徴とする。
x=(PT/PT)×100 式(1)
y=(PO/PO)×100 式(2)
z= PT−PO 式(3)
【0009】
タイヤ内に注入する高濃度の酸素については、短時間に劣化を促進させる観点からはxが高い程好ましいが、xは30〜99程度が好ましい。また、ハンドリング性等を考慮すれば、xは30〜95程度がさらに好ましい。xが30未満であると劣化の促進が不十分であり、また、99を超える高濃度酸素をタイヤ中に充填するのは困難であり、いずれも好ましくない。また、タイヤの発熱が高くバーストし易い条件で実耐久性試験を行う場合には、xが30〜60程度であることがさらに好ましい。
【0010】
請求項1に記載の発明では、タイヤ内側及びタイヤ外側の両方を高酸素濃度とすることにより、タイヤを構成するゴム(タイヤゴム)ヘの酸素の浸透がタイヤ内側とタイヤ外側との両方から進むことになる。従って、タイヤゴムの厚み方向における酸素濃度の不均一性が解消される。
【0011】
また、タイヤゴムの厚み方向における酸素濃度の分布を均一にするためには、タイヤ内への充填気体の充填圧と、タイヤが置かれた環境(タイヤ外環境)でタイヤ外面に加わる圧力が等しいことが望ましい。一方、タイヤゴムヘの酸素の浸透速度は、タイヤ内の充填圧とタイヤ外の圧力との差圧が大きく影響するため、酸素の浸透を促進する観点からは、差圧が大きい方が好ましい。しかし、この差圧があまり大きすぎるとタイヤゴムの厚み方向における酸素濃度が不均一になり過ぎる。従って、差圧の範囲が上記のように0kPa以上350kPa以下の範囲であることにより、タイヤゴムへの酸素の浸透速度をさほど落とさずに、タイヤゴムの厚み方向の酸素濃度分布を均一とすることができる。
【0012】
請求項1に記載の発明により、タイヤゴムの厚み方向の酸素濃度分布が均一となるようにタイヤの劣化促進処理を行うことにより経年劣化したタイヤを再現して、経年劣化時のタイヤの耐久性を高精度で評価することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前記酸素によるタイヤの劣化促進工程が、i)タイヤ内に酸素を注入する工程と、ii)該タイヤを高酸素濃度環境下に放置もしくは加熱する工程と、iii)タイヤ内の酸素を排出する工程と、を含み、前記酸素によるタイヤの劣化促進工程を終了した後、タイヤ内に空気を注入し、負荷を掛けて実耐久試験を行うこと、を特徴とする。
【0014】
常温よりも高い温度に加熱して試験を行う場合、加熱は酸素によるタイヤの劣化促進工程の全工程及び実耐久性試験工程の全工程に亘って連続して行ってもよく、タイヤの劣化促進工程の全工程のみで行ってもよく、また、タイヤの劣化促進工程のうち、高濃度酸素を注入したタイヤを放置もしくは加熱する工程のみにおいて行ってもよい。
加熱方法は、加熱装置を用いて試験工程の雰囲気温度を上げる方法でもよく、耐久試験のタイヤの転動による自己発熱を利用して加熱する方法でもよい。自己発熱を利用する場合においても、他の温度制御装置と組み合わせて、温度条件をコントロールすることが好ましく、これによって安定した試験が可能となる。
請求項2に記載の発明により、タイヤを構成するゴム組成物中への酸素の拡散を促進することが可能となり、より短期間でタイヤの経年劣化を再現できると共に、経年劣化状態での耐久性や市場耐用年数の評価が可能となる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記実耐久試験を行った後、iv)タイヤ内を排気する工程と、v)高濃度の酸素を注入する工程と、vi)該タイヤを高酸素濃度環境下に放置もしくは加熱する工程と、vii)タイヤ内の酸素を排出する工程と、を含む酸素によるタイヤ第2次劣化促進工程を行い、前記タイヤ第2次劣化促進工程の終了後、タイヤ内に空気を注入し、負荷を掛けて第2次実耐久試験を行うこと、を特徴とする。
【0016】
このように、タイヤ第2次劣化促進工程を行い、その後、タイヤ内に空気を注入して第2次実耐久試験を行うことにより、更生タイヤ等、二次寿命の保証が必要なタイヤの耐久性を評価することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、前記酸素によるタイヤの劣化促進工程が、i)タイヤ内に酸素を注入する工程と、ii)該タイヤを高酸素濃度環境下に放置もしくは加熱する工程と、iii)タイヤ内の酸素を排出する工程と、を含み、前記酸素によるタイヤの劣化促進工程を終了した後、高酸素濃度のガスをタイヤ内に注入し、負荷を掛けて実耐久試験を行うこと、を特徴とする。
