説明

空気入りタイヤ

【課題】パンクシール性能と騒音防止性能を優れた状態で兼備するようにした空気入りタイヤを提供すること。
【解決手段】トレッド部に対応するタイヤ内周面に粘着性のシーラント液からなるシーラント層を配置し、該シーラント層の内周面に前記シーラント液に対して非透過性のバリア層を介して多孔性材料からなる吸音層を配置し、かつ該吸音層のタイヤ幅方向の幅Wを前記シーラント層のタイヤ幅方向の幅Wの50〜90%にしたタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤに関し、更に詳しくはパンクシール性能と騒音防止性能とを兼備するようにした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤのトレッド部内周面に粘着流動性のシーラント液を塗布したシーラント層を配置しておき、そのタイヤが釘踏み等によってパンクしたとき、その釘が遠心力によって抜け出した後のパンク孔にシーラント液を流れ込ませてセルフシールするようにした空気入りタイヤが多数知られている。
【0003】
しかし、シーラント液は流動性を有するため、高速走行時の遠心力によりトレッド部内壁面のタイヤ幅方向の中央域に集中し、ショルダー域のシール性が不十分になってパンクシール機能を発揮できなくなるという問題を有していた。
【0004】
このような問題を解決するために、特許文献1、2等は、シーラント液をスポンジ等のような連続気泡を有する多孔性材料に含浸させ、このシーラント液を含浸した多孔性材料をトレッド部の内周面に層状に貼り付けるようにした空気入りタイヤを提案している。この空気入りタイヤによれば、高速走行時にシーラント液がトレッド部のタイヤ中央域に偏在することによりパンクシール性能が低下する問題を解消するばかりでなく、連続気泡を有する多孔性材料はタイヤ空洞内に発生する共鳴騒音を吸収して消音する特性を有しているため、騒音防止性能も発揮することができるという利点を有している。
【0005】
しかし、従来の上記空気入りタイヤによる騒音防止性能は、多孔性材料にシーラント液が含浸していることにより相当量の連続気泡容積が塞がれているため、必ずしも騒音防止性能が十分に発揮されているとは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭54−6206号公報
【特許文献2】特開2003−326926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上述した従来の問題を解消し、パンクシール性能と騒音防止性能を優れた状態で兼備するようにした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、以下の(1)の構成からなる。
【0009】
(1)トレッド部に対応するタイヤ内周面に粘着性のシーラント液からなるシーラント層を配置し、該シーラント層の内周面に前記シーラント液に対して非透過性のバリア層を介して多孔性材料からなる吸音層を配置し、かつ該吸音層のタイヤ幅方向の幅Wを前記シーラント層のタイヤ幅方向の幅Wの50〜95%にした空気入りタイヤ。
【0010】
また、かかる本発明の空気入りタイヤにおいて、より具体的には、以下の(2)〜(7)のいずれかの構成とするのが更によい。
【0011】
(2)前記シーラント層のタイヤ幅方向の幅Wを前記トレッド部に埋設されたベルト層最大幅Wの80〜120%にした上記(1)に記載の空気入りタイヤ。
【0012】
(3)前記シーラント層の単位周方向長さあたりの質量Msと前記吸音層の単位周方向長さあたりの質量Maとを、下記式の関係にした上記(1)または(2)に記載の空気入りタイヤ。
0.08≦Ma/Ms≦0.5
【0013】
(4)前記吸音層を、該吸音層の内周面または外周面に弾性補強バンドを配してタイヤ内周面に取り付けた上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【0014】
(5)前記シーラント層がポリブデンとテルペン樹脂を主成分とするゲルシートからなる上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【0015】
(6)前記バリア層が熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂フィルムからなる上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【0016】
(7)前記吸音層の外周面の少なくとも両端部にタイヤ周方向に延長する突条を設けた上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0017】
