説明

空気入りタイヤ

【課題】走行時にトレッドと接触する異物に対する摩擦力を低下させ、受傷の確率を低減した空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】トレッド3のタイヤ周方向に連続して延びる溝32を有する空気入りタイヤにおいて、前記溝32の壁部の表面または内部の少なくとも一部に、下記ゴム組成物からなるシート34を配置してなることを特徴とする空気入りタイヤ。前記ゴム組成物:天然ゴム、ブタジエンゴムまたはスチレン−ブタジエン共重合体ゴムからなるゴム成分100質量部に対し、分子量が1,000,000〜4,000,000の超高分子量ポリエチレンを20〜65質量部配合してなるゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関するものであり、詳しくは、走行時にトレッドと接触する異物に対する摩擦力を低下させ、受傷の確率を低減した空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
トレッドのタイヤ周方向に連続して延びる溝を有する空気入りタイヤにおいて、とくにショルダーリブは、縁石等の異物による外傷を受けやすく、エッジ部の欠けが生じたり、最悪の場合、リブもげが発生する問題がある。
図2は、リブパターン、とくにショルダーリブが縁石等の異物により受傷する場合を説明するための図である。図2に示すように、空気入りタイヤ20が走行中に縁石S上に乗り上げた場合、ショルダーリブ210の溝220の壁部にクラックCが発生する恐れがある。
【0003】
なお、空気入りタイヤに超高分子量ポリエチレンを使用する技術が知られている(例えば特許文献1、2参照)。しかしながら、当該従来技術は、超高分子量ポリエチレンそのものを空気入りタイヤの所定の箇所に使用するものであって、ゴム成分中に超高分子量ポリエチレンを多量に配合し、シートとなし、これを溝の壁部に配置してリブパターンの受傷の確率を低減することについては何ら開示または示唆がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−71910号公報
【特許文献2】特開平9−164809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、走行時にトレッドと接触する異物に対する摩擦力を低下させ、受傷の確率を低減した空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特定のゴム成分に特定分子量を有する超高分子量ポリエチレンの特定量を配合してシートとなし、これをトレッドのタイヤ周方向に連続して延びる溝の壁部の表面または内部に配置することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は、トレッドのタイヤ周方向に連続して延びる溝を有する空気入りタイヤにおいて、前記溝の壁部の表面または内部の少なくとも一部に、下記ゴム組成物からなるシートを配置してなることを特徴とする空気入りタイヤを提供するものである。
前記ゴム組成物:天然ゴム、ブタジエンゴムまたはスチレン−ブタジエン共重合体ゴムからなるゴム成分100質量部に対し、分子量が1,000,000〜4,000,000の超高分子量ポリエチレンを20〜65質量部配合してなるゴム組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、特定のゴム成分に特定分子量を有する超高分子量ポリエチレンの特定量を配合してシートとなし、これをトレッドのタイヤ周方向に連続して延びる溝の壁部の表面または内部に配置したので、走行時にトレッドと接触する異物に対する摩擦力を低下させ、受傷の確率を低減した空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】空気入りタイヤの一例の部分断面図である。
【図2】リブパターン、とくにショルダーリブが縁石等の異物により受傷する場合を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0010】
図1は、空気入りタイヤの一例の部分断面図である。
図1において、空気入りタイヤは左右一対のビード部1およびサイドウォール2と、両サイドウォール2に連なるトレッド3からなり、ビード部1、1間にスチールコードが埋設されたカーカス層4が装架され、カーカス層4の端部がビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられている。ビードフィラー6は2つの部材から構成され、その上部は上ビードフィラー62であり、下部は下ビードフィラー64である。トレッド3においては、カーカス層4の外側に、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置されている。ベルト層7の両端部には、ベルトクッション8が配置されている。また、トレッド3の内周側には、アンダートレッド31が配置されている。空気入りタイヤの内面には、タイヤ内部に充填された空気がタイヤ外部に漏れるのを防止するために、インナーライナー9が設けられ、インナーライナー9を接着するためのタイゴム10が、カーカス層4とインナーライナー9との間に積層されている。また、ビード部1においてはリムに接する部分にリムクッション11が配置されている。