【0018】
タイヤ内に注入する高酸素濃度のガスは、注入するガスの全圧に対する酸素分圧が30〜60%の範囲であることが、走行によるタイヤ内部温度と圧力の上昇によるタイヤ内部からの自然発火を防止する観点で好ましい。
【0019】
請求項4に記載の発明により、劣化の促進が効率的に行われるので、より短期間で経年劣化状態の再現と評価とが可能となる。
【0020】
請求項5に記載の発明は、前記酸素によるタイヤの劣化促進工程では、前記式(1)で表される酸素濃度xを82%以下とすることを特徴とする。
【0021】
タイヤ外環境の気圧が通常の1気圧である場合には、酸素濃度xを82%よりも高くするためには、一定の内圧になるまでタイヤ内に酸素を充填する作業を何度も繰り返す必要が生じてしまうからである。
【0022】
請求項6に記載の発明は、前記酸素によるタイヤの劣化促進工程における一部または全部の工程が、20〜120℃の温度範囲で行われることを特徴とする。
【0023】
酸素によるタイヤの劣化促進工程は、常温(例えば、20℃前後の雰囲気温度)で行うこともできるが、さらに、加熱して常温よりも高い温度雰囲気下で行うことにより、タイヤを構成するゴム組成物中への酸素の拡散を促進することが可能になる。本発明の試験方法における実施温度は、請求項6に記載の発明のように20〜120℃の範囲であることが好ましい。試験における雰囲気温度が20℃未満であると劣化の促進が不十分となり、実使用に近い試験結果を得るためには長い放置時間を要することになる。一方、120℃を超えると、酸素による劣化促進中でのタイヤのバースト対策を施す必要性が増大する。
請求項7に記載の発明は、前記酸素によるタイヤの劣化促進工程では、該タイヤを高酸素濃度環境下に放置若しくは加熱する工程を、少なくとも24時間行うことを特徴とする。
【0024】
請求項7に記載の発明により、タイヤを構成するゴム組成物中へ十分に酸素を拡散することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、タイヤゴムの厚み方向の酸素濃度分布が均一となるようにタイヤの劣化促進処理を行うことにより経年劣化したタイヤを再現して、経年劣化時のタイヤの耐久性を高精度で評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、実施形態を挙げ、本発明の実施の形態について説明する。なお、第2実施形態以下では、既に説明した構成要素と同様のものには同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0027】
[第1実施形態]
まず、第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態でタイヤの劣化促進を行うことを説明する一例のタイヤ径方向断面図である。本実施形態では、図1に示すように、大型空気入りタイヤ10と、この大型空気入りタイヤ10に組み付けられる封止部材12と、を圧力容器14として用いる。封止部材12が大型空気入りタイヤ10に組み付けられた状態では、大型空気入りタイヤ10と封止部材12とによって密封空間が形成される。
【0028】
封止部材12は、大型空気入りタイヤ10のビード部11が組み付けられる組付け部20が外周部に形成された円板部24R、24Lと、円板部24R、24Lから封止部材内側にそれぞれ延び出す保持部28R、28Lと、を備えている。この保持部28R、28Lは、試験用タイヤ(経年劣化を再現させた空気入りタイヤ)30が組み付けられるホイール32の例えばディスク部34を保持する構造になっている。
【0029】
以下、上記の圧力容器14を用いた、本実施形態に係る空気入りタイヤの耐久試験方法を説明する。
【0030】
本実施形態では、酸素による試験用タイヤの劣化促進工程を以下のようにして行う。
