説明

空気入りタイヤ

【課題】低転がり抵抗性と耐摩耗性とをより高いレベルで両立するようにした空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100重量部に対し、カーボンブラックと共に表面処理炭酸カルシウムを0.5〜100重量部配合したゴム組成物により構成した空気入りタイヤであり、前記表面処理炭酸カルシウムが、炭酸カルシウムの表面を2級脂肪族アミン及び/又は3級脂肪族アミンからなるアミンと脂肪酸、樹脂酸及びこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種の有機酸とで表面処理したものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関し、さらに詳しくは、低転がり抵抗性と耐摩耗性とをより高いレベルで両立するようにした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気入りタイヤのトレッド部やサイドウォール部を構成するゴム組成物には、増量剤として炭酸カルシウムを配合することがある。しかし炭酸カルシウムを配合したゴム組成物は、ゴム強度が低く耐摩耗性が不十分であり、かつヒステリシスロス(60℃のtanδ)が大きいため、空気入りタイヤにしたときに耐摩耗性及び転がり抵抗が劣るという問題があった。
【0003】
この対策として、特許文献1は、有機酸で表面処理した改質炭酸カルシウムと2級又は3級脂肪族アミンとを共に配合したゴム組成物をトレッド部に使用することにより、耐摩耗性の低下を抑制し、ヒステリシスロスを低くすることを提案している。しかし、このゴム組成物は、耐摩耗性の低下を抑制する効果はあるものの、ヒステリシスロス(60℃のtanδ)を低減する効果が必ずしも十分ではなく、更なる改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−99896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、低転がり抵抗性と耐摩耗性とをより高いレベルで両立するようにした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、ジエン系ゴム100重量部に対し、カーボンブラックと共に表面処理炭酸カルシウムを0.5〜100重量部配合したゴム組成物により構成した空気入りタイヤであり、前記表面処理炭酸カルシウムが、炭酸カルシウムの表面を2級脂肪族アミン及び/又は3級脂肪族アミンからなるアミンと脂肪酸、樹脂酸及びこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種の有機酸とで表面処理したものであることを特徴とする。
【0007】
前記炭酸カルシウムは、平均一次粒子径が0.01〜1.0μmであるとよい。前記表面処理炭酸カルシウムは、炭酸カルシウム100重量部に対し、0.01〜5重量部の前記アミンで処理し、0.1〜8重量部の前記有機酸で処理したものであることが好ましい。
【0008】
前記ゴム組成物のベースとなるジエン系ゴムは、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、イソプレンゴム及びエチレン−プロピレン−ジエンゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種であるとよい。また、本発明の空気入りタイヤは、上述したゴム組成物によりトレッド部及び/又はサイドウォール部を構成するとよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の空気入りタイヤは、炭酸カルシウムの表面を2級脂肪族アミン及び/又は3級脂肪族アミンからなるアミンと脂肪酸、樹脂酸及びこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種の有機酸との両方で処理した表面処理炭酸カルシウムを、ジエン系ゴム100重量部に対し0.5〜100重量部とカーボンブラックを配合したゴム組成物により構成したことにより、ゴム組成物の耐摩耗性を維持・向上し、かつヒステリシスロス(60℃のtanδ)を低減することができる。このため空気入りタイヤの低転がり抵抗性と耐摩耗性とをより高いレベルで両立することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の空気入りタイヤは、ジエン系ゴムに表面処理炭酸カルシウムをカーボンブラックと共に配合したゴム組成物により構成する。このゴム組成物のベースとなるジエン系ゴムとしては、例えば天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、スチレンイソプレンゴム、スチレンイソプレンブタジエンゴム、ブチルゴム及びエチレン−プロピレン−ジエンゴムを例示することができる。このようなジエン系ゴムは、単独又は複数のブレンドとして使用することができる。本発明に使用するジエン系ゴムは、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、イソプレンゴム及びエチレン−プロピレン−ジエンゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