また、トレッド3は、タイヤ周方向に連続して延びる溝32を有し、溝32の壁部の表面または内部の少なくとも一部には、下記で説明するゴム組成物からなるシート34が配置されている。図1では、ショルダーリブ36に隣接する溝32の壁部の表面にシート34を配置した形態を示した。
【0011】
(ゴム組成物)
本発明で使用されるゴム組成物は、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)またはスチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)からなるゴム成分100質量部に対し、分子量が1,000,000〜4,000,000の超高分子量ポリエチレンを20〜65質量部配合してなる。
【0012】
ゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
これらゴム成分の中でも、本発明の効果の点からNRが好ましい。
【0013】
超高分子量ポリエチレンは、分子量が1,000,000〜4,000,000の範囲である必要がある。分子量が1,000,000未満あるいは4,000,000を超えると、縁石等の異物によるリブパターンの受傷の確率を低減できない。
なお、本発明でいう分子量とは、粘度平均分子量を意味し、固有粘度法(ASTMD4020)により測定された値である。
本発明で使用される超高分子量ポリエチレンは、市販されているものを利用することもでき、例えば三井化学(株)製ミペロンXM−220(分子量=2,000,000)、三井化学(株)製ハイゼックスミリオン240S(分子量=2,000,000)、ハイゼックスミリオン320MU(分子量=3,000,000)、ハイゼックスミリオン341L(分子量=4,000,000)等が挙げられる。
【0014】
本発明で使用するゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対し、分子量が1,000,000〜4,000,000の超高分子量ポリエチレンを20〜65質量部配合してなることを特徴とする。
前記超高分子量ポリエチレンの配合量が20質量部未満であると、縁石等の異物によるリブパターンの受傷の確率を低減できない。逆に65質量部を超えると、縁石等の異物との接触により、前記ゴム組成物からなるシートにクラックや剥離が発生する恐れがある。
さらに好ましい前記超高分子量ポリエチレンの配合量は、ゴム成分100質量部に対し、40〜60質量部である。
【0015】
本発明で使用するゴム組成物は、各種充填剤を配合することができる。充填剤としてはとくに制限されないが、例えばカーボンブラック、無機充填剤等が挙げられる。無機充填剤としては、例えばシリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム等を挙げることができる。
また、本発明で使用するゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤、架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0016】
前記のように、本発明の空気入りタイヤは、トレッド3にタイヤ周方向に連続して延びる溝32を有し、溝32の壁部の表面または内部の少なくとも一部に、前記ゴム組成物からなるシート34を配置してなる。
シート34は、溝32の壁部においてタイヤ周方向全体にわたり配置されていてもよいが、これとは別に、本発明の効果を損ねない限り、シート34は、溝32の壁部においてタイヤ周方向の一部に配置されていてもよい。
また、図1では、シート34は溝32の一方の壁部のみに配置する形態を示したが、本発明はこれに限定されず、両側の壁部に配置してもよい。また、ショルダーリブ36に隣接する溝だけではなく、他の溝の壁部にもシート34を配置することができる。
また、図1では、シート34を溝32の壁部の表面に配置する形態を示したが、これとは別に、シート34は溝32の壁部の内側、すなわち溝32の壁部付近のリブの内部に埋設してもよい。
シート34の厚さは例えば1mm〜3mmが好ましい。
なお、シート34の配置方法は当業界で周知の方法に従えばよく、とくに制限されない。
【0017】
また本発明の空気入りタイヤは、従来の製造方法に従い製造することができ、空気入りタイヤの各部に使用する材料の種類や製造条件を特に限定するものではない。なお、トレッド3のシート34以外の部分には、超高分子量ポリエチレンを配合しないことが望ましい。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0019】
実施例1〜5および比較例1〜5