本実施形態では、まず、試験用タイヤ30にホイール32を組み付けてなるタイヤリム組立体36を形成する。そして、タイヤ内の全圧をPT(kPa)、PTに対する酸素の分圧をPT(kPa)とした場合に上記式(1)で表される酸素濃度xが30%以上となるように、高濃度の酸素を試験用タイヤ30の内側空間(以下、試験用タイヤ内側空間40という)に注入する。その際、試験用タイヤ内側空間40の空気吸引を行った後に注入してもよいし、注入と試験用タイヤ内側空間40の空気吸引とを数回行ってもよい。
【0031】
また、圧力容器14のほうでは、大型空気入りタイヤ10から片側の円板部24R(或いは円板部24L)を取り外した状態にする。
【0032】
そして、高濃度の酸素を試験用タイヤ30内に注入したタイヤリム組立体36を圧力容器14にまで運搬し、試験用タイヤ30を大型空気入りタイヤ10のタイヤ内側に入れるとともにディスク部34を保持部28Lに保持させる。
【0033】
更に、円板部24Rを大型空気入りタイヤ10に組付ける。この結果、試験用タイヤ30のタイヤ外環境は、図1に示したような密閉された試験用タイヤ外側空間50によって形成される。また、ディスク部34は保持部28Lだけでなく保持部28Rにも保持される。
【0034】
そして、試験用タイヤ外側空間50の全圧をPO(kPa)、POに対する酸素の分圧をPO(kPa)とした場合に上記式(2)で表される酸素濃度yが30%以上となるように、試験用タイヤ外側空間50に高濃度の酸素を注入する。その際、試験用タイヤ外側空間50の空気吸引を行った後に注入してもよいし、注入と試験用タイヤ外側空間50の空気吸引とを数回行ってもよい。
【0035】
なお、PT、POについては、上記式(3)で表される差圧zが0〜350kPaの範囲となるように予め数値を設定しておく。
【0036】
この後、所定時間(例えば数日〜数十日)が経過するまで放置することにより、酸素による試験用タイヤ30の劣化が促進される。なお、大型空気入りタイヤ10及び封止部材12によって形成される密封空間(すなわち、試験用タイヤ外側空間50及びその内側)を加熱する加熱機構を設け、所定時間が経過するまで所定温度を維持してもよい。この場合、この密封空間が恒温室となる。加熱機構としては、例えば、タイヤウォーマーを大型空気入りタイヤ10の外周側に巻き付け、試験用タイヤ外側空間50に配置した温度センサにて温度で測定しながら所定温度を維持するようにタイヤウォーマーの温度を調節すればよい。
【0037】
所定時間の経過後、円板部24Rを大型空気入りタイヤ10から取り外す。そして、タイヤリム組立体36を取り出し、試験用タイヤ内側空間40の酸素を排出する。この時点で酸素による試験用タイヤの劣化促進工程が終了し、試験用タイヤ30は経年劣化したタイヤとして再現されている。
【0038】
このように、本実施形態では、試験用タイヤ30のタイヤ内側及びタイヤ外側の両方を高酸素濃度として経年劣化したタイヤを再現している。従って、タイヤを構成するゴム(タイヤゴム)ヘの酸素の浸透がタイヤ内側とタイヤ外側との両方から進むので、タイヤゴムの厚み方向Tにおける酸素濃度の不均一性が解消される。よって、このタイヤを用いて、経年劣化時のタイヤの耐久性を高精度で評価することができる。
【0039】
また、上記差圧zの範囲を上記のように0〜350kPaの範囲としているので、タイヤゴムへの酸素の浸透速度をさほど落とさずに、タイヤゴムの厚み方向Tの酸素濃度分布を均一とすることができる。
【0040】
また、本実施形態では、大型空気入りタイヤ10と封止部材12とで圧力容器14を形成し、この圧力容器14を用いて、酸素による試験用タイヤ30の劣化促進工程を行っている。従って、高濃度酸素を満たした通常の圧力容器を用いることに比べ、同等の安全性を確保する上で取り扱いが容易であり、作業性が良い。
【0041】
なお、酸素による試験用タイヤ30の劣化促進工程では、上記式(1)で表される酸素濃度xを82%以下とすることが好ましい。これにより、試験用タイヤ外側空間50の気圧を1気圧とする場合、試験用タイヤ内側空間40に一定の内圧になるまで酸素を充填する作業を何度も繰り返す必要がない。
【0042】
また、上記の所定時間が経過するまで試験用タイヤ外側空間50や試験用タイヤ内側空間40を加熱して所定温度を維持する場合、20〜120℃の温度範囲とすることが好ましい。これにより、維持時間を長い時間としなくても劣化の促進が不十分とならず、しかも、タイヤがバーストする危険性を充分に抑えることができる。