本発明の空気入りタイヤによれば、トレッドに対応するタイヤ内周面のシーラント層に対し、その内周側にタイヤ幅方向の幅Wがシーラント層のタイヤ幅方向の幅Wの50〜95%に相当する吸音層を配置しているので、高速走行時において、その吸音層が遠心力によりシーラント層に対してタイヤ径方向外側の圧力を加えるため、シーラント層のショルダー域におけるシーラント液をタイヤ中央域側に移動しないように抑制し、シーラント層によるパンクシール性能を良好に維持することができる。また、吸音層にはバリア層を介してシーラント層のシーラント液が含浸しないようになっているので、吸音層の多孔構造が確保され良好な騒音防止性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施態様からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【図2】(a)、(b)は、それぞれ本発明の空気入りタイヤの他の実施態様を示す要部のタイヤ子午線方向の断面図である。
【図3】(a)、(b)は、それぞれ本発明の空気入りタイヤの他の実施態様を示す要部のタイヤ子午線方向の断面図である。
【図4】(a)〜(d)は、それぞれ本発明の空気入りタイヤに使用する吸音層の実施態様を模式的に示した斜視図である。
【図5】本発明の他の実施態様からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【図6】(a)、(b)は、本発明の空気入りタイヤに使用する更に他の実施態様からなる吸音層を示した模式図であり、(a)はタイヤ子午線方向の断面図、(b)は斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の空気入りタイヤの構成について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態による空気入りタイヤを示す子午線方向断面図であり、空気入りタイヤTは、トレッド部1の左右にサイドウォール部3、3とビード部2、2とを連接するように設け、そのタイヤ内側にカーカス層9を介してインナーライナー層4が設けられている。カーカス層9の外周側にはベルト層6が設けられている。かつ、トレッド部1のタイヤ内面に対応する領域に粘着流動性のシーラント液が塗布されたシーラント層5が配置され、そのシーラント層5の内側に、シーラント液を透過させないバリア層8を介して多孔性材料からなる吸音層7が配置されている。
【0021】
本発明の空気入りタイヤは、上述した構成であるため、高速走行時には吸音層7が遠心力によってシーラント層5をタイヤ外側に向けて押し付けるため、そのシーラント液がタイヤ幅方向の中央域に移動するのを抑制し、両端付近の領域(図1で、Aで示した領域)にとどまるようにすることができる。また、吸音層7は外周側にバリア層を配置していて、シーラント液が多孔構造中に含浸しないようにしているので多孔構造の空間容積を保持するので、その本来の機能である吸音機能を発揮することができる。
【0022】
上述した吸音層7の作用効果を確保するため、吸音層7のタイヤ幅方向の幅W
シーラント層5の幅Wに対して、幅Wの50〜95%とすることが必要である。さらに好ましくは、吸音層7のタイヤ幅方向の幅Wは、シーラント層5の幅Wの70〜92%にするのがよい。吸音層7のタイヤ幅方向の幅Wが、シーラント層5の幅Wの50%よりも小さいと、吸音層7に基づく遠心力がシーラント層に対して局所的なものとなり、シーラント液をショルダー域にとどめることができない。また、95%よりも大きいと、効果が飽和し、一方でタイヤ全体の重量増加を招くので好ましくない。
【0023】
また、シーラント層5の幅Wは、トレッド部1の釘踏みにより発生するパンクに対する自己シール性能を良好に発揮する上で、トレッド部1に埋設されたベルト層6の最大幅Wの80〜120%であることが好ましい。
【0024】
走行中の遠心力に基づく吸音層7による押し付け力をシーラント層5に効果的に作用させるには、シーラント層5の単位周方向長さあたりの質量Msと、吸音層7の単位周方向長さあたりの質量Maは、下記(a)式を満たす関係にあることが好ましい。より好ましくは、下記(b)式を満足することである。
0.08≦Ma/Ms≦0.5………(a)
0.1≦Ma/Ms≦0.3………(b)
【0025】
吸音層7は、特に限定されないが、連続気泡を有する多孔性構造の材料が好ましく、例えばポリウレタンフォームを使用するのが最適である。そのほか多数の繊維がランダムに絡合した不織マットなどを使用することができる。
【0026】