本発明で使用する表面処理炭酸カルシウムは、炭酸カルシウムの表面をアミン及び有機酸の両方で処理したものである。このような表面処理炭酸カルシウムを使用することにより、アミン又は有機酸のいずれかで処理した表面処理炭酸カルシウムと比べ、ゴム組成物の耐摩耗性を維持・向上し、かつヒステリシスロス(60℃のtanδ)を低減することができる。また、有機酸処理した表面処理炭酸カルシウムとアミンとを共に配合したゴム組成物及びアミン処理した表面処理炭酸カルシウムと有機酸とを共に配合したゴム組成物と比べても、ゴム組成物の耐摩耗性を維持・向上し、かつヒステリシスロスを低減することができる。さらに、アミン及び有機酸の両方で処理した表面処理炭酸カルシウムを配合したゴム組成物は、他の表面処理炭酸カルシウムと比べ、未加硫ゴムの粘度をより低くする効果がある。このためゴム組成物は加工性が優れ、空気入りタイヤの製造時に品質安定性を向上することができる。
【0012】
本発明の空気入りタイヤを構成するゴム組成物において、表面処理炭酸カルシウムの配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し0.5〜100重量部、好ましくは1〜60重量部、より好ましくは3〜50重量部にする。表面処理炭酸カルシウムの配合量が0.5重量部未満では、ゴム組成物の耐摩耗性とヒステリシスロス(60℃のtanδ)とを両立することができず、空気入りタイヤの耐摩耗性と転がり抵抗が改善しない。また、表面処理炭酸カルシウムの配合量が100重量部を超えると、ゴム強度が低下し耐摩耗性が悪化する。
【0013】
本発明で使用する炭酸カルシウムは、平均一次粒子径が好ましくは0.01〜1.0μm、より好ましくは0.02〜0.4μmであるとよい。炭酸カルシウムの平均一次粒子径が0.01μm未満であると、凝集しやすくなりゴムへの分散性が悪化する。また、平均一次粒子径が1.0μmを超えると、ゴム組成物の補強効果が十分に得られない。なお、本発明において炭酸カルシウムの平均一次粒子径は、炭酸カルシウムを走査型電子顕微鏡を用いて観察したときの一次粒子の平均粒子径とする。
【0014】
この炭酸カルシウムの平均一次粒子径の調整方法は、原料となる炭酸カルシウムの種類に応じて行うことができる。原料となる炭酸カルシウムは、タイヤ用ゴム組成物に通常用いられる炭酸カルシウムを使用することができ、合成(沈降性)炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウムのいずれでもよい。沈降性炭酸カルシウムを用いる場合には、反応条件を調整することにより、所望の平均一次粒子径になるように生成することができる。また、重質炭酸カルシウムを用いる場合には、ローラーミル、高速回転ミル、ボールミル、媒体攪拌ミル、ジェットミルなど、通常の乾式又は湿式の方法で粉砕することにより所望の平均一次粒子径に調整することができる。
【0015】
表面処理炭酸カルシウムは、炭酸カルシウムの表面を処理するアミンとして、2級脂肪族アミン及び/又は3級脂肪族アミンを使用する。アミン処理は、2級脂肪族アミン及び3級脂肪族アミンのいずれかで処理してもよいし、両方で処理してもよい。なお、炭酸カルシウムの表面を1級脂肪族アミンで処理すると、ゴム組成物が早期加硫を起こしやすくなり、空気入りタイヤを製造するときの加工性及び品質安定性が低下する。
【0016】
2級脂肪族アミンは、窒素原子に2個の脂肪族炭化水素基が結合した2級アミンである。脂肪族炭化水素基としては、例えばアルキル基、不飽和二重結合を1〜10含むアルケニル基が挙げられ、好ましくはアルキル基がよい。脂肪族炭化水素基の炭素数としては、特に制限されるものではないが、好ましくは8〜36、より好ましくは8〜20であるとよい。2個の脂肪族炭化水素基は、同一でも異なっていてもよい。また2級脂肪族アミンは、1種類でもよいし、或いは2種類以上の2級脂肪族アミンの混合物でもよい。
【0017】
このような2級脂肪族アミンとしては、例えばヤシ油脂肪酸、大豆油脂肪酸等の天然油脂から誘導される脂肪酸を用いて得られるもので、脂肪族炭化水素基を有する2級脂肪族アミンが好ましく挙げられる。このような2級脂肪族アミンは、市販品を利用することができ、その具体例としては、ライオン・アクゾ社製ジココアルキルアミン(商品名アーミン2C)、同ジ硬化牛脂アルキルアミン(商品名アーミンHT)等が挙げられる。
【0018】
3級脂肪族アミンは、窒素原子に3個の脂肪族炭化水素基が結合した3級アミンである。脂肪族炭化水素基としては、例えばアルキル基、不飽和二重結合を1〜10含むアルケニル基が挙げられ、好ましくはアルキル基がよい。脂肪族炭化水素基の炭素数としては、特に制限されるものではないが、好ましくは1〜36、より好ましくは1〜3及び10〜36からなる群から選ぶとよく、さらに好ましくは1又は10〜20であるとよい。3個の脂肪族炭化水素基は、同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立にメチル基及び炭素数10〜20の脂肪族炭化水素基から選ぶとよい。また3級脂肪族アミンは、1種類でもよいし、或いは2種類以上の3級脂肪族アミンの混合物でもよい。