また、上記の所定時間が経過するまで放置若しくは加熱する工程は、少なくとも24時間行うことが好ましい。これにより、試験用タイヤ30を構成するゴム組成物中へ十分に酸素を拡散することができる。
【0043】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態で酸素による試験用タイヤ30の劣化促進工程を終了した後、試験用タイヤ30内に空気を注入し、負荷を掛けて実耐久試験を行う。
【0044】
これにより、経年劣化した状態での耐久性や市場耐用年数の評価が可能になる。
【0045】
なお、第1実施形態で酸素による試験用タイヤ30の劣化促進工程を終了した後、試験用タイヤ30内に、空気ではなく酸素を注入し、負荷を掛けて実耐久試験を行ってもよい。
【0046】
これにより、劣化の促進が効率的に行われるので、より短期間での評価が可能となる。
【0047】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態について説明する。本実施形態では、第2実施形態で実耐久試験を行った後、以下のタイヤ第2次劣化促進工程を行う。
【0048】
まず、試験用タイヤ30内を排気する。そして、高濃度の酸素を試験用タイヤ30内に注入する。
更に、圧力容器14を用いて、再度、試験用タイヤ30を高酸素濃度環境下に放置もしくは加熱する。そして、所定時間が経過した後、試験用タイヤ30を圧力容器14内から取り出し、試験用タイヤ30内の酸素を排出する。これによって、タイヤ第2次劣化促進工程を終える。
【0049】
その後、試験用タイヤ30内に空気を注入し、負荷を掛けて第2次実耐久試験を行う。 本実施形態により、更生タイヤ等、二次寿命の保証が必要なタイヤの耐久性を評価することができる。
【0050】
<試験例>
本発明の効果を確かめるために、本発明者は、第1実施形態の方法で経年劣化を再現させた空気入りタイヤの二例(以下、実施例1の試験用タイヤ、実施例2の試験用タイヤという)、従来の方法で経年劣化を再現させた空気入りタイヤ(以下、従来例の試験用タイヤという)、新品で未使用の空気入りタイヤ(以下、未使用タイヤという)、及び、実際に市場で走行した空気入りタイヤ(以下、市場走行タイヤという)を用意した。ここで、市場走行タイヤは、3年間の通常走行(通常の使用)をしたタイヤである。
【0051】
本試験例では、タイヤサイズは全て PSR 185/70R13、リムサイズは5.50Bx13である。また、各タイヤには、ビード部からトロイド状に延びるカーカスの径方向外側に、図2に示すように、下側ベルトFと上側ベルトGとを順次設けた2層からなるベルト層が設けられている。
【0052】
本試験例では、市場走行タイヤ以外の各タイヤについて、酸素による各タイヤの劣化促進工程を行った。実施例1、2の試験用タイヤでは、試験用タイヤ外側空間50を加熱する加熱機構を設け、本試験例での所定時間(15日)が経過するまで、大型空気入りタイヤ10及び封止部材12によって形成される密封空間内の温度を60℃に維持した。酸素による各タイヤの劣化促進工程の諸条件を表1に示す。
【表1】

【0053】
本発明者は、酸素による各タイヤの劣化促進工程の終了後、各タイヤの劣化度を以下のようにして求めた。
【0054】
まず、未使用タイヤ及び劣化促進を行った各タイヤ(すなわち全てのタイヤ)について、図2に示すように、(1)下側ベルトFの幅方向外側端FEであるA位置、(2)上側ベルトGの幅方向外側端GEであるB位置、(3)幅方向外側端FEと幅方向外側端GEとを結ぶ直線の延長線上であって、上側ベルトGよりも上方に位置し、幅方向外側端GEからの距離が幅方向外側端GEと幅方向外側端FEとの距離と同じであるC位置、の3箇所において、A位置ではベルトFの下側のゴム層から、B位置ではベルトGの下側のゴム層から、C位置ではベルトGの上側のゴム層から、それぞれJIS7号のダンベル型試験片を作成し、JISK6251に従いゴム破断伸びを測定した。
【0055】
そして、未使用タイヤでの上記3箇所におけるゴム破断伸びをそれぞれ指数100とし、他のタイヤについては相対評価となる指数を算出した。算出した指数を表2に示す。表2では、数値が高いほど劣化していないことを示す。
【表2】