吸音層7の形状は、タイヤ子午線方向の断面形状としては、汎用的には図1に示したような長方形のものを使用すればよい。また、タイヤの扁平率やプロファイルによってシーラント層5のシーラント液の遠心力による動きは相違するので、これらを考慮して、図2(a)や図2(b)のような変形態様にしてもよい。
【0027】
図2(a)に例示した吸音層は、タイヤセンター域において略紡錘形状に膨らんだ形状にしてある。このような形状にすると、低偏平率タイヤのようにシーラント液がタイヤセンターにより強く移動しようとする動きを止めるのに効果的である。図2(b)に示した吸音層は、吸音層7のタイヤ幅方向の両端付近において略紡錘形状に膨らんだ形状になっている。特に、トレッドプロファイルのラジアスが小さいタイヤのように、シーラント層の幅方向の両端付近の領域(例えば、図1でAで示した領域)のシーラント液がタイヤセンター側に寄る動きを抑えるのに効果が大きい。
【0028】
また、タイヤをタイヤチェンジャーにて組み替えるときに、吸音層7の端部をレバーで引っ掛けて破損することなどがないように、端部の厚みが徐々に薄くなるような図3(a)や図3(b)のような変形態様にしてもよい。
【0029】
図3(a)に例示した吸音層は、図1に示したようなタイヤ子午線方向の断面形状が長方形状であるものの変形であり、吸音層7の端部の厚みを徐々に薄くしている形状にしてある。図3(b)に例示した吸音層は、図2(a)に示したものの変形であり、タイヤセンター域において略紡錘形状に膨らんだ形状にするとともに端部ではその厚みが徐々に薄くなっていく形状にしてある。
【0030】
図4(a)〜(d)は、バリア層8を設けた吸音層7を斜視図で示したものである。
【0031】
図4(a)の実施形態は、断面が長方形の吸音層7が円筒形に成形され、その外周にバリア層8が積層されて一体的になったものである。また、図4(b)に示した実施形態は吸音層7が同じく円筒形であるが、外周面がタイヤ赤道部を最大径にして、外周側に樽状に膨らんだプロファイルにしたものである。このように樽状に膨らんだプロファイルにすることにより、空気入りタイヤTの内周面にフィットしやすくできる。
【0032】
図4(c)の実施形態は、円筒形に成形された吸音層7の外周面に弾性補強バンド10を全周囲にわたり付設したものである。このような構成にすると、弾性補強バンド10が有する弾性力がタイヤ内面に作用し、吸音層7をタイヤ内面に確実に保持させることができる。この弾性補強バンド10は、円筒形吸音層7の内周面に沿って全周囲にわたり設けるようにしてもよい。
【0033】
図4(d)の実施形態は、帯状の多孔質材料をタイヤ周方向に螺旋状に複数回巻回して環状の吸音層7に形成したものである。このように構成する帯状の多孔性材料としては、幅を10〜60mm、好ましくは15〜45mmとし、また、厚みを10〜30mmとするとよい。また、帯状の多孔性材料を螺旋状に巻回したときの幅方向に隣接する側縁同士の間隔は1〜50mm、好ましくは2〜30mmの範囲にして配置することが好ましい。このような間隔に配置することにより、多孔質材料同士が接触によって摩耗損傷するのを抑制することができる。
【0034】
バリア層8は、吸音層7にシーラント液を含浸させないことを目的にして使用するものであるので、シーラント液に対して非透過性を有するものであればよい。
【0035】
このバリア層8としては、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂フィルムで構成したものが好ましい。中でも、熱可塑性樹脂中にエラストマーが分散している熱可塑性エラストマー組成物からなる樹脂フィルムが好ましい。
【0036】
バリア層8の形成は、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂組成物をフィルムなどのシート状物に形成し、このシート状物を吸音層の外側に貼付けて、その両端部同士を接着剤を用いて、あるいは熱接着などの方法により接合させればよい。あるいは、上記樹脂組成物を筒状にチューブラー成形し、それを吸音層の外形に被覆し、加熱などにより熱収縮により密着させることでもよい。
【0037】
図5は、本発明の他の実施形態を示す。
【0038】
図5に示す空気入りタイヤにおいて、吸音層7には、その外周側の少なくとも幅方向両端部に、タイヤ周方向に連続的に延在する突条11を設けている。このような突条11を設けると、シーラント層5の幅方向の両端付近の領域(図1でAで示した領域)におけるシーラント液、遠心力が作用したとき、タイヤセンター側に寄ろうとする動きを抑止することができる。突条11は、図6(a)のように先端側を尖らせたものでもよく、また、図6(b)に示したように両端部のほかにタイヤセンター付近に設けるようにしてもよい。
【0039】