【0019】
本発明で使用する3級脂肪族アミンとしては、ジメチルアルキル3級アミン及びメチルジアルキル3級アミンが好ましく、とりわけジメチルアルキル3級アミンが好ましい。ジメチルアルキル3級アミンとしては、例えばN,N−ジメチルラウリルアミン、N,N−ジメチルミリスチルアミン、N,N−ジメチルパルミチルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルベヘニルアミン、N,N−ジメチルココアルキルアミン、N,N−ジメチル牛脂アルキルアミン、N,N−ジメチル硬化牛脂アルキルアミン、N,N−ジメチルオレイルアミン等を例示することができる。またメチルジアルキル3級アミンとしては、例えばN−メチルジデシルアミン、N−メチルジココアルキルアミン、N−メチルジ硬化牛脂アミン、N−メチルジオレイルアミン等を例示することができる。
【0020】
表面処理炭酸カルシウムは、アミンの処理量が、炭酸カルシウム100重量部に対し、好ましくは0.01〜5重量部、より好ましくは0.1〜4重量部、さらに好ましくは0.2〜3重量部であるとよい。アミン処理量が炭酸カルシウム100重量部に対し0.01重量部未満であると、ヒステリシスロス(60℃のtanδ)を低減することができない。また、アミン処理量が5重量部を超えると、耐摩耗性が低下する。
【0021】
本発明で使用する表面処理炭酸カルシウムは、炭酸カルシウムの表面を上述したアミンで処理したことに加え、有機酸で処理したものである。有機酸で処理することにより、耐摩耗性を向上し、かつヒステリシスロス(60℃のtanδ)を低減することができる。有機酸としては、脂肪酸、樹脂酸及びこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種にする。有機酸は、1種類のみを使用してもよいし、複数種類を組合わせて使用してもよい。
【0022】
脂肪酸としては、特に限定されるものではないが、炭素数が好ましくは6〜24、より好ましくは12〜24の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸を例示することができる。このような脂肪酸としては、例えばラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、エルカ酸、オレイン酸、リノール酸等を例示することができる。好ましくはラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸がよい。このような脂肪酸は単独で用いてもよいし、複数種を組合わせて使用してもよい。
【0023】
樹脂酸としては、例えばアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸などのアビエチン酸類、及びこれらの重合体、不均化ロジン、水添ロジン、重合ロジン等を例示することができる。好ましくはアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸がよい。樹脂酸は単独で用いてもよいし、複数種を組合わせて使用してもよい。
【0024】
また、脂肪酸及び樹脂酸の誘導体としては、上述した脂肪酸及び樹脂酸の塩、エステルを例示することができる。塩としては、例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が例示される。エステルとしては、例えば上述した脂肪酸又は樹脂酸と炭素数6〜18のアルコールとのエステル等が例示される。
【0025】
上述した有機酸の処理量は、炭酸カルシウム100重量部に対し、好ましくは0.1〜8重量部、より好ましくは1〜5重量部、さらに好ましくは2〜5重量部であるとよい。有機酸の処理量が炭酸カルシウム100重量部に対し0.1重量部未満であると、表面処理した炭酸カルシウムが凝集を起こしやすくなり分散性が悪化する。また、有機酸の処理量が8重量部を超えると、耐摩耗性が低下する。また、ゴム組成物の補強性が不十分になりゴム強度が低下する。
【0026】
本発明で使用する表面処理炭酸カルシウムの調製方法は、特に制限されるものではなく、炭酸カルシウムの表面を有機酸で処理した後にアミンで処理してもよいし、アミンで処理した後に有機酸で処理してもよい。また、炭酸カルシウムの表面を有機酸とアミンとで同時に処理してもよい。好ましくは炭酸カルシウムの表面を有機酸で処理した後にアミンで処理するとよく、炭酸カルシウムの平均一次粒子径が小さい場合でも炭酸カルシウムの凝集を防止することができる。
【0027】