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、加硫系(加硫促進剤、硫黄)を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練した後、ミキサー外に放出させて室温冷却した。続いて、該組成物を同バンバリーミキサーに再度入れ、加硫系を加えて混練し、ゴム組成物を得た。次に得られたゴム組成物をオープンロールにて混練りし,厚さ約2mm,所定の幅のシートを作成した。
上記のように調製されたシートを、図1に示すように、空気入りタイヤのショルダーリブ36に隣接する溝32の一方の壁部の表面に、タイヤ周方向全体にわたり配置した。なお、シート34は空気入りタイヤの幅方向における左右両側のショルダーリブに隣接する溝に配置した。空気入りタイヤのサイズは、315/80R22.5である。次に、得られた空気入りタイヤを2−D車両の全輪に装着し、下記のような耐久性試験を行なった。
耐久性試験:幅150mm、高さ100mmの縁石状の突起を、車両の進行方向に直線状に設置し、縁石状の突起の左側から右側に車両の全輪をすべてまたがせた後、直ちに該突起の右側から左側に車両の全輪をまたがせる。この運転方法を延べ500mにわたり行い、装着タイヤのショルダーリブ36の損傷個数と、シート34の発生クラック数を目視により調べた。損傷個数は5個以下で効果ありと判定する。シートの発生クラック数は、ゼロである場合に効果ありと判定する。
結果を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
*1:NR(タイ製STR20)
*2:カーボンブラック(キャボットジャパン(株)製、ショウブラックN110、NSA=144m/g)
*3:シリカ(東ソー・シリカ(株)製、ニップシールAQ)
*4:ガムロジン(荒川化学工業(株)製、中国ロジンWW)
*5:老化防止剤(住友化学(株)製、アンチゲン6C)
*6:亜鉛華(正同化学工業(株)製、酸化亜鉛3種)
*7:ステアリン酸(千葉脂肪酸(株)製、工業用ステアリン酸)
*8:超高分子量ポリエチレン1(三井化学(株)製、ハイゼックスミリオン030S、分子量=500,000)
*9:超高分子量ポリエチレン2(三井化学(株)製、ハイゼックスミリオン240S、分子量=2,000,000)
*10:超高分子量ポリエチレン3(三井化学(株)製、ハイゼックスミリオン320MU、分子量=3,000,000)
*11:超高分子量ポリエチレン4(三井化学(株)製、ハイゼックスミリオン341L、分子量=4,000,000)
*12:超高分子量ポリエチレン5(三井化学(株)製、ハイゼックスミリオン630M、分子量=5,500,000)
*13:硫黄(鶴見化学工業(株)製、金華印油入微粉硫黄)
*14:加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製、ノクセラーNS−F)
【0022】
上記の表1から明らかなように、実施例1〜5で調製された空気入りタイヤは、特定のゴム成分に特定分子量を有する超高分子量ポリエチレンの特定量を配合してシートとなし、これをトレッドのタイヤ周方向に連続して延びる溝の壁部の表面または内部に配置したので、従来の代表的な比較例1の空気入りタイヤと比較すると、走行時にトレッドと接触する異物に対する摩擦力が低下し、受傷の確率が低減され、またシートの損傷も発生しなかった。
比較例2は、超高分子量ポリエチレンの配合量が本発明で規定する下限未満であるので、損傷個数が増加した。
比較例3は、超高分子量ポリエチレンの配合量が本発明で規定する上限を超えているので、シートにクラックが発生し、実用上使用に耐えないものであった。
比較例4は、超高分子ポリエチレンの分子量が本発明で規定する下限未満であるので、損傷個数が増加した。
比較例5は、超高分子ポリエチレンの分子量が本発明で規定する上限を超えているので、シートにクラックが発生し、実用上使用に耐えないものであった。
【符号の説明】
【0023】
1 ビード部
2 サイドウォール
3 トレッド
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルトクッション
9 インナーライナー
11 リムクッション
32 溝
34 シート
36 ショルダーリブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドのタイヤ周方向に連続して延びる溝を有する空気入りタイヤにおいて、前記溝の壁部の表面または内部の少なくとも一部に、下記ゴム組成物からなるシートを配置してなることを特徴とする空気入りタイヤ。
前記ゴム組成物:天然ゴム、ブタジエンゴムまたはスチレン−ブタジエン共重合体ゴムからなるゴム成分100質量部に対し、分子量が1,000,000〜4,000,000の超高分子量ポリエチレンを20〜65質量部配合してなるゴム組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−116200(P2011−116200A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274142(P2009−274142)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】