【0056】
表2から判るように、A位置〜C位置の3箇所のうちA位置及びC位置で、従来例の試験用タイヤに比べ、実施例1の試験用タイヤのほうが市場走行タイヤに近い指数を示した。また、A〜C位置の3箇所全てについて、実施例1の試験用タイヤに比べ、実施例2の試験用タイヤのほうが市場走行タイヤに近い指数を示した。
【0057】
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲がこれらの実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】第1実施形態でタイヤの劣化促進を行うことを説明する一例の断面図である。
【図2】試験例で各タイヤにおけるゴム破断伸びの測定位置を示すタイヤ径方向断面図である。
【符号の説明】
【0059】
30 試験用タイヤ(空気入りタイヤ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ内の充填気体の全圧をPT(kPa)、該全圧に対する酸素の分圧をPT(kPa)とした場合に下記式(1)で表される酸素濃度x(%)が30以上となるように高濃度の酸素をタイヤ内に注入し、
タイヤ外環境の全圧をPO(kPa)、該全圧に対する酸素の分圧をPO(kPa)とした場合に下記式(2)で表される酸素濃度y(%)を30以上としたタイヤ外環境とし、
かつ、下記式(3)で表される差圧zが0〜350kPaの範囲となるようにPT及びPOを設定した、酸素によるタイヤの劣化促進工程を含むことを特徴とする空気入りタイヤの耐久試験方法。
x=(PT/PT)×100 式(1)
y=(PO/PO)×100 式(2)
z=PT−PO 式(3)
【請求項2】
前記酸素によるタイヤの劣化促進工程が、i)タイヤ内に酸素を注入する工程と、ii)該タイヤを高酸素濃度環境下に放置もしくは加熱する工程と、iii)タイヤ内の酸素を排出する工程と、を含み、
前記酸素によるタイヤの劣化促進工程を終了した後、タイヤ内に空気を注入し、負荷を掛けて実耐久試験を行うこと、を特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤの耐久試験方法。
【請求項3】
前記実耐久試験を行った後、iv)タイヤ内を排気する工程と、v)高濃度の酸素を注入する工程と、vi)該タイヤを高酸素濃度環境下に放置もしくは加熱する工程と、vii)タイヤ内の酸素を排出する工程と、を含む酸素によるタイヤ第2次劣化促進工程を行い、
前記タイヤ第2次劣化促進工程の終了後、タイヤ内に空気を注入し、負荷を掛けて第2次実耐久試験を行うこと、を特徴とする請求項2に記載の空気入りタイヤの耐久試験方法。
【請求項4】
前記酸素によるタイヤの劣化促進工程が、i)タイヤ内に酸素を注入する工程と、ii)該タイヤを高酸素濃度環境下に放置もしくは加熱する工程と、iii)タイヤ内の酸素を排出する工程と、を含み、
前記酸素によるタイヤの劣化促進工程を終了した後、高酸素濃度のガスをタイヤ内に注入し、負荷を掛けて実耐久試験を行うこと、を特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤの耐久試験方法。
【請求項5】
前記酸素によるタイヤの劣化促進工程では、前記式(1)で表される酸素濃度xを82%以下とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤの耐久試験方法。
【請求項6】
前記酸素によるタイヤの劣化促進工程における一部または全部の工程が、20〜120℃の温度範囲で行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のタイヤ耐久試験方法。
【請求項7】
前記酸素によるタイヤの劣化促進工程では、該タイヤを高酸素濃度環境下に放置若しくは加熱する工程を、少なくとも24時間行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のタイヤ耐久試験方法。

【図1】
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【図2】
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