炭酸カルシウムの表面を有機酸で処理する方法としては、例えば有機酸を鹸化して処理する方法と、有機酸を融点以上に加熱して処理する方法を例示することができる。有機酸を鹸化して処理する方法は、有機酸を水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などのアルカリ金属水溶液中で加熱しながら鹸化し、ナトリウム塩、カリウム塩等の金属塩の溶液を調製する。この有機酸のアルカリ金属水溶液を、30〜50℃に加熱した炭酸カルシウムの水懸濁液に添加し、攪拌・混合することにより、炭酸カルシウムの表面を有機酸で表面処理することができる。また、有機酸を融点以上に加熱して処理する方法は、炭酸カルシウムを有機酸の融点以上の温度に加熱しながら攪拌し、これに有機酸を添加し、混合・攪拌することにより、炭酸カルシウムの表面を有機酸で表面処理することができる。
【0028】
炭酸カルシウムの表面をアミンで処理する方法としては、例えば炭酸カルシウムの乾燥粉末をミキサー中で攪拌しながら、アミンを滴下したり、スプレー噴霧する方法や炭酸カルシウムの懸濁液にアミンを添加し、混合攪拌する方法を例示することができる。
【0029】
炭酸カルシウムの懸濁液を混合・攪拌する装置としては、攪拌機、ビーズミル、サンドミル等の湿式磨砕機を用いることにより、有機酸及びアミンで均一に処理することができる。炭酸カルシウムの表面を有機酸及び/又はアミンで処理した後は、通常知られた方法で乾燥するとよい。
【0030】
本発明の空気入りタイヤを構成するゴム組成物には、上述した表面処理炭酸カルシウムと共にカーボンブラックを配合する。カーボンブラックを配合することにより、ゴム組成物の強度及び耐摩耗性を高くすることができる。カーボンブラックの配合量は、特に制限されるものではないが、ジエン系ゴム100重量部に対し好ましくは3〜120重量部、より好ましくは5〜80重量部にするとよい。カーボンブラックの配合量が3重量部未満の場合には、ゴム強度を十分に高くすることができず、またゴムを黒色化できない。カーボンブラックの配合量が120重量部を超えるとヒステリシスロスが大きくなり、転がり抵抗が悪化する。本発明では、カーボンブラックの配合量の一部を表面処理炭酸カルシウムに置換することにより、ゴム強度、耐摩耗性を維持・向上しながら、ヒステリシスロスを低減することができる。また、未加硫ゴムの粘度を低減することにより加工性を向上し、空気入りタイヤの品質安定性を向上することができる。
【0031】
カーボンブラックとしては、窒素吸着比表面積(NSA)が好ましくは40〜145m/g、より好ましくは80〜135m/gのものを使用するとよい。カーボンブラックの窒素吸着比表面積が40m/g未満の場合には、ゴム強度を十分に高くすることができない。窒素吸着比表面積が145m/gを超えるとヒステリシスロスが大きくなり、発熱性が高くなる。カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、JIS K6217−2に準拠して求めるものとする。
【0032】
本発明で使用するタイヤ用ゴム組成物には、無機充填剤を配合することができる。無機充填剤としては、例えばシリカ、クレー、マイカ、タルク、アルミナ等が例示される。なかでもシリカが好ましい。無機充填剤の配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し好ましくは3〜120重量部、より好ましくは10〜80重量部にするとよい。無機充填剤の配合量が3重量部未満の場合には、ゴム強度を十分に高くすることができない。また、無機充填剤の配合量が120重量部を超えると耐摩耗性が悪化すると共に、加工性が悪化する。
【0033】
タイヤ用ゴム組成物にシリカを配合することによりヒステリシスロスを低減することができる。シリカとしては、通常タイヤ用ゴム組成物に配合されるシリカ、例えば湿式法シリカ、乾式法シリカあるいは表面処理シリカなどを使用することができる。本発明では、表面処理炭酸カルシウムとシリカを共に使用することにより、低ヒステリシスロスを維持・向上すると共に、加工性を向上することができる。また、ジエン系ゴムの補強性を得るためにシランカップリング剤をシリカと共に配合することが好ましい。
【0034】
本発明で使用するタイヤ用ゴム組成物には、上述した表面処理炭酸カルシウム、カーボンブラック及び無機充填剤以外にも、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。このようなゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0035】
また、本発明の空気入りタイヤは、上述したゴム組成物で、トレッド部、サイドウォール部、ビード部及びコード被覆ゴムから選ばれる少なくとも1つのタイヤ構成部材を構成する。好ましくはトレッド部及び/又はサイドウォール部を構成するとよい。トレッド部の構成部材としては、キャップトレッド、アンダートレッド、クッションゴム、ウイングチップ等を例示することができる。サイドウォール部の構成部材としては、サイドゴム、サイドプロテクター、ランフラットタイヤの三日月状サイド補強ゴム等を例示することができる。ビード部の構成部材としては、ビードフィラー、ビードシート、チェーファー、リムクッション、ガムフィニッシング等を例示することができる。コード被覆ゴムとしては、例えばカーカス層、ベルト層等の各種コードを被覆するゴム等を例示することができる。