シーラント層5のシーラント液は粘着性の流動液であれば、特に限定されず、パンクシール用シーラント剤として従来から知られているものなどを使用できる。例えば、ポリブデンとテルペン樹脂を主成分とするゲルシートからなるものを使用すると流動性が低いので好ましい。その他、シリコーン系化合物、ウレタン系化合物、スチレン系化合物またはエチレン系化合物でもよい。
【0040】
上述したゲルシートなどからなるシーラント層は、例えば、タイヤを成形した後に、トレッド部の内周面にシーラント液を塗布して設置することが簡単であり好ましい。
【実施例】
【0041】
タイヤサイズが195/65R15 ES300、タイヤ構造が図1であり、タイヤ内周長=1887mm、ベルト層の最大幅W=165mm、シーラント層の幅W=160mm(厚さ3.5mm、質量750g)、吸音層の幅W=130mm(厚さ15mm、質量100g)にした本発明の実施例1の空気入りタイヤを製造した。
【0042】
この実施例1の空気入りタイヤの吸音層には連続気泡を有するポリウレタンフォームを使用し、吸音層の外側に、熱可塑性エラストマー樹脂フィルムからなる厚さ0.1mmのバリア層を設けた。また、シーラント層の単位周方向長さあたりの質量Msと、吸音層の単位周方向長さあたりの質量Maの関係は、Ma/Ms=0.13とした。
【0043】
比較例1として、実施例1タイヤに吸音層とバリア層を設けない空気入りタイヤを製造した。
【0044】
実施例1および比較例1の各試験タイヤを排気量2000ccの乗用車に装着し、時速100kmで2時間の連続走行をした後、タイヤセンター部とショルダー部のシーラント層の厚さをそれぞれ測定し、走行前の厚さを100とする指数で評価し、その結果を表1に示した。
【0045】
また、上記試験走行中において、車室内の騒音の大きさを測定し、1/3オクターブバンドの250Hz帯の値を示した。
【0046】
その結果を表1に示した。
【0047】
実施例1のタイヤは比較例1のタイヤに比べてシーラント層のショルダー部とセンター部との差が著しく小さく、しかも車内騒音が改善されていることがわかる。
【0048】
【表1】

【符号の説明】
【0049】
1 トレッド部
2 ビード部
3 サイドウォール部
4 インナーライナー層
5 シーラント層
6 ベルト層
7 吸音層
8 バリア層
9 カーカス層
10 弾性補強バンド
11 突条
T 空気入りタイヤ
A シーラント層の両端付近の領域
吸音層7のタイヤ幅方向の幅
シーラント層5の幅
ベルト層6の最大幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に対応するタイヤ内周面に粘着性のシーラント液からなるシーラント層を配置し、該シーラント層の内周面に前記シーラント液に対して非透過性のバリア層を介して多孔性材料からなる吸音層を配置し、かつ該吸音層のタイヤ幅方向の幅Wを前記シーラント層のタイヤ幅方向の幅Wの50〜95%にしたタイヤ。
【請求項2】
前記シーラント層のタイヤ幅方向の幅Wを前記トレッド部に埋設されたベルト層最大幅Wの80〜120%にした請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記シーラント層の単位周方向長さあたりの質量Msと前記吸音層の単位周方向長さあたりの質量Maとを、下記式の関係にした請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
0.08≦Ma/Ms≦0.5
【請求項4】
前記吸音層を、該吸音層の内周面または外周面に弾性補強バンドを配してタイヤ内周面に取り付けた請求項1〜3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記シーラント層がポリブデンとテルペン樹脂を主成分とするゲルシートからなる請求項1〜4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記バリア層が熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂フィルムからなる請求項1〜5のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記吸音層の外周面の少なくとも両端部にタイヤ周方向側に延長する突条を設けた請求項1〜6のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−280340(P2010−280340A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136736(P2009−136736)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】