【0036】
トレッド部を上述したゴム組成物で構成した空気入りタイヤは、低転がり抵抗性と耐摩耗性とをより高いレベルで両立することができる。特にキャップトレッドを上述のゴム組成物で構成することによりこれらの効果が顕在化する。また、サイドウォール部を上述したゴム組成物で構成した空気入りタイヤは、低転がり抵抗性と共に、耐クラック性が高いのでタイヤ耐久性が優れる。
【0037】
本発明の空気入りタイヤは、上述した未加硫時のゴム粘度が低いゴム組成物を使用することにより、加工性が良好になる。特にロール加工性が優れるため寸法安定性が良好なゴムシートを成形することができる。このため本発明の空気入りタイヤは、製造時における品質安定性を高くすることができるので、高品質かつ安定的に製造される。
【0038】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
表面処理炭酸カルシウムの調製
炭酸カルシウムの表面を表1に示す配合割合で、脂肪酸、樹脂酸、2級アミン、3級アミン、1級アミンにより処理して12種類の表面処理炭酸カルシウム(処理炭カルA〜L)を調製した。表面処理方法は、先ず脂肪酸又は樹脂酸からなる有機酸を、水酸化ナトリウム水溶液に添加し90℃で加熱混合し有機酸のナトリウム水溶液を調製した。また、炭酸カルシウムの濃度が8重量%になるように秤量して水に添加し、40℃で加熱混合して炭酸カルシウム懸濁液を調製した。この炭酸カルシウム懸濁液に、炭酸カルシウムに対する有機酸の量が表1の配合割合になるように、有機酸のナトリウム水溶液を添加し、攪拌混合した。その後、炭酸カルシウム懸濁液をフィルタープレスにより脱水して、箱型乾燥機を使用して80℃で乾燥した。得られた乾燥物をミクロンミル粉砕機を用いて粉砕し、有機酸処理した炭酸カルシウムを得た。ただし、処理炭カルKに対しては、上述した有機酸処理を行わなかった。
【0040】
次いで、得られた有機酸処理した炭酸カルシウム(処理炭カルKでは炭酸カルシウム)の粉末をミキサーで攪拌しながら、加熱溶融した2級アミン又は3級アミンを噴霧し、炭酸カルシウムに対する2級アミン又は3級アミンの添加量が表1の配合割合になるようにした。これを10分間混合攪拌した後、ミクロンミル粉砕機を用いて粉砕し、アミン処理した炭酸カルシウムを得た。ただし、処理炭カルJに対しては、上述したアミン処理を行わなかった。
【0041】
【表1】

【0042】
なお、表1において使用した原材料の種類を下記に示す。
炭酸カルシウム:合成炭酸カルシウム、走査型電子顕微鏡で観察した平均一次粒子径が0.02μm
脂肪酸:オレイン酸、ステアリン酸及びパルチミン酸からなる脂肪酸混合物(いずれも和光純薬社製)
樹脂酸:アビエチン酸、和光純薬社製
2級アミン:ジココアルキルアミン、ライオン・アクゾ社製アーミン2C
3級アミン:N,N−ジメチルココアルキルアミン、ライオン・アクゾ社製アーミンDMMCD
1級アミン:ココアルキルアミン、ライオン・アクゾ社製アーミンCD
【0043】
タイヤ用ゴム組成物の調製
表2〜9に示す配合からなる46種類のタイヤ用ゴム組成物(実施例1〜32、比較例1〜14)を、硫黄、加硫促進剤を除く成分を1.8Lの密閉型ミキサーで5分間混練し放出したマスターバッチに、硫黄、加硫促進剤を加えてオープンロールで混練することにより調製した。
【0044】
得られた46種類のタイヤ用ゴム組成物のゴム粘度(ムーニー粘度)を下記に示す方法で測定した。次いで、得られたタイヤ用ゴム組成物を所定形状の金型中で、160℃、20分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を作製し、下記に示す方法でヒステリシスロス(60℃のtanδ)、耐摩耗性を測定した。また、表7から9に示したゴム組成物の加硫ゴム試験片に対しては耐クラック性を下記の方法で測定した。
【0045】
ゴム粘度
得られたゴム組成物の粘度を、JIS K6300に準拠して、ムーニー粘度計にてL型ロータ(38.1mm系、5.5mm厚)を使用し、予熱時間1分、ロータの回転時間4分、100℃、2rpmの条件で測定した。得られた結果を「ムーニー粘度」として表2〜9に示した。この粘度が小さいほど加工性が優れることを意味する。
【0046】
ヒステリシスロス(60℃のtanδ)
得られた加硫ゴム試験片のヒステリシスロスを、JIS K6394に準拠して、東洋精機製作所社製の粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪10%、振幅±2%、周波数20Hzの条件で、60℃のtanδを測定した。得られた結果は、表2〜4では比較例1を100とし、表5では比較例7を100とし、表6では比較例8を100とし、表7〜9では比較例9を100とする指数として「tanδ@60℃」の欄に示した。この「tanδ@60℃」の指数が小さい程ヒステリシスロスが低く、空気入りタイヤの低転がり抵抗性が優れることを意味する。
【0047】
耐摩耗性
得られた加硫ゴム試験片のランボーン摩耗量を、ランボーン摩耗試験機(岩本製作所社製)を使用して、温度20℃、負荷荷重24.5N、スリップ率20%、試験時間5分の条件で測定した。得られた結果は、それぞれの値の逆数を算出し、表2〜4では比較例1を100とし、表5では比較例7を100とし、表6では比較例8を100とし、表7〜9では比較例9を100とする指数として示した。耐摩耗性の指数が大きい程、空気入りタイヤの耐摩耗性が優れることを意味する。
【0048】
耐クラック性
得られた加硫ゴム試験片の耐クラック性として、JIS K6260に準拠し、デマチャ屈曲き裂試験機を用いて、ストローク57mm、速度300±10rpm、屈曲回数10万回の条件で、繰り返し屈曲によるき裂成長の長さを測定した。得られた結果は、それぞれの値の逆数を算出し、比較例9を100とする指数として表7〜9に示した。耐クラック性の指数が大きい程耐クラック性が優れ、空気入りタイヤの耐久性が優れることを意味する。
【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
【表5】

【0053】
【表6】

【0054】
【表7】

【0055】
【表8】

【0056】
【表9】

【0057】
なお、表2〜9において使用した原材料の種類を下記に示す。
SBR:スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol 1502
BR:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol BR 1220
NR:天然ゴム、RSS#3
CB1:カーボンブラック、窒素吸着比表面積74m/g、東海カーボン社製シーストKHA
CB2:カーボンブラック、窒素吸着比表面積135m/g、昭和キャボット社製ショウブラックS118
シリカ:UNITED SILICA INDUSTRIAL社製ULTRASIL VN−3G
処理炭カルA〜L:上述した調製方法により得られた表面処理炭酸カルシウム
カップリング剤:シランカップリング剤、エボニックデグッサジャパン社製Si69
ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸
老化防止剤:フレキシス社製サントフレックス6PPD
ワックス:大内新興化学工業社製サンノック
オイル:昭和シェル石油社製エキストラクト4号S
亜鉛華:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
硫黄:細井化学工業社製油処理硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業社製ノクセラーCZ
加硫促進剤2:住友化学社製ソクシノールD−G

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部に対し、カーボンブラックと共に表面処理炭酸カルシウムを0.5〜100重量部配合したゴム組成物により構成した空気入りタイヤであり、前記表面処理炭酸カルシウムが、炭酸カルシウムの表面を2級脂肪族アミン及び/又は3級脂肪族アミンからなるアミンと脂肪酸、樹脂酸及びこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種の有機酸とで表面処理したものである空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記炭酸カルシウムの平均一次粒子径が、0.01〜1.0μmである請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記表面処理炭酸カルシウムが、前記炭酸カルシウム100重量部に対し0.01〜5重量部の前記アミンで処理したものである請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記表面処理炭酸カルシウムが、前記炭酸カルシウム100重量部に対し0.1〜8重量部の前記有機酸で処理したものである請求項1,2又は3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ジエン系ゴムが、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、イソプレンゴム及びエチレン−プロピレン−ジエンゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記ゴム組成物を、トレッド部及び/又はサイドウォール部に使用した請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2010−215740(P2010−215740A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62176(P2009−62176